説明

リポ酸及びヒドロキシクエン酸を有効成分として含む薬学的組み合わせ

【課題】リポ酸及びヒドロキシクエン酸を有効成分として含む薬学的組み合わせの提供。
【解決手段】本発明は、新規の薬学的組み合わせ、及び、抗腫瘍活性を有する医薬品を製造するためのその使用に関する。本発明において、当該組み合わせは、リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つと、ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つとを有効成分として含む。上記各有効成分は、同一の製剤又は別個の製剤に調剤され、併含された状態で併用されるか、同時に併用されるか、又は別々に分けて併用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つと、ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つとを有効成分として含む新規の薬学的組み合わせである。
【0002】
この薬学的組み合わせは、単一の投与単位の形態であっても、キットの形態であってもよいものであり、とりわけ高い抗腫瘍活性を有する。
【背景技術】
【0003】
リポ酸はいくつかの酵素複合体に対する補因子である。
【0004】
リポ酸は強力な酸化防止剤でもある。リポ酸は、フリーラジカルによる損傷から細胞を保護する一助となる。
【0005】
この物質は医薬品の有効成分として知られている。該物質は、糖尿病による神経障害、ミトコンドリア筋症、及び、多発性硬化症の治療に特に推奨されている。
【0006】
リポ酸は、忍容性が申し分なく高いものであり、その毒性は非常に低い。リポ酸は、例えば、600〜1800mg/日の量で投与することが可能である。
【0007】
特に特許文献1には、癌の治療において、リポ酸又はその水溶性塩の1つを、単独で又はアスコルビン酸と組み合わせて使用することが推奨されている。
【0008】
さらに、特許文献2には、新生物疾患の治療において、リポ酸誘導体又はその薬学的に許容される塩を使用することも推奨されている。
【0009】
しかしながら、今のところ、リポ酸又はその誘導体の1つ又はその薬学的に許容される塩の1つを基にした医薬品は、癌治療法の開発のなかでは登場していない。
【0010】
ヒドロキシクエン酸は天然物質であり、マラバー・タマリンド(Malabar tamarind)(ガルシニア(Garcinia))の果皮に自然状態で含まれている。そのカルシウム塩(ヒドロキシクエン酸カルシウム)は脂肪酸生合成を阻害することが知られている。
【0011】
従って、減量するためにヒドロキシクエン酸カルシウムを低脂肪食と組み合わせて使用することは推奨されており、ここで推奨される処方量は1日3回、食前に500mg〜1500mgである。
【0012】
ヒドロキシクエン酸カルシウムは、成人及び小児において忍容性が申し分なく高い物質である。
【0013】
同時に、ヒドロキシクエン酸カルシウムは、肝細胞における脂肪酸の酸化を促進して、その脂肪酸をグリコーゲンへ変換させることが知られている。その後、グリコーゲンは筋肉中に貯蔵されるため、運動の際にはそれを利用できる。従って、ヒドロキシクエン酸塩は、多くの肥満治療用特別食において使用されている。特に、ヒドロキシクエン酸塩には、血糖値を変化させることがないという利点がある。特許文献3には、ヒドロキシクエン酸塩が、インスリン抵抗性糖尿病患者を治療するための血糖降下剤として使用できることが強調されている。
【0014】
また、ヒドロキシクエン酸塩は、好気的解糖が活発に行われる癌細胞の治療に使用可能な非常に多くの化合物の中の1つとして挙げられている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第00/48594号(米国特許第6,448,287号明細書に対応)
【特許文献2】国際公開第00/24734号(米国特許第6,951,887号明細書に対応)
【特許文献3】米国特許第6,207,714号明細書
【特許文献4】国際公開第2004/100885号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような現状に鑑み、リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つと、ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つとを組み合わせると、これらの構成有効成分の相乗効果によって、とりわけ高い抗腫瘍活性が示されることが見出された。これは、本発明の土台を成すものである。
【0017】
特に、上記新規の組み合わせにより、全く予想されなかった様態で腫瘍増殖を制限でき、上記腫瘍の容積が、少なくとも100日間にわたって、治療開始時の腫瘍の容積とほぼ等しい値に安定化されることが示された。この腫瘍安定化効果は、驚くべきことに、公知の抗癌医薬品によって得られるものよりも大きい。
【0018】
故に、本発明の主題である上記組み合わせは、上記各有効成分それぞれの作用が増強される相乗効果がみられるため、とりわけ独創的である。
【0019】
従って、第一の態様によれば、本出願は、
・第一に、リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つと、
・第二に、ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つと
を含む薬学的組み合わせを包含することを目的とする。
【0020】
本明細書中、「リポ酸」という用語は、酸化型で存在する化合物に加え、ジヒドロリポ酸と呼ばれている還元型で存在する化合物をも包含するものである。
【0021】
また、リポ酸は1つの不斉炭素原子を、ヒドロキシクエン酸は2つの不斉炭素原子をそれぞれ有する。従って、これらはエナンチオマー又はジアステレオマーの形態で存在し得る。これらのエナンチオマー及びジアステレオマー、さらにはこれらの混合物(ラセミ混合物など)が本発明に含まれる。リポ酸のR型及びヒドロキシクエン酸の2S,3S型を使用するのが好ましい。
【0022】
通常、本発明に係る薬学的組み合わせを特徴付ける2つの有効成分は、一つの同じ製剤(単一の投与単位)に、又は別個の製剤(キット)に調剤できる。
【0023】
また、通常、一つの同じ製剤又は別個の製剤に調剤される上記2つの有効成分は、同時に、又は、上記各成分の併用作用を各製剤の特質を考慮して最適化するのに望ましい間隔を置いて別々に分けて投与できる。
【0024】
リポ酸の薬学的に許容される塩は、米国特許第6,448,287号明細書に記載されているような水溶性塩でもよい。
【0025】
ヒドロキシクエン酸の薬学的に許容される塩は、アルカリ金属(特にナトリウム)塩又はアルカリ土類金属(特にカルシウム又はマグネシウム)塩でもよい。
【0026】
本発明の薬学的組み合わせは上記2つの有効成分を含む。ある特定の実施形態においては、上記組み合わせは他の有効成分を含まない。別の実施形態においては、上記新規の組み合わせには少なくとも1つの他の有効成分が含まれてもよい。
【0027】
このように、上記2つの有効成分を含む本発明の薬学的組み合わせの効能が、当該2つの有効成分を、シスプラチン、カプサイシン、コリン、ミルテホシン、及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つの追加の有効成分と組み合わせた場合に、向上することが示されている。
【0028】
この場合、好ましい複数成分の薬学的組み合わせは特に以下のものである。
・上記2つの有効成分と、シスプラチン及びカプサイシンから選択される1つの追加の有効成分とからなる3成分の組み合わせ;
・上記2つの有効成分とカプサイシンとシスプラチンとからなる複数成分の組み合わせ;又は、
・上記2つの有効成分とカプサイシンとミルテホシンとコリンとビタミンB12とからなる複数成分の組み合わせ。
【0029】
現時点で好ましい、本発明の第一の実施形態において、上記薬学的組み合わせは、上記各有効成分をそれぞれ、通常は薬学的に許容される賦形剤中に含む、複数の単一投与単位からなる。
【0030】
本発明の第二の実施形態において、上記薬学的組み合わせは、
・第一に、リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つ(通常は薬学的に許容される賦形剤中)と、
・第二に、ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つ(通常は薬学的に許容される賦形剤中)と
を含むキットの形態である。
【0031】
想定する実施形態を問わず、当業者であれば、所望の最終投与形態に応じて上記各種の賦形剤の特質やそれぞれの量を容易に決定できるであろう。
【0032】
単一の投与単位の場合には、上記各有効成分を経口投与に適した投与形態に調合するのが好ましい。しかしながら、例えば、筋肉内、静脈内、局所又は経皮投与経路といった他の投与経路も考えられる。
【0033】
同様に、上記各有効成分が別々に分けて処方される場合には、上記各成分を互いに独立してそれぞれ経口投与に適した投与形態に調合するのが好ましい。しかしながら、その2つの投与形態のそれぞれを、互いに独立して、他の投与経路によって投与してもよい。
【0034】
一つの特定の特徴によれば、経口投与に適した投与形態は、錠剤、ゼラチンカプセル剤、散剤、顆粒剤、凍結乾燥剤、経口液剤、及びシロップ剤から選択することができる。
【0035】
しかしながら、経口投与に適した投与形態としては錠剤が現時点では好ましい。当該錠剤は各種のものを使用でき、即時放出性、制御放出性又は遅延放出性であってもよく、所望であれば発泡性又は口腔内崩壊性の形態であってもよい。
【0036】
通常、投与量は、投与経路や治療対象の患者又は患畜に応じて調節される。
【0037】
その結果、リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つは、1回、2回又は3回に分けて、0.1〜100mg/kg/日、好ましくは1〜60mg/kg/日、より好ましくは1〜10mg/kg/日の量で投与できる。
【0038】
一方、ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つは、1回、2回又は3回に分けて、0.1〜100mg/kg/日、好ましくは1〜50mg/kg/日、より好ましくは20〜50mg/kg/日の量で投与できる。
【0039】
例えば、本発明に係る薬学的組み合わせにおいて、1日2回又は3回の投与頻度を意図して、リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つは、20〜800mg、好ましくは20〜150mgの量で含まれていてもよく、一方、ヒドロキシクエン酸は、200〜1000mg、好ましくは600〜900mgの量で含まれていてもよい(注:記載した量は、1日3回投与するものとして算出している)。従って、本発明の組み合わせの一例においては、1日3回摂取される組成物に対して、リポ酸30mgとヒドロキシクエン酸800mgとが薬学的に許容される賦形剤中に含まれていてもよい。
【0040】
本発明の薬学的組み合わせは通常の方法で調製することができる。このような調製としては、以下のいずれかを含む。
・上記各有効成分を一緒に、薬学的に許容される賦形剤中に調合すること;又は、
・上記各有効成分を別々に、薬学的に許容される賦形剤(ここで、各賦形剤は同じでも異なっていてもよい)中に調合すること。
【0041】
この目的に使用できる調合法は当業者に周知であり、例えば、有効成分と薬学的に許容される賦形剤とに対して、実質的に物理的な混合をすることなどが含まれる。
【0042】
これまで述べてきた組み合わせの抗腫瘍活性が高いことから、本発明は、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、前立腺癌、睾丸癌、食道癌、胃癌、皮膚癌、肺癌、骨肉腫、結腸癌、膵癌、甲状腺癌、胆管癌、口腔部の癌、咽頭部(口部)の癌、唇の癌、舌の癌、口の癌、咽頭部の癌、小腸の癌、結腸直腸癌、大腸の癌、直腸癌、脳の癌、中枢神経系の癌、膠芽腫、神経芽腫、ケラトアカントーマ、類表皮癌、大細胞癌、腺癌、腺腫、濾胞腺癌、未分化癌、乳頭状癌、精上皮腫、黒色腫、肉腫、膀胱癌、肝癌、腎癌、骨髄性疾患、リンパ性疾患、ホジキン病、毛様細胞性癌、及び白血病からなる群から選択される細胞増殖性疾患の治療用医薬品の製造に特に有用である。
【0043】
当然のことながら、本発明の薬学的組み合わせは、他の抗癌治療に対する補助剤として治療上の処置に使用することもできる。
【0044】
従って、第二の態様によれば、本出願は、抗腫瘍活性を有する医薬品、特に上述した疾患の治療を目的とするもの、を製造するための、上記薬学的組み合わせの使用を包含することを目的とする。
【0045】
最後に、本出願は、治療上有効な量の上記組み合わせをそれを必要とする患者又は患畜に投与することを含む、上述した疾患の治療方法を包含することを目的とする。
【0046】
下記実施例と以下に説明する添付の各図面とにより本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】リポ酸単独で治療したHT−29細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図1B】ヒドロキシクエン酸カルシウム単独で治療したHT−29細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図2A】リポ酸単独で治療したT−24細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図2B】ヒドロキシクエン酸カルシウム単独で治療したT−24細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図3A】ヒドロキシクエン酸カルシウム濃度を3段階に増加させた場合の、本発明に係るリポ酸及びヒドロキシクエン酸カルシウムの組み合わせにより治療したHT−29細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図3B】ヒドロキシクエン酸カルシウム濃度を3段階に増加させた場合の、本発明に係るリポ酸及びヒドロキシクエン酸カルシウムの組み合わせにより治療したHT−29細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図3C】ヒドロキシクエン酸カルシウム濃度を3段階に増加させた場合の、本発明に係るリポ酸及びヒドロキシクエン酸カルシウムの組み合わせにより治療したT−24細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図3D】ヒドロキシクエン酸カルシウム濃度を3段階に増加させた場合の、本発明に係るリポ酸及びヒドロキシクエン酸カルシウムの組み合わせにより治療したT−24細胞系を使用した細胞生存試験の結果を示すグラフである。
【図4A】本発明に係る薬学的組み合わせによりマウスを治療した結果を示すグラフである。
【図4B】図4Aに結果を示した試験における、治療したマウスの生存数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0048】
本発明に係る治療上の組み合わせの顕著な抗腫瘍活性を、以下の実験によって示した。
【0049】
1:ヒト腫瘍細胞系の試験
1.1:使用細胞系
【0050】
ヒト腫瘍細胞系及び培地はATCC(American Type Culture Collection(アメリカ合衆国、バージニア州、マナッサス))から得た。
【0051】
HT−29腫瘍細胞系は、1964年に44歳の女性の原発性結腸腺癌から単離された(Fogh J. et al.1977 J.Nat.Cancer.Inst.59:221−6)。
【0052】
T−24腫瘍細胞系は、81歳の女性から単離された移行性膀胱癌である(O’Toole CM. et al.1983 Nature 301:429−30)。
【0053】
1.2:培養条件
【0054】
腫瘍細胞系は、湿潤環境(5%CO,95%空気)下、37℃で単層培養した。使用した培地は、上記2細胞系ともに、DMEM Glutamax I(Invitrogen)であり、ウシ胎仔血清(Eurobio)10%とペニシリン及びストレプトマイシン1/10000IUとを添加した。試験を行うために、カルシウム又はマグネシウム不含のハンクス液にトリプシンを溶解した溶液で10分間処理することによって、ヒト腫瘍細胞系を培養フラスコから分離した。細胞を血球計算器で計測し、トリパンブルー色素排除試験によりその生存数を測定した。
【0055】
腫瘍細胞系を増幅させ、次いで、細胞の培養中の5日間は増殖期になるようにする濃度で96ウェルマイクロプレート(MTT)又は6ウェルプレート(細胞計測)に播種した。細胞系を48時間インキュベートした後で、試験物質又は参照物質を添加していない培地を入れたマイクロプレート中で治療を開始した。
【0056】
第I相(単一の有効成分による試験)中、腫瘍細胞系は、試験物質の1つを含む培地を使用して5%CO下、37℃で5日間インキュベートした。各実験条件は6回再現した。通常、まず最初に、各試験分子を最も高濃度で添加して、血清添加培地のフラスコを用意した。試験を行う他の各種濃度は、上記血清添加培地を段階希釈して調整した。この工程は、各薬剤の個々の不安定性や感受性に応じて調節した。
【0057】
試験の第II相(上記2つの有効成分の組み合わせによる試験)においては、培地調製及び細胞培養の条件は変えずに同じものとし、有効成分を併用して同時に培地に添加した。
【0058】
試験物質又は参照物質を含む血清添加培地100μL(96ウェルプレート)又は2mL(6ウェルプレート)を使用して腫瘍細胞系をインキュベートした。各培養ウェル(試験分子を添加)の培地は治療中、2日毎に新しくした。
【0059】
1.3:細胞増殖及び生存試験
【0060】
試験物質及び参照物質を各種試験濃度で含む培地への接触開始の1日目から始めて2日毎に、細胞の増殖及び細胞生存率を評価した。細胞生存率は以下の2つの異なる方法で評価した。
・直接的に、光学顕微鏡下で統計的計数法(細胞数)により評価;及び、
・間接的に、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼによるテトラゾリウム塩の分解に基づいて比色法(MTT試験)により評価。その後、各ウェルの光学濃度(OD)をマイクロプレートリーダーセットにより適当な波長で読み取った。
【0061】
1.4:結果の表示
【0062】
各有効成分、各試験濃度及び各組み合わせについて、それぞれ、細胞生存率の値を3つ測定し、具体的には光学式読み取り装置の校正範囲で校正した。
【0063】
次に、細胞生存率の3つの測定値の平均値を、有効成分不含の培養対照区において同様に行った生存率測定の平均値で割った。
【0064】
下記表1に、リポ酸単独又はヒドロキシクエン酸カルシウム単独で治療したHT−29細胞系に対して光学顕微鏡又は発光標識法(細胞数/MTT)を使用して行った生存率測定で算出された値をまとめる。
【0065】
これらの値は、図1A及び1Bのグラフにも示されている。
【0066】
【表1】

【0067】
下記表2に、リポ酸単独又はヒドロキシクエン酸カルシウム単独で治療したT−24細胞系に対して光学顕微鏡又は発光標識法(細胞数/MTT)を使用して行った生存率測定で算出された値をまとめる。
【0068】
これらの値は、図2A及び2Bのグラフに示されている。
【0069】
図1A、1B、2A及び2Bのグラフにおいて、Y軸は、陰性対照区(希釈ビヒクル)に対する、各条件下の生細胞の百分率を指し、72時間後に肉眼(細胞数)又は生細胞の標識(MTT)により計測したものである。X軸は、使用した有効成分の濃度(μmol/Lで表す)を表す。
【0070】
【表2】

【0071】
下記表3及び4に、本発明に係る各成分を各種濃度で併用した場合に、細胞生存率を測定する2つの方法により得た値をまとめる。
【0072】
これらの値は、図3A〜3Dのグラフに示されている。
【0073】
これらのグラフでは、Y軸は、陰性対照区(希釈ビヒクル)に対する、各条件下の生細胞の百分率を指し、72時間後に肉眼(細胞数)又は生細胞の標識(MTT)により計測したものである。
【0074】
生存率測定は、ヒドロキシクエン酸カルシウム濃度を3段階に増加させて行った。3段階の濃度はそれぞれ、記号:■(100μmol/L)、▲(200μmol/L)及び◆(300μmol/L)で表す。
【0075】
X軸は、使用したリポ酸の濃度(μmol/Lで表す)を表す。
【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
1.5:結果に関する所見
1.5.1:単独で使用した有効成分
【0079】
試験した有効成分の濃度を、各有効成分に関して入手可能な毒性データに従って規定した。この濃度は、有効成分をヒトに経口投与する場合に毒性を示すことがない投与量に相当する。
【0080】
概して、最も高い試験濃度であっても、上記各有効成分単独では細胞死亡率を100%とすることはできないことが確認された。
【0081】
1.5.2:併用した有効成分
【0082】
2つの細胞系HT−29及びT−24で得た結果はほぼ同じであり、生細胞を計測する2つの方法(細胞数/MTT)では非常に類似した特徴が示されることが確認された。
【0083】
HT−29及びT−24細胞系の細胞生存率に対して、リポ酸及びヒドロキシクエン酸塩の組み合わせが与える影響を図3A〜3Dのグラフに示す。
【0084】
別々に摂取するのであれば、リポ酸濃度4μmol/L及びヒドロキシクエン酸カルシウム濃度100μmol/Lそれぞれによる細胞死亡率は、最大でも50%止まりである(図1A及び1B、2A及び2B)。
【0085】
一方、リポ酸及びヒドロキシクエン酸塩を併用した場合は、細胞死亡率は80%を超える。従って、これらの結果は、上記2つの有効成分の組み合わせが相乗効果を有することを示している。
【0086】
ヒドロキシクエン酸塩濃度200μmol/Lの場合にリポ酸濃度を8μmol/Lまで増加させると、直ちに細胞死亡率100%が達成される。
【0087】
2:C3Hマウスの抗腫瘍活性試験
2.1:マウスモデル
【0088】
同系C3Hマウスに移植したMBT−2マウス膀胱腫瘍に対して以下に記す組成物を試験した。当該マウスは約20日間で径7〜10mmの腫瘍を形成する。本発明に係る薬学的組み合わせ及び対照組成物を、腫瘍播種後19日目から始めて21日間、腹腔内投与した。実験中、腫瘍サイズを測定し、且つ、動物の生存数をモニタリングすることにより、腫瘍形成の変化をモニタリングした。
【0089】
マウスは無作為に18個体からなる各群に分けた。その腫瘍は、腫瘍サイズ及び動物体重に応じて触診可能(腫瘍形成から約19日後のサイズ:約10mm)である。各動物に対して、各腫瘍の最大径をノギスにより測定して、腫瘍容積を求めた。
【0090】
本試験で使用したマウスは、施行されている倫理規定に従って処置した。
2.2:腫瘍の培養及び播種
【0091】
MBT−2腫瘍細胞系は、C3H/HeN系マウスにおいてFANFT(N−[4−(5−ニトロ−2−フリル)−2−チアゾリル]ホルムアミド)により誘発される移行性膀胱癌である(Soloway MS. et al.1973 Surg.Forum.24:542−4)。
【0092】
MBT−2細胞系を、湿潤環境(5%CO,95%空気)下、37℃で単層培養した。使用した培地は、DMEM Glutamax I(Invitrogen)であり、ウシ胎仔血清(Eurobio)10%とペニシリン及びストレプトマイシン1/10000IUとを添加した。
【0093】
トリプシン/EDTA溶液で10分間処理することによって細胞を培養フラスコから分離した後、計測した。
【0094】
MBT−2細胞系を、24ウェルプレートの16mmウェル当たり3×10細胞の濃度で培地に播種した後、37℃で単層培養した。トリプシン/EDTA溶液で10分間処理することによって細胞を培養フラスコから分離した後、計測した。
【0095】
MBT−2細胞を細胞懸濁液中に分散させ、25ゲージの径の注射針によって6週齢の雄性C3Hマウスの脇腹に注射(10細胞(120μL))した。移植後19日目に治療を開始した。
【0096】
2.3:試験された組み合わせ
【0097】
本発明に係る薬学的組み合わせをインビボで試験した。
【0098】
以下の物質を使用してこの組み合わせを調製した。
・α−リポ酸(T1395 Sigma−Aldrich)
・ヒドロキシクエン酸カルシウム(55128 Sigma−Aldrich)
【0099】
対照マウス群は、以下を含む組成物で治療した。
・癌治療で医薬品として使用されているピリジン類似体:5−フルオロウラシル(5−FU)(Sigma F6627)
・有効成分を含まない腹腔内注射用等張塩水(9g/L)
・有効成分の溶解用のビヒクル(0.05%エタノール)(中性対照)
【0100】
試験濃度及び使用した実験条件を下記表5及び6にまとめる。
【0101】
【表5】

【0102】
【表6】

【0103】
動物を無作為に各群に分けた後、各種有効成分による治療を腹腔内投与(IP)によって毎日行った。各有効成分は半減期が短い(12時間未満)ため、1日2回投与した(朝と晩)(表5参照)。
【0104】
5−FUによる治療(陽性対照)は、10mg/kgの投与量を1日1回、4日間腹腔内投与して行った。5−FUで治療したマウスを他のマウスと同様にモニタリングした。
【0105】
2.4:モニタリング及び結果
【0106】
5日毎に、動物の体重、腫瘍サイズ(カリパス尺)、死亡数といった各種測定により腫瘍の進行をモニタリングした。
【0107】
動物のモニタリングを1日1回、毎日行い、これにより、動物の死亡した日を正確に把握し、さらに、その検死を速やかに行うことができた。また、このモニタリングによって、EEC、ASAB、カナダ動物管理協会(Canadian Council on Animal Care)及びUKCCCRの推奨基準に従って、衰弱した又は瀕死の動物を隔離又は安楽死させることができた。
【0108】
治療したマウスの各群において平均腫瘍容積を経時的に測定した結果を図4Aのグラフに示す。
【0109】
このグラフでは、Y軸は、マウスで測定した腫瘍の平均容積の増加率(%)(治療1日目に測定した容積との比較)を表す。
【0110】
X軸は、マウスをモニタリングした日数を表す。
【0111】
この試験で治療したマウスの生存率を表す結果を図4Bのグラフに示す。
【0112】
このグラフでは、Y軸は、生存マウス数を表す。
【0113】
X軸は、マウスをモニタリングした日数を表す。
【0114】
さらに、図4A及び4Bにおいて、
・19日目〜40日目の斜線部は治療を行った期間を表しており、
・以下の記号を使用した。
〇:リポ酸+ヒドロキシクエン酸カルシウム
◇:塩水対照群
*:5−FU
△:エタノール対照群
【0115】
2.5:結果の解釈
【0116】
図4Aのグラフに示されるように、本発明に係る薬学的組み合わせにより、腫瘍の増殖が制限できる。腫瘍の容積は少なくとも100日間にわたって、治療開始時の腫瘍で得られた100%の容積の値のまま維持される。
【0117】
この結果を、対照マウスの腫瘍で得られた容積と比較すると、対照マウスの増加率は約500%である。
【0118】
興味深いことに、本発明の治療によって、抗癌医薬品である5−FUを使用した場合よりも著しく大きい腫瘍安定化効果が示された。これは非常に驚くべきことであり、且つ、全く予想されなかったことである。
【0119】
図4Bのグラフに示されるように、本発明に係る薬学的組み合わせにより、治療したマウスの生存期間が著しく延びた。
【0120】
このように、塩水対照区及びエタノール対照区に相当する群においては、移植してから27日後に、約50%のマウスが生存している。
【0121】
5−FUで治療した群では、マウスの生存率が50%になるのは、移植してから39日後である。即ち、12日間分生存が伸びたことになる。
【0122】
本発明に係る薬学的組み合わせで治療したマウス群では、74日後に、50%のマウスが生存しており、これは、5−FUと比較して35日間分(1.9倍の生存期間)、さらに、対照マウス群と比較して47日間分(2.7倍の生存期間)、その生存が伸びたことになる。
【0123】
このように、興味深いことに、本発明の治療によって、5−FUを使用した治療と比較して大幅にマウスの生存率が上昇した。これは非常に驚くべきことであり、且つ、全く予想されなかったことである。
【0124】
3:他の追加の有効成分で得られた結果
【0125】
リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つと;ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つと;少なくとも1つの追加の有効成分、特に抗腫瘍活性を有する有効成分とを含む薬学的組み合わせの効能を評価する補足的な試験を行った。
【0126】
この追加実験により、リポ酸(又はその薬学的に許容される塩の1つ)とヒドロキシクエン酸(又はその薬学的に許容される塩の1つ)との併用による効能が、当該2つの有効成分を追加の有効成分、特に、シスプラチン、カプサイシン、コリン、ミルテホシン、及びビタミンB12からなる群から選択されるものと組み合わせた場合に、さらに向上することが確認された。
【0127】
上記試験は、同系マウス(マウス9匹/群)の背部に移植したMBT−2(膀胱癌)又はLL/2(肺癌)モデルに対して行った。
【0128】
腫瘍容積が約100mmに達した時に、以下の投与量で腹腔内投与によりマウスを3週間治療した。
・ヒドロキシクエン酸(以下、HCAという):1日2回、250mg/kg
・リポ酸(以下、ALAという):1日2回、10mg/kg
・シスプラチン:隔日、1mg/kg
・カプサイシン:1日1回、5mg/kg又は750μg/kg
・ミルテホシン:20mg/kg/日
・ビタミンB12:5μg/kg/日
【0129】
腫瘍の寸法を定期的に計測して腫瘍形成をモニタリングし、T/C比(%)(ある時点での治療群(treated group)と対照群(control group)との平均腫瘍容積の比)により腫瘍増殖の阻害率を算出した。この試験の結果、以下のことが確認できた。
【0130】
・ALA、HCA及びシスプラチンの併用によって、ALA/HCA併用のみの場合と比較して、腫瘍形成を40%低減できる(MBT−2モデル)。
【0131】
・ALA、HCA及びカプサイシン(5mg/kg/日)の併用によって、ALA/HCA併用のみの場合と比較して、腫瘍形成を66%低減できる(LL/2モデル)。
【0132】
・ALA、HCA、カプサイシン(750μg/kg/日)及びシスプラチンの併用によって、ALA/HCA併用のみの場合と比較して、腫瘍形成を32%低減できる(LL/2モデル)。
【0133】
・ALA、HCA、カプサイシン、ミルテホシン、コリン及びビタミンB12の併用によって、ALA/HCA併用のみの場合と比較して、腫瘍形成を21%低減できる(LL/2モデル)。
【0134】
本発明に係る医薬組成物の実施例
【0135】
本発明に係る医薬組成物は、例えば、以下の成分を含むゼラチンカプセル剤の形態で調剤することができる。
α−リポ酸50mg
ヒドロキシクエン酸400mg
ヒドロキシプロピルメチルセルロースから成るシェル109mg
抗凝集剤(植物由来ステアリン酸マグネシウム及び二酸化ケイ素の併用)20mg
結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース)15mg
【0136】
上記組成物は、上記調剤量に準じて、1日3回、食事の少なくとも1時間前にゼラチンカプセル2錠の頻度で投与できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つと、
・ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つと
を有効成分として含み、
前記有効成分は、抗腫瘍活性を有する組成物又は構成物として、同一の製剤又は別個の製剤に調剤され、併含された状態で併用されるか、同時に併用されるか、又は別々に分けて併用される
ことを特徴とする薬学的組み合わせ。
【請求項2】
前記ヒドロキシクエン酸塩は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項3】
前記ヒドロキシクエン酸塩は、カルシウム塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項4】
前記有効成分は、
・同一の製剤中に、経口投与に適した投与形態として処方されるか、又は、
・互いに独立した別個の製剤中に、それぞれ経口投与に適した投与形態として処方される
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項5】
前記経口投与に適した投与形態は、錠剤、ゼラチンカプセル剤、散剤、顆粒剤、凍結乾燥剤、経口液剤、及びシロップ剤から選択されることを特徴とする請求項4に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項6】
前記有効成分が併含されて錠剤の形態となっている単一の投与単位の形態であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項7】
・リポ酸又はその薬学的に許容される塩の1つを20〜800mg、好ましくは20〜150mgの量で含み、
・ヒドロキシクエン酸又はその薬学的に許容される塩の1つを200〜1000mg、好ましくは600〜900mgの量で含む
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項8】
抗腫瘍活性を有する組成物又は構成物として使用するための、請求項1〜7のいずれか一項に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項9】
シスプラチン、カプサイシン、コリン、ミルテホシン、及びビタミンB12からなる群から選択される少なくとも1つの追加の有効成分を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項10】
シスプラチン及びカプサイシンから選択される追加の有効成分を含むことを特徴とする請求項9に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項11】
2つの追加の有効成分としてシスプラチン及びカプサイシンを含むことを特徴とする請求項9に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項12】
4つの追加の有効成分としてカプサイシン、ビタミンB12、コリン及びミルテホシンを含むことを特徴とする請求項9に記載の薬学的組み合わせ。
【請求項13】
抗腫瘍活性を有する医薬品を製造するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の薬学的組み合わせの使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2012−507494(P2012−507494A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533798(P2011−533798)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【国際出願番号】PCT/FR2009/052110
【国際公開番号】WO2010/061088
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511109157)
【出願人】(511109168)
【Fターム(参考)】