説明

リヤクッションユニット

【課題】二輪車の車体振動を抑制するのに最適な減衰特性を実現して良好な乗り心地を得ることができるリヤクッションユニットを提供する事である。
【解決手段】圧力室Cを形成するハウジング6と、圧力室C内に摺動自在に挿入されて圧力室を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、伸側室R1と伸側圧力室7とを連通する伸側通路10と、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側通路11と、フリーピストン9のハウジング6に対する変位を抑制する附勢力を発揮するばね要素12と、伸側通路10の途中に設けられて伸側通路10の流路抵抗を可変にする可変バルブ13とを備え、圧側通路11は圧側室R2と圧側圧力室8を等圧に保つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車の車体と後輪との間に介装されて車体の振動を抑制するリヤクッションユニットの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体と車輪との間に介装される緩衝器にあっては、ピストン速度に応じた減衰力を発揮することで、車体の振動を抑制するものが一般的である。
【0003】
ここで、自動車の構造を考えると、車体がばねとして振る舞うタイヤと懸架ばねで支持されているので、自動車に入力される振動周波数が車体の固有振動数(共振周波数)の近傍にあると、車体の振動が励起されることになる。
【0004】
そのため、車体の共振周波数周辺の周波数をもつ振動に対して、緩衝器が大きな減衰力を発揮させるようにすれば、車体の振動を抑制することができる。しかしながら、上記共振周波周辺以外の振動に対して緩衝器が過剰な減衰力を発揮すると、懸架ばねによる車体への振動絶縁効果を邪魔してしまい、却って車両における乗り心地を損ねてしまうことがある。
【0005】
しがたって、緩衝器に入力される振動の周波数に依存して減衰力を変化させると、車両の乗り心地を向上することができ、これを実現する、いわゆる、周波数感応型の緩衝器が開発されるに至っている。
【0006】
この周波数感応型の緩衝器としては、たとえば、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を上室と下室に区画するピストンと、ピストンに設けられた上室と下室を連通して通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路と、ピストンロッドの先端に設けられて圧力室を形成するハウジングと、ハウジング内に摺動自在に挿入されて圧力室を上室に連通される上部側室と下室に連通される下室側室とに区画するフリーピストンと、フリーピストンを附勢するコイルばねとを備えて構成されていて、図5に示すように、比較的低い周波数帯の振動に対しては大きな減衰力を発揮し、高い周波数帯の振動に対しては小さい減衰力を発揮するようになっている(たとえば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−336816号公報
【特許文献2】特開2007−78004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の緩衝器は、周波数に感応した減衰特性を発揮する周波数感応型の緩衝器であって、車両における乗り心地を向上することができる点で非常に有用ではあるが、以下の問題がある。
【0009】
上記緩衝器の構成では、初期設定通りの減衰特性を発揮するが、この初期設定は、上述のように、減衰通路および圧力室と上室および下室とを連通する通路の流路抵抗、フリーピストンの断面積およびコイルばねのばね乗数によって決定されて、一度決定されると、後から自由に変更する事ができず、個々の車両毎に最適となる減衰特性を実現する事が難しい。むろん、減衰力を可変にするには、特開2008−298227号公報に開示されているように、減衰通路と並行する通路を設けて、当該通路における流路抵抗を変更することも考えられなくはないが、そうすると、図5の減衰特性の曲線を図5中の矢印で示すように上下方向へシフトさせることはできるが、減衰力の変化幅自体を変更することができないので、最適な減衰特性を得ることは難しい。
【0010】
また、上記緩衝器にあっては、上部側室と上室とが比較的流路抵抗の少ない通路によって連通されているが、下部側室と下室とが流路抵抗の大きいオリフィスによって連通されている。すると、緩衝器の伸長行程では、上室に伸長によって圧縮される上部側室と同等の圧力を作用させることでフリーピストンを変位させる一方、緩衝器の収縮行程では、オリフィスによる圧力損失のため、収縮によって圧縮される下部側室の圧力より減圧された圧力が下室に作用し、この減圧された圧力でフリーピストンを押すことになるので、伸長行程に比較して収縮行程ではフリーピストンの変位は減少することになる。したがって、上記緩衝器では、収縮における減衰力の周波数に対応する変化幅が伸長行程におけるそれよりも小さくなる特性を有している。このような緩衝器を、そのまま、二輪車の車体と後輪に組み込まれるリヤクッションユニットとして用いると、特に、収縮行程における減衰力の低下幅が小さいので、路面からの高周波の突き上げ入力(インパクトショック)を充分に吸収できず、良好な乗り心地を得ることが難しい場合もある。
【0011】
そこで、本発明は、上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、二輪車の車体振動を抑制するのに最適な減衰特性を実現して良好な乗り心地を得ることができるリヤクッションユニットを提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、二輪車の後輪と車体の一方に連結されるシリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を伸側室と圧側室に区画するピストンと、一端がピストンに連結されるとともに二輪車の後輪と車体の他方に連結されるピストンロッドと、ピストンに設けられて伸側室と圧側室を連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路とを備えて上記車体の振動を抑制する減衰力を発揮するリヤクッションユニットにおいて、圧力室を形成するハウジングと、圧力室内に摺動自在に挿入されて圧力室を伸側圧力室と圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、伸側室と伸側圧力室とを連通する伸側通路と、圧側室と圧側圧力室とを連通する圧側通路と、フリーピストンのハウジングに対する変位を抑制する附勢力を発揮するばね要素と、伸側通路の途中に設けられて伸側通路の流路抵抗を可変にする可変バルブとを備え、圧側通路は圧側室と圧側圧力室を等圧に保つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリヤクッションユニットによれば、収縮行程における減衰力の低下幅を大きくすることができるので、二輪車が路面上の突起を通過するときのような、高周波で振幅の大きく振動(インパクトショック)が入力されても、当該インパクトショックを充分に吸収でき、良好な乗り心地を得ることができる。
【0014】
また、このリヤクッションユニットにあっては、伸側通路における流路抵抗を可変バルブで調節することで、減衰特性における減衰力変化幅を調節することができ、二輪車の車体振動を抑制するのに最適な減衰特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一実施の形態におけるリヤクッションユニットの縦断面図である。
【図2】一実施の形態におけるリヤクッションユニットのピストン部の拡大縦断面図である。
【図3】一実施の形態におけるリヤクッションユニットの振動周波数に対する減衰特性を示した図である。
【図4】一実施の形態におけるリヤクッションユニットの伸縮両行程の減衰特性における減衰力変化幅を説明する図である。
【図5】従来の緩衝装置における減衰特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明のリヤクッションユニットRCUは、図1および図2に示すように、図示しない二輪車の後輪と車体の一方に連結されるシリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画するピストン2と、一端がピストン2に連結されるとともに図外の二輪車の後輪と車体の他方に連結されるピストンロッド3と、ピストン2に設けられて伸側室R1と圧側室R2を連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路4,5と、圧力室Cを形成するハウジング6と、圧力室C内に摺動自在に挿入されて圧力室Cを伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、伸側室R1と伸側圧力室7とを連通する伸側通路10と、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側通路11と、フリーピストン9のハウジング6に対する変位を抑制する附勢力を発揮するばね要素12と、伸側通路10の途中に設けられて伸側通路10の流路抵抗を可変にする可変バルブ13とを備えて構成されており、伸縮時に減衰力を発揮して図示しない車体の振動を抑制する。
【0017】
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室C内には作動油等の液体が充満され、また、シリンダ1の下端側方には、タンクTが連結されており、タンクT内は、液体が充満されるとともにシリンダ1に設けたタンク連通孔40を介して下室R2に連通される図示しない液室と、気体が充填される図示しない気室とに区画されている。このタンクTは、シリンダ1内にピストンロッド3が進退することにより、シリンダ1内で生じる液体の過不足を気室の体積を変化させることで吸収するようになっている。タンクT内において、液室と気室との区画は、たとえば、タンクT内を摺動する摺動隔壁で区画されてもよいし、タンクT内に内部が気室として機能するベローズやブラダを収容して行うようにしてもよい。なお、リヤクッションユニットRCUにおけるストローク長との兼ね合いにもよるが、シリンダ1内に気室を形成することができれば、タンクTを廃止してもよく、また、シリンダ1の外周を覆う外筒を設けてシリンダ1と外筒との間に気室を形成する複筒型に設定される場合にもタンクTを廃止することができる。伸側室R1、圧側室R2および圧力室C内に充填される液体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった液体を使用することもできる。
【0018】
以下、リヤクッションユニットRCUの各部について詳細に説明する。ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド3の一端3aに連結され、ピストンロッド3は、シリンダ1の図中上端に固定された環状のロッドガイド15の内周を通して外方へ突出されている。なお、ピストンロッド3とロッドガイド15との間はシール部材16によって封止されており、シリンダ1内は液密状態に保たれている。
【0019】
また、ピストン2は、伸側室R1と圧側室R2を連通する減衰通路4,5を備えており、減衰通路4の図1中下端がピストン2の図1中下方に積層される減衰バルブとしてのリーフバルブ17で開閉されるようになっており、また、減衰通路5の図1中上端がピストン2の図1中上方に積層される減衰バルブとしてのリーフバルブ18で開閉されるようになっている。そして、リーフバルブ17は、環状であってピストン2とともにピストンロッド3の一端3aに装着されて、ピストン2が図1中上方に移動するリヤクッションユニットRCUの伸長行程時に、液体が減衰通路4を伸側室R1から圧側室R2へ向けて流れる際に撓んで減衰通路4を開放するとともに当該液体の流れに抵抗を与え、逆向きの流れに対しては減衰通路4を閉塞するようになっており、減衰通路4を伸側室R1から圧側室R2へ向かう流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。他方、リーフバルブ18は、環状であってピストン2とともにピストンロッド3の一端3aに装着されて、ピストン2が図1中下方に移動するリヤクッションユニットRCUの収縮行程時に、液体が減衰通路5を圧側室R2から伸側室R1へ向けて流れる際に撓んで減衰通路5を開放するとともに当該液体の流れに抵抗を与え、逆向きの流れに対しては減衰通路5を閉塞するようになっており、減衰通路5を圧側室R2から伸側室R1へ向かう流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。つまり、リーフバルブ17は、伸長行程時に減衰通路4を流れる液体の流れに抵抗を与える伸側減衰バルブとして機能し、リーフバルブ18は、収縮行程時に減衰通路5を流れる液体の流れに抵抗を与える圧側減衰バルブとして機能する。このように、減衰通路4,5を複数設ける場合には、減衰通路を一方通行に設定するようにして、伸長行程時のみ或いは収縮行程時のみに液体が流れるようにしてもよく、また、減衰通路が双方向の流れを許容して通過する液体の流れに抵抗を与えるようにしてもよい。減衰通路を通過液体の流れに抵抗を与える減衰通路たらしめる減衰バルブとしては、上記したリーフバルブのほか、ポペットバルブやオリフィス、チョークといった種々の減衰バルブを使用することができる。
【0020】
つづいて、圧力室Cは、この実施の形態の場合、ピストンロッド3の一端3aの最先端外周に設けた螺子部3bに螺合される中空なハウジング6によって形成されており、当該ハウジング6は、上記ピストン2およびリーフバルブ17,18をピストンロッド3の一端3aに固定するピストンナットとしても機能している。
【0021】
そして、ハウジング6内に形成された圧力室Cは、当該圧力室C内に摺動自在に挿入されるフリーピストン9で図2中上方の伸側圧力室7と図2中下方の圧側圧力室8とに仕切られていて、フリーピストン9は、圧力室C内でハウジング6に対して図2中上下方向に変位することができるようになっている。
【0022】
詳しくは、ハウジング6は、ピストンロッド3の一端3aに形成の螺子部3bに螺合されるナット部20と、ナット部20の外周から垂下されるとともにフリーピストン9が摺動自在に摺接する筒部21と、筒部21の図2中下端開口部に螺合される環状のばね受22とを備えて構成されて、圧側室R2内に圧力室Cを画成している。なお、筒部21とばね受22との一体化に際しては、螺合のほかに加締めや溶接等の他の方法を採用することも可能である。
【0023】
また、ナット部20は、その内周にピストンロッド3の螺子部3bに螺合する螺子部20aを備えるとともに、外周断面形状が図示しない工具で把持可能なように円形以外の形状であって当該工具に符合する形状、たとえば、一部を切欠いた形状や六角形等の形状とされており、工具でナット部20の外周を把持してナット部20を周方向へ回転せしめて、上記ナット部20に所定の締め付けトルクを付加して螺子部3bへ螺着することができるようになっている。筒部21は、側部にポート21aが設けられており、当該ポート21aにて圧力室Cと圧側室R2とを連通している。
【0024】
ばね受22は、筒部21の下端開口端に螺着されていて、環状であって内周で圧側通路11を形成しており、当該圧側通路11で圧側圧力室8を圧側室R2へ連通している。
【0025】
また、伸側圧力室7は、ピストンロッド3の伸側室R1に臨む側部から一端3aの端部へ通じる伸側通路10によって、伸側室R1へ通じている。この伸側通路10は、ピストンロッド3の伸側室R1に臨む側部から開口する横穴10aと、一端3aの端部から開口して横穴10aへ通じる縦穴10bとで構成されており、縦穴10b内には、筒状の弁座部材23が固定されており、この弁座部材23は、環状弁座23aを伸側通路10内に形成している。
【0026】
このように形成される圧側通路11の流路抵抗は、圧力損失が生じない程度に流路面積を極力大きくとっていて、圧側室R2と圧側圧力室8とを等圧に保つことができるようになっている。
【0027】
さらに、ピストンロッド3には、その他端3cから縦穴10bに通じる中空部3dが設けられており、この中空部3d内には、コントロールロッド24が挿通され、当該コントロールロッド30の図1中下端となる先端には、ニードル型弁体25が一体に設けられている。このニードル型弁体25は、途中で傾斜角が変化する円錐形状をしており、基端がコントロールロッド24の外径より小径に設定されて段部が設けられており、当該段部で上記環状弁座23aへ離着座可能な環状のシート部26を形成している。
【0028】
このニードル型弁体25は、図2に示すように、シート部26を環状弁座23aに着座させると、伸側通路10を遮断することができ、また、シート部26を環状弁座23aから離座させると、環状弁座23aの内縁との間に環状隙間が形成されて伸側通路10を開放することができるようになっている。そして、ニードル型弁体25を環状弁座23aに対して遠近させることで、当該環状隙間の断面積(流路面積)を変化させることができ、伸側通路10が当該環状隙間を通過する液体の流れに与える抵抗を調節することができ、このニードル型弁体25と環状弁座23aとで可変バルブ13を構成している。なお、ニードル型弁体25が最大限に環状弁座23aから遠ざかって伸側通路10を最大開放しても、液体の流れに充分な流路抵抗を与えるようになっていて、圧力損失を伴うようになっている。
【0029】
コントロールロッド24のニードル型弁体25が設けられる反対側の端部である図1中上端は、円錐形とされてテーパ面24aが形成されている。他方、ピストンロッド3の他端3cには、ピストンロッド3の他端3cを図示しない車体へ固定するためのブラケット27が装着されており、当該ブラケット27の側方から開口する調整口27aには、円錐形状の先端28aを持つ調整螺子28が螺着されている。そして、調整螺子28の先端28aは、コンロロールロッド24のテーパ面24aに当接させてあって、この調整螺子28を回転させて送り螺子機構の要領で調整口27a内へ進退させることで、コントロールロッド24をピストンロッド3内で上下に移動させることができるようになっている。すなわち、調整螺子28を外部操作で回転させることでニードル型弁体25を環状弁座23aに遠近させることができるようになっている。なお、調整螺子28を調整口27aから退出させる方向へ移動させてニードル型弁体25を環状弁座23aから遠ざける場合、コントロールロッド24が伸側圧力室7や伸側室R1内の圧力によって附勢されるので、ニードル側弁体25を環状弁座23aから遠ざかる方向へ附勢するばねを用いずとも、ニードル型弁体25を環状弁座23aから遠ざけることができる。この場合、コントロールロッド24とニードル型弁体25を一体化しているが、別体としてもよく、また、ニードル型弁体25を環状弁座23aに対して遠近させる機構は、上記したところに限定されるものではなく、油圧などを用いてもよいし、さらには、コントロールロッド24自体に送り螺子機構を配してよいし、送り螺子機構の駆動にモータを用いることも可能である。
【0030】
そして、圧力室C内に挿入されるフリーピストン9は、円盤状の鏡部30と、鏡部30の外周に連なってハウジング6の筒部21の内周に摺接する摺接筒31とを備えて、ハウジング6内を伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画している。また、フリーピストン9は、摺接筒31の外周の全周渡って設けた環状溝32と、環状溝32を伸側圧力室7へ連通する連通孔33とを備えていて、環状溝32をハウジング6の筒部21に形成のポート21aに対向させる場合には、圧側室R2を伸側圧力室7へ連通し、環状溝32が上記ポート21aへ対向せずに摺接筒31でポート21aを閉塞する場合には、圧側室R2と伸側圧力室7との連通を断つようになっている。ポート21aは、この実施の形態の場合、途中にオリフィスOを備えており、通過する液体の流れに抵抗を与えて所定の圧力損失を生じるようになっていて、圧側室R2と伸側圧力室7との間に差圧を生じせしめるようになっている。
【0031】
さらに、このフリーピストン9に、フリーピストン9のハウジング6に対する変位量に比例してその変位を抑制する附勢力を作用させるため、伸側圧力室7内であってナット部20とフリーピストン9の鏡部30との間、および、圧側圧力室8内であってばね受22とフリーピストン9の鏡部30との間に、それぞれ、ばね要素12としてコイルばね34,35をともに圧縮状態で介装してあり、フリーピストン9は、これらコイルばね34,35のばね要素12によって上下側から挟持されて、圧力室C内の所定の中立位置に位置決められた上で弾性支持されている。中立位置は、圧力室Cの軸方向の中央を指すものではなく、フリーピストン9がばね要素12によって位置決められる位置のことである。
【0032】
なお、ばね要素12としては、フリーピストン9を弾性支持できればよいので、コイルばね34,35以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン9を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン9に連結される単一のバネ要素を用いる場合には、ナット部20あるいはばね受22に他端を固定するようにしてもよい。
【0033】
コイルばね34の図2中上端は、ナット部20の図2中下端に形成した嵌合凹部20bの内周に嵌合されて半径方向に位置決められ、また、コイルばね35の図2中下端は、ばね受22の内周に形成した嵌合凹部22aの内周に嵌合されて半径方向に位置決められている。このように、コイルばね34,35は、上記のごとく、ともにセンタリングされて、フリーピストン9に対し位置ずれが防止されており、これによって安定的にフリーピストン9に附勢力を作用させることが可能となっている。
【0034】
上記したように、フリーピストン9は、ハウジング6内でばね要素12としてのコイルバネ34,35によって弾性支持されてばね要素12による附勢力以外に力が作用していない状態ではハウジング6内で中立位置に位置決められ、当該中立位置にあるときには必ず上記環状溝32がポート21aに対向して伸側圧力室7と圧側室R2とが連通されるようになっている。他方、フリーピストン9がある程度、中立位置から変位すると、フリーピストン9の摺接筒31の外周がポート21aに完全にオーバーラップしてこれを閉塞するようになっている。なお、フリーピストン9がポート21aを閉塞し始める中立位置からの変位量は、任意に設定することができ、ポート21aを閉塞し始めるフリーピストン9の図2中上方となる伸側圧力室7側への中立位置からの変位量と、ポート21aを閉塞し始めるフリーピストン9の図2中下方となる圧側圧力室8側への中立位置からの変位量とを異なるように設定してもよい。
【0035】
つまり、このリヤクッションユニットRCUの場合、フリーピストン9の中立位置からの変位量が所定の変位量となるとき、ポート21aが環状溝32に対向する状況から摺接筒31の外周に対向し始める状況に移行して徐々にポート21aの流路面積を減少し始めて、流路抵抗が徐々に増加するようになっている。
【0036】
したがって、上記所定の変位量は、環状溝32の図2中上下方向幅の設定および、ポート21aの開口位置によって任意に設定することができる。そして、この実施の形態では、フリーピストン9の変位量の増加に伴って徐々にポート21aの流路面積が減少し、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、ポート21aが完全に閉塞して、伸側圧力室7は、伸側通路10を介して伸側室R1のみに連通されるようになっている。
【0037】
なお、この実施の形態では、ポート21aを二つ設けているが、その数は任意であり、環状溝を筒部21の内周に設け、フリーピストン9の外周側と伸側圧力室7を連通するポートをフリーピストン9に設けるようにしてもよい。
【0038】
つづいて、リヤクッションユニットRCUの基本的な作動について説明する。まず、フリーピストン9における中立位置からの変位量がポート21aを閉塞し始めない範囲内である場合における動作について説明する。この場合、フリーピストン9は、ポート21aが完全に連通状態に維持されてポート21aにおける流路抵抗が変化せずに一定となる。
【0039】
まず、リヤクッションユニットRCUが収縮行程にある場合には、フリーピストン9はハウジング6に対して伸側圧力室7と圧側圧力室8の差圧に応じて自由に変位する。そして、圧側圧力室8は圧側通路11を介して圧縮されて高圧となる圧側室R2の圧力と等圧に保たれる一方、伸側圧力室7は、伸側通路10を介して伸側室R1へ連通されるとともに、ポート21aを介して圧側室R2へも連通されるものの、伸側圧力室7の圧力は、ポート21aの圧力損失によって伸側室R1よりは高圧となるが圧側圧力室8の圧力よりはごく小さくなるので、フリーピストン9の変位量は大きくなる。
【0040】
他方、リヤクッションユニットRCUが伸長行程にある場合には、フリーピストン9はハウジング6に対して伸側圧力室7と圧側圧力室8の差圧に応じて自由に変位する。この場合、圧側圧力室8は圧側通路11を介して拡大されて低圧となる圧側室R2の圧力と等圧に保たれる一方、伸側圧力室7は、圧縮されて昇圧される伸側室R1へ流路抵抗が付与される伸側通路10を介して連通されるため、伸側圧力室7の圧力は、伸側室R1と圧側室R2の圧力の中間の圧力にしかならず、フリーピストン9の変位量は収縮行程に比較して小さくなる。
【0041】
また、リヤクッションユニットRCUに入力される振動の振幅が同じであれば、振動が高周波になればなるほど、伸側圧力室7と圧側圧力室8との差圧が大きくなり、フリーピストン9の変位量も大きくなる。
【0042】
フリーピストン9の変位量は、圧力室Cを見掛け上通過して液体の流量を示しており、圧力室Cを通過する流量は減衰通路4,5を迂回する流量であるので、フリーピストン9の変位量が大きくなればなるほど、迂回する流量が多くなり、リヤクッションユニットRCUの発生減衰力の低減効果が高くなる。つまり、リヤクッションユニットRCUは、図3に示すように、低周波振動に対しては高い減衰力を発揮し、高周波振動に対しては小さい減衰力を発揮するとともに、伸長行程時における減衰力変化幅Xよりも収縮行程時における減衰力変化幅Yのほうが大きくなる減衰特性を発揮する。
【0043】
したがって、このリヤクッションユニットRCUによれば、収縮行程における減衰力の低下幅を大きくすることができるので、二輪車が路面上の突起を通過するときのような、高周波で振幅の大きく振動(インパクトショック)が入力されても、当該インパクトショックを充分に吸収でき、良好な乗り心地を得ることができる。
【0044】
また、このリヤクッションユニットRCUにあっては、伸側通路10における流路抵抗を可変バルブ13で調節することができ、当該可変バルブ13における調節にて、伸側圧力室7の圧力を制御することができるようになっている。伸側圧力室7の圧力を制御することは、すなわち、フリーピストン9の変位量を制御することに繋がり、フリーピストン9の変位量を制御することで、減衰通路4,5の迂回流量を調節することができるので、図4に示すように、伸縮両工程における減衰特性における減衰力変化幅を調節することができる。すなわち、減衰特性を図4中の斜線範囲内で調節することができる。このように従来の緩衝器では、減衰特性曲線を上下にしかシフトできなかったところ、本発明のリヤクッションユニットRCUにあっては、減衰特性における減衰力変化幅を調節することができるので、二輪車の車体振動を抑制するのに最適な減衰特性を得ることができる。
【0045】
さらに、伸側通路10をピストンロッド3の伸側室R1に臨む側部から一端へ通じるようにして配して、ピストンロッド3の一端3aに連結したハウジング6の圧力室Cへ連通させるようにしているので、ハウジング6をピストン2を当該ピストンロッド3に固定するピストンナットとして機能させつつ、伸側通路10の途中に設けられるべき可変バルブ13をピストンロッド3内に効率的に配置することができる。また、ピストンロッド3が伸側通路10に連通される中空部3dを備えて、当該中空部3d内に上記ニードル型弁体25を駆動するコントロールロッドを挿通することで、外部操作で簡単にリヤクッションユニットRCUの減衰特性を調節することができる。
【0046】
なお、上記した作用効果は、ポート21aと環状溝32の有無に関係なく、享受することができる。すなわち、伸側圧力室7と圧側室R2とを流路抵抗を備えた通路で連通しない構成を採用しても上記作用効果を享受することができる。つづいて、ポート21aと環状溝32とを設けたことによる利点について説明する。
【0047】
リヤクッションユニットRCUに入力される振動の周波数が高く振幅が大きくなると、フリーピストン9における中立位置からの変位量も大きくなり、フリーピストン9がポート21aを閉塞し始め、フリーピストン9がストロークエンドへ達するとポート21aが完全に閉塞される状態となる。
【0048】
このように、フリーピストン9がポート21aを閉塞し始めた後は変位量に応じてポート21aと環状溝32の重なりあう面積(ラップ面積)が小さくなり、ポート21aを絞る格好となって、当該ポート21aを通過する液体の流れに与えられる流路抵抗がフリーピストン9の変位量の増加とともに徐々に大きくなる。 すると、リヤクッションユニットRCUは、振動周波数が比較的高い場合、フリーピストン9がポート21aを閉塞し始める位置へ変位するまでは、比較的低い減衰力を発生しているが、フリーピストン9がポート21aを閉塞し始める位置を越えて変位するようになると、徐々にポート21aにおける流路抵抗が徐々に大きくなっていくので、フリーピストン9のそれ以上のストロークエンド側への移動速度が減少されて、圧力室Cを介しての伸側室R1と圧側室R2との液体の移動量も減少し、その分、減衰通路4,5を通過する液体量が増加することになり、リヤクッションユニットRCUの発生減衰力が徐々に大きくなっていく。
【0049】
そして、フリーピストン9がストロークエンドに達すると、それ以上、圧力室Cを介して伸側室R1と圧側室R2との液体の移動はなくなり、リヤクッションユニットRCUの伸縮方向が転ずるまでは液体は減衰通路4,5のみを通過することになり、リヤクッションユニットRCUは、減衰力低減効果が消失してリーフバルブ17,18に依存した大きな減衰力を発揮することになる。
【0050】
すなわち、フリーピストン9がストロークエンドまで変位してしまうような高周波数で大振幅の振動がリヤクッションユニットRCUに対し入力されても、リヤクッションユニットRCUは、フリーピストン9の中立位置からの変位量が任意の変位量を超えるとフリーピストン9がストロークエンドに達するまでに、徐々に発生減衰力を大きくするので、低い減衰力から急激に高い減衰力に変化することが無くなる。つまり、フリーピストン9がストロークエンドに達して圧力室Cを介しての伸側室R1と圧側室R2間の液体の交流ができなくなるときに急激に減衰力の大きさが変化してしまうことがなくなり、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。さらに、フリーピストン9が圧力室Cにおける両端側のストロークエンドまで到る際に、徐々に発生減衰力を大きくするので、減衰力の急激な変化を抑制する機能は、リヤクッションユニットRCUの伸圧の両行程で発揮される。したがって、このリヤクッションユニットRCUにあっては、高周波数で振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずにすみ、車両における乗り心地を向上することができる。
【0051】
また、このリヤクッションユニットRCUにあっては、フリーピストン9がコイルばね34,35によって、フリーピストン9を中立位置に戻す附勢力が作用しているので、必要な時に減衰力の急激な変化を抑制する機能を発揮できないという事態を回避することができる。
【0052】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のリヤクッションユニットは、二輪車の制振用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 シリンダ
2 ピストン
3 ピストンロッド
3a ピストンロッドの一端
3b ピストンロッドの螺子部
3c ピストンロッドの他端
3d ピストンロッドの中空部
4,5 減衰通路
6 ハウジング
7 伸側圧力室
8 圧側圧力室
9 フリーピストン
10 伸側通路
10a 横穴
10b 縦穴
11 圧側通路
12 ばね要素
13 可変バルブ
14 摺動隔壁
15 ロッドガイド
16 シール部材
17,18 リーフバルブ
20 ナット部
21 筒部
22 ばね受
20a 螺子部
20b 嵌合凹部
21a ポート
23 弁座部材
23a 環状弁座
24 コントロールロッド
25 ニードル型弁体
26 シート部
27 ブラケット
27a 調整口
28 調整螺子
28a 調整螺子の先端
24a テーパ面
30 鏡部
31 摺接筒
32 環状溝
33 連通孔
34,35 ばね要素としてコイルばね
40 タンク連通孔
C 圧力室
O オリフィス
R1 伸側室
R2 圧側室
RCU リヤクッションユニット
T タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二輪車の後輪と車体の一方に連結されるシリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内を伸側室と圧側室に区画するピストンと、一端がピストンに連結されるとともに二輪車の後輪と車体の他方に連結されるピストンロッドと、ピストンに設けられて伸側室と圧側室を連通するとともに通過する液体の流れに抵抗を与える減衰通路とを備えて上記車体の振動を抑制する減衰力を発揮するリヤクッションユニットにおいて、圧力室を形成するハウジングと、圧力室内に摺動自在に挿入されて圧力室を伸側圧力室と圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、伸側室と伸側圧力室とを連通する伸側通路と、圧側室と圧側圧力室とを連通する圧側通路と、フリーピストンのハウジングに対する変位を抑制する附勢力を発揮するばね要素と、伸側通路の途中に設けられて伸側通路の流路抵抗を可変にする可変バルブとを備え、圧側通路は圧側室と圧側圧力室を等圧に保つことを特徴とするリヤクッションユニット。
【請求項2】
上記ハウジングに上記圧側室と当該ハウジング内とを連通するポートと環状溝のいずれか一方を設け、上記フリーピストンには外周から開口して上記伸側圧力室へ通じるポートと環状溝の他方を設け、フリーピストンが中立位置にあると上記ポートと上記環状溝とが対向しフリーピストンが中立位置から所定量変位するとポートと環状溝との対向面積が減じられることを特徴とする請求項1に記載のリヤクッションユニット。
オリフィスと環状溝
【請求項3】
ハウジングは、上記ピストンロッドの一端に螺合されてピストンを当該ピストンロッドに固定するピストンナットとして機能し、伸側通路は、ピストンロッドの伸側室に臨む側部から一端へ通じてハウジング内の伸側圧力室と伸側室とを連通し、可変バルブは、上記伸側通路の途中に設けた環状弁座と、環状弁座に遠近して伸側流路の流路面積を変更するニードル型弁体とを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のリヤクッションユニット。
【請求項4】
ピストンロッドは、伸側通路に連通される中空部を備え、当該中空部内に上記ニードル型弁体を駆動するコントロールロッドを挿通し、コントロールロッドを外部操作することでニードル型弁体を環状弁座に対して遠近させて可変バルブの流路面積を変更可能であることを特徴とする請求項3に記載のリヤクッションユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47310(P2012−47310A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192122(P2010−192122)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】