説明

リラクタンスモータのロータ

【課題】トルク特性を向上させると共に、機械的強度が強く、容易に製造可能なリラクタンスモータのロータを提供する。
【解決手段】複数のスリット12間に磁路13が形成された複数のフラックスバリア部20が周方向に所定の間隔で配置されており、隣り合うフラックスバリア部20が内周側に設けられた環状つなぎ部14によって内周側で連結されると共に、外周側に設けられた開口部16によって外周側で離間している。環状つなぎ部14には、永久磁石15が埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車、ハイブリッド自動車などに搭載されるリラクタンスモータのロータに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今のレアアース危機に端を発し、レアアースレスモータ、特にリラクタンスモータが開発されている。しかし、リラクタンスモータは、ネオジウム磁石等の高性能磁石を使用したSPMやIPMと比較すると発生トルクが小さく、トルクアップが切望されている。リラクタンスモータにおけるリラクタンストルクの大きさは、d軸インダクタンスLdと、q軸インダクタンスLqとの差|Ld−Lq|に依拠することが知られている。リラクタンストルクを大きくするには、サイズアップや巻線ターン数アップでも可能ではあるが、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLqも大きくなるため、希望通りに出力を高め難い問題があり、LqIq磁路の磁気抵抗を低くし、LdId磁路の磁気抵抗を高くして、突極比(Ld/Lq)を大きくすることで、効果的にリラクタンストルクを増大することができる。
【0003】
図6は従来のリラクタンスモータの正面図であり、リラクタンスモータ100は、多数の歯部103を備え、各歯部103間に形成されたスロット104にコイル105が巻装されてなるステータコア102と、複数の円弧状のスリット108と、各スリット108間に複数の円弧状の磁路109が形成されてなるロータコア107と、を備え、ロータコア107に形成した複数の円弧状スリット108をフラックスバリアとして機能させることでLqIq磁路の磁気抵抗を高め、q軸インダクタンスLqを低下させて突極比を大きくするようにしたリラクタンスモータ100が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかし、特許文献1のようにフラックスバリアとしてスリット108をロータコア107に設けただけでは、ロータコア107の外径側でq軸の磁束漏れが生じ、q軸インダクタンスLqを十分に低下させることが困難であった。このため、q軸の磁束漏れを抑制して更に突極比を大きくするため、複数のスリット間に磁路が形成された複数のフラックスバリア部を独立して設け(セグメント化)、q軸インダクタンスLqを低くするようにしたリラクタンスモータも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3940207号公報
【特許文献2】特許第4058576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のリラクタンスモータでは、フラックスバリア部が分割されて独立に形成されているため、高速回転での遠心力や、加減速に対するロータの強度が問題となり、実用可能な構造とするのが困難であった。
【0007】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、トルク特性を向上させると共に、機械的強度が強く、容易に製造可能なリラクタンスモータのロータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、
複数のスリット(例えば、後述の実施形態におけるスリット12)間に磁路(例えば、後述の実施形態における磁路13)が形成された複数のフラックスバリア部(例えば、後述の実施形態におけるフラックスバリア部20)が周方向に所定の間隔で配置されたリラクタンスモータ(例えば、後述の実施形態におけるリラクタンスモータ1)のロータ(例えば、後述の実施形態におけるロータ10)であって、
隣り合う前記フラックスバリア部は、内周側に設けられた環状つなぎ部(例えば、後述の実施形態における環状つなぎ部14)によって内周側で連結され、外周側に設けられた開口部(例えば、後述の実施形態における開口部16)によって外周側で離間しており、
前記環状つなぎ部には、永久磁石(例えば、後述の実施形態における永久磁石15)が埋設されていることを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、
請求項1の構成に加えて、前記永久磁石は、前記ロータの径方向に磁化されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、隣り合うフラックスバリア部同士を連結する環状つなぎ部を、永久磁石によって磁気飽和させて磁気抵抗を高め、q軸インダクタンスLqを低減させることによりリラクタンストルクを大きくすることができ、これによってトルク特性を向上させることができる。即ち、環状つなぎ部に永久磁石を配置することは、環状つなぎ部を飽和させるのが主目的であり、それにより環状つなぎ部の磁気抵抗を増大することが可能となるため、より突極差を生み出す構成にすることができる。また、永久磁石は、環状つなぎ部を磁気飽和させるだけの磁力を有していればよく、通常使用時に発生する永久磁石への反磁界影響等は皆無であり、且つ高パーミアンス環境での使われ方となるため、高保持力材である必要がない。そのため、Dy(ジスプロシウム)レス磁石や安価なフェライト磁石などが使用可能である。
また、フラックスバリア部同士は、環状つなぎ部で一体に連結されているので、通常のロータ構造設計が適用可能で、機械的強度が強く、高速回転や急激な加減速が加わる使用環境においても、高い信頼性が得られる。
【0011】
請求項2の発明によれば、永久磁石は、ロータの径方向に磁化されて環状つなぎ部に埋設されているので、この永久磁石の磁力がステータに影響を及ぼすことがなく、従って、引摺り損などの発生もなく、高回転域でも弱め界磁などの処置が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るリラクタンスモータの正面図である。
【図2】図1に示すリラクタンスモータの磁束の流れを示す説明図である。
【図3】永久磁石の磁化方向を示す拡大図である。
【図4】電流値とインダクタンス値(Lq、Ld)との関係を示すグラフである。
【図5】比較例のロータにおける磁束の流れを説明するためのものであり、(a)はd軸の磁束の流れを示す説明図、(b)q軸の磁束の流れを示す説明図である。
【図6】特許文献1に記載のリラクタンスモータの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づいて説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【0014】
図1は本発明に係るリラクタンスモータの正面図、図2は図1に示すリラクタンスモータの磁束の流れを示す説明図、図3は永久磁石の磁化方向を示す拡大図である。図1及び図2に示すように、リラクタンスモータ1は、ステータ2と、このステータ2の内周部とエアギャップgを介して対向するロータ10と、を備える。ステータ2は、ステータコア3の外周部がフレーム等(図示せず)に固定され、ロータ10は、ロータコア11の中心に嵌合する軸(図示せず)により回転自在に支持されている。
【0015】
ステータコア3及びロータコア11は、電磁鋼板をそれぞれ所定の形状に打ち抜き、軸方向に多数積層することによって形成される。ステータコア3の内周部には、多数のティース4と、隣接するティース4間に形成されたスロット5と、が設けられている。各スロット5には、コイル6が巻回されている。図に示す実施形態では、48個のティース4、及びスロット5が形成されている。
【0016】
ロータコア11には、複数(図に示す実施形態では8個)のフラックスバリア部20が、周方向に所定の間隔で配置されている。それぞれのフラックスバリア部20には、複数(図に示す実施形態では3個)の円弧状のスリット12が、各円弧の凸側を軸心に向けて、ロータコア11の半径方向に離間して形成されている。各スリット12は、フラックスバリアを構成し、これらのスリット12間には、円弧状の複数の磁路13が形成されている。なお、最外周側に位置するスリット12の径方向外方のロータコア11の外周面は、軸心に向かって窪むように形成され、最外周側に位置するスリット12の径方向外方にも磁路13が形成されている。
【0017】
周方向に隣り合うフラックスバリア部20同士は、ロータコア11の内周側に設けられた環状つなぎ部14によって内周側で連結されている。また、環状つなぎ部14より径方向外方となる隣り合うフラックスバリア部20の間には、フラックスバリアを構成する開口部16が、ロータコア11の外周に開口して形成されている。即ち、周方向に隣り合うフラックスバリア部20同士は、外周側に設けられた開口部16によって外周側で離間している。図3も参照して、環状つなぎ部14には、ロータ10の径方向に磁化された、例えばフェライト磁石などの永久磁石15が埋設されている。なお、図3中、永久磁石15は、N極が径方向外方、S極が径方向内方となるように配置されているが、これに限らず、S極が径方向外方、N極が径方向内方となるように配置してもよい。また、全ての永久磁石15(本実施形態では8個)の磁極の向きをそろえてもよく、例えば交互にする等、永久磁石15の磁極の向きは適宜選択することができる。
【0018】
このように、ロータ10に複数(8個)のフラックスバリア部20を備えることで、隣り合うフラックスバリア部20間で磁束が流れやすい方向(d軸方向)と流れにくい方向(q軸方向)ができる。即ち、d軸方向には、円弧状の複数の磁路13がスリット12間に形成されることで磁束が流れやすくなっており、q軸方向には、フラックスバリアとして機能するスリット12がほぼ直角に介在することで磁束が通り難くなっている。一般的なモータの磁極はd軸をさすので、隣り合うフラックスバリア部20間の中央が磁極(N、Sの位置)中心d軸となり、フラックスバリア部20の中央が磁極間中心q軸となる。
【0019】
また、リラクタンスモータ1のリラクタンストルクTqは、(式1)で表わされることが知られている。従って、大きなリラクタンストルクTqを発生させるには、d軸インダクタンスLdを大きくするか、q軸インダクタンスLqを小さくすることが有効である。
【0020】

Tqはリラクタンストルク、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Idはd軸電流、Iqはq軸電流である。
【0021】
図5(a)、(b)は、環状つなぎ部に永久磁石を備えない比較例のロータのd軸及びq軸の磁束の流れを示す図である。図5(a)に示すように、d軸の磁気の通路には、電磁鋼板からなる円弧状の複数の磁路13がスリット12間に形成されているので、磁気抵抗が小さく、コイル6の磁束は、磁路13を通って矢印A方向に容易に通過する。
【0022】
一方、図5(b)に示すように、q軸の磁気の通路には、フラックスバリアとして機能する円弧状の複数のスリット12が、磁気の通路に直交するように介在するため、磁気抵抗が大きく、コイル6の磁束は通過し難い。これにより、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの間に差が生じ、リラクタンストルクTqが発生する。しかしながら、コイル6の磁束の一部は、磁気抵抗の小さな部分、即ち、ロータ10の外周部及び環状つなぎ部14を通過して流れるため(矢印B方向)、q軸インダクタンスLqが十分に低下せず、大きなリラクタンストルクTqの発生が阻害される虞がある。
【0023】
これに対して本実施形態のロータ10は、図2及び図3に示すように、環状つなぎ部14に永久磁石15を埋設して環状つなぎ部14における磁気を飽和させることで、q軸の磁気通路の磁気抵抗を高め、q軸インダクタンスLqを低減させて大きなリラクタンストルクTqを得ている。
【0024】
図4は、電流値とインダクタンス値(Lq、Ld)との関係を示すグラフであり、環状つなぎ部14に永久磁石15が埋設されていない比較例のロータのインダクタンス値を波線で、また本実施形態のロータ10のインダクタンス値を実線で示す。図4に示すように、環状つなぎ部14に永久磁石15を埋設して、環状つなぎ部14、換言すれば、q軸の磁気の通路の磁気抵抗を高めることで、d軸インダクタンスLdは変化せずに、q軸インダクタンスLqが効果的に低減する。これにより、d軸インダクタンスLdと、q軸インダクタンスLqとの差|Ld−Lq|が大きくなり、リラクタンスモータ1のリラクタンストルクTqを高めることができる。
【0025】
なお、永久磁石15は、環状つなぎ部14を磁気飽和させることができればよいので、磁力の強いネオジウム磁石等の高性能磁石は必要ではなく、Dy(ジスプロシウム)レス磁石やフェライト磁石などの安価な磁石を使用することができる。
【0026】
更に、永久磁石15は、環状つなぎ部14に埋設されているので、永久磁石15の磁力がステータ2に影響を及ぼすことはなく、従って、引摺り損の発生によってリラクタンスモータ1の効率に影響を及ぼすことはない。
【0027】
以上説明したように、本実施形態に係るリラクタンスモータ1のロータ10によれば、複数のスリット12間に磁路13が形成された複数のフラックスバリア部20が周方向に所定の間隔で配置されており、隣り合うフラックスバリア部20が内周側に設けられた環状つなぎ部14によって内周側で連結されると共に、外周側に設けられた開口部16によって外周側で離間している。環状つなぎ部14には、永久磁石15が埋設されているので、隣り合うフラックスバリア部20同士を連結する環状つなぎ部14を、埋設した永久磁石15によって磁気飽和させて環状つなぎ部14の磁気抵抗を高めることができ、これにより、q軸インダクタンスLqを低減させてリラクタンストルクを大きくしてトルク特性を向上させることができる。即ち、環状つなぎ部14に永久磁石15を配置することは、環状つなぎ部14(ロータヨークの一部)を飽和させるのが主目的であり、それにより環状つなぎ部14の磁気抵抗を増大することが可能となるため、より突極差を生み出す構成にすることができる。
【0028】
また、永久磁石15は、環状つなぎ部14を磁気飽和させるだけの磁力を有していればよく、通常使用時に発生する永久磁石15への反磁界影響等は皆無であり、且つ高パーミアンス環境での使われ方となるため、高保持力材である必要がない。そのため、Dy(ジスプロシウム)レス磁石や安価なフェライト磁石などが使用可能である。
【0029】
また、フラックスバリア部20同士は、環状つなぎ部14で一体に連結されているので、通常のロータ構造設計が適用可能で、機械的強度が強く、高速回転や急激な加減速が加わる使用環境においても、高い信頼性が得られる。
【0030】
また、永久磁石15は、ロータ10の径方向に磁化されて環状つなぎ部14に埋設されているので、この永久磁石15の磁力がステータ2に作用することによる引摺り損などの発生もなく、高回転域でも弱め界磁などの処置が不要となる。
【0031】
なお、永久磁石15は、ロータ10の径方向に磁化されていることが好ましいが、必ずしもこれに限定されず、ロータ10の周方向に磁化されていてもよい。これによっても、環状つなぎ部14を、埋設した永久磁石15によって磁気飽和させて環状つなぎ部14の磁気抵抗を高めることができる。
【0032】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、スリット12には、必要に応じて高磁気抵抗材を装着して、更に磁気抵抗を高めてq軸インダクタンスLqを低下させるようにしてもよい。また、スリット12は3本に限定されず、ロータ10の強度が許容する範囲で、任意の本数とすることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 リラクタンスモータ
10 ロータ
12 スリット
13 磁路
14 環状つなぎ部
15 永久磁石
16 開口部
20 フラックスバリア部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスリット間に磁路が形成された複数のフラックスバリア部が周方向に所定の間隔で配置されたリラクタンスモータのロータであって、
隣り合う前記フラックスバリア部は、内周側に設けられた環状つなぎ部によって内周側で連結され、外周側に設けられた開口部によって外周側で離間しており、
前記環状つなぎ部には、永久磁石が埋設されていることを特徴とするリラクタンスモータのロータ。
【請求項2】
前記永久磁石は、前記ロータの径方向に磁化されていることを特徴とする請求項1に記載のリラクタンスモータのロータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−21840(P2013−21840A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154268(P2011−154268)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】