説明

リンの保持性を改善するための添加剤および潤滑剤の調合物

【課題】リン保持の高い潤滑油で表面を潤滑するための方法および組成物の提供。
【解決手段】当該潤滑面には、潤滑粘性の基油、ある量のリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な、ある量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なチタン化合物を含有する潤滑剤組成物が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に記載の実施例は、特定の油溶性金属添加物および潤滑油調合物中でのそのような金属添加物の用法、また特に、排ガス触媒の不活性化を低下させる効果のある、潤滑剤調合物のリンの保持性を向上させるために使用される可溶性チタン添加剤に関連している。
【背景技術】
【0002】
50年以上にわたり、車のエンジンオイルは、ジンクジアルキルジチオホスフェート(ZDDP)で調合されてきており、その結果磨耗、酸化、および腐食のレベルが低くなっている。この添加剤はどこにでもあるもので、ほとんどすべての近代的なエンジンオイル中に見られる。ZDDPは、耐磨耗性、抗酸化性、および耐腐食性の分野に多機能性をもたらし、紛れもなく、エンジンオイル製造業者およびマーケティング業者によって一般に使用されている、最も費用効率の高い添加剤の一つである。
【0003】
しかしながら、エンジンオイルからのリンが揮発して燃焼室を通り抜け、そのためにリン元素が触媒システムに堆積して、触媒の効率を失う原因となり得る、という懸念がある。ZDDPは、燃焼したオイルからのリンが貴金属触媒部分を覆ってしまうような不浸透性のグレーズを形成するときに、排ガス触媒コンバータおよび酸素センサーの重大な問題の原因となり得るリンの供給源となることが知られている。結果として、コンバータおよび酸素センサーの寿命の延長を促進し、またコンバータの貴金属の含有量を下げることにより製造業者の初期コストを下げるため、エンジンオイル中で使用されるリン含有化合物の量をコントロールおよび/または減少させなくてはならないという、自動車メーカーによるプレッシャーがある。
【0004】
潤滑油のリン含有量の低減により触媒コンバータの寿命あるいは効率は向上されるかもしれないが、リンを含有していない添加剤では、摩擦コントロールおよび磨耗保護のためのリン添加剤の利点を都合よく同等に得ることはできない。従って、潤滑油組成物のリンの総合含有量を著しく減少させることなく触媒作用の保護を可能にする添加剤および方法が、矛盾しながらも必要とされる。
【0005】
本明細書の一つの実施例では、潤滑粘性の基油、ある量のリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なチタン化合物を含む潤滑剤組成物を含有した潤滑面が提示される。
【0006】
別の実施例では、可動部を有し、また可動部を潤滑する潤滑剤を含んだ車両が提供される。この潤滑剤には、潤滑粘性のオイルと、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なチタン化合物が含まれる。
【0007】
また別の実施例では、潤滑粘性の基油成分、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に潤滑剤組成物のリンの保持を増加させるのに効果的な、ある量の炭化水素に可溶なチタンを含有した剤(agent)を含んだ、完全に調合された潤滑剤組成物が提供されており、このとき当該のチタンを含有した剤は実質的にイオウおよびリン原子を欠いている。
【0008】
本開示のさらなる実施例は、エンジン作動中に、エンジンの潤滑剤組成物におけるリン保持を増加させる方法を提供しており、このときリンの保持は、触媒被毒を低減させるのに十分なものである。この方法には、エンジンのパーツを、潤滑粘性の基油、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の炭化水素に可溶なチタン化合物を含有した潤滑剤組成物に接触させることが含まれる。
【0009】
上記に簡単に説明されたように、本開示の実施例では、潤滑油中のリン保持を著しく向上させ、それによって触媒コンバータへのリンの触媒被毒効果を減少させる、炭化水素に可溶なチタン添加剤が提供される。この添加剤は、可動部間の表面に塗布される油性の流体と混合される。別の態様では、この添加剤は完全に調合された潤滑剤組成物中に提供される。当添加剤は特に、現在提案されている乗用車のモーターオイルに対するGF−5基準、およびヘビーデューティーディーゼルエンジンオイルに対するPC−10基準、そしてまた将来の乗用車およびディーゼルエンジンオイル仕様を満たすことを目的としている。この添加剤は、車両がより厳しいTier−II、BIN2 120,000マイル触媒効率基準を満たすことを可能にするために、特に有用である。
【0010】
前述の概要および以下の詳しい説明は、共に例示および説明のみを目的としたものであり、開示・請求された実施例のさらなる説明を提供することが意図されたものであると理解される。
【実施例】
【0011】
本開示に記載の潤滑剤組成物のために提供される添加剤および濃縮物の主要成分は、炭化水素に可溶なチタン化合物である。「炭化水素に可溶な」という用語は、反応性の金属化合物と炭化水素材料の反応または錯体形成により、化合物が実質的に炭化水素材料中に懸濁あるいは溶解することを意味する。本明細書中で使用される「炭化水素」という用語は、炭素、水素、および/または酸素を様々な組み合わせで含んでいる、任意の多数の化合物を意味する。
【0012】
「ヒドロカルビル」という用語は、炭素原子が分子の残りの部分に結合しており、また主に炭化水素の特性を有する基を指す。ヒドロカルビル基の例には以下のものが含まれる:
(1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えばアルキルまたはアルケニル)置換基、脂環式(例えばシクロアルキル、シクロアルケニル)置換基、また芳香族、脂肪族、および脂環基によって置換された芳香族置換基、また環が分子の別の部分によって完成されている(例えば二つの置換基が一緒になって脂環式ラジカルを形成している)ような環状置換基;
(2)置換された炭化水素置換基、すなわち、本発明の状況下で、主に炭化水素である置換基を変化させないような、非炭化水素基(例えばハロ(特にクロロおよびフルオロ)、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソ、およびスルホキシなど)を含んだ置換基;
(3)ヘテロ置換基、すなわち、主に本発明の状況下で、主に炭化水素の特性を有しながら、そうでなければ炭素原子から成る環または鎖の中に炭素以外の原子を含んでいるような置換基。ヘテロ原子には硫黄、酸素、および窒素があり、またピリジル、フリル、チエニルおよびイミダゾリルのような置換基が含まれる。通常、ヒドロカルビル基中、炭素原子10個につき二つ以下、一般的には一つ以下の非炭化水素置換基が存在する。一般的にヒドロカルビル基中に非炭化水素置換基は存在しない。
【0013】
本発明での使用に適した炭化水素に可溶なチタン化合物、例えばリン保持剤は、チタンアルコキシドと約Cから約C25のカルボン酸との反応生成物によってもたらされる。この反応生成物は、次の化学式によって表されることがある:
【化1】

式中nは2、3、および4の中から選択される整数、またRは炭素数が約5から約24のヒドロカルビル基である。またこの反応生成物は、次の化学式によって表されることもある:
【化2】

式中R、R、R、およびRはそれぞれ、同一あるいは異なったものであり、炭素数が約5から約25のヒドロカルビル基の中から選択される。上述の化学式の化合物は、実質的にリンおよびイオウを欠いている。
【0014】
ある実施例で、炭化水素に可溶なチタン化合物は、実質的あるいは本質的にイオウおよびリン原子を欠いており、炭化水素に可溶なチタン化合物を含んだ潤滑剤あるいは調合された潤滑剤パッケージには約0.7重量%またはそれ以下のイオウと約0.12重量%またはそれ以下のリンが含まれる。
【0015】
別の実施例では、炭化水素に可溶なチタン化合物は実質的に活性イオウを含有していないことがある。「活性」イオウとは完全に酸化されていないイオウのことをいう。活性イオウはさらに酸化されることで、使用時にオイル中でより酸性となる。
【0016】
また別の実施例では、炭化水素に可溶なチタン化合物は実質的にすべてのイオウを含まない。さらなる実施例では、炭化水素に可溶なチタン化合物は実質的にすべてのリンを含まない。
【0017】
またさらなる実施例では、炭化水素に可溶なチタン化合物は、実質的にすべてのイオウおよびリンを含まない。例えば、その中にチタン化合物が溶解している基油には、一つの実施例では約0.5重量%未満、また別の実施例では約0.03重量%以下というように、比較的少量のイオウが含まれており(例えばグループIIの基油)、またさらに別の実施例では、イオウおよび/またはリンの量は、基油中で完成したオイルが、モーターオイルのイオウおよび/またはリンの、所定の時間実施される適切な仕様を満たすことを可能にするだけの量に限定されている。
【0018】
チタン/カルボン酸の生成物の例としては、本質的にカプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、安息香酸、ネオデカン酸等からなる群の中から選ばれた酸とチタンとの反応生成物が挙げられるが、これらに限定はされない。このようなチタン/カルボン酸の生成物の生成方法は、その記述が参照することによって本明細書に組み込まれている、例えば米国特許第5,260,466号に記載されている。
【0019】
本明細書に記載の実施例の炭化水素に可溶なチタン化合物は、潤滑剤組成物中に効果的に組み込まれている。従ってこの炭化水素に可溶なチタン化合物を、潤滑油組成物に直接加えることができる。しかしながら一つの実施例では、炭化水素に可溶なチタン化合物は、鉱油、合成油(例えばジカルボン酸のエステル)、ナフサ、アルキル化(例えばC10−C13のアルキル)ベンゼン、トルエン、またはキシレンのような、実質的に不活性で通常は液体である有機希釈剤によって希釈され、チタン添加剤濃縮物を形成する。チタン系添加剤濃縮物には通常、約0重量%から約99重量%の希釈油が含有されている。
【0020】
潤滑油調合物の製造において、一般的な方法として、例えばミネラル潤滑油やその他の適切な溶媒などの炭化水素中に、1重量%から99重量%の濃縮物の活性成分の形態でチタン添加剤濃縮物が加えられる。通常これらの濃縮物は、分散剤/阻害剤(DI)パッケージ1重量部につき0.01重量部から50重量部の潤滑油を含んだ、DI添加剤パッケージおよび粘度指数(VI)向上剤と共に潤滑剤に加えられ、完成された潤滑剤、例えばクランクケースモーターオイルを形成する。好適なDIパッケージは、例えば米国特許第5,204,012号および6,034,040号に記載されている。このDI添加剤パッケージ中に含まれる種類の添加剤には、洗浄剤、分散剤、耐磨耗剤、摩擦調整剤、シール膨張剤、抗酸化剤、消泡剤、潤滑剤、防錆剤、腐食防止剤、乳化破壊剤、粘度指数向上剤等がある。これらの成分のいくつかは、当技術分野に精通した技術者にはよく知られたものであり、望ましくは通常の量で本明細書に記載の添加剤および組成物と共に使用される。
【0021】
別の実施例において、チタン添加剤濃縮物が完全に調合されたモーターオイルまたは完成した潤滑剤にトップトリートされることがある。チタン添加剤濃縮物およびDIパッケージの目的はもちろん、多様な物質の処理をより簡易に扱いやすくすること、そして最終的な混和物中での溶解または分散を促進することである。代表的なDIパッケージには、分散剤、抗酸化剤、洗浄剤、耐磨耗剤、消泡剤、流動点降下剤、また任意的にVI向上剤、およびシール膨張剤が含まれる。
【0022】
本明細書に記載の実施例は、完成した潤滑剤組成物に、チタン元素として約1ppmから約1500ppmのチタンを提供する、炭化水素に可溶なチタン化合物の含有量の比較的低い潤滑油および潤滑剤調合物を提供する。一つの実施例で、このチタン化合物は、約50ppmから約1000ppmチタン、またさらなる実施例では約50ppmから約500ppmのチタンをもたらすのに十分な量で潤滑油組成物中に存在する。
【0023】
上述の炭化水素に可溶なチタン添加剤で作られた潤滑剤組成物は、多種多様な用途で使用される。圧縮点火エンジンおよび火花点火エンジンについては、潤滑剤組成物が刊行されたGF−4またはAPI−CI−4基準を満たすあるいはそれらを越えることが望ましい。前述のGF−4またはAPI-CI−4基準に準じた潤滑剤組成物には、基油、DI添加剤パッケージ、および/またはVI向上剤が含まれ、完全に調合された潤滑剤を提供する。本開示による潤滑油の潤滑剤の基油は、天然潤滑油、合成潤滑油、およびそれらの混合物の中から選択された潤滑粘性のオイルである。このような基油には、自動車およびトラックのエンジン、船舶および列車のディーゼルエンジンなどのような、火花添加および圧縮点火の内燃エンジン用のクランクケース潤滑油として従来から使用されていたものが含まれる。
【0024】
リン含有化合物
潤滑剤組成物の別の成分に、ZDDPのようなリン含有化合物がある。好適なZDDPは、特定量の第1級および第2級アルコールから作られる。例えばアルコールは、第1級アルコール対第2級アルコールの比率、約100:0から約0:100で組み合わされる。またさらなる例では、アルコールは、第1級アルコール対第2級アルコールの比率、約60:40で組み合わされる。好適なZDDPの例には、以下の(1)から(4)を組み合わせることによって得られる反応生成物が含まれる:(1)約50モル%から約100モル%の、約Cから約C18の第1級アルコール;(2)約50モル%までの約Cから約C18の第2級アルコール(3)リン含有成分;および(4)亜鉛含有成分。さらなる例として、第1級アルコールは約Cから約C18のアルコールの混合物である。またさらなる例としては、第1級アルコールはCおよびCのアルコールの混合物である。第2級アルコールもまたアルコールの混合物であり得る。例として、第2級アルコールにはCのアルコールが含まれてもよい。また当該のアルコールには、分岐鎖、環状、または直鎖のいずれが含まれていてもよい。ZDDPには、約60モル%の第1級アルコールと約40モル%の第2級アルコールの組み合わせが含まれる。またあるいは、ZDDPには100モル%の第2級アルコール、あるいは100モル%の第1級アルコールが含まれる。
【0025】
リン含有化合物のリン含有成分には、これに限定はされないが、硫化リンのようないかなる好適なリン含有成分が含まれている。好適な硫化リンには、五硫化二リンまたは三硫化四リンなどが含まれる。
【0026】
亜鉛含有成分には、これらに限定はされないが、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛、プロピル酸亜鉛、塩化亜鉛、プロピオン酸亜鉛、または酢酸亜鉛などのような、いかなる好適な亜鉛含有成分が含まれている。
【0027】
反応生成物には、結果として得られる混合物、成分、あるいは成分の混合物が含まれる。この反応生成物には、未反応の反応物質、化学結合した成分、生成物、または極性結合した成分が含まれるかもしれないし、含まれないかもしれない。
【0028】
ZDDPあるいは灰含有リン化合物は、潤滑剤組成物中に約0.03重量%から約0.15重量%リンをもたらすのに十分な量で存在する。
【0029】
加えて、あるいはその代わりとして、無灰リン化合物がリン含有化合物の混合物中に含まれることもある。この無灰リン化合物は、リン酸、亜リン酸、またはそれらのアミン塩の有機エステルの中から選択される。例えば、この無灰リン含有化合物には、ジヒドロカルビルホスファイト、トリヒドロカルビルホスファイト、モノヒドロカルビルホスフェート、ジヒドロカルビルホスフェート、トリヒドロカルビルホスフェート、それらの任意のイオウ類似体、およびそれらの任意のアミン塩のうちの一つ以上が含まれる。さらなる例として、この無灰リン含有化合物には、モノヒドロカルビルホスフェートおよびジヒドロカルビルホスフェートのアミン塩の少なくとも一つ、あるいはそれらの混合物が含まれる。例えば、アミル酸のリン酸塩は、モノアミル酸のリン酸塩とジアミル酸のリン酸塩の混合物であり得る。
【0030】
潤滑油組成物中の、灰含有リン化合物から得られたリンと無灰リン化合物から得られたリンの重量比は、約3:1から約1:3である。使用される別のリン化合物の混合物には、約0.5重量部から約2.0重量部の灰含有リン化合物から得られたリンと、約1重量部の無灰リン化合物から得られたリンが含まれる。さらに別のリン化合物の混合物には、灰含有リン化合物から得れたリンと無灰リン化合物から得られたリンが、ほぼ同じ重量部含まれている。灰含有リン化合物から得られたリンと無灰リン化合物から得られたリンの混合物の例を下の表に表す。
【0031】
潤滑油調合物中のリン含有化合物の混合物は、潤滑油調合物中に、リンを合計約300重量ppmから約1200重量ppm供給するのに十分な量で存在する。さらなる例では、リン含有化合物の混合物は、潤滑油調合物中に、リンを合計約500重量ppmから約800重量ppm供給するのに十分な量で存在する。
【0032】
本明細書に記載のリン含有化合物とチタン化合物の混合物は、他の添加剤と組み合わせて使用される。この添加剤は、一般にそれらが目的とする作用をもたらすことができるだけの量で基油に混和される。クランクケース潤滑剤中で使用した際のリン含有化合物とチタン化合物の混合物および添加剤の代表的な有効量を、以下の表1に示す。表中のすべての数値は、活性成分の重量パーセントを表す。
【0033】
【表1】

【0034】
分散剤成分
DIパッケージ中に含有される分散剤には、分散される粒子と結合することのできる官能基を有する油溶性ポリマー炭化水素骨格が含まれるが、これらに限定はされない。一般的に、分散剤には、アミン、アルコール、アミド、またはしばしば架橋基を通してポリマーの骨格に結合したエステルの極性部分などが含まれるが、これらに限定はされない。分散剤は、例えば米国特許第3,697,574号や3,736,357号に記載のマンニッヒ分散剤;米国特許第4,234,435号および4,636,322号に記載の無灰コハク酸イミド分散剤;米国特許第3,219,666号、3,565,804号、および5,633,326号に記載のアミン分散剤;米国特許第5,936,041号、5,643,859号、および5,627,259号に記載のコッホ分散剤、また米国特許第5,851,965号、5,853,434号、および5,792,729号に記載のポリアルキレンコハク酸イミド分散剤などの中から選択される。
【0035】
酸化防止剤成分
酸化防止剤または抗酸化剤は、使用中に悪化するという、ベースストックの傾向を低減させるが、このような劣化は金属表面上のスラッジやワニス状の堆積物のような酸化生成物、および完成した潤滑剤の粘度の増加によって証明できる。このような酸化防止剤には、ヒンダードフェノール、硫化ヒンダードフェノール、CからC12のアルキル側鎖を有するアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、硫化アルキルフェノール、硫化アルキルフェノールまたは非硫化アルキルフェノールのいずれかの金属塩、例えばカルシウムノニルフェノールスルフィド、無灰油溶性フェネートおよび硫化フェネート、リン化・硫化された炭化水素あるいは硫化された炭化水素、リンエステル、金属チオカルバメート、および米国特許第4,867,890号に記載の油溶性銅化合物などが含まれる。
【0036】
炭化水素に可溶なチタン化合物と組み合わせて使用されるその他の抗酸化剤には、立体的に込み入ったフェノールおよびジアリルアミン、アルキル化フェノチアジン、硫化化合物、また無灰ジアルキルジチオカルバメートなどが含まれる。立体的に込み入ったフェノールの非限定的な例としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6 ジ−t−ブチル メチルフェノール、4−エチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−プロピル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ブチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ペンチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ヘキシル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ヘプチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−(2−エチルヘキシル)−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−オクチル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ノニル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−デシル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ウンデシル2,6−ジ−t−ブチルフェノール、4−ドデシル−2,6−ジ−t−ブチルフェノール、また、4,4−メチレンビス(6−t−ブチル−o−クレソール)、4,4−メチレンビス(2−t−アミル−o−クレソール)、2,2−メチレンビス(4−メチル−6 t−ブチルフェノール、4,4−メチレン−ビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)および米国特許公報第2004/0266630号に記載のそれらの混合物などを含み、それらに限定されることのないメチレン架橋の立体的に込み入ったフェノールなどが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0037】
ジアリルアミン抗酸化剤には、以下の化学式で表されるジアリルアミンが含まれるが、これに限定はされない:
【化3】

式中、R’およびR’’はそれぞれに、置換されたまたは置換されていない、炭素数が6から30のアリル基を表す。このアリル基に対する例証的な置換基には、炭素数が1から30のアルキル、ヒドロキシル基、ハロゲンラジカル、カルボン酸基あるいはエステル基、またはニトロ基のような、脂肪族炭化水素基が含まれる。
【0038】
アリル基は望ましくは、置換または非置換フェニルあるいはナフチルであり、特にこのとき一つまたは両方のアリル基が、少なくとも一つの、4から30、望ましくは4から18、最も望ましくは4から9の炭素を有するアルキル基で置換されている。一つまたは両方のアリル基が、例えばモノアルキル化ジフェニルアミン、ジアルキル化ジフェニルアミン、またはモノアルキル化ジフェニルアミンとジアルキル化ジフェニルアミンの混合物で置換されていることが望ましい。
【0039】
ジアリルアミンは、分子中に一つ以上の窒素を含む構造をしている。従って、このジアリルアミンには、少なくとも二つの窒素原子が含有され、このとき、例えば二次的な窒素原子を有し、そのうち一つの窒素原子に二つのアリルが結合している各種のジアミンの場合のように、少なくとも一つの窒素原子には二つのアリル基が結合している。
【0040】
使用されるジアリルアミンの例としては、ジフェニルアミン;各種アルキル化ジフェニルアミン;3−ヒドロキシジフェニルアミン;N−フェニル−1,2−フェニレンジアミン;N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン;モノブチルジフェニルアミン;ジブチルジフェニルアミン;モノオクチルジフェニルアミン;ジオクチルジフェニルアミン;モノノニルジフェニルアミン;ジノニルジフェニルアミン;モノテトラデシルジフェニルアミン;ジテトラデシルジフェニルアミン;フェニル−アルファ−ナフチルアミン;モノオクチルフェニル−アルファ−ナフチルアミン;フェニル−ベータ−ナフチルアミン;モノヘプチルジフェニルアミン;ジヘプチル−ジフェニルアミン;p−配向スチレン化ジフェニルアミン;混合ブチルオクチルジフェニルアミン;および混合オクチルスチリルジフェニルアミンが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0041】
別の種類のアミン系抗酸化剤には、以下の化学式で表されるフェノチアジンまたはアルキル化フェノチアジンが含まれる:
【化4】

式中、RはCからC24の線状あるいは分岐アルキル、アリル、ヘテロアルキルあるいはアルキルアリル基であり、Rは水素、またはCからC24の線状あるいは分岐アルキル、ヘテロアルキル、あるいはアルキルアリル基である。アルキル化フェノチアジンは、モノテトラデシルフェノチアジン、ジテトラデシルフェノチアジン、モノデシルフェノチアジン、ジデシルフェノチアジン、モノノニルフェノチアジン、ジノニルフェノチアジン、モノオクチル−フェノチアジン、ジオクチルフェノチアジン、モノブチルフェノチアジン、ジブチルフェノチアジン、モノスチリルフェノチアジン、ジスチリルフェノチアジン、ブチルオクチルフェノチアジン、およびスチリルオクチルフェノチアジンからなる群の中から選択される。
【0042】
イオウ含有の抗酸化剤には、その生成に使用されるオレフィンの種類と抗酸化剤の最終的なイオウの含有量を特徴とする硫化オレフィンが含まれるが、それらに限定はされない。高分子量のオレフィン、すなわち平均分子量が168g/モルから351g/モルのオレフィンが望ましい。使用されるオレフィンの例として、アルファオレフィン、異性化アルファオレフィン、分岐オレフィン、環状オレフィン、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
アルファオレフィンには、CからC25の任意のアルファオレフィンが含まれるが、これらに限定はされない。アルファオレフィンは、イオウ化反応の前、あるいはイオウ化反応の最中に異性化される。また、内部の二重結合および/または分岐鎖を含有する、アルファオレフィンの構造および/または配座異性体が使用されることもある。例えば、イソブチレンはアルファオレフィン1−ブテンの分岐オレフィン対応物である。
【0044】
オレフィンのイオウ化反応に使用されるイオウの源には、元素イオウ、一塩化イオウ、二塩化イオウ、硫化ナトリウム、多硫化ナトリウム、およびこれらを一緒に加えた、または硫化プロセスの異なった段階にある混合物が含まれる。
【0045】
不飽和オイルは、不飽和であるために、硫化され、抗酸化剤として使用されることがある。使用されるオイルあるいは脂肪の例として、コーンオイル、カノーラオイル、綿実油、グレープシードオイル、オリーブオイル、ヤシ油、ピーナツ油、ココナッツ油、菜種油、サフラワーオイル、ベニバナ種子油、ゴマ油、大豆油、ヒマワリ油、獣脂、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0046】
完成した潤滑剤に供給される硫化オレフィンあるいは硫化脂肪油の量は、硫化オレフィンあるいは脂肪油のイオウ含有量、および完成した潤滑剤に供給されるイオウの希望量によって異なる。例えば、20重量%のイオウを含有する硫化脂肪油あるいはオレフィンは、トリートレベル1.0重量%で完成した潤滑剤に供給された場合、完成した潤滑剤に2000ppmのイオウを供給する。10重量%のイオウを含有する硫化脂肪油あるいはオレフィンは、トリートレベル1.0重量%で完成した潤滑剤に供給された場合、完成した潤滑剤に1000ppmのイオウを供給する。硫化オレフィンあるいは硫化脂肪油を添加して、200ppmから2000ppmの間のイオウを完成した潤滑剤にもたらすことが望ましい。前述のアミン系フェノチアジン、およびイオウ含有抗酸化剤は、例えば米国特許第6,599,865に記載されている。
【0047】
抗酸化剤として使用される無灰ジアルキルジチオカルバメートには、添加剤パッケージに可溶性あるいは分散性の化合物が含まれる。また無灰ジアルキルジチオカルバメートは、揮発性が低いことが望まれ、望ましくはその分子量は250ダルトン以上、最も望ましくはその分子量は400ダルトン以上である。使用される無灰ジチオカルバメートの例としては、メチレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)、エチレンビス(ジアルキルジチオカルバメート)、イソブチルジスルフィド−2,2’−ビス(ジアルキルジチオカルバメート)、ヒドロキシアルキル置換のジアルキルジチオカルバメート、不飽和化合物から生成されたジチオカルバメート、ノルボルニレンから生成されたジチオカルバメート、およびエポキシドから生成されたジチオカルバメートなどが含まれるが、これらに限定はされない。またこのときジアルキルジチオカルバメートのアルキル基の炭素数は、望ましくは1から16である。使用されるジアルキルジチオカルバメートの例は、米国特許第5,693,598号、4,876,375号、4,927,552号、4,957,643号、4,885,365号、5,789,357号、5,686,397号、5,902,776号、2,786,866号、2,710,872号、2,384,577号、2,897,152号、3,407,222号、3,867,359号、および4,758,362号に開示されている。
【0048】
好適な無灰ジチオカルバメートの例には、メチレンビス−(ジブチルジチオカルバメート)、エチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、イソブチルジスルフィド−2,2’−ビス(ジブチルジチオカルバメート)、コハク酸ジブチルN,N−ジブチル(ジチオカルバミル)、2−ヒドロキシプロピルジブチルジチオカルバメート、酢酸ブチル(ジブチルジチオカルバミル)、およびS−カルボメトキシ−エチル−N,N−ジブチルジチオカルバメートなどがある。最も好適な無灰ジチオカルバメートはメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)である。
【0049】
摩擦調整剤として使用される有機モリブデンを含有した化合物が、抗酸化作用を表すこともある。米国特許第6,797,677号には、完成した潤滑剤組成物中で使用する、有機モリブデン化合物、アルキルフェノチジンおよびアルキルジフェニルアミンの組み合わせについて記載されている。モリブデンを含有した摩擦調整剤の好適な例は、以下の摩擦調整剤の項に記載する。
【0050】
摩擦調整剤成分
摩擦調整剤として使用される、イオウおよびリンを含まない有機モリブデン化合物は、イオウおよびリンを含まないモリブデン源と、アミノ基および/またはアルコール基を含有する有機化合物とを反応させることによって生成される。イオウおよびリンを含まないモリブデン源の例には、モリブデントリオキシド、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、およびモリブデン酸カリウムが含まれる。当該のアミノ基は、モノアミン、ジアミン、またはポリアミンであり得る。また当該のアルコール基は、単置換アルコール、ジオール、あるいはビスアルコール、またはポリアルコールであり得る。一例では、ジアミンと脂肪油との反応により、イオウおよびリンを含まないモリブデン源と反応することのできる、アミノ基とアルコール基の両方を含有した生成物が生成される。
【0051】
イオウおよびリンを含まない有機モリブデン化合物の例には、米国特許第4,259,195号、4,261,843号、4,164,473号、4,266,945号、4,889,647号、5,137,647号、4,692,256号、5,412,130号、6,509,303号、および6,528,463号に記載の化合物が含まれる。
【0052】
脂肪油、ジエタノールアミン、およびモリブデン源を、米国特許第4,889,647号に記載されるように反応させて生成されたモリブデン化合物は、しばしば以下の化学式で表される。これらの物質の正確な化学組成は完全には知られておらず、実際にはいくつかの有機モリブデン化合物の多数の成分の混合物であるかもしれないが、式中、Rは脂肪アルキル鎖である。
【化5】

【0053】
イオウを含有した有機モリブデン化合物が使用されることがあるが、これらはさまざまな方法で生成される。一つの方法には、イオウおよびリンを含まないモリブデン源と、アミノ基および一つ以上のイオウ源とを反応させることが含まれる。イオウ源には、例えば二硫化炭素、硫化水素、硫化ナトリウムおよび元素イオウが含まれるが、これらに限定はされない。一方、イオウを含有したモリブデン化合物は、イオウを含有したモリブデン源と、アミノ基あるいはチウラム基および任意的に二番目のイオウ源とを反応させて生成される。イオウおよびリンを含まないモリブデン源の例としては、モリブデントリオキシド、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、およびモリブデンハロゲン化物などが挙げられる。アミノ基は、モノアミン、ジアミン、またはポリアミンなどである。一例として、モリブデントリオキシドと第2級アミンおよび二硫化炭素との反応により、モリブデンジチオカルバメートが生成される。一方、nが0と2の間で変化する(NHMo13n(HO)と、テトラルキルチウラムジスルフィドとの反応により、イオウを含有した三核モリブデンジチオカルバメートが生成される。
【0054】
イオウを含有した有機モリブデン化合物の例には、米国特許第3,509,051号、3,356,702号、4,098,705号、4,178,258号、4,263,152号、4,265,773号、4,272,387号、4,285,822号、4,369,119号、4,395,343号、4,283,295号、4,362,633号、4,402,840号、4,466,901号、4,765,918号、4,966,719号、4,978,464号、4,990,271号、4,995,996号、6,232,276号、6,103,674号、および6,117,826号に記載の化合物が含まれる。
【0055】
グリセリドが、単一であるいは他の摩擦調整剤との組み合わせで使用されることもある。好適なグリセリドには、以下の化学式のグリセリドが含まれる:
【化6】

式中、各RはそれぞれにHおよびC(O)R’からなる群の中から選択され、R’は炭素数が3から23の、飽和あるいは不飽和アルキル基である。使用されるグリセリドの例としては、モノラウリン酸グリセロール、モノミリスチン酸グリセロール、モノパルミチン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、およびココナッツ酸、獣脂酸、オレイン酸、リノール酸、およびリノレン酸から得られたモノ−グリセリドなどが挙げられる。一般的な市販のモノグリセリドには、相当量の対応するジグリセリドおよびトリグリセリドが含まれている。これらの物質は、モリブデン化合物の生成に害をおよぼすことはなく、事実上より活性化させるものである。モノグリセリド対ジグリセリドのいかなる比率を用いてもかまわないが、30%から70%の有効部分が遊離ヒドロキシル基を含有することが望ましい(すなわち上述の化学式で表される、30%から70%のグリセリドの総合R基は、水素である)。好適なグリセリドは、モノオレイン酸グリセロールであり、通常は、オレイン酸から得られるモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリドと、グリセロールとの混合物である。
【0056】
その他の添加剤
非イオン性ポリオキシアルキレンポリオールおよびそれらのエステル、ポリオキシアルキレンフェノール、およびスルホン酸アニオンアルキルからなる群の中から選択された防錆剤が使用されることがある。
【0057】
また少量の乳化破壊成分が使用される。好適な乳化破壊成分については、EP330,522に記載されている。このような乳化破壊成分は、酸化アルキレンと、ビスエポキシドと多価アルコールを反応させて得られた付加化合物とを反応させることによって得られる。この乳化破壊剤は、活性成分が0.1質量%を超えないレベルで使用されなくてはならない。活性成分のトリートレート(treat rate)は、0.001質量%から0.05質量%であると便利である。
【0058】
別名潤滑油流動性向上剤としても知られている流動点降下剤は、流体が流動するまたは注がれることができるようになる最低温度を下げる。このような添加剤はよく知られている。流体の低温流動性を改善するこれらの添加剤の典型的な例として、CからC18のフマル酸ジアルキル/ビニルアセテートコポリマー、ポリアルキルメタクリレート等が挙げられる。
【0059】
泡のコントロールは、例えばシリコーンオイルあるいはポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン系の消泡剤を含む、多くの化合物によってなされる。
【0060】
米国特許第3,794,081号および4,029,587号に記載されたようなシール膨張剤もまた使用されることがある。
【0061】
粘度調整剤(VM)は、潤滑油に高温および低温での操作性を与えるために機能する。使用されるVMは、単一機能性であっても多機能性であってもよい。
【0062】
分散剤としても機能する、多機能性の粘度調整剤もまた知られている。好適な粘度調整剤には、ポリイソブチレン、エチレンとプロピレンのコポリマー、高級アルファオレフィン、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸とビニル化合物とのコポリマー、スチレンとアクリルエステルのインターポリマー、および部分的に水素化されたスチレン/イソプレン、スチレン/ブタジエン、およびイソプレン/ブタジエンのコポリマー、また部分的に水素化されたブタジエンとイソプレンとイソプレン/ジビニルベンゼンのホモポリマーなどがある。
【0063】
使用される機能化されたオレフィンコポリマーには、無水マレイン酸のような活性モノマーでグラフト化され、次にアルコールまたはアミンによって誘導化される、エチレンとプロピレンのインターポリマーが含まれる。このようなコポリマーには、他に、窒素化合物でグラフト化される、エチレンとプロピレンのコポリマーがある。
【0064】
上述の添加物はそれぞれ、使用に際し、機能的に有効な量で使用され、潤滑剤に目的とする特性をもたらす。従って、例えば添加剤が腐食防止剤である場合、この腐食防止剤の機能的に有効な量とは、目的となる腐食防止性を潤滑剤にもたらすのに十分な量ということになる。通常、これらの添加剤が使用される場合、それぞれの濃度は、潤滑油組成物の重量を基にして約20重量%以上、一つの実施例では約0.001重量%から約20重量%、また一つの実施例では約0.01重量%から約10重量%である。
【0065】
炭化水素に可溶なチタン添加剤が、潤滑油組成物に直接添加されることがある。しかしながら、一つの実施例ではこれらは、添加剤濃縮物を形成するため、鉱油、合成油、ナフサ、アルキル化(例えばC10からC13のアルキル)ベンゼン、トルエンあるいはキシレンのような、実質的に不活性であり一般的に液体の有機希釈剤によって希釈されている。これらの濃縮物は通常約1重量%から約100重量%、また一つの実施例では約10重量%から約90重量のチタン化合物を含んでいる。
【0066】
基油
本明細書に記載の組成物、添加剤、および濃縮物を調合するための使用に適した基油は、合成あるいは天然油、またはそれらの混合物のいずれから選択されてもよい。合成基油には、ジカルボン酸のアルキルエステル、ポリグリコールやアルコール、またポリブテン、アルキルベンゼン、リン酸の有機エステル、およびポリシリコンオイルを含むポリアルファオレフィン、また酸化アルキレンポリマー、インターポリマー、コポリマー、およびそれらの誘導体が含まれ、このとき末端ヒドロキシル基は、エステル化やエーテル化などによって修正されている。
【0067】
天然基油としては、動物油および植物油(例えばヒマシ油やラードオイル)、液体石油、および水素化精製され、溶媒処理あるいは酸処理された、パラフィン系、ナフテン系、およびパラフィン・ナフテン混合系のミネラル潤滑油がなどが挙げられる。石炭または頁岩から得られる潤滑粘性のオイルもまた有用な基油である。当該の基油の100℃での粘度は、一般に約2.5cStから約15cSt、また望ましくは約2.5cStから約11cStである。
【0068】
以下の例は実施例の態様を例示することを目的としたものであり、実施例をいかようにも制限することを意図したものではない。
【0069】
例1
ネオデカン酸チタン
ネオデカン酸(約600グラム)を、コンデンサー、ディーンスタークトラップ、温度計、熱電対、およびガスの注入口を備えた反応容器に入れた。酸の中に窒素バブルを入れた。激しくかくはんしながら、チタンイソプロポキシド(約245グラム)をゆっくりと反応容器に加えた。この反応物を約140℃まで加熱し、1時間かくはんした。反応により得られたオーバーヘッドと凝縮物をトラップ内に収集した。反応容器を減圧し、反応物質をさらに2時間、反応が完了するまでかくはんした。生成物の分析により、当生成物の100℃での運動学的粘性が約14.3cSt、またチタン含有量が約6.4重量パーセントであることが示された。
【0070】
比較用の流体のリン保持(PR)値と、本開示の例示的実施例に基づいた流体のリン保持(PR)値を、アフトン触媒テスト(以下「ACT」という)を使用して測定した。ACTは、アフトンケミカル社によって開発された、触媒の失活に対する潤滑剤の揮発性に関連した影響を評価するための、燃焼エンジンの触媒老化テストである。ACTは、渦電流式動力計に接続され、240時間作動された2001MYフォード4.6 L SOHC V8エンジンを使用する。テストの作動条件は、排気ガス、エンジンオイルおよびエンジン冷却液の作業温度を例外として、約50,000kmの定常状態のハイウェイ走行に相応するように選択される。触媒の失活に対する熱関連の影響を最小化するため、このような影響が起こることが知られている場所では、エンジンの排ガスの温度は750℃以下に保たれる。触媒の失活に対するオイルおよびオイルの化学揮発性の影響を最大化するため、エンジンオイルおよび冷却液の温度は、最も高い実用レベル、つまり順に145℃および122℃にコントロールされる。オイルの消費量は、エンジン中に加えられた量に対する取り除かれた量の質量差を測定することによって正確に決定される。ACTの作動条件を表2に表す。
【0071】
【表2】

【0072】
テスト中のオイル交換のたびに、分析のためオイルサンプルを採取する。元素濃度および粘度特性は、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)および動粘度計を使用することによって測定される。オイルの消費量と元素濃度のデータは、大量のオイル交換によって消費された量に対し、揮発によって消費されたオイルの量を表す。このデータはまた、リンのスループットの量およびリンの保持率の計算を可能にする。
【0073】
エンジン内でのオイルの老化に伴い、ベースストックの一部が蒸発あるいは蒸留し、添加剤の成分が後に残る。カルシウム濃度の増加率は、揮発によるベースストックの減少率に正比例する。リンはまた使用されたオイル中でも濃縮するが、ZDDPから得られる特定の種類のリンには高温下で揮発する傾向があるため、その度合いは低い。使用されたオイル中のリン保持(PR)は、下記の式で表されるように、カルシウム濃度の変化率(新しいオイル/使用されたオイル)とリン濃度の変化(使用されたオイル/新しいオイル)を掛け合わせることによって計算される:

PR=(新しいオイル中のCa/使用されたオイルCa) X
(使用されたオイルP/新しいオイル中のP) X 100

カルシウムは潤滑剤組成物中で揮発性ではないため、基油の揮発によるリン濃度の増加を測定するため、リン保持の計算にカルシウムが使用される。
【0074】
触媒の性能は、変換効率(CE)テストの実行による240時間の老化プロセスの前後に測定される。CE評価では、排気ガスの温度を一定の触媒吸引温度を維持するようにコントロールしながら、エンジンを定常状態の条件下で作動させる。排気の吸引温度は、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、および窒素の酸化物(NOx)の放出を触媒の前後に挿入したプローブを通して測定しながら、200℃から440℃まで、15℃ごとに上げられる。このデータから曲線が描かれ、各排気のタイプについて50%の変換が起こった場合の「T50」値または温度が示される。老化の前後のT50値を比較することにより、触媒の劣化の相対量が決定され、老化したオイルと比較される。240時間のオイル老化プロセスは、オイルがリンを含有しない添加剤を含んでいる場合を除いて、一般にすべてのT50値の増加に終わる。
【0075】
例2
従来型の潤滑剤組成物、およびチタン金属500ppmを潤滑剤組成物にもたらすのに十分な量のネオデカン酸チタンを含有する潤滑剤組成物に対し、100,000マイルのニューヨーク・タクシーフィールドテストを行った。その結果および統計的な比較を表3に示す。すべての車は新しいエンジンでテストを開始し、5000マイルまたは10,000マイルの間隔でオイル交換を行った。四台の車を500−ppmのチタンを含有する潤滑剤組成物で、また三台をチタンを含まない同一の潤滑剤組成物で運転した。
【0076】
【表3】

【0077】
シーケンスIIIGテストと一致して、チタン含有化合物を含んだ潤滑剤で運転された車のリン保持は92.2%PRと、チタンを欠いた潤滑剤で運転された車によって示されたベースラインの87.4PRに比べて高かった。
【0078】
例4
ネオデカン酸チタン(TND)から得られた様々な濃度のチタンを含有する、完全に調合されたオイルについて、実験計画(DOE)を行った。この組成物と成分を表4に示す。このDOEに含まれる別の変数に、リンのレベルがあった。合計15の別々のブレンドを、油温150℃で100時間行われる、シーケンスIIIGエンジンテストにより評価した。IIIGテストの一部として、20時間ごとにオイルサンプルを採取し、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)によって分析し、老化による元素濃度の変化を測定した。このデータを使用し、上記の式によって、20時間の老化後のリン保持率(PR、%)を計算した。
【0079】
【表4】

【0080】
DOEデータの統計的な直線回帰分析により、チタン濃度の増加には、PR%の向上に著しく肯定的な効果があることが結論付けられた。TNDから得られた100ppmのチタンを含有するオイルは、平均4.25PR%(p−値0.008)の向上を示した。
【0081】
本明細書の全体を通した多くの箇所で、多数の米国特許が参照されている。このような引用文献はすべて、完全に説明されたものとして本開示に明白に組み込まれている。
【0082】
前述の実施例はその実行においてかなり変化する余地がある。従って当実施例は、上記に述べられた特定の例証に制限されることを意図したものではない。むしろ前述の実施例は、法律的に使用可能なそれらの対応範囲を含む、添付の請求項の精神および範囲内にある。
【0083】
当特許権者は、開示された実施例のいずれをも一般に提供することは意図しておらず、また開示された修正または変更は、それらがすべて完全に請求項の範囲内に収まらない状態になるまで、均等論により当実施例の一部であると見なされる。
【0084】
本発明の主な特徴及び態様を挙げれば以下のとおりである。
【0085】
1.潤滑粘性の基油、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なチタン化合物を含有した潤滑剤組成物を含む潤滑面。
【0086】
2.潤滑面にエンジンドライブトレインが含まれている、上記1に記載の潤滑面。
【0087】
3.潤滑面に内燃エンジンの内側面あるいは成分が含まれている、上記1に記載の潤滑面。
【0088】
4.潤滑面に圧縮点火エンジンの内側面あるいは成分が含まれている、上記1に記載の潤滑面。
【0089】
5.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約1000ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記1に記載の潤滑面。
【0090】
6.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約100ppmから約500ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記1に記載の潤滑面。
【0091】
7.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約300ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記1に記載の潤滑面。
【0092】
8.炭化水素に可溶なチタン化合物がネオデカン酸チタンを含む、上記1に記載の潤滑面。
【0093】
9.上記1に記載の潤滑面を含む自動車。
【0094】
10.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約1ppmから約1000ppmのチタンを潤滑剤にもたらす量である、上記9に記載の自動車。
【0095】
11.可動部を有し、また可動部を潤滑する潤滑剤を含んだ車両であり、当該潤滑剤に、潤滑粘性のオイル、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている該潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、該潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なチタン化合物が含まれている車両。
【0096】
12.炭化水素に可溶なチタン化合物にネオデカン酸チタンが含まれている、上記11に記載の車両。
【0097】
13.可動部にヘビーデューティーディーゼルエンジンが含まれている、上記11に記載の車両。
【0098】
14.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約1000ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記11に記載の車両。
【0099】
15.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約100ppmから約500ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記11に記載の車両。
【0100】
16.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約300ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記11に記載の車両。
【0101】
17.完全に調合された潤滑剤組成物であって、潤滑粘性の基油成分、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン含有剤を欠いている該潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、該潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の炭化水素に可溶なチタン含有剤を含み、このとき該チタン含有剤が実質的にイオウおよびリン原子を欠いている完全に調合された潤滑剤組成物。
【0102】
18.潤滑剤組成物に、圧縮点火エンジン用に適した、低灰、低イオウ、かつ低リン含有の潤滑剤組成物が含まれている、上記17に記載の潤滑剤組成物。
【0103】
19.炭化水素に可溶なチタン含有剤にネオデカン酸チタンが含まれている、上記17に記載の潤滑剤組成物。
【0104】
20.炭化水素に可溶なチタン含有剤の量が、約50ppmから約1000ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記17に記載の潤滑剤組成物。
【0105】
21.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約100ppmから約500ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記17に記載の潤滑剤組成物。
【0106】
22.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約300ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記17に記載の潤滑剤組成物。
【0107】
23.エンジン作動中に、潤滑剤組成物であって、潤滑粘性の基油、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている該潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、該潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の炭化水素に可溶なチタン化合物を含んだ潤滑剤組成物を、エンジンのパーツに接触させることを含んだ、エンジンの潤滑剤組成物におけるリン保持を増加させる方法であり、このときリン保持は触媒被毒を低下させるのに十分なものである、方法。
【0108】
24.エンジンにヘビーデューティーディーゼルエンジンが含まれている、上記23に記載の方法。
【0109】
25.炭化水素に可溶なチタン含有剤にネオデカン酸チタンが含まれている、上記23に記載の方法。
【0110】
26.炭化水素に可溶なチタン含有剤の量が、約50ppmから約1000ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記23に記載の方法。
【0111】
27.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約100ppmから約500ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記23に記載の方法。
【0112】
28.炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約300ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、上記23に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑粘性の基油、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なチタン化合物を含有した潤滑剤組成物を含む潤滑面。
【請求項2】
潤滑面にエンジンドライブトレインが含まれている、請求項1に記載の潤滑面。
【請求項3】
炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約1000ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、請求項1に記載の潤滑面。
【請求項4】
可動部を有し、また可動部を潤滑する潤滑剤を含んだ車両であり、該潤滑剤に、潤滑粘性のオイル、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている該潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、該潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の少なくとも一つの炭化水素に可溶なチタン化合物が含まれている車両。
【請求項5】
可動部にヘビーデューティーディーゼルエンジンが含まれている、請求項4に記載の車両。
【請求項6】
炭化水素に可溶なチタン化合物の量が、約50ppmから約300ppmのチタンを潤滑剤組成物にもたらす量である、請求項4に記載の車両。
【請求項7】
完全に調合された潤滑剤組成物であって、潤滑粘性の基油成分、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン含有剤を欠いている該潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、該潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の炭化水素に可溶なチタン含有剤を含み、このとき該チタン含有剤が実質的にイオウおよびリン原子を欠いている完全に調合された潤滑剤組成物。
【請求項8】
潤滑剤組成物に、圧縮点火エンジン用に適した、低灰、低イオウ、かつ低リン含有の潤滑剤組成物が含まれている、請求項7に記載の潤滑剤組成物。
【請求項9】
エンジン作動中に、潤滑剤組成物であって、潤滑粘性の基油、少なくとも一つのリン含有化合物、および炭化水素に可溶なチタン化合物を欠いている該潤滑剤組成物のリン保持の増加以上に、該潤滑剤組成物のリン保持を増加させるのに効果的な量の炭化水素に可溶なチタン化合物を含んだ潤滑剤組成物を、エンジンのパーツに接触させることを含んだ、エンジンの潤滑剤組成物におけるリン保持を増加させる方法であり、このときリン保持は触媒被毒を低下させるのに十分なものである、方法。

【公開番号】特開2008−280515(P2008−280515A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22978(P2008−22978)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(391007091)アフトン・ケミカル・コーポレーション (123)
【氏名又は名称原語表記】Afton Chemical Corporation
【Fターム(参考)】