説明

リンクチェーン用振動式研磨機

【課題】機械的振動を付与するのみで230N/mm2以上の疲労強度を有するリンクチェーン用振動式バレル研磨機を提供する。
【解決手段】熱処理前、熱処理後或いは表面処理後の低炭素鋼リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨台を載置し、この研磨台の上面にリンクチェーンを振動研磨する研磨槽1を設け、該研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ装置10を交互に設けて、研磨槽の下部にはカウンターウエイトユニットを該研磨槽と一体的に設け、このカウンターウエイトユニットは該研磨槽の下部に直接取り付けた振動モーターの回転を伝達する回転軸を介して振動に変換して研磨槽上に配した仕切り壁を設け、或いは設けることなく、研磨槽上のリンクチェーンに振動を付与するように構成したことを特徴とするリンクチェーン用振動式研磨機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンクチェーンに機械的振動を付与し、リンク内側突起、凹凸を研磨し、230N/mm2 以上の高疲労強度を得るリンクチェーン用振動式研磨機に関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンブロック、特に電動チェーンブロックに使用されるリンクチェーンに要求される性能として高い疲労強度特性がある。この特性は機器の長寿命化、寒冷地での使用など多岐にわたり、例えば230N/mm2 以上の高い疲労強度が要求されている。これは、高速で荷を吊り上げ・吊り下げする際に、リンクチェーンには荷重変動が生じ、この繰返し作用によりリンクチェーンの最大主応力発生部位から疲労亀裂が発生し、やがては破壊に至ることが知られている。従来から、リンクチェーンの製造過程において疲労破壊の原因となる応力集中部にはリンク形状に成形する際に使用される上型・下型からなるマンドレルの合わせ面の微小なズレ、隙間などの発生により、リンク内側には最大で高さ200μm筋状の突起、バリが生じる。この突起は使用時にリンク同士の接触・衝撃でリンク内部にめり込み、ヘゲ状の疵となり、破壊の起点になる。この突起位置はリンクチェーンに発生する最大主応力発生位置、すなわち、リンクチェーンの個々のリンク内側の平行部と湾曲部の境界部に相当する位置と一致するため、この発生した突起を後工程で切削・研磨等の処理で除去するには甚大な作業を要する。そのため、上述した高疲労強度を有するリンクチェーン、突起のない、或いは突起を最小限に軽減することが求められている。この要請に応えるべく様々な提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には高疲労強度を得る方法として、焼入れ、焼入れー焼戻ししたリンクチェ−ンの素子リングの肩部内側部分に耐食性・耐磨耗性被覆処理を施すことが開示されている。一方、上記突起、バリを機械的に除去する方法としては、従来よりバレル研磨が採用されている。このバレル研磨は、研磨槽内に研磨砥石、被加工物、その他必要薬剤を装入、密閉し、別に設けたモーターの駆動により研磨槽全体を一定速度で回転させ、また所定時間、研磨槽を攪拌することで被加工物の突起、バリを除去するものである(回転バレル研磨機)。また、特許文献2で提案されているように、研磨槽を或る特定の振動数で振動させ、研磨槽内に研磨砥石、被加工物、その他必要薬剤を装入し、別に設けたモーターの振動により研磨槽全体を振動させ、研磨槽を攪拌することで被加工物の突起、バリを除去する方法がある(振動バレル研磨機)。この振動源としては市販の振動モーター、或いはモーター駆動をカップリングを介し、カウンターウエイトを回転させ振動を発生させるなどの方法が採用されている。
【0004】
また、特許文献3には、線材の仕上げ工程において成形時に生じた線材側表面の凹凸ないし棘歪みを除去するために、密閉された研磨槽内に研磨メデアとして流体を供給して連続的に線材を研磨する振動式バレル研磨機が開示されている。
【0005】
本発明者らは、上述した従来の製造方法を用いてリンクチェーンへの適用を試みたが、バリ除去が必要なリンク内側への研磨効果が少なく、また生産性に耐えるチェーン長さ(連鎖状)のものが振動バレル研磨機の研磨槽内で攪拌されることにより、連鎖がこぶ状となり研磨効果の向上が期待できないということが判明した。これは、通常、研磨槽が一方向で回転されるために連鎖も一方向にしか回転することができず、リンクチェーンに捩れが生じることにより、各リンクチェーンの自由度が損なわれることにある。従って、従来の方法ではリンク内側の研磨効果は殆どないというに等しい。
【0006】
そこで、本発明者らは、上記問題点を解決すべく特願2006−237327(特許文献4)において、リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨槽を載置し、この研磨槽は、一端からリンクチェーンを搬入し、他端でモーターの駆動力で引っ張る構造とし、しかも研磨槽上面で長手方向に並列する複数の折り返し可能な部位を有する仕切り壁を設け、かつこの仕切り壁同士の間にリンクチェーンを搬送しながら振動を付与してリンク同士を叩き合わせて研磨することで、リンク内側の突起、バリを除去するリンクチェーン用振動式研磨機を提案した。
【0007】
しかしながら、上記特許出願においても仕切り壁同士の間隔の設定が難しく、しかも折り返し部で摩擦抵抗による張力がかかり、その結果リンクチェーンに自由度が軽減されてしまうこと、更に、研磨槽の特定の部位で搬送の渋滞に伴うリンクチェーン同士の重畳が起こり期待したほどの研磨効果が得られないということが判明した。
【0008】
【特許文献1】特開2003−221621号公報
【特許文献2】特願2005−366305号公報
【特許文献3】特開平7−136924号公報
【特許文献4】特願2006−237327明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来のような研磨メデアを何ら使用することなく機械的振動を付与して研磨するのみでリンク製造時に発生するリンクチェーンの内側突起を著しく低減、もしくは皆無をする230N/mm2 以上の高疲労強度を有するリンクチェーンを得るためのリンクチェーン用振動式バレル研磨機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は次の通りである。
(1)リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨台を載置し、この研磨台の上面にリンクチェーンを振動研磨する研磨槽を設け、該研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ装置を交互に設けて、研磨槽の下部にはカウンターウエイトユニットを該研磨槽と一体的に設け、このカウンターウエイトユニットは該研磨槽の下部に直接取り付けた振動モーターの回転を伝達する回転軸を介して振動に変換して研磨槽上のリンクチェーンに振動を付与するように構成したことを特徴とするリンクチェーン用振動式研磨機。
(2)リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨台を載置し、この研磨台の上面にはリンクチェーンを振動研磨する研磨槽を設け、該研磨台の長手方向の一部又は全部にテーパー状の複数の仕切り壁を設け、かつ該研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ装置を交互に設けて、研磨槽の下部にはカウンターウエイトユニットを該研磨槽と一体的に設け、このカウンターウエイトユニットは該研磨槽の下部に直接取り付けた振動モーターの回転を伝達する回転軸を介して振動に変換して研磨槽上のリンクチェーンに振動を付与するように構成したことを特徴とするリンクチェーン用振動式研磨機。
(3)リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨台を載置し、この研磨台の上面にはリンクチェーンを振動研磨する研磨槽を設け、該研磨槽の長手方向の全部にテーパー状の複数の仕切り壁を設け、各テーパー状仕切り壁同士で仕切られたリンクチェーン搬送通路の広口部および狭口部を交互配置とし、かつ前記広口部をリンクチェーンの落下側、狭口部をリンクチェーンの引張り側とし、更に広口部および狭口部近傍で研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ装置を交互に設けて、研磨台の下部にはカウンターウエイトユニットを該研磨台と一体的に設け、このカウンターウエイトユニットは該研磨台の下部に直接取り付けた振動モーターの回転を伝達する回転軸を介して振動に変換して研磨槽上のリンクチェーンに振動を付与するように構成したことを特徴とするリンクチェーン用振動式研磨機。
(4)前記研磨台の上面に設けたテーパー状の複数の仕切り壁で区画されたリンクチェーン搬送通路の広口部がリンク外幅の5〜20倍、および狭口部がリンク外幅の1.0倍以上であることを特徴とする(3)記載のリンクチェーン用振動式研磨機。
(5)前記研磨台の一端に設けたリンクチェーン搬入口にリンクチェーン搬送送り用スプロケットを、該研磨台の他端に設けたリンクチェーン搬出口にリンクチェーン巻取りスプロケットを配設して連続研磨を可能としたことを特徴とする(1)〜(4)の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式研磨機。
(6)前記研磨台に付与される振動が、振動周波数20〜30Hz、振幅2〜6mmであることを特徴とする(1)〜(5)の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式研磨機。
(7)前記研磨台上で搬送されるリンクチェーンの搬送速度が0.8〜3m/minであることを特徴とする(1)〜(6)の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式バレル研磨機。
(8)前記研磨台で研磨されるリンクチェーンが熱処理前の素リンクチェーン、熱処理後のリンクチェーン、或いはメッキ処理を施したリンクチェーンの何れかであることを特徴とする(1)〜(7)の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式バレル研磨機。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるリンクチェーン用振動式研磨機は、リンクチェーン製造時に生成したリンク内側の細かい突起、凹凸等をリンクチェーンの長さに制限されることなく、機械的振動を付与するのみで研磨することで上記突起、凹凸等を著しく低減、例えば50μm以下、好ましくは10μm以下の優れた表面状態を有する高疲労強度を有するリンクチェーンを低コストで均等に能率よく除去でき、高品質のリンクチェーンを提供することが可能となるとともに、研磨台上でリンクチェーンの重畳がなく振動処理能率を向上でき、しかも設備費を大幅に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
リンクチェーンの製造において低炭素合金鋼の線材からリンクチェーンの素リンク形状に成形する際、上型・下型からなるマンドレルを重ね合わせてリンクに成形後、端面同士を溶接して成形する。この成形過程でマンドレルの合わせ面の微小なズレ、隙間などの発生により、リンク内側の平行部と湾曲部の境界部に最大で高さ200μm筋状の突起或いはバリが生じる。この突起、バリは熱処理後も多少の変形はあるも依然として残存し、そのまま残しておくと使用時に応力集中源となって破壊の起点になり、使用中に破壊が発生すれば重大な事故に繋がりかねない。そのため、最近ニーズの高い高疲労強度(230N/mm2 以上)のリンクチェーンを得るためには、このような突起、凹凸、バリ等を除去、低減が急務である。
【0013】
図4に従来の市販の振動バレル研磨機の構造を示した。この研磨機は、基台上にスプリングバネ3の支柱上に研磨台1を載置し、研磨台1の下部には該研磨台1と一体的に取り付けられたカウンターウエイトユニット2を設けている。このカウンターウエイトユニット2は別に設けたモーター4の回転力をカップリング5を介して振動エネルギーに変換して研磨台1に振動を付与するように構成されている。そして、研磨台1内には被処理物(リンクチェーンC)の他に砥石、研磨剤等の研磨メデアKを投入し、全体を一方向に回転させて研磨槽を攪拌する構成で、研磨処理はバッチ単位の処理となる。しかしながら、この研磨装置では、研磨槽が一方向で回転されるために連鎖も一方向にしか回転することができず、リンクチェーンに捩れが生じることにより、各リンクチェーンの自由度が損なわれ,実質的に研磨効果がないという問題がある。
【0014】
本発明者らは、従来のような複雑で高額な研磨媒体、流体を用いることなく、簡便、かつ迅速に上述した突起或いはバリを皆無または大幅に低減すべく、振動式研磨機に市販の振動モーターで特定の振動数を研磨台上に載置されたリンクチェーンに特定の振動数を付与してリンク同士を自由に擦れさせ、かつ衝突させ、叩き合わせることでリンク内側の突起やバリが著しく低減しうることを特願2003−237327(特許文献4)で特許出願した。
【0015】
その具体的内容は、図1、図2に示すとおりであり、図1は本発明によるリンクチェーン用振動式研磨機の横断面図、図2は研磨台の平面図である。図1(a)において、基台上にスプリングバネ3、もしくは油圧式アクチュエーターを介して研磨台1を載置し、研磨台の下部にはカウンターウエイトユニット2を該研磨台と一体的に設け、このカウンターウエイトユニット2は振動モーター4の回転を伝達する回転軸5を介して振動に変換して研磨台1に振動を付与するように構成してある。また、本発明では図1(b)に示したように、振動源となる振動モーター4を研磨台1の下部に直接取り付けることで振動モーター4からの振動を効果的に研磨台1に伝達することが研磨機の構造上の観点からより好ましい。更に、本発明においては図1に別の態様として振動モーター1個で研磨台を鉛直方向に複数段重ねることで生産効率を倍加できることも考えられる。
【0016】
また、特許文献4における研磨台は図2(a)、(b)に示したように、数m以下の短尺のリンクチェーンの場合にはほぼ直線状にリンクチェーンを研磨槽上に載せるだけでよいが、長尺のリンクチェーン、例えば数十m(本発明では100m超のリンクチェーンをも連続研磨できる)を研磨する場合には、研磨台1上に搬送されるリンクチェーンCが複数列で折り返しが可能なように研磨台の長手方向(搬送方向)に並列する複数の直線状の仕切り壁6で隣接する搬送通路を一定の幅を以て搬送通路を確保できるように仕切り、リンクチェーンのリンク同士が互いに擦れ合って研磨されながら連続的に搬送、研磨できるように構成されている。また、研磨台上には金属製のプレート表面をそのままの状態、もしくは薄い弾性体を敷いている。仕切り壁6のリンクチェーン折り返し点には搬送をスムースにするため、またリンクチェーンに疵がつかないように送りローラー7、または搬送用シーブ10を取り付けている。また、研磨台1の端部のリンクチェーン搬入口にはリンクチェーンCを連続的に研磨台に供給するためにリンクチェーン搬入用スプロケット8を、また研磨台1の他端部のリンクチェーン搬出口にはリンクチェーンCを連続的に巻取る、または取り込むためにリンクチェーン搬出用スプロケット9を取り付けている。
【0017】
しかしながら、上記特許文献4の提案には依然として幾つかの問題点がある。例えば、1)研磨台上に設けた複数条の並列する仕切り壁では処理すべきリンクチェーンを各仕切り壁先端の展開部に設けたローラーで折り返し転回させ、片側の搬送モーター、或いは搬送用シーブにより引張る構造であるため、搬送用シーブからのリンクチェーン落下部以外は折り返し部の摩擦抵抗により張力がかかり、リンクチェーンに自由度がなくなり研磨効果が低下する。
2)仕切り壁間の搬送通路幅が狭く、スプロケットまたは搬送用シーブの落下地点にリンクチェーンが重畳して滞留して研磨効果が向上しない。
【0018】
そこで、本発明者らは、研磨効果を向上させるべく鋭意検討を重ねた結果、図3に示すように研磨槽1上に何らの仕切り壁を設けずとも研磨効果を向上させることが可能となった。その具体的構成を図3、図4に示した。図3は本発明による研磨槽の平面図、図4(a)、(b)は研磨作業中の研磨槽の斜視図である。図3、図4(a)、(b)に示すように、研磨槽1の長手方向端部のそれぞれに千鳥状に配置した送りローラー7および搬送用シーブ10を取り付け、送りローラー7または搬送用シーブ10にリンクチェーン巻上げと巻き取りの機能を持たせ、一方の送りローラー7または搬送用シーブ10が巻き取り機能を果たす場合にはリンクチェーンに僅かの張力を持たせて巻き上げ、相対する他方の送りローラー7または搬送用シーブ10直下にはリンクチェーンが重畳して落下させリンクチェーン溜り部Tを設けるようにし、これを研磨槽の長手方向に直交する方向に複数条連続して設け、研磨槽全体を振動させることで、リンクチェーン落下側の重畳部では各リンク同士が叩き合って、上下金型によるマンドレルにより製造した各リンク内側の突起、バリを低減させ得ることが分かった。
更に、本発明者らは、研磨槽での研磨効果を一層向上させるため、研磨槽上に設けた複数条の仕切り壁を平行ではなく、テーパー状の仕切り壁とし、各テーパー状の仕切り壁同士で仕切られた搬送通路の広口部および狭口部を交互配置とし、広口部をリンクチェーンの落下側、狭口部をリンクチェーンの引張り側とすることで研磨時間および研磨効果を大幅に向上させることを知見した。その具体的構成を図5、図6(a)、(b)に示した。図5は本発明によるテーパー状の仕切り壁を有する研磨台の平面図、図6(a)はその斜視図、(b)はリンクチェーン落下部の研磨槽の拡大斜視図である。次に、本発明による研磨台にテーパー状の仕切り壁を設けた理由を説明する。
【0019】
前述したように、研磨槽上の複数条の平行な仕切り壁では搬送用シーブ径が決まっていることから仕切り壁間の間隔〔搬送通路幅〕を大きくとれず、そのために搬送用シーブの落下側では予想以上のリンクチェーン堆積部が形成されてリンクチェーンの自由度がなくなる、すなわち、リンクチェーン堆積部の下部では次々と落下してくるリンクチェーンの荷重が増大してくる。一方、搬送用シーブの巻上げ側では落下側と同一速度であるため前記落下部での状況からすれば仕切り壁先端の折り返し部を含めて常に引っ張り状態にあり、リンクチェーンには張力が付与された状態にある。このような状況下では搬送通路上でのリンクチェーンはほぼ直線状態となって単位面積当たりの処理量が減少し、研磨効果が改善されないという現象が起こる。
【0020】
本発明者らは、上記事態に鑑み、搬送通路の処理面積を拡張し、しかも不必要な落下部でのリンクチェーンの重畳をなくすには、落下部の面積を拡張すれば落下したリンクチェーンは搬送通路上での落下面積が大きくなり、その結果リンクチェーンの落下部での自由度が拡大され、研磨効果が向上することになる。一方、リンクチェーン巻上げ側では一定の回転速度で搬送用シーブが巻き上げている(一定の張力が付与されている〕ことからそれほどの搬送通路面積が不要となる。すなわち、落下側では搬送通路面積を大きく、巻き上げ側では搬送通路面積を狭くしてもよい、ということは搬送通路は巻き上げ側から落下部にかけてテーパー状態〔末広がり状態〕にすればよいということになる。このような状態とすることで研磨槽上にある処理されるリンクチェーンの量は従来方法に比較し、著しく増大しうる。なお、テーパー状の複数の仕切り壁で区画されたリンクチェーン搬送通路は、研磨されるリンクチェーンサイズが6.0mmの場合、テーパー広口部がリンク外幅の13倍、および狭口部がリンク外幅の1.1倍であることが好ましい。
【0021】
また、テーパー状の仕切り壁の広口部および狭口部端部近傍には研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ〔モーターによる回転駆動による独自に回転数を制御可能〕をそれぞれ設けることで、各仕切り壁内の搬送通路に堆積するリンクチェーンの量をそれぞれの搬送用シーブで任意の搬送速度に制御しうることが可能になり、搬送効率が倍加するメリットがある。
【0022】
上述したように、本発明においては搬送通路上を振動を受けながらリンクチェーンが搬送されるが、その搬送速度は従来の上限速度1m/minを超え最大3m/min、リンク径にもよるが径6.0mmで2m/min〜2.5m/min、好ましくは2m/minで搬送される。
【0023】
上記研磨台1上でリンクチェーンに付与される振動条件としては、振動数が大きく、研磨台の振幅が大きいほどリンクチェーン同士の衝突頻度、衝突エネルギーも多くなり、短時間での処理が可能となることから、振動周波数20〜30Hz、好ましくは20〜25Hz、振幅2〜6mmとすることが好ましい。また、研磨時間はリンクチェーンの長さ、研磨台の大きさ、リンクチェーンの配列量、リンクチェーンの搬送速度にもよるが、従来の1.5〜4時間に比較し、1時間程度で研磨処理を行うことができる。更に、本発明で研磨されるリンクチェーンは焼入れ・焼戻しの熱処理前、或いは熱処理後、並びに表面処理(無電解めっき)されたリンクチェーンの何れでも研磨できる。
【0024】
次に、実際の研磨作業について説明する。
【0025】
先ず、長尺のリンクチェーンC〔初期はダミーのリンクチェーン〕を図3〜図7に示すように、研磨台上にリンクチェーンを搬入するために研磨槽の一端にリンクチェーン搬入口を、また研磨台の他端にリンクチェーン搬出口9を設け、研磨台上で長尺のリンクチェーンを連続的に振動研磨処理を行うように構成している。先ず、リンクチェーン搬入口8でダミーチェーン端部と製品となる研磨すべきリンクチェーンの先端とを繋げ、次にモーターを駆動させてカウンターウエイトユニット2を介して研磨台1を振動周波数20〜30Hz、振幅2〜6mmで振動させる。さらに、研磨処理時間が目標の1時間となるような搬送速度〔2m/min〕でリンクチェーンを搬送する。図3、図4に示すような研磨台1に、或いは図5〜図7に示すような研磨台1上に短尺もしくは長尺の複数のテーパー状の仕切り壁6・・・6nで区分されたテーパー状搬送通路6’・・・6‘nを設けてあるのでリンクチェーンはテーパー状搬送通路6’・・・6‘nを通って搬送される。上記テーパー状仕切り壁、換言すればテーパー状搬送通路は10〜20条、例えばリンクチェーン径6mmの場合は12〜14条設けることが好ましい。テーパー状搬送通路上にあるリンクチェーンは付与された振動によりリンクチェーン同士の叩きあいとなり、その相互の叩きあいによりリンク内側にある突起、バリがなくなり、研磨前には最大で200μmの突起、凹凸、バリであったものが、研磨後には60μm、平均的には30μm以下まで低減され、平滑な表面に仕上げることができる。
【0026】
各テーパー状の仕切り壁の広口部6−1および狭口部6−2端部近傍には研磨台の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ〔モーターによる回転駆動による独自に回転数を制御可能〕10・・・10’をそれぞれ設けている。このテーパー状広口部6−1には搬送用シーブで送られたリンクチェーンの落下部としてリンクチェーンを堆積させ、テーパー状狭口部6−2には搬送用シーブで研磨処理されたリンクチェーンを巻き上げる部位としている。これは上述したように研磨面積を大きくすればそれだけ研磨処理量は増大するためであり、一方、巻き上げ部位においては研磨処理されたリンクチェーンを一定の速度で巻き上げるためにリンクチェーンは巻き上げ側に向かって直線状態になるためそれほどのスペースは不要ということから、落下部から巻上げ部位に向かって搬送通路は先細り状態のテーパー状の搬送通路でよいということである。また、本発明においては、図7に示すように、研磨槽上に長手方向全域に仕切りを設けずとも長手方向端部の極く一部、リンクチェーン重量部のみに短尺の仕切り壁6”〜6n”を傾斜して、或いは直線状に設けても同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0027】
径6mm〔めっきなし〕のリンクチェーンを14条のテーパー状仕切り壁〔テーパー状搬送通路〕を有する研磨台上に14条のテーパー状搬送通路に100kg置き、表1の条件で研磨処理した。その結果を表1に併せて示した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から解るように、本発明による研磨機では同一周波数でも研磨台上でのリンクチェーンの重畳がなく、振動研磨される処理面積を多くとることでリンクチェーンの自由度が高まり、またリンクチェーン同士の叩き合いが助長され、その結果として振幅も大きく、送り速度をも高めることが可能となり、処理時間を半減することが可能となっている。また、最大の利点は、研磨効果〔疲労強度〕が一層改善され従来の研磨なしに対しては約50%、並列の仕切り壁の研磨機に対しては約3〜5%の疲労強度の改善を図ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は本発明のリンクチェーン用振動式研磨機の概略正面図、(b)は本発明の別の態様のリンクチェーン用振動式研磨機の概略正面図である。
【図2】(a)、(b)は従来の仕切り壁が並列する研磨台を有するリンクチェーン用振動式研磨機の研磨台の平面図である。
【図3】本発明のリンクチェーン用振動式研磨機の研磨台の概略平面図。
【図4】(a)は図3の斜視図、(b)はリンクチェーン落下部の拡大斜視図である。
【図5】本発明の別の態様のリンクチェーン用振動式研磨台の概略平面図。
【図6】(a)は図5の斜視図、(b)はリンクチェーン落下部の拡大斜視図。
【図7】本発明の更なる別の態様のリンクチェーン用振動研磨台の概略平面図。
【図8】従来の市販のリンクチェーン用振動式研磨機の概略正面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 研磨台
2 カウンターウエイトユニット
3 スプリングバネまたは油圧式アクチュエーター
4 振動モーター
5 カップリング
6 直線状の並列する仕切り壁
6’・・・6‘n テーパー状の仕切り壁
6‘’・・・6‘’n テーパー状の搬送通路
6−1 テーパー状広口部
6−2 テーパー状狭口部
7 回転ローラー
8 リンクチェーン搬入用シーブ
9 リンクチェーン搬出用シーブ
10 搬送用シーブ
c リンクチェーン
T 重量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨台を載置し、この研磨台の上面にリンクチェーンを振動研磨する研磨槽を設け、該研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ装置を交互に設けて、研磨槽の下部にはカウンターウエイトユニットを該研磨槽と一体的に設け、このカウンターウエイトユニットは該研磨槽の下部に直接取り付けた振動モーターの回転を伝達する回転軸を介して振動に変換して研磨槽上のリンクチェーンに振動を付与するように構成したことを特徴とするリンクチェーン用振動式研磨機。
【請求項2】
リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨台を載置し、この研磨台の上面にはリンクチェーンを振動研磨する研磨槽を設け、該研磨台の長手方向の一部又は全部にテーパー状の複数の仕切り壁を設け、かつ該研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ装置を交互に設けて、研磨槽の下部にはカウンターウエイトユニットを該研磨槽と一体的に設け、このカウンターウエイトユニットは該研磨槽の下部に直接取り付けた振動モーターの回転を伝達する回転軸を介して振動に変換して研磨槽上のリンクチェーンに振動を付与するように構成したことを特徴とするリンクチェーン用振動式研磨機。
【請求項3】
リンクチェーン用振動式研磨機において、基台上にスプリングバネを介して研磨台を載置し、この研磨台の上面にはリンクチェーンを振動研磨する研磨槽を設け、該研磨槽の長手方向の全部にテーパー状の複数の仕切り壁を設け、各テーパー状仕切り壁同士で仕切られたリンクチェーン搬送通路の広口部および狭口部を交互配置とし、かつ前記広口部をリンクチェーンの落下側、狭口部をリンクチェーンの引張り側とし、更に広口部および狭口部近傍で研磨槽の長手方向両端部にリンクチェーンの搬送方向転換のためにリンクチェーンを巻き上げ、送り出すための搬送用シーブ装置を交互に設けて、研磨台の下部にはカウンターウエイトユニットを該研磨台と一体的に設け、このカウンターウエイトユニットは該研磨台の下部に直接取り付けた振動モーターの回転を伝達する回転軸を介して振動に変換して研磨槽上のリンクチェーンに振動を付与するように構成したことを特徴とするリンクチェーン用振動式研磨機。
【請求項4】
前記研磨台の上面に設けたテーパー状の複数の仕切り壁で区画されたリンクチェーン搬送通路の広口部がリンク外幅の5〜20倍、および狭口部がリンク外幅の1.0倍以上であることを特徴とする(3)記載のリンクチェーン用振動式研磨機。
【請求項5】
前記研磨槽の一端に設けたリンクチェーン搬入口にリンクチェーン搬送送り用スプロケットを、該研磨台の他端に設けたリンクチェーン搬出口にリンクチェーン巻取りスプロケットを配設して連続研磨を可能としたことを特徴とする請求項1〜4の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式研磨機。
【請求項6】
前記研磨槽に付与される振動が、振動周波数20〜30Hz、振幅2〜6mmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式研磨機。
【請求項7】
前記研磨台上で搬送されるリンクチェーンの搬送速度が0.8〜3m/minであることを特徴とする請求項1〜6の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式バレル研磨機。
【請求項8】
前記研磨台で研磨されるリンクチェーンが熱処理前の素リンクチェーン、熱処理後のリンクチェーン、或いはメッキ処理を施したリンクチェーンの何れかであることを特徴とする請求項1〜7の何れかの項に記載のリンクチェーン用振動式バレル研磨機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−166189(P2009−166189A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8000(P2008−8000)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】