説明

リングアンテナ

【課題】製造が容易であり、衝撃による破損の恐れがなく、軽量化も達成可能なリングアンテナを提供する。
【解決手段】リングアンテナ10は、基体11の粗面化された表面に形成されたメッキ層によりアンテナエレメント12〜14が構成されているため、製造が容易である。また、セラミックスに較べてじん性が高く比重の小さい誘電体プラスチックスによって基体11が構成されているため、衝撃による破損の恐れがなく、軽量化も達成可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機能を有する小型の携帯機器などに内蔵可能なリングアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信機能を有する小型の携帯機器として、例えば腕時計と合体した小型受信機が従来一般に知られている。この小型受信機には、リング状のアンテナ部(2)がリングアンテナとして組み込まれている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ここで、特許文献1に記載されたリングアンテナ、すなわちリング状のアンテナ部(2)は、リング状の誘電体基板(21)上にC型ループ素子(22)が形成されたものであり、誘電体基板(21)はセラミックス製とされている。そして、C型ループ素子(22)は、誘電体基板(21)上に導電材をC型のパターンで蒸着することにより形成され、あるいはC型に加工された金属薄板を誘電体基板(21)上に貼着することで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−59241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されたリングアンテナは、セラミックス製の誘電体基板(21)の上に導電材を蒸着し、あるいは金属薄板を貼着してC型ループ素子(22)を形成したものであるため、C型ループ素子(22)の形成に手間が掛かるという製造上の問題がある。また、誘電体基板(21)がセラミックス製であるため、落下などの衝撃により破損し易く、重量も重くなるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、製造が容易であり、衝撃による破損の恐れがなく、軽量化も達成可能なリングアンテナを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するため、本発明に係るリングアンテナは、環状の誘電体プラスチックスからなる基体と、この基体の粗面化された表面にそれぞれ周長の異なるリング状のパターンで形成された複数のメッキ層からなるアンテナエレメントとを備えたリングアンテナであって、環状の基体には、内面にメッキ層を有する複数のスルーホールが形成されており、そのスルーホールの内面のメッキ層により、アンテナエレメントが相互に導通されて給電ピンに接続されることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るリングアンテナは、粗面化された基体の表面に形成されたメッキ層によりアンテナエレメントが構成されているため、製造が容易である。また、セラミックスに較べてじん性が高く比重の小さい誘電体プラスチックスによって基体が構成されているため、衝撃による破損の恐れがなく、軽量化も達成可能である。もちろん、本発明に係るリングアンテナにおいては、基体としてセラミックスを配合した誘電体プラスチックスをも使用することができる。
【0009】
本発明のリングアンテナにおいて、アンテナエレメントは、例えば、以下の手法により形成することができる。
すなわち、基体は射出成形法により成形し、該基体の表面、言い換えれば、アンテナエレメント形成面(具体的には、スルーホールの内面を含む基体全面、あるいはエレメント形成面全面)をサンドブラストして粗面化する。
次いで、無電解メッキする。スルーホールの内面を含む基体全面を粗面化する場合には、メッキは、エレメント非形成面にも施されるため、レーザーパターニング処理してエレメント非形成面のメッキを除去する。スルーホールの内面を含むエレメント形成面のみを粗面化する場合には、メッキは、エレメント形成面のみに施されるため、レザーパターニング処理は不要となる。
【0010】
後者の場合、サンドブラスト時にエレメント非形成面へのマスキング処理が必要となる。このマスキング処理は、マスキング用の合成樹脂(水溶性や水分解性樹脂、光照射により溶媒溶解性となる樹脂等)を射出成形するなどがあるが、該樹脂の除去の際に、水、その他の溶媒を使用するため、煩雑な廃液処理が必要となるため、前者の手法を採用することが好ましい。
【0011】
なお、本発明のリングアンテナにおいては、レザーパターニング処理後に、再度、無電解メッキしてもよい。これにより、より高品質のエレメントを形成することができる。
【0012】
ここで、本発明のリングアンテナにおいて、誘電体プラスチックスからなる基体の誘電率εが5〜12であると、誘電体プラスチックスによる波長短縮率が大きくなるため、リングアンテナを一層小型化することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るリングアンテナは、粗面化された基体の表面に形成されたメッキ層によりアンテナエレメントが構成されているため、製造が容易である。また、セラミックスに較べてじん性が高く比重の小さい誘電体プラスチックスによって基体が構成されているため、衝撃による破損の恐れがなく、軽量化も達成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るリングアンテナの外観を示す斜視図である。
【図2】一実施形態に係るリングアンテナのスルーホールを示す半断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付の図面を参照して本発明に係るリングアンテナの実施の形態を説明する。図1に示す一実施形態のリングアンテナ10は、例えば図示しない腕時計に無線通信機能を付加するように組み込まれるものである。
【0016】
このリングアンテナ10は、環状に射出成形された誘電体プラスチックスからなる基体11と、この基体11の表面にそれぞれ周長の異なるリング状のパターンで形成された複数のメッキ層からなるアンテナエレメント12〜14とを備えている。
【0017】
環状の基体11は、従来の誘電体セラミックスに較べてじん性が高く比重の小さい誘電体プラスチックス、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)で構成されており、誘電率εが10程度の高い誘電性を有する。この基体11は、半田加工が可能な耐熱性(260℃)、メッキ加工性およびサンドブラスト加工性を備えている。
【0018】
このような環状の基体11は、径方向に平行する左右の側面と、径方向に直交する内周面および外周面とを有する八角形の断面形状に形成されている。そして、この基体11の内周面には周長の短いアンテナエレメント12が形成され、一方の側面には周長が中位のアンテナエレメント13が形成され、外周面には周長の長いアンテナエレメント14が形成されている。
【0019】
ここで、環状の基体11には、内面にメッキ層を有するスルーホール15,16が形成されている。スルーホール15はL字状に屈曲した孔であり、一端が基体11の他の側面に開口し、他端が基体11の内周面に開口している。そして、このスルーホール15の一端部に給電ピン17が圧入嵌合されることで、給電ピン17がスルーホール15の内面のメッキ層を介して基体11の内周面のアンテナエレメント12に導通される。
【0020】
スルーホール16はT字状に交差した孔であり、基体11の内周面と外周面と一方の側面とに開口している。そして、このスルーホール16の内面のメッキ層を介して基体11の内周面のアンテナエレメント12と、基体11の外周面のアンテナエレメント14と、基体11の一方の側面のアンテナエレメント13とが相互に導通されている。
【0021】
アンテナエレメント12〜14を構成する基体11の表面のメッキ層、およびスルーホール15,16の内面のメッキ層は、銅(Cu)/ニッケル(Ni)/金(Au)の3層構造のメッキ層であり、以下に述べる下地処理工程、第1メッキ工程、パターニング工程、第2メッキ工程を経て形成される。
【0022】
下地処理工程では、サンドブラストにより基体11の表面およびスルーホール15,16の内面が粗面化される。このサンドブラストには、例えば粒度が80番の高純度アルミナであるホワイトアランダム(WA♯80)が使用される。そして、この下地処理工程により、基体11の表面およびスルーホール15,16の内面がRa2.0μm程度に粗面化される。
【0023】
第1メッキ工程では、Ra2.0μm程度に粗面化された基体11の表面およびスルーホール15,16の内面に無電解メッキ(上記の3層構造の場合は、銅メッキ)が施される。この無電解メッキ(銅メッキ)層の厚さは、0.5〜1.0μm程度である。
【0024】
パターニング工程では、基体11の表面全面に形成された無電解メッキ層のうち、アンテナエレメント12〜14を構成しない不要部分がレーザ光線の照射によるレーザパターニング処理によって除去される。このレーザパターニング処理に使用されるレーザ光線は、スポット径が例えば30μmであり、周波数が例えば90kHzである。
【0025】
第2メッキ工程では、レーザ光線の照射により不要部分が除去された無電解メッキ層上に電解メッキ(先ず、ニッケルメッキ、続いて金メッキ)が施される。銅(Cu)/ニッケル(Ni)/金(Au)の3層構造の厚さは銅(Cu)が3〜30μm、ニッケル(Ni)が0.5〜3.0μm、金(Au)が0.01〜0.1μm程度である。
【0026】
以上のように構成された一実施形態のリングアンテナ10は、基体11の誘電率εが5〜12程度であって高い誘電性を有するため、その波長短縮効果により、例えばUHF帯の電波を短縮して良好に送受信する。このリングアンテナ10は、従来の誘電体セラミックスに較べてじん性が高く比重の小さい誘電体プラスチックス、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS),液晶ポリマー(LCP)で構成されているため、落下などの衝撃による破損の恐れがなく、しかも軽量である。
【0027】
ここで、送受信する電波の真空中の波長λ0を0.2mとした場合、誘電率εが3の一般樹脂からなる基体では、波長λは、λ=0.2/31/2の式により、0.115mに短縮する。これに対し、誘電率εが6の誘電体セラミックスからなる基体11では、波長λは、λ=0.2/61/2の式により、0.082mに短縮する。
【0028】
この場合、一般樹脂からなる基体に対する誘電体セラミックスからなる基体11の寸法的縮小率は、縮小率=(0.082m/0.115m)×100=71.3%となる。すなわち、誘電率εが6の誘電体セラミックスからなる基体11の寸法は、誘電率εが3の一般樹脂からなる基体の寸法に対し、その71.3%に縮小する。
【0029】
このリングアンテナ10は、従来の誘電体セラミックスに較べてじん性が高く比重の小さい誘電体プラスチックス、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS),液晶ポリマー(LCP)で構成されているため、落下などの衝撃による破損の恐れがなく、しかも軽量である。
【0030】
また、一実施形態のリングアンテナ10は、アンテナエレメント12〜14が基体11の表面に形成されるメッキ層によって構成されるため、そのリング状のパターンを若干変更するだけで共振周波数を調整することができる。
【0031】
すなわち、一実施形態のリングアンテナ10によれば、落下による破損の恐れがなく、しかも軽量であって、より高精度の送受信が可能となる。加えて、要求される共振周波数への調整を容易に行うことができる。
【0032】
本発明に係るリングアンテナは、前述した一実施形態に限定されるものではない。例えば、基体11は、誘電率が3〜20の結晶性ポリスチレン(SPS)をベース樹脂とした熱可塑性樹脂で構成してもよいし、誘電率が3〜20のポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)と液晶ポリマ(LCP)とをコンパウンドした複合材料(この複合材料の誘電率も3〜20程度が好ましい)としてもよいし、あるいは樹脂とセラミックスとのコンパウンドで誘電率が3〜20程度のものであってもい。これらの複合材料からなる基体11も、このように高い誘電特性を備えると共に、精密成形に適した寸法安定性、ハンダに対する耐熱性、あるいはサンドブラスト適正等を備える。
【符号の説明】
【0033】
10:リングアンテナ
11:基体
12:アンテナエレメント
13:アンテナエレメント
14:アンテナエレメント
15:スルーホール
16:スルーホール
17:給電ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の誘電体プラスチックスからなる基体と、この基体の粗面化された表面にそれぞれ周長の異なるリング状のパターンで形成されたメッキ層からなる複数のアンテナエレメントとを備えたリングアンテナであって、
前記環状の基体には、内面にメッキ層を有する複数のスルーホールが形成されており、そのスルーホールの内面のメッキ層により、前記複数のアンテナエレメントが相互に導通され、かつ、給電ピンに接続されていることを特徴とするリングアンテナ。
【請求項2】
前記基体は射出成形されたものであり、
前記基体の表面はサンドブラストにより粗面化されており、
前記アンテナエレメントは、粗面化された基体の表面に無電解メッキ層を形成し、この無電解メッキ層をレーザパターニング処理して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリングアンテナ。

【図1】
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【図2】
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