説明

リンス工程を有さない金属表面の前処理方法及びそのための組成物

【課題】鋼及びアルミニウムなどの金属表面の化成及び不動態化コーティング方法、並びにそれに用いる組成物の提供。
【解決手段】酸化セリウム及び/又はシリカ粒子及びウレイドシラン化合物を含有する水溶性ゾルを含んでなるコーティング組成物。本発明の方法は、コーティング組成物と、目的の金属表面とを接触させることを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、2005年4月7日に出願された米国仮特許第60/669,123号の優先権を主張する。
【0002】
本発明はクロミウム不含有金属コーティングに関する。特に本発明は、ノーリンス、クロム酸不使用及び金属リン酸塩不使用の、鋼、亜鉛コーティング鋼及びアルミニウム表面コーティングに関し、当該コーティングは、安定化剤を含有させることにより、表面への乾燥剤コーティングの粘着性が向上し、腐食保護が強化されることを特徴とする。
【背景技術】
【0003】
金属表面を調整するための様々な組成物が、商業的アプリケーションとして公知である。例えば、塗装作業前に金属表面を調製する目的で、クロミウム及び重金属リン酸塩化成コーティングが商業的アプリケーションで用いられる。しかしながら、クロミウムの毒性の側面に関する懸念、及びクロム酸、リン酸塩及び他の重金属が工業廃液として川及び水路に放出されて汚染源となる懸念が発生する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、現在においても、ドライ式の局所的な化成又は不動態化コーティングを提供することにより、金属表面の腐食を防止し、表面に塗布される塗料又は他のコーティングの粘着力を強化するために有効な処理方法を提供することに関するニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は金属(例えば鋼、亜鉛コーティング鋼板及びアルミニウム)の表面処理のための方法及び組成物に関する。それにより、化成又は不動態化コーティングが形成され、剥き出しの若しくは塗装された金属の耐食性向上及び/又は金属の接着性向上の効果が得られる。本発明の方法は、目的の金属表面をコロイド状酸化物粒子(金属酸化物又はシリカ粒子、並びにウレイドシラン化合物など)を含有する安定化された水溶性ゾルと接触させることを含んでなる。上記の処理による金属表面の接触後、処理物を局所的に乾燥させ、所望のコーティングを形成させることができる。好ましくは、当該処理はクロミウム及びリン酸塩を実質的に含有しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において、目的の表面を、ゾル(金属酸化物又はシリカゾルなど)を含むコロイド状酸化物を含む安定化水溶性ゾルと接触させることにより、クロム不含有及び好ましくはリン酸不含有化成又は不動態化コーティングを、金属表面(例えば電子亜鉛めっき鋼、冷圧延鋼、熱ディップ亜鉛鍍金鋼、アルミニウム及び他の金属)に提供できることを見出した。好ましくは、当該ゾルはシリカ及び/又は酸化セリウム粒子のいずれかを含有する。ゾル組成物は更に、加水分解又は部分加水分解された1つ以上のウレイドシランを含有する。本発明の好ましい形態において、ゾル−シラン混合物に1つ以上の安定化剤を添加し、生成物の安定性及び貯蔵寿命を向上させる。本発明の水溶性前処理組成物は、剥き出しの及び塗装された金属の耐食性、及び塗装された金属に塗布されたコーティングの粘着力を向上させる。本発明における用語「剥き出しの金属」とは、本発明の化成又は不動態化コーティングで処理される、事前の塗装がされていない金属表面を指す。
【0007】
シリカゾル材料は、好ましくは酸性pHを有する水溶性コロイダルシリカを含有する。典型的なシリカゾル材料は、Cabot社、あるいは他の供給業者(例えばWacker Chemie社、Degussa社、Nissan Chemical社及びNalco Chemical Company社)から購入してもよい。有効なシリカゾルの例としてCab−O−Sperse A205が挙げられ、これは高純度ヒュームドシリカの脱イオン水中への分散液である。このゾルはpH約5〜7で、約12%の固体含量を有する。粘性は<100cpsであり、比重は約1.07である。
【0008】
典型的な酸化セリウムゾルも市販されている。通常、これらは水性コロイド懸濁液中に酸化セリウム粒子を含有する。市販の酸化セリウムゾルは、典型的なものとしてはコロイド状の硝酸酸化セリウム及び酸化セリウム酢酸塩が挙げられ、共にRhodia社及びNyacol Nano Technologies社から市販されている。好ましい酸化セリウム酢酸塩ゾルは、約20%の酸化セリウム粒子を含有する。典型的な酸化セリウムゾルは、約100nm未満の粒径を有する粒子を含有する。典型的なpHは約1〜9のオーダーである。ZnO、ZrO、TiO及びAlのような他の金属酸化物ゾルも同様に使用可能である。
【0009】
使用するウレイドシラン材料に関しては、これらは式Iで表すウレイドシランを含有する。
【化1】

又はかかるシランの加水分解物又は凝縮物であって、式中、Dが独立に(R)又は(OR)から選択され、少なくとも1つのDが(OR)である。式中、各Rが水素、アルキル、アルコキシ置換アルキル、アシル、アルキルシリル又はアルコキシシリル基からなる群から独立に選択され、各R基は直鎖状若しくは分岐状であってもよく、同じであっても異なってもよい。好ましくは、Rは水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びアセチル基からなる群から独立に選択される。
【0010】
式IのXは、結合、又は置換若しくは非置換の脂肪族若しくは芳香族基からなる群から選択されるメンバーである。好ましくは、Xは結合、C−C10アルキレン、C−Cアルケニレン、少なくとも1つのアミノ基によって置換されたC−Cアルキレン、少なくとも1つのアミノ基によって置換されたC−Cアルケニレン、アリーレン及びアルキルアリーレン基からなる群から選択される。
【0011】
及びR部分は、水素、C−Cアルキル、シクロアルキル、C−Cアルケニル、少なくとも1つのアミノ基によって置換されるC−Cアルキル、少なくとも1つのアミノ基によって置換されるC−Cアルケニル、アリーレン及びアルキルアリーレンからなる群から独立に選択される。好ましくは、Rは水素、エチル、メチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、ter−ブチル、シクロヘキシル及びアセチル基からなる群から独立に選択される。
【0012】
ここで、「置換された」脂肪族又は芳香族化合物という用語は、炭素主鎖がその主鎖中で位置するヘテロ原子を有するか、又はヘテロ原子若しくはヘテロ原子含有基が炭素主鎖に結合している、脂肪族又は芳香族基を意味する。
【0013】
式IのRは、炭素原子数1〜10の一価の炭化水素基である。R基としてはアルキル、アリール及びアラルキル基(例えばメチル、エチル、ブチル、ヘキシル、フェニール、ベンジル基)が挙げられる。これらのうち低級C−Cアルキル基が好適である。通常、Rはメチル基である。
【0014】
本発明で使用される特に好ましいウレイドシランは、以下の構造を有するγ−ウレイドプロピルトリメトキシシランである。
【化2】

【0015】
この化合物は、Ge Silicones社から「Silquest A−1524」の商品名で市販されている。3−ウレイドプロピルトリエトキシシランを用いて、加水分解物を調製してもよい。純粋な3−ウレイドプロピルトリエトキシシランはワックス様の固体成分である。使用に際しては溶媒又は固体を可溶化する手段が必要である。市販の3−ウレイドプロピルトリエトキシシランはメタノール中に溶解されており、その結果純粋化合物でなく、同じケイ素原子に結合するメトキシ基及びエトキシ基を有する。完全に加水分解したときのそのシランの特性は同一である。
【0016】
上記のゾル及びウレイドシラン組合せに加えて、安定化剤を添加した場合に、その組合せにおける貯蔵寿命が顕著に改善されることを見出した。予備的なデータは、特定の安定化剤の添加の場合に、ゾル/ウレイドシラン組成物の貯蔵寿命が延長されうることを示唆する。安定化剤の典型的例としては、アルコール、グリコール、トリオール、ポリオール、グリコールエーテル、エステル、ケトン、ピロリドン及びポリエーテルシランが挙げられる。
【0017】
具体的な安定化剤としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(i−プロパノール)、2−メチル−1−プロパノール(i−ブタノール)、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブタノール)、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、4−メチル−2‐ペンタノール、
グリコールの場合は、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(ヘキシレングリコール)、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリ(エチレングリコール)、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリ(プロピレングリコール)、1,5−ペンタンジオール、エステルジオール204、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、グリセロール、グリセロールエトキシレート、グリセロールエトキシレート−コ−プロポキシレートトリオール、グリセロールプロポキシレート、ペンタエリスリトール、
グリコールエーテルの場合は、1−メトキシ−2−プロパノール(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、1−エトキシ−2−プロパノール、1−プロポキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエタノール、2‐エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2‐ブトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、2−(2−プロポキシ・エトキシ)エタノール、2−(2−ブトキシエトキシ)エタノール(ブチルカルビトール)、ジ(プロピレングリコール)ブチルエーテル、メトキシトリグリコール(トリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル)、エトキシトリグリコール(トリ(エチレングリコール)モノエチルエーテル)ブトキシトリグリコール(トリ(エチレングリコール)モノブチルエーテル、メトキシポリエチレングリコール(ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ポリ(エチレングリコール)ブチルエーテル、ポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル、ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)ポリ(エチレングリコール−コ−プロピレングリコール)モノブチルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)モノブチルエーテル、ジプロピレングリコール)ジメチルエーテル、エステルの場合は、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、2−メトキシエチル酢酸、2−エトキシエチル酢酸、2−ブトキシエチル酢酸、2−(2−メトキシエトキシ)エチル酢酸、2−(2−エトキシエトオキシ)エチル酢酸、2−(2−ブトキシエトキシ)エチル酢酸、グリコール二酢酸、トリエチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル酢酸(1−メトキシ−2−プロパノール酢酸)、プロピレングリコールエチルエーテル酢酸、
並びに、ケトンの場合はアセトン、メチルエチルケトン、2,4−ペンタンジオン、ジアセトンアルコール及びポリエーテルシラン(Silquest A−1230を含む)が挙げられる。加えて、上記の成分のアジュバントとして、本発明の組成物にC−Cアルコキシル化シラン化合物を任意に添加し、使用液中にSi−O結合を提供してもよい。かかるアジュバント化合物は、以下の式で表すことができる。
【化3】

式中、Rは1〜10の炭素原子を有する一価の炭化水素基又はORを表し、各RはC−Cアルキル基から独立に選択される。オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)又はメチルトリエトキシシランを使用してもよい。この化合物及び上記の式に包含される他の化合物を溶液中で加水分解し、Si−O結合の供給源としてもよい。
【0018】
本発明の典型的な方法は、水溶性ゾルと目的の金属表面を接触させる方法であって、当該水溶性ゾルは、(a)Si及び/又はCe酸化物粒子及び(b)ウレイドシラン化合物を含有する。上記したように、当該ゾルは(c)安定化剤及び(d)任意のアジュバントを含有してもよい。
【0019】
典型的なゾル組成物は、実質的にクロム酸不含有及び好ましくは実質的にリン酸不含有であり、(a)0.001〜36重量%のコロイド状金属酸化物又はシリカゾル粒子、(b)0.01〜80重量%のウレイドシラン及びその加水分解物、(c)約0.00〜25重量%の任意の安定化添加剤、並びに、(d)約0.00〜25重量%の任意のアルコキシル化シラン化合物又はその加水分解物、その他、主に水及び微量のpH調整剤量を含有する。組成物の重量は全体で100重量%とする。ゾル組成物のpHは好ましくは約1〜7の範囲で変動してもよい。
【0020】
以下の範囲(重量%)で成分を含有する組成物が最も好ましい。(a)0.001〜10重量%のSi及び/又はCe酸化物粒子、(b)3〜60重量%のウレイドシラン又はその加水分解物、(c)1〜15重量%の安定化剤、(d)1〜15重量%のアジュバント、その他主に水及び微量のpH調整剤を含有する。
【0021】
目的の金属表面にスプレー、浸漬又はローラーアプリケーションなどの方法で処理することができる。更に処理物を乾燥させ、当該金属表面への塗装又はその他のコーティング用途に備える。
【0022】
本発明の化成又は不動態化処理は、上記の処理を施された表面1平方フィート当り約0.5mg超の化成コーティング重量となる態様で、上記の処理を施された表面に適用するのが好ましく、1平方フィート当り約2〜500mgの重量で適用するのが最も好ましい。商業的用途の場合、上記の調製物を約1〜100重量%、好ましくは5〜70重量%の濃度で含有する使用液を用いて、目的の金属表面を処理する。
【0023】
本発明の他の一実施態様では、ウレイドシラン及びセリウムゾルを最初に混合する場合には、MeOHのような危険な大気汚染物質が混合工程から排除される。この混合により発生するMeOH又は他の揮発性物質の相当量を除去した後、安定化剤及び任意に水を反応混合物に添加することにより、生成物の安定性が強化される。安定化剤(特に水より高い沸点を有するもの)をMeOHの除去前に添加してもよい。
【実施例】
【0024】
本発明の特定の実施態様の例示を目的として記載する以下の実施例を参照しながら本発明を説明するが、それらは本発明の範囲を限定するものと解釈すべきでない。
【0025】
<実施例1>
以下の調製物を試験し、コロイド状金属酸化物シラン混合物の性能を検討した。シラン、コロイド状酸化セリウム及び水を混合して前処理溶液を調製した(表1A)。
【0026】
表1A
【表1】

Advanced Coatings Laboratories(ACT)の以下のコントロールパネル(冷圧延鋼(CRS)及びEZ60/60電気亜鉛メッキ鋼(EG))を使用した。パネルを以下の通りに処理した。
洗浄:Kleen 182を用い、48.9℃、3分(CRS)又は1分(EG)洗浄した。
リンス:水により表面から物質が除去されるまで、脱イオン水でパネル全体をリンスした。室温で、空気をもつパネルを乾燥させた。
前処理:パネルを浸漬した(5秒(CRS)、30秒(EG)、室温)。処理溶液を30秒間、パネルから切った。
乾燥:ホットエアガンを使用してパネル表面上の溶液を乾燥させた。
【0027】
パネルにPPGインダストリーズ社のWhite Polycron III(AG452W3223)を塗装した。塗料を製造業者の明細書につき塗布し、硬化させた。塗装の後、パネルをASTM B−117に従い96時間にわたる中性塩水噴霧試験(NSS)に供し、ASTM D 1654(表1B)に従いクリープをmm単位で評価した。性能を、リン酸亜鉛前処理して業界の標準的な鉄と比較して解析した。
【0028】
表1B
NSS曝露
クリープ(mm)
【表2】

【0029】
<実施例2>
以下を調製し、様々なシランの性能を比較した。前処理溶液を、シラン、コロイド状酸化セリウム(20%活性、酢酸塩で安定化)、コロイダルシリカ及び水(表2A)を混合することによって調製した。Advanced Coatings Laboratories(ACT)のパネルとして冷圧延鋼(CRS)及びG70/70熱浸漬亜鉛鍍金鋼(HDG)を用いた。パネルを以下の通り処理した。
洗浄:3%のKleen 132(GEWPTから市販)を用い、54.4℃でスプレー塗布した(HDGでは10秒、CRでは30秒)。
リンス:5秒、
水道水リンス:5秒、脱イオン水ブローして乾燥し、表面から水を除去した。
回転塗布による前処理:約30〜40mlの前処理溶液をパネルの表面上へ注いだ。パネルを回転させ、余分な材料を遠心力により除去した。次いで暖かいエアガンを用い、金属表面上に残留する前処理溶液を乾燥させた。
【0030】
前処理したパネルを以下の通りに塗装した。HDG−PPG Truform ZT2 Black 3MB72689Iを塗装した。CRS−Akzo Nobel Lighting Fixture White PW8R30708を塗装した。製造業者の説明書に従い塗料を塗装し、硬化させた。
【0031】
更に塗装したパネルをASTM B117に基づく中性塩水噴霧試験(NSS)に供した。ASTM D1654(表2B)に従い、パネルをその後塩水噴霧に対する所定時間曝露し、かき傷からのクリープ(mm)を測定して耐食性を評価された。
【0032】
表2A
調製物
【表3】

注:サンプルBからGでは、酢酸を添加し、処理溶液のpHを4.0〜4.3に調整した。
【0033】
Cabosperse A205:12%の活性コロイド状シリカ
Silquest A−1524:γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン
Silquest A−1100:γ−アミノプロピルトリエトキシシラン
Silquest A−186:β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン
Silquest A−1637:δ−アミノヘキシルトリメトキシシラン
Silquest A−1110:γ−アミノプロピルトリメトシキシラン
【0034】
表2B
NSS曝露
クリープ(mm)
【表4】

NA:評価不能。パネルを、曝露時間収量前に取り外した。
【0035】
<実施例3及び4>
γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン+コロイド状酸化セリウムをベースとする前処理液の安定性を改善する、安定化剤の能力を示すために、安定化剤の添加の有無において濃縮溶液を調製し、溶液の沈殿又はゲル化が発生するまでの日数を測定した(表3及び4)。
【0036】
表3
添加剤の安定化効果
【表5】

*沈殿し、上部に上澄液が生じた。
Dowanol PMは1−メトキシ−2−プロパノールである。
【0037】
<実施例4>
安定水溶液の調製を可能にする材料を検討するために、更にサンプルを調製した(表4)。実施例3のように、溶液をモニターし、沈殿又はゲル化が発生するまでの日数を決定した。
【0038】
表4
付加的な安定化剤の効果
【表6】

A−1230はポリエーテルシランである。A−1110はγ−アミノプロピルトリメトキシシランである。A−1100はγ−アミノプロピルトリエトキシシランである。Dowanol PMは主に1−メトキシ−2−プロパノールを含んでなる。
【0039】
<実施例5>
危険な大気汚染物質の存在を最小化し、本発明のCeO/ウレイドシランゾルの安定性を強化するため、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシランの加水分解から形成されるメタノールを除去した。すなわち、150gのSilquest A−1524(γ−ウレイドプロピルトリメトキシシラン)、50gのコロイド状CeO酢酸塩溶液(Rhodia)及び10gのSilquest A−1230(ポリエーテルシラン)を32ozジャーに添加し、20分間混合した。混合後、365gの脱イオン水を撹拌しながら添加し、続いて25.4gの2−メチル−2,4−ペンタンジオール(ヘキシレングリコール、水銀)を添加した。メタノールを〜40℃及び150〜60mmHgの条件で反応混合物から除去し、続いて常温で窒素パージし、清澄な黄色の溶液362gを得た。これは、材料238g(おそらくメタノール及び水)が除去されたことを示す。次いで138gの脱イオン水を添加し、活性のウレイドプロピルシラン化合物(γ−ウレイドプロピルトリメトキシシランの30%水溶液の等量のシラン含有)、10%のCeO(20%の固体)及び5%のヘキシレングリコールを含有する水溶液を得た。
【0040】
次いで15gの1−メトキシ−2−プロパノール(Dowanol PM)を添加し、この混合物を分析した結果、MeOHが0.3%のみ含まれることが明らかとなった。非揮発性物の含量はASTM D−2369で測定した結果26.8%であった。
【0041】
以下の調製物を調製し、コロイド状酸化セリウム+シラン溶液の性能に対する安定化剤の衝撃を評価した。
【0042】
<実施例6>
前処理濃縮物を、実施例5に記載の方法を用いてシラン、コロイド状酸化セリウム、水及び添加剤(Dowanol PM、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、Silquest A−1230)を混合して調製した(表6A)。
【0043】
表6A
【表7】

ACT Laboratoriesの冷圧延鋼(CRS)、及びG70加熱浸漬亜鉛鍍金鋼(HDG)、及びQ panel 3105合金アルミニウムを以下の通りに処理した。
洗浄:Kleen 132を用い、130°Fで、HDGでは5秒間、CRSでは30秒間、及びアルミニウムでは5秒間スプレーした。
リンス:脱イオン水で5秒。パネルを室温で空気乾燥。
前処理:治療前濃縮物を10重量%まで脱イオン水で希釈し、逆ロールコーティングで塗布した。
乾燥:パネル表面上の溶液をホットエアガンを使用して乾燥させた
【0044】
冷圧延鋼パネルに、Akzo Nobel Coatings社のlighting fixture white(PW8R30708)を塗布した。アルミニウムパネルに、Valspar社の熱硬化性白色ポリエステル(91101−76441)を塗布した。熱浸漬亜鉛めっきパネルに、PPGインダストリーズ社のblack Truform ZT2(3MB72689I)を塗布した。製造業者の説明書に従い塗料を塗布し、硬化させた。塗装後、CRS及びHDGパネルをそれぞれ336時間及び500時間ASTM B−117に従い、中性塩水噴霧試験(NSS)に供した。また、アルミニウムパネルを500時間、ASTM B 117−97付録Iに従い、酢酸酸性塩水噴霧(AASS)に供した。次いで全てのパネルを、ASTM D 1654(表6B、C、D)に従い、クリープ(mm)に関して評価した。
【0045】
表6B
NSS曝露
CRSクリープ(mm)
【表8】

【0046】
表6C
NSS曝露HDG
クリープ(mm)
【表9】

【0047】
表6D
AASS曝露アルミニウム
クリープ(mm)
【表10】

【0048】
本発明を具体的な実施例に基づき詳述したが、本発明はかかる開示された実施的態様に限定されないと理解すべきである。言い換えると、本発明は本願明細書に記載しなかった任意の改良、変更、置換又は等価物への再構築が可能であるが、それらは本発明の技術的思想及び範囲内に包含される。すなわち本発明は前述の説明の態様に限定されることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属表面上への化成又は不動態化コーティングの形成方法であって、前記金属表面を、(a)コロイド状酸化物粒子、及び(b)ウレイドシラン化合物若しくはその加水分解形を含有する水溶性ゾル組成物と接触させることを含んでなる方法。
【請求項2】
前記コロイド状酸化物粒子が、コロイド状金属酸化物及びシリカ粒子からなる群から選択される材料を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記コロイド状酸化物粒子が酸化セリウム粒子を含んでなる、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記水溶性ゾル組成物が更に(c)安定化剤を含有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記安定化剤が、グリコール、グリコールエーテル、アルコール、エステル及びポリエーテルシランからなる群から選択されるメンバーを含有する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ウレイドシランがγ−ウレイドプロピルトリメトキシシランを含有する、請求項1記載の方法。
【請求項7】
−Cアルコキシル化シランアジュバント又はその加水分解物を更に含有させる、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記C−Cアルコキシル化シランがオルトケイ酸テトラエチルである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記金属表面が鋼を含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記金属表面がアルミニウムを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記鋼が冷圧延鋼、熱圧延鋼及び亜鉛コーティング鋼板から選択される部分を含んでなる、請求項9記載の方法。
【請求項12】
前記ゾル組成物が実質的にクロミウム不含有である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記ゾル組成物が実質的にリン酸塩不含有である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記ゾル組成物がコロイド状シリカを含有する、請求項2記載の方法
【請求項15】
金属表面を処置して、1平方フィートあたり約0.5mg超の化成不動態化コーティングを前記表面に形成する方法であって、前記方法が、前記金属表面を、(a)コロイド状酸化物粒子及び(b)ウレイドシランを含有する水溶性ゾル組成物を含む水溶性処理組成物と接触させることを含んでなる方法。
【請求項16】
前記コロイド状酸化物粒子が、コロイド状金属酸化物及びシリカ粒子からなる群から選択される材料を含んでなる、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記コロイド状酸化物粒子が酸化セリウム粒子を含有する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記コロイド状酸化物がシリカである、請求項16記載の方法。
【請求項19】
金属表面を処置し、その上に化成又は不動態化コーティングを形成するための組成物であって、前記組成物に対して、(a)約0.001〜36重量%のコロイド状酸化物ゾル粒子、及び(b)約0.01重量%〜80重量%のウレイドシラン化合物、並びにその他主に水を含有する水溶性ゾルを含んでなる組成物。
【請求項20】
前記コロイド状酸化物粒子がコロイド状金属酸化物及びシリカ粒子からなる群から選択される材料を含有する、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
前記コロイド状酸化物粒子(a)が酸化セリウム物粒子である、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
前記コロイド状酸化物粒子がシリカを含有する、請求項20記載の組成物。
【請求項23】
前記ウレイドシラン(b)が、以下の構造を有するか、
【化1】

又はかかるシランの加水分解物又は凝縮物であって、式中、Dがメチル基又は(OR)から独立に選択され、少なくとも1つのDが(OR)であり、各Rは水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル及びアセチル基からなる群から独立に選択される、請求項19記載の組成物。
【請求項24】
前記ウレイドシラン(b)がγウレイドプロピルトリメトキシシランを含有する、請求項19記載の組成物。
【請求項25】
約1〜20重量%の量で(c)安定化剤を更に含有する、請求項19記載の組成物。
【請求項26】
0.00〜20重量%の量で(d)C−Cアルコキシル化シラン又はその加水分解物を更に含有する、請求項24記載の組成物。
【請求項27】
前記C−Cアルコキシル化シラン又はその加水分解物が、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)である、請求項26記載の組成物。
【請求項28】
前記安定化剤がグリコール、グリコールエーテル、アルコール類及びポリエーテルシランからなる群から選択される材料を含有する、請求項25記載の組成物。
【請求項29】
実質的にクロミウム不含有である、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
実質的にリン酸塩不含有である、請求項28に記載の組成物。

【公表番号】特表2008−537980(P2008−537980A)
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−505374(P2008−505374)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/011528
【国際公開番号】WO2006/110328
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(507267193)モーメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・インク (23)
【Fターム(参考)】