リンパ組織におけるリンパ増殖、クローン拡大、動員および輸送ならびにそれらに対する抗原および調整剤のインビボ作用を定量するためのキネティックバイオマーカー
本発明の方法では、インビボ環境において、リンパ球の増殖、クローン拡大、輸送および/またはリンパ組織への動員を測定することfが可能である。リンパ球の増殖、クローン拡大、動員および/または輸送は、新しく合成されたDNAを標識するために安定同位体を使用し、新しく標識されたDNAを単離し、単離されたDNAの濃縮を質量分析法または他の適当な技法で定量することによって測定される。このような方法は、リンパ球の増殖、クローン拡大、動員および/または輸送に対する刺激効果または阻害効果について候補薬物をスクリーニングするのに役立つ。本方法では、HIV感染などの免疫調節の障害における治療剤の発見およびワクチン効力の最適化も可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2005年9月6日に出願された米国仮特許出願第60/714,873号に基づく優先権を主張し、前記米国仮特許出願は、参照により、その全てが本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、免疫細胞の増殖、クローン拡大、動員および/または輸送ならびに生きている生物におけるこれらの過程の変化を測定するための方法に関する。より具体的には、本方法により、免疫学、ワクチン、および基礎科学研究の分野において、リンパ球の増殖および輸送ならびにリンパ球の増殖および輸送の変化を評価することが可能になる。また、本方法により、抗原および免疫調整剤(例えば薬物もしくは薬物候補またはワクチン)が前記リンパ球のクローン拡大、増殖、動員および/または輸送に及ぼす作用を評価することもできる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
抗原特異的リンパ球のクローン増殖は、適応免疫の基礎をなす基本的機序である。リンパ球には、極めて多様な抗原受容体構造(B細胞抗原受容体=表面免疫グロブリン;αβおよびχδT細胞抗原受容体;各受容体の何百万という構造変異体)が存在する。各構造変異体は体細胞遺伝子組換えおよび体細胞突然変異イベントによって生成し、リンパ球の個々のクローンが、抗原に対してユニークな特異性を持つ抗原受容体を発現させることを可能にしている。所与の抗原に特異的な受容体を持つ細胞は、その抗原が受容体によって結合されるとシグナルを受取り、それが、多くの機能的帰結につながりうる活性化および分化イベントを誘発する。これらの帰結には、なかんずく、抗原特異的細胞の死、機能不応答の誘導、増殖、およびサイトカインの分泌などが含まれる。抗原特異的リンパ球の抗原駆動的な増殖が起こる場合、それをクローン拡大という。なぜなら、増殖は、抗原刺激を受容するリンパ球のクローンで選択的に起こるからである。クローン拡大は、その抗原に2回目に曝露された時に応答することができる細胞の数を増加させるという正味の効果(免疫記憶と呼ばれる現象)を持つ。また、拡大された細胞は、二次刺激時に、抗原に対してより鋭敏に応答し、その応答は、しばしば、ナイーブ細胞の応答とは質的に異なる。
【0004】
抗原に応答して起こるクローン拡大の規模は、免疫応答の機能的帰結にとって極めて重要である。抗原特異的リンパ球の拡大は、移植された臓器の拒絶(アロ抗原に特異的なリンパ球)、自己免疫(自己抗原に異常応答するリンパ球)、およびアレルギー(環境抗原に応答するリンパ球)を含む免疫系の疾患において、極めて重要な構成要素である。したがって、医薬品開発においては、これらの異常リンパ増殖応答をさまざまな選択度で妨害する薬剤の開発に強い関心が持たれてきた。この分野における懸念のもう一つの例では、有望な薬剤は、予想外のアレルギー反応または自己免疫を誘発する場合があり、そのため、候補薬物のかなりの部分が、臨床開発の後期段階になって、手痛い撤退を余儀なくされる。これらの薬物誘発応答または薬物特異的応答も、リンパ球増殖の刺激を伴う。
【0005】
HIV-1感染および後天性免疫不全症候群(AIDS)を含む一定の進行性免疫不全症候群は、慢性的なまたは正常レベルより高い免疫活性化を特徴とする。この活性化は、いくつかの機序により、疾患進行(免疫機能の止めがたい喪失)の一因になると考えられる。しかし、古典的な免疫抑制剤を使用することは、基礎にある免疫不全を悪化させる懸念があるため、これらの状況では問題が多い。
【0006】
慢性的免疫活性化は、進行性免疫不全の一因となりうるいくつかの過程、例えばナイーブT細胞をメモリー/エフェクタープールへと動員することによるナイーブT細胞プールの枯渇;T細胞レパートリーの欠陥につながる、活性化誘導細胞死による抗原特異的メモリー/エフェクターT細胞の枯渇;胸腺機能および長期リンパ球ホメオスタシスの他の側面の変化;標的細胞(複製または活性化CD4+T細胞)の供給によるHIVウイルス複製の喚起;およびリンパ節(LN)線維症を含む末梢リンパ組織の構造への損傷などを、刺激することが示されている。
【0007】
感染状態およびさまざまな免疫不全障害でしばしば観察される慢性的な免疫活性化が、それ自体、潜在的に免疫ホメオスタシスを損なっているという概念は、最近の多くの研究によって補強されてきた。免疫不全/免疫作用/悪化した免疫不全/悪化した免疫活性化/などからなる自己永続的サイクルを展開する病態生理学的モデルが出現している。
【0008】
慢性的免疫活性化はさまざまな測定基準を使って同定することができる。最も高感度な指標の一つは、HIV/AIDSを持つヒト被験者で広く記録されているように、T細胞の増加した増殖速度である。他の尺度も使用することができ、当技術分野でよく知られている。
【0009】
しかしHIV/AIDSにおける免疫活性化を減少させようとする治療的努力は、体系的でなく、一般に強い印象を与えるものではなかった。シクロスポリンAなどの古典的免疫抑制薬は、抗原シグナリングに応答して起こるリンパ球増殖を減少させることによって作用する。他の免疫抑制薬の大半は、当技術分野で周知のサイトキサン、プレドニゾン、その他を含めて、細胞毒性である(すなわち細胞分裂を阻害するか細胞死を引き起こす)。免疫不全を特徴とする障害におけるこれらの薬剤の使用は、医師からは警戒と疑いの目で見られてきた。HIV-1感染にシクロスポリンAを用いる小規模な臨床試験が企てられたが、結果は曖昧であり、HIV/AIDS治療において、現時点で有望な治療手法であるとはみなされていない。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、創薬ツールおよびそのようにして発見された薬物を用いる治療戦略を含む。出願人は、リンパ球の増殖、輸送およびリンパ節(LN)への動員を妨害する候補薬剤を同定する手段、ならびにそのような薬剤の至適用量または至適レジメンを同定するための手段を、ここに開示する。
【0011】
出願人は、細胞毒活性または他の古典的免疫毒性を伴わずに慢性的免疫活性化を減少させることにより、一定の免疫不全疾患における免疫不全の進行を減速するための治療方法も開示する。本方法は、腸もしくは末梢組織またはその両者における誘導部位(例えばLN)へのリンパ球のホーミングを減少させるまたは防止する薬剤を、初発または既存免疫不全症候群を持つ対象に投与することを含む。結果として、進行性の免疫機能喪失に関与するいくつかの過程、例えばリンパ球の活性化および増殖;ナイーブT細胞の二次的枯渇;メモリー/エフェクターT細胞プールにおける抗原特異的レパートリーの喪失;胸腺機能障害を含むリンパ球ホメオスタシスの変化;標的細胞の供給によるHIV-1感染におけるHIV複製の喚起;ならびに線維症を含むリンパ節構造への損傷などを減少させることができる。リンパ球輸送を妨害する薬剤は細胞毒性作用を持つ必要はなく、それゆえに免疫不全症候群における使用には理想的な治療薬候補である。
【0012】
出願人は、リンパ球の増殖、クローン拡大、LNへの動員および輸送の調整物質である候補薬剤を同定するための方法、ならびにリンパ球の増殖および/またはクローン拡大および/またはLNへの動員および/または輸送を調整することによってワクチンの効力を改善しかつ/またはHIV/AIDSを含む進行性免疫不全症候群を処置する候補薬剤を発見するための方法も、ここに開示する。
【0013】
もう一つの態様として、本発明は、リンパ球の増殖、クローン拡大、動員または輸送を測定するための方法であって、(a)生物(動物またはヒト対象)の足蹠または当技術分野で知られている他の解剖学的部位に抗原(免疫原)を投与すること(免疫化);(b)複製中のDNAに入ることが知られている同位体ラベルを、免疫化中または免疫化後に投与すること;(c)免疫化後、所定の時点で、免疫化部位に所属する1以上のリンパ節(LN)を収集すること;(d)そのLNから関心対象の細胞を単離または分離すること;(e)単離した細胞の増殖速度(キネティクス)を、前記細胞から得られるDNAへのラベルの組み込みに基づいて測定すること;(f)キネティクスを測定した細胞についてLNの細胞性(細胞数)を測定すること;(g)細胞のクローン拡大(局所的細胞増殖)速度およびLNへの動員速度を算出すること;ならびに(h)薬物を投与された被験者を、処置されていない被験者(対照)と比較して、LNへの細胞動員またはLNにおけるクローン拡大を阻害する薬剤を同定することを含む方法を提供する。
【0014】
ある実施形態では、免疫原がKLH、DNCB、または当技術分野で知られている他の免疫原である。
【0015】
もう一つの実施形態では、投与される同位体が、2H2O、2H-グルコース、3H-チミジン、BrdU、または当技術分野で知られている他のトレーサーを含むリストから選択される。
【0016】
もう一つの実施形態では、単離されるLNが膝窩LNであり、免疫原投与部位が齧歯類動物の同側足蹠である。
【0017】
さらにもう一つの実施形態では、LNから単離される関心対象の細胞に、T細胞、CD4+T細胞、B細胞、および当技術分野で知られている他の免疫細胞が含まれる。
【0018】
本発明において、使用される動物は、魚、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、イヌ、霊長類および当技術分野で知られている他の動物から選ばれる。
【0019】
本発明のもう一つの態様では、細胞の増殖速度(キネティクス)を測定する手段が、2H2Oからの重水素の組み込みによる。
【0020】
本発明のもう一つの態様では、細胞性(細胞数)を測定するための方法が、蛍光フローサイトメトリーまたは当技術分野で知られている他の技法による。
【0021】
本発明のもう一つの態様では、免疫化後の所定の時点が7日である。
【0022】
ある実施形態では、対照と比較される薬物が、細胞接着の阻害剤、ホーミング受容体の阻害剤、血管受容体のアンタゴニスト、または当技術分野で知られている他の阻害戦略を含むクラスから選択される。
【0023】
もう一つの実施形態では、対照と比較される薬物が、樹状細胞による抗原提示もしくは抗原プロセシングまたはサイトカイン分泌の阻害剤、またはLNへの細胞の動員に関与することが知られている他の因子を含むクラスから選択される。
【0024】
もう一つの実施形態では、薬剤が細胞動員またはクローン拡大に及ぼす効果について、用量応答曲線が作成される。
【0025】
本発明は、抗原/アジュバント調製物に応答して起こる長寿命メモリーリンパ球集団の生成を測定するための方法であって、(a)1以上のアジュバントを使って、またはアジュバントを使わずに、1以上の抗原調製物で、または抗原調製物を使わずに、1以上の脊椎動物を免疫すること;(b)所定の期間、前駆体プール中に一定な同位体濃縮が達成されるように、1以上の、デノボDNA合成の同位体標識前駆体を投与すること;(c)7日から2年までの範囲の期間、ラベル投与を停止すること;(d)増殖細胞が濃縮された1以上のリンパ球集団を単離し、数え上げること;(e)前記リンパ球集団から単離したDNA中の同位体ラベル保持を定量すること;および(f)前記リンパ球集団中の保持ラベル量および細胞数から、ラベルの停止以来残っている細胞を算出することを含む方法も提供する。
【0026】
本発明の一態様では、脊椎動物が同系交配マウス系統である。
【0027】
本発明のもう一つの態様では、脊椎動物が、リンパ球増殖とリンパ球動員とが分離されている同系交配齧歯類動物系統である。
【0028】
本発明のもう一つの態様では、同系交配齧歯類動物系統がBalb/cマウス系統である。
【0029】
ある実施形態では、抗原がT依存性タンパク質抗原である。
【0030】
もう一つの実施形態では、タンパク質抗原がキーホールリンペットヘモシアニンである。
【0031】
もう一つの実施形態では、同位体標識前駆体が重水または重水素化グルコースである。
【0032】
もう一つの実施形態では、重水が2H2Oである。
【0033】
ある実施形態では、免疫化が、リンパ排液パターンがわかっている部位への抗原の皮下注射によって行われ、増殖細胞が濃縮されたリンパ球集団は、前記注射部位に所属する1以上のリンパ節に由来するリンパ球またはその表現型サブセットから構成される。
【0034】
もう一つの実施形態において、本発明は、2以上の代替抗原調製物に対するリンパ増殖応答の規模および/または寿命を比較するための方法であって、それぞれ代替抗原調製物で免疫された、または抗原を欠く賦形剤調製物で擬似免疫された、異なる動物群に適用される、本明細書記載の方法のステップを含む方法を提供する。
【0035】
本発明は、1以上のアジュバントの、リンパ増殖または安定メモリー細胞の形成を強化する能力を測定するための方法であって、その1以上のアジュバントを使ってまたは使わずに製剤されたレポーター抗原で免疫された動物群に適用される、本明細書記載の方法のステップを含む方法も提供する。
【0036】
本発明は、1以上の候補薬剤の免疫刺激能、アレルゲン能、または自己免疫原能を測定するための方法であって、1以上の抗原としての、適切な賦形剤中の前記化合物または薬剤の懸濁液または溶液で免疫された動物群、および賦形剤なしの対照動物群に、本明細書記載の方法を適用することによる方法も提供する。
【0037】
本発明は、1以上の候補薬剤によるリンパ増殖および生存の調整を測定する方法(前記候補薬剤は推定上の免疫抑制剤または免疫調整剤である)であって、前記候補薬剤で全身処置もしくは局所処置した動物群、または賦形剤で処置した動物群に、本明細書記載の方法を適用することによる方法も提供する。
【0038】
本発明は、LNへの細胞動員の阻害剤を投与することによってヒトの慢性進行性免疫不全症候群を処置するための方法であって、(a)本明細書に記載する方法によってLNへの細胞動員の阻害剤と同定された薬剤による処置;(b)そのようにした発見された前記薬剤を用いる、初期HIV-1感染またはAIDS(進行HIV感染)を持つヒト対象の処置;(c)免疫活性化を減少させ、免疫不全の進行を減速するための、長期間または短期間の処置を含む方法も提供する。
【0039】
ある実施形態では、処置された対象における免疫活性化に対する効果が、当技術分野で知られている技法を使った、その対象におけるリンパ球増殖の測定によって監視される。
【0040】
もう一つの実施形態では、LNへの細胞動員に対する効果が、LN組織の生検により、本明細書に開示する方法を使って測定される。
【0041】
したがって、一態様として、本発明は、生物系(living system)におけるリンパ増殖を測定するための方法を提供する。本方法は、安定同位体標識基質を、その基質が少なくとも一つのDNA前駆体分子に組み込まれて、1以上の標識デオキシリボヌクレオチド(プリンデオキシリボヌクレオチドは最適であるが、これに限るわけではない)を形成し、次にそれが、その生物系の細胞周期のS期にある細胞中でDNAの成長鎖に組み込まれるのに十分な期間にわたって、その生物系に投与することを含む。適宜、異なる期間に、数回の投与を行うこともできる。第1試料をその生物から得る。ここでも、適宜、複数の試料を得ることができる。次に、前記試料に由来する前記DNAから得られるデオキシリボヌクレオチドの同位体含量および/または標識パターンを定量する。
【0042】
ある実施形態では、標識デオキシリボヌクレオチドの同位体含量および/または標識パターンを、対照生物系に観察される標識デオキシリボヌクレオチドの同位体含量および/または標識パターンと比較することにより、対照生物系と比較した時の上記生物系におけるリンパ増殖の相違を決定する。いくつかの態様では、デオキシリボヌクレオチドがプリンデオキシリボヌクレオチドであり、具体的にはデオキシアデノシンである。
【0043】
関連する一実施形態では、LN中のリンパ球またはリンパ球亜集団の細胞数を当技術分野で知られている方法で同時に決定し、リンパ増殖の速度と比較することにより、前記LNへの細胞動員および/または細胞輸送の速度を、前記LN中の前記リンパ球集団のクローン拡大速度と同様に算出する。
【0044】
さらにもう一つの態様において、本発明は、適宜、同位体標識基質の投与前、投与中または投与後に、その生物系に1以上の候補薬剤を投与することをさらに含む方法を提供する。随意の実施形態では、対象に前記1以上の候補薬剤が存在しない状態で行われるリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の第1決定と、前記1以上の候補薬剤を投与した後に行われる第2決定とを利用する。さらなる随意の実施形態では、異なる濃度の候補薬剤の投与を利用する。
【0045】
もう一つの態様において、本発明は、適宜、同位体標識基質の2回以上の投与、例えば複数の不連続な投与を行う。リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の決定は、各投与ごとに行うことができる。
【0046】
本発明の方法は、創薬、薬剤開発、および承認工程の全ての段階、ならびにリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の変化に関連する状態の診断に役立つ。
【0047】
あるいは、本発明の方法は、産業化学物質および職業化学物質、環境汚染物質、農薬、食品添加物、化粧品などの毒性環境化学物質への曝露による傷害の検出に役立つ。
【0048】
図面の簡単な説明
図1:モデルおよび実験計画.A,7日間の試験で、細胞動員、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送が、リンパ節の細胞性(c)、分裂した細胞の分率(f)、および絶対リンパ増殖(abs)に及ぼす効果に関するモデル。a,100個のリンパ球を含有する休止LN中、約10%/週のホメオスタティックな代謝回転(黒い細胞)。b,正味の動員を伴わない抗原刺激は、最初に存在した1個の稀な前駆体(aにおける橙色の細胞)を拡大し、3回の細胞分裂で7個の新しい抗原特異的応答細胞(赤色)を生成して、fを60%増加させ、細胞性を7%増加させる。c,動員はLN細胞性および増殖細胞の数を2倍にする;分裂細胞と休止細胞が等しく動員されるならば、fは変化しない。d,これら2つの過程が独立して寄与すると仮定した、免疫応答時の動員とクローン拡大との同時効果。B,足蹠免疫化後のPLN中の分裂細胞の連続的2H2O標識に関する実験計画。
図2:免疫化後のLN細胞DNAにおける増加したf.(A)時間経過.Balb/cマウスを、KLH 20μgで0日目に免疫し(または免疫せずに)、2H2Oで連続的に標識した。所属LN細胞をfについて解析した。各群2〜3匹の平均を示す。#,別途標識した動物のコホートから得た7日目のデータ。(B)サブセット解析,7日目。KLHありまたはKLHなしで7日前に免疫した2H2O標識Balb/cマウスから得たPLN細胞を、表示のとおり選別した。平均および個々の動物から得たデータを示す。*,2回以上の独立した試行で再現された、B細胞(p<0.001)およびT細胞(p=0.006;t検定)のfに対するKLHの有意な効果。CD4+T細胞fに対するKLH効果は、ここでは統計的に有意な水準に達しなかったが、他の試行では一貫して有意な効果が見られた(例えば11.3%±2.1%対7.5%±1.3%;p=0.017)。(C)T細胞fに対するシクロスポリンA(CsA)の効果。Balb/cマウスを、5μgのKLHまたはPBSで免疫し、2H2Oで7日間標識し、25mg/kg/日のCsAまたは賦形剤(5%エタノール)をp.o.投与した。*,賦形剤処置動物における免疫化(KLH対PBS)の有意な効果(p<0.001)、およびKLH刺激に対するCsA処置の有意な効果(p<0.001)、ただしベースラインfに対するCsA処置の効果は有意でない(p=0.116;二元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。個々のマウスから得たデータ、平均、およびSDを示す。(D)0.5mgのDNCBまたは賦形剤(1:1 PBS:DMSO)による免疫化後、7日目のPLNにおけるfのサブセット解析。*,CD4+(p<0.001)およびCD8+T細胞(p=0.005;t検定)に対する有意なDNCBの効果;各サブセットを少なくとも2回は解析した。
図3:抗原および刺激原に対するfおよびPLN細胞性の応答.(A〜C)Balb/cマウスをPBSまたはIFA中のKLH 20μgで免疫し、2H2Oで7日目まで標識し、PLNをf(A)および細胞性(B)について解析した。(C)では、絶対リンパ増殖を(細胞数×f)として算出した。Aでは、PLN細胞fに対するKLHの効果が有意であり(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.164;二元配置ANOVA)。Bでは、KLH(p=0.001)およびIFA(p<0.001)の独立効果は、どちらも有意だった(二元配置ANOVA、対数変換データ)。同様の傾向が各群2〜3匹の動物で行った他の二つの実験でも見られた。(D〜F)Balb/cマウスを、表示のとおり、0日目にPBS:DMSO 1:1中のDNCB 0.5mgで免疫するか、擬似免疫した。PLN細胞f(D)、細胞性(E)(例外的な細胞数を持つ1匹のPBS処置動物に注意)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*,f(D)および新細胞数(F)に対するDNCBの効果は有意だった(DMSOに対してt検定で、それぞれ、p<0.001およびp=0.02)。
図4:KLHおよびIFAに対する応答のサブセット解析.マウスを、PBSまたはIFA中のKLHまたはKLHなしで免疫し、図3と同様に2H2Oで標識した。ベースライン(PBS)に対するfの変化倍率(7日目)を、選別されたB細胞(A)およびCD4+T細胞(B)について示す。2回の独立した実験の結果を示す;fのベースライン値は、それぞれ、B細胞については8.02%および9.84%、CD4+T細胞については4.63%および7.77%だった。プールしたデータに対する二元配置ANOVAによれば、B細胞に対するKLHの効果は有意だったが(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.085)。CD4+T細胞に対するKLH(p<0.001)およびIFA(p=0.001)の効果はどちらも有意であり、互いに独立していた(交互作用に関してp=0.591)。
図5:さまざまな用量の抗原に対する応答中のLN細胞性およびf.(A〜C)KLH用量の効果。Balb/cマウスをPBS中のKLH 0、2.5、25、または250μgで免疫し、2H2Oで標識し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B;二回の平均)および絶対リンパ増殖(C)について解析した。各点は個々の動物を表す。(D〜F)DNCB用量の効果。PBS:DMSO中のDNCBによる免疫化7日後の細胞数(D)、f(F)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々のデータ、平均、およびSDを示す。Dでは、100μgでの細胞数が賦形剤対照とは異なり(*,p=0.003);500μgでの細胞数が他の全ての群と異なる(#,用量0および20μgに対してp<0.001、用量100μgに対してp=0.002;一元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。Eでは、用量100μgと用量500μgが相違しなかったこと(p>0.05;順位によるANOVA、Student-Newman-Keuls事後検定)を除いて、全ての群間で平均fが有意に異なった(p<0.05)。
図6:KLHとDNCBの両方による免疫化がPLN細胞の動態に及ぼす効果.Balb/cマウスに、PBS中のKLH 20μgの後、PBS:DMSO中のDNCB 500μg、または両方、または適当な賦形剤による免疫化を行った。KLH上の反応性側鎖に対するDNCBの化学反応性による効果を最小限に抑えるために、抗原を約6時間離して別々に投与することにより、DNCBによる修飾が起こる前に、KLHが捕捉され、加工され、輸送されるようにした。7日目に全PLN中のf(A)、細胞数(B)、および絶対リンパ増殖(C)の解析を行った。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。(A)において、fに対する個々の抗原の効果はどちらも有意だったが(対照に対してp<0.001)、二重免疫化はKLH単独の場合と区別がつかなかった(p=0.64;KLH効果とDNCB効果の間の有意な交互作用、p=0.001)。(B)および(C)において、KLH(p<0.004)およびDNCB(p<0.001)の効果は独立していた(比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。結果は3回の独立した実験を代表している。
図7:KLHおよびDNCBによる免疫化がCD4+T細胞およびB細胞におけるfに及ぼす効果.図6の実験を繰り返した。PLNから得た、選別されたCD4+T細胞(A、C)およびB細胞(B、D)を、f(A、B)および絶対リンパ増殖(C、D)について解析した。CD4+T細胞のfならびにBおよびCD4細胞の絶対リンパ増殖に対するKLHおよびDNCBの相加的効果は有意だった(それぞれp<0.001;交互作用に関してp>0.05)。(B)において、B細胞fは、KLHでは有意に増加したが(p<0.001)、DNCBでは有意には増加しなかった(p=0.358);DNCBが存在する場合、KLHの効果は有意に低かった(p=0.009;交互作用に関してp=0.012;比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。同様の結果が独立した2回の実験で得られた。
図8:fおよびLN細胞性に対する差別的薬物効果.Balb/cマウスを5μgのKLHまたはPBSで免疫し、表示の薬物で毎日、処置し(Dex、デキサメタゾン、0.3mg/kg/日、シクロデキストリン中、p.o.;Rap、ラパマイシン、2mg/kg/日、5%エタノール中、p.o.;Tax、パクリタキセル、10mg/kg/日、1:1:5 Cremaphor EL:エタノール:水、i.p.;OHU、ヒドロキシ尿素、500mg/kg/日、水中、i.p.;賦形剤、パクリタキセル群と同じ)、7日目に屠殺するまで2H2Oで連続的に標識した。KLH免疫動物(A)または擬似免疫動物(B)から得た所属LN細胞中の増殖細胞を、(f×細胞数)として数え上げた。(C〜H)Tax(C、D)、Rap(E、F)、またはOHU(G、H)で処置した(または処置していない)動物におけるLN細胞性(C、E、G)およびf(D、F、H)の解析。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*、一元配置ANOVAにより賦形剤対照に対してp<0.05;(*)、有意ではないが、類似する規模の有意な効果(p<0.05)が複数の追跡試験で観察された。
図9:C57BI/6マウスにおいてKLHに応答して起こるリンパ増殖.(A〜C)B6マウスを2〜200μgのKLHで免疫し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B)、および絶対リンパ増殖(C)を測定した。個々の動物から得たデータを示す。(D)PBSまたはKLH免疫化後のfの経時変化。各群2〜3匹について平均およびSDを示す。(E)200μgのKLHによる免疫化7日後の、選別されたB細胞および全T細胞におけるfの解析。
図10:努力を続けるか中止するかを決断するための手段としてリンパ増殖に対する効果(すなわち本発明の方法によって収集されるデータ)を用いる創薬、薬剤開発、および承認(DDDA)工程を表す概略図。
図11:創薬および薬剤開発工程における本発明の使用を例示する図。
【0049】
発明の詳細な説明
I.発明の全体像および概論
A.免疫活性化を減少させるための新しい戦略
細胞毒性剤を使用せずにリンパ球活性化を減少させるための戦略は非常に望ましい。HIV-1感染に関して、この治療戦略は、公表された研究に基づいて、最近その信憑性が増している。
【0050】
逆に、病的異常を伴わない抗原特異的リンパ増殖応答の制御された刺激は、ワクチンの基本的作用機序である。治療用ワクチンが短い時間枠内でエフェクターリンパ球の拡大を最大化しなければならないのに対し、予防用ワクチンは、次の攻撃を受けた時にすぐに保護を与えることができる初回刺激済み細胞の持続的プールをもたらす長寿命メモリーリンパ球の生成を最大化しなければならない。このようにワクチン開発の分野では、抗原特異的リンパ球の初期産生速度と、拡大された細胞集団の寿命とが、どちらも、最適化の標的になる。
【0051】
上記の分野では、前臨床研究および臨床研究のために、抗原特異的リンパ増殖の改良されたインビボ尺度が、かなり必要とされている。リンパ増殖研究の大部分はインビトロで行われてきたので、測定される応答の規模は限られている。なぜなら、その応答は、基礎をなすインビボ細胞動態を間接的にしか反映していないからである。
【0052】
さらにまた、動物における増殖研究に用いられる現在の方法論は、煩雑であり、問題が多かった。例えば、膜色素希釈(membrane dye dilution)アプローチは、正確ではあるが、関心対象の細胞を単離し、蛍光色素を使ってエクスビボで化学標識する必要があり、それは、細胞の応答性を変化させ、一部の実験計画を不可能にする場合がある。トリチウム化ヌクレオシド類似体(一般的には3H-チミジンデオキシリボヌクレオシド、3H-TdR)またはブロモデオキシウリジン(BrdU)によるインビボ標識の価値は限られている。なぜなら、ラベルの組み込みが細胞ごとに均一でなく、特に、ラベル保持キネティクスは結果として解釈することが困難だからである。さらにまた、これらのラベルは危険であり、インビボで十分な標識を達成するためにしばしば必要となる高用量では、放射線障害を引き起こしたり(3H-TdR)、骨髄毒性を引き起こしたりする(BrdU)。それゆえ、実際には、それらは免疫化研究の最後の数時間にしか使用されないことが多い。したがって、ラベルの組み込みは、その研究の全過程を通したリンパ増殖の程度を完全には反映せず、新しく分裂した細胞のアポトーシスによる喪失を、過小評価する可能性がある。
【0053】
増殖の代用マーカー、例えばDNA含量およびKi-67またはPCNAなどの細胞周期関連タンパク質は、試料採取時点で活動的細胞周期にある細胞しか同定しないので、標識法よりもさらに感度が低い。さらにまた、これらの代用マーカーも、増殖速度の差を(薬物が細胞周期停止を誘導する状況またはアポトーシスが増加している状況では特に)過小評価する場合がある。これらの理由から、免疫機能の末端的尺度、例えば抗体産生、感染性攻撃からの保護、自己免疫性の炎症もしくは組織損傷、または移植片拒絶などと比較して、細胞増殖の研究は、免疫機能のインビボ解析には、小さな役割しか果たしてこなかった。
【0054】
本発明は、安定同位体を使ってDNAを標識する方法を提供することにより、リンパ増殖の測定における上述の問題を解決する。DNAは、デノボ合成系路によって、均一かつ高度に標識される。この方法により、ヌクレオチド(サルベージ)前駆体による不均一な標識に起因する問題が克服される。使用する安定同位体ラベル、例えば2H-グルコースまたは 重水(2H2OまたはH218O)は、動物およびヒトにとって無毒性であり、米国食品医薬品局(FDA)により、一般に安全と認められる(GRAS)。したがって、そのようなアプローチは、前臨床的背景においても、臨床的背景においても、正確であり、効率的であり、かつ安全である。
【0055】
B.本発明の概観および結果
ポリクローナル免疫応答時に抗原特異的リンパ球の増殖と細胞動員とが統合される方法は、未だによくわかっていない。本出願人は、これらの過程が、分裂細胞の分率(f)および初回抗原刺激を受けたリンパ節における細胞性の変化に、差別的に寄与することを、ここに示す。本出願人は、2H2Oによるインビボ標識後に、分裂細胞のDNAへの2H組み込みからfを決定した。キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または2,4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)によるBalb/cマウスの免疫化は、所属リンパ節におけるfを増加させたが、不完全フロイントアジュバント(IFA)またはジメチルスルホキシドの注射は、所属リンパ節におけるfを増加させず;全ての刺激が細胞数を増加させた。リンパ節の細胞性およびfは、抗原用量、IFAの添加、および前駆体頻度を増加させるための二つの無関係な抗原を使った免疫化により、差別的に調節された。これらの状況において、fはプラトーに達し、絶対リンパ増殖(f×細胞性)は、増加した細胞動員によって、それ以上に増強された。免疫抑制薬および抗増殖剤も、細胞性およびfを差別的に調整した。前駆体頻度およびカルシニューリンはCD4+T細胞における抗原刺激されたfを調節し;リンパ節全体におけるfのプラトー値は、T細胞応答およびB細胞応答の差別的調節を反映した。抗原刺激リンパ節のf(クローン拡大を反映)および細胞性(細胞動員に支配される)の独立した変化は、ワクチン設計および免疫調整剤の発見にとって重要な意味を持つ。さらに詳細な説明については以下を参照されたい。
【0056】
C.発明の概論
リンパ節(LN)は、一次免疫応答中に抗原とナイーブリンパ球とが遭遇するための微小環境を提供する。可溶性抗原と、主要組織適合性複合体(MHC)結合抗原を運ぶ樹状細胞とは、炎症組織からLNに入り;ナイーブリンパ球は血液から入る。T細胞領域内のCD4+T細胞はコグネイトペプチド/MHC複合体を求めて樹状細胞を走査する。それらは、そのT細胞受容体(TCR)を介して刺激されると、LN中に保持され、増殖し、コグネイトB細胞が増殖して胚中心を形成するのを助ける。前駆体頻度、細胞動員、抗原シグナルおよび共刺激シグナル、サイトカイン、および調節性T細胞の全てが一次応答を形作る。しかし、これらの因子が統合される方法は、今もよくわかっていない。リンパ球初回刺激のインビボ研究は、抗原受容体トランスジェニックリンパ球に依拠してきた。しかし、これらのモノクローナル集団は、その発生運命および機能において、典型ではないかもしれない。それらの機能的可塑性および増殖活性は、養子移入された細胞の頻度に依存し、その規則はまだ理解され始めたばかりである。対照的に、LNへのリンパ球動員は、ほとんどの場合、短い時間尺度で非特異的な刺激を使って研究されてきた。ポリクローナル応答への細胞動員の寄与は完全にはわかっていない。
【0057】
出願人は、LNにおけるポリクローナル応答時のリンパ球動員と抗原駆動的増殖との統合を研究したいと考えた。出願人は、これらの過程が、存在する分裂細胞の百分率および絶対数に、差別的に影響を及ぼすかもしれないと推論した(図1A)。極端な場合、数個の抗原特異的前駆体のクローン拡大が、動員なしで、LN中の増殖細胞の分率と絶対数をどちらも増加させ、細胞数の増加分は全て、標識された、新しく分裂した細胞によるものになるだろう(図1Aのaとbを対比)。他方、炎症細胞動員は、クローン拡大なしで、絶対数を増加させるだろうが、分裂細胞の百分率は増加させないだろう(図1Aのaとcを対比)。強い免疫応答では、新しく分裂した細胞の分率の増加と、休止細胞およびホメオスタティックに増殖する細胞の動員との両方が、細胞数の増加に寄与する(図1Aのd参照)。
【0058】
リンパ球動態に対するこれらの寄与を切り分けるには、LN中の分裂細胞と非分裂細胞の分率(f)を正確に定量する必要がある。しかし、増殖を測定するためによく用いられる技法は、この作業課題には不適格である。ピリミジンヌクレオシド類似体(例えばBrdU)を用いる分裂細胞の生合成標識は分裂細胞を過小評価する可能性がある。サルベージ経路によるDNAへのBrdUの組み込みは、胚中心または胸腺などのアポトーシス性微小環境に存在する細胞外ヌクレオシドによって阻害される。サルベージ経路は新たに合成されるDNAのさまざまな分率を占める。抗BrdU染色は類似する細胞タイプ間で異なる場合があり、バックグラウンドを上回るシグナルを検出することは困難になりうる。インビボでは、BrdU代謝により、変動性がさらに大きくなりうる。BrdUは、多くの場合、研究の最後に短いパルスとして与えられるが、これは、総増殖量を過小評価する実験計画である。連続的に与えた場合、BrdUは免疫応答を損ない、迅速に代謝回転する骨髄性細胞に影響を及ぼす。したがって、BrdUは、分裂免疫細胞および非分裂免疫細胞の不偏的定量には、あまり適していない。CFSE希釈法では、複製歴の正確な追跡が可能であるが、エクスビボ標識細胞の導入を必要とし、それが一次ポリクローナル応答の解析を妨げる。
【0059】
出願人は、以下に詳述する連続的標識プロトコールで重水(2H2O)を無毒性非放射性ラベルとして使用する代替アプローチを開発した。
【0060】
適応免疫応答時には、活性化された、抗原を保持する樹状細胞およびリンパ球が所属リンパ節へと遊走し、次に、その所属リンパ節では、抗原および共刺激に推進されて、稀な抗原特異的リンパ球が増殖することになる。増殖応答の規模に対するリンパ球遊走とクローン拡大の寄与は、正常動物ではまだ決定されていない。ここに出願人は、2H2Oとして経口投与された重水素(2H)によるデノボ合成DNAのインビボ標識により、リンパ増殖を定量した。
【0061】
抗原に応答して分裂する細胞の絶対数は、以下に述べる三つの変量の積として理解することができる。
【0062】
1)有効リンパ球前駆体頻度(PF):関心対象のリンパ球集団における、抗原に応答する能力を持つクローン前駆体の頻度。これ自体は、抗原受容体レパートリーの利用可能な多様性;抗原中に存在しうる異なる抗原構造または抗原決定基であって、ホストのリンパ球集団中に適合する抗原受容体を持つものの数;および前記抗原決定基に対する前記抗原受容体の親和性によって決定される。ベースラインレパートリーおよびナイーブリンパ球の総数は、一方では細胞死、また他方では一次リンパ器官(骨髄、胸腺)からの産生量と、ホメオスタティックな増殖との間のバランスによって維持される。
【0063】
2)クローン拡大の細胞あたり効率(CE):各前駆体細胞が起こす逐次的細胞分裂の回数。この数はさまざまな因子の影響を受ける。一次免疫応答において、抗原刺激後のリンパ球の生存および増殖の程度は、続いて起こるクローン拡大の規模を全体として決定づける多くの追加シグナルによって制御される。変量の一つは、リンパ増殖部位における抗原の局所存在量であり、抗原が制限的である場合、リンパ球はそれを求めて競合することになりうる。もう一つの変量は、抗原が炎症誘発環境下で認識されるか寛容誘発環境下で認識されるかである。炎症は、炎症誘発性サイトカインとアクセサリー細胞がもたらす共刺激シグナルとによってシグナルされ;寛容は、抗炎症性サイトカインおよび共刺激分子によって促進される。この環境は、リンパ球自身および他の細胞により、オートクリン的およびパラクリン的に調節される。例えばB細胞は、サイトカインとCD4+T細胞がもたらす表面相互作用とによる「ヘルプ」を受けて抗体を分泌する。CD4+T細胞自体は樹状細胞によって刺激される。そして、それらの樹状細胞は、その由来組織における感染または組織損傷の徴候によって刺激され、その徴候を、「パターン認識受容体」(その多くは最近、ショウジョウバエtoll遺伝子産物に関連する受容体(Toll様受容体、TLR)のファミリーに属することが見出されている)を使って「病原体関連分子パターン」であると認識する。そのような炎症誘発性刺激がない場合は、例えば自己寛容誘導部位(例えばT細胞の場合、胸腺)のアクセサリー細胞によって、または二次リンパ器官中の休止樹状細胞または低活性化樹状細胞によって、寛容誘発環境が促進される。活性化されると他のリンパ球による抗原応答をダウンレギュレートするサプレッサーリンパ球または調節性リンパ球により、さらなる対抗調節がもたらされうる。サプレッサー細胞の表現型は明確にされているところである。二次免疫応答も調節を受けるが、一次応答と比較して、抗原に対してより敏感であり、共刺激環境への依存性は低い。
【0064】
3)抗原との遭遇に局所的に利用することができるリンパ球の絶対数(NL):通例、感染における抗原との遭遇の最初の部位は、抗原がリンパ液を介して液相でまたは炎症組織から進入する活性化樹状細胞によって運ばれてくる二次リンパ器官(リンパ節または脾臓)である。ナイーブリンパ球および「セントラルメモリー」リンパ球は、恒常的にリンパ節を往来し、血管外遊出により高内皮細静脈を通って血液から進入し、炎症誘発的に提示されたコグネイト抗原を求めて、リンパ節のT細胞領域およびB細胞領域にあるアクセサリー細胞を走査し、輸出リンパ液によって外へ出て、再び循環に入る。定常状態では、リンパ節を通る輸送は、主にケモカイン受容体CCR7を介してナイーブ細胞およびセントラルメモリー細胞にシグナルする特異的化学誘引性サイトカイン(ケモカイン)によって維持される。リンパ球の走査行動は、抗原提示細胞およびストローマ細胞間でのリンパ球のランダムウォークに似ている。炎症組織または感染組織に所属するリンパ節では、リンパ内皮、移入樹状細胞およびマスト細胞による増加したケモカイン分泌と、応答するリンパ球とが、ベースラインをかなり上回るリンパ球の追加インフラックスを引き起こす。抗原と遭遇すると、抗原提示細胞の周りにリンパ球が密集し、数日間にわたって局所的に増殖する;大多数は死ぬが、少数はメモリー細胞として持続し、数ヶ月かけてゆっくり減少するか、生涯持続する。もう一つのサブセットは、リンパ節から遊出して炎症部位に戻ることができるエフェクターリンパ球に分化する;これらの遊走イベントは、リンパ節ホーミング受容体(CCR7、CD62L)の喪失、ならびにエフェクター細胞を炎症部位および感染部位に導くケモカインおよび他の化学誘引物質の勾配によって誘発される。最後に、慢性炎症組織には、リンパ節様のケモカインおよびケモカイン受容体発現パターン(したがって特徴的な微細構造)を樹立する浸潤リンパ球の蓄積が認められうる。
【0065】
抗原特異的リンパ増殖応答の規模(LP)を解析するための有用な出発点は、それらを上記各変量の積とみなすことである:
LPAg=PFAg×CEAg×NL
[式中、下付き文字は抗原特異的応答を示す]。
抗原刺激の期間後、全細胞のうち、その抗原に応答して増殖した細胞の分率は、
fAg=PFAg×CEAg
[式中、fは細胞増殖分率を表す]
によって与えられる。この式において、パラメータfAgは、応答の規模に対するクローン拡大の寄与だけを反映すること;抗原特異性とは無関係に起こる炎症部位への細胞の受動的化学誘引はfに寄与しないことに、注意すべきである。
【0066】
抗原特異的リンパ増殖は、クローン的に特異的ではない(すなわちPF=1)がはるかに低い比率fh[この場合、下付きのhはホメオスタティックな増殖を表す]で起こるホメオスタティックな増殖に、追加される。したがって、免疫動物における総リンパ増殖は、
LPtl=LPAg+LPBL=(PFAg×CEAg+fh)×NL=(fAg+fh)×NL=f×NL
という式で表すことができる。
【0067】
ある抗原に応答して起こるクローン拡大の規模は、免疫応答の機能的帰結にとって極めて重要である。Ag特異的リンパ球の拡大は、移植された臓器の拒絶(アロ抗原に特異的なリンパ球)、自己免疫(自己抗原に異常応答するリンパ球)、アレルギー(環境抗原に応答するリンパ球)を含む免疫系の疾患において、極めて重要な構成要素である。したがって、医薬品開発においては、これらの異常リンパ増殖応答をさまざまな選択度で妨害する薬剤の開発に強い関心が持たれてきた。この分野における懸念のもう一つの例では、有望な候補薬物は、予想外のアレルギー反応または自己免疫を誘発する場合があり、そのため、候補薬のかなりの部分が、臨床開発の後期段階になって、手痛い撤退を余儀なくされる。これらの薬物誘発応答または薬物特異的応答も、リンパ球増殖の刺激を伴う。
【0068】
逆に、病的異常を伴わない抗原特異的リンパ増殖応答の制御された刺激は、ワクチンの基本的作用機序である。治療用ワクチンが短い時間枠内でエフェクターリンパ球の拡大を最大化しなければならないのに対し、予防用ワクチンは、次の攻撃を受けた時にすぐに保護を与えることができる初回刺激済み細胞の持続的プールをもたらす長寿命メモリーリンパ球の生成を最大化しなければならない。したがって、ワクチン開発の分野では、抗原特異的リンパ球の初期産生速度と、拡大された細胞集団の寿命とが、どちらも、最適化の標的になる。
【0069】
このアプローチは、標識期間中に分裂した細胞の分率(f)を正確に測定し;増殖細胞の数を(f×細胞数)として算出する。出願人は、Balb/cマウスにおけるキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に対する一次膝窩リンパ節(PLN)応答中に増殖B細胞およびCD4+T細胞の数を増加させる二つの異なる機序を同定した。低用量(0.2〜2μg)のKLHに応答して起こる増殖は、PLN細胞性の変化を伴わないfの増加を特徴とした。より高用量(5〜25μg)または不完全フロイントアジュバントの存在下では、fがプラトーに達し、増殖は、増加したPLN細胞性によってのみ増強された。抗原駆動的リンパ増殖は免疫抑制薬によって阻害された。リンパ増殖のパターンは系統依存的だった。C57BI/6マウスでは、Balb/cマウスよりもPLN細胞の恒常的代謝回転が高く、KLH初回刺激後のfの増加が少ない。fの抗原駆動的増加は、抗原特異的前駆体の頻度およびそれらの複製能を潜在的に反映する。抗原および共刺激シグナルによって最大局所クローン拡大が達成された後は、所属リンパ節へのナイーブ白血球の誘引によって免疫応答がさらに増加しうる。したがって後者の過程は、ワクチン最適化の別個の標的になる。さらに広く述べると、安定同位体に基づくリンパ増殖の測定は、免疫調整剤(例えば候補薬物、ワクチン)を発見および開発し、免疫調整剤の機構研究および免疫毒性の検出を可能とするのに有用であることが判明するだろう。
【0070】
II.一般技法
本発明の実施には、別段の表示がない限り、当業者の技量の範囲内にある分子生物学(組換え技法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の通常の技法を使用することになる。そのような技法は「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版(Sambrookら,1989)Cold Spring Harbor Press;「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編,1984);「Methods in Molecular Biology」Humana Press;「Cell Biology: A Laboratory Notebook」(J.E.Cellis編,1998)Academic Press;「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編,1987);「Introduction to Cell and Tissue Culture」(J.P.MatherおよびP.E.Roberts,1998)Plenum Press;「Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures」(A.Doyle,J.B.GriffithsおよびD.G.Newell編,1993-8)J.Wiley and Sons;「Methods in Enzymology」(Academic Press, Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.MillerおよびM.P.Calos編,1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら編,1987);「PCR: The Polymerase Chain Reaction」(Mullisら編,1994);「Current Protocols in Immunology」(J.E.Coliganら編,1991);「Short Protocols in Molecular Biology」(Wiley and Sons,1999);ならびにHellersteinおよびNeese著「Mass isotopomer distribution analysis at eight years: theoretical, analytic and experimental considerations」(Am J Physiol 276 (Endocrinol Metab. 39) E1146-E1162, 1999)などの文献に詳しく説明されており、これらの文献は全て、必要な技法に関して、参照により本明細書に組み入れられる。さらにまた、市販のアッセイキットおよび試薬類を用いる手法は、通例、別段の注記がない限り、製造者が定めたプロトコールに従って使用されることになる。米国特許出願公開第2005/0255509号、および米国特許第7,022,834号、同第7,001,587号、同第6,808,875号、同第6461,806号、同第6,010,846号、同第5,910,403号(これらの文献は全て、参照により、明示的に本明細書に組み入れられる)に概説されている方法も有用である。
【0071】
III.定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用する専門用語、表記法および他の科学的術語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されている意味を持つものとする。一般に理解されている意味を持つ用語を、明確に理解できるように、かつ/または手早く参照することができるように、本明細書において定義する場合もあるが、本明細書にそのような定義が記載されているからといって、それが、当技術分野で一般に理解されているその用語の定義との実質的な相違を表すものであるとは、必ずしも解釈すべきでない。本明細書に記述しまたは参考文献を挙げる技法および手法は、一般によく理解されており、当業者により、通常の方法論を使ってよく利用されている。例えばHellersteinおよびNeese著「Mass isotopomer distribution analysis at eight years: theoretical, analytic and experimental considerations」(Am J Physiol 276 (Endocrinol Metab. 39) E1146-E1162, 1999;この文献は、その全てが、特にそこに概説されている技法に関して、参照により本明細書に組み入れられる)など。適宜、市販のキットおよび試薬類の使用を伴う手法は、一般に、別段の注記がない限り、製造者が定めたプロトコールおよび/またはパラメータに従って行われる。
【0072】
本明細書において「リンパ球」とは、脊椎動物の免疫系に関与する白血球の一タイプを意味する。リンパ球は大型顆粒リンパ球と小リンパ球の二つに大別される。大型顆粒リンパ球はナチュラルキラー細胞(NK細胞)という呼び名の方がよく知られている。小リンパ球はT細胞およびB細胞である。リンパ球は生体防御に重要かつ不可欠な役割を果たす。リンパ球には、B細胞、CD3+T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK T細胞、およびχδT細胞が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0073】
本明細書において「リンパ球集団」とは、脊椎動物の免疫系またはその一部におけるリンパ球の集合体を意味する。例えば、脊椎動物の免疫系全体、関心対象のリンパ節またはリンパ器官におけるリンパ球。
【0074】
本明細書において「抗原」とは、免疫応答(特に抗体の産生)を刺激する物質を意味する。抗原にはタンパク質または多糖が含まれるが、これらに限るわけではない。抗原は、担体タンパク質に結合された小分子(例えばハプテン)を含めて、任意の分子タイプであることができる。
【0075】
本明細書において「同位体濃縮」とは、関心対象のアイソトポマーを保持する分析対象のリンパ球を濃縮するための方法を使用することを意味する。
【0076】
本明細書において「濃縮比」とは、濃縮前のリンパ球量と対比した濃縮後のリンパ球量を意味する。
【0077】
本明細書において「細胞性」とは、特定組織内に見出される細胞の物理的および化学的性質を意味し、細胞数を包含するが、これに限るわけではない。
【0078】
本明細書において「長寿命メモリーリンパ球」とは、一次感染に続いて形成されるB細胞サブタイプを意味する。特異的抗原を認識することによってB細胞が活性化されると、それは増殖して、抗体産生形質細胞および長寿命メモリー細胞を形成する。メモリーB細胞は、その産生を最初に刺激した抗原に特異的である。この抗原に再び遭遇すると、メモリーB細胞はそれを認識し、迅速に増殖することができる。これは新しい世代の抗体産生形質細胞を形成する。
【0079】
本明細書において「アジュバント」とは、それ自体は特異的抗原効果を持たないが、免疫系を刺激してワクチンに対する応答を増加させうる薬剤を意味する。
【0080】
本明細書において「安定メモリー細胞」とは、関心対象の抗原に対する抗体を産生するメモリーB細胞を意味する。
【0081】
「分子フラックス速度」とは、ある細胞、組織、または生物内における分子の合成および/または分解の速度を指す。「分子フラックス速度」は、ある分子プールへの分子の投入またはある分子プールからの分子の除去をも指し、それゆえに前記分子プールに出入りする流量と同義である。
【0082】
「代謝経路」とは、生物系における、一続きの連結された2以上の生化学的ステップ(すなわち生化学的過程)であって、その正味の結果が1以上の分子の化学的、空間的または物理的変換であるものを指す。代謝経路は、その経路を構成する生化学的ステップを通る分子の方向および流量によって定義される。代謝経路内の分子は、任意の生化学物質クラスであることができ、例えば脂質、タンパク質、アミノ酸、糖質、核酸、ポリヌクレオチド、ポルフィリン、グリコサミノグリカン、糖脂質、中間代謝産物、無機鉱物、イオンなどを含むが、これらに限るわけではない。
【0083】
「代謝経路を通るフラックス速度」とは、所定の代謝経路を通る分子変換の速度を指す。経路を通るフラックス速度の単位は、単位時間あたりの化学量(例えば1分あたりのモル数、1時間あたりのグラム数)である。経路を通るフラックス速度は、最適には、関心対象である所定の代謝経路の中間にある全ての段階を含む、明確に定義された生化学的出発点から明確に定義された生化学的終点への変換速度を指す。
【0084】
「同位体」とは、陽子数が同じであり、したがって同じ元素であるが、中性子の数が異なる原子(例えば1Hと2HまたはD)を指す。「同位体」という用語は、「安定同位体」、例えば非放射性同位体、ならびに「放射性同位体」、例えば経時的に崩壊するものを包含する。
【0085】
「アイソトポログ」とは、同じ元素および化学組成を持つが同位体含有量が異なっている同位体ホモログまたは分子種(例えば上記の例で言えばCH3NH2とCH3NHD)を指す。アイソトポログはその同位体組成によって定義されるので、各アイソトポログが持つ精密質量は一意的であるが、その構造は一意的でない場合もある。アイソトポログは通常、その分子上の同位体の位置が異なる一群の同位体異性体(isotopic isomer)(アイソトポマー)から構成される(例えばCH3NHDとCH2DNH2は、同じアイソトポログであるが、異なるアイソトポマーである)。
【0086】
「同位体標識水」は、1個以上の、水素または酸素の特定重同位体で標識された水を包含する。同位体標識水の具体例として2H2OおよびH218Oが挙げられる。
【0087】
本明細書にいう「候補薬剤」または「候補薬物」とは、本明細書に概説する活性に関してスクリーニングすることができる任意の分子、例えばタンパク質(抗体および酵素などのバイオ治療薬ならびに他の生物薬剤または因子を含む)、小有機分子(新規化学物質、既知の薬物および薬物候補を含む)、多糖、脂肪酸、ワクチン、核酸、タンパク質などを示す。本発明では、リンパ増殖に影響を及ぼし、したがって潜在的疾患状態に影響を及ぼす潜在的治療剤を発見する目的で、薬剤(例えば産業化学物質、農薬、除草剤を含む環境汚染物質)、薬物および薬物候補、ワクチン、食品添加物、化粧品などの毒性効果を解明する目的で、そして薬剤に関連する新しい経路を解明する目的で(例えば薬物の副作用、ワクチンを含む免疫調整剤の機構研究など)、候補薬剤が評価される。
【0088】
候補薬剤は数多くの化合物クラスを包含する。ある実施形態では、候補薬剤が有機分子、好ましくは100ダルトンより大きく約2,500ダルトンより小さい分子量を持つ小有機化合物である。特に好ましいのは、100ダルトンより大きく約2,000ダルトンより小さい、さらに好ましくは約1500ダルトンより小さい、さらに好ましくは約1000ダルトンより小さい、さらに好ましくは500ダルトンより小さい、小有機化合物である。候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用(特に水素結合)に必要な官能基を含み、典型的には、少なくとも一つのアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、好ましくは少なくとも二つの官能性化学基を含む。候補薬剤は、しばしば、1以上の上記官能基で置換された炭素環式もしくは複素環式構造および/または芳香族もしくはポリ芳香族構造を含む。候補薬剤は、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン類、ピリミジン類、それらの誘導体、構造類似体または組合わせを含む生体分子にも見出される。
【0089】
「既知の薬物」または「既知の薬剤」または「既承認薬」とは、米国または他の法域においてヒトまたは動物における薬物としての治療的使用が承認されている薬剤(すなわち化学物質または生物学的因子)を指す。本発明に関して「既承認薬」という用語は、本明細書に記載する方法を使って試験される適応とは異なる適応について承認を受けている薬物を意味する。免疫抑制とフルオキセチンを例に挙げると、本発明の方法を使えば、抑うつの処置に関してFDA(および他の権限)によって承認された薬物であるフルオキセチンを、免疫抑制(例えばリンパ増殖の阻害)のバイオマーカーに対する効果について試験することができる。フルオキセチンによる免疫抑制の処置は、FDAまたは他の権限によって承認されていない適応である。このようにして、既承認薬(この例ではフルオキセチン)の新しい用途(この例では抗免疫抑制効果)を見つけることができる。
【0090】
候補薬剤は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含む多種多様な供給源から得られる。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子のランダム合成および計画的合成には、ランダムなオリゴヌクレオチドおよびペプチドの発現および/または合成を含む数多くの手段を利用することができる。あるいは、天然化合物のライブラリーは、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形で入手できるか、容易に作成される。さらにまた、天然の、または合成的に作成されたライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的および生化学的手段によって容易に修飾される。既知の薬剤に、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指定またはランダム化学修飾を施して、構造類似体を製造してもよい。
【0091】
ある実施形態では、候補薬剤がタンパク質である。本明細書において「タンパク質」とは、共有結合した少なくとも二つのアミノ酸を意味し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドを包含する。タンパク質は、天然のアミノ酸およびペプチド結合から構成されてもよいし、合成ペプチドミメティック構造であってもよい。したがって本明細書にいう「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、天然アミノ酸と合成アミノ酸の両方を意味する。例えばホモフェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは、本発明においては、アミノ酸とみなされる。「アミノ酸」には、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含まれる。側鎖は(R)立体配置でも(S)立体配置でもよい。好ましい実施形態ではアミノ酸が(S)またはL-立体配置である。非天然側鎖を使用する場合は、例えば生体内分解を防止しまたは遅延させるために、非アミノ酸置換基を使用してもよい。酵素のペプチド阻害剤は特に有用である。
【0092】
もう一つの実施形態では、候補薬剤が天然タンパク質または天然タンパク質のフラグメントである。したがって、例えばタンパク質を含有する細胞抽出物、またはタンパク質性細胞抽出物のランダム消化もしくは計画的消化物を使用することができる。この方法で、原核生物タンパク質および真核生物タンパク質のライブラリーを、本明細書に記載する系でのスクリーニング用に調製することができる。この実施形態で特に好ましいのは、細菌、真菌、ウイルスおよび哺乳動物タンパク質のライブラリーであり、哺乳動物タンパク質のライブラリーは好ましく、ヒトタンパク質はとりわけ好ましい。
【0093】
さらにもう一つの実施形態では、候補薬剤がタンパク質の一種、抗体である。「抗体」という用語には、完全長の他に、当技術分野では知られているとおり、抗体フラグメント、例えばFab、Fab2、単鎖抗体(例えばFv)、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体など(抗体全体の修飾によって製造されるもの、または組換えDNA技法を使って新規に合成されるもの)、およびそれらの誘導体も包含される。
【0094】
さらにもう一つの実施形態では、候補薬剤が核酸である。本明細書において「核酸」もしくは「オリゴヌクレオチド」またはその文法的等価表現は、共有結合によって一つに連結された少なくとも二つのヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は一般的にはホスホジエステル結合を含有するだろうが、場合によっては、以下に概説するように、例えばホスホルアミド(Beaucageら, Tetrahedron, 49(10):1925 (1993)およびその引用文献;Letsinger, J. Org. Chem., 35:3800 (1970);Sprinzlら, Eur. J. Biochem., 81:579 (1977);Letsingerら, Nucl. Acids Res., 14:3487 (1986);Sawaiら, Chem. Lett., 805 (1984)、Letsingerら, J. Am. Chem. Soc., 110:4470 (1988);およびPauwelsら, Chemica Scripta, 26:141 (1986))、ホスホロチオエート(Magら, Nucleic Acids Res., 19:1437 (1991);および米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート(Briuら, J. Am. Chem. Soc., 111:2321 (1989))、O-メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein「Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach」Oxford University Press参照)、およびペプチド核酸主鎖および結合(Egholm, J. Am. Chem. Soc., 114:1895 (1992);Meierら, Chem. Int. Ed. Engl., 31:1008 (1992);Nielsen, Nature, 365:566 (1993);Carlssonら, Nature, 380:207 (1996)参照、これらの文献は全て参照により、本明細書に組み入れられる)などを含む代替主鎖を持ちうる核酸類似体も含まれる。他の核酸類似物として、陽性主鎖を持つもの(Deripcyら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:6097 (1995));非イオン性主鎖を持つもの(米国特許第5,386,023号;同第5,637,684号;同第5,602,240号;同第5,216,141号;および同第4,469,863号;Kiedrowshiら, Angew. Chem. Intl. Ed. English, 30:423 (1991);Letsingerら, J. Am. Chem. Soc., 110:4470 (1988);Letsingerら, Nucleoside & Nucleotide, 13:1597 (1994);ASC Symposium Series 580「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」Y.S.SanghuiおよびP.Dan Cook編の第2章および第3章;Mesmaekerら, Bioorganic & Medicinal Chem. Lett., 4:395 (1994);Jeffsら, J. Biomolecular NMR, 34:17 (1994);Tetrahedron Lett., 37:743 (1996))および非リボース主鎖を持つもの(米国特許第5,235,033号および同第5,034,506号、ならびにASC Symposium Series 580「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」Y.S.SanghuiおよびP.Dan Cook編の第6章および第7章に記載されているものを含む)、ならびにペプチド核酸が挙げられる。1以上の炭素環式糖を含有する核酸も、核酸の定義に包含される(Jenkinsら, Chem. Soc. Rev., (1995) 169-176頁参照)。Rawls, C & E News, June 2, 1997, 35頁には、いくつかの核酸類似体が記載されている。これらの参考文献は全て、参照により、明示的に本明細書に組み入れられる。リボース-リン酸主鎖のこれらの修飾は、ラベルなどの追加部分を付加しやすくするために、または生理学的環境におけるそのような分子の安定性および半減期を増加させるために行うことができる。また、天然核酸と類似体の混合物を製造することもできる。あるいは、異なる核酸類似体の混合物、および天然核酸と類似体の混合物を製造してもよい。核酸は、指定どおり一本鎖でも二本鎖でもよく、二本鎖配列部分と一本鎖配列部分を両方とも含有してもよい。核酸は、DNA(ゲノムDNAでもcDNAでも)、RNA、またはハイブリッド(この場合、核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの任意の組合わせ、ならびにウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチンおよびヒポキサンチン、イソシトシン、イソグアニン、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンなどを含む塩基の任意の組合わせを含有する)であることができる。
【0095】
本発明に関して、ヌクレオシド(リボース+塩基)とヌクレオチド(リボース、塩基および少なくとも一つのリン酸基)は、別段の注記がない限り、本明細書では可換的に使用されることに注意すべきである。
【0096】
上にタンパク質に関して概論したように、核酸候補薬剤も天然核酸、ランダム核酸および/または合成核酸であることができる。例えば、タンパク質に関して上に概説したように、原核生物ゲノムまたは真核生物ゲノムの消化物を使用することができる。また、ここにはRNAiも包含される。
【0097】
「食品添加物」には、例えば感覚刺激剤(すなわち風味、テクスチャ、芳香、および色を付与する薬剤)、ニトロソアミン類、ニトロソアミド類、N-ニトロソ物質などの保存剤、凝固剤、乳化剤、分散剤、燻蒸剤、湿潤剤、酸化剤および還元剤、噴射剤、封鎖剤、溶媒、表面作用剤、表面仕上げ剤、協力剤、農薬、塩素化有機化合物、食用動物が摂取するまたは食用植物によって取り込まれる任意の化学物質、ならびに包装材料から食品または飲料に浸出(または他の形で侵入する)任意の化学物質が含まれるが、これらに限るわけではない。この用語は、食品または飲料に、その製造および包装工程の何らかのステップで加えられる化学物質、または食用動物による摂取もしくは食用植物による取り込みによって食品中に侵入する任意の化学物質、またはエンドトキシンおよびエキソトキシンなどの微生物副産物によって食品中に侵入する任意の化学物質(ボツリヌス毒素またはアフラトキシンなどの既製毒素)、または調理工程によって食品中に侵入する任意の化学物質(例えば2-アミノ-3-メチルイミダゾ[4,5-f]キノロン)、または製造、包装、貯蔵、および取扱い作業時に包装材から浸出過程または他の過程によって食品中に侵入する任意の化学物質を包含するものとする。
【0098】
「産業化学物質」には、例えば揮発性有機化合物、半揮発性有機化合物、洗浄剤、溶媒、希釈液、混合剤(mixer)、金属化合物、金属、有機金属、半金属、ヘキサンなどの置換および無置換脂肪族および非環式炭化水素、ベンゼンおよびスチレンなどの置換および無置換芳香族炭化水素、塩化ビニルなどのハロゲン化炭化水素、アミノ誘導体およびニトロベンゼンなどのニトロ誘導体、グリコール類およびプロピレングリコールなどの誘導体、シクロヘキサノンなどのケトン、フルフラールなどのアルデヒド類、アクリルアミドなどのアミド類および無水物、フェノール類、シアニド類およびニトリル類、イソシアネート類、ならびに農薬、除草剤、殺鼠剤、および殺真菌剤が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0099】
「環境汚染物質」には、自然界には見出されない任意の化学物質、または自然界に見出されるが、自然界に見出されるレベル(少なくとも自然界の接近可能な生活環境に見出されるレベル)を超えるレベルにまで人工的に濃縮される化学物質が含まれる。したがって例えば環境汚染物質としては、公園、学校、または運動場などの非職業的または非産業的背景でも見出される、職業化学物質または産業化学物質と同定される非天然化学物質を挙げることができる。あるいは、環境汚染物質は、例えば鉛などの天然化学物質を、バックグラウンドを超えるレベルで含んでもよい(例えば自動車における有鉛ガソリンの燃焼からの排気によって蓄積する主要道路沿いの土壌に見出される鉛)。環境汚染物質は、工場の煙突または地表水または地下水への産業廃液などの点汚染源からであっても、主要道路を走る車からの排気、市街を走るバスからのディーゼル排気(およびそれが含有する全てのもの)または農地で発生する浮遊粉塵から土壌に蓄積する除草剤などの非点汚染源からであってもよい。本明細書にいう「環境夾雑物」は「環境汚染物質」と同義である。
【0100】
「生物系」には、例えば細胞(初代細胞を含む)、細胞株(健常細胞および疾患細胞の細胞株を含む)、植物および動物、特に哺乳動物、特にヒトが含まれるが、これらに限るわけではない。適切な細胞には、例えばあらゆるタイプの腫瘍細胞(特に黒色腫、骨髄性白血病、肺、胸部、卵巣、結腸、腎臓、前立腺、脳、膵臓および精巣の癌)、心筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、リンパ球(T細胞およびB細胞)、マスト細胞、好酸球、血管内膜細胞、肝細胞、白血球(単核白血球を含む)、造血幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、肺幹細胞、腎幹細胞、肝幹細胞および筋細胞幹細胞などの幹細胞、破骨細胞、軟骨細胞および他の結合組織細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、肝臓細胞、腎臓細胞、筋細胞、線維芽細胞、ニューロン、膠細胞、膵臓細胞、腸上皮細胞、リンパ球、赤血球、微生物細胞ならびにインビトロで生存させ機能的な状態に維持することができる他の任意の細胞タイプが含まれるが、これらに限るわけではない。微生物細胞および植物細胞も使用することができる。
【0101】
ある実施形態では、細胞が遺伝子操作されていてもよい(すなわち、細胞が外来核酸を含有してもよい)。
【0102】
細胞は多細胞生物から収集して培養するか、American Type Culture Collectionなどの商業的供給源から購入し、当技術分野で周知の技法を使って細胞株として増殖させることができる。適切な細胞株として、例えば上述した細胞のいずれかから作製された細胞株、ならびに樹立細胞株が挙げられるが、これらに限るわけではない。適切な細胞として、既知の研究用細胞、例えばJurkat T細胞、NIH3T3細胞、CHO、COSなど(ただしこれらに限るわけではない)も挙げられる。参照により明示的に本明細書に組み入れられるATCC細胞株カタログを参照されたい。適切な哺乳動物には、哺乳綱の任意のメンバー、例えば限定するわけではないが、ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジーおよび他の類人猿、ならびにサル種;農用動物、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ;家畜、例えばイヌおよびネコ;研究用動物、例えばマウス、ラットおよびモルモットなどの齧歯類が含まれるが、これらに限るわけではない。この用語は特定の年齢または性別を表すわけではない。したがって本明細書における定義には、雌雄を問わず、成体および新生仔ならびに胎仔が包含される。生物系は、候補薬剤による処置などの摂動を受けていないまたは疾患もしくは疾患のリスクを持たない対照系であるか、あるいは評価対象の系であることができる。「生物系」には、ヒト患者を含む個々の被験体が含まれる。
【0103】
「生物学的試料」には、細胞、組織、または生物を含む生物系から得られる任意の試料が包含される。試料は本質的に固体であってもよい。この定義には、低侵襲性または非侵襲性アプローチによる試料採取(例えば尿収集、針吸引、乳管洗浄による乳汁収集、皮膚掻爬、精液収集、膣分泌物収集、鼻分泌物収集、喀痰収集、糞便収集、およびリスク、不快感または努力が最小限で済む他の手法)によって生物から入手することができる生物学的起源の液体試料も包含される。この定義には、その獲得後に何らかの形で、例えば試料類による処理、可溶化、または特定成分(タンパク質、脂質、糖質、または有機代謝産物など)の濃縮によって、操作された試料も含まれる。「生物学的試料」という用語は、生物学的液体または組織試料などの臨床試料も包含する。
【0104】
「生物学的液体」とは、例えば尿、浮腫液、唾液、涙液、炎症性滲出物、滑液、膿瘍、膿胸または他の感染液、汗、肺分泌物(喀痰)、精液、糞便、胆汁、腸分泌物、膣分泌物、または体外の空間(すなわち管腔または外皮空間)に見出される他の任意の生物学的液体を指すが、これらに限るわけではない。
【0105】
「精密質量」とは、ある分子の式中の全ての同位体の精密質量を合計することによって算出される質量を指す(例えばCH3NHDの場合は32.04847)。
【0106】
「整数質量」とは、ある分子の精密質量を丸めることによって得られる整数の質量を指す。
【0107】
「質量アイソトポマー」とは、同位体組成ではなく整数質量に基づいて分類される一群の同位体異性体を指す。質量アイソトポマーは、アイソトポログとは違い、同位体組成が異なる分子を含みうる(例えばCH3NHD、13CH3NH2、CH315NH2は、同じ質量アイソトポマーの一部であるが、異なるアイソトポログである)。作業面からいうと、質量アイソトポマーは、質量分析計では分離されない一群のアイソトポログである。四重極質量分析計の場合、これは通例、質量アイソトポマーが、同じ整数質量を持つアイソトポログ群であることを意味する。したがって、アイソトポログCH3NH2およびCH3NHDは整数質量が異なり、異なる質量アイソトポマーであると識別されるが、アイソトポログCH3NHD、CH2DNH2、13CH3NH2、およびCH315NH2は全て同じ整数質量を持ち、それゆえに同じ質量アイソトポマーである。したがって、各質量アイソトポマーは、通例、2以上のアイソトポログから構成され、2以上の精密質量を持つ。アイソトポログと質量アイソトポマーとの区別は実用面で役立つ。なぜなら、四重極質量分析計では個々のアイソトポログの全てが分離されるわけではなく、より高い質量分解能をもたらす質量分析計を使っても、全てを分離することはできないかもしれないので、アイソトポログではなく質量アイソトポマーの存在量に関して、質量分析データからの算出を行わなければならないからである。質量が一番低い質量アイソトポマーはm0と表され;大半の有機分子の場合、これは、全て12C、1H、16O、14Nなどを含有する分子種である。他の質量アイソトポマーは、M0との質量差によって識別される(M1、M2など)。所与の質量アイソトポマーに関して、分子内の同位体の部位または位置は指定されず、さまざまでありうる(すなわち「位置アイソトポマー」は識別されない)。
【0108】
「質量アイソトポマーエンベロープ」とは、監視される各分子またはイオンフラグメントに関連するファミリーを含んでなる一組の質量アイソトポマーを指す。
【0109】
「質量アイソトポマーパターン」とは、ある分子の質量アイソトポマーの存在量のヒストグラムを指す。伝統的に、このパターンは、全ての存在量を最も豊富な質量アイソトポマーの存在量に対して規格化した相対存在量百分率として表され;最も豊富なアイソトポマーが100%であるとされる。しかし、質量アイソトポマー分布解析(MIDA)などの確率解析を伴う応用例にとって好ましい形式は、各分子種が全存在量に占める分率を用いる比率または存在分率である。「同位体パターン」という用語は「質量アイソトポマーパターン」という用語と同義に使用しうる。
【0110】
「モノアイソトピック質量」とは、全て1H、12C、14N、16O、32Sなどを含有する分子種の精密質量を指す。C、H、N、O、P、S、F、Cl、Br、およびIから構成されるアイソトポログの場合、最も低い質量を持つアイソトポログの同位体組成は一意的であり、明確である。なぜなら、これらの元素の最も豊富な同位体は、質量も最も低いからである。モノアイソトピック質量はm0と略記され、他の質量アイソトポマーの質量はm0との質量差によって同定される(m1、m2など)。
【0111】
「同位体摂動(isotopically perturbed)」とは、自然界における存在量が少ない同位体が過剰に存在する(濃縮)か不足している(枯渇)かを問わず、自然界で最もよく見出される分布とは異なる同位体の分布を持つ元素または分子の明示的組み込みによって生じる元素または分子の状態を指す。したがって本発明のラベルは同位体摂動を受けており、ラベルが組み込まれるDNAも同様である。
【0112】
「代謝前駆体」または「前駆体」とは、細胞または生物の代謝過程によって(すなわち生合成、分解、および/または中間代謝経路によって)関心対象の分子最終産物に入る分子または原子を指す。
【0113】
「モノマー」とは、ポリマーの合成に際して化合し、ポリマー中に2回以上現われる化学単位を指す。
【0114】
「ポリマー」とは、モノマーから合成され、モノマーを2回以上繰返して含有する分子を指す。ポリマーはホモポリマー(全てのモノマーが同一)であってもよいし、ヘテロポリマー(2タイプ以上のモノマー)であってもよい。「生体ポリマー」は、生物系によって合成されるもしくは生物系内で合成されるポリマー、または他の形で生物系と関連するポリマーである。
【0115】
「DNA」とは、リラックス型またはスーパーコイル型の二本鎖状または一本鎖状をしたポリマー型のデオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミン、またはシトシン)である。この用語は、分子の一次構造および二次構造だけを指し、それを特定の三次形態に限定するものではない。したがってこの用語は、なかんずく、線状DNA分子(例えば制限フラグメント)、ウイルス、プラスミド、および染色体に見出される一本鎖および二本鎖DNAを包含する。この用語は、四つの塩基アデニン、グアニン、チミン、またはシトシンを含む分子、ならびに当技術分野で知られている塩基類似体を含む分子を包含する。
【0116】
「同位体標識基質」は、生物系内でDNA(またはDNAを構成するデオキシリボヌクレオチド)に組み込まれうる任意の同位体標識前駆体分子を包含する。同位体標識基質の例として、2H2O、3H2O、2H-グルコース、2H標識アミノ酸、2H標識有機分子、13C標識有機分子、14C標識有機分子、13CO2、14CO2、15N標識有機分子および15NH3が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0117】
「重水素化水」とは、1個以上の2H同位体を含む水を指す。
【0118】
「標識グルコース」は、1個以上の2H同位体で標識されたグルコースを指す。標識グルコースまたは2H標識グルコースの具体例として[6,6-2H2]グルコース、[1-2H1]グルコース、および[1,2,3,4,5,6-2H7]グルコースが挙げられる。
【0119】
「投与(された)」には、候補薬剤および標識基質などの化合物に曝露された生物系が包含される。そのような曝露は、動物または他の高等生物における、例えば局所外用、経口摂取、吸入、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、および動脈内注射などによる曝露であることができる。細胞、組織培養物または細胞株への投与は、成長培地への化合物または候補薬剤(または候補薬剤もしくは化合物の組合わせ)の添加であることができる。
【0120】
「毒性効果」とは、化学物質または既知の薬剤に対する生物系による有害な応答を意味する。毒性効果は、例えば終末器毒性から構成されうる。
【0121】
創薬および薬剤開発に関連して「少なくとも部分的に同定された」とは、一つ以上の本発明方法を使って、臨床に関連する候補薬剤の薬理学的特徴が少なくとも一つは同定されていることを意味する。この特徴は望ましい特徴、例えばリンパ球の増殖、クローン拡大、動員および/または輸送の阻害または調整などであることができる。あるいは、候補薬剤の薬理学的特徴は望ましくない特徴、例えば、望ましくない帰結につながるリンパ増殖の増加などといった1以上の毒性効果の生成であってもよい。もちろん候補薬剤は、例えば薬剤開発経路に沿った特定のマイルストーン決定点を裏付けるのに十分な数個の特徴(望ましい特徴もしくは望ましくない特徴または両方)が同定されている場合など、「少なくとも部分的」以上に同定することができる。そのようなマイルストーンとして、例えば、インビトロからインビボへの移行に関する前臨床決定、IND申請前の継続/中止決定、第I相から第II相への移行、第II相から第III相への移行、NDA申請、および販売に関するFDA承認が挙げられるが、これらに限るわけではない。したがって「少なくとも部分的に」同定されたという表現には、本明細書にさらに詳しく説明する創薬/薬剤開発工程において候補薬剤を評価するのに役立つ1以上の薬理学的特徴の同定が包含される。薬理学者もしくは医師または他の研究者は、候補薬剤の同定された望ましい特徴および望ましくない特徴の全部または一部を評価して、その治療係数を確定することができる。これは当技術分野で周知の手法を使って達成することができる。
【0122】
本発明に関して「候補薬剤を製造すること」には、候補薬剤製品の製造に使用される当業者に周知の任意の手段が包含される。製造工程には、医薬品化学合成(すなわち合成有機化学)、コンビナトリアルケミストリー、バイオテクノロジー法、例えばハイブリドーマモノクローナル抗体生産、組換えDNA技術、および当業者によく知られている他の技法が含まれるが、これらに限るわけではない。そのような製品は、治療用に販売される最終薬剤、治療用に販売される複合製品の構成要素、または複合製品の一部であるか単一の製品であるかを問わず最終薬剤の開発に用いられる任意の中間体製品であることができる。
【0123】
「作用」とは、候補薬剤の投与などといった介入の特異的かつ直接的結果を意味する。
【0124】
「治療作用」とは、生化学過程または分子過程(すなわち代謝経路または代謝ネットワークを通る分子の流れ)に対する、その生物にとって有益であるような効果を意味する。効果は、1以上の疾患の開始、進行、重症度、病状、攻撃性、グレード、活動性、障害性、死亡率、罹病率、疾患細分類、または他の基礎にある病原的もしくは病理学的特徴の原因または一因であることができ、前記効果は健康にとって有益であるか、他の形で望ましい帰結(例えば望ましい臨床的帰結)の一因になる。
【0125】
「バイオマーカー」とは、ある化合物の真のもしくは意図された機構上の標的、あるいは1以上の疾患の開始、進行、重症度、病状、攻撃性、グレード、活動性、障害性、死亡率、罹病率、疾患細分類、または他の基礎にある病原的もしくは病理学的特徴の原因または一因であると考えられる機構上のイベントを表す、その生物から得られるまたはその生物に関する物理的、生化学的、または生理学的測定を意味する。いくつかの実施形態では、因果効果ではなく相関効果が存在しうる。バイオマーカーは、治療的介入の帰結を監視するための標的(すなわち薬剤の機能的標的または構造的標的)になりうる。本明細書に定義する「バイオマーカー」は、ある疾患または障害の病因または進行に関与するまたは関与すると考えられる生化学過程を指す。疾患または障害の処置または診断的監視にとって有意義なまたは信頼できる標的となりうるのは、基礎をなす生化学過程の変化(すなわち分子フラックス速度)であるから、生化学過程(すなわち標的とする代謝経路または代謝ネットワークを通る分子の流れ)が(本明細書に開示する)解析の焦点である。
【0126】
本発明に関して「評価する」または「評価」または「評価すること」とは、候補薬剤または候補薬剤の組合わせの活性、毒性、相対力価、潜在的な治療的価値および/または効力、有意性、または有用性を、通常は実験的帰結を、確立された標準および/または状態と比較することにより、鑑定および試験によって決定する工程を意味する。この用語は、薬剤開発工程を続行するために、意思決定者が候補薬剤(または候補薬剤の組合わせ)に関する「継続/中止」決定を行うのに十分な情報を提供することという概念も包含する。「継続/中止」決定は、例えば前臨床開発内の任意の段階、前臨床→臨床試験実施申請資料(IND)段階、第I相→第II相段階、第II相→第II相内のさらに進んだフェーズ(例えば第IIb相)、第II相→第III相段階、第III相→新薬承認申請(NDA)または生物製剤許可申請(BLA)段階、またはそれ以降の段階(例えば第IV相または他のNDA後もしくはBLA後段階)など(ただしこれらに限るわけではない)といった薬剤開発工程の任意の時点またはマイルストーンで行うことができる。この用語は、ある候補薬剤クラス中の「ベストインブリード(best-in-breed)」(またはベストオブブリード(best-of-breed))を選択するのに十分な情報を提供することという概念も包含する。
【0127】
本発明に関して「特徴づける」「特徴づけること」「特徴づけ」とは、候補薬剤または候補薬剤の組合わせの特徴または特性を記述するための努力を意味する。本明細書で使用する場合、この用語は「評価する」とほぼ等価であるが、薬物を「評価する」ことがその薬物または化学物質または生物学的因子を使った薬剤開発工程を進めることに関する「継続/中止」決定(治療的価値の査定に基づく)を下しうることを含むという、「評価する」のさらに洗練された側面が、この用語には欠けている。
【0128】
「状態」または「医学的状態」とは、体全体の身体状態または体の構成要素の一つの身体状態を意味する。この用語は通常、以前の身体状態もしくは精神状態からの変化、または医学的権威によって疾患または障害とは認識されない異常を示すために使用される。「状態」または「医学的状態」の例として、肥満、がん、および増殖性疾患が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0129】
「治療効果」とは、候補薬剤または候補薬剤の組合わせによって引き出され、寛解的結果または待期的結果をもたらすか、疾患または状態の任意の臨床的徴候または症状をほんのわずかにでも改善する、任意の効果を意味する。
【0130】
IV.本発明の方法
A.本発明の方法の概要
本発明の方法は一般に以下のステップを含む。
【0131】
1)研究に適した生物の選択。生物は適応免疫系を持つ任意の動物、すなわち任意の脊椎動物であることができ、例えばヒト、および魚類を含むが、これらに限るわけではない。齧歯類動物、例えば限定するわけではないが、ハムスター、ウサギ、マウス(Mus musculus)およびラット(Rattus norvegicus)などを使用してもよい。前臨床毒性または効力スクリーニングには、ラットおよびマウスの近交系が、とりわけ有用である。イヌおよび非ヒト霊長類などの高等哺乳動物も使用することができる。以下に詳述するように、特に有用な動物系統は、リンパ増殖がリンパ球動員と脱共役している系統であり、この状況では、リンパ球代謝回転分率の抗原駆動的変化を高感度に測定することができる。ある実施形態では、膝窩リンパ節における抗原駆動的リンパ増殖を測定する際に、Balb/cマウスを使用する。
【0132】
「生物系」には、例えば動物(特に哺乳動物、特にヒト)を含む脊椎動物が包含されるが、これらに限るわけではない。リンパ増殖障害ならびにがん(例えば黒色腫、骨髄性白血病、肺、胸部、卵巣、結腸、腎臓、前立腺、脳、膵臓および精巣の癌)を含むさまざま疾患状態を持つ動物が包含される。
【0133】
適切な哺乳動物には、哺乳綱の任意のメンバー、例えば限定するわけではないが、ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジーおよび他の類人猿、ならびにサル種;農用動物、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ;家畜、例えばイヌおよびネコ;研究用動物、例えばマウス、ラットおよびモルモットなどの齧歯類が含まれるが、これらに限るわけではない。この用語は特定の年齢または性別を表すわけではない。したがって本明細書における定義には、雌雄を問わず、成体および新生仔ならびに胎仔が包含される。生物系は、候補薬剤による処置などの摂動を受けていないまたは疾患もしくは疾患のリスクを持たない対照系であるか、あるいは評価対象の系であることができる。「生物系」には、ヒト患者を含む個々の被験体が含まれる。
【0134】
魚類、例えば限定するわけではないが、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、フグ(Takifugu rubipres)、メダカ(Oryzias latipes)、およびティラピアなども、脊椎動物に包含される。
【0135】
ある実施形態では、細胞が遺伝子操作されていてもよい(すなわち、細胞が外来核酸を含有してもよい)。
【0136】
(2)関心対象の抗原による動物の免疫化。免疫調整の研究に役立つ本発明の一実施形態では、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびDNCB(2,4-ジニトロクロロベンゼン)などのT細胞依存性外来タンパク質抗原を使用する。この抗原は、さまざまなマウス系統におけるT細胞増殖とB細胞増殖の両方を容易に刺激するからである。当業者にはよく知られているとおり、特殊な応用例には、他の抗原も使用することができる。例えば、細胞傷害性T細胞の増殖を測定するには、熱凝集タンパク質抗原で免疫することが望ましいかもしれない。他の例として、病原体全体の生弱毒化調製物または死調製物が挙げられる。抗原は、当技術分野で知られているアジュバント、例えばミョウバン、サポニン、もしくは不完全フロイントアジュバントなどを使って、またはアジュバントを使わずに、導入することができる。アレルゲン性または自己免疫原性の薬物に対するリンパ増殖を測定(すなわち免疫毒性の一形態である潜在的免疫刺激能を検出)する場合、抗原は、膝窩リンパ節アッセイ(PLNA)でよく用いられるように、注射に適した賦形剤中の薬物の溶液または懸濁液(レポーター抗原PLNAでよく用いられるように、トリニトロフェニル-フィコール(TNP-Ficoll)などのレポーター抗原を含むもの、またはレポーター抗原を含まないもの)から構成されうる。常法として、これらの実験には、注射賦形剤だけを投与する対照動物群が含められる。原則として、当技術分野で用いられる免疫化経路はどれでも、この作業に使用することができる。ある実施形態では、制限された一組の所属リンパ節への抗原の標的送達をもたらす免疫化経路を使用する(下記ステップ(4)参照)。
【0137】
(3)デノボDNA合成の安定同位体前駆体による免疫動物(および擬似免疫対照)の標識.本発明の一実施形態では、前駆体が重水(2H2O)である。動物では、99.9モル%2H2O中の0.9%w/v食塩水を、体水分中の初期2H濃縮を1〜15モルパーセントにするのに十分な量でボーラス注射することによって、便利に重水標識が開始され、その後は、必要な期間、飲料水に入れた2H2Oの投与を行うことによって、重水標識が継続される。例えばマウスは、常法として、体重1kgあたり35mlの2H2O/0.9%NaClのボーラス投与によって体水分中5%2Hに標識され、飲料水中の8%2H2Oの投与によって、この濃縮度を維持する。当技術分野で知られているDNA合成を測定するための他の方法も、本発明での使用が予期される。
【0138】
(4)関心対象の抗原応答性リンパ球集団を含むリンパ球の所定のサブセットを解剖学的にまたは細胞表現型によって濃縮するための方法。これは重要なステップである。なぜなら、所与の抗原に応答する前駆体リンパ球は全リンパ球のごく一部を占めるに過ぎないので、適当な濃縮ステップを経なければ、骨髄および胸腺からの継続的なリンパ球の投入、ホメオスタティックなリンパ球代謝回転、および環境抗原による刺激により、バックグラウンド増殖に加えて抗原特異的増殖を検出することは困難になりうるからである。本発明の一実施形態では、応答性リンパ球の解剖学的局在化を使用する。すなわち、抗原送達が特定の所属リンパ節または限定されたリンパ節群へとターゲティングされ、結果として、抗原応答性リンパ球がこれらのリンパ節内で選択的に応答するように、免疫化の経路を選択する。例えば、齧歯類動物の足蹠における皮下免疫化は、抗原曝露を局在化させ、したがって応答性リンパ球を所属膝窩リンパ節に選択的に動員する。同様に、齧歯類動物の尾の基部に皮下免疫化すると、応答性リンパ球が鼠蹊部および大動脈周囲リンパ節に動員される。他の例は当業者には自明であるだろう。あるいは、全リンパ球を、関心対象であるこれらのまたは他の二次リンパ器官(脾臓を含む)から単離するか、末梢循環から単離し、抗原は特定のリンパ球サブセット(例えば当技術分野で知られている系統特異的抗原の適当な組合わせの発現によって同定されるB細胞、CD3+T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK T細胞、χδT細胞)の増殖を刺激するだろうという予想;抗原に応答するリンパ球上に選択的に発現される(またはダウンレギュレートされる)表現型の発現、例えば活性化マーカーの発現;またはその両方に基づいて、抗原応答性細胞を濃縮してもよい。活性化マーカーの例として、トランスフェリン受容体、HLA-DR(ヒトの場合)、CD38、CD44、もしくはCD69、CD25、当技術分野で知られている他の活性化マーカー、またはそれらの組合わせが挙げられる。さらにまた、抗原応答性細胞の濃縮は、抗原特異的増殖を示さないリンパ球サブセットの枯渇によって達成することもできる。抗原(またはペプチド/MHCテトラマーなどの抗原オリゴマー)との物理的作用による、または抗原に応答してサイトカインを分泌するというその能力による、抗原特異的細胞の単離は、免疫化後の抗原応答性メモリー細胞の長期持続および寿命の解析を目指す研究では、有用な濃縮規準になりうる。(関心対象であるリンパ球サブセットの百分率など、短期応答の規模が重要な実験パラメータであるような他の状況、または抗原特異的リンパ球の純粋な集団が完全にかつ迅速に代謝回転すると予想されるような他の状況では、あまり有用な規準でなくなる)。抗原特異的細胞の増殖を調べるもう一つの方法では、抗原受容体トランスジェニックマウスを使用するか、またはそのようなマウスから得たリンパ球を非トランスジェニックレシピエントに移植し、その特徴的なクローンタイプの発現によってそれらを単離する。特定細胞集団を濃縮または除去するための選択ステップは、当技術分野で知られている細胞単離のための任意の有用な方法、例えば蛍光活性化細胞選別法(分取フローサイトメトリー)、対向流溶出法、密度勾配遠心分離法、免疫磁気ビーズ単離法、RosetteSep、パンニングなどの方法を含みうる。
【0139】
(5)関心対象であるリンパ球サブセットのDNAへの安定同位体ラベルの組み込みを測定することによるリンパ増殖の、単独での、または関心対象である細胞集団の計数と組み合わせた、この目的に適した任意の実験的方法による決定。本発明の一実施形態では、リンパ球DNAへの安定同位体ラベルの組み込みの測定が、以下のステップを含む:(i)DNAの抽出またはさらなる単離を伴わないクロマチンからのDNAの放出、デオキシリボヌクレオチドへのDNAの加水分解、(ii)プリンデオキシリボヌクレオチドからのデオキシリボースの選択的放出、(iii)プリンデオキシリボースの、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)による解析に適した揮発性誘導体(例えばペンタンテトラアセテート、ペンタフルオロベンジルテトラアセチル誘導体、または他の適切な誘導体)への誘導体化、(iv)前記誘導体のGC/MS解析、(v)前記誘導体の質量アイソトポマー存在量のパターンの解析、および(vi)安定同位体組み込みの尺度である過剰濃縮値の、前記パターンからの算出。これらの方法のそれぞれの具体例は教示されており(米国特許第5,910,403号、米国特許出願第10/872,280号、これらは参照によりその全てが本明細書に組み入れられる)、公表されたとおりに使用してもよいし、当業者の能力の範囲内で十分に可能であるような前記方法の改良法および変法(本明細書に開示するものを含むが、それらに限るわけではない)を使用してもよい。これらの測定は、単離された細胞集団における、標識期間中に合成されたDNAを持つ細胞の分率の尺度(以下「代謝回転分率」または「新しい細胞の分率」という)を与える。この数は、それ自体、リンパ増殖の動態およびさまざまな候補薬剤によるその調整に関する情報を提供しうる。応答する細胞集団を適当な計数方法(例えば血球計計数法、Coulter計数法、細胞試料に既知濃度のビーズを添加することによって較正されるフローサイトメトリー、または当技術分野においてこの目的に用いられる他の方法)によって数え上げれば、追加情報を得ることができる。関心対象である細胞の数とそれらの代謝回転分率との積は、標識期間中に分裂した細胞の絶対数を与える。
【0140】
B.同位体標識基質の投与
本発明の方法における第1ステップとして、同位体標識基質が投与される。これらの基質は一般に代謝前駆体であり、例えばそれらは生物系内に取り込まれて、酵素的に変換される。本発明においては、基質がデオキシヌクレオチドに変換され、次にそれがDNAに組み込まれる。
【0141】
1.同位体標識基質分子の投与
1以上の同位体標識基質を投与する様式は、その同位体標識基質の吸収特性と、各化合物がターゲティングされる特異的生合成プールとに依存して、さまざまでありうる。前駆体は、インビボ解析のために、ヒトを含む動物全体(生物)に、直接投与することができる。また、前駆体を生細胞にインビトロで投与することもできる。
【0142】
一般に、適当な投与様式は、生合成プール内および/またはそのようなプールに供給するレザバーにおいて、少なくとも一時的期間にわたって、前駆体の定常状態レベルをもたらすものである。ヒトを含む生物にそのような前駆体を投与するには、血管内投与経路または経口投与経路がよく用いられる。他の投与経路、例えば皮下または筋肉内投与も、適宜、徐放性基質組成物と共に使用される場合に、適当である。注射用組成物は一般に滅菌医薬賦形剤中に調製される。
【0143】
本明細書で論じるように、投与は連続的に(例えば試料採取の時点までおよび/または試料採取の時点を含めて)行うか、不連続に(ある期間にわたって単回投与として、または複数回投与として)行うことができる。不連続投与を行う場合、個々の投与の時間は同じであっても異なってもよい。
【0144】
ラベル投与を停止する時間はさまざまであり、例えば7日〜2年の範囲のわたる期間である。
【0145】
a.標識基質
(1)同位体ラベル
分子フラックス速度の測定における第1ステップには、生物系への安定同位体標識基質の投与が含まれる。本発明の方法に従って使用することができる同位体ラベルとしては、限定するわけではないが、2H、13C、15N、18O、または生物系内に存在しかつDNA前駆体分子を標識することができる元素の他の同位体が挙げられる。これらの同位体、および他の同位体は、本発明での使用が予想される全ての基質クラス(例えば前駆体分子)に適している。そのような前駆体分子として、核酸前駆体が挙げられるが、これに限るわけではない。
【0146】
ある実施形態では、同位体ラベルが2Hである。
【0147】
i.核酸の前駆体
核酸(すなわちRNA、DNA)の前駆体は、RNAおよび/またはDNA合成経路への組み込みに適した任意の化合物である。DNAのデオキシリボース環を標識するのに役立つ基質の例には、[6,6-2H2]グルコース、[U-13C6]グルコースおよび[2-13C1]グリセロール(米国特許第6,461,806号参照;これは、参照により、その全てが本明細書に組み入れられる)などがあるが、これらに限るわけではない。デオキシリボースの標識は、さまざまな希釈源を回避するので、DNA中の情報伝達窒素塩基の標識より優れている。
【0148】
ある実施形態では、安定同位体ラベルを使って、グルコース、グルコース6-リン酸の前駆体、またはリボース-5-リン酸の前駆体から、DNAのデオキシリボース環を標識する。グルコースを出発物質として使用する実施形態では、適切なラベルとして、限定するわけではないが、重水素標識グルコース、例えば[6,6-2H2]グルコース、[1-2H1]グルコース、[3-2H1]グルコース、[2H7]グルコースなど;13C-1標識グルコース、例えば[1-13C1]グルコース、[U-13C6]グルコースなど;および18O標識グルコース、例えば[1-18O2]グルコースなどが挙げられる。
【0149】
グルコース-6-リン酸前駆体またはリボース-5-リン酸前駆体が望ましい実施形態では、糖新生前駆体、またはグルコース-6-リン酸もしくはリボース-5-リン酸に変換されうる代謝産物を使用することができる。糖新生前駆体として、限定するわけではないが、13C標識グリセロール、例えば[2-13C1]グリセロールなど、13C-標識アミノ酸、重水素化水(2H2O)および13C標識乳酸、アラニン、ピルビン酸、プロピオン酸または糖新生の他の非アミノ酸前駆体が挙げられる。グルコース-6-リン酸またはリボース-5-リン酸に変換される代謝産物として、限定するわけではないが、標識(2Hまたは13C)ヘキソース、例えば[1-2H1]ガラクトース、[U-13C]フルクトースなど;標識(2Hまたは13C)ペントース、例えば[1-13C1]リボース、[1-2H1]キシリトールなど、標識(2Hまたは13C)ペントースリン酸経路代謝産物、例えば[1-2H1]セドヘプツロースなど、および標識(2Hまたは13C)アミノ糖類、例えば[U-13C]グルコサミン、[1-2H1]N-アセチル-グルコサミンなどが挙げられる。
【0150】
本発明は、デノボヌクレオチド合成経路によってDNAのプリン塩基およびピリミジン塩基を標識する安定同位体ラベルも包含する。内在性プリン合成のさまざまな構築ブロックを使ってプリン類を標識することができ、それらには、15N標識アミノ酸、例えば[15N]グリシン、[15N]グルタミン、[15N]アスパラギン酸など、13C標識前駆体、例えば[1-13C1]グリコン、[3-13C1]アセテート、[13C]HCO3、[13C]メチオニンなど、H標識前駆体、例えば2H2O、およびO標識前駆体、例えばH218Oが含まれるが、これらに限るわけではない。2H-グルコース、3H-チミジン、およびBrdUもラベルとして使用することができる。
【0151】
上記のリストに加えて、DNAの内因的標識をもたらす任意の経路の基質または前駆体である他の安定同位体ラベルも、本発明の範囲に包含されることは、当業者には理解される。本発明での使用に適したラベルは、一般に市販されているか、当技術分野で周知の方法によって合成することができる。
【0152】
ii.前駆体分子としての水
水は核酸の前駆体である(参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/872,280号を参照されたい)。したがって標識水は、本明細書に教示する方法における前駆体として役立ちうる(例えば2H2O、H218O)。
【0153】
H2Oの利用可能性が細胞内での生合成反応を制限することはおそらく決してないだろうが(なぜならH2Oは細胞の内容物の70%近くを占めるから、あるいは>35容積モル濃度だからである)、H2Oからの水素原子および酸素原子は、生合成経路に関与する多くの反応に、化学量論的に寄与する:
例えば、R-CO-CH2-COOH+NADPH+H2O→R-CH2CH2COOH(脂肪酸合成)。
【0154】
その結果、H-またはO-同位体標識水の形で提供された同位体ラベルは、生物学的分子中に、合成系路の一部として組み込まれる。水素の組み込みは二つの方法で、すなわち、分子中の不安定な位置で起こるか(すなわち迅速に交換可能で酵素触媒反応を必要としない)、安定な位置で起こる(すなわち迅速には交換可能ではなく、酵素触媒を必要とする)。酸素の組み込みは安定な位置で起こる。
【0155】
細胞水からの生化学的分子中のC-H結合への水素組み込みステップのいくつかは、生合成反応シーケンス中の明確に定義された酵素触媒ステップ中にのみ起こり、ひとたび成熟最終産物分子に入ると不安定(組織中の溶媒水と交換可能)ではなくなる。例えば、グルコース上のC-H結合は、溶液中で交換可能でない。対照的に、以下のC-H位のそれぞれは、特異的酵素反応の逆転時に体水分と交換する:クレブス回路中のオキサロ酢酸/コハク酸シーケンスおよび乳酸/ピルビン酸反応におけるC-1およびC-6;グルコース-6-リン酸/フルクトース-6-リン酸反応におけるC-2;グリセロアルデヒド-3-リン酸/ジヒドロキシアセトン-リン酸反応におけるC-3およびC-4;3-ホスホグリセレート/グリセロアルデヒド-3-リン酸およびグルコース-6-リン酸/フルクトース-6-リン酸反応におけるC-5。
【0156】
ある分子の特定の非不安定位置に共有結合によって組み込まれた水由来の標識された水素または酸素原子は、それにより、その分子の「生合成歴」を明らかにする−すなわち、ラベルの組み込みは、その分子が、同位体標識水が細胞水中に存在する期間中に合成されたことを示す。
【0157】
これらの生物学的分子中の不安定水素(非共有結合的に会合しているか、交換可能な共有結合中に存在するもの)は、分子の生合成歴を明らかにしない。不安定水素原子は、非標識水(H2O)とのインキュベーションによって(すなわち2Hまたは3Hを最初に組み込んだ非酵素的交換反応と同じ非酵素的交換反応の逆転によって)容易に除去されうる。
【0158】
結果として、生合成歴を反映しないが非合成的交換反応によって組み込まれる潜在的に混入する水素ラベルは、天然存在度のH2Oと共にインキュベートすることによって、実際には容易に除去することができる。
【0159】
生物学的分子への標識水素原子の組み込みを定量的に測定するための解析方法は利用可能である(例えば3Hの場合は液体シンチレーション計数;2Hおよび18Oの場合は質量分析法またはNMR分光法)。同位体標識水組み込みの理論に関するさらなる議論については、例えば、参照により本明細書に組み入れられるJungas RL. Biochemistry. 1968 7:3708-17を参照されたい。
【0160】
標識水は市場から容易に入手することができる。例えば2H2Oは、Cambridge Isotope Labs(マサチューセッツ州アンドーバー)から購入することができる。2H2Oは、例えば総体水分のパーセントとして、例えば消費される総体水分の1%を投与することができる(例えば1日あたりに消費される水3リットルに対して、30マイクロリットルの2H2Oが消費される)。
【0161】
2H2Oの比較的高い体水分濃縮(例えば総体水分の1〜10%が標識される)が、本発明の技法を使って、比較的安価に達成される。この水濃縮は比較的一定で安定である。というのも、これらのレベルはヒトおよび実験動物では毒性の証拠を何も示さずに数週間または数ヶ月維持されるからである。多数のヒト被験者(>100人)におけるこの知見は、高用量の2H2Oにおける前庭毒性に関する以前の懸念とは対照的である。出願人の一人は、体水分濃縮の迅速な変化を(例えば小分割量の初期投与などによって)防ぐ限り、2H2Oの高い体水分濃縮は、毒性を伴わずに維持されうることを発見した。例えば安価な市販の2H2Oにより、比較的少ない費用で、1〜5%の範囲の濃縮を長期間維持することができる。
【0162】
H218Oを投与する場合も比較的高く比較的一定した体水分濃縮を達成することができる。18O同位体には毒性がなく、結果として重大な健康リスクを示さないからである。
【0163】
同位体標識水は、連続的な同位体標識水投与もしくは不連続な同位体標識水投与によって、または同位体標識水の単回投与もしくは複数回投与後に、投与することができる。連続的な同位体標識水投与では、ある個体に、その個体において経時的に比較的一定した水濃縮を維持するのに十分な期間にわたって、同位体標識水を投与する。連続的方法の場合、最適には、定常状態濃度を達成するのに十分な継続期間(例えばヒトでは3〜8週間、齧歯類動物では1〜2週間)にわたって、標識水が投与される。
【0164】
不連続な同位体標識水投与の場合、同位体標識水の量を測定してから1回以上投与し、次に同位体標識水への曝露を中断して、体水分プールからの同位体標識水の洗い流しを起こさせる。そうすると脱標識の時間経過を監視することができる。最適には、生物学的分子中に検出可能なレベルを達成するのに十分な継続期間にわたって、水を投与する。
【0165】
同位体標識水は、当技術分野で知られているさまざまな方法で個体または組織または細胞に投与することができる。例えば同位体標識水は、経口、非経口、皮下、血管内(例えば静脈内、動脈内)、または腹腔内投与することができる。2H2OおよびH218Oの商業的供給源は、Isotec, Inc.(オハイオ州マイアミズバーグ)およびCambridge Isotopes, Inc.(マサチューセッツ州アンドーバー)など、いくつかある。投与される同位体標識水の同位体含有量は約0.001%〜約20%の範囲をとることができ、生物学的分子の同位体含有量を測定するために使用する計器の分析感度に依存する。ある実施形態では、飲料水中4%2H2Oを経口投与する。もう一つの実施形態では、ヒトに50mLの2H2Oを経口投与する。
【0166】
2H2Oを投与される生物系は細胞であってもよい。細胞は多細胞生物から収集して培養するか、American Type Culture Collectionなどの商業的供給源から購入し、当技術分野で周知の技法を使って細胞株として増殖させることができる。あるいは、2H2Oを投与される個体は、齧歯類動物またはヒトなどの哺乳動物を含む任意の多細胞生物であってもよい。
【0167】
薬物、薬物候補、薬物リード、生物学的因子、またはそれらの組合わせ(すなわち、化合物、化合物の組合わせ、または化合物の混合物)の投与を伴う実施形態の場合、個体は、哺乳動物、例えば一般に認められている疾患の動物モデルを含む実験動物、またはヒトなどであることができる。食品添加物、産業化学物質もしくは職業化学物質、環境汚染物質、または化粧品の投与を伴う実施形態の場合、個体は任意の実験動物、例えば、限定するわけではないが、齧歯類動物、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタであることができる。
【0168】
C.候補薬剤の投与
本明細書に概説するように、候補薬剤はさまざまな理由で投与される。いくつかの実施形態において、本発明では、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に影響を及ぼし、したがって潜在的疾患状態に影響を及ぼす潜在的治療剤またはワクチンを発見する目的で、薬剤(例えば産業化学物質、農薬、除草剤などを含む環境汚染物質)、薬物および薬物候補、食品添加物、化粧品、ワクチンなどの毒性効果を解明する目的で、そしてまた、薬剤およびワクチンに関連するリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の新しい経路を解明する目的(例えば薬物の副作用の研究、作用機序の研究など)で、候補薬剤が評価される。投与は、本明細書に概説するように、さまざまな方法で達成される。多くの場合、複数の候補薬剤濃度および/または複数回の候補薬剤曝露を行うことができる。投与は、同位体標識基質の投与前、投与中または投与後に行うことができる。
【0169】
本明細書に概説するように、動物を、少なくとも一つの抗原に曝露することにより、関心対象の抗原で免疫する。動物を少なくとも一つの候補薬剤にも曝露する。ある実施形態では、動物を候補薬剤に曝露するステップの前に免疫化のステップを行う。もう一つの実施形態では、免疫化のステップが、動物を候補薬剤に曝露するステップの後に行われる。あるいは、動物を候補薬剤に曝露するステップと同時に、免疫化のステップを行う。
【0170】
D.関心対象である1以上の標的DNA分子の取得
本発明の方法を実施するにあたって、一態様として、関心対象の標的DNA分子を、細胞、組織、または生物から、当技術分野で知られている方法に従って取得する。関心対象のDNA分子は、生物学的試料から単離することができる。
【0171】
複数の関心対象DNA分子を、細胞、組織、または生物から獲得することができる。それら1以上の生物学的試料は、1以上の生物学的液体であることができる。関心対象のDNA分子は、当技術分野で知られている標準的な生化学的方法を使って、生物学的試料から取得し、適宜、部分的に精製するか、単離することができる。
【0172】
DNA分子は、脊椎動物の組織、特に免疫系の組織(例えばリンパ節を含むが、これに限るわけではない)から取得することもできる。
【0173】
生物学的試料の採取頻度は、さまざまな因子に依存して変動しうる。そのような因子として、例えば関心対象であるDNA分子の性質、試料採取の容易さおよび安全性、関心対象であるDNA分子の合成速度および分解/除去速度、ならびに化合物、ワクチン、または候補薬剤の半減期が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0174】
関心対象のDNA分子は、通常のDNA精製方法および/または当業者に知られている他の分離方法により、部分的に精製するか、適宜、単離することもできる。
【0175】
もう一つの実施形態では、関心対象のDNA分子を加水分解するか、他の形で分解して、より小さい分子を形成させることができる。加水分解法には、当技術分野で知られている任意の方法、例えば化学的加水分解(酸加水分解など)および生化学的加水分解(ヌクレアーゼ分解など)があるが、これらに限るわけではない。加水分解または分解は、関心対象のDNAの精製および/または単離の前または後に行うことができる。関心対象のDNA分子は、当業者に知られている通常のDNA精製方法により、部分的に精製するか、または適宜、単離することもできる。
【0176】
E.解析
現在利用可能な技術(静的方法)では、細胞における分子の組成、構造、または濃度だけを測定し、一時点でそれを行う。
【0177】
1.質量分析
質量分析計は試料の構成要素を迅速に移動するガス状イオンに変換し、質量対電荷比に基づいてそれらを分離する。したがって、イオンまたはイオンフラグメントの同位体またはアイソトポログを使って、関心対象である1以上のDNA分子における同位体濃縮を測定することができる。
【0178】
一般に、質量分析計には、イオン化手段および質量分析機が含まれる。いくつかの異なるタイプの質量分析機が当技術分野では知られている。これらには、磁場型分析機、静電型分析機、四重極、イオントラップ、飛行時間型質量分析機、およびフーリエ変換分析機などがあるが、これらに限るわけではない。また、2以上の質量分析機を連結して(MS/MS)、まず前駆体イオンを分離し、次に、気相フラグメントイオンを分離して測定することもできる。
【0179】
質量分析計は、いくつかの異なるイオン化法も包含する。これらには、電子衝撃、化学イオン化、およびフィールドイオン化などの気相イオン化源、ならびに電場脱離、高速原子衝撃、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化、および表面増強レーザー脱離/イオン化などの脱離源があるが、これらに限るわけではない。
【0180】
また、質量分析計は、ガスクロマトグラフィー(GC)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの分離手段と連結することもできる。ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)では、ガスクロマトグラフィーからのキャピラリーカラムを、適宜、ジェットセパレータを使って、質量分析計に直接連結する。そのような応用例では、ガスクロマトグラフィー(GC)カラムが、試料ガス混合物から試料構成要素を分離し、分離された構成要素をイオン化し、質量分析計で化学的に解析する。
【0181】
GC/MSを有機分子の質量アイソトポマー存在量の測定に使用する場合、標識水からの水素標識同位体の組み込みは、標識水からその有機分子に組み込まれる水素原子の数に依存して3〜7倍増幅される。
【0182】
ある実施形態では、関心対象であるDNA分子の同位体濃縮を、質量分析計で直接測定することができる。
【0183】
もう一つの実施形態では、質量スペクトル分析に先だって、関心対象であるDNA分子を部分的に精製し、または適宜、単離する。さらにまた、関心対象であるDNA分子の加水分解産物または分解産物を精製してもよい。
【0184】
もう一つの実施形態では、関心対象であるDNA分子の同位体濃縮を、前記DNA分子の加水分解後に、ガスクロマトグラフィー-質量分析計によって測定する。
【0185】
上述した実施形態のそれぞれにおいて、生物学的分子(すなわち関心対象のDNA分子)の生合成速度は、真の前駆体プール濃縮を表すために、完全に代謝回転した関心対象分子の標識前駆体分子濃縮値または漸近(asymptotic)同位体濃縮を使って、前駆体-生成物関係(以下に詳述)を適用することにより、算出することができる。あるいは、生合成速度または分解速度を、指数関数的または他の消失速度論モデル(以下に詳述)を適用することにより、指数関数的減衰曲線を使って算出してもよい。
【0186】
a.相対的および絶対的質量アイソトポマー存在量の測定
測定された質量スペクトルピーク高、あるいはピーク下面積は、親(ゼロ質量同位体)アイソトポマーに対する比として表すことができる。本発明の目的には、そのようなデータを記述する際に、試料中のアイソトポマーの存在量について相対値および絶対値を与える任意の計算手段を使用しうると理解される。
【0187】
2.関心対象であるDNA分子の標識:非標識比率の算出
次に関心対象である標識および非標識DNAの比率を算出する。実施者はまず、ある分子の単離されたアイソトポマー種について、過剰モル比を決定する。次に実施者は、測定された過剰比の内部パターンを理論パターンと比較する。そのような理論パターンは、参照によりその全てが本明細書に組み入れられる米国特許第5,338,686号、同第5,910,403号、および同第6,010,846号に記載されているように二項分布または多項分布を使って算出することができる。これらの計算は質量アイソトポマー分布解析(Mass Isotopomer Distribution Analysis:MIDA)を含みうる。さまざまな質量アイソトポマー分布解析(MIDA)組合せアルゴリズムが、当業者に知られているいくつかの異なる資料で議論されている。この方法は、HellersteinおよびNeese (1999)、ならびにChinkesら (1996)、ならびにKelleherおよびMasterson (1992)、ならびに米国特許出願第10/279,399号(これらはいずれも参照によりその全てが本明細書に組み入れられる)に、さらに詳しく議論されている。
【0188】
上述の文献に加えて、この方法を実行する計算ソフトウェアも、カリフォルニア大学バークレー校のMarc Hellerstein教授から公的に入手することができる。
【0189】
過剰モル比と理論パターンとの比較は、関心対象の分子について作成した表を使って、またはグラフ的に、決定された関係を使って行うことができる。これらの比較から、前駆体サブユニットプールにおけるサブユニットの質量同位体濃縮の確率を記述するp値などの値が決定される。次に、この濃縮を使って、全てのアイソトポマーが新たに合成されたと仮定した場合に存在すると予想されるアイソトポマー過剰比を明らかにするための、各質量アイソトポマーについて新たに合成されたタンパク質の濃縮を記述するAx*などの値を決定する。
【0190】
次に存在分率を算出する。個々の同位体(元素の場合)または質量アイソトポマー(分子の場合)の存在分率は、その特定同位体または質量アイソトポマーが全存在量に占める分率である。これは、最も豊富な種に100という値を与え、他の全ての種を100に対して規格化し、パーセント相対存在量として表す相対存在量とは区別される。質量アイソトポマーMXの場合、MXの存在分率=
【数1】
式中、0〜nは、存在が認められる、最低質量(m0)質量アイソトポマーに対する整数質量の範囲である。Δ存在分率(濃縮または枯渇)=
【数2】
式中、下付き文字eは濃縮された存在度を示し、下付き文字bはベースライン存在度または天然存在度を示す。
【0191】
前駆体投与期間中に実際に新しく合成されたポリマーの分率を決定するには、測定された過剰モル比(EMX)を、全てのアイソトポマーが新たに合成されたと仮定した場合に存在すると予想されるアイソトポマー過剰比を明らかにするための、各質量アイソトポマーについて新たに合成された生体ポリマー(例えばDNA分子)の濃縮を記述する計算濃縮値AX*と比較する。
【0192】
3.分子フラックス速度の算出
合成の速度を決定する方法には、分子前駆体プール中に存在する質量同位体標識サブユニットの比率を算出すること、そしてこの比率を使って、少なくとも一つの質量同位体標識サブユニットを含有する関心対象分子の予想頻度を算出することが含まれる。次に、この予想頻度を、実際の、実験的に決定された関心対象分子のアイソトポマー頻度と比較する。これらの値から、選択した組み込み期間中に添加した同位体標識前駆体から合成される関心対象DNA分子の比率を、算出することができる。したがって、そのような期間中の合成の速度も決定される。
【0193】
次に前駆体-生成物関係を適用することができる。連続標識法の場合は、同位体濃縮を漸近(すなわち最大可能)濃縮と比較し、キネティックパラメータ(例えば合成速度)を前駆体-生成物式から算出する。合成速度分率(ks)は、連続標識前駆体-生成物式:
ks=[-ln(1f)]/t
を適用することによって決定することができる(式中、f=合成分率=生成物濃縮/漸近前駆体/濃縮およびt=研究対象の系におけるラベル投与の接触時間)。
【0194】
不連続標識法の場合、同位体濃縮の低下の速度を算出し、関心対象であるDNA分子のキネティックパラメータを、指数関数的減衰式から算出する。この方法を実施する場合、生体ポリマー(例えばDNA分子)には、好ましくは、複数の質量同位体標識前駆体を含有する質量アイソトポマーが濃縮される。関心対象分子のこれら高質量アイソトポマー、例えば3個または4個の質量同位体標識前駆体を含有する分子は、天然質量同位体標識前駆体の存在度が比較的低いため、外来前駆体の不在下では無視できる量しか形成されないが、分子前駆体組み込み期間中は、かなりの量で形成される。逐次的な一連の時点で細胞、組織、または生物から採取される関心対象分子を質量分析法で解析するにより、高質量アイソトポマーの相対頻度が決定される。高質量アイソトポマーは、ほとんど排他的に、最初の時点以前に合成されるので、二つの時点間のその減衰は、関心対象DNA分子の減衰速度の直接的尺度になる。
【0195】
好ましくは、最初の時点は、質量同位体標識サブユニットの比率が前駆体投与後のその最高レベルから実質的に減衰していることを保証するために、投与様式に依存して、前駆体投与の停止後、少なくとも2〜3時間である。ある実施形態では、以降の時点が、通例、最初の時点の1〜4時間後であるが、このタイミングは生体ポリマープールの置換速度に依存するだろう。
【0196】
関心対象分子の減衰の速度は、関心対象の三同位体分子(three-isotope molecule)に関する減衰曲線から決定される。減衰曲線が数個の時点によって定義されるこの例では、曲線を指数関数的減衰曲線に当てはめて、そこから減衰定数を決定することによって、減衰速度論を決定することができる。
【0197】
分解速度定数(kd)は、指数関数的または他の速度論的減衰曲線に基づいて算出することができる。
kd=[-ln f]/t。
【0198】
上述のように、この方法を使って、質量同位体標識を行うことができる二つ以上の同一サブユニットから形成される実質上任意の生体ポリマーについて、サブユニットプール組成ならびに合成および減衰の速度を決定することができる。分子のフラックス速度および関心対象の代謝経路(本発明ではDNA合成および/またはDNA分解)を通るフラックス速度を算出するために、他の周知の計算技法および実験的標識または脱標識アプローチも使用することができる(例えばWolfe,R.R.「Radioactive and Stable Isotope Tracers in Biomedicine: Principles and Practice of Kinetic Analysis」John Wiley & Sons;(March 1992))。
【0199】
F.本発明の方法の用途
本明細書に開示する方法は、創薬、薬剤開発、および承認(DDDA)工程に役立ちうる(図10〜11)。特に本発明の方法では、なかんずく、以下に挙げる事項が可能である。
【0200】
ワクチン、候補薬剤、および環境汚染物質を含むさまざまな外部刺激に応答して起こるリンパ球増殖(リンパ増殖)、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送のインビボ測定。
【0201】
本明細書において「リンパ増殖」とは、リンパ球の再生産を意味する。リンパ増殖はクローン拡大を含むが、これに限るわけではない。
【0202】
本明細書において「増殖」とは、細胞の再生産を意味し、この際、一つの細胞(「親」細胞)は分裂して二つの娘細胞を生成する。
【0203】
本明細書において「クローン拡大」とは、単一の親リンパ球からのリンパ球の再生産を意味する。
【0204】
本明細書において「動員」とは、例えば抗原の存在またはサイトカイン濃度の変化などによる、関心対象の部位またはその近傍へのリンパ球の再配置を意味する。特に興味深いのはリンパ節への動員である。
【0205】
本明細書において「リンパ球輸送」とは、関心対象の部位(例えば炎症部位)またはその近傍へのリンパ球の遊走を意味する。
【0206】
本発明は、リンパ球増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送を調整する候補薬剤を同定するための方法に役立つ。「調整する」という用語には、(例えばリンパ球増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の一つ以上の性質を)減少させる薬剤、またはリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の一つ以上の性質を増加させる(例えば活性化する)薬剤が包含される。一般に、「減少」または「増大」は、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の変化であり、それ以上の増加も考えられる。
【0207】
ワクチン接種のための抗原用量の最適化。例えば望ましい結果を達成するためのワクチン投薬量の増加または減少。
【0208】
ワクチン接種用アジュバントの最適化。例えば望ましい結果を達成するためのアジュバントの投薬量の増加または減少。
【0209】
ラベル保持による記憶の測定。例えば単離されたDNAまたは単離された細胞中のラベル同位体の量を計数することによる。
【0210】
二次免疫後の再生による記憶の測定。例えば単離されたDNAまたは単離された細胞中のラベル同位体の量を計数することによる。
【0211】
インビボでの治療係数の決定。
【0212】
リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の基礎速度の評価。
【0213】
インビボおよびインビトロでの薬物、用量、および治療レジメンの定量的比較。
【0214】
迅速で、高スループットで、スケーラブルなアッセイ。
【0215】
本明細書において「治療係数」(「治療可能比」または「安全域」とも呼ばれている)とは、治療効果を引き起こす治療薬剤の量と、毒性効果を引き起こす量との比較を意味する。定量的には、これは、毒性効果をもたらすのに必要な用量を治療用量で割ったものによって与えられる比である。よく用いられる治療係数の尺度は、集団の50%に対する薬物の致死量(LD50)を集団の50%に対する有効量(ED50)で割ったもの:
治療係数=(LD50)/(ED50)
である。
【0216】
本明細書に記載する方法は、候補薬剤のスクリーニング、候補薬剤のFDA第I相および第II相ヒト検証試験、候補薬剤のFDA第III相承認、ならびにFDA第IV相承認試験、または他の承認後市場ポジショニングもしくは薬物作用機序試験に応用することができる。
【0217】
ある実施形態では、本方法では、生物系を候補薬剤または候補薬剤の組合わせもしくは混合物に曝露した後に観察される、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に対する効果を評価することも可能である。したがって、生成し解析されるデータは、創薬、薬剤開発および承認(DDDA)意思決定工程を容易にするので、すなわち意思決定者が候補薬剤または候補薬剤の組合わせのさらなる開発を続けることを決定するのに役立つ情報(例えばリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に関する阻害データまたは刺激データが有望と思われるかどうか)または前記の努力を中止することを決定するのに役立つ情報、例えばリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に関する阻害データまたは刺激データが好ましくないと思われるかどうかを意思決定者に提供するので、DDDA工程に有用である(この工程の図解については図10を参照されたい)。
【0218】
さらにまた、本方法により、当業者は、ある候補薬剤クラス中の「ベストインブリード」(すなわち「ベストインクラス(best in class)」)を同定し、選択し、かつ/または特徴づけることができる。一旦、同定、選択、および/または特徴づけがなされたら、当業者は、本発明の方法によって生成した情報に基づいて、その「ベストインブリード」をさらに評価する決定、または製薬会社もしくはバイオテクノロジー会社などの他者にその候補薬剤をライセンスする決定を下すことができる(図11参照)。
【0219】
もう一つの実施形態において、本発明の方法では、産業化学物質、食品添加物、化粧品、および環境汚染物質への曝露が組織および細胞に及ぼす毒性効果(例えば、疾患を含む毒性傷害につながる環境曝露からの、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/もしくは細胞輸送の阻害、または場合によって、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の刺激)の特徴づけもしくは評価(または特徴づけと評価の両方)が可能である。本発明の方法は、さらなる公衆衛生目標に向けて組織および細胞に対する産業有毒物、食品有毒物、化粧品有毒物、および環境有毒物の分子機序を同定し探索するためのプログラムを確立するために使用することができる。
【0220】
ある実施形態では、本発明の方法によって生成されるデータが、1以上の免疫疾患(例えば慢性リンパ球性白血病を含む白血病などのリンパ増殖性障害)の基礎にある分子病理発生過程または原因の理解に関連しうる。もう一つの実施形態では、本発明の方法によって生成されるデータが、関心対象である免疫疾患の開始、進行、重症度、病状、攻撃性、グレード、活動性、障害性、死亡率、罹病率、疾患細分類、または他の基礎にある病原的もしくは病理学的特徴の基礎面に光をあてうる。
【0221】
さらにもう一つの実施形態では、本発明の方法によって生成されるデータが、関心対象である免疫疾患、特にリンパ球増殖の変化に関係する疾患の、予後、生存率、死亡率、罹病率、ステージ、治療応答、総体症状、障害性または他の臨床因子の基礎面を解明しうる。2以上のバイオマーカーを独立してまたは同時に測定することができる(例えばDNA合成とMタンパク質代謝回転)
【0222】
既知の疾患動物モデルを本発明の一部として使用することができる。そのような疾患動物モデルとして、リンパ球性白血病、リンパ腫、炎症性疾患、HIV/AIDSなどの免疫学的疾患モデルなどが挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0223】
もう一つの実施形態として、本発明の方法は、産業化学物質または職業化学物質、食品添加物、化粧品、または環境汚染物質/夾雑物などの候補薬剤が組織または細胞などの生物系に及ぼす毒性効果を検出するのに有用である。本発明に関して毒性は、通常、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の望ましくない変化によって測定される。本明細書に概説するように、変化は、実験の背景および選択した観測可能な帰結に応じて、刺激または阻害のどちらかであることができる。いくつかの実施形態では、毒性効果が終末器毒性を含みうる。終末器毒性には、一次リンパ器官および二次リンパ器官におけるリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送が含まれうるが、これらに限るわけではない。
【0224】
図11に創薬工程における本願発明の使用を例示する。ステップ01では、複数の候補薬剤を選択する。ステップ03では、DNA合成のフラックス速度を、リンパ球内で、好ましくは本明細書で論じる方法に従って研究する。もう一つの実施形態では、本発明を例えば標的発見工程で使用する場合に、ステップ03を最初に行う。ステップ05では、関連するフラックス速度を同定する。例えば、特定の表現型状態において細胞増殖の特定のバイオマーカーのフラックス速度を低下させることが望ましい場合は、そのフラックス速度を低下させる化合物は一般により有用であるとみなされ、逆に、そのフラックス速度を増加させる化合物は、一般にあまり望ましくないとみなされるだろう(例えばデノボDNA合成)。標的発見工程では、もう一つの表現型と比較してフラックス速度が増加または減少している特定の表現型(例えば疾患型対非疾患型)を、良い治療標的もしくは診断標的であるまたは良い治療標的もしくは診断標的の経路にあるとみなしうる。ステップ07では、関心対象の候補薬剤および関心対象のワクチン(「治療剤」と総称)、関心対象の標的、または診断薬を選択し、さらに使用し、さらに開発する。標的の場合、そのような標的は、例えば周知の小分子スクリーニング工程(例えば新規化学物質などの候補薬剤のハイスループットスクリーニング)などの対象であってもよい。ステップ09では、候補薬剤、ワクチン、または診断薬を販売または配布する。販売または配布するのは、本発明の方法によって「ベストインブリード」と同定されたものであることができる。図6の工程に含まれるステップの1以上が、最適な結果を得るために、ほとんどの場合、何回も繰り返されるであろうことは、当然、理解されるだろう。
【0225】
さらにもう一つの実施形態として、本発明の方法は、免疫抑制効果を持つ候補薬剤を発見するために使用することができる。HIV-1感染および後天性免疫不全症候群(AIDS)を含む一定の進行性免疫不全症候群は、慢性的な免疫活性化を特徴とする。この活性化はいくつかの機序によって疾患進行(免疫機能の止めがたい喪失)の一因になると考えられる。しかし、古典的な免疫抑制剤を使用することは、基礎にある免疫不全を悪化させる懸念があるため、これらの状況では問題が多い。本発明の一実施形態は、創薬ツールおよびそのようにして発見された薬物を用いる治療戦略を含む。出願人は、リンパ球の輸送およびリンパ節(LN)への動員を妨害する候補薬剤を同定する手段、ならびにそのような薬剤の至適用量または至適レジメンを同定するための手段を、ここに初めて開示する。この方法によって発見される候補薬剤の例を開示する。
【0226】
さらにもう一つの実施形態として、出願人は、細胞毒活性または他の古典的免疫毒性を伴わずに慢性的免疫活性化を減少させることにより、一定の免疫不全疾患における免疫不全の進行を減速するための治療方法も開示する。本方法は、腸もしくは末梢組織またはその両者における誘導部位(例えばLN)へのリンパ球のホーミングを減少させるまたは防止する薬剤を、初発または既存免疫不全症候群を持つ対象に投与することを含む。結果として、進行性の免疫機能喪失に関与するいくつかの過程、例えばリンパ球の活性化および増殖;ナイーブT細胞の二次的枯渇;メモリー/エフェクターT細胞プールにおける抗原特異的レパートリーの喪失;胸腺機能障害を含むリンパ球ホメオスタシスの変化;標的細胞の供給によるHIV-1感染におけるHIV複製の喚起;ならびに線維症を含むリンパ節構造への損傷などを減少させることができる。リンパ球輸送を妨害する薬剤は細胞毒性作用を持つ必要はなく、それゆえに免疫不全症候群における使用には理想的な治療薬候補である。
【0227】
G.同位体摂動分子
もう一つの実施形態において、本方法は、同位体摂動分子(例えば核酸)の生産にも対応する。これらの同位体摂動分子は、リンパ増殖の変化を決定するのに有用な情報を含む。1以上の同位体摂動分子を、ある生物のリンパ球および/または組織から単離してから、解析し、上述のように情報を抽出する。
【0228】
H.キット
本発明は、リンパ増殖の変化を測定するためのキットも提供する。このキットは同位体標識前駆体分子を含むことができ、タンパク質を分離、生成、または単離するための当技術分野で知られている化学化合物、および/または組織試料を取得するのに必要な化学物質、組み合わせ解析のための自動計算ソフトウェア、ならびにキットの使用説明書をさらに含んでもよい。
【0229】
水を投与するための道具(例えば計量カップ、針、注射器、ピペット、IV管)などといった他のキット構成要素も、適宜、キットに入れて提供することができる。同様に、細胞、組織、または生物から試料を取得するための器具(例えば標本カップ、針、注射器、および組織試料採取装置)も適宜、提供することができる。
【0230】
I.情報記憶装置
本発明は、本発明の方法によって収集されたデータを含む紙の報文またはデータ記憶装置などの情報記憶装置も提供する。情報記憶装置には、紙または類似の触知できる媒体に書かれた報文、プラスチック透明シートまたはマイクロフィッシュに書かれた報文、および光学媒体または磁気媒体(例えばコンパクトディスク、デジタルビデオディスク、光学ディスク、磁気ディスクなど)に保存されたデータ、または一時的であるか永続的であるかを問わず情報を保存しているコンピュータが含まれるが、これらに限るわけではない。データは、少なくとも部分的にコンピュータに含有されていてもよく、電子メールメッセージの形態にあるか、独立した電子ファイルとして電子メールメッセージに添付されてもよい。情報記憶装置内のデータは、「生」(すなわち収集されているが解析されていない)であるか、部分的に解析されているか、完全に解析されていてよい。データ解析は、コンピュータもしくは他の何らかの自動装置を利用して行うか、手作業で行うことができる。情報記憶装置は、さらなる解析もしくは表示またはその両方を目的として別個のデータ記憶システム(例えばコンピュータ、ハンドヘルドコンピュータなど)にデータをダウンロードするために使用することもできる。あるいは、情報記憶装置内のデータを、さらなる解析もしくは表示またはその両方のために、紙、プラスチック透明シート、または他の類似の触知可能な媒体上に印刷してもよい。
【実施例】
【0231】
以下に限定でない実施例を挙げて、本願発明をさらに例証する。
実施例1
【0232】
プロトコール
以下に述べる実験は全てこの実施例1のプロトコールに従った。
試薬類.キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)および以下に記述するシクロスポリンA、および他の全ての生体異物は、Sigma(ミズーリ州セントルイス)または化学物質の他の周知の供給業者から入手した。重水はCambridge Isotope Labs(マサチューセッツ州ケンブリッジ)から入手した。Celigro(市/州)の組織培養用エンドトキシンフリー滅菌PBSを擬似免疫化に使用し、またKLHの希釈剤として使用して、それを-20℃で保存した。他の化学物質は全て、別段の表示がない限り、Sigmaから入手した。
【0233】
動物.動物作業は全て、KineMedの動物実験委員会から、書面による事前の承認を得た。動物(別段の表示がない限り雌C57BI/6およびBalb/cマウス)は、特定病原体フリー条件下に、KineMedの動物施設で飼育し、12時間明/12時間暗の照明サイクルにさらし、水と標準飼料を不断給餌した。動物は6週齢で購入し、免疫化の前に2〜7日間、その場で馴化させた。
【0234】
PLNAおよび重水標識.キネティックPLNAは、図の説明に注記した点を除いて、以下のように行った。どの実験でも、n=4または5匹のBalb/cマウスの群に、0日目に、20μlのPBSもしくは薬物賦形剤(陰性対照群)または5〜25μgのKLHを含有する20μlのPBS(陽性対照群)を、左後肢足蹠(趾からかかとの方向)に皮下免疫した。重水標識は、0.9%w/v NaClを含有する99.9%2H2Oを35ml/kg-体重の量で腹腔内注射することによって、0日目に開始し、残りの研究期間中は、飲用水中の8%2H2Oで動物を維持した。免疫後7日目に、イソフルラン麻酔下で心臓穿刺によりヘパリン処理チューブに採血し、頸椎脱臼によって屠殺した。血液を1500×gで10分間遠心分離し、ヘパリン処理した血漿を、体水分2H濃縮の決定用に-20℃で保存し、もう一つを血清学的試験用に凍結した。25ゲージカニューレを使って1mlのPBSで骨を洗い流すことにより、右後肢大腿骨から骨髄を収集し、その組織および細胞懸濁液を450×gで5分間遠心分離した。
【0235】
PLN細胞の分析.所属PLNを左後肢から切除し、10%ウシ胎仔血清および抗生物質を含有する氷冷RPMI1640中にピンセットを使って機械的に分散させた。その細胞懸濁液をよく混合し、12×75mmポリスチレンチューブ(BD Biosciences、カリフォルニア州サンホゼ)に装着した35μm細胞ストレーナーで濾過し、450×g、4℃で5分間遠心分離した。細胞を100μlの染色バッファー(0.5%w/vウシ血清アルブミン、2mM EDTA、および0.05%アジ化ナトリウム)に懸濁し、20μlの1mg/mlマウスIgG(Sigma)および2μlの抗CD16/CD32mAb(Miltenyi Biotec、市/州)を加えることによって4℃で15分間固定し、抗CD3-FITCおよび抗B220-PE/Cy5(eBioscience、各1μl)で15分間染色した。試料を染色バッファーで900μlに希釈し、100μlのFlow-Countフルオロスフェア(fluorospheres)とよく混合し、絶対リンパ節細胞数ならびにT細胞、B細胞および非T/B細胞の百分率および絶対数を決定するために、Epics XLフローサイトメーター(Beckman Coulter、市/州)で解析した。リンパ節あたりの絶対細胞数は、
細胞数=(細胞イベントの数/ビーズイベントの数)×1μlあたりのビーズ濃度×100μl
として決定した。
【0236】
対照マウスの反対側(右)PLNを単染色およびアイソタイプ対照に使用した。細胞は、前方散乱光パルス高対面積のプロットに基づくダブレット除去を行って、前方散乱光および側方散乱光によって同定した。一部をDNA抽出用に450×gで5分間ペレット化した。一部の実験では、細胞の残りをPBSで洗浄し、PBS中の2%w/vパラホルムアルデヒドで固定し、T細胞とB細胞を、Coulter Epics Eliteセルソーターで選別した。選別した細胞は再分析時、常に純度>99%だった。
【0237】
プリンdRへの2H組み込みの解析.骨髄、全PLN細胞、または選別したT細胞およびB細胞の試料から、DNEasyキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を使って、製造者の説明に従ってDNAを抽出した。0.15mM ZnSO4を含有する75mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.8)中、0.5単位のヌクレアーゼS1(Sigma)および0.25単位のジャガイモ酸性ホスファターゼ(Calbiochem)と共に、37℃で終夜インキュベートすることにより、一部(0.5μg)をデオキシリボヌクレオチドに加水分解した。100℃において酢酸で30分間処理することにより、プリンデオキシリボヌクレオチドからデオキシリボースを選択的に放出させ、同時に、そのアルデヒド基をペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミンで誘導体化した。ヒドロキシル基は無水酢酸およびN-メチルイミダゾールを使ってアセチル化し、得られたペンタフルオロベンジル四酢酸誘導体をジクロロメタンに抽出し、減圧下で乾燥し、酢酸エチル100μlに再溶解した。誘導体をガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)で上述のように分析し、選択したイオンをm/z435(親質量アイソトポマーM0)および436(M1)で監視した。ChemStationソフトウェアを使ってM0ピーク面積とM1ピーク面積を積分した後、M1質量アイソトポマーの過剰モル分率(EM1)を、
EM1=[(M1/(M0+M1)]試料−[(M1/(M0+M1)]ベースライン
として算出した。
【0238】
ベースライン質量アイソトポマー分布は、m0存在量について試料に合致させた非標識デオキシリボースまたはウシ胸腺DNA標品の解析結果から算出した。二重に測定したEM1値は常に平均の0.1%以内にあった。
【0239】
体水分における2H濃縮を上述のように測定した。簡単に述べると、微量蒸留によって血清(50μl)から水を単離し、炭化カルシウムと反応させて、水素原子をアセチレンに移した。アセチレンをSeries3000サイクロイド質量分析計(Monitor Instruments、ペンシルバニア州チェスウィック)で分析し、m/z=26(M0)と27(M1)の存在量を、2H2Oと1H2Oの既知混合物から作成した標準曲線と比較した。飲用水中の8%2H2Oで維持した動物では、体水分2H濃縮はほぼ5%だった。体水分中の2Hのモル分率を、完全に代謝回転されたDNA中のプリンデオキシリボースの予想EM1値に、MIDAアルゴリズムを使って変換した。この標準と比較したところ、4日以上標識した動物中の骨髄DNAは、85〜95%代謝回転していた。残りはおそらくヌクレオチドサルベージによる小さな寄与を反映しているのだろう。
【0240】
計算および統計.PLN細胞集団の代謝回転分率(f、標識期間中に分裂した全、T、またはB細胞の分率であって、クローン拡大を表す。図1)を
f=EM1観測値/EM1最大値
として算出した。式中のEM1最大値は、大半の実験において、同じ動物から得た骨髄DNAによって表すか、0.14に等しいと仮定した。あるいは、標識期間が4日未満であるマウスについては、EM1最大値を、その動物の体水分2H濃縮から予測されるEM1値×0.9によって表した(0.9という係数はサルベージによる希釈を表す)。標識期間中に分裂した細胞の数は、関心対象である細胞の代謝回転分率と、関心対象である細胞のリンパ節あたりの絶対数とから、
新しい細胞=f×細胞数
として算出した。
【0241】
実験計画に応じて、SigmaStatバージョン8.0に実装されている対応のないスチューデントt検定、一元配置または二元配置ANOVAによって、動物群を比較した。0.05未満のP値を有意とみなした。
実施例2
【0242】
免疫化後のPLN細胞fの増加は抗原依存的である
次に本発明者らは、PLNにおけるfの増加が、抗原依存的なリンパ増殖を反映しているのか、または休止細胞と比較した増殖細胞の優先的動員を反映しているのかを調べた。まず、本発明者らはリンパ球サブセット中のfを測定した(図2B)。KLH免疫マウスから得たPLN B細胞にfの著しい増加が見出された。全T細胞およびCD4+T細胞にはそれより小さなfの増加が検出され、CD8+T細胞にはfの増加が検出されなかった(図2B)。これは、外来タンパク質による初回刺激を受ける能力を、前者は持つことが知られているが、後者は持たないことと合致している。さらにまた、この結果は、B細胞およびCD4+T細胞の増殖がLPS混入によるものではないことも示唆している。なぜなら、LPSはたとえ低用量でも、増殖性CD8+T細胞のパーセンテージを増加させるからである。
【0243】
第2に、KLH刺激によるT細胞のfの増加は、抗原刺激後に起こるNFATcの核内移行を妨げる周知のカルシニューリンアンタゴニストであるシクロスポリンAによって阻害された(図2C)。対照的に、T細胞のベースラインfは、シクロスポリンによって有意に低下しなかった(図2c)。したがって、カルシニューリン依存的過程は、ベースラインfにはあまり寄与していない。KLH刺激によるT細胞fの増加のシクロスポリンA感受性部分は、おそらく抗原駆動的増殖に起因したのだろう。
【0244】
第3に、本発明者らは、抗原を含まないIFA(鉱油)の皮下注射による所属LNへの細胞の動員後に、PLN細胞fに顕著な変化を認めなかった(図3A;「IFA」対「PBS」)。しかしPLN細胞数は増加し(図3B)、それに応じて増殖細胞の絶対数も増加した(図3C)。このようにIFAによるPLNへのリンパ球動員は、休止細胞と増殖細胞とを同じように誘引する(図1A、a対c)。B細胞ではfがIFAによって低下し、CD4+T細胞のfは増加したが、これらの変化はわずかだった(図4)。
【0245】
第4に、PLN細胞数およびfは、低分子量アレルゲンである2,4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)によるBalb/cマウスの免疫化後に増加した(図3D〜F)。DMSO賦形剤はPLNへのリンパ球動員を引き起こしたが(図3E)、fは増加させなかった(図3D)。DNCBは選別したCD4+T細胞およびCD8+T細胞のfを刺激し(図2D);B細胞fの刺激はさまざまであるが、低かった(図2D)。
【0246】
要約すると、タンパク質またはハプテン免疫化後に起こる所属LNにおけるfの増加は、主として、抗原刺激増殖によるものであり、したがってクローン拡大を表す。対照的に、非特異的炎症性刺激によるLNへのリンパ球動員は、細胞性および新しく分裂した細胞の絶対数を増加させるが、fを著しく変化させることはない。
実施例3
【0247】
f(クローン拡大)と細胞数とによるリンパ増殖への差別的寄与
絶対リンパ増殖、すなわち2H2O曝露期間中に分裂したLN細胞の総数は、(LN細胞性×f)として算出することができる。この定義によれば、絶対リンパ増殖は、恒常的な細胞増殖および細胞死、LNへの細胞動員、局所的な抗原駆動的増殖、および活性化誘発死による、LNにおける分裂細胞の正味の増加分に等しい。
【0248】
本発明者らは、さまざまな用量のKLHでBalb/cマウスを免疫した7日後に、所属LNにおける絶対リンパ増殖への細胞性とfとの寄与を決定した(図5A〜C)。細胞性は25μg KLH付近で最大だった(図5A)。10分の1または10倍の抗原用量では、陰性対照と比較して、細胞性は増加しなかった。対照的にfは、100倍範囲のKLH用量にわたって、用量非依存的プラトーまで上昇した(図5B)。2.5μgまでのKLH用量では、絶対リンパ増殖(図5C)が、細胞増殖を伴わないfの増加によって駆動された。実際、fは、わずか600ngのKLHによる免疫化後でも、最大限に増加した(図S3)。2.5〜25μgのKLHでは、絶対リンパ増殖のさらなる増加が、250μgにおける減少と同様に、細胞性の変化によって駆動された(図5A〜C)。このように、KLH刺激によるfの増加は、オン/オフスイッチのように挙動し、低い抗原用量で最大効果を持ち、LN細胞性とは異なる用量応答をたどった。PLN細胞数を2〜3倍増加させた抗原用量でさえ、増殖細胞がPLN中の細胞の約20%以上を占めることは決してなかった。
【0249】
DNCBによる免疫化後には、多少異なる結果が得られた(図5D〜F)。fと絶対リンパ増殖はどちらも低用量では最大下だったが、fは100μgを超える用量のDNCBでプラトーに達した。より高い用量における絶対リンパ増殖のさらなる増加は、細胞性の増加によって駆動された。このように、LN細胞性およびf(クローン拡大)の差別的用量応答関係は、高用量のDNCBでも観察された。
【0250】
KLH免疫化後のf(クローン増殖)のプラトーが抗原デポーまたは炎症性刺激の欠如を反映しているのかどうかを調べるために、本発明者らは、IFA(33)に乳化したKLHで動物を免疫した(図3A〜C)。注目に値することには、IFA中のKLHで免疫した7日後のPLN細胞fの増加は、アジュバントなしのKLH効果と識別できなかった(図3A)。IFAは、免疫後4日目または10日目におけるfに対するKLHの効果を、どちらも増強しなかった。同様に、B細胞fおよびCD4+T細胞fに対するKLHの効果も、IFAによって著しく増強されることはなかった(図4)。IFAは、KLHの存在下でも不在下でも、所属LNにおける細胞性を増加させることにより(図3B)、絶対リンパ増殖を著しく増加させた(図3C)。このように、KLHのみによるアジュバント活性の欠如は、fにおけるプラトーの説明にはならなかった。さらにまた、IFA処置動物のPLNにおける絶対リンパ増殖の増加は、KLHありまたはKLHなしで、主としてリンパ球動員の増加によって駆動された。
実施例4
【0251】
f(クローン拡大)のプラトー値と前駆体頻度との関係
fのプラトーが前駆体頻度によって定められるのかどうかを調べるために、本発明者らはKLHおよびDNCBによる逐次的免疫化を行った(図6)。これらの無関係な抗原に対する応答細胞集団は、異なる抗原特異的前駆体から派生するはずである。本発明者らは、各抗原に関するfのプラトーレベルがコグネイト前駆体の頻度に関係するのだとすると、両抗原による免疫化後のfの増加は、各抗原単独で見られる増加分の和になるはずであると考えた。驚いたことに、至適用量のDNCBおよびKLHによる免疫化後に、全PLN細胞におけるfは、KLH単独で得られた値を上回らなかった(図6A)。これは抗原競合によるものではなく、絶対リンパ増殖と細胞性は、両抗原による免疫化後に、どちらか一方の抗原単独の場合よりも高かった(図6B、C)。
【0252】
二重免疫化は、B細胞およびCD4+T細胞におけるfに対して(全PLN細胞fの予想外の挙動を説明する)異なる効果を発揮した(図7)。CD4+T細胞の場合、KLHとDNCBの両方による免疫化後のfは、どちらか一方の抗原単独の場合よりも大きかった(図7A)。この基準によれば、CD4+T細胞fにとっては前駆体頻度が制限因子だった。しかし、B細胞については、非相加的挙動が観察され;両抗原による免疫化後のfは、どちらか一方の抗原単独の場合の値の中間にあった(図7B)。このように、至適抗原用量でのB細胞fは、前駆体頻度によって制限されなかった。したがって、全リンパ球に関して見られたfのプラトー(図6A)は、この集合系の突発的な性質である。どちらのサブセットでも絶対リンパ増殖はほぼ相加的だった(図6C、D)。
実施例5
【0253】
f(クローン拡大)および細胞性に対する差別的薬物効果
LNの細胞性およびf(クローン拡大)が免疫応答時に差別的に調節されるのだとすると、それらは、抗増殖薬または免疫調整薬による影響も、独立して受けるかもしれない。そこで本発明者らは、絶対リンパ増殖に対して同等な効果を与えるように選択した用量における薬物効果を調べた(図8A、B)。薬物は細胞性およびfに対するその効果が異なっていた(図8C〜H)。例えばラパマイシンは、全PLN細胞のfを、ベースライン時もKLH刺激後も抑制し;細胞性は抗原刺激後にのみ減少した。リボヌクレオチドレダクターゼ阻害剤であるヒドロキシ尿素は、ベースラインfと抗原刺激fをどちらも強く抑制し、細胞性に対する効果はあまり大きくなく、ばらつきがあった。微小管安定化剤パクリタキセルはPLN細胞性を低下させたが、驚いたことに、本発明者らが以前、マウス中の異種移植ヒト腫瘍細胞のfを強く抑制するのを見た時に使用した用量(10mg/kg/日、i.p.)でさえ、fには影響しなかった。デキサメタゾンも、fよりも細胞性を大きく減少させた。薬物はホメオスタティックな代謝回転、クローン拡大、および正味の細胞動員に差別的な影響を及ぼしうる。さらにまた、薬物は、デキサメタゾンがおそらくそうであるように、休止リンパ球と増殖リンパ球を、未知の比率で殺しうる。これらの効果を切り分けることは難しいが、異なる分子標的に作用する薬物が、f(クローン拡大)および細胞性に対して、相違する効果を発揮することをデータは示しており、これらのパラメータが独立して調節されることを裏付けている。
実施例6
【0254】
fの設定値は系統依存的である
最後に、本発明者らは、免疫化後のf(クローン拡大)とLN細胞性の間の解離がBalb/c系統に特有であるかどうかを調べた。KLH免疫化7日後のC57BI/6(B6)マウスのPLNにおける細胞性は用量依存的で、Balb/cマウスの場合とよく似たプロファイルだった(図9A)。B6マウスにおけるPLN細胞のベースライン代謝回転はBalb/cよりも高かった(図9Bと図5Bを比較)。7日目の時点で、B6マウスのKLH免疫化は、どの用量でもfの有意な増加を刺激しなかった(図9B)。PLNにおける絶対リンパ増殖の用量依存性は、全て、細胞性の変化によって駆動された(図9C)。経時変化では、fのKLH依存的な一過性の増加が、4日目には見られたが、それは、それ以前にもそれ以後にも見られなかった(図9D)。B細胞もT細胞も、7日目の時点で、fの実質的な増加を示さなかった(図9E)。このようにベースラインfおよびKLH刺激fの設定値は系統依存的であり、それゆえに、遺伝的制御を受けると推測される。
【0255】
上記の発明を、明解に理解できるように、例を挙げて多少詳しく説明したが、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、一定の改変および変更を行いうることは、当業者には明らかだろう。したがって、この説明が、特許請求の範囲に記載する発明の範囲を限定するものであると解釈してはならない。
【0256】
本明細書で引用した刊行物、特許、および特許出願は全て、あたかも、個々の刊行物、特許、または特許出願のそれぞれが、参照により本明細書に組み入れられることを、個別に明示したかのように、あらゆる目的で、参照により、その全てが、本明細書に組み入れられるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0257】
【図1】モデルおよび実験計画.A,7日間の試験で、細胞動員、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送が、リンパ節の細胞性(c)、分裂した細胞の分率(f)、および絶対リンパ増殖(abs)に及ぼす効果に関するモデル。a,100個のリンパ球を含有する休止LN中、約10%/週のホメオスタティックな代謝回転(黒い細胞)。b,正味の動員を伴わない抗原刺激は、最初に存在した1個の稀な前駆体(aにおける橙色の細胞)を拡大し、3回の細胞分裂で7個の新しい抗原特異的応答細胞(赤色)を生成して、fを60%増加させ、細胞性を7%増加させる。c,動員はLN細胞性および増殖細胞の数を2倍にする;分裂細胞と休止細胞が等しく動員されるならば、fは変化しない。d,これら2つの過程が独立して寄与すると仮定した、免疫応答時の動員とクローン拡大との同時効果。B,足蹠免疫化後のPLN中の分裂細胞の連続的2H2O標識に関する実験計画。
【図2】免疫化後のLN細胞DNAにおける増加したf.(A)時間経過.Balb/cマウスを、KLH 20μgで0日目に免疫し(または免疫せずに)、2H2Oで連続的に標識した。所属LN細胞をfについて解析した。各群2〜3匹の平均を示す。#,別途標識した動物のコホートから得た7日目のデータ。(B)サブセット解析,7日目。KLHありまたはKLHなしで7日前に免疫した2H2O標識Balb/cマウスから得たPLN細胞を、表示のとおり選別した。平均および個々の動物から得たデータを示す。*,2回以上の独立した試行で再現された、B細胞(p<0.001)およびT細胞(p=0.006;t検定)のfに対するKLHの有意な効果。CD4+T細胞fに対するKLH効果は、ここでは統計的に有意な水準に達しなかったが、他の試行では一貫して有意な効果が見られた(例えば11.3%±2.1%対7.5%±1.3%;p=0.017)。(C)T細胞fに対するシクロスポリンA(CsA)の効果。Balb/cマウスを、5μgのKLHまたはPBSで免疫し、2H2Oで7日間標識し、25mg/kg/日のCsAまたは賦形剤(5%エタノール)をp.o.投与した。*,賦形剤処置動物における免疫化(KLH対PBS)の有意な効果(p<0.001)、およびKLH刺激に対するCsA処置の有意な効果(p<0.001)、ただしベースラインfに対するCsA処置の効果は有意でない(p=0.116;二元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。個々のマウスから得たデータ、平均、およびSDを示す。(D)0.5mgのDNCBまたは賦形剤(1:1 PBS:DMSO)による免疫化後、7日目のPLNにおけるfのサブセット解析。*,CD4+(p<0.001)およびCD8+T細胞(p=0.005;t検定)に対する有意なDNCBの効果;各サブセットを少なくとも2回は解析した。
【図3】抗原および刺激原に対するfおよびPLN細胞性の応答.(A〜C)Balb/cマウスをPBSまたはIFA中のKLH 20μgで免疫し、2H2Oで7日目まで標識し、PLNをf(A)および細胞性(B)について解析した。(C)では、絶対リンパ増殖を(細胞数×f)として算出した。Aでは、PLN細胞fに対するKLHの効果が有意であり(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.164;二元配置ANOVA)。Bでは、KLH(p=0.001)およびIFA(p<0.001)の独立効果は、どちらも有意だった(二元配置ANOVA、対数変換データ)。同様の傾向が各群2〜3匹の動物で行った他の二つの実験でも見られた。(D〜F)Balb/cマウスを、表示のとおり、0日目にPBS:DMSO 1:1中のDNCB 0.5mgで免疫するか、擬似免疫した。PLN細胞f(D)、細胞性(E)(例外的な細胞数を持つ1匹のPBS処置動物に注意)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*,f(D)および新細胞数(F)に対するDNCBの効果は有意だった(DMSOに対してt検定で、それぞれ、p<0.001およびp=0.02)。
【図4】KLHおよびIFAに対する応答のサブセット解析.マウスを、PBSまたはIFA中のKLHまたはKLHなしで免疫し、図3と同様に2H2Oで標識した。ベースライン(PBS)に対するfの変化倍率(7日目)を、選別されたB細胞(A)およびCD4+T細胞(B)について示す。2回の独立した実験の結果を示す;fのベースライン値は、それぞれ、B細胞については8.02%および9.84%、CD4+T細胞については4.63%および7.77%だった。プールしたデータに対する二元配置ANOVAによれば、B細胞に対するKLHの効果は有意だったが(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.085)。CD4+T細胞に対するKLH(p<0.001)およびIFA(p=0.001)の効果はどちらも有意であり、互いに独立していた(交互作用に関してp=0.591)。
【図5】さまざまな用量の抗原に対する応答中のLN細胞性およびf.(A〜C)KLH用量の効果。Balb/cマウスをPBS中のKLH 0、2.5、25、または250μgで免疫し、2H2Oで標識し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B;二回の平均)および絶対リンパ増殖(C)について解析した。各点は個々の動物を表す。(D〜F)DNCB用量の効果。PBS:DMSO中のDNCBによる免疫化7日後の細胞数(D)、f(F)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々のデータ、平均、およびSDを示す。Dでは、100μgでの細胞数が賦形剤対照とは異なり(*,p=0.003);500μgでの細胞数が他の全ての群と異なる(#,用量0および20μgに対してp<0.001、用量100μgに対してp=0.002;一元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。Eでは、用量100μgと用量500μgが相違しなかったこと(p>0.05;順位によるANOVA、Student-Newman-Keuls事後検定)を除いて、全ての群間で平均fが有意に異なった(p<0.05)。
【図6】KLHとDNCBの両方による免疫化がPLN細胞の動態に及ぼす効果.Balb/cマウスに、PBS中のKLH 20μgの後、PBS:DMSO中のDNCB 500μg、または両方、または適当な賦形剤による免疫化を行った。KLH上の反応性側鎖に対するDNCBの化学反応性による効果を最小限に抑えるために、抗原を約6時間離して別々に投与することにより、DNCBによる修飾が起こる前に、KLHが捕捉され、加工され、輸送されるようにした。7日目に全PLN中のf(A)、細胞数(B)、および絶対リンパ増殖(C)の解析を行った。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。(A)において、fに対する個々の抗原の効果はどちらも有意だったが(対照に対してp<0.001)、二重免疫化はKLH単独の場合と区別がつかなかった(p=0.64;KLH効果とDNCB効果の間の有意な交互作用、p=0.001)。(B)および(C)において、KLH(p<0.004)およびDNCB(p<0.001)の効果は独立していた(比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。結果は3回の独立した実験を代表している。
【図7】KLHおよびDNCBによる免疫化がCD4+T細胞およびB細胞におけるfに及ぼす効果.図6の実験を繰り返した。PLNから得た、選別されたCD4+T細胞(A、C)およびB細胞(B、D)を、f(A、B)および絶対リンパ増殖(C、D)について解析した。CD4+T細胞のfならびにBおよびCD4細胞の絶対リンパ増殖に対するKLHおよびDNCBの相加的効果は有意だった(それぞれp<0.001;交互作用に関してp>0.05)。(B)において、B細胞fは、KLHでは有意に増加したが(p<0.001)、DNCBでは有意には増加しなかった(p=0.358);DNCBが存在する場合、KLHの効果は有意に低かった(p=0.009;交互作用に関してp=0.012;比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。同様の結果が独立した2回の実験で得られた。
【図8】fおよびLN細胞性に対する差別的薬物効果.Balb/cマウスを5μgのKLHまたはPBSで免疫し、表示の薬物で毎日、処置し(Dex、デキサメタゾン、0.3mg/kg/日、シクロデキストリン中、p.o.;Rap、ラパマイシン、2mg/kg/日、5%エタノール中、p.o.;Tax、パクリタキセル、10mg/kg/日、1:1:5 Cremaphor EL:エタノール:水、i.p.;OHU、ヒドロキシ尿素、500mg/kg/日、水中、i.p.;賦形剤、パクリタキセル群と同じ)、7日目に屠殺するまで2H2Oで連続的に標識した。KLH免疫動物(A)または擬似免疫動物(B)から得た所属LN細胞中の増殖細胞を、(f×細胞数)として数え上げた。(C〜H)Tax(C、D)、Rap(E、F)、またはOHU(G、H)で処置した(または処置していない)動物におけるLN細胞性(C、E、G)およびf(D、F、H)の解析。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*、一元配置ANOVAにより賦形剤対照に対してp<0.05;(*)、有意ではないが、類似する規模の有意な効果(p<0.05)が複数の追跡試験で観察された。
【図9】C57BI/6マウスにおいてKLHに応答して起こるリンパ増殖.(A〜C)B6マウスを2〜200μgのKLHで免疫し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B)、および絶対リンパ増殖(C)を測定した。個々の動物から得たデータを示す。(D)PBSまたはKLH免疫化後のfの経時変化。各群2〜3匹について平均およびSDを示す。(E)200μgのKLHによる免疫化7日後の、選別されたB細胞および全T細胞におけるfの解析。
【図10】努力を続けるか中止するかを決断するための手段としてリンパ増殖に対する効果(すなわち本発明の方法によって収集されるデータ)を用いる創薬、薬剤開発、および承認(DDDA)工程を表す概略図。
【図11】創薬および薬剤開発工程における本発明の使用を例示する図。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2005年9月6日に出願された米国仮特許出願第60/714,873号に基づく優先権を主張し、前記米国仮特許出願は、参照により、その全てが本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、免疫細胞の増殖、クローン拡大、動員および/または輸送ならびに生きている生物におけるこれらの過程の変化を測定するための方法に関する。より具体的には、本方法により、免疫学、ワクチン、および基礎科学研究の分野において、リンパ球の増殖および輸送ならびにリンパ球の増殖および輸送の変化を評価することが可能になる。また、本方法により、抗原および免疫調整剤(例えば薬物もしくは薬物候補またはワクチン)が前記リンパ球のクローン拡大、増殖、動員および/または輸送に及ぼす作用を評価することもできる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
抗原特異的リンパ球のクローン増殖は、適応免疫の基礎をなす基本的機序である。リンパ球には、極めて多様な抗原受容体構造(B細胞抗原受容体=表面免疫グロブリン;αβおよびχδT細胞抗原受容体;各受容体の何百万という構造変異体)が存在する。各構造変異体は体細胞遺伝子組換えおよび体細胞突然変異イベントによって生成し、リンパ球の個々のクローンが、抗原に対してユニークな特異性を持つ抗原受容体を発現させることを可能にしている。所与の抗原に特異的な受容体を持つ細胞は、その抗原が受容体によって結合されるとシグナルを受取り、それが、多くの機能的帰結につながりうる活性化および分化イベントを誘発する。これらの帰結には、なかんずく、抗原特異的細胞の死、機能不応答の誘導、増殖、およびサイトカインの分泌などが含まれる。抗原特異的リンパ球の抗原駆動的な増殖が起こる場合、それをクローン拡大という。なぜなら、増殖は、抗原刺激を受容するリンパ球のクローンで選択的に起こるからである。クローン拡大は、その抗原に2回目に曝露された時に応答することができる細胞の数を増加させるという正味の効果(免疫記憶と呼ばれる現象)を持つ。また、拡大された細胞は、二次刺激時に、抗原に対してより鋭敏に応答し、その応答は、しばしば、ナイーブ細胞の応答とは質的に異なる。
【0004】
抗原に応答して起こるクローン拡大の規模は、免疫応答の機能的帰結にとって極めて重要である。抗原特異的リンパ球の拡大は、移植された臓器の拒絶(アロ抗原に特異的なリンパ球)、自己免疫(自己抗原に異常応答するリンパ球)、およびアレルギー(環境抗原に応答するリンパ球)を含む免疫系の疾患において、極めて重要な構成要素である。したがって、医薬品開発においては、これらの異常リンパ増殖応答をさまざまな選択度で妨害する薬剤の開発に強い関心が持たれてきた。この分野における懸念のもう一つの例では、有望な薬剤は、予想外のアレルギー反応または自己免疫を誘発する場合があり、そのため、候補薬物のかなりの部分が、臨床開発の後期段階になって、手痛い撤退を余儀なくされる。これらの薬物誘発応答または薬物特異的応答も、リンパ球増殖の刺激を伴う。
【0005】
HIV-1感染および後天性免疫不全症候群(AIDS)を含む一定の進行性免疫不全症候群は、慢性的なまたは正常レベルより高い免疫活性化を特徴とする。この活性化は、いくつかの機序により、疾患進行(免疫機能の止めがたい喪失)の一因になると考えられる。しかし、古典的な免疫抑制剤を使用することは、基礎にある免疫不全を悪化させる懸念があるため、これらの状況では問題が多い。
【0006】
慢性的免疫活性化は、進行性免疫不全の一因となりうるいくつかの過程、例えばナイーブT細胞をメモリー/エフェクタープールへと動員することによるナイーブT細胞プールの枯渇;T細胞レパートリーの欠陥につながる、活性化誘導細胞死による抗原特異的メモリー/エフェクターT細胞の枯渇;胸腺機能および長期リンパ球ホメオスタシスの他の側面の変化;標的細胞(複製または活性化CD4+T細胞)の供給によるHIVウイルス複製の喚起;およびリンパ節(LN)線維症を含む末梢リンパ組織の構造への損傷などを、刺激することが示されている。
【0007】
感染状態およびさまざまな免疫不全障害でしばしば観察される慢性的な免疫活性化が、それ自体、潜在的に免疫ホメオスタシスを損なっているという概念は、最近の多くの研究によって補強されてきた。免疫不全/免疫作用/悪化した免疫不全/悪化した免疫活性化/などからなる自己永続的サイクルを展開する病態生理学的モデルが出現している。
【0008】
慢性的免疫活性化はさまざまな測定基準を使って同定することができる。最も高感度な指標の一つは、HIV/AIDSを持つヒト被験者で広く記録されているように、T細胞の増加した増殖速度である。他の尺度も使用することができ、当技術分野でよく知られている。
【0009】
しかしHIV/AIDSにおける免疫活性化を減少させようとする治療的努力は、体系的でなく、一般に強い印象を与えるものではなかった。シクロスポリンAなどの古典的免疫抑制薬は、抗原シグナリングに応答して起こるリンパ球増殖を減少させることによって作用する。他の免疫抑制薬の大半は、当技術分野で周知のサイトキサン、プレドニゾン、その他を含めて、細胞毒性である(すなわち細胞分裂を阻害するか細胞死を引き起こす)。免疫不全を特徴とする障害におけるこれらの薬剤の使用は、医師からは警戒と疑いの目で見られてきた。HIV-1感染にシクロスポリンAを用いる小規模な臨床試験が企てられたが、結果は曖昧であり、HIV/AIDS治療において、現時点で有望な治療手法であるとはみなされていない。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、創薬ツールおよびそのようにして発見された薬物を用いる治療戦略を含む。出願人は、リンパ球の増殖、輸送およびリンパ節(LN)への動員を妨害する候補薬剤を同定する手段、ならびにそのような薬剤の至適用量または至適レジメンを同定するための手段を、ここに開示する。
【0011】
出願人は、細胞毒活性または他の古典的免疫毒性を伴わずに慢性的免疫活性化を減少させることにより、一定の免疫不全疾患における免疫不全の進行を減速するための治療方法も開示する。本方法は、腸もしくは末梢組織またはその両者における誘導部位(例えばLN)へのリンパ球のホーミングを減少させるまたは防止する薬剤を、初発または既存免疫不全症候群を持つ対象に投与することを含む。結果として、進行性の免疫機能喪失に関与するいくつかの過程、例えばリンパ球の活性化および増殖;ナイーブT細胞の二次的枯渇;メモリー/エフェクターT細胞プールにおける抗原特異的レパートリーの喪失;胸腺機能障害を含むリンパ球ホメオスタシスの変化;標的細胞の供給によるHIV-1感染におけるHIV複製の喚起;ならびに線維症を含むリンパ節構造への損傷などを減少させることができる。リンパ球輸送を妨害する薬剤は細胞毒性作用を持つ必要はなく、それゆえに免疫不全症候群における使用には理想的な治療薬候補である。
【0012】
出願人は、リンパ球の増殖、クローン拡大、LNへの動員および輸送の調整物質である候補薬剤を同定するための方法、ならびにリンパ球の増殖および/またはクローン拡大および/またはLNへの動員および/または輸送を調整することによってワクチンの効力を改善しかつ/またはHIV/AIDSを含む進行性免疫不全症候群を処置する候補薬剤を発見するための方法も、ここに開示する。
【0013】
もう一つの態様として、本発明は、リンパ球の増殖、クローン拡大、動員または輸送を測定するための方法であって、(a)生物(動物またはヒト対象)の足蹠または当技術分野で知られている他の解剖学的部位に抗原(免疫原)を投与すること(免疫化);(b)複製中のDNAに入ることが知られている同位体ラベルを、免疫化中または免疫化後に投与すること;(c)免疫化後、所定の時点で、免疫化部位に所属する1以上のリンパ節(LN)を収集すること;(d)そのLNから関心対象の細胞を単離または分離すること;(e)単離した細胞の増殖速度(キネティクス)を、前記細胞から得られるDNAへのラベルの組み込みに基づいて測定すること;(f)キネティクスを測定した細胞についてLNの細胞性(細胞数)を測定すること;(g)細胞のクローン拡大(局所的細胞増殖)速度およびLNへの動員速度を算出すること;ならびに(h)薬物を投与された被験者を、処置されていない被験者(対照)と比較して、LNへの細胞動員またはLNにおけるクローン拡大を阻害する薬剤を同定することを含む方法を提供する。
【0014】
ある実施形態では、免疫原がKLH、DNCB、または当技術分野で知られている他の免疫原である。
【0015】
もう一つの実施形態では、投与される同位体が、2H2O、2H-グルコース、3H-チミジン、BrdU、または当技術分野で知られている他のトレーサーを含むリストから選択される。
【0016】
もう一つの実施形態では、単離されるLNが膝窩LNであり、免疫原投与部位が齧歯類動物の同側足蹠である。
【0017】
さらにもう一つの実施形態では、LNから単離される関心対象の細胞に、T細胞、CD4+T細胞、B細胞、および当技術分野で知られている他の免疫細胞が含まれる。
【0018】
本発明において、使用される動物は、魚、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、イヌ、霊長類および当技術分野で知られている他の動物から選ばれる。
【0019】
本発明のもう一つの態様では、細胞の増殖速度(キネティクス)を測定する手段が、2H2Oからの重水素の組み込みによる。
【0020】
本発明のもう一つの態様では、細胞性(細胞数)を測定するための方法が、蛍光フローサイトメトリーまたは当技術分野で知られている他の技法による。
【0021】
本発明のもう一つの態様では、免疫化後の所定の時点が7日である。
【0022】
ある実施形態では、対照と比較される薬物が、細胞接着の阻害剤、ホーミング受容体の阻害剤、血管受容体のアンタゴニスト、または当技術分野で知られている他の阻害戦略を含むクラスから選択される。
【0023】
もう一つの実施形態では、対照と比較される薬物が、樹状細胞による抗原提示もしくは抗原プロセシングまたはサイトカイン分泌の阻害剤、またはLNへの細胞の動員に関与することが知られている他の因子を含むクラスから選択される。
【0024】
もう一つの実施形態では、薬剤が細胞動員またはクローン拡大に及ぼす効果について、用量応答曲線が作成される。
【0025】
本発明は、抗原/アジュバント調製物に応答して起こる長寿命メモリーリンパ球集団の生成を測定するための方法であって、(a)1以上のアジュバントを使って、またはアジュバントを使わずに、1以上の抗原調製物で、または抗原調製物を使わずに、1以上の脊椎動物を免疫すること;(b)所定の期間、前駆体プール中に一定な同位体濃縮が達成されるように、1以上の、デノボDNA合成の同位体標識前駆体を投与すること;(c)7日から2年までの範囲の期間、ラベル投与を停止すること;(d)増殖細胞が濃縮された1以上のリンパ球集団を単離し、数え上げること;(e)前記リンパ球集団から単離したDNA中の同位体ラベル保持を定量すること;および(f)前記リンパ球集団中の保持ラベル量および細胞数から、ラベルの停止以来残っている細胞を算出することを含む方法も提供する。
【0026】
本発明の一態様では、脊椎動物が同系交配マウス系統である。
【0027】
本発明のもう一つの態様では、脊椎動物が、リンパ球増殖とリンパ球動員とが分離されている同系交配齧歯類動物系統である。
【0028】
本発明のもう一つの態様では、同系交配齧歯類動物系統がBalb/cマウス系統である。
【0029】
ある実施形態では、抗原がT依存性タンパク質抗原である。
【0030】
もう一つの実施形態では、タンパク質抗原がキーホールリンペットヘモシアニンである。
【0031】
もう一つの実施形態では、同位体標識前駆体が重水または重水素化グルコースである。
【0032】
もう一つの実施形態では、重水が2H2Oである。
【0033】
ある実施形態では、免疫化が、リンパ排液パターンがわかっている部位への抗原の皮下注射によって行われ、増殖細胞が濃縮されたリンパ球集団は、前記注射部位に所属する1以上のリンパ節に由来するリンパ球またはその表現型サブセットから構成される。
【0034】
もう一つの実施形態において、本発明は、2以上の代替抗原調製物に対するリンパ増殖応答の規模および/または寿命を比較するための方法であって、それぞれ代替抗原調製物で免疫された、または抗原を欠く賦形剤調製物で擬似免疫された、異なる動物群に適用される、本明細書記載の方法のステップを含む方法を提供する。
【0035】
本発明は、1以上のアジュバントの、リンパ増殖または安定メモリー細胞の形成を強化する能力を測定するための方法であって、その1以上のアジュバントを使ってまたは使わずに製剤されたレポーター抗原で免疫された動物群に適用される、本明細書記載の方法のステップを含む方法も提供する。
【0036】
本発明は、1以上の候補薬剤の免疫刺激能、アレルゲン能、または自己免疫原能を測定するための方法であって、1以上の抗原としての、適切な賦形剤中の前記化合物または薬剤の懸濁液または溶液で免疫された動物群、および賦形剤なしの対照動物群に、本明細書記載の方法を適用することによる方法も提供する。
【0037】
本発明は、1以上の候補薬剤によるリンパ増殖および生存の調整を測定する方法(前記候補薬剤は推定上の免疫抑制剤または免疫調整剤である)であって、前記候補薬剤で全身処置もしくは局所処置した動物群、または賦形剤で処置した動物群に、本明細書記載の方法を適用することによる方法も提供する。
【0038】
本発明は、LNへの細胞動員の阻害剤を投与することによってヒトの慢性進行性免疫不全症候群を処置するための方法であって、(a)本明細書に記載する方法によってLNへの細胞動員の阻害剤と同定された薬剤による処置;(b)そのようにした発見された前記薬剤を用いる、初期HIV-1感染またはAIDS(進行HIV感染)を持つヒト対象の処置;(c)免疫活性化を減少させ、免疫不全の進行を減速するための、長期間または短期間の処置を含む方法も提供する。
【0039】
ある実施形態では、処置された対象における免疫活性化に対する効果が、当技術分野で知られている技法を使った、その対象におけるリンパ球増殖の測定によって監視される。
【0040】
もう一つの実施形態では、LNへの細胞動員に対する効果が、LN組織の生検により、本明細書に開示する方法を使って測定される。
【0041】
したがって、一態様として、本発明は、生物系(living system)におけるリンパ増殖を測定するための方法を提供する。本方法は、安定同位体標識基質を、その基質が少なくとも一つのDNA前駆体分子に組み込まれて、1以上の標識デオキシリボヌクレオチド(プリンデオキシリボヌクレオチドは最適であるが、これに限るわけではない)を形成し、次にそれが、その生物系の細胞周期のS期にある細胞中でDNAの成長鎖に組み込まれるのに十分な期間にわたって、その生物系に投与することを含む。適宜、異なる期間に、数回の投与を行うこともできる。第1試料をその生物から得る。ここでも、適宜、複数の試料を得ることができる。次に、前記試料に由来する前記DNAから得られるデオキシリボヌクレオチドの同位体含量および/または標識パターンを定量する。
【0042】
ある実施形態では、標識デオキシリボヌクレオチドの同位体含量および/または標識パターンを、対照生物系に観察される標識デオキシリボヌクレオチドの同位体含量および/または標識パターンと比較することにより、対照生物系と比較した時の上記生物系におけるリンパ増殖の相違を決定する。いくつかの態様では、デオキシリボヌクレオチドがプリンデオキシリボヌクレオチドであり、具体的にはデオキシアデノシンである。
【0043】
関連する一実施形態では、LN中のリンパ球またはリンパ球亜集団の細胞数を当技術分野で知られている方法で同時に決定し、リンパ増殖の速度と比較することにより、前記LNへの細胞動員および/または細胞輸送の速度を、前記LN中の前記リンパ球集団のクローン拡大速度と同様に算出する。
【0044】
さらにもう一つの態様において、本発明は、適宜、同位体標識基質の投与前、投与中または投与後に、その生物系に1以上の候補薬剤を投与することをさらに含む方法を提供する。随意の実施形態では、対象に前記1以上の候補薬剤が存在しない状態で行われるリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の第1決定と、前記1以上の候補薬剤を投与した後に行われる第2決定とを利用する。さらなる随意の実施形態では、異なる濃度の候補薬剤の投与を利用する。
【0045】
もう一つの態様において、本発明は、適宜、同位体標識基質の2回以上の投与、例えば複数の不連続な投与を行う。リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の決定は、各投与ごとに行うことができる。
【0046】
本発明の方法は、創薬、薬剤開発、および承認工程の全ての段階、ならびにリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の変化に関連する状態の診断に役立つ。
【0047】
あるいは、本発明の方法は、産業化学物質および職業化学物質、環境汚染物質、農薬、食品添加物、化粧品などの毒性環境化学物質への曝露による傷害の検出に役立つ。
【0048】
図面の簡単な説明
図1:モデルおよび実験計画.A,7日間の試験で、細胞動員、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送が、リンパ節の細胞性(c)、分裂した細胞の分率(f)、および絶対リンパ増殖(abs)に及ぼす効果に関するモデル。a,100個のリンパ球を含有する休止LN中、約10%/週のホメオスタティックな代謝回転(黒い細胞)。b,正味の動員を伴わない抗原刺激は、最初に存在した1個の稀な前駆体(aにおける橙色の細胞)を拡大し、3回の細胞分裂で7個の新しい抗原特異的応答細胞(赤色)を生成して、fを60%増加させ、細胞性を7%増加させる。c,動員はLN細胞性および増殖細胞の数を2倍にする;分裂細胞と休止細胞が等しく動員されるならば、fは変化しない。d,これら2つの過程が独立して寄与すると仮定した、免疫応答時の動員とクローン拡大との同時効果。B,足蹠免疫化後のPLN中の分裂細胞の連続的2H2O標識に関する実験計画。
図2:免疫化後のLN細胞DNAにおける増加したf.(A)時間経過.Balb/cマウスを、KLH 20μgで0日目に免疫し(または免疫せずに)、2H2Oで連続的に標識した。所属LN細胞をfについて解析した。各群2〜3匹の平均を示す。#,別途標識した動物のコホートから得た7日目のデータ。(B)サブセット解析,7日目。KLHありまたはKLHなしで7日前に免疫した2H2O標識Balb/cマウスから得たPLN細胞を、表示のとおり選別した。平均および個々の動物から得たデータを示す。*,2回以上の独立した試行で再現された、B細胞(p<0.001)およびT細胞(p=0.006;t検定)のfに対するKLHの有意な効果。CD4+T細胞fに対するKLH効果は、ここでは統計的に有意な水準に達しなかったが、他の試行では一貫して有意な効果が見られた(例えば11.3%±2.1%対7.5%±1.3%;p=0.017)。(C)T細胞fに対するシクロスポリンA(CsA)の効果。Balb/cマウスを、5μgのKLHまたはPBSで免疫し、2H2Oで7日間標識し、25mg/kg/日のCsAまたは賦形剤(5%エタノール)をp.o.投与した。*,賦形剤処置動物における免疫化(KLH対PBS)の有意な効果(p<0.001)、およびKLH刺激に対するCsA処置の有意な効果(p<0.001)、ただしベースラインfに対するCsA処置の効果は有意でない(p=0.116;二元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。個々のマウスから得たデータ、平均、およびSDを示す。(D)0.5mgのDNCBまたは賦形剤(1:1 PBS:DMSO)による免疫化後、7日目のPLNにおけるfのサブセット解析。*,CD4+(p<0.001)およびCD8+T細胞(p=0.005;t検定)に対する有意なDNCBの効果;各サブセットを少なくとも2回は解析した。
図3:抗原および刺激原に対するfおよびPLN細胞性の応答.(A〜C)Balb/cマウスをPBSまたはIFA中のKLH 20μgで免疫し、2H2Oで7日目まで標識し、PLNをf(A)および細胞性(B)について解析した。(C)では、絶対リンパ増殖を(細胞数×f)として算出した。Aでは、PLN細胞fに対するKLHの効果が有意であり(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.164;二元配置ANOVA)。Bでは、KLH(p=0.001)およびIFA(p<0.001)の独立効果は、どちらも有意だった(二元配置ANOVA、対数変換データ)。同様の傾向が各群2〜3匹の動物で行った他の二つの実験でも見られた。(D〜F)Balb/cマウスを、表示のとおり、0日目にPBS:DMSO 1:1中のDNCB 0.5mgで免疫するか、擬似免疫した。PLN細胞f(D)、細胞性(E)(例外的な細胞数を持つ1匹のPBS処置動物に注意)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*,f(D)および新細胞数(F)に対するDNCBの効果は有意だった(DMSOに対してt検定で、それぞれ、p<0.001およびp=0.02)。
図4:KLHおよびIFAに対する応答のサブセット解析.マウスを、PBSまたはIFA中のKLHまたはKLHなしで免疫し、図3と同様に2H2Oで標識した。ベースライン(PBS)に対するfの変化倍率(7日目)を、選別されたB細胞(A)およびCD4+T細胞(B)について示す。2回の独立した実験の結果を示す;fのベースライン値は、それぞれ、B細胞については8.02%および9.84%、CD4+T細胞については4.63%および7.77%だった。プールしたデータに対する二元配置ANOVAによれば、B細胞に対するKLHの効果は有意だったが(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.085)。CD4+T細胞に対するKLH(p<0.001)およびIFA(p=0.001)の効果はどちらも有意であり、互いに独立していた(交互作用に関してp=0.591)。
図5:さまざまな用量の抗原に対する応答中のLN細胞性およびf.(A〜C)KLH用量の効果。Balb/cマウスをPBS中のKLH 0、2.5、25、または250μgで免疫し、2H2Oで標識し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B;二回の平均)および絶対リンパ増殖(C)について解析した。各点は個々の動物を表す。(D〜F)DNCB用量の効果。PBS:DMSO中のDNCBによる免疫化7日後の細胞数(D)、f(F)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々のデータ、平均、およびSDを示す。Dでは、100μgでの細胞数が賦形剤対照とは異なり(*,p=0.003);500μgでの細胞数が他の全ての群と異なる(#,用量0および20μgに対してp<0.001、用量100μgに対してp=0.002;一元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。Eでは、用量100μgと用量500μgが相違しなかったこと(p>0.05;順位によるANOVA、Student-Newman-Keuls事後検定)を除いて、全ての群間で平均fが有意に異なった(p<0.05)。
図6:KLHとDNCBの両方による免疫化がPLN細胞の動態に及ぼす効果.Balb/cマウスに、PBS中のKLH 20μgの後、PBS:DMSO中のDNCB 500μg、または両方、または適当な賦形剤による免疫化を行った。KLH上の反応性側鎖に対するDNCBの化学反応性による効果を最小限に抑えるために、抗原を約6時間離して別々に投与することにより、DNCBによる修飾が起こる前に、KLHが捕捉され、加工され、輸送されるようにした。7日目に全PLN中のf(A)、細胞数(B)、および絶対リンパ増殖(C)の解析を行った。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。(A)において、fに対する個々の抗原の効果はどちらも有意だったが(対照に対してp<0.001)、二重免疫化はKLH単独の場合と区別がつかなかった(p=0.64;KLH効果とDNCB効果の間の有意な交互作用、p=0.001)。(B)および(C)において、KLH(p<0.004)およびDNCB(p<0.001)の効果は独立していた(比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。結果は3回の独立した実験を代表している。
図7:KLHおよびDNCBによる免疫化がCD4+T細胞およびB細胞におけるfに及ぼす効果.図6の実験を繰り返した。PLNから得た、選別されたCD4+T細胞(A、C)およびB細胞(B、D)を、f(A、B)および絶対リンパ増殖(C、D)について解析した。CD4+T細胞のfならびにBおよびCD4細胞の絶対リンパ増殖に対するKLHおよびDNCBの相加的効果は有意だった(それぞれp<0.001;交互作用に関してp>0.05)。(B)において、B細胞fは、KLHでは有意に増加したが(p<0.001)、DNCBでは有意には増加しなかった(p=0.358);DNCBが存在する場合、KLHの効果は有意に低かった(p=0.009;交互作用に関してp=0.012;比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。同様の結果が独立した2回の実験で得られた。
図8:fおよびLN細胞性に対する差別的薬物効果.Balb/cマウスを5μgのKLHまたはPBSで免疫し、表示の薬物で毎日、処置し(Dex、デキサメタゾン、0.3mg/kg/日、シクロデキストリン中、p.o.;Rap、ラパマイシン、2mg/kg/日、5%エタノール中、p.o.;Tax、パクリタキセル、10mg/kg/日、1:1:5 Cremaphor EL:エタノール:水、i.p.;OHU、ヒドロキシ尿素、500mg/kg/日、水中、i.p.;賦形剤、パクリタキセル群と同じ)、7日目に屠殺するまで2H2Oで連続的に標識した。KLH免疫動物(A)または擬似免疫動物(B)から得た所属LN細胞中の増殖細胞を、(f×細胞数)として数え上げた。(C〜H)Tax(C、D)、Rap(E、F)、またはOHU(G、H)で処置した(または処置していない)動物におけるLN細胞性(C、E、G)およびf(D、F、H)の解析。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*、一元配置ANOVAにより賦形剤対照に対してp<0.05;(*)、有意ではないが、類似する規模の有意な効果(p<0.05)が複数の追跡試験で観察された。
図9:C57BI/6マウスにおいてKLHに応答して起こるリンパ増殖.(A〜C)B6マウスを2〜200μgのKLHで免疫し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B)、および絶対リンパ増殖(C)を測定した。個々の動物から得たデータを示す。(D)PBSまたはKLH免疫化後のfの経時変化。各群2〜3匹について平均およびSDを示す。(E)200μgのKLHによる免疫化7日後の、選別されたB細胞および全T細胞におけるfの解析。
図10:努力を続けるか中止するかを決断するための手段としてリンパ増殖に対する効果(すなわち本発明の方法によって収集されるデータ)を用いる創薬、薬剤開発、および承認(DDDA)工程を表す概略図。
図11:創薬および薬剤開発工程における本発明の使用を例示する図。
【0049】
発明の詳細な説明
I.発明の全体像および概論
A.免疫活性化を減少させるための新しい戦略
細胞毒性剤を使用せずにリンパ球活性化を減少させるための戦略は非常に望ましい。HIV-1感染に関して、この治療戦略は、公表された研究に基づいて、最近その信憑性が増している。
【0050】
逆に、病的異常を伴わない抗原特異的リンパ増殖応答の制御された刺激は、ワクチンの基本的作用機序である。治療用ワクチンが短い時間枠内でエフェクターリンパ球の拡大を最大化しなければならないのに対し、予防用ワクチンは、次の攻撃を受けた時にすぐに保護を与えることができる初回刺激済み細胞の持続的プールをもたらす長寿命メモリーリンパ球の生成を最大化しなければならない。このようにワクチン開発の分野では、抗原特異的リンパ球の初期産生速度と、拡大された細胞集団の寿命とが、どちらも、最適化の標的になる。
【0051】
上記の分野では、前臨床研究および臨床研究のために、抗原特異的リンパ増殖の改良されたインビボ尺度が、かなり必要とされている。リンパ増殖研究の大部分はインビトロで行われてきたので、測定される応答の規模は限られている。なぜなら、その応答は、基礎をなすインビボ細胞動態を間接的にしか反映していないからである。
【0052】
さらにまた、動物における増殖研究に用いられる現在の方法論は、煩雑であり、問題が多かった。例えば、膜色素希釈(membrane dye dilution)アプローチは、正確ではあるが、関心対象の細胞を単離し、蛍光色素を使ってエクスビボで化学標識する必要があり、それは、細胞の応答性を変化させ、一部の実験計画を不可能にする場合がある。トリチウム化ヌクレオシド類似体(一般的には3H-チミジンデオキシリボヌクレオシド、3H-TdR)またはブロモデオキシウリジン(BrdU)によるインビボ標識の価値は限られている。なぜなら、ラベルの組み込みが細胞ごとに均一でなく、特に、ラベル保持キネティクスは結果として解釈することが困難だからである。さらにまた、これらのラベルは危険であり、インビボで十分な標識を達成するためにしばしば必要となる高用量では、放射線障害を引き起こしたり(3H-TdR)、骨髄毒性を引き起こしたりする(BrdU)。それゆえ、実際には、それらは免疫化研究の最後の数時間にしか使用されないことが多い。したがって、ラベルの組み込みは、その研究の全過程を通したリンパ増殖の程度を完全には反映せず、新しく分裂した細胞のアポトーシスによる喪失を、過小評価する可能性がある。
【0053】
増殖の代用マーカー、例えばDNA含量およびKi-67またはPCNAなどの細胞周期関連タンパク質は、試料採取時点で活動的細胞周期にある細胞しか同定しないので、標識法よりもさらに感度が低い。さらにまた、これらの代用マーカーも、増殖速度の差を(薬物が細胞周期停止を誘導する状況またはアポトーシスが増加している状況では特に)過小評価する場合がある。これらの理由から、免疫機能の末端的尺度、例えば抗体産生、感染性攻撃からの保護、自己免疫性の炎症もしくは組織損傷、または移植片拒絶などと比較して、細胞増殖の研究は、免疫機能のインビボ解析には、小さな役割しか果たしてこなかった。
【0054】
本発明は、安定同位体を使ってDNAを標識する方法を提供することにより、リンパ増殖の測定における上述の問題を解決する。DNAは、デノボ合成系路によって、均一かつ高度に標識される。この方法により、ヌクレオチド(サルベージ)前駆体による不均一な標識に起因する問題が克服される。使用する安定同位体ラベル、例えば2H-グルコースまたは 重水(2H2OまたはH218O)は、動物およびヒトにとって無毒性であり、米国食品医薬品局(FDA)により、一般に安全と認められる(GRAS)。したがって、そのようなアプローチは、前臨床的背景においても、臨床的背景においても、正確であり、効率的であり、かつ安全である。
【0055】
B.本発明の概観および結果
ポリクローナル免疫応答時に抗原特異的リンパ球の増殖と細胞動員とが統合される方法は、未だによくわかっていない。本出願人は、これらの過程が、分裂細胞の分率(f)および初回抗原刺激を受けたリンパ節における細胞性の変化に、差別的に寄与することを、ここに示す。本出願人は、2H2Oによるインビボ標識後に、分裂細胞のDNAへの2H組み込みからfを決定した。キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または2,4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)によるBalb/cマウスの免疫化は、所属リンパ節におけるfを増加させたが、不完全フロイントアジュバント(IFA)またはジメチルスルホキシドの注射は、所属リンパ節におけるfを増加させず;全ての刺激が細胞数を増加させた。リンパ節の細胞性およびfは、抗原用量、IFAの添加、および前駆体頻度を増加させるための二つの無関係な抗原を使った免疫化により、差別的に調節された。これらの状況において、fはプラトーに達し、絶対リンパ増殖(f×細胞性)は、増加した細胞動員によって、それ以上に増強された。免疫抑制薬および抗増殖剤も、細胞性およびfを差別的に調整した。前駆体頻度およびカルシニューリンはCD4+T細胞における抗原刺激されたfを調節し;リンパ節全体におけるfのプラトー値は、T細胞応答およびB細胞応答の差別的調節を反映した。抗原刺激リンパ節のf(クローン拡大を反映)および細胞性(細胞動員に支配される)の独立した変化は、ワクチン設計および免疫調整剤の発見にとって重要な意味を持つ。さらに詳細な説明については以下を参照されたい。
【0056】
C.発明の概論
リンパ節(LN)は、一次免疫応答中に抗原とナイーブリンパ球とが遭遇するための微小環境を提供する。可溶性抗原と、主要組織適合性複合体(MHC)結合抗原を運ぶ樹状細胞とは、炎症組織からLNに入り;ナイーブリンパ球は血液から入る。T細胞領域内のCD4+T細胞はコグネイトペプチド/MHC複合体を求めて樹状細胞を走査する。それらは、そのT細胞受容体(TCR)を介して刺激されると、LN中に保持され、増殖し、コグネイトB細胞が増殖して胚中心を形成するのを助ける。前駆体頻度、細胞動員、抗原シグナルおよび共刺激シグナル、サイトカイン、および調節性T細胞の全てが一次応答を形作る。しかし、これらの因子が統合される方法は、今もよくわかっていない。リンパ球初回刺激のインビボ研究は、抗原受容体トランスジェニックリンパ球に依拠してきた。しかし、これらのモノクローナル集団は、その発生運命および機能において、典型ではないかもしれない。それらの機能的可塑性および増殖活性は、養子移入された細胞の頻度に依存し、その規則はまだ理解され始めたばかりである。対照的に、LNへのリンパ球動員は、ほとんどの場合、短い時間尺度で非特異的な刺激を使って研究されてきた。ポリクローナル応答への細胞動員の寄与は完全にはわかっていない。
【0057】
出願人は、LNにおけるポリクローナル応答時のリンパ球動員と抗原駆動的増殖との統合を研究したいと考えた。出願人は、これらの過程が、存在する分裂細胞の百分率および絶対数に、差別的に影響を及ぼすかもしれないと推論した(図1A)。極端な場合、数個の抗原特異的前駆体のクローン拡大が、動員なしで、LN中の増殖細胞の分率と絶対数をどちらも増加させ、細胞数の増加分は全て、標識された、新しく分裂した細胞によるものになるだろう(図1Aのaとbを対比)。他方、炎症細胞動員は、クローン拡大なしで、絶対数を増加させるだろうが、分裂細胞の百分率は増加させないだろう(図1Aのaとcを対比)。強い免疫応答では、新しく分裂した細胞の分率の増加と、休止細胞およびホメオスタティックに増殖する細胞の動員との両方が、細胞数の増加に寄与する(図1Aのd参照)。
【0058】
リンパ球動態に対するこれらの寄与を切り分けるには、LN中の分裂細胞と非分裂細胞の分率(f)を正確に定量する必要がある。しかし、増殖を測定するためによく用いられる技法は、この作業課題には不適格である。ピリミジンヌクレオシド類似体(例えばBrdU)を用いる分裂細胞の生合成標識は分裂細胞を過小評価する可能性がある。サルベージ経路によるDNAへのBrdUの組み込みは、胚中心または胸腺などのアポトーシス性微小環境に存在する細胞外ヌクレオシドによって阻害される。サルベージ経路は新たに合成されるDNAのさまざまな分率を占める。抗BrdU染色は類似する細胞タイプ間で異なる場合があり、バックグラウンドを上回るシグナルを検出することは困難になりうる。インビボでは、BrdU代謝により、変動性がさらに大きくなりうる。BrdUは、多くの場合、研究の最後に短いパルスとして与えられるが、これは、総増殖量を過小評価する実験計画である。連続的に与えた場合、BrdUは免疫応答を損ない、迅速に代謝回転する骨髄性細胞に影響を及ぼす。したがって、BrdUは、分裂免疫細胞および非分裂免疫細胞の不偏的定量には、あまり適していない。CFSE希釈法では、複製歴の正確な追跡が可能であるが、エクスビボ標識細胞の導入を必要とし、それが一次ポリクローナル応答の解析を妨げる。
【0059】
出願人は、以下に詳述する連続的標識プロトコールで重水(2H2O)を無毒性非放射性ラベルとして使用する代替アプローチを開発した。
【0060】
適応免疫応答時には、活性化された、抗原を保持する樹状細胞およびリンパ球が所属リンパ節へと遊走し、次に、その所属リンパ節では、抗原および共刺激に推進されて、稀な抗原特異的リンパ球が増殖することになる。増殖応答の規模に対するリンパ球遊走とクローン拡大の寄与は、正常動物ではまだ決定されていない。ここに出願人は、2H2Oとして経口投与された重水素(2H)によるデノボ合成DNAのインビボ標識により、リンパ増殖を定量した。
【0061】
抗原に応答して分裂する細胞の絶対数は、以下に述べる三つの変量の積として理解することができる。
【0062】
1)有効リンパ球前駆体頻度(PF):関心対象のリンパ球集団における、抗原に応答する能力を持つクローン前駆体の頻度。これ自体は、抗原受容体レパートリーの利用可能な多様性;抗原中に存在しうる異なる抗原構造または抗原決定基であって、ホストのリンパ球集団中に適合する抗原受容体を持つものの数;および前記抗原決定基に対する前記抗原受容体の親和性によって決定される。ベースラインレパートリーおよびナイーブリンパ球の総数は、一方では細胞死、また他方では一次リンパ器官(骨髄、胸腺)からの産生量と、ホメオスタティックな増殖との間のバランスによって維持される。
【0063】
2)クローン拡大の細胞あたり効率(CE):各前駆体細胞が起こす逐次的細胞分裂の回数。この数はさまざまな因子の影響を受ける。一次免疫応答において、抗原刺激後のリンパ球の生存および増殖の程度は、続いて起こるクローン拡大の規模を全体として決定づける多くの追加シグナルによって制御される。変量の一つは、リンパ増殖部位における抗原の局所存在量であり、抗原が制限的である場合、リンパ球はそれを求めて競合することになりうる。もう一つの変量は、抗原が炎症誘発環境下で認識されるか寛容誘発環境下で認識されるかである。炎症は、炎症誘発性サイトカインとアクセサリー細胞がもたらす共刺激シグナルとによってシグナルされ;寛容は、抗炎症性サイトカインおよび共刺激分子によって促進される。この環境は、リンパ球自身および他の細胞により、オートクリン的およびパラクリン的に調節される。例えばB細胞は、サイトカインとCD4+T細胞がもたらす表面相互作用とによる「ヘルプ」を受けて抗体を分泌する。CD4+T細胞自体は樹状細胞によって刺激される。そして、それらの樹状細胞は、その由来組織における感染または組織損傷の徴候によって刺激され、その徴候を、「パターン認識受容体」(その多くは最近、ショウジョウバエtoll遺伝子産物に関連する受容体(Toll様受容体、TLR)のファミリーに属することが見出されている)を使って「病原体関連分子パターン」であると認識する。そのような炎症誘発性刺激がない場合は、例えば自己寛容誘導部位(例えばT細胞の場合、胸腺)のアクセサリー細胞によって、または二次リンパ器官中の休止樹状細胞または低活性化樹状細胞によって、寛容誘発環境が促進される。活性化されると他のリンパ球による抗原応答をダウンレギュレートするサプレッサーリンパ球または調節性リンパ球により、さらなる対抗調節がもたらされうる。サプレッサー細胞の表現型は明確にされているところである。二次免疫応答も調節を受けるが、一次応答と比較して、抗原に対してより敏感であり、共刺激環境への依存性は低い。
【0064】
3)抗原との遭遇に局所的に利用することができるリンパ球の絶対数(NL):通例、感染における抗原との遭遇の最初の部位は、抗原がリンパ液を介して液相でまたは炎症組織から進入する活性化樹状細胞によって運ばれてくる二次リンパ器官(リンパ節または脾臓)である。ナイーブリンパ球および「セントラルメモリー」リンパ球は、恒常的にリンパ節を往来し、血管外遊出により高内皮細静脈を通って血液から進入し、炎症誘発的に提示されたコグネイト抗原を求めて、リンパ節のT細胞領域およびB細胞領域にあるアクセサリー細胞を走査し、輸出リンパ液によって外へ出て、再び循環に入る。定常状態では、リンパ節を通る輸送は、主にケモカイン受容体CCR7を介してナイーブ細胞およびセントラルメモリー細胞にシグナルする特異的化学誘引性サイトカイン(ケモカイン)によって維持される。リンパ球の走査行動は、抗原提示細胞およびストローマ細胞間でのリンパ球のランダムウォークに似ている。炎症組織または感染組織に所属するリンパ節では、リンパ内皮、移入樹状細胞およびマスト細胞による増加したケモカイン分泌と、応答するリンパ球とが、ベースラインをかなり上回るリンパ球の追加インフラックスを引き起こす。抗原と遭遇すると、抗原提示細胞の周りにリンパ球が密集し、数日間にわたって局所的に増殖する;大多数は死ぬが、少数はメモリー細胞として持続し、数ヶ月かけてゆっくり減少するか、生涯持続する。もう一つのサブセットは、リンパ節から遊出して炎症部位に戻ることができるエフェクターリンパ球に分化する;これらの遊走イベントは、リンパ節ホーミング受容体(CCR7、CD62L)の喪失、ならびにエフェクター細胞を炎症部位および感染部位に導くケモカインおよび他の化学誘引物質の勾配によって誘発される。最後に、慢性炎症組織には、リンパ節様のケモカインおよびケモカイン受容体発現パターン(したがって特徴的な微細構造)を樹立する浸潤リンパ球の蓄積が認められうる。
【0065】
抗原特異的リンパ増殖応答の規模(LP)を解析するための有用な出発点は、それらを上記各変量の積とみなすことである:
LPAg=PFAg×CEAg×NL
[式中、下付き文字は抗原特異的応答を示す]。
抗原刺激の期間後、全細胞のうち、その抗原に応答して増殖した細胞の分率は、
fAg=PFAg×CEAg
[式中、fは細胞増殖分率を表す]
によって与えられる。この式において、パラメータfAgは、応答の規模に対するクローン拡大の寄与だけを反映すること;抗原特異性とは無関係に起こる炎症部位への細胞の受動的化学誘引はfに寄与しないことに、注意すべきである。
【0066】
抗原特異的リンパ増殖は、クローン的に特異的ではない(すなわちPF=1)がはるかに低い比率fh[この場合、下付きのhはホメオスタティックな増殖を表す]で起こるホメオスタティックな増殖に、追加される。したがって、免疫動物における総リンパ増殖は、
LPtl=LPAg+LPBL=(PFAg×CEAg+fh)×NL=(fAg+fh)×NL=f×NL
という式で表すことができる。
【0067】
ある抗原に応答して起こるクローン拡大の規模は、免疫応答の機能的帰結にとって極めて重要である。Ag特異的リンパ球の拡大は、移植された臓器の拒絶(アロ抗原に特異的なリンパ球)、自己免疫(自己抗原に異常応答するリンパ球)、アレルギー(環境抗原に応答するリンパ球)を含む免疫系の疾患において、極めて重要な構成要素である。したがって、医薬品開発においては、これらの異常リンパ増殖応答をさまざまな選択度で妨害する薬剤の開発に強い関心が持たれてきた。この分野における懸念のもう一つの例では、有望な候補薬物は、予想外のアレルギー反応または自己免疫を誘発する場合があり、そのため、候補薬のかなりの部分が、臨床開発の後期段階になって、手痛い撤退を余儀なくされる。これらの薬物誘発応答または薬物特異的応答も、リンパ球増殖の刺激を伴う。
【0068】
逆に、病的異常を伴わない抗原特異的リンパ増殖応答の制御された刺激は、ワクチンの基本的作用機序である。治療用ワクチンが短い時間枠内でエフェクターリンパ球の拡大を最大化しなければならないのに対し、予防用ワクチンは、次の攻撃を受けた時にすぐに保護を与えることができる初回刺激済み細胞の持続的プールをもたらす長寿命メモリーリンパ球の生成を最大化しなければならない。したがって、ワクチン開発の分野では、抗原特異的リンパ球の初期産生速度と、拡大された細胞集団の寿命とが、どちらも、最適化の標的になる。
【0069】
このアプローチは、標識期間中に分裂した細胞の分率(f)を正確に測定し;増殖細胞の数を(f×細胞数)として算出する。出願人は、Balb/cマウスにおけるキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に対する一次膝窩リンパ節(PLN)応答中に増殖B細胞およびCD4+T細胞の数を増加させる二つの異なる機序を同定した。低用量(0.2〜2μg)のKLHに応答して起こる増殖は、PLN細胞性の変化を伴わないfの増加を特徴とした。より高用量(5〜25μg)または不完全フロイントアジュバントの存在下では、fがプラトーに達し、増殖は、増加したPLN細胞性によってのみ増強された。抗原駆動的リンパ増殖は免疫抑制薬によって阻害された。リンパ増殖のパターンは系統依存的だった。C57BI/6マウスでは、Balb/cマウスよりもPLN細胞の恒常的代謝回転が高く、KLH初回刺激後のfの増加が少ない。fの抗原駆動的増加は、抗原特異的前駆体の頻度およびそれらの複製能を潜在的に反映する。抗原および共刺激シグナルによって最大局所クローン拡大が達成された後は、所属リンパ節へのナイーブ白血球の誘引によって免疫応答がさらに増加しうる。したがって後者の過程は、ワクチン最適化の別個の標的になる。さらに広く述べると、安定同位体に基づくリンパ増殖の測定は、免疫調整剤(例えば候補薬物、ワクチン)を発見および開発し、免疫調整剤の機構研究および免疫毒性の検出を可能とするのに有用であることが判明するだろう。
【0070】
II.一般技法
本発明の実施には、別段の表示がない限り、当業者の技量の範囲内にある分子生物学(組換え技法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の通常の技法を使用することになる。そのような技法は「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」第2版(Sambrookら,1989)Cold Spring Harbor Press;「Oligonucleotide Synthesis」(M.J.Gait編,1984);「Methods in Molecular Biology」Humana Press;「Cell Biology: A Laboratory Notebook」(J.E.Cellis編,1998)Academic Press;「Animal Cell Culture」(R.I.Freshney編,1987);「Introduction to Cell and Tissue Culture」(J.P.MatherおよびP.E.Roberts,1998)Plenum Press;「Cell and Tissue Culture: Laboratory Procedures」(A.Doyle,J.B.GriffithsおよびD.G.Newell編,1993-8)J.Wiley and Sons;「Methods in Enzymology」(Academic Press, Inc.);「Handbook of Experimental Immunology」(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(J.M.MillerおよびM.P.Calos編,1987);「Current Protocols in Molecular Biology」(F.M.Ausubelら編,1987);「PCR: The Polymerase Chain Reaction」(Mullisら編,1994);「Current Protocols in Immunology」(J.E.Coliganら編,1991);「Short Protocols in Molecular Biology」(Wiley and Sons,1999);ならびにHellersteinおよびNeese著「Mass isotopomer distribution analysis at eight years: theoretical, analytic and experimental considerations」(Am J Physiol 276 (Endocrinol Metab. 39) E1146-E1162, 1999)などの文献に詳しく説明されており、これらの文献は全て、必要な技法に関して、参照により本明細書に組み入れられる。さらにまた、市販のアッセイキットおよび試薬類を用いる手法は、通例、別段の注記がない限り、製造者が定めたプロトコールに従って使用されることになる。米国特許出願公開第2005/0255509号、および米国特許第7,022,834号、同第7,001,587号、同第6,808,875号、同第6461,806号、同第6,010,846号、同第5,910,403号(これらの文献は全て、参照により、明示的に本明細書に組み入れられる)に概説されている方法も有用である。
【0071】
III.定義
別段の定義がない限り、本明細書で使用する専門用語、表記法および他の科学的術語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されている意味を持つものとする。一般に理解されている意味を持つ用語を、明確に理解できるように、かつ/または手早く参照することができるように、本明細書において定義する場合もあるが、本明細書にそのような定義が記載されているからといって、それが、当技術分野で一般に理解されているその用語の定義との実質的な相違を表すものであるとは、必ずしも解釈すべきでない。本明細書に記述しまたは参考文献を挙げる技法および手法は、一般によく理解されており、当業者により、通常の方法論を使ってよく利用されている。例えばHellersteinおよびNeese著「Mass isotopomer distribution analysis at eight years: theoretical, analytic and experimental considerations」(Am J Physiol 276 (Endocrinol Metab. 39) E1146-E1162, 1999;この文献は、その全てが、特にそこに概説されている技法に関して、参照により本明細書に組み入れられる)など。適宜、市販のキットおよび試薬類の使用を伴う手法は、一般に、別段の注記がない限り、製造者が定めたプロトコールおよび/またはパラメータに従って行われる。
【0072】
本明細書において「リンパ球」とは、脊椎動物の免疫系に関与する白血球の一タイプを意味する。リンパ球は大型顆粒リンパ球と小リンパ球の二つに大別される。大型顆粒リンパ球はナチュラルキラー細胞(NK細胞)という呼び名の方がよく知られている。小リンパ球はT細胞およびB細胞である。リンパ球は生体防御に重要かつ不可欠な役割を果たす。リンパ球には、B細胞、CD3+T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK T細胞、およびχδT細胞が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0073】
本明細書において「リンパ球集団」とは、脊椎動物の免疫系またはその一部におけるリンパ球の集合体を意味する。例えば、脊椎動物の免疫系全体、関心対象のリンパ節またはリンパ器官におけるリンパ球。
【0074】
本明細書において「抗原」とは、免疫応答(特に抗体の産生)を刺激する物質を意味する。抗原にはタンパク質または多糖が含まれるが、これらに限るわけではない。抗原は、担体タンパク質に結合された小分子(例えばハプテン)を含めて、任意の分子タイプであることができる。
【0075】
本明細書において「同位体濃縮」とは、関心対象のアイソトポマーを保持する分析対象のリンパ球を濃縮するための方法を使用することを意味する。
【0076】
本明細書において「濃縮比」とは、濃縮前のリンパ球量と対比した濃縮後のリンパ球量を意味する。
【0077】
本明細書において「細胞性」とは、特定組織内に見出される細胞の物理的および化学的性質を意味し、細胞数を包含するが、これに限るわけではない。
【0078】
本明細書において「長寿命メモリーリンパ球」とは、一次感染に続いて形成されるB細胞サブタイプを意味する。特異的抗原を認識することによってB細胞が活性化されると、それは増殖して、抗体産生形質細胞および長寿命メモリー細胞を形成する。メモリーB細胞は、その産生を最初に刺激した抗原に特異的である。この抗原に再び遭遇すると、メモリーB細胞はそれを認識し、迅速に増殖することができる。これは新しい世代の抗体産生形質細胞を形成する。
【0079】
本明細書において「アジュバント」とは、それ自体は特異的抗原効果を持たないが、免疫系を刺激してワクチンに対する応答を増加させうる薬剤を意味する。
【0080】
本明細書において「安定メモリー細胞」とは、関心対象の抗原に対する抗体を産生するメモリーB細胞を意味する。
【0081】
「分子フラックス速度」とは、ある細胞、組織、または生物内における分子の合成および/または分解の速度を指す。「分子フラックス速度」は、ある分子プールへの分子の投入またはある分子プールからの分子の除去をも指し、それゆえに前記分子プールに出入りする流量と同義である。
【0082】
「代謝経路」とは、生物系における、一続きの連結された2以上の生化学的ステップ(すなわち生化学的過程)であって、その正味の結果が1以上の分子の化学的、空間的または物理的変換であるものを指す。代謝経路は、その経路を構成する生化学的ステップを通る分子の方向および流量によって定義される。代謝経路内の分子は、任意の生化学物質クラスであることができ、例えば脂質、タンパク質、アミノ酸、糖質、核酸、ポリヌクレオチド、ポルフィリン、グリコサミノグリカン、糖脂質、中間代謝産物、無機鉱物、イオンなどを含むが、これらに限るわけではない。
【0083】
「代謝経路を通るフラックス速度」とは、所定の代謝経路を通る分子変換の速度を指す。経路を通るフラックス速度の単位は、単位時間あたりの化学量(例えば1分あたりのモル数、1時間あたりのグラム数)である。経路を通るフラックス速度は、最適には、関心対象である所定の代謝経路の中間にある全ての段階を含む、明確に定義された生化学的出発点から明確に定義された生化学的終点への変換速度を指す。
【0084】
「同位体」とは、陽子数が同じであり、したがって同じ元素であるが、中性子の数が異なる原子(例えば1Hと2HまたはD)を指す。「同位体」という用語は、「安定同位体」、例えば非放射性同位体、ならびに「放射性同位体」、例えば経時的に崩壊するものを包含する。
【0085】
「アイソトポログ」とは、同じ元素および化学組成を持つが同位体含有量が異なっている同位体ホモログまたは分子種(例えば上記の例で言えばCH3NH2とCH3NHD)を指す。アイソトポログはその同位体組成によって定義されるので、各アイソトポログが持つ精密質量は一意的であるが、その構造は一意的でない場合もある。アイソトポログは通常、その分子上の同位体の位置が異なる一群の同位体異性体(isotopic isomer)(アイソトポマー)から構成される(例えばCH3NHDとCH2DNH2は、同じアイソトポログであるが、異なるアイソトポマーである)。
【0086】
「同位体標識水」は、1個以上の、水素または酸素の特定重同位体で標識された水を包含する。同位体標識水の具体例として2H2OおよびH218Oが挙げられる。
【0087】
本明細書にいう「候補薬剤」または「候補薬物」とは、本明細書に概説する活性に関してスクリーニングすることができる任意の分子、例えばタンパク質(抗体および酵素などのバイオ治療薬ならびに他の生物薬剤または因子を含む)、小有機分子(新規化学物質、既知の薬物および薬物候補を含む)、多糖、脂肪酸、ワクチン、核酸、タンパク質などを示す。本発明では、リンパ増殖に影響を及ぼし、したがって潜在的疾患状態に影響を及ぼす潜在的治療剤を発見する目的で、薬剤(例えば産業化学物質、農薬、除草剤を含む環境汚染物質)、薬物および薬物候補、ワクチン、食品添加物、化粧品などの毒性効果を解明する目的で、そして薬剤に関連する新しい経路を解明する目的で(例えば薬物の副作用、ワクチンを含む免疫調整剤の機構研究など)、候補薬剤が評価される。
【0088】
候補薬剤は数多くの化合物クラスを包含する。ある実施形態では、候補薬剤が有機分子、好ましくは100ダルトンより大きく約2,500ダルトンより小さい分子量を持つ小有機化合物である。特に好ましいのは、100ダルトンより大きく約2,000ダルトンより小さい、さらに好ましくは約1500ダルトンより小さい、さらに好ましくは約1000ダルトンより小さい、さらに好ましくは500ダルトンより小さい、小有機化合物である。候補薬剤は、タンパク質との構造的相互作用(特に水素結合)に必要な官能基を含み、典型的には、少なくとも一つのアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、好ましくは少なくとも二つの官能性化学基を含む。候補薬剤は、しばしば、1以上の上記官能基で置換された炭素環式もしくは複素環式構造および/または芳香族もしくはポリ芳香族構造を含む。候補薬剤は、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン類、ピリミジン類、それらの誘導体、構造類似体または組合わせを含む生体分子にも見出される。
【0089】
「既知の薬物」または「既知の薬剤」または「既承認薬」とは、米国または他の法域においてヒトまたは動物における薬物としての治療的使用が承認されている薬剤(すなわち化学物質または生物学的因子)を指す。本発明に関して「既承認薬」という用語は、本明細書に記載する方法を使って試験される適応とは異なる適応について承認を受けている薬物を意味する。免疫抑制とフルオキセチンを例に挙げると、本発明の方法を使えば、抑うつの処置に関してFDA(および他の権限)によって承認された薬物であるフルオキセチンを、免疫抑制(例えばリンパ増殖の阻害)のバイオマーカーに対する効果について試験することができる。フルオキセチンによる免疫抑制の処置は、FDAまたは他の権限によって承認されていない適応である。このようにして、既承認薬(この例ではフルオキセチン)の新しい用途(この例では抗免疫抑制効果)を見つけることができる。
【0090】
候補薬剤は、合成化合物または天然化合物のライブラリーを含む多種多様な供給源から得られる。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子のランダム合成および計画的合成には、ランダムなオリゴヌクレオチドおよびペプチドの発現および/または合成を含む数多くの手段を利用することができる。あるいは、天然化合物のライブラリーは、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形で入手できるか、容易に作成される。さらにまた、天然の、または合成的に作成されたライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的および生化学的手段によって容易に修飾される。既知の薬剤に、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指定またはランダム化学修飾を施して、構造類似体を製造してもよい。
【0091】
ある実施形態では、候補薬剤がタンパク質である。本明細書において「タンパク質」とは、共有結合した少なくとも二つのアミノ酸を意味し、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチドおよびペプチドを包含する。タンパク質は、天然のアミノ酸およびペプチド結合から構成されてもよいし、合成ペプチドミメティック構造であってもよい。したがって本明細書にいう「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、天然アミノ酸と合成アミノ酸の両方を意味する。例えばホモフェニルアラニン、シトルリンおよびノルロイシンは、本発明においては、アミノ酸とみなされる。「アミノ酸」には、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含まれる。側鎖は(R)立体配置でも(S)立体配置でもよい。好ましい実施形態ではアミノ酸が(S)またはL-立体配置である。非天然側鎖を使用する場合は、例えば生体内分解を防止しまたは遅延させるために、非アミノ酸置換基を使用してもよい。酵素のペプチド阻害剤は特に有用である。
【0092】
もう一つの実施形態では、候補薬剤が天然タンパク質または天然タンパク質のフラグメントである。したがって、例えばタンパク質を含有する細胞抽出物、またはタンパク質性細胞抽出物のランダム消化もしくは計画的消化物を使用することができる。この方法で、原核生物タンパク質および真核生物タンパク質のライブラリーを、本明細書に記載する系でのスクリーニング用に調製することができる。この実施形態で特に好ましいのは、細菌、真菌、ウイルスおよび哺乳動物タンパク質のライブラリーであり、哺乳動物タンパク質のライブラリーは好ましく、ヒトタンパク質はとりわけ好ましい。
【0093】
さらにもう一つの実施形態では、候補薬剤がタンパク質の一種、抗体である。「抗体」という用語には、完全長の他に、当技術分野では知られているとおり、抗体フラグメント、例えばFab、Fab2、単鎖抗体(例えばFv)、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体など(抗体全体の修飾によって製造されるもの、または組換えDNA技法を使って新規に合成されるもの)、およびそれらの誘導体も包含される。
【0094】
さらにもう一つの実施形態では、候補薬剤が核酸である。本明細書において「核酸」もしくは「オリゴヌクレオチド」またはその文法的等価表現は、共有結合によって一つに連結された少なくとも二つのヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は一般的にはホスホジエステル結合を含有するだろうが、場合によっては、以下に概説するように、例えばホスホルアミド(Beaucageら, Tetrahedron, 49(10):1925 (1993)およびその引用文献;Letsinger, J. Org. Chem., 35:3800 (1970);Sprinzlら, Eur. J. Biochem., 81:579 (1977);Letsingerら, Nucl. Acids Res., 14:3487 (1986);Sawaiら, Chem. Lett., 805 (1984)、Letsingerら, J. Am. Chem. Soc., 110:4470 (1988);およびPauwelsら, Chemica Scripta, 26:141 (1986))、ホスホロチオエート(Magら, Nucleic Acids Res., 19:1437 (1991);および米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート(Briuら, J. Am. Chem. Soc., 111:2321 (1989))、O-メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein「Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach」Oxford University Press参照)、およびペプチド核酸主鎖および結合(Egholm, J. Am. Chem. Soc., 114:1895 (1992);Meierら, Chem. Int. Ed. Engl., 31:1008 (1992);Nielsen, Nature, 365:566 (1993);Carlssonら, Nature, 380:207 (1996)参照、これらの文献は全て参照により、本明細書に組み入れられる)などを含む代替主鎖を持ちうる核酸類似体も含まれる。他の核酸類似物として、陽性主鎖を持つもの(Deripcyら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:6097 (1995));非イオン性主鎖を持つもの(米国特許第5,386,023号;同第5,637,684号;同第5,602,240号;同第5,216,141号;および同第4,469,863号;Kiedrowshiら, Angew. Chem. Intl. Ed. English, 30:423 (1991);Letsingerら, J. Am. Chem. Soc., 110:4470 (1988);Letsingerら, Nucleoside & Nucleotide, 13:1597 (1994);ASC Symposium Series 580「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」Y.S.SanghuiおよびP.Dan Cook編の第2章および第3章;Mesmaekerら, Bioorganic & Medicinal Chem. Lett., 4:395 (1994);Jeffsら, J. Biomolecular NMR, 34:17 (1994);Tetrahedron Lett., 37:743 (1996))および非リボース主鎖を持つもの(米国特許第5,235,033号および同第5,034,506号、ならびにASC Symposium Series 580「Carbohydrate Modifications in Antisense Research」Y.S.SanghuiおよびP.Dan Cook編の第6章および第7章に記載されているものを含む)、ならびにペプチド核酸が挙げられる。1以上の炭素環式糖を含有する核酸も、核酸の定義に包含される(Jenkinsら, Chem. Soc. Rev., (1995) 169-176頁参照)。Rawls, C & E News, June 2, 1997, 35頁には、いくつかの核酸類似体が記載されている。これらの参考文献は全て、参照により、明示的に本明細書に組み入れられる。リボース-リン酸主鎖のこれらの修飾は、ラベルなどの追加部分を付加しやすくするために、または生理学的環境におけるそのような分子の安定性および半減期を増加させるために行うことができる。また、天然核酸と類似体の混合物を製造することもできる。あるいは、異なる核酸類似体の混合物、および天然核酸と類似体の混合物を製造してもよい。核酸は、指定どおり一本鎖でも二本鎖でもよく、二本鎖配列部分と一本鎖配列部分を両方とも含有してもよい。核酸は、DNA(ゲノムDNAでもcDNAでも)、RNA、またはハイブリッド(この場合、核酸は、デオキシリボヌクレオチドとリボヌクレオチドの任意の組合わせ、ならびにウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチンおよびヒポキサンチン、イソシトシン、イソグアニン、4-アセチルシトシン、8-ヒドロキシ-N6-メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチル-アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N6-イソペンテニルアデニン、1-メチルアデニン、1-メチルシュードウラシル、1-メチルグアニン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルアデニン、2-メチルグアニン、3-メチルシトシン、5-メチルシトシン、N6-メチルアデニン、7-メチルグアニン、5-メチルアミノメチルウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、β-D-マンノシルキューオシン、5-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、オキシブトキソシン(oxybutoxosine)、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、シュードウラシル、キューオシン、2-チオシトシン、および2,6-ジアミノプリンなどを含む塩基の任意の組合わせを含有する)であることができる。
【0095】
本発明に関して、ヌクレオシド(リボース+塩基)とヌクレオチド(リボース、塩基および少なくとも一つのリン酸基)は、別段の注記がない限り、本明細書では可換的に使用されることに注意すべきである。
【0096】
上にタンパク質に関して概論したように、核酸候補薬剤も天然核酸、ランダム核酸および/または合成核酸であることができる。例えば、タンパク質に関して上に概説したように、原核生物ゲノムまたは真核生物ゲノムの消化物を使用することができる。また、ここにはRNAiも包含される。
【0097】
「食品添加物」には、例えば感覚刺激剤(すなわち風味、テクスチャ、芳香、および色を付与する薬剤)、ニトロソアミン類、ニトロソアミド類、N-ニトロソ物質などの保存剤、凝固剤、乳化剤、分散剤、燻蒸剤、湿潤剤、酸化剤および還元剤、噴射剤、封鎖剤、溶媒、表面作用剤、表面仕上げ剤、協力剤、農薬、塩素化有機化合物、食用動物が摂取するまたは食用植物によって取り込まれる任意の化学物質、ならびに包装材料から食品または飲料に浸出(または他の形で侵入する)任意の化学物質が含まれるが、これらに限るわけではない。この用語は、食品または飲料に、その製造および包装工程の何らかのステップで加えられる化学物質、または食用動物による摂取もしくは食用植物による取り込みによって食品中に侵入する任意の化学物質、またはエンドトキシンおよびエキソトキシンなどの微生物副産物によって食品中に侵入する任意の化学物質(ボツリヌス毒素またはアフラトキシンなどの既製毒素)、または調理工程によって食品中に侵入する任意の化学物質(例えば2-アミノ-3-メチルイミダゾ[4,5-f]キノロン)、または製造、包装、貯蔵、および取扱い作業時に包装材から浸出過程または他の過程によって食品中に侵入する任意の化学物質を包含するものとする。
【0098】
「産業化学物質」には、例えば揮発性有機化合物、半揮発性有機化合物、洗浄剤、溶媒、希釈液、混合剤(mixer)、金属化合物、金属、有機金属、半金属、ヘキサンなどの置換および無置換脂肪族および非環式炭化水素、ベンゼンおよびスチレンなどの置換および無置換芳香族炭化水素、塩化ビニルなどのハロゲン化炭化水素、アミノ誘導体およびニトロベンゼンなどのニトロ誘導体、グリコール類およびプロピレングリコールなどの誘導体、シクロヘキサノンなどのケトン、フルフラールなどのアルデヒド類、アクリルアミドなどのアミド類および無水物、フェノール類、シアニド類およびニトリル類、イソシアネート類、ならびに農薬、除草剤、殺鼠剤、および殺真菌剤が含まれるが、これらに限るわけではない。
【0099】
「環境汚染物質」には、自然界には見出されない任意の化学物質、または自然界に見出されるが、自然界に見出されるレベル(少なくとも自然界の接近可能な生活環境に見出されるレベル)を超えるレベルにまで人工的に濃縮される化学物質が含まれる。したがって例えば環境汚染物質としては、公園、学校、または運動場などの非職業的または非産業的背景でも見出される、職業化学物質または産業化学物質と同定される非天然化学物質を挙げることができる。あるいは、環境汚染物質は、例えば鉛などの天然化学物質を、バックグラウンドを超えるレベルで含んでもよい(例えば自動車における有鉛ガソリンの燃焼からの排気によって蓄積する主要道路沿いの土壌に見出される鉛)。環境汚染物質は、工場の煙突または地表水または地下水への産業廃液などの点汚染源からであっても、主要道路を走る車からの排気、市街を走るバスからのディーゼル排気(およびそれが含有する全てのもの)または農地で発生する浮遊粉塵から土壌に蓄積する除草剤などの非点汚染源からであってもよい。本明細書にいう「環境夾雑物」は「環境汚染物質」と同義である。
【0100】
「生物系」には、例えば細胞(初代細胞を含む)、細胞株(健常細胞および疾患細胞の細胞株を含む)、植物および動物、特に哺乳動物、特にヒトが含まれるが、これらに限るわけではない。適切な細胞には、例えばあらゆるタイプの腫瘍細胞(特に黒色腫、骨髄性白血病、肺、胸部、卵巣、結腸、腎臓、前立腺、脳、膵臓および精巣の癌)、心筋細胞、内皮細胞、上皮細胞、リンパ球(T細胞およびB細胞)、マスト細胞、好酸球、血管内膜細胞、肝細胞、白血球(単核白血球を含む)、造血幹細胞、神経幹細胞、皮膚幹細胞、肺幹細胞、腎幹細胞、肝幹細胞および筋細胞幹細胞などの幹細胞、破骨細胞、軟骨細胞および他の結合組織細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、肝臓細胞、腎臓細胞、筋細胞、線維芽細胞、ニューロン、膠細胞、膵臓細胞、腸上皮細胞、リンパ球、赤血球、微生物細胞ならびにインビトロで生存させ機能的な状態に維持することができる他の任意の細胞タイプが含まれるが、これらに限るわけではない。微生物細胞および植物細胞も使用することができる。
【0101】
ある実施形態では、細胞が遺伝子操作されていてもよい(すなわち、細胞が外来核酸を含有してもよい)。
【0102】
細胞は多細胞生物から収集して培養するか、American Type Culture Collectionなどの商業的供給源から購入し、当技術分野で周知の技法を使って細胞株として増殖させることができる。適切な細胞株として、例えば上述した細胞のいずれかから作製された細胞株、ならびに樹立細胞株が挙げられるが、これらに限るわけではない。適切な細胞として、既知の研究用細胞、例えばJurkat T細胞、NIH3T3細胞、CHO、COSなど(ただしこれらに限るわけではない)も挙げられる。参照により明示的に本明細書に組み入れられるATCC細胞株カタログを参照されたい。適切な哺乳動物には、哺乳綱の任意のメンバー、例えば限定するわけではないが、ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジーおよび他の類人猿、ならびにサル種;農用動物、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ;家畜、例えばイヌおよびネコ;研究用動物、例えばマウス、ラットおよびモルモットなどの齧歯類が含まれるが、これらに限るわけではない。この用語は特定の年齢または性別を表すわけではない。したがって本明細書における定義には、雌雄を問わず、成体および新生仔ならびに胎仔が包含される。生物系は、候補薬剤による処置などの摂動を受けていないまたは疾患もしくは疾患のリスクを持たない対照系であるか、あるいは評価対象の系であることができる。「生物系」には、ヒト患者を含む個々の被験体が含まれる。
【0103】
「生物学的試料」には、細胞、組織、または生物を含む生物系から得られる任意の試料が包含される。試料は本質的に固体であってもよい。この定義には、低侵襲性または非侵襲性アプローチによる試料採取(例えば尿収集、針吸引、乳管洗浄による乳汁収集、皮膚掻爬、精液収集、膣分泌物収集、鼻分泌物収集、喀痰収集、糞便収集、およびリスク、不快感または努力が最小限で済む他の手法)によって生物から入手することができる生物学的起源の液体試料も包含される。この定義には、その獲得後に何らかの形で、例えば試料類による処理、可溶化、または特定成分(タンパク質、脂質、糖質、または有機代謝産物など)の濃縮によって、操作された試料も含まれる。「生物学的試料」という用語は、生物学的液体または組織試料などの臨床試料も包含する。
【0104】
「生物学的液体」とは、例えば尿、浮腫液、唾液、涙液、炎症性滲出物、滑液、膿瘍、膿胸または他の感染液、汗、肺分泌物(喀痰)、精液、糞便、胆汁、腸分泌物、膣分泌物、または体外の空間(すなわち管腔または外皮空間)に見出される他の任意の生物学的液体を指すが、これらに限るわけではない。
【0105】
「精密質量」とは、ある分子の式中の全ての同位体の精密質量を合計することによって算出される質量を指す(例えばCH3NHDの場合は32.04847)。
【0106】
「整数質量」とは、ある分子の精密質量を丸めることによって得られる整数の質量を指す。
【0107】
「質量アイソトポマー」とは、同位体組成ではなく整数質量に基づいて分類される一群の同位体異性体を指す。質量アイソトポマーは、アイソトポログとは違い、同位体組成が異なる分子を含みうる(例えばCH3NHD、13CH3NH2、CH315NH2は、同じ質量アイソトポマーの一部であるが、異なるアイソトポログである)。作業面からいうと、質量アイソトポマーは、質量分析計では分離されない一群のアイソトポログである。四重極質量分析計の場合、これは通例、質量アイソトポマーが、同じ整数質量を持つアイソトポログ群であることを意味する。したがって、アイソトポログCH3NH2およびCH3NHDは整数質量が異なり、異なる質量アイソトポマーであると識別されるが、アイソトポログCH3NHD、CH2DNH2、13CH3NH2、およびCH315NH2は全て同じ整数質量を持ち、それゆえに同じ質量アイソトポマーである。したがって、各質量アイソトポマーは、通例、2以上のアイソトポログから構成され、2以上の精密質量を持つ。アイソトポログと質量アイソトポマーとの区別は実用面で役立つ。なぜなら、四重極質量分析計では個々のアイソトポログの全てが分離されるわけではなく、より高い質量分解能をもたらす質量分析計を使っても、全てを分離することはできないかもしれないので、アイソトポログではなく質量アイソトポマーの存在量に関して、質量分析データからの算出を行わなければならないからである。質量が一番低い質量アイソトポマーはm0と表され;大半の有機分子の場合、これは、全て12C、1H、16O、14Nなどを含有する分子種である。他の質量アイソトポマーは、M0との質量差によって識別される(M1、M2など)。所与の質量アイソトポマーに関して、分子内の同位体の部位または位置は指定されず、さまざまでありうる(すなわち「位置アイソトポマー」は識別されない)。
【0108】
「質量アイソトポマーエンベロープ」とは、監視される各分子またはイオンフラグメントに関連するファミリーを含んでなる一組の質量アイソトポマーを指す。
【0109】
「質量アイソトポマーパターン」とは、ある分子の質量アイソトポマーの存在量のヒストグラムを指す。伝統的に、このパターンは、全ての存在量を最も豊富な質量アイソトポマーの存在量に対して規格化した相対存在量百分率として表され;最も豊富なアイソトポマーが100%であるとされる。しかし、質量アイソトポマー分布解析(MIDA)などの確率解析を伴う応用例にとって好ましい形式は、各分子種が全存在量に占める分率を用いる比率または存在分率である。「同位体パターン」という用語は「質量アイソトポマーパターン」という用語と同義に使用しうる。
【0110】
「モノアイソトピック質量」とは、全て1H、12C、14N、16O、32Sなどを含有する分子種の精密質量を指す。C、H、N、O、P、S、F、Cl、Br、およびIから構成されるアイソトポログの場合、最も低い質量を持つアイソトポログの同位体組成は一意的であり、明確である。なぜなら、これらの元素の最も豊富な同位体は、質量も最も低いからである。モノアイソトピック質量はm0と略記され、他の質量アイソトポマーの質量はm0との質量差によって同定される(m1、m2など)。
【0111】
「同位体摂動(isotopically perturbed)」とは、自然界における存在量が少ない同位体が過剰に存在する(濃縮)か不足している(枯渇)かを問わず、自然界で最もよく見出される分布とは異なる同位体の分布を持つ元素または分子の明示的組み込みによって生じる元素または分子の状態を指す。したがって本発明のラベルは同位体摂動を受けており、ラベルが組み込まれるDNAも同様である。
【0112】
「代謝前駆体」または「前駆体」とは、細胞または生物の代謝過程によって(すなわち生合成、分解、および/または中間代謝経路によって)関心対象の分子最終産物に入る分子または原子を指す。
【0113】
「モノマー」とは、ポリマーの合成に際して化合し、ポリマー中に2回以上現われる化学単位を指す。
【0114】
「ポリマー」とは、モノマーから合成され、モノマーを2回以上繰返して含有する分子を指す。ポリマーはホモポリマー(全てのモノマーが同一)であってもよいし、ヘテロポリマー(2タイプ以上のモノマー)であってもよい。「生体ポリマー」は、生物系によって合成されるもしくは生物系内で合成されるポリマー、または他の形で生物系と関連するポリマーである。
【0115】
「DNA」とは、リラックス型またはスーパーコイル型の二本鎖状または一本鎖状をしたポリマー型のデオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミン、またはシトシン)である。この用語は、分子の一次構造および二次構造だけを指し、それを特定の三次形態に限定するものではない。したがってこの用語は、なかんずく、線状DNA分子(例えば制限フラグメント)、ウイルス、プラスミド、および染色体に見出される一本鎖および二本鎖DNAを包含する。この用語は、四つの塩基アデニン、グアニン、チミン、またはシトシンを含む分子、ならびに当技術分野で知られている塩基類似体を含む分子を包含する。
【0116】
「同位体標識基質」は、生物系内でDNA(またはDNAを構成するデオキシリボヌクレオチド)に組み込まれうる任意の同位体標識前駆体分子を包含する。同位体標識基質の例として、2H2O、3H2O、2H-グルコース、2H標識アミノ酸、2H標識有機分子、13C標識有機分子、14C標識有機分子、13CO2、14CO2、15N標識有機分子および15NH3が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0117】
「重水素化水」とは、1個以上の2H同位体を含む水を指す。
【0118】
「標識グルコース」は、1個以上の2H同位体で標識されたグルコースを指す。標識グルコースまたは2H標識グルコースの具体例として[6,6-2H2]グルコース、[1-2H1]グルコース、および[1,2,3,4,5,6-2H7]グルコースが挙げられる。
【0119】
「投与(された)」には、候補薬剤および標識基質などの化合物に曝露された生物系が包含される。そのような曝露は、動物または他の高等生物における、例えば局所外用、経口摂取、吸入、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、および動脈内注射などによる曝露であることができる。細胞、組織培養物または細胞株への投与は、成長培地への化合物または候補薬剤(または候補薬剤もしくは化合物の組合わせ)の添加であることができる。
【0120】
「毒性効果」とは、化学物質または既知の薬剤に対する生物系による有害な応答を意味する。毒性効果は、例えば終末器毒性から構成されうる。
【0121】
創薬および薬剤開発に関連して「少なくとも部分的に同定された」とは、一つ以上の本発明方法を使って、臨床に関連する候補薬剤の薬理学的特徴が少なくとも一つは同定されていることを意味する。この特徴は望ましい特徴、例えばリンパ球の増殖、クローン拡大、動員および/または輸送の阻害または調整などであることができる。あるいは、候補薬剤の薬理学的特徴は望ましくない特徴、例えば、望ましくない帰結につながるリンパ増殖の増加などといった1以上の毒性効果の生成であってもよい。もちろん候補薬剤は、例えば薬剤開発経路に沿った特定のマイルストーン決定点を裏付けるのに十分な数個の特徴(望ましい特徴もしくは望ましくない特徴または両方)が同定されている場合など、「少なくとも部分的」以上に同定することができる。そのようなマイルストーンとして、例えば、インビトロからインビボへの移行に関する前臨床決定、IND申請前の継続/中止決定、第I相から第II相への移行、第II相から第III相への移行、NDA申請、および販売に関するFDA承認が挙げられるが、これらに限るわけではない。したがって「少なくとも部分的に」同定されたという表現には、本明細書にさらに詳しく説明する創薬/薬剤開発工程において候補薬剤を評価するのに役立つ1以上の薬理学的特徴の同定が包含される。薬理学者もしくは医師または他の研究者は、候補薬剤の同定された望ましい特徴および望ましくない特徴の全部または一部を評価して、その治療係数を確定することができる。これは当技術分野で周知の手法を使って達成することができる。
【0122】
本発明に関して「候補薬剤を製造すること」には、候補薬剤製品の製造に使用される当業者に周知の任意の手段が包含される。製造工程には、医薬品化学合成(すなわち合成有機化学)、コンビナトリアルケミストリー、バイオテクノロジー法、例えばハイブリドーマモノクローナル抗体生産、組換えDNA技術、および当業者によく知られている他の技法が含まれるが、これらに限るわけではない。そのような製品は、治療用に販売される最終薬剤、治療用に販売される複合製品の構成要素、または複合製品の一部であるか単一の製品であるかを問わず最終薬剤の開発に用いられる任意の中間体製品であることができる。
【0123】
「作用」とは、候補薬剤の投与などといった介入の特異的かつ直接的結果を意味する。
【0124】
「治療作用」とは、生化学過程または分子過程(すなわち代謝経路または代謝ネットワークを通る分子の流れ)に対する、その生物にとって有益であるような効果を意味する。効果は、1以上の疾患の開始、進行、重症度、病状、攻撃性、グレード、活動性、障害性、死亡率、罹病率、疾患細分類、または他の基礎にある病原的もしくは病理学的特徴の原因または一因であることができ、前記効果は健康にとって有益であるか、他の形で望ましい帰結(例えば望ましい臨床的帰結)の一因になる。
【0125】
「バイオマーカー」とは、ある化合物の真のもしくは意図された機構上の標的、あるいは1以上の疾患の開始、進行、重症度、病状、攻撃性、グレード、活動性、障害性、死亡率、罹病率、疾患細分類、または他の基礎にある病原的もしくは病理学的特徴の原因または一因であると考えられる機構上のイベントを表す、その生物から得られるまたはその生物に関する物理的、生化学的、または生理学的測定を意味する。いくつかの実施形態では、因果効果ではなく相関効果が存在しうる。バイオマーカーは、治療的介入の帰結を監視するための標的(すなわち薬剤の機能的標的または構造的標的)になりうる。本明細書に定義する「バイオマーカー」は、ある疾患または障害の病因または進行に関与するまたは関与すると考えられる生化学過程を指す。疾患または障害の処置または診断的監視にとって有意義なまたは信頼できる標的となりうるのは、基礎をなす生化学過程の変化(すなわち分子フラックス速度)であるから、生化学過程(すなわち標的とする代謝経路または代謝ネットワークを通る分子の流れ)が(本明細書に開示する)解析の焦点である。
【0126】
本発明に関して「評価する」または「評価」または「評価すること」とは、候補薬剤または候補薬剤の組合わせの活性、毒性、相対力価、潜在的な治療的価値および/または効力、有意性、または有用性を、通常は実験的帰結を、確立された標準および/または状態と比較することにより、鑑定および試験によって決定する工程を意味する。この用語は、薬剤開発工程を続行するために、意思決定者が候補薬剤(または候補薬剤の組合わせ)に関する「継続/中止」決定を行うのに十分な情報を提供することという概念も包含する。「継続/中止」決定は、例えば前臨床開発内の任意の段階、前臨床→臨床試験実施申請資料(IND)段階、第I相→第II相段階、第II相→第II相内のさらに進んだフェーズ(例えば第IIb相)、第II相→第III相段階、第III相→新薬承認申請(NDA)または生物製剤許可申請(BLA)段階、またはそれ以降の段階(例えば第IV相または他のNDA後もしくはBLA後段階)など(ただしこれらに限るわけではない)といった薬剤開発工程の任意の時点またはマイルストーンで行うことができる。この用語は、ある候補薬剤クラス中の「ベストインブリード(best-in-breed)」(またはベストオブブリード(best-of-breed))を選択するのに十分な情報を提供することという概念も包含する。
【0127】
本発明に関して「特徴づける」「特徴づけること」「特徴づけ」とは、候補薬剤または候補薬剤の組合わせの特徴または特性を記述するための努力を意味する。本明細書で使用する場合、この用語は「評価する」とほぼ等価であるが、薬物を「評価する」ことがその薬物または化学物質または生物学的因子を使った薬剤開発工程を進めることに関する「継続/中止」決定(治療的価値の査定に基づく)を下しうることを含むという、「評価する」のさらに洗練された側面が、この用語には欠けている。
【0128】
「状態」または「医学的状態」とは、体全体の身体状態または体の構成要素の一つの身体状態を意味する。この用語は通常、以前の身体状態もしくは精神状態からの変化、または医学的権威によって疾患または障害とは認識されない異常を示すために使用される。「状態」または「医学的状態」の例として、肥満、がん、および増殖性疾患が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0129】
「治療効果」とは、候補薬剤または候補薬剤の組合わせによって引き出され、寛解的結果または待期的結果をもたらすか、疾患または状態の任意の臨床的徴候または症状をほんのわずかにでも改善する、任意の効果を意味する。
【0130】
IV.本発明の方法
A.本発明の方法の概要
本発明の方法は一般に以下のステップを含む。
【0131】
1)研究に適した生物の選択。生物は適応免疫系を持つ任意の動物、すなわち任意の脊椎動物であることができ、例えばヒト、および魚類を含むが、これらに限るわけではない。齧歯類動物、例えば限定するわけではないが、ハムスター、ウサギ、マウス(Mus musculus)およびラット(Rattus norvegicus)などを使用してもよい。前臨床毒性または効力スクリーニングには、ラットおよびマウスの近交系が、とりわけ有用である。イヌおよび非ヒト霊長類などの高等哺乳動物も使用することができる。以下に詳述するように、特に有用な動物系統は、リンパ増殖がリンパ球動員と脱共役している系統であり、この状況では、リンパ球代謝回転分率の抗原駆動的変化を高感度に測定することができる。ある実施形態では、膝窩リンパ節における抗原駆動的リンパ増殖を測定する際に、Balb/cマウスを使用する。
【0132】
「生物系」には、例えば動物(特に哺乳動物、特にヒト)を含む脊椎動物が包含されるが、これらに限るわけではない。リンパ増殖障害ならびにがん(例えば黒色腫、骨髄性白血病、肺、胸部、卵巣、結腸、腎臓、前立腺、脳、膵臓および精巣の癌)を含むさまざま疾患状態を持つ動物が包含される。
【0133】
適切な哺乳動物には、哺乳綱の任意のメンバー、例えば限定するわけではないが、ヒト、非ヒト霊長類、例えばチンパンジーおよび他の類人猿、ならびにサル種;農用動物、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ;家畜、例えばイヌおよびネコ;研究用動物、例えばマウス、ラットおよびモルモットなどの齧歯類が含まれるが、これらに限るわけではない。この用語は特定の年齢または性別を表すわけではない。したがって本明細書における定義には、雌雄を問わず、成体および新生仔ならびに胎仔が包含される。生物系は、候補薬剤による処置などの摂動を受けていないまたは疾患もしくは疾患のリスクを持たない対照系であるか、あるいは評価対象の系であることができる。「生物系」には、ヒト患者を含む個々の被験体が含まれる。
【0134】
魚類、例えば限定するわけではないが、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、フグ(Takifugu rubipres)、メダカ(Oryzias latipes)、およびティラピアなども、脊椎動物に包含される。
【0135】
ある実施形態では、細胞が遺伝子操作されていてもよい(すなわち、細胞が外来核酸を含有してもよい)。
【0136】
(2)関心対象の抗原による動物の免疫化。免疫調整の研究に役立つ本発明の一実施形態では、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびDNCB(2,4-ジニトロクロロベンゼン)などのT細胞依存性外来タンパク質抗原を使用する。この抗原は、さまざまなマウス系統におけるT細胞増殖とB細胞増殖の両方を容易に刺激するからである。当業者にはよく知られているとおり、特殊な応用例には、他の抗原も使用することができる。例えば、細胞傷害性T細胞の増殖を測定するには、熱凝集タンパク質抗原で免疫することが望ましいかもしれない。他の例として、病原体全体の生弱毒化調製物または死調製物が挙げられる。抗原は、当技術分野で知られているアジュバント、例えばミョウバン、サポニン、もしくは不完全フロイントアジュバントなどを使って、またはアジュバントを使わずに、導入することができる。アレルゲン性または自己免疫原性の薬物に対するリンパ増殖を測定(すなわち免疫毒性の一形態である潜在的免疫刺激能を検出)する場合、抗原は、膝窩リンパ節アッセイ(PLNA)でよく用いられるように、注射に適した賦形剤中の薬物の溶液または懸濁液(レポーター抗原PLNAでよく用いられるように、トリニトロフェニル-フィコール(TNP-Ficoll)などのレポーター抗原を含むもの、またはレポーター抗原を含まないもの)から構成されうる。常法として、これらの実験には、注射賦形剤だけを投与する対照動物群が含められる。原則として、当技術分野で用いられる免疫化経路はどれでも、この作業に使用することができる。ある実施形態では、制限された一組の所属リンパ節への抗原の標的送達をもたらす免疫化経路を使用する(下記ステップ(4)参照)。
【0137】
(3)デノボDNA合成の安定同位体前駆体による免疫動物(および擬似免疫対照)の標識.本発明の一実施形態では、前駆体が重水(2H2O)である。動物では、99.9モル%2H2O中の0.9%w/v食塩水を、体水分中の初期2H濃縮を1〜15モルパーセントにするのに十分な量でボーラス注射することによって、便利に重水標識が開始され、その後は、必要な期間、飲料水に入れた2H2Oの投与を行うことによって、重水標識が継続される。例えばマウスは、常法として、体重1kgあたり35mlの2H2O/0.9%NaClのボーラス投与によって体水分中5%2Hに標識され、飲料水中の8%2H2Oの投与によって、この濃縮度を維持する。当技術分野で知られているDNA合成を測定するための他の方法も、本発明での使用が予期される。
【0138】
(4)関心対象の抗原応答性リンパ球集団を含むリンパ球の所定のサブセットを解剖学的にまたは細胞表現型によって濃縮するための方法。これは重要なステップである。なぜなら、所与の抗原に応答する前駆体リンパ球は全リンパ球のごく一部を占めるに過ぎないので、適当な濃縮ステップを経なければ、骨髄および胸腺からの継続的なリンパ球の投入、ホメオスタティックなリンパ球代謝回転、および環境抗原による刺激により、バックグラウンド増殖に加えて抗原特異的増殖を検出することは困難になりうるからである。本発明の一実施形態では、応答性リンパ球の解剖学的局在化を使用する。すなわち、抗原送達が特定の所属リンパ節または限定されたリンパ節群へとターゲティングされ、結果として、抗原応答性リンパ球がこれらのリンパ節内で選択的に応答するように、免疫化の経路を選択する。例えば、齧歯類動物の足蹠における皮下免疫化は、抗原曝露を局在化させ、したがって応答性リンパ球を所属膝窩リンパ節に選択的に動員する。同様に、齧歯類動物の尾の基部に皮下免疫化すると、応答性リンパ球が鼠蹊部および大動脈周囲リンパ節に動員される。他の例は当業者には自明であるだろう。あるいは、全リンパ球を、関心対象であるこれらのまたは他の二次リンパ器官(脾臓を含む)から単離するか、末梢循環から単離し、抗原は特定のリンパ球サブセット(例えば当技術分野で知られている系統特異的抗原の適当な組合わせの発現によって同定されるB細胞、CD3+T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK T細胞、χδT細胞)の増殖を刺激するだろうという予想;抗原に応答するリンパ球上に選択的に発現される(またはダウンレギュレートされる)表現型の発現、例えば活性化マーカーの発現;またはその両方に基づいて、抗原応答性細胞を濃縮してもよい。活性化マーカーの例として、トランスフェリン受容体、HLA-DR(ヒトの場合)、CD38、CD44、もしくはCD69、CD25、当技術分野で知られている他の活性化マーカー、またはそれらの組合わせが挙げられる。さらにまた、抗原応答性細胞の濃縮は、抗原特異的増殖を示さないリンパ球サブセットの枯渇によって達成することもできる。抗原(またはペプチド/MHCテトラマーなどの抗原オリゴマー)との物理的作用による、または抗原に応答してサイトカインを分泌するというその能力による、抗原特異的細胞の単離は、免疫化後の抗原応答性メモリー細胞の長期持続および寿命の解析を目指す研究では、有用な濃縮規準になりうる。(関心対象であるリンパ球サブセットの百分率など、短期応答の規模が重要な実験パラメータであるような他の状況、または抗原特異的リンパ球の純粋な集団が完全にかつ迅速に代謝回転すると予想されるような他の状況では、あまり有用な規準でなくなる)。抗原特異的細胞の増殖を調べるもう一つの方法では、抗原受容体トランスジェニックマウスを使用するか、またはそのようなマウスから得たリンパ球を非トランスジェニックレシピエントに移植し、その特徴的なクローンタイプの発現によってそれらを単離する。特定細胞集団を濃縮または除去するための選択ステップは、当技術分野で知られている細胞単離のための任意の有用な方法、例えば蛍光活性化細胞選別法(分取フローサイトメトリー)、対向流溶出法、密度勾配遠心分離法、免疫磁気ビーズ単離法、RosetteSep、パンニングなどの方法を含みうる。
【0139】
(5)関心対象であるリンパ球サブセットのDNAへの安定同位体ラベルの組み込みを測定することによるリンパ増殖の、単独での、または関心対象である細胞集団の計数と組み合わせた、この目的に適した任意の実験的方法による決定。本発明の一実施形態では、リンパ球DNAへの安定同位体ラベルの組み込みの測定が、以下のステップを含む:(i)DNAの抽出またはさらなる単離を伴わないクロマチンからのDNAの放出、デオキシリボヌクレオチドへのDNAの加水分解、(ii)プリンデオキシリボヌクレオチドからのデオキシリボースの選択的放出、(iii)プリンデオキシリボースの、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)による解析に適した揮発性誘導体(例えばペンタンテトラアセテート、ペンタフルオロベンジルテトラアセチル誘導体、または他の適切な誘導体)への誘導体化、(iv)前記誘導体のGC/MS解析、(v)前記誘導体の質量アイソトポマー存在量のパターンの解析、および(vi)安定同位体組み込みの尺度である過剰濃縮値の、前記パターンからの算出。これらの方法のそれぞれの具体例は教示されており(米国特許第5,910,403号、米国特許出願第10/872,280号、これらは参照によりその全てが本明細書に組み入れられる)、公表されたとおりに使用してもよいし、当業者の能力の範囲内で十分に可能であるような前記方法の改良法および変法(本明細書に開示するものを含むが、それらに限るわけではない)を使用してもよい。これらの測定は、単離された細胞集団における、標識期間中に合成されたDNAを持つ細胞の分率の尺度(以下「代謝回転分率」または「新しい細胞の分率」という)を与える。この数は、それ自体、リンパ増殖の動態およびさまざまな候補薬剤によるその調整に関する情報を提供しうる。応答する細胞集団を適当な計数方法(例えば血球計計数法、Coulter計数法、細胞試料に既知濃度のビーズを添加することによって較正されるフローサイトメトリー、または当技術分野においてこの目的に用いられる他の方法)によって数え上げれば、追加情報を得ることができる。関心対象である細胞の数とそれらの代謝回転分率との積は、標識期間中に分裂した細胞の絶対数を与える。
【0140】
B.同位体標識基質の投与
本発明の方法における第1ステップとして、同位体標識基質が投与される。これらの基質は一般に代謝前駆体であり、例えばそれらは生物系内に取り込まれて、酵素的に変換される。本発明においては、基質がデオキシヌクレオチドに変換され、次にそれがDNAに組み込まれる。
【0141】
1.同位体標識基質分子の投与
1以上の同位体標識基質を投与する様式は、その同位体標識基質の吸収特性と、各化合物がターゲティングされる特異的生合成プールとに依存して、さまざまでありうる。前駆体は、インビボ解析のために、ヒトを含む動物全体(生物)に、直接投与することができる。また、前駆体を生細胞にインビトロで投与することもできる。
【0142】
一般に、適当な投与様式は、生合成プール内および/またはそのようなプールに供給するレザバーにおいて、少なくとも一時的期間にわたって、前駆体の定常状態レベルをもたらすものである。ヒトを含む生物にそのような前駆体を投与するには、血管内投与経路または経口投与経路がよく用いられる。他の投与経路、例えば皮下または筋肉内投与も、適宜、徐放性基質組成物と共に使用される場合に、適当である。注射用組成物は一般に滅菌医薬賦形剤中に調製される。
【0143】
本明細書で論じるように、投与は連続的に(例えば試料採取の時点までおよび/または試料採取の時点を含めて)行うか、不連続に(ある期間にわたって単回投与として、または複数回投与として)行うことができる。不連続投与を行う場合、個々の投与の時間は同じであっても異なってもよい。
【0144】
ラベル投与を停止する時間はさまざまであり、例えば7日〜2年の範囲のわたる期間である。
【0145】
a.標識基質
(1)同位体ラベル
分子フラックス速度の測定における第1ステップには、生物系への安定同位体標識基質の投与が含まれる。本発明の方法に従って使用することができる同位体ラベルとしては、限定するわけではないが、2H、13C、15N、18O、または生物系内に存在しかつDNA前駆体分子を標識することができる元素の他の同位体が挙げられる。これらの同位体、および他の同位体は、本発明での使用が予想される全ての基質クラス(例えば前駆体分子)に適している。そのような前駆体分子として、核酸前駆体が挙げられるが、これに限るわけではない。
【0146】
ある実施形態では、同位体ラベルが2Hである。
【0147】
i.核酸の前駆体
核酸(すなわちRNA、DNA)の前駆体は、RNAおよび/またはDNA合成経路への組み込みに適した任意の化合物である。DNAのデオキシリボース環を標識するのに役立つ基質の例には、[6,6-2H2]グルコース、[U-13C6]グルコースおよび[2-13C1]グリセロール(米国特許第6,461,806号参照;これは、参照により、その全てが本明細書に組み入れられる)などがあるが、これらに限るわけではない。デオキシリボースの標識は、さまざまな希釈源を回避するので、DNA中の情報伝達窒素塩基の標識より優れている。
【0148】
ある実施形態では、安定同位体ラベルを使って、グルコース、グルコース6-リン酸の前駆体、またはリボース-5-リン酸の前駆体から、DNAのデオキシリボース環を標識する。グルコースを出発物質として使用する実施形態では、適切なラベルとして、限定するわけではないが、重水素標識グルコース、例えば[6,6-2H2]グルコース、[1-2H1]グルコース、[3-2H1]グルコース、[2H7]グルコースなど;13C-1標識グルコース、例えば[1-13C1]グルコース、[U-13C6]グルコースなど;および18O標識グルコース、例えば[1-18O2]グルコースなどが挙げられる。
【0149】
グルコース-6-リン酸前駆体またはリボース-5-リン酸前駆体が望ましい実施形態では、糖新生前駆体、またはグルコース-6-リン酸もしくはリボース-5-リン酸に変換されうる代謝産物を使用することができる。糖新生前駆体として、限定するわけではないが、13C標識グリセロール、例えば[2-13C1]グリセロールなど、13C-標識アミノ酸、重水素化水(2H2O)および13C標識乳酸、アラニン、ピルビン酸、プロピオン酸または糖新生の他の非アミノ酸前駆体が挙げられる。グルコース-6-リン酸またはリボース-5-リン酸に変換される代謝産物として、限定するわけではないが、標識(2Hまたは13C)ヘキソース、例えば[1-2H1]ガラクトース、[U-13C]フルクトースなど;標識(2Hまたは13C)ペントース、例えば[1-13C1]リボース、[1-2H1]キシリトールなど、標識(2Hまたは13C)ペントースリン酸経路代謝産物、例えば[1-2H1]セドヘプツロースなど、および標識(2Hまたは13C)アミノ糖類、例えば[U-13C]グルコサミン、[1-2H1]N-アセチル-グルコサミンなどが挙げられる。
【0150】
本発明は、デノボヌクレオチド合成経路によってDNAのプリン塩基およびピリミジン塩基を標識する安定同位体ラベルも包含する。内在性プリン合成のさまざまな構築ブロックを使ってプリン類を標識することができ、それらには、15N標識アミノ酸、例えば[15N]グリシン、[15N]グルタミン、[15N]アスパラギン酸など、13C標識前駆体、例えば[1-13C1]グリコン、[3-13C1]アセテート、[13C]HCO3、[13C]メチオニンなど、H標識前駆体、例えば2H2O、およびO標識前駆体、例えばH218Oが含まれるが、これらに限るわけではない。2H-グルコース、3H-チミジン、およびBrdUもラベルとして使用することができる。
【0151】
上記のリストに加えて、DNAの内因的標識をもたらす任意の経路の基質または前駆体である他の安定同位体ラベルも、本発明の範囲に包含されることは、当業者には理解される。本発明での使用に適したラベルは、一般に市販されているか、当技術分野で周知の方法によって合成することができる。
【0152】
ii.前駆体分子としての水
水は核酸の前駆体である(参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願第10/872,280号を参照されたい)。したがって標識水は、本明細書に教示する方法における前駆体として役立ちうる(例えば2H2O、H218O)。
【0153】
H2Oの利用可能性が細胞内での生合成反応を制限することはおそらく決してないだろうが(なぜならH2Oは細胞の内容物の70%近くを占めるから、あるいは>35容積モル濃度だからである)、H2Oからの水素原子および酸素原子は、生合成経路に関与する多くの反応に、化学量論的に寄与する:
例えば、R-CO-CH2-COOH+NADPH+H2O→R-CH2CH2COOH(脂肪酸合成)。
【0154】
その結果、H-またはO-同位体標識水の形で提供された同位体ラベルは、生物学的分子中に、合成系路の一部として組み込まれる。水素の組み込みは二つの方法で、すなわち、分子中の不安定な位置で起こるか(すなわち迅速に交換可能で酵素触媒反応を必要としない)、安定な位置で起こる(すなわち迅速には交換可能ではなく、酵素触媒を必要とする)。酸素の組み込みは安定な位置で起こる。
【0155】
細胞水からの生化学的分子中のC-H結合への水素組み込みステップのいくつかは、生合成反応シーケンス中の明確に定義された酵素触媒ステップ中にのみ起こり、ひとたび成熟最終産物分子に入ると不安定(組織中の溶媒水と交換可能)ではなくなる。例えば、グルコース上のC-H結合は、溶液中で交換可能でない。対照的に、以下のC-H位のそれぞれは、特異的酵素反応の逆転時に体水分と交換する:クレブス回路中のオキサロ酢酸/コハク酸シーケンスおよび乳酸/ピルビン酸反応におけるC-1およびC-6;グルコース-6-リン酸/フルクトース-6-リン酸反応におけるC-2;グリセロアルデヒド-3-リン酸/ジヒドロキシアセトン-リン酸反応におけるC-3およびC-4;3-ホスホグリセレート/グリセロアルデヒド-3-リン酸およびグルコース-6-リン酸/フルクトース-6-リン酸反応におけるC-5。
【0156】
ある分子の特定の非不安定位置に共有結合によって組み込まれた水由来の標識された水素または酸素原子は、それにより、その分子の「生合成歴」を明らかにする−すなわち、ラベルの組み込みは、その分子が、同位体標識水が細胞水中に存在する期間中に合成されたことを示す。
【0157】
これらの生物学的分子中の不安定水素(非共有結合的に会合しているか、交換可能な共有結合中に存在するもの)は、分子の生合成歴を明らかにしない。不安定水素原子は、非標識水(H2O)とのインキュベーションによって(すなわち2Hまたは3Hを最初に組み込んだ非酵素的交換反応と同じ非酵素的交換反応の逆転によって)容易に除去されうる。
【0158】
結果として、生合成歴を反映しないが非合成的交換反応によって組み込まれる潜在的に混入する水素ラベルは、天然存在度のH2Oと共にインキュベートすることによって、実際には容易に除去することができる。
【0159】
生物学的分子への標識水素原子の組み込みを定量的に測定するための解析方法は利用可能である(例えば3Hの場合は液体シンチレーション計数;2Hおよび18Oの場合は質量分析法またはNMR分光法)。同位体標識水組み込みの理論に関するさらなる議論については、例えば、参照により本明細書に組み入れられるJungas RL. Biochemistry. 1968 7:3708-17を参照されたい。
【0160】
標識水は市場から容易に入手することができる。例えば2H2Oは、Cambridge Isotope Labs(マサチューセッツ州アンドーバー)から購入することができる。2H2Oは、例えば総体水分のパーセントとして、例えば消費される総体水分の1%を投与することができる(例えば1日あたりに消費される水3リットルに対して、30マイクロリットルの2H2Oが消費される)。
【0161】
2H2Oの比較的高い体水分濃縮(例えば総体水分の1〜10%が標識される)が、本発明の技法を使って、比較的安価に達成される。この水濃縮は比較的一定で安定である。というのも、これらのレベルはヒトおよび実験動物では毒性の証拠を何も示さずに数週間または数ヶ月維持されるからである。多数のヒト被験者(>100人)におけるこの知見は、高用量の2H2Oにおける前庭毒性に関する以前の懸念とは対照的である。出願人の一人は、体水分濃縮の迅速な変化を(例えば小分割量の初期投与などによって)防ぐ限り、2H2Oの高い体水分濃縮は、毒性を伴わずに維持されうることを発見した。例えば安価な市販の2H2Oにより、比較的少ない費用で、1〜5%の範囲の濃縮を長期間維持することができる。
【0162】
H218Oを投与する場合も比較的高く比較的一定した体水分濃縮を達成することができる。18O同位体には毒性がなく、結果として重大な健康リスクを示さないからである。
【0163】
同位体標識水は、連続的な同位体標識水投与もしくは不連続な同位体標識水投与によって、または同位体標識水の単回投与もしくは複数回投与後に、投与することができる。連続的な同位体標識水投与では、ある個体に、その個体において経時的に比較的一定した水濃縮を維持するのに十分な期間にわたって、同位体標識水を投与する。連続的方法の場合、最適には、定常状態濃度を達成するのに十分な継続期間(例えばヒトでは3〜8週間、齧歯類動物では1〜2週間)にわたって、標識水が投与される。
【0164】
不連続な同位体標識水投与の場合、同位体標識水の量を測定してから1回以上投与し、次に同位体標識水への曝露を中断して、体水分プールからの同位体標識水の洗い流しを起こさせる。そうすると脱標識の時間経過を監視することができる。最適には、生物学的分子中に検出可能なレベルを達成するのに十分な継続期間にわたって、水を投与する。
【0165】
同位体標識水は、当技術分野で知られているさまざまな方法で個体または組織または細胞に投与することができる。例えば同位体標識水は、経口、非経口、皮下、血管内(例えば静脈内、動脈内)、または腹腔内投与することができる。2H2OおよびH218Oの商業的供給源は、Isotec, Inc.(オハイオ州マイアミズバーグ)およびCambridge Isotopes, Inc.(マサチューセッツ州アンドーバー)など、いくつかある。投与される同位体標識水の同位体含有量は約0.001%〜約20%の範囲をとることができ、生物学的分子の同位体含有量を測定するために使用する計器の分析感度に依存する。ある実施形態では、飲料水中4%2H2Oを経口投与する。もう一つの実施形態では、ヒトに50mLの2H2Oを経口投与する。
【0166】
2H2Oを投与される生物系は細胞であってもよい。細胞は多細胞生物から収集して培養するか、American Type Culture Collectionなどの商業的供給源から購入し、当技術分野で周知の技法を使って細胞株として増殖させることができる。あるいは、2H2Oを投与される個体は、齧歯類動物またはヒトなどの哺乳動物を含む任意の多細胞生物であってもよい。
【0167】
薬物、薬物候補、薬物リード、生物学的因子、またはそれらの組合わせ(すなわち、化合物、化合物の組合わせ、または化合物の混合物)の投与を伴う実施形態の場合、個体は、哺乳動物、例えば一般に認められている疾患の動物モデルを含む実験動物、またはヒトなどであることができる。食品添加物、産業化学物質もしくは職業化学物質、環境汚染物質、または化粧品の投与を伴う実施形態の場合、個体は任意の実験動物、例えば、限定するわけではないが、齧歯類動物、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタであることができる。
【0168】
C.候補薬剤の投与
本明細書に概説するように、候補薬剤はさまざまな理由で投与される。いくつかの実施形態において、本発明では、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に影響を及ぼし、したがって潜在的疾患状態に影響を及ぼす潜在的治療剤またはワクチンを発見する目的で、薬剤(例えば産業化学物質、農薬、除草剤などを含む環境汚染物質)、薬物および薬物候補、食品添加物、化粧品、ワクチンなどの毒性効果を解明する目的で、そしてまた、薬剤およびワクチンに関連するリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の新しい経路を解明する目的(例えば薬物の副作用の研究、作用機序の研究など)で、候補薬剤が評価される。投与は、本明細書に概説するように、さまざまな方法で達成される。多くの場合、複数の候補薬剤濃度および/または複数回の候補薬剤曝露を行うことができる。投与は、同位体標識基質の投与前、投与中または投与後に行うことができる。
【0169】
本明細書に概説するように、動物を、少なくとも一つの抗原に曝露することにより、関心対象の抗原で免疫する。動物を少なくとも一つの候補薬剤にも曝露する。ある実施形態では、動物を候補薬剤に曝露するステップの前に免疫化のステップを行う。もう一つの実施形態では、免疫化のステップが、動物を候補薬剤に曝露するステップの後に行われる。あるいは、動物を候補薬剤に曝露するステップと同時に、免疫化のステップを行う。
【0170】
D.関心対象である1以上の標的DNA分子の取得
本発明の方法を実施するにあたって、一態様として、関心対象の標的DNA分子を、細胞、組織、または生物から、当技術分野で知られている方法に従って取得する。関心対象のDNA分子は、生物学的試料から単離することができる。
【0171】
複数の関心対象DNA分子を、細胞、組織、または生物から獲得することができる。それら1以上の生物学的試料は、1以上の生物学的液体であることができる。関心対象のDNA分子は、当技術分野で知られている標準的な生化学的方法を使って、生物学的試料から取得し、適宜、部分的に精製するか、単離することができる。
【0172】
DNA分子は、脊椎動物の組織、特に免疫系の組織(例えばリンパ節を含むが、これに限るわけではない)から取得することもできる。
【0173】
生物学的試料の採取頻度は、さまざまな因子に依存して変動しうる。そのような因子として、例えば関心対象であるDNA分子の性質、試料採取の容易さおよび安全性、関心対象であるDNA分子の合成速度および分解/除去速度、ならびに化合物、ワクチン、または候補薬剤の半減期が挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0174】
関心対象のDNA分子は、通常のDNA精製方法および/または当業者に知られている他の分離方法により、部分的に精製するか、適宜、単離することもできる。
【0175】
もう一つの実施形態では、関心対象のDNA分子を加水分解するか、他の形で分解して、より小さい分子を形成させることができる。加水分解法には、当技術分野で知られている任意の方法、例えば化学的加水分解(酸加水分解など)および生化学的加水分解(ヌクレアーゼ分解など)があるが、これらに限るわけではない。加水分解または分解は、関心対象のDNAの精製および/または単離の前または後に行うことができる。関心対象のDNA分子は、当業者に知られている通常のDNA精製方法により、部分的に精製するか、または適宜、単離することもできる。
【0176】
E.解析
現在利用可能な技術(静的方法)では、細胞における分子の組成、構造、または濃度だけを測定し、一時点でそれを行う。
【0177】
1.質量分析
質量分析計は試料の構成要素を迅速に移動するガス状イオンに変換し、質量対電荷比に基づいてそれらを分離する。したがって、イオンまたはイオンフラグメントの同位体またはアイソトポログを使って、関心対象である1以上のDNA分子における同位体濃縮を測定することができる。
【0178】
一般に、質量分析計には、イオン化手段および質量分析機が含まれる。いくつかの異なるタイプの質量分析機が当技術分野では知られている。これらには、磁場型分析機、静電型分析機、四重極、イオントラップ、飛行時間型質量分析機、およびフーリエ変換分析機などがあるが、これらに限るわけではない。また、2以上の質量分析機を連結して(MS/MS)、まず前駆体イオンを分離し、次に、気相フラグメントイオンを分離して測定することもできる。
【0179】
質量分析計は、いくつかの異なるイオン化法も包含する。これらには、電子衝撃、化学イオン化、およびフィールドイオン化などの気相イオン化源、ならびに電場脱離、高速原子衝撃、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化、および表面増強レーザー脱離/イオン化などの脱離源があるが、これらに限るわけではない。
【0180】
また、質量分析計は、ガスクロマトグラフィー(GC)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの分離手段と連結することもできる。ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)では、ガスクロマトグラフィーからのキャピラリーカラムを、適宜、ジェットセパレータを使って、質量分析計に直接連結する。そのような応用例では、ガスクロマトグラフィー(GC)カラムが、試料ガス混合物から試料構成要素を分離し、分離された構成要素をイオン化し、質量分析計で化学的に解析する。
【0181】
GC/MSを有機分子の質量アイソトポマー存在量の測定に使用する場合、標識水からの水素標識同位体の組み込みは、標識水からその有機分子に組み込まれる水素原子の数に依存して3〜7倍増幅される。
【0182】
ある実施形態では、関心対象であるDNA分子の同位体濃縮を、質量分析計で直接測定することができる。
【0183】
もう一つの実施形態では、質量スペクトル分析に先だって、関心対象であるDNA分子を部分的に精製し、または適宜、単離する。さらにまた、関心対象であるDNA分子の加水分解産物または分解産物を精製してもよい。
【0184】
もう一つの実施形態では、関心対象であるDNA分子の同位体濃縮を、前記DNA分子の加水分解後に、ガスクロマトグラフィー-質量分析計によって測定する。
【0185】
上述した実施形態のそれぞれにおいて、生物学的分子(すなわち関心対象のDNA分子)の生合成速度は、真の前駆体プール濃縮を表すために、完全に代謝回転した関心対象分子の標識前駆体分子濃縮値または漸近(asymptotic)同位体濃縮を使って、前駆体-生成物関係(以下に詳述)を適用することにより、算出することができる。あるいは、生合成速度または分解速度を、指数関数的または他の消失速度論モデル(以下に詳述)を適用することにより、指数関数的減衰曲線を使って算出してもよい。
【0186】
a.相対的および絶対的質量アイソトポマー存在量の測定
測定された質量スペクトルピーク高、あるいはピーク下面積は、親(ゼロ質量同位体)アイソトポマーに対する比として表すことができる。本発明の目的には、そのようなデータを記述する際に、試料中のアイソトポマーの存在量について相対値および絶対値を与える任意の計算手段を使用しうると理解される。
【0187】
2.関心対象であるDNA分子の標識:非標識比率の算出
次に関心対象である標識および非標識DNAの比率を算出する。実施者はまず、ある分子の単離されたアイソトポマー種について、過剰モル比を決定する。次に実施者は、測定された過剰比の内部パターンを理論パターンと比較する。そのような理論パターンは、参照によりその全てが本明細書に組み入れられる米国特許第5,338,686号、同第5,910,403号、および同第6,010,846号に記載されているように二項分布または多項分布を使って算出することができる。これらの計算は質量アイソトポマー分布解析(Mass Isotopomer Distribution Analysis:MIDA)を含みうる。さまざまな質量アイソトポマー分布解析(MIDA)組合せアルゴリズムが、当業者に知られているいくつかの異なる資料で議論されている。この方法は、HellersteinおよびNeese (1999)、ならびにChinkesら (1996)、ならびにKelleherおよびMasterson (1992)、ならびに米国特許出願第10/279,399号(これらはいずれも参照によりその全てが本明細書に組み入れられる)に、さらに詳しく議論されている。
【0188】
上述の文献に加えて、この方法を実行する計算ソフトウェアも、カリフォルニア大学バークレー校のMarc Hellerstein教授から公的に入手することができる。
【0189】
過剰モル比と理論パターンとの比較は、関心対象の分子について作成した表を使って、またはグラフ的に、決定された関係を使って行うことができる。これらの比較から、前駆体サブユニットプールにおけるサブユニットの質量同位体濃縮の確率を記述するp値などの値が決定される。次に、この濃縮を使って、全てのアイソトポマーが新たに合成されたと仮定した場合に存在すると予想されるアイソトポマー過剰比を明らかにするための、各質量アイソトポマーについて新たに合成されたタンパク質の濃縮を記述するAx*などの値を決定する。
【0190】
次に存在分率を算出する。個々の同位体(元素の場合)または質量アイソトポマー(分子の場合)の存在分率は、その特定同位体または質量アイソトポマーが全存在量に占める分率である。これは、最も豊富な種に100という値を与え、他の全ての種を100に対して規格化し、パーセント相対存在量として表す相対存在量とは区別される。質量アイソトポマーMXの場合、MXの存在分率=
【数1】
式中、0〜nは、存在が認められる、最低質量(m0)質量アイソトポマーに対する整数質量の範囲である。Δ存在分率(濃縮または枯渇)=
【数2】
式中、下付き文字eは濃縮された存在度を示し、下付き文字bはベースライン存在度または天然存在度を示す。
【0191】
前駆体投与期間中に実際に新しく合成されたポリマーの分率を決定するには、測定された過剰モル比(EMX)を、全てのアイソトポマーが新たに合成されたと仮定した場合に存在すると予想されるアイソトポマー過剰比を明らかにするための、各質量アイソトポマーについて新たに合成された生体ポリマー(例えばDNA分子)の濃縮を記述する計算濃縮値AX*と比較する。
【0192】
3.分子フラックス速度の算出
合成の速度を決定する方法には、分子前駆体プール中に存在する質量同位体標識サブユニットの比率を算出すること、そしてこの比率を使って、少なくとも一つの質量同位体標識サブユニットを含有する関心対象分子の予想頻度を算出することが含まれる。次に、この予想頻度を、実際の、実験的に決定された関心対象分子のアイソトポマー頻度と比較する。これらの値から、選択した組み込み期間中に添加した同位体標識前駆体から合成される関心対象DNA分子の比率を、算出することができる。したがって、そのような期間中の合成の速度も決定される。
【0193】
次に前駆体-生成物関係を適用することができる。連続標識法の場合は、同位体濃縮を漸近(すなわち最大可能)濃縮と比較し、キネティックパラメータ(例えば合成速度)を前駆体-生成物式から算出する。合成速度分率(ks)は、連続標識前駆体-生成物式:
ks=[-ln(1f)]/t
を適用することによって決定することができる(式中、f=合成分率=生成物濃縮/漸近前駆体/濃縮およびt=研究対象の系におけるラベル投与の接触時間)。
【0194】
不連続標識法の場合、同位体濃縮の低下の速度を算出し、関心対象であるDNA分子のキネティックパラメータを、指数関数的減衰式から算出する。この方法を実施する場合、生体ポリマー(例えばDNA分子)には、好ましくは、複数の質量同位体標識前駆体を含有する質量アイソトポマーが濃縮される。関心対象分子のこれら高質量アイソトポマー、例えば3個または4個の質量同位体標識前駆体を含有する分子は、天然質量同位体標識前駆体の存在度が比較的低いため、外来前駆体の不在下では無視できる量しか形成されないが、分子前駆体組み込み期間中は、かなりの量で形成される。逐次的な一連の時点で細胞、組織、または生物から採取される関心対象分子を質量分析法で解析するにより、高質量アイソトポマーの相対頻度が決定される。高質量アイソトポマーは、ほとんど排他的に、最初の時点以前に合成されるので、二つの時点間のその減衰は、関心対象DNA分子の減衰速度の直接的尺度になる。
【0195】
好ましくは、最初の時点は、質量同位体標識サブユニットの比率が前駆体投与後のその最高レベルから実質的に減衰していることを保証するために、投与様式に依存して、前駆体投与の停止後、少なくとも2〜3時間である。ある実施形態では、以降の時点が、通例、最初の時点の1〜4時間後であるが、このタイミングは生体ポリマープールの置換速度に依存するだろう。
【0196】
関心対象分子の減衰の速度は、関心対象の三同位体分子(three-isotope molecule)に関する減衰曲線から決定される。減衰曲線が数個の時点によって定義されるこの例では、曲線を指数関数的減衰曲線に当てはめて、そこから減衰定数を決定することによって、減衰速度論を決定することができる。
【0197】
分解速度定数(kd)は、指数関数的または他の速度論的減衰曲線に基づいて算出することができる。
kd=[-ln f]/t。
【0198】
上述のように、この方法を使って、質量同位体標識を行うことができる二つ以上の同一サブユニットから形成される実質上任意の生体ポリマーについて、サブユニットプール組成ならびに合成および減衰の速度を決定することができる。分子のフラックス速度および関心対象の代謝経路(本発明ではDNA合成および/またはDNA分解)を通るフラックス速度を算出するために、他の周知の計算技法および実験的標識または脱標識アプローチも使用することができる(例えばWolfe,R.R.「Radioactive and Stable Isotope Tracers in Biomedicine: Principles and Practice of Kinetic Analysis」John Wiley & Sons;(March 1992))。
【0199】
F.本発明の方法の用途
本明細書に開示する方法は、創薬、薬剤開発、および承認(DDDA)工程に役立ちうる(図10〜11)。特に本発明の方法では、なかんずく、以下に挙げる事項が可能である。
【0200】
ワクチン、候補薬剤、および環境汚染物質を含むさまざまな外部刺激に応答して起こるリンパ球増殖(リンパ増殖)、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送のインビボ測定。
【0201】
本明細書において「リンパ増殖」とは、リンパ球の再生産を意味する。リンパ増殖はクローン拡大を含むが、これに限るわけではない。
【0202】
本明細書において「増殖」とは、細胞の再生産を意味し、この際、一つの細胞(「親」細胞)は分裂して二つの娘細胞を生成する。
【0203】
本明細書において「クローン拡大」とは、単一の親リンパ球からのリンパ球の再生産を意味する。
【0204】
本明細書において「動員」とは、例えば抗原の存在またはサイトカイン濃度の変化などによる、関心対象の部位またはその近傍へのリンパ球の再配置を意味する。特に興味深いのはリンパ節への動員である。
【0205】
本明細書において「リンパ球輸送」とは、関心対象の部位(例えば炎症部位)またはその近傍へのリンパ球の遊走を意味する。
【0206】
本発明は、リンパ球増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送を調整する候補薬剤を同定するための方法に役立つ。「調整する」という用語には、(例えばリンパ球増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の一つ以上の性質を)減少させる薬剤、またはリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の一つ以上の性質を増加させる(例えば活性化する)薬剤が包含される。一般に、「減少」または「増大」は、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または100%の変化であり、それ以上の増加も考えられる。
【0207】
ワクチン接種のための抗原用量の最適化。例えば望ましい結果を達成するためのワクチン投薬量の増加または減少。
【0208】
ワクチン接種用アジュバントの最適化。例えば望ましい結果を達成するためのアジュバントの投薬量の増加または減少。
【0209】
ラベル保持による記憶の測定。例えば単離されたDNAまたは単離された細胞中のラベル同位体の量を計数することによる。
【0210】
二次免疫後の再生による記憶の測定。例えば単離されたDNAまたは単離された細胞中のラベル同位体の量を計数することによる。
【0211】
インビボでの治療係数の決定。
【0212】
リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の基礎速度の評価。
【0213】
インビボおよびインビトロでの薬物、用量、および治療レジメンの定量的比較。
【0214】
迅速で、高スループットで、スケーラブルなアッセイ。
【0215】
本明細書において「治療係数」(「治療可能比」または「安全域」とも呼ばれている)とは、治療効果を引き起こす治療薬剤の量と、毒性効果を引き起こす量との比較を意味する。定量的には、これは、毒性効果をもたらすのに必要な用量を治療用量で割ったものによって与えられる比である。よく用いられる治療係数の尺度は、集団の50%に対する薬物の致死量(LD50)を集団の50%に対する有効量(ED50)で割ったもの:
治療係数=(LD50)/(ED50)
である。
【0216】
本明細書に記載する方法は、候補薬剤のスクリーニング、候補薬剤のFDA第I相および第II相ヒト検証試験、候補薬剤のFDA第III相承認、ならびにFDA第IV相承認試験、または他の承認後市場ポジショニングもしくは薬物作用機序試験に応用することができる。
【0217】
ある実施形態では、本方法では、生物系を候補薬剤または候補薬剤の組合わせもしくは混合物に曝露した後に観察される、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に対する効果を評価することも可能である。したがって、生成し解析されるデータは、創薬、薬剤開発および承認(DDDA)意思決定工程を容易にするので、すなわち意思決定者が候補薬剤または候補薬剤の組合わせのさらなる開発を続けることを決定するのに役立つ情報(例えばリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に関する阻害データまたは刺激データが有望と思われるかどうか)または前記の努力を中止することを決定するのに役立つ情報、例えばリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送に関する阻害データまたは刺激データが好ましくないと思われるかどうかを意思決定者に提供するので、DDDA工程に有用である(この工程の図解については図10を参照されたい)。
【0218】
さらにまた、本方法により、当業者は、ある候補薬剤クラス中の「ベストインブリード」(すなわち「ベストインクラス(best in class)」)を同定し、選択し、かつ/または特徴づけることができる。一旦、同定、選択、および/または特徴づけがなされたら、当業者は、本発明の方法によって生成した情報に基づいて、その「ベストインブリード」をさらに評価する決定、または製薬会社もしくはバイオテクノロジー会社などの他者にその候補薬剤をライセンスする決定を下すことができる(図11参照)。
【0219】
もう一つの実施形態において、本発明の方法では、産業化学物質、食品添加物、化粧品、および環境汚染物質への曝露が組織および細胞に及ぼす毒性効果(例えば、疾患を含む毒性傷害につながる環境曝露からの、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/もしくは細胞輸送の阻害、または場合によって、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の刺激)の特徴づけもしくは評価(または特徴づけと評価の両方)が可能である。本発明の方法は、さらなる公衆衛生目標に向けて組織および細胞に対する産業有毒物、食品有毒物、化粧品有毒物、および環境有毒物の分子機序を同定し探索するためのプログラムを確立するために使用することができる。
【0220】
ある実施形態では、本発明の方法によって生成されるデータが、1以上の免疫疾患(例えば慢性リンパ球性白血病を含む白血病などのリンパ増殖性障害)の基礎にある分子病理発生過程または原因の理解に関連しうる。もう一つの実施形態では、本発明の方法によって生成されるデータが、関心対象である免疫疾患の開始、進行、重症度、病状、攻撃性、グレード、活動性、障害性、死亡率、罹病率、疾患細分類、または他の基礎にある病原的もしくは病理学的特徴の基礎面に光をあてうる。
【0221】
さらにもう一つの実施形態では、本発明の方法によって生成されるデータが、関心対象である免疫疾患、特にリンパ球増殖の変化に関係する疾患の、予後、生存率、死亡率、罹病率、ステージ、治療応答、総体症状、障害性または他の臨床因子の基礎面を解明しうる。2以上のバイオマーカーを独立してまたは同時に測定することができる(例えばDNA合成とMタンパク質代謝回転)
【0222】
既知の疾患動物モデルを本発明の一部として使用することができる。そのような疾患動物モデルとして、リンパ球性白血病、リンパ腫、炎症性疾患、HIV/AIDSなどの免疫学的疾患モデルなどが挙げられるが、これらに限るわけではない。
【0223】
もう一つの実施形態として、本発明の方法は、産業化学物質または職業化学物質、食品添加物、化粧品、または環境汚染物質/夾雑物などの候補薬剤が組織または細胞などの生物系に及ぼす毒性効果を検出するのに有用である。本発明に関して毒性は、通常、リンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送の望ましくない変化によって測定される。本明細書に概説するように、変化は、実験の背景および選択した観測可能な帰結に応じて、刺激または阻害のどちらかであることができる。いくつかの実施形態では、毒性効果が終末器毒性を含みうる。終末器毒性には、一次リンパ器官および二次リンパ器官におけるリンパ増殖、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送が含まれうるが、これらに限るわけではない。
【0224】
図11に創薬工程における本願発明の使用を例示する。ステップ01では、複数の候補薬剤を選択する。ステップ03では、DNA合成のフラックス速度を、リンパ球内で、好ましくは本明細書で論じる方法に従って研究する。もう一つの実施形態では、本発明を例えば標的発見工程で使用する場合に、ステップ03を最初に行う。ステップ05では、関連するフラックス速度を同定する。例えば、特定の表現型状態において細胞増殖の特定のバイオマーカーのフラックス速度を低下させることが望ましい場合は、そのフラックス速度を低下させる化合物は一般により有用であるとみなされ、逆に、そのフラックス速度を増加させる化合物は、一般にあまり望ましくないとみなされるだろう(例えばデノボDNA合成)。標的発見工程では、もう一つの表現型と比較してフラックス速度が増加または減少している特定の表現型(例えば疾患型対非疾患型)を、良い治療標的もしくは診断標的であるまたは良い治療標的もしくは診断標的の経路にあるとみなしうる。ステップ07では、関心対象の候補薬剤および関心対象のワクチン(「治療剤」と総称)、関心対象の標的、または診断薬を選択し、さらに使用し、さらに開発する。標的の場合、そのような標的は、例えば周知の小分子スクリーニング工程(例えば新規化学物質などの候補薬剤のハイスループットスクリーニング)などの対象であってもよい。ステップ09では、候補薬剤、ワクチン、または診断薬を販売または配布する。販売または配布するのは、本発明の方法によって「ベストインブリード」と同定されたものであることができる。図6の工程に含まれるステップの1以上が、最適な結果を得るために、ほとんどの場合、何回も繰り返されるであろうことは、当然、理解されるだろう。
【0225】
さらにもう一つの実施形態として、本発明の方法は、免疫抑制効果を持つ候補薬剤を発見するために使用することができる。HIV-1感染および後天性免疫不全症候群(AIDS)を含む一定の進行性免疫不全症候群は、慢性的な免疫活性化を特徴とする。この活性化はいくつかの機序によって疾患進行(免疫機能の止めがたい喪失)の一因になると考えられる。しかし、古典的な免疫抑制剤を使用することは、基礎にある免疫不全を悪化させる懸念があるため、これらの状況では問題が多い。本発明の一実施形態は、創薬ツールおよびそのようにして発見された薬物を用いる治療戦略を含む。出願人は、リンパ球の輸送およびリンパ節(LN)への動員を妨害する候補薬剤を同定する手段、ならびにそのような薬剤の至適用量または至適レジメンを同定するための手段を、ここに初めて開示する。この方法によって発見される候補薬剤の例を開示する。
【0226】
さらにもう一つの実施形態として、出願人は、細胞毒活性または他の古典的免疫毒性を伴わずに慢性的免疫活性化を減少させることにより、一定の免疫不全疾患における免疫不全の進行を減速するための治療方法も開示する。本方法は、腸もしくは末梢組織またはその両者における誘導部位(例えばLN)へのリンパ球のホーミングを減少させるまたは防止する薬剤を、初発または既存免疫不全症候群を持つ対象に投与することを含む。結果として、進行性の免疫機能喪失に関与するいくつかの過程、例えばリンパ球の活性化および増殖;ナイーブT細胞の二次的枯渇;メモリー/エフェクターT細胞プールにおける抗原特異的レパートリーの喪失;胸腺機能障害を含むリンパ球ホメオスタシスの変化;標的細胞の供給によるHIV-1感染におけるHIV複製の喚起;ならびに線維症を含むリンパ節構造への損傷などを減少させることができる。リンパ球輸送を妨害する薬剤は細胞毒性作用を持つ必要はなく、それゆえに免疫不全症候群における使用には理想的な治療薬候補である。
【0227】
G.同位体摂動分子
もう一つの実施形態において、本方法は、同位体摂動分子(例えば核酸)の生産にも対応する。これらの同位体摂動分子は、リンパ増殖の変化を決定するのに有用な情報を含む。1以上の同位体摂動分子を、ある生物のリンパ球および/または組織から単離してから、解析し、上述のように情報を抽出する。
【0228】
H.キット
本発明は、リンパ増殖の変化を測定するためのキットも提供する。このキットは同位体標識前駆体分子を含むことができ、タンパク質を分離、生成、または単離するための当技術分野で知られている化学化合物、および/または組織試料を取得するのに必要な化学物質、組み合わせ解析のための自動計算ソフトウェア、ならびにキットの使用説明書をさらに含んでもよい。
【0229】
水を投与するための道具(例えば計量カップ、針、注射器、ピペット、IV管)などといった他のキット構成要素も、適宜、キットに入れて提供することができる。同様に、細胞、組織、または生物から試料を取得するための器具(例えば標本カップ、針、注射器、および組織試料採取装置)も適宜、提供することができる。
【0230】
I.情報記憶装置
本発明は、本発明の方法によって収集されたデータを含む紙の報文またはデータ記憶装置などの情報記憶装置も提供する。情報記憶装置には、紙または類似の触知できる媒体に書かれた報文、プラスチック透明シートまたはマイクロフィッシュに書かれた報文、および光学媒体または磁気媒体(例えばコンパクトディスク、デジタルビデオディスク、光学ディスク、磁気ディスクなど)に保存されたデータ、または一時的であるか永続的であるかを問わず情報を保存しているコンピュータが含まれるが、これらに限るわけではない。データは、少なくとも部分的にコンピュータに含有されていてもよく、電子メールメッセージの形態にあるか、独立した電子ファイルとして電子メールメッセージに添付されてもよい。情報記憶装置内のデータは、「生」(すなわち収集されているが解析されていない)であるか、部分的に解析されているか、完全に解析されていてよい。データ解析は、コンピュータもしくは他の何らかの自動装置を利用して行うか、手作業で行うことができる。情報記憶装置は、さらなる解析もしくは表示またはその両方を目的として別個のデータ記憶システム(例えばコンピュータ、ハンドヘルドコンピュータなど)にデータをダウンロードするために使用することもできる。あるいは、情報記憶装置内のデータを、さらなる解析もしくは表示またはその両方のために、紙、プラスチック透明シート、または他の類似の触知可能な媒体上に印刷してもよい。
【実施例】
【0231】
以下に限定でない実施例を挙げて、本願発明をさらに例証する。
実施例1
【0232】
プロトコール
以下に述べる実験は全てこの実施例1のプロトコールに従った。
試薬類.キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)および以下に記述するシクロスポリンA、および他の全ての生体異物は、Sigma(ミズーリ州セントルイス)または化学物質の他の周知の供給業者から入手した。重水はCambridge Isotope Labs(マサチューセッツ州ケンブリッジ)から入手した。Celigro(市/州)の組織培養用エンドトキシンフリー滅菌PBSを擬似免疫化に使用し、またKLHの希釈剤として使用して、それを-20℃で保存した。他の化学物質は全て、別段の表示がない限り、Sigmaから入手した。
【0233】
動物.動物作業は全て、KineMedの動物実験委員会から、書面による事前の承認を得た。動物(別段の表示がない限り雌C57BI/6およびBalb/cマウス)は、特定病原体フリー条件下に、KineMedの動物施設で飼育し、12時間明/12時間暗の照明サイクルにさらし、水と標準飼料を不断給餌した。動物は6週齢で購入し、免疫化の前に2〜7日間、その場で馴化させた。
【0234】
PLNAおよび重水標識.キネティックPLNAは、図の説明に注記した点を除いて、以下のように行った。どの実験でも、n=4または5匹のBalb/cマウスの群に、0日目に、20μlのPBSもしくは薬物賦形剤(陰性対照群)または5〜25μgのKLHを含有する20μlのPBS(陽性対照群)を、左後肢足蹠(趾からかかとの方向)に皮下免疫した。重水標識は、0.9%w/v NaClを含有する99.9%2H2Oを35ml/kg-体重の量で腹腔内注射することによって、0日目に開始し、残りの研究期間中は、飲用水中の8%2H2Oで動物を維持した。免疫後7日目に、イソフルラン麻酔下で心臓穿刺によりヘパリン処理チューブに採血し、頸椎脱臼によって屠殺した。血液を1500×gで10分間遠心分離し、ヘパリン処理した血漿を、体水分2H濃縮の決定用に-20℃で保存し、もう一つを血清学的試験用に凍結した。25ゲージカニューレを使って1mlのPBSで骨を洗い流すことにより、右後肢大腿骨から骨髄を収集し、その組織および細胞懸濁液を450×gで5分間遠心分離した。
【0235】
PLN細胞の分析.所属PLNを左後肢から切除し、10%ウシ胎仔血清および抗生物質を含有する氷冷RPMI1640中にピンセットを使って機械的に分散させた。その細胞懸濁液をよく混合し、12×75mmポリスチレンチューブ(BD Biosciences、カリフォルニア州サンホゼ)に装着した35μm細胞ストレーナーで濾過し、450×g、4℃で5分間遠心分離した。細胞を100μlの染色バッファー(0.5%w/vウシ血清アルブミン、2mM EDTA、および0.05%アジ化ナトリウム)に懸濁し、20μlの1mg/mlマウスIgG(Sigma)および2μlの抗CD16/CD32mAb(Miltenyi Biotec、市/州)を加えることによって4℃で15分間固定し、抗CD3-FITCおよび抗B220-PE/Cy5(eBioscience、各1μl)で15分間染色した。試料を染色バッファーで900μlに希釈し、100μlのFlow-Countフルオロスフェア(fluorospheres)とよく混合し、絶対リンパ節細胞数ならびにT細胞、B細胞および非T/B細胞の百分率および絶対数を決定するために、Epics XLフローサイトメーター(Beckman Coulter、市/州)で解析した。リンパ節あたりの絶対細胞数は、
細胞数=(細胞イベントの数/ビーズイベントの数)×1μlあたりのビーズ濃度×100μl
として決定した。
【0236】
対照マウスの反対側(右)PLNを単染色およびアイソタイプ対照に使用した。細胞は、前方散乱光パルス高対面積のプロットに基づくダブレット除去を行って、前方散乱光および側方散乱光によって同定した。一部をDNA抽出用に450×gで5分間ペレット化した。一部の実験では、細胞の残りをPBSで洗浄し、PBS中の2%w/vパラホルムアルデヒドで固定し、T細胞とB細胞を、Coulter Epics Eliteセルソーターで選別した。選別した細胞は再分析時、常に純度>99%だった。
【0237】
プリンdRへの2H組み込みの解析.骨髄、全PLN細胞、または選別したT細胞およびB細胞の試料から、DNEasyキット(Qiagen、カリフォルニア州バレンシア)を使って、製造者の説明に従ってDNAを抽出した。0.15mM ZnSO4を含有する75mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.8)中、0.5単位のヌクレアーゼS1(Sigma)および0.25単位のジャガイモ酸性ホスファターゼ(Calbiochem)と共に、37℃で終夜インキュベートすることにより、一部(0.5μg)をデオキシリボヌクレオチドに加水分解した。100℃において酢酸で30分間処理することにより、プリンデオキシリボヌクレオチドからデオキシリボースを選択的に放出させ、同時に、そのアルデヒド基をペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミンで誘導体化した。ヒドロキシル基は無水酢酸およびN-メチルイミダゾールを使ってアセチル化し、得られたペンタフルオロベンジル四酢酸誘導体をジクロロメタンに抽出し、減圧下で乾燥し、酢酸エチル100μlに再溶解した。誘導体をガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)で上述のように分析し、選択したイオンをm/z435(親質量アイソトポマーM0)および436(M1)で監視した。ChemStationソフトウェアを使ってM0ピーク面積とM1ピーク面積を積分した後、M1質量アイソトポマーの過剰モル分率(EM1)を、
EM1=[(M1/(M0+M1)]試料−[(M1/(M0+M1)]ベースライン
として算出した。
【0238】
ベースライン質量アイソトポマー分布は、m0存在量について試料に合致させた非標識デオキシリボースまたはウシ胸腺DNA標品の解析結果から算出した。二重に測定したEM1値は常に平均の0.1%以内にあった。
【0239】
体水分における2H濃縮を上述のように測定した。簡単に述べると、微量蒸留によって血清(50μl)から水を単離し、炭化カルシウムと反応させて、水素原子をアセチレンに移した。アセチレンをSeries3000サイクロイド質量分析計(Monitor Instruments、ペンシルバニア州チェスウィック)で分析し、m/z=26(M0)と27(M1)の存在量を、2H2Oと1H2Oの既知混合物から作成した標準曲線と比較した。飲用水中の8%2H2Oで維持した動物では、体水分2H濃縮はほぼ5%だった。体水分中の2Hのモル分率を、完全に代謝回転されたDNA中のプリンデオキシリボースの予想EM1値に、MIDAアルゴリズムを使って変換した。この標準と比較したところ、4日以上標識した動物中の骨髄DNAは、85〜95%代謝回転していた。残りはおそらくヌクレオチドサルベージによる小さな寄与を反映しているのだろう。
【0240】
計算および統計.PLN細胞集団の代謝回転分率(f、標識期間中に分裂した全、T、またはB細胞の分率であって、クローン拡大を表す。図1)を
f=EM1観測値/EM1最大値
として算出した。式中のEM1最大値は、大半の実験において、同じ動物から得た骨髄DNAによって表すか、0.14に等しいと仮定した。あるいは、標識期間が4日未満であるマウスについては、EM1最大値を、その動物の体水分2H濃縮から予測されるEM1値×0.9によって表した(0.9という係数はサルベージによる希釈を表す)。標識期間中に分裂した細胞の数は、関心対象である細胞の代謝回転分率と、関心対象である細胞のリンパ節あたりの絶対数とから、
新しい細胞=f×細胞数
として算出した。
【0241】
実験計画に応じて、SigmaStatバージョン8.0に実装されている対応のないスチューデントt検定、一元配置または二元配置ANOVAによって、動物群を比較した。0.05未満のP値を有意とみなした。
実施例2
【0242】
免疫化後のPLN細胞fの増加は抗原依存的である
次に本発明者らは、PLNにおけるfの増加が、抗原依存的なリンパ増殖を反映しているのか、または休止細胞と比較した増殖細胞の優先的動員を反映しているのかを調べた。まず、本発明者らはリンパ球サブセット中のfを測定した(図2B)。KLH免疫マウスから得たPLN B細胞にfの著しい増加が見出された。全T細胞およびCD4+T細胞にはそれより小さなfの増加が検出され、CD8+T細胞にはfの増加が検出されなかった(図2B)。これは、外来タンパク質による初回刺激を受ける能力を、前者は持つことが知られているが、後者は持たないことと合致している。さらにまた、この結果は、B細胞およびCD4+T細胞の増殖がLPS混入によるものではないことも示唆している。なぜなら、LPSはたとえ低用量でも、増殖性CD8+T細胞のパーセンテージを増加させるからである。
【0243】
第2に、KLH刺激によるT細胞のfの増加は、抗原刺激後に起こるNFATcの核内移行を妨げる周知のカルシニューリンアンタゴニストであるシクロスポリンAによって阻害された(図2C)。対照的に、T細胞のベースラインfは、シクロスポリンによって有意に低下しなかった(図2c)。したがって、カルシニューリン依存的過程は、ベースラインfにはあまり寄与していない。KLH刺激によるT細胞fの増加のシクロスポリンA感受性部分は、おそらく抗原駆動的増殖に起因したのだろう。
【0244】
第3に、本発明者らは、抗原を含まないIFA(鉱油)の皮下注射による所属LNへの細胞の動員後に、PLN細胞fに顕著な変化を認めなかった(図3A;「IFA」対「PBS」)。しかしPLN細胞数は増加し(図3B)、それに応じて増殖細胞の絶対数も増加した(図3C)。このようにIFAによるPLNへのリンパ球動員は、休止細胞と増殖細胞とを同じように誘引する(図1A、a対c)。B細胞ではfがIFAによって低下し、CD4+T細胞のfは増加したが、これらの変化はわずかだった(図4)。
【0245】
第4に、PLN細胞数およびfは、低分子量アレルゲンである2,4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)によるBalb/cマウスの免疫化後に増加した(図3D〜F)。DMSO賦形剤はPLNへのリンパ球動員を引き起こしたが(図3E)、fは増加させなかった(図3D)。DNCBは選別したCD4+T細胞およびCD8+T細胞のfを刺激し(図2D);B細胞fの刺激はさまざまであるが、低かった(図2D)。
【0246】
要約すると、タンパク質またはハプテン免疫化後に起こる所属LNにおけるfの増加は、主として、抗原刺激増殖によるものであり、したがってクローン拡大を表す。対照的に、非特異的炎症性刺激によるLNへのリンパ球動員は、細胞性および新しく分裂した細胞の絶対数を増加させるが、fを著しく変化させることはない。
実施例3
【0247】
f(クローン拡大)と細胞数とによるリンパ増殖への差別的寄与
絶対リンパ増殖、すなわち2H2O曝露期間中に分裂したLN細胞の総数は、(LN細胞性×f)として算出することができる。この定義によれば、絶対リンパ増殖は、恒常的な細胞増殖および細胞死、LNへの細胞動員、局所的な抗原駆動的増殖、および活性化誘発死による、LNにおける分裂細胞の正味の増加分に等しい。
【0248】
本発明者らは、さまざまな用量のKLHでBalb/cマウスを免疫した7日後に、所属LNにおける絶対リンパ増殖への細胞性とfとの寄与を決定した(図5A〜C)。細胞性は25μg KLH付近で最大だった(図5A)。10分の1または10倍の抗原用量では、陰性対照と比較して、細胞性は増加しなかった。対照的にfは、100倍範囲のKLH用量にわたって、用量非依存的プラトーまで上昇した(図5B)。2.5μgまでのKLH用量では、絶対リンパ増殖(図5C)が、細胞増殖を伴わないfの増加によって駆動された。実際、fは、わずか600ngのKLHによる免疫化後でも、最大限に増加した(図S3)。2.5〜25μgのKLHでは、絶対リンパ増殖のさらなる増加が、250μgにおける減少と同様に、細胞性の変化によって駆動された(図5A〜C)。このように、KLH刺激によるfの増加は、オン/オフスイッチのように挙動し、低い抗原用量で最大効果を持ち、LN細胞性とは異なる用量応答をたどった。PLN細胞数を2〜3倍増加させた抗原用量でさえ、増殖細胞がPLN中の細胞の約20%以上を占めることは決してなかった。
【0249】
DNCBによる免疫化後には、多少異なる結果が得られた(図5D〜F)。fと絶対リンパ増殖はどちらも低用量では最大下だったが、fは100μgを超える用量のDNCBでプラトーに達した。より高い用量における絶対リンパ増殖のさらなる増加は、細胞性の増加によって駆動された。このように、LN細胞性およびf(クローン拡大)の差別的用量応答関係は、高用量のDNCBでも観察された。
【0250】
KLH免疫化後のf(クローン増殖)のプラトーが抗原デポーまたは炎症性刺激の欠如を反映しているのかどうかを調べるために、本発明者らは、IFA(33)に乳化したKLHで動物を免疫した(図3A〜C)。注目に値することには、IFA中のKLHで免疫した7日後のPLN細胞fの増加は、アジュバントなしのKLH効果と識別できなかった(図3A)。IFAは、免疫後4日目または10日目におけるfに対するKLHの効果を、どちらも増強しなかった。同様に、B細胞fおよびCD4+T細胞fに対するKLHの効果も、IFAによって著しく増強されることはなかった(図4)。IFAは、KLHの存在下でも不在下でも、所属LNにおける細胞性を増加させることにより(図3B)、絶対リンパ増殖を著しく増加させた(図3C)。このように、KLHのみによるアジュバント活性の欠如は、fにおけるプラトーの説明にはならなかった。さらにまた、IFA処置動物のPLNにおける絶対リンパ増殖の増加は、KLHありまたはKLHなしで、主としてリンパ球動員の増加によって駆動された。
実施例4
【0251】
f(クローン拡大)のプラトー値と前駆体頻度との関係
fのプラトーが前駆体頻度によって定められるのかどうかを調べるために、本発明者らはKLHおよびDNCBによる逐次的免疫化を行った(図6)。これらの無関係な抗原に対する応答細胞集団は、異なる抗原特異的前駆体から派生するはずである。本発明者らは、各抗原に関するfのプラトーレベルがコグネイト前駆体の頻度に関係するのだとすると、両抗原による免疫化後のfの増加は、各抗原単独で見られる増加分の和になるはずであると考えた。驚いたことに、至適用量のDNCBおよびKLHによる免疫化後に、全PLN細胞におけるfは、KLH単独で得られた値を上回らなかった(図6A)。これは抗原競合によるものではなく、絶対リンパ増殖と細胞性は、両抗原による免疫化後に、どちらか一方の抗原単独の場合よりも高かった(図6B、C)。
【0252】
二重免疫化は、B細胞およびCD4+T細胞におけるfに対して(全PLN細胞fの予想外の挙動を説明する)異なる効果を発揮した(図7)。CD4+T細胞の場合、KLHとDNCBの両方による免疫化後のfは、どちらか一方の抗原単独の場合よりも大きかった(図7A)。この基準によれば、CD4+T細胞fにとっては前駆体頻度が制限因子だった。しかし、B細胞については、非相加的挙動が観察され;両抗原による免疫化後のfは、どちらか一方の抗原単独の場合の値の中間にあった(図7B)。このように、至適抗原用量でのB細胞fは、前駆体頻度によって制限されなかった。したがって、全リンパ球に関して見られたfのプラトー(図6A)は、この集合系の突発的な性質である。どちらのサブセットでも絶対リンパ増殖はほぼ相加的だった(図6C、D)。
実施例5
【0253】
f(クローン拡大)および細胞性に対する差別的薬物効果
LNの細胞性およびf(クローン拡大)が免疫応答時に差別的に調節されるのだとすると、それらは、抗増殖薬または免疫調整薬による影響も、独立して受けるかもしれない。そこで本発明者らは、絶対リンパ増殖に対して同等な効果を与えるように選択した用量における薬物効果を調べた(図8A、B)。薬物は細胞性およびfに対するその効果が異なっていた(図8C〜H)。例えばラパマイシンは、全PLN細胞のfを、ベースライン時もKLH刺激後も抑制し;細胞性は抗原刺激後にのみ減少した。リボヌクレオチドレダクターゼ阻害剤であるヒドロキシ尿素は、ベースラインfと抗原刺激fをどちらも強く抑制し、細胞性に対する効果はあまり大きくなく、ばらつきがあった。微小管安定化剤パクリタキセルはPLN細胞性を低下させたが、驚いたことに、本発明者らが以前、マウス中の異種移植ヒト腫瘍細胞のfを強く抑制するのを見た時に使用した用量(10mg/kg/日、i.p.)でさえ、fには影響しなかった。デキサメタゾンも、fよりも細胞性を大きく減少させた。薬物はホメオスタティックな代謝回転、クローン拡大、および正味の細胞動員に差別的な影響を及ぼしうる。さらにまた、薬物は、デキサメタゾンがおそらくそうであるように、休止リンパ球と増殖リンパ球を、未知の比率で殺しうる。これらの効果を切り分けることは難しいが、異なる分子標的に作用する薬物が、f(クローン拡大)および細胞性に対して、相違する効果を発揮することをデータは示しており、これらのパラメータが独立して調節されることを裏付けている。
実施例6
【0254】
fの設定値は系統依存的である
最後に、本発明者らは、免疫化後のf(クローン拡大)とLN細胞性の間の解離がBalb/c系統に特有であるかどうかを調べた。KLH免疫化7日後のC57BI/6(B6)マウスのPLNにおける細胞性は用量依存的で、Balb/cマウスの場合とよく似たプロファイルだった(図9A)。B6マウスにおけるPLN細胞のベースライン代謝回転はBalb/cよりも高かった(図9Bと図5Bを比較)。7日目の時点で、B6マウスのKLH免疫化は、どの用量でもfの有意な増加を刺激しなかった(図9B)。PLNにおける絶対リンパ増殖の用量依存性は、全て、細胞性の変化によって駆動された(図9C)。経時変化では、fのKLH依存的な一過性の増加が、4日目には見られたが、それは、それ以前にもそれ以後にも見られなかった(図9D)。B細胞もT細胞も、7日目の時点で、fの実質的な増加を示さなかった(図9E)。このようにベースラインfおよびKLH刺激fの設定値は系統依存的であり、それゆえに、遺伝的制御を受けると推測される。
【0255】
上記の発明を、明解に理解できるように、例を挙げて多少詳しく説明したが、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、一定の改変および変更を行いうることは、当業者には明らかだろう。したがって、この説明が、特許請求の範囲に記載する発明の範囲を限定するものであると解釈してはならない。
【0256】
本明細書で引用した刊行物、特許、および特許出願は全て、あたかも、個々の刊行物、特許、または特許出願のそれぞれが、参照により本明細書に組み入れられることを、個別に明示したかのように、あらゆる目的で、参照により、その全てが、本明細書に組み入れられるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0257】
【図1】モデルおよび実験計画.A,7日間の試験で、細胞動員、クローン拡大、細胞動員および/または細胞輸送が、リンパ節の細胞性(c)、分裂した細胞の分率(f)、および絶対リンパ増殖(abs)に及ぼす効果に関するモデル。a,100個のリンパ球を含有する休止LN中、約10%/週のホメオスタティックな代謝回転(黒い細胞)。b,正味の動員を伴わない抗原刺激は、最初に存在した1個の稀な前駆体(aにおける橙色の細胞)を拡大し、3回の細胞分裂で7個の新しい抗原特異的応答細胞(赤色)を生成して、fを60%増加させ、細胞性を7%増加させる。c,動員はLN細胞性および増殖細胞の数を2倍にする;分裂細胞と休止細胞が等しく動員されるならば、fは変化しない。d,これら2つの過程が独立して寄与すると仮定した、免疫応答時の動員とクローン拡大との同時効果。B,足蹠免疫化後のPLN中の分裂細胞の連続的2H2O標識に関する実験計画。
【図2】免疫化後のLN細胞DNAにおける増加したf.(A)時間経過.Balb/cマウスを、KLH 20μgで0日目に免疫し(または免疫せずに)、2H2Oで連続的に標識した。所属LN細胞をfについて解析した。各群2〜3匹の平均を示す。#,別途標識した動物のコホートから得た7日目のデータ。(B)サブセット解析,7日目。KLHありまたはKLHなしで7日前に免疫した2H2O標識Balb/cマウスから得たPLN細胞を、表示のとおり選別した。平均および個々の動物から得たデータを示す。*,2回以上の独立した試行で再現された、B細胞(p<0.001)およびT細胞(p=0.006;t検定)のfに対するKLHの有意な効果。CD4+T細胞fに対するKLH効果は、ここでは統計的に有意な水準に達しなかったが、他の試行では一貫して有意な効果が見られた(例えば11.3%±2.1%対7.5%±1.3%;p=0.017)。(C)T細胞fに対するシクロスポリンA(CsA)の効果。Balb/cマウスを、5μgのKLHまたはPBSで免疫し、2H2Oで7日間標識し、25mg/kg/日のCsAまたは賦形剤(5%エタノール)をp.o.投与した。*,賦形剤処置動物における免疫化(KLH対PBS)の有意な効果(p<0.001)、およびKLH刺激に対するCsA処置の有意な効果(p<0.001)、ただしベースラインfに対するCsA処置の効果は有意でない(p=0.116;二元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。個々のマウスから得たデータ、平均、およびSDを示す。(D)0.5mgのDNCBまたは賦形剤(1:1 PBS:DMSO)による免疫化後、7日目のPLNにおけるfのサブセット解析。*,CD4+(p<0.001)およびCD8+T細胞(p=0.005;t検定)に対する有意なDNCBの効果;各サブセットを少なくとも2回は解析した。
【図3】抗原および刺激原に対するfおよびPLN細胞性の応答.(A〜C)Balb/cマウスをPBSまたはIFA中のKLH 20μgで免疫し、2H2Oで7日目まで標識し、PLNをf(A)および細胞性(B)について解析した。(C)では、絶対リンパ増殖を(細胞数×f)として算出した。Aでは、PLN細胞fに対するKLHの効果が有意であり(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.164;二元配置ANOVA)。Bでは、KLH(p=0.001)およびIFA(p<0.001)の独立効果は、どちらも有意だった(二元配置ANOVA、対数変換データ)。同様の傾向が各群2〜3匹の動物で行った他の二つの実験でも見られた。(D〜F)Balb/cマウスを、表示のとおり、0日目にPBS:DMSO 1:1中のDNCB 0.5mgで免疫するか、擬似免疫した。PLN細胞f(D)、細胞性(E)(例外的な細胞数を持つ1匹のPBS処置動物に注意)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*,f(D)および新細胞数(F)に対するDNCBの効果は有意だった(DMSOに対してt検定で、それぞれ、p<0.001およびp=0.02)。
【図4】KLHおよびIFAに対する応答のサブセット解析.マウスを、PBSまたはIFA中のKLHまたはKLHなしで免疫し、図3と同様に2H2Oで標識した。ベースライン(PBS)に対するfの変化倍率(7日目)を、選別されたB細胞(A)およびCD4+T細胞(B)について示す。2回の独立した実験の結果を示す;fのベースライン値は、それぞれ、B細胞については8.02%および9.84%、CD4+T細胞については4.63%および7.77%だった。プールしたデータに対する二元配置ANOVAによれば、B細胞に対するKLHの効果は有意だったが(p<0.001)、IFAの効果は有意でなかった(p=0.085)。CD4+T細胞に対するKLH(p<0.001)およびIFA(p=0.001)の効果はどちらも有意であり、互いに独立していた(交互作用に関してp=0.591)。
【図5】さまざまな用量の抗原に対する応答中のLN細胞性およびf.(A〜C)KLH用量の効果。Balb/cマウスをPBS中のKLH 0、2.5、25、または250μgで免疫し、2H2Oで標識し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B;二回の平均)および絶対リンパ増殖(C)について解析した。各点は個々の動物を表す。(D〜F)DNCB用量の効果。PBS:DMSO中のDNCBによる免疫化7日後の細胞数(D)、f(F)、および絶対リンパ増殖(F)を示す。個々のデータ、平均、およびSDを示す。Dでは、100μgでの細胞数が賦形剤対照とは異なり(*,p=0.003);500μgでの細胞数が他の全ての群と異なる(#,用量0および20μgに対してp<0.001、用量100μgに対してp=0.002;一元配置ANOVA、Holm-Sidak事後検定)。Eでは、用量100μgと用量500μgが相違しなかったこと(p>0.05;順位によるANOVA、Student-Newman-Keuls事後検定)を除いて、全ての群間で平均fが有意に異なった(p<0.05)。
【図6】KLHとDNCBの両方による免疫化がPLN細胞の動態に及ぼす効果.Balb/cマウスに、PBS中のKLH 20μgの後、PBS:DMSO中のDNCB 500μg、または両方、または適当な賦形剤による免疫化を行った。KLH上の反応性側鎖に対するDNCBの化学反応性による効果を最小限に抑えるために、抗原を約6時間離して別々に投与することにより、DNCBによる修飾が起こる前に、KLHが捕捉され、加工され、輸送されるようにした。7日目に全PLN中のf(A)、細胞数(B)、および絶対リンパ増殖(C)の解析を行った。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。(A)において、fに対する個々の抗原の効果はどちらも有意だったが(対照に対してp<0.001)、二重免疫化はKLH単独の場合と区別がつかなかった(p=0.64;KLH効果とDNCB効果の間の有意な交互作用、p=0.001)。(B)および(C)において、KLH(p<0.004)およびDNCB(p<0.001)の効果は独立していた(比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。結果は3回の独立した実験を代表している。
【図7】KLHおよびDNCBによる免疫化がCD4+T細胞およびB細胞におけるfに及ぼす効果.図6の実験を繰り返した。PLNから得た、選別されたCD4+T細胞(A、C)およびB細胞(B、D)を、f(A、B)および絶対リンパ増殖(C、D)について解析した。CD4+T細胞のfならびにBおよびCD4細胞の絶対リンパ増殖に対するKLHおよびDNCBの相加的効果は有意だった(それぞれp<0.001;交互作用に関してp>0.05)。(B)において、B細胞fは、KLHでは有意に増加したが(p<0.001)、DNCBでは有意には増加しなかった(p=0.358);DNCBが存在する場合、KLHの効果は有意に低かった(p=0.009;交互作用に関してp=0.012;比較は全て二元配置ANOVA、Holm-Sidak法による)。同様の結果が独立した2回の実験で得られた。
【図8】fおよびLN細胞性に対する差別的薬物効果.Balb/cマウスを5μgのKLHまたはPBSで免疫し、表示の薬物で毎日、処置し(Dex、デキサメタゾン、0.3mg/kg/日、シクロデキストリン中、p.o.;Rap、ラパマイシン、2mg/kg/日、5%エタノール中、p.o.;Tax、パクリタキセル、10mg/kg/日、1:1:5 Cremaphor EL:エタノール:水、i.p.;OHU、ヒドロキシ尿素、500mg/kg/日、水中、i.p.;賦形剤、パクリタキセル群と同じ)、7日目に屠殺するまで2H2Oで連続的に標識した。KLH免疫動物(A)または擬似免疫動物(B)から得た所属LN細胞中の増殖細胞を、(f×細胞数)として数え上げた。(C〜H)Tax(C、D)、Rap(E、F)、またはOHU(G、H)で処置した(または処置していない)動物におけるLN細胞性(C、E、G)およびf(D、F、H)の解析。個々の動物から得たデータ、平均、およびSDを示す。*、一元配置ANOVAにより賦形剤対照に対してp<0.05;(*)、有意ではないが、類似する規模の有意な効果(p<0.05)が複数の追跡試験で観察された。
【図9】C57BI/6マウスにおいてKLHに応答して起こるリンパ増殖.(A〜C)B6マウスを2〜200μgのKLHで免疫し、7日目にPLN細胞性(A)、f(B)、および絶対リンパ増殖(C)を測定した。個々の動物から得たデータを示す。(D)PBSまたはKLH免疫化後のfの経時変化。各群2〜3匹について平均およびSDを示す。(E)200μgのKLHによる免疫化7日後の、選別されたB細胞および全T細胞におけるfの解析。
【図10】努力を続けるか中止するかを決断するための手段としてリンパ増殖に対する効果(すなわち本発明の方法によって収集されるデータ)を用いる創薬、薬剤開発、および承認(DDDA)工程を表す概略図。
【図11】創薬および薬剤開発工程における本発明の使用を例示する図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験脊椎動物系のリンパ球集団に対する候補薬剤の効果を評価するための方法であって、
a)試験脊椎動物系を少なくとも一つの候補薬剤に曝露すること、
b)前記試験脊椎動物系を少なくとも一つの抗原に曝露すること、
c)1以上の同位体標識基質を、前記同位体標識基質が複製中のDNAに入るのに十分な期間にわたって、前記試験系に投与すること、
d)第1リンパ球を含む第1試料を前記試験脊椎動物系から取得すること、
e)前記第1試料から得られる前記第1リンパ球の同位体濃縮を定量すること、
f)対照脊椎動物系から得られる対照リンパ球の同位体濃縮を用意すること、
g)前記第1リンパ球における濃縮比を前記対照リンパ球の濃縮比と比較すること、および
h)前記第1リンパ球に対する前記薬剤の効果を決定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記第1試料が少なくとも一つのリンパ節を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記決定ステップが、前記第1試料から得られる前記第1リンパ球の細胞性を測定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記決定ステップが、前記第1試料から得られる前記第1リンパ球の増殖を測定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1試料から得られる前記第1リンパ球のクローン拡大を測定することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1試料への前記第1リンパ球の動員速度を測定することをさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1試料への前記第1リンパ球のリンパ球輸送を測定することをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
試験脊椎動物における長寿命メモリーリンパ球集団の生成を測定するための方法であって、
a)前記試験脊椎動物系を少なくとも一つの抗原に曝露すること、
b)1以上の同位体標識基質を、前記同位体標識基質が複製中のDNAに入るのに十分な期間にわたって、前記生物系に投与すること、
c)前記同位体標識基質の投与を、第2の期間にわたって、停止すること、
d)前記試験脊椎動物系から第1リンパ球を含む第1試料を取得すること、および
e)長寿命メモリーリンパ球の生成を算出するために、前記第1リンパ球から単離されるDNA中の同位体標識保持を定量すること
を含む方法。
【請求項9】
前記試験脊椎動物系が複数の抗原に曝露される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記試験脊椎動物系が複数の抗原調製物に曝露され、前記方法が長寿命メモリーリンパ球の数を比較することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記試験脊椎動物系が複数の抗原調製物に曝露され、前記方法が長寿命メモリーリンパ球の寿命を比較することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記試験脊椎動物系がさらに少なくとも一つアジュバントに曝露される、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記試験脊椎動物系がさらに複数のアジュバントに曝露される、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
リンパ増殖を強化する能力について、前記アジュバントの少なくとも一つの能力を評価する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
安定メモリー細胞を形成させる能力について、前記アジュバントの少なくとも一つの能力を評価する、請求項13に記載の方法。
【請求項1】
試験脊椎動物系のリンパ球集団に対する候補薬剤の効果を評価するための方法であって、
a)試験脊椎動物系を少なくとも一つの候補薬剤に曝露すること、
b)前記試験脊椎動物系を少なくとも一つの抗原に曝露すること、
c)1以上の同位体標識基質を、前記同位体標識基質が複製中のDNAに入るのに十分な期間にわたって、前記試験系に投与すること、
d)第1リンパ球を含む第1試料を前記試験脊椎動物系から取得すること、
e)前記第1試料から得られる前記第1リンパ球の同位体濃縮を定量すること、
f)対照脊椎動物系から得られる対照リンパ球の同位体濃縮を用意すること、
g)前記第1リンパ球における濃縮比を前記対照リンパ球の濃縮比と比較すること、および
h)前記第1リンパ球に対する前記薬剤の効果を決定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記第1試料が少なくとも一つのリンパ節を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記決定ステップが、前記第1試料から得られる前記第1リンパ球の細胞性を測定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記決定ステップが、前記第1試料から得られる前記第1リンパ球の増殖を測定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1試料から得られる前記第1リンパ球のクローン拡大を測定することをさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1試料への前記第1リンパ球の動員速度を測定することをさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1試料への前記第1リンパ球のリンパ球輸送を測定することをさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
試験脊椎動物における長寿命メモリーリンパ球集団の生成を測定するための方法であって、
a)前記試験脊椎動物系を少なくとも一つの抗原に曝露すること、
b)1以上の同位体標識基質を、前記同位体標識基質が複製中のDNAに入るのに十分な期間にわたって、前記生物系に投与すること、
c)前記同位体標識基質の投与を、第2の期間にわたって、停止すること、
d)前記試験脊椎動物系から第1リンパ球を含む第1試料を取得すること、および
e)長寿命メモリーリンパ球の生成を算出するために、前記第1リンパ球から単離されるDNA中の同位体標識保持を定量すること
を含む方法。
【請求項9】
前記試験脊椎動物系が複数の抗原に曝露される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記試験脊椎動物系が複数の抗原調製物に曝露され、前記方法が長寿命メモリーリンパ球の数を比較することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記試験脊椎動物系が複数の抗原調製物に曝露され、前記方法が長寿命メモリーリンパ球の寿命を比較することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記試験脊椎動物系がさらに少なくとも一つアジュバントに曝露される、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記試験脊椎動物系がさらに複数のアジュバントに曝露される、請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
リンパ増殖を強化する能力について、前記アジュバントの少なくとも一つの能力を評価する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
安定メモリー細胞を形成させる能力について、前記アジュバントの少なくとも一つの能力を評価する、請求項13に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2009−506789(P2009−506789A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530163(P2008−530163)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/034689
【国際公開番号】WO2007/030523
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(507041238)キナメッド・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】KineMed, Inc.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【国際出願番号】PCT/US2006/034689
【国際公開番号】WO2007/030523
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(507041238)キナメッド・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】KineMed, Inc.
【Fターム(参考)】
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