説明

リン含有ジアミンおよびこれより得られるリン含有ポリイミド

【課題】リン含有ジアミン、これを用いて得られるリン含有ポリイミド前駆体、リン含有ポリイミドおよびこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1):


〔式中、Rは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェニル基であり、nは、置換基Rの数を表し、各々独立に、0から4の整数である〕で表されるリン含有ジアミン等、ならびにこれを用いて得られるリン含有ポリイミド前駆体およびポリイミドである。前記リン含有ポリイミドは極めて高い難燃性を有することから、様々な電子デバイスにおける電子材料等への利用が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリン含有ジアミン、これを用いて得られるリン含有ポリイミド前駆体、リン含有ポリイミドおよびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは優れた耐熱性のみならず、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、優れた機械的性質などの特性を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線基板(FPC)、チップオンフィルム(COF)用基板、テープオートメーテッドボンディング(TAB)用基板、半導体素子等の様々な電子デバイスにおける保護フィルム(カバーレイ)や絶縁材料等として、現在広く利用されている。ポリイミドはこれらの特性以外にも、製造方法の簡便さ、極めて高い膜純度、難燃性(自己消火性)、入手可能な種々のモノマーを用いた物性改良のしやすさといったことから、近年益々その重要性が高まっている。
【0003】
電子機器の軽薄短小化が進むにつれてポリイミドへの要求特性も年々厳しさを増し、ハンダ耐熱性だけに留まらず、熱サイクルや吸湿に対するポリイミドフィルムの寸法安定性、透明性、金属箔との接着性、成型加工性、ビアホール等の微細加工性等、複数の特性を同時に満足する多機能性ポリイミド材料が求められるようになってきている。
【0004】
FPC、COFおよびTAB基板は銅張積層板より製造されるが、銅張積層板に用いられる耐熱絶縁層には、銅張積層板の反り、残留応力、熱サイクルに対する寸法変化を完全に押さえ込むため、通常、銅箔とほぼ同じ線熱膨張係数を有するポリイミドが選択される。近年、低熱膨張特性に加え、吸湿に対する寸法変化を抑制した、あるいは吸湿そのものを抑制した低吸水率・低吸湿膨張性ポリイミドの要求が高まっている。
【0005】
低熱膨張特性と低吸湿膨張特性を兼備するFPCベースフィルム用耐熱絶縁材料として様々なポリエステルイミドが提案されており、これを用いて上記要求特性をほぼ満足する銅張積層板を製造する技術が開示されている(例えば、非特許文献1および2、特許文献1参照)。
【0006】
ポリエステルイミド構造中のエステル基の含有率を高め、結果としてイミド基の含有率を下げる分子設計により、吸水率および吸湿膨張係数を更に低減できると期待される。
【0007】
しかしながらエステル基の過度の導入は、難燃性の著しい低下を招く恐れがあることが指摘されている。アルキル置換基等を含まない従来の全芳香族ポリイミドは、元来自己消火性を有していたことから、ポリイミドの難燃化の研究はこれまで殆ど行われてこなかった。そのため、最近提案されたポリエステルイミドが低熱膨張特性、低吸湿膨張特性共に優れているものの、難燃性が不十分であるような場合、前者の優れた物性を犠牲にすることなく、後者の不十分な難燃性を直ちに効果的に改善する技術が知られていないという問題があった。
【0008】
半導体素子の封止剤に用いられているエポキシ樹脂や、FPCのカバーレイとして適用されているエポキシ・アクリレート(フォトソルダーレジスト)には難燃剤として臭素化合物、リン化合物、シリカ、その他様々な無機化合物が配合されている。これらの難燃剤を難燃性の不十分なポリイミド樹脂中に物理的に分散して難燃性を改善する方法も原理的には適用可能である。しかしながら、ポリイミド前駆体フィルムを350℃以上の高温で熱処理する通常のイミド化工程により、フィルム中に物理的に分散している難燃剤の熱分解や凝集、マイグレーション等が起こり、電気絶縁特性の低下、金属層の腐食、界面剥離等の深刻な問題が生ずる可能性が高い。このため、難燃剤を単に樹脂中に配合・分散するといった従来の方法は好ましくない。
【0009】
最近、FPCのカバーレイ材料として、FPCの反りを押さえ込むことを目的として、弾性率が非常に低いポリイミドが提案されている。しかしながら、この低弾性率ポリイミドはアルキル基を多く含んでいるため、ポリエステルイミドと同様に難燃性が不十分である。低弾性率ポリイミドを用いたカバーレイ材料においても、前述と同様な理由により、単に難燃剤を配合して難燃化する方法はあまり好ましくない。
【0010】
難燃効果の高い、臭素、塩素、フッ素等のハロゲンを含有するジアミン化合物が知られており、これらを適当量共重合し、共有結合を介してハロゲンを導入することで、上記の悪影響を回避しながら、難燃性を改善することは可能である。しかしながら近年ハロゲン化合物の規制対象が拡大しつつあり、更に熱分解などで生じた痕跡量のハロゲン残渣が回路の腐食を引き起こす恐れをできる限り回避するという観点から、例え少量であってもハロゲン含有ジアミンを難燃性改善モノマーとして使用すべきではない。
【0011】
このような観点から、リン含有ジアミンが提案されている。リン含有ジアミンを硬化剤として用いることでエポキシ樹脂の難燃性を改善する技術が開示されている(例えば非特許文献3参照)。
【0012】
また、屈曲性のリン含有ジアミンが開示されており(例えば非特許文献4参照)、これを共重合成分として用いることでポリイミドの難燃性を改善することも可能である。
【0013】
しかしながら分子内にメタ結合等の屈曲基を有する従来のリン含有ジアミンをポリイミドの共重合成分として使用すると、ポリイミド主鎖の直線性が大きく乱され、低熱膨張特性や耐熱性の著しい低下を招く恐れがある。
【0014】
FPCベースフィルム用ポリエステルイミドやカバーレイ用低弾性率ポリイミドにおいて、本来の特性を犠牲にすることなく、これらの難燃性のみ劇的に改善しうるリン含有ジアミン化合物があれば、上記産業分野において実用上極めて有益な材料が得られるが、そのようなリン含有ジアミンは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−149799号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】High Performance Polymers, 18, 697-717 (2006)
【非特許文献2】Polymer Journal, 40, 56-67 (2008)
【非特許文献3】Journal of Applied Polymer Science, 74, 1635-1645 (1999)
【非特許文献4】Polymer, 43, 1773-1779 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明はリン含有ジアミン、これを用いて得られるリン含有ポリイミド前駆体、リン含有ポリイミドおよびこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、下記式(1)または(2)で表されるリン含有ジアミンを使用して得られたリン含有ポリイミドが極めて高い難燃性を示すこと、したがって本発明のリン含有ポリイミドは上記産業分野において極めて有益な材料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち本発明は以下に示すものである。
1.下記式(1):
【化1】


または式(2):
【化2】


〔式中、Rは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェニル基であり、nは、置換基Rの数を表し、各々独立に、0から4の整数である〕
で表されるリン含有ジアミン。
2.下記一般式(I):
【化3】


(式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基であり、Qは、前記1に記載の式(1)または式(2)のリン含有ジアミンの2つのアミノ基を除いた2価の構造単位である)
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド前駆体。
3.下記一般式(II):
【化4】


(式中、AおよびQは、前記2に記載したものと同義である)
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド。
4.前記2に記載の下記一般式(I):
【化5】


〔式中、AおよびQは、前記2に記載したものと同義である〕
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド前駆体の製造方法であって、下記式(1):
【化6】


または式(2):
【化7】


〔式中、Rおよびnは、前記1に記載したものと同義である〕
で表されるリン含有ジアミンを含むジアミン成分と、前記ジアミン成分と実質的に等モルの下記式(3):
【化8】


(式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基である)
で表されるテトラカルボン酸二無水物成分を反応させることを特徴とする方法。
5.前記3に記載の下記一般式(II):
【化9】


〔式中、AおよびQは、前記2に記載したものと同義である〕
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミドの製造方法であって、下記一般式(I):
【化10】


〔式中、AおよびQは、前記2に記載したものと同義である〕
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド前駆体を、熱的および/または化学的に閉環することを特徴とする方法。
6.リン含有ポリイミド前駆体が、前記4に記載の方法により得られたものである、前記5に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のリン含有ジアミンを、ポリイミド、特にポリエステルイミドやアルキル基を多く含んでいる低弾性率ポリイミドのジアミン成分として利用することにより、これらのポリイミドの優れた性質(例えば、ポリエステルイミドの場合、低吸水率、低熱膨張特性、低吸湿膨張特性等の優れた物性)を犠牲にすることなく、これらのポリイミドの欠点であった不十分な難燃性を効果的に改善することができる。したがって、本発明のポリイミドは、これらの性質と共に、十分な難燃性を備えたポリイミド材料として、様々な電子デバイスにおける電子材料等への利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1で得られた化合物〔式(1a)のリン含有ジアミン〕の1H−NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明するが、これらは本発明の実施形態の一例であり、これらの内容に限定されない。
【0023】
<リン含有ジアミン>
本発明のリン含有ジアミンは、式(1):
【化11】


または式(2):
【化12】


〔式中、Rは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェニル基であり、nは、置換基Rの数を表し、各々独立に、0から4の整数である〕
で表される。nが0である、式(1)または式(2)のリン含有ジアミンが好ましい。
【0024】
本明細書において別途断りのない限り、「炭素数1〜4のアルキル基」とは、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、i−ブチルまたはt−ブチル基を意味する。同様に「炭素数1〜4のアルコキシ基」とは、−OR′基(ここで、R′は、前記炭素数1〜4のアルキル基と同義である)を意味する。nが1から4の整数である場合、式(1)および(2)のリン含有ジアミンの置換基Rとしては、難燃性の観点から、メチル基およびメトキシ基が好ましい。
【0025】
式(1)および(2)のリン含有ジアミンのうち、原料の入手のしやすさおよびそのコスト、重合反応性、ポリイミドフィルムの物性、特に低熱膨張特性の低下を防止するという観点から、下記式(1a):
【化13】


で表されるリン含有ジアミンが好適な例として挙げられる。
【0026】
<リン含有ジアミンの製造方法>
本発明のリン含有ジアミンの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。上記式(1a)で表されるリン含有ジアミンを例として、本発明のリン含有ジアミンの製造方法について以下に具体的に説明する。
【0027】
式(1a)で表されるリン含有ジアミンは、まず下記式(4):
【化14】


で表されるリン含有ジオール(以下「HCA−HQ」と称する)またはその誘導体と、2〜4倍モル量の4−ニトロ安息香酸(以下「4−NBA」と称する)またはその誘導体を原料としてエステル化反応を行い、下記式(5):
【化15】


で表されるジニトロ体を合成し、次いでニトロ基をアミノ基へ還元することにより製造することができる。
【0028】
上記エステル化反応の際適用できる方法として、例えば、HCA−HQのヒドロキシ基と4−NBAのカルボキシル基を高温で直接脱水縮合させるか、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水試薬を用いて脱水縮合させる方法;あるいはHCA−HQの誘導体、例えばジアセテート化体と4−NBAとを高温で反応させ、脱酢酸してエステル化する方法(エステル交換法);4−NBAの誘導体、例えば酸ハライド体とHCA−HQとを脱酸剤の存在下で反応させる方法(酸ハライド法);トシルクロリド/N,N−ジメチルホルムアミド/ピリジン混合物を用いて4−NBA中のカルボキシル基を活性化してエステル化する方法等が挙げられる。上述の方法の中でもエステル交換法や酸ハライド法が経済性、反応性の点で好適である。
【0029】
次に、上記式(5)で表されるジニトロ体を酸ハライド法によって合成する方法について具体的に説明するが、ジニトロ体の合成方法が、かかる方法に限定されるものではない。
【0030】
まず4−ニトロ安息香酸クロリド(以下「4−NBC」と称する)(A モル)を、適切な反応容器中でよく脱水した溶媒に溶解し、該容器をセプタムキャップ等で密栓する。この溶液に、HCA−HQ(0.5×A モル)および適切な量の脱酸剤を同一溶媒に溶解したものをシリンジまたは滴下ロートにてゆっくりと滴下する。滴下終了後、反応混合物を1〜24時間撹拌する。脱酸剤として例えばピリジンを使用した場合、目的物と共にピリジン塩酸塩が析出する。析出物を濾別し、これを少量の適切な溶媒で洗浄して未反応原料を除去後、水で繰り返し洗浄してピリジン塩酸塩を溶解除去する。水洗浄操作の際、洗浄液を採取して1%硝酸銀水溶液を用いて塩化銀の白色沈殿の生成の有無を検査することで、塩酸塩が完全に除去されたか否かを容易に判断することができる。また、濾液をエバポレーターで濃縮することにより、目的物を濾液から析出させ、回収することもできる。このようにして得られた目的物(式(5)のジニトロ体)をそのまま次の還元工程に使用しても差し支えないが、適切な溶媒から再結晶して精製してもよい。
【0031】
上記エステル化反応の際、4−NBCの使用量はHCA−HQに対して2倍モル量が好ましいが、4−NBCの分離のしやすさから、過剰量の4−NBCを添加して反応させてもよく、2〜4倍モル量の範囲で使用可能である。
【0032】
上記エステル化反応の際、使用可能な溶媒は、使用する原料と反応することなく、それらを十分に溶解するものであればよく、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、ジグリム、トリグリム、ピコリン、ピリジン、キノリン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、γ−ブチロラクトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等の非プロトン性溶媒等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応試薬の溶解性、反応後の溶媒留去、乾燥除去のしやすさの観点からテトラヒドロフランやN,N−ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0033】
上記エステル化反応は、−10〜50℃で行うことが好ましく、0〜30℃で行うことが特に好ましい。反応温度を50℃以下とすることにより副反応を抑制し、収率の低下を回避することができる。
【0034】
上記エステル化反応は、溶質濃度5〜50重量%の範囲で行うことが好ましい。副反応の制御、沈殿の濾過工程を考慮して、10〜40重量%の範囲で行うことが特に好ましい。
【0035】
上記エステル化反応に用いる脱酸剤としては、特に限定されないが、ピリジン、ピコリン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン等の有機3級アミン類の他、プロピレンオキシド等のエポキシ化合物も使用可能である。
【0036】
次に得られた式(5)のジニトロ体の末端の2つのニトロ基をアミノ基へ還元する。ジニトロ体の還元反応の方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えばジニトロ体がエタノール等の水素供与性溶媒に可溶である場合、塩化錫の存在下に加熱還流することで容易に還元することができる。また、ジニトロ体を適切な溶媒に溶かし、パラジウム/カーボンを触媒として、水素雰囲気中で、場合によっては加熱しながら攪拌する方法も適用することができる。溶媒の制限を受けないという観点から、後者の方法が好適に用いられる。
【0037】
パラジウム/カーボンを用いたジニトロ体の還元反応は具体的には以下のようにして行う。まず3口フラスコ等の反応容器中、ジニトロ体を適切な溶媒に加熱溶解し、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、これに触媒量のパラジウム/カーボン粉末を添加する。次にフラスコ中に水素を導入し、反応混合物を撹拌しながら1〜24時間反応させる。反応終了後、反応混合物からパラジウム/カーボンを濾過により取り除き、濾液の溶媒をエバポレーターで留去して目的物を析出させる。溶媒の沸点が高くて留去しにくい場合は、大量の貧溶媒中に反応溶液を滴下して目的物を析出させ、これを濾別後50〜180℃で1〜24時間真空乾燥して粗生成物を得ることができる。これを適切な溶媒から再結晶して精製することにより、高純度の式(1a)で表されるリン含有ジアミンが得られる。
【0038】
上記還元反応の温度は、使用した溶媒にジニトロ体が十分溶解していればよく、特に制限はないが、通常室温〜使用した溶媒の沸点(例えば、N,N−ジメチルホルムアミドの場合、約150℃)の範囲で反応を行う。
【0039】
上記還元反応の進行は、薄層クロマトグラフィーにより追跡することができる。その際、反応溶液から時間を追ってサンプリングを行い、原料であるジニトロ体のスポットが消失する反応時間をもって、反応の終点とする。
【0040】
上記還元反応の際に使用可能な溶媒としては、特に限定されないが、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、γ−ブチロラクトン、ピリジン、ピコリン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン−ビス(2−メトキシエチル)エーテル等が挙げられる。またこれらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。ジニトロ体の溶解性や反応後の処理のしやすさの観点からN,N−ジメチルホルムアミドが好適に用いられる。
【0041】
上述の式(1a)のリン含有ジアミンの製造方法または後述の実施例に記載の方法に従って、あるいは他の公知の方法により、式(1a)のリン含有ジアミン以外の本発明の式(1)および(2)のリン含有ジアミンを、当業者であれば容易に製造することができる。その際、4−NBAまたはその誘導体(例えば、4−NBC)に代えて他の適切な原料から出発すればよい。
【0042】
リン含有ジアミンの製造方法において使用する原料、試薬、溶媒等は、市販されているか、または市販されているものから公知の方法に従い容易に調製することができる。例えば、式(4)のリン含有ジオールは、10−(2,5−ジヒドロキシフェニル)−10H−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシドまたは「HCA−HQ」なる名称で、三光株式会社等の供給業者から入手することができる。また2−もしくは4−ニトロ安息香酸またはその誘導体(例えば、酸ハライド体;2−もしくは4−ニトロ安息香酸クロリド)、あるいはそれらの置換誘導体(置換基Rを有するもの;例えば、2−メチル−4−ニトロ安息香酸、3−メチル−4−ニトロ安息香酸、2,6−ジメチル−4−ニトロ安息香酸、3−メトキシ−2−ニトロ安息香酸、3−メトキシ−4−ニトロ安息香酸、4,5−ジメトキシ−2−ニトロ安息香酸)は、例えばSigma-Aldrich Co.等の供給業者から入手することができるか、入手した試薬から公知の方法に従い容易に調製することができる。
【0043】
<リン含有ポリイミド前駆体>
本発明のリン含有ポリイミド前駆体は、下記一般式(I):
【化16】


〔式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基であり、Qは、式(1)または式(2)のリン含有ジアミンの2つのアミノ基を除いた2価の構造単位、すなわち下記:
【化17】


(式中、Rは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェニル基であり、nは、置換基Rの数を表し、各々独立に、0から4の整数である)
の2価の基である〕
で表される繰り返し単位を含むものである。本発明の一般式(I)で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド前駆体とは、一般式(I)で表される繰り返し単位のみからなるリン含有ポリイミド前駆体であってもよいが、かかる繰り返し単位を主要構成単位とするが、それ以外の任意の構成単位を含むリン含有ポリイミド前駆体であってもよいことを意味する。本発明のリン含有ポリイミド前駆体において、一般式(I)で表される繰り返し単位のモル分率Xは、0.001〜1、好ましくは0.01から1、特には0.1〜1の範囲であればよい。
【0044】
<リン含有ポリイミド前駆体の製造方法>
本発明のリン含有ポリイミド前駆体を製造する方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、下記式(1):
【化18】


または式(2):
【化19】


〔式中、Rおよびnは、前記と同義である〕
で表されるリン含有ジアミンを含むジアミン成分と、前記ジアミン成分と実質的に等モルの下記式(3):
【化20】


(式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基である)
で表されるテトラカルボン酸二無水物成分を反応させることにより実施することができる。
【0045】
具体的には、まず本発明のリン含有ジアミンを含むジアミン成分を重合溶媒に溶解し、この溶液に、ジアミン成分と実質的に等モル量のテトラカルボン酸二無水物成分を添加し、撹拌しながら0〜100℃、好ましくは20〜60℃で、0.5〜100時間、好ましくは1〜48時間反応させる。この際、モノマー濃度は5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%が好適である。本発明において「リン含有ジアミンを含むジアミン成分」とは、本発明の式(1)または式(2)のリン含有ジアミン単独、あるいは前記リン含有ジアミンとその他の任意のジアミン化合物との混合物のいずれであってもよい。したがって、後者の場合は本発明のリン含有ジアミンとその他の任意のジアミン化合物を溶媒に溶解しておき、この溶液にジアミン成分の総量と実質的に等モルのテトラカルボン酸二無水物成分を添加して重合反応を行えばよい。
【0046】
上記のモノマー濃度範囲で重合反応を行うことにより、高重合度のポリイミド前駆体を得ることができる。5重量%以下のモノマー濃度で重合を行うと、十分に高い重合度(分子量)のポリイミド前駆体が得られない恐れがあり、一方50重量%以上で反応を継続しようとすると、原料モノマーが十分に溶解しなかったり、反応溶液が均一になるまで長時間を要する恐れがある。反応中、重合度の増加に伴い反応溶液の粘度が高くなりすぎて均一な撹拌が困難になった場合は、適宜同一溶媒で希釈を行うこともできる。
【0047】
本発明のリン含有ポリイミドフィルムの靭性の観点から、リン含有ポリイミド前駆体の重合度はできるだけ高いことが望ましいが、リン含有ポリイミド前駆体溶液(ワニス)のハンドリングの観点からは、リン含有ポリイミド前駆体の重合度が高すぎると好ましくない。このような観点から本発明のリン含有ポリイミド前駆体の固有粘度は0.3〜10.0dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜5.0dL/gの範囲であることがより好ましい。
【0048】
本発明のリン含有ポリイミド前駆体の製造に用いる「テトラカルボン酸二無水物成分」は、下記式(3):
【化21】


(式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基である)
で表される芳香族または脂肪族テトラカルボン酸二無水物であればよく、特に制限は無い。
【0049】
4価の芳香族基または脂肪族基の例としては、炭素数4〜36の単環式または縮合多環式の芳香族または脂環式化合物、あるいは同一であっても異なっていてもよい前記芳香族または脂環式化合物が直接または架橋員〔ここで架橋員とは、−O−、−CO−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−SO−、−S−、−(CH1,2−、−C(CH−および−C(CF−よりなる群から選択される〕により相互に連結された非縮合多環式の芳香族または脂環式化合物の4価の基が挙げられる。これらの芳香族基または脂肪族基は、炭素数1〜4のアルキル、アルケニル、アルキニルまたはアルコキシから選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0050】
4価の芳香族基の好適な例としては、ベンゼンまたはナフタレンの4価の基、あるいは2〜5個のベンゼンまたはナフタレンが直接またはエステル結合(−COO−もしくは−OCO−)により相互に連結された芳香族化合物の4価の基が挙げられる。また4価の脂肪族基の好適な例としては、炭素数4〜10のシクロアルカン、シクロアルケン、ビシクロアルカンまたはビシクロアルケンの4価の基が挙げられる。これらの芳香族基または脂肪族基は、炭素数1〜4のアルキルまたはアルコキシ基から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0051】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、特に限定されないが、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ヒドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メチルヒドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メトキシヒドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、4,4’−ビフェノール−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用してもよい。
【0052】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、特に限定されないが、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0053】
本発明のポリイミドフィルムに低熱膨張特性が必要な場合は、剛直で直線的な構造を有するテトラカルボン酸二無水物を使用することが好ましい。好適な例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ヒドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メチルヒドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)、メトキシヒドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)および4,4’−ビフェノール−ビス(トリメリテートアンハイドライド)等が挙げられる。この際、これらの剛直な構造を有するテトラカルボン酸二無水物の含有量は、テトラカルボン酸二無水物成分の総量の10〜100モル%の範囲であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましい。
【0054】
本発明のリン含有ポリイミド前駆体の製造に用いる「式(1)または式(2)で表されるリン含有ジアミンを含むジアミン成分」は、式(1)または式(2)のリン含有ジアミン単独、あるいは前記リン含有ジアミンとその他の任意のジアミン化合物との混合物のいずれかを意味する。本発明のリン含有ジアミンの使用量は、ジアミン成分の総量の0.1〜100モル%、好ましくは1〜50モル%の範囲である。その他の任意のジアミン化合物は、式:HN−B−NH(式中、Bは、2価の芳香族基または脂肪族基である)で表わされる芳香族または脂肪族ジアミン化合物であればよく、特に制限は無い。
【0055】
2価の芳香族基または脂肪族基の例としては、炭素数6〜14の単環式もしくは縮合多環式芳香族化合物の2価の基(フェニレン、インデニレン、ナフチレン、フルオレニレン等)、炭素数2〜12の鎖式化合物の2価の基(アルキレン、アルケニレンもしくはアルキニレン基等)、または炭素数4〜10の脂環式化合物の2価の基(シクロアルキレン、シクロアルケニレン、ビシクロアルキレン、ビシクロアルケニレンもしくはトリシクロアルキレン等)、あるいは同一であっても異なっていてもよい、2つ以上の前記2価の基が、直接もしくは架橋員(ここで架橋員は、前記と同義である)により相互に連結されたものを挙げることができる。これらの芳香族基または脂肪族基は、炭素数1〜4のアルキル、ハロアルキル、アルケニル、アルキニルもしくはアルコキシ基、またはヒドロキシ基から選択される1つ以上の置換基で置換されていてもよい。
【0056】
芳香族または脂肪族ジアミンなどの、上述のその他の任意のジアミン化合物は、本発明のリン含有ポリイミドフィルムの特性を著しく損なわない範囲で、本発明のリン含有ジアミン以外の共重合成分として使用可能である。芳香族ジアミンの具体例としては、特に限定されないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、p−ターフェニレンジアミン等を例示することができる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0057】
同様に、脂肪族ジアミンの具体例としては、特に限定されないが、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミンの他、末端アミノ変性ジメチルシロキサンやポリテトラメチレンオキサイド−ジ−p−アミノベンゾエート等を例示することができる。またこれらを2種類以上併用することもできる。
【0058】
芳香族または脂肪族ジアミンなどの、上述のその他の任意のジアミン化合物の使用量は、全ジアミン成分の総用量の0〜99.9モル%、好ましくは50〜99モル%の範囲である。
【0059】
本発明のリン含有ポリイミドフィルムに低熱膨張特性が必要な場合は、本発明のリン含有ジアミンと併用するその他の任意のジアミン化合物として、剛直で直線的な構造を有するジアミンを使用することが好ましい。好適な例として、p−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンズアニリド、4−アミノフェニル−4’−アミノベンゾエート、4−アミノ−2−メチルフェニル−4’−アミノベンゾエート、ビス(4−アミノフェニル)テレフタレート、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、p−ターフェニレンジアミン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン等が挙げられる。この際、これらの剛直な構造を有するジアミンの使用量は全ジアミン成分の総量の10〜99モル%、好ましくは50〜99モル%である。
【0060】
本発明のリン含有ポリイミド前駆体を製造する際に使用可能な溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体を十分溶解するものであればよく、特に限定されない。具体的にはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド溶媒、γ−プチロラクトン等の環状エステル系溶媒、ジグリム、トリグリム等のエーテル系溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール等のフェノール系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒などが好ましく採用される。
【0061】
本発明のリン含有ポリイミド前駆体は、その重合反応完了後の反応溶液をそのまま、または同一溶媒で希釈してワニスとして得ることができるが、かかる反応溶液を大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下し、析出物を濾取、乾燥し、粉末として単離することもできる。
【0062】
<リン含有ポリイミド>
本発明のリン含有ポリイミドは、下記一般式(II):
【化22】


〔式中、AおよびQは、前記式(I)に記載したものと同義である〕
で表される繰り返し単位を含むものである。本発明の一般式(II)で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミドとは、一般式(II)で表される繰り返し単位のみからなるリン含有ポリイミドであってもよいが、かかる繰り返し単位を主要構成単位とするが、それ以外の任意の構成単位を含むリン含有ポリイミドであってもよいことを意味する。本発明のリン含有ポリイミド前駆体において、一般式(I)で表される繰り返し単位のモル分率Xは、0.001〜1、好ましくは0.01から1、特には0.1〜1の範囲であればよい。
【0063】
<リン含有ポリイミドの製造方法>
本発明のリン含有ポリイミドは、上記の方法で得られたリン含有ポリイミド前駆体を熱的および/または化学的に脱水閉環反応(イミド化反応)することで製造することができる。この際、リン含有ポリイミドは、フィルム、粉末、成型体、ワニスおよび金属積層体等の形態で得ることができる。
【0064】
まず本発明のリン含有ポリイミドフィルムを製造する方法について述べる。リン含有ポリイミド前駆体のワニスを、ガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に流延し、オーブン中40〜180℃、好ましくは50〜150℃で加熱乾燥する。得られたリン含有ポリイミド前駆体フィルムを基板上で真空中、窒素等の不活性ガス中、あるいは空気中、200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱することで本発明のリン含有ポリイミドフィルムを製造することができる。加熱温度はイミド化反応を十分に行なうという観点から200℃以上、生成した該ポリイミドフィルムの熱安定性の観点から450℃以下が好ましい。またイミド化は真空中あるいは不活性ガス中で行うことが望ましいが、イミド化温度が高すぎなければ空気中で行っても差し支えない。
【0065】
なお、リン含有ポリイミド前駆体のワニスは、前述のようにリン含有ポリイミド前駆体の重合反応完了後の反応溶液そのもの、またはその希釈物であるか、あるいは粉末として単離したポリイミド前駆体を適切な溶媒(例えば、前述のリン含有ポリイミド前駆体を製造する際に使用可能な溶媒から選択されるもの)に再溶解することにより調製することができる。
【0066】
またイミド化反応は、熱処理に代えて化学的に、例えばリン含有ポリイミド前駆体フィルムをピリジンやトリエチルアミン等の3級アミン存在下、無水酢酸等の脱水環化試剤を含有する溶液に浸漬することによって行うこともできる。またこれらの脱水環化剤をあらかじめ該ポリイミド前駆体のワニス中に室温で投入・攪拌し、それを上記基板上に流延・乾燥することで、部分的にイミド化したリン含有ポリイミド前駆体フィルムを作製し、これを更に上記のように熱処理することでイミド化を完結することによって行うこともできる。
【0067】
ポリイミド前駆体の重合反応完了後の反応溶液をそのままあるいは同一の溶媒で適宜希釈したものを、150〜230℃に加熱・還流することで、本発明のポリイミドを製造してもよい。得られたポリイミド自体が用いた溶媒に溶解している場合は、反応完了後の溶液をそのまま、本発明のリン含有ポリイミドのワニスとして使用することができる。また溶媒に不溶な場合は、結晶性のリン含有ポリイミドを沈殿物として得ることができる。その際、イミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加しても差し支えない。またイミド化促進触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することもできる。イミド化反応完了後の溶液を大量の水やメタノール等の貧溶媒中にゆっくりと滴下して沈殿を析出させ、これを濾取することでリン含有ポリイミドを粉末として単離することもできる。またポリイミド粉末が溶媒に可溶である場合は、ポリイミド粉末を適切な溶媒に再溶解することで、リン含有ポリイミドのワニスとすることができる。再溶解に使用可能な溶媒は特に限定されないが、リン含有ポリイミド前駆体を製造する際に使用可能な溶媒として前記に挙げたものが使用可能である。
【0068】
本発明のリン含有ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶媒中高温で反応(ワンポット重合)させることにより、ポリイミド前駆体段階で一旦反応を止めることなく、一段階で製造することもできる。この際、反応促進の観点から、130〜250℃、好ましくは150〜230℃の範囲で反応を行う。また該ポリイミドが用いた溶媒に不溶な場合、ポリイミドは沈殿物として得られ、可溶な場合はポリイミドのワニスが得られる。ワンポット重合の際、使用可能な溶媒は特に限定さないが、前述のリン含有ポリイミド前駆体を製造する際に使用可能な溶媒として前記に挙げたものが使用可能である。これらの溶媒にイミド化反応の副生成物である水を共沸留去するために、トルエンやキシレン等を添加することができる。またイミド化触媒としてγ−ピコリン等の塩基を添加することができる。イミド化反応完了後の溶液を大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下して沈殿を析出させ、これを濾取することでリン含有ポリイミドを粉末として単離することもできる。またリン含有ポリイミドが溶媒に可溶である場合はその粉末を上記溶媒に再溶解してリン含有ポリイミドのワニスとすることができる。
【0069】
上記リン含有ポリイミドのワニスを基板上に塗布し、40〜400℃、好ましくは100〜350℃で乾燥するによってもリン含有ポリイミドフィルムを形成することができる。
【0070】
また上記のように得られたリン含有ポリイミド粉末を200〜450℃、好ましくは250〜430℃で加熱圧縮することでリン含有ポリイミドの成型体を作製することもできる。
【0071】
ポリイミド前駆体溶液中にN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドや無水トリフルオロ酢酸等の脱水試薬を添加・撹拌して0〜100℃、好ましくは0〜60℃で反応させることにより、ポリイミドの異性体であるポリイソイミドが生成する。イソイミド化反応は上記脱水試薬を含有する溶液中に該ポリイミド前駆体フィルムを浸漬することでも可能である。ポリイソイミドワニスを上記と同様な手順で製膜した後、250〜450℃、好ましくは270〜400℃で熱処理して熱異性化反応させることで、ポリイミドへ容易に変換することができる。
【0072】
本発明のリン含有ポリイミド前駆体のワニスを金属箔、例えば銅箔上に塗付・乾燥後、上記の条件によりイミド化することで、金属層とリン含有ポリイミド層からなる金属積層体を得ることができる。更に塩化第二鉄水溶液等のエッチング液を用いて銅層を所望する回路状にエッチングすることで、無接着剤型フレキシブルプリント配線基板を製造することができる。
【0073】
本発明のリン含有ポリイミドおよびその前駆体膜中に必要に応じて酸化安定剤、フィラー、接着促進剤、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤、末端封止剤、架橋剤等の添加物を加えてもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
<赤外吸収スペクトル>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT−IR5300)を用い、KBr法にてリン含有ジアミンの赤外線吸収スペクトルを測定した。また透過法にてポリイミド前駆体およびポリイミド薄膜(約5μm厚)の赤外線吸収スペクトルを測定し、イミド化反応の完結を確認した。
H−NMRスペクトル>
日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用い、重水素化ジメチルスルホキシド中でリン含有ジアミンのH−NMRスペクトルを測定した。
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
リン含有ジアミンの融点および融解曲線は、ブルカーエイエックス社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度2℃/分で測定した。融点が高く融解ピークがシャープであるほど、高純度であることを示す。
<固有粘度>
0.5重量%のリン含有ポリイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。この値が高いほど、相対的に重合度(分子量)が大きいことを意味する。
<ガラス転移温度:Tg>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークからリン含有ポリイミドフィルム(20μm厚)のガラス転移温度を求めた。
<線熱膨張(係数):CTE>
ブルカーエイエックス社製熱機械分析装置(TMA4000)を用いて、熱機械分析により、膜厚1μm当たり0.5gの静荷重を試験片にかけて5℃/分で昇温を行い、試験片の伸びを計測して、100〜200℃の範囲での平均値としてリン含有ポリイミドフィルム(20μm厚)の線熱膨張係数を求めた。
<5%重量減少温度:T
ブルカーエイエックス社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中または空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、リン含有ポリイミドフィルム(20μm厚)の初期重量が5%減少した時の温度を測定した。これらの値が高いほど、熱安定性が高いことを意味する。
<複屈折:Δn>
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、リン含有ポリイミドフィルム(20μm厚)の面に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。この値が高いほど、ポリマー鎖の面内配向度が相対的に高いことを意味する。
<誘電率:εcal
アタゴ社製アッベ屈折計(アッベ4T)を用いて、リン含有ポリイミドフィルムの平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて次式:εcal=1.1×navにより1MHzにおけるリン含有ポリイミドフィルムの誘電率(εcal)を算出した。
<吸水率>
50℃で24時間真空乾燥したリン含有ポリイミドフィルム(膜厚20〜30μm)を24℃の水に24時間浸漬した後、余分の水分を拭き取り、重量増加分から次式:
吸水率(%)=(浸漬後の重量−真空乾燥後の重量)/真空乾燥後の重量 × 100
に従って吸水率(%)を求めた。殆どの用途においてこの値が低いほど好ましい。
<吸湿膨張係数:CHE>
リン含有ポリイミドフィルム(5mm×20mm×膜厚20μm)を100℃で数時間真空乾燥後、これをブルカーエイエックスエス社製熱機械分析装置(TMA4000)に速やかにセット(チャック間:15mm)して膜厚1μm当たり0.5gの静荷重を試験片にかけ、室温で乾燥窒素を1時間流した後、神栄社製精密湿度供給装置(SRG−1R−1)を用いて相対湿度(RH)80%のウエットガスをTMA4000装置内に導入して、室温における試験片の伸びより、リン含有ポリイミドフィルムの吸湿膨張係数を求めた。この値が低いほど吸湿寸法安定性に優れていることを意味する。
<弾性率、破断伸び、破断強度>
東洋ボールドウィン社製引張試験機(テンシロンUTM−II)を用いて、リン含有ポリイミド試験片(3mm×30mm×20μm厚)について引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施し、応力―歪曲線の初期の勾配から弾性率を、フィルムが破断した時の伸び率から破断伸び(%)を求めた。破断伸びが高いほどリン含有ポリイミドフィルムの靭性が高いことを意味する。
<難燃性評価>
UL−94V規格に従ってリン含有ポリイミド試験片(125mm×13mm×20μm厚)の難燃性を評価した。
【0075】
[実施例1]
<リン含有ジアミンの合成>
式(1a)で表される本発明のリン含有ジアミンは以下のようにして合成した。まず4−NBC8.35g(45mmol)をよく脱水したN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)21mLに溶解し、セプタムキャップで密栓しA液とした。次に式(4)で表されるリン含有ジオール(HCA−HQ)6.49g(20mmol)にDMF16mLとピリジン7.4mL(120mmol)を加え、110℃に温めて完全に溶解し、セプタムキャップで密栓してB液とした。次にA液にB液をシリンジを用いて滴下し、室温で12時間攪拌した。析出した黄色沈殿を濾別して少量のDMFで洗浄後、1%硝酸銀水溶液を用いて濾液中の塩素イオンが塩化銀白色沈殿として確認されなくなるまで、水で繰り返し洗浄してピリジン塩酸塩を完全に溶解除去した。これを110℃で12時間真空乾燥して淡黄色の粉末状生成物を得た(収率:61%)。FT−IRスペクトルおよびH−NMRスペクトルより、得られた生成物は目的とする下記式(5):
【化23】


((5)中、a〜mは水素原子の位置を表す)
で表される目的とするジニトロ体であることが確認された。DSC測定によるシャープな融解ピークが見られたことから、生成物は高純度であり、そのまま次の還元工程に用いた。
FT−IR: 3111cm−1(CAr−H伸縮)、1748cm−1(エステル基C=O伸縮)、1528cm−1(ニトロ基N−O伸縮)、1181cm−1(P−O−CAr伸縮)
H−NMR: δ8.45ppm(H,4H)、δ8.18〜8.14ppm(dd,1H)、δ8.06〜8.04ppm(d,1H)、δ8.00〜7.98ppm(t,1H)、δ7.91〜7.88ppm(2H)、δ7.75〜7.71ppm(t,1H)、δ7.67〜7.65ppm(t,1H)、δ7.54(4H)、δ7.42〜7.38ppm(H,t,1H)、δ7.26〜7.22ppm(H,d,1H)、δ7.15〜7.12ppm(H,t,1H)
DSC: 融点271.6℃
次に上記ジニトロ体のニトロ基を還元した。水素導入管およびコンデンサー付3口フラスコにジニトロ体3.74g(6mmol)およびパラジウム/カーボン粉末0.374gを入れ、DMF35mLを加えてジニトロ体を溶解させた。次に水素を導入し、室温で12時間攪拌した。反応後、パラジウム/カーボン濾別・除去し、濾液を大量の水中に滴下し、析出した沈殿を濾別後、1,4−ジオキサンで洗浄し、これを120℃で12時間真空乾燥して白色の粗生成物を得た(収率90%)。これをDMFから2回再結晶を行い、120℃で12時間真空乾燥して白色の生成物を得た。FT−IRスペクトルおよびH−NMRスペクトルより、得られた生成物は目的とする下記式(1a):
【化24】


で表される目的とするリン含有ジアミンであることが確認された。DSC測定によるシャープな融解ピークが見られたことから、生成物は高純度であることがわかった。
FT−IR: 3451、3358、3241cm−1(アミノ基N−H伸縮)、1709cm−1(エステル基C=O伸縮)、1165cm−1(P−O−CAr伸縮)
DSC: 融点296.4℃
元素分析(助燃剤:WO使用): 理論値 C:68.32%、H:4.12%、N:4.98%、 分析値 C:67.74%、H4.12%、N:4.73%
H−NMRスペクトル(DMSO−d)を図1に示す。
【0076】
[合成例1]
<エステル基含有テトラカルボン酸二無水物の合成>
非特許文献2(Polymer Journal, 40, 56-67 (2008))に開示されている方法に従って、エステル基含有テトラカルボン酸二無水物を合成した。まずナスフラスコにトリメリット酸クロリド80mmolをいれ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したテトラヒドロフラン(THF、107mL)に溶解させ、セプタムシールして溶液Aを調製した。更に別のフラスコ中、メチルヒドロキノン40mmolをテトラヒドロフラン(32mL)に溶解し、これにピリジン9.6mL(120mmol)を加えてセプタムシールし溶液Bを調製した。
氷浴中で冷却、攪拌しながら、溶液Aに溶液Bをシリンジにて1時間かけて滴下し、その後室温で12時間攪拌した。白色沈殿物を濾別し、これを水洗してピリジン塩酸塩を溶解除去した。この水洗操作により、酸無水物基が一部加水分解されるので、洗浄済みの白色沈殿を160℃で24時間真空乾燥して、脱水閉環して収率66%で粗生成物を得た。これを1,4−ジオキサン/THF(体積比:4/1)から再結晶し、160℃で12時間真空乾燥した。赤外吸収スペクトルおよびH−NMRスペクトルより得られた生成物は下記式(6):
【化25】


で表される高純度なエステル基含有テトラカルボン酸二無水物、メチルヒドロキノン−ビス(トリメリテートアンハイドライド)(以下「M−TAHQ」と称する)であることが確認された。また示差走査熱量曲線において、251℃にシャープな融解ピークが観測されたことから、この化合物は極めて高純度であることも確認された。
【0077】
[実施例2]
<リン含有ポリイミド前駆体の重合、イミド化およびリン含有ポリイミドフィルム特性の評価>
よく乾燥した反応容器中に式(1a)で表される本発明のリン含有ジアミン0.5mmol、4,4’−オキシジアニリン(以下「4,4’−ODA」と称する)4mmolおよび下記式(7):
【化26】


で表されるビス(4−アミノフェニル)テレフタレート(和歌山精化工業社製、融点:238℃、以下「BPTP」と称する)5.5mmolを入れ、モレキュラーシーブス4Aで十分に脱水したN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解した後、この溶液にM−TAHQ粉末(10mmol)を加え、室温で攪拌した(全溶質濃度:20重量%)。重合反応が進行し溶液粘度が増加して攪拌しにくくなったため、10重量%まで同一溶媒で適宜希釈しトータル70時間室温で撹拌して均一で粘稠なリン含有ポリイミド前駆体の溶液を得た。
このポリイミド前駆体溶液は室温および−20℃で一ヶ月間放置しても沈澱、ゲル化は全く起こらず、高い溶液貯蔵安定を示した。NMP中、30℃、0.5重量%の濃度でオストワルド粘度計にて測定したポリエステルイミド前駆体の固有粘度は3.56dL/gであった。
このポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、空気循環乾燥器中、80℃で3時間乾燥して得たポリイミド前駆体フィルムを基板上、350℃で2時間、真空中で熱イミド化を行った後、残留応力を除去するために基板から剥がして360℃で1時間、真空中で熱処理を行い、膜厚20μmの淡黄色の透明なリン含有ポリイミドフィルムを得た。このポリイミドフィルムは180°折曲げ試験によっても破断せず、可撓性を示した。また如何なる有機溶媒に対しても全く溶解性を示さなかった。このリン含有ポリイミドフィルムについて動的粘弾性測定を行った結果、382℃にガラス転移点(動的粘弾性曲線における損失ピークより決定)が観測された。
また線熱膨張係数は15.7ppm/Kと極めて低い値を示した。これは、非常に大きな複屈折値(Δn=0.139)から判断して、ポリイミド鎖の高度な面内配向によるものと考えられる。また本発明のリン含有ポリイミドフィルム(膜厚:22μm)は最高ランクの難燃性(UL−94、V−0)を示した。ポリイミド中のリン原子がラジカルトラップ剤として効果的に働き、燃焼に伴うラジカルの発生および拡散を抑制したためである。更に本発明のポリイミドフィルムは極めて低い吸水率0.42%と同時に極めて低い吸湿膨張係数、5.5ppm/RH%を示し、優れた吸湿寸法安定性も兼ね備えていた。また5%重量減少温度は窒素中で446℃、空気中で444℃であり、十分高い熱安定性も有していた。機械的特性は引張弾性率(ヤング率)4.08GPa、破断強度0.30GPa、破断伸び37%であり、実用上十分な靭性も兼備していることがわかった。表1に物性値をまとめる。
【0078】
[実施例3]
式(1a)で表される本発明のリン含有ジアミンの使用量を1mmolとし、BPTPの使用量を5mmolに変更した以外は、実施例2に記載した方法と同様に、リン含有ポリイミド前駆体を重合し、製膜、熱イミド化してリン含有ポリイミドフィルムの膜物性評価を行った。表1に物性をまとめた。実施例2に記載のリン含有ポリイミドと同様、最高レベルの難燃性を保持したまま、優れた特性を兼備していた。
【0079】
[比較例1]
ポリイミド前駆体を重合する際に、本発明のリン含有ジアミンを使用せず、BPTP6mmol、4,4’−ODA4mmolおよびM−TAHQ10mmolより実施例2に記載の方法に準じて重合、製膜、熱イミド化してリンを含まないポリイミドフィルムを作製した。表1に示すように、低熱膨張係数、低吸水率、低吸湿膨張係数、高ガラス転移温度、高靭性等、優れた特性を示したが、燃焼試験の結果、このポリイミドフィルムは激しく燃焼して自己消化性が見られず、UL−94,V−Oレベルの難燃性を達成することができなかった。これは、リンを含んでいないエステル基含有ポリイミドフィルムの難燃性が元々不十分であることに由来するものである。
【0080】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化27】


または式(2):
【化28】


〔式中、Rは、各々独立に、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基またはフェニル基であり、nは、置換基Rの数を表し、各々独立に、0から4の整数である〕
で表されるリン含有ジアミン。
【請求項2】
下記一般式(I):
【化29】


(式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基であり、Qは、請求項1に記載の式(1)または式(2)のリン含有ジアミンの2つのアミノ基を除いた2価の構造単位である)
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド前駆体。
【請求項3】
下記一般式(II):
【化30】


(式中、AおよびQは、請求項2に記載したものと同義である)
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド。
【請求項4】
請求項2に記載の下記一般式(I):
【化31】


〔式中、AおよびQは、請求項2に記載したものと同義である〕
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド前駆体の製造方法であって、下記式(1):
【化32】


または式(2):
【化33】


〔式中、Rおよびnは、請求項1に記載したものと同義である〕
で表されるリン含有ジアミンを含むジアミン成分と、前記ジアミン成分と実質的に等モルの下記式(3):
【化34】


(式中、Aは、4価の芳香族基または脂肪族基である)
で表されるテトラカルボン酸二無水物成分を反応させることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3に記載の下記一般式(II):
【化35】


〔式中、AおよびQは、請求項2に記載したものと同義である〕
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミドの製造方法であって、下記一般式(I):
【化36】


〔式中、AおよびQは、請求項2に記載したものと同義である〕
で表される繰り返し単位を含むリン含有ポリイミド前駆体を、熱的および/または化学的に閉環することを特徴とする方法。
【請求項6】
リン含有ポリイミド前駆体が、請求項4に記載の方法により得られたものである、請求項5に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−148901(P2011−148901A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11005(P2010−11005)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】