説明

リン含有メソポーラスシリカ及びその製造方法

【課題】前述した従来技術のメソポーラスシリカよりも更に各種の性能が向上したメソポーラスシリカを提供すること。
【解決手段】本発明のリン含有メソポーラスシリカは、細孔の壁構造内にリンが含まれ、かつリンが該壁構造を構成するSiO2繰り返し単位と直接結合していることを特徴とする。リンに対するケイ素の原子比(Si/P)は10〜100であることが好適である。このメソポーラスシリカは、第四級ホスホニウム塩からなるイオン液体とケイ素源となる化合物とを混合して反応させ、それによって得られた生成物を大気下に焼成することで好適に製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有メソポーラスシリカ及びその製造方法に関する。本発明のリン含有メソポーラスシリカは、例えば各種の触媒、吸着剤、ドラッグデリバリシステム等として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカは、メソポア領域に均一な細孔径を有し、触媒や吸着剤等として幅広い用途が期待されている。メソポーラスシリカは、例えばセチルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を構造規定剤(SDA)として用い、ケイ酸成分を反応させることによって得ることができる。このメソポーラスシリカの各種の性能を高める観点から、他の元素をドープさせる試みがなされている。例えばメソポーラスシリカの一種であるMCM−41にリンをドープさせることが提案されている(非特許文献1参照)。同文献には、MCM−41にリンをドープすることで、このメソポーラスシリカの生体活性を高めることができると記載されている。しかし、このメソポーラスシリカは、細孔の壁構造の表面にリンを含有するものであり、壁構造の内部にリンを含有するものではない。
【0003】
ゼオライトに関しても、これにリンをドープする技術が知られている。例えば特許文献1には、ZSM−5やモルデナイト等におけるアルミニウムをリンで置換することで、その耐熱性を高めることが提案されている。リン以外の元素に関しては、例えばベータ型ゼオライトに鉄、マンガン又はコバルトをドープすることが提案されている(特許文献2参照)。同文献に記載のベータ型ゼオライトは、メソポーラスシリカの一種であるMCM−41から合成されている。これらの技術によれば、ゼオライトの骨格中に異種の元素を含有させることができるが、メソポーラスシリカそのものに異種元素を含有させることまでは言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−97209号公報
【特許文献2】特開2008−73625号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Vallet-Regi et al., Solid State Sciences, 7, 2005, pp.233-237
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術のメソポーラスシリカよりも更に各種の性能が向上したメソポーラスシリカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、細孔の壁構造内にリンが含まれ、かつリンが該壁構造を構成するSiO2繰り返し単位と直接結合していることを特徴とするリン含有メソポーラスシリカを提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記のリン含有メソポーラスシリカの好適な製造方法として、
第四級ホスホニウム塩からなるイオン液体とケイ素源となる化合物とを混合して反応させ、それによって得られた生成物を大気下に焼成することを特徴とするリン含有メソポーラスシリカの製造方法を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、リン含有メソポーラスシリカと構造規定剤とを混合し、その混合物をオートクレーブ内に充填し、加熱して自生圧力下で反応させることを特徴とする全シリカベータ型ゼオライトの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、触媒、ガス吸着、ドラッグデリバリシステム等に有用なメソポーラスシリカが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)は実施例1で得られたリン含有メソポーラスシリカのX線回折図であり、図1(b)は、その焼成前のX線回折図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたリン含有メソポーラスシリカの細孔径分布図である。
【図3】図3は、実施例1で得られたリン含有メソポーラスシリカの透過型電子顕微鏡像である。
【図4】図4(a)は、実施例1で得られたリン含有メソポーラスシリカの走査型電子顕微鏡像であり、図4(b)〜(d)はそれぞれ、図4(a)に示す観察視野におけるリン(P)、ケイ素(Si)及び酸素(O)のEDS(エネルギー分散形X線分光器)による元素マッピング像である。
【図5】図5は、実施例5で得られた全シリカベータ型ゼオライトのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のメソポーラスシリカは、細孔の壁構造内にリン(P)を含有していることが特徴の一つである。リンは、細孔の壁構造を構成するSiO2繰り返し単位と直接に、共有結合によって結合している。リンがこのような状態で存在していることに起因して、本発明のメソポーラスシリカにおいては、リンの溶出が起こりにくくなっている。これに対して、先に背景技術の項で述べた特許文献1に記載のメソポーラスシリカでは、リンが細孔の壁構造の表面に存在しているので、リンの溶出が起こりやすくなっている。尤も、このことは、本発明において、細孔の壁構造の表面にリンが存在することを排除するものではない。
【0013】
本発明のメソポーラスシリカにおいて、リンが細孔の壁構造内に存在していることは、例えば31P−NMRによって確認することができる。
【0014】
本発明のメソポーラスシリカにおけるリンの含有量は、リンに対するケイ素の原子比(Si/P)で表して、0.5〜100、特に0.5〜20、とりわけ9〜15であることが好ましい。また、本発明のメソポーラスシリカは、ゼオライトに比較すると非晶質性は高いが、アモルファスシリカに比較すると非晶質性は低い。
【0015】
本発明のメソポーラスシリカは、ケイ素及び酸素から構成されており、更にリンを含むものである。これら以外の元素がメソポーラスシリカ中に含まれていてもよいが、好ましくは本発明のメソポーラスシリカは、実質的にこれら3種の元素から構成されている。「実質的に」とは、これら3種の元素以外の元素を意図的に含有させることを排除するとともに、不可避的に混入する微量の不純物元素は許容する趣旨である。
【0016】
本発明のメソポーラスシリカは、メソ孔を多数有するものである。メソ孔のサイズは好ましくは2〜50nm、更に好ましくは2〜10nmである。またメソ孔の体積は、好ましくは0.3〜2cm3/g、更に好ましくは0.5〜1.5cm3/gである。更にメソポーラスシリカのBET比表面積は、好ましくは200〜1800m2/g、更に好ましくは800〜1500m2/gである。これらの物性値は、例えばカンタクローム社製のオートソーブ1を用いた窒素吸着法によって測定することができる。
【0017】
本発明のメソポーラスシリカは、好適には、構造規定剤として第四級ホスホニウム塩を用いて製造される。この製造方法は、(イ)第四級ホスホニウム塩からなるイオン液体とケイ素源となる化合物とを混合して反応させる工程と、(ロ)反応生成物を大気下に焼成する工程とに大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
【0018】
(イ)の工程において用いられる第四級ホスホニウム塩は、室温(20〜25℃)において液体のものである。すなわちイオン液体である。構造規定剤としてイオン液体を用いることには、本発明のメソポーラスシリカ中に、リン原子を直接含有させることができるという利点がある。
【0019】
この第四級ホスホニウム塩としては、長鎖アルキル基を1個有し、かつ短鎖アルキル基を3個有するホスホニウムイオンの塩を用いることが好ましい。特に好ましい第四級ホスホニウム塩は以下の式(1)で表されるものである。
【0020】
【化1】

【0021】
式(1)における長鎖アルキル基であるR1としては、好ましくはオクチル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル、セチル基等が挙げられる。短鎖アルキル基であるR2〜R4としては、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。R2〜R4は同一の基でもよく、あるいは異なる基でもよいが、ホスホニウム塩の合成の容易さの点からは、R2〜R4は同一の基であることが好ましい。
【0022】
式(1)における一価のアニオンとしては、例えば塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオンや、アンモニウムイオン、水酸化物イオンなどを用いることができる。
【0023】
イオン液体からなる前記第4級ホスホニウム塩の使用量は、ケイ素源に含まれるSiの量との関係で、Si/第4級ホスホニウム塩のモル数を0.5〜100、特に0.5〜20、とりわけ9〜15とすることが、構造規則性の高いメソポーラスシリカを得やすい点から好ましい。
【0024】
(イ)の工程において用いられるケイ素源(ケイ酸源)としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン、水ガラス、ヒュームドシリカ、シリカゾルなどが挙げられる。ケイ素源として水ガラスを用いる場合には、その濃度はSiO2換算で25〜30重量%とすることが好ましい。
【0025】
(イ)の工程においては、第4級ホスホニウム塩を含む水溶液にケイ素源を添加する。ケイ素源として例えばテトラアルコキシシランを用いる場合には、その添加に先立ち、第4級ホスホニウム塩を含む水溶液に塩酸等の酸を添加して、系のpHを酸性域に調整することが、均一な形状で、かつ細孔の大きさも均一なメソポーラスシリカが得やすいので好ましい。また、ケイ素源の添加に先立ち、第4級ホスホニウム塩を含む水溶液を比較的低温、例えば1〜15℃に保持し、かつ該水溶液を静置してもよい。
【0026】
第4級ホスホニウム塩を含む水溶液にケイ素源を添加する場合には、該ケイ素源も、比較的低温、例えば1〜15℃に冷却された状態で添加されることが好ましい。また、ケイ素源は徐々に添加することが、メソポーラスシリカを首尾よく合成できる点から好ましい。この時点での反応液のpHは5以下、特に2以下であることが好ましい。
【0027】
ケイ素源として水ガラスを用いる場合には、第4級ホスホニウム塩を含む水溶液に水ガラスを添加した後に、硫酸等の酸を添加して液のpHを9〜11.5に調整することが、シラノール基の脱水縮合が起こりやすくなる点から好ましい。
【0028】
第4級ホスホニウム塩を含む水溶液にケイ素源を添加したら、所定の時間放置して反応を進行させる。これによって目的とするメソポーラスシリカの前駆体が生成する。この前駆体はまだリンを含有していない。
【0029】
(ロ)の工程においては、(イ)の工程で得られた前駆体を濾別し、水で洗浄して乾燥させた後に焼成する。焼成は、一般に大気下に行うことができるが、含酸素雰囲気下であれば、大気下でなくてもよい。焼成温度は400〜800℃、特に450〜650℃とすることが、目的物であるメソポーラスシリカの構造に悪影響を与えることなく、構造規定剤である前記の第四級ホスホニウム塩を確実に除去し得る点から好ましい。焼成時間は、焼成温度が前記の範囲内であることを条件として、4〜72時間、特に10〜24時間とすることが好ましい。
【0030】
焼成によって、第4級ホスホニウム塩が前駆体から除去され、除去された部位がメソ孔となる。第4級ホスホニウム塩が除去されるときに、一部のリンが残留して、それがメソポーラスシリカの細孔の壁構造内に取り込まれる。これによって、目的とするメソポーラスシリカはリンを含有したものとなる。
【0031】
このようにして得られたリン含有メソポーラスシリカは、それが有するメソ孔の特徴を生かして、例えば各種の触媒及びその担体、吸着剤、ドラッグデリバリシステム、モレキュラーシーブ等として好適に用いられる。また、このリン含有メソポーラスシリカは、全シリカベータ型ゼオライトを合成するときの出発物質としても有用である。
【0032】
全シリカベータ型ゼオライトは、通常、Si/Alの原子比が10〜200程度のベータ型ゼオライトを酸で処理して、ゼオライト中のアルミニウムを浸出することで得られる。このようにして得られた全シリカベータ型ゼオライトは、一般にSi/Alの原子比が1500以上になる。Si/Alの原子比がこのように高いことから、全シリカベータ型ゼオライトは、ハイシリカベータ型ゼオライトとも呼ばれる。ゼオライトからアルミニウムを浸出して得られる従来の全シリカベータ型ゼオライトは、その製造方法に起因して多くの欠陥を有している。これに対して、本発明のリン含有メソポーラスシリカを出発物質として用い、以下の製造方法を実施すると、それによって得られる全シリカベータ型ゼオライトは欠陥が少なく、かつ結晶性の高いものとなる。
【0033】
本発明のリン含有メソポーラスシリカを出発物質とする全シリカベータ型ゼオライトの製造においては、いわゆるドライゲルコンバージョン法を用いることが好ましい。この方法を用いることで、結晶性の高い全シリカベータ型ゼオライトを得ることができる。この方法においては、出発物質としてリン含有メソポーラスシリカと構造規定剤とを用いる。ベータ型ゼオライトを首尾よく得る観点からは、構造規定剤として、水酸化テトラエチルアンモニウムを用いることが好ましい。
【0034】
構造規定剤とリン含有メソポーラスシリカとの比率(重量比)は、リン含有メソポーラスシリカに含まれるSiO2ユニットに換算して、構造規定剤/SiO2=0.5〜3、特に0.75〜1.8であることが好ましい。構造規定剤は、一般に水溶液の状態でリン含有メソポーラスシリカと混合される。
【0035】
リン含有メソポーラスシリカと構造規定剤との混合物は、例えば20〜70℃の温度下で、大気下に静置されて乾燥される。静置時間は2〜72時間、特に2〜48時間とすることが好ましい。乾燥後の混合物に含まれている水とリン含有メソポーラスシリカとの比率(重量比)は、リン含有メソポーラスシリカに含まれるSiO2ユニットに換算して、水/SiO2=1〜5、特に1.4〜3.7であることが好ましい。
【0036】
乾燥後の混合物はオートクレーブ内に移されて、密閉される。この状態下にオートクレーブを加熱する。加熱によって混合物中に含まれる水が揮発してオートクレーブ内の圧力が上昇する。つまり自生圧力が発生する。加熱温度を好ましくは135から160℃、更に好ましくは140〜150℃に設定して、その温度での自生圧力下に反応を起こさせる。反応時間は、加熱温度が前記の範囲内であることを条件として、240〜390時間、特に264〜288時間であることが好ましい。この反応によって、メソ孔がミクロ孔に転化し、かつ生成した全シリカベータ型ゼオライトの結晶性が高まる。なお、反応中は水の添加は行わない。
【0037】
このようにして目的とする全シリカベータ型ゼオライトが得られる。得られた全シリカベータ型ゼオライトはその細孔内に構造規定剤を有しているので、焼成によってこれを除去する。焼成は、大気下に450〜850℃で450〜550時間行えばよい。このようにして得られた全シリカベータ型ゼオライトはミクロ孔を有し、かつ結晶性の高いものとなる。また、このベータ型ゼオライトは、その骨格中にリンを含むものである。リンの含有比率は、Si/Pの原子比で表して好ましくは5以上、更に好ましくは10〜700である。
【0038】
この全シリカベータ型ゼオライトは、例えば自動車の排気ガス中の炭化水素類のトラップ;金属触媒の担体;石油分野、石油化学分野及びファインケミカル分野における不均一系触媒などとして有用である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0040】
〔実施例1〕
第4級ホスホニウム塩として、セチル−トリ−n−ブチルホスホニウムクロライド(日本化学工業(株)製のヒシコーリン(登録商標)PX−416C、51%)を用いた。また、ケイ素源としてテトラエトキシシランを用いた。250mlのポリプロピレン製容器に、22gのヒシコーリン(登録商標)PX−416Cを入れ、そこに124gの蒸留水を入れて希釈した。次に、36%塩酸水溶液を101g入れて室温下で10分間攪拌した後に、4℃で約30分間静置した。次に、この液に、予め4℃に冷却しておいた4gのテトラエトキシシラン(95%)を加えると、透明なゾルが生成した。このゾルを4℃で約3時間連続攪拌した。このゾルのpHは1未満であった。この反応によって白色の物質が生成した。この物質を濾別して多量の蒸留水で洗浄した。このようにして得られた固体物質を70℃で2時間乾燥させた。次いで、空気の流通下、550℃で約10時間焼成し、目的物であるリン含有メソポーラスシリカを得た。
【0041】
このようにして得られたリン含有メソポーラスシリカのX線回折図を図1(a)に示す。また、焼成前の物質のX線回折図を図1(b)に示す。更に、このメソポーラスシリカの細孔径の分布をカンタクローム社製のオートソーブ1を用いて測定した。その結果を図2に示す。また、このメソポーラスシリカの透過型電子顕微鏡像を図3に示す。このメソポーラスシリカにおけるリンに対するケイ素の原子比(Si/P)を、上述の方法で測定したところ9.1であった。更に、このメソポーラスシリカについて、SEM−EDS(エネルギー分散形X線分光器)による元素のマッピングをリン(P)、ケイ素(Si)及び酸素(O)について行った。その結果を図4(a)〜(d)に示す。同図に示す結果から明らかなように、リンは、メソポーラスシリカの壁構造内に存在していることが判る。
【0042】
〔実施例2〕
第4級ホスホニウム塩として、ドデシル−トリ−n−ブチルホスホニウムクロライド(日本化学工業(株)製のヒシコーリン(登録商標)PX−412C、51%)を用いた。また、ケイ素源としてテトラエトキシシランを用いた。250mlのポリプロピレン製容器に、14.7gのヒシコーリン(登録商標)PX−412Cを入れ、そこに94gの蒸留水を入れて希釈した。次に、36%塩酸水溶液を76g入れて室温下で10分間攪拌した後に、4℃で約30分間静置した。次に、この液に、予め4℃に冷却しておいた3gのテトラエトキシシラン(95%)を加えると、透明なゾルが生成した。このゾルを4℃で約5時間連続攪拌した。このゾルのpHは1未満であった。この反応によって白色の物質が生成した。この物質を濾別して多量の蒸留水で洗浄した。このようにして得られた固体物質を70℃で2時間乾燥させた。次いで、空気の流通下、550℃で約10時間焼成し、目的物であるリン含有メソポーラスシリカを得た。このメソポーラスシリカの細孔径の分布を測定したところ、約2.2nmに分布のピークを有していた。このメソポーラスシリカにおけるリンに対するケイ素の原子比(Si/P)を、上述の方法で測定したところ9.1であった。
【0043】
〔実施例3〕
第4級ホスホニウム塩として、セチル−トリ−n−ブチルホスホニウムクロライド(日本化学工業(株)製のヒシコーリン(登録商標)PX−416C、51%)を用いた。また、ケイ素源として水ガラスを用いた。100mlのポリプロピレン製容器に、28.3gのヒシコーリン(登録商標)PX−416Cを入れ、そこに25gの蒸留水を入れて希釈し、15分間攪拌した。次に、12gの水ガラス(SiO2分29%)を加えて30分間攪拌を継続した。更に、0.7gの濃硫酸(96%)を3gの蒸留水で希釈した水溶液を加えると、濃厚なゲルが約30分で均一化された。このゲルのpHは10.5であった。次いで、このゲルを100℃で24時間放置した。それによって白色の物質が生成した。この物質を濾別して多量の蒸留水で洗浄した。このようにして得られた固体物質を50℃で2時間乾燥させ、引き続き室温で約2日間乾燥させ、更に70℃で2時間乾燥させた。次いで、空気の流通下、550℃で約10時間焼成し、目的物であるリン含有メソポーラスシリカを得た。このメソポーラスシリカの細孔径の分布を測定したところ、約2.6nmに分布のピークを有していた。このメソポーラスシリカにおけるリンに対するケイ素の原子比(Si/P)を、上述の方法で測定したところ15.3であった。
【0044】
〔実施例4〕
第4級ホスホニウム塩として、ドデシル−トリ−n−ブチルホスホニウムブロマイド(日本化学工業(株)製のヒシコーリン(登録商標)PX−412B、98%)を用いた。また、ケイ素源として水ガラスを用いた。100mlのポリプロピレン製容器に、7gのヒシコーリン(登録商標)PX−412Bを入れ、そこに19gの蒸留水を入れて希釈した。次に、6gの水ガラス(SiO2分29%)を加えて30分間攪拌を継続した。更に、0.4gの濃硫酸(96%)を2gの蒸留水で希釈した水溶液を加えると、濃厚なゲルが約30分で均一化された。次いで、このゲルを100℃で24時間放置した。このゲルのpHは10.6であった。それによって白色の物質が生成した。この物質を濾別してエタノールで洗浄し、引く続き蒸留水で洗浄した。このようにして得られた固体物質を100℃で一晩乾燥させ、次いで、空気の流通下、550℃で約10時間焼成し、目的物であるリン含有メソポーラスシリカを得た。このメソポーラスシリカの細孔径の分布を測定したところ、約2.2nmに分布のピークを有していた。このメソポーラスシリカにおけるリンに対するケイ素の原子比(Si/P)を、上述の方法で測定したところ18.2であった。
【0045】
〔実施例5〕
本実施例では、実施例1で得られたリン含有メソポーラスシリカを原料として、全シリカベータ型ゼオライトを合成した。すなわち、実施例1で得られたリン含有メソポーラスシリカ0.36gをポリ四フッ化エチレンのカップに入れ、これに1gの水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液(36%)を滴下した。この状態での混合物中における水の含有量は0.697gであった。この混合物を室温下で約20時間静置した。この状態での混合物中における水の含有量は0.667gであった。次にカップの内容物をオートクレーブに移し変え、ドライゲルコンバージョン法を行った。その条件は150℃の自生圧力下とした。反応は約12日間行った。反応中、水の添加は行わなかった。この反応によって得られた生成物を蒸留水で洗浄し、濾別し、100℃で一晩乾燥させた。次いで空気の流通下、550℃で約10時間焼成し、目的物である全シリカベータ型ゼオライトを得た。このようにして得られたシリカベータ型ゼオライトのX線回折図を図5に示す。このベータ型ゼオライトにおけるリンに対するケイ素の原子比(Si/P)を、上述の方法で測定したところ668であった。BET比表面積は455m2/g、ミクロ孔表面積は310m2/g、ミクロ孔体積は0.162cm3/g、全孔体積は0.352cm3/gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔の壁構造内にリンが含まれ、かつリンが該壁構造を構成するSiO2繰り返し単位と直接結合していることを特徴とするリン含有メソポーラスシリカ。
【請求項2】
リンに対するケイ素の原子比(Si/P)が、0.5〜100である請求項1記載のリン含有メソポーラスシリカ。
【請求項3】
請求項1記載のリン含有メソポーラスシリカの製造方法であって、
第四級ホスホニウム塩からなるイオン液体とケイ素源となる化合物とを混合して反応させ、それによって得られた生成物を大気下に焼成することを特徴とするリン含有メソポーラスシリカの製造方法。
【請求項4】
第四級ホスホニウム塩が以下の式(1)で表される請求項3記載の製造方法。
【化1】

【請求項5】
ケイ素源となる化合物がテトラエトキシシラン又は水ガラスである請求項3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のリン含有メソポーラスシリカと構造規定剤とを混合し、その混合物をオートクレーブ内に充填し、加熱して自生圧力下で反応させることを特徴とする全シリカベータ型ゼオライトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−225401(P2011−225401A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97349(P2010−97349)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】