説明

リン脂質症の検出およびリソソーム貯蔵障害の診断

【課題】侵襲的でないリン脂質症を検出するための方法を提供する。
【解決手段】試験化合物が標的被験者にリン脂質症を誘発する活性を評価する方法は、(1)試験化合物を投与された被験者から採取された試験試料、(2)試験化合物と接触した試験細胞の集団、または(3)試験試料または試験細胞から単離されたエンドサイトーシス小胞を含む溶液を得る工程と、試験試料、細胞、またはエンドサイトーシス小胞中の、2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群から選択される第1バイオマーカーのレベルを決定する工程と、を有し、試験化合物は、第1バイオマーカーのレベルが、所定のレベル以上であるとき、標的被験者にリン脂質症を誘発する活性を有すると判定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願>
本出願は、2009年4月16日付けで出願された米国仮出願第61/169,789号、および2009年10月14日付けで出願された米国出願第12/579,121の優先権を伴っており、これらの出願は、そのすべてが参照によって本明細書中に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
<背景>
薬剤誘発性のリン脂質症は、細胞や組織におけるリン脂質の過剰蓄積によって特徴付けられるリソソームの貯蔵障害である。リン脂質症は、動物とヒトの両方のカチオン性両親媒性薬物(CAD)の毒性試験に共通する所見であり、重要な規制事項となっている。規制機関にとって重要な問題は、肝臓、腎臓、筋肉、心臓、および肺組織の薬剤誘発性リン脂質症であり、薬剤誘発性リン脂質症は、これらの臓器において、薬剤による副作用の一因となる。組織中の薬剤誘発性リン脂質症の形態学的効果は、ニーマンピック病C型(NPC)患者の組織中の渦巻き型のミエリン形に類似している。NPCや他の遺伝的なリソソーム貯蔵障害は、身体の細胞や組織における脂肪性物質(たとえば、脂質、糖脂質、リポ蛋白)の有害な蓄積を引き起こす。時間の経過に伴い、脂肪性物質の過度な蓄積は、特に脳、末梢神経系、肝臓、脾臓、および骨髄において、永続的に細胞や組織に損傷を与える。
【0003】
薬剤誘発性リン脂質症は現在、非侵襲的に決定することはできない。したがって、前臨床および臨床試験においてリン脂質症の発症と経時変化を究明し、また、リン脂質症と薬剤の毒性との関係を調査するため、容易に利用可能なバイオマーカーが求められている。
【発明の概要】
【0004】
<要約>
本発明は、少なくとも部分的には、予想外の発見に基づくものであり、その発見とは、種々のジ−ドコサヘキサエノイル(22:6)−ビス(モノアシルグリセロール)リン酸エステル(ジ−22:6−BMP)、ジ−ドコサヘキサエノイル(C22:6)−ホスファチジルグリセロール(ジ−22:6−PG)、およびモノ−ドコサヘキサエノイル(22:6)−ビス(モノアシルグリセロール)リン酸エステル(モノ−22:6−BMP)のレベルが、様々な薬剤によって誘発されるリン脂質症や、遺伝によるリソソーム貯蔵障害と特異的に相関づけられるというものである。
【0005】
したがって、本発明の一態様では、試験化合物(承認薬を含む)が標的被験者にリン脂質症を誘発する可能性または活性を評価するための方法を特徴とする。本方法は、
(a)(1)試験化合物を投与された被験者から採取された試験試料、(2)試験化合物と接触した試験細胞の集団、または(3)試験試料または試験細胞から単離されたエンドサイトーシス小胞を含む溶液を得る工程と、
(b)試験試料、細胞、またはエンドサイトーシス小胞中の第1バイオマーカーのレベルを決定する工程と、によって行われる。第1バイオマーカーは、図1〜図3に示される構造を有する、2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群から選択される。試験化合物は、第1バイオマーカーのレベルが、所定のレベル以上であるとき、標的被験者にリン脂質症を誘発する活性を有すると判定される。
【0006】
被験者を用いる場合、上記の所定のレベルは、予め薬剤を投与された被験者から得られたレベルであるか、または試験化合物を投与されていないこと以外は被験者と等しい適切な対照被験者から得られたレベルでありうる。また、試験細胞を用いる場合、上記の所定のレベルは、試験化合物と接触していないこと以外は試験細胞の集団と等しい対照細胞の集団から得られたレベルでありうる。
【0007】
「被験者」とは、ヒトまたはヒト以外の動物を指す。ヒト以外の動物の例としては、すべての脊椎動物が含まれ、たとえば、ヒト以外の霊長類(特に高等霊長類)、イヌ、げっ歯類(たとえば、マウス、ラット、またはモルモット)、ブタ、ネコのような哺乳類、および鳥類、両生類、爬虫類のような非哺乳類等が挙げられる。一実施形態では、標的被験者は、ヒトである。他の実施形態では、標的被験者は、薬剤の安全性評価や、適切な動物疾患モデルで用いられる動物である。好ましい実施形態としては、ヒトにおけるリン脂質症を誘発する試験化合物の活性を評価するため、標的被験者をヒトとするとよい。被験者は、げっ歯類、イヌ、ブタ、ヒト以外の霊長類、またはヒト等の哺乳類であると好適である。
【0008】
本発明の他の態様では、患者の治療を管理する方法を特徴とする。病的細胞や病的組織において脂肪性物質の蓄積を発症させるリソソーム貯蔵障害(たとえば、リン脂質症)や、これに関連した、治療に対応する臨床的な副作用を発症するリスクのある患者や、リソソーム貯蔵障害を遺伝的に備えた患者に対し、本発明は好適である。本方法は、(1)ある症状の治療中であるか、または治療を必要としている患者を同定する工程と、(2)患者から試験試料を得る工程と、(3)試験試料中の第1バイオマーカーのレベルを決定する工程と、を有している。このとき、第1バイオマーカーは、2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群より選択される。そして、患者は、第1バイオマーカーのレベルが所定値以上であるとき、治療の開始または継続に適していないと判定される。一例として、所定のレベルは、リン脂質症の対照被験者より得られたレベルである。
【0009】
本発明のさらに他の態様では、ヒトまたは非ヒト被験者において脂肪代謝異常を生じさせる遺伝的なリソソーム貯蔵障害の診断方法を特徴とする。本方法は、(1)被験者から試験試料を得る工程と、(2)試験試料中の第1バイオマーカーのレベルを決定する工程と、を有しており、このとき、第1バイオマーカーは、2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP,ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群より選択される。そして、所定のレベルに対する第1バイオマーカーの発現レベルの増加は、リソソーム貯蔵障害または該障害の将来的な素因を示す。特に本方法は、ヒト被験者がニーマンピック病C型(NPC)または他の種類のリソソーム脂肪代謝異常(神経セロイドリポフスチン症またはリン脂質症等)に罹患している、または発症する可能性があるか否かを決定するために用いることができる。NPCの場合、第1バイオマーカーの所定のレベルは、NPCに罹患した対照被験者より得られたレベルである。
【0010】
一例として、上記方法のそれぞれは、第1バイオマーカーのレベルを所定のレベルと比較する工程をさらに含んでいてもよい。また、他の例として、上記方法のそれぞれは、第1バイオマーカーのレベルを決定する工程よりも前に、2,2’ジ−22:6−BMP、3,2’ジ−22:6−BMP、2,3’ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPを互いに分離する工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、図4に示すように、それぞれのマーカーのレベルを個別に評価するために、たとえば、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC−MS)を用いて2種、3種またはすべてのマーカーを分離することができる。また、第1バイオマーカーのレベルを決定する工程は、LC−MS、LC−MS/MS、GC/MS、GC/MS/MS、またはELISAによって実施することができる。
【0011】
それぞれの方法において、試験試料は、全血検体、血漿試料、血清試料、尿または尿沈渣試料、気管肺胞洗浄液の試料、リンパの試料、脳脊髄液の試料、唾液の試料、精液の試料、母乳の試料、糞の試料でありうる。さらに、試験試料は、肝臓、腎臓、筋肉、心臓、肺、脾臓、リンパ節、骨髄、皮膚、血管および弁、眼、または脳由来の組織試料であってもよい。一実施形態において、試験細胞の集団は、気管支肺胞洗浄細胞、赤血球、白血球、神経細胞、肝細胞分画、皮膚線維芽細胞、骨髄の組織球、絨毛膜絨毛細胞、網膜色素上皮細胞、または羊水細胞を含みうる。さらに、試験試料は、細胞および組織由来のエンドソーム、リソソーム、またはエキソソーム等の分離されたエンドサイトーシス小胞であってもよい。他の実施形態では、試験細胞は、ヒト肝癌細胞株(HepG2)、二倍体のラット肝上皮細胞株(ARLJ301−3)、チャイニーズハムスターの肺細胞株(CHL/IU)、ベビーハムスター腎細胞(BHK)、ヒト腎臓の腺癌細胞(ヒトの769−P)、ヒト腎臓近位尿細管細胞(HK−2)またはマウスマクロファージ様細胞株(J744A)である。
【0012】
上記方法のそれぞれは、リン脂質症の第2バイオマーカーのレベルを決定する工程をさらに含んでいてもよい。この第2のバイオマーカーは、以下に記載の脂質またはタンパク質とすることができる。一例として、上記方法のそれぞれは、種々のホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジン酸(PA)、またはリゾリン脂質、スフィンゴ脂質、糖脂質、コレステロール、リポタンパク質などの他のタイプの脂肪性物質といった他のリン脂質のレベルを決定する工程をさらに含んでいてもよい。第2の例として、それぞれの方法は、LC3、Beclin−1、ニーマンピックC1およびC2タンパク質(NPC1およびNPC2)並びにアネキシンIIのような、細胞の分解経路やリソソームの機能に関連したタンパク質のレベルを決定する工程をさらに含んでいてもよい。さらに他の例として、上記方法は、BMPの追加種のレベル、全BMPのレベル、または全BMPの脂肪酸の分類を決定する工程をさらに含んでいてもよい。
【0013】
本発明の一以上の実施形態の詳細は、以下に添付された図面および説明に示されている。他の特徴、目的、および本発明の効果は、以下の説明、図面および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
<図面の説明>
【図1】図1は、ジ−C22:6−BMP類の構造を示す図である。ここで、Rは脂肪族アルケニル(C22:6,C18:1,またはC18:2)である。
【図2】図2は、ジ−ドコサヘキサエノイル(C22:6)−ホスファチジルグリセロール(ジ−22:6−PG)の構造を示す図である。ここで、Rは脂肪族アルケニル(C22:6,C18:1,またはC18:2)である。
【図3】図3は、モノ−ドコサヘキサノイル(22:6)−ビス(モノアシルグリセロール)リン酸エステル(モノ−22:6−BMP)の構造を示す図である。ここで、Rは脂肪族アルケニル(C22:6,C18:1,またはC18:2)である。
【図4】図4は、ラットの尿中に含まれる種々のジ−22:6−BMP種/アイソフォームおよびジ−22:6−PGのLC−MS分析である。
【図5A】図5Aおよび図5Bは、それぞれアミオダロン(4A)、アジスロマイシン(4A)、シタロプラム(4B)を投与したラットの尿中に含まれる種々のジ−22:6−BMP種/アイソフォームのLC−MS分析である。
【図5B】図5Aおよび図5Bは、それぞれアミオダロン(4A)、アジスロマイシン(4A)、シタロプラム(4B)を投与したラットの尿中に含まれる種々のジ−22:6−BMP種/アイソフォームのLC−MS分析である。
【図6】図6は、クロロキンおよびアミオダロンを投与したラットの尿中に含まれるジ−22:6−BMPおよびジ−22:6−PGのアイソフォームのLC−MS分析である。
【図7】図7は、アミオダロンを投与したラットの尿中のジ−22:6−PGの強度を示す図である。
【図8A】図8Aおよび図8Bは、対照となるSprague−dawleyラットと、アミオダロン(150mg/kg/日)、クロロキン(120mg/kg/日)、化合物A(50mg/kg/日)をそれぞれ投与したSprague−dawleyラットに由来する尿試料中に含まれる2,2’−ジ−C22:6−BMPのレベルを示す図である。
【図8B】図8Aおよび図8Bは、対照となるSprague−dawleyラットと、アミオダロン(150mg/kg/日)、クロロキン(120mg/kg/日)、化合物A(50mg/kg/日)をそれぞれ投与したSprague−dawleyラットに由来する尿試料中に含まれる2,2’−ジ−C22:6−BMPのレベルを示す図である。
【図9】図9は、アジスロマイシンによる処置後のSprague−dawleyラットの尿中に含まれるジ−C22:6−BMP(すべてのアイソフォームを含む)レベルを示す図である。
【図10】図10は、試験化合物ABCを投与したラットの肺組織中のモノ−22:6−BMP、モノ−18:1−BMP、およびモノ−18:2−BMPのアイソフォームのレベルを、薬剤を投与していない(ベヒクル)ラットと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<詳細な説明>
本発明は、少なくとも部分的には、予想外の発見に基づくものであり、その発見とは、種々のジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPのレベルが、様々な薬剤によって誘発されるリン脂質症や、NPC疾患のような遺伝によるリソソーム貯蔵障害と特異的に相関づけられるというものである。
【0016】
(薬剤誘発性リン脂質症)
薬剤誘発性リン脂質症は、組織中に過度のリン脂質の蓄積を引き起こすリン脂質貯蔵障害である。様々な薬剤がリン脂質症を引き起こす可能性がある。これらの薬剤の中でも、カチオン性両親媒性薬物(CAD)は細胞膜を浸透し、リソソーム内の酸性環境中で捕捉され、リソソーム内に隔離される。他のリン脂質症に関連する化合物(たとえば、アミノグリコシド系の抗生物質)は、糖タンパク質受容体によってリソソーム領域まで運搬されるか、あるいは、細胞表面上の負に帯電したリン脂質と結合した後、リソソーム領域まで運搬される。そして、未消化の薬剤−リン脂質会合体が徐々に蓄積し、リソソーム酵素の活性が低下する結果として、長期的に薬剤に曝されると、マルチラメラ(ミエロイド小体)が細胞内で蓄積する。
【0017】
最も確立されているリン脂質症のマーカーは、細胞質または病的細胞のリソソーム中においてミエロイド小体の異常蓄積を検出するものである。ミエロイド小体は、薄い組織切片、末梢血細胞、および電子顕微鏡を用いた尿沈渣において可視化することができる。ミエロイド小体はいくつかの電子密度の同心円の層、単一の境界膜によって囲まれた膜質材料によって特徴づけられる。ミエロイド小体は、リソソーム内において分泌または捕捉された脂質およびタンパク質を貯蔵する小胞として機能する組織内で自然発生する。薬剤誘発性リン脂質症において、ミエロイド小体はさらに、過剰の薬剤および未消化の薬剤−リン脂質会合体の貯蔵庫としても機能する。
【0018】
薬剤誘発性リン脂質症は、危険評価のための重要な関連事項である。動物にリン脂質症を発症させる多くの薬剤は、以下で詳細に示すように、薬剤誘発性QT延長症候群、筋疾患、肝毒性、肺機能不全、または腎毒性等の不要な臨床的副作用にもまた関連している。
【0019】
(リソソーム貯蔵障害)
薬剤誘発性リン脂質症におけるミエロイド小体は、NPC疾患を含むリソソーム貯蔵障害に罹患した患者の組織中における渦巻き型のミエリン形に類似している(Warren et al.,J Vet Diagn Invest 2000;12:483−496)。NPC疾患は、細胞内におけるコレステロールの選択と輸送の欠陥を特徴とした、遺伝的な障害である。正常状態では、低密度リポタンパク質から派生したコレステリルエステルが、細胞内のコレステロール濃度を安定化させる複雑なフィードバック機構を仲介する。NPC患者において、NPC1およびNPC2タンパク質の活性における障害は、非エステル化コレステロールが後期細胞内区画から流出する速度を非常に遅くする。非エステル化コレステロールとビス(モノアシルグリセロール)リン酸エステル(BMP)の比率は、内部リソソーム膜内において、膜構成成分が効率的に加水分解するために重要である。結果として、コレステロールだけでなく、他の膜構成成分(すなわち、スフィンゴミエリン、BMP、グルコシルセラミド、スフィンゴ糖脂質、リン脂質、および糖脂質等)もまた、二次的に細胞の脂質プロファイルに依存して蓄積されうる。このようなNPC細胞内で生じる脂質輸送の欠陥は、細胞の自律的な死を引き起こす。
【0020】
(リン脂質症のメカニズム)
リン脂質症においてミエロイド小体の蓄積を引き起こすメカニズムは、NPC疾患の病因で観察されるものといくつかの類似点がある。最もよく報告されているリン脂質症のメカニズムは、リソソーム領域内における薬剤の捕捉、および内部リソソーム膜内部における薬剤−リン脂質会合体の緩やかな蓄積と関連している。そして、リン脂質症に関連する近年の仮説は、薬剤がコレステロールの状態に与える影響や、マンノース−6−リン酸(M6PR/IGF2)受容経路を経由する過程でゴルジ体に由来するリソソーム酵素の対象が外れてしまうことに関連している。
【0021】
NPC細胞に類似して、リン脂質症に侵された細胞は、蓄積された薬剤−リン脂質会合体と、未消化の膜質材料を加水分解するため、内部リソソーム膜内部において大量のBMPを必要とすると仮定されている。内部リソソーム膜内部において、正常時のBMP必要量よりも多いBMPが必要であることや、薬剤によるホスファチド酸リン酸ヒドロラーゼ(PAPase)の抑制の結果として、リン脂質の合成は、BMP合成の前駆体としての役割を果たす酸性リン脂質(すなわち、ホスファチジルグリセロールやホスファチジルイノシトール)を目的とした合成に変更される。CADは、BMPのように負に帯電したリン脂質と結合することにより、NPC表現型を引き起こすと推測されている。薬剤が直接的にリソソームの酵素活性(PLA,PLA,PLC)を抑制する効果や、薬剤−リン脂質会合体の形成過程に起因して、BMPに加え、非エステル化コレステロールや種々のリン脂質もまた、リソソーム内に蓄積すると考えられている。
【0022】
リン脂質症細胞内における未消化の膜質材料の増加は、結果として、リソソームミエロイド小体の異常蓄積を生じさせる。リン脂質症の小胞体の一部は、開口分泌によって細胞外空間へ小胞体の成分を放出しながら細胞質を透過し、細胞の反対側の細胞膜と融合しうる。リン脂質症におけるミエロイド小体の除去は、細胞外成分の代謝回転(すなわち、自食作用)の増加によって誘導されると示唆されており、このような代謝回転は、適応するための生存戦略を意味するものである。あるいは、自食作用の誘導と流動の不均衡もまた、結果として、自食作用の負荷、NPCや他のリソソーム貯蔵障害に見られる自食作用による細胞死の要因となりうる。
【0023】
(リン脂質症のバイオマーカー)
上記で述べたように、リン脂質症の従来の基準は、組織内のミエロイド小体の視覚的な確認である。生体標本、肺マクロファージ、または末梢血液細胞に由来する薄い組織切片内のミエロイド小体の存在を明らかにするために、電子顕微鏡が一般的に用いられる。それぞれの場合において、ミエロイド小体の数は異なる格子内において平均化され、正常なサンプルと比較される。しかし、電子顕微鏡による観察は、その有用性にも関わらず、侵襲的であり、比較的定量性がなく、高価であり、時間がかかる。さらに、リン脂質の状態と細胞の機能との間の時間的な関係を明確にするという用途においては限界がある。
【0024】
本発明は、従来法の代替であり、より侵襲的でないリン脂質症を検出するための方法を提供するものである。そして本発明は、リン脂質症組織の所定の評価を行うための利用しやすいバイオマーカーとして、血液や尿中に含まれるBMPの特定種を用いるものである。電子顕微鏡と比較して、本明細書中で開示される方法は、薬物毒性となる変化を伴うリン脂質症の発病と経時変化の時間的な関係を明確にする、よりよい方法を提供するものである。さらにその結果として、本発明の方法は、リン脂質症が適応性、あるいは毒性の兆候を示すものであるかを判定するためのよりよい手段を提供するものである。
【0025】
BMPは、リソビスホスファチジン酸(LBPA)とも呼ばれるリソソームリン脂質である。BMPは、理論的には4つの幾何学的アイソフォームで存在しうる。BMP反応シーケンスの各段階は、Amidonら(Biochemistry 1995;34(16):5554−5560.)およびThornburgら(Journal of Biological Chemistry 1991;266(11):6834−6840.)によって説明されている。Amidonらは、生体内において大部分のBMPの脂肪酸鎖が、グリセロール主鎖(すなわち、2,2’ジ−22:6−BMP)のβ位がエステル化されていることを示唆している。一方、Thornburgらは、後期エンドソームやリソソームの酸性環境により、脂肪酸鎖はα位(すなわち、3,3’−BMP)へ転位すると予測している。
【0026】
本明細書中で説明するように、種々のジ−22:6−BMP,ジ−22:6−PGおよびモノ−22:6−BMPは、さまざまな薬剤や遺伝的なリソソーム貯蔵障害によって誘発されるリン脂質症組織に対し特異的に相関がある。したがって、本発明は、前臨床および臨床試験における薬剤誘発性の組織リン脂質症の進行の評価方法、および細胞および組織内で脂質材料の蓄積を引き起こすリソソーム貯蔵障害の診断方法を特徴とする。
【0027】
(分析方法)
標的被験者において試験化合物がリン脂質症を発症させる可能性を評価するため、試験化合物が投与された被験者から試験試料、または細胞の集団を採取する。その後、試験サンプルまたは細胞における第1バイオマーカーのレベルを決定する。このとき、第1バイオマーカーは2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群から選択される。試験化合物は、第1バイオマーカーのレベルが、所定のレベル以上であるとき、標的被験者にリン脂質症を誘発する活性を有すると判定される。換言すると、ジ−ドコサヘキサエノイル(C22:6)−ビス(モノアシルグリセロール)リン酸エステル(すなわち、2,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、および3,3’−ジ−22:6−BMP)、ジ−ドコサヘキサエノイル(C22:6)−ホスファチジルグリセロール(ジ−22:6−PG)、およびモノドコサヘキサエノイル(22:6)−ビス(モノアシルグリセロール)リン酸エステル(すなわち、2−モノ−22:6−BMPおよび3−モノ−22:6−BMP)のアイソフォームを個々に、または複数組み合わせて用いることにより、薬剤誘発性リン脂質症の予測がなされる。
【0028】
1.被験者
上記方法は、人体臨床試験の被験者、または医学的検査に参加しているか、若しくはあらゆる医薬化合物、ビタミン、または栄養補助食品を投与された患者を評価するために用いられる。被験者は、ヒト以外の動物、げっ歯類(たとえば、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、モルモット)、イヌ、ブタ、ネコ、ヒト以外の霊長類(たとえばサル)、およびヒト以外の哺乳類(たとえば、鳥類、両生類、爬虫類)を含むものでありうるが、これに限定されない。
【0029】
試験試料は、被験者に由来する全血検体、血漿、血清、尿、尿沈渣、気管肺胞洗浄液(BAL)、リンパ、脳脊髄液、唾液、精液、母乳、糞等の生物学的液体試料でありうるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。さらに、細胞、細胞分画、細胞培養もまた、試験試料となりうる。例として、被験者、またはin vitroの細胞培養に由来する、気管支肺胞洗浄(BAL)細胞、赤血球、白血球、神経細胞、肝細胞分画、皮膚線維芽細胞、骨髄の組織球、網膜色素上皮細胞、絨毛膜絨毛細胞、および羊水細胞が挙げられ、さらにヒト肝癌細胞株(HepG2)、二倍体のラット肝上皮細胞株(ARLJ301−3)、チャイニーズハムスターの肺細胞株(CHL/IU)、ベビーハムスター腎細胞(BHK)、ヒト腎臓の腺癌細胞(ヒトの769−P)、ヒト腎臓近位尿細管細胞(HK−2)およびマウスマクロファージ様細胞株(J744A)もまた含まれるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。試験試料としては、肝臓、腎臓、筋肉、心臓、血管および弁、肺、脾臓、リンパ節、骨髄、皮膚、眼、および脳に由来する全組織、組織切片、または組織区分とすることもできるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。試験試料は、細胞や組織に由来するエンドソーム、リソソーム、エキソソームのような、単離されたエンドサイトーシス小胞であってもよい。
【0030】
2.試料の調製
上記の試験試料を調製するため、液体/液体抽出のための試料調製を行うことなく、液体試料(尿、血漿、血清等)を直接用いることができる(以下を参照)。試料のpHが試料中のジ−22:6−BMPジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームの比率に影響する可能性があるため、分析を目的として、液体試料のpHが試料中において化合物を安定化されるために調整される。pH値は1〜14とするとよい。好ましくは、pH値は4〜10、または6〜8、または約7とする。微粒子を除去するため、液体/液体抽出の前に試料を濾過してもよい。
【0031】
固体または半固体の組織や細胞試料もまた用いることができる。一例として、このような試料は、下記の手法によって抽出される前に、まず、水、または組織、もしくは細胞タンパク質抽出試薬を添加し(または添加することなく)、均質化される(すなわち、湿式試料の調製)。他の例では、組織試料は、リン脂質の抽出前に、脱水や微細に粉砕するために凍結乾燥される(すなわち、乾式試料の調製)。
【0032】
試料を調製したら、ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームを抽出するため、液体/液体抽出が行われる。このとき、クロロホルム、メタノール、イソプロパノール、水、酢酸エチル、アセトニトリル、ブタノール、ジクロロメタン、メチル−t−ブチルエーテル、ヘキサン、ギ酸、または水酸化アンモニウムを任意に混合した溶媒中、あるいは単独で用いることができる。種々の塩(CaCl、MgCl、NaCl、またはKCl)の水溶液もまた、リン脂質を抽出するために用いることができる。脂肪酸基の不飽和結合の酸化を抑制するため、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)またはビタミンE等の抗酸化物を抽出混合物に添加してもよい。ジ−22:6−BMPおよびジ−22:6−PGを含む、抽出された試料基質が取り出され、窒素ガス流下で乾燥される。乾燥された試料は、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC−MS、LC−MS/MS)による分析の前処理において、アセトニトリル、メタノール、および水の混合物のような適当な溶媒で再調製される。
【0033】
通常、抽出された基質からジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPをさらに単離するために試料の精製を行う必要はない。しかしながら、試料基質中の他の競合するリン脂質の数はジ−22:6−BMP,ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPの分析の検出感度に影響する可能性があるため、可能な限り多くの競合化合物を試料基質から除去すると、分析の検出感度を向上させることができる。そのため、化学的吸着剤(たとえば、セリウム修飾されたカラム、Tandem Labs社、ソルトレークシティー、ユタ州)や、抗リン脂質抗体カラムを用いてもよい。イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いてもよい。たとえば、分取用DEAEまたはLiChrospher Si−100カラムを用いることができる。ジエチルアミノエチル(DEAE)酢酸セルロースカラムもまた、組織のリン脂質を酸性および非酸性のフラクションに分離することができる。脂質抽出物は、LiChrospher Si−100カラムを用いて異なるリン脂質クラスに分離することができる。これらの技術は、特定種のジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPを評価する前に、BMPおよびPGのフラクションすべてを他の競合するリン脂質クラスから分離するために用いられる。
【0034】
一次元または二次元の薄層クロマトグラフィー(TLC)はリン脂質分析に用いられる一般的な技術である。TLCはジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPの個々のアイソフォームを分離するために用いることはできないが、試験試料中の他のリン脂質クラスからBMP、PGのすべてのフラクションを分離するための第1段階として用いることができる。BMPおよびPG分子種およびアイソフォームは、次に、以下に記載のように、LC−MSやGC−MSなどの他の技術を用いて分析される。
【0035】
質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィー(たとえば、LC−MSおよびLC−MS/MS)による分析を行うために、ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPを標識化したり、誘導体化したりする必要はない。しかし、免疫学的類似性を用いた方法(以下を参照)によるジ−22:6−BMPおよびジ−22:6−PGの分析には、異なる標識化法(たとえば、放射免疫測定のための放射性標識;免疫蛍光法試験のための蛍光標識)が必要となる。質量分析と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC−MS、GC−MS/MS)によるジ−22:6−BMPおよびジ−22:6−PGの分析は、脂肪酸鎖の誘導体化が必要となる。
【0036】
3.ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPの評価
試験試料中のジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPの存在量または局在化を評価するためには、多くの方法を用いることができる。例として、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、質量分析、蛍光またはUV検出、シンチレーション計測、ELISA、NMR、画像技術、および染色による標識化、抗体、蛍光タグ、または化学修飾が挙げられる。
【0037】
4.ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPの個々のアイソフォーム評価
ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPの個々のアイソフォームを評価するためには、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィーを用いることができる。生体試料中のジ−22:6−BMPおよびジ−22:6PGのアイソフォームのレベルを評価するには、四重極飛行時間質量分析計(TOF−MS)と組み合わせた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やタンデム質量分析(TOF−MS/MS)を用いることができる。
【0038】
一例として、クロマトグラフィーカラム“Synergi Hydro RP”(Phenomenex社、トーランス、カリフォルニア州)を用いることができ、このカラムは、C18系逆相分析カラムである。そのため、メタノール、水、水酸化アンモニウムおよびギ酸の混合物を移動相1として使用することができ、メタノール、ヘキサン、水酸化アンモニウムおよびギ酸の混合物を移動相2として用いることができる。ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームを分析するため、An MDS Sciex API QStar四重極飛行時間(Q−TOF)質量分析計(Applied Biosystems社、フォスターシティー、カリフォルニア州)を用いることができる。ここで、負のエレクトロスプレーイオン化(ESI)モード、すなわち、ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームが脱プロトン化された状態でデータを得ることができる。
【0039】
試験試料の特定の形式に対応するジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームをより良好に分離するため、他の形式のHPLCカラム(たとえば、逆相、イオン交換、順相カラム)、または移動相系もまた用いることができる。
【0040】
質量分析は、特有のリン脂質種を評価するための一般的なツールである。TOF−MSおよびTOF−MS/MSに加えて、他の形式の質量分析もまた、試験試料中のジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPを評価するために用いることができる。質量分析は、三つの基本的な部品を有している:イオン源、質量分析計、そして検出器である。エレクトロスプレーイオン化源は、LC−MSにおいて最も一般的に用いられる。ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPを分析するために用いられる他の形式のイオン化源は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)である。質量分析のいくつかの種類は、個々のジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームを分析するために用いることができ、このような質量分析の種類として、三段四重極(TSQ MS)法、四重極飛行時間法、四重極イオントラップ質量分析法、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴法、およびオービトラップ法を含んでいる。
【0041】
質量分析と組み合わせたガスクロマトグラフィー(GC−MS)およびタンデム質量分析(GS−MS/MS)は、多くの脂質研究において用いられる。たとえば、GC−MS/MSは特定の分子種やホスファチジルグリセロール(PG)の立体的アイソフォームを測定するために用いられる(Fritz et al. Journal of Biological Chemistry 2007;282(7):4613-4625)。リン脂質症の予測のため、類似したGC−MS技術を拡張して生体試料中のジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームを測定することができる。このような場合、GC−MSやGC−MS/MS測定のため、ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームに対して化学的な誘導体化を行うことが必要となる。
【0042】
リン脂質は、205nmにおけるUV吸収によって検出することができる(Patton et al. Journal of Lipid Research 1982;23:190−196)。まずすべてのBMPを他のリン脂質クラスから分離する(上記のような)調製方法を行えば、LCによって分離されたジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームをUV検出によって評価することができる。ELISA、免疫蛍光法、およびRIAのように抗体による検出方法もまた用いられる。ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPの抗リン脂質抗体は標準的な方法で生成することができ、当該抗体は、種々のジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームのレベルをELISA、免疫蛍光法、および放射免疫測定(RIA)によって評価するために用いられる。
【0043】
5.データの正規化
試験試料においてジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのレベルを正規化することは興味深いであろう。一例において、尿中のジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのレベルは、指定期間にわたって集められたすべての尿の量、または血中尿素窒素、血清、または尿クレアチニンといった腎機能のマーカーに基づいて正規化される。他の例では、試験試料中のジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのレベルは、組織重量、全タンパク質(たとえば、BCAタンパク質測定)または全リン測定に基づいて正規化することができる。
【0044】
(試験化合物)
上記の方法は、薬剤候補、承認薬、ビタミン、および栄養補助食品のような様々な化合物のリン脂質症−誘発効果を、評価またはモニターするために用いることができる。抗うつ薬、抗狭心症、抗マラリア、およびコレステロール低下剤を含む50以上のカチオン性両親媒性薬物(CAD)がリン脂質症を誘発すると報告されている。リン脂質症を誘発する薬剤の例としては、アミオダロン(およびその主代謝物であるデスエチルアミオダロン)、アジスロマイシン、クロロキン、ペルヘキシリン、ゲンタマイシン、フルオキセチン、クロルプロマジン、ペルヘキシリン、ベンズアミド、エリスロマイシン、アミカシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、トロスペクトロマイシン、アンブロキソール、ブロムヘキシン、クロザピン、チロロン、ボキシジン、トリパラノール、イプリンドール、ジメリジン、セルトラリン、イミプラミン、クロルサイクリジン、メクリジン、ノルクロルサイクリジン、ヒドロキシジン、およびリポソームの化学療法剤が挙げられる。本明細書中で記載された方法は、このような試験化合物によって誘発されたリン脂質症をモニターするために用いることができる。
【0045】
(患者の管理)
上述のように、動物においてリン脂質症を引き起こす多くの薬剤は、薬剤誘発性QT延長、筋疾患、肝毒性、肺機能不全、または腎毒性といった不要な臨床的副作用と関連付けられる。したがって、本発明は患者の治療を管理する方法を特徴とする。本方法は、ある症状の治療中であるか、または治療を必要としている患者を同定する工程と、患者から試験試料を得る工程と、上記のように、生体試料中の第1バイオマーカーのレベルを決定する工程を有している。患者は、第1バイオマーカーのレベルが所定値以上であるとき、その治療には適していないと判定される。
【0046】
1.心臓毒性
本方法は、試験化合物に対する反応として、心臓毒性が進行する可能性のある患者におけるリン脂質症をモニターするために用いられる。たとえば、薬剤誘発性のQT延長は、多形性心室頻拍(心室頻拍、TdP)および突然死との関連性のため、主要な薬剤安全性に関する懸念事項である。動物およびヒトにリン脂質症を発症させる多くの承認薬は、臨床研究において、QT延長もまた発症させる(表1)。心臓組織においてリン脂質症をモニターする方法がないことにより、QT延長およびTdPの発生における薬剤誘発性リン脂質症の重要性を判定する努力が妨げられている。本発明は、心臓毒性におけるリン脂質症の役割をより明確にするための方法を提供するものである。
【0047】
【表1】

【0048】
2.筋疾患
多くの抗マラリア化合物(たとえば、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、メフロキン、キニーネ、キニジン)はヒトや動物モデルにおいて、リン脂質症、筋疾患および神経損傷の原因となる。アミオダロン、ハロペリドール、およびコラジールなどの、その他に知られているリン脂質症薬剤によっても筋疾患および神経損傷が生じる。薬剤誘発性筋疾患は、しばしば症状が潜在する骨格筋疾患によって隠されてしまうため、診断することが難しいことがある。抗マラリア剤による筋疾患の診断の確認のためには、現在のところ、筋肉生検によるミエロイド小体の検出が必要である。ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームの測定は、本明細書で開示されたように、スクリーニング、および薬剤誘発性筋疾患の病因におけるリン脂質症の役割に関する研究のための非侵襲性の方法を提供する。
【0049】
3.腎臓毒性
本明細書で開示された方法は、試験化合物の腎臓毒性とリン脂質症の同時発生をよりよく理解するために用いられる。たとえば、動物やヒトにおける長期治療、またはグリコシド系抗生物質(たとえば、ゲンタマイシン、トブラマイシン、ネチルマイシン、およびアミカシン)およびクロロキンの投薬の増加は、腎障害を引き起こしうる。リン脂質症と薬剤の腎臓毒性の関係は、十分に理解されていない。ジ−22:6−BMP、ジ−22:6PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームは、ヒトやその他の被験者におけるリン脂質症と試験化合物の腎臓毒性の時間的な関連性を研究するために用いることができる。
【0050】
以下に挙げる特定の例は、一例に過ぎず、方法の如何を問わず開示されたものに限定されるものではないと解釈される。当業者であれば、本明細書中の記載に基づき、さらなる詳細な説明を必要とせず、最大限に本発明を活用することができると解される。本明細書中で引用されたすべての刊行物は、ここにその全体が参考として援用される。さらに、以下で提案されるメカニズムは、特許請求の範囲に記載された発明の範囲をいかようにも制限するものではない。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
アミオダロン、アジスロマイシン、またはシタロプラムによる曝露と薬剤誘発性リン脂質症の発生との関係はフィッシャーラットにおいて研究されている。ラットをアミオダロン(50mg/kg/日)、アジスロマイシン(100mg/kg/日)、シタロプラム(90mg/kg/日)、または薬剤なしの条件でそれぞれ4週間処置した。それぞれの動物から尿試料を採取し、液体/液体抽出法を用いて分析用に調製した。尿試料(1匹のラットにつき200μLの尿)を冷クロロホルム/メタノール(体積比で3:1で混合したもので、400μL)と混合して撹拌混合(ボルテックス)した後、0.1%のギ酸(水溶液で、100μL)を加えた。試料を再度撹拌混合し、5分間静置し、15分間遠心分離した。下層(有機層)を注意深く分離し、乾燥のため濃縮した。乾燥した試料を0.05%のギ酸を含むアセトニトリル/メタノール(体積比で2:1)に入れ、30μLとなるように再調製した。
【0052】
質量分析を組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC/MS)を用いてそれぞれの尿試料の分子プロファイルを得た。Gilson 235のオートインジェクター(Gilson社、ミドルタウン、ウィスコンシン州、アメリカ合衆国)およびAgilent 1100バイナリポンプ(Agilent Technologies社、パロアルト、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)を用いて150×2.00mmのSynergi Hydro−RPカラム(Phenomenex社、トーランス、カリフォルニア州、アメリカ合衆国)に試料を注入した。移動相Aは、0.25%水酸化アンモニウム、0.05%ギ酸を含むメタノール/水(体積比で88:12)とした。移動相Bは、0.25%水酸化アンモニウム、0.05%ギ酸を含むメタノール/ヘキサン(体積比で80:20)とした。流速は0.25mL/分とした。初期条件はAを60%およびBを40%とし、15分間、徐々にBを増加させて90%となるようにした。
【0053】
An MDS Sciex API QStar Pulsar四重極飛行時間質量分析計(TOF−MS;Applied Biosystems社、フォスターシティー、カリフォルニア州)を用いて検出した。負のエレクトロスプレーイオン化法によってイオン化し、TOF MSモード(m/z 100〜2000)でフルスキャンすることによりデータを収集した。ターボイオンスプレーのインターフェイスは425℃とし、クラスタ分離電位は−50Vでイオンスプレー電圧を−4.2kVに保持した。それぞれ55および75(任意単位)に設定したネブライザーおよびイオンスプレーガス(窒素)によってイオン化をアシストした。
【0054】
結果を図4、図5Aおよび図5Bに示す。図4に示されるように、予想外に、LC−MS法によってジ−22:6−BMPおよびジ−22:6−PGのアイソフォームが十分に分離された。ジ−22:6−BMPの2,2’アイソフォームが初めにHPLCから溶出し、次に2,3’および3,2’アイソフォーム、そして3,3’アイソフォームが溶出することが見出された。アミオダロンおよびアジスロマイシンによって処置されたものは、初めに溶出するジ−22:6−BMPのアイソフォーム(すなわち、2,2’ジ−22:6−BMP)が著しく増加し、他のアイソフォーム(すなわち、3,2’ジ−22:6−BMP、2,3’ジ−22:6−BMPおよび3,3’ジ−22:6−BMP)の増加は小さいという結果が得られたこともまた予想外であった(図5A)。他方、シタロプラムで処置したものは、最後に溶出するジ−22:6−BMPのアイソフォーム(すなわち、3,3’−ジ−22:6−BMP)が増加し、他のアイソフォームにおいては顕著な変化が見られないという予想外の結果が得られた(図5B)。
【0055】
これらの結果は、薬物がラットの尿中に含まれる異なるジ−22:6−BMPのレベルに対して異なる効果を与える可能性があることを示している。また、上記の結果は、ジ−22:6−BMPのアイソフォームは、個別に、または/および組み合わせで、試験化合物が標的被験者においてリン脂質症を発症させる可能性を評価するためのバイオマーカーとして用いることができることを示している。
【0056】
リスク評価の主要課題は、薬剤毒性を伴うリン脂質症の発症および経時変化を追跡することである。本発明の方法は、異なるジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPのアイソフォームのレベルを決定するものであり、薬剤の毒性に関連してリン脂質症の発症、経時変化および程度を測定するために用いることができる。
【0057】
(実施例2)
リン脂質症のリスク評価における他の課題は、体内において影響を受ける細胞および組織がどの種類であるか決定することである。この例は、ラットにおいて、ホスファチジルグリセロール(PG)、ジ−ドコサヘキサエノイル(C22:6)−PG(ジ−22:6−PG)の特定種がアミオダロンによるリン脂質症と関連していることを示している。したがって、ジ−22:6−BMPおよびモノ−22:6−BMPの異なるアイソフォームを組み合わせてジ−22:6−PGを用いる方法は、肺が肺表面活性物質としてのPGを大量に分泌するため、肺のリン脂質症を特異的に検出するために用いられる。
【0058】
簡単に説明すると、ラットにアミオダロン、クロロキンをそれぞれ投与するか、または薬剤なしとした(ベヒクル)。各ラットから尿を採取し、上記方法でジ−22:6−PGのレベルを評価した。図6および図7に示すように、アミオダロン(肺のリン脂質症および肺毒性を生じさせることがよく知られている化合物)を投与されたラットの尿中のジ−22:6−PGのレベルが増加する一方、クロロキンを投与されたラット、または薬剤を与えなかったラットの尿中ではジ−22:6−PGのレベルが増加しないことが見出された。加えて、アミオダロンによる肺毒性を患っている患者は、他のリン脂質の相対的な組成が変化しないままである(MartinおよびStanding,Pharmacology and Experimental Therapeutics 1988;244(2):774−779)一方で、対照被験者と比較して、気管支肺胞洗浄(BAL)細胞において、全BMP(+64%)、全PG(+1866%)に顕著な増加がみられた。これらの結果は、ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPの異なるアイソフォームが、肺におけるリン脂質症のより良い全体像を得るための方法を提供することを示している。
【0059】
同様に、リン脂質症によって影響を受ける他の臓器を具体的に判定するため、上記方法は、他のリン脂質バイオマーカーと組み合わせて用いることもできる。たとえば、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)とホスファチジルコリン(PC)の増加を伴うジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMPの増加は、特に腎臓のリン脂質症を検出するために用いられうる。他の例として、リゾホスファチジルコリン(LPC)種、または全LPCを組み合わせてジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、およびモノ−22:6−BMP種を用いる方法は、特に肝臓のリン脂質症を検出するために用いられうる。
【0060】
(実施例3)
オスのSprague−Dawleyラットにアミオダロン(150mg/kg)、クロロキン(120mg/kg)、試験化合物A(50mg/kg)または0.5%メチルセルロース(ベヒクル/対照)をそれぞれ14日間連続して、1日1回投与した。4日目および10日目において、薬剤投与後6〜12時間の間にそれぞれの動物から尿試料を採取し、上記分析を行った。
【0061】
結果を図8Aおよび図8Bに示す。アミオダロン(150mg/kg/日)、クロロキン(120mg/kg/日)、試験化合物A(50mg/kg/日)による処置の後、尿中のジ−C22:6−BMPレベルはそれぞれ、4日目までに約0.14倍(114%)、3.4倍(344%)、および10倍(1004%)に増加し、10日目までにそれぞれ、3倍(317%)、6倍(605%)および20倍(2035%)増加した。尿試料中のジ−C22:6−BMPの測定は非侵襲性であるため、リン脂質症と薬物毒性との時間的関係を評価する際に特に有用である。
【0062】
(実施例4)
17日間にわたってラットにおいてアジスロマイシン(150mg/kg/日)によって誘発されるリン脂質症組織を評価するため、上記方法を用いた。11日目および17日目にラットから尿試料を採取し、分析を行った。薬剤を投与されていないラット(対照)と比較して、アジスロマイシンで処置されたラット由来の尿が、より多くのジ−C22:6−BMPを含んでいるという結果が得られた。図9を参照されたい。11日目において、対照となるラットと比較して、アジスロマイシンで処置されたラットは、尿中のジ−C22:6−BMPの平均レベル(1グループにつきn=5匹のラット)が2.6倍増加した。17日目において、対照となるラットと比較して、アジスロマイシンで処置されたラットは、尿中のジ−C22:6−BMPの平均レベル(1グループにつきn=5匹のラット)が約4.5倍増加した。
【0063】
(実施例5)
Sprague−Dawleyラットに対し、肺においてリン脂質症を発症させる試験化合物(化合物B)を投与した。肺組織試料をそれぞれの動物から採取し、分析用に液体/液体抽出法を用いて調製した。肺試料(0.25g/ラット1匹あたり)を、0.1%のギ酸を含む冷酢酸エチル/メタノール(体積比で90:20、500μL)と混合した。試料を撹拌混合(ボルテックス)し、5分間静置し、再び撹拌混合して15分間遠心分離した。最上層を注意深く分離し分離し、乾燥のため濃縮した。乾燥した試料を0.25%の水酸化アンモニウム、0.05%のギ酸を含むメタノール/水(体積比で88:12)に入れ、50μLとなるように再調製し、上記のようにLC−MSによって分析した。
【0064】
結果を図10に示す。化合物ABCで処置されたラットの肺組織において、モノ−22:6−BMP、モノ−18:1−BMPおよびモノ−18:2−BMPのアイソフォームのレベルは増加したが、薬剤で処置されていない(ベヒクルのみで処置された)ラットではレベルの増加は見られなかった。
【0065】
<他の実施形態>
本明細書中で開示されたすべての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせてもよい。本明細書中で開示された各特徴は、同じ、同等、または類似の目的を果たす代替の特徴に置き換えることができる。したがって、明示的に別段の定めをした場合を除き、開示されたそれぞれの特徴は、同等または類似の特徴からなる包括的な系の一例である。
【0066】
いくつかの発明の実施形態を開示したが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の組成物および方法の様々な改良が可能である。したがって、以下の特許請求の範囲内で他の実施形態が含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験化合物が標的被験者にリン脂質症を誘発する活性を評価する方法であって、
(1)試験化合物を投与された被験者から採取された試験試料、
(2)試験化合物と接触した試験細胞の集団、または
(3)前記試験試料または前記試験細胞から単離されたエンドサイトーシス小胞
を含む溶液を得る工程と、
前記試験試料、前記細胞、または前記エンドサイトーシス小胞中の、2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群から選択される第1バイオマーカーのレベルを決定する工程と、を有し、
前記試験化合物は、前記第1バイオマーカーのレベルが、所定のレベル以上であるとき、前記標的被験者にリン脂質症を誘発する前記活性を有すると判定される、方法。
【請求項2】
前記第1バイオマーカーのレベルを、前記所定のレベルと比較する工程をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標的被験者は、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記被験者は、げっ歯類、イヌ、ブタ、ヒト以外の霊長類、またはヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試験試料は、全血検体、血漿試料、血清試料、尿試料、尿沈渣試料、気管肺胞洗浄液の試料、リンパの試料、脳脊髄液の試料、唾液の試料、精液の試料、母乳の試料、糞の試料、または肝臓、腎臓、筋肉、心臓、血管および弁、肺、脾臓、リンパ節、骨髄、皮膚、眼、もしくは脳由来の組織試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記試験細胞の集団は、気管支肺胞洗浄細胞、赤血球、白血球、神経細胞、肝細胞分画、皮膚線維芽細胞、骨髄の組織球、絨毛膜絨毛細胞、網膜色素上皮細胞、または羊水細胞を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記エンドサイトーシス小胞は、エンドソーム、リソソーム、またはエキソソームである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試験細胞は、ヒト肝癌細胞株(HepG2)、二倍体のラット肝上皮細胞株(ARLJ301−3)、チャイニーズハムスターの肺細胞株(CHL/IU)、ベビーハムスター腎細胞(BHK)、ヒト腎臓の腺癌細胞(ヒトの769−P)、ヒト腎臓近位尿細管細胞(HK−2)またはマウスマクロファージ様細胞株(J744A)である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記所定のレベルは、前記試験化合物を投与されていないこと以外は前記被験者と等しい対照被験者から得られたレベルである、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記所定のレベルは、前記試験化合物を投与されていないこと以外は前記試験細胞と等しい対照細胞から得られたレベルである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
第2バイオマーカーのレベルを決定する工程をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2バイオマーカーは、脂質、またはタンパク質である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
BMPの追加種のレベル、全BMP、または全BMPの脂肪酸の分類を決定する工程をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1バイオマーカーのレベルを決定する工程は、LC−MS、LC−MS/MS、GC/MS、GC/MS/MS、またはELISAによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1バイオマーカーのレベルを決定する工程よりも前に、2,2’ジ−22:6−BMP、3,2’ジ−22:6−BMP、2,3’ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPを互いに分離する工程をさらに有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
患者の治療を管理する方法であって、
ある症状の治療中であるか、または治療を必要としている患者を同定する工程と、
前記患者から試験試料を得る工程と、
前記試験試料中の第1バイオマーカーのレベルを決定する工程と、を有し、
前記第1バイオマーカーは、2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP、ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群より選択され、
前記患者は、前記レベルが所定値以上であるとき、前記治療には適していないと判定される、方法。
【請求項17】
前記第1バイオマーカーのレベルを決定する工程よりも前に、2,2’22:6−ジ−BMP、3,2’22:6−ジ−BMP、2,3’22:6−ジ−BMP、およびジ−22:6−PGを互いに分離する工程をさらに有する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ヒト被験者の脂質蓄積障害を診断する方法であって、
前記被験者から試験試料を得る工程と、
前記試験試料中の第1バイオマーカーのレベルを決定する工程と、を有し、
前記第1バイオマーカーは、2,2’−ジ−22:6−BMP、3,2’−ジ−22:6−BMP、2,3’−ジ−22:6−BMP,ジ−22:6−PG、2−モノ−22:6−BMP、および3−モノ−22:6−BMPからなる群より選択され、
所定のレベルに対する前記第1バイオマーカーの発現レベルの増加は、脂質貯蔵障害または該障害の素因を示す、方法。
【請求項19】
前記障害は、ニーマンピック病C型(NPC)であり、前記所定のレベルは、ニーマンピック病C型(NPC)に罹患した対照被験者より得られたレベルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記第1バイオマーカーのレベルを決定する工程よりも前に、2,2’22:6−ジ−BMP、3,2’22:6−ジ−BMP、2,3’22:6−ジ−BMP、およびジ−22:6−PGを互いに分離する工程をさらに有する、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−524260(P2012−524260A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505874(P2012−505874)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2009/064310
【国際公開番号】WO2010/120330
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511248250)ネクストシーイーエー インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】