リン酸、ピロリン酸およびポリリン酸の測定方法、並びにその利用
【課題】本発明は、試料中のケイ酸含量の影響を受けることなく、精度よく、高感度かつ迅速にリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定する方法、並びにその利用を提供する。
【解決手段】ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、試料とを反応させ、該反応により生じる発光を検出することにより、該試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する。
【解決手段】ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、試料とを反応させ、該反応により生じる発光を検出することにより、該試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸、ピロリン酸およびポリリン酸の測定方法、並びにその利用に関するものであって、より具体的には、ケイ酸の影響を受けることなく、精度よく、高感度かつ迅速にリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定することが可能なリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸の測定方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンは全ての生命に必須な元素であり、リン酸およびリン酸化合物は生命現象の多くの局面で多様な役割を果たしている。例えば、エネルギー獲得プロセスやタンパク・脂質の二次代謝、核酸やリン脂質分子の骨格保持などリン酸は生命にとって非常に重要な物質である。また、生物におけるリン酸含有量は多く、環境中のリン酸濃度は数μmol/l程度と希薄であるのに対し、細胞中のリン酸濃度は数mmol/lと環境中のリン酸濃度の1,000倍にも達する。このように、リン酸は生物の生命活動と非常に密接な関係にある。
【0003】
また、リン酸は、工業用水、生活排水、環境水、海水中等に含まれているが、環境への過剰なリン酸放出は、河川、海洋における富栄養化等の環境汚染を引き起こす。このような環境汚染を防止するため、リン酸値の環境基準が定められたり、リン酸放出に関して排水規制が行われたりしている。
【0004】
このように、リン酸は、生物の生命活動にとって必須の化合物であるだけではなく、地球環境保全の観点からも注目される化合物である。そのため、環境分析や臨床検査等様々な分野において、リン酸の定量が行われる。
【0005】
日本工業規格(JIS)では、水中のリン酸の濃度を測定する方法として、測定物質と発色試薬の発色反応を利用する方法が規定されている。より具体的には、現在最も広く利用されているリン酸測定法として、モリブデン吸光光度法が挙げられる(非特許文献1を参照)。
【0006】
モリブデン吸光光度法には、モリブデン黄法と、モリブデン青法とがある。モリブデン黄法では、リン酸イオンにモリブデン酸を加え、モリブデン酸錯体を生成させ、そのモリブデン酸錯体による光吸収(吸光度)を測定する。
【0007】
一方、モリブデン青法は、試料中のリン酸濃度が低い場合に用いられる方法である。具体的には、モリブデン黄法におけるモリブデン酸錯体を、さらにアスコルビン酸で還元し、還元されたモリブデン酸錯体による光吸収(吸光度)を測定する。モリブデン吸光光度法はリン酸の定量性が高い。また、モリブデン青法によれば、感度が高いため、低濃度のリン酸を定量することができる。
【0008】
ところで、ホタルルシフェラーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)を検出するために、一般的に広く用いられている酵素である(非特許文献2を参照)。ホタルルシフェラーゼは、ATP、Mg2+および酸素分子の存在下で、ホタルルシフェリンの酸化を触媒する。このとき、ホタルルシフェリンが酸化された結果生じるオキシルシフェリンが発光する。
【0009】
このような生物発光は迅速、簡便かつ高感度であるため、ルシフェラーゼによるATP検出法によれば、迅速、簡便かつ高感度にATPを検出することができる。そのため、ルシフェラーゼによるATP検出法は、衛生検査の指針であるHACCPの標準法にもなっており、生化学や食品衛生、臨床検査の現場で広く用いられている。
【0010】
また、ルシフェラーゼに関し、その有用性から、様々な改変型ルシフェラーゼが開発されている。例えば、本発明者らは、高感度にATPを検出することが可能なルシフェラーゼを開発し、該ルシフェラーゼは市販されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−159449号公報(平成19(2007)年6月28日公開)
【非特許文献1】奥 修、吸光光度法ノウハウ ケイ酸・リン酸・硝酸塩の定量分析 技報堂(2002年12月発行)
【非特許文献2】DeLuca,M.,and McElroy,W.D.,Kinetics of the firefly luciferase catalyzed reactions. Biochcmistry,26,912-925(1974)
【非特許文献3】Murphy, J. and J.P. Riley (1962): Modified single solution method for the determination of phosphate in natural water., Anal. Chim. Acta. 27, 31-36.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、リン酸測定法としては、モリブデン吸光光度法が広く用いられている。しかしながら、モリブデン酸は、リン酸イオンだけではなく、ケイ酸イオンとも反応する。事実、モリブデン吸光光度法はケイ酸の測定法としても用いられる。そのため、ケイ酸を含有する試料中のリン酸を測定する場合、例えば、非特許文献3に記載されているように、酒石酸を添加して、ケイ酸塩の反応を抑制することが行われる。しかし、該試料中のリン酸の定量の誤差をより小さくするための技術が求められている。
【0012】
また、モリブデン吸光光度法では、モリブデン酸錯体を形成させる必要がある。さらに、モリブデン青法では該モリブデン酸錯体をさらにアスコルビン酸で還元する必要がある。そのため、モリブデン吸光光度法によるリン酸測定は、迅速性に欠けるという問題がある。加えて、モリブデン吸光光度法でポリリン酸を測定する場合、モリブデン酸は、ポリリン酸イオンとは反応しないため、ポリリン酸をリン酸に加水分解した後、測定する必要がある。そのため、モリブデン吸光光度法を用いてポリリン酸を測定する場合、より多くの時間を要するという問題がある。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ケイ酸の影響を受けることなく、精度よく、高感度かつ迅速にリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定する方法、並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の複合体を形成しているルシフェラーゼとルシフェリンと、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸とを反応させると、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の量に依存した強度の光を発することを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の産業上有用な発明を包含する。
【0015】
(1)試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する方法であって、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、試料とを反応させ、該反応により生じる発光を検出することにより、上記試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0016】
(2)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする(1)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0017】
(3)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(1)または(2)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0018】
(4)上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする(3)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0019】
(5)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(1)または(2)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0020】
(6)上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であり、上記ルシフェリンは、ホタルルシフェリンであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0021】
(7)ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を含むことを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0022】
(8)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする(7)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0023】
(9)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(7)または(8)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0024】
(10)上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする(9)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0025】
(11)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(7)または(8)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0026】
(12)上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする(7)〜(11)のいずれかに記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0027】
(13)ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【0028】
(14)上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする(13)に記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【0029】
(15)ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【0030】
(16)上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする(13)〜(15)のいずれかに記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法は、以上のように、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を用い、ルシフェリン存在下で試料と反応させる。このとき、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸は、ATP−ルシフェラーゼ複合体からATPを遊離させる。その結果、ATPとルシフェリンとが反応し、発光する。
【0032】
上記ATPの遊離、すなわち発光量は、該試料中のリン酸においては0.01mM〜10mM程度の範囲、ピロリン酸においては0.001mM〜0.1mM程度の範囲、ポリリン酸においては0.001mM〜10mM程度の範囲でその量に比例する。
【0033】
それゆえ、上記構成によれば、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができるという効果を奏する。
【0034】
また、ルシフェラーゼ触媒によるルシフェリンの酸化反応は、反応速度が速く、さらに、該反応により生じる発光は高感度に検出することができる。さらに、ATP−ルシフェラーゼ複合体から発光反応への推進は、ケイ酸イオンを含め、リン酸イオン以外の陰イオンでは行われない。
【0035】
それゆえ、本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法は、試料中に含まれるケイ酸の影響を受けることなく、高感度に、精度よく、かつ迅速にリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明にかかる一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法(以下、単に「本発明にかかる測定方法」ともいう)は、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する方法である。上記試料は、特に限定されるものではないが、液体試料であることが好ましい。リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料が液体試料でない場合、該試料を溶解可能な溶媒に溶解して、得られた溶液を上記試料として用いることができる。
【0038】
また、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料から、該試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を従来公知の方法で液体中に抽出し、該抽出液を上記試料として用いてもよい。
【0039】
また、上記試料にリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸のうち、複数が混合して含まれる場合、該試料の加水分解処理を行うことにより、該試料中の全リン酸量を測定することができる。
【0040】
上記試料の加水分解処理方法は特に限定されるものではないが、例えば、ポリホスファターゼ(A soluble exopolyphosphatase of Saccharomyces cerevisiae. Purification and characterization. Wurst H, Kornberg A., J Biol Chem. 1994 Apr 15;269(15):10996-11001.を参照)で処理することにより、該試料中のポリリン酸を特異的にリン酸へと加水分解することができる。また、ピロホスファターゼ(Purification of yeast inorganic pyrophosphatase. HEPPEL LA, HILMOE RJ. J Biol Chem. 1951 Sep;192(1):87-94を参照)で処理することにより、該試料中のピロリン酸を特異的にリン酸へと加水分解することができる。したがって、このような方法を用いることにより、ピロリン酸とポリリン酸とを見分けることができる。
【0041】
本明細書において、「リン酸」とは、液体中でリン酸イオンを生じるリン酸化合物、およびリン酸イオンが意図される。また、「ピロリン酸」とは、液体中でピロリン酸イオンを生じるピロリン酸化合物、およびピロリン酸イオンが意図される。さらに、「ポリリン酸」とは、液体中で、ポリリン酸イオン((PO3−)n(nは3以上の整数))を生じるポリリン酸化合物、およびポリリン酸イオンが意図される。
【0042】
本発明にかかる測定方法を用いて測定可能なポリリン酸は特に限定されるものではないが、ポリリン酸に含まれるリン酸基の数nは、3〜1000の整数であることが好ましい。上記範囲内であれば、定量性よくポリリン酸量を測定することができる。
【0043】
本発明にかかる測定方法は、具体的には、アデノシン3リン酸(以下、「ATP」ともいう)とルシフェラーゼとが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、上記試料と、ルシフェリンとを反応させ、該反応により生じる発光を検出する工程(以下、「発光検出工程」ともいう)を含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、上記発光検出工程の前に、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する工程(以下、「複合体取得工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0044】
本発明にかかる測定方法の構成によれば、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体と、上記試料と、ルシフェリンとは、迅速に反応する。該反応の結果、上記試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸量に依存した強度の発光を発する。該発光は、従来公知の方法(詳細は後述する)で高感度に検出することができる。また、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸とは反応するが、ケイ酸やその他の陰イオンとは反応しない。
【0045】
したがって、本発明にかかる測定方法によれば、モリブデン吸光光度法のように試料中のケイ素の影響を受けることなく、高感度に、精度よく、かつ迅速に、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。なお、本発明にかかる測定方法は、その感度は、モリブデン吸光光度法のそれと同等またはそれ以上である。つまり、本発明にかかる測定方法は、現在、最も汎用されるリン酸測定法であるモリブデン吸光光度法に代わるリン酸測定法として用いることができる。
【0046】
以下、本発明にかかる測定方法を構成する上記複合体取得工程および発光検出工程について、より詳細に説明する。
【0047】
<I.複合体取得工程>
複合体取得工程では、ATPとルシフェラーゼとが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する。本明細書において、「ルシフェラーゼ」とは、ATPを基質とするルシフェラーゼおよびそれらの変異型タンパク質が意図され、特に、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることが好ましい。
【0048】
ホタルルシフェラーゼとしては、具体的には、例えば、ゲンジボタル(Luciola cruciata)、ヘイケボタル(Luciola lateralis)、東ヨーロッパのホタル(Luciola mingrelica)、および北アメリカのホタル(Photinus pyralis)等が挙げられる。これらのホタルルシフェラーゼは、それをコードするポリヌクレオチドが単離されており、大腸菌等の異種生物を用いて、組換えタンパク質を製造することができる。それゆえ、ルシフェラーゼタンパク質を容易に大量に取得することができる。
【0049】
さらに、上記例示したようなホタルルシフェラーゼによれば、発光強度や、タンパク質の安定性を向上させた変異型タンパク質を製造することができる。
【0050】
上記変異型タンパク質としては、具体的には、例えば、特開2007−159449号公報に記載の高感度型ルシフェラーゼや、Kajiyama and Nakano, Biochemistry 32, pp.13795-13799, 1993に記載の熱安定性が向上したルシフェラーゼ等を挙げることができる。このような変異型タンパク質によれば、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の検出感度を向上させたり、再現性よくリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定したりすることができる。
【0051】
また、上記変異型タンパク質は、ルシフェラーゼと他のポリペプチドとが融合した融合タンパク質であってもよい。このような融合タンパク質としては、ルシフェラーゼと、該ルシフェラーゼを固定化するために用いられるポリペプチドとの融合タンパク質や、ルシフェラーゼまたはATP−ルシフェラーゼ複合体を精製するために用いるタグが融合された融合タンパク質を挙げることができる。
【0052】
また、本明細書において、「ATP−ルシフェラーゼ複合体」とは、ATPとルシフェラーゼとが結合した複合体が意図され、その結合様式については特に限定されるものではない。ATP−ルシフェラーゼ複合体において、ルシフェラーゼとATPとの結合モル比は特に限定されるものではないが、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合していることが好ましく、0.001〜1:1の範囲で結合していることがより好ましい。
【0053】
また、ルシフェラーゼにおいて、ATPが結合する部位についても特に限定されるものではなく、活性部位(触媒部位)でもよいし、それ以外の部位であってもよい。さらに、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸、好ましくはポリリン酸、より好ましくはトリポリリン酸またはテトラポリリン酸が作用することにより、ATPとルシフェラーゼとに解離することが好ましい。
【0054】
上記複合体取得工程において、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する代表的な方法として、(a)ルシフェラーゼに対してATPを人為的に結合させることにより、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する方法、(b)ルシフェラーゼを発現する生物から、直接ATP−ルシフェラーゼ複合体を抽出し、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する方法を挙げることができる。以下、方法(a)および方法(b)について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0055】
(1)方法(a)
方法(a)では、まず、ルシフェラーゼを用意する。該ルシフェラーゼは、ルシフェラーゼ活性を有するものであればよいが、ATPを基質とするルシフェラーゼであることが好ましい。このようなルシフェラーゼであれば、ATPが結合していない状態のルシフェラーゼ、ATPが結合しているか否かが不明なルシフェラーゼ、およびATPが結合したルシフェラーゼ等、いかなる状態のルシフェラーゼであっても用いることができる。
【0056】
上記ルシフェラーゼは、市販品であってもよいし、ルシフェラーゼを発現する生物から抽出することにより取得してもよい。ルシフェラーゼを発現する生物からルシフェラーゼを抽出する場合、該生物は特に限定されないが、ATPを基質とするルシフェラーゼを発現する生物であることが好ましい。
【0057】
具体的には、例えば、ホタル等、ATPを基質とするルシフェラーゼを天然に発現する生物から、抽出して取得することが好ましい。また、ルシフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られるルシフェラーゼを抽出して取得してもよい。
【0058】
上記組換え発現ベクターは、プラスミドであってもよいが、プラスミドには限定されず、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。
【0059】
宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターが組み込まれていることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0060】
また、ルシフェラーゼを発現する生物から抽出したルシフェラーゼを用いる場合、該ルシフェラーゼは、部分精製または完全精製されていることが好ましい。ルシフェラーゼを発現する生物から、ルシフェラーゼを精製する方法は、特に限定されるものではなく、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製すればよい。
【0061】
また、上記ルシフェラーゼを、無細胞タンパク質合成系(無細胞タンパク質合成法、無細胞タンパク質翻訳系とも呼ぶ)を用いて合成してもよい。無細胞タンパク質合成系としては、例えば、コムギ胚芽抽出液を用いる系、ウサギ網状赤血球抽出液を用いる系、大腸菌S30抽出液を用いる系、および植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液を用いる系が挙げられる。
【0062】
一般的には、真核生物由来遺伝子の翻訳には真核細胞の系、すなわち、コムギ胚芽抽出液を用いる系またはウサギ網状赤血球抽出液を用いる系のいずれかが選択されるが、翻訳される遺伝子の由来(原核生物/真核生物)や、合成後のタンパク質の使用目的を考慮して、上記合成系から選択されればよい。
【0063】
なお、無細胞タンパク質合成系を用いて、ルシフェラーゼを合成する場合、種々の市販のキットが用いることができる。さらに、上記ルシフェラーゼは、化学合成により合成してもよい。
【0064】
また、上記ルシフェラーゼとして、変異型ルシフェラーゼを用いる場合、該変異型ルシフェラーゼは、天然に存在する変異型ルシフェラーゼであっても、人為的に作製された変異型ルシフェラーゼであってもよい。変異型ルシフェラーゼを人為的に作製する場合、その作製方法は、特に限定されるものではない。
【0065】
例えば、部位特異的変異誘発法(例えば、Hashimoto-Gotoh, Gene 152, 271-275(1995)を参照)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異ポリペプチドを作製する方法、またはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異ポリペプチド作製法を用いることによって、変異型ルシフェラーゼを作製することができる。なお、変異型ルシフェラーゼの作製には市販のキットを利用してもよい。
【0066】
方法(a)では、次に、上記例示したような方法で調製したルシフェラーゼに対して、ATPを結合させる。具体的には、上記ルシフェラーゼとATPとを溶液中で混合し、得られた混合液をインキュベートすることにより、上記ルシフェラーゼとATPとを結合させる。上記混合液の溶媒は、特に限定されるものではないが、2価金属イオンを含有することが好ましい。
【0067】
上記2価金属イオンとしては、具体的には、例えば、Mg2+、Ca2+、Mn2+等を挙げることができ、中でも、Mg2+であることが好ましい。上記2価金属イオンの濃度は特に限定されるものではないが、具体的には、0.1〜100mMであることが好ましく、1〜10mMであることがより好ましい。
【0068】
また、上記溶媒は、pH4〜9の緩衝液であることが好ましく、pH7〜8の緩衝液であることがより好ましい。より具体的には、上記溶媒として、保存液(50mM Tris−HCl、8mM MgCl2、5%トレハロース、pH7.4)、または、50mM Tricin−NaOH、5mM AcCl2、5% トレハロース,pH 7.4を用いることが好ましい。上記溶媒によれば、ルシフェラーゼを安定化することができる。
【0069】
また、上記混合液におけるルシフェラーゼとATPとの混合比率、インキュベーション温度およびインキュベーション時間は、特に限定されるものではなく、ATP−ルシフェラーゼ複合体を形成可能な混合比率、温度および時間であればよい。
【0070】
具体的には、例えば、上記混合比率をモル比で1:0.001〜100、好ましくは1:0.1〜1とし、上記インキュベーション温度を4〜30℃、好ましくは18〜28℃とし、さらに、上記インキュベーション時間を10〜1000分間、好ましくは30〜60分間とする実施形態が挙げられる。さらに、上記混合液におけるルシフェラーゼ濃度およびATP濃度は特に限定されるものではない。
【0071】
方法(a)では、次に、上記混合液をインキュベーションした後、ルシフェラーゼに結合していないATPを除去する。ATPを除去する方法は特に限定されるものではない。例えば、タンパク質と低分子化合物とを分離するクロマトグラフィー(例えば、脱塩カラムを用いたクロマトグラフィー)により、ATPを除去することができる。また、上記ルシフェラーゼに結合していないATPは、アピラーゼ等ATP分解酵素によって、酵素的に除去することができる。
【0072】
また、上記混合液に大過剰のルシフェリン、具体的には、例えば、ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量、好ましくは1〜10倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃、好ましくは4〜8℃で、1〜20時間、好ましくは12〜16時間インキュベーションし、ルシフェラーゼに結合していないATPを該反応によって消費することによっても除去することができる。
【0073】
上記例示したような方法で、上記混合液からATPを除去することにより、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得することができる。なお、上記ルシフェリンは、特に限定されるものではなく、上記ルシフェラーゼの基質となりうるルシフェリンを用いればよい。例えば、上記ルシフェラーゼとしてホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質を用いる場合、上記ルシフェリンとしてホタルルシフェリンを用いればよい。
【0074】
(2)方法(b)
方法(b)では、ルシフェラーゼを発現する生物からATP−ルシフェラーゼ複合体を直接抽出する。抽出後、さらに、該ATP−ルシフェラーゼ複合体を部分精製または完全精製することが好ましい。
【0075】
方法(b)では、ATP−ルシフェラーゼ複合体の抽出および精製の過程において、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いる。ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸は、ATP−ルシフェラーゼ複合体をATPとルシフェラーゼとに解離させる。したがって、上記緩衝液を用いることにより、上記生物内に存在するATP−ルシフェラーゼ複合体を、ATPとルシフェラーゼとに解離させることなく、ATP−ルシフェラーゼ複合体の状態で抽出および精製することができる。
【0076】
特に、ATP−ルシフェラーゼ複合体の精製の最終段階では、緩衝液にリン酸を含有させないことが好ましい。これにより、ATPとルシフェラーゼとの解離をより効果的に抑制することができる。なお、上記ルシフェラーゼを発現する生物は、特に限定されるものではなく、上記例示したような生物、すなわち、ATPを基質とするルシフェラーゼを天然に発現する生物、および組換えルシフェラーゼタンパク質を発現する形質転換体生物を好ましく用いることができる。
【0077】
以上、複合体取得工程について、詳細に説明したが、本発明には、該複合体取得工程、換言すれば、ATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法も含まれる。
【0078】
<II.発光検出工程>
発光検出工程では、上記複合体取得工程で取得したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料とを反応させる。そして、該反応により生じる発光を検出する。
【0079】
上記発光検出工程において、上記反応は、溶液中で行うことが好ましい。該溶液の溶媒は特に限定されるものではなく、上記反応を進行させることが可能な溶媒であればよい。具体的には、2価金属イオンを含有し、pH4〜9、好ましくはpH7〜8の緩衝液であることが好ましい。
【0080】
上記2価金属イオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Mn2+等を挙げることができ、中でも、Mg2+であることが好ましい。上記2価金属イオンの濃度は特に限定されるものではないが、0.1〜100mMであることが好ましく、1〜10mMであることがより好ましい。
【0081】
より具体的には、上記溶媒として、保存液(50mM Tris−HCl、8mM MgCl2、5%トレハロース、pH7.4)を好ましく用いることができる。このような緩衝液を用いることにより、上記反応中、pHが一定範囲に維持されるため、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を安定に、かつ、再現性よく測定することができる。
【0082】
また、上記反応は酸素と接する溶液中で行うことが好ましい。ルシフェラーゼが触媒する反応は、ルシフェリンの酸化反応である。つまり、上記反応には、酸素が必要である。したがって、上記のように、酸素と接する溶液中で反応を行うことにより、人為的に酸素を送り込まなくとも、溶液と酸素との接触界面から酸素が溶液中に溶解するため、上記反応を進行させることができる。
【0083】
上記の反応系に加えるATP−ルシフェラーゼ複合体の添加量は特に限定されるものではなく、ルシフェラーゼの活性や、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の量等に応じて、適宜設定されるものである。一般的には、約100μl程のスケールで、0.1nmol〜10μmol、好ましくは1nmol〜4nmolのATP−ルシフェラーゼ複合体を上記反応系に加える。
【0084】
また、上記反応を溶液中で行う場合、その反応液中のATP−ルシフェラーゼ複合体の濃度は、1μM〜100mM、好ましくは10μM〜40μMとする。上記範囲内でATP−ルシフェラーゼ複合体を上記反応系に加えることにより、広い濃度範囲で、精度よく、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0085】
上記反応の反応系に加えるルシフェリンは、特に限定されるものではなく、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体を構成するルシフェラーゼの基質となりうるものであればよい。具体的には、例えば、ATP−ルシフェラーゼ複合体を構成するルシフェラーゼがホタルルシフェラーゼである場合には、上記ルシフェリンとしてホタルルシフェリンを用いることが好ましい。また、上記ルシフェリンは、ルシフェリンを天然に合成する生物から取得してもよいし、化学合成により取得してもよい。もちろん、市販品を用いてもよい。
【0086】
また、上記反応系に加えるルシフェリンの添加量は、ATP−ルシフェラーゼ複合体に対して過剰量であればよく特に限定されない。具体的には、ATP−ルシフェラーゼ複合体に対して、1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加することが好ましく、5〜30倍モル量のルシフェリンを添加することがより好ましい。上記範囲内で、ルシフェリンを添加することにより、上記試料中に含まれるリン酸、ピロリン酸、またはポリリン酸を定量的に測定することができる。
【0087】
上記発光検出工程において、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料の添加量は、特に限定されるものではない。具体的には、既知濃度のリン酸溶液またはポリリン酸溶液を用いて、本発明にかかる測定方法により検量線を作成し、該検量線において直線性のあるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の濃度範囲に含まれるように、上記試料を適宜希釈または濃縮して添加すればよい。
【0088】
試料中の特定の物質を定量する場合、このように、検量線を作成し、該特定の物質を測定する試料の測定値が、その検量線で直線性のある範囲に含まれるように、該試料を適宜希釈もしくは濃縮して添加することは、当業者が日常的に行う常套手段である。
【0089】
また、上記反応の反応温度および反応時間は特に限定されるものではなく、発光が生じることが可能な反応温度および反応時間であればよい。一般的には、ルシフェラーゼの発光応答に要する時間は非常に短い。また、反応温度は、一般的には、10〜20℃とすることが好ましい。また、上記反応を行うための容器も特に限定されるものではなく、上記反応により生じる発光の検出を妨げないものであればよい。例えば、マイクロチューブ、マイクロプレートおよびマイクロチャネルチップ等を用いることができる。
【0090】
また、上記発光検出工程において、上記発光の検出に用いる装置は、特に限定されるものではなく、光量を測定することが可能な装置であればよい。具体的には、例えば、ルミノメーター、ゲルマニウムフォトダイオード、ガリウムヒ素フォトダイオード、フォトトランジスタ、CCD素子等を用いることができる。
【0091】
また、発光の測定時間および測定温度は特に限定されない。測定時間は、一連の試料の測定において、同一すればよく、具体的な測定時間や、測定開始時期は特に限定されない。また、より測定精度を向上させるために、測定は複数回行い、その平均値を測定値として採用することが好ましい。また、測定温度は特に限定されるものではないが、一般的には室温、具体的には、10〜20℃で行えばよい。
【0092】
本発明にかかる測定方法は、上記発光検出工程を少なくとも備えているため、上記発光検出工程における反応により生じる発光を検出することにより、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0093】
本発明にかかる測定方法を用いて、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を定量する場合、具体的には、まず、濃度が既知のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を含む標準溶液を作製し、該標準溶液を用いて、本発明にかかる測定方法を実施し、検量線を作成する。その後、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料を用いて、本発明にかかる測定方法を実施する。その結果得られた光量値を検量線に照らすことで、上記試料に含まれるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を定量することができる。
【0094】
以上のように、本発明にかかる測定方法によれば、ルシフェラーゼを用いてリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を定量することができる。ルシフェラーゼの触媒によるルシフェリンの酸化反応は、非常に反応速度が高いため、本発明にかかる測定方法によれば、従来汎用されるモリブデン吸光光度法よりも、迅速にリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0095】
また、ルシフェリンの酸化反応により生じる発光は、高感度に検出することができるため、本発明にかかる測定方法によれば、試料中に含まれる微量なリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0096】
さらに、本発明にかかる測定方法で用いるATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸とは反応するが、ケイ酸等の陰イオンとは反応しない。そのため、モリブデン吸光光度法とは異なり、本発明にかかる測定方法によれば、試料中に含まれるケイ酸の影響を受けずに、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を精度よく測定することができる。
【0097】
また、本発明にかかる測定方法では、ポリリン酸を加水分解せずにそのままの状態で測定することができる。そのため、モリブデン吸光光度法のような従来法と比較して、簡便にポリリン酸の測定を行うことができる。
【0098】
以上、本発明の一実施形態としてリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法について説明したが、本発明は、別の実施形態として、本発明にかかる測定方法を実施するために好適に利用可能なリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット(以下、単に「本発明にかかる測定キット」ともいう)を提供する。
【0099】
本発明にかかる測定キットは、本発明にかかる測定方法を実施するために用いる試薬、器具、および装置のうち、少なくとも1つを含むものであればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。具体的には、例えば、上述したATP−ルシフェラーゼ複合体を含むキットを挙げることができる。
【0100】
また、別の実施形態としては、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体に加えて、上記発光検出工程で用いるルシフェリン、緩衝液、反応容器(発光測定用容器)、および発光検出装置等を含むキットが挙げられる。
【0101】
本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キットの構成品は、本発明にかかる測定方法に用いられるものであることを、本明細書を読んだ当業者には容易に理解されるものである。
【0102】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0103】
本発明について、実施例および比較例、並びに図1〜図13に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0104】
〔実施例1:ATP−ルシフェラーゼ複合体の調製〕
北米産ホタル由来ルシフェラーゼ(以下、「野生型ルシフェラーゼ」ともいう)をコードする遺伝子および本発明者らが独自に取得した高感度型ルシフェラーゼ(以下、「ルシフェラーゼFM」ともいう)をコードする遺伝子を、それぞれ、pET28a(Novagen)に挿入した。
【0105】
得られた発現ベクターを大腸菌HMS174(DE3)株に形質転換した。該形質転換体大腸菌を、最終濃度50μg/mlのカナマイシン硫酸塩を添加した1lのTerrific培地(トリプトン12g、酵母エキス24g、グリセロール4ml、KH2PO4 2.31g、K2HPO412.54g)で培養し、対数増殖期に最終濃度1mMとなるようにIPTGを加え、ルシフェラーゼの発現を誘導した。
【0106】
培養後、上記形質転換体大腸菌を集菌し、リン酸緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH7.4)を菌体1gに対して10mlの割合で添加し、懸濁後、菌体を超音波破砕した。その後、30,000×gで30分間遠心分離を行い、得られた上清に最終濃度0.17mMになるようにPMSFを添加して、さらに30,000×gで30分間遠心分離を行った。その後、回収した上清を0.45μmのフィルターでろ過後、0.2μmのフィルターで濾過した。
【0107】
こうして得られた濾液から野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMをニッケルカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製した。まず、His-Trap HP 5ml(GE Helthcare Biosciences)に対し、50mlの結合緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、20mMイミダゾール、pH7.4)を流速5ml/minで供し、カラムの平衡化を行った。
【0108】
菌体15g相当分の上記濾液を該カラムに供し、100〜150mlの結合緩衝液Aを用いてカラムを平衡化後、上記結合緩衝液Aと溶出緩衝液B(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、500mMイミダゾール、pH7.4)とを用いて、イミダゾール濃度を10分間で20mMから500mMに上昇させるリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出した。回収した溶出画分を約2.5mlずつPD−10(GE Helthcare Biosciences)に供し、緩衝液を保存液(50mM Tris−HCl 、8mM MgCl2、20%トレハロース、pH7.4)に置換した。
【0109】
なお、PD−10による緩衝液置換により、上記溶出画分の容量は、2倍量となった。こうして緩衝液が置換された上記溶出画分に対してアピラーゼを500U添加し、37℃で1時間保温して、再度上記と同様の方法で精製した。
【0110】
得られた溶出画分はPD−10に供し、緩衝液を、保存液(50mM Tris−HCl、8mM MgCl2、5%トレハロース、pH7.4)に置換して、その後、最終濃度1.5mMになるようにルシフェリンを添加し、北米産ホタル由来ルシフェラーゼとルシフェリンとを含む反応液(以下、「野生型ルシフェラーゼ反応液」ともいう)、および高感度型ルシフェラーゼとルシフェリンとを含む反応液(以下、「ルシフェラーゼFM反応液」ともいう)を得た。
【0111】
なお、野生型ルシフェラーゼ反応液およびルシフェラーゼFM反応液に含まれるルシフェラーゼ(ATP−ルシフェラーゼ複合体)を、以下、それぞれ、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMと称する。上記野生型ルシフェラーゼ反応液およびルシフェラーゼFM反応液中のルシフェラーゼ酵素量は、いずれも0.25mg/mlであった。
【0112】
〔比較例1、ATP非結合型ルシフェラーゼの調製〕
上記と同じ高感度型ルシフェラーゼをコードする遺伝子をpET28a(Novagen)に挿入した。得られた発現ベクターを大腸菌HMS174(DE3)株に形質転換して、最終濃度50μg/mlのカナマイシン硫酸塩を添加した1lのTerrific培地(トリプトン12g、酵母エキス24g、グリセロール4ml、KH2PO42.31g、K2HPO4 12.54g)で培養し、対数増殖期に最終濃度1mMとなるようにIPTGを加え、ルシフェラーゼの発現を誘導した。
【0113】
培養後、該形質転換体大腸菌を集菌し、菌体1gに対して10mlのリン酸緩衝液B(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、5mMヘキサメタリン酸ナトリウム、pH7.4)を加え、菌体を懸濁後、超音波破砕した。その後、30,000×gで30分間遠心分離を行い、得られた上清に最終濃度0.17mMとなるようにPMSFを添加して、さらに30,000×gで30分間遠心分離を行った。回収した上清を0.45μmのフィルターでろ過後、0.2μmのフィルターで濾過した。
【0114】
こうして得られた濾液から高感度型ルシフェラーゼを、ニッケルカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。His-Trap HP 1mlに対し、10mlの結合緩衝液C(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、20mMイミダゾール、5mMヘキサメタリン酸ナトリウム、pH7.4)を流速1ml/minで供し、カラムの平衡化を行った。
【0115】
その後、上記濾液をカラムに供し、10mlの結合緩衝液Cでカラムを洗浄後、20〜30mlの結合緩衝液Aでカラムの平衡化を行った。その後、10分間のリニアグラジェントにより、結合緩衝液Aから溶出緩衝液Bに溶液を置換し、タンパク質を溶出した。
【0116】
回収した溶出画分を約2.5mlずつPD−10に供し、緩衝液を保存液に置換した後、最終濃度1.5mMとなるようにルシフェリンを添加し、高感度型ルシフェラーゼとルシフェリンとを含む反応液(以下、「ルシフェラーゼFM2反応液」ともいう)を得た。なお、ルシフェラーゼFM2反応液に含まれる高感度型ルシフェラーゼ(ATP非結合型ルシフェラーゼ)を、以下、ルシフェラーゼFM2を称する。上記ルシフェラーゼFM2反応液中のルシフェラーゼ酵素量は0.25mg/mlとした。
【0117】
なお、比較例1では、ヘキサメタリン酸によってルシフェラーゼからATPを遊離させ、ATP非結合型ルシフェラーゼを取得したが、該ATP非結合型ルシフェラーゼの調製方法の詳細については、上記特許文献1を参照されたい。
【0118】
〔実施例2:ATP−ルシフェラーゼ複合体のリン酸およびピロリン酸に対する応答〕
滅菌水(超純水を121℃、90分間オートクレーブで滅菌処理したもの)を用いて、1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)および1Mピロリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液および1Mピロリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、500mM、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0119】
実施例1で調製した野生型ルシフェラーゼ反応液またはルシフェラーゼFM反応液をルミチューブ(キッコーマン)に45μlずつ入れた。そこに、上記のリン酸ナトリウムまたはピロリン酸ナトリウムの希釈溶液を5μlずつ加えて、1秒後にルミテスターC−100(キッコーマン)で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。図1および図2は、それぞれ、リン酸ナトリウム濃度と発光値との関係をグラフ化した図、およびピロリン酸ナトリウム濃度と発光値との関係をグラフ化した図である。
【0120】
図1に示すように、野生型ルシフェラーゼ反応液およびルシフェラーゼFM反応液に滅菌水を添加したときの発光強度は、それぞれ、82(rlu)および92(rlu)であった。野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、ともに、リン酸を添加すると、発光応答を示した(図1を参照)。リン酸添加に対する発光応答による発光値は、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMともに、リン酸濃度が100mMのときが最も高かった。
【0121】
また、100μM〜100mMの濃度範囲では、添加するリン酸濃度の上昇に伴い、発光値が増加した。一方、100mM以上の濃度のリン酸を添加すると、100mMリン酸を添加したときよりも逆に発光値は減少した。
【0122】
ピロリン酸添加に対しても、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、ともに発光応答を示したが、その最大発光は、1mMの濃度のピロリン酸を添加したときに観察された(図2を参照)。また、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMともに、100μM〜1mMの濃度範囲では、添加するピロリン酸の濃度の増加に伴って発光値が上昇する傾向が見られた。一方、1mM以上の高濃度のピロリン酸を添加すると、1mMのピロリン酸を添加したときよりも逆に発光値は減少した。
【0123】
〔実施例3:発光応答のリン酸およびピロリン酸に対する依存性の確認〕
実施例2と同様に、1Mリン酸ナトリウム溶液および1Mピロリン酸ナトリウム溶液を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、100mMリン酸ナトリウム溶液を調製した。同様に、1Mピロリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、1mMピロリン酸ナトリウム溶液を調製した。
【0124】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、100mMリン酸ナトリウム溶液または1mMピロリン酸ナトリウム溶液を5μlずつ加えて、1秒後から70分間、10分間隔で、ルミテスターC−100により発光値を測定した。70分後、各反応液(50μl)にさらに100mMリン酸ナトリウム溶液または1mMピロリン酸ナトリウム溶液を5μlずつ添加して、10秒間発光値を測定した。その結果を図3および図4に示す。なお、図3は、ルシフェラーゼFMに100mMリン酸ナトリウム溶液を添加後、経時的に発光値を測定し結果を示す図であり、図4は、ルシフェラーゼFMに1mMピロリン酸ナトリウム溶液を添加後、経時的に発光値を測定した結果を示す図である。
【0125】
図3および図4に示すように、リン酸ナトリウムおよびピロリン酸ナトリウムのどちらの希釈溶液を添加した場合にも、約60分経過後にはほぼ発光が終了した。すなわち、ATP−ルシフェラーゼ複合体のATPがすべて消費されたことを意味する。実際70分間反応させた後、100mMリン酸ナトリウム溶液または1mMのピロリン酸ナトリウム溶液を反応液に添加したが、発光は見られなかった。これはまた、観察された発光がリン酸溶液またはピロリン酸溶液に混入したATPによるものではないことを意味する。
【0126】
〔実施例4:リン酸およびピロリン酸の定量性の検証〕
実施例2と同様に、1Mリン酸ナトリウム溶液および1Mピロリン酸ナトリウム溶液を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、5mM、2mM、1mM、500μM、100μM、50μM、および10μMの希釈溶液を調製した。また、1Mピロリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、100μM、50μM、10μM、5μM、2μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0127】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液をルミチューブに45μlずつ入れ、そこに、上記のリン酸ナトリウムまたはピロリン酸ナトリウムの希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。そして、横軸をリン酸またはピロリン酸濃度、縦軸を発光強度として、測定した発光値をプロットし、近似線を作成した。
【0128】
その結果、図5に示すように、ルシフェラーゼFM反応液に添加するリン酸濃度が10μM〜5mMの濃度範囲のとき、リン酸濃度と発光値とは直線関係にあった。最低では1μMのリン酸の検出が可能であった。同様に、図6に示すように、ルシフェラーゼFM反応液に添加するピロリン酸濃度が1μM〜100μMの濃度範囲のとき、ピロリン酸濃度と発光値は直線関係であった。最低では0.1μMのピロリン酸の検出が可能であった。これらの結果から、本実施例の条件では、1μM〜5mMの濃度範囲でリン酸を定量的に測定できることがわかった。また、ピロリン酸については、0.1μM〜100μMの濃度範囲で、定量的に測定できることがわかった。
【0129】
〔実施例5:各種陰イオンに対するATP−ルシフェラーゼ複合体の応答〕
滅菌水を用いて、1M塩化ナトリウム溶液(pH7.4)、1M硫酸ナトリウム溶液(pH7.4)、1M硝酸ナトリウム溶液(pH7.4)、1M炭酸ナトリウム溶液(pH7.4)、1Mケイ酸ナトリウム溶液(pH7.4)、および1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)をそれぞれ調製した。その後、調製した各溶液を121℃、90分間オートクレーブで滅菌処理した。滅菌処理後、各溶液を滅菌水で希釈し、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0130】
実施例1で調製した野生型ルシフェラーゼ反応液またはルシフェラーゼFM反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこで、上記の各種希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。
【0131】
その結果、図7および図8に示すように、リン酸イオン以外の陰イオン、具体的には、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、およびケイ酸イオンに対しては、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMともに、発光応答を示さなかった。このことから、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMはともに、ケイ酸イオン等の陰イオンには発光応答せず、リン酸イオンに対して特異的に発光応答することがわかった。
【0132】
〔実施例6:各鎖長のリン酸に対するATP−ルシフェラーゼ複合体の応答〕
滅菌水を用いて、100mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMピロリン酸(Pn=2)ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMトリポリリン酸(Pn=3)ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMテトラポリリン酸(Pn=4)ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMヘキサメタリン酸(Pn=〜13)ナトリウム溶液(pH7.4)、および100mMポリリン酸(Pn=〜65)ナトリウム溶液(pH7.4)を調製した。次に、調製した各溶液を滅菌水で希釈して、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0133】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、上記の各種希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。
【0134】
その結果、図9に示すように、全ての鎖長のポリリン酸において、リン酸やピロリン酸と同様の発光応答が見られた。各鎖長のポリリン酸のうち、トリポリリン酸およびテトラポリリン酸は、低濃度における発光値が最も高かった。また、リン酸鎖長が長くなるにつれて発光応答が減少する傾向が見られた。このように、ルシフェラーゼは、リン酸やピロリン酸だけではなく、ポリリン酸化合物に対しても発光応答を示した。このことから、本発明にかかる測定方法によれば、ポリリン酸をリン酸まで加水分解することなく、ポリリン酸のまま、直接測定できることがわかった。
【0135】
〔実施例7:ATP−ルシフェラーゼ複合体とATP非結合型ルシフェラーゼとにおけるリン酸への応答の比較〕
滅菌水を用いて、1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)を滅菌水で希釈して、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0136】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液または比較例1で調製したルシフェラーゼFM2(ATP非結合型)反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、1.65nM、165pM、16.5pM、1.65pM、165fMのATP溶液を5μlずつ加えて、1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。これにより、ルシフェラーゼFMとルシフェラーゼFM2との酵素活性を比較した。
【0137】
その結果、図10に示すように、ATPに対する発光応答は、いずれのルシフェラーゼでも同等であった。したがって、ルシフェラーゼFMおよびルシフェラーゼFM2は、ともに、同等の酵素活性を有することがわかった。
【0138】
次に、実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液または比較例1で調製したルシフェラーゼFM2反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、上記のリン酸ナトリウム希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。
【0139】
その結果、図11に示すように、リン酸に対して、ルシフェラーゼFMは発光応答を示したが、ルシフェラーゼFM2は発光応答を示さなかった。比較例1に記載したように、ルシフェラーゼFM2の精製段階には、ATP非結合型にするヘキサメタリン酸を添加した緩衝液を用いたため、リン酸に応答しなかった。つまり、リン酸に対するルシフェラーゼの発光応答は、ATPが結合しているルシフェラーゼによる発光応答であると考えられる。
【0140】
以上の実施例1〜7、比較例1の結果から、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMにはATPが結合しており、ルシフェリン存在下で、リン酸や高分子リン酸が添加されると、ルシフェラーゼに結合しているATPが遊離し、発光するものと考えられる。つまり、実施例1で調製した野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、本発明にかかるATP−ルシフェラーゼ複合体である。
【0141】
また、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMはルシフェリンが存在していても、リン酸や高分子リン酸を添加しないと発光しない。このことから、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMに結合しているATPは、酵素活性中心とは別の領域に結合していることが考えられる。
【0142】
さらに、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、リン酸イオン以外の各種陰イオンに対して発光応答しなかったことから、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMに結合しているATPは、リン酸イオン以外の各種陰イオンの添加によっては遊離しないと考えられる。つまり、ATPの野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMへの結合は、静電的な結合様式によるものだけではないと考えられる。このことは、ATPのリン酸鎖長に近いトリポリリン酸やテトラポリリン酸に対して、最も強い発光応答を示したことからも示唆される。
【0143】
〔実施例8:市販品ルシフェラーゼFM2を用いたATP−ルシフェラーゼ複合体の調製、および該ATP−ルシフェラーゼ複合体を用いたリン酸測定〕
市販品ルシフェラーゼFM−2(Lot No.0601004) 1mg(luciferase 60kDa:17nmol)を990μlの滅菌水に溶解し、ルシフェラーゼFM−2溶液を得た。次に、そのルシフェラーゼFM−2溶液に16.5μmol、1.65μmol、165nmol、16.5nmol、1.65nmol、165pmolのATPを添加し、30分間室温に放置した。これにより、ATP−ルシフェラーゼ複合体が形成される。
【0144】
その後、ATPとルシフェラーゼFM−2との混合液(換言すれば、ATP−ルシフェラーゼ複合体を含有する溶液)のそれぞれに、最終濃度1.5mMになるようにD−ルシフェリンを添加し、反応液の一部の50μlを用いて、ルミノメーターで発光を測定した。残りの反応液は、4℃で一晩保温した。これにより、ルシフェラーゼFM−2に結合していないATPが除去される。次に、一晩4℃で保温した反応液から50μlを採取し、発光値を測定した。
【0145】
その結果、表1に示すように、ATP/ルシフェラーゼが1〜10といったモル比によるATP添加では、複合体形成に関与しなかったATPが一晩の反応でも反応しきれずに残存していることが確認できた。
【0146】
一方、ATP/ルシフェラーゼが1/10〜1/1000のモル比によるATP添加では、複合体形成に関与しなかったATPが一晩の反応で、ほぼ除去された。このような条件で調製したATP−ルシフェラーゼ複合体をリン酸の測定に用いると、バックグラウンドが高いため、高感度なリン酸検出ができない。したがって、これらのモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸測定に用いることができることが分かった。
【0147】
【表1】
【0148】
また、4℃で一晩保温した残りの反応液(ATP/ルシフェラーゼ=1を除く)を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、実施例7と同様に調製した1μM〜100mMのリン酸ナトリウム溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。4℃で一晩保温した残りの反応液(ATP/ルシフェラーゼ=1)は、ルミテスターC−100に比べて低感度なARVO社製のプレートリーダーで測定した。
【0149】
その結果、図12に示すように、ATP/ルシフェラーゼ=1のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体が各リン酸濃度における発光応答が非常に高かった。ATP/ルシフェラーゼが1/100以下のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体の発光応答が低いのは、複合体形成に関与するATP量が少ないためであると考えられる。
【0150】
また、ATP/ルシフェラーゼが1/10以上のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体の発光応答が低いのは、複合体形成に関与しなかったATPの除去反応で生じたAMPやオキシルシフェリンによる酵素反応阻害によるものであると考えられる。
【0151】
以上の結果から、ATP/ルシフェラーゼが1/100のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体によれば、もっとも高感度な検出が可能であることが分かった。
【0152】
〔実施例9:限外濾過によるATP−ルシフェラーゼ複合体の調製およびリン酸による結合ATP量測定〕
実施例1で調製したルシフェラーゼFMを用いて、ルシフェラーゼFMが滅菌水に溶解した溶液(濃度:16.7nmol/ml)を1ml調製した。その後、該溶液を、FM2緩衝液(50mM Tricine−NaOH、5%トレハロース、pH7.8)で100倍希釈し、終濃度0.167nmol/mlのルシフェラーゼFM溶液を得た。
【0153】
次に、ATP粉末10.1mgを滅菌水1mlに溶解して、16.7μmol/mlのATP溶液を調製した。該ATP溶液を、上記FM2緩衝液で103倍、104倍、105倍に希釈して、16.7nmol/ml、1.67nmol/ml、0.167nmol/mlのATP溶液を得た。これらATP溶液の濃度は、それぞれ、上記ルシフェラーゼFM溶液の濃度の100倍、10倍、1倍であった。
【0154】
さらに、D−ルシフェリン溶液とリン酸溶液とを調製した。D−ルシフェリン溶液は、D−ルシフェリンカリウム25.5mgを滅菌水1mlに溶解して調製した。また、リン酸溶液は、予め調製しておいた100mM KH2PO4溶液と100mM K2HPO4溶液とを混合し、pH7.4に調製し、上記FM2緩衝液で10倍希釈することにより。10mMリン酸溶液を調製した。
【0155】
上記のようにして調製したルシフェラーゼFM溶液、ATP溶液、およびD−ルシフェリン溶液を用いて、以下の方法で、ATP−ルシフェラーゼ複合体を調製した。
【0156】
上記ルシフェラーゼFM溶液 1ml(ルシフェラーゼFM:0.167nmol)に上記各濃度のATP溶液 1ml(それぞれATP:16.7nmol、1.67nmol、0.167nmol)を混合し、室温で30分間反応させた。
【0157】
こうして得られた反応溶液のうち50μlを限外濾過チューブ(MILLPORE ULTRAFREE - 0.5 BIOMAX 10K NMWL)に移し、12,000×gで20分間遠心分離した。上記反応溶液の残りの溶液に、上記D−ルシフェリン溶液をD−ルシフェリンの最終濃度が2mMになるように添加した。
【0158】
その後、アルミで遮光し、4℃で一晩反応させた。こうして一晩反応させた混合溶液500μlを限外濾過チューブ(MILLPORE ULTRAFREE - 0.5 BIOMAX 10K NMWL)に添加し、12,000×gで20分間遠心分離した。
【0159】
遠心分離後の限外濾過チューブのカップ内にFM2緩衝液500μlを添加し、懸濁後、12,000×gで20分間遠心分離し、濾液におけるATP量を測定した。この操作を、上記濾液におけるATPが検出されなくなるまで繰り返し行い、ルシフェラーゼFMに結合していないATPをすべて除去した。これにより、ATPとルシフェラーゼFMとが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を得た。
【0160】
こうして得られたATP−ルシフェラーゼ複合体について、以下の方法により、該複合体に含まれるATP量を測定した。
【0161】
上記濾液にATPが検出されなくなった後、限外濾過チューブのカップにリン酸溶液を500μl添加後、よく懸濁し、1時間撹拌反応した。反応後12,000×gで20分間遠心分離し、濾液のATP量を測定した。リン酸により解離するATPがなくなったと判断されるまでこの操作を繰り返した。
【0162】
その結果、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体におけるATPとルシフェラーゼFMとの比(ATP/ルシフェラーゼ)は、約0.4であった。なお、上記各過程でのATP量の変化を表2に示す。また、複合体から、リン酸処理により解離するATP量を表3に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、ATP−ルシフェラーゼ複合体を用いて、リン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定するため、試料中のケイ酸の影響を受けることなく、精度よく、高感度かつ迅速に、試料に含まれるリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定することができる。したがって、本発明は、環境分析や臨床検査等の分野に用いることができるだけではなく、医療分野、食品分野、農業分野、化学分野、および環境分野等、リン酸やピロリン酸、ポリリン酸を測定するあらゆる産業分野に広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】図1は、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMのリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図2】図2は、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMのピロリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図3】図3は、ルシフェラーゼFMの100mMリン酸に対する発光応答を経時的に測定した結果を示す図である。
【図4】図4は、ルシフェラーゼFMの1mMピロリン酸に対する発光応答を経時的に測定した結果を示す図である。
【図5】図5は、ルシフェラーゼFMに添加するリン酸濃度と発光値との関係を示す図である。
【図6】図6は、ルシフェラーゼFMに添加するピロリン酸濃度と発光値との関係を示す図である。
【図7】図7は、各種陰イオンに対する野生型ルシフェラーゼの発光応答を示す図である。
【図8】図8は、各種陰イオンに対するルシフェラーゼFMの発光応答を示す図である。
【図9】図9は、各種鎖長のリン酸に対するルシフェラーゼFMの発光応答を示す図である。
【図10】図10は、ルシフェラーゼFMおよびルシフェラーゼFM2の酵素活性を測定した結果を示す図である。
【図11】図11は、ルシフェラーゼFMおよびルシフェラーゼFM2のリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図12】図12は、ATPが結合したルシフェラーゼFM−2のリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図13】図13は、ATPが結合したルシフェラーゼFM−2のリン酸に対する発光応答を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸、ピロリン酸およびポリリン酸の測定方法、並びにその利用に関するものであって、より具体的には、ケイ酸の影響を受けることなく、精度よく、高感度かつ迅速にリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定することが可能なリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸の測定方法、並びにその利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンは全ての生命に必須な元素であり、リン酸およびリン酸化合物は生命現象の多くの局面で多様な役割を果たしている。例えば、エネルギー獲得プロセスやタンパク・脂質の二次代謝、核酸やリン脂質分子の骨格保持などリン酸は生命にとって非常に重要な物質である。また、生物におけるリン酸含有量は多く、環境中のリン酸濃度は数μmol/l程度と希薄であるのに対し、細胞中のリン酸濃度は数mmol/lと環境中のリン酸濃度の1,000倍にも達する。このように、リン酸は生物の生命活動と非常に密接な関係にある。
【0003】
また、リン酸は、工業用水、生活排水、環境水、海水中等に含まれているが、環境への過剰なリン酸放出は、河川、海洋における富栄養化等の環境汚染を引き起こす。このような環境汚染を防止するため、リン酸値の環境基準が定められたり、リン酸放出に関して排水規制が行われたりしている。
【0004】
このように、リン酸は、生物の生命活動にとって必須の化合物であるだけではなく、地球環境保全の観点からも注目される化合物である。そのため、環境分析や臨床検査等様々な分野において、リン酸の定量が行われる。
【0005】
日本工業規格(JIS)では、水中のリン酸の濃度を測定する方法として、測定物質と発色試薬の発色反応を利用する方法が規定されている。より具体的には、現在最も広く利用されているリン酸測定法として、モリブデン吸光光度法が挙げられる(非特許文献1を参照)。
【0006】
モリブデン吸光光度法には、モリブデン黄法と、モリブデン青法とがある。モリブデン黄法では、リン酸イオンにモリブデン酸を加え、モリブデン酸錯体を生成させ、そのモリブデン酸錯体による光吸収(吸光度)を測定する。
【0007】
一方、モリブデン青法は、試料中のリン酸濃度が低い場合に用いられる方法である。具体的には、モリブデン黄法におけるモリブデン酸錯体を、さらにアスコルビン酸で還元し、還元されたモリブデン酸錯体による光吸収(吸光度)を測定する。モリブデン吸光光度法はリン酸の定量性が高い。また、モリブデン青法によれば、感度が高いため、低濃度のリン酸を定量することができる。
【0008】
ところで、ホタルルシフェラーゼは、アデノシン三リン酸(ATP)を検出するために、一般的に広く用いられている酵素である(非特許文献2を参照)。ホタルルシフェラーゼは、ATP、Mg2+および酸素分子の存在下で、ホタルルシフェリンの酸化を触媒する。このとき、ホタルルシフェリンが酸化された結果生じるオキシルシフェリンが発光する。
【0009】
このような生物発光は迅速、簡便かつ高感度であるため、ルシフェラーゼによるATP検出法によれば、迅速、簡便かつ高感度にATPを検出することができる。そのため、ルシフェラーゼによるATP検出法は、衛生検査の指針であるHACCPの標準法にもなっており、生化学や食品衛生、臨床検査の現場で広く用いられている。
【0010】
また、ルシフェラーゼに関し、その有用性から、様々な改変型ルシフェラーゼが開発されている。例えば、本発明者らは、高感度にATPを検出することが可能なルシフェラーゼを開発し、該ルシフェラーゼは市販されている(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2007−159449号公報(平成19(2007)年6月28日公開)
【非特許文献1】奥 修、吸光光度法ノウハウ ケイ酸・リン酸・硝酸塩の定量分析 技報堂(2002年12月発行)
【非特許文献2】DeLuca,M.,and McElroy,W.D.,Kinetics of the firefly luciferase catalyzed reactions. Biochcmistry,26,912-925(1974)
【非特許文献3】Murphy, J. and J.P. Riley (1962): Modified single solution method for the determination of phosphate in natural water., Anal. Chim. Acta. 27, 31-36.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、リン酸測定法としては、モリブデン吸光光度法が広く用いられている。しかしながら、モリブデン酸は、リン酸イオンだけではなく、ケイ酸イオンとも反応する。事実、モリブデン吸光光度法はケイ酸の測定法としても用いられる。そのため、ケイ酸を含有する試料中のリン酸を測定する場合、例えば、非特許文献3に記載されているように、酒石酸を添加して、ケイ酸塩の反応を抑制することが行われる。しかし、該試料中のリン酸の定量の誤差をより小さくするための技術が求められている。
【0012】
また、モリブデン吸光光度法では、モリブデン酸錯体を形成させる必要がある。さらに、モリブデン青法では該モリブデン酸錯体をさらにアスコルビン酸で還元する必要がある。そのため、モリブデン吸光光度法によるリン酸測定は、迅速性に欠けるという問題がある。加えて、モリブデン吸光光度法でポリリン酸を測定する場合、モリブデン酸は、ポリリン酸イオンとは反応しないため、ポリリン酸をリン酸に加水分解した後、測定する必要がある。そのため、モリブデン吸光光度法を用いてポリリン酸を測定する場合、より多くの時間を要するという問題がある。
【0013】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、ケイ酸の影響を受けることなく、精度よく、高感度かつ迅速にリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定する方法、並びにその利用を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の複合体を形成しているルシフェラーゼとルシフェリンと、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸とを反応させると、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の量に依存した強度の光を発することを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の産業上有用な発明を包含する。
【0015】
(1)試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する方法であって、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、試料とを反応させ、該反応により生じる発光を検出することにより、上記試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0016】
(2)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする(1)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0017】
(3)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(1)または(2)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0018】
(4)上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする(3)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0019】
(5)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(1)または(2)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0020】
(6)上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であり、上記ルシフェリンは、ホタルルシフェリンであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【0021】
(7)ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を含むことを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0022】
(8)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする(7)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0023】
(9)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(7)または(8)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0024】
(10)上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする(9)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0025】
(11)上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする(7)または(8)に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0026】
(12)上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする(7)〜(11)のいずれかに記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【0027】
(13)ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【0028】
(14)上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする(13)に記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【0029】
(15)ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【0030】
(16)上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする(13)〜(15)のいずれかに記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法は、以上のように、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を用い、ルシフェリン存在下で試料と反応させる。このとき、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸は、ATP−ルシフェラーゼ複合体からATPを遊離させる。その結果、ATPとルシフェリンとが反応し、発光する。
【0032】
上記ATPの遊離、すなわち発光量は、該試料中のリン酸においては0.01mM〜10mM程度の範囲、ピロリン酸においては0.001mM〜0.1mM程度の範囲、ポリリン酸においては0.001mM〜10mM程度の範囲でその量に比例する。
【0033】
それゆえ、上記構成によれば、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができるという効果を奏する。
【0034】
また、ルシフェラーゼ触媒によるルシフェリンの酸化反応は、反応速度が速く、さらに、該反応により生じる発光は高感度に検出することができる。さらに、ATP−ルシフェラーゼ複合体から発光反応への推進は、ケイ酸イオンを含め、リン酸イオン以外の陰イオンでは行われない。
【0035】
それゆえ、本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法は、試料中に含まれるケイ酸の影響を受けることなく、高感度に、精度よく、かつ迅速にリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明にかかる一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法(以下、単に「本発明にかかる測定方法」ともいう)は、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する方法である。上記試料は、特に限定されるものではないが、液体試料であることが好ましい。リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料が液体試料でない場合、該試料を溶解可能な溶媒に溶解して、得られた溶液を上記試料として用いることができる。
【0038】
また、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料から、該試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を従来公知の方法で液体中に抽出し、該抽出液を上記試料として用いてもよい。
【0039】
また、上記試料にリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸のうち、複数が混合して含まれる場合、該試料の加水分解処理を行うことにより、該試料中の全リン酸量を測定することができる。
【0040】
上記試料の加水分解処理方法は特に限定されるものではないが、例えば、ポリホスファターゼ(A soluble exopolyphosphatase of Saccharomyces cerevisiae. Purification and characterization. Wurst H, Kornberg A., J Biol Chem. 1994 Apr 15;269(15):10996-11001.を参照)で処理することにより、該試料中のポリリン酸を特異的にリン酸へと加水分解することができる。また、ピロホスファターゼ(Purification of yeast inorganic pyrophosphatase. HEPPEL LA, HILMOE RJ. J Biol Chem. 1951 Sep;192(1):87-94を参照)で処理することにより、該試料中のピロリン酸を特異的にリン酸へと加水分解することができる。したがって、このような方法を用いることにより、ピロリン酸とポリリン酸とを見分けることができる。
【0041】
本明細書において、「リン酸」とは、液体中でリン酸イオンを生じるリン酸化合物、およびリン酸イオンが意図される。また、「ピロリン酸」とは、液体中でピロリン酸イオンを生じるピロリン酸化合物、およびピロリン酸イオンが意図される。さらに、「ポリリン酸」とは、液体中で、ポリリン酸イオン((PO3−)n(nは3以上の整数))を生じるポリリン酸化合物、およびポリリン酸イオンが意図される。
【0042】
本発明にかかる測定方法を用いて測定可能なポリリン酸は特に限定されるものではないが、ポリリン酸に含まれるリン酸基の数nは、3〜1000の整数であることが好ましい。上記範囲内であれば、定量性よくポリリン酸量を測定することができる。
【0043】
本発明にかかる測定方法は、具体的には、アデノシン3リン酸(以下、「ATP」ともいう)とルシフェラーゼとが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、上記試料と、ルシフェリンとを反応させ、該反応により生じる発光を検出する工程(以下、「発光検出工程」ともいう)を含んでいればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、上記発光検出工程の前に、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する工程(以下、「複合体取得工程」ともいう)を含んでいてもよい。
【0044】
本発明にかかる測定方法の構成によれば、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体と、上記試料と、ルシフェリンとは、迅速に反応する。該反応の結果、上記試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸量に依存した強度の発光を発する。該発光は、従来公知の方法(詳細は後述する)で高感度に検出することができる。また、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸とは反応するが、ケイ酸やその他の陰イオンとは反応しない。
【0045】
したがって、本発明にかかる測定方法によれば、モリブデン吸光光度法のように試料中のケイ素の影響を受けることなく、高感度に、精度よく、かつ迅速に、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。なお、本発明にかかる測定方法は、その感度は、モリブデン吸光光度法のそれと同等またはそれ以上である。つまり、本発明にかかる測定方法は、現在、最も汎用されるリン酸測定法であるモリブデン吸光光度法に代わるリン酸測定法として用いることができる。
【0046】
以下、本発明にかかる測定方法を構成する上記複合体取得工程および発光検出工程について、より詳細に説明する。
【0047】
<I.複合体取得工程>
複合体取得工程では、ATPとルシフェラーゼとが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する。本明細書において、「ルシフェラーゼ」とは、ATPを基質とするルシフェラーゼおよびそれらの変異型タンパク質が意図され、特に、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることが好ましい。
【0048】
ホタルルシフェラーゼとしては、具体的には、例えば、ゲンジボタル(Luciola cruciata)、ヘイケボタル(Luciola lateralis)、東ヨーロッパのホタル(Luciola mingrelica)、および北アメリカのホタル(Photinus pyralis)等が挙げられる。これらのホタルルシフェラーゼは、それをコードするポリヌクレオチドが単離されており、大腸菌等の異種生物を用いて、組換えタンパク質を製造することができる。それゆえ、ルシフェラーゼタンパク質を容易に大量に取得することができる。
【0049】
さらに、上記例示したようなホタルルシフェラーゼによれば、発光強度や、タンパク質の安定性を向上させた変異型タンパク質を製造することができる。
【0050】
上記変異型タンパク質としては、具体的には、例えば、特開2007−159449号公報に記載の高感度型ルシフェラーゼや、Kajiyama and Nakano, Biochemistry 32, pp.13795-13799, 1993に記載の熱安定性が向上したルシフェラーゼ等を挙げることができる。このような変異型タンパク質によれば、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の検出感度を向上させたり、再現性よくリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定したりすることができる。
【0051】
また、上記変異型タンパク質は、ルシフェラーゼと他のポリペプチドとが融合した融合タンパク質であってもよい。このような融合タンパク質としては、ルシフェラーゼと、該ルシフェラーゼを固定化するために用いられるポリペプチドとの融合タンパク質や、ルシフェラーゼまたはATP−ルシフェラーゼ複合体を精製するために用いるタグが融合された融合タンパク質を挙げることができる。
【0052】
また、本明細書において、「ATP−ルシフェラーゼ複合体」とは、ATPとルシフェラーゼとが結合した複合体が意図され、その結合様式については特に限定されるものではない。ATP−ルシフェラーゼ複合体において、ルシフェラーゼとATPとの結合モル比は特に限定されるものではないが、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合していることが好ましく、0.001〜1:1の範囲で結合していることがより好ましい。
【0053】
また、ルシフェラーゼにおいて、ATPが結合する部位についても特に限定されるものではなく、活性部位(触媒部位)でもよいし、それ以外の部位であってもよい。さらに、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸、好ましくはポリリン酸、より好ましくはトリポリリン酸またはテトラポリリン酸が作用することにより、ATPとルシフェラーゼとに解離することが好ましい。
【0054】
上記複合体取得工程において、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する代表的な方法として、(a)ルシフェラーゼに対してATPを人為的に結合させることにより、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する方法、(b)ルシフェラーゼを発現する生物から、直接ATP−ルシフェラーゼ複合体を抽出し、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得する方法を挙げることができる。以下、方法(a)および方法(b)について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0055】
(1)方法(a)
方法(a)では、まず、ルシフェラーゼを用意する。該ルシフェラーゼは、ルシフェラーゼ活性を有するものであればよいが、ATPを基質とするルシフェラーゼであることが好ましい。このようなルシフェラーゼであれば、ATPが結合していない状態のルシフェラーゼ、ATPが結合しているか否かが不明なルシフェラーゼ、およびATPが結合したルシフェラーゼ等、いかなる状態のルシフェラーゼであっても用いることができる。
【0056】
上記ルシフェラーゼは、市販品であってもよいし、ルシフェラーゼを発現する生物から抽出することにより取得してもよい。ルシフェラーゼを発現する生物からルシフェラーゼを抽出する場合、該生物は特に限定されないが、ATPを基質とするルシフェラーゼを発現する生物であることが好ましい。
【0057】
具体的には、例えば、ホタル等、ATPを基質とするルシフェラーゼを天然に発現する生物から、抽出して取得することが好ましい。また、ルシフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られるルシフェラーゼを抽出して取得してもよい。
【0058】
上記組換え発現ベクターは、プラスミドであってもよいが、プラスミドには限定されず、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。
【0059】
宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターが組み込まれていることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0060】
また、ルシフェラーゼを発現する生物から抽出したルシフェラーゼを用いる場合、該ルシフェラーゼは、部分精製または完全精製されていることが好ましい。ルシフェラーゼを発現する生物から、ルシフェラーゼを精製する方法は、特に限定されるものではなく、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製すればよい。
【0061】
また、上記ルシフェラーゼを、無細胞タンパク質合成系(無細胞タンパク質合成法、無細胞タンパク質翻訳系とも呼ぶ)を用いて合成してもよい。無細胞タンパク質合成系としては、例えば、コムギ胚芽抽出液を用いる系、ウサギ網状赤血球抽出液を用いる系、大腸菌S30抽出液を用いる系、および植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液を用いる系が挙げられる。
【0062】
一般的には、真核生物由来遺伝子の翻訳には真核細胞の系、すなわち、コムギ胚芽抽出液を用いる系またはウサギ網状赤血球抽出液を用いる系のいずれかが選択されるが、翻訳される遺伝子の由来(原核生物/真核生物)や、合成後のタンパク質の使用目的を考慮して、上記合成系から選択されればよい。
【0063】
なお、無細胞タンパク質合成系を用いて、ルシフェラーゼを合成する場合、種々の市販のキットが用いることができる。さらに、上記ルシフェラーゼは、化学合成により合成してもよい。
【0064】
また、上記ルシフェラーゼとして、変異型ルシフェラーゼを用いる場合、該変異型ルシフェラーゼは、天然に存在する変異型ルシフェラーゼであっても、人為的に作製された変異型ルシフェラーゼであってもよい。変異型ルシフェラーゼを人為的に作製する場合、その作製方法は、特に限定されるものではない。
【0065】
例えば、部位特異的変異誘発法(例えば、Hashimoto-Gotoh, Gene 152, 271-275(1995)を参照)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異ポリペプチドを作製する方法、またはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異ポリペプチド作製法を用いることによって、変異型ルシフェラーゼを作製することができる。なお、変異型ルシフェラーゼの作製には市販のキットを利用してもよい。
【0066】
方法(a)では、次に、上記例示したような方法で調製したルシフェラーゼに対して、ATPを結合させる。具体的には、上記ルシフェラーゼとATPとを溶液中で混合し、得られた混合液をインキュベートすることにより、上記ルシフェラーゼとATPとを結合させる。上記混合液の溶媒は、特に限定されるものではないが、2価金属イオンを含有することが好ましい。
【0067】
上記2価金属イオンとしては、具体的には、例えば、Mg2+、Ca2+、Mn2+等を挙げることができ、中でも、Mg2+であることが好ましい。上記2価金属イオンの濃度は特に限定されるものではないが、具体的には、0.1〜100mMであることが好ましく、1〜10mMであることがより好ましい。
【0068】
また、上記溶媒は、pH4〜9の緩衝液であることが好ましく、pH7〜8の緩衝液であることがより好ましい。より具体的には、上記溶媒として、保存液(50mM Tris−HCl、8mM MgCl2、5%トレハロース、pH7.4)、または、50mM Tricin−NaOH、5mM AcCl2、5% トレハロース,pH 7.4を用いることが好ましい。上記溶媒によれば、ルシフェラーゼを安定化することができる。
【0069】
また、上記混合液におけるルシフェラーゼとATPとの混合比率、インキュベーション温度およびインキュベーション時間は、特に限定されるものではなく、ATP−ルシフェラーゼ複合体を形成可能な混合比率、温度および時間であればよい。
【0070】
具体的には、例えば、上記混合比率をモル比で1:0.001〜100、好ましくは1:0.1〜1とし、上記インキュベーション温度を4〜30℃、好ましくは18〜28℃とし、さらに、上記インキュベーション時間を10〜1000分間、好ましくは30〜60分間とする実施形態が挙げられる。さらに、上記混合液におけるルシフェラーゼ濃度およびATP濃度は特に限定されるものではない。
【0071】
方法(a)では、次に、上記混合液をインキュベーションした後、ルシフェラーゼに結合していないATPを除去する。ATPを除去する方法は特に限定されるものではない。例えば、タンパク質と低分子化合物とを分離するクロマトグラフィー(例えば、脱塩カラムを用いたクロマトグラフィー)により、ATPを除去することができる。また、上記ルシフェラーゼに結合していないATPは、アピラーゼ等ATP分解酵素によって、酵素的に除去することができる。
【0072】
また、上記混合液に大過剰のルシフェリン、具体的には、例えば、ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量、好ましくは1〜10倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃、好ましくは4〜8℃で、1〜20時間、好ましくは12〜16時間インキュベーションし、ルシフェラーゼに結合していないATPを該反応によって消費することによっても除去することができる。
【0073】
上記例示したような方法で、上記混合液からATPを除去することにより、ATP−ルシフェラーゼ複合体を取得することができる。なお、上記ルシフェリンは、特に限定されるものではなく、上記ルシフェラーゼの基質となりうるルシフェリンを用いればよい。例えば、上記ルシフェラーゼとしてホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質を用いる場合、上記ルシフェリンとしてホタルルシフェリンを用いればよい。
【0074】
(2)方法(b)
方法(b)では、ルシフェラーゼを発現する生物からATP−ルシフェラーゼ複合体を直接抽出する。抽出後、さらに、該ATP−ルシフェラーゼ複合体を部分精製または完全精製することが好ましい。
【0075】
方法(b)では、ATP−ルシフェラーゼ複合体の抽出および精製の過程において、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いる。ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸は、ATP−ルシフェラーゼ複合体をATPとルシフェラーゼとに解離させる。したがって、上記緩衝液を用いることにより、上記生物内に存在するATP−ルシフェラーゼ複合体を、ATPとルシフェラーゼとに解離させることなく、ATP−ルシフェラーゼ複合体の状態で抽出および精製することができる。
【0076】
特に、ATP−ルシフェラーゼ複合体の精製の最終段階では、緩衝液にリン酸を含有させないことが好ましい。これにより、ATPとルシフェラーゼとの解離をより効果的に抑制することができる。なお、上記ルシフェラーゼを発現する生物は、特に限定されるものではなく、上記例示したような生物、すなわち、ATPを基質とするルシフェラーゼを天然に発現する生物、および組換えルシフェラーゼタンパク質を発現する形質転換体生物を好ましく用いることができる。
【0077】
以上、複合体取得工程について、詳細に説明したが、本発明には、該複合体取得工程、換言すれば、ATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法も含まれる。
【0078】
<II.発光検出工程>
発光検出工程では、上記複合体取得工程で取得したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料とを反応させる。そして、該反応により生じる発光を検出する。
【0079】
上記発光検出工程において、上記反応は、溶液中で行うことが好ましい。該溶液の溶媒は特に限定されるものではなく、上記反応を進行させることが可能な溶媒であればよい。具体的には、2価金属イオンを含有し、pH4〜9、好ましくはpH7〜8の緩衝液であることが好ましい。
【0080】
上記2価金属イオンとしては、例えば、Mg2+、Ca2+、Mn2+等を挙げることができ、中でも、Mg2+であることが好ましい。上記2価金属イオンの濃度は特に限定されるものではないが、0.1〜100mMであることが好ましく、1〜10mMであることがより好ましい。
【0081】
より具体的には、上記溶媒として、保存液(50mM Tris−HCl、8mM MgCl2、5%トレハロース、pH7.4)を好ましく用いることができる。このような緩衝液を用いることにより、上記反応中、pHが一定範囲に維持されるため、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を安定に、かつ、再現性よく測定することができる。
【0082】
また、上記反応は酸素と接する溶液中で行うことが好ましい。ルシフェラーゼが触媒する反応は、ルシフェリンの酸化反応である。つまり、上記反応には、酸素が必要である。したがって、上記のように、酸素と接する溶液中で反応を行うことにより、人為的に酸素を送り込まなくとも、溶液と酸素との接触界面から酸素が溶液中に溶解するため、上記反応を進行させることができる。
【0083】
上記の反応系に加えるATP−ルシフェラーゼ複合体の添加量は特に限定されるものではなく、ルシフェラーゼの活性や、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の量等に応じて、適宜設定されるものである。一般的には、約100μl程のスケールで、0.1nmol〜10μmol、好ましくは1nmol〜4nmolのATP−ルシフェラーゼ複合体を上記反応系に加える。
【0084】
また、上記反応を溶液中で行う場合、その反応液中のATP−ルシフェラーゼ複合体の濃度は、1μM〜100mM、好ましくは10μM〜40μMとする。上記範囲内でATP−ルシフェラーゼ複合体を上記反応系に加えることにより、広い濃度範囲で、精度よく、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0085】
上記反応の反応系に加えるルシフェリンは、特に限定されるものではなく、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体を構成するルシフェラーゼの基質となりうるものであればよい。具体的には、例えば、ATP−ルシフェラーゼ複合体を構成するルシフェラーゼがホタルルシフェラーゼである場合には、上記ルシフェリンとしてホタルルシフェリンを用いることが好ましい。また、上記ルシフェリンは、ルシフェリンを天然に合成する生物から取得してもよいし、化学合成により取得してもよい。もちろん、市販品を用いてもよい。
【0086】
また、上記反応系に加えるルシフェリンの添加量は、ATP−ルシフェラーゼ複合体に対して過剰量であればよく特に限定されない。具体的には、ATP−ルシフェラーゼ複合体に対して、1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加することが好ましく、5〜30倍モル量のルシフェリンを添加することがより好ましい。上記範囲内で、ルシフェリンを添加することにより、上記試料中に含まれるリン酸、ピロリン酸、またはポリリン酸を定量的に測定することができる。
【0087】
上記発光検出工程において、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料の添加量は、特に限定されるものではない。具体的には、既知濃度のリン酸溶液またはポリリン酸溶液を用いて、本発明にかかる測定方法により検量線を作成し、該検量線において直線性のあるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の濃度範囲に含まれるように、上記試料を適宜希釈または濃縮して添加すればよい。
【0088】
試料中の特定の物質を定量する場合、このように、検量線を作成し、該特定の物質を測定する試料の測定値が、その検量線で直線性のある範囲に含まれるように、該試料を適宜希釈もしくは濃縮して添加することは、当業者が日常的に行う常套手段である。
【0089】
また、上記反応の反応温度および反応時間は特に限定されるものではなく、発光が生じることが可能な反応温度および反応時間であればよい。一般的には、ルシフェラーゼの発光応答に要する時間は非常に短い。また、反応温度は、一般的には、10〜20℃とすることが好ましい。また、上記反応を行うための容器も特に限定されるものではなく、上記反応により生じる発光の検出を妨げないものであればよい。例えば、マイクロチューブ、マイクロプレートおよびマイクロチャネルチップ等を用いることができる。
【0090】
また、上記発光検出工程において、上記発光の検出に用いる装置は、特に限定されるものではなく、光量を測定することが可能な装置であればよい。具体的には、例えば、ルミノメーター、ゲルマニウムフォトダイオード、ガリウムヒ素フォトダイオード、フォトトランジスタ、CCD素子等を用いることができる。
【0091】
また、発光の測定時間および測定温度は特に限定されない。測定時間は、一連の試料の測定において、同一すればよく、具体的な測定時間や、測定開始時期は特に限定されない。また、より測定精度を向上させるために、測定は複数回行い、その平均値を測定値として採用することが好ましい。また、測定温度は特に限定されるものではないが、一般的には室温、具体的には、10〜20℃で行えばよい。
【0092】
本発明にかかる測定方法は、上記発光検出工程を少なくとも備えているため、上記発光検出工程における反応により生じる発光を検出することにより、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0093】
本発明にかかる測定方法を用いて、試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を定量する場合、具体的には、まず、濃度が既知のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を含む標準溶液を作製し、該標準溶液を用いて、本発明にかかる測定方法を実施し、検量線を作成する。その後、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する試料を用いて、本発明にかかる測定方法を実施する。その結果得られた光量値を検量線に照らすことで、上記試料に含まれるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を定量することができる。
【0094】
以上のように、本発明にかかる測定方法によれば、ルシフェラーゼを用いてリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を定量することができる。ルシフェラーゼの触媒によるルシフェリンの酸化反応は、非常に反応速度が高いため、本発明にかかる測定方法によれば、従来汎用されるモリブデン吸光光度法よりも、迅速にリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0095】
また、ルシフェリンの酸化反応により生じる発光は、高感度に検出することができるため、本発明にかかる測定方法によれば、試料中に含まれる微量なリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することができる。
【0096】
さらに、本発明にかかる測定方法で用いるATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸とは反応するが、ケイ酸等の陰イオンとは反応しない。そのため、モリブデン吸光光度法とは異なり、本発明にかかる測定方法によれば、試料中に含まれるケイ酸の影響を受けずに、リン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を精度よく測定することができる。
【0097】
また、本発明にかかる測定方法では、ポリリン酸を加水分解せずにそのままの状態で測定することができる。そのため、モリブデン吸光光度法のような従来法と比較して、簡便にポリリン酸の測定を行うことができる。
【0098】
以上、本発明の一実施形態としてリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法について説明したが、本発明は、別の実施形態として、本発明にかかる測定方法を実施するために好適に利用可能なリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット(以下、単に「本発明にかかる測定キット」ともいう)を提供する。
【0099】
本発明にかかる測定キットは、本発明にかかる測定方法を実施するために用いる試薬、器具、および装置のうち、少なくとも1つを含むものであればよく、その具体的な構成は特に限定されるものではない。具体的には、例えば、上述したATP−ルシフェラーゼ複合体を含むキットを挙げることができる。
【0100】
また、別の実施形態としては、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体に加えて、上記発光検出工程で用いるルシフェリン、緩衝液、反応容器(発光測定用容器)、および発光検出装置等を含むキットが挙げられる。
【0101】
本発明にかかるリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キットの構成品は、本発明にかかる測定方法に用いられるものであることを、本明細書を読んだ当業者には容易に理解されるものである。
【0102】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0103】
本発明について、実施例および比較例、並びに図1〜図13に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0104】
〔実施例1:ATP−ルシフェラーゼ複合体の調製〕
北米産ホタル由来ルシフェラーゼ(以下、「野生型ルシフェラーゼ」ともいう)をコードする遺伝子および本発明者らが独自に取得した高感度型ルシフェラーゼ(以下、「ルシフェラーゼFM」ともいう)をコードする遺伝子を、それぞれ、pET28a(Novagen)に挿入した。
【0105】
得られた発現ベクターを大腸菌HMS174(DE3)株に形質転換した。該形質転換体大腸菌を、最終濃度50μg/mlのカナマイシン硫酸塩を添加した1lのTerrific培地(トリプトン12g、酵母エキス24g、グリセロール4ml、KH2PO4 2.31g、K2HPO412.54g)で培養し、対数増殖期に最終濃度1mMとなるようにIPTGを加え、ルシフェラーゼの発現を誘導した。
【0106】
培養後、上記形質転換体大腸菌を集菌し、リン酸緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、pH7.4)を菌体1gに対して10mlの割合で添加し、懸濁後、菌体を超音波破砕した。その後、30,000×gで30分間遠心分離を行い、得られた上清に最終濃度0.17mMになるようにPMSFを添加して、さらに30,000×gで30分間遠心分離を行った。その後、回収した上清を0.45μmのフィルターでろ過後、0.2μmのフィルターで濾過した。
【0107】
こうして得られた濾液から野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMをニッケルカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製した。まず、His-Trap HP 5ml(GE Helthcare Biosciences)に対し、50mlの結合緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、20mMイミダゾール、pH7.4)を流速5ml/minで供し、カラムの平衡化を行った。
【0108】
菌体15g相当分の上記濾液を該カラムに供し、100〜150mlの結合緩衝液Aを用いてカラムを平衡化後、上記結合緩衝液Aと溶出緩衝液B(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、500mMイミダゾール、pH7.4)とを用いて、イミダゾール濃度を10分間で20mMから500mMに上昇させるリニアグラジェントにより、タンパク質を溶出した。回収した溶出画分を約2.5mlずつPD−10(GE Helthcare Biosciences)に供し、緩衝液を保存液(50mM Tris−HCl 、8mM MgCl2、20%トレハロース、pH7.4)に置換した。
【0109】
なお、PD−10による緩衝液置換により、上記溶出画分の容量は、2倍量となった。こうして緩衝液が置換された上記溶出画分に対してアピラーゼを500U添加し、37℃で1時間保温して、再度上記と同様の方法で精製した。
【0110】
得られた溶出画分はPD−10に供し、緩衝液を、保存液(50mM Tris−HCl、8mM MgCl2、5%トレハロース、pH7.4)に置換して、その後、最終濃度1.5mMになるようにルシフェリンを添加し、北米産ホタル由来ルシフェラーゼとルシフェリンとを含む反応液(以下、「野生型ルシフェラーゼ反応液」ともいう)、および高感度型ルシフェラーゼとルシフェリンとを含む反応液(以下、「ルシフェラーゼFM反応液」ともいう)を得た。
【0111】
なお、野生型ルシフェラーゼ反応液およびルシフェラーゼFM反応液に含まれるルシフェラーゼ(ATP−ルシフェラーゼ複合体)を、以下、それぞれ、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMと称する。上記野生型ルシフェラーゼ反応液およびルシフェラーゼFM反応液中のルシフェラーゼ酵素量は、いずれも0.25mg/mlであった。
【0112】
〔比較例1、ATP非結合型ルシフェラーゼの調製〕
上記と同じ高感度型ルシフェラーゼをコードする遺伝子をpET28a(Novagen)に挿入した。得られた発現ベクターを大腸菌HMS174(DE3)株に形質転換して、最終濃度50μg/mlのカナマイシン硫酸塩を添加した1lのTerrific培地(トリプトン12g、酵母エキス24g、グリセロール4ml、KH2PO42.31g、K2HPO4 12.54g)で培養し、対数増殖期に最終濃度1mMとなるようにIPTGを加え、ルシフェラーゼの発現を誘導した。
【0113】
培養後、該形質転換体大腸菌を集菌し、菌体1gに対して10mlのリン酸緩衝液B(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、5mMヘキサメタリン酸ナトリウム、pH7.4)を加え、菌体を懸濁後、超音波破砕した。その後、30,000×gで30分間遠心分離を行い、得られた上清に最終濃度0.17mMとなるようにPMSFを添加して、さらに30,000×gで30分間遠心分離を行った。回収した上清を0.45μmのフィルターでろ過後、0.2μmのフィルターで濾過した。
【0114】
こうして得られた濾液から高感度型ルシフェラーゼを、ニッケルカラムを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。His-Trap HP 1mlに対し、10mlの結合緩衝液C(20mMリン酸ナトリウム、0.5M NaCl、20mMイミダゾール、5mMヘキサメタリン酸ナトリウム、pH7.4)を流速1ml/minで供し、カラムの平衡化を行った。
【0115】
その後、上記濾液をカラムに供し、10mlの結合緩衝液Cでカラムを洗浄後、20〜30mlの結合緩衝液Aでカラムの平衡化を行った。その後、10分間のリニアグラジェントにより、結合緩衝液Aから溶出緩衝液Bに溶液を置換し、タンパク質を溶出した。
【0116】
回収した溶出画分を約2.5mlずつPD−10に供し、緩衝液を保存液に置換した後、最終濃度1.5mMとなるようにルシフェリンを添加し、高感度型ルシフェラーゼとルシフェリンとを含む反応液(以下、「ルシフェラーゼFM2反応液」ともいう)を得た。なお、ルシフェラーゼFM2反応液に含まれる高感度型ルシフェラーゼ(ATP非結合型ルシフェラーゼ)を、以下、ルシフェラーゼFM2を称する。上記ルシフェラーゼFM2反応液中のルシフェラーゼ酵素量は0.25mg/mlとした。
【0117】
なお、比較例1では、ヘキサメタリン酸によってルシフェラーゼからATPを遊離させ、ATP非結合型ルシフェラーゼを取得したが、該ATP非結合型ルシフェラーゼの調製方法の詳細については、上記特許文献1を参照されたい。
【0118】
〔実施例2:ATP−ルシフェラーゼ複合体のリン酸およびピロリン酸に対する応答〕
滅菌水(超純水を121℃、90分間オートクレーブで滅菌処理したもの)を用いて、1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)および1Mピロリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液および1Mピロリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、500mM、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0119】
実施例1で調製した野生型ルシフェラーゼ反応液またはルシフェラーゼFM反応液をルミチューブ(キッコーマン)に45μlずつ入れた。そこに、上記のリン酸ナトリウムまたはピロリン酸ナトリウムの希釈溶液を5μlずつ加えて、1秒後にルミテスターC−100(キッコーマン)で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。図1および図2は、それぞれ、リン酸ナトリウム濃度と発光値との関係をグラフ化した図、およびピロリン酸ナトリウム濃度と発光値との関係をグラフ化した図である。
【0120】
図1に示すように、野生型ルシフェラーゼ反応液およびルシフェラーゼFM反応液に滅菌水を添加したときの発光強度は、それぞれ、82(rlu)および92(rlu)であった。野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、ともに、リン酸を添加すると、発光応答を示した(図1を参照)。リン酸添加に対する発光応答による発光値は、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMともに、リン酸濃度が100mMのときが最も高かった。
【0121】
また、100μM〜100mMの濃度範囲では、添加するリン酸濃度の上昇に伴い、発光値が増加した。一方、100mM以上の濃度のリン酸を添加すると、100mMリン酸を添加したときよりも逆に発光値は減少した。
【0122】
ピロリン酸添加に対しても、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、ともに発光応答を示したが、その最大発光は、1mMの濃度のピロリン酸を添加したときに観察された(図2を参照)。また、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMともに、100μM〜1mMの濃度範囲では、添加するピロリン酸の濃度の増加に伴って発光値が上昇する傾向が見られた。一方、1mM以上の高濃度のピロリン酸を添加すると、1mMのピロリン酸を添加したときよりも逆に発光値は減少した。
【0123】
〔実施例3:発光応答のリン酸およびピロリン酸に対する依存性の確認〕
実施例2と同様に、1Mリン酸ナトリウム溶液および1Mピロリン酸ナトリウム溶液を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、100mMリン酸ナトリウム溶液を調製した。同様に、1Mピロリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、1mMピロリン酸ナトリウム溶液を調製した。
【0124】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、100mMリン酸ナトリウム溶液または1mMピロリン酸ナトリウム溶液を5μlずつ加えて、1秒後から70分間、10分間隔で、ルミテスターC−100により発光値を測定した。70分後、各反応液(50μl)にさらに100mMリン酸ナトリウム溶液または1mMピロリン酸ナトリウム溶液を5μlずつ添加して、10秒間発光値を測定した。その結果を図3および図4に示す。なお、図3は、ルシフェラーゼFMに100mMリン酸ナトリウム溶液を添加後、経時的に発光値を測定し結果を示す図であり、図4は、ルシフェラーゼFMに1mMピロリン酸ナトリウム溶液を添加後、経時的に発光値を測定した結果を示す図である。
【0125】
図3および図4に示すように、リン酸ナトリウムおよびピロリン酸ナトリウムのどちらの希釈溶液を添加した場合にも、約60分経過後にはほぼ発光が終了した。すなわち、ATP−ルシフェラーゼ複合体のATPがすべて消費されたことを意味する。実際70分間反応させた後、100mMリン酸ナトリウム溶液または1mMのピロリン酸ナトリウム溶液を反応液に添加したが、発光は見られなかった。これはまた、観察された発光がリン酸溶液またはピロリン酸溶液に混入したATPによるものではないことを意味する。
【0126】
〔実施例4:リン酸およびピロリン酸の定量性の検証〕
実施例2と同様に、1Mリン酸ナトリウム溶液および1Mピロリン酸ナトリウム溶液を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、5mM、2mM、1mM、500μM、100μM、50μM、および10μMの希釈溶液を調製した。また、1Mピロリン酸ナトリウム溶液を滅菌水で希釈して、100μM、50μM、10μM、5μM、2μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0127】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液をルミチューブに45μlずつ入れ、そこに、上記のリン酸ナトリウムまたはピロリン酸ナトリウムの希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。そして、横軸をリン酸またはピロリン酸濃度、縦軸を発光強度として、測定した発光値をプロットし、近似線を作成した。
【0128】
その結果、図5に示すように、ルシフェラーゼFM反応液に添加するリン酸濃度が10μM〜5mMの濃度範囲のとき、リン酸濃度と発光値とは直線関係にあった。最低では1μMのリン酸の検出が可能であった。同様に、図6に示すように、ルシフェラーゼFM反応液に添加するピロリン酸濃度が1μM〜100μMの濃度範囲のとき、ピロリン酸濃度と発光値は直線関係であった。最低では0.1μMのピロリン酸の検出が可能であった。これらの結果から、本実施例の条件では、1μM〜5mMの濃度範囲でリン酸を定量的に測定できることがわかった。また、ピロリン酸については、0.1μM〜100μMの濃度範囲で、定量的に測定できることがわかった。
【0129】
〔実施例5:各種陰イオンに対するATP−ルシフェラーゼ複合体の応答〕
滅菌水を用いて、1M塩化ナトリウム溶液(pH7.4)、1M硫酸ナトリウム溶液(pH7.4)、1M硝酸ナトリウム溶液(pH7.4)、1M炭酸ナトリウム溶液(pH7.4)、1Mケイ酸ナトリウム溶液(pH7.4)、および1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)をそれぞれ調製した。その後、調製した各溶液を121℃、90分間オートクレーブで滅菌処理した。滅菌処理後、各溶液を滅菌水で希釈し、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0130】
実施例1で調製した野生型ルシフェラーゼ反応液またはルシフェラーゼFM反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこで、上記の各種希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。
【0131】
その結果、図7および図8に示すように、リン酸イオン以外の陰イオン、具体的には、塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、およびケイ酸イオンに対しては、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMともに、発光応答を示さなかった。このことから、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMはともに、ケイ酸イオン等の陰イオンには発光応答せず、リン酸イオンに対して特異的に発光応答することがわかった。
【0132】
〔実施例6:各鎖長のリン酸に対するATP−ルシフェラーゼ複合体の応答〕
滅菌水を用いて、100mMリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMピロリン酸(Pn=2)ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMトリポリリン酸(Pn=3)ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMテトラポリリン酸(Pn=4)ナトリウム溶液(pH7.4)、100mMヘキサメタリン酸(Pn=〜13)ナトリウム溶液(pH7.4)、および100mMポリリン酸(Pn=〜65)ナトリウム溶液(pH7.4)を調製した。次に、調製した各溶液を滅菌水で希釈して、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0133】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、上記の各種希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。
【0134】
その結果、図9に示すように、全ての鎖長のポリリン酸において、リン酸やピロリン酸と同様の発光応答が見られた。各鎖長のポリリン酸のうち、トリポリリン酸およびテトラポリリン酸は、低濃度における発光値が最も高かった。また、リン酸鎖長が長くなるにつれて発光応答が減少する傾向が見られた。このように、ルシフェラーゼは、リン酸やピロリン酸だけではなく、ポリリン酸化合物に対しても発光応答を示した。このことから、本発明にかかる測定方法によれば、ポリリン酸をリン酸まで加水分解することなく、ポリリン酸のまま、直接測定できることがわかった。
【0135】
〔実施例7:ATP−ルシフェラーゼ複合体とATP非結合型ルシフェラーゼとにおけるリン酸への応答の比較〕
滅菌水を用いて、1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)を調製した。次に、1Mリン酸ナトリウム溶液(pH7.4)を滅菌水で希釈して、100mM、10mM、1mM、100μM、10μM、および1μMの希釈溶液を調製した。
【0136】
実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液または比較例1で調製したルシフェラーゼFM2(ATP非結合型)反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、1.65nM、165pM、16.5pM、1.65pM、165fMのATP溶液を5μlずつ加えて、1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。これにより、ルシフェラーゼFMとルシフェラーゼFM2との酵素活性を比較した。
【0137】
その結果、図10に示すように、ATPに対する発光応答は、いずれのルシフェラーゼでも同等であった。したがって、ルシフェラーゼFMおよびルシフェラーゼFM2は、ともに、同等の酵素活性を有することがわかった。
【0138】
次に、実施例1で調製したルシフェラーゼFM反応液または比較例1で調製したルシフェラーゼFM2反応液を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、上記のリン酸ナトリウム希釈溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。測定は3回行い、平均値を求めた。
【0139】
その結果、図11に示すように、リン酸に対して、ルシフェラーゼFMは発光応答を示したが、ルシフェラーゼFM2は発光応答を示さなかった。比較例1に記載したように、ルシフェラーゼFM2の精製段階には、ATP非結合型にするヘキサメタリン酸を添加した緩衝液を用いたため、リン酸に応答しなかった。つまり、リン酸に対するルシフェラーゼの発光応答は、ATPが結合しているルシフェラーゼによる発光応答であると考えられる。
【0140】
以上の実施例1〜7、比較例1の結果から、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMにはATPが結合しており、ルシフェリン存在下で、リン酸や高分子リン酸が添加されると、ルシフェラーゼに結合しているATPが遊離し、発光するものと考えられる。つまり、実施例1で調製した野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、本発明にかかるATP−ルシフェラーゼ複合体である。
【0141】
また、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMはルシフェリンが存在していても、リン酸や高分子リン酸を添加しないと発光しない。このことから、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMに結合しているATPは、酵素活性中心とは別の領域に結合していることが考えられる。
【0142】
さらに、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMは、リン酸イオン以外の各種陰イオンに対して発光応答しなかったことから、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMに結合しているATPは、リン酸イオン以外の各種陰イオンの添加によっては遊離しないと考えられる。つまり、ATPの野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMへの結合は、静電的な結合様式によるものだけではないと考えられる。このことは、ATPのリン酸鎖長に近いトリポリリン酸やテトラポリリン酸に対して、最も強い発光応答を示したことからも示唆される。
【0143】
〔実施例8:市販品ルシフェラーゼFM2を用いたATP−ルシフェラーゼ複合体の調製、および該ATP−ルシフェラーゼ複合体を用いたリン酸測定〕
市販品ルシフェラーゼFM−2(Lot No.0601004) 1mg(luciferase 60kDa:17nmol)を990μlの滅菌水に溶解し、ルシフェラーゼFM−2溶液を得た。次に、そのルシフェラーゼFM−2溶液に16.5μmol、1.65μmol、165nmol、16.5nmol、1.65nmol、165pmolのATPを添加し、30分間室温に放置した。これにより、ATP−ルシフェラーゼ複合体が形成される。
【0144】
その後、ATPとルシフェラーゼFM−2との混合液(換言すれば、ATP−ルシフェラーゼ複合体を含有する溶液)のそれぞれに、最終濃度1.5mMになるようにD−ルシフェリンを添加し、反応液の一部の50μlを用いて、ルミノメーターで発光を測定した。残りの反応液は、4℃で一晩保温した。これにより、ルシフェラーゼFM−2に結合していないATPが除去される。次に、一晩4℃で保温した反応液から50μlを採取し、発光値を測定した。
【0145】
その結果、表1に示すように、ATP/ルシフェラーゼが1〜10といったモル比によるATP添加では、複合体形成に関与しなかったATPが一晩の反応でも反応しきれずに残存していることが確認できた。
【0146】
一方、ATP/ルシフェラーゼが1/10〜1/1000のモル比によるATP添加では、複合体形成に関与しなかったATPが一晩の反応で、ほぼ除去された。このような条件で調製したATP−ルシフェラーゼ複合体をリン酸の測定に用いると、バックグラウンドが高いため、高感度なリン酸検出ができない。したがって、これらのモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体は、リン酸測定に用いることができることが分かった。
【0147】
【表1】
【0148】
また、4℃で一晩保温した残りの反応液(ATP/ルシフェラーゼ=1を除く)を、45μlずつルミチューブに入れ、そこに、実施例7と同様に調製した1μM〜100mMのリン酸ナトリウム溶液を5μlずつ加えて1秒後にルミテスターC−100で10秒間発光値を測定した。4℃で一晩保温した残りの反応液(ATP/ルシフェラーゼ=1)は、ルミテスターC−100に比べて低感度なARVO社製のプレートリーダーで測定した。
【0149】
その結果、図12に示すように、ATP/ルシフェラーゼ=1のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体が各リン酸濃度における発光応答が非常に高かった。ATP/ルシフェラーゼが1/100以下のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体の発光応答が低いのは、複合体形成に関与するATP量が少ないためであると考えられる。
【0150】
また、ATP/ルシフェラーゼが1/10以上のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体の発光応答が低いのは、複合体形成に関与しなかったATPの除去反応で生じたAMPやオキシルシフェリンによる酵素反応阻害によるものであると考えられる。
【0151】
以上の結果から、ATP/ルシフェラーゼが1/100のモル比によるATP添加で得られたATP−ルシフェラーゼ複合体によれば、もっとも高感度な検出が可能であることが分かった。
【0152】
〔実施例9:限外濾過によるATP−ルシフェラーゼ複合体の調製およびリン酸による結合ATP量測定〕
実施例1で調製したルシフェラーゼFMを用いて、ルシフェラーゼFMが滅菌水に溶解した溶液(濃度:16.7nmol/ml)を1ml調製した。その後、該溶液を、FM2緩衝液(50mM Tricine−NaOH、5%トレハロース、pH7.8)で100倍希釈し、終濃度0.167nmol/mlのルシフェラーゼFM溶液を得た。
【0153】
次に、ATP粉末10.1mgを滅菌水1mlに溶解して、16.7μmol/mlのATP溶液を調製した。該ATP溶液を、上記FM2緩衝液で103倍、104倍、105倍に希釈して、16.7nmol/ml、1.67nmol/ml、0.167nmol/mlのATP溶液を得た。これらATP溶液の濃度は、それぞれ、上記ルシフェラーゼFM溶液の濃度の100倍、10倍、1倍であった。
【0154】
さらに、D−ルシフェリン溶液とリン酸溶液とを調製した。D−ルシフェリン溶液は、D−ルシフェリンカリウム25.5mgを滅菌水1mlに溶解して調製した。また、リン酸溶液は、予め調製しておいた100mM KH2PO4溶液と100mM K2HPO4溶液とを混合し、pH7.4に調製し、上記FM2緩衝液で10倍希釈することにより。10mMリン酸溶液を調製した。
【0155】
上記のようにして調製したルシフェラーゼFM溶液、ATP溶液、およびD−ルシフェリン溶液を用いて、以下の方法で、ATP−ルシフェラーゼ複合体を調製した。
【0156】
上記ルシフェラーゼFM溶液 1ml(ルシフェラーゼFM:0.167nmol)に上記各濃度のATP溶液 1ml(それぞれATP:16.7nmol、1.67nmol、0.167nmol)を混合し、室温で30分間反応させた。
【0157】
こうして得られた反応溶液のうち50μlを限外濾過チューブ(MILLPORE ULTRAFREE - 0.5 BIOMAX 10K NMWL)に移し、12,000×gで20分間遠心分離した。上記反応溶液の残りの溶液に、上記D−ルシフェリン溶液をD−ルシフェリンの最終濃度が2mMになるように添加した。
【0158】
その後、アルミで遮光し、4℃で一晩反応させた。こうして一晩反応させた混合溶液500μlを限外濾過チューブ(MILLPORE ULTRAFREE - 0.5 BIOMAX 10K NMWL)に添加し、12,000×gで20分間遠心分離した。
【0159】
遠心分離後の限外濾過チューブのカップ内にFM2緩衝液500μlを添加し、懸濁後、12,000×gで20分間遠心分離し、濾液におけるATP量を測定した。この操作を、上記濾液におけるATPが検出されなくなるまで繰り返し行い、ルシフェラーゼFMに結合していないATPをすべて除去した。これにより、ATPとルシフェラーゼFMとが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を得た。
【0160】
こうして得られたATP−ルシフェラーゼ複合体について、以下の方法により、該複合体に含まれるATP量を測定した。
【0161】
上記濾液にATPが検出されなくなった後、限外濾過チューブのカップにリン酸溶液を500μl添加後、よく懸濁し、1時間撹拌反応した。反応後12,000×gで20分間遠心分離し、濾液のATP量を測定した。リン酸により解離するATPがなくなったと判断されるまでこの操作を繰り返した。
【0162】
その結果、上記ATP−ルシフェラーゼ複合体におけるATPとルシフェラーゼFMとの比(ATP/ルシフェラーゼ)は、約0.4であった。なお、上記各過程でのATP量の変化を表2に示す。また、複合体から、リン酸処理により解離するATP量を表3に示す。
【0163】
【表2】
【0164】
【表3】
【0165】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明は、ATP−ルシフェラーゼ複合体を用いて、リン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定するため、試料中のケイ酸の影響を受けることなく、精度よく、高感度かつ迅速に、試料に含まれるリン酸、ピロリン酸およびポリリン酸を測定することができる。したがって、本発明は、環境分析や臨床検査等の分野に用いることができるだけではなく、医療分野、食品分野、農業分野、化学分野、および環境分野等、リン酸やピロリン酸、ポリリン酸を測定するあらゆる産業分野に広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】図1は、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMのリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図2】図2は、野生型ルシフェラーゼおよびルシフェラーゼFMのピロリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図3】図3は、ルシフェラーゼFMの100mMリン酸に対する発光応答を経時的に測定した結果を示す図である。
【図4】図4は、ルシフェラーゼFMの1mMピロリン酸に対する発光応答を経時的に測定した結果を示す図である。
【図5】図5は、ルシフェラーゼFMに添加するリン酸濃度と発光値との関係を示す図である。
【図6】図6は、ルシフェラーゼFMに添加するピロリン酸濃度と発光値との関係を示す図である。
【図7】図7は、各種陰イオンに対する野生型ルシフェラーゼの発光応答を示す図である。
【図8】図8は、各種陰イオンに対するルシフェラーゼFMの発光応答を示す図である。
【図9】図9は、各種鎖長のリン酸に対するルシフェラーゼFMの発光応答を示す図である。
【図10】図10は、ルシフェラーゼFMおよびルシフェラーゼFM2の酵素活性を測定した結果を示す図である。
【図11】図11は、ルシフェラーゼFMおよびルシフェラーゼFM2のリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図12】図12は、ATPが結合したルシフェラーゼFM−2のリン酸に対する発光応答を示す図である。
【図13】図13は、ATPが結合したルシフェラーゼFM−2のリン酸に対する発光応答を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する方法であって、
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、試料とを反応させ、
該反応により生じる発光を検出することにより、上記試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項2】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする請求項1に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項3】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、
インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項4】
上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする請求項3に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項5】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項6】
上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であり、
上記ルシフェリンは、ホタルルシフェリンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項7】
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を含むことを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項8】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする請求項7に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項9】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、
インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項7または8に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項10】
上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする請求項9に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項11】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項7または8に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項12】
上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項13】
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、
インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【請求項14】
上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする請求項13に記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【請求項15】
ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【請求項16】
上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【請求項1】
試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定する方法であって、
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体と、ルシフェリンと、試料とを反応させ、
該反応により生じる発光を検出することにより、上記試料中のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸を測定することを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項2】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする請求項1に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項3】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、
インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項4】
上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする請求項3に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項5】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項6】
上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であり、
上記ルシフェリンは、ホタルルシフェリンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定方法。
【請求項7】
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とが結合したATP−ルシフェラーゼ複合体を含むことを特徴とするリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項8】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とがモル比で1:0.0001〜100の範囲で結合した複合体であることを特徴とする請求項7に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項9】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、
インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することにより得られるATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項7または8に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項10】
上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする請求項9に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項11】
上記ATP−ルシフェラーゼ複合体は、
ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製したATP−ルシフェラーゼ複合体であることを特徴とする請求項7または8に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項12】
上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする請求項7〜11のいずれか1項に記載のリン酸、ピロリン酸またはポリリン酸の測定キット。
【請求項13】
ルシフェラーゼとアデノシン3リン酸とを、モル比で1:0.0001〜100の割合で混合し、4〜30℃で、10〜1000分間インキュベーションし、
インキュベーション後、ルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸を除去することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【請求項14】
上記のルシフェラーゼと結合していないアデノシン3リン酸は、上記ルシフェラーゼに対して1〜1000倍モル量のルシフェリンを添加し、4〜30℃で、1〜20時間インキュベーションすることにより除去されることを特徴とする請求項13に記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【請求項15】
ルシフェラーゼを発現する生物試料から、ヘキサメタリン酸、ピロリン酸、およびポリリン酸を含まない緩衝液を用いて精製することを特徴とするATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【請求項16】
上記ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼまたはその変異型タンパク質であることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載のATP−ルシフェラーゼ複合体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−50167(P2009−50167A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217146(P2007−217146)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】
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