説明

リン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法および処理装置

【課題】FPD製造排水等の、リン酸、硝酸および酢酸などの有機酸を含む排水を、薬剤使用量を抑えた上で効率的に処理する。
【解決手段】リン酸、硝酸および有機酸含有水を原水として処理するに当たり、原水にカルシウム化合物を添加した後、生物脱窒処理し、処理水を固液分離する。生物脱窒処理時に、原水中の硝酸が分解されることにより、処理水のpHが上がることを利用して原水中のリン酸をリン酸カルシウムとして十分に除去する。このため、カルシウム化合物添加時におけるpHは酸性条件であっても良いことから、カルシウム化合物添加工程での消石灰の添加量を削減し、また、アルカリ剤の添加量を削減ないし不要とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造排水等の、リン酸および硝酸と酢酸等の有機酸を含有する水の処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD製造工程、特に、そのエッチング工程からは、リン酸、硝酸、酢酸などの有機酸を含有する排水が排出される。近年、FPDのゲート配線やデータ配線として、低抵抗で配線形成が容易な銅配線が提案されている。この場合、エッチング溶液としては、酢酸等の有機酸、硝酸やリン酸等の無機酸と共に過酸化水素を含むエッチング溶液が用いられるため(特許文献1)、銅配線のFPDのエッチング工程からは、更に過酸化水素を含み、またリン酸濃度については従来のFPD製造排水よりも低い排水が排出される。
【0003】
従来、リン酸含有水の処理方法としては、リン酸含有水に消石灰を添加してリン酸カルシウムを生成させ、このリン酸カルシウムを固液分離する方法が提案されている(特許文献2)。この場合、十分にリン酸を除去するためには、pHを8以上に調整する必要があり、このためには消石灰をリン酸に対して過剰に添加する或いはpH調整のためにアルカリ剤を添加する必要がある。しかし、FPD製造排水は、硝酸などの無機酸を多量に含有するため、このようなpHにpH調整するためには、非常に多量のアルカリ(消石灰)が必要となり、薬剤コストを押し上げることとなる。
【0004】
なお、過酸化水素およびフッ素含有水の処理方法として、消石灰を添加して生物処理し、生成する生物汚泥を前段に返送して過酸化水素を分解除去する方法が提案されているが(特許文献3)、特許文献3にはリン酸含有水の処理についての言及はなされていない。
【特許文献1】特開2002−302780号公報
【特許文献2】特許第2856281号公報
【特許文献3】特開平05−305295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の問題点を解決し、FPD製造排水等の、リン酸、硝酸および酢酸などの有機酸を含む排水を、薬剤使用量を抑えた上で効率的に処理する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、リン酸、硝酸および有機酸を含有する水にカルシウム化合物を添加した後生物脱窒処理すると、原水中の硝酸が分解されることにより、処理水のpHが上がることを利用して、原水にカルシウム化合物を添加し、このカルシウム化合物添加時におけるpHは酸性条件であっても、その後の生物脱窒処理による硝酸の分解でpH8以上のアルカリ条件とすることにより、原水中のリン酸をリン酸カルシウムとして十分に除去することができ、この結果、カルシウム化合物添加工程での消石灰の添加量を低減したり、アルカリ剤の添加量を削減ないし不要とすることができることを見出した。
【0007】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
[1] リン酸、硝酸および有機酸含有水を原水として処理する方法であって、該原水にカルシウム化合物を添加するカルシウム化合物添加工程と、該カルシウム化合物が添加された原水を生物脱窒処理する生物脱窒工程と、該生物脱窒工程の処理水を固液分離する固液分離工程とを含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【0009】
[2] [1]において、カルシウム化合物を、前記原水中のリン酸に対して1〜2倍当量添加することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【0010】
[3] [1]又は[2]において、前記原水が更に過酸化水素を含有し、前記固液分離工程で分離した汚泥の一部を前記生物脱窒工程の前段に返送して前記原水に添加する汚泥返送工程を有することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【0011】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記固液分離工程で分離した水を脱塩処理する脱塩工程を含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【0012】
[5] リン酸、硝酸および有機酸含有水を原水として処理する装置であって、該原水にカルシウム化合物を添加するカルシウム化合物添加手段と、該カルシウム化合物が添加された原水を生物脱窒処理する生物脱窒手段と、該生物脱窒手段の処理水を固液分離する固液分離手段とを含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。
【0013】
[6] [5]において、カルシウム化合物を、前記原水中のリン酸に対して1〜2倍当量添加することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。
【0014】
[7] [5]又は[6]において、前記原水が更に過酸化水素を含有し、前記固液分離手段で分離した汚泥の一部を前記生物脱窒手段の前段に返送して前記原水に添加する汚泥返送手段を有することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。
【0015】
[8] [5]ないし[7]のいずれかにおいて、前記固液分離手段で分離した水を脱塩処理する脱塩手段を含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、リン酸、硝酸および有機酸含有水にカルシウム化合物を添加した後生物脱窒処理し、この生物脱窒処理時に、原水中の硝酸及び有機酸が分解されることにより、処理水のpHが上がることを利用して原水中のリン酸をリン酸カルシウムとして十分に除去する。このため、カルシウム化合物添加時におけるpHは酸性条件であっても良いことから、カルシウム化合物添加工程での消石灰の添加量を削減し、また、アルカリ剤の添加量を削減ないし不要とすることができ、薬剤使用量を抑えた上で、原水中のリン酸、硝酸および酢酸等の有機酸を高度に除去することができる。
【0017】
本発明では、カルシウム化合物は、原水中のリン酸に対して1〜2倍当量添加するのみで、その後の生物脱窒工程でのpH上昇で、リン酸を十分に除去することができる(請求項2,6)。
【0018】
本発明で処理する原水が、更に過酸化水素を含有する場合、過酸化水素は生物阻害要因となるため、生物脱窒処理水の固液分離で分離された余剰汚泥の一部を前段に返送して原水に添加することにより、この汚泥の過酸化水素分解能を利用して、原水中の過酸化水素を生物脱窒処理に先立ち予め除去しておくことが好ましい(請求項3,7)。
【0019】
本発明において、生物脱窒処理水の固液分離で得られた分解水は、更に脱塩処理することにより、回収、再利用可能な高水質の処理水(純水)得ることができる(請求項4,8)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に図面を参照して本発明のリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法および処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明のリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置の実施の形態を示す系統図であり、1は反応槽、2は生物脱窒槽、3は沈殿槽、4は濾過器、5は二床式イオン交換装置であり、カチオン交換塔5Aとアニオン交換塔5Bとを備える。
【0022】
本発明で処理対象とする原水は、リン酸と、硝酸と酢酸等の有機酸を含む水であり、例えば、液晶製造排水等のFPD製造排水、半導体製造排水や電解コンデンサー製造排水等が挙げられる。その水質としては特に制限はないが、通常、以下のような水質である。
【0023】
<原水水質>
pH:1.5〜3.5
PO−P:0.5〜5000mg−P/L
HNO :50〜5000mg/L
CHCOOH:30〜600mg/L
【0024】
本発明で処理対象とする原水には、更に過酸化水素が含まれていても良く、その場合の過酸化水素濃度としては、4000mg/L以下、例えば100〜1000mg/L程度である。
【0025】
原水中の特にリン酸濃度については、原水の発生源において差異があり、リン酸濃度500〜5000mg/L程度の高濃度リン酸含有水もあれば、前述の銅配線のFPD製造排水のように、過酸化水素を含有し、リン酸濃度については低く、例えば0.5〜50mg/L程度のものもある。このような低濃度リン酸含有水を処理対象とする場合、後述の反応槽1と生物脱窒槽2との間の沈殿槽は不要となることから、本発明は、特に、このような低濃度リン酸含有水の処理に好適である。
【0026】
本発明においては、このような原水に、反応槽1でまずカルシウム化合物を添加する。
【0027】
原水に添加するカルシウム化合物としては特に制限はなく、水酸化カルシウム(消石灰)、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、塩化カルシウム等を用いることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。ただし、塩化カルシウムは塩素イオンが増加するのであまり好ましくない。
【0028】
カルシウム化合物の添加量は、原水中のリン酸濃度に応じて適宜決定され、後述の汚泥返送の有無、返送汚泥量によっても異なるが、通常、原水中のリン酸の反応当量の1〜2倍程度、特に1〜1.3倍程度のカルシウムイオン、例えばカルシウム化合物が水酸化カルシウムの場合には、原水中のリン酸のP換算重量に対して3.6〜7.2重量倍程度の水酸化カルシウム添加量、特に3.6〜4.7重量倍程度の水酸化カルシウム添加量とすることが好ましい。カルシウム化合物添加量が少な過ぎると、リン酸を十分に除去し得ず、多過ぎると薬剤使用量を低減する本発明の目的を達成し得ず、処理水を更に脱塩処理して回収する場合、脱塩手段の負荷が増大し、好ましくない。
【0029】
前述の如く、このカルシウム化合物の添加は、従来法のように、原水のpHが8以上のアルカリ性になるまで添加する必要はなく、カルシウム化合物添加後の水のpHは好ましくは2.5〜6.5、より好ましくは3.5〜5.5程度の酸性領域で十分である。カルシウム化合物添加後の原水のpHが低過ぎると後段の生物脱窒処理によるpH上昇においてもリン酸をリン酸カルシウムとして十分に除去し得ない場合がある。逆に、このpHが高過ぎると、pH調整のための薬剤使用量が増加し、また、後段の生物脱窒処理におけるpHが高くなり過ぎ、生物阻害の原因となる。
【0030】
通常、リン酸、硝酸、酢酸等の有機酸を含む本発明の処理対象原水は、上述の如く強酸性の水であるため、pH調整剤としてはアルカリを添加することになる。従って、カルシウム化合物として、アルカリ剤である水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウムを用い、pH調整とカルシウム化合物添加とを兼用することが好ましく、この場合には、pH調整剤としてのアルカリの添加を不要とすることができる。水酸化カルシウムの添加により、原水中のリン酸は
2HPO+3Ca(OH)→3Ca(PO+6H
の反応で除去される。
【0031】
反応時間には特に制限はないが、反応槽1での滞留時間が5〜30分程度となるようにすることが好ましい。
【0032】
なお、原水中に過酸化水素が含まれる場合、過酸化水素は生物阻害要因となることから、これを生物脱窒処理に先立ち分解除去することが好ましい。このため、図1においては、沈殿槽3の分離汚泥の一部を反応槽1の入口側に返送し、余剰汚泥の過酸化水素分解能を利用して原水中の過酸化水素を分解除去している。
【0033】
このような余剰汚泥の返送はまた、次のような効果を奏する。
(1) 後述の如く、後段の生物脱窒処理で、高pH条件となることにより、炭酸カルシウムが析出する。この炭酸カルシウムを含む汚泥を原水に添加することにより、原水へのカルシウム化合物添加量を低減することができる。
(2) 返送された汚泥の表面でリン酸カルシウムが析出して粗大化するため、固液分離性に優れたリン酸カルシウム汚泥が得られる。
【0034】
この汚泥返送量は、少な過ぎると汚泥を返送することによる上記効果を十分に得ることができず、多過ぎると必要とする反応槽容量が大きくなるため好ましくない。通常の場合、汚泥返送量は、その固形分として、流入するリン酸の反応当量の水酸化カルシウムの2〜20倍程度とすることが好ましい。このような範囲で汚泥返送を行う場合、汚泥中の炭酸カルシウムの一部を原水に添加するカルシウム化合物として用いることで、原水へのカルシウム化合物添加量を、原水中のリン酸に対して1.0〜1.1倍当量程度に低減することができる。
【0035】
なお、返送汚泥は、原水に添加するカルシウム化合物の一部又は全部と予め混合して原水に添加しても良い。
【0036】
原水が過酸化水素を含む場合、特に、原水が過酸化水素を高濃度で含む場合、原水中の過酸化水素の除去は汚泥返送による他、活性炭又はカタラーゼ(耐酸性カタラーゼ)などの過酸化水素分解能を有するものを添加することによって行っても良く、汚泥返送と活性炭やカタラーゼの添加との併用であっても良い。この場合、添加された活性炭は、後段の沈殿槽3で固液分離除去され、またカタラーゼは後段の生物脱窒槽2で生物分解処理される。
【0037】
また、このようにして原水中の過酸化水素を分解することにより酸素が発生するため、発生した酸素を分離するための滞留槽を別途設けても良い。ただし、通常の場合、反応槽1から生物脱窒槽2までの配管がこの滞留槽を兼ね、発生した酸素は水の移送工程等で除去されるため、滞留槽は省略可能である。
【0038】
反応槽1の反応液は次いで生物脱窒槽2に導入されて生物脱窒処理される。なお、前述の如く、原水中のリン酸濃度が高く(例えば500〜5000mg/L)、反応槽1で析出するリン酸カルシウム量が多い場合には、反応槽1の反応液を固液分離するための沈殿槽等の固液分離手段を反応槽1と生物脱窒槽2との間に設けることが好ましい。原水のリン酸濃度が低い場合(例えば0.5〜50mg/L)には、反応槽1の反応液は固液分離することなく、そのまま生物脱窒槽2に送給することができる。
【0039】
原水中の硝酸や酢酸は、カルシウム化合物添加により、それぞれ硝酸カルシウム、酢酸カルシウムとして存在するため、生物脱窒槽2では、以下の反応で、硝酸、酢酸が分解除去され、従って、脱窒反応系のpHが上昇し、炭酸カルシウムが析出する。また、pHが上昇することにより、リン酸カルシウムの析出が促進され、リン酸も高度に除去される。なお、一部のリン酸は菌体に取り込まれる。
【0040】
8Ca(NO)+5(CHCOO)Ca
→8N+13Ca(OH)+20CO+2H
→8N+10Ca(HCO)+3Ca(OH)+2H
→8N+6CaCO(沈殿)+7Ca(HCO)+5H
【0041】
この生物脱窒槽2内のpHは、6.5〜8.5、特に7.5〜8.2程度であることが好ましい。このpHは低過ぎるとリン酸を十分に除去し得ず、高過ぎると生物脱窒処理効率が低下するおそれがある。
【0042】
通常、このような生物脱窒処理では、このpHの上昇分を中和するために酸の添加が必要となるが、本発明では、生物脱窒槽2に流入する反応槽1からの反応液が、前述のような酸性条件であり、生物脱窒槽2における酸の添加は不要である。ただし、必要に応じて、酸又はアルカリ剤を添加して、生物脱窒槽2内のpHを上記好適pHに調整しても良い。
【0043】
なお、原水がアンモニアを含む場合、この生物脱窒槽としては、脱窒槽と共に硝化槽(曝気槽)を設ける必要があるが、本発明で処理対象とするFPD製造排水のようなリン酸、硝酸および有機酸含有水は、アンモニアを含まないため、このような硝化槽は不要であり、脱窒槽のみで硝酸や酢酸等の有機酸を効率的に分解除去することができる。従って、硝化槽(曝気槽)を必要としないことから、曝気のための電気エネルギーが不要である。
【0044】
生物脱窒槽2の処理水は沈殿槽3に導入されて固液分離され、リン酸カルシウム汚泥を含む分離汚泥は、その一部が返送汚泥として反応槽1に返送され、残部は系外へ排水される。
【0045】
なお、生物脱窒処理水の固液分離手段としては沈殿槽に限らず、膜分離装置であっても良い。また、生物脱窒槽を分離膜を浸漬した膜浸漬型反応槽として、浸漬膜の透過水を分離水として取り出し、反応槽内の汚泥を引き抜いて返送ないし系外排出するようにしても良い。
【0046】
沈殿槽3の分離水は、濾過器4で濾過された後、2床式イオン交換装置5で脱塩処理される。なお、固液分離手段として分離膜を用いた場合には、濾過器4は省略される。
【0047】
この濾過器4は、2床式イオン交換装置5のカチオン交換塔5Aおよびアニオン交換塔5Bの目詰まりを防止するためのフィルターとしての役割を担うものであり、下向流式砂濾過器等を用いることができる。
【0048】
2床式イオン交換装置5では、まず、カチオン交換塔5Aでカチオンが除去され、アニオン交換塔5Bでアニオンが除去される。
【0049】
各イオン交換塔5A,5Bは、定期的に或いは必要に応じて再生が行われるが、図1の装置では、この2床式イオン交換装置5に導入される水が、リン酸、硝酸、酢酸等の有機酸が予め除去された水であるため、その再生頻度が低く、再生剤使用量を低減することができる。また、再生廃液は、酸、アルカリにより中和処理されるが、この再生廃液量も少ないため、廃液処理の負荷も大幅に軽減される。
【0050】
このように、2床式イオン交換装置で生物脱窒処理水から、更にカチオンとアニオンを除去して得られる処理水は、高水質の純水であり、これを回収して液晶基板、半導体コンデンサーなどの洗浄用水の原水等に利用することができる。
【0051】
なお、図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明はその要旨を超えない限り、図1に示す方法に何ら限定されるものではなく、例えば、生物脱窒処理水の脱塩手段としてはイオン交換装置の他、逆浸透膜分離装置や連続式電気脱イオン装置などを用いることができ、これらの装置を用いる場合には、イオン交換装置を用いる場合のイオン交換樹脂の再生が不要となる。なお、逆浸透膜分離装置を適用する場合、濃縮によりカルシウムスケールが析出することを防止するために、濾過器4の濾過水に、スケール分散剤の添加やカルシウムイオンと難溶性塩を形成しない酸を添加してpHを3〜5程度に調整し、炭酸カルシウムやリン酸カルシウムのスケール析出を抑制することが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0053】
なお、以下において処理した原水は、下記水質の液晶製造排水である。
<原水水質>
pH:2.2〜3.0
PO−P:5mg−P/L
HNO :198mg/L
CHCOOH:127mg/L
:127mg/L
【0054】
[実施例1]
図1に示す装置により、上記原水の処理を行った。
反応槽1にて、原水に、原水中のリン酸に対して1.2倍当量の水酸化カルシウムを添加すると共に、沈殿槽3の分離汚泥の一部を添加して、滞留時間15分間で反応させた。このときの水酸化カルシウムの添加は原水に対して約20mg/Lであった。また、添加した返送汚泥量は固形分として、原水のリン酸の反応当量の水酸化カルシウムに対して10倍量であり、反応槽1内の反応液のpHは3.5〜5.5となった。
【0055】
反応槽1の反応液は、次いで固液分離することなく生物脱窒槽2に送給して生物脱窒処理した。この生物脱窒槽2では硝酸の分解で槽内液のpHは7.5〜8.2となった。
生物脱窒槽2の処理水を沈殿槽3で固液分離し、分離汚泥の一部を反応槽1に返送すると共に残部は系外へ排出した。また、分離水は、濾過器4で濾過した後、三菱化学(株)製強酸性カチオン交換樹脂「Diaion SKIB」を充填したカチオン交換塔5Aと、三菱化学(株)製強塩基性アニオン交換樹脂「Diaion SKIIA」を充填したアニオン交換塔5Bとを備える2床式イオン交換装置5で脱塩処理し、処理水を回収した。
【0056】
濾過水の水質と脱塩処理水(最終処理水)の水質を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
表1より、本発明によれば、リン酸、硝酸、および酢酸等の有機酸、更に過酸化水素を含む水を効率的に処理することができることが分かる。
【0059】
なお、この原水に、水酸化カルシウムのみを添加してpH8.0以上としようとすると、原水に対して230mg/Lもの水酸化カルシウムが必要となることから、本発明による水酸化カルシウム使用量の低減効果は明らかである。
また、汚泥返送を行わずに水酸化カルシウムのみで処理をする場合、水酸化カルシウムの必要添加量は原水に対して30mg/Lとなり、汚泥返送は水酸化カルシウム使用量の削減にも有効であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【符号の説明】
【0061】
1 反応槽
2 生物脱窒槽
3 沈殿槽
4 濾過器
5 2床式イオン交換装置
5A カチオン交換塔
5B アニオン交換塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、硝酸および有機酸含有水を原水として処理する方法であって、
該原水にカルシウム化合物を添加するカルシウム化合物添加工程と、
該カルシウム化合物が添加された原水を生物脱窒処理する生物脱窒工程と、
該生物脱窒工程の処理水を固液分離する固液分離工程とを含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、カルシウム化合物を、前記原水中のリン酸に対して1〜2倍当量添加することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記原水が更に過酸化水素を含有し、前記固液分離工程で分離した汚泥の一部を前記生物脱窒工程の前段に返送して前記原水に添加する汚泥返送工程を有することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記固液分離工程で分離した水を脱塩処理する脱塩工程を含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理方法。
【請求項5】
リン酸、硝酸および有機酸含有水を原水として処理する装置であって、
該原水にカルシウム化合物を添加するカルシウム化合物添加手段と、
該カルシウム化合物が添加された原水を生物脱窒処理する生物脱窒手段と、
該生物脱窒手段の処理水を固液分離する固液分離手段とを含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。
【請求項6】
請求項5において、カルシウム化合物を、前記原水中のリン酸に対して1〜2倍当量添加することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記原水が更に過酸化水素を含有し、前記固液分離手段で分離した汚泥の一部を前記生物脱窒手段の前段に返送して前記原水に添加する汚泥返送手段を有することを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項において、前記固液分離手段で分離した水を脱塩処理する脱塩手段を含むことを特徴とするリン酸、硝酸および有機酸含有水の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−89051(P2010−89051A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−264168(P2008−264168)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】