説明

リン酸ジルコニウム焼結体及びその製造方法

【課題】低熱膨張性に優れ、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性及び耐熱衝撃性に優れた低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体を提供する。
【解決手段】直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを出発原料として合成されたRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)を主成分とし、焼結助剤的目的としてTiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を含むことを特徴とする低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体及びその製造方法に係わる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸ジルコニウム焼結体及びその製造方法に関する。さらに詳細には、低熱膨張性に優れ、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性(結晶構造変化と形状変化を示さない)及び耐熱衝撃性に優れた特徴を有するリン酸ジルコニウム焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主として自動車排ガス中の浮遊粒子除去用のフィルター材料、熱交換体、触媒燃焼用担体等のセラミックハニカム構造体、ターボチャージャー、GTエンジン等のハウジングやガスダクト、排気ボートライナー等の断熱部材などへの適用を目的とし、低熱膨張性に優れ、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性及び耐熱衝撃性に優れた材料の必要性が高まっている。このような必要性の中、(ZrO)、RZrSi6−x24(R=Ca、Sr、Ba、Y)、RZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)、H1+xZr(SiO3−x(PO・mHOなどの組成式からなるリン酸ジルコニウムが低熱膨張性、且つ、耐熱性などに優れた材料として有望であることが分かってきている。また、特定組成のアルカリ土類金属のリン酸塩化合物が低熱膨張性を有するものとして提案されている。
【0003】
しかしながら、リン酸ジルコニウム等のリン酸塩化合物は、低熱膨張性に優れているという利点を有するものの、1200℃以上の高温においては熱分解を起こし、リン(P)分が蒸発することが、例えば特開平3−208807号公報等(以下特許文献1と称する。)で指摘されている。例えば、1400℃で100時間熱処理した場合には、リン酸ジルコニウムナトリウムは36%もの重量減を示すという問題がある。また、特定組成のアルカリ土類金属のリン酸塩化合物は、例えば100℃から1260℃間の昇降温による熱サイクル劣化試験によって焼結体の寸法が増加するとか、熱膨張係数が変化するとか、また低強度化するといった問題をもつことがわかってきた。
【0004】
一方、特許文献1においては、RZr(PO(Rは一種以上の周期率表IIa属の陽イオン)焼結体を相転移温度以上の温度に保持した後、急冷することにより得られた、R3cの対称性を有する結晶構造をもつ高温型のRZr(PO(Rは一種以上の周期率表IIa属の陽イオン)組成のリン酸塩化合物が熱膨張も熱収縮もしない低熱膨張性であることが示されている。しかしながら、この場合も、(ZrO)、ZrP、RCO、ZrO、RHPO、NHPOなどを出発原料とした、混合法による製造方法のために、焼結体中に目的とする結晶相以外の不純物相が生成し、熱サイクル劣化試験によって焼結体の寸法が増加するとか、熱膨張係数が変化するとか、また低強度化するといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−208807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記要望に沿うリン酸ジルコニウム焼結体およびその製造方法を提供することを目的とし、詳細には、低熱膨張性に優れ、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性及び耐熱衝撃性に優れ、且つ、前述の特性が各種条件下での長期間安定している低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係わるリン酸ジルコニウム焼結体は、ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム及びリン酸化合物とアンモニウム化合物及びアンミン化合物の少なくとも1種とを含む混合液を用いた化学合成方法である直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを熱分解することにより得たHZr(POと、R(NO(R=Ca、Sr、Ba)の混合物を熱処理することによりHとR2+のイオン置換よって合成したRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)と、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を含むことを特徴とし、これにより前記した目的とする各特性に優れた低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体を提供する。
【0008】
即ち、本発明の第一は、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を0.1〜10重量%含有し、残部がRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)であり、且つ、室温で主構成相としてNASICON型三次元網目構造からなる結晶構造をもつリン酸ジルコニウム焼結体を提供するものである。
【0009】
また、本発明の第二は、室温〜1000℃の温度領域での平均熱膨張率が−10〜+10×10−7/℃で、曲げ強度が2kgf/mm以上であることを特徴とする請求項1記載のリン酸ジルコニウム焼結体を提供するものである。
【0010】
さらに、本発明の第3は、ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム及びリン酸化合物とアンモニウム化合物及びアンミン化合物の少なくとも1種とを含む混合液を用いた直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを熱分解することにより得たHZr(POと、R(NO(R=Ca、Sr、Ba)の混合物を熱処理することによりHとR2+のイオン置換よって合成したRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)と、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を混合し、成形した後、得られた成形体を1200〜1800℃で焼結することを特徴とする請求項1又は2に記載のリン酸ジルコニウム焼結体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
上記した方法により、低熱膨張性に優れ、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性及び耐熱衝撃性に優れた低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における、ZrOCl−HPO−H系混合水溶液から直接結晶析出法より得られるリン酸ジルコニウムの生成領域(大気圧、80℃、2日間)を示す図である。図中の●印はNHZr(POの生成を、○印はγ−ZrH(POの生成を、△印はジルコニウム−リン酸ゾルの生成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明すると、本発明に係わるリン酸ジルコニウム焼結体は、ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム及びリン酸化合物とアンモニウム化合物及びアンミン化合物の少なくとも1種とを含む混合液を用いた化学合成方法である直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを熱分解することにより得たHZr(POと、R(NO(R=Ca、Sr、Ba)の混合物を熱処理することによりHとR2+のイオン置換よって合成したRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)を主成分とし、焼結体の強度を高めるために、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を含有したものである。即ち、直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを出発原料として合成されたRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)の焼結助剤的目的として、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を使用する。
【0014】
本発明で用いる主成分であるリン酸ジルコニウムRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)について説明すると、本発明では、リン酸ジルコニウムRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)は、従来の、(ZrO)、ZrP、RCO、ZrO、RHPO、NHPOなどを出発原料とした混合法と異なり、ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム及びリン酸化合物とアンモニウム化合物及びアンミン化合物の少なくとも1種とを含む混合液を用いた化学合成方法である直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを熱分解することにより得たHZr(POと、R(NO(R=Ca、Sr、Ba)の混合物を熱処理することによりHとR2+のイオン置換よって合成したRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)であるため、RZr(PO中に一切の不純物相を含まないことを特徴とする。
【0015】
ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム及びリン酸化合物とアンモニウム化合物及びアンミン化合物の少なくとも1種とを含む混合液を用いた化学合成方法である直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを熱分解することにより得たHZr(POと、R(NO(R=Ca、Sr、Ba)の混合物を熱処理することによりHとR2+のイオン置換よって合成したRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)は、1800℃付近まで昇温し保持した後、室温まで冷却して粉末X線回折測定を行ったところ、結晶相の変化はまったく認められず、さらにRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)相以外の一切の不純物相が観測されなかった。このように、耐熱安定性に優れており、さらには1800℃付近まで低熱膨張性を維持している。
【0016】
しかしながら、一切の不純物相を含まないことから、僅かであるが焼結性に劣り、それによって強度および耐熱衝撃性の若干な低さに問題がある。
【0017】
上記問題点の解決策としての焼結助剤添加について詳細に説明すると、本発明では、焼結助剤含有物として、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を使用することを特徴とする。
【0018】
焼結助剤添加物としては、一般的に、アルカリ金属元素、シリカ及び/又はほう酸などからなるガラス組成物があるが、これらは耐熱性に劣る上に、耐食性に大きな問題を抱え、高温材料への適用は非常に難しい。それに対し、 TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物からなる焼結助剤含有物は、これからの問題点を持たない酸化物である上に、その金属元素成分の価数が4価、5価、6価と大きいが故に、化学的結合性にも優れており、RZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)の焼結を促進する添加物として、非常に優れている。
【0019】
そして、本発明で用いる焼結助剤添加物TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物の含有量は、0.1〜10重量%(好ましくは、0.3〜5重量%)であり、残部がRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)であることを特徴とする。上記の範囲外では、低熱膨張性に優れ、高い機械的強度を有し、且つ、耐熱性及び耐熱衝撃性に優れた低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体が得られない。
【0020】
上記の直接結晶析出法より調製されたNHZr(POは、例えば特開昭60−239313号等の記載に準じて製造したもの、又は市販品を使用することができる。
また、NHZr(POの製法も限定的でなく、公知の方法により得られたNHZr(POを使用することができる。例えば、次に示すように、ジルコニウム化合物及びカルボン酸化合物を含む原料混合液を用いる方法によって上記NHZr(POを調製できる。
【0021】
具体的には、まず、ジルコニウム化合物及びカルボン酸化合物を含む原料混合液に対し、リン酸化合物又はその水溶液を加える。
【0022】
上記ジルコニウム化合物としては、水溶性又は酸により水可溶性となる化合物が好ましい。例えば、オキシ塩化ジルコニウム、ビロオキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム等のハロゲン化ジルコニウム硫酸ジルコニウム;塩基性硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム等の鉱酸のジルコニウム塩;酢酸ジルコニル、ギ酸ジルコニル等の有機酸のジルコニウム塩;炭酸ジルコニウムアンモニウム、硫酸ジルコニウムナトリウム、酢酸ジルコニウムアンモニウム、シュウ酸ジルコニウムナトリウム、クエン酸ジルコニウムアンモニウム等のジルコニウム錯塩等が使用できる。これらジルコニウム化合物のうちでは、オキシ塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムの少なくとも1種がより好ましい。
【0023】
カルボン酸化合物としては、水溶性又は酸により水可溶性となり、かつ、カルボキシル基(−COOH)を2個以上有する脂肪族ポリカルボン酸及びその塩が好ましい。例えば、シュウ酸、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸水素ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸水素アンモニウム、シュウ酸リチウム、マレイン酸、マロン酸、コハク酸及びこれらの塩類等の脂肪族二塩基酸及びその塩類;クエン酸、クエン酸アンモニウム、酒石酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸及びそれらの塩類等が挙げられる。これらのうちでは、シュウ酸ならびにそのナトリウム塩及びアンモニウム塩の少なくとも1種がより好ましい。
リン酸化合物は、水溶性又は酸により水可溶性となるものが好ましい。例えば、リン酸、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸アンモニウム、第三リン酸ナトリウム等のオルトリン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩;メタリン酸、ピロリン酸等の少なくとも1個のP−O−P結合を有する縮合リン酸のアルカリ金属塩及びアンモニウム塩等が挙げられる。これらのうちでも、リン酸及びオルトリン酸のアンモニウム塩の少なくとも1種がより好ましい。
【0024】
上記原料混合液に対し、アンモニウム化合物の少なくとも1種を添加する。これら化合物の添加時期は、原料混合液の調製中のいずれの時点であっても良い。
アンモニウム化合物としては、水溶性又は酸により水可溶性となる化合物が好ましい。アンモニウム化合物としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等の無機アンモニウム化合物;水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の有機アンモニウム化合物等が例示される。前述のジルコニウム化合物、カルボン酸化合物及びリン酸化合物の少なくとも1種がアンモニウム含有化合物である場合には、これらをアンモニウムイオン源としても同時に使用することができる。
【0025】
これらのうちでも、リン酸アンモニウム、アンモニア水、塩化アンモニウム及びシュウ酸アンモニウムの少なくとも1種がより好ましい。
混合に際しては、攪拌を行うことが望ましい。特に、リン酸又はその水溶液を添加する際には、部分的にリン酸濃度が高くなる状態をなるべく回避できるように十分に攪拌を行うことが望ましい。
【0026】
原料混合液は、ジルコニウム化合物(Zrとして)、カルボン酸化合物(Cとして)及びリン酸化合物(POとして)の割合が、図1に示すモル比三角成分図において、A(28,3,69)、B(63,6,31)、C(44,43,13)及びD(1,97,2)の各点を結ぶ直線で囲まれた領域内に入り、かつ、Zr1モル当りアンモニウム化合物が0.2〜100モル程度となるように調節することが望ましい。原料混合液中の各成分の組成比が上記領域外となる場合には、結晶化速度が遅い、収率が低い、非晶質生成物を混有する、未反応原料が残存する、所望外の結晶形を含む結晶質となる等の問題点の1又は2以上が生ずるおそれがある。
【0027】
各成分を均一に溶解又は分散させた原料混合液の形態は、溶液又は未溶解の過剰原料を含むスラリー状のいずれであっても良い。
原料混合液の濃度は、Zrが0.01〜25重量%、特に0.1〜10重量%となる濃度に調整することが好ましい。Zrが0.01重量%未満の稀薄溶液では、経済的に不利になることがある。一方、Zrが25重量%を上回る場合には、カルボン酸塩、リン酸塩等が結晶として析出するので、生成物たる結晶質リン酸ジルコニウムの濾過及び水洗が困難となるおそれがある。
【0028】
上記原料混合液のpHは限定的ではないが、10以下であることが好ましく、特に0.5〜7であることがより好ましい。上記pHが10を超える場合には、結晶化度の低い結晶質リン酸ジルコニウムが生成される傾向がある。反応混合液のpH調整剤としては、塩酸、硫酸、硝酸等の鉱酸;水酸化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアンモニウム及びアルカリ金属の水酸化物及び炭酸塩等が例示される。
【0029】
反応温度(本発明においては、各成分の反応及び熟成による結晶質リン酸ジルコニウムの晶出反応を一括して反応という)は、50℃以上とすることが好ましい。反応温度が50℃未満では、目的生成物の晶出に長時間を要するので経済的に不利である。反応温度の上限は限定されないが、経済性等の観点からは200℃程度とすれば良い。反応時間は、原料の種類(すなわち原料の反応性)、原料の配合比、原料混合液の濃度、温度及びpH、反応生成物の所望の結晶化度等により異なるが、通常30分〜20日程度である。
生成したNHZr(POは、濾過、デカンテーション、遠心分離等の公知の手段によって固液分離し、洗浄した後、常法に従って脱水・乾操すれば良い。乾操方法としては、加熱乾操、風乾のほか、五酸化リン、塩化カルシウム、シリカゲル等の乾燥剤による吸着水の除去等が適用できる。また、必要に応じて1080℃以下で加熱処理しても良い。1080℃を超える場合には、所望の結晶形が変形して二リン酸ジルコニウム(ZrP)等に変換される。
【0030】
このようにして得られるNHZr(POは、アルミナを始めとする各種セラミックス製坩堝や白金坩堝などに入れて、約500〜約700℃で約1時間〜約5時間熱処理することで、HZr(POが得られる。
【0031】
このようにして得られるHZr(POは、一般的に、化学的・熱的に安定な三次元網状構造を有しており、アンモニウムイオン、水素イオン、分子径の小さいHO分子等を部分的に網目構造のミクロな細孔中に含むゼオライト状トンネル構造を備えている。固定化すべき金属元素は、上記細孔中に取り込まれ、これにより外部環境の影響を直接受けることが少なくなり、外部に浸出し難くなる。
本発明では、HZr(POの形状は限定されず、粉末、粒状等のどのような形状のものでも後述のRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)を得ることができる。従って、用途、使用方法等に応じて、取扱い上好ましい形状を適宜採用すれば良い。
【0032】
このHZr(POに、HZr(POと各金属硝酸塩R(NO(R=Ca、Sr、Ba)とのモル比がR(NO/HZr(PO=0.5〜0.6(好ましくは、0.5〜0.52)になるように金属硝酸塩R(NO(R=Ca、Sr、Ba)水溶液を加え、蒸発皿の中で十分に混練した。それを100℃にて蒸発乾固した後、500〜800℃の温度領域、望ましくは700℃で約5時間熱処理することにより、HとR2+とのイオン置換を行い、その後に100倍体積程度以上の純水中にて洗浄し、100℃で乾燥することによりRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)は得ることができる。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の実施例を比較例と共に上げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、前記した本発明の要旨を逸脱しない限り、種々変更、変形が可能である。
【実施例1】
【0034】
本実施例で用いるリン酸ジルコニウムRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)とTiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及び/又はMoO焼結助剤含有物との組成を表1に示す。
【0035】
表1に示すように、リン酸ジルコニウムRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)組成物とTiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及び/又はMoO焼結助剤含有物を秤量し、溶媒としてイオン交換水を用い、更に30体積%のポリビニルアルコール溶液を1重量%加えた。これを超高分子量ポリエチレン製ボールミルにてφ10mmのZrO質メディアを使用して混練した後、スプレー造粒を行った。この造粒粉を1000kgf/mmの圧力で後述の試験片に近い形状なるようにCIP成形し、表1に示す温度(表示がないものは、すべて1500℃)で各2時間焼成を行った。その後、後述の試験片形状に加工を行った。
【0036】
得られた各リン酸ジルコニウム焼結体について、“「ファインセラミックスの曲げ強度試験方法(JIS R 1601)」に基づいて測定した3点曲げ強度”、“「ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法(JIS R 1618)」に基づいて測定した室温〜1000℃の平均熱膨張係数”、“耐熱衝撃性”、“耐熱性”を測定し、それらの結果を表1に示す。
【0037】
なお、“耐熱衝撃性”は、径5mm×長さ20mmの円柱試料を200℃で1時間維持した後、水中に投入し、亀裂が発生しなかったものは○印で、亀裂が発生したものは×印で、表1に示す。また、“耐熱性”は、焼成温度まで再度加熱した時に、変形が発生せず、主構成相以外の結晶相が認められなかったものは○印で、変形が発生せず、リン酸ジルコニウムの主構成相以外の結晶相が認められなかったものは×印で、表1に示す。
【0038】
表1から、焼結助剤的である“TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物”が、本発明の所定範囲内である実施例では、高い機械的強度、低い熱膨張性を有し、且つ、耐熱衝撃性及び耐熱性に優れた低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体が得られることが理解できる。そして、本発明で規定する所定範囲の1つでもはずれたものでは、本発明の目的とする低熱膨張性リン酸ジルコニウム焼結体が得られなかった。
【0039】
例えば、本発明で規定する“TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物の含有量が0.1〜10重量%”の範囲外の少量である試料No.1、2、12、22、32、42、57、67、77、87(比較例)では、機械的強度が低く、耐熱衝撃性の劣るものであった。
【0040】
さらに、本発明で規定する“TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物の含有量が0.1〜10重量%”の範囲外の多量である試料No.10、11、20、21、30、31、40、41、55、56、65、66、75、77、85、86、95、96(比較例)では、機械的強度が低く、平均熱膨張率が大きく、耐熱衝撃性及び耐熱性の劣るものであった。また、リン酸ジルコニウムの主構成相以外の結晶相が多く認められた。
【0041】
一方、焼成条件についても同様であって、本発明で規定する“1200〜1800℃”の範囲外の1100℃で焼成した試料No.44(比較例)では、機械的強度が低く、耐熱衝撃性に劣るものであり、1850℃で焼成した試料No.49(比較例)では、機械的強度が低く、耐熱衝撃性及び耐熱性に劣るものであった。
【0042】
【表1】

【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】

【実施例2】
【0048】
BaZr(POを主成分にNbを0.5wt%含有した試料No.34と特開平3−208807号に従い作製したBaZr(POを、室温から1200℃に上げ10時間保持した後、1200℃から室温に下げる熱サイクル劣化試験を50回行った。本発明の試料No.34の曲げ強度と平均熱膨張係数には変化が認められなかった。一方、特開平3−208807号の実施例1の方法に従い作製したBaZr(POの曲げ強度は3kgf/mmから2kgf/mm以下に低下し、平均熱膨張係数は−2×10−7/℃から+7×10−7/℃に変化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を0.1〜10重量%含有し、残部がRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)であり、且つ、室温で主構成相としてNASICON型三次元網目構造からなる結晶構造をもつリン酸ジルコニウム焼結体。
【請求項2】
室温〜1000℃の温度領域での平均熱膨張率が−10〜+10×10−7/℃で、曲げ強度が2kgf/mm以上であることを特徴とする請求項1記載のリン酸ジルコニウム焼結体。
【請求項3】
ジルコニウム化合物、カルボン酸ジルコニウム及びリン酸化合物とアンモニウム化合物及びアンミン化合物の少なくとも1種とを含む混合液を用いた直接結晶析出法より調製されたNHZr(POを熱分解することにより得たHZr(POと、R(NO(R=Ca、Sr、Ba)の混合物を熱処理することによりHとR2+のイオン置換よって合成したRZr(PO(R=Ca、Sr、Ba)と、TiO、ZrO、HfO、Nb、Ta、WO及びMoOよりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属酸化物を混合し、成形した後、得られた成形体を1200〜1800℃で焼結することを特徴とする請求項1又は2に記載のリン酸ジルコニウム焼結体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−225415(P2011−225415A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110639(P2010−110639)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】