説明

リン酸修飾酵素活性を測定するためのアッセイ法

【課題】本発明の目的は、リン酸修飾を触媒する酵素の活性をアッセイするための方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、キナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼのようなリン酸修飾を触媒する酵素の活性を測定することができるアッセイに関する。アッセイはまた、キナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼの活性を調整する物質を同定およびスクリーニングするためにも用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、リン酸修飾を触媒する酵素の生物学的アッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
タンパク質のリン酸化および脱リン酸化は、通常、外部刺激に反応して一般的なシグナル伝達機構として細胞によって用いられる。これらのリン酸修飾を行うタンパク質は、キナーゼ(リン酸化)およびホスファターゼ(脱リン酸化)と呼ばれる酵素である。キナーゼおよびホスファターゼは、(脱)リン酸化されるアミノ酸残基に応じて二つのファミリーに分類することができる:チロシンキナーゼ(ホスファターゼ)およびセリン/トレオニンキナーゼ(ホスファターゼ)。細胞のシグナル伝達経路において重要である他の酵素には、重要な二次情報伝達物質である環状AMP(cAMP)および環状GMP(cGMP)のような環状ヌクレオチドを産生することができるシクラーゼ、ならびに環状ヌクレオチドを加水分解して対応する非環化(noncyclized)ヌクレオチド一リン酸(すなわちAMPおよびGMP)を形成するホスホジエステラーゼが含まれる。細胞機能の調節におけるその重要な役割により、これらの酵素は全て、新規薬学的治療を発見するおよび開発するための重要な標的分子である。
【0003】
細胞性タンパク質のリン酸化状態を測定する従来の方法は、放射性の32P-オルトリン酸の取り込みに基づいている。32P-リン酸化タンパク質は、ゲルで分離された後、ホスフォイメージャーを用いて可視化される。あるいは、リン酸化チロシン残基を、放射標識された抗ホスホチロシン抗体の結合によって結合して、イムノアッセイ、たとえば免疫沈降またはブロッティングによって検出してもよい。これらの方法は、放射性同位元素を検出する必要があることから、時間がかかり、同様に放射性物質の取り扱いに関係する安全面から、ウルトラハイスループットスクリーニング(uHTS)には適していない。
【0004】
より最近の方法においては、放射性イムノアッセイはELISA(酵素結合免疫吸着測定法)に取って代わられている。これらの方法は、基質表面に固定化されている精製基質タンパク質または合成ペプチド基質を用いる。キナーゼ作用の後、リン酸化の程度は、ペルオキシダーゼのような増強酵素に結合した抗ホスホチロシン抗体の、たとえばリン酸化された固定化基質に対する結合によって定量化される。
【0005】
Eppsら(特許文献1)は、蛍光標識されたリン酸化レポーター分子、およびリン酸化レポーター分子に特異的に結合する抗体を利用する、タンパク質キナーゼおよびホスファターゼに関する蛍光に基づくHTSアッセイを記述している。結合は、蛍光偏光、蛍光消光、または蛍光相関分光法(FCS)によって測定される。この方法は、ホスホチロシン基質に対して利用可能である抗体が良好な一般的抗体(たとえば、クローンPT66、PY20、Sigma)のみであるという固有の短所を有する。適した抗ホスホセリン抗体または抗トレオニン抗体の例はごく少数報告されているに過ぎない(たとえば、非特許文献1、Panveraキット番号P2886)。しかし、これらの抗体は、ホスホセリンのみならず、隣接するアミノ酸もエピトープとして認識するという特性を有する。しかし、キナーゼは非常に基質特異的に機能すること、および基質配列は大きく異なりうることが公知である。したがって、抗ホスホセリン抗体は一般的試薬として用いることができない。
【0006】
Perkin Elmer(Wallac)社は、時間分解蛍光およびユーロピウムキレートからアロフィコシアニンへのエネルギー転移に基づく、チロシンキナーゼに関するアッセイを提供している(特許文献2も参照されたい)。この場合も同様に、プロセスは、抗体を用いることにより、本質的にチロシンキナーゼに限定される。
【0007】
最近、Molecular Devices社(特許文献3)は、シクラーゼ活性およびホスホジエステラーゼ活性を測定するためのヌクレオチドの環化反応および脱環化反応のみならず、キナーゼ活性およびホスファターゼ活性を測定するためのリン酸化反応にとって適した一般的な結合試薬として表面上に荷電したガリウム陽イオンを有するナノ粒子を提供した。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,203,994号
【特許文献2】欧州特許第929 810号
【特許文献3】米国特許第7,070,921号
【非特許文献1】Bader B. et al., Journal of Biomolecular Screening, 6, 255(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、リン酸修飾を触媒する酵素の活性をアッセイするための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
本発明は、金属イオンであるインジウム(III)およびジルコニウム(IV)がリン酸化分子に特異的に結合する能力に基づいて、その基質上でリン酸修飾を触媒することができる酵素の活性を検出するためのアッセイを記述する。アッセイは、ポリペプチド分子をリン酸化または脱リン酸化するキナーゼおよびホスファターゼのような酵素、ならびにヌクレオチド分子を環化または脱環化(decyclize)するシクラーゼおよびホスホジエステラーゼのような酵素のために用いることができる。
【0011】
したがって、本発明は、基質または産物のいずれかに結合することができるが双方には結合しないインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンの存在下で、基質を酵素に接触させる段階;インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと、基質または産物との間の結合の程度を測定する段階;ならびに結合の程度を酵素の活性に相関させる段階を含む、基質上でリン酸修飾を触媒して産物を形成することができる酵素の活性をアッセイするための方法を提供し、ここで酵素は、キナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼからなる群より選択される。
【0012】
本発明はまた、物質の存在下または非存在下で、および基質または産物のいずれかに結合することができるが双方には結合しないインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンの存在下で、基質と酵素とを接触させる段階;インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと、基質または産物との間の結合の程度を測定する段階;ならびに物質が、酵素の活性と相関する結合の程度を調整する能力を決定する段階を含む、基質上でリン酸修飾を触媒して産物を形成することができる酵素の活性を調整する物質をスクリーニングする方法を提供し、ここで酵素はキナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼからなる群より選択される。
【0013】
本発明(1)は、酵素がキナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼからなる群より選択される、基質上でリン酸修飾を触媒して産物を形成することができる酵素の活性をアッセイするための方法であって、以下の段階を含む方法である:
i)基質または産物のいずれかに結合することができるが双方には結合しないインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンの存在下で基質を酵素に接触させる段階;
ii)インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと、基質または産物との間の結合の程度を測定する段階;および
iii)段階ii)における結合の程度を酵素の活性と相関させる段階。
本発明(2)は、基質が蛍光性部分で標識され、かつ段階ii)がインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと基質または産物との間の結合の程度を示す検出可能な蛍光反応を測定する段階を含む、本発明(1)の方法である。
本発明(3)は、検出可能な蛍光反応が、蛍光強度、蛍光消光、時間分解蛍光強度、蛍光共鳴エネルギー転移、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移、および蛍光偏光からなる群より選択される、本発明(2)の方法である。
本発明(4)は、検出可能な蛍光反応が蛍光偏光である、本発明(3)の方法である。
本発明(5)は、酵素がキナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼからなる群より選択される、基質上でリン酸修飾を触媒して産物を形成することができる酵素の活性を調整する物質をスクリーニングするための方法であって、以下の段階を含む方法である:
i)物質の存在下または非存在下で、および基質または産物のいずれかに結合することができるが双方には結合しないインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンの存在下で、基質と酵素とを接触させる段階;
ii)インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと基質または産物との間の結合の程度を測定する段階;および
iii)物質が段階ii)における酵素の活性と相関する結合の程度を調整する能力を決定する段階。
本発明(6)は、基質が蛍光性部分で標識され、かつ段階ii)がインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと基質または産物との間の結合の程度を示す検出可能な蛍光反応を測定する段階を含む、本発明(5)の方法である。
本発明(7)は、検出可能な蛍光反応が、蛍光強度、蛍光消光、時間分解蛍光強度、蛍光共鳴エネルギー転移、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移、および蛍光偏光からなる群より選択される、本発明(6)の方法である。
本発明(8)は、検出可能な蛍光反応が蛍光偏光である、本発明(7)の方法である。
【0014】
本発明の前述および他の長所および特色、ならびにそれらを達成する方法は、例示的な態様を説明する添付の実施例と共に、本発明の以下の詳細な説明を考慮することによってより容易に明らかとなると考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、リン酸修飾を触媒する酵素の活性をアッセイするための方法が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
定義
「リン酸修飾」という用語は、ポリペプチドのような有機分子へのもしくは有機分子からの、リン酸基の導入(リン酸化)もしくは除去(脱リン酸化)、またはリン酸基とヌクレオシドをヌクレオチド中で連結させる環の形成(環化)もしくは分解(脱環化)を指す。一般的な環化は、ヌクレオチド三リン酸からの二つのリン酸基を除去して、かつ残りのリン酸基の遊離末端を残りのヌクレオチド一リン酸における糖に連結させることによって、ATPおよびGTPからそれぞれ、cAMPおよびcGMPを形成する。一般的な脱環化反応は、環を分解してcAMPおよびcGMPからそれぞれ、非環化AMPおよび非環化GMPを形成する。
【0017】
「基質」という用語は、リン酸修飾を触媒する酵素が作用する分子を指す。「産物」という用語は、酵素が触媒するリン酸修飾に起因する産物を指す。
【0018】
「キナーゼ」という用語は、基質をリン酸化することができる酵素を指す。「ホスファターゼ」という用語は、基質を脱リン酸化することができる酵素を指す。「ホスホジエステラーゼ」という用語は、環状ヌクレオチド(cAMPおよびcGMPのような)の3'-エステル結合の加水分解を触媒して、非環化ヌクレオチド一リン酸を形成する酵素を指す。「シクラーゼ」という用語は、ヌクレオチド三リン酸から環状ヌクレオチド(cAMPおよびcGMPのような)の形成を触媒する酵素を指す。
【0019】
「インジウム(III)」という用語は、「In(III)」および「In+3」と互換的に用いられ、不対電子と+3の電荷を有するインジウムイオンを指す。インジウム(III)イオンは、水性混合物において、塩化インジウム(InCl3)のようなインジウム塩から形成することができる。「ジルコニウム(IV)」という用語は、「Zr(IV)」および「Zr+4」と互換的に用いられ、不対電子と+4の電荷とを有するジルコニウムイオンを指す。ジルコニウム(IV)イオンは、水性混合物において塩化ジルコニウム(ZrCl4)のようなジルコニウム塩から形成することができる。
【0020】
「蛍光性の」または「蛍光」という用語は、光による励起によって引き起こされた、通常は可視光の放出である電磁放射、または物質における原子もしくは分子の電磁放射の他の形を指す。「蛍光反応」という用語は、それによって蛍光性物質の蛍光が特徴付けられる一つまたは複数のパラメータを指す。
【0021】
「蛍光強度」という用語は、蛍光性物質から放出された光の量または強度を指す。「時間分解蛍光強度」という用語は、閃光による励起後の時間の関数としてモニターした試料の蛍光強度を指す。
【0022】
「蛍光消光」という用語は、所与の物質の蛍光強度を減少させる任意のプロセスを指す。励起状態反応、エネルギー転移、複合体形成、および衝突消光のような多様なプロセスによって、消光が起こりうる。
【0023】
「蛍光共鳴エネルギー転移」という用語は、二つの蛍光性分子間のエネルギー転移メカニズムを記述する。蛍光ドナーはその特異的蛍光励起波長で励起される。長距離双極子-双極子カップリングメカニズムにより、次にこの励起状態は、非放射的に第二の分子、すなわちアクセプターに転移される。ドナーは、電子基底状態に戻る。「時間分解蛍光共鳴エネルギー転移」という用語は、時間作用を含めるように蛍光共鳴エネルギー転移を延長したものである。
【0024】
「蛍光偏光」という用語は、溶液または顕微鏡標本からの蛍光の偏光の測定を指し;分子の大きさ、形状、およびコンフォメーション、分子異方性、電子エネルギー転移、分子相互作用、色素および補酵素結合を含み、ならびに抗原/抗体反応に関する情報を提供するために用いられる。
【0025】
発明の詳細な説明
本発明は、リン酸修飾を触媒する酵素の活性をアッセイするための方法を提供する。そのような酵素には、ポリペプチド分子をそれぞれリン酸化および脱リン酸化するキナーゼおよびホスファターゼ、ならびにヌクレオチド分子をそれぞれ環化および脱環化するシクラーゼおよびホスホジエステラーゼが含まれる。本発明において提供されるアッセイは、生命科学研究、アッセイの開発、薬物の発見およびハイスループットスクリーニングを含むがこれらに限定されるわけではない多様な応用において有用である。
【0026】
本発明の方法は、金属イオンである、インジウム(III)(In+3)およびジルコニウム(IV)(Zr+4)による、リン酸化ポリペプチド上のリン酸基に対するまたは非環状ヌクレオチドに対する特異的結合に基づいている。結合は、インジウム(III)イオンおよびジルコニウム(IV)イオンが非リン酸化ポリペプチドまたは環化されたヌクレオチドには結合しないという点において特異的である。これらの金属イオンは、酵素反応の基質または産物に限って結合することができ、双方には結合しないことから、これらの金属イオンの識別力のある特質により、リン酸修飾を触媒する酵素の活性をモニターするアッセイにおいてそれらを利用することができる。キナーゼおよびホスホジエステラーゼのような酵素の場合、In+3イオンおよびZr+4イオンは、産物には結合するが基質には結合しないのに対して、ホスファターゼおよびシクラーゼの場合、これらのイオンは基質には結合するが産物には結合しない。金属イオンと基質または産物(酵素に応じて)との間の結合の程度を測定することによって、酵素の活性を決定することができる。これらのアッセイを、さらに、キナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼの活性を調整することができる物質をスクリーニングするまたは同定するために用いることができる。最後に、これらのアッセイは、金属イオンとリン酸基との間の結合が、ポリペプチドにおけるいかなる特異的アミノ酸配列、またはヌクレオチドにおけるいかなる特定の塩基もしくはヌクレオシドとも無関係に起こりうることから、いかなるキナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、またはホスホジエステラーゼにも応用することができる。
【0027】
本発明のアッセイは、以下の段階で構成される。これらの段階には、(1)インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンの存在下で基質を酵素に接触させる段階、(2)インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと、基質または産物のいずれかとの間の結合の程度を示す反応を測定する段階、および(3)反応をリン酸修飾に影響を及ぼす酵素の活性と相関させる段階、が含まれる。アッセイにはさらに、基質および酵素をインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンに接触させる段階の前および/または間に、基質および酵素を推定上のモジュレーターのような候補物質に接触させる段階、ならびにインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと基質または産物のいずれかとの間の結合の程度に及ぼすその効果によって、候補物質が酵素の活性を促進するまたは阻害する能力を決定する段階が含まれてもよい。
【0028】
酵素、酵素モジュレーター、基質、産物、およびインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンのようなアッセイ成分を互いにおよび/または他の種と接触させる段階は、一般的にこれらの成分の任意の明記された組み合わせを機能的および/または反応的に接触させるための任意の方法を含む。好ましい方法は、溶液中で材料を混合するおよび/または形成することによるが、インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンのような一つまたは複数の成分をビーズまたは表面に付着させるような他の方法も、そのような付着後に成分が少なくとも何らかの機能、特異性、および/または結合親和性を保持している限り、用いてもよい。
【0029】
アッセイ成分および/または試料は、そのような支持体を提供することができる任意の材料によって接触のために支持されてもよい。適した基質には、マイクロプレート、PCRプレート、バイオチップ、およびハイブリダイゼーションチャンバーが含まれてもよく、中でもマイクロプレートウェルおよびマイクロアレイ(すなわち、バイオチップ)部位のような造りはアッセイ部位を含んでもよい。適したマイクロプレートは、参照により本明細書に組み入れられる、以下の米国特許出願において記述される:1997年4月14日に提出された出願番号第08/840,553号;および2000年1月5日に提出された出願番号第09/478,819号。これらのマイクロプレートには、96、384、1536、または他の数のウェルが含まれてもよい。これらのマイクロプレートにはまた、感知される容積に適合できる小さい容積(≦50μL)、上昇した底、および/または円錐台(frusto-conical)の形状を有するウェルが含まれてもよい。
【0030】
結合の程度を示す反応を測定する段階は、一般的に、適したパラメータおよび/またはシグナルの変化または発生を検出するおよび/または定量する段階を含む、そのような検出を実現するための任意の方法を含む。方法には、中でも蛍光法および/または非蛍光法、ならびに均質および/または不均質な方法が含まれてもよい。
【0031】
蛍光アッセイは、蛍光性化合物(たとえば、蛍光体)によって放出された光を検出する段階、ならびに化合物およびその環境の特性を理解するためにその光の特性を用いる段階を必然的に伴う。典型的な蛍光アッセイは、(1)試料から蛍光を誘導することができる条件に試料を曝露する段階、および(2)金属イオンと基質または産物との間の結合の程度を示す検出可能な蛍光反応を測定する段階を必然的に伴いうる。ほとんどの蛍光アッセイは、適した励起光の吸収に反応して放出された光に基づいている。適した蛍光アッセイには、中でも(1)蛍光の強度の測定を必然的に伴う蛍光強度、(2)偏光による励起に反応して放出された光の偏光を検出する段階を必然的に伴う蛍光偏光、および(3)蛍光ドナーと適したアクセプターとの間のエネルギー転移の検出を必然的に伴う蛍光共鳴エネルギー転移、が含まれる。非蛍光アッセイは、中でも吸収、散乱、および/または放射能のような、試料によって放出された光以外の検出可能な反応を用いる段階を必然的に伴う。これらおよび他の蛍光および非蛍光アッセイは、参照により本明細書に組み入れられる以下の資料において記述されている:2001年1月19日に提出された米国特許出願番号第09/765,869号;およびJoseph R. Lakowicz, Principles of Fluorescence Spectroscopy (2nd ed. 1999)。
【0032】
検出可能な蛍光反応は、一般的に直接的な視覚的観察によって、および/または適した機器によって検出可能な蛍光シグナルの変化またはその発生を含む。典型的には、検出可能な反応は、蛍光の強度、偏光、エネルギー転移、寿命、および/または励起もしくは放出波長分布の変化のような、蛍光の特性の変化である。検出可能な反応は単純に検出されてもよく、または定量されてもよい。単純に検出される反応は一般的に、その存在を単に確認する反応を含むが、定量される反応は一般的に、強度、偏光、および/または他の特性のような定量可能な(たとえば、数値として報告可能な)値を有する反応を含む。蛍光アッセイにおいて、検出可能な反応は、そのような基質の結合に実際に関係しているアッセイ成分に関連した蛍光体を直接的に用いて、またはもう一つの(たとえば、レポーターもしくは指標)成分に関連した蛍光体を用いて間接的に生成されてもよい。アッセイ成分を蛍光標識するための適した方法および蛍光体は、参照により本明細書に組み入れられる以下の資料において記述される:Richard P. Haugland, Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals (6th ed. 1996);2001年3月19日に提出された米国特許出願番号第09/813,107号;および2001年3月23日に提出された米国特許出願番号第09/815,932号。
【0033】
不均質および均質な方法は、それらが検出前に試料の分離を必然的に伴うか否かによって区別される可能性がある。不均質な方法は一般的に、結合種と非結合種とのバルク分離を必要とする。この分離は、たとえば、結合種を、金属イオンまたは他の適した成分で標識したビーズまたはマイクロプレート表面のような固相に捕獲した後に任意の未結合種を洗浄することによって、達成されてもよい。次に、結合の程度を、捕獲された結合種の量を測定することによって直接的に、および/または捕獲されていない未結合種の量を測定することによって(全量が公知の場合)間接的に、決定することができる。均質な方法は、対照的に、一般的にバルク分離を必要としないが、その代わりに結合種と未結合種とを分離する必要なく結合種と未結合種の結合または非結合によって何らかの方法で影響を受ける蛍光反応のような検出可能な反応を必要とする。
【0034】
相関させる段階は、一般的に、結合の程度を、リン酸修飾に影響を及ぼす酵素の活性に相関させるための任意の方法を含む。相関は一般的に、もう一つの反応(たとえば、異なる時間での同じ試料および/または任意の時間でのもう一つの試料の類似の測定に由来する)に対する反応の存在および/または規模、および/または較正標準(たとえば、検量線、予想される反応の計算、および/または発光性の基準材料に由来する)を比較することによって行われてもよい。このように、たとえば、環状ヌクレオチド濃度に関する偏光アッセイにおいて、未知試料における環状ヌクレオチド濃度を、未知試料に関して測定された偏光を環状ヌクレオチド濃度の関数として偏光を測定することによって、類似の条件で生成された検量線において、その偏光に対応する環状ヌクレオチド濃度と適合させることによって決定してもよい。
【実施例】
【0035】
以下の調製および実施例は、当業者が本発明をより明確に理解しかつ実践することができるように与えられる。それらは、本発明の範囲を制限するものと考えられるべきではなく、本発明の単なる実例および典型であると考えられるべきである。
【0036】
実施例1
蛍光偏光を用いるホスホジエステラーゼアッセイ
ホスホジエステラーゼ(PDE)反応混合物は、0.1%BSAを含む10 mMトリス(pH=7.2)20μlにおいて、PDE(様々な濃度)と50 nM TAMRA-cGMP(TAMRA=6-カルボキシテトラメチルローダミン)とを含む。室温で1時間インキュベートした後、10 mM ZnSO4の存在下で100 mM NaAc/HAc緩衝液(pH=5.2)において10 mM ZrCl4 60μl、10 mM InCl360μl、または10 mM GaCl3 60μlをPDE反応混合物に添加した。1時間インキュベートした後、Analystリーダー(Molecular Devices)を用いて蛍光偏光を測定した。実験結果を図1Aに示す。図1Bは、様々な金属イオン塩を用いた類似のPDEアッセイを示す。ZrCl4、InCl3、およびGaCl3のみが、蛍光シグナルを示すことができ、PDE産物との結合を示した。
【0037】
実施例2
蛍光偏光を用いるキナーゼアッセイの描写
TAMRA-KNSDLLTSPDVGLLK(基質)(配列番号:1)およびTAMRA-KNSDLLTS(PO3)PDVGLLK(産物)(配列番号:2)の異なる比の混合物を用いてキナーゼ反応混合物を模倣した。100 mM ZrCl4、InCl3、またはGaCl3を、10 mM ZnSO4を含む100 mM NaAc/HAc緩衝液(pH=5.2)で希釈した。ZrCl4およびInCl3に関して用いた希釈倍数は、1:600であったが、GaCl3に関して用いた希釈倍数は1:10であった。これらの塩溶液60μlをペプチド混合物に添加した。1時間インキュベートした後、Analyst リーダーを用いて蛍光偏光を測定した。実験の結果を図2に示す。
【0038】
実施例3
不均質アッセイ
In(III)またはZr(IV)を用いて、金属で覆われたプレート(Pierce)上またはビーズ上のNi(II)を置換して、リン酸化(または脱リン酸化)が起こる場合に非リン酸化分子からリン酸化分子を分離することができる。キナーゼアッセイまたはホスファターゼアッセイは、蛍光標識ペプチドまたはタンパク質基質を用いて行うことができる。In(III)またはZr(IV)で覆われた粒子、マイクロプレート、またはマイクロ流体装置の内表面に捕獲されたリン酸化ペプチドまたはタンパク質は、洗浄後に検出することができる。洗浄段階または分離段階は、単一の分子または単一の細胞レベルで検出することができるリーダーを用いる場合には省略することができる。ホスホジエステラーゼ活性は、蛍光標識cAMPまたは蛍光標識cGMPを基質として用いる場合に検出することができる。
【0039】
実施例4
時間分解蛍光エネルギー転移アッセイ
キナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、またはPDEの活性を決定するために、アクセプター(すなわち、Cy5またはフルオレセイン)標識蛍光性基質を用いることができる。酵素反応の停止後、ドナー(すなわち、ユーロピウム錯体またはテルビウム錯体)標識PO3ペプチド(または他のPO3標識分子)を、In(III)塩溶液またはZr(IV)塩溶液と共に反応混合物に加えることができる。ドナーおよびアクセプター対は、PO3金属錯体が形成される場合に、In(III)またはZr(IV)によってかなり近位にもたらされ、それによって蛍光エネルギー転移が結果として生ずる。
【0040】
同様に、ドナー共役ペプチドの代わりに消光剤共役PO3ペプチド(または他のPO3標識分子)を用いることができる。本明細書において、蛍光シグナル変化は、リン酸修飾酵素反応に関する非反応基質の量を反映する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1A】様々な濃度のホスホジエステラーゼを用いて、アッセイを行った、検出測定として蛍光偏光を用いるホスホジエステラーゼアッセイの結果を示す図である(mP=ミリ偏光単位)。
【図1B】様々な金属イオンを用いて、アッセイを行った、検出測定として蛍光偏光を用いるホスホジエステラーゼアッセイの結果を示す図である(mP=ミリ偏光単位)。
【図2】非リン酸化基質およびリン酸化産物の滴定を用いる検出測定として蛍光偏光によるキナーゼアッセイの表示を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素がキナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼからなる群より選択される、基質上でリン酸修飾を触媒して産物を形成することができる酵素の活性をアッセイするための方法であって、以下の段階を含む方法:
i)基質または産物のいずれかに結合することができるが双方には結合しないインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンの存在下で基質を酵素に接触させる段階;
ii)インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと、基質または産物との間の結合の程度を測定する段階;および
iii)段階ii)における結合の程度を酵素の活性と相関させる段階。
【請求項2】
基質が蛍光性部分で標識され、かつ段階ii)がインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと基質または産物との間の結合の程度を示す検出可能な蛍光反応を測定する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
検出可能な蛍光反応が、蛍光強度、蛍光消光、時間分解蛍光強度、蛍光共鳴エネルギー転移、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移、および蛍光偏光からなる群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
検出可能な蛍光反応が蛍光偏光である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
酵素がキナーゼ、ホスファターゼ、シクラーゼ、およびホスホジエステラーゼからなる群より選択される、基質上でリン酸修飾を触媒して産物を形成することができる酵素の活性を調整する物質をスクリーニングするための方法であって、以下の段階を含む方法:
i)物質の存在下または非存在下で、および基質または産物のいずれかに結合することができるが双方には結合しないインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンの存在下で、基質と酵素とを接触させる段階;
ii)インジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと基質または産物との間の結合の程度を測定する段階;および
iii)物質が段階ii)における酵素の活性と相関する結合の程度を調整する能力を決定する段階。
【請求項6】
基質が蛍光性部分で標識され、かつ段階ii)がインジウム(III)イオンまたはジルコニウム(IV)イオンと基質または産物との間の結合の程度を示す検出可能な蛍光反応を測定する段階を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
検出可能な蛍光反応が、蛍光強度、蛍光消光、時間分解蛍光強度、蛍光共鳴エネルギー転移、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移、および蛍光偏光からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
検出可能な蛍光反応が蛍光偏光である、請求項7記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−148698(P2008−148698A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322669(P2007−322669)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】