説明

リン酸化フルクタン及びその調製方法

【課題】本発明は、植物から調製したフルクタンからエンドトキシンを除去するとともにエンドトキシンフリーのフルクタンにリン酸基を化学的に導入したリン酸化フルクタン及びその調製方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】植物から調製したフルクタンを用いてリン酸化処理を行う場合に問題となるエンドトキシンを陰イオン交換クロマトグラフィーで除去することで、エンドトキシンフリーのフルクタンを用いてリン酸化フルクタンを調製した。リン酸化フルクタンは、免疫賦活化作用を有し、Bリンパ球マイトジェンとして機能し、Th1及びTh2系の樹状細胞を活性化することが明らかとなった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物から調製されたフルクタンからエンドトキシンを除去して調製されたリン酸化フルクタン及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルトや発酵乳及び乳酸菌飲料等に使われている乳酸菌の中には、菌体外多糖(Exopolysaccharide:EPS)を生産するものが存在する。そのEPSには免疫賦活化作用、抗腫瘍性、感染防御作用及び血清コレステロール低減作用など様々な生理活性を示すことが知られており、本発明者らも、こうしたEPSの生理活性に着目して免疫賦活化作用や抗腫瘍性などの生理活性を明らかにした。特に、ヨーグルトのスタータ菌として広く使われているLactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus(ブルガリア菌)が生産するEPSについて研究を進めていく中で、多糖にリン酸基が導入されたリン酸化多糖がリンパ球の活性化やマクロファージの活性化を誘導することを明らかにし、これらの活性には、リン酸基の存在が重要である可能性を初めて報告した(非特許文献1参照)。また、中性多糖にリン酸基を化学的に導入することにより、リンパ球幼若化能を誘導し、細胞表面抗原の発現を増強することを明らかにした。例えば、特許文献1では、免疫活性を示さないデキストランを化学的にリン酸化することにより、免疫賦活活性を発揮することを明らかにし、リン酸化デキストランがB細胞マイトジェンである他、樹状細胞を活性化し、IL−10およびIFN−γを誘導したことから、感染症や大腸炎の予防をはじめTh1/2バランスの維持によるアレルギー症の予防効果が期待される点が記載されている。
【非特許文献1】Kitazawa H.,Harada T.,Uemura J.,Saito T.,Kaneko T.,及びItoh T.著「Phosphate group requirement for mitogenic activation of lymphocytes by an extracellular phosphopolysaccharide from Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus」International Journal of Food Microbiology,1998年,p.169-175
【特許文献1】特開2004−107316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以上のようなEPSに関する知見を植物性の多糖に応用することが考えられる。植物性の多糖として従来よりフルクタンが注目されているが、フルクタンはフルクトースとスクロースないしフルクトース単体が重合した3糖以上の多糖からなる、多様な構造をとったホモ多糖であり、イヌリンなどがそれにあたる。イヌリンは特定保健用食品ではないものの、健康食品において食物繊維として既に商品化されており、さらにコレステロール値やトリアシルグリセロール値を低減させる作用があることも報告されており、近年その関心が高まってきている。例えば、チコリやダリアの根部から抽出したイヌリンやラッキョウから抽出したフルクタンが知られている。特に、ラッキョウから抽出したフルクタンは、水に易溶で、食品素材として好適であり、また、ラッキョウを加工する過程において、規格外や端切れとして廃棄される部分を有効活用でき、さらに、ラッキョウに含まれるフルクタンは、乾物当たり70%にもなることから、量産にも適している。
【0004】
しかしながら、こうした植物から調製したフルクタンには、エンドトキシンが含まれている場合のあることを本発明者らは見出した。これは、ラッキョウの根部にはもともと土壌を起源とするグラム陰性菌が付着しており、その後の加工工程で増殖した場合に、リポ多糖(LPS)などのエンドトキシンが混入するおそれがある。一般にエンドトキシンは悪寒・発熱・低血圧・敗血症やショック症状を引き起こす有害物質として知られている。
【0005】
そこで、本発明は、植物から調製したフルクタンからエンドトキシンを除去するとともにエンドトキシンフリーのフルクタンにリン酸基を化学的に導入したリン酸化フルクタン及びその調製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るリン酸化フルクタンの調製方法は、植物から調製されたフルクタンからエンドトキシンを除去する精製工程と、精製されたフルクタンをリン酸緩衝液に溶解させて凍結乾燥する乾燥工程と、乾燥させて生成された試料を100℃以上140℃未満の温度で24時間加熱する加熱工程とを含む。さらに、前記精製工程は、陰イオン交換クロマトグラフィにより行う。
【0007】
本発明に係る薬剤は、エンドトキシンを除去したフルクタンにより調製されたリン酸化フルクタンを有効成分として含み、免疫賦活化作用を有する。さらに、当該薬剤は、免疫賦活化作用が細胞に対する幼若化作用である。さらに、当該薬剤は、Bリンパ球特異的マイトジェンである。
【0008】
本発明に係る細胞の免疫賦活化方法は、エンドトキシンを除去したフルクタンにより調製されたリン酸化フルクタンと細胞とを接触させることを特徴とする。さらに、当該免疫賦活化方法において、免疫賦活化作用が細胞に対する幼若化作用である。さらに、当該免疫賦活化方法において、細胞が脾臓細胞由来又は樹状細胞由来である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の調製方法により、エンドトキシンが除去されたエンドトキシンフリーのフルクタンを用いてリン酸化フルクタンを得ることができた。特に、加熱工程において反応温度条件を100℃以上140℃未満の温度に設定することでリン酸化フルクタンの回収率を向上させることができた。そして、精製工程に陰イオン交換クロマトグラフィを用いることで、エンドトキシンが十分除去されることを確認した。
【0010】
また、エンドトキシンを除去したフルクタンにより調製されたリン酸化フルクタンが免疫賦活化作用を有することが確認され、リン酸化フルクタンを有効成分として含む薬剤を提供することができる。免疫賦活化作用としては細胞に対する幼若化作用が確認され、また、Bリンパ球特異的マイトジェンとしての働きを有する薬剤としての利用も考えられる。
【0011】
また、エンドトキシンを除去したフルクタンにより調製されたリン酸化フルクタンと細胞とを接触させることで細胞の免疫賦活化を図ることができ、細胞としては脾臓細胞由来又は樹状細胞由来のものを活性化することが可能である。
【0012】
なお、免疫賦活化とは、宿主の低下した免疫応答能を賦活(活性化)または増強することを意味する。そして、免疫賦活化作用を評価する場合、リンパ球の幼若化活性(マイトジェン活性)を指標として用いることができる。例えば、Tリンパ球又はBリンパ球に対する幼若化活性に関する測定結果に基づいて免疫賦活化作用を評価することができる。ここで言う「幼若化」とは、一般に、抗原やマイトジェン刺激を受けたリンパ球が芽球化反応により形態的な変化を生じ、芽細胞の特徴を備えた機能的なリンパ球に変化する現象をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
フルクタンは貯蔵炭水化物として多くの植物の中に天然に存在しており、例えばチコリの主根やダリアの塊茎、チューリップとタマネギの鱗茎などの特殊な器官に蓄えられ、落葉後の再成長から春季の発芽にかけて使用される。その他、植物中のフルクタンの役割として、乾燥耐性や凍結耐性を増強させる機能もあり、その植物体においては極めて重要な成分であると考えられている。
【0014】
フルクタンは、フルクトースとスクロースの結合体を母核とし、これにフルクトース単体が次々と重合した3糖以上の多様な構造を有するホモ多糖であり、イヌリンが代表的なものとして挙げられる。イヌリンは特定保健用食品ではないものの、健康食品の食物繊維として既に商品化されており、さらにコレステロール値やトリアシルグリセロール値を低減させる作用があることも報告されている。
【0015】
本発明者らは、植物から精製されるフルクタンとして福井県食品加工研究所において調製されたラッキョウフルクタンに注目した。このラッキョウフルクタンは、水に対して易溶な食物繊維として有用なもので、飲料用や冷菓子用に利用することが期待されている。しかしながら、ラッキョウフルクタンには、エンドトキシンが含まれている場合があることを本発明者らは見出し、エンドトキシンをほぼ完全に除去したフルクタンを得ることがまず必要となった。エンドトキシンの主成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS)はリン酸基を含みマイナス電荷を持つことから、陰イオン交換体に吸着させることで除去を試みた。その結果、エンドトキシン量は10ng/mg以上から約0.4ng/mgまで減少し、96%以上のエンドトキシンが除去された。このことから、ラッキョウフルクタンにおけるエンドトキシンの除去は陰イオン交換クロマトグラフィーに供することで充分に行えることが分かった。
【0016】
こうして精製されたエンドトキシンフリーのラッキョウフルクタンをリン酸緩衝液法によってリン酸基の化学的導入を行い、主として反応温度条件について検討した。その結果、リン酸化フルクタンの回収量は温度の上昇に反比例して減少し、リン含量は比例して増加した。回収率については、140℃以上の加熱条件では20%以下となり、その理由として、「黒色の不溶性画分が生じたこと」および「加熱によるフルクタンの分解」などが原因として考えられる。今後、リン酸化フルクタンを大量に調製する際に、この黒色の不溶性画分の存在は好ましいものとは思えず、また回収率が低すぎることから、フルクタンをリン酸化する温度条件は140℃未満が望ましいと考える。
【0017】
リン酸化フルクタンのリンパ球幼若化活性をマウス脾臓細胞に対して測定したところ、100℃試料では刺激値:Stimulation Index(S.I)=2.1、120℃試料ではS.I=3.2と温度上昇に応じて増加した。また、コントロールに対して統計的な有意性が認められた。リン酸化フルクタンのリン含量が、温度条件に相関して増加していたことから、リンパ球の幼若化活性にはリン含量が関与していることが推察される。
【0018】
FACSによるCD69の発現解析では、Bリンパ球画分ではリン酸化フルクタン(120℃)による6時間刺激において発現が増強されたのに対し、Tリンパ球では増強されなかった。このことから、リン酸化フルクタンは、Bリンパ球に特異的に働きかける「Bリンパ球マイトジェン」であることが示された。また、CD86の発現は、CD8+Tリンパ球画分では特に12時間刺激において増強され、CD8+Tリンパ球、CD8+樹状細胞及びCD8-樹状細胞以外の細胞画分(R2)では24時間刺激で最も増強された。CD8-樹状細胞画分とCD8+樹状細胞画分はそれぞれ、24時間刺激及び12時間から24時間刺激においてCD86の発現が増強された。特に、CD8-の樹状細胞画分で強く発現が誘導されたことから、リン酸化フルクタンはCD8-の樹状細胞に作用し、Th2系の免疫応答を、Th1系の免疫応答よりも強く誘導する可能性が伺える。
【実施例】
【0019】
以下に説明する実施例は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの具体例に限定されるものではない。なお、実験には、特に断りのない限り、和光純薬工業株式会社製の特級あるいは一級試薬を用いた。
【0020】
実験に使用する植物から精製したフルクタンとして、福井県食品加工研究所において精製された「Rakkyo Fructan(水分:1.5%、食物繊維:96.0%、他の糖質:1.4%、蛋白質:0.3%、脂質:0.1%、灰分:0.7%)」(以下「原末フルクタン」という。)を用いた。なお、このフルクタンの具体的な製造方法については、特許第3111378号公報に記載されている。
【0021】
<原末フルクタンからエンドトキシンを除去する精製工程>
原末フルクタンからのエンドトキシンの除去は、陰イオン交換クロマトグラフィー(BioLogic Duoflow System, BIORAD)により行った。原末フルクタン5gを200mlのTris-HCl緩衝液(pH8.2)に溶解し、陰イオン交換カラム(HiTrapQ HP, φ1.6×2.5cm)に通し、素通り画分を回収した。回収画分は、蒸留水に対して2日間透析を行い、透析内液を凍結乾燥して、エンドトキシンを除去したフルクタン(エンドトキシンフリーフルクタン)を得た。実施した陰イオン交換クロマトグラフィーの条件をまとめて以下に示す。
カラム HiTrapQ HP(φ1.6×2.5cm, Amersham Pharamacia Biotech UK, Bukinghamshire, England)
移動相 20mM Tris-HCl緩衝液(pH8.2)
流速 5.0ml/min
機器 BioLogic Duoflow System(BIORAD)
【0022】
原末フルクタン及びエンドトキシンフリーフルクタンについて、HiTrapQ HPによる陰イオン交換クロマトグラフィーに供し、非吸着画分を回収してエンドトキシンチェックを行った。その結果を図1に示す。原末フルクタンのエンドトキシン濃度は10ng/mgであったが、エンドトキシン除去後0.4ng/mgまで低減された。
【0023】
<フルクタンを溶解したリン酸緩衝液の乾燥工程及び加熱工程>
フルクタンのリン酸化は、文献(Edward T, and Susan F.W:Drying from Phosphate-Buffered Solutions Can Result in the Phosphorylation of Primary and Secondary Alcohol Groups of Saccharides, Hydroxylated Amino Acids, Proteins, and Glycoproteins. :Analytical Biochemistry, 222, 196-201(1994))に記載の方法を一部改良して行った。すなわち、ネジ付き試験管中で精製されたフルクタン50mgを0.1M KH2PO4-Na2HPO4緩衝液(pH5.5)2.5mlに懸濁し、70℃のウォーターバス中でフルクタンが完全に溶解するまで攪拌した後、溶液を凍結乾燥する乾燥工程を行う。そして、乾燥させた試料をヒーティングブロックにより開放系(キャップをせずに)で加熱してリン酸化する加熱工程を行い、加熱工程を経た試料を冷却した後蒸留水に溶解させる。こうして溶解させた溶液を10mM炭酸水素アンモニウム溶液に対して一晩透析後、さらに蒸留水に対して2日間透析し、透析内液を凍結乾燥して「粗リン酸化フルクタン」を得た。
【0024】
上記の加熱工程では、温度及び処理時間の条件(以下「加熱条件」という。)を変化させて最適リン酸化条件の検討を行った。設定した温度及び処理時間は以下の通りである。
温度 80℃ 100℃ 120℃ 140℃
時間 96時間 24時間 24時間 24時間
【0025】
<粗リン酸化フルクタンの分画と精製>
作製された粗リン酸フルクタンをBioLogic Duoflow System(BIORAD)におけるHiTrapQ HPによる陰イオン交換クロマトグラフィーに供し、リン酸基の導入度による分画を行った。各分画画分(P-Fructan)は、蒸留水に対して2日間4℃下で透析後、透析内液を凍結乾燥して「精製リン酸化フルクタン」を得た。実施した陰イオン交換クロマトグラフィーの条件をまとめて以下に示す。
カラム HiTrapQ HP(φ1.6×2.5cm, Amersham Pharamacia Biotech UK, Bukinghamshire, England)
移動相 20mM Tris-HCl緩衝液(pH8.2)
溶出 同緩衝液中の0-1.0M NaClによるリニアグラジエント溶出(ただし、140℃試料・160℃試料は0-2.0 NaClによるリニアグラジエント溶出)
流速 5.0ml/min
検出 フェノール硫酸法(490nm、中性糖)
機器 BioLogic Duoflow System(BIORAD)
【0026】
図2に以上の処理工程のフローを示す。また、各加熱条件で作製された粗リン酸フルクタンについて陰イオン交換クロマトグラフィーを行った結果を図3に示す。
【0027】
<リンの定量>
リン酸フルクタン中に含まれるリンの定量は、文献(John C. D and Michael A. W:Quantitative and qualitive analysis of lipids and lipid components.:Methods in Enzymology 14,482-530(1969))に記載された方法により行った。すなわち、リン酸フルクタン試料1mgを10mlのミリQ水に溶解し、その溶液1mlを試験管にとり、凍結乾燥を行って水分を完全に除去した。乾燥させた試料に過塩素酸(70%)を0.4ml添加し、試料が透明になるまで開放系で電気コンロを用いて加熱分解した。分解終了後、2.4mlのモリブデン酸アンモニウム試薬(モリブデン酸アンモニウム4.4gを200〜300mlの蒸留水で溶解し、これに硫酸14mlを添加後1リットルにしたもの)及び2.4mlの還元剤(Fiske&SubbaRow還元試薬:亜硫酸水素ナトリウム3g、無水亜硫酸ナトリウム0.6g、1-アミノ-2-ナフトール-4-スルホン酸0.05gを乳鉢で充分に混合するまで磨砕し、25mlの蒸留水に溶解し3時間暗所に放置後、褐色瓶にろ過した。これを1:12(v/v)に希釈して用いた)を添加混合した。ついで、試料を100℃10分間加熱し、放冷後に830nmの吸光度を測定した。試料中に含まれるリン含量は、リン酸二水素カリウムを用いて作成した検量線により算出した。その結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

表1及び図3に示す結果を基に、各加熱条件でのリン酸化フルクタンの陰イオン交換クロマトグラムとリン含量を比較すると、80℃で96時間加熱した試料では、吸着画分から糖が検出されず、リン酸基は導入されておらず、100℃では65%がリン酸化され、最も高い回収率であった。120℃及び140℃では、それぞれ回収率は38%と11.4%であり、160℃ではリン酸化はなされたものの、リン含量を測定できるだけの回収量が得られなかった。140℃以上の加熱条件においては、黒色の不溶性成分が生じており、加熱温度の上昇に伴って、リン酸化フルクタンはより高い塩濃度において溶出回収された。リン含量は温度の上昇に伴って増加し、100℃では最も低い2.1%、140℃では最も高い7.2%となった。以上のことから、リン酸化フルクタンの調製では140℃以上の加熱条件は好ましくないことが判明した。
【0029】
<マウス脾臓細胞の調製>
実験動物として、BALB/c(Specificpathoge free[SPF]、5週齢、雄、日本 SLC(株)、静岡)マウスに、MRブリーダー(日本農産工業、神奈川)及び蒸留水を自由摂取させ、予備飼育後実験に供した。このマウスの脾臓を摘出し、ストレプトマイシン・ペニシリンを含むPBS(pH7.3)で洗浄後縦割し、細胞浮遊液を調製した。脾臓細胞は遠心分離(1,200rpm、4℃、5分)により回収し、混在する赤血球を0.2%のNaCl溶液1mlに懸濁し、さらに1.5%のNaCl溶液を加えて懸濁することで溶血させた。ついで、細胞をRPMI-1640培地(SIGMA USA)に懸濁し、スチールメッシュに通して凝集細胞を取り除いた。細胞は、RPMI-1640培地で3回遠心洗浄(1,200rpm、4℃、5分)後、2%牛胎児血清(FCS、Biocell Laboratories, Inc. USA)を含むRPMI-1640培地に再懸濁して、トリパンブルー染色法によって細胞数を計数することにより算出した。
【0030】
<リンパ球幼若化活性試験>
調製した細胞懸濁液を、96wellマイクロプレート(住友ベークライト(株)製)に各well中に2×105cell/wellとなるように撒布し、試料が各wellに最終濃度で200μg/mlとなるようにRPMI-1640培地を添加し、5%CO2存在下、37℃で48時間培養した。陽性対照試料として、Bリンパ球幼若化物質であるLipopolysaccharide(LPS、E.Coli 0111:B4由来、No L-2630:SIGMA)と、Tリンパ球幼若化物質であるConcanavalin A(Con A、canavalia ensiformis由来、No L6397:SIGMA)を、それぞれ20μg/ml又は2μg/mlとなるように添加した。培養終了16時間前に、9.25kBqのMethyl-[3H]-thymidine(Amersham Pharmacia Biotech, USA)を各wellに添加して、パルスラベルとした。48時間の培養終了後、セルハーベスターを用いて、細胞をグラスファイバーフィルター上に回収した。ドライヤーで乾燥させた後、グラスフィルターを専用バイアル内に設置し、液体シンチレーター用カクテル{POPOP:1.4-Bis-〔2-(5-phenyloxazoly)〕benzen(同仁化学研究所、熊本)0.1gと、DPO:2.5-Diphenyloxazole(同仁化学研究所)4.0gをそれぞれ、1リットルのトルエンに溶解させた}を2ml添加し、液体シンチレーションカウンターLS1801型(BechmanCoulter,Inc. USA)でMethyl-[3H]-thymidineの取り込み量を測定した。リンパ球幼若活性は、Methyl-[3H]-thymidineの取り込み量を用いて以下の式より刺激指数(Stimulation Index:S.I.)を算出し、算出された刺激指数に基づいて評価を行うことができる。リン酸化されていないフルクタン(120℃に加熱処理したもの)に関する試料、100℃及び120℃でリン酸化処理を行ったリン酸化フルクタンに関する試料について刺激指数の算出結果を図4に示す。
【0031】
【数1】

図4に示すように、リン酸化フルクタンは加熱温度が高くなるにつれ、幼若化活性が高まり、100℃及びび120℃の試料において有意に誘導された。120℃では最も高くS.I.値は3.2であった。
【0032】
<FACS(フローサイトメトリー)によるリンパ球表面の活性化抗原の発現解析>
上述の方法で調製したマウス脾臓細胞をRPMI-1640培地(2%FCSを含む)に懸濁し、トリパンブルー法で計数した。48wellマイクロプレートに対して1wellに全量300μlの系で3×106cell/wellになるように分注し、サンプルを200μg/mlとなるように添加した。5%CO2存在下、37℃で任意の時間(6時間、12時間、24時間)培養後、サンプルを1.5mlエッペンドルフチューブに回収し、FACS washing buffer(2%FCS、0.01%NaN3を含むPBS)1mlで48wellマイクロプレートを洗浄し、細胞を回収した。遠心分離(2,800rpm、4℃、5分)後にピペットで上清を除去し、細胞をFACS washing buffer200μlに懸濁し、100μlずつ96wellマイクロプレートに分注した(各wellに細胞が1.5×106cellsとなっている)。遠心洗浄(2,000rpm、4℃、5分)後、ピペットで上清を除去した。FITC-抗体(CD69:BD Pharmingen or CD8:Serotec Inc.)、PE-抗体(CD45R or CD86 いずれもCALTAG Laboratories)及びBiotinラベルされたPE-cy5-抗体(Thy1.2:CALTAG Laboratories or CD33D1:eBioscience)を各10μl加え、よくピペッティングしてから、4℃、遮光下で30分間静置した。FACS washing bufferを合計100μlになるように加えてピペッティングし、細胞を洗浄した。さらに、遠心洗浄(2,000rpm、4℃、5分)後、上清を除去する。Streptavidin Phycoerythrin-Cy5(SA-PE-Cy5:eBioscience)を10μl加えて、4℃、30分間静置した。FACS washing buffer100μlを添加して、遠心洗浄(2,000rpm、4℃、5分)後上清を除去し、FACS washing buffer50μlと1%パラホルムアルデヒドPBS(固定液)を加えて、15分間室温で放置した。各wellごとに400μlのFACSflow(Becton Dickinson)が入った試験管にナイロンメッシュを通して挿入して、FACScaliburTM Model 3A(Becton Dickinson)によって解析した。
【0033】
図5に、Bリンパ球画分(R4)におけるCD69の発現解析結果を示す。同様に、図6に、Tリンパ球画分(R3)におけるCD69の発現解析結果を、図7に、Bリンパ球画分及びTリンパ球以外の細胞画分(樹状細胞など:R2)におけるCD69の発現解析結果を、図8に、CD8+Tリンパ球画分(R5)におけるCD86の発現解析結果を、図9に、CD8+Tリンパ球、CD8+樹状細胞及びCD8-樹状細胞以外の細胞画分(R2)におけるCD86の発現解析結果を、図10に、CD8-樹状細胞画分(R3)におけるCD86の発現解析結果を、図11に、CD8+樹状細胞画分(R4)におけるCD86の発現解析結果をそれぞれ示す。各図において、(a)図は、FACSによって得られた細胞群を示しており、(b)図は、(a)図のうち目的の部分を拡大したものである。そして、(c)図は、(b)図の中で該当するゲートにおけるCD69又はCD86の発現をコントロールの比として示している。
【0034】
図5〜図7では、2種類の抗体を組み合わせることで得られた結果から、それぞれの集団のCD69の発現誘導を、非リン酸化フルクタンと比較してRelative Index(R.I.)で示している。リン酸化フルクタンによるCD69の発現誘導は、6時間刺激におけるBリンパ球画分(CD45R+Thy1.2-:R4)で増強が認められた。一方、Tリンパ球画分(CD45R-Thy1.2+:R3)では、CD69の発現増強は認められなかった(図6)。また、Bリンパ球及びTリンパ球以外の樹状細胞等の画分(CD45R-Thy1.2-:R2)においては、12時間刺激で発現増強が認められた(図7)。また、図5〜図7をみると、いずれの画分においてもCD69の発現誘導は、24時間刺激については12時間刺激よりも低下した。
【0035】
CD86については、CD8+Tリンパ球画分(CD8+CD33D1-:R5)では12時間刺激で最も強く発現が誘導され、CD8+樹状細胞画分(CD8+CD33D1+:R4)、CD8-樹状細胞画分(CD8-CD33D1+:R3)及びそれ以外の細胞画分(CD8-CD33D1-:R2)において、リン酸化フルクタンは24時間刺激することでCD86の発現増強が認められた(図9〜図11)。R3とR4については、12時間刺激ではCD86の発現強度に大きな差は認められないが、24時間刺激ではR3の方にわずかに強く発現が誘導された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】エンドトキシンの除去工程での陰イオン交換クロマトグラフィー処理の前後におけるLPS濃度の変化を示すグラフである。
【図2】リン酸化フルクタンの調製工程を示すフロー図である。
【図3】各加熱条件で得たリン酸化フルクタンに関する陰イオン交換クロマトグラムの結果を示すグラフである。
【図4】リン酸化されていないフルクタンとリン酸化フルクタンのリンパ球幼若化活性を示すグラフである。
【図5】Bリンパ球画分(R4)におけるCD69の発現解析結果を示すグラフである。
【図6】Tリンパ球画分(R3)におけるCD69の発現解析結果を示すグラフである。
【図7】Bリンパ球画分及びTリンパ球以外の細胞画分(樹状細胞など:R4)におけるCD69の発現解析結果を示すグラフである。
【図8】CD8+Tリンパ球画分(R5)におけるCD86の発現解析結果を示すグラフである。
【図9】CD8+Tリンパ球、CD8+樹状細胞及びCD8-樹状細胞以外の細胞画分(R2)におけるCD86の発現解析結果を示すグラフである。
【図10】CD8-樹状細胞画分(R3)におけるCD86の発現解析結果を示すグラフである。
【図11】CD8+樹状細胞画分(R4)におけるCD86の発現解析結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物から調製されたフルクタンからエンドトキシンを除去する精製工程と、精製されたフルクタンをリン酸緩衝液に溶解させて凍結乾燥する乾燥工程と、乾燥させて生成された試料を100℃以上140℃未満の温度で24時間加熱する加熱工程とを含むリン酸化フルクタンの調製方法。
【請求項2】
前記精製工程は、陰イオン交換クロマトグラフィにより行う請求項1に記載のリン酸化フルクタンの調製方法。
【請求項3】
エンドトキシンを除去したフルクタンにより調製されたリン酸化フルクタンを有効成分として含む、免疫賦活化作用を有する薬剤。
【請求項4】
免疫賦活化作用が細胞に対する幼若化作用である請求項3に記載の薬剤。
【請求項5】
Bリンパ球特異的マイトジェンである請求項3に記載の薬剤。
【請求項6】
エンドトキシンを除去したフルクタンにより調製されたリン酸化フルクタンと細胞とを接触させることを特徴とする細胞の免疫賦活化方法。
【請求項7】
免疫賦活化作用が細胞に対する幼若化作用である請求項6に記載の免疫賦活化方法。
【請求項8】
細胞が脾臓細胞由来又は樹状細胞由来である請求項6又は7に記載の免疫賦活化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−28075(P2006−28075A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208354(P2004−208354)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(501090685)三里浜特産農業協同組合 (2)
【出願人】(592029256)福井県 (122)
【出願人】(503104900)財団法人 ふくい産業支援センター (2)
【上記1名の代理人】
【識別番号】100111855
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 好昭
【Fターム(参考)】