説明

リン酸化澱粉を酵素で低分子化して得られるリン酸化糖を含んでなる免疫増強剤

【課題】リン酸基の結合していないぶどう糖、オリゴ糖やデキストリンをも含む工業的に製造可能なリン酸化糖組成物を含んでなる免疫増強剤を提供する。
【解決手段】リン酸化澱粉を酵素で低分子化して得られる、オリゴ糖やデキストリンにリン酸基が結合したリン酸化糖と、リン酸基の結合していないぶどう糖、オリゴ糖やデキストリンの中性糖を含む組成物を含んでなる免疫増強剤、その製造法、及びそれを用いる動物の飼育方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化澱粉を原料として酵素で低分子化されて製造されるオリゴ糖及び/又はデキストリンにリン酸基が結合したリン酸化糖を含んでなる免疫増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
大谷らは、特定のリン酸化糖が免疫増強効果を有することを見いだし、特許出願をしている(特許文献1、特許文献2)。特許文献1では、澱粉を化学的にリン酸化して得られるリン酸化澱粉に培養細胞系において免疫グロブリン(IgA)の産生を増強する作用のあることを見いだしている。また、澱粉を低分子化して得られたデキストリンをリン酸化して生じるリン酸化デキストリンにも培養細胞系でIgAの産生を増強する作用のあることを見いだしている。更に、特許文献2では、前記のリン酸化デキストリンを含む飼料で飼育したマウスにおいて、糞便及び腸管内のIgAの産生が増加することを見いだし、リン酸化デキストリンの粘膜免疫賦活作用を開示している。
【0003】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で有効性を示したリン酸化デキストリンは実験室レベルの製造法であって、工業的な大量生産には困難が伴う方法であり、より安価に工業生産できる製造法が求められている。
【0004】
阪本らは、特許文献3においてリン酸化デキストリン(α−1,4結合及びα−1,6結合したぶどう糖の重合度が11以上であるデキストリンにリン酸基が結合したもの)やリン酸化オリゴ糖(α−1,4結合及びα−1,6結合したぶどう糖の重合度が2〜10であるオリゴ糖にリン酸基が結合したもの)を含むリン酸化糖組成物の工業的な製造法を提示して、リン酸化澱粉を酵素で分解して得られる低分子化されたリン酸化糖組成物がCa可溶化作用に優れていることを示しているが、免疫賦活作用については何ら言及していない。
【0005】
特許文献1及び2に記載の製造法がデキストリンをリン酸化する方法であるため、ほぼ全てのデキストリンにリン酸基が結合していると思われるのに対し、特許文献3に記載の製造法は、リン酸化澱粉を酵素で低分子化するため、得られるリン酸化糖組成物には結合リンを含まない中性のぶどう糖、オリゴ糖やデキストリンも含まれている。特許文献2の実施例2には、結合リンを含まない中性のデキストリンはIgA抗体産生を増強する作用がないことが示されている。従って、リン酸化澱粉の酵素分解により得られるリン酸化糖組成物が免疫賦活作用を有するか否かは不明であった。
【特許文献1】特開2004−43326号公報
【特許文献2】特開2005−82494号公報
【特許文献3】特開平11−255803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、工業的により安価に製造可能なリン酸化糖組成物を含んでなる免疫増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)リン酸化澱粉を酵素で低分子化して得られる、オリゴ糖及び/又はデキストリンにリン酸基が結合したリン酸化糖を含む組成物を含んでなる免疫増強剤。
(2)前記リン酸化糖を含む組成物が、リン酸基が結合していないぶどう糖、オリゴ糖及びデキストリンから選ばれる中性糖を含んでいる前記(1)に記載の免疫増強剤。
(3)前記リン酸化糖を含む組成物が、澱粉にリン酸化試薬を混合して、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから焙焼して得られるリン酸化澱粉を酵素で低分子化して製造される組成物である前記(1)又は(2)に記載の免疫増強剤。
(4)リン酸化澱粉が、澱粉とリン酸化試薬の混合乾燥物を焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱して得られるものである前記(3)に記載の免疫増強剤。
(5)リン酸化澱粉のリン酸化率が70%以上である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(6)リン酸化澱粉の結合リン含量が0.5質量%以上である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(7)前記リン酸化糖を含む組成物が、リン酸化澱粉を低分子化する酵素としてα−アミラーゼのみを作用させて製造される組成物である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(8)前記リン酸化糖を含む組成物が、リン酸澱粉を低分子化するに当り、α−アミラーゼを二段階に分けて酵素処理する工程と100〜130℃の温度下、加圧条件で処理される工程を含んで製造される組成物である前記(7)に記載の免疫増強剤。
(9)リン酸化澱粉、及び/又は前記リン酸化糖を含む組成物が精製されたものである前記(1)〜(8)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(10)医薬又は動物薬として用いられる前記(1)〜(9)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(11)食品又は飼料として用いられる前記(1)〜(9)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(12)前記(1)〜(9)のいずれかに記載の免疫増強剤を含有する飼料を用いることを特徴とする動物を飼育する方法。
(13)リン酸化澱粉を酵素で低分子化し、必要に応じて精製することにより得られた、オリゴ糖及び/又はデキストリンにリン酸基が結合したリン酸化糖を含む組成物を有効成分とすることを特徴とする、前記(1)〜(11)のいずれかに記載の免疫増強剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の免疫増強剤は、アレルゲンとなる危険性がなく、優れた免疫増強作用を有し、かつ工業的により安価に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるリン酸化糖組成物は、原料が糖質の中で最も安価で大量に消費されている澱粉である。また、リン酸化の技術も広く一般に利用されている焙焼法であり、得られたリン酸化澱粉を低分子化するに必要な酵素は澱粉糖化工業で食品用として最も広く大量に使用されているα−アミラーゼが使用されている。すなわち、得られるリン酸化糖組成物は他の糖質では得られないコスト面での優位性を持っている。
【0010】
特許文献1及び2では、澱粉を酵素で低分子化して得られるデキストリンをリン酸化する方法が採用されている。工業的な生産では、澱粉の酵素分解は30質量%前後の高濃度で行われるため、デキストリンは比較的安価に入手される。それでも、重合度11以上の酵素処理デキストリンは澱粉の5〜10倍の価格となる。デキストリンとリン酸ナトリウムの混合は、リン酸ナトリウムを溶解する必要があるため、リン酸ナトリウムの水溶液にデキストリンを溶解することとなり、液状での混合が必須である。しかも、この時、デキストリンの濃度を10質量%以上に高めると粘度が高くなって、操業困難となる。実際には、リン酸ナトリウム溶液にデキストリンを2質量%で混合した液を凍結乾燥した後、加熱処理されている。乾燥方法は凍結乾燥に限られず、スプレードライなどを用いることもできる。しかし、固形分濃度の低い粘稠な液であるため、濃縮して乾燥することは困難である。従って、デキストリンとリン酸ナトリウムの混合乾燥物を得るには、かなりの処理コストが必要となる。
【0011】
更に、リン酸塩混合デキストリンの焙焼が問題である。特許文献1及び2では、焙焼条件として、140℃で24時間の加熱条件が提示されている。このような長時間の反応は実験室では可能であるが、工業生産では生産性の関係から、焙焼時間を30分〜4時間程度に収める必要性がある。従って、工業的なリン酸化反応の条件は更に高い温度で焙焼されており、140〜200℃が用いられる。特許文献1の先願発明のように、結合するリン酸基の多いリン酸化デキストリン(4.5有機リン酸mol/デキストリンmol=結合リン含量4.4質量%)を得るには、工業的には170℃前後の温度が必要となる。このような温度で焙焼すると、デキストリンとリン酸ナトリウムの混合物は激しく着色し、濃褐色の粉体となる。褐変の生じる原因は、低重合度(重合度20未満)のデキストリンには反応性に富む還元末端が多く存在するため、着色物質が生じたり、解重合が起こるとされている。デキストリンの製造法に酸焙焼法があり、焙焼条件にもよるが、解重合によりα−1,4及びα−1,6結合以外の結合が生じて難消化性デキストリンが生じるとされている。特許文献1においても、デキストリンのリン酸化反応で解重合が起こり、分子量の大きい画分が増加する結果が開示されている。着色成分の多くは、活性炭処理や溶媒洗浄処理で除去されるが、精製コストも高く、収率も大きく低下することとなる。
【0012】
阪本らは、特許文献3においてリン酸化デキストリン(α−1,4結合及びα−1,6結合したぶどう糖の重合度が11以上であるデキストリンにリン酸基が結合したもの)やリン酸化オリゴ糖(α−1,4結合及びα−1,6結合したぶどう糖の重合度が2〜10であるオリゴ糖にリン酸基が結合したもの)を含むリン酸化糖組成物の工業的な製造法を提示して、リン酸化澱粉を酵素で分解して得られるリン酸化オリゴ糖やリン酸化デキストリンのリン酸化糖と、リン酸基が結合していないぶどう糖、オリゴ糖及びデキストリンの中性糖を含んでいるリン酸化糖組成物がCa可溶化作用に優れていることを示している。
【0013】
本発明においては、好ましくは、リン酸化澱粉をα−アミラーゼで分解して得られる平均重合度10前後のリン酸化糖組成物を用いる。このリン酸化糖組成物は混合物であり、オリゴ糖(重合度2〜10)やデキストリン(重合度11以上)にリン酸基が結合したリン酸化糖とリン酸基が結合していないぶどう糖、オリゴ糖やデキストリンを含んでいる。平均重合度は10前後であるが、α−アミラーゼの作用機作により、重合度11以上のデキストリンに複数個のリン酸基が結合したリン酸化デキストリンが多く存在する。特許文献1及び2に記載の製造法がデキストリンをリン酸化する方法であるため、ほぼ全てのデキストリンにリン酸基が結合していると思われるのに対し、本発明に用いるリン酸化糖組成物には結合リンを含まない中性のぶどう糖、オリゴ糖やデキストリンも含まれている。
【0014】
本発明に用いるリン酸化糖組成物の製造に際しては、先ず澱粉をリン酸化する。ここで原料として使用される澱粉は特に限定されず、一般に利用されている植物由来の澱粉だけでなく、いずれの起源の澱粉でも使用できる。穀類、塊茎、根、豆、草本類などから得られる澱粉が使用可能である。例えばコーンスターチ、ハイアミロース・コーンスターチ、ワキシー・コーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等が用いられる。また、澱粉を物理的に一次処理した澱粉、例えば、ドラムドライヤーやエクストルーダー処理した糊化澱粉、又は酸やアルカリで化学的に処理して得られる澱粉も原料として使用できる。
【0015】
リン酸化に使用されるリン酸化試薬としては、リン酸、リン酸のナトリウム塩である第一リン酸ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、第二リン酸ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、第三リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩である第一リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム)、第二リン酸カリウム(リン酸水素二カリウム)、第三リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、トリポリリン酸カリウム、トリメタリン酸カリウム、又、オキシ塩化リンなどが挙げられる。
【0016】
リン酸化試薬は、澱粉に対して、通常、リンとして0.2質量%以上の添加量で添加することによりリン酸含浸澱粉(澱粉とリン酸化試薬の混合物)を調製することができる。リン酸化試薬の添加は、水分を含んだ澱粉スラリーに粉末のリン酸化試薬を添加する方法や澱粉の乾粉に液体のリン酸化試薬を添加する方法を適宜選択することができる。生じたリン酸含浸澱粉のpHは通常4〜10に、好ましくは5〜7に調整される。pHを調整するために澱粉とリン酸化試薬との混合液に酸やアルカリを添加することができる。酸としては、当然リン酸を用いることができ、リン酸以外に塩酸、硫酸、亜硫酸などを用いてもよい。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0017】
澱粉の乾粉と粉末のリン酸化試薬を混合すれば、乾燥状態のままで加熱焙焼できるが、リン酸化率は極めて低いものとなる。従って、少なくとも澱粉か、リン酸化試薬のいずれかを、液体又は水を含んだ流動体の状態で混合することが好ましい。混合直後のリン酸含浸澱粉は、そのままでは流動性が極めて悪く操業困難であり、流動性を改善するため乾燥が必要となる。リン酸含浸澱粉の水分を15質量%未満にすれば、流動性がかなり改善され、更に10質量%未満にまで乾燥されると操業が容易となる場合が多い。リン酸含浸澱粉の乾燥は、澱粉の乾燥装置として汎用されているフラッシュ・ドライヤーで水分を容易に10質量%未満に減らすことができる。しかしながら、高い結合リン含量を得るためリン酸化試薬を大量に添加すると、リン酸含浸澱粉の流動性が更に悪くなる場合があり、フラッシュ・ドライヤーによる乾燥が困難となる。このような場合には、特許文献3に開示しているドラムドライヤーやエクストルーダーによる糊化・乾燥法が流動性に優れた乾燥状態のリン酸含浸澱粉を生成させるのに適した方法である。
【0018】
澱粉とリン酸化試薬との混合については、多くの場合、前述のように、澱粉スラリーにリン酸化試薬を添加する方法、あるいはリン酸化試薬溶液に澱粉を分散させる方法が取られ、得られたリン酸含浸澱粉を濾過機で脱水回収する方法が採用されている。しかしながら、この回収法では、濾液にリン酸化試薬が溶出するため、その回収が問題となる。本発明者らは、所定の攪拌・混合能力を備えた混合機を用いて、例えばタービュライザ、フロージェットミキサーやピンミキサーなどの混合機で乾燥された澱粉粉末にリン酸化試薬溶液を混合した後、得られたリン酸含浸澱粉を乾燥すれば、リン酸化率の高くなるリン酸化反応が可能であることを見いだしている。また、澱粉スラリーを濾過機にかけて得られる澱粉の脱水ケーキにリン酸化試薬の粉末を加えて、リボンブレンダーやレディゲミキサーのような所定の攪拌・混合能力を備えた混合機で混合してから乾燥しても、同様に効果的なリン酸化反応が可能となるリン酸含浸澱粉を得ることができる。
【0019】
水分15質量%未満に乾燥されたリン酸含浸澱粉は、焙焼装置で加熱処理される。加熱処理の条件としては、リン酸含浸澱粉を焙焼装置に投入して熱風で流動加熱し、昇温して品温を通常100〜250℃、好ましくは150〜190℃の一定温度に維持した後、冷却してから製品を排出する。昇温又は冷却・排出に要する時間は、通常10〜60分程度であるが、装置の大きさや原料の搬送能力によって大きく異なり、又リン酸含浸澱粉の流動性が低下すれば長時間を要することとなる。一定温度に維持する加熱時間は通常5分〜4時間、好ましくは30〜180分である。
【0020】
リン酸化反応の焙焼は工業的な焙焼設備では、一般にリン酸化率の高いリン酸化澱粉を製造することは困難である。結合リンの多いリン酸化澱粉を得ようとすれば、リン酸化反応が脱水縮合反応であるため、リン酸化により発生する水分子も多く、この水分子がリン酸化反応を妨げるだけでなく、製品の着色を著しく進める要因となる。本発明者らは、流動層の熱風を系外に排出すると、層内のリン酸含浸澱粉の水分減少が速やかとなり、リン酸化が促進されることを見出した。流動層における加熱反応工程の原料投入、昇温、一定温度保持、冷却、製品排出の各操業段階において、加熱後の熱風を流動層の系外に排出して水分子を除去しながらリン酸化反応を進めた。このように、加熱焙焼工程で脱水縮合反応により発生する水分子を系外に取り出す方法により、70%以上と高いリン酸化率のリン酸化澱粉が得られ、また結合リンが0.5質量%以上と結合リンの多いリン酸化澱粉においても70%以上の高いリン酸化率が得られる。更に、反応条件を選ぶことにより、80%以上もの高いリン酸化率のリン酸化澱粉が得られ、又結合リンが0.5質量%以上と結合リンの多いリン酸化澱粉においても、80%以上の高いリン酸化率が得られる。このような方法によれば、高いリン酸化率が得られるだけでなく、従来の製造方法に比べて、脱塩の精製負荷が少なく、着色度の低いリン酸化澱粉を製造することが可能となる。
【0021】
得られたリン酸化澱粉は、次に酵素で分解して低分子化される。本発明に用いるリン酸化糖組成物は、前述の方法で得られたリン酸化澱粉をα−アミラーゼで分解して低分子化することにより得られ、リン酸基の結合したオリゴ糖やデキストリンのリン酸化糖と、リン酸基を含まないぶどう糖、オリゴ糖やデキストリンで構成されている。低分子化により粘度が低下するため、医薬、動物薬、食品、飼料などへの利用用途が拡大される。分解に用いる酵素は澱粉をランダムに切断するα−アミラーゼであれば全て用いることができ、当然2種以上の酵素を混合して用いることもできる。
【0022】
α−アミラーゼとしては、工業的な澱粉の分解(以下、「液化」ともいう)に多用されている耐熱性液化型α−アミラーゼの他に、中温性液化型α−アミラーゼ、糖化型α−アミラーゼ、糖転移酵素のCGTase(Cyclomaltodextrin glucanotransferase)やTVA(Thermoactinomyces vulgarisのα−アミラーゼ)などが使用できる。しかし、工業生産に適応した酵素としては耐熱性液化型α−アミラーゼが分解能力及び澱粉の溶解力において優れている。リン酸化澱粉にα−アミラーゼを作用させる条件は、酵素の種類により異なるが、通常用いられている酵素の作用温度条件を採用することができる。用いる酵素は80〜110℃で有効に作用する耐熱性液化型α−アミラーゼが好ましく、いずれの起源のものでも使用できる。具体的には、細菌起源の高耐熱性α−アミラーゼであるターマミル(ノボザイムズ ジャパン製)、ネオスピターゼPG2(ナガセ生化学工業製)、クライスターゼT(大和化成製)などの市販酵素を用いることができる。
【0023】
リン酸化澱粉は10〜30質量%濃度のスラリーとし、水酸化カルシウム及び/又は水酸化ナトリウムを加えて、通常pH6.0〜6.3に調整する。耐熱性α−アミラーゼは安定剤として50ppm以上のカルシウムイオンを必要とする。酵素添加量は使用する酵素によって大きく異なるが、通常0.0001〜1.0質量%、好ましくは0.01〜0.2質量%(対固形分)である。反応のpHも使用する酵素によって異なるが、通常pH4〜7である。工業生産における澱粉分解反応(液化反応)では、澱粉の老化を防ぐため、α−アミラーゼ添加後の反応開始温度を100〜110℃に高めて2〜15分、クッカー処理した後、90〜100℃の高温で30分〜5時間程度酵素分解を進めて行われている。
【0024】
更に本発明者らは、結合リンの多いリン酸澱粉(結合リン含量0.5質量%以上)を原料とするリン酸化糖組成物の製造法を検討し、α−アミラーゼによるリン酸化澱粉の分解を効果的に進め、リン酸化澱粉の分散性を改善するためのジェットクッカー処理と酵素二段添加処理法を開発した。
【0025】
この方法は、α−アミラーゼを二段階に分けて添加する酵素処理とジェットクッカー処理との組合わせによりリン酸化澱粉を低分子化する方法であって、原料リン酸化澱粉の水分散液に耐熱性α−アミラーゼ、好ましくは耐熱性液化型α−アミラーゼを添加して最初の酵素分解処理を行い酵素分解処理液を得る工程、該酵素分解処理液をジェットクッカーで100〜130℃の温度下、加圧条件で処理して分散処理液を得る工程、及び該ジェットクッカーによる分散処理液に更に耐熱性α−アミラーゼを添加し、100℃未満の温度で30分〜15時間追加の酵素分解処理を行って第二の酵素分解処理液を得る工程を有することを特徴とするものである。
【0026】
以下、この方法の好ましい態様について説明する。
前記最初の酵素分解処理液を得る工程においては、好ましくは、原料リン酸化澱粉を50〜95℃に加温した水に添加して5〜10質量%の分散液とし、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等でpH6.0〜6.3に調整した後、50〜95℃で攪拌しながら、対澱粉当り0.005〜0.2質量%の耐熱性α−アミラーゼを添加する。更にCaが100ppm以上となるように塩化カルシウムを添加する。この温水分散液は、攪拌中に酵素反応が緩やかに進み粘度が低下する。粘度の低下に応じて、リン酸化澱粉と耐熱性α−アミラーゼを追加添加することにより、濃度を15〜30質量%まで上げることが可能となる。リン酸化澱粉の処理濃度を高めて酵素処理を行うことができれば、リン酸化糖の生産性を高めることが可能となる。
【0027】
リン酸化澱粉の濃度を高めた分散液は10〜60分保持した後、ジェットクッカーで処理した。ジェットクッカーの温度は100〜130℃、好ましくは105〜115℃の範囲に設定し、加圧条件で滞留時間は2〜20分、好ましくは3〜10分の範囲に設定して加熱処理を行った。前記ジェットクッカー処理により、リン酸化澱粉はよく分散溶解しているように思われた。しかし、リン酸化澱粉の分散性は高められたものの、低分子化が進まず、濾過性の改善や収率の向上は認められなかった。原因は耐熱性液化型α−アミラーゼの失活により低分子化の反応が進展しないことが判明し、酵素添加量を2倍以上に増量しても反応の進展は認められなかった。
【0028】
更に、ジェットクッカー処理液に耐熱性液化型α−アミラーゼを対固形分当り0.005〜0.2質量%追加添加して、比較的温和な条件で加水分解反応すると、平均重合度が3〜30のリン酸化糖組成物が得られることを見出した。追加酵素添加反応の条件は、温度は50〜100℃、好ましくは60〜80℃で、時間は30分〜15時間、好ましくは1〜4時間である。このようにジェットクッカー処理と酵素二段添加処理との組合せにより、酵素処理液の濾過性が格段に向上し、セラミック濾過機の濾過時間が半減した。更に、得られるリン酸化糖組成物の収率が60%以下から70%に大きく向上した。勿論、後段処理に使用する酵素は、処理温度が温和であることから、耐熱性液化型α−アミラーゼだけでなく、広く他の澱粉分解酵素、例えば、通常の液化型α−アミラーゼ、糖化型α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼなどを用いることができる。当然、2種以上の酵素を組み合わせて処理することもできる。酵素反応は処理液をpH4以下に下げて、80℃程度まで加熱することにより停止することができる。
【0029】
前記の酵素二段添加処理によって得られたリン酸化澱粉の酵素処理液には、リン酸化糖の他にリン酸の結合していないオリゴ糖やぶどう糖等の糖類、リン酸等の塩類、未反応残渣等が含まれているので、必要に応じて精製される。精製方法としては、不溶物の濾過除去、脱色、脱塩などがあり、順序は特に限定されない。なお、食品添加物のでんぷんリン酸エステルナトリウムの規格に適合した結合リン含量3質量%未満、無機リン比率20%未満のリン酸化糖を得るためには、精製操作が必要となる場合がある。その場合には、濾過と脱色を同時に行えることから、最初に不溶性の残渣の濾過と活性炭による脱色との同時処理を行うことが好ましい。具体的には、酵素反応終了液に粉末活性炭を固形分当たり0.5〜20質量%、好ましくは3〜10質量%添加し、50〜60℃で1〜2時間処理する。処理pHは酸性側の方が脱色効率がよいため、pH2〜5が望ましい。活性炭処理液はセラミックフィルター(ポアサイズ0.2μm)等で濾過することにより、不溶性残渣と活性炭を除き透明な液を得ることができる。この際、不溶性の残渣が多いと、濾過に多大な時間がかかるのみでなく、収率が大幅に減少するが、前記の酵素二段添加処理して得られるリン酸化糖液は未分解のリン酸化澱粉の残存量が少なくなっているため、濾過時間が短くて済む。
【0030】
脱色して得られるリン酸化糖液には塩分、遊離の無機リンが存在する。濾過後の液をpH調整後、除菌濾過、乾燥することでも製品になりうるが、原料のリン酸澱粉に遊離の無機リンが全リンの20%以上存在すると、前記の食品添加物規格に合わなくなるので、食品用途では無機リンの除去は必須となる。
【0031】
脱塩の方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法が糖類の精製法として広く採用されているが、膜処理や電気透析なども利用できる。分子量が比較的大きいリン酸化デキストリンの精製には、膜処理が有効であり、NTR−7450(日東電工社製)のようなNF膜で遊離の無機リンが全リンの20%以下、好ましくは10%以下になるようにすることができる。脱塩して得られた糖液を水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等でpH6〜7に調整後、除菌フィルター(ポアサイズ0.2〜0.45μm)で濾過し、スプレードライヤーや凍結乾燥機で乾燥することにより、前記の食品添加物の規格に適合したリン酸化糖、又はリン酸化糖組成物が得られる。
【0032】
前記の酵素処理法の開発により、リン酸化澱粉から高い収率でリン酸化デキストリンやリン酸化オリゴ糖を含むリン酸化糖が得られ、更に、リン酸基を持たないぶどう糖、オリゴ糖、デキストリンなどの中性糖をも含むリン酸化糖組成物が得られる。このリン酸化糖組成物をイオン交換樹脂に吸着させて、溶出させれば、リン酸化糖のみを分離することができる。しかも、操業上の課題であった濾過性が大幅に改善され、リン酸化澱粉を高い濃度で分散させて酵素処理が可能となり、生産性の向上が見込めるなど、リン酸化糖の製造分野に多大の技術的貢献をなすものである。これにより、リン酸化デキストリンやリン酸化オリゴ糖を含むリン酸化糖組成物を工業的に安価に大量生産できることが可能となり、機能性に優れたリン酸化糖を安定して供給できる体制が整った。
【0033】
本発明において「免疫増強剤」とは、免疫増強活性を有する剤のことであり、その用途は医薬、動物薬に限らず、食品や飼料等に配合され、利用されるものである。また、本発明において、「免疫増強活性を有する」とは、ヒトを含む動物において、糞便中のIgAが増加することや脾臓細胞のマイトージェン活性(脾臓細胞に対する有糸分裂誘起活性)のような免疫増強作用を増加させることができることをいう。例えば、本明細書の実施例のように、マウス脾臓細胞のマイトージェン活性を増加させることや、豚の飼育試験を行って、糞便中のIgAが増加するような指標によって免疫増強作用が認められたと評価されることを意味する。
【0034】
本発明の免疫増強剤は、医薬、動物薬等の用途の他、食品又は飼料に配合して用いることができる。医薬として用いる場合には、リン酸化糖組成物は水溶性に富むことから、投与経路に応じて適当な剤形とされ得る。具体的には、主として静注、筋注等の注射剤、又はカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、糖衣錠、トローチ錠、チュアブル錠等の経口剤、直腸投与剤、坐剤等のいずれかの製剤形態に調製することができる。更に、免疫増強剤は必要に応じて、液剤、懸濁剤、液剤封入カプセル剤等の形態であってもよい。
【0035】
これらの製剤は、通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等の薬学的に許容される製剤用添加剤を、必要に応じて配合し、常法により製造することかできる。すなわち、本発明のリン酸化糖を含む免疫増強剤は、薬学的に許容される製剤用添加剤を更に含むものであってもよい。
【0036】
使用可能な前記添加剤としては、乳糖、果糖、ぶどう糖、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、カルボキシメチルセルロース又はその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0037】
食品として用いる場合には、本発明の免疫増強剤は、広く加工食品や飲料、乳製品、菓子類などに用いることができる。食品の形態で提供される本発明の免疫増強剤は、体力的に劣る幼年者や老年者、病中病後の患者等の栄養補給や健康増進等を図る上で有利である。
【0038】
飼料として用いる場合には、本発明の免疫増強剤は、養豚用飼料、養牛用飼料、養鶏用飼料等の家畜飼料、ペットフード、各種配合飼料などの形で提供することができる。免疫増強剤を投与する方法としては、飼料等に配合して経口的に摂取させる方法が一般的である。更に、本発明に用いるリン酸化糖組成物は水溶性であり、水などの飲料に加えて摂取する方法も選択できる。
【0039】
本発明の免疫増強剤は、動物に摂取させることによって免疫力を増強し、感染症に対する抵抗力を増進させて、動物の成長阻害要因を除去し、成長を促進させることが期待される。本発明でいう感染症の種類としては制限がなく、病原体である微生物が動物の体表もしくは体内に侵入し定着、増殖する病気の全てをいう。
【0040】
家畜等の感染症は、病原体、宿主、環境などの種々の因子が相互に関係して起こるとされている。感染症を予防して家畜等の成育の増進を図るため、飼料に免疫増強物質を添加することは従来から行われており、各種のアミノ酸や牛乳カゼインホスホペプチド(CPP)などが有効な物質であることが知られている。しかし、蛋白性の物質はアレルゲンとなる可能性があり、より安価で安全性にすぐれた免疫増強物質が望まれている。この点、本発明に用いるリン酸化糖組成物は、安価な原料である澱粉をリン酸化し、酵素で分解して得られる糖質であり、アレルゲンとはなり難く、安全性に優れた物質であり、CPPと同様にカルシウムなどの可溶化を促進する物質として注目されている。
【0041】
また、本発明に用いるリン酸化デキストリンなどを含むリン酸化糖組成物によってもたらされる免疫増強効果は、後記するように、主として豚によって確認しているが、本発明の対象とされる動物は豚に限定されず、豚と同様の免疫機構を有するヒトや他の家畜、例えば牛、馬、羊、鶏なども含まれる。更に、犬、猫などのようなペット動物等も本発明の対象に含まれる。
【0042】
本発明の免疫増強剤を配合する飼料等については、特に限定されたものは必要なく、動物の種類やその成長に見合って適切なものを選択すればよい。投与量についても、動物の種類、年齢、体重、性別、給餌する環境等を考慮して適宜決定されるが、一例として、一般に使用されている豚用飼料100質量部に対して0.01〜5質量部程度、好ましくは0.02〜1質量部程度を均一に混合する。選定された飼料は一定期間、好ましくは出荷時まで継続して動物に投与することが好ましい。しかしながら、投与の方法として連続投与だけでなく、間欠投与も選択可能である。
【0043】
本発明の免疫増強剤は、脾臓細胞のマイトージェン活性及び免疫グロブリンの産生増強活性などの免疫賦活作用に優れている。また、本発明に用いるリン酸化糖組成物には、有効成分としてリン酸基を有するデキストリンが含まれている。従って、免疫増強活性が認められるカゼインやCPP(カゼインホスホペプチド)のような蛋白質やペプチドに比べると、明らかにアレルゲンとなり難い。このことは、本発明に用いるリン酸化糖組成物が、優れた免疫増強作用を有すると同時に、アレルギー反応を起こす可能性の極めて少ないものであって、安全性に優れていることを示している。
【0044】
本発明の免疫増強剤は、免疫機能の低下したヒトや動物に対して、免疫増強作用を付与するための食品素材、医薬品素材、あるいは飼料素材として有用である。例えば、生後間もない仔豚は、母乳からの移行抗体により感染から守られているが、養豚における通常の飼育管理では、生後20日齢を越えると、母豚より引き離されて強制的に離乳させられる。それに伴う移行抗体の減少により、仔豚は免疫力が低下し、感染症の脅威にさらされる。このような場合、本発明の免疫増強剤を投与すれば、免疫力の低下を阻止することが期待できる。更に、加齢、疾病及び疲労等に伴って免疫力が低下したヒトや動物においても、本発明の免疫増強剤を使用することにより、日常の健康増進を図ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0046】
実施例において、(a)リン酸化澱粉の結合リンの測定、(b)リン酸化率の算出、(c)リン酸化糖の結合リン測定及び(d)リン酸化糖の平均重合度の算出は以下の方法で行った。なお、別に断らない限りリン含量の質量%は乾物質量に対する%として表示した。
【0047】
(a)リン酸化澱粉の結合リン測定
リン含量は澱粉・関連糖質実験法(学会出版センター、中村道徳ら)に記載の方法に準じて測定した。すなわち、リン酸化澱粉のリン含量を測定するため、試料にα−アミラーゼ(ターマミル120L,ノボザイムズ ジャパン製)0.1質量%(対乾燥試料)を加えて95℃、10分間加熱分解して均一な溶液を調製した。直ちに水道水で冷却し、塩酸を加えてpHを2に調整してからFiske-Subbarow法で無機リンを測定した。なお、これらの酵素分解反応では結合リンが無機リンとして遊離しないことを確認している。また、比色分析の発色時に濁りが認められるものは、遠心分離(3000rpm,3分間)して上清の吸光度を測定した。全リン含量は無機リン測定時にpH2に調整した試料を湿式灰化処理して無機リンとしてから、同様にFiske-Subbarow法で測定した。リン酸化澱粉の結合リン含量(質量%)は下記の式で算出した。
結合リン含量(質量%)=全リン含量(質量%)−無機リン含量(質量%)
【0048】
(b)リン酸化澱粉のリン酸化率の算出
リン酸化澱粉のリン酸化率は下記の式で算出した。
リン酸化率(%)={結合リン含量(質量%)÷全リン含量(質量%)}×100
【0049】
(c)リン酸化糖の結合リン測定
可溶性のリン酸化糖は、試料を適宜、溶解してそのまま、前述のFiske-Subbarow法で無機リン含量を測定した。全リン含量は試料を湿式灰化処理して無機リンとしてから、同様にFiske-Subbarow法で測定した。可溶性のリン酸化糖結合リン含量(質量%)は下記の式で算出した。
【0050】
結合リン含量(質量%)=全リン含量(質量%)−無機リン含量(質量%)
(d)リン酸化糖の平均重合度の算出
糖分析は、還元糖の定量法(学会出版センター発行)に準じて行った。全糖はフェノール−硫酸法で、還元糖はSomogyi-Nelson法で、それぞれ測定し、ぶどう糖換算(mg/mL)で算出した。平均重合度は次式により算出した。
平均重合度=全糖(mg/mL)÷還元糖(mg/mL)
【0051】
実施例1
コーンスターチ(王子コーンスターチ製、水分13質量%)1200kgを一定の流速でタービュライザに導入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩176kgと無水第二リン酸ナトリウム32kgを水に溶解して全量655kgのリン酸溶液(pH6.0)を一定の流速で添加して均一に混合した。このリン酸混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥し、得られたリン酸含浸澱粉(リン含量3.5質量%、pH5.6)500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で175℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、175℃で120分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸化澱粉(結合リン含量2.8質量%、リン酸化率81%)は450kgであった。
【0052】
次に、得られたリン酸化澱粉の低分子化を進めた。70℃の水71Lに塩化カルシウム二水和物34gを溶解した後、攪拌しながら前述のリン酸化澱粉8kgを徐々に添加しながら溶解した。水酸化ナトリウムでpH6.0とした後、ターマミル(Termamyl Classic、ノボザイムズ社製)を対澱粉0.05質量%添加し、5分間保持した。粘度が下がり始めると同じリン酸化澱粉4.5kgを徐々に追加添加した。水酸化ナトリウムでpH6.0に再調整後、追加した澱粉に対してターマミルを0.05質量%添加して10分保持した。次に、調製したリン酸化澱粉分散液をジェットクッカーにて温度110℃、滞留時間5分の条件で処理した。この操作を4回繰り返して、50kgのリン酸化澱粉を処理した。ジェットクッカー処理した液をタンクに集め、60℃まで冷却後、ターマミルを対澱粉0.05質量%追加添加し、60℃、3時間反応させた。酵素反応は塩酸でpH3.5に調整し、終了させた。酵素反応終了後のリン酸化糖組成物溶液の平均重合度は8であった。
【0053】
得られた酵素分解液に粉末活性炭(PM−KIとPM−SXの等量混合物、三倉化成社製)を対固形分10質量%添加し、60℃、2時間攪拌保持した。その後、セラミック濾過機(0.2μm、トライテック社製)で残渣と活性炭を除去した。濾液には無機リンが多く含まれているので、NF膜(日東電工社製、NTR−7450)で脱塩・濃縮処理を行い、無機リン比率を10%まで減少させた。更に、水酸化ナトリウムでpH6.2(1質量%溶液で測定)に調整してから、0.45μmのポリスルフォンのメンブレンフィルター(ロキテクノ社製)で濾過後、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化した。得られたリン酸化糖組成物A(結合リン含量2.7質量%、無機リン含量0.3質量%、平均重合度10)は36kgであった。
【0054】
実施例2
コーンスターチ(王子コーンスターチ製、水分13質量%)1200kgを一定の流速でタービュライザに導入し、同時に第一リン酸ナトリウム・2水塩120kgと無水第二リン酸ナトリウム22kgを水に溶解して調製した全量450kgのリン酸溶液(pH6.0)を一定の流速で添加して均一に混合した。このリン酸混合澱粉をフラッシュ・ドライヤーで水分6質量%となるまで乾燥し、得られたリン酸含浸澱粉(リン含量2.4質量%、pH5.6)500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ製)に投入した。実施例1と同じ条件で焙焼を行い、リン酸化澱粉(結合リン含量2.0質量%、リン酸化率83%)450kgを回収した。
【0055】
次に、得られたリン酸化澱粉60kgを実施例1と同様に、酵素による低分子化処理、活性炭処理、NF膜処理を行って、0.45μmのポリスルフォンのメンブレンフィルター(ロキテクノ社製)で濾過後、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化した。得られたリン酸化糖組成物B(結合リン含量1.9質量%、無機リン含量0.2質量%、平均重合度9)は35kgであった。
【0056】
実施例3
750Lの水に第一リン酸ナトリウム・2水塩110kgと無水第二リン酸ナトリウム20kgを添加して溶解してから、コーンスターチ(王子コーンスターチ株式会社製、水分13質量%)450kgを懸濁し、混合した。このリン酸混合澱粉液をドラムドライヤーにかけて糊化し、水分5質量%となるまで乾燥して粉砕し、得られたリン酸含浸澱粉(リン含量6.7質量%、pH5.6)500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で180℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、180℃で120分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸化澱粉(結合リン含量5.6質量%、リン酸化率83%)は450kgであった。
【0057】
次に、得られたリン酸化澱粉60kgを実施例1と同様に、酵素による低分子化処理、活性炭処理、NF膜処理を行って、0.45μmのポリスルフォンのメンブレンフィルター(ロキテクノ社製)で濾過後、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化した。得られたリン酸化糖組成物C(結合リン含量5.6質量%、無機リン含量0.6質量%、平均重合度8)は42kgであった。
【0058】
実施例4
実施例1〜3で得たリン酸化糖組成物A,B,Cのマウス脾臓細胞に対するマイトージェン活性を調べた。マウス脾臓細胞は6週齢のC3H/HeN系雄マウスから無菌的に採取し、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、5%牛胎児血清を含むRPMI−1640培地(100μl)で生細胞数が5×10個/mlとなるように調整し、脾臓細胞懸濁液とした。これを96穴マイクロタイタープレート(Falcon, Cockeysvill, USA)にそれぞれ100μl分注し、各種濃度のリン酸化組成物溶液10μlを加えて、5%CO存在下、37℃で72時間培養した。培養終了後、免疫細胞の増殖を色素MTT法(Mosmann,T., J. Immunol. Method, 65(1983), pp55−63)により測定し、フォルマザンの生成は570nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio-Rad model 450)で測定した。なお、効果の有意差判定には、Student’s t-testを用いた。
【0059】
細胞増殖の結果は図1に示した。リン酸化糖組成物A,B,Cはいずれも免疫細胞の増殖を優位に増加させ、マイトージェン活性を示した。リン酸化糖組成物A,Bは50〜500μg/mlの濃度で有意水準5%未満で増殖効果を示し、リン酸化糖組成物Cは50μg/mlの濃度で有意水準1%未満で、100〜500μg/mlの濃度で有意水準0.1%未満で増殖効果を示している。
【0060】
実施例5
約25日齢の仔豚(ランドレースとラージホワイトのF1とデュロックの交配種)10頭を1群として、実施例1のリン酸化糖組成物Aを0.5質量%の割合で混合した市販飼料を投与して8週間飼育した。対照は、リン酸化糖組成物を含まない飼料であり、最初の35日間は「全農すこやか」を飼料とし、それ以降は「全農シーガル前期」を飼料とした。仔豚の実験開始時と実験終了時の各個体の体重を測定した。飼育結果を表1〜2に示す。仔豚の実験開始時と4週、8週(実験終了時)の血中グロブリン量、IgG、IgM、IgA及び糞便中のIgAを測定し、結果を表3〜7に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
【表5】

【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
表7に示すように、試験飼育開始後、8週間における糞便IgAは対照区より試験区の方が有意水準1%未満で統計的に有意に高い値が得られた。また、統計的な有意差は認められないものの、表1に示すように、試験飼育開始後、8週間における体重増加量は対照区より試験区の方が1.1kg多くなっている。表4に示すように、同じく飼育開始後8週間における血中のIgGは試験区より対照区の方が高く、表5、表6に示すように、同じく飼育開始後8週間における血中のIgMとIgAは対照区より試験区の方が高い値であった。
【0069】
なお、IgAは局所の粘膜リンパ組織により産生され、粘膜面へ分泌型IgAとして分泌されて粘膜面で抗原に対する特異免疫抗体として作用する。分泌型IgAは細菌やウイルス凝集能が高く、粘液との親和性も高い上に、消化酵素に対する抵抗性もあるとされている。従って、腸管などの粘膜表面において微生物の付着、侵入、コロニー形成などの阻止に効力を発揮するといわれている(豚病学−生理・疾病・飼養−<第三版>、株式会社近代出版発行、p.78−91)。リン酸化糖組成物Aの投与により糞便IgAが増加したことは、免疫が増強されていることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例4の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
A リン酸化糖組成物A
B リン酸化糖組成物B
C リン酸化糖組成物C

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化澱粉を酵素で低分子化して得られる、オリゴ糖及び/又はデキストリンにリン酸基が結合したリン酸化糖を含む組成物を含んでなる免疫増強剤。
【請求項2】
前記リン酸化糖を含む組成物が、リン酸基が結合していないぶどう糖、オリゴ糖及びデキストリンから選ばれる中性糖を含んでいる請求項1記載の免疫増強剤。
【請求項3】
前記リン酸化糖を含む組成物が、澱粉にリン酸化試薬を混合して、そのまま乾燥又は糊化乾燥してから焙焼して得られるリン酸化澱粉を酵素で低分子化して製造される組成物である請求項1又は2記載の免疫増強剤。
【請求項4】
リン酸化澱粉が、澱粉とリン酸化試薬の混合乾燥物を焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱して得られるものである請求項3記載の免疫増強剤。
【請求項5】
リン酸化澱粉のリン酸化率が70%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項6】
リン酸化澱粉の結合リン含量が0.5質量%以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項7】
前記リン酸化糖を含む組成物が、リン酸化澱粉を低分子化する酵素としてα−アミラーゼのみを作用させて製造される組成物である請求項1〜6のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項8】
前記リン酸化糖を含む組成物が、リン酸澱粉を低分子化するに当り、α−アミラーゼを二段階に分けて酵素処理する工程と100〜130℃の温度下、加圧条件で処理される工程を含んで製造される組成物である請求項7記載の免疫増強剤。
【請求項9】
リン酸化澱粉、及び/又は前記リン酸化糖を含む組成物が精製されたものである請求項1〜8のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項10】
医薬又は動物薬として用いられる請求項1〜9のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項11】
食品又は飼料として用いられる請求項1〜9のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の免疫増強剤を含有する飼料を用いることを特徴とする動物を飼育する方法。
【請求項13】
リン酸化澱粉を酵素で低分子化し、必要に応じて精製することにより得られた、オリゴ糖及び/又はデキストリンにリン酸基が結合したリン酸化糖を含む組成物を有効成分とすることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の免疫増強剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−217316(P2007−217316A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−37790(P2006−37790)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:2005年度 社団法人日本畜産学会 第105回大会 主催者名:社団法人日本畜産学会 開催日:2005年9月9日〜2005年9月10日 発表日:2005年9月9日 刊行物名:2005年度(社)日本畜産学会 第105回大会 講演要旨 刊行物発行年月日 2005年8月25日
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】