説明

リン酸化糖アルコール類を含んでなる免疫増強剤

【課題】着色の問題がなく、優れた免疫増強作用を有する免疫増強剤を提供する。
【解決手段】好ましくはリン酸化率が70%以上である、さらに好ましくは結合リン含量が0.5質量%以上、リン酸化率が80%以上、白度が60%以上である、リン酸化糖アルコール類を含んでなる免疫増強剤。該免疫増強剤は、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールリン酸化して得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化糖アルコール類を含んでなる免疫増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
大谷らは、特定のリン酸化糖が免疫増強効果を有することを見いだし、特許出願をしている(特許文献1、特許文献2)。特許文献1では、澱粉を化学的にリン酸化して得られるリン酸化澱粉に培養細胞系において免疫グロブリン(IgA)の産生を増強する作用のあることを見いだしている。また、澱粉を低分子化して得られたデキストリンをリン酸化して生じるリン酸化デキストリンにも培養細胞系でIgAの産生を増強する作用のあることを見いだしている。更に、特許文献2では、前記のリン酸化デキストリンを含む飼料で飼育したマウスにおいて、糞便及び腸管内のIgAの産生が増加することを見いだし、リン酸化デキストリンの粘膜免疫賦活作用を開示している。
【0003】
特許文献1及び2では、リン酸化糖の製法として、澱粉を酵素で低分子化して得られるデキストリンをリン酸化する方法が採用されている。特許文献1及び2では、焙焼条件として、140℃で24時間の加熱条件が提示されており、このような長時間の反応は実験室では可能であるが、工業生産では生産性の関係から、焙焼時間を30分〜4時間程度に収める必要性がある。従って、工業的なリン酸化反応の条件は更に高い温度で焙焼されており、140〜200℃が用いられる。特許文献1の発明のように、結合するリン酸基の多いリン酸化デキストリン(4.5有機リン酸mol/デキストリンmol=結合リン含量4.4質量%)を得るには、工業的には170℃前後の温度が必要となる。このような温度で焙焼すると、デキストリンとリン酸ナトリウムの混合物は激しく着色し、濃褐色の粉体となる。褐変の生じる原因は、低重合度(重合度20未満)のデキストリンには反応性に富む還元末端が多く存在するため、着色物質が生じたり、解重合が起こるとされている。特許文献1においても、デキストリンのリン酸化反応で解重合が起こり、分子量の大きい画分が増加する結果が開示されている。着色成分の多くは、活性炭処理や溶媒洗浄処理で除去されるが、精製コストも高く、収率も大きく低下することとなる。
【0004】
一方、リン酸化糖アルコール類については、リン酸化還元マルトデキストリン及びリン酸化還元オリゴ糖が再石灰化促進作用を有することが知られているが(特許文献3)、リン酸化糖アルコール類の免疫増強作用については、全く知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−43326号公報
【特許文献2】特開2005−82494号公報
【特許文献3】国際公開第2005/003753号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リン酸化糖を用いた免疫増強剤の問題点を改善するものであり、着色の問題がなく、優れた免疫増強作用を有するリン酸化糖アルコール類を含んでなる免疫増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の発明を包含する。
(1)リン酸化糖アルコール類を含んでなる免疫増強剤。
(2)リン酸化糖アルコール類が、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールをリン酸化して得られるものである前記(1)に記載の免疫増強剤。
(3)リン酸化糖アルコール類が、糖アルコール類とリン酸化試薬を混合して焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱して得られるものである前記(1)又は(2)に記載の免疫増強剤。
(4)リン酸化糖アルコール類のリン酸化率が70%以上である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(5)リン酸化糖アルコール類の結合リン含量が0.5質量%以上、リン酸化率が80%以上、白度が60%以上である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の免疫増強剤。
【0008】
(6)医薬又は動物薬として用いられる前記(1)〜(5)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(7)食品又は飼料として用いられる前記(1)〜(5)のいずれかに記載の免疫増強剤。
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の免疫増強剤の製造法であって、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールをリン酸化することを特徴とする免疫増強剤の製造法。
(9)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の免疫増強剤の製造法であって、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールとリン酸化試薬を混合して焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱することを特徴とする免疫増強剤の製造法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の免疫増強剤は、着色の問題がなく、優れた免疫増強作用を有するリン酸化糖アルコール類を含んでおり、かつ工業的により大量生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、構成する糖の重合度が11以上の糖類をデキストリンと称し、構成する糖の重合度が10以下の糖類をオリゴ糖と称する。
【0011】
本発明に用いるリン酸化糖アルコール類としては、糖アルコール類の少なくとも1つの水酸基がリン酸化された構造を有するものを含有するものであれば、その純度及び製法は問われない。例えば、リン酸化澱粉を酵素で低分子化して得られるリン酸化糖を水添還元して得られる糖アルコール類を用いることもできるが、高純度のリン酸化糖アルコール類が容易に得られる点から、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールをリン酸化して得られるリン酸化糖アルコール類が好ましい。例えば、前記糖アルコール類とリン酸化試薬を混合・乾燥して焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱すると、リン酸化が促進される。
【0012】
このような好ましいリン酸化糖アルコール類は、その原料として用いられる糖アルコール類の多くが澱粉糖化工業で大量に生産されている還元水あめや還元デキストリンである。異性化糖などに比べて安定性に優れた特徴を生かして加工食品に多く使用されている。
【0013】
前記の好ましいリン酸化糖アルコール類の製造に際しては、先ず糖アルコール類をリン酸化する。ここで原料として使用される糖アルコール類は特に限定さない。澱粉の酵素分解物を水添還元して得られる糖アルコール類として、還元オリゴ糖、還元デキストリン、マルチトール、イソマルチトール、ソルビトールなどがあり、他に糖アルコールとして生産されるエリスリトール、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール、アラビニトール、ラクチトール、パラチニット、リビトール、トレイトール、アリトール、イノシトール、クエルシトール、イノソースなどが使用できる。なお、原料として用いられる糖アルコールは必要に応じて混合して用いることができる。
【0014】
リン酸化に使用されるリン酸化試薬としては、リン酸、リン酸のナトリウム塩である第一リン酸ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、第二リン酸ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、第三リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、更にリン酸のカリウム塩である第一リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム)、第二リン酸カリウム(リン酸水素二カリウム)、第三リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、トリポリリン酸カリウム、トリメタリン酸カリウム、又、オキシ塩化リンなどが挙げられる。
【0015】
リン酸化試薬は、糖アルコール類に対して、通常、リンとして0.2質量%以上の添加量で添加することによりリン酸含浸糖アルコール類(糖アルコール類とリン酸化試薬の混合物)を調製することができる。糖アルコール類は比較的水溶性の高いものが多いので、リン酸化試薬は、糖アルコール類の水溶液に添加されて混合される。もちろん、リン酸化試薬の水溶液に糖アルコール類を溶解することもできる。
【0016】
生じたリン酸含浸糖アルコール類のpHは通常4〜10に、好ましくは5〜7に調整される。pHを調整するために糖アルコール類とリン酸化試薬との混合液に酸やアルカリを添加することができる。酸としては、当然リン酸を用いることができ、リン酸以外に塩酸、硫酸、亜硫酸などを用いてもよい。アルカリとしては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0017】
糖アルコール類とリン酸化試薬との混合液は、スプレードライヤーで噴霧乾燥され、リン酸含浸糖アルコール類の粉体が得られる。乾燥法としては、凍結乾燥もあるが、大量生産には噴霧乾燥が適している。
【0018】
本発明者らは、当初、澱粉を酵素分解して得られるデキストリンを原料としてリン酸化反応を検討した。予備実験として、実験室の加熱送風機を備えた棚段乾燥機を用いて、140〜200℃に1〜3時間保持すれば、結合リンの多いリン酸化デキストリンをリン酸化率80%前後で得ることができた。しかしながら、得られたリン酸化デキストリンは暗褐色であり、白度を測定すると40%以下となり、到底商品化は困難と思われた。前述のように、デキストリンには還元末端が多く存在するため、高温による酸化反応が進み、褐変が進むものと考えられた。
【0019】
そこで、オリゴ糖やデキストリンを水添還元して得られる還元オリゴ糖や還元デキストリンを用いてリン酸化反応を行ってみた。水分15質量%未満に乾燥されたリン酸含浸糖アルコール類を320メッシュの金網の上に平均厚さ5mmとなるように均一に広げて置き、この金網を棚段乾燥機に装着した。熱風の温度を95℃に設定し、熱風の50%は系外に排出し、熱風の50%を循環させるようにダンパーを調節して1時間乾燥し、リン酸含浸糖アルコール類の水分含量が1質量%となることを確認した。引き続いて熱風の温度を175℃に昇温して、2時間保持した。ヒーターを停止して冷風とし、品温が50℃以下となってからリン酸化糖アルコール類を回収した。得られたリン酸化糖アルコール類の結合リン含量は3〜6質量%となり、リン酸化率は80%以上に達し、白度も格段に改善されて60%以上となった。
【0020】
更に、工業的な生産をめざして流動層焙焼装置でリン酸化を検討した。加熱処理の条件としては、リン酸含浸糖アルコール類を焙焼装置に投入して熱風で流動加熱し、昇温して品温を通常100〜250℃、好ましくは150〜190℃の一定温度に維持した後、冷却してから製品を排出する。昇温又は冷却・排出に要する時間は、それぞれ通常10〜60分程度であるが、装置の大きさや原料の搬送能力によって大きく異なり、又流動性の低いリン酸含浸糖アルコール類では長時間を要することとなる。一定温度に維持する加熱時間は通常5分〜4時間、好ましくは30〜180分である。
【0021】
流動層焙焼においては、流動層の熱風を系外に排出すると、層内のリン酸含浸糖アルコール類の水分減少が速やかとなり、リン酸化が促進される。この加熱反応工程の原料投入、昇温、一定温度保持、冷却、製品排出の各操業段階において、加熱後の熱風を流動層の系外に排出して水分子を除去しながらリン酸化反応を進めた。これにより、実験室で得られたような、リン酸化糖アルコール類の結合リン含量は3〜6質量%となり、リン酸化率は80%以上に達し、白度も60%以上となった。必要に応じて、活性炭等を用いて精製することにより、白度を70%以上のリン酸化糖アルコール類を得ることもできる。
【0022】
以上のようにして得られるリン酸化糖アルコール類は、通常、リン酸基の結合位置、結合数や構成糖の重合度の異なるリン酸化糖アルコール類が混合しているリン酸化糖アルコール組成物として得られるが、本発明においては、これをそのまま用いることができ、また必要に応じて、精製したものを用いてもよい。
【0023】
本発明において「免疫増強剤」とは、免疫増強活性を有する剤のことであり、その用途は医薬、動物薬に限らず、食品や飼料等に配合され、利用されるものである。また、本発明において、「免疫増強活性を有する」とは、ヒトを含む動物において、脾臓細胞のマイトージェン活性(脾臓細胞に対する有糸分裂誘起活性)のような免疫増強作用を増加させることができることをいう。例えば、本明細書の実施例のように、マウス脾臓細胞のマイトージェン活性を増加させることによって免疫増強作用が認められたと評価されることを意味する。
【0024】
本発明の免疫増強剤は、医薬、動物薬等の用途の他、食品又は飼料に配合して用いることができる。医薬として用いる場合には、リン酸化糖アルコール類は水溶性に富むことから、投与経路に応じて適当な剤形とされ得る。具体的には、主として静注、筋注等の注射剤、又はカプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、糖衣錠、トローチ錠、チュアブル錠等の経口剤、直腸投与剤、坐剤等のいずれかの製剤形態に調製することができる。更に、免疫増強剤は必要に応じて、液剤、懸濁剤、液剤封入カプセル剤等の形態であってもよい。
【0025】
これらの製剤は、通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤等の薬学的に許容される製剤用添加剤を、必要に応じて配合し、常法により製造することができる。すなわち、本発明の免疫増強剤は、薬学的に許容される製剤用添加剤を更に含むものであってもよい。
【0026】
使用可能な前記添加剤としては、乳糖、果糖、ぶどう糖、ゼラチン、炭酸マグネシウム、合成ケイ酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、カルボキシメチルセルロース又はその塩、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、シロップ、ワセリン、グリセリン、エタノール、プロピレングリコール、クエン酸、塩化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
食品として用いる場合には、本発明の免疫増強剤は、広く加工食品や飲料、乳製品、菓子類などに用いることができる。食品の形態で提供される本発明の免疫増強剤は、体力的に劣る幼年者や老年者、病中病後の患者等の栄養補給や健康増進等を図る上で有利である。
【0028】
飼料として用いる場合には、本発明の免疫増強剤は、養豚用飼料、養牛用飼料、養鶏用飼料等の家畜飼料、ペットフード、各種配合飼料などの形で提供することができる。免疫増強剤を投与する方法としては、飼料等に配合して経口的に摂取させる方法が一般的である。更に、本発明に用いるリン酸化糖アルコール類は水溶性であり、水などの飲料に加えて摂取する方法も選択できる。
【0029】
本発明の免疫増強剤は、動物に摂取させることによって免疫力を増強し、感染症に対する抵抗力を増進させて、動物の成長阻害要因を除去し、成長を促進させることが期待される。本発明でいう感染症の種類としては制限がなく、病原体である微生物が動物の体表もしくは体内に侵入し定着、増殖する病気の全てをいう。
【0030】
家畜等の感染症は、病原体、宿主、環境などの種々の因子が相互に関係して起こるとされている。感染症を予防して家畜等の成育の増進を図るため、飼料に免疫増強物質を添加することは従来から行われており、各種のアミノ酸や牛乳カゼインホスホペプチド(CPP)などが有効な物質であることが知られている。しかし、蛋白性の物質はアレルゲンとなる可能性があり、より安価で安全性に優れた免疫増強物質が望まれている。この点、本発明に用いるリン酸化糖アルコール類は、安定性に優れた糖アルコール類をリン酸化した糖質であり、アレルゲンとはなり難く、安全性に優れた物質であり、CPPと同様にカルシウムなどの可溶化を促進する物質である。
【0031】
また、本発明の対象とされる動物はヒトや他の家畜、例えば豚、牛、馬、羊、鶏なども含まれる。更に、犬、猫などのようなペット動物等も本発明の対象に含まれる。
【0032】
本発明の免疫増強剤を配合する飼料等については、特に限定されたものは必要なく、動物の種類やその成長に見合って適切なものを選択すればよい。投与量についても、動物の種類、年齢、体重、性別、給餌する環境等を考慮して適宜決定されるが、一例として、一般に使用されている豚用飼料100質量部に対して0.01〜5質量部程度、好ましくは0.02〜1質量部程度を均一に混合する。選定された飼料は一定期間、好ましくは出荷時まで継続して動物に投与することが好ましい。しかしながら、投与の方法として連続投与だけでなく、間欠投与も選択可能である。
【0033】
本発明の免疫増強剤は、脾臓細胞のマイトージェン活性などの免疫賦活作用に優れている。また、本発明に用いるリン酸化糖アルコール類には、有効成分としてリン酸基を有する糖アルコール類が含まれている。従って、免疫増強活性が認められるカゼインやCPP(カゼインホスホペプチド)のような蛋白質やペプチドに比べると、明らかにアレルゲンとなり難い。このことは、本発明に用いるリン酸化糖アルコール類が、優れた免疫増強作用を有すると同時に、アレルギー反応を起こす可能性の極めて少ないものであって、安全性に優れていることを示している。
【0034】
本発明の免疫増強剤は、免疫機能の低下したヒトや動物に対して、免疫増強作用を付与するための食品素材、医薬品素材、あるいは飼料素材として有用である。例えば、生後間もない仔豚は、母乳からの移行抗体により感染から守られているが、養豚における通常の飼育管理では、生後20日齢を越えると、母豚より引き離されて強制的に離乳させられる。それに伴う移行抗体の減少により、仔豚は免疫力が低下し、感染症の脅威にさらされる。このような場合、本発明の免疫増強剤を投与すれば、免疫力の低下を阻止することが期待できる。更に、加齢、疾病及び疲労等に伴って免疫力が低下したヒトや動物においても、本発明の免疫増強剤を使用することにより、日常の健康増進を図ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0036】
実施例において、(a)リン酸化糖アルコール組成物の結合リンの測定、(b)リン酸化率の算出、(c)リン酸化糖アルコール組成物の白度測定は以下の方法で行った。なお、別に断らない限りリン含量の質量%は乾物質量に対する%として表示した。
【0037】
(a)リン酸化糖アルコール組成物の結合リン測定
リン含量は澱粉・関連糖質実験法(学会出版センター、中村道徳ら)に記載の方法に準じて測定した。可溶性のリン酸化糖アルコール組成物は、試料を適宜、溶解して塩酸を加えてpHを2に調整してからFiske-Subbarow法で無機リンを測定した。なお、比色分析の発色時に濁りが認められるものは、遠心分離(3000rpm,3分間)して上清の吸光度を測定した。全リン含量は無機リン測定時にpH2に調整した試料を湿式灰化処理して無機リンとしてから、同様にFiske-Subbarow法で測定した。リン酸化糖アルコール組成物の結合リン含量(質量%)は下記の式で算出した。
結合リン含量(質量%)=全リン含量(質量%)−無機リン含量(質量%)
【0038】
(b)リン酸化糖アルコール組成物のリン酸化率の算出
リン酸化糖アルコール組成物のリン酸化率は下記の式で算出した。
リン酸化率(%)={結合リン含量(質量%)÷全リン含量(質量%)}×100
【0039】
(c)リン酸化糖アルコール組成物の白度測定
リン酸化糖アルコール組成物の白度はハンター白色度計で測定し、硫酸カルシウムの標準板を100%として、%で表示した。
【0040】
実施例1
水13.0kgにリン酸水素二ナトリウム(無水)0.39kgをアジテターで攪拌しながら少しずつ溶解し、次いでリン酸二水素ナトリウム(2水塩)1.02kgを溶解した。リン酸塩が完全に溶解したら還元デキストリン粉末(PO−10、東和化成工業株式会社製、水分6質量%)6.8kgを少しずつ溶解して終濃度20%とし、完全に溶解した混合液をスプレードライヤーで乾燥粉末化した。
【0041】
得られたリン酸含浸還元デキストリン粉末A 5Kgの内、500gを320メッシュの金網の上に平均厚さ5mmとなるように均一に広げて置き、この金網を棚段乾燥機に装着した。熱風の温度を95℃に設定して1時間乾燥し、リン酸含浸還元デキストリンの水分含量が1%となることを確認した。引き続いて熱風の温度を170℃に昇温して、90分保持した。ヒーターを停止して冷風とし、品温が50℃以下となってからリン酸化糖アルコール組成物Aを回収した。同じ操作を8回繰り返して、リン酸化糖アルコール組成物A 4kgを得た。結合リン含量は3.3質量%、リン酸化率は87%、白度は59%であった。
【0042】
得られたリン酸化糖アルコール組成物Aを20%水溶液とし、粉末活性炭(PM−KIとPM−SXの等量混合物、三倉化成社製)を対固形分10質量%添加して、60℃、2時間攪拌保持した。その後、セラミック濾過機(0.2μm、トライテック社製)で残渣と活性炭を除去した。濾液には無機リンが含まれているので、NF膜(日東電工社製、NTR−7450)で脱塩・濃縮処理を行い、無機リンを減少させた。更に、水酸化ナトリウムでpH6.2(1質量%溶液で測定)に調整してから、0.45μmのポリスルフォンのメンブレンフィルター(ロキテクノ社製)で濾過後、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化した。
【0043】
精製されたリン酸化糖アルコール組成物A製品は3kgが回収され、得られた製品の結合リン含量は3.4質量%、リン酸化率は86%、白度は77%であった。
【0044】
実施例2
水12.9kgにリン酸水素二ナトリウム(無水)0.56kgをアジテターで攪拌しながら少しずつ溶解し、次いでリン酸二水素ナトリウム(2水塩)1.45kgを溶解した。リン酸塩が完全に溶解したら還元デキストリン粉末(PO−10、東和化成工業株式会社製、水分6質量%)6.8kgを少しずつ溶解して終濃度20%とし、完全に溶解した混合液をスプレードライヤーで乾燥粉末化した。得られたリン酸含浸還元デキストリン粉末B 5kgを実施例1と同様に、500gずつ棚段乾燥機で焙焼し、同じ操作を8回繰り返して、リン酸化糖アルコール組成物B 4kgを得た。結合リン含量は4.3質量%、リン酸化率は84%、白度は64%であった。
【0045】
得られたリン酸化糖アルコール組成物Bを実施例1と同様に精製し、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化した精製されたリン酸化糖アルコール組成物B製品は3kgが回収され、得られた製品の結合リン含量は4.3質量%、リン酸化率は83%、白度は80%であった。
【0046】
実施例3
水12.8kgにリン酸水素二ナトリウム(無水)0.75kgをアジテターで攪拌しながら少しずつ溶解し、次いでリン酸二水素ナトリウム(2水塩)1.95kgを溶解した。リン酸塩が完全に溶解したら還元デキストリン粉末(PO−10、東和化成工業株式会社製、水分6質量%)6.8kgを少しずつ溶解して終濃度20%とし、完全に溶解した混合液をスプレードライヤーで乾燥粉末化した。得られたリン酸含浸還元デキストリン粉末C 5kgを実施例1と同様に、500gずつ棚段乾燥機で焙焼し、同じ操作を8回繰り返して、リン酸化糖アルコール組成物C 4kgを得た。結合リン含量は5.6質量%、リン酸化率は85%、白度は65%であった。
【0047】
得られたリン酸化糖アルコール組成物Cは、20%水溶液とし、実施例1と同様に精製し、スプレードライヤー(ニロ社製)で乾燥粉末化した。精製されたリン酸化糖アルコール組成物C製品は3kgが回収され、得られた製品の結合リン含量は5.5質量%、リン酸化率は83%、白度は81%であった。
【0048】
実施例4
910Lの水にリン酸二水素ナトリウム(2水塩)71kgとリン酸水素二ナトリウム(無水)28kgを添加して溶解してから、還元デキストリン粉末(PO−10、東和化成工業株式会社製、水分6質量%)480kgを溶解し、混合してスプレードライヤーで噴霧乾燥した。得られたリン酸含浸還元デキストリン(水分5.3質量%、リン含量3.8質量%、pH6.0)の500kgを流動層加熱機(王子コーンスターチ株式会社製)に投入した。加熱した熱風を供給して流動加熱し、排気される熱風は流動層の系外に排出した。加熱開始後、30分で170℃まで昇温し、熱風の排気はそのまま系外に排出し続けて、170℃で90分加熱反応した。加熱反応終了後、送風を冷風に切り替え、更に熱風の排気を系外に排出し続けて、60分で品温を100℃以下にまで冷却した。回収されたリン酸化糖アルコール組成物は450kgであり、その結合リン含量は3.1質量%、リン酸化率は82%、白度は63%であった。
【0049】
実施例5
実施例1〜3で得たリン酸化糖アルコール組成物A,B,Cのマウス脾臓細胞に対するマイトージェン活性を調べた。マウス脾臓細胞は6週齢のC3H/HeN系雄マウスから無菌的に採取し、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、5%牛胎児血清を含むRPMI−1640培地(100μl)で生細胞数が5×10個/mlとなるように調整し、脾臓細胞懸濁液とした。これを96穴マイクロタイタープレート(Falcon, Cockeysvill, USA)にそれぞれ100μl分注し、各種濃度のリン酸化糖アルコール組成物溶液10μlを加えて、5%CO存在下、37℃で72時間培養した。培養終了後、免疫細胞の増殖を色素MTT法(Mosmann,T., J. Immunol. Method, 65(1983), pp55-63)により測定し、フォルマザンの生成は570nmの吸光度をマイクロプレートリーダー(Bio-Rad model 450)で測定した。なお、効果の有意差判定には、Student’s t-testを用いた。
【0050】
細胞増殖の結果は図1に示した。リン酸化糖アルコール組成物A,B,Cはいずれも免疫細胞の増殖を有意に増加させ、マイトージェン活性を示した。リン酸化糖アルコール組成物Aは50μg/mlの濃度で有意水準1%未満で増殖効果を示し、100〜500μg/mlの濃度で有意水準0.1%未満で増殖効果を示した。リン酸化糖アルコール組成物Bは10〜100μg/mlの濃度で有意水準0.1%未満で増殖効果を示し、500μg/mlの濃度で有意水準1%未満で増殖効果を示した。リン酸化糖アルコール組成物Cは10μg/mlの濃度で有意水準5%未満で増殖効果を示し、50μg/mlの濃度で有意水準1%未満で増殖効果を示し、100〜500μg/mlの濃度で有意水準0.1%未満で増殖効果を示している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例5の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
PRD(A):リン酸化糖アルコール組成物A
PRD(B):リン酸化糖アルコール組成物B
PRD(C):リン酸化糖アルコール組成物C

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸化糖アルコール類を含んでなる免疫増強剤。
【請求項2】
リン酸化糖アルコール類が、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールをリン酸化して得られるものである請求項1記載の免疫増強剤。
【請求項3】
リン酸化糖アルコール類が、糖アルコール類とリン酸化試薬を混合して焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱して得られるものである請求項1又は2記載の免疫増強剤。
【請求項4】
リン酸化糖アルコール類のリン酸化率が70%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項5】
リン酸化糖アルコール類の結合リン含量が0.5質量%以上、リン酸化率が80%以上、白度が60%以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項6】
医薬又は動物薬として用いられる請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項7】
食品又は飼料として用いられる請求項1〜5のいずれか1項に記載の免疫増強剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の免疫増強剤の製造法であって、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールをリン酸化することを特徴とする免疫増強剤の製造法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の免疫増強剤の製造法であって、単糖、オリゴ糖及びデキストリンを水添還元して得られる糖アルコール類から選ばれる少なくとも1種の糖アルコールとリン酸化試薬を混合して焙焼するに当り、発生する水分を系外に除去しながら加熱することを特徴とする免疫増強剤の製造法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−44888(P2008−44888A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−221930(P2006−221930)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】