説明

リン酸含有水の処理方法及び処理装置

【課題】FPD製造排水等のリン酸、硝酸及び酢酸などの有機酸を含む排水を、カルシウム化合物を用いるリン酸除去処理と、その後の生物脱窒処理により、スケール析出等のトラブルを引き起こすことなく、また、薬剤使用量を抑えた上で効率的に処理する。
【解決手段】リン酸含有水にカルシウム化合物を添加すると共にpH6.5以下に調整し、析出したリン酸アパタイトを固液分離し、分離水を脱カルシウム処理した後、生物脱窒処理するリン酸含有水の処理方法。この生物脱窒処理水は更に脱塩処理される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造排水等の、リン酸及び硝酸と酢酸等の有機酸を含有する水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD製造排水には、リン酸、硝酸、酢酸などが含まれており、この排水を排出するには、これらを除去する必要がある。
【0003】
従来、FPD製造排水の処理法としては、まず排水中のリン酸を除去した後、生物脱窒処理により硝酸、酢酸を除去することが行われている。排水中のリン酸は、排水に消石灰等のカルシウム化合物を高濃度に添加して、1段目でpH5.5〜8.0.望ましくは6.5〜7.5の条件で凝集処理し、2段目で1段目よりも高pHで、pH11以下、好ましくは8.7以下の条件で凝集処理する2段階での中和凝集処理を行って、リン酸をリン酸アパタイトとして除去することが行われている(特許文献1)。
【0004】
即ち、排水中のリン酸をカルシウム化合物と反応させて凝集沈殿させる方法で、リン酸を排水基準値まで高度に除去するためには、pHアルカリ領域でリン酸とカルシウム化合物とを反応させてリン酸アパタイト(ヒドロキシアパタイト)の沈殿物を形成させる必要があることから、従来においてはpHアルカリ性の条件での凝集処理が行われている。図3は、リン酸アパタイトの溶解度とpHとの関係を示すグラフであり、このグラフからも明らかなように、リン酸を高度に除去するためには、pH8.5程度とすることが好ましい。
【0005】
しかし、この方法では、多量の残留カルシウムイオンと、少量の残留リン酸イオンを含む、pHアルカリ性のリン酸除去処理水が生物脱窒工程に流入することにより、生物脱窒系内でリン酸カルシウムや炭酸カルシウムといったスケール成分が析出し、配管を目詰まりさせたり、生物処理に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0006】
また、反応により生成したリン酸アパタイトは、人工歯根や人工骨用原料、吸着剤、各種触媒、湿度センサー等としての用途に適用しうることから、リン酸含有水の処理に当っては、リン酸アパタイトを高純度で回収することが望まれるが、pHアルカリ性の条件下では、水中の炭酸イオンとカルシウムイオンとが結合し易くなり、炭酸カルシウムが生成し、この炭酸カルシウムがリン酸アパタイト中に混入してリン酸アパタイトの純度を低下させるという問題もある。
【0007】
スケール析出の問題については、リン酸除去処理水をイオン交換処理して脱塩処理することにより水中のカルシウムイオンを除去して、このようなスケール析出を防止することも考えられるが、その場合には、塩類濃度の高いリン酸除去処理水をイオン交換樹脂でイオン交換することになり、イオン交換樹脂の再生頻度が高く、大量の再生薬剤が必要となるという問題がある。また、イオン交換樹脂のうち、アニオン交換樹脂の再生廃液には、リン酸除去処理水中に含まれ、アニオン交換樹脂でイオン交換された硝酸と酢酸が含まれる。このため、この再生廃液は更に生物脱窒処理する必要があるが、この再生廃液は塩類濃度が高いため、生物脱窒槽への投入に先立ち希釈する必要があり、また、アルカリ性であるために酸を添加して中和する必要がある。更にまた、脱窒反応に伴うpH上昇を中和するための酸も必要となり、中和のための酸の必要量が過大となる。
【特許文献1】特開2004−261640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の問題点を解決し、FPD製造排水等の、リン酸、硝酸及び酢酸などの有機酸を含む排水を、カルシウム化合物を用いるリン酸除去処理と、その後の生物脱窒処理により、スケール析出等のトラブルを引き起こすことなく、また、薬剤使用量を抑えた上で効率的に処理する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、カルシウム化合物を添加するリン酸除去処理を低pH条件で行うことにより、脱水性の良いリン酸アパタイトを生成させると共に、これを固液分離して得られる分離水中に残留するカルシウムイオンを除去し、リン酸カルシウム等のスケールが析出しない条件で生物脱窒処理を行うことにより、生物脱窒工程におけるスケール障害を防止することができること、更に、この生物脱窒処理水を脱塩処理することにより高水質の処理水を回収することができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] リン酸と硝酸及び有機酸を含有するリン酸含有水の処理方法であって、該リン酸含有水にカルシウム化合物を添加すると共にpH6.5以下に調整する反応工程と、該反応工程で析出したリン酸アパタイトを固液分離する固液分離工程と、該固液分離工程で固液分離した分離水からカルシウムを除去する脱カルシウム工程と、該脱カルシウム工程の処理水を生物脱窒処理する生物脱窒工程とを含むことを特徴とするリン酸含有水の処理方法。
【0012】
[2] [1]において、前記生物脱窒工程の処理水を脱塩処理する脱塩工程を含むことを特徴とするリン酸含有水の処理方法。
【0013】
[3][1]又は[2]において、前記固液分離工程で分離した汚泥の一部を前記反応工程に返送する汚泥返送工程を有することを特徴とするリン酸含有水の処理方法。
【0014】
[4] リン酸と硝酸及び有機酸を含有するリン酸含有水の処理装置であって、該リン酸含有水にカルシウム化合物を添加すると共にpH6.5以下に調整する反応手段と、該反応手段で析出したリン酸アパタイトを固液分離する固液分離手段と、該固液分離手段で固液分離した分離水からカルシウムを除去する脱カルシウム手段と、該脱カルシウム手段の処理水を生物脱窒処理する生物脱窒手段とを含むことを特徴とするリン酸含有水の処理装置。
【0015】
[5] [4]において、前記生物脱窒手段の処理水を脱塩処理する脱塩手段を含むことを特徴とするリン酸含有水の処理装置。
【0016】
[6] [4]又は[5]において、前記固液分離手段で分離した汚泥の一部を前記反応手段に返送する汚泥返送手段を有することを特徴とするリン酸含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、リン酸含有水にカルシウム化合物を添加してpH6.5以下の低pH条件で反応を行うことにより、リン酸を脱水性の良いリン酸アパタイトとして析出させ、これを固液分離して除去する。
【0018】
この低pH条件下でのリン酸除去処理では、リン酸が若干量残留するが、残留したリン酸は、その後の生物脱窒処理、更には脱塩処理で除去することができる。
また、この低pH条件下では、炭酸カルシウムの生成が抑えられ、炭酸カルシウムの混入のない高純度のリン酸アパタイトを回収することができる。
【0019】
なお、高濃度のリン酸と水酸化カルシウム等のカルシウム化合物とを混合すると、微細なリン酸アパタイト結晶が生成し、このような微細な結晶では良好な固液分離性が得られないが、分離汚泥(リン酸アパタイト結晶)をこの反応系に返送することにより、この返送汚泥を核としてその表面にリン酸アパタイトが析出し、大きな結晶に成長させることができ、良好な固液分離性を得ることができる(請求項3,6)。
【0020】
本発明では、このリン酸除去処理で残留するカルシウムイオンを、その後の脱カルシウム工程で除去することにより、後段の生物脱窒工程でのスケール障害を防止する。
【0021】
この脱カルシウム工程を行わない場合、硝酸、酢酸は、それぞれ硝酸カルシウム、酢酸カルシウムとして存在するため、生物脱窒工程では、以下の反応で、硝酸、酢酸が分解除去され、従って、脱窒反応系のpHが上昇する。
【0022】
8Ca(NO)+5(CHCOO)Ca
→8N+13Ca(OH)+20CO+2H
→8N+10Ca(HCO)+3Ca(OH)+2H
→8N+6CaCO(沈殿)+7Ca(HCO)+5H
【0023】
このため、従来の生物脱窒処理では、このpH上昇分を中和するための酸添加が必要となる。
【0024】
これに対して、本発明では、生物脱窒工程の前段の脱カルシウム工程でカルシウムイオンを除去することから、硝酸、酢酸は、それぞれ酸の形態で存在するため、脱窒反応は以下の反応が主体となり、pHの上昇は殆ど起こらない。このため、中和のための酸添加は不要となり、薬剤使用量を軽減することができる。
8HNO+5CHCOOH→4N+10CO+14H
【0025】
本発明では、生物脱窒工程後、更に脱塩処理することが好ましく、これにより、高水質の処理水(純水)を得ることができる(請求項2,5)。
【0026】
この場合、生物脱窒工程で硝酸イオン、酢酸イオンが除去されているため、脱塩処理をイオン交換樹脂を用いて行った場合であっても、イオン負荷、特にアニオン負荷が小さく、この結果、イオン交換樹脂の再生剤使用量、とりわけアルカリ(水酸化ナトリウム)使用量を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を参照して本発明のリン酸含有水の処理方法及び処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明のリン酸含有水の処理装置の実施の形態を示す系統図であり、1は反応槽、2は沈殿槽、3は濾過器、4は脱カルシウム塔(脱Ca塔)、5は生物脱窒槽、6は濾過器、7は二床式イオン交換装置であり、カチオン交換塔7Aとアニオン交換塔7Bとを備える。
【0029】
本発明で処理対象とするリン酸含有水(以下「原水」と称す。)は、リン酸と、硝酸と酢酸等の有機酸を含む水であり、例えば、液晶製造排水等のFPD製造排水、半導体製造排水や電解コンデンサー製造排水等が挙げられる。その水質としては特に制限はないが、通常、以下のような水質である。
【0030】
<原水水質>
pH:1.5〜2.5
PO−P:200〜2000mg−P/L
HNO :30〜600mg/L
CHCOOH:30〜600mg/L
【0031】
本発明においては、このような原水に、反応槽1でまずカルシウム化合物を添加すると共にpH6.5以下に調整する。
【0032】
原水に添加するカルシウム化合物としては特に制限はなく、水酸化カルシウム(消石灰)、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウム、塩化カルシウム等を用いることができる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。ただし、塩化カルシウムは塩素イオンが増加するのであまり好ましくない。
【0033】
カルシウム化合物の添加量は、原水中のリン酸濃度に応じて適宜決定され、通常、原水中のリン酸の反応当量の0.9〜0.99倍程度、例えばカルシウム化合物が水酸化カルシウムの場合には、原水中のリン酸のP換算重量に対して1.9〜2.1重量倍程度とすることが好ましい。カルシウム化合物添加量が少な過ぎると、リン酸を十分に除去し得ず、多過ぎると後段の脱Ca工程の負荷が増大し、好ましくない。
【0034】
原水にカルシウム化合物を添加して反応させる際の反応系のpHが6.5より高いと、後段の生物脱窒工程でスケール障害が発生する。ただし、このpH値が過度に低く、5.5未満であると、リン酸アパタイトが析出し難くなる。従って、このpH値は5.5〜6.5、特に6.0〜6.5とすることが好ましい。従って、カルシウム化合物の添加と共に、必要に応じて酸又はアルカリを添加することにより、このpH範囲にpH調整する。
【0035】
このようなpH条件での反応では、高pH条件での反応のように、原水中のリン酸を高度に除去することはできず、8〜90mg−P/L程度のリン酸が残留するが、このリン酸は、後段の生物脱窒処理で一部が利用され、かつpH上昇によりアパタイト生成により除去され、更に、脱塩処理で除去されるため、問題になることはない。
【0036】
通常、リン酸、硝酸、酢酸等の有機酸を含む本発明の処理対象原水は、上述の如く強酸性の水であるため、pH調整剤としてはアルカリを添加することになる。従って、カルシウム化合物として、アルカリ剤である水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、重炭酸カルシウムを用い、pH調整とカルシウム化合物添加とを兼用することが好ましい。
【0037】
反応時間には特に制限はないが、反応槽1での滞留時間が5〜30分程度となるようにすることが好ましい。
【0038】
なお、前述の如く、カルシウム化合物の添加のみでは、微細なリン酸アパタイト結晶が生成し、十分な固液分離性が得られないことから、図1の装置では、後段の沈殿槽2の固液分離汚泥の一部を反応槽1に返送する。
【0039】
このように汚泥返送を行うことにより、リン酸アパタイトの結晶が、返送された汚泥の表面で析出して粗大化するため、良好な固液分離性が得られるようになる。
【0040】
この汚泥返送量は、少な過ぎると汚泥を返送することによる上記効果を十分に得ることができず、多過ぎると必要とする反応槽容量が大きくなるため好ましくない。通常の場合、汚泥返送量は、その固形分として、原水にカルシウム化合物を添加することにより生成するリン酸アパタイトの量の5〜50倍程度とすることが好ましい。
【0041】
なお、返送汚泥は、原水に添加するカルシウム化合物の一部又は全部と予め混合して原水に添加しても良い。
【0042】
反応槽1の反応液は、沈殿槽2に送給され固液分離され、分離汚泥は、その一部が反応槽1に返送され、残部は余剰汚泥として系外へ排出される。この余剰汚泥は比較的純度の高いリン酸アパタイトを含むものであり、各種用途への適用が可能である。
【0043】
一方、分離水は、濾過器3で更にSS分が除去された後、脱Ca塔4に送給される。この濾過器3は、脱Ca塔4の目詰まりを防止するためのフィルターとしての役割を担うものであり、下向流式砂濾過器等を用いることができる。
【0044】
脱Ca塔4は、カチオン交換樹脂を充填したカチオン交換塔であり、この脱Ca塔4において、濾過器3の濾過水中のカルシウムイオンが除去される。
【0045】
脱Ca塔4は、濾過水の通水処理により、イオン交換能が飽和するため、定期的に再生剤(塩酸)で再生する必要がある。この再生廃液は水酸化ナトリウム等で中和後、排水される。
【0046】
本発明においては、このカルシウム除去は、後段の生物脱窒工程においてスケール障害が発生しない程度に実施されれば良く、従って、濾過器からの濾過水(リン酸除去処理水)の全量を脱Ca処理する必要はない。例えば、濾過水のうちの10〜90%程度を脱Ca塔4に送給して脱Ca処理し、残部は直接後段の生物脱窒槽5に導入しても良い。このように、リン酸除去処理水の一部のみを脱Ca処理することにより、脱Ca塔4の再生頻度を低減することができる。
【0047】
なお、脱窒反応槽5でカルシウムスケールが生成しないカルシウム濃度とは、pH条件によっても異なるが、例えばpH5.5〜6.5において、Caイオン濃度150mg/L以下であるので、脱窒反応槽5の流入水のCaイオン濃度が100mg/L以下となるように、脱Ca処理する割合を決定すれば良い。
【0048】
脱窒反応槽5では、前述の如く、主に以下の反応式に従って、硝酸及び酢酸が分解除去される。また、リン酸も一部菌体に取り込まれる。この場合、硝酸、酢酸のいずれか一方が反応に不足する場合は、適宜不足分を添加する。
8HNO+5CHCOOH→4N+10CO+14H
【0049】
前述の如く、この脱窒反応において、pHの上昇はあるが、pHが上昇してもpH7〜8程度であるため、pH調整のための酸添加は不要である。
【0050】
図1において、脱窒反応槽5は、図示はしないが、生物反応槽と、生物反応槽からの生物処理液を固液分離する沈殿槽を備えるか、或いは分離膜を浸漬した膜浸漬型反応槽であり、この生物脱窒槽5からの固液分離液は濾過器6で濾過された後、2床式イオン交換装置7で脱塩処理される。なお、固液分離手段として分離膜を用いた場合には、濾過器6は省略される。
【0051】
この濾過器6も濾過器3と同様、2床式イオン交換装置7のカチオン交換塔7A及びアニオン交換塔7Bの目詰まりを防止するためのフィルターとしての役割を担うものであり、下向流式砂濾過器等を用いることができる。
【0052】
2床式イオン交換装置7では、まず、カチオン交換塔7Aでカチオンが除去され、アニオン交換塔7Bでアニオンが除去される。
【0053】
各イオン交換塔7A,7Bも、定期的に或いは必要に応じて再生が行われるが、本発明では、この2床式イオン交換装置7に導入される水が、リン酸、硝酸、酢酸等の有機酸やカルシウムイオンが予め除去された水であるため、その再生頻度が低く、再生剤使用量を低減することができる。特に、前段の脱Ca塔4での再生剤(塩酸)使用量を勘案した場合であっても、この2床式イオン交換装置7のアニオン交換塔の再生頻度が低いことから、再生剤(水酸化ナトリウム)使用量を大幅に削減することができる。カチオン交換塔7Aとアニオン交換塔7Bの再生廃液は、酸、アルカリにより中和処理されるが、本発明では、この再生廃液量も少ないため、廃液処理の負荷も大幅に軽減される。
【0054】
このように、2床式イオン交換装置で生物脱窒処理水から、更にカチオンとアニオンを除去して得られる処理水は、高水質の純水であり、これを回収して液晶基板、半導体コンデンサーなどの洗浄用水の原水等に利用することができる。
【0055】
なお、図1は本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明はその要旨を超えない限り、図1に示す方法に何ら限定されるものではなく、例えば、生物脱窒処理水の脱塩手段としてはイオン交換装置の他、逆浸透膜分離装置や連続式電気脱イオン装置などを用いることができ、これらの装置を用いる場合には、イオン交換装置を用いる場合のイオン交換樹脂の再生が不要となる。なお、逆浸透膜分離装置を適用する場合、濃縮によりカルシウムスケールが析出することを防止するために、濾過器6の濾過水に、カルシウムイオンと難溶性塩を形成しない酸を添加してpHを3〜5程度に調整し、炭酸カルシウムやリン酸カルシウムのスケール析出を抑制することが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0057】
なお、以下において処理した原水は、下記水質の液晶製造排水である。
<原水水質>
pH:2.0
PO−P:1300mg−P/L
HNO :138mg/L
CHCOOH:127mg/L
【0058】
[実施例1]
図1に示す装置により、上記原水の処理を行った。
反応槽1にて、原水に槽内の水のpHが6.5となるように水酸化カルシウムを添加して滞留時間15分間で反応させた。このときの水酸化カルシウムの添加量は約5600mg/Lであった。この反応槽1には、後段の沈殿槽2の分離汚泥の一部を返送した。汚泥返送量は、固形分として、原水に水酸化カルシウムを添加して生成するリン酸アパタイト量の20重量倍とした。
【0059】
沈殿槽2の上澄水を濾過器3で濾過して得られた濾過水の水質は以下の通りであった。
<濾過水水質>
pH :6.5
PO−P:10mg−P/L
HNO :138mg/L(2.2meq/L)
CHCOOH:127mg/L(2.1meq/L)
Caイオン :90mg/L(4.5meq/L)
【0060】
この濾過水の一部(約90%)を、三菱化学(株)製強酸性カチオン交換樹脂「DIAION SK1B」を充填した脱Ca塔4に通水して脱Ca処理した。
【0061】
脱Ca処理水と、濾過水の残部とを混合し、生物脱窒槽5で脱窒処理した。この生物脱窒槽5には窒素分の不足を補給するために硝酸を添加した。
【0062】
生物脱窒処理水は沈殿分離した後更に濾過器6で濾過後、三菱化学(株)製強酸性カチオン交換樹脂「Diaion SKIB」を充填したカチオン交換塔7Aと、三菱化学(株)製強塩基性アニオン交換樹脂「Diaion SKIIA」を充填したアニオン交換塔7Bとを備える2床式イオン交換装置7で脱塩処理し、処理水を回収した。
【0063】
生物脱窒処理水の水質と脱塩処理水(最終処理水)の水質を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1より、本発明の処理により、2床式イオン交換装置7のイオン負荷が低減しており、イオン交換装置の通水量の増大を図ることができることがわかる。
この処理において、処理水100m当たりに必要とされる脱Ca塔4と2床式イオン交換装置7のカチオン交換塔7A及びアニオン交換塔7Bの再生剤量を表2に示す。
【0066】
[比較例1]
実施例1において、図2に示すように、脱Ca塔4と濾過器6を省略し、濾過器3の濾過処理水を直接2床式イオン交換装置7に導入して脱塩処理し、生物脱窒槽5を2床式イオン交換装置7の再生廃液の処理のために設置したこと以外は同様に処理を行った。
この処理において、処理水100m当たりに必要とされる再生剤量を表2に示した。
【0067】
この処理においては、2床式イオン交換装置7のアニオン交換塔7Bの再生廃液には、硝酸及び酢酸が高濃度で含まれるため脱窒処理が必要であった。その脱窒処理に際しては、カチオン交換塔7Aの再生廃液と再生廃液混合槽10で混合して中和したが、塩類濃度が高いため、5倍に希釈して生物脱窒処理する必要があり、また、生物脱窒処理時には、pH調整のために塩酸を添加する必要があった。
処理水100m当たりに必要とされるpH調整のためのこの塩酸添加量は、表2に示す通りであった。
【0068】
【表2】

【0069】
表2より、本発明によれば、酸、アルカリ薬剤の使用量を大幅に低減して効率的な処理を行えることが分かる。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、反応槽1におけるpHが6.0となるように水酸化カルシウムを添加した(水酸化カルシウム添加量5200mg/L)こと以外は同様にして処理を行った。
沈殿槽2の上澄みの水質と生物脱窒処理水の水質を表3に示す。また、処理水100m当たりに各工程で必要となる薬品使用量を表4に示す。
これらの表に示す通り、実施例2で薬剤使用量は約10%増加する程度で、比較例1より少なかった。
【0071】
[実施例3]
実施例1において、反応槽1におけるpHが5.0となるように水酸化カルシウムを添加した(水酸化カルシウム添加量4900mg/L)こと以外は同様にして処理を行った。
沈殿槽2の上澄みの水質と生物脱窒処理水の水質を表3に示す。また、処理水100m当たりに各工程で必要となる薬品使用量を表4に示す。
これらの表に示す通り、実施例3ではpHが低く、脱窒させるのに水酸化ナトリウムを400mg/L添加して中和することが必要であった。
【0072】
[比較例2]
実施例1において、反応槽1におけるpHが7.0となるように水酸化カルシウムを添加した(水酸化カルシウム添加量5900mg/L)こと以外は同様にして処理を行った。
沈殿槽2の上澄みの水質と生物脱窒処理水の水質を表3に示す。また、処理水100m当たりに各工程で必要となる薬品使用量を表4に示す。
これらの表に示す通り、比較例2では、沈殿槽において、pHが高いため炭酸カルシウム生成量が多く、水酸化カルシウム添加量が増えた。また、回収リン酸アパタイトの純度が10%低下した。
【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のリン酸含有水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】比較例1で用いた装置の系統図である。
【図3】リン酸アパタイトの溶解度とpHとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
1 反応槽
2 沈殿槽
3 濾過器
4 脱Ca塔
5 生物脱窒槽
6 濾過器
7 2床式イオン交換装置
7A カチオン交換塔
7B アニオン交換塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸と硝酸及び有機酸を含有するリン酸含有水の処理方法であって、
該リン酸含有水にカルシウム化合物を添加すると共にpH6.5以下に調整する反応工程と、
該反応工程で析出したリン酸アパタイトを固液分離する固液分離工程と、
該固液分離工程で固液分離した分離水からカルシウムを除去する脱カルシウム工程と、
該脱カルシウム工程の処理水を生物脱窒処理する生物脱窒工程とを含むことを特徴とするリン酸含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記生物脱窒工程の処理水を脱塩処理する脱塩工程を含むことを特徴とするリン酸含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記固液分離工程で分離した汚泥の一部を前記反応工程に返送する汚泥返送工程を有することを特徴とするリン酸含有水の処理方法。
【請求項4】
リン酸と硝酸及び有機酸を含有するリン酸含有水の処理装置であって、
該リン酸含有水にカルシウム化合物を添加すると共にpH6.5以下に調整する反応手段と、
該反応手段で析出したリン酸アパタイトを固液分離する固液分離手段と、
該固液分離手段で固液分離した分離水からカルシウムを除去する脱カルシウム手段と、
該脱カルシウム手段の処理水を生物脱窒処理する生物脱窒手段とを含むことを特徴とするリン酸含有水の処理装置。
【請求項5】
請求項4において、前記生物脱窒手段の処理水を脱塩処理する脱塩手段を含むことを特徴とするリン酸含有水の処理装置。
【請求項6】
請求項4又は5において、前記固液分離手段で分離した汚泥の一部を前記反応手段に返送する汚泥返送手段を有することを特徴とするリン酸含有水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−17631(P2010−17631A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179148(P2008−179148)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】