説明

ルテニウムの回収方法

【課題】高Pb含有Ru原料から、高収率で低Pb濃度の回収Ruを得ることができなかった。
【解決手段】ルテニウム含有物を、アルカリとともに加熱し、アルカリ熔融液とするアルカリ熔融工程と、該アルカリ熔融液を冷却してアルカリ熔融塊とし、水を加えて浸出液とした後、固液分離によりルテニウム溶解液とする湿式浸出工程と、浸出液に酸化剤を添加し、前記鉛を酸化させる酸化剤添加工程と、該ルテニウム溶解液中に、還元剤を、酸化還元電位が50〜120mVの範囲になるまで添加し、固液分離により不純物を除去する湿式部分還元工程と、該不純物を除去したルテニウム溶解液に、さらに還元剤を、酸化還元電位が30〜−300mVの範囲になるまで添加し、水酸化ルテニウムを生成させる湿式還元工程と、該水酸化ルテニウムを、還元性雰囲気中で加熱することにより金属ルテニウムとする加熱還元工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウムの回収方法に係り、更に詳細には、従来、低減することが難しいとされた不純物金属元素、特に鉛を高濃度で含有するルテニウム含有物から鉛濃度を十分低減したルテニウムを効率よく回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウムは、その電気的および電磁的特性の面から、電子工業分野において近年、使用量が増大している。特に、パソコンの高容量ハードディスクの薄膜、自動車用ハイブリッドの集積回路およびプラズマディスプレイパネルの電極などに使用されている。また、高い触媒活性を有するため、燃料電池等の触媒化学分野にも使用されている。
【0003】
近年の需要の高まりから、ルテニウムの価格が高騰している一方、市場へのルテニウムの産出元は南アフリカが9割以上を占めており、資源の偏在からも、ルテニウムのリサイクル技術の開発が求められている。
【0004】
銅製錬に代表される非鉄製錬工程において、副産物として金、白金族、銀およびルテニウムなどを含んだ残渣が発生する。かような副産物のうち、金、白金族および銀は、精製工程で回収されている。一方、ルテニウムは、銀精製の酸化工程でスラグ側へ移行し、大部分は次のセレン、テルル回収工程で残渣中に残留して系外へ排出、あるいは銅製錬の初期工程に戻されており、既存の銅、銀および白金族精製工程中で回収できていないのが現状である。
【0005】
従来から、ルテニウム含有物からルテニウムを回収する技術としては、次のような方法が知られている。
【0006】
特許文献1には、ルテニウム含有物を塩素ガスによって、ルテニウムの塩化物として抽出する方法が開示されているが、ルテニウムの分離効率を上げるために、還元剤として添加するカーボンを流動状態に保ちながら捕集剤による捕集効率を維持する必要があるため、ガス流量制御が難しいという問題があった。また、塩素ガスを使用することによって、安全対策および専用炉が必要であり、設備コストが高いという問題もあった。さらには回収品の純度を高める方法が示されておらず、リサイクル方法としては不十分であった。
【0007】
特許文献2には、ルテニウム含有物を、還元焙焼した後、酸によって溶出する方法が開示されている。しかしながら、ルテニウム以外の元素を多く含有する複雑混合系では、ルテニウムと他元素との分離精度が悪く、他元素を完全には除去することができないため、高純度のルテニウムを得るには適用範囲が限られるという問題があった。
【0008】
特許文献3には、ルテニウム含有物を、アルカリ水酸化物と反応させてルテニウムを抽出した後、アルコール類で還元し、硝酸で精製する方法が開示されている。しかしながら、ルテニウム以外の成分との分離効率が悪く、特に不純物としてガラス成分が含まれ、このガラス中にルテニウムが分散もしくは固溶しているようなスクラップに対しては、ルテニウムを抽出するには大過剰の薬剤を使用しなければならなかった。このため、ルテニウムを経済的に回収することが困難であるという問題があった。
【0009】
上記の方法では、ルテニウム以外の元素を多く含む物質から、ルテニウムを高純度で経済的に回収する方法としては十分ではなかった。
【0010】
上記の問題を解決するものとして、発明者らは先に、アルカリ溶融工程と、湿式浸出工程と、湿式還元工程と、還元工程とを行い、ルテニウム含有物から金属ルテニウムを回収する。アルカリ溶融工程で、アルカリ融液に水酸化物や炭酸化合物を用いる。ルテニウム含有物を溶解させる際に酸化剤を加える。ルテニウム含有物を銀製又はニッケル製の容器中で溶融させる。ルテニウムの水溶液にアルカリ剤を添加してpHを調整する。ルテニウムの水溶液中にケイ酸塩を添加、撹拌する。湿式還元工程において、還元剤に水素化ホウ素化合物を含む溶液を用いる。湿式還元工程後、水酸化ルテニウムを酸性溶液中で攪拌する酸洗浄工程を行うルテニウムの回収方法を開発し、特願2007−226755号明細書(以下、先願1という)に開示した。
【0011】
この新しいルテニウムの回収方法により、ルテニウム含有物質から高い回収率の下でのルテニウムの回収が可能になった。しかし、ルテニウム原料に鉄、銅、ビスマス、マンガン、鉛といった不純物金属元素が混入している場合、これらの不純物元素の混入を阻止することが難しい問題があった。
【0012】
これを改善するために発明者らは、ルテニウム含有物を、アルカリとともに加熱し、アルカリ熔融液とするアルカリ熔融工程と、該アルカリ熔融液を冷却してアルカリ熔融塊とし、水を加えて浸出液とした後、固液分離によりルテニウム溶解液とする湿式浸出工程と、該ルテニウム溶解液中に、還元剤を、酸化還元電位が50〜120mVの範囲になるまで添加し、固液分離により不純物を除去する湿式部分還元工程と、該不純物を除去したルテニウム溶解液に、さらに還元剤を、酸化還元電位が30〜−300mVの範囲になるまで添加し、水酸化ルテニウムを生成させる湿式還元工程と、該水酸化ルテニウムを、還元性雰囲気中で加熱することにより金属ルテニウムとする加熱還元工程とを行うルテニウムの回収方法を開発し、特願2008−84253号明細書(以下、先願2という)に開示した。
【0013】
これにより、ルテニウム以外に多くの元素を含んだ低濃度ルテニウム含有物から、高純度のルテニウムを回収することが可能になった。
【特許文献1】特開平1−225730号公報
【特許文献2】特開2002−206122号公報
【特許文献3】特開2003−201526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上掲した先願2の方法では、ルテニウム含有物に高濃度の鉛(Pb)が含まれる場合には、高収率で低いPb濃度の金属ルテニウムを回収することが困難であった。
【0015】
具体例を挙げて説明すると、回収原料として、ルテニウム84%、鉛15%を含むルテニウム含有物を使用した場合には、先願2の方法を採用することで、高収率(80%)でPb濃度の低い(0.01%以下)のルテニウムを回収することができる。
【0016】
一方、回収原料として、Pb濃度が50%を超えるルテニウム含有物を用いた場合は、先願2の方法では、50%以上の収率を得る回収処理条件では、Pb濃度が0.01%以下のルテニウムを回収することができなかった。更に、収率を70%以上得る回収処理条件では、回収されるルテニウム中のPb濃度が1%以上の高濃度になってしまう問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、係る課題に鑑みてなされたものであり、鉛およびルテニウムを含むルテニウム含有物から金属ルテニウムを回収する方法であって、(1)該ルテニウム含有物を、アルカリとともに加熱し、アルカリ熔融液とするアルカリ熔融工程と、(2)該アルカリ熔融液を冷却してアルカリ熔融塊とし、水を加えて浸出液とした後、固液分離によりルテニウム溶解液とする湿式浸出工程と、(3)前記浸出液に酸化剤を添加する工程と、(4)該ルテニウム溶解液中に、還元剤を、酸化還元電位が50mV〜120mVの範囲になるまで添加し、固液分離により不純物を除去する湿式部分還元工程と、(5)該不純物を除去したルテニウム溶解液に、さらに還元剤を、酸化還元電位が30mV〜−300mVの範囲になるまで添加し、水酸化ルテニウムを生成させる湿式還元工程と、(6)該水酸化ルテニウムを、還元性雰囲気中で加熱することにより金属ルテニウムとする加熱還元工程と、を行うことにより解決するものである。
【0018】
また、前記湿式部分還元工程以前に前記鉛を沈殿させることを特徴とするものである。
【0019】
また、前記酸化剤は前記湿式部分還元工程で前記鉛と共沈する物質を含むことを特徴とするものである。
【0020】
また、前記酸化剤は前記湿式部分還元工程の終点の酸化還元電位より高い酸化還元電位で沈殿する物質を含むことを特徴とするものである。
【0021】
また、前記酸化剤が過マンガン酸ナトリウムまたは次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とするものである。
【0022】
また、前記過マンガン酸ナトリウムのマンガンは、前記ルテニウム含有物中の鉛に対するモル%比が5%〜50%であることを特徴とするものである。
【0023】
また、前記次亜塩素酸ナトリウムは前記ルテニウム含有物中の鉛に対するモル%比が3%〜30%であることを特徴とするものである。
【0024】
更に、前記加熱還元工程後、前記金属ルテニウムを酸性溶液中で攪拌する酸洗浄工程を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0025】
本実施形態によれば、高濃度の鉛とルテニウムを含有する回収原料を用いる場合であっても、低いPb濃度の金属ルテニウムを高収率で回収することができる。
【0026】
特に、アルカリ溶融工程後で湿式部分還元工程前の浸出液に酸化剤を添加し、液の電位を上昇させることにより、鉛の一部をPbOとして沈殿させることができる。湿式部分還元工程の終点電位を上昇させれば鉛は沈殿、除去することができるがルテニウムの収率が低下する。しかし本実施形態によれば、湿式部分還元工程の終点電位を下げずに、鉛をルテニウムと共沈させ、溶液中のPb濃度を低減できる。
【0027】
また、湿式部分還元工程終点の酸化還元電位より十分高い酸化還元電位で沈殿する物質(元素)を含む酸化剤を添加することにより、湿式部分還元工程のpH領域で沈殿させることができる。従って、当該元素自体も沈殿するため溶液に残らず、回収されるルテニウムの純度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の代表的な実施形態を、図1に示す一連の工程に従って、具体的に説明する。
【0029】
1.アルカリ熔融工程
ルテニウム(Ru)は、一般的に使用される塩酸、硝酸、フッ酸、王水などの酸性液に不溶であるが、高温のアルカリ中には速やかに溶解する性質がある。この性質を利用すると、多くの元素を含むルテニウム含有物からルテニウムを抽出できる。
【0030】
本実施形態のルテニウム含有物は、ルテニウム、鉛(Pb)、及びその他の金属不純物を含んだものである。
【0031】
このアルカリを使用する方法は、ルテニウム含有物を、塩素ガスで塩素化合物としてルテニウムを溶解する方法と比べて、より低コストで安全性の高い方法である。
【0032】
アルカリ熔融工程において、ルテニウム含有物をアルカリとともに加熱して融解し、ルテニウムを含有したアルカリ融液(以下、ルテニウム融液と称する)を得る。ルテニウム融液は300〜1000℃とすることが好ましい。より好ましくは600〜800℃の範囲である。これは、温度が低いと反応速度が低下することがあり、温度が高いと容器の耐久性が低下することがあるためである。
【0033】
アルカリとしては、例えば、水酸化物、炭酸化物のいずれか一方又は双方を使用できる。好ましくは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどである。この中で、特に好ましいのはアルカリ度の高い水酸化カリウムである。
【0034】
なお、アルカリとして水酸化カリウムを用いたときの化学反応式は、次のとおりである。
2KOH + RuO + 1/2O = KRuO + H
【0035】
なお、対象とするルテニウム含有物が金属ルテニウムを含む場合は、アルカリ熔融時に、酸化剤を添加することがよい。このときは、金属ルテニウムを酸化剤によって酸化ルテニウム(IV)とし、アルカリ熔融を速やかに進行させうる。
【0036】
酸化剤としては、例えば、硝酸カリウムや過酸化ナトリウムが好適である。特に好ましいのは、酸化力が強い硝酸カリウムである。
【0037】
アルカリ熔融時に用いる容器としては、銀製又はニッケル製の容器が好適である。これは、高温のアルカリ融液に対する耐久性に優れ、回収するルテニウムの品質に悪影響を与えないからである。
【0038】
2.湿式浸出工程
アルカリ熔融したルテニウム融液は、冷却して固化させアルカリ熔融塊とした後、水を加えて浸出液とする。浸出液中で、ルテニウムは、RuO2−の形態で存在する。この際、溶解しなかった不純物は固液分離により除去してルテニウム溶解液を得る。固液分離する際は、例えば、ガラス製のフィルターを使用できる。これはアルカリに対する耐久性に優れるためである。
【0039】
なお、固液分離は複数回行っても良く、また、ろ過助剤を使用してもよい。好適なろ過助剤としては、活性炭がある。
【0040】
固液分離の浸出残渣にはアルカリに融解しない不純物が含まれ、浸出液にはルテニウムおよび鉛(HPbOとして)が存在する。また、浸出液には原料によりアルカリに融解する不純物があれば、これらも含まれる。
【0041】
3.酸化剤添加工程
後の(4)の湿式部分還元工程以前にルテニウム含有物中の鉛を沈殿させるため、固液分離した液(浸出液)に酸化剤を添加する。
【0042】
従来の方法(先願2)では、回収原料中の鉛の含有率が多い場合、回収されるルテニウムに含まれる鉛の割合が多くなる点が問題であった。そこで発明者らはこれについて以下のように検討した。
【0043】
まず、重金属として鉛のみ含有する溶液(浸出液)を、先願2の部分還元工程終了時のpH、酸化還元電位に調整してもPbはほとんど沈殿しなかった。このことから、先願2の部分還元で、鉛が除去されているのは、鉛がルテニウム化合物と共沈して沈殿物となり、浸出液から除去されると推定した。
【0044】
次に、原料の溶解した浸出液のpH、酸化還元電位が同じ場合でも、使用する原料のルテニウムに対する鉛の質量%比率(以下Pb/Ru比)により、鉛とルテニウムを含む浸出液からの沈殿物の除去率が異なることが解った。
【0045】
具体的には、Pb/Ru比が高い場合、鉛の除去率が低下する。この原因は、pH、酸化還元電位が同じ場合、原料中のルテニウム含量が少ないため、沈殿するルテニウム化合物の量が少なくなると同時に、除去するべきルテニウムが多いため、共沈するルテニウム化合物の量が不十分になり、沈殿せずに溶液中に残存する鉛が増加したものと推定した。
【0046】
ここで、湿式部分還元工程で還元剤の添加を停止する酸化還元電位(終点電位)を基準電極(例えば銀/塩化銀電極)に対して低くすることで鉛を除去することはできる。しかし、この方法ではルテニウム収率が低下する(後述する)ため、好ましくない。
【0047】
そこで、湿式部分還元工程以前に工程を追加することにより鉛の除去率を向上することとした。すなわち、酸化剤添加工程を追加することで、(Pb/Ru比)が高い原料を使用した場合でも、(4)の湿式部分還元工程で終点酸化還元電位を下げることなく、鉛の除去率を向上できると考えた。
【0048】
具体的には、以下の通りである。上記の如く、湿式部分還元工程前のアルカリ溶融工程後の浸出液の状態では、鉛は、主に、HPbOイオンとして存在していると考えられる。そこで、それ以前に酸化剤を添加し、浸出液を酸化状態とすることにより浸出液の電位(酸化還元電位)を上昇させ、鉛の一部をPbOとして沈殿させる。これにより、湿式部分還元工程前の液中に溶解するPb濃度を低減することが可能と考えた。
【0049】
浸出液の電位を上昇させ、PbOを沈殿させられる酸化剤としては、過マンガン酸カリウム(KMnO)または次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)などが好適であり、本実施形態では、過マンガン酸カリウムを採用した。その理由は以下の通りである。
【0050】
第1に、過マンガン酸カリウム(KMnO)が抽出液中に溶解するとマンガン(Mn)はMnOイオンとして乖離する。また、強アルカリ条件であると、以下の反応が起きる。
MnO + e− = MnO2−
【0051】
この結果マンガンは還元される。他方で系中は電子を放出しているため、抽出液は酸化状態になり、マンガンは主にMnO2−として存在する。
【0052】
従って、以下の反応により、鉛を固化し、沈殿させることができる。
HPbO=PbO + H + 3e−
【0053】
第2に、過マンガン酸カリウムであれば、本工程において未反応のHPbOが存在した場合に、(4)の湿式部分還元工程で共沈させることで、鉛を除去することができる。つまり、マンガンがルテニウムと鉛の共沈に寄与するのであるが、これについては湿式部分還元工程で詳細に説明する。
【0054】
過マンガン酸カリウムは酸化剤ではあるが、上記の如く湿式部分還元工程において共沈効果による鉛の捕集も可能となる。つまり、過マンガン酸カリウムを酸化剤に用いる場合には、その添加量が、抽出液中の鉛が十分に酸化される量に満たなくてもよい。
【0055】
また、酸化剤は、抽出液の電位を上昇させて鉛を固化させる物質であれば、過マンガン酸カリウムに限らない。酸化剤が、(4)の湿式部分還元工程で鉛の共沈に寄与する物質(元素)を含むものであればより好適であるが、そのような効果の無い酸化剤でもよい。
【0056】
つまり共沈効果はなくても、鉛の酸化を進行させ、溶液中の鉛の一部をPbOとして沈殿させる効果が得られる物質であればよく、このような酸化剤の他の例として、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)がある。
【0057】
次亜塩素酸ナトリウムの場合、以下の反応により塩素酸イオンが還元される。
ClO +HO + 2e− =Cl+ 2OH
【0058】
そして、過マンガン酸カリウムの場合と同様に以下の反応で鉛が酸化され、沈殿する。
HPbO =PbO + H + 3e−
【0059】
以上のことから、本実施形態では、湿式部分還元工程前に酸化剤添加工程を追加し、酸化剤として過マンガン酸カリウムを添加した。また、これにより鉛の除去に十分な効果が得られることを確認したが、その結果については、後の湿式部分還元工程で説明する。
【0060】
4.湿式部分還元工程
酸化剤添加後の浸出液に対して還元剤を添加してルテニウムを水酸化ルテニウム(Ru(OH))として沈殿させる。本工程により、還元反応初期の不純物の多くが水酸化ルテニウム(Ru(OH))と共に沈殿(共沈)する。
【0061】
すなわち、鉄、ビスマス、亜鉛、クロム、コバルト、鉛、銅、マンガン等の不純物が多く沈殿する酸化還元電位まで還元剤を添加し、水酸化ルテニウムと共に沈殿(共沈)させ、還元剤添加後の浸出液をろ過してその沈殿物(共沈物)を不純物として除去する工程が、この湿式部分還元工程である。
【0062】
ここで、還元剤の添加を停止する酸化還元電位(酸化還元電位の終点電位)が、銀/塩化銀電極に対して50mV未満では、水酸化ルテニウムの沈殿量が過剰となり、ルテニウムの回収率が低下する。一方、酸化還元電位が、銀/塩化銀電極に対して120mVを超えると、不純物の沈殿が不十分で、不純物を効果的に除去することができない。従って、酸化還元電位は、銀/塩化銀電極に対して50mV〜120mVの範囲とする。好ましくは、60mV〜120mVの範囲である。より好ましくは、65mV〜90mVの範囲である。これは、回収されるルテニウムの純度と回収率のバランスが良いためである。
【0063】
酸化剤添加後の抽出液に還元剤を添加する際は、当該抽出液を攪拌することが好ましい。
【0064】
添加剤の添加速度については特に制限は無いが、添加速度が速すぎると酸化還元電位の制御が困難となるので、湿式部分還元工程での還元剤添加速度は、酸化還元電位を制御できる速度とすればよい。
【0065】
なお、還元剤としては特に制限はないが、水素化ホウ素化合物がとりわけ有利に適合する。水素化ホウ素化合物は、安価なだけでなく、ルテニウムの品質に影響を及ぼさず、また処理後の排水処理が比較的容易であるためである。特に好ましくは、より安全な水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合溶液を使用できる。
【0066】
なお、水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合溶液を用いた場合におけるルテニウムの化学反応式は、次のとおりである。
8KRuO+3NaBH+14HO→8Ru(OH)+3NaBO+16KOH
【0067】
更に、本実施形態では、(3)の酸化剤添加工程の酸化剤として、過マンガン酸カリウムが添加されている。過マンガン酸カリウム中のマンガン(Mn)は、本工程(湿式部分還元工程)のpH領域で、沈殿(固体)となる酸化還元電位が、湿式部分還元工程の終点電位より十分高い物質である。酸化剤に含まれる物質の沈殿する電位が高ければ、本工程において鉛との共沈に寄与できる。すなわち、マンガンは、酸化剤添加後の抽出液中の未反応の(溶存する)HPbOとの共沈し、湿式部分還元工程での鉛除去能力を向上させることができる。
【0068】
つまり、酸化剤として過マンガン酸カリウムを用いることで、まず湿式部分還元工程以前で鉛を酸化し、引き続き湿式部分還元工程で鉛をルテニウムと共に沈殿(共沈)させることにより、抽出液ら鉛を除去できる。しかも、マンガンは高い電位(200mV程度)で沈殿となることからマンガン自体も湿式部分還元工程終了後は、溶液に残ることはない。
【0069】
従って、既述の如く、過マンガン酸カリウムの添加量が、鉛を十分に酸化しない添加量であっても、共沈効果による鉛の捕集が可能となる。
【0070】
(3)の酸化剤添加工程での過マンガン酸カリウム添加の効果を確認するため、過マンガン酸カリウム添加量と、湿式部分還元工程の終点電位を変化させて湿式部分還元工程まで実施した。湿式部分還元工程後の沈殿物を回収し、鉛、マンガン含有量をそれぞれ測定することにより、湿式部分還元工程での鉛、マンガンの回収率を測定した。
【0071】
まず部分酸化還元電位の終点電位を100mVとし、過マンガン酸カリウムの添加量はルテニウムに対するマンガンの質量%比(以下Mn/Ru質量比)で0%、10%、20%、30%について実施した。また湿式部分酸化還元電位の終点電位を70mVとし、をMn/Ru質量比が10%となる過マンガン酸カリウムの添加量の場合について実施した。これ以外の条件は、下記の実施例1と同様である。
【0072】
これにより、過マンガン酸カリウムを添加しない場合(Mn/Ru質量比:0%)の鉛回収率は、55.1%であった。これに対し、Mn/Ru質量比が10%では鉛回収率が92.8%、Mn/Ru質量比が20%以上では鉛回収率が99%を超えることがわかった。
【0073】
尚、湿式部分還元工程の終点電位を下げる(70mV)と、過マンガン酸カリウムの添加量(Mn/Ru質量比)が10%でも99.9%以上の鉛回収率を実現できた。しかし、終点電位が低いと、ルテニウムの収率も低減してしまう。
【0074】
しかし、過マンガン酸カリウムを添加することにより、部分還元電位の終点電位としては比較的高く、鉛が残存しやすい条件(終点電位:100mV)であっても、鉛回収率は90%以上となり、過マンガン酸カリウムの添加効果が確認できた。
【0075】
5.湿式還元工程
還元剤添加後の浸出液をろ過してその沈殿物(共沈物)を不純物として除去した溶液(以下、ルテニウム含有溶液と称する)に、さらに還元剤を添加してルテニウムを水酸化ルテニウムとして沈殿させる。還元剤の添加量は、ルテニウム含有溶液の酸化還元電位によって制御する。還元剤の添加を停止する酸化還元電位が、銀/塩化銀電極に対して−300mV未満では、アルミニウムやシリコン等の不純物が沈殿し、水酸化ルテニウム(Ru(OH)の純度が低下する。また、ルテニウムの回収率が向上せず不経済である。一方、酸化還元電位が銀/塩化銀電極に対して30mVを超えると、水酸化ルテニウムが十分に沈殿せず、ルテニウムの回収率が低下することがある。従って、還元剤の添加を停止する酸化還元電位は、銀/塩化銀電極に対して30mV〜−300mVの範囲とする。好ましくは、0〜−250mVの範囲である。より好ましくは、0〜−60mVの範囲である。これは、ルテニウムの回収率が安定し、余剰の薬剤および処理時間を必要としないからである。ルテニウム含有溶液に還元剤を添加する際は、ルテニウム含有溶液を攪拌することが好ましい。
【0076】
添加剤の添加時間については、1時間以上が好ましい。1日に1反応バッチを処理する場合には、16時間程度とすることもできる。添加速度が速すぎると電位の制御が困難となる。
【0077】
なお、還元剤の種類および水素化ホウ素ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合溶液を用いた際のルテニウムの化学反応式は、湿式部分還元工程の場合と同様である。
【0078】
還元剤の添加終了後は、1時間ほど撹拌を継続するのが好ましい。これは、未反応の水素化ホウ素ナトリウムを完全に反応させ、回収率を向上させるためである。
【0079】
ルテニウム含有溶液を固液分離する際、ろ液のpHが中性になるまで純水を繰り返し添加してろ過することができる。これにより、残留する液中に含まれる成分によって回収ルテニウムの純度が低下することを抑制できる。すなわち、ルテニウム以外の不純物は、(4)湿式部分還元工程の共沈殿物および(5)湿式還元工程の液中にほとんど含まれているため、ろ過後の殿物のルテニウム純度を高めることができる。この殿物を乾燥することにより、固体の水酸化ルテニウムが得られる。
【0080】
なお、還元して得られた水酸化ルテニウムから不純物を除去するために、水酸化ルテニウムを一定時間酸性溶液中で攪拌する酸洗浄工程を加えても良い。酸性溶液としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、王水などを、対象とする不純物によって適切に選択して使用できる。特に、亜鉛に対しては硫酸、鉛に対しては硝酸を用いることが好ましい。
【0081】
酸性溶液中で撹拌後、固液分離する際、ろ液のpHが中性になるまで純水をくりかえし添加してろ過する。これにより、残留する液中に含まれる成分によって回収ルテニウムの純度が低下することを抑制できる。
【0082】
6.加熱還元工程
次に、湿式還元工程で得られた水酸化ルテニウムを還元雰囲気の炉内に装入し加熱して、金属ルテニウムへ還元させる。還元雰囲気とする際は、水素ガスと、ルテニウムと反応しない窒素ガスやアルゴンガスとを混合して、一定流量で炉内へ通気させる。この際、還元雰囲気は、400℃〜800℃の範囲であることが望ましい。より好適には、500℃〜700℃の範囲であることがよい。
【0083】
なお、還元反応時の化学反応式は、次の通りである。
2Ru(OH)+ 3H= 2Ru + 6H
【0084】
上記の還元処理により得られた金属ルテニウムに不純物が含まれる場合は、さらに酸性溶液中で撹拌することが好ましい。用いる酸性溶液は、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、王水など、対象とする不純物によって適切に選択すればよい。特に、亜鉛に対しては硫酸、鉛に対しては硝酸を用いることが好ましい。酸性溶液中で撹拌後、固液分離する際、ろ液のpHが中性になるまで純水を繰り返し添加してろ過することがよい。
【0085】
かくして、ルテニウム以外の多くの元素を含むルテニウム含有物から、高純度のルテニウムを回収することができる。
【0086】
以下、本発明を実施例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、ルテニウムおよび不純物の濃度は、特に記載がない限り、次の装置を用いて測定した。
(1)投入原料(以下、試料という):蛍光X線装置(ポニー工業社製、ポータブル蛍光X線分析計 Model XT−260S)
(2)投入原料以外:誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SII社製、SPS5100)
誘導結合プラズマ発光分光分析装置によるルテニウム濃度は、検出限界以上の濃度で検出された全元素の濃度の合計値を100質量%から差し引くことにより求めた。
【実施例1】
【0087】
試料としては、蛍光X線測定結果より、回収原料中のルテニウム含有率が45質量%、不純物として、鉛含有率が54質量%、およびその他の元素の成分組成からなる固体試料を用いた。
【0088】
この試料:2000gに対して、アルカリとして、質量比で5倍の水酸化カリウムと、酸化剤として、質量比で0.8倍の硝酸カリウムを加えて坩堝に封入し、固定炉で昇温した。坩堝はニッケル製のものを用いた。固定炉の温度は700℃とし、3時間保持した。その後、ルテニウム融液を炉内で自然放冷した(アルカリ熔融工程)。
【0089】
坩堝を常温まで冷却してアルカリ熔融塊とし、これに水を添加して坩堝内に残留する固体を浸出した。得られた浸出液をアルカリ不溶成分を除去するためにガラス性フィルターで吸引ろ過し、固液分離した。固体として分離した浸出残渣にはルテニウムが2質量%含まれていた。
【0090】
固液分離した浸出液に、過マンガン酸カリウム(KMnO)を添加し、浸出液中に存在するHPbOの酸化を行った。尚実施例では、過マンガン酸カリウム中のMnのPbに対するモル比によって過マンガン酸カリウムの添加量を変化させた。例えば実施例1では、添加する過マンガン酸カリウム中のMnのPbに対するモル比が17%となる量を添加した(酸化剤添加工程)。以下、添加する過マンガン酸カリウム中のマンガンのMnのPbに対するモル比を、Mn添加量(対Pbモル比)と称する。
【0091】
酸化剤添加後の浸出液に、12%濃度の水素化ホウ素ナトリウムと、40%濃度の水酸化ナトリウムの混合溶液を純水で10倍に希釈した溶液を、酸化還元電位が70mVになるまで撹拌機を用いて撹拌しながら添加した。(湿式部分還元工程)。
【0092】
添加終了後、生成した固体と液体を、捕集粒子径1μmのろ紙を用いて吸引ろ過して固液分離した。得られた固体中には、ルテニウムの他、鉛が含まれていた。
【0093】
固液分離により得られた液体(ルテニウム含有溶液)中に再度、12%濃度の水素化ホウ素ナトリウムと、40%濃度の水酸化ナトリウムの混合溶液を純水で10倍に希釈した溶液を、酸化還元電位が−30mVになるまで撹拌機を用いて撹拌しながら添加した(湿式還元工程)。
【0094】
添加終了後、生成した固体と液体(ルテニウム含有溶液)を、捕集粒子径1μmのろ紙を用いて吸引ろ過して固液分離した。この際、ろ液のpHが中性になるまで純水をくりかえし添加してろ過し、乾燥させた。得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.95質量%以上、鉛:0.01質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。
【0095】
得られた乾燥粉末を、水素と窒素ガスを流した炉内で500℃に加熱し、Ru(OH)3を還元した(加熱還元工程)。
【0096】
加熱後冷却して得られた粉末を王水(66%硝酸水溶液と45%塩酸水溶液を容量比1:3で混合した溶液)中で加熱しながら2時間攪拌し、洗浄した。洗浄後の残渣とろ液を、ろ紙を用いて吸引ろ過して固液分離した(酸洗浄工程)。
【0097】
酸洗浄工程の固液分離後、残渣を乾燥して金属ルテニウムを回収した。最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%以上、鉛:0.005質量%以下、マンガン:0.001%以下およびその他の微量元素からなるものであった。
【0098】
つまり、回収されるルテニウム中の鉛の含有量は0.005質量%以下であった。
【0099】
また、ルテニウムの回収率(アルカリ溶融工程に投入した試料中のルテニウム質量に対する酸洗浄工程で最終的に得られた固体中のルテニウム質量の比率)は、72%であった。
【0100】
(比較例1)
実施例1と同一の試料を用いて、酸化工程を省略した以外は実施例1と同一の方法でルテニウムの回収を行った。この例は、先願2に開示の技術に相当する。
【0101】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:98.15質量%、鉛:1.84質量%、マンガン:0.001%以下およびその他の微量元素からなるものであった。
【0102】
実施例1と比較例1とを対比すれば明らかなように、本実施形態によれば、先願2の技術を用いた場合と比較して、回収された固体中に含まれる鉛の量を、約350分の1以下まで低減することができた。
【実施例2】
【0103】
実施例1と同一の材料を用いて、湿式部分還元工程での終点電位を80mVとした以外は、実施例1と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0104】
また、酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.92質量%、鉛:0.07質量%、マンガン0.001質量%およびその他の微量元素からなるものであった。
【0105】
なお、ルテニウムの回収率は、85%であった。
【0106】
(比較例2)
実施例2と同一の試料を用いて、酸化工程を省略した以外は実施例2と同一の方法でルテニウムの回収を行った。この例は、先願2に開示の技術に相当する。
【0107】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:85.6質量%、鉛:14.34質量%、マンガン:0.001質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。
【0108】
実施例2と比較例2とを対比すれば明らかなように、本実施形態によれば、先願2の技術を用いた場合よりも、不純物金属元素である鉛を1/200以下まで低減することができた。
【実施例3】
【0109】
実施例1と同一の試料を用いて、湿式部分還元工程での終点電位を60mVとした以外は、実施例1と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0110】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下、マンガン:0.001質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。尚、マンガンの回収量は以下同様であるので、省略する。
【0111】
またルテニウムの回収率は、57%であった。
【0112】
(比較例3)
実施例3と同一の試料を用いて、酸化工程を省略した以外は実施例3と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.85質量%、鉛:0.12質量%およびその他の微量元素からなるものであった。またルテニウムの回収率は、58%であった。
【実施例4】
【0113】
実施例1と同一の試料を用いて、酸化剤添加工程におけるMn添加量(対Pbモル比)を8%とした以外は、実施例1と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0114】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.97質量%、鉛:0.02質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は75%であった。
【0115】
(比較例4)
実施例4と同一の試料を用いて、酸化工程を省略し、湿式部分還元工程での終点電位を50mVとした以外は、実施例4と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%およびその他の微量元素からなるものであった。この場合、回収されるルテニウム中の鉛の含有量は微量なものであったが、ルテニウムの回収率も32%に低減した。
【実施例5】
【0116】
実施例1と同一の試料を用いて、酸化剤添加工程におけるMn添加量(対Pbモル比)が5%とした以外は、実施例1と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0117】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.9質量%、鉛:0.08質量%およびその他の微量元素からなるものであった。またルテニウムの回収率は75%であった。
【実施例6】
【0118】
実施例1と同一の試料を用いて、酸化工程におけるMn添加量(対Pbモル比)が34%とした以外は、実施例1と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0119】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は、72%であった。
【実施例7】
【0120】
試料としては、蛍光X線測定結果より、回収原料中のルテニウム含有率が30質量%、不純物として、鉛含有率が69質量%、およびその他の元素の成分組成からなる固体試料を用いた。
【0121】
この試料を用いて、酸化工程におけるMn添加量(対Pbモル比)が18%で、湿式部分還元工程での終点電位を70mVとした以外は、実施例1と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0122】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、なお、ルテニウムの回収率は、70%であった。
【0123】
(比較例5)
実施例7と同一の試料を用いて、酸化工程を省略した以外は実施例7と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:82.6質量%、鉛:17.21質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は76%であった。
【実施例8】
【0124】
実施例7と同一の試料を用いて、酸化工程におけるMn添加量(対Pbモル比)を5%とした以外は、実施例7と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0125】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.89質量%、鉛:0.1質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は、71%であった。
【実施例9】
【0126】
実施例7と同一の試料を用いて、酸化工程におけるMn添加量(対Pbモル比)を9%とした以外は、実施例7と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0127】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.95質量%、鉛:0.04質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は、71%であった。
【実施例10】
【0128】
実施例7と同一の試料を用いて、酸化工程におけるMn添加量(対Pbモル比)を27%とした以外は、実施例7と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0129】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下、およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は、69%であった。
【0130】
(比較例6) 実施例7と同一の試料を用いて、酸化工程を省略し、湿式部分還元工程での終点電位を80mVとした以外は、実施例7と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:61質量%、鉛:38.25質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は88%であった。
【0131】
(比較例7)
実施例7と同一の試料を用いて、酸化工程を省略し、湿式部分還元工程での終点電位を60mVとした以外は、実施例7と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.1質量%、鉛:1.89質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は58%であった。
【0132】
(比較例8)
実施例7と同一の試料を用いて、酸化工程を省略し、湿式部分還元工程での終点電位を50mVとした以外は、実施例7と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.8質量%、鉛:0.18質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は43%であった。
【0133】
比較例5から比較例8より、酸化剤を添加しない場合には、湿式部分還元電位の終点電位を変化させても、高いルテニウム回収率が得られないことがわかる。
【実施例11】
【0134】
試料としては、蛍光X線測定結果より、回収原料中のルテニウム含有率が54質量%、不純物として、鉛含有率が45質量%、およびその他の元素の成分組成からなる固体試料を用いた。
【0135】
この試料を用いて、酸化工程における酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)を0.390mol添加し、湿式部分還元工程での終点電位を60mVとした以外は、実施例1と同様の方法でルテニウムの回収を行った。
【0136】
酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、なお、ルテニウムの回収率は、61%であった。
【0137】
(参考例)
実施例11と同一の試料を用いて、湿式部分還元工程での終点電位を70mVとした以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.87質量%、鉛:0.12質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は72%であった。この場合、酸化剤添加しない実施例と比較してルテニウム回収率が高い効果はあるが、鉛の含有量が0.1%を超える結果になった。
【実施例12】
【0138】
実施例11と同一の試料を用いて、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の添加量を0.293molとした以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.97質量%、鉛:0.02質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は76%であった。
【実施例13】
【0139】
実施例11と同一の試料を用いて、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の添加量を0.195molとした以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.91質量%、鉛:0.08質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は75%であった。
【実施例14】
【0140】
実施例11と同一の試料を用いて、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の添加量を0.585molとした以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は60%であった。
【実施例15】
【0141】
試料としては、蛍光X線測定結果より、回収原料中のルテニウム含有率が69質量%、不純物として、鉛含有率が30質量%およびその他の元素の成分組成からなる固体試料を用いた。
【0142】
次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の添加量を0.585molとした以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は59%であった。
【0143】
(参考例)
実施例15と同一の試料を用いて、湿式部分還元工程での終点電位を70mVとした以外は、実施例15と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.74質量%、鉛:0.25質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は72%であった。
【実施例16】
【0144】
実施例15と同一の試料を用いた以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.91質量%、鉛:0.07質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は75%であった。
【実施例17】
【0145】
実施例15と同一の試料を用いて、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の添加量を0.488molとした以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.008質量%およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は72%であった。
【実施例18】
【0146】
実施例15と同一の試料を用いて、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)の添加量を0.780molとした以外は、実施例11と同一の方法でルテニウムの回収を行った。酸洗浄工程で最終的に得られた固体の成分組成は、ルテニウム:99.99質量%、鉛:0.005質量%以下およびその他の微量元素からなるものであった。また、ルテニウムの回収率は60%であった。

【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明に係るルテニウムの分離回収工程を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛およびルテニウムを含むルテニウム含有物から金属ルテニウムを回収する方法であって、
(1)該ルテニウム含有物を、アルカリとともに加熱し、アルカリ熔融液とするアルカリ熔融工程と、
(2)該アルカリ熔融液を冷却してアルカリ熔融塊とし、水を加えて浸出液とした後、固液分離によりルテニウム溶解液とする湿式浸出工程と、
(3)前記浸出液に酸化剤を添加する工程と、
(4)該ルテニウム溶解液中に、還元剤を、酸化還元電位が50mV〜120mVの範囲になるまで添加し、固液分離により不純物を除去する湿式部分還元工程と、
(5)該不純物を除去したルテニウム溶解液に、さらに還元剤を、酸化還元電位が30mV〜−300mVの範囲になるまで添加し、水酸化ルテニウムを生成させる湿式還元工程と、
(6)該水酸化ルテニウムを、還元性雰囲気中で加熱することにより金属ルテニウムとする加熱還元工程と、
を行うことを特徴とするルテニウムの回収方法。
【請求項2】
前記湿式部分還元工程以前に前記鉛を沈殿させることを特徴とする請求項1に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項3】
前記酸化剤は前記湿式部分還元工程で前記鉛と共沈する物質を含むことを特徴とする請求項2に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項4】
前記酸化剤は前記湿式部分還元工程の終点の酸化還元電位より高い酸化還元電位で沈殿する物質を含むことを特徴とする請求項3に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項5】
前記酸化剤が過マンガン酸ナトリウムまたは次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする請求項4に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項6】
前記過マンガン酸ナトリウムのマンガンは、前記ルテニウム含有物中の鉛に対するモル%比が5%〜50%であることを特徴とする請求項5に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項7】
前記次亜塩素酸ナトリウムは前記ルテニウム含有物中の鉛に対するモル%比が3%〜30%であることを特徴とする請求項5に記載のルテニウムの回収方法。
【請求項8】
前記加熱還元工程後、前記金属ルテニウムを酸性溶液中で攪拌する酸洗浄工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載のルテニウムの回収方法。

【図1】
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