説明

ルミネセンス用途のための重水素化化合物

本発明は、エレクトロルミネッセンス用途に有用な重水素化化合物に関する。本発明は、活性層がそのような重水素化化合物を含む電子デバイスにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本出願は、米国特許法第119(e)条に基づき2008年12月22日に出願された米国仮特許出願第61/139,834号明細書、2009年5月7日に出願された米国仮特許出願第61/176,141号明細書の優先権を主張し、これら両方の文献の記載内容全体が参照として本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、少なくとも部分的に重水素化された電気活性化合物に関する。本発明はまた、少なくとも1つの活性層がこのような化合物を含む電子デバイスにも関する。
【背景技術】
【0003】
ディスプレイを構成する発光ダイオードなどの光を発する有機電子デバイスは、多くの異なる種類の電子装置中に存在する。すべてのこのようなデバイスにおいては、2つの電気接触層の間に有機活性層が挟まれている。少なくとも1つの電気接触層は、光が電気接触層を通過できるように光透過性である。電気接触層に電気を印加すると、有機光活性層は、光透過性電気接触層を透過する光を発する。
【0004】
発光ダイオード中の活性成分として有機エレクトロルミネッセンス化合物が使用されることが知られている。アントラセン、チアジアゾール誘導体、およびクマリン誘導体などの単純な有機分子はエレクトロルミネッセンスを示すことが知られている。半導体共役ポリマーもエレクトロルミネッセンス成分として使用されており、たとえば、米国特許第5,247,190号明細書、米国特許第5,408,109号明細書、および欧州特許出願公開第443 861号明細書に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、エレクトロルミネッセンス化合物は引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ビス(ジアリールアミノ)アントラセンおよびビス(ジアリールアミノ)クリセンからなる群から選択される化合物であって、少なくとも1つのDを有する化合物を提供する。
【0007】
上記化合物を含む活性層を含む電子デバイスも提供する。
【0008】
式Iまたは式II:
【0009】
【化1】

【0010】
(式中:
1は、出現するごとに同種または異種であって、D、アルキル、アルコキシ、およびアリールからなる群から選択され、隣接するR1基は結合して5または6員の脂肪族環を形成してもよく、
Ar1からAr4は、同種または異種であって、アリール基からなる群から選択され、
aは、出現するごとに同種または異種であって、0〜4の整数であり、
bは、出現するごとに同種または異種であって、0〜5の整数であり、
少なくとも1つのDが存在する)
で表される化合物も提供する。
【0011】
式Iまたは式IIの化合物を含む活性層を含む電子デバイスも提供する。
【0012】
本明細書において提示される概念の理解をすすめるために、添付の図面において実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有機電子デバイスの一例の図である。
【0014】
当業者であれば理解しているように、図面中の物体は、平易かつ明快にするために示されており、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。たとえば、実施形態を理解しやすいようにするために、図面中の一部の物体の寸法が他の物体よりも誇張されている場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0015】
多数の態様および実施形態が本明細書において開示されるが、これらは例示的で非限定的なものである。本明細書を読めば、当業者には、本発明の範囲から逸脱しない他の態様および実施形態が可能であることが理解されよう。
【0016】
任意の1つ以上の実施形態の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかとなるであろう。この詳細な説明では、最初に、用語の定義および説明を扱い、続いて、電気活性化合物、電子デバイス、そして最後に実施例を扱う。
【0017】
1.用語の定義および説明
以下に説明する実施形態の詳細を扱う前に、一部の用語について定義または説明を行う。
【0018】
本明細書において使用される場合、用語「脂肪族環」は、非局在化π電子を有さない環状基を意味することを意図している。ある実施形態においては、脂肪族環は不飽和を有さない。ある実施形態においては、この環は1つの二重結合または三重結合を有する。
【0019】
用語「アルコキシ」は、基RO−(式中、Rはアルキルである)を意味する。
【0020】
用語「アルキル」は、1つの結合点を有する脂肪族炭化水素から誘導される基を意味することを意図しており、線状、分枝、または環状の基を含んでいる。この用語は、ヘテロアルキルおよび重水素化アルキルを含むことを意図している。この用語は、置換基および非置換基を含むことを意図している。用語「炭化水素アルキル」は、ヘテロ原子を有さないアルキル基を意味する。用語「重水素化アルキル」は、少なくとも1つの利用可能なHがDで置換された炭化水素アルキルである。ある実施形態においては、アルキル基は1〜20個の炭素原子を有する。
【0021】
用語「アリール」は、1つの結合点を有する芳香族炭化水素から誘導される基を意味することを意図している。用語「芳香族化合物」は、非局在化π電子を有する少なくとも1つの不飽和環状基を含む有機化合物を意味することを意図している。この用語は、ヘテロアリールおよび重水素化アリールを含むことを意図している。用語「炭化水素アリール」は、環中にヘテロ原子を有さない芳香族化合物を意味することを意図している。アリールという用語は、単一の環を有する基および単結合によって結合したりあるいは互いに縮合したりしうるものであってよい複数の環を有する基を含んでいる。用語「重水素化アリール」は、アリールに直接結合した少なくとも1つの利用可能なH原子がDで置換されたアリール基を意味する。用語「アリーレン」は、2つの結合点を有する芳香族炭化水素から誘導される基を意味することを意図している。アリール部分の任意の好適な環位置は、画定された化学構造に共有結合することができる。ある実施形態においては、炭化水素アリール基は3〜60個の炭素原子を有し、ある実施形態においては6〜30個の炭素原子を有する。ヘテロアリール基は3〜50個の炭素原子を有することができ、ある実施形態においては、3〜30個の炭素原子を有することができる。
【0022】
用語「分枝アルキル」は、少なくとも1つの第2級炭素または第3級炭素を有するアルキル基を意味する。用語「第2級アルキル」は、第2級炭素原子を有する分枝アルキル基を意味する。用語「第3級アルキル」は、第3級炭素原子を有する分枝アルキル基を意味する。ある実施形態においては、分枝アルキル基は、第2級炭素または第3級炭素を介して結合する。
【0023】
層、材料、部材、または構造に関して言及される場合、用語「電荷輸送」は、そのような層、材料、部材、または構造が、比較的効率的かつ少ない電荷損失で、そのような層、材料、部材、または構造の厚さを通過するそのような電荷の移動を促進することを意味することを意図している。正孔輸送材料は正電荷を促進し、電子輸送材料は負電荷を促進する。発光材料も、ある程度の電荷輸送特性を有する場合があるが、用語「電荷、正孔、または電子輸送層、材料、部材、または構造」は、主要な機能が発光である層、材料、部材、または構造を含むことを意図していない。
【0024】
用語「化合物」は、原子からなる分子から構成される非帯電物質であって、これらの原子が、物理的手段によって分離することができない物質を意味することを意図している。デバイス中の層に言及するために使用される場合、語句「隣接する」は、ある層が別の層のすぐ隣にあることを必ずしも意味するものではない。他方で、語句「隣接するR基」は、化学式中で互いに隣同士であるR基(すなわち、1つの結合によって連結した複数の原子上に存在する複数のR基)を意味するために使用される。
【0025】
用語「重水素化」は、少なくとも1つの利用可能なHがDで置換されていることを意味することを意図している。X%が重水素化された化合物または基は、利用可能なHのX%がDで置換されている。重水素化された化合物または基は、重水素が天然存在量の少なくとも100倍で存在する化合物または基である。
【0026】
層または材料に言及する場合の用語「電気活性」は、デバイスの動作を電子的に促進する層または材料を意味することを意図している。活性材料の例としては、電子または正孔のいずれであってもよい電荷を伝導、注入、輸送、または遮断する材料、あるいは、放射線を受けた場合に、放射線を放出したり電子−正孔対の濃度変化を示したりする材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。不活性材料の例としては、平坦化材料、絶縁材料、および環境障壁材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
接頭語「ヘテロ」は、1つ以上の炭素原子が異なる原子で置換されていることを示している。ある実施形態においては、この異なる原子はN、O、またはSである。
【0028】
用語「層」は、用語「膜」と同義的に使用され、所望の領域を覆うコーティングを意味する。この用語は大きさによって限定されることはない。この領域は、デバイス全体の大きさであってもよいし、実際の視覚的表示などの特殊機能領域の小ささ、または1つのサブピクセルの小ささであってもよい。層および膜は、気相堆積、液相堆積(連続的技術および不連続な技術)、および熱転写などの従来のあらゆる堆積技術によって形成することができる。連続堆積技術としては、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、浸漬コーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、および連続ノズルコーティングが挙げられるが、これらに限定されるものではない。不連続堆積技術としては、インクジェット印刷、グラビア印刷、およびスクリーン印刷が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
用語「有機電子デバイス」または場合により単に「電子デバイス」は、1つ以上の有機半導体層または有機半導体材料を含むデバイスを意味することを意図している。
【0030】
用語「オキシアルキル」は、1つ以上の炭素が酸素で置換されたヘテロアルキル基を意味することを意図している。この用語は、酸素を介して結合する基を含んでいる。
【0031】
用語「シリル」は、基R3Si−(式中、Rは、H、D、C1〜20アルキル、フルオロアルキル、またはアリールである)を意味する。ある実施形態においては、Rアルキル基中の1つ以上の炭素がSiで置換されている。ある実施形態においては、シリル基は、(ヘキシル)2Si(Me)CH2CH2Si(Me)2−および[CF3(CF26CH2CH22SiMe−である。
【0032】
用語「シロキサン」は、基(RO)3Si−(式中、Rは、H、D、C1〜20アルキル、またはフルオロアルキルである)を意味する。
【0033】
特に明記しない限り、すべての基は、置換されている場合も非置換の場合もある。ある実施形態においては、置換基は、D、ハライド、アルキル、アルコキシ、アリール、およびシアノからなる群から選択される。限定するものではないがアルキルまたはアリールなどの任意選択的な置換基は、同種であっても異種であってもよい1つ以上の置換基で置換されていてよい。他の好適な置換基としては、ニトロ、シアノ、−N(R’)(R”)、ヒドロキシ、カルボキシ、アルケニル、アルキニル、アリールオキシ、アルコキシカルボニル、パーフルオロアルキル、パーフルオロアルコキシ、アリールアルキル、シリル、シロキサン、チオアルコキシ、−S(O)2−N(R’)(R”)、−C(=O)−N(R’)(R”)、(R’)(R”)N−アルキル、(R’)(R”)N−アルコキシアルキル、(R’)(R”)N−アルキルアリールオキシアルキル、−S(O)s−アリール(式中、s=0〜2)、または−S(O)s−ヘテロアリール(式中、s=0〜2)が挙げられる。R’およびR”のそれぞれは独立して、任意選択的に置換されていてもよいアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基である。ある実施形態においては、R’およびR”と、それらが結合する窒素とが一緒になって環系を形成することができる。置換基は、架橋基であってもよい。明細書において使用される場合、用語「含んでなる」、「含んでなること」、「含む」、「含むこと」、「有する」、「有すること」、またはそれらの他のあらゆる変形は、非排他的な包含を扱うことを意図している。たとえば、ある一連の要素を含むプロセス、方法、物品、または装置は、それらの要素にのみに必ずしも限定されるわけではなく、そのようなプロセス、方法、物品、または装置に関して明示されず固有のものでもない他の要素を含むことができる。さらに、そうではないことが明記されない限り、「または」は、包含的なまたはを意味するのであって、排他的なまたはを意味するのではない。たとえば、条件AまたはBが満たされるのは以下のいずれか1つによってである。すなわち、Aが真であり(または存在し)Bが偽である(または存在しない)、Aが偽であり(または存在せず)Bが真である(または存在する)、ならびにAおよびBの両方が真である(または存在する)。
【0034】
また、本発明の要素および成分を説明するために「a」または「an」も使用されている。これは単に便宜的なものであり、本発明の範囲の一般的な意味を提供するために行われている。この記述は、1つまたは少なくとも1つを含むものと読むべきであり、明らかにそうではないと意味する場合を除けば、単数形は複数形も含んでいる。
【0035】
特に定義しない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似または同等の方法および材料を使用して、本発明の実施形態の実施または試験を行うことができるが、好適な方法および材料について以下に説明する。本明細書において言及されるあらゆる刊行物、特許出願、特許、およびその他の参考文献は、それらの記載内容全体が参照として援用される。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うものとする。さらに、材料、方法、および実施例は、単に説明的なものであって、限定を意図したものではない。
【0036】
さらに、全体的にIUPAC番号方式が使用され、周期表の族は、左から右に1〜18の番号が付けられる(CRC Handbook of Chemistry and Physics,81st Edition,2000)。
【0037】
2.電気活性化合物
本明細書に記載の化合物は、少なくとも1つのDを有するビス(ジアリールアミノ)アントラセンまたはビス(ジアリールアミノ)クリセンである。ある実施形態においては、本発明の化合物は、少なくとも10%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも20%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも30%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも40%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも50%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも60%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも70%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも80%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも90%が重水素化されている。
【0038】
ある実施形態においては、本発明の電気活性化合物は式Iまたは式II:
【0039】
【化2】

【0040】
(式中:
1は、出現するごとに同種または異種であって、D、アルキル、アルコキシ、およびアリールからなる群から選択され、隣接するR1基はに結合して5または6員の脂肪族環を形成してもよく、
Ar1からAr4は、同種または異種であって、アリール基からなる群から選択され、
aは、出現するごとに同種または異種であって、0〜4の整数であり、
bは、出現するごとに同種または異種であって、0〜5の整数である)
で表され、この化合物は少なくとも1つのDを有する。
【0041】
ある実施形態においては、本発明の化合物は、赤色、緑色、または青色の発光が可能である。
【0042】
式IおよびIIのある実施形態においては、重水素化は、アリール環上の置換基上で行われている。重水素化置換基を有するアリール基は、式Iのコアアントラセン基または式IIのコアクリセン基、あるいは窒素上のアリール、あるいは置換基のアリール基can beであってよい。ある実施形態においては、アリール環上の重水素化置換基は、アルキル、アリール、アルコキシ、およびアリールオキシから選択される。ある実施形態においては、置換基は、少なくとも10%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも20%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも30%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも40%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも50%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも60%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも70%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも80%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも90%が重水素化されている。
【0043】
式IおよびIIのある実施形態においては、重水素化は、アリール基Ar1からAr4のいずれか1つ以上の上で行われている。この場合、Ar1からAr4の少なくとも1つが重水素化アリール基である。ある実施形態においては、Ar1からAr4は、少なくとも10%が重水素化されている。これは、Ar1からAr4中のアリールCに結合した利用可能なすべてのHの少なくとも10%がDで置換されていることを意味する。ある実施形態においては、それぞれのアリール環がいくつかのDを有する。ある実施形態においては、すべてではなく一部のアリール環がDを有する。ある実施形態においては、Ar1からAr4は、少なくとも20%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも30%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも40%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも50%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも60%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも70%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも80%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも90%が重水素化されている。
【0044】
式IおよびIIのある実施形態においては、重水素化は、置換基およびアリール基の両方の上で行われている。
【0045】
ある実施形態においては、式IおよびIIの化合物は、少なくとも10%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも20%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも30%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも40%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも50%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも60%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも70%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも80%が重水素化されており、ある実施形態においては、少なくとも90%が重水素化されている。
【0046】
式Iのある実施形態においては、両方のa=0である。
【0047】
式Iのある実施形態においては、少なくとも1つのaが0を超える。ある実施形態においては、少なくとも1つのR1が炭化水素アルキルである。ある実施形態においては、R1は重水素化アルキルである。ある実施形態においては、R1は、分枝炭化水素アルキルおよび環状炭化水素アルキルから選択される。
【0048】
式Iのある実施形態においては、両方のa=4であり、R1はDである。
【0049】
式II中、(R1aへの結合は、R1基が2つの縮合環上の任意の位置に存在できることを示すことを意図している。
【0050】
式IIのある実施形態においては、両方のb=0である。
【0051】
式IIのある実施形態においては、少なくとも1つのbが0を超える。ある実施形態においては、少なくとも1つのR1が炭化水素アルキルである。ある実施形態においては、R1は、分枝炭化水素アルキルおよび環状炭化水素アルキルから選択される。
【0052】
式IIのある実施形態においては、両方のb=5であり、R1はDである。
【0053】
ある実施形態においては、Ar1からAr4の少なくとも1つが式III:
【0054】
【化3】

【0055】
(式中:
2は、出現するごとに同種または異種であって、D、アルキル、アルコキシ、アリール、シリル、およびシロキサンからなる群から選択されるか、隣接するR2基が結合して芳香環を形成することができるかであり、
cは、出現するごとに同種または異種であって、0〜4の整数であり、
dは、出現するごとに同種または異種であって、0〜5の整数であり、
mは、出現するごとに同種または異種であって、0〜6の整数である)
で表される。
【0056】
ある実施形態においては、Ar1からAr4の少なくとも1つは式IV:
【0057】
【化4】

【0058】
(式中:
2は、出現するごとに同種または異種であって、D、アルキル、アルコキシ、およびアリールからなる群から選択されるか、隣接するR2基が結合して芳香環を形成することができるかであり、
cは、出現するごとに同種または異種であって、0〜4の整数であり、
dは、出現するごとに同種または異種であって、0〜5の整数であり、
mは、出現するごとに同種または異種であって、0〜6の整数である)
で表される。
【0059】
ある実施形態においては、Ar1からAr4は、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ナフチル、フェニルナプチル(phenylnapthyl)、ナフチルフェニル、およびビナフチルからなる群から選択される。
【0060】
ある実施形態においては、Ar1からAr4は過重水素化されている。
【0061】
ある実施形態においては、Ar1からAr4は、末端アリール上の1つのアルキル基を除いて過重水素化されている。
【0062】
ある実施形態においては、本発明の化合物は、ジアリールアミノ基に関して対称である。この場合、Ar1=Ar3、およびAr2=Ar4である。
【0063】
ある実施形態においては、本発明の化合物は、ジアリールアミノ基に関して非対称である。この場合、Ar1はAr3およびAr4のどちらとも異なる。ある実施形態においては、Ar2もAr3およびAr4のどちらとも異なる。
【0064】
式Iで表される化合物の非限定的な例の一部としては、以下の化合物E1およびE2が挙げられる。
化合物E1:
【0065】
【化5】

【0066】
化合物E2:
【0067】
【化6】

【0068】
式IIで表される化合物の非限定的な例の一部としては、以下の化合物E3〜E9が挙げられる。
化合物E3:
【0069】
【化7】

【0070】
化合物E4:
【0071】
【化8】

【0072】
化合物E5:
【0073】
【化9】

【0074】
化合物E6:
【0075】
【化10】

【0076】
化合物E7:
【0077】
【化11】

【0078】
化合物E8:
【0079】
【化12】

【0080】
E9:
【0081】
【化13】

【0082】
非重水素化類似化合物は、C−C結合またはC−N結合が得られる任意の技術を使用して作製することができる。種々のそのような技術が周知であり、たとえば、Suzukiカップリング、Yamamotoカップリング、Stilleカップリング、Pd触媒またはNi触媒によるC−Nカップリングなどが周知である。次に、本発明の新規性のある重水素化化合物は、重水素化前駆体材料を使用した類似の方法によって、またはより一般的には、三塩化アルミニウムまたは塩化エチルアルミニウムなどのルイス酸H/D交換触媒の存在下で、非重水素化化合物をd6−ベンゼンなどの重水素化溶媒で処理することによって製造することができる。典型的な製造は実施例において示している。重水素化の程度は、NMR分析、および大気圧固体分析プローブ質量分析(ASAP−MS)などの質量分析によって求めることができる。
【0083】
本明細書に記載の化合物は、液相堆積技術を使用して膜に成形することができる。驚くべきことであり予期せぬことに、これらの化合物は、類似の非重水素化化合物と比べると大きく改善された性質を有する。本明細書に記載の化合物を有する活性層を含む電子デバイスは、大きく改善された寿命を有する。さらに、この寿命の増加は、高い量子効率および良好な彩度とともに達成される。さらに、本明細書に記載の重水素化化合物は、非重水素化類似体よりも高い空気耐性を有する。これによって、材料の製造および精製と、その材料を使用した電子デバイスの形成との両方において、より優れた加工許容性を得ることができる。
【0084】
本明細書に記載の新規性のある重水素化化合物は、正孔輸送材料として、エレクトロルミネッセンス材料として、およびエレクグトロルミネッセンス(elecgtroluminescent)材料のホストとして有用である。
【0085】
3.電子デバイス
本明細書に記載のエレクトロルミネッセンス材料を含む1つ以上の層を有することが有益となりうる有機電子デバイスとしては、(1)電気エネルギーを放射線に変換するデバイス(たとえば、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイ、またはダイオードレーザー)、(2)電子的過程を介して信号を検出するデバイス(たとえば、光検出器、光導電セル、フォトレジスタ、光スイッチ、光トランジスタ、光電管、IR検出器)、(3)放射線を電気エネルギーに変換するデバイス(たとえば、光起電力デバイスまたは太陽電池)、ならびに(4)1つ以上の有機半導体層を含む1つ以上の電子部品(たとえば、トランジスタまたはダイオード)を含むデバイスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0086】
有機電子デバイス構造の一例を図1に示す。デバイス100は、第1の電気接触層のアノード層110、および第2の電気接触層のカソード層160、並びにそれらの間の電気活性層140を有する。アノードに隣接して緩衝層120が存在する。緩衝層に隣接して、正孔輸送材料を含む正孔輸送層130が存在する。カソードに隣接して、電子輸送材料を含む電子輸送層150が存在することができる。選択肢の1つとして、デバイスは、アノード110の隣に1つ以上の追加の正孔注入層または正孔輸送層(図示せず)、および/またはカソード160の隣に1つ以上の追加の電子注入層または電子輸送層(図示せず)を使用することができる。
【0087】
層120から150は、個別および集合的に活性層と呼ばれる。
【0088】
一実施形態においては、種々の層は以下の範囲の厚さを有する。アノード110、500〜5000Å、一実施形態においては1000〜2000Å、緩衝層120、50〜2000Å、一実施形態においては200〜1000Å、正孔輸送層130、50〜2000Å、一実施形態においては200〜1000Å、電気活性層140、10〜2000Å、一実施形態においては100〜1000Å、層150、50〜2000Å、一実施形態においては100〜1000Å、カソード160、200〜10000Å、一実施形態においては300〜5000Å。デバイス中の電子−正孔再結合領域の位置、したがってデバイスの発光スペクトルは、各層の相対厚さによって影響されうる。層の厚さの望ましい比は、使用される材料の厳密な性質に依存する。
【0089】
デバイス100の用途に依存するが、電気活性層140は、印加電圧によって励起する発光層(発光ダイオード中または発光電気化学セル中など)、放射エネルギーに応答し、バイアス電圧の印加を使用してまたは使用せずに信号を発生する材料層(光検出器中など)であってよい。光検出器の例としては、光導電セル、フォトレジスタ、光スイッチ、光トランジスタ、および光電管、ならびに光起電力セルが挙げられ、これらの用語は、Markus、John、Electronics and Nucleonics Dictionary、470および476(McGraw−Hill, Inc.1966)に記載されている。
【0090】
ある実施形態においては、本発明の新規性のある重水素化化合物は、層130中の正孔輸送材料として有用である。ある実施形態においては、少なくとも1つの追加層が重水素化材料を含む。ある実施形態においては、追加層は正孔注入層120である。ある実施形態においては、追加層は電気活性層140である。ある実施形態においては、追加層は電子輸送層150である。
【0091】
ある実施形態においては、本発明の新規性のある重水素化化合物は、電気活性層140中の電気活性材料のホスト材料として有用である。ある実施形態においては、発光材料も重水素化されている。ある実施形態においては、少なくとも1つの追加層が重水素化材料を含む。ある実施形態においては、追加層は緩衝層120である。ある実施形態においては、追加層は正孔輸送層130である。ある実施形態においては、追加層は電子輸送層150である。
【0092】
ある実施形態においては、本発明の新規性のある重水素化化合物は、電気活性層140中の電気活性材料として有用である。ある実施形態においては、電気活性層中にホストも存在する。ある実施形態においては、ホスト材料も重水素化される。ある実施形態においては、少なくとも1つの追加層が重水素化材料を含む。ある実施形態においては、追加層は緩衝層120である。ある実施形態においては、追加層は正孔輸送層130である。ある実施形態においては、追加層は電子輸送層150である。
【0093】
ある実施形態においては、本発明の新規性のある重水素化化合物は、層150中の電子輸送材料として有用である。ある実施形態においては、少なくとも1つの追加層が重水素化材料を含む。ある実施形態においては、追加層は緩衝層120である。ある実施形態においては、追加層は正孔輸送層130である。ある実施形態においては、追加層は電気活性層140である。
【0094】
ある実施形態においては、電子デバイスは、緩衝層、正孔輸送層、電気活性層、および電子輸送層からなる群から選択される層の任意の組み合わせの重水素化材料を有する。
【0095】
ある実施形態においては、本発明のデバイスは、加工しやすくするため、または機能性を改善するために追加層を有する。これらの層のいずれかまたはすべてが重水素化材料を含むことができる。ある実施形態においては、すべての有機デバイス層が重水素化材料を含む。ある実施形態においては、すべての有機デバイス層が実質的に重水素化材料からなる。
【0096】
a.電気活性層
本明細書に記載の新規性のある重水素化化合物は、層140中の電気活性材料として有用である。本発明の化合物は単独で使用することもできるし、ホスト材料と組み合わせて使用することもできる。
【0097】
ある実施形態においては、電気活性層は、実質的に、ホスト材料と本明細書に記載の新規性のある重水素化化合物とからなる。
【0098】
ある実施形態においては、ホストは、ビス縮合環状芳香族化合物である。
【0099】
ある実施形態においては、ホストは、アントラセン誘導体化合物である。ある実施形態においてはこの化合物は以下の式:
An−L−An
(式中:
Anはアントラセン部分であり、
Lは二価の連結基である)
で表される。
【0100】
この式のある実施形態においては、Lは、単結合、−O−、−S−、−N(R)−、または芳香族基である。ある実施形態においては、Anは、モノ−またはジフェニルアントリル部分である。
【0101】
ある実施形態においては、ホストは式:
A−An−A
(式中:
Anはアントラセン部分であり、
Aは、出現ごとに同種または異種であり、芳香族基である)
で表される。
【0102】
ある実施形態においては、A基は、アントラセン部分の9位または10位に結合している。ある実施形態においては、Aは、ナフチル、ナフチルフェニレン、およびナフチルナフチレンからなる群から選択される。ある実施形態においては、この化合物は対称であり、ある実施形態においては、この化合物は非対称である。
【0103】
ある実施形態においては、ホストは式:
【0104】
【化14】

【0105】
(式中:
1およびA2は、出現ごとに同種または異種であり、H、芳香族基、アルキル基およびアルケニル基からなる群から選択されるか、またはAが1つ以上の複合芳香環を表すことができ、
pおよびqは、同種または異種であり、1〜3の整数である)
で表される。
【0106】
ある実施形態においては、アントラセン誘導体は非対称である。ある実施形態においては、p=2およびq=1である。
【0107】
ある実施形態においては、A1およびA2の少なくとも1つがナフチル基である。ある実施形態においては、追加的な置換基が存在する。
【0108】
ある実施形態においては、ホストは
【0109】
【化15】

【0110】
およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0111】
本明細書に記載の新規性のある重水素化化合物は、電気活性層中の電気活性材料として有用であることに加えて、電気活性層140中の他の電気活性材料の電荷キャリアホストとして機能することもできる。ある実施形態においては、電気活性層は、実質的に、本発明の新規性のある重水素化材料と、1種類以上の電気活性電気活性材料とからなる。
【0112】
b.他のデバイス層
デバイス中の他の層は、そのような層中に有用であることが知られているあらゆる材料でできていてよい。
【0113】
アノード110は、正電荷キャリアの注入に特に有効な電極である。アノードは、たとえば金属、混合金属、合金、金属酸化物、または混合金属酸化物を含有する材料でできていいてもよいし、伝導性ポリマー、およびそれらの混合物であってもよい。好適な金属としては、11族金属、4〜6族の金属、および8〜10族の遷移金属が挙げられる。アノードが光透過性となるべき場合には、インジウムスズ酸化物などの12族、13族、および14族の金属の混合金属酸化物が一般に使用される。アノード110は、「Flexible light−emitting diodes made from soluble conducting polymer」、Nature 第357巻、pp 477−479(1992年6月11日)に記載されるようなポリアニリンなどの有機材料を含むこともできる。アノードおよびカソードの少なくとも1つは、発生した光を観察できるように、少なくとも部分的に透明であることが望ましい。
【0114】
緩衝層120は緩衝材料を含み、限定するものではないが、下にある層の平坦化、電荷輸送および/または電荷注入特性、酸素または金属イオンなどの不純物の捕捉、ならびに有機電子デバイスの性能を促進または改善する他の特徴などの、1つまたは複数の機能を有機電子デバイス中で有することができる。緩衝材料は、ポリマー、オリゴマー、または小分子であってよい。これらは、溶液、分散体、懸濁液、エマルジョン、コロイド混合物、またはその他の組成物の形態であってよい液体から気相堆積または堆積することができる。
【0115】
緩衝層は、プロトン酸がドープされることが多いポリアニリン(PANI)またはポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などのポリマー材料で形成され得る。プロトン酸は、たとえば、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸)などであってよい。
【0116】
緩衝層は、銅フタロシアニンやテトラチアフルバレン−テトラシアノキノジメタン系(TTF−TCNQ)などの電荷輸送化合物などを含むことができる。
【0117】
ある実施形態においては、緩衝層は、少なくとも1種類の導電性ポリマーと、少なくとも1種類のフッ素化酸ポリマーとを含む。このような材料は、たとえば、米国特許出願公開第2004−0102577号明細書、米国特許出願公開第2004−0127637号明細書、および米国特許出願公開第2005/205860号明細書に記載されている
【0118】
ある実施形態においては、本明細書に記載の新規性のある重水素化化合物は正孔輸送材料として有用である。層130の他の正孔輸送材料の例は、たとえば、Y.Wangにより,Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology、第4版、第18巻、p.837−860、1996にまとめられている。正孔輸送分子および正孔輸送ポリマーの両方を使用することができる。一般に使用される正孔輸送分子は、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、1,1−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC)、N,N’−ビス(4−メチルフェニル)−N,N’−ビス(4−エチルフェニル)−[1,1’−(3,3’−ジメチル)ビフェニル]−4,4’−ジアミン(ETPD)、テトラキス(3−メチルフェニル)−N,N,N’,N’−2,5−フェニレンジアミン(PDA)、a−フェニル4−N,N−ジフェニルアミノスチレン(TPS)、p−(ジエチルアミノ)ベンズアルデヒドジフェニルヒドラゾン(DEH)、トリフェニルアミン(TPA)、ビス[4(N,N−ジエチルアミノ)−2−メチルフェニル](4−メチルフェニル)メタン(MPMP)、1−フェニル−3−[p−(ジエチルアミノ)スチリル]−5−[p−(ジエチルアミノ)フェニル]ピラゾリン(PPRまたはDEASP)、1,2−trans−ビス(9H−カルバゾール−9−イル)シクロブタン(DCZB)、N,N,N’,N’テトラキス(4−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TTB)、N,N’−ビス(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ビス−(フェニル)ベンジジン(α−NPB)、および銅フタロシアニンなどのポルフィリン系化合物である。一般に使用される正孔輸送ポリマーは、ポリビニルカルバゾール、(フェニルメチル)ポリシラン、およびポリアニリンである。ポリスチレンおよびポリカーボネートなどのポリマー中に、上述のものなどの正孔輸送分子をドープすることによって、正孔輸送ポリマーを得ることもできる。場合により、トリアリールアミンポリマー、特にトリアリールアミン−フルオレンコポリマーが使用される。場合により、これらのポリマーおよびコポリマーは架橋性である。架橋性正孔輸送ポリマーの例は、たとえば、米国特許出願公開第2005−0184287号明細書および国際公開第2005/052027号パンフレットに見ることができる。ある実施形態においては、正孔輸送層は、テトラフルオロテトラシアノキノジメタンおよびペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸−3,4,9,10−二無水物などのp−ドーパントでドープされる。
【0119】
ある実施形態においては、本明細書に記載の新規性のある重水素化化合物は電子輸送材料として有用である。層150中に使用可能な他の電子輸送材料の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノラト)アルミニウム(Alq3)などの金属キレート化オキシノイド化合物、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニル−フェノラト)アルミニウム(III)(BAlQ)、ならびに2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)および3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)、および1,3,5−トリ(フェニル−2−ベンズイミダゾール)ベンゼン(TPBI)などのアゾール化合物、2,3−ビス(4−フルオロフェニル)キノキサリンなどのキノキサリン誘導体、9,10−ジフェニルフェナントロリン(DPA)および2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(DDPA)などのフェナントロリン誘導体、ならびにそれらの混合物が挙げられる。電子輸送層は、Csまたはその他のアルカリ金属などのn−ドーパントでドープすることもできる。層150は、電子輸送の促進と、層界面での励起子の消光を防止する緩衝層または閉じ込め層としての両方の機能を果たすことができる。好ましくは、この層は電子移動を促進し、励起子の消光を減少させる。
【0120】
カソード160は、電子または負電荷キャリアの注入に特に有効な電極である。カソードは、アノードよりも低い仕事関数を有するあらゆる金属または非金属であってよい。カソードの材料は、1族のアルカリ金属(たとえば、Li、Cs)、2族(アルカリ土類)金属、12族金属、たとえば希土類元素およびランタニド、ならびにアクチニドから選択することができる。アルミニウム、インジウム、カルシウム、バリウム、サマリウム、およびマグネシウム、ならびに組み合わせた材料を使用することができる。動作電圧を低下させるために、LiまたはCs含有有機金属化合物、LiF、CsF、およびLi2Oを有機層とカソード層との間に堆積することもできる。
【0121】
有機電子デバイス中に別の層を有することが知られている。たとえば、注入される正電荷量を制御するため、および/または層のバンドギャップの整合性を促進するため、あるいは保護層として機能させるために、アノード110と緩衝層120との間に層(図示せず)が存在してもよい。銅フタロシアニン、ケイ素酸窒化物、フルオロカーボン類、シラン類、またはPtなどの金属の超薄層などの、当技術分野において周知の層を使用することができる。あるいは、アノード層110、活性層120、130、140、および150、あるいはカソード層160の一部またはすべては、電荷キャリア輸送効率を増加させるために表面処理を行うことができる。各構成層の材料の選択は、好ましくは、高いエレクトロルミネッセンス効率を有するデバイスを得るために発光層中の正電荷および負電荷の釣り合いを取ることによって決定される。
【0122】
各機能層は2つ以上の層で構成されてよいことを理解されたい。
【0123】
本発明のデバイスは、好適な基体上に個別の層を順次気相堆積するなどの種々の技術によって作製することができる。ガラス、プラスチック、および金属などの基体を使用することができる。熱蒸着、化学蒸着などの従来の気相堆積技術を使用することができる。あるいは、有機層は、限定するものではないが、スピンコーティング、浸漬コーティング、ロール・トゥ・ロール技術、インクジェット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷などの従来のコーティングまたは印刷技術を使用して、好適な溶媒中の溶液または分散体から適用することもできる。
【0124】
高効率LEDを実現するために、正孔輸送材料のHOMO(最高被占分子軌道)がアノードの仕事関数に合わせられることが望ましく、電子輸送材料のLUMO(最低空分子軌道)がカソードの仕事関数に合わせられることが望ましい。材料の化学的適合性および昇華温度も、電子輸送材料および正孔輸送材料の選択における重要な考慮事項である。
【0125】
本明細書に記載のクリセン化合物を使用して作製されたデバイスの効率は、デバイス中の別の層を最適化することによってさらに改善できることを理解されたい。たとえば、Ca、Ba、またはLiFなどのより効率的なカソードを使用することができる。動作電圧を下げ量子効率を増加させる成形基体および新規性のある正孔輸送材料も利用可能である。種々の層のエネルギー準位を調整しエレクトロルミネッセンスを促進するために追加層を加えることもできる。
【0126】
本発明のクリセン化合物は、多くの場合、蛍光性およびフォトルミネッセンスであり、酸素感受性インジケーターおよびバイオアッセイにおける蛍光インジケーターなど、OLED以外の用途において有用となりうる。
【実施例】
【0127】
以下の実施例により、本発明の特定の特徴および利点を説明する。これらは、本発明の説明を意図するものであり、限定を意図するものではない。特に明記しない限り、すべてのパーセント値は重量を基準としている。
【0128】
比較例A
この例では、非重水素化エレクトロルミネッセンス材料である比較例化合物Aの製造を示す。
【0129】
【化16】

【0130】
(a)1−(4−tert−ブチルスチリル)ナフタレンの製造。
オーブンで乾燥させた500mlの三口丸底フラスコに、磁気撹拌子、添加漏斗、および窒素流入口コネクターを取り付けた。このフラスコに、塩化(1−ナプチルメチル)トリフェニルホスホニウム(12.07g、27.5mmol)および200mlの無水THFを投入した。水素化ナトリウム(1.1g、25mmol)を1回で加えた。この混合物は鮮橙色になり、室温で終夜撹拌した。カニューレを使用して添加漏斗に無水THF(30ml)中の4−tert−ブチル−ベンズアルデヒド(7.1g、25mmol)の溶液を加えた。このアルデヒド溶液を45分かけて反応混合物に滴下した。反応物を室温で24時間撹拌した(橙色は消失した)。反応混合物にシリカゲルを加え、揮発分を減圧下で除去した。得られた粗生成物を、ヘキサン5〜10%のジクロロメタンを使用したシリカゲル上のカラムクロマトグラフィーで精製した。生成物は、シスおよびトランス異性体の混合物(6.3g、89%)として単離され、これを分離せずに使用した。1H NMRによって構造を確認した。
【0131】
(b)3−tert−ブチルクリセンの製造。
1−(4−tert−ブチルスチリル)ナフタレン(4.0g、14.0mmol)を、窒素流入口および撹拌棒を取り付けた1リットルの光化学容器中の乾燥トルエン(1l)に溶解させた。乾燥プロピレンオキシドの瓶を氷水中で冷却してから、シリンジで100mlのエポキシドを抜き取り、上記反応混合物に加えた。最後にヨウ素(3.61g、14.2mmol)を加えた。光化学容器に冷却器を取り付け、ハロゲンランプ(Hanovia、450W)を点灯した。反応混合物中にヨウ素が残留しないことがその色の消失から明らかになると、ランプを消灯して反応を停止させた。反応は3.5時間で終了した。減圧下でトルエンおよび過剰のプロピレンオキシドを除去すると、暗黄色固体が得られた。粗生成物を少量のヘキサン中の25%ジクロロメタンに溶解させ、中性アルミナの4インチのプラグに通し、ヘキサン中の25%ジクロロメタン(約1リットル)で洗浄した。揮発分を除去すると、3.6g(91%)の3−tert−ブチルクリセンが黄色固体として得られた。1H NMRによって構造を確認した。
【0132】
(c)6,12−ジブロモ−3−tert−ブチルクリセンの製造
3−tert−ブチルクリセン(4.0g、14.1mmol)およびトリメチルホスフェート(110ml)を500mlの丸底フラスコ中で混合した。臭素(4.95g、31mmol)を加えた後、フラスコに還流冷却器を取り付け、反応混合物を油浴中105℃で1時間撹拌した。ほとんどすぐに白色沈殿が形成された。少量の氷水(100ml)上に注ぐことによって、反応混合物の後処理を行った。この混合物を減圧濾過し、水で十分に洗浄した。得られた黄褐色固体を真空下で乾燥させた。粗生成物をメタノール(100ml)中で沸騰させ、室温まで冷却し、再び濾過すると、3.74g(60%)の白色固体が得られた。1H NMRによって構造を確認した。
【0133】
(d)比較例化合物Aである3−tert−ブチル−N6,N6,N12,N12−テトラフェニルクリセン−6,12−ジアミンの製造
ドライボックス中で、6,12−ジブロモ−3−tert−ブチルクリセン(0.8g、1.81mmol)およびジフェニルアミン(1.22g、7.2mmol)を500mlの丸底フラスコ中に入れ、10mlの乾燥トルエン中に溶解させた。2−ビフェニル−ジ−tert−ブチルホスフィン(0.072g、0.04mmol)およびトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(0.036g、0.02mmol)を5mlの乾燥トルエン中に溶解させ、10分間撹拌した。この触媒溶液を上記反応混合物に加え、10分間撹拌し、続いてナトリウムtert−ブトキシド(0.35g、3.62mmol)および5mlの乾燥トルエンを加えた。さらに10分後、反応フラスコをドライボックスから取り出し、窒素ラインに取り付け、110℃で終夜撹拌した。翌日、反応混合物を室温まで冷却し、シリカゲルおよびCeliteの2インチのプラグで濾過し、500mlのジクロロメタンで洗浄した。減圧下で揮発分を除去すると暗褐色油が得られた。この粗生成物は、Biotage製のIsolera精製システムを使用してシリカゲル上のフラッシュクロマトグラフィーによってさらに精製した。得られた固体をメタノールで洗浄し、次に熱ヘキサンから再結晶して、0.26g(25%)の生成物を得た。1H NMRによって構造を確認した。
【0134】
実施例1
この実施例では、式IIで表される化合物である化合物E3の製造を示す。
【0135】
【化17】

【0136】
この化合物は、比較例化合物Aに関して前述した手順を使用して6,12−ジブロモ−3−tert−ブチルクリセンおよびジ(パージュウテロフェニル)アミンから製造した。収量0.37g(36%)。化合物E3の構造を1H NMRによって確認した。
【0137】
比較例B
この例では、非重水素化エレクトロルミネッセンス材料である比較例化合物Bの製造を示す。
【0138】
【化18】

【0139】
窒素を充填したグローブボックス中の丸底フラスコ中に、0.45gの2,6−ジ−t−ブチル−9,10−ジブロモアントラセン(1mM)(Mue,U.;Adam,M.;Mullen,K.Chem.Ber.1994,127,437−444)を入れ、0.38g(2.2mM)ジフェニルアミンおよび0.2gナトリウムtert−ブトキシド(2mM)を40mLのトルエンとともに加えた。0.15gのPd2DBA3(0.15mM)および0.07gのP(t−Bu)3(0.3mM)を10mLのトルエン中に溶解させ、撹拌しながら第1の溶液に加えた。すべての材料を混合すると、溶液はゆっくりと発熱し、黄褐色に変化する。この溶液を、グローブボックス中、80Cにおいて窒素下で1時間加熱撹拌した。溶液は直ちに暗紫色になるが、約80Cに到達すると、暗黄緑色になり、顕著な緑色ルミネッセンスを示す。室温まで冷却した後、溶液をグローブボックスから取り出し、短い塩基性アルミナプラグで濾過しトルエンを使用して溶出させると、鮮やかな黄緑色のバンドが得られた。蒸発およびトルエン/メタノールからの再結晶によって、1−H nmrによって確認されるような期待された生成物が0.55gの収率で得られた
【0140】
実施例2
この実施例では、式Iで表される化合物である化合物E1の製造を示す。
【0141】
【化19】

【0142】
この化合物は、比較例化合物Bに関して前述した手順を使用して9,10−ジブロモ−2,6ジ−tert−ブチルアントラセンおよびジ(パージュウテロフェニル)アミンから製造した。収量0.55g。化合物E1の構造を1H NMRによって確認した。
【0143】
実施例3および比較例C
これらの例では、青色発光体を有するデバイスの製造および性能を示す。以下の材料を使用した。
【0144】
【化20】

【0145】
デバイスは、ガラス基体上に以下の構造を有した。
アノード=インジウムスズ酸化物(ITO):50nm
緩衝層=緩衝液1(50nm)、これは、導電性ポリマーとポリマーフッ素化スルホン酸との水性分散体である。このような材料は、たとえば米国特許出願公開第2004/0102577号明細書、米国特許出願公開第2004/0127637号明細書、および米国特許出願公開第2005/0205860号明細書に記載されている。
【0146】
正孔輸送層=ポリマーP1(20nm)
電気活性層=13:1のホストH1:ドーパント(40nm)
電子輸送層=金属キノレート誘導体(10nm)
カソード=CsF/Al(0.7/100nm)
【0147】
OLEDデバイスは溶液処理と熱蒸着技術との組み合わせによって製造した。Thin Film Devices,Incのパターン化されたインジウムスズ酸化物(ITO)がコーティングされたガラス基体を使用した。これらのITO基体は、30オーム/スクエアのシート抵抗および80%の光透過率を有するITOがコーティングされたCorning 1737ガラスを主とするものである。これらのパターン化されたITO基体は、水性洗剤溶液中で超音波洗浄し、蒸留水ですすいだ。次に、このパターン化されたITOを、アセトン中で超音波洗浄し、イソプロパノールですすぎ、窒素気流中で乾燥させた。
【0148】
デバイス製造の直前に、このパターン化されたITO基体を洗浄したものをUVオゾンで10分間処理した。冷却の直後に、緩衝液1の水性分散体をITO表面上にスピンコーティングし、加熱して溶媒を除去した。冷却後、次に基体に正孔輸送材料の溶液をスピンコーティングし、加熱して溶媒を除去した。冷却後、基体に発光層溶液をスピンコーティングし、加熱して溶媒を除去した。基体をマスクし、真空室に入れた。熱蒸着によって電子輸送層を堆積し、次にCsF層を堆積した。次に真空下でマスクを交換し、Al層を熱蒸着によって堆積した。真空室に通気し、ガラス蓋、デシカント(dessicant)、およびUV硬化性エポキシを使用してデバイスを封入した。
【0149】
OLED試料の特性決定を、それらの(1)電流−電圧(I−V)曲線、(2)エレクトロルミネッセンス放射輝度対電圧、および(3)エレクトロルミネッセンススペクトル対電圧を測定することによって行った。3つすべての測定を同時に行い、コンピュータで制御を行った。LEDのエレクトロルミネッセンス放射輝度を、デバイスを動作させるために必要な電流密度で割ることによって、ある電圧におけるデバイスの電流効率が求められる。この単位はcd/Aである。出力効率は、電流効率を動作電圧で割った値である。この単位はlm/Wである。デバイスデータを表1に示している。
【0150】
【表1】

【0151】
式IIで表されるクリセンドーパントを使用して作製したデバイスの相対寿命は、比較例化合物Aを使用して作製したデバイスよりもはるかに優れている。
【0152】
実施例4および比較例D
これらの例では、緑色発光体を有するデバイスの製造および性能を示す。
【0153】
デバイスは、ガラス基体上に以下の構造を有した。
アノード=ITO(180nm)
緩衝層=緩衝液1(50nm)
正孔輸送層=ポリマーP1(20nm)
電気活性層=13:1のホストH1:ドーパント(60nm)
電子輸送層=金属キノレート誘導体(10nm)
カソード=CsF/Al(1.0/100nm)
【0154】
実施例3で前述したようにしてOLEDデバイスを作製した。デバイスのデータ(3つのデバイスの平均)を表2に示す。
【0155】
【表2】

【0156】
式Iで表されるアントラセンドーパントを使用して作製したデバイスの相対寿命は、アントラセンドーパントである比較例化合物Bを使用して作製したデバイスよりもはるかに優れている。
【0157】
概要または実施例において前述したすべての行為が必要なわけではなく、特定の行為の一部は不要である場合があり、1つ以上のさらに別の行為が、前述の行為に加えて実施される場合があることに留意されたい。さらに、行為が列挙されている順序は、必ずしもそれらが実施される順序ではない。
【0158】
以上の明細書において、具体的な実施形態を参照しながら本発明の概念を説明してきた。しかし、当業者であれば、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲から逸脱せずに種々の修正および変更を行えることが理解できよう。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく説明的なものであると見なすべきであり、すべてのこのような修正は本発明の範囲内に含まれることを意図している。
【0159】
特定の実施形態に関して、利益、その他の利点、および問題に対する解決法を以上に記載してきた。しかし、これらの利益、利点、問題の解決法、ならびに、なんらかの利益、利点、または解決法を発生させたり、より顕著にしたりすることがある、あらゆる特徴が、特許請求の範囲のいずれかまたはすべての重要、必要、または本質的な特徴であるとして解釈すべきではない。
【0160】
別々の実施形態の状況において、明確にするために本明細書に記載されている特定の複数の特徴は、1つの実施形態の中で組み合わせても提供できることを理解されたい。逆に、簡潔にするため1つの実施形態の状況において説明した種々の特徴も、別々に提供したり、あらゆる副次的な組み合わせで提供したりすることができる。さらに、ある範囲中の値への言及は、その範囲内のすべての値を含んでいる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(ジアリールアミノ)アントラセンおよびビス(ジアリールアミノ)クリセンからなる群より選択される化合物であって、少なくとも1つのDを有する化合物。
【請求項2】
少なくとも50%が重水素化されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式Iまたは式II:
【化1】

(式中:
1は、出現するごとに同種または異種であって、D、アルキル、アルコキシ、およびアリールからなる群から選択され、隣接するR1基は結合して5または6員の脂肪族環を形成してもよく、
Ar1からAr4は、同種または異種であって、アリール基からなる群から選択され、
aは、出現するごとに同種または異種であって、0〜4の整数であり、および
bは、出現するごとに同種または異種であって、0〜5の整数である)
で表され、
少なくとも1つのDを有する、請求項1および2のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項4】
アリール環上に少なくとも1つの置換基を有し、アリール環上の前記置換基上で重水素化が行われている、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
Ar1からAr4の少なくとも1つが重水素化アリール基である、請求項3に記載の化合物。
【請求項6】
Ar1からAr2が少なくとも20%重水素化されている、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
アリール環上に少なくとも1つの置換基を有し、少なくとも1つの置換基と少なくとも1つのアリール環との両方の上で重水素化が行われている、請求項3に記載の化合物。
【請求項8】
1が炭化水素アルキルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項9】
1が重水素化アルキルである、請求項3に記載の化合物。
【請求項10】
式Iで表され、a=0である、請求項3に記載の化合物。
【請求項11】
式Iで表され、a=4でありR1がDである、請求項3に記載の化合物。
【請求項12】
式IIで表され、b=0である、請求項3に記載の化合物。
【請求項13】
式IIで表され、b=5でありR1がDである、請求項3に記載の化合物。
【請求項14】
Ar1からAr4が、ナフチル、フェニルナプチル(phenylnapthyl)、ナフチルフェニル、ビナフチル、および式III:
【化2】

(式中:
2は、出現するごとに同種または異種であって、D、アルキル、アルコキシ、アリール、シリル、およびシロキサンからなる群から選択されるか、隣接するR2基が結合して芳香環を形成することができるかであり、
cは、出現するごとに同種または異種であって、0〜4の整数であり、
dは、出現するごとに同種または異種であって、0〜5の整数であり、
mは、出現するごとに同種または異種であって、0〜6の整数である)
で表される基からなる群から選択される、請求項3に記載の化合物。
【請求項15】
Ar1からAr4が過重水素化されている、請求項3に記載の化合物。

【図1】
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【公表番号】特表2012−526108(P2012−526108A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509779(P2012−509779)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/068928
【国際公開番号】WO2010/128996
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】