説明

ルーパの調整方法及びルーパの点検方法、並びに、熱延鋼板の製造装置

【課題】 ルーパロールが軸継手よりもメカニカルストッパ側に、角度測定装置が軸継手よりも動力装置側に備えられるルーパにおいて、軸継手内部に不良が生じた場合であっても適切に角度測定装置の基準点調整を行うことができ、ルーパを適切に調整可能なルーパの調整方法、継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができるルーパの点検方法を提供する。
【解決手段】 動力装置を稼働させてルーパを可動範囲の上限或いは中間位置に固定させた状態で、角度測定装置の基準点調整を行うルーパの調整方法とし、当該ルーパの調整方法を用いたルーパの点検方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置におけるルーパの調整方法及びルーパの点検方法、並びに、熱延鋼板の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の圧延機列を備える熱延鋼板の製造装置(例えば、熱間仕上圧延機)において、被圧延材の張力制御を容易とするため、圧延機列のスタンドの間にルーパを設置することはよく知られている。ルーパは、被圧延材に押し当てられるルーパロール、ルーパロールを押し上げるためのアーム、アームにトルクを伝達するトルク伝達軸、及び、ルーパ角度を測定するための角度測定装置(アブソコーダ等)を備えており、さらに、軸継手(スプライン継手)及びトルクを発生させる動力装置が設けられている(例えば、特許文献1、2)。また、軸継手と動力装置との間には、ルーパの可動範囲を制限するためのメカニカルストッパが任意に備えられる。このようなルーパにおいては、上記のルーパロールやアームは、軸継手よりもメカニカルストッパ側に、上記の角度測定装置は、軸継手よりも動力装置側に備えられる形態が知られている。このようにすれば、軸継手部分を分解することで、電気・電子機器である動力装置や角度測定装置のみを修理・交換したり、剛体であるメカニカルストッパやアームのみを修理・交換することができ、ルーパのメンテナンスが容易となる。
【0003】
上記のような圧延機列において被圧延材を圧延する際は、ルーパ角度が一定に制御され、ルーパトルクやスタンドのロール周速度が制御され、被圧延材にかかる張力が制御される。具体的には、予め設定されたルーパ角度の目標値と、ルーパ角度の測定値との偏差や、予め設定された張力目標値と、ルーパトルク測定値及びルーパ角度測定値を用いて算出された被圧延材の張力計算値との偏差を用いて、ルーパトルク指令値や上流側スタンドのロール周速度指令値を修正することで、ルーパ角度や被圧延材の張力を適切に制御することができる(例えば、特許文献3、4)。また、被圧延材の張力を適切に制御することにより、被圧延材を所望の形状(特に所望の板幅)に圧延することができる。
【0004】
上述のように、圧延機列により被圧延材を圧延する場合は、角度測定装置により測定されたルーパ角度の測定値が、各制御のためのパラメータとして用いられるため、ルーパ角度の測定値が正確であることが必要となる。すなわち、測定値に係るルーパ角度と実測値に係るルーパ角度との間の誤差が極めて少ないことが必要である(尚、本願において、「測定値」とはアブソコーダ等のルーパに取り付けられた角度測定装置で測定した測定値、「実測値」とはルーパに取り付けられた上記角度測定装置以外の手段でルーパ角度を測定した値である。)。このような観点から、ルーパ角度の実測値を角度測定装置に入力して角度測定装置の基準点調整を行い、ルーパ角度の実測値とルーパ角度の測定値との間の誤差を無くすよう調整することが一般的となっている。当該基準点調整は、ルーパ角度の下限位置を基準にして行うのが通常である。具体的には、ルーパの可動範囲を制御するメカニカルストッパを、ルーパ角度下限側のストッパ受け台に接触させ、油圧(動力源)を切った状態で、基準点調整を行っていた。これは、例えば、ルーパ角度上限側にて基準点調整を行おうとすると、作業中にルーパの誤作動等によってルーパが急に下降して、作業員が負傷する虞がある等、安全上の問題があるからである。
【0005】
一方で、上記のような基準点調整が適切に行われなかった場合、ルーパ角度の測定値と実測値との間の誤差を調整することはできない。基準点調整を適切に行うことができない要因としては、(1)角度測定装置に誤差が生じている、(2)ルーパに設けられた軸継手が故障している、(3)メカニカルストッパが損耗し基準点調整時の基準点自体がずれている、等が考えられる。上記のうち(1)については、ほとんど生じないものと考えられていた。ただし、基板の故障等により角度測定値に入力していた値がメモリから消失した場合等においては、改めて基準点調整を行う等の手当てが必要となる。また、(2)については、軸継手の耐用年数が20年程度とされていることから、継手内部に潤滑剤が適切に存在している限り故障が生じることはほとんどないものと考えられていた。さらに(3)についても、メカニカルストッパは容易に損耗するものではなく、長期に亘り誤差は生じないものと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−198613号公報
【特許文献2】特開平6−63629号公報
【特許文献3】特開2008−18460号公報
【特許文献4】特開2007−185703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、角度測定装置の基準点調整は、ルーパ角度下限側で行うのが通例であるとともに、当該基準点調整において、軸継手やメカニカルストッパ等の耐久性から軸継手の故障や、メカニカルストッパの損耗等の誤差因子については考慮されていなかった。しかしながら、軸継手内部への潤滑油供給が不足する等の不測の事態により、継手内部が焼付いて機械部品に損耗が生じた場合、上記のような従来の基準点調整方法にあっては、継手内部に発生した機械部品間の損耗による隙間が基準点調整に影響を与え、適切に基準点調整を行うことができなかった。また、軸継手を分解しない限り継手内部を観察することができず、上記のような継手内部に生じた不良を確認することは容易でないため、継手内部の不良に気が付かないまま基準点調整や圧延機の操業が行われる虞があった。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ルーパのトルク伝達軸に設けられた軸継手内部に機械部品間の損耗による隙間といった不良が生じた場合であっても適切に角度測定装置の基準点調整を行うことができ、ルーパを適切な状態に調整可能な、ルーパの調整方法及び継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる、ルーパの点検方法、並びに、当該ルーパの点検方法を実行可能な熱延鋼板の製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、継手内部に不良が生じた場合における適切な基準点調整方法につき鋭意検討し、以下の知見を得た。
(1)ルーパのトルク伝達軸に、メカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に備えられ、ルーパロールが、軸継手よりもメカニカルストッパ側に設置され、角度測定装置が、軸継手よりも動力装置側に設置されるような従来のルーパにあっては、ルーパ角度下限側において角度測定装置の基準点調整を行った場合、基準点調整時における軸継手内部の部品間の隙間を抑える方向と、圧延時における軸継手内部の部品間の隙間を抑える方向とが異なるため、圧延時と基準点調整時とでルーパ角度に誤差が生じる。一方、圧延時における軸継手内部の部品間の隙間を抑える方向と、基準点調整時における軸継手内部の部品間の隙間を抑える方向とを一致させることにより、基準点調整時と圧延時とで、軸継手内部の部品間の隙間による誤差をなくすことができ、適切に基準点調整を行うことができる。これにより、ルーパを適切に調整できる。
(2)従来ルーパ角度下限側にて行われていた基準点調整を、ルーパ角度上限、或いは機械内部の部品間の隙間が設備の自重等で押えこまれる中間位置(角度上限と下限との間の任意の位置)にて行うことにより、上記(1)の適切な基準点調整が可能となる。
【0010】
また、本発明者は上記の基準点調整方法を応用することにつき鋭意検討し、以下の知見を得た。
(3)例えば、熱延鋼板の製造装置の初期設定時において上記適切な基準点調整をした直後のルーパ角度を基にして、その後、当該初期設定時のルーパ角度からの誤差(ずれ)をモニタリングすることにより、ルーパ角度に係る不良の有無を容易に確認することができる。
(4)特に、軸継手内部に不良が生じた場合においては、角度調整装置自体の誤差やメカニカルストッパの損耗に起因するものよりも、上記ずれが顕著となる。このような顕著なずれが生じた場合において、ルーパの外観に異常がない場合、ルーパの不良は軸継手内部に起因するものである可能性が高い。すなわち、外観から観察できない軸継手内部の不良を早期に発見することができる。
【0011】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。すなわち、
第1の本発明は、圧延機列及び当該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置におけるルーパの調整方法であって、ルーパにはルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、トルク伝達軸には、ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、ルーパロールが、軸継手よりもメカニカルストッパ側に設置され、角度測定装置が、軸継手よりも動力装置側に設置され、動力装置を稼働させてルーパを可動範囲の上限に押し当てて固定させた状態で、角度測定装置の基準点調整を行う、ルーパの調整方法である。
【0012】
第1の本発明及び以下に示す本発明において、「軸継手よりもメカニカルストッパ側」とは、軸継手の位置を基準として、ルーパのトルク伝達軸の長手方向延長線をメカニカルストッパ側と動力装置側とに二分した場合において、メカニカルストッパ側をいう。「軸継ぎ手よりも動力装置側」とは、ルーパのトルク伝達軸の長手方向延長線をメカニカルストッパ側と動力装置側とに二分した場合において、動力装置側をいう。「ルーパを可動範囲の上限に押し当てて固定させた状態で、角度測定装置の基準点調整を行う」とは、例えば、メカニカルストッパが上昇側受け台に突き当たるまでルーパを上昇させ、当該メカニカルストッパが上昇側受け台に突き当たった状態におけるルーパ角度の実測値に係る情報を角度測定装置に入力し、角度測定装置の基準点調整を行う形態を挙げることができる。
【0013】
第2の本発明は、第1の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに、角度測定装置によりルーパの上限角度を測定し、その後、動力装置を稼働させてルーパを再び可動範囲の上限に固定させた場合において、上記基準点の調整時における角度測定装置により測定されたルーパの上限角度の測定値と、その後における角度測定装置により測定されたルーパの上限角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法である。
【0014】
第2の本発明及び以下に示す本発明において、「所定値を超えた場合」とは、例えば、ルーパの上限角度の測定値の差が、予め設定された通常の誤差範囲に係る角度値を超えた場合を挙げることができる。具体的には、所定値を2°とすることができる。「異常通知手段」とは、作業者にルーパに異常が生じている旨を通知可能な手段をいい、例えば、警告ランプやブザーあるいは回転灯といった通常の警報装置とすることができる。
【0015】
第3の本発明は、第1の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整し、角度測定装置によりルーパの上限角度を測定するとともに、当該上限角度を確認可能な確認手段を設け、その後、角度測定装置の測定値が、基準点の調整時におけるルーパの上限角度の測定値となるまで、ルーパを上昇させた場合において、確認手段によりルーパの位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法である。
【0016】
第3の本発明において、「上限角度を確認可能な確認手段を設け」とは、操業前にルーパを可動範囲上限まで上昇させた場合において、当該ルーパの位置をその後においても確認可能とするために、確認手段を設けることをいう。「確認手段」とは、ルーパの位置ずれが確認可能な手段であれば特に限定されるものではなく、目盛、画像認識装置、或いは画像認識装置に記録した画像データ等の視覚で判断可能な手段や、リミットスイッチ、また、遮光センサ、反射センサといったルーパの存在を検知する装置等を例示することができる。また、第3の本発明及び以下に示す本発明において、「ずれが所定値を超えた場合」とは、例えば、ずれを角度値に換算した場合、当該角度値が予め設定された通常の誤差範囲に係る角度値を超えた場合を挙げることができる。具体的には、2°のずれを上記所定値とすることができる。
【0017】
第4の本発明は、圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、トルク伝達軸には、ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、ルーパロールが、軸継手よりもメカニカルストッパ側に設置され、角度測定装置が、軸継手よりも動力装置側に設置され、第1の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整し、該角度測定装置によりルーパの上限角度を測定した場合に、該上限角度の測定値を記録可能な記録手段と、第1の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに、該角度測定装置によりルーパの上限角度を測定し、その後、動力装置を稼働させてルーパを再び可動範囲の上限に固定させた場合において、基準点の調整時における角度測定装置により測定されたルーパの上限角度の測定値と、その後における角度測定装置により測定されたルーパの上限角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置である。
【0018】
第5の本発明は、圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、トルク伝達軸には、ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、ルーパロールが、軸継手よりもメカニカルストッパ側に設置され、角度測定装置が、軸継手よりも動力装置側に設置され、第1の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに、該角度測定装置によりルーパの上限角度を測定した場合に、該上限角度を確認可能な確認手段と、第1の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整し、該角度測定装置によりルーパの上限角度を測定した場合に、該上限角度の測定値を記録可能な記録手段と、第1の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整した後、角度測定装置の測定値が、基準点の調整時におけるルーパの上限角度の測定値となるまで、ルーパを上昇させた場合に、確認手段によりルーパの位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置である。
【0019】
一方、以下の第6〜第10の本発明としても上記課題を解決することができる。
【0020】
すなわち、第6の本発明は、圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置におけるルーパの調整方法であって、ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、トルク伝達軸には、ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、ルーパロールが、軸継手よりもメカニカルストッパ側に設置され、角度測定装置が、軸継手よりも動力装置側に設置され、動力装置を稼働させてルーパを中間位置まで移動させた状態で、角度測定装置の基準点調整を行う、ルーパの調整方法である。
【0021】
第6の本発明において、「中間位置」とは、ルーパ可動範囲の上限と下限との間の任意の位置をいい、ルーパの内部の部品間の隙間(特に、軸継手の内部の部品の損耗による隙間)がルーパロール等の自重で抑え込まれるような位置をいう。「ルーパを中間位置まで移動させた状態で、角度測定装置の基準点調整を行う」とは、中間位置においてルーパの角度測定装置の基準点調整を行い得る形態であれば特に限定されるものではないが、例えば、中間位置にルーパがあることを検知可能な検知手段を設け、該検知手段がルーパを検出できる位置までルーパを上昇させ、該検知手段がルーパを検知している状態におけるルーパ角度の実測値に係る情報を角度測定装置に入力し、角度測定装置の基準点調整を行う形態を挙げることができる。検知手段は、ルーパの動作と干渉しない場所に設置する。中間位置にルーパがあることを検知できる検知手段とは、画像認識装置、或いは画像認識装置に記録した画像データ等の視覚で判断できるものや、リミットスイッチ、また、遮光センサ、反射センサといったルーパの存在を検知する装置等が例示される。尚、中間位置を基準点とするためには、該中間位置におけるルーパ角度は予め正確に測定されている必要がある。
【0022】
第7の本発明は、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに該角度測定装置により中間位置おけるルーパ角度を測定し、ルーパが当該中間位置にあることを検知可能な検知手段を設け、その後、動力装置を稼働させて、検知手段によりルーパが検知される中間位置まで、ルーパを移動させた場合において、基準点の調整時において角度測定装置により測定された、中間位置におけるルーパ角度の測定値と、その後において角度測定装置により測定された、中間位置におけるルーパ角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法である。
【0023】
第7の本発明及び以下に示す本発明において、「検知手段」とは、第6の本発明に係る上記説明にて例示した検知手段を用いることができる。尚、検知手段は、基準点調整時の中間位置におけるルーパを検知可能であればよく、基準点調整の前に設けても基準点調整時に設けてもよい。
【0024】
第8の本発明は、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに、該角度測定装置により中間位置におけるルーパ角度を測定し、ルーパが当該中間位置にあることを検知可能な検知手段を設け、その後、角度測定装置の測定値が、基準点の調整時におけるルーパ角度の測定値となるまで、ルーパを移動させた場合において、検知手段により、ルーパの位置ずれが検知され、該ずれが所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法である。
【0025】
第8の本発明及び以下に示す本発明において、「角度測定装置の測定値が、基準点調整時におけるルーパ角度の測定値となるまで、ルーパを移動させ」とは、基準点調整時、ルーパが中間位置にある場合に測定された、該中間位置に係るルーパ角度測定値となるまで、ルーパを上昇或いは下降させることをいう。
【0026】
第9の本発明は、圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、トルク伝達軸には、ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、ルーパロールが、軸継手よりもメカニカルストッパ側に設置され、角度測定装置が、軸継手よりも動力装置側に設置され、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに該角度測定装置により中間位置におけるルーパ角度を測定した場合に、該中間位置にあるルーパ角度の測定値を記録可能な記録手段と、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整した場合における中間位置に、ルーパがあることを検知可能な検知手段と、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに該角度測定装置により中間位置におけるルーパ角度を測定し、その後、動力装置を稼働させてルーパを検知手段により検知される上記中間位置まで移動させた場合に、基準点の調整時において角度測定装置により測定された中間位置におけるルーパ角度の測定値と、その後において角度測定装置により測定された中間位置におけるルーパ角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置である。
【0027】
第10の本発明は、圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、トルク伝達軸には、ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、ルーパロールが、軸継手よりもメカニカルストッパ側に設置され、角度測定装置が、軸継手よりも動力装置側に設置され、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整した場合に、中間位置にあるルーパを検知可能な検知手段と、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに該角度測定装置により中間位置におけるルーパ角度を測定した場合に、該中間位置にあるルーパ角度の測定値を記録可能な記録手段と、第6の本発明に係る調整方法によって角度測定装置の基準点を調整した後、角度測定値が基準点調整時におけるルーパ角度の測定値となるまで、ルーパを移動させた場合に、検知手段によりルーパの位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に異常が知らせられる異常通知手段と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置である。
【0028】
第6〜第10の本発明において、ルーパを中間位置まで上昇させた後、ルーパ角度を測定することが好ましい。下降した後測定すると機械内部の隙間が部品間の摩擦により保持された状態で測定してしまう虞があるからである。逆に上昇時には機械内部の隙間が無くなった後、ルーパが上昇するため、ルーパの自重だけで隙間を抑えるのに比べて高い精度で測定できる。
【0029】
第7の本発明と第8の本発明との相違点(第9の本発明と第10の本発明との相違点)は、第7の本発明では、ルーパを実際に中間位置まで移動させた際の角度測定値の差異で、異常を検出しているのに対し、第8の本発明では、ルーパを角度測定装置の測定値をもとに中間位置と判断される位置までルーパを移動させ、この場合にルーパが実際に中間位置にあるか否かで異常を検出している点である。
【発明の効果】
【0030】
第1の本発明又は第6の本発明によれば、トルク伝達軸に設けられた軸継手内部に不良が生じた場合であっても適切に角度測定装置の基準点調整を行うことができ、ルーパを適切な状態に調整できる。また、第2の本発明及び第3の本発明又は第7の本発明及び第8の本発明によれば、第1の本発明又は第6の本発明に係るルーパの調整方法を応用することで、継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。さらに、第4の本発明及び第5の本発明又は第9の本発明及び第10の本発明によれば、第2の本発明及び第3の本発明又は第7の本発明及び第8の本発明に係るルーパの点検方法を適切に実行可能であり、ルーパのトルク伝達軸の軸継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認可能な熱延鋼板の製造装置が提供される。
【0031】
また、第6〜第10の本発明によれば、任意のルーパ角度で基準点調整を行うことができるとともに、圧延時のルーパ使用条件に近い状態で適切に基準点調整を行うことができ、且つ、頻繁に異常を監視することができる。一方で、第1〜第5の本発明によれば、ルーパの角度測定の障害になる機械部品間の損耗による隙間の影響を確実に抑えることができる。本発明が最も効果を発揮する態様は、通常時は第6〜第10の本発明を実行し、当該実行時において異常が検知された場合には、第1〜第5の本発明により、再び異常を確認する態様である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】熱延鋼板の製造装置のスタンド間の構成を説明するための概略図である。
【図2】ルーパの構成を説明するための概略図である。
【図3】被圧延材の圧延時における、スタンド及びルーパの制御を説明するための概略図である。
【図4】ルーパの角度測定装置の出力が15°である場合における、スプライン継手の不良によるルーパ角度低下量と被圧延材の張力変化との関係を示す図である。
【図5】スプライン継手内部の部品の損耗による隙間の発生及び隙間を抑え込んだ状態を説明するための図である。
【図6】メカニカルストッパを下側受け台に突き当てた状態でアブソコーダの基準点調整を行った場合のアブソコーダ測定値と実角度との関係を示す図である。
【図7】本発明に係る調整方法によりアブソコーダの基準点調整を行った場合のアブソコーダ測定値と実角度との関係を示す図である。
【図8】本発明に係る点検方法の一形態である点検方法S100を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明に係る点検方法の別形態である点検方法S200を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明に係る点検方法の別形態である点検方法S300を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明に係る点検方法の別形態である点検方法S400を説明するためのフローチャートである。
【図12】比較例に係る調整方法によりアブソコーダの基準点調整を行い、圧延を行った場合における板幅のばらつきを示す図である。
【図13】実施例に係る調整方法によりアブソコーダの基準点調整を行い、圧延を行った場合における板幅のばらつきを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施形態に係る本発明のルーパの調整方法及びルーパの点検方法を説明する前に、まず、本発明のルーパの調整方法及びルーパの点検方法が適用される圧延機列のスタンド間の形態、及び当該圧延機列のスタンド間にて行われる制御について説明する。
【0034】
図1は、熱延鋼板の製造装置100において、隣接する二つのスタンド2、3(圧延機2、3)のロールを所定方向に回動させることにより、被圧延材1を圧延方向に通板しながら、圧延している状態を示す概略図である。スタンド2、3の間には、ルーパ10が設置されており、ルーパ10のルーパロール11が被圧延材1に押し当てられることにより、被圧延材1の張力を容易に制御可能としている。本実施形態において、ルーパ10は下記の構成を有する。
【0035】
図2はルーパ10の構成を示す概略図である。図2(A)ではルーパ10の全体構成が概略的に示されており、図2(B)では、図2(A)にIIB−IIBで示される矢視断面が概略的に示されており、図2(C)では、図2(A)にIIC−IICで示される矢視断面が概略的に示されている。図2(A)の紙面左右方向が、図1の紙面奥行き方向と一致し、図2(B)、(C)の紙面奥行き方向が、図1の紙面奥行き方向と一致している。図2(A)〜(C)に示されるように、ルーパ10は、被圧延材1に押し当てられるルーパロール11、当該ルーパロール11を上昇・下降させるアーム12、当該アーム12を回動可能とするトルク伝達軸13、ルーパ10の可動範囲を制限するためのメカニカルストッパ14、スプライン継手15、トルクを発生させる動力装置16、及びルーパ角度を測定するアブソコーダ17を備えている。ルーパ10においては、ルーパロール11及びアーム12が、スプライン継手15よりもメカニカルストッパ14側に設置され、アブソコーダ17がスプライン継手15よりも動力装置16側に設置されている。
【0036】
ルーパロール11、アーム12及びトルク伝達軸13は、トルク伝達軸13によりアーム12にトルクが伝達されることで、トルク伝達軸13を中心にアーム12が回動し、アーム12の先に取り付けられたルーパロール11が上昇・下降する。本実施形態において、ルーパロール11、アーム12及びトルク伝達軸13については、ルーパに備えられる公知のルーパロール、アーム及びトルク伝達軸を特に限定されることなく用いることができる。
【0037】
メカニカルストッパ14は、ルーパ角度の上限及び下限を決定し、ルーパ10の可動範囲を制限するためのものである。図2(B)に示されるように、本実施形態においてメカニカルストッパ14は、断面が略L字状とされるとともに、トルク伝達軸13を中心に回動可能とされている。ルーパ10においては、トルク伝達軸13の回動によってメカニカルストッパ14のL字状の上側部が上側受け台18に突き当てられるまで、ルーパ10のルーパロール11がアーム12及びトルク伝達軸13を介して上昇可能とされ、メカニカルストッパ14のL字状の下側部が下側受け台19につき当てられるまで、ルーパ10のルーパロール11がアーム12及びトルク伝達軸13を介して下降可能とされている。尚、メカニカルストッパ14の形状は略L字状に限定されるわけではなく、上記のように機能する形態であれば、形状、大きさ、材質等は特に限定されるものではない。
【0038】
スプライン継手15は、動力装置16からの動力をトルク伝達軸13に伝えるための軸継手として機能する部材である。また、当該スプライン継手15の継手部分を分解することで、動力装置16及びアブソコーダ17と、メカニカルストッパ14等とを個別に取り扱うことができ、ルーパ10のメンテナンスを容易としている。本実施形態において、スプライン継手15としては、公知のスプライン継手を用いることができる。スプライン継手15は、外部の供給装置等(不図示)から内部へと潤滑剤が供給され、継手内部の焼き付き及び部品の損耗が防止されている。尚、軸継手はスプライン継手に限定されるものではなく、ギヤカップリングやフランジ等を用いてもよい。
【0039】
動力装置16は、スプライン継手15を介してトルク伝達軸13に連繋されており、動力装置16を駆動させることにより、トルク伝達軸13を回転させ、アーム12がルーパロール11を伴って傾動するような構造となっている。本実施形態において、動力装置16としては、特に限定されるものではなく、ルーパの上昇・下降を可能とする公知の動力装置を用いることができる。
【0040】
アブソコーダ17は、スプライン継手15よりも動力装置16側に設けられる装置であり、ルーパの角度を測定する角度測定装置として機能するものである。アブソコーダ17は、製造装置100の操業前等において、後述する本発明に係る調整方法により、ルーパ角度の実測値がPLC等に入力されて基準点調整が行われており、ルーパ角度の実測値とルーパ角度の測定値との間の誤差が無くなるよう予め調整されている。ここで、PLCとは、外部からの各入力信号を基に、圧延時の各制御等の計算を実施し、ルーパトルクやロール周速度に係る指令を各設備に出力する装置としても機能し、例えば、アブソコーダ17からの出力信号を受けるよう、アブソコーダ17の外部に結線されたものである。これにより、圧延時においても実測値とずれのない正確なルーパ角度を測定することができる。アブソコーダ17は、ルーパ角度を測定可能なものであれば、公知のものを特に限定されることなく用いることができる。
【0041】
被圧延材1を圧延する際は、スタンド2、3及び上記構成を備えるルーパ10の動作を制御することにより、ルーパ角度が適切な角度に維持されるとともに、圧延時に被圧延材1に生じる張力が制御され、被圧延材1を所望の板形状(特に板幅)に圧延することができる。
【0042】
ルーパの測定値が圧延の制御に用いられている一例を挙げる。図3は、被圧延材1の圧延時における、スタンド2、3及びルーパ10の制御を説明するための概略図である。図2及び図3に示されるように、被圧延材1の圧延時において、スタンド2、3及びルーパ10の動作を制御する際は、アブソコーダ17により測定されたルーパ角度の測定値と角度目標値との偏差により動力装置16にトルクの増減を指令する角度制御装置20と、アブソコーダ17により測定されたルーパ角度の測定値及び動力装置16からのルーパトルク値により被圧延材1の張力を計算する計算装置30と、計算装置30により計算された張力と張力目標値との偏差により上流側スタンド2(或いは、下流側スタンド3や、上流側スタンド2及び下流側スタンド3の双方)のロール周速度の増減を指令する速度制御装置40と、が用いられている。
【0043】
角度制御装置20は、ルーパ角度を角度目標に近づけるように、動力装置16にトルクの増減を指令する装置である。本実施形態において、角度制御装置20は、ルーパ角度測定値及び角度目標値を入力可能であり、当該入力値に基づいて動力装置16へとトルクの増減指令を出力可能なものであれば特に限定されるものではなく、公知の制御装置を用いることができる。
【0044】
計算装置30は、ルーパ角度測定値とルーパトルク値とにより、被圧延材1に生じている張力を計算するための装置である。例えば、ルーパトルク値を被圧延材1からルーパロール11への抗力に換算するとともに、ルーパ角度測定値を被圧延材1の傾斜角度に換算し、当該傾斜角度を用いて三角関数により上記抗力を被圧延材1に生じている張力に変換することができる。本実施形態において、計算装置30は、このような計算処理が可能な装置であれば特に限定されるものではなく、公知の計算装置を用いることができる。
【0045】
速度制御装置40は、計算装置30により計算された被圧延材1にかかる張力計算値を張力目標値に近づけるように、上流側スタンド2(或いは、下流側スタンド3や、上流側スタンド2及び下流側スタンド3の双方)にロール周速度の増減を指令する装置である。本実施形態において、速度制御装置40は、計算装置30により計算された被圧延材1にかかる張力計算値及び張力目標値を入力可能であり、当該入力値に基づいて上流側スタンド2のロール周速度の増減指令を出力可能なものであれば特に限定されるものではなく、公知の制御装置を用いることができる。
【0046】
このように、スタンド2、3及びルーパ10の各制御(ロール周速度制御やルーパトルク制御)は、独立して行われる。スタンド2、3及びルーパ10の動作制御については、公知のPI制御等を用いて行うことができる。
【0047】
上述のように、圧延時のスタンド2、3及びルーパ10の制御においては、アブソコーダ17により測定されたルーパ角度がパラメータとして用いられるため、ルーパ角度測定値とルーパ角度実測値との間の誤差が極めて少なく、当該ルーパ角度測定値が正確であることが必要となる。図4に、目標角度を15°とした場合における、ルーパ角度の測定値と実際のルーパ角度との誤差(ルーパ角度低下量)と、当該誤差により生じる被圧延材1にかかる張力変化率との関係を示す。図4に示されるように、ルーパ角度低下量が大きくなるに従って、ルーパ角度測定値に基づいて求められた被圧延材1にかかる張力と、実際のルーパ角度に基づいて求められた被圧延材1にかかる張力との間の誤差も大きくなることがわかる。具体的には、ルーパ角度低下量が2°の場合、張力計算値が実際の張力よりも約1.2倍となり、4°の場合約1.5倍に、8°となると3.5倍となる。このような張力の誤差により、スタンド間での被圧延材1の板収縮(特に板幅の収縮)の増加が生じ、これによって特に板幅精度が悪化する。ルーパ角度測定値を正確なものとするためには、操業前にルーパ角度実測値を用いてアブソコーダ17の基準点調整を行うことが一般的である。
【0048】
従来においてアブソコーダ17の基準点調整は、メカニカルストッパ14を下側受け台19に接触させ油圧を切った状態で、すなわちルーパ角度下限側で行われていた。この場合、ルーパ10が正常な状態であれば、当該基準点調整を適切に行うことができ、ルーパ角度測定値とルーパ角度実測値との間の誤差は極めて少ないものとなる。しかしながら、発明者は、ルーパ10の外観からは確認できないような不良が生じている場合、特に、スプライン継手15の内部の部品が損耗し、予期せぬ部品間の隙間が生じている場合に、当該不良に気づかないまま従来の基準点方法を用いたのでは、ルーパ10のアブソコーダ17の基準点調整を適切に行うことができないことを知見した。
【0049】
図5を参照しつつ、スプライン継手15の内部に予期せぬ部品間の隙間が生じた場合における、従来の基準点調整の問題点につき具体的に説明し、その後、本発明に係るルーパの調整方法について説明する。
【0050】
図5(A)には、焼き付きがなく部品に損耗が発生する前におけるスプライン継手の雄雌の歯車の噛み合わせと、焼き付きにより部品に損耗が発生した場合におけるスプライン継手の雄雌の歯車の噛み合わせとが示されている。図5(A)に示されるように、継手内部の損耗発生前においては、スプライン継手15は、内部において雄雌形状が噛み合っており、間隙には潤滑剤が存在している状態にある。このような正常な状態のスプライン継手15を介して動力装置16からトルク伝達軸13にトルクを伝達する場合は、動力装置16側のスプライン継手15の回転(回転量)とトルク伝達軸13側のスプライン継手15の回転(回転量)とが一致するため、動力装置16側に設置されたアブソコーダ17により測定される角度が、実際にトルク伝達軸13が回転した角度、すなわち実際のルーパ角度と等しくなる。また、メカニカルストッパ14を上下受け台18、19に突き当てた場合であっても、動力装置16側のスプライン継手15とトルク伝達軸13側のスプライン継手15との回転が一致しており、回転量にずれが生じることはない。一方、スプライン継手15内の潤滑剤がなくなる等の不測の事態が生じ、スプライン継手15の内部の焼き付き等によって、継手内部の部品に損耗が生じた場合、動力装置16側のスプライン継手15の回転(回転量)とトルク伝達軸13側のスプライン継手15の回転(回転量)とが一致しなくなる。すなわち、動力装置16側のスプライン継手15が回転し、内部の部品の損耗により生じた隙間が抑え込まれた後にトルク伝達軸13側のスプライン継手15が回転し始めることとなるため、動力装置16側のスプライン継手15の回転量が、トルク伝達軸13側のスプライン継手15の回転量よりも大きくなる。
【0051】
図5(B)は、部品に損耗が生じているスプライン継手13を用いて、メカニカルストッパ14を下側受け台19に突き当てた状態で、すなわちルーパ角度の下限側でアブソコーダ17の基準点調整を行った場合に生じる角度誤差について説明するための図である。図5(B)に示されるように、ルーパ角度の下限側において基準点調整時行った場合、メカニカルストッパ14が下側受け台19に突き当たることにより、スプライン継手13の内部は、矢印Xで示される方向に隙間が抑え込まれた状態となる。一方、圧延時には、ルーパロール11が被圧延材1から受ける抗力によって、スプライン継手13の内部は、矢印Xとは反対の矢印Yで示される方向に隙間が抑え込まれた状態となる。すなわち、基準点調整時と圧延時とで隙間を抑え込む方向が一致していない。上述のように、継手内部の部品の損耗による隙間が発生した場合、動力装置16側のスプライン継手15が回転し、内部の隙間が抑え込まれた後にトルク伝達軸13側のスプライン継手15が回転し始めることとなるため、動力装置16側のスプライン継手15の回転量が、トルク伝達軸13側のスプライン継手15の回転量よりも大きくなる。従って、図6に示されるように、ルーパ角度下限側で基準点調整を行った場合には、アブソコーダ17により測定されるルーパ角度が目標角度と一致していても、実際のルーパ角度は損耗による隙間の分だけ小さな角度となっている。すなわち、下降限で基準点調整を行った場合に、当該下降限からルーパ10を上昇させる場合、アブソコーダ17の測定値は上昇する一方で、実際のルーパ10は、部品間の隙間が無くなるまで下降限に留まり、隙間が抑え込まれた後、上昇に転じる。そのため、目標角度におけるアブソコーダ17の測定値と、実角度との間に、Eで示される誤差が生じる。上述のように、ルーパ角度測定値とルーパ角度実測値との間の誤差は、被圧延材1の張力変化を生じさせ、被圧延材1を所望の板幅に圧延することが困難となる。
【0052】
従って、上記のようなルーパ角度測定値とルーパ角度実測値との間の誤差をなくすため、図5(C)に示されるように、圧延時においてスプライン継手15の部品間の隙間が抑え込まれる方向と、アブソコーダ17の基準点調整時においてスプライン継手15の部品間の隙間が抑え込まれる方向とを一致させる。本発明に係るルーパの調整方法においては、アブソコーダ17の基準点調整を、メカニカルストッパ14を上側受け台18に突き当てた状態、すなわちルーパの可動範囲の上限側(ルーパ角度上限側)で行う、或いは、ルーパ10のスプライン継手15の内部の部品間の隙間がルーパロール11等の自重により隙間が抑え込まれる中間位置で行うことにより、圧延時におけるスプライン継手15の内部の部品の隙間の抑え込まれる方向と、アブソコーダ17の基準点調整時におけるスプライン継手15の内部の部品の隙間の抑え込まれる方向とを一致させることを可能とした。これにより、例えば、図7に示されるように、ルーパ角度上限にて基準点調整を行うことで、ルーパ目標角度において、アブソコーダ17によるルーパ角度測定値と実際のルーパ角度との間の誤差をなくすことができ、すなわち、ルーパ角度上限にて圧延時と同様の方向に適切に隙間が抑え込まれた状態でアブソコーダ17の基準点調整がなされるので、その後、目標角度にルーパを下降させた場合に、アブソコーダ17の測定値と実角度との誤差がなく、被圧延材1の張力が正しく計算され、被圧延材1を所望の板幅に圧延することができる。ルーパ10のスプライン継手15の内部の部品の隙間がルーパロール11等の自重により抑え込まれるような中間位置で基準点調整を行う場合も同様である。また、アブソコーダ17の基準点調整が適切に行われるので、スプライン継手のストックがなく、損耗の生じたスプライン継手を使い続けなければならないような事態に陥っても、引き続き被圧延材1の圧延を適切に行うことができる。尚、図7に示されるように、ルーパ角度の上限、或いはルーパ10のスプライン継手15の内部の部品の隙間がルーパロール11等の自重により抑え込まれるような中間位置においてアブソコーダ17の基準点調整を行った場合は、ルーパ角度の下限においてスプライン継手15の内部の部品の損耗の影響により角度誤差が生じるが、ルーパ下降限においては、ルーパロール11と被圧延材1とが接触していない状態にあるため、ルーパ10が機能しておらず、ルーパ角度誤差の影響はない。
【0053】
一方で、従来のルーパ角度下限側にて基準点調整を行う場合であっても、ルーパ10におけるメカニカルストッパ14等の設置位置を変更することによって、圧延時におけるスプライン継手15の内部の部品の隙間が抑え込まれる方向と、アブソコーダ17の基準点調整時におけるスプライン継手15の内部の部品の隙間が抑え込まれる方向とを一致させることが可能となる。例えば、メカニカルストッパ14を、スプライン継手15よりも動力装置16側に設けることで、メカニカルストッパ14が下側受け台19に突き当てられた状態においても、スプライン継手15の内部の部品の隙間は、ルーパロール11の自重によって、圧延時と同様の方向に隙間が抑え込まれた状態となる。一方、ルーパロール11やアブソコーダ17の設置位置を変更することで、スプライン継手15の内部の部品の隙間の影響を打ち消すこともできる。例えばアブソコーダ17をスプライン継手15よりもメカニカルストッパ14側に設けることにより、トルク伝達軸13そのものの角度を測定することができる。ただし、これらの変更によって、ルーパ10のメンテナンス性や設置性が悪くなる虞がある。
【0054】
また、上下の受け台18、19にルーパ10(メカニカルストッパ14)を押し当てたときの角度の差を記録し、これを監視することによってもスプライン継手15の異常を検知することができる。すなわち、スプライン継手15の内部に部品の損耗による隙間が生じた場合、上下の受け台18、19の間において、アブソコーダ17により測定される回動軸(動力装置16側のスプライン継手15の軸)の回転量が、損耗によって生じた隙間の分だけ大きくなる。従って、スプライン継手15の内部に損耗による隙間が生じた場合、上下の受け台18、19にルーパ10を押し当てた時の角度差が大きくなる。
【0055】
尚、本発明に係る調整方法を行った後、再度アブソコーダ17の基準点調整を行う場合は、メカニカルストッパ14を上側受け台18に突き当てた状態、或いはルーパ10を中間位置に保持した状態で、本発明に係る基準点調整方法を行った際に測定したルーパ角度実測値をPLC等の装置に送信し、当該PLC内のアブソコーダ角度をルーパ角度実測値に書き換えることによって、再び実測作業を行うことなくスプライン継手15の内部の部品の損耗の進行によるアブソコーダ17の測定誤差を修正することができる。ただし、上記のようなルーパ角度実測値の送信のみでは、例えば、基準点調整をルーパ角度上限にて行う場合は、メカニカルストッパ14や上側受け台18の損耗によるルーパ上限角度の誤差が修正できないため、ルーパ角度を実測する基準点調整を定期的に行うことが好ましい。
【0056】
一方、アブソコーダ17の基準点調整を適切に行った場合でも、その後、スプライン継手15に不良が生じた場合、当該不良によりルーパ角度に誤差が生じ、やはり被圧延材1の張力が誤って計算されてしまう。スプライン継手15内部の不良は、ルーパ10の外観から確認することが困難であり、不良に気がつかないままルーパ10を稼働させてしまう可能性が高い。そのため、スプライン継手15の不良の程度を簡易的に確認可能な点検方法があれば好ましい。これに対し、上記本発明に係る調整方法を応用すれば、スプライン継手15の不良の程度を簡易的に確認・点検できる。
【0057】
図8に、本発明に係る点検方法の一形態である点検方法S100のフローチャートを示す。図8に示されるように、点検方法S100は、ルーパ角度上限にて行われる上記基準点調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整する工程S11と、ルーパ角度上限値を測定する工程S12と、その後、動力装置16を稼働させてルーパ10を可動範囲の上限に固定させる工程S13と、ルーパ角度上限値を測定する工程S14と、工程S12にて測定したルーパ角度上限値と、工程S14にて測定したルーパ角度上限値とを比較し、ルーパ角度上限値の変化(ルーパ角度上限値の差)が所定範囲内であるか否かを判定する工程S15と、工程S15において否定判断がなされた場合に異常を通知する工程S16と、を有している。
【0058】
(工程S11、S12)
工程S11、S12は、基準点調整の工程である。工程S11は、例えば、製造装置100の操業前等において、本発明に係る調整方法によりアブソコーダ17の基準点を調整する工程である。工程S11は、ルーパを上昇限に押し当て、実測値を取得(例えばアブソコーダ以外の手段でルーパ角度を測定)、実測値を記録装置に記録からなる工程である。工程S12は、工程S11に係る基準点調整時にルーパ角度上限値をアブソコーダ等で測定する工程である。工程S11においては、ルーパ角度上限側で基準点調整が行われるため、工程S12においては当該基準点調整時の角度をそのまま測定した値を用いるか、あるいは基準点調整時の実測値を用いればよい。当該ルーパ角度測定値(或いは、実測値)は、アブソコーダ17内やその他記録装置内に記録される。
【0059】
(工程S13、S14)
工程S13は、動力装置16を稼働させて再びルーパ10を上昇させる工程である。この際、ルーパ10は、メカニカルストッパ14が上側受け台18に突き当たるまで上昇される。工程S13は、例えば、製造装置100の操業開始後(操業中又は操業後)に行うことができる。そして工程S14において、当該上昇限におけるルーパ角度が測定される。
【0060】
(工程S15、16)
工程S15は、工程S12において測定された基準点調整時のルーパ角度上限値と、工程S14において測定されたその後のルーパ角度上限値とを比較し、ルーパ角度上限値の変化(ルーパ角度上限値の差)が所定範囲内であるか否かを判定する工程である。工程S15はアブソコーダ17に設けられた記憶部や公知の記憶装置等、基準点調整時及びその後のルーパ角度上限値を比較可能な装置により行われる。
【0061】
基準点調整の後、アブソコーダ17が正常に機能し、且つ、スプライン継手15の内部に何ら異常が生じていない場合、工程S12において測定されたルーパ角度上限値と、工程S14において測定されたルーパ角度上限値との差は、アブソコーダ17の機器誤差やメカニカルストッパ14の損耗による誤差の範囲内となるはずである。従って、工程S12において測定されたルーパ角度上限値と、工程S14において測定されたルーパ角度上限値とを比較し、ルーパ角度上限値の変化量が所定値内である場合は、ルーパ10が正常に機能しているものとし、特に異常が知らせられることはない。この場合、判定を終了させても良いが、次に点検する際(例えば点検指令がなされた場合)には工程S13より開始すればよい。工程S11、S12は異常が検知される(後述の工程S16)、ルーパに関する設備が故障してしまう、あるいは定期点検まで実施する必要は無い。一方、ルーパ角度上限値の変化量が所定値を超えており、工程S15において否定判断がなされた場合は、工程S16に進み、異常通知手段へと信号が伝えられ、作業者に異常が通知される。異常通知手段としては公知の警報機等を用いることができる。異常通知手段からの通知により、作業者は、ルーパ10が何らかの異常を有し、ルーパ角度に誤差が生じていることを早期に知ることができ、ルーパ10の点検に入ることができる。そして、ルーパ10の外観やアブソコーダ17自体に異常がない場合、作業者は、上記ルーパ角度上限値の変化がスプライン継手15の異常によるものであることを認識することができる。
【0062】
また、アブソコーダ17の機器誤差は、スプライン継手15の内部の不良による誤差と比較して、かなり小さい。そこで、例えば、ルーパ角度上限値の変化に係る上記所定値について、プラスマイナス2°程度に設定しておくことにより、アブソコーダ17の機器誤差によって異常が通知されるようなことはなくなる。また、スプライン継手15の内部の損耗の進行により、実際のルーパ10の角度は徐々に低下するため、スプライン継手15の内部に不良が生じた場合は、メカニカルストッパ14を上側受け台18に突き当てた状態において、アブソコーダ17によるルーパ角度測定値が、それ以前に測定されたルーパ角度測定値よりも大きくなる。従って、例えば、ルーパ角度上限値の変化に係る上記所定値をプラス2°以下とすることにより、スプライン継手15の不良による角度誤差のみをより効果的に検知することができる。
【0063】
上記のような工程S11〜工程S16を備えることにより、ルーパ10のルーパ角度異常が早期に通知され、ルーパ10のスプライン継手15の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。すなわち、本発明に係る点検方法S100によれば、本発明に係るルーパの調整方法を応用することで、継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。
【0064】
スプライン継手15の不良の有無、不良の程度については、点検方法S100以外の方法によっても確認することができる。図9に、本発明の点検方法の別形態である点検方法S200のフローチャートを示す。図9に示されるように、点検方法S200は、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整する工程S21と、当該基準点調整時のルーパ角度上限値を測定する工程S22とを備えている。また、点検方法S200においては、当該工程S21やS22の前、或いは工程S22とS23の間において、工程S22で測定された上限角度を確認可能な確認手段を設ける工程が行われる。特に、工程S21の前に行われることが好ましい。その後、点検方法S200においては、アブソコーダ17の測定値が上記基準点調整時おける上限角度の測定値となるまで、ルーパ10を上昇させる工程S23と、ルーパ位置に係る確認手段からのずれが所定範囲内か否かを判断する工程S24と、工程S24において否定判断がなされた場合に異常通知手段により異常が知らせられる工程S25とが行われる。
【0065】
(工程S21、S22)
工程S21、S22は、基準点調整の工程である。工程S21は、例えば、製造装置100の操業前等において、本発明に係る調整方法によりアブソコーダ17の基準点を調整する工程である。工程S21の内容については、工程S11と同様であるため、説明を省略する。工程S22は、工程S21に係る操業前の基準点調整時にルーパ角度上限値を測定する工程である。工程S21においては、ルーパ角度上限側で基準点調整が行われるため、工程S22においては当該基準点調整時の角度をそのまま測定すればよい。当該ルーパ角度測定値は、アブソコーダ17内やその他記録装置内に記録される。
【0066】
上記工程S21、S22の前、或いは工程S22と工程S23の間には、ルーパ上限角度を確認可能な確認手段が設けられる。当該確認手段としては、例えば、ルーパ上限角度におけるルーパ位置を示す目盛等を挙げることができる。また、画像認識装置を用いて、ルーパ上限角度におけるルーパ位置を画像として記録することにより、ルーパ上限角度におけるルーパ位置を確認することもできる。この場合、確認手段とは、画像認識装置自体や記録された画像となる。他に、ルーパ上限角度を確認可能な確認手段としてはリミットスイッチ、遮光センサ、反射センサといったルーパの存在を検知する装置等が挙げられる。すなわち、当該リミットスイッチやセンサをルーパアーム12等に設置し、確認手段としてもよい。
【0067】
(工程S23)
工程S23は、例えば、製造装置100の操業開始後(操業中又は操業後)等において、動力装置16を稼働させて再びルーパ10を上昇させる工程である。この際、ルーパ10は、アブソコーダ17により測定されるルーパ角度が、工程S22において測定されたルーパ角度上限値と等しくなるまで上昇される。
【0068】
(工程S24、S25)
工程S24は、確認手段により、基準点調整時のルーパ角度上限値におけるルーパ位置と、工程S23において上昇されたルーパ位置とを比較し、ルーパ位置のずれ(操業前に測定されたルーパ上限角度からの差)が所定範囲内であるか否かを判定する工程である。工程S24は、例えば、確認手段として目盛を設けた場合には、当該目盛を観測可能な画像認識装置において行われる。また、画像認識装置内に、ルーパ上限角度におけるルーパ位置を画像として記録していた場合は、画像認識装置内で、当該記録された画像と、工程S23において上昇されたルーパ位置とを画像処理等によって比較することで、工程S24が行われる。さらに、リミットスイッチ、遮光センサ、反射センサといったルーパの存在を検知する装置等を使用する場合には、予めルーパ角度上限から所定範囲内の分角度を下げた位置に検出位置を設定しておき、工程S23でルーパを上昇させた際、ルーパを検出するか否かで工程S24の判定が行われる。
【0069】
操業前の基準点調整の後、アブソコーダ17が正常に機能し、且つ、スプライン継手15の内部に何ら異常が生じていない場合、工程S23において上昇されたルーパのルーパ位置に係る確認手段からのずれは、アブソコーダ17の機器誤差やメカニカルストッパ14の損耗による誤差の範囲内となるはずである。従って、工程S24においてルーパ位置のずれが所定範囲内と判断された場合は、ルーパ10が正常に機能しているものとし、特に異常が知らせられることはない。この場合、判定を終了させても良いが、次に点検する際(例えば点検指令がなされた場合)には工程S23より開始すればよい。S21、S22は異常が検知される(工程S25)、ルーパに関する設備が故障してしまう、あるいは定期点検まで実施する必要が無い。一方、ルーパ位置のずれが所定範囲から外れており、工程S24において否定判断がなされた場合は、工程S25に進み、異常通知手段へと信号が伝えられ、作業者に異常が通知される。異常通知手段としては公知の警報機等を用いることができる。異常通知手段からの通知により、作業者は、ルーパ10が何らかの異常を有し、ルーパ角度に誤差が生じていることを早期に知ることができ、ルーパ10の点検に入ることができる。そして、ルーパ10の外観やアブソコーダ17自体に異常がない場合、作業者は、上記ルーパ角度上限値の変化がスプライン継手15の不良によるものであることを認識することができる。
【0070】
また、アブソコーダ17の機器誤差は、スプライン継手15の内部の不良による誤差と比較して、かなり小さい。そこで、例えば、上記のルーパ位置のずれをルーパ角度の前後の差(ルーパ角度変化量)に換算し、上記所定範囲(所定値)について、プラスマイナス2°程度に設定しておくことにより、アブソコーダ17の機器誤差によって異常が通知されるようなことはなくなる。また、スプライン継手15の内部の損耗の進行により、実際のルーパ10の角度は徐々に低下するため、スプライン継手15の内部に不良が生じた場合は、工程S23におけるルーパ位置が、工程S21、S22におけるルーパ位置よりも、ルーパ角度が低下した状態となる。従って、例えば、上記所定範囲についてルーパ角度変化に係る低下量が2°以上と設定することにより、スプライン継手15の不良による角度誤差のみをより効果的に検知することができる。
【0071】
上記のような確認手段を設置する工程と、工程S21〜工程S25とを備えることにより、ルーパ10のルーパ角度の異常が早期に通知され、ルーパ10のスプライン継手15の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。すなわち、本発明に係る点検方法S200によれば、本発明に係るルーパの調整方法を応用することで、継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。
【0072】
上記点検方法S100、S200においては、ルーパ角度上限において基準点調整が行われる場合について説明したが、ルーパを中間位置に保持した状態で基準点調整が行われる場合であっても、ルーパの点検を適切に行うことができる。図10に、別態様に係る本発明の点検方法S300を説明するためのフローチャートを示す。図10に示されるように、点検方法S300は、中間位置に係る基準点調整方法によりアブソコーダ17の基準点を調整する工程S31と、アブソコーダ17により中間位置おけるルーパ角度を測定する工程S32と、を備えている。また、点検方法S300においては、工程S31やS32の前、或いは工程S32とS33の間に、中間位置におけるルーパを検知可能な検知手段を設ける工程が行われる。その後、点検方法S300においては、動力装置16を稼働させて、検知手段によりルーパが検知される中間位置まで、ルーパを移動させる工程S33、ルーパ角度を測定する工程S34、工程S32においてアブソコーダ17により測定された、中間位置におけるルーパ角度の測定値と、工程S34においてアブソコーダ17により測定された、中間位置におけるルーパ角度の測定値との差が、所定値を超えているか否かを判断する工程S35、及び、工程S35にて否定判断がなされた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる工程S36が行われる。
【0073】
(工程S31、S32)
工程S31、S32は、基準点調整の工程である。工程S31は、中間位置にてアブソコーダ17の基準点調整を行う工程である。工程S31は、予め基準点となる中間位置を定めておき、ルーパを基準点に移動させ、実測値を取得(例えばアブソコーダ以外の手段でルーパ角度を測定)、実測値を記録装置に記録からなる工程である。また、工程S32は、当該基準点調整時の該中間位置におけるルーパ角度をアブソコーダ17により測定する工程である。測定されたルーパ角度は、アブソコーダ内や公知の記録装置内に記憶される。
【0074】
上記工程S31やS32の前、或いは工程S32と工程S33の間には、基準点調整時の中間位置にルーパ10があることを検知可能な、検知手段を設置する工程が行われる。特に工程S31の前に行われることが好ましい。そうした場合、検知手段を基準点の目印として工程S31を行うことができる。例えば、ルーパ10のルーパアーム12やルーパ10の周辺部材等に検知手段が設置される。当該検知手段としては、中間位置にルーパ10があることを検知できる手段であれば特に限定されるものではなく、画像認識装置、或いは画像認識装置に記録した画像データ等の視覚で判断できるものや、リミットスイッチ、遮光センサ、反射センサといったルーパの存在を検知する装置等が例示される。
【0075】
(工程S33)
工程S33は、上記基準点調整の後、再度、ルーパ10を検知手段により検知される位置(すなわち、基準点調整時における中間位置)まで移動させる工程である。ルーパ10の移動については、上限側から下降させる形態であっても、下限側から上昇させる形態であってもよい。ただし、スプライン継手15の内部の部品の損耗による隙間を抑え込む観点からは、ルーパを中間位置まで上昇させた後、ルーパ角度を測定することが好ましい。下降した後測定すると機械内部の隙間が部品間の摩擦により保持された状態で測定してしまう虞があるからである。逆に上昇時には機械内部の隙間が無くなった後、ルーパが上昇するため、ルーパの自重だけで隙間を抑えるのに比べて高い精度で測定できる。
【0076】
(工程S34、S35)
工程S34は、中間位置に移動後のルーパ角度を測定する工程である。工程S34にて測定されたルーパ角度値は、後述する工程S35において、上記工程S32で測定されたルーパ角度値と比較される。工程S35は、ルーパ10を検知手段により検知される位置に移動させた後、工程S32においてアブソコーダ17により測定された、基準点調整時の中間位置におけるルーパ角度の測定値と、工程S34においてアブソコーダ17により測定された、中間位置におけるルーパ角度の測定値とを比較し、測定値の差が、所定範囲内か否かを判断する工程である。工程S35はアブソコーダ17に設けられた記憶部や公知の記憶装置等、基準点調整時及びその後のルーパ角度を比較可能な装置により行われる。
【0077】
(工程S36)
基準点調整の後、アブソコーダ17が正常に機能し、且つ、スプライン継手15の内部に何ら異常が生じていない場合、工程S32において測定されたルーパ角度と、工程S34において測定されたルーパ角度との差は、アブソコーダ17の機器誤差の範囲内となるはずである。従って、工程S32において測定された中間位置に係るルーパ角度と、工程S34において測定された中間位置に係るルーパ角度とを比較し、ルーパ角度の変化量が所定値内である場合は、ルーパ10が正常に機能しているものとし、特に異常が知らせられることはない。この場合、判定を終了させても良いが、次に点検する際(例えば点検指令がなされた場合)には工程S33より開始すればよい。S31、S32は異常が検知される(工程S36)、ルーパに関する設備が故障してしまう、あるいは定期点検まで実施する必要が無い。一方、ルーパ角度の変化量が所定値を超えており、工程S35において否定判断がなされた場合は、工程S36に進み、異常通知手段へと信号が伝えられ、作業者に異常が通知される。異常通知手段としては公知の警報機等を用いることができる。異常通知手段からの通知により、作業者は、ルーパ10が何らかの異常を有し、ルーパ角度に誤差が生じていることを早期に知ることができ、ルーパ10の点検に入ることができる。そして、ルーパ10の外観やアブソコーダ17自体に異常がない場合、作業者は、上記ルーパ角度の変化がスプライン継手15の異常によるものであることを認識することができる。
【0078】
また、アブソコーダ17の機器誤差は、スプライン継手15の内部の部品の損耗によって引き起こされる誤差と比較して、かなり小さい。そこで、例えば、上記測定値の差に係る所定値ついて、プラスマイナス2°程度に設定しておくことにより、アブソコーダ17の機器誤差によって異常が通知されるようなことはなくなる。また、スプライン継手15の内部の損耗の進行により、実際のルーパ10の角度は徐々に低下するため、スプライン継手15の内部の部品に損耗が生じた場合は、検知手段により検知される中間位置において、アブソコーダ17によるルーパ角度測定値が、それ以前に測定されたルーパ角度測定値よりも大きくなる。従って、例えば、ルーパ角度の変化に係る上記所定値をプラス2°以下とすることにより、スプライン継手15の不良による角度誤差のみをより効果的に検知することができる。
【0079】
上記のような、ルーパの検知手段を設ける工程と、工程S31〜工程S36とを備えることによっても、ルーパ10のルーパ角度異常が早期に通知され、ルーパ10のスプライン継手15の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。すなわち、本発明に係る点検方法S300によれば、本発明に係るルーパの調整方法を応用することで、継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。
【0080】
これらの他、本発明に係る点検方法は、下記のような構成を採ってもよい。図11に、別態様に係る本発明の点検方法S400を説明するためのフローチャートを示す。図11に示されるように、点検方法S400は、中間位置に係る上記基準点調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整する工程S41、アブソコーダ17により中間位置におけるルーパ角度を測定する工程S42、を備えている。また、点検方法S400においては、当該工程S41やS42の前、或いは工程S42とS43の間に、中間位置におけるルーパを検知可能な検知手段を設ける工程が行われる。その後、点検方法S400においては、アブソコーダ17の測定値が、基準点調整時における中間位置に係るルーパ角度の測定値となるまで、ルーパを移動させる工程S43、検知手段により、ルーパの位置ずれを検知する工程S44、ずれが所定範囲内か否かを判断する工程S45、及び、工程S45において否定判断がなされた場合、異常通知手段により異常が知らせられる工程S46が行われる。
【0081】
(工程S41、S42)
工程S41、S42は、基準点調整の工程である。工程S41は、中間位置にてアブソコーダ17の基準点調整を行う工程である。工程S41は、予め基準点となる中間位置を定めておき、ルーパを基準点に移動させ、実測値を取得(例えばアブソコーダ以外の手段でルーパ角度を測定)、実測値を記録装置に記録からなる工程である。また、工程S42は、当該基準点調整時の中間位置におけるルーパ角度をアブソコーダ17により測定する工程である。測定されたルーパ角度は、アブソコーダ内や公知の記録装置内に記憶される。
【0082】
当該工程S41やS42の前或いは工程S42とS43の間には、基準点調整時の中間位置にルーパ10があることを検知可能な、検知手段を設置する工程が行われる。特に工程S41の前に行われることが好ましい。そうした場合、検知手段を基準点の目印として工程S31を行うことができる。例えば、ルーパ10のルーパアーム12やルーパ10の周辺部材等に検知手段を設置する。当該検知手段としては、中間位置にルーパ10があることを検知できるとともに後述するルーパ位置のずれの指標となり得る手段であれば特に限定されるものではなく、上記と同様、画像認識装置、或いは画像認識装置に記録した画像データ等の視覚で判断できるものや、リミットスイッチ、遮光センサ、反射センサといったルーパの存在を検知する装置等が例示される。中間位置にルーパ10があることを検知できる検知手段と、後述するルーパ位置ずれの指標となり得る検知手段とを個別に設けてもよい。
【0083】
(工程S43)
工程S43は、上記基準点調整の後、アブソコーダ17の測定値が、基準点調整時において測定された中間位置に係るルーパ角度測定値となるまで移動させる工程である。ルーパ10の移動については、上限側から下降させる形態であっても、下限側から上昇させる形態であってもよい。ただし、スプライン継手15の内部の部品の損耗による隙間を抑え込む観点からは、ルーパを中間位置まで上昇させた後、ルーパ角度を測定することが好ましい。下降した後測定すると機械内部の隙間が部品間の摩擦により保持された状態で測定してしまう虞があるからである。逆に上昇時には機械内部の隙間が無くなった後、ルーパが上昇するため、ルーパの自重だけで隙間を抑えるのに比べて高い精度で測定できる。
【0084】
(工程S44、S45)
工程44は、ルーパ角度が基準点調整時の中間位置に係る測定値となるまで、ルーパ10を移動させた場合に、上記検知手段によってルーパ10を検知する工程である。工程S45は、工程S44により検知されたルーパ10の位置ずれが、所定範囲内か否かを判断する工程である。工程S45は上記検知手段の状態(例えば、スイッチのON/OFF、センサの光の反射の有無等)により判断されればよい。具体的には、例えば、ルーパアーム12にリミットスイッチに接触する突起を設け、当該突起に接触するリミットスイッチを、ルーパアーム12と対向する周辺部材に設け、ルーパ10を中間位置と判断される角度まで上昇させた場合に、当該リミットスイッチがONとなるかOFFとなるかによって、ルーパ10の位置ずれが検知・判断される。或いはセンサ及び、センサの光を反射する反射板等を設けることにより、ルーパ10の位置ずれの量を検知・判断してもよい。
【0085】
(工程S46)
基準点調整の後、アブソコーダ17が正常に機能し、且つ、スプライン継手15の内部に何ら異常が生じていない場合、工程S44、S45において検知・判断されるルーパ位置のずれは、アブソコーダ17の機器誤差の範囲内となるはずである。従って、ルーパ位置のずれが所定範囲内である場合は、ルーパ10が正常に機能しているものとし、特に異常が知らせられることはない。この場合、判定を終了させても良いが、次に点検する際(例えば点検指令がなされた場合)には工程S43より開始すればよい。S41、S42は異常が検知される(工程S46)、ルーパに関する設備が故障してしまう、あるいは定期点検まで実施する必要が無い。一方、ルーパ位置のずれが所定範囲を超えており、工程S45において否定判断がなされた場合は、工程S46に進み、異常通知手段へと信号が伝えられ、作業者に異常が通知される。異常通知手段としては公知の警報機等を用いることができる。異常通知手段からの通知により、作業者は、ルーパ10が何らかの異常を有し、ルーパ角度に誤差が生じていることを早期に知ることができ、ルーパ10の点検に入ることができる。そして、ルーパ10の外観やアブソコーダ17自体に異常がない場合、作業者は、上記ルーパ角度上限値の変化がスプライン継手15の異常によるものであることを認識することができる。
【0086】
また、アブソコーダ17の機器誤差は、スプライン継手15の内部の部品の損耗によって引き起こされる誤差と比較して、かなり小さい。そこで、例えば、上記位置ずれをルーパ角度に換算し、当該ルーパ角度の変化量がプラスマイナス2°程度であれば上記所定範囲内であるものとして設定しておくことにより、アブソコーダ17の機器誤差によって異常が通知されるようなことはなくなる。また、スプライン継手15の内部の損耗の進行により、実際のルーパ10の角度は徐々に低下するため、スプライン継手15の内部に内部の部品に損耗が生じた場合は、工程S44におけるルーパ位置が、工程S41、S42におけるルーパ位置よりも、ルーパ角度が低下した状態となる。従って、例えば、上記所定範囲についてルーパ角度変化に係る低下量が2°以上と設定することにより、スプライン継手15の不良による角度誤差のみをより効果的に検知することができる。
【0087】
上記のような、検知手段を設ける工程と、工程S41〜工程S46とを備えることによっても、ルーパ10のルーパ角度の異常が早期に通知され、ルーパ10のスプライン継手15の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。すなわち、本発明に係る点検方法S400によれば、本発明に係るルーパの調整方法を応用することで、継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することができる。
【0088】
尚、上記点検方法S300、S400は、圧延操業時に行うこともできる。すなわち、基準点調整や角度測定(工程S31、32、或いは、S41、42)の後、圧延の操業を開始し、その後、工程S33〜36或いは工程S43〜46を行ってもよい。例えば、圧延時に適切とされるルーパ角度において基準点調整を行い(工程S31、32、或いはS41、42)、その後、圧延操業を開始し、当該所定のルーパ位置(特に、圧延時に適切とされるルーパ角度のルーパ位置)において(工程S33、工程S43)、工程S34〜S36、或いは、工程S44〜S46が行われるような形態が好ましい。圧延操業時に点検方法S300、S400を行うことで、ルーパ10が被圧延材1に押さえこまれた状態、すなわち、ルーパ10の各部品の隙間誤差が適切に抑え込まれた状態で点検を行うことができる。また、圧延操業時に点検方法S300、S400を行うことで、圧延時に実際に生じる不具合を確認しつつ、ルーパ10の点検を行うことができる。ただし、圧延操業時においては、被圧延材1からの押圧の誤差や機械の振動等、外乱が大きいことが懸念される。外乱の程度は環境によって異なるが、対策としては異常を判定する閾値を外乱の程度に応じて静的な状態に比べ大きく(例えば2°から3°に変更)すればよい。
【0089】
また、上記点検方法S100、S200を適切に行うことができる熱延鋼板の製造装置100により、ルーパのトルク伝達軸の軸継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することが可能な製造装置が提供される。具体的には下記の通りである。
【0090】
すなわち、例えば、スタンド2、3及びスタンド間にルーパ10を設置した熱延鋼板の製造装置100であって、ルーパ10には、ルーパロール11、トルク伝達軸13及びアブソコーダ17が備えられ、トルク伝達軸13には、ルーパ10の可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ14、スプライン継手15、及び動力装置16がこの順に設けられ、ルーパロール11が、スプライン継手15よりもメカニカルストッパ14側に設置され、アブソコーダ17が、スプライン継手15よりも動力装置16側に設置され、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整し、該アブソコーダ17によりルーパ10の上限角度を測定した場合に、該上限角度の測定値を記録可能な記録手段(不図示)と、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整するとともに、アブソコーダ17によりルーパ10の上限角度を測定し、その後、動力装置16を稼働させてルーパ10を再び可動範囲の上限に固定させた場合において、基準点の調整時におけるアブソコーダ17により測定されたルーパ10の上限角度の測定値と、その後におけるアブソコーダ17により測定されたルーパ10の上限角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段(不図示)と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置100とすることにより、ルーパのトルク伝達軸の軸継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することが可能な製造装置とすることができる。ひいては、長期に亘り安定して板形状(特に板幅)を制御可能な製造装置とすることができる。
【0091】
また、スタンド2、3及びスタンド間にルーパ10を設置した熱延鋼板の製造装置100であって、ルーパ10には、ルーパロール11、トルク伝達軸13及びアブソコーダ17が備えられ、トルク伝達軸14には、ルーパ10の可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ14、軸継手1、及び動力装置16がこの順に設けられ、ルーパロール11が、スプライン継手15よりもメカニカルストッパ14側に設置され、アブソコーダ17が、スプライン継手15よりも動力装置16側に設置され、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整し、該アブソコーダ17によりルーパ10の上限角度を測定した場合に、該上限角度を確認可能な確認手段(不図示)と、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整し、該アブソコーダ17によりルーパ10の上限角度を測定した場合に、該上限角度の測定値を記録可能な記録手段(不図示)と、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整した後、アブソコーダ17の測定値が、基準点の調整時におけるルーパ10の上限角度の測定値となるまで、ルーパ10を上昇させた場合に、確認手段(不図示)によりルーパ10の位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段(不図示)と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置100とすることによっても、ルーパのトルク伝達軸の軸継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することが可能な製造装置とすることができる。ひいては、長期に亘り安定して板形状(特に板幅)を制御可能な製造装置とすることができる。
【0092】
或いは、上記点検方法S300、S400を適切に行うことができる熱延鋼板の製造装置200(図1〜3に係る製造装置100と同様の構成を含む製造装置)としても、ルーパのトルク伝達軸の軸継手内部の不良の有無や不良の程度を容易に確認することが可能で、長期に亘り安定して板形状(特に板幅)を制御可能な製造装置が提供される。具体的には下記の通りである。
【0093】
すなわち、例えば、スタンド2、3間にルーパ10が設置された熱延鋼板の製造装置200であって、ルーパ10には、ルーパロール11、トルク伝達軸13及びアブソコーダ17が備えられ、トルク伝達軸13には、ルーパ10の可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ14、スプライン継手15、及び動力装置16がこの順に設けられ、ルーパロール11が、スプライン継手15よりもメカニカルストッパ14側に設置され、アブソコーダ17が、スプライン継手15よりも動力装置16側に設置され、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整するとともに該アブソコーダ17により中間位置におけるルーパ角度を測定した場合に、当該中間位置にあるルーパ角度の測定値を記録可能な記録手段(不図示)と、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整した場合における中間位置に、ルーパ10があることを検知可能な検知手段(不図示)と、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整するとともに該アブソコーダ17により中間位置におけるルーパ角度を測定し、その後、動力装置16を稼働させてルーパ10を検知手段(不図示)により検知される中間位置まで移動させた場合に、基準点の調整時においてアブソコーダ17により測定された中間位置におけるルーパ角度の測定値と、その後においてアブソコーダ17により測定された中間位置におけるルーパ角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段(不図示)と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置200としてもよい。
【0094】
また、スタンド2、3及び当該スタンド間にルーパ10を設置した熱延鋼板の製造装置200であって、ルーパ10には、ルーパロール11、トルク伝達軸13及びアブソコーダ17が備えられ、トルク伝達軸13には、ルーパ10の可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ14、スプライン継手15、及び動力装置16がこの順に設けられ、ルーパロール11が、スプライン継手15よりもメカニカルストッパ14側に設置され、アブソコーダ17が、スプライン継手15よりも動力装置16側に設置され、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整した場合に、中間位置にあるルーパ10を検知可能な検知手段(不図示)と、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整するとともに該アブソコーダ17により中間位置におけるルーパ角度を測定した場合に、該中間位置にあるルーパ角度の測定値を記録可能な記録手段(不図示)と、本発明に係る調整方法によってアブソコーダ17の基準点を調整した後、アブソコーダ17が基準点調整時におけるルーパ角度の測定値となるまで、ルーパ10を移動させた場合に、検知手段(不図示)によりルーパ10の位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に異常が知らせられる異常通知手段(不図示)と、が備えられる、熱延鋼板の製造装置200としてもよい。
【0095】
上記のような製造装置100、200に備えられる各構成については上記した通りであるので説明を省略する。また、確認手段や異常通知手段、或いは検知手段の設置については、上記本発明に係る点検方法S100〜S400が実行可能な位置に設置されていれば、特に限定されるものではない。例えば、製造装置100において、確認手段を目盛とした場合は、ルーパ角度上昇限におけるルーパロール11やルーパアーム12の近傍に設置することにより、ルーパロール11の前後の位置ずれや、ルーパアーム12の前後の位置ずれを容易に確認することができる。また、確認手段を画像認識装置とした場合は、製造装置100のルーパ10をモニタリング可能な位置に画像認識装置を設置すればよい。また、製造装置200において、検知手段をセンサとした場合は、ルーパアーム12等に取り付けられる反射板は、中間位置におけるルーパの位置ずれが所定範囲内の場合に適切に反射するように、加工して取り付けられることが好ましい。また、異常通知手段については、製造装置100、200の操業時、作業者の近傍となる位置に設置し、警告ランプや警告音にて異常を通知することが好ましい。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により、本発明に係るルーパの調整方法につき、さらに詳細に説明する。
【0097】
継手内部の損耗により約4°の角度の異常を有するスプライン継手をルーパに組み込み、当該ルーパをスタンド間に設置し、熱間仕上圧延機を操業して、被圧延材の圧延を行った。ルーパ角度の目標値は15°とした。本発明に係る調整方法によりアブソコーダの基準点調整を行った後、被圧延材の圧延を行った場合を実施例とし、ルーパ角度下限側でアブソコーダの基準点調整を行った後、被圧延材の圧延を行った場合を比較例とした。表1にルーパ上昇限、圧延中、ルーパ下降限における、ルーパ角度実測値、実施例に係るルーパ角度測定値、及び比較例に係るルーパ角度測定値の実測・測定結果を示す。ただし、圧延中は安全上の問題でルーパ角度の実測ができないため、圧延中の測定実績については、ルーパ下降限とパスラインとの間に設定した圧延前待機位置での測定実績で代用した。具体的には、圧延機列を安全確保のため停止させた状態とし、そして、ルーパを、被圧延材先端が下流側圧延機に噛み込むまでの間、ルーパアームおよびルーパロールが被圧延材の進行を妨げない角度(ルーパ下限から2°程度上昇させた位置)に設定した。尚、その際のルーパアームおよびルーパロールは被圧延材先端が被圧延材の自重で下流側圧延機の下に潜らないように誘導する役割を果たす。また、この状態において、ルーパのスプライン継手の内部の角度異常は、ルーパロール等の自重によって圧延時と同様の方向に抑え込まれていると考えられる。
【0098】
【表1】

【0099】
表1に示されるように、圧延時、比較例に係るアブソコーダ測定値は、実際のルーパ角度との誤差が3.6°となっている。一方、実施例に係るアブソコーダ測定値は、実際のルーパ角度との誤差が0.5°に抑えられており、本発明に係る調整方法によって、アブソコーダによる角度測定精度が向上していることが分かる。
【0100】
図12に、ルーパ下降限で基準点調整を実施した後に被圧延材を圧延した場合(比較例)の熱間仕上圧延機出側の板幅チャートを、図13に、ルーパ上昇限で基準点調整を実施した後に被圧延材を圧延した場合(実施例)の熱間仕上圧延機出側の板幅チャートを示す。ここで、実施例及び比較例における熱間仕上圧延機出側の板厚目標値及びスタンド間張力設定値は同じである。
【0101】
図12、13によると、F4/5間の板幅計(ここに、「F4」、「F5」とは、仕上圧延機列の各圧延機につき、上流から数えた場合の番号をいい、「F4/5間の板幅計」とは、上流側から4番目の圧延機と5番目の圧延機との間にある板幅計を意味する。以下同じ。)から熱間仕上圧延機出側の板幅計までの板幅収縮量は、サンプリング開始から板長さ300m以降の位置で増加する傾向にあるが、これは圧延速度の増加によって鋼板の温度が上昇するためである。図12、13において、F4/5間の板幅計から熱間仕上圧延機出側の板幅計での板幅収縮量を、1000m位置で比較すると、図12の比較例に係る結果では板幅収縮量が9mmであるのに対し、図13の実施例に係る結果では、3mmとなっており、本発明に係る調整方法によって、アブソコーダの基準点調整が適切になされた結果、ルーパ角度の誤差が抑えられ、鋼板の張力計算値が適切に計算され、鋼板の張力が適切に制御されたため、仕上圧延機内での板幅収縮量を低減できることが分かる。板幅精度が向上することで製品の歩留まり改善に寄与する。
【0102】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うルーパの調整方法及びルーパの点検方法、並びに、熱延鋼板の製造装置もまた本発明の技術範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、仕上圧延機等、スタンド間にルーパが設置される態様の熱延鋼板の製造装置に好適に適用される。本発明によれば、圧延時のルーパ角度の誤差を低減させることができる。また、ルーパの外観からは確認できない軸継手内部の不良の有無や程度を簡易に確認することができる。
【符号の説明】
【0104】
1 被圧延材
2 上流側スタンド
3 下流側スタンド
10 ルーパ
11 ルーパロール
12 ルーパアーム
13 トルク伝達軸
14 メカニカルストッパ
15 スプライン継手(軸継手)
16 動力装置
17 アブソコーダ(角度測定装置)
18 上側受け台
19 下側受け台
20 角度制御装置
30 計算装置
40 速度制御装置
100 熱延鋼板の製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置における前記ルーパの調整方法であって、
前記ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、
前記トルク伝達軸には、前記ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、前記ルーパロールが、前記軸継手よりも前記メカニカルストッパ側に設置され、前記角度測定装置が、前記軸継手よりも前記動力装置側に設置され、
前記動力装置を稼働させて前記ルーパを前記可動範囲の上限に押し当てて固定させた状態で、前記角度測定装置の基準点調整を行う、ルーパの調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに、該角度測定装置によりルーパの上限角度を測定し、その後、動力装置を稼働させてルーパを再び可動範囲の上限に押し当てて固定させた場合において、
前記基準点の調整時における前記角度測定装置により測定されたルーパの上限角度の測定値と、前記その後における前記角度測定装置により測定されたルーパの上限角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法。
【請求項3】
請求項1に記載の調整方法によって角度測定装置の基準点を調整し、該角度測定装置によりルーパの上限角度を測定するとともに、該上限角度を確認可能な確認手段を設け、その後、前記角度測定装置の測定値が、前記基準点の調整時における前記ルーパの上限角度の測定値となるまで、前記ルーパを上昇させた場合において、
前記確認手段により前記ルーパの位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法。
【請求項4】
圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、
前記ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、前記トルク伝達軸には、前記ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、前記ルーパロールが、前記軸継手よりも前記メカニカルストッパ側に設置され、前記角度測定装置が、前記軸継手よりも前記動力装置側に設置され、
請求項1に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整し、該角度測定装置により前記ルーパの上限角度を測定した場合に、該上限角度の測定値を記録可能な記録手段と、
請求項1に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整するとともに、該角度測定装置により前記ルーパの上限角度を測定し、その後、前記動力装置を稼働させて前記ルーパを再び可動範囲の上限に固定させた場合において、前記基準点の調整時における前記角度測定装置により測定された前記ルーパの上限角度の測定値と、前記その後における前記角度測定装置により測定された前記ルーパの上限角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段と、
が備えられる、熱延鋼板の製造装置。
【請求項5】
圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、
前記ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、前記トルク伝達軸には、前記ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、前記ルーパロールが、前記軸継手よりも前記メカニカルストッパ側に設置され、前記角度測定装置が、前記軸継手よりも前記動力装置側に設置され、
請求項1に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整し、該角度測定装置により前記ルーパの上限角度を測定した場合に、該上限角度を確認可能な確認手段と、
請求項1に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整し、該角度測定装置により前記ルーパの上限角度を測定した場合に、該上限角度の測定値を記録可能な記録手段と、
請求項1に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整した後、前記角度測定装置の測定値が、前記基準点の調整時における前記ルーパの上限角度の測定値となるまで、前記ルーパを上昇させた場合に、前記確認手段により前記ルーパの位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段と、
が備えられる、熱延鋼板の製造装置。
【請求項6】
圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置における前記ルーパの調整方法であって、
前記ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、
前記トルク伝達軸には、前記ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、前記ルーパロールが、前記軸継手よりも前記メカニカルストッパ側に設置され、前記角度測定装置が、前記軸継手よりも前記動力装置側に設置され、
前記動力装置を稼働させて前記ルーパを中間位置まで移動させた状態で、前記角度測定装置の基準点調整を行う、ルーパの調整方法。
【請求項7】
請求項6に記載の調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに、該角度測定装置により前記中間位置おけるルーパ角度を測定し、ルーパが前記中間位置にあることを検知可能な検知手段を設け、その後、動力装置を稼働させて、前記検知手段によりルーパが検知される前記中間位置まで、前記ルーパを移動させた場合において、
前記基準点の調整時において前記角度測定装置により測定された、前記中間位置におけるルーパ角度の測定値と、前記その後において前記角度測定装置により測定された、前記中間位置におけるルーパ角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法。
【請求項8】
請求項6に記載の調整方法によって角度測定装置の基準点を調整するとともに、該角度測定装置により前記中間位置におけるルーパ角度を測定し、ルーパが前記中間位置にあることを検知可能な検知手段を設け、その後、前記角度測定装置の測定値が、前記基準点の調整時における前記ルーパ角度の測定値となるまで、前記ルーパを移動させた場合において、
前記検知手段により、前記ルーパの位置ずれが検知され、該ずれが所定値を超えた場合に、異常通知手段により異常が知らせられる、ルーパの点検方法。
【請求項9】
圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、
前記ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、前記トルク伝達軸には、前記ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、前記ルーパロールが、前記軸継手よりも前記メカニカルストッパ側に設置され、前記角度測定装置が、前記軸継手よりも前記動力装置側に設置され、
請求項6に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整するとともに該角度測定装置により前記中間位置におけるルーパ角度を測定した場合に、該中間位置にあるルーパ角度の測定値を記録可能な記録手段と、
請求項6に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整した場合における前記中間位置に、前記ルーパがあることを検知可能な検知手段と、
請求項6に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整するとともに該角度測定装置により前記中間位置におけるルーパ角度を測定し、その後、前記動力装置を稼働させて前記ルーパを前記検知手段により検知される前記中間位置まで移動させた場合に、前記基準点の調整時において前記角度測定装置により測定された前記中間位置におけるルーパ角度の測定値と、前記その後において前記角度測定装置により測定された前記中間位置におけるルーパ角度の測定値との差が、所定値を超えた場合に異常を通知する異常通知手段と、
が備えられる、熱延鋼板の製造装置。
【請求項10】
圧延機列及び該圧延機列間にルーパを設置した熱延鋼板の製造装置であって、
前記ルーパには、ルーパロール、トルク伝達軸及び角度測定装置が備えられ、前記トルク伝達軸には、前記ルーパの可動範囲の上下限を決定するメカニカルストッパ、軸継手、及び動力装置がこの順に設けられ、前記ルーパロールが、前記軸継手よりも前記メカニカルストッパ側に設置され、前記角度測定装置が、前記軸継手よりも前記動力装置側に設置され、
請求項6に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整した場合に、前記中間位置にあるルーパを検知可能な検知手段と、
請求項6に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整するとともに該角度測定装置により前記中間位置におけるルーパ角度を測定した場合に、該中間位置にあるルーパ角度の測定値を記録可能な記録手段と、
請求項6に記載の調整方法によって前記角度測定装置の基準点を調整した後、前記角度測定値が前記基準点調整時における前記ルーパ角度の測定値となるまで、前記ルーパを移動させた場合に、前記検知手段により前記ルーパの位置ずれが確認され、該ずれが所定値を超えた場合に異常が知らせられる異常通知手段と、
が備えられる、熱延鋼板の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate