説明

レジスタントスターチ高含有澱粉およびそれを用いた飲食品

【課題】レジスタントスターチを高い割合で含むとともに、レジスタントスターチの加熱処理に対する耐性に優れた澱粉を提供する。
【解決手段】以下の条件(a)、(b)、(c)および(d)を満たす、レジスタントスターチ高含有澱粉。
(a)AOAC公定法2002.02のレジスタントスターチ測定法によるレジスタントスターチ含有量が60%以上
(b)分子量ピークが6×103以上4×104以下
(c)分子量分散度が1.5以上6.0以下
(d)示差走査熱量測定による50℃〜130℃における糊化エンタルピーが10J/g以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスタントスターチ高含有澱粉およびそれを用いた飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維は、腸内環境改善作用、血糖値上昇抑制作用、コレステロール低下作用の他、様々な生理作用を示すが、日本や欧米ではその摂取量が不足しているとされている。食物繊維は種々の植物から摂取できるが、幅広い加工食品に使用するためには、高純度に精製しなければならず、複雑な工程を経るため必然的にコストが高くなる。また、穀類の一部を食物繊維に置き換えて使用する場合には、一般に穀類の主成分である澱粉質と食物繊維との物性が異なるため、食味や工程へ及ぼす影響が大きいといった課題がある。
【0003】
一方、澱粉は一般的に消化されやすいが、難消化性の画分も存在し、この画分はレジスタントスターチと呼ばれている。レジスタントスターチは生体内で食物繊維と同様の働きをすることが明らかになってきており、腸内環境改善作用、血糖値上昇抑制作用、コレステロール低下作用、脂質代謝改善作用などが報告されている。
【0004】
澱粉は植物内に多量に存在するため、比較的精製が容易である。このため、食物繊維に比べ安価に供給できる。また、レジスタントスターチを含有する澱粉は、小麦粉などの穀類と一部置き換えて使用できるため、元々の工程や配合にあまり影響を及ぼすことなく、比較的容易に配合することができる。しかし、実際には、レジスタントスターチ含有澱粉に置き換えができる割合にも限度があった。また、未加工のレジスタントスターチ含有澱粉のレジスタントスターチ含有量は概して45%以下であった。このため、食品に配合しても配合量に比べレジスタントスターチの含有量は高くならないという課題があった。
【0005】
このような背景から、澱粉を原料に加工をおこない、レジスタントスターチ含有量を高めた澱粉加工品を製造する技術が報告されている。
【0006】
特許文献1(国際公開第2000/19841号パンフレット)には、ハイアミロースコーンスターチを原料として、アルコール中で酸処理を行うことが記載されている。また、酸処理により得られる数平均分子量が10,000から90,000の範囲の加工澱粉は、生体内で遅消化性を示すとされている。
【0007】
特許文献2(特開2001−231469号公報)には、高アミロース澱粉を原料として、この澱粉の粒状性を破壊するには不充分な水分パーセントおよび温度で加熱し、さらに、アモルファス領域を消化して除去することにより、耐性を高めることが記載されている。具体的には、HYLON VII(登録商標、アミロース含量70%のコーンスターチ)を原料とし、総水分含有率38%、約98.9℃で2時間加熱後、パンクレアチン処理をして得られた澱粉の総食物繊維(Total Dietary Fiber:TDF)が50%、耐性澱粉(Resistant Starch:RS)が90%であったとされている(実施例1a)。また、同文献で得られる耐性澱粉の分子量のピークは2,000〜80,000であり、糊化熱は少なくとも約20J/gとされている。
【0008】
特許文献3(特開平11−5802号公報)には、高アミロース澱粉の水懸濁液を澱粉質成分溶出温度以上で澱粉粒子消失温度以下の温度に維持し、α−アミラーゼを作用させることにより、難消化性成分を高める技術が記載されている。同文献には、Prosky法で測定される難消化性成分が68.2%に上昇した例が記載されている(実施例3)。
【0009】
特許文献4(特表2008−516050号公報)には、高アミロースデンプンを原料とし、湿潤状態においてアルコール存在下で加熱処理して酵素耐性澱粉を製造することが記載されている。同文献には、総食物繊維含量が約60〜70%、Englyst耐性澱粉値が平均43となった例が記載されている(実施例4)。
【0010】
特許文献5(特開平10−195104号公報)にはハイアミロースコーンスターチを湿熱処理することで、食物繊維含量を増大させた澱粉加工品が開示されている。
【0011】
特許文献6(特開平9−12601号公報)には高アミロースデンプンを湿熱処理することによる、アミラーゼ耐性澱粉の製造方法が開示されている。
【0012】
特許文献7(特開平10−191931号公報)には、でんぷんを脱分枝化および老化処理することによって得られるレジスタントでんぷんが開示されている。
【0013】
特許文献8(特表平5−506564号公報)には、老化処理した高アミロース澱粉を酵素加水分解する技術が記載されている。
【0014】
特許文献9(国際公開第2008/155892号パンフレット)には、ハイアミロースコーンスターチを165℃〜260℃において、高圧熱水と接触させる難消化性澱粉含有率の高い澱粉の製造方法が開示されている。
【0015】
特許文献10(特開2008−280466号公報)には、酵素反応によりアミロース粒子を製造する技術が記載されている。また、同文献の方法で得られるアミロース粒子は特定の重量平均分子量および分子量分散度を有し、α−アミラーゼによる消化を実質的に受けないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】国際公開第2000/19841号パンフレット
【特許文献2】特開2001−231469号公報
【特許文献3】特開平11−5802号公報
【特許文献4】特表2008−516050号公報
【特許文献5】特開平10−195104号公報
【特許文献6】特開平9−12601号公報
【特許文献7】特開平10−191931号公報
【特許文献8】特表平5−506564号公報
【特許文献9】国際公開第2008/155892号パンフレット
【特許文献10】特開2008−280466号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Richard K Le Leu他3名, Effect of high amylose maize starches on colonic fermentation and apoptotic response to DNA-damage in the colon of rats, Nutrition and metabolism. 6(11), 2009
【非特許文献2】Martine Champ他4名, Advances in dietary fibre characterisation. 1. Definition of dietary fibre, physiological relevance, health benefits and analytical aspects, Nutrition Research Reviews 16, 2003, p.71-82
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところが、上述した澱粉加工品を製造する技術においては、総食物繊維含量の増加を目指したものが多く、総食物繊維含量の測定方法としてProsky法が採用されていた。一方、より生体内での澱粉の消化条件に即したレジスタントスターチの定量法として、AOAC公定法2002.02がある。
【0019】
ここで、Prosky法による総食物繊維含量を高めた澱粉を、AOAC公定法2002.02で再評価した場合、Prosky法で測定される総食物繊維含量ほど高くない場合があった。具体的には、非特許文献1には、Prosky法とAOAC公定法2002.02で測定されるレジスタントスターチ含量は異なることが記載されている。このような測定値の違いが生まれる要因は、主として消化条件の違いに起因する。すなわち、Prosky法は100℃で短時間(15〜30分)細菌由来の耐熱性α−アミラーゼによって消化を行い、その後60℃でプロテアーゼ、次いで、アミログルコシダーゼによって消化を行う。一方、AOAC公定法2002.02は、生体内での消化に即した条件で消化を行うものであり、37℃で長時間(16時間)膵アミラーゼとアミログルコシダーゼによって消化を行う。非特許文献2では、Prosky法では実際の消化条件とは大きく異なるためレジスタントスターチが正確に定量できないという課題がある一方、AOAC公定法2002.02はin vivoの試験との相関性が高い定量法であることが指摘されている。
【0020】
この点、背景技術の項で前述した文献においても、生体内の条件における澱粉の消化耐性については改善の余地があった。具体的には、本発明者が上述した特許文献1〜3、および5〜8の方法により得られる澱粉加工品をAOAC公定法2002.02で評価したところ、実施例の項で後述するように、レジスタントスターチ含量は60%未満であった。
【0021】
また、レジスタントスターチ含有澱粉を配合して飲食品を製造する場合、加熱調理工程を経ることが多い。このため、配合する澱粉のレジスタントスターチ含量がどれほど高くても、レジスタントスターチが加熱調理工程で失われてしまうと好ましくない。
この点、上述の澱粉加工品においては、レジスタントスターチの加熱処理耐性の観点からも、改善の余地があった。たとえば、特許文献9に記載の方法について本発明者が検討したところ、実施例の項で後述するように、同文献の方法により得られる澱粉加工品では、加熱調理工程でレジスタントスターチが失われてしまう点でなお改善の余地があった。
また、特許文献4の方法により得られる澱粉加工品は、食感について改善の余地があった。
【0022】
本発明においては上記事情に鑑み、生体内における消化耐性に優れるレジスタントスターチを高い割合で含むとともに、レジスタントスターチの加熱耐性に優れた澱粉を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明によれば、以下の条件(a)、(b)、(c)および(d)を満たす、レジスタントスターチ高含有澱粉が提供される。
(a)AOAC公定法2002.02のレジスタントスターチ測定法によるレジスタントスターチ含有量が60%以上
(b)分子量ピークが6×103以上4×104以下
(c)分子量分散度が1.5以上6.0以下
(d)示差走査熱量測定による50℃〜130℃における糊化エンタルピーが10J/g以下
【0024】
さらに、本発明によれば、前記本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉を含む、飲食品が提供される。
【0025】
本発明においては、上記条件(a)から(d)を満たすため、レジスタントスターチを高い割合で含むとともに、加熱処理に対して安定なレジスタントスターチを含む澱粉加工品が実現できる。
このため、加熱処理が施される飲食品中に配合した場合であっても、喫食時のレジスタントスターチ含量を高めることができる。
【0026】
なお、上記条件(a)から(d)を満たす澱粉加工品を得るために、本発明の方法、装置などの条件を任意に選択することができる。
【0027】
たとえば、本発明によれば、
アミロース含量が40%以上であるアミロース高含有澱粉を原料とし、該原料を無機酸水溶液中で酸処理する工程を含む、レジスタントスターチ高含有澱粉の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、レジスタントスターチを高い割合で含むとともに、レジスタントスターチの加熱処理に対する耐性に優れた澱粉が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施形態における澱粉の分子量ピークとレジスタントスターチ含量の関係を示す図である。
【図2】実施形態におけるレジスタントスターチ高含有澱粉の分子量分布を示す図である。
【図3】実施形態における澱粉の分子量分散度とレジスタントスターチ含量との関係を示す図である。
【図4】実施形態における澱粉の示差走査熱量分析の測定結果を示す図である。
【図5】実施形態における酸処理条件を示す図である。
【図6】実施形態における酸処理条件を示す図である。
【図7】実施例におけるレジスタントスターチの加熱耐性の測定に用いる容器を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉は、以下の条件(a)、(b)、(c)および(d)を満たす。
(a)AOAC公定法2002.02のレジスタントスターチ測定法によるレジスタントスターチ含有量が60%以上
(b)分子量ピークが6×103以上4×104以下
(c)分子量分散度が1.5以上6.0以下
(d)示差走査熱量測定による50℃〜130℃における糊化エンタルピーが10J/g以下
以下、各条件の技術的意義を説明する。
【0031】
まず、本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉は、上記条件(a)を満たし、レジスタントスターチ含量が今までの製造方法によって得られたものに比べて顕著に高い。
初期のレジスタントスターチ含量をより一層高める観点からは、本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉のAOAC公定法2002.02のレジスタントスターチ測定法によるレジスタントスターチ含有量は、好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上である。なお、本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉のレジスタントスターチ含有量の上限に特に制限はなく、100%以下であり、たとえば90%以下であってもよい。
なお、本発明において、レジスタントスターチ含有量を試料乾燥重量当たりのレジスタントスターチ重量(w/w)として定義する。
【0032】
また、上記条件(b)および(c)を満たすことにより、澱粉中のレジスタントスターチ含量を安定的に高めることができる。
【0033】
このうち、上記条件(b)は、レジスタントスターチ高含有澱粉の分子量範囲を規定する。
図1は、ハイアミロースコーンスターチを酸処理した際の分子量ピークとレジスタントスターチ含量に関する本発明者の検討結果を示す図である。図1に示したように、分子量ピークが6×103以上4×104以下の範囲で、レジスタントスターチ含量が60%を上回る澱粉が安定的に得られている。なお、図1には分子量ピークが6×103以上4×104以下の範囲内であっても、レジスタントスターチ含量が60%未満の澱粉(比較例)が存在する。これらの点は、後述する所定の製造条件から外れた条件で調製された酸処理澱粉であるため、条件(b)を満たしていても条件(a)は満たさない。すなわち、実施例にて後述するように、適切な製造条件を選択することにより、分子量ピークが6×103以上4×104以下の範囲で安定的にレジスタントスターチ含量が60%以上の澱粉を得ることができる。
【0034】
なお、澱粉を酸処理したときに、上記特定の分子量ピークの範囲でレジスタントスターチ高含有澱粉が得られる理由としては、以下のことが推察される。すなわち、澱粉を酸処理すると、澱粉を構成している分子鎖の一部が加水分解されて、澱粉の低分子化が起こる。ある程度分子鎖が切断された澱粉粒は、さらに分子同士の空間配置が最適化し、より密な状態に推移する。よって、酸処理による分解が起こるほど、澱粉の消化耐性が上昇する。一方、過剰に酸処理を進めていくと、ついに粒状構造が破壊されて、澱粉の消化耐性も失われる。
【0035】
より安定的にレジスタントスターチ含有量の高い澱粉を得る観点からは、分子量ピークがたとえば6.5×103以上、好ましくは8×103以上であってもよい。また、さらに確実にレジスタントスターチ含有量の高い澱粉を得る観点からは、分子量ピークがたとえば3.6×104以下、好ましくは2.5×104以下、より好ましくは1.5×104以下であってもよい。
【0036】
次に、上記条件(c)は、分子量分散度を規定する。
条件(c)における分子量分散度とは、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnをいう。
【0037】
図2は、ハイアミロースコーンスターチを酸処理した際のレジスタントスターチ高含有澱粉の分子量分布形状の変化に関する本発明者の検討結果を示す図である。図2および後述する図3において、分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、標準物質:プルラン換算)にて測定したものである。図2より、酸処理により得られるレジスタントスターチ高含有澱粉(実施例1)の分子量分布形状は、未処理のハイアミロースコーンスターチ(参考例)にくらべ、その分子量の広がりが狭く、単一のピークとなっていることがわかる。この分子量の広がりの程度を分子量分散度で評価する。分子量分散度は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比であり、通常、高分子は、様々な重合度のものが混在しているため、分子量に幅がみられる。あるひとつの重合度のみを有する場合は、Mw/Mnは1になるのだが、このばらつきが大きいと、分子量分散度も大きくなる。
【0038】
また、図3は、酸処理したハイアミロースコーンスターチの分子量分散度とレジスタントスターチ含量との関係を示す図である。図3より、レジスタントスターチ含量が高い澱粉は、分子量分散度が特定の範囲、すなわち上記条件(c)を満たす範囲で得られている。
この理由として、以下のことが推察される。すなわち、酵素耐性を示す澱粉の分子量は、ある一定の幅にあるため、ある一定の分子量範囲から外れる構成成分が増加するほど、消化の影響を受ける割合も高くなる。一方、酵素処理などでも、反応が進むにつれて、分子量が低下していくが、分子量分布には一定の幅がみられる。酸処理と酵素処理の詳細な反応メカニズムの違いは必ずしも明らかではないが、このような分子量分布の幅の違いが酵素処理と酸処理の違いに現れていると考えられる。
【0039】
なお、食感の好ましさの観点からは、分子量分散度が高すぎると、好ましい食感が得られなくなる場合がある。この点、分子量分散度が上記条件(c)を満たす範囲においては、分子量が低い画分または分子量が高い画分が過剰に多くなることを抑制することができるため、食品に配合した際に粉っぽくなりすぎたり食感の硬さが生じたりすることを抑制できる。
分子量分散度の下限は、食感の好ましさの観点からは、1.5以上、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上とする。分子量分布の低すぎる澱粉は、粉っぽさ等の点で食感が好ましくない場合があるため、分子量ピークにはある程度の幅があることが好ましい。
一方、分子量分散度の上限は、レジスタントスターチ含量をより一層安定的に高める観点からは、6.0以下、好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5.0以下である。
よって、本発明における分子量分散度は、レジスタントスターチ割合と食感のバランスの観点からは、1.5以上6.0以下、好ましくは2.0以上5.5以下、より好ましくは3.0以上5.0以下である。
【0040】
なお、澱粉の分子量は、たとえば、GPC(標準物質:プルラン換算)で測定することができる。
【0041】
次に、条件(d)について説明する。
本発明においては、条件(d)を満たすため、元々のレジスタントスターチ含量が高いことに加えて、加熱処理をおこなった後もレジスタントスターチを高割合で含むことができる。
具体的には、200℃、20分間加熱後のレジスタントスターチ含有量が、たとえば60%以上、好ましくは70%以上とすることも可能となる。
【0042】
ここで、糊化エンタルピーとは、澱粉が加熱され、糊になるために必要なエネルギーである。澱粉と水が共存下にて加熱されると、ある温度で澱粉は糊になる。この糊になるときにエネルギーを必要とするため、吸熱反応が起こる。示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)では、温度変化に伴う吸熱量がピークとして計測され、そのピーク面積が糊化エンタルピーとして計算される。このピーク面積は、図4のようにピークとベースラインで囲まれる部分で示される。
【0043】
図4は、ハイアミロースコーンスターチの酸処理がDSC曲線に及ぼす影響について本発明者が検討した結果を示す図である。一般に澱粉が糊化すると、消化性が高まる。澱粉は未加熱状態では、結晶状態であり、消化酵素もなかなか分解しにくい。しかし、加熱し、糊化することにより、その結晶状態が変化し、消化酵素が分解しやすい状態となる。つまり、DSCによって吸熱ピークが小さい澱粉というのは、加熱によるレジスタントスターチ含量の減少が小さい(以下、耐熱性が高いともいう。)ことを意味する。実際には、レジスタントスターチの耐熱性の高さは、糊化エンタルピーの他、糊化温度、分子量分布(分子量ピーク、分子量分散度)も影響する。たとえば、糊化温度が高い澱粉はより高温状態にしなければ糊化しないため、耐熱性も高い。従って、糊化エンタルピーは糊化温度、分子量ピークおよび分子量分散度が近い澱粉同士において、耐熱性の指標として用いることができる。
【0044】
図4に示したように、ハイアミロースコーンスターチを酸処理すると、酸処理が進むにつれ、吸熱ピークの面積が小さくなることがわかる。このDSCによる吸熱ピークの面積が小さいことが本発明によるレジスタントスターチ高含有澱粉の一つの特徴であり、具体的には10J/g以下、好ましくは8J/g以下、さらに好ましくは6J/g以下である。こうすることにより、加熱調理後もレジスタントスターチ含量が高い飲食品が安定的に得られる。なお、糊化エンタルピーの下限に特に制限はなく、たとえば1J/g以上であってもよい。
【0045】
本発明においては、以上の条件(a)から(d)をすべて満たすことにより、レジスタントスターチを高い割合で含むとともに、加熱安定性に優れたレジスタントスターチ高含有澱粉を得ることができる。
【0046】
次に、本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉の製造方法を説明する。
なお、本明細書において特に記述がない場合、各用語の定義は以下の通りである。また、本明細書において、レジスタントスターチをRSと記載する場合もある。
水分:澱粉湿重量に対する水分の割合(w/w)
スラリー濃度:澱粉スラリー重量に対する澱粉乾重量の割合(w/w)
酸規定度:澱粉由来の水分も含めた、反応液中の水に対する酸の規定度
レジスタントスターチ含量:試料乾重量に対するレジスタントスターチの重量の割合(w/w)
レジスタントスターチ高含有澱粉:レジスタントスターチ含量60%以上の澱粉
【0047】
本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉は、たとえば、アミロース含量が40%以上であるアミロース高含有澱粉を原料とし、該原料を無機酸水溶液中で酸処理することにより得られる。
【0048】
原料として用いられるアミロース高含有澱粉の由来は、コーン、馬鈴薯、米、小麦、甘藷、タピオカなど問わないが、容易に入手できるという観点からは、ハイアミロースコーンスターチが好ましい。ハイアミロースコーンスターチは育種によりアミロース含量を高めたコーンスターチであり、アミロース含量は40%以上のもの、70%以上のものが現在入手可能である。レジスタントスターチ高含有澱粉に含まれるレジスタントスターチ量をさらに安定的に増加させる観点からは、澱粉中のアミロース含量がたとえば40%以上であれば、いずれのスターチも使用できる。
【0049】
酸処理においては、原料の澱粉と浄水を反応装置に投入する。あるいは浄水に無機酸をあらかじめ溶解させた酸水と原料を反応装置に投入する。酸処理をより安定的に行う観点からは、反応中の澱粉の全量が水相内に均質に分散した状態、またはスラリー化した状態にあることが望ましい。そのためには、酸処理を行う上での澱粉スラリーの濃度をたとえば50重量%以下、好ましくは20重量%以上40重量%以下の範囲になるように調整する。スラリー濃度が高すぎると、スラリー粘度が上昇し、均一なスラリーの攪拌が難しくなる場合がある。
【0050】
酸処理に用いられる酸として、具体的には塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、種類、純度など問わず利用できる。
【0051】
酸処理反応は、得られる酸処理澱粉が上記条件(a)〜(d)を満たすよう適当な温度、適当な酸濃度を選択しておこなわれる。ただし、上記条件(a)〜(d)を満たすレジスタントスターチ高含有澱粉を、従来の酸処理条件で得ることは困難である。そこで、本発明においては、たとえば酸処理時の無機酸濃度、反応温度および反応時間を特定の条件に設定する。以下、各条件について具体的に説明する。
【0052】
まず、酸処理の時間は、上記条件(a)〜(d)を満たすように設定されるが、反応中の変質をより確実に抑制する観点からは、酸処理に要する時間をたとえば3日以内、好ましくは2日以内とする。
【0053】
また、酸処理における無機酸濃度および反応温度については、たとえば以下の式(1)を満たす条件とする。
(5.54×(4.20)(T-40)/10(-0.879)≦C<−0.000016×T3+0.00068×T2−0.028×T+4.3 (1)
(ただし、上記式(1)において、T:反応温度(℃)、C:無機酸水溶液中の無機酸の規定度(N)である。)
【0054】
無機酸規定度および反応温度がいずれも高すぎると、レジスタントスターチ含量を充分高めることができない場合がある。一方、低すぎると、酸処理反応に時間がかかりすぎる場合がある。
上記式(1)を満たすことにより、レジスタントスターチ含量を効率よく安定的に高めることができる。
【0055】
図5は、酸処理における反応温度(℃)および酸規定度(N)に関する本発明者の検討結果を示す図である。図5中、「○」印は、レジスタントスターチ高含有澱粉が3日以内に製造できる条件を示し、「×」印は3日以内にレジスタントスターチ高含有澱粉が製造できない条件を示している。このうち「○」印は、図5中の二つの曲線で囲まれる斜線の範囲内に存在する。従って、たとえば図5中の曲線で囲まれる範囲の酸規定度および温度で酸処理を行うことにより、上記条件(a)〜(d)を満たす澱粉を3日以内の酸処理で得ることができる。
【0056】
さらに、酸処理における反応時間は、反応温度および酸規定度の2つのファクターから以下の式(2)で一義的に決定することができる。
13.0×C(-1.14)×(1/4.2)(T-40)/10≦t≦180×C(-1.58)×(1/4.2)(T-40)/10 (2)
(ただし、上記式(2)において、T:反応温度(℃)、C:無機酸水溶液中の無機酸の規定度(N)、t:反応時間(時間)である。)
【0057】
上記式(2)は実験的に求められた式であり、酸規定度が2倍になると、レジスタントスターチ高含有澱粉が得られる最短時間が1/2.2倍、最長時間が1/3倍になり、反応温度が10℃上昇すると最短時間、最長時間ともに1/4.2倍になるという関係に基づく式である。
【0058】
レジスタントスターチ高含有澱粉の製造条件は、反応温度、酸規定度および反応時間の3つのファクターで表されるため、上記式(2)は3次元のグラフとなるが、反応温度を固定すると、酸規定度と反応時間を軸とする平面図で示すことができる。
【0059】
図6(a)〜図6(c)は、上記式(2)において、温度を固定した場合の酸規定度および反応時間に関する本発明者の検討結果を示す図である。図6(a)、図6(b)および図6(c)における反応温度は、順に、40℃、50℃および60℃であり、各温度においてレジスタントスターチ高含有澱粉を製造できる酸規定度、反応時間の範囲が斜線部の領域で示されている。また、記号の意味は以下のとおりである。
○:レジスタントスターチ含量70%以上
●:レジスタントスターチ含量65%以上70%未満
■:レジスタントスターチ含量60%以上65%未満
×:レジスタントスターチ含量60%未満
【0060】
図6より、上記式(2)は酸規定度を変えたときの反応時間の上限値と下限値を示す曲線を示し、破線で示した下限値以上の時間、実線で示した上限値以下の時間酸処理を行うことで、レジスタントスターチ高含有澱粉が得られる。
【0061】
なお、上記式(2)に使用する反応温度および酸規定度の上限と下限は、前述の上記式(1)によって決定される。たとえば、上記式(1)で決定された酸規定度の上限および下限は、図6中、縦方向の実線で示した直線で表される。また、反応時間の上限(図5および図6の例では72時間)は、図6中、横方向の破線で示した直線で表される。
図6より、条件(a)〜(d)を満たすレジスタントスターチ高含有澱粉を得るためには、これらの線で囲まれる斜線で示した領域内の条件で酸処理を行えばよい。
【0062】
アミロース含量が40%以上であるアミロース高含有澱粉(ハイアミローススターチ)を原料とし、該原料を無機酸水溶液中において特定の条件で酸処理することにより、レジスタントスターチ含有量の高い澱粉を安定的に得られる。
【0063】
また、背景技術の項で前述したように、これまで、レジスタントスターチ含量の高い澱粉から、酵素処理などにより消化され易い画分を除去する技術があった。この技術では、可消化性成分を除去し、レジスタントスターチの相対的な割合を高めるものであるため、レジスタントスターチを新たに生み出したり、レジスタントスターチの絶対量を増すものではなかった。また、湿熱処理やアルコール溶媒中で酸処理する技術は、レジスタントスターチを新たに生み出すものの、その増加量は充分に高いとはいえなかった。
【0064】
これに対し、本実施形態において、アミロース含量が40%以上である高アミロース含有澱粉を原料として酸処理を行い、その際の反応温度、酸規定度および反応時間についてそれぞれ特定の条件を設定することにより、レジスタントスターチ含量を飛躍的に上昇させることができる。また、高効率にハイアミローススターチのレジスタントスターチの絶対量を増やすことが可能となる。
【0065】
こうして得られるレジスタントスターチ高含有澱粉は、レジスタントスターチの割合が高く、レジスタントスターチの加熱耐性に優れているため、各種飲食品に好適に配合することができる。たとえば本発明におけるレジスタントスターチ高含有澱粉は、パン、麺などの食品に配合してもレジスタントスターチ含量の減少が小さく、従来のレジスタントスターチ含有澱粉に比べ、同じ配合量でも高いレジスタントスターチ含有量の食品を供給可能にする。
また、本発明における飲食品は、上記条件(a)〜(d)を満たすレジスタントスターチ高含有澱粉を含む。
【0066】
本発明によれば、たとえば以下の効果を得ることも可能となる。
AOAC公定法2002.02にて測定されるレジスタントスターチ含量がたとえば60〜80%のレジスタントスターチ高含有澱粉を得ることができる。
レジスタントスターチ高含有澱粉を食品(たとえば、食パン、ホットケーキ、うどん)に配合しても、加熱調理中におけるレジスタントスターチ含量の減少はごくわずかで、高含量のまま維持される。また、粉っぽさなど食感への影響が少ない。
従来技術により得られるものよりもレジスタントスターチを高い割合で含有しており、かつ調理中のレジスタントスターチ含量の低下が少ないので、レジスタントスターチを高い割合で含有する食品を供給できる。
100℃を超えるような高温・高圧・高エネルギーを必要とせず、高価な酵素を必要とせず、複雑な精製工程や老化処理を必要としないため、従来よりも安価にレジスタントスターチを供給することができる。
【0067】
なお、得られたレジスタントスターチ高含有澱粉に対して、さらに所定の処理をおこなってもよい。たとえば、酸処理で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を湿熱処理や酵素処理をすることでレジスタントスターチ含有量をより一層高めることも可能である。
【実施例】
【0068】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
はじめに、測定方法を説明する。
【0069】
(AOAC公定法2002.02によるレジスタントスターチ含量の測定)
以下においては、レジスタントスターチ含量の測定に、レジスタントスターチ測定キット(Megazyme社製,製品番号K−RSTAR)を使用した。その具体的な内容は以下の通りである。
0.5gのパンクレアチンを50mLの100mMマレイン酸バッファー(pH6.0,0.028%CaCl2、0.02%アジ化ナトリウム(w/v)を含む。)に5分間懸濁し、0.5mLのアミログルコシダーゼ溶液(300U/mL)を加えた。これを3000rpmで10分間遠心分離した。この上清を、試料(すなわち澱粉含有物)100mg(±5mg)の入った蓋付きチューブ(コーニング社製、サイズ:16×125mm、製品番号:430157)に4mlを加え、ボルテックスミキサーでよく懸濁した。パラフィルムとビニール製テープにより漏れのないよう覆い、シェイカー付き恒温水槽に入れ、シェイキング速度200strokes/minで水平方向に振動させながら37℃で16時間酵素消化した。
【0070】
消化終了後、4mLの99.5%エタノールを加えてよく混合し、3000rpmで10分間遠心分離し、上清を除去した。沈殿に50%エタノール8mLを2度に分けて加え、沈殿物を再懸濁し、再度遠心分離した。この操作をもう一度繰り返し、沈殿すなわちレジスタントスターチ画分を回収した。沈殿物の入った蓋付きチューブを氷水に漬け、2mLの2M KOH溶液を加え、スター撹拌子で撹拌しながら20分間混合することで、レジスタントスターチ画分を完全に溶解させた。1.2M酢酸ナトリウムバッファー(pH3.8)を8mL加えて中和し、0.1mLのアミログルコシダーゼ(3300U/mL)を加えた。これを50℃のウォーターバス中で30分間インキュベートすることでレジスタントスターチ画分をグルコースにまで消化した。なお、インキュベート中は5分おきに反応液を混合した。
【0071】
アミログルコシダーゼ消化後の反応液を3000rpmで10分間遠心分離し、上清0.5mLを蒸留水4.5mLで希釈した。希釈した反応液0.1mLをGOPOD試薬3mLと混合し、50℃で20分間インキュベートした。室温まで冷却後、510nmの吸光度を分光光度計で測定し、キット中に含まれる標品をスタンダードとしてグルコースを定量した。
【0072】
レジスタントスターチ含量は、最後のアミログルコシダーゼ消化によって遊離したレジスタントスターチ画分由来のグルコース量から澱粉量を換算することで測定され、試料乾燥重量当たりのレジスタントスターチ重量(w/w)である。
【0073】
(分子量分布の測定)
分子量分布(分子量ピークおよび分子量分散度)の測定は、東ソー社製HPLCユニット(ポンプDP−8020、RI検出器RS−8021、脱気装置SD−8022)を使用した。分析条件は、以下の通りである。
カラム:TSKgel α−M(7.8mmφ、30cm)(東ソー社製)2本
流速:0.5ml/min
移動相:5mM NaNO3/ジメチルスルホキシド:水(9:1)
カラム温度:40℃
分析量:0.2mL(試料濃度1.0mg/mL移動相)
【0074】
検出器のデータは専用のソフトウェア(マルチステーションGPC−8020 modelIIデータ収集version5.70、東ソー(株)社製)を用いて収集し、分子量ピーク、分子量分散度を計算した。検量線は分子量既知のプルラン(昭和電工社製、Shodex Standard P−82)を使用して作成した。
【0075】
(DSCによる糊化エンタルピーの測定)
DSCの測定には、マックサイエンス社製DSC3100を使用した。試料15mgと蒸留水45μLを70μL容量のアルミセル中に入れ、蓋をして密閉し、室温で3時間以上放置し、吸水させた。リファレンスにはブランクセルを用いた。昇温は、室温から130℃まで10℃/minの速度でおこなった。得られたDSCチャートの吸熱ピークの面積より測定される熱量である糊化エンタルピーを澱粉乾燥重量当たりの糊化熱(J/g)として定義した。
【0076】
(レジスタントスターチの加熱耐性の測定)
水分が30%となるよう澱粉と水を混ぜ、Wonder Brender(大阪ケミカル社製)で3秒間の混合を2回行った。その後、ゴムベラで側面および底部に付着した澱粉をかき落とし、再度3秒間の混合を1回行った。この調湿した澱粉6gを取り、図7(a)および図7(b)に示すステンレス製カップに詰め、同じ大きさのステンレス製カップを上に重ね、10秒間上から押し固めた。重ねたステンレス製カップを外し、試料を200℃の送風定温乾燥機(EYELA WFO−40)に入れ20分間加熱した。加熱後の試料を粉砕し、60メッシュの篩に通し、レジスタントスターチ含量を測定した。
【0077】
(実施例1、2、比較例1、2)
(原料のアミロース含量の影響)
ハイアミロースコーンスターチHS−7 classVII(J−オイルミルズ社製品、水分15.0%、アミロース含量80%)を用い、スラリー重量に対する澱粉乾重量が40%(dry starch weight/slurry weight)となるよう水を加えたスラリーを320g調製した。そこに、懸濁しながら6.67Nに調製した塩酸水溶液80mLを加え、40℃に調整した。このとき、澱粉水分を含めた反応水当たりの塩酸の規定度は1.96Nとなった。塩酸水溶液を加えたのち、所定の温度(実施例1では40℃)に達した時点を開始時とした。24時間反応後、3%NaOHで中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理ハイアミロースコーンスターチを得た(実施例1)。なお、以下、特に記載のない限り、酸規定度とは最終的な反応液における澱粉水分を含めた反応水当たりの酸規定度を意味する。
【0078】
実施例1の反応条件は変えずにハイアミロースコーンスターチHS−7classVIIの代わりにハイアミロースコーンスターチHS−7 classV(J−オイルミルズ社製、アミロース含量50%)(実施例2)、コーンスターチY(J−オイルミルズ社製、アミロース含量30%)(比較例1)、ワキシーコーンスターチY(J−オイルミルズ社製、アミロース含量0%)(比較例2)を使用し、実施例1に準じて酸処理澱粉を得た。
【0079】
実施例1、2、比較例1および2の酸処理澱粉、さらに参考例として、酸処理前のハイアミロースコーンスターチについて、レジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピーク、分子量分散度、DSCによる糊化エンタルピーを測定した結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1より、アミロース含量50%以上の澱粉を原料として、レジスタントスターチ含量60%以上のレジスタントスターチ高含有澱粉を製造することができた。
【0082】
(実施例3〜7、比較例3〜5)
(分子量の影響)
実施例1における反応温度、反応時間および無機酸規定度(表2中、「酸規定度(N)」)を変えたほかは、実施例1に準じた酸処理を行い、様々な分子量ピークを有する酸処理澱粉を得た(実施例3〜7、比較例3〜5)。結果を表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2より、実施例1、実施例3〜5および比較例3のように、同じ温度と酸規定度では反応時間に応じて分子量が減少し、レジスタントスターチ含量が増加していくことがわかる。一方、酸処理を過剰に行うとレジスタントスターチ含量は減少することがわかる。
また、詳細に条件を変えて酸処理を行った結果、表2の実施例6および実施例7のように、分子量ピークが6×103以上4×10以下になるよう酸処理を行うことにより、レジスタントスターチが60%以上に増加した澱粉が得られた。一方、比較例4、5では、レジスタントスターチ含量が60%に満たなかった。すなわち、酸処理によって、分子量を6×103以上4×104以下の範囲とすることによりレジスタントスターチ量が60%以上に増加した澱粉が安定的に得られることがわかる。
【0085】
(比較例6〜8)
(市販のレジスタントスターチ含有澱粉との比較)
本例では、特許文献5〜7に記載の方法で得られるデンプンを評価した。
ここで、日食ロードスター(日本食品化工社製)はハイアミロースコーンスターチに湿熱処理を施した製品であり、特許文献5の製造方法に相当する技術で製造された可能性が非常に高い。
ハイメイズ1043(ナショナルスターチ社製)はハイアミロースコーンスターチに湿熱処理を施した製品であり、特許文献6の製造方法に相当する技術で製造された可能性が非常に高い。
アクチスター11700(カーギル社製)はタピオカスターチ由来の再結晶アミロースであり、特許文献7の製造方法に相当する技術で製造された可能性が非常に高い。
そこで、特許文献5〜7により得られるデンプンを評価するため、これら市販品のレジスタントスターチ含量、分子量ピークおよび分子量分散度を測定した(表3)。
【0086】
【表3】

【0087】
表3に示すように、比較例6〜8における市販のレジスタントスターチ含有澱粉はいずれもレジスタントスターチ含量が低いことがわかる。
【0088】
(比較例9〜15)
(試作品を用いた比較)
ハイアミロースを原材料とした特許文献3(比較例9)、特許文献2(比較例10)、特許文献1(比較例11、12)、特許文献8(比較例13)、特許文献4(比較例14)特許文献9(比較例15)に記載の方法で得られる澱粉を評価するため、各文献に記載の方法に準じて澱粉を試作した。
【0089】
(比較例9)
(特許文献3、実施例4の再現)
水34gにハイアミロースコーンスターチHS−7 classVII(J−オイルミルズ社製品)20g(水分15%)を加え、攪拌して懸濁液とし、pH7に調整後、液温80℃とした。耐熱性α‐アミラーゼ溶液(ミックファーム社製α‐アミラーゼ(ノボザイム社製ターマミル120L使用))2mLを攪拌下の懸濁液に添加し、80℃で1時間処理した後、塩酸でpH3.3に調整、失活させた。その懸濁液を水酸化ナトリウム水溶液でpH5.0に調整後、水洗、脱水、乾燥して酵素処理澱粉8.8g(水分8.9%)を得た。得られた難消化性澱粉のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピークおよび分子量分散度を測定した。この結果を表4に示す。
【0090】
(比較例10)
(特許文献2、実施例1の再現)
ハイアミロースコーンスターチHS−7 classVII(J−オイルミルズ社製品)を水分38%になるよう調湿し、密閉パックに入れ、100℃で2時間加熱した。これを乾燥・粉砕後、20g(水分9.7%)を50mM リン酸ナトリウムバッファー(pH 6.9)440mlに懸濁し、パンクレアチン(Pancreatin from Porcine Pancreas, Activity equivalent to 8×U.S.P. specifications)(SIGMA社製) 0.16gを加え、37℃で穏やかに撹拌しながら8時間酵素処理した。塩酸でpH3.3に調整し、酵素を失活後、試料をろ過、洗浄、乾燥、粉砕し、難消化性澱粉11.0g(水分9.5%)を得た。得られた難消化性澱粉のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピークおよび分子量分散度を測定した。この結果を表4に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
比較例9については、GPCによる分子量分散度が高く、AOAC公定法2002.02によるレジスタントスターチ含量は低いものであった。
また、比較例10においても、GPCによる分子量分散度が高く、レジスタントスターチ含量は低いものであった。
【0093】
(比較例11)
(特許文献1、Example5の再現)
ハイアミロースコーンスターチHS−7 classVII(J−オイルミルズ社製)100g(水分15.0%)をエタノール100mlに懸濁し、濃塩酸10mlを加え、室温(22℃前後)で時々撹拌しながら3日間静置した。酸処理澱粉を吸引ろ過により回収し、70%エタノールに懸濁し、再度吸引ろ過する洗浄操作を、ろ液がpH5.0を超えるまで繰り返した。その後、乾燥、粉砕して、酸処理澱粉92.4g(水分12.1%)を得た。得られた試料のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピーク、分子量分散度を分析した。この結果を表5に示す。
【0094】
【表5】

【0095】
比較例11は、GPCによる分子量ピークおよび分子量分散度が本発明とは異なっており、AOAC公定法2002.02によるレジスタントスターチ含量も低いものであった。
【0096】
(比較例12)
より詳細に、特許文献1と実施例1とを比較するため、以下の条件で酸処理を行い、条件(b)および(c)を満たす酸処理澱粉を得た。
まず、ハイアミローススターチHS−7 classVII(J−オイルミルズ社製)50g(水分15.0%)をエタノール200mlに懸濁し、濃塩酸8mlを加え混合した。40℃で撹拌しながら24時間酸処理を行い、あとは、比較例11と同様の方法で、試料をろ過・洗浄・乾燥・粉砕し、酸処理澱粉46.7g(水分10.9%)を得た。得られた試料のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピーク、分子量分散度を分析した。この結果を表6に示す。
【0097】
【表6】

【0098】
比較例12で得られた酸処理澱粉は条件(b)および(c)を満たすが、レジスタントスターチ含量は54%と低いものであった。エタノール溶媒中で酸処理を行った場合、条件(b)および(c)の分子量ピークおよび分子量分散度を持つよう条件を調整して酸処理を行っても、レジスタントスターチ含量が60%を越えるような澱粉加工品を得ることはできなかった。
【0099】
(比較例13)
(特許文献8、実施例8の再現)
ハイアミロースコーンスターチHS−7 classVII(J-オイルミルズ社製)15g(水分15.0%)を40mlの水に懸濁し、260mlの沸騰水を加えて均一なスラリーとした。これを121℃のオートクレーブで8時間加熱した後、24℃で16時間、8℃で48時間保持した。遠心分離によって沈殿画分を集め、水を加えて懸濁し10%のスラリーとした。枯草菌由来α−アミラーゼ(和光純薬社製)1gを19mlの冷水に懸濁後、2時間放置し、遠心分離によって上清を回収した。また、ヒト唾液アミラーゼ(シグマ社製、TYPE IX−A)500Uを冷水20mlに溶解した。上記加熱冷却後の澱粉10%スラリーに対し、枯草菌由来α‐アミラーゼ溶液15mlおよびヒト唾液アミラーゼ溶液20mlを加え、24℃で25時間酵素処理を行った。遠心分離によって酵素処理後の澱粉を回収し、等量の水で再懸濁し、再度遠心分離で沈殿を回収した。この操作を3回繰り返し、沈殿画分を凍結乾燥して、試作品8.1g(水分11.4%)を得た。得られた試料のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピーク、分子量分散度を測定した。この結果を表7に示す。
【0100】
【表7】

【0101】
表7より、比較例13で得られた試作品は、レジスタントスターチ含量が条件(a)を満たしていなかった。
【0102】
(比較例14)
(特許文献4の再現)
特許文献4の方法に倣い、試作品を作成した。まず、ハイアミローススターチHS−7 classVII(J−オイルミルズ社製)9.41g(水分15.0%)を水90.6ml、エタノール95ml、メタノール5mlからなる溶媒に懸濁した。このスラリーを12.2gずつステンレス製反応管6本に入れ、容器中の空気は窒素ガス置換した。この反応管はステンレス製管(内径16.0mm, 外径19.3mm, 長さ150mm)の両端にステンレス製キャップ(Swagelok製, 商品名SS−1210−C)を取り付けたものである。試料を入れた反応管を150℃のソルトバス中で連続的に振とうさせながら1時間熱処理した。反応管をソルトバスから取り出し、40℃のウォーターバスに入れ、連続的に振とうさせながら2時間保持した。反応管を145℃のソルトバスに移し、連続的に振とうさせながら3時間処理した。反応管を80℃のウォーターバスに移し、連続的に振とうさせながら1時間処理した。その後、ウォーターバスのスイッチを切り、水中で一晩自然冷却した。反応管から試料を取り出し、吸引ろ過にて沈殿物を回収した。沈殿物は30℃の送風乾燥機中で一晩乾燥した。乾燥・粉砕後、試料を25.8%に調湿し、120℃で120分間オートクレーブした。試料は50℃で一晩乾燥後、粉砕し、6.19g(水分12.5%)の試作品を得た。得られた試料のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピーク、分子量分散度を分析した。その結果を表8に示す。
【0103】
【表8】

【0104】
表8より、比較例14で得られた試作品は、分子量分散度が上記条件(c)を満たしていなかった。
【0105】
(比較例15)
(特許文献9の再現)
特許文献9との差異を調べるために、同文献記載の方法に準じて試作品を作成した。まず、ハイアミローススターチHS−7 classVII(J−オイルミルズ社製)100g(水分15.0%)を水400mlに懸濁し、澱粉スラリーを調製した。このスラリーを22.1gずつ、比較例14と同様のステンレス製反応管15本に入れた。澱粉スラリーを入れた反応管を210℃のソルトバスに130秒間浸漬した後、これを取り出し、速やかに水冷した。反応管から反応液を十分に洗い出し、遠心分離(3000rpm、10分)によって沈殿物を回収した。沈殿物容量の2倍量の水を加えて再懸濁し、遠心分離にて再度沈殿物を回収した。沈殿物は減圧乾燥・粉砕し、合計31.2g(水分18.7%)の試作品を得た。得られた試料のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピーク、分子量分散度、糊化エンタルピーを分析した。結果を表9に示す。
【0106】
【表9】

【0107】
表9より、比較例15で得られた先行技術の試作品は、糊化エンタルピーが上記条件(d)を満たしていなかった。
【0108】
(加熱後のレジスタントスターチ含量の測定)
実施例1の製造法によって得られたレジスタントスターチ高含有澱粉および参考例のハイアミロースコーンスターチおよび比較例6(日食ロードスター)、比較例8(アクチスター11700)、比較例15(特許文献9)、比較例10(特許文献2)、比較例12(特許文献1)で示した澱粉の加熱後のレジスタントスターチ含量を測定するために、クッキーを模した以下の加熱試験を行った。
【0109】
上記レジスタントスターチの加熱耐性の測定法に従い調湿した澱粉6gを200℃で20分間加熱した。加熱後の試料を粉砕し、60メッシュの篩に通し、レジスタントスターチ含量を測定した(表10)。
【0110】
表10に示すように、比較例6、8、10、12の澱粉加工品および参考例のハイアミロースコーンスターチは加熱前後のレジスタントスターチ含量はいずれも60%に満たなかった。また、比較例15の澱粉加工品は加熱前のレジスタントスターチ含量は非常に高いものの、加熱するとレジスタントスターチ含量が43%に低下した。これは、比較例15の澱粉加工品は条件(d)を満たさないため、耐熱性が低いことによるものであると考えられる。従って、実施例1のレジスタントスターチ高含有澱粉は、参考例のハイアミロースコーンスターチや、比較例6、8、10、12、15の澱粉加工品よりも、加熱後のレジスタントスターチ含量が高いことがわかる。
【0111】
【表10】

【0112】
(加工方法によるレジスタントスターチ量の増減)
実施例1および比較例9〜15で得られた試作品について、加工前後のレジスタントスターチの絶対量の変化を調べた。結果を表11に示す。なお、表11において、RSの収率は以下の式で示される。
[RS収率](%)=([生成物の乾燥重量]×[生成物のRS含量])÷([原料の乾燥重量]×[原料のRS含量])×100
【0113】
表11より、澱粉を無機酸水溶液で処理して得られた実施例1の澱粉は、比較例の方法で得られたものに比べレジスタントスターチの絶対量が大きく上昇した。従来法の大部分がレジスタントスターチ以外の部分を除去することでレジスタントスターチの含量を高める技術であったのに対し、実施例1においては、レジスタントスターチを生成させることで、レジスタントスターチの含量を高めることができた。
【0114】
【表11】

【0115】
(レジスタントスターチ高含有澱粉の製造条件)
実施例1の酸規定度、温度を表12〜表18に示す温度、酸規定度に変えた条件で酸処理を行い、表12〜表18に示す反応時間で反応液を一部分取し、ろ過・洗浄・乾燥・粉砕して酸処理澱粉を得た。これらの試料のレジスタントスターチ含量、GPCによる分子量ピーク、分子量分散度、DSCによる糊化エンタルピーを測定した結果を表12〜表18に示す。
【0116】
なお、反応水中の無機酸規定度が2.5Nを超える条件では、以下の方法で酸処理反応液を調製した。まず、原料とするハイアミロースコーンスターチの水分量を勘案し、最終的に反応液総量400g、32%澱粉スラリー、目的とする酸規定度になるよう調整した塩酸水溶液を用意する。そこに、実施例1と同じハイアミロースコーンスターチを加え、懸濁液とし、所定の温度で加熱を開始する。あとは、実施例1と同様の方法で試料を調製した。
【0117】
(表12〜表18の説明)
表中に記載の算出反応時間とは上記式(2)にて算出される、表中に記載の酸規定度および温度において、レジスタントスターチ含量60%以上のレジスタントスターチ高含有澱粉が得られる反応時間の下限値と上限値を指している。つまり、レジスタントスターチ含量が60%を越え始める反応時間を「下限」、レジスタントスターチ含量が60%を下回り始める反応時間を「上限」として表記している。
また、表12〜表18および後述する表19、表20中、「条件(a)の範囲内」の項では、条件(a)を満たすものを「○」、満たさないものを「×」で示した。
【0118】
表12〜表14は、上記式(1)の範囲内の酸規定度及び温度(図5にて「○」で表記した条件)で酸処理を行った結果である(試験例1−9)。これらは、いずれも上記式(2)より算出される、反応時間の上限値と下限値の間の反応時間においてレジスタントスターチ含量が60%を越えるが、上限値以上または下限値以下の反応時間においてはレジスタントスターチ含量が60%を下回ることがわかる。また、レジスタントスターチ含量60%以上のレジスタントスターチ高含有澱粉は、いずれも分子量ピークが6×103以上4×104以下、分子量分散度が1.5以上6.0以下、糊化エンタルピーが10J/g以下であることが確認された。
【0119】
一方、表15〜表17は、上記式(1)の範囲から高温・高酸濃度側に外れた反応温度・酸規定度(図5にて「×」で表記した条件)で酸処理を行った結果である(試験例10−17)。これらの条件では、反応時間を0時間〜3日間の間で変化させてもレジスタントスターチ含量が60%を越える澱粉が得られなかった。
【0120】
表18は、式(1)の範囲から低温・低酸濃度側に外れた反応温度・酸規定度で酸処理を行った結果である(試験例18−20)。この条件では、反応時間の経過に伴い、レジスタントスターチ含量は上昇しているものの、反応に要する時間が長く、3日以内にレジスタントスターチ高含有澱粉が得られなかった。
【0121】
【表12】

【0122】
【表13】

【0123】
【表14】

【0124】
【表15】

【0125】
【表16】

【0126】
【表17】

【0127】
【表18】

【0128】
(硫酸による酸処理)
実施例1では塩酸を酸触媒として用いたが、塩酸の代わりに硫酸を用いて、表19に記載の酸規定度、温度および反応時間で、そのほかは実施例1の方法に準じて酸処理澱粉を得た。この結果を表19に示す。
表19に示すように、硫酸を用いた場合でもレジスタントスターチ含量60%を越えるレジスタントスターチ高含有澱粉が製造できた。
【0129】
【表19】

【0130】
(条件(b)、(c)および(d)を満たすが(a)を満たさない例)
表20に示す酸規定度、温度、時間で、そのほかは実施例1の方法に準じて酸処理を行った(試験例22−24)。これらはレジスタントスターチ高含有澱粉の製造条件を定めた上記式(1)において、温度および酸規定度が、高温・高酸濃度側に外れた条件である。これらの試料のレジスタントスターチ含量、分子量ピーク、分子量分散度、糊化エンタルピーを測定した。
【0131】
【表20】

【0132】
表20に示すように、これらは上記条件(b)、(c)および(d)を満たすが(a)は満たさない。したがって、条件(a)〜(d)を満たすレジスタントスターチ高含有澱粉を得るためには、たとえば特定の温度範囲および酸規定度の範囲で酸処理をおこなう必要があることがわかる。
【0133】
(レジスタントスターチ高含有澱粉を配合した食品)
(実施例8)(レジスタントスターチ高含有澱粉を配合したパンの製造)
表21の配合および製造方法で実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合した食パンを得た。
【0134】
(比較例16)(未処理ハイアミロースコーンスターチを含有したパンの製造)
実施例8において、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合する代わりに、参考例で例示した未処理ハイアミロースコーンスターチを用い、あとは実施例8と同様にして、未処理ハイアミロースコーンスターチを含有したパンを得た。
【0135】
(対照1)(澱粉無配合パンの製造)
実施例8において実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合する代わりに、強力粉を用い、あとは実施例8と同様にして、澱粉を配合しないパンを得た。
【0136】
【表21】

【0137】
実施例8、比較例16および対照1で得られた食パンをフードプロセッサーで粉砕し、40℃で1晩通風乾燥させた。さらに粉砕機を用いて粉砕した後、60メッシュ篩を通過させ、AOAC公定法2002.02によりレジスタントスターチ含量を測定した。その結果を表22に示す。なお、食パンに含まれる焼成前または焼成後のRS含量とは、対照1で測定された小麦粉等に由来するRS含量を差し引いた値である。表22および後述する表24、表26において、焼成後(茹で後)のレジスタントスターチ残存率とは、[焼成後(茹で後)のRS含量]/[焼成前(茹で前)のRS含量]×100で計算される値(重量比)である。
【0138】
【表22】

【0139】
表22に示すように、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合した食パン(実施例8)は、焼成後もレジスタントスターチ含量は減少せず、未処理のハイアミロースコーンスターチを配合した食パン(比較例16)に比べ、レジスタントスターチを高含有した食パンを製造できることが確認された。
【0140】
(実施例9)(レジスタントスターチ高含有澱粉を配合したホットケーキの製造)
表23の配合に従い、卵、上白糖、マーガリン、牛乳を混合し、よく混合した薄力粉、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉、ベーキングパウダーを加え軽く混合した。これを160℃に熱したホットプレート上で表5分間、裏3分間焼成し、レジスタントスターチ高含有澱粉を配合したホットケーキを得た。
【0141】
(比較例17)(未処理ハイアミロースコーンスターチを含有したホットケーキの製造)
実施例9において、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合する代わりに、参考例で例示した未処理ハイアミロースコーンスターチを用い、あとは実施例9と同様にして、未処理ハイアミロースコーンスターチを含有したホットケーキを得た。
【0142】
(対照2)(澱粉無配合ホットケーキの製造)
実施例9において、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合する代わりに、薄力粉を用い、あとは実施例9と同様にして、澱粉を配合しないホットケーキを得た。
【0143】
【表23】

【0144】
実施例9、比較例17、対照2で得られたホットケーキをフードプロセッサーで粉砕し、40℃で1晩通風乾燥させた。さらに粉砕機を用いて粉砕した後、60メッシュ篩を通過させ、AOAC公定法2002.02によりレジスタントスターチ含量を測定した。実施例8同様にRS含量を算出した結果を表24に示す。表24において、焼成前または焼成後のRS含量とは、対照2で測定された小麦粉等に由来するRS含量を差し引いた値である。
【0145】
【表24】

【0146】
表24に示したように、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合したホットケーキ(実施例9)は、焼成後もレジスタントスターチ含量の減少が少なく、未処理のハイアミロースコーンスターチを配合したホットケーキ(比較例17)に比べ、レジスタントスターチ高含有のホットケーキを製造できることが確認された。
【0147】
(実施例10)(レジスタントスターチ高含有澱粉を配合したうどんの製造)
表25の配合に従い、以下の作製方法に従って作製した。
作製方法:フードプロセッサーにて、中力粉と実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を混合し、そこへ食塩を水に溶解したものを入れ、20分混捏した後、常法により複合圧延・切断(切刃#10角、麺線厚み2.0mm)を行って得られた麺を沸騰水中で8分間茹で、流水で30秒間水洗をおこなった。
【0148】
(比較例18)(未処理ハイアミロースコーンスターチを含有したうどんの製造)
実施例10において、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合する代わりに、参考例で例示した未処理ハイアミロースコーンスターチを用い、あとは実施例10と同様にして、未処理ハイアミロースコーンスターチを含有したうどんを得た。
【0149】
(対照3)(澱粉無配合うどんの製造)
実施例10において、実施例1の方法で得られたレジスタントスターチ高含有澱粉を配合する代わりに、中力粉を用い、あとは実施例10と同様にして、澱粉を配合しないうどんを得た。
【0150】
【表25】

【0151】
実施例10、比較例18および対照3で得られた茹で後のうどん、および茹で前のうどんを細かく刻み、2倍量のアセトン中に加え、ホモジナイザーで粉砕した。静置後上清を捨て、再度2倍量のアセトンを加えホモジナイズすることでうどんを脱水した。脱水されたうどんを風乾・粉砕し、60メッシュ篩を通過させ、AOAC公定法2002.02によりレジスタントスターチ含量を測定した。実施例8同様にRS含量を算出した結果を表26に示す。表26において、茹で前または茹で後のRS含量とは、対照3で測定された小麦粉等に由来するRS含量を差し引いた値である。
【0152】
【表26】

【0153】
表26より、実施例1の方法で得られた高レジスタントスターチ含有澱粉を配合したうどん(実施例10)は、茹で後もそのレジスタントスターチ含量が維持され、未処理ハイアミロースコーンスターチを配合したうどん(比較例18)よりも、レジスタントスターチ高含有のうどんを製造できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(a)、(b)、(c)および(d)を満たす、レジスタントスターチ高含有澱粉。
(a)AOAC公定法2002.02のレジスタントスターチ測定法によるレジスタントスターチ含有量が60%以上
(b)分子量ピークが6×103以上4×104以下
(c)分子量分散度が1.5以上6.0以下
(d)示差走査熱量測定による50℃〜130℃における糊化エンタルピーが10J/g以下
【請求項2】
200℃、20分間加熱後の前記レジスタントスターチ含有量が60%以上である、請求項1に記載のレジスタントスターチ高含有澱粉。
【請求項3】
アミロース含量が40%以上であるアミロース高含有澱粉を原料とし、該原料を無機酸水溶液中で酸処理することにより得られる、請求項1または2に記載のレジスタントスターチ高含有澱粉。
【請求項4】
前記酸処理に要する時間が3日間以内である、請求項3に記載のレジスタントスターチ高含有澱粉。
【請求項5】
前記酸処理の反応条件が、以下の式(1)および(2)を満たす、請求項3または4に記載のレジスタントスターチ高含有澱粉。
(5.54×(4.20)(T-40)/10(-0.879)≦C<−0.000016×T3+0.00068×T2−0.028×T+4.3 (1)
13.0×C(-1.14)×(1/4.2)(T-40)/10≦t≦180×C(-1.58)×(1/4.2)(T-40)/10 (2)
(ただし、上記式(1)および(2)において、T:反応温度(℃)、C:前記無機酸水溶液中の無機酸の規定度(N)、t:反応時間(時間)である。)
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかに記載のレジスタントスターチ高含有澱粉を含む、飲食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−84674(P2011−84674A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239511(P2009−239511)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【特許番号】特許第4482611号(P4482611)
【特許公報発行日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【Fターム(参考)】