説明

レチクルユニット及び光学機器

【課題】背景によらずレチクルの良好な視認性を確保するために、2色以上の光を切り替えてレチクル上から射出させて、この光を効率良く眼に導くことができるレチクルユニット及びこのレチクルユニットを備える光学機器を提供する。
【解決手段】ライフルスコープ等の光学機器50に用いられるレチクルユニット30は、赤色光及び緑色光を放射する赤色及び緑色光源31r,31gと、光を透過する材料を円板状に形成し、略円形形状の面33aの略中心部に回折格子35が形成されたレチクル基板33と、赤色及び緑色光源31r,31gから放射された光を集光してレチクル基板33の側面部33r,33gから内部に入射させて回折格子35に照射し、当該回折格子35で反射して回折した1次光を回折格子35の法線方向に射出させる赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチクルユニット及び光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ライフルスコープなどの射撃照準用スコープには、目標を狙うための十字線やドット若しくはそれらの複合形状からなるレチクルが用いられている。これらのレチクルには、例えば十字線状にワイヤーを2本直交させたものや、ガラス基板の上に溝やインクなどで十字またはドットを設けたものがある。しかし、従来のレチクルを有する射撃照準用スコープを、夜間など周囲が暗いところで使用すると良好な視認性を確保することが難しい。そのため、レチクル上に蓄光性蛍光体を塗布してその部分に光を照射するように構成したものや、光ファイバーを用いて光をレチクル上に導く技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−347980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、蛍光体もしくは光ファイバー等を用いてレチクル上に光を導くように構成しても、このような従来のレチクルでは十分な光量が眼に届かず、また、一色の光しか使用できないため、背景によっては十分視認できない場合があるという課題があった。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、背景によらずレチクルの良好な視認性を確保するために、2色以上の光を切り替えてレチクル上から射出させて、この光を効率良く眼に導くことができるレチクルユニット及びこのレチクルユニットを備える光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係るレチクルユニットは、それぞれが異なる波長の光を放射する2以上の光源と、光を透過する材料を円板状に形成し、略円形形状の面の略中心部に回折格子が形成されたレチクル基板と、2以上の光源の各々に対して設けられ、光源から放射された光がレチクル基板の回折格子に、当該回折格子で回折した1次光が回折格子の法線方向に射出するように集光する集光部と、を有する。
【0007】
また、このようなレチクルユニットにおいて、2以上の光源の各々から放射される光の波長のうち、最も長い波長をλr、最も短い波長をλgとし、レチクル基板の厚さをdとし、レチクル基板の媒質における最も長い波長のときの屈折率をnrとし、レチクル基板の媒質における最も短い波長のときの屈折率をngとし、回折格子からレチクル基板の側面部までの長さであって、最も短い波長の光を放射する光源が配置される側面部までの長さをYgとし、回折格子の格子ピッチをΔpとしたとき、次式
λr/nr < Δp < λg/(ng・sin(tan-1(Yg/2d)))
の条件を満足することが好ましい。
【0008】
また、このようなレチクルユニットにおいて、光源は、2つの異なる波長の光を放射する2つの光源から構成され、これらの2つの光源が、回折格子を挟んで対向するように配置されていることが好ましい。
【0009】
また、このようなレチクルユニットにおいて、集光部は、前記レチクル基板とは別の部材からなり、前記レチクル基板の側面部に接合されて設けられ、かつ非球面形状の反射面を有し、光源からの光をこの反射面で反射させて集光するように構成されることが好ましい。
【0010】
また、このようなレチクルユニットにおいて、集光部は、前記レチクル基板とは別の部材からなり、前記レチクル基板の側面部に接合されて設けられ、かつ非球面形状のレンズ面を有し、光源からの光をこのレンズ面で屈折させて集光するように構成されることが好ましい。
【0011】
また、このようなレチクルユニットにおいて、集光部は、前記レチクル基板の屈折率とほぼ同じ屈折率を有し、レチクル基板の側面部から入射した光を、レチクル基板の回折格子が形成されている面と対向する面で全反射させて回折格子に照射するように構成されることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る光学機器は、対物レンズと、この対物レンズにより形成される像若しくは当該像と略共役な位置にレチクル基板の回折格子が形成された面が配置された上述のレチクルユニットのいずれかと、対物レンズの像、及び、レチクルユニットの回折格子から射出される光を重ね合わせて観察する接眼レンズと、を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るレチクルユニット及びこのレチクルユニットを備える光学機器を以上のように構成すると、2色以上の光を切り替えてレチクル上から射出させることができるので、この光を効率良く眼に導くことができ、背景によらずレチクルの良好な視認性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】光学機器の一例であるライフルスコープの構成を示す説明図である。
【図2】第1実施例に係るレチクルユニットを示す説明図である。
【図3】第1実施例に係るレチクルユニットを構成するレチクル基板を示す説明図であって、(a)は斜視図を示し、(b)は正面図を示す。
【図4】光源から放射された光と回折格子との関係を示す説明図である。
【図5】レチクル基板に対して赤色用及び緑色用ミラー部材を接合するときの削り量を説明するための説明図であって、(a)は、波長に応じて削る量を変化させた場合を示し、(b)は、同じ量だけ削った場合を示す。
【図6】第2実施例に係るレチクルユニットを示す説明図である。
【図7】第3実施例に係るレチクルユニットを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。まず、図1を用いて、本実施の形態に係るレチクルユニットが用いられる光学機器の一例として、ライフルスコープの構成について説明する。このライフルスコープ50は、物体側から順に、対物レンズ10と、正立レンズ20と、レチクルユニット30と、接眼レンズ40と、を有して構成される。対物レンズ10は、物体からの光を集光してこの物体の倒立像(一次像)IM1を形成し、また、正立レンズ20は、対物レンズ10により形成された倒立像である一次像IM1を正立像である二次像IM2に変換する。そして、この二次像IM2と略一致するように(対物レンズ10の一次像IM1と共役な位置に)、レチクルユニット30に形成されたレチクルが配置されており、接眼レンズ40により、この二次像IM2とレチクルとを重ね合わせて観察することで、標的である物体に対してこのライフルスコープ50の光軸を正確に合わせ、標的(物体)の視準を行うことができる。なお、このライフルスコープ50は、本実施の形態に係るレチクルユニットを利用する光学機器の一例であり、この他にも、単眼鏡、双眼鏡、測量器、スポッティングコープ等にも適用可能である。又、レチクルは、一次像IM1と略一致するように配置することも可能である。以下に、このようなレチクルユニット30の詳細について説明する。
【0016】
図2及び図3を用いて本実施形態に係るレチクルユニット30の構成について説明する。このレチクルユニット30は、赤色光を放射する赤色光源31r及び緑色光を放射する緑色光源31gと、円板状に形成され、円形形状の面の略中心部に回折格子35が形成されたレチクル基板33と、赤色光源31r及び緑色光源31gから放射された光を回折格子35上に集光する集光部である、赤色用ミラー部材32r及び緑色用ミラー部材32gと、から構成される。以下、図2及び図3に示すように、ライフルスコープ50の光軸方向をz軸とし、このz軸に直交する面内において2つの直交する方向をそれぞれx軸及びy軸として説明する。
【0017】
レチクル基板33は、少なくとも可視光を透過する透明な材料(例えば、ガラスや樹脂)で形成されており、略円形の面が光軸に直交するように(xy平面に位置するように)配置されている。そして、このレチクル基板33の物体側の面(以下、「物体側面33a」と呼ぶ)には、中心部から周縁部に向かって、x軸方向及びy軸方向に延びる線状の4本のレチクル図形34と、このレチクル図形34が交叉する点であって、ライフルスコープ50の光軸に一致するように配置される回折格子35と、からなるレチクルが形成されている。なお、上述のように、このレチクルが形成されている物体側面33aは、正立レンズ20により形成される二次像IM2と略一致するように配置されており、また、この物体側面33aは、接眼レンズ40の物体側焦点位置と略一致している。このレチクル基板33に形成されているレチクル図形34は、例えば、クロム膜やインクなどでこの物体側面33a上にそのパターンが形成されている。また、回折格子35は、所定の間隔で平行に延びる溝(回折溝)が複数形成され、さらに、物体側面33aに反射コートが施されており、レチクル基板33の内部を通ってこの回折格子35に像側から入射した光を、像側に反射及び回折させて射出させる反射型の回折格子で構成されている。この回折格子35は略円形形状を有しており、その直径は例えば、0.1μmである。また、回折格子35の回折溝は、図2及び図3において、y軸方向に並んで形成された、x軸方向に延びる複数の回折溝から構成されている。
【0018】
赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gは、側面視において略扇形の断面形状を有しており、円弧部分の表面に反射コートが施されている。また、この円弧部分は非球面形状に形成されている。そのため、この円弧部分は非球面の凹面鏡を形成しており、扇形の一方の半径側から入射した光を反射して集光し、他方の半径側から射出するものである。これらの赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gはそれぞれ、回折格子35の回折溝が並ぶ方向のレチクル基板33の両端部、すなわち、y軸方向の両側面部33r,33gに、凹面部が像側を向くように、その扇形の半径の一方が接合されている。また、赤色及び緑色光源31r,31gは、赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gの扇形の半径の他方に取り付けられている。このため、赤色光源31r及び赤色用ミラー部材32rと、緑色光源31g及び緑色用ミラー部材32gとは、レチクル基板33のy軸方向の両端に、回折格子35を挟んで対向するように配置されている。
【0019】
このようなレチクルユニット30において、赤色及び緑色光源31r,31gから放射された光は、赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gの凹面部で反射されて集光され、レチクル基板33の側面部33r,33gからこのレチクル基板33の内部に入射し、さらに、レチクル基板33の像側の面(以下、「像側面33b」と呼ぶ)で全反射して、物体側面33aに形成された回折格子35に入射する。そして、この回折格子35で回折した1次光は、光軸上(z軸上)に射出される。なお、赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gの凹面部は、赤色及び緑色光源31r、31gの配置位置を鑑み、赤色及び緑色光源31r、31gから発し反射した光がレチクル基板33の像側面33bで全反射する角度になるように配置されている。また、赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gの凹面部で反射され、レチクル基板33の像側面33bで全反射した光が、回折格子35上に集光され、かつ、この回折格子35で回折した一次光が、光軸上(z軸上)を進むように、赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gの凹面部の非球面形状、レチクル基板33の厚さ、回折格子35から凹面部までのy軸方向の距離、及び、回折格子35の回折溝の格子ピッチが設定されている。ここで、レチクル基板33を構成する媒質により赤色光及び緑色光に対する波長が異なり、また、回折格子35での入射角に対する回折角が異なるため、赤色光源31rに対する設定と、緑色光源31gに対する設定と、は異なる。すなわち、赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gの凹面部の非球面形状やレチクル部材33における回折格子35から凹面部までの距離は、それぞれの光線に対して設定される。
【0020】
本実施の形態に係るレチクルユニット30を以上のように構成すると、赤色光源31r若しくは緑色光源31gから放射された光が、回折格子35で回折され、その一次光が点光源となって回折格子35から光軸上に射出されるので、観察者は、接眼レンズ40の視野の中心部に明るい点像を観察することができ、目標物体の視準を容易に行うことができる。一次の回折光であるため、視認するのに十分な光量がこの回折格子35から射出される。また、赤色光源31r若しくは緑色光源31gの点灯を切り換えることにより、周囲の状況(目標物体の背景等)に応じて緑色の点像と赤色の点像を使い分けることができる。ここで、このレチクルユニット30のように、赤色及び緑色光源31r,31gからの光を、レチクル基板33の像側面33bで全反射させてから回折格子35に入射するように構成することにより、レチクル部33の厚さが薄い場合でも、回折格子35からこのレチクル基板33の側面部33r,33gまでのy軸方向の長さ、すなわち、ライフルスコープ50における視野を確保することができる。さらに、レチクル基板33の端部に赤色光源31r及び緑色光源31gと、赤色用ミラー部材32r及び緑色用ミラー部材32gとを配置することができるので、このレチクルユニット30をコンパクトに構成することができる。
【0021】
なお、このレチクルユニット30を上述のライフルスコープ50に搭載するときは、これらの赤色及び緑色光源31r,31gと赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gとは、装置の構成上、レチクル基板33の上下の端部に配置するのが良い(すなわち、図2及び図3において、x軸は水平方向になり、y軸は垂直方向になる)。
【0022】
それでは、このようなレチクルユニット30において、一つの回折格子35により、赤色光源31r及び緑色光源31gから放射された波長の異なる2つの光の1次回折光を光軸上に(この回折格子35の法線方向に)射出させる条件について説明する。まず、回折格子35に入射する光線の入射角(回折格子35の法線に対する入射光線のなす角度)をθ1とし、m次の回折光線の回折角(回折格子35の法線に対する回折光線のなす角度)をθ2とし、回折格子35の格子ピッチ(回折格子の周期)をΔpとし、レチクル基板33の媒質における該当波長の屈折率をnとし、入射光の波長をλとすると、次の式(1)が成り立つ。なお、ここではmは回折次数を示し、自然数である。
【0023】
sinθ1+sinθ2 = mλ/(n・Δp) (1)
【0024】
上述のようにこのレチクルユニット30では、1次の回折光(n=1)を、この回折格子35の法線方向(光軸上)に射出させる(θ2=0)ように構成するため、式(1)は式(2)のように表すことができる。
【0025】
Δp・sinθ1 = λ/n (2)
【0026】
この式(2)から明らかなように、2色の光のうち、波長の長い光(本実施の形態の場合、赤色の光)の方が、入射角θ1が大きくなる。ここで、レチクル基板33内部から回折格子35に入射し、回折して光軸上を像側に射出させるためには、赤色の光の入射角がπ/2より小さく無くてはならない。すなわち、上述の式(2)において、赤色光の波長をλrとし、波長λrにおけるレチクル基板33の媒質の屈折率をnrとし、赤色光の入射角をθrとしたときに、次式(3)の条件を満足する必要がある。
【0027】
θr = sin-1(λr/(nr・Δp)) < π/2 (3)
【0028】
そして、この式(3)を変形することにより、結局、回折格子35の格子ピッチΔpは、次式(4)の条件を満足する必要がある。
【0029】
λr/nr< Δp (4)
【0030】
一方、2色の光のうち、波長の短い光(本実施の形態の場合、緑色の光)の方が、式(2)において入射角θ1が小さくなる。本実施の形態に係るレチクルユニット30では、レチクル基板33の像側面33bで全反射させてから回折格子35に入射するように構成している。そのため、図4に示すように、緑色光源31gから放射されて緑色用ミラー部材32gで反射された光は、レチクル基板33の側面部33gから入射する必要があるが、この緑色光の回折格子35への入射角θgが小さくなりすぎると、側面部33gから入射させることができなくなる。すなわち、図4において、厚さdのレチクル基板33の側面部33gの物体側面33a側の端から、緑色光源31gから放射された中心光線と側面部33gとが交差する点までの距離をΔdとしたとき、このΔdが0より大きくなければならない。これは、回折格子35の中心から側面部33gまでのy軸方向の長さをYgとしたとき、次式(5)の関係を満たすことを意味する。
【0031】
Δd = d−(Yg−d・tanθg)/tanθg > 0 (5)
【0032】
この式(5)を入射角θgの条件式として展開すると、次式(6)のようになり、この式(6)と緑色光の波長をλgとし、レチクル基板33の媒質における波長λgの屈折率をngとした式(2)とから、回折格子35の格子ピッチΔpは、次式(7)の条件を満足する必要がある。
【0033】
θg > tan-1(Yg/2d) (6)
Δp < λg/(ng・sin(tan-1(Yg/2d))) (7)
【0034】
以上の式(4)及び式(7)より、赤色光及び緑色光の2色の光に対して、いずれの光線に対してもその1次回折光を光軸上に射出させるためには、回折格子35の格子ピッチΔpが次式(8)を満足するように構成することが必要である。
【0035】
λr/nr < Δp < λg/(ng・sin(tan-1(Yg/2d))) (8)
【0036】
なお、円板状のレチクル基板33の側面部33r,33gに赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gを接合するために、図5に示すように、レチクル基板33の端部を削って平面状にし、この平面部に赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gを接合することが好ましい。このとき、赤色光及び緑色光の波長に応じて、このレチクル基板33の中心部に形成された回折格子35からの距離Yr,Ygが異なるが、図5(a)に示すように、レチクル基板33の端部の削り取る量を変えて、距離Yr,Ygの違いに対応することができる。或いは、図5(b)に示すように、短い方の距離(本実施形態の場合は緑色光に対応した距離Yg)に合わせて、レチクル基板33の両端を同じ量だけ削り取り、赤色用ミラー部材32rのY軸方向長さを長くして、それぞれの距離Yr,Ygになるように構成することもできる。
【0037】
また、赤色用及び緑色用ミラー部材の形状をレチクル基板34と一体成形で成形可能な場合は、レチクル基板と赤色用及び緑色用ミラー部材は同一部材から形成されても良い。
【0038】
また、以上の説明では赤色光源31r及び緑色光源31gから放射された赤色光及び緑色光を回折格子35上に集光する集光部として、非球面形状の反射面を有する赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gを設けた場合について説明したが、後述する第3実施例に示すように、非球面形状のレンズ面を有し、このレンズ面により赤色光若しくは緑色光を集光するレンズ部材を用いることも可能である。
【0039】
また、以上の説明では、赤色光及び緑色光の2色の光を用いた場合について説明したが、他の波長の光を用いることもできるし、また、3色以上の光を用いることも可能である。3色以上の光を用いる場合、上述の条件式(8)は、これらの3色以上の光のうち、最も長い波長をλrとし、最も短い波長をλgとしたときの条件となる。
【実施例】
【0040】
それでは、以上のような構成のレチクルユニット30について、具体的な実施例を示して説明する。
【0041】
[第1実施例]
第1実施例に係るレチクルユニット30は、上述の実施形態の説明で用いた図2及び図3に示すものあり、この第1実施例に係るレチクルユニット30において、赤色光源31r及び緑色光源31gは、光軸と略平行に物体側に赤色光及び緑色光を放射するように配置した場合を示している。また、赤色用ミラー部材32r及び緑色用ミラー部材32gを構成する反射面の形状である非球面の基準となる球面の中心(以下、「非球面中心」と呼ぶ)は、図2において点Pr,Pgで示すように、これらの赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gとレチクル基板33とが接合される部分である。
【0042】
以下の表1にこの第1実施例に係るレチクルユニット30の諸元を示す。この諸元表において、dはレチクル基板33の厚さを示し、φは円板状のレチクル基板33の直径を示し、ndはレチクル基板33を構成する媒質のd線に対する屈折率を、nCはレチクル基板33を構成する媒質のd線に対する屈折率を、νdはアッベ数を示し、Δpは回折格子35の格子ピッチを示す。なお、実施例では、赤色光源の波長はd線で、緑色高原の波長はC線とした。もちろん、本発明はこれらの波長に限定されたものではない。また、Dカット量は、円板状のレチクル基板33の端部から赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gを接合するために削り取られる部分のy軸方向の長さを示している。すなわち、レチクルユニット33の端部の回折格子35からの長さYr,Ygは、レチクル基板33の半径φ/2からDカット量を引いた値となる。
【0043】
さらに、赤色及び緑色光源31r,31gのそれぞれの光源中心、並びに、赤色用及び緑色用ミラー部材32の反射面の非球面中心の座標は、図2及び図3に示して定義したx軸、y軸及びz軸の交点を回折格子35の中心に一致させた場合のz軸及びy軸の値を(z,y)として示している。ここで、y軸方向は、赤色光源31rの方向を正とし、z軸方向は、像側を正として表している。また、赤色用及び緑色用ミラー部材32r,32gの反射面の非球面形状は、光軸からの垂直方向の高さ(入射高)をyとし、非球面の頂点(上述の非球面中心)における接平面から高さyにおける非球面上の位置までの光軸に沿った距離(非球面量又はサグ量)をS(y)とし、基準球面の曲率半径をrとし、円錐係数をkとし、4次の非球面係数をA4、6次の非球面係数をA6、8次の非球面係数をA8、10次の非球面係数をA10としたとき、次式(9)で表されるものとし、この非球面式(9)における曲率半径r、円錐係数k及び非球面係数Anの値として示してる。ここで、非球面係数に示す「E−n」は、「×10-n」を示している。
【0044】
S(y)=(y2/r)/{1+(1−(1+k)・y2/r21/2
+A4・y4+A6・y6+A8・y8+A10・y10 (9)
【0045】
なお、この表1に示す諸元において、レチクル基板33の厚さd、直径φ、格子ピッチΔpその他長さの単位は、特記のない場合一般に「mm」が使われるが、光学系は比例拡大・比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されることはなく、他の適当な単位を用いることもできる。なお、これらの諸元表の説明は、以降の実施例においても同様である。
【0046】
(表1)
レチクル基板33
d=5
φ=24.2
nd=1.5168
nC=1.51432
νd=64.1
Δp=0.00051

赤色光源31r
光源中心 =(5,14.7)

赤色用ミラー部材32r
非球面中心=(0,12.0)
Dカット量=0.1
r=2.74 k=6.49 A4=0.00208 A6=-1.86927E-6
8=-1.96168E-8 A10=0

緑色光源31g
光源中心 =(5,-11)

緑色用ミラー部材32g
非球面中心=(0,-8.8)
Dカット量=3.3
r=3.78 k=2.39 A4=-0.00227 A6=0.00026
8=-5.29054E-6 A10=0
【0047】
この第1実施例に係るレチクルユニット30を以上の諸元に基づいて構成すると、赤色光源31rもしくは緑色光源31gから放射された赤色光及び緑色光が、回折格子35で回折して、その1次光が光軸上に射出されるため、これらの光源31r,31gを切り替えることにより、接眼レンズ40を介してその視野内の光軸上に、明るい赤又は緑の点像を視認することができる。
【0048】
[第2実施例]
次に、図6を用いて第2実施例に係るレチクルユニット130について説明する。この第2実施例に係るレチクルユニット130において、赤色光源131r及び緑色光源131gは、光軸と略平行に赤色光及び緑色光を放射するが、赤色光源131rから放射された赤色光は、赤色用ミラ−部材132rで反射された後、レチクル基板133の像側面133bで全反射させずに、直接回折格子135に入射するように配置されている。そのため、赤色光源131rから放射される赤色光は像側に放射され、緑色光源131gから放射される緑色光は、第1実施例と同様に物体側に放射される。また、赤色用ミラー部材132r及び緑色用ミラー部材132gを構成する反射面の非球面中心は、第1実施例と同様に、図6において点Pr,Pgで示すように、これらの赤色用及び緑色用ミラー部材132r,132gとレチクル基板133とが接合される部分である。
【0049】
以下の表2にこの第2実施例に係るレチクルユニット130の諸元を示す。
【0050】
(表2)
レチクル基板133
d=5
φ=24.8
nd=1.5168
nC=1.51432
νd=64.1
Δp=0.00047

赤色光源131r
光源中心 =(0,10.7)

赤色用ミラー部材132r
非球面中心=(5,8.0)
Dカット量=4.4
r=-4.74 k=0.56 A4=0.00127 A6=-1.16884E-5
8=-1.56090E-7 A10=0

緑色光源131g
光源中心 =(5,-15.9)

緑色用ミラー部材132g
非球面中心=(0,-12.3)
Dカット量=0.1
r=5.83 k=0.16 A4=-0.00144 A6=-1.34186E-5
8=-5.29054E-6 A10=-2.14739E-8
【0051】
上述のように、波長の長い赤色光は、緑色光に比べて回折格子135に対する入射角が大きくなるため、レチクル基板133の像側面133bに全反射させなくても、視野の外に赤色光源131r及び赤色用ミラー部材132rを配置することができる。そのため、このレチクルユニット130のy軸方向の大きさのうち、赤色光源131r側の大きさを第1実施例に係るレチクルユニット30よりも小さくすることができる。
【0052】
[第3実施例]
最後に、図7を用いて第3実施例に係るレチクルユニット230について説明する。この第3実施例に係るレチクルユニット230において、緑色光源131gは、第1及び第2実施例と同様に、光軸と略平行に物体側に向かって緑色光を放射するが、赤色光源131rは、赤色光を光軸と直交する方向に(y軸方向に)放射するように構成されている。また、これにともない、この赤色光源231rから放射された赤色光をレチクル基板233内に導く集光部として、非球面形状のレンズ面を有する赤色用レンズ部材232rを用いて構成している。また、この赤色用レンズ部材232rで集光された赤色光は、第2実施例と同様に、レチクル基板233の像側面233bで全反射させずに、直接回折格子235に入射するように配置されている。この第3実施例に係るレチクルユニット230において、赤色用レンズ部材232rのレンズ面の非球面中心は、図7の点Prで示すように、y軸上の上端部であり、緑色用ミラー部材232gを構成する反射面の非球面中心は、第1及び第2実施例と同様に、図7において点Pgで示すように、この緑色用ミラー部材232gとレチクル基板233とが接合される部分である。
【0053】
以下の表3にこの第3実施例に係るレチクルユニット230の諸元を示す。なお、赤色用レンズ部材232rの非球面レンズ厚は5mmであり、この非球面形状のレンズ面のd線に対する焦点距離は55.9mmである。
【0054】
(表3)
レチクル基板233
d=5
φ=24.8
nd=1.5168
nC = 1.51432
νd=64.1
Δp=0.00047

赤色光源231r
光源中心 =(3.9,18.0)

赤色用レンズ部材232r
非球面中心=(0,13.0)
Dカット量=4.4
r=-27.51 k=51.81 A4=0.00480 A6=0 A8=0 A10=0

緑色光源231g
光源中心 =(5,-15.9)

緑色用ミラー部材232g
非球面中心=(0,-12.3)
Dカット量=0.1
r=5.83 k=0.16 A4=-0.00144 A6=-1.34186E-5
8=-5.29054E-6 A10=-2.14739E-8
【0055】
第2実施例で説明したように、赤色光は、レチクル基板133の像側面133bに全反射させなくても、視野の外に赤色光源231rを配置することができ、又、赤色用ミラー部材の代わりに、屈折力により集光する赤色用レンズ部材232rを用いても、このレチクルユニット230を構成することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 対物レンズ 30,130,230 レチクルユニット
31r,131r,231r 赤色光源 31g,131g,231g 緑色光源
32r,131r 赤色用ミラー部材(集光部)
232r 赤色用レンズ部材(集光部)
32g,132g,232g 緑色用ミラー部材(集光部)
33,133,233 レチクル基板 35,135,235 回折格子
40 接眼レンズ 50 ライフルスコープ(光学機器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが異なる波長の光を放射する2以上の光源と、
光を透過する材料を円板状に形成し、略円形形状の面の略中心部に回折格子が形成されたレチクル基板と、
前記2以上の光源の各々に対して設けられ、前記光源から放射された光が前記レチクル基板の前記回折格子に集光する集光部とを備え、
前記集光部を経て前記レチクル基板の内部を伝搬した前記光源から放射された光が、当該回折格子で回折した1次光が前記回折格子の法線方向に射出することを特徴とするレチクルユニット。
【請求項2】
前記2以上の光源の各々から放射される光の波長のうち、最も長い波長をλr、最も短い波長をλgとし、前記レチクル基板の厚さをdとし、前記レチクル基板の媒質における最も長い波長のときの屈折率をnrとし、前記レチクル基板の媒質における最も短い波長のときの屈折率をngとし、前記回折格子から前記レチクル基板の前記側面部までの長さであって、前記最も短い波長の光を放射する前記光源が配置される前記側面部までの長さをYgとし、前記回折格子の格子ピッチをΔpとしたとき、次式
λr/nr < Δp < λg/(ng・sin(tan-1(Yg/2d)))
の条件を満足する請求項1に記載のレチクルユニット。
【請求項3】
前記光源は、2つの異なる波長の光を放射する2つの光源から構成され、前記2つの光源が、前記回折格子を挟んで対向するように配置されている請求項2に記載のレチクルユニット。
【請求項4】
前記集光部は、前記レチクル基板とは別の部材からなり、前記レチクル基板の側面部に接合されて設けられ、かつ非球面形状の反射面を有し、前記光源からの光を前記反射面で反射させて集光するように構成された請求項3に記載のレチクルユニット。
【請求項5】
前記集光部は、前記レチクル基板とは別に設けられ、前記レチクル基板の側面部に接合されて設けられ、かつ非球面形状のレンズ面を有し、前記光源からの光を前記レンズ面で屈折させて集光するように構成された請求項3に記載のレチクルユニット。
【請求項6】
前記集光部は、前記レチクル基板の屈折率とほぼ同じ屈折率を有し、
前記レチクル基板の前記側面部から入射した前記光を、前記レチクル基板の前記回折格子が形成されている面と対向する面で全反射させて前記回折格子に照射するように構成された請求項4又は5に記載のレチクルユニット。
【請求項7】
対物レンズと、
前記対物レンズにより形成される像若しくは当該像と略共役な位置に前記レチクル基板の前記回折格子が形成された前記面が配置された請求項1〜6いずれか一項に記載のレチクルユニットと、
前記対物レンズの前記像、及び、前記レチクルユニットの前記回折格子から射出される光を重ね合わせて観察する接眼レンズと、を有する光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−17884(P2011−17884A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162425(P2009−162425)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(501439264)株式会社 ニコンビジョン (86)
【Fターム(参考)】