説明

レチノイドXレセプター機能調節剤

【課題】レチノイドXレセプター機能調節作用を有する新規化合物又はその塩、及びそれらを有効成分として含む医薬等を提供する。
【解決手段】下記の一般式(I)で表される化合物又はその塩。


(式中、R〜Rは、アルキル基等を示し;Rは、水素原子等を示し;R及びRは、水素原子等を示し;X及びYは、メチン基、又は窒素原子を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レチノイドXレセプター(RXR)に対して、リガンドとして働いて、その機能或いは作用の調節作用を有する新規化合物に関する。また、本発明は、かかる化合物或いはその生理学的に許容される塩を有効成分として含有する医薬、レチノイドXレセプター機能調節剤、及びレチノイド作用調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
核内受容体は、ステロイドホルモンや活性型ビタミンA、Dの標的分子であり、リガンド依存的転写因子として特異的遺伝子の発現を制御し、細胞分化、増殖、発生、代謝、恒常性などを厳密に調節している(非特許文献1)。近年、その機能が明らかになるにつれて、核内受容体もしくはその特異的リガンドが癌、自己免疫疾患、代謝疾患など様々な難治性疾患の発症と治療に関与していることが示されてきた。
【0003】
特に、PPAR(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor)、LXR(Liver X Receptor)、FXR(Farnesoid X Receptor)は、脂質、糖質、コレステロール代謝を担う核内受容体として、糖尿病をはじめとする生活習慣病治療薬開発の重要な分子標的として、そのリガンド開発が活発に行われている。代謝に関わるこれらの核内受容体はいずれも、レチノイドの核内受容体の一つであるレチノイドXレセプター(RXR:Retinoid X Receptor)とヘテロダイマーを形成して遺伝子上の特異的応答配列に結合する。そして、このヘテロダイマーは、どちらかの受容体の一方にアゴニストが結合すれば活性化されることから(非特許文献2)、レチノイドXレセプター特異的なリガンドはヘテロダイマーパートナー受容体リガンドの同効物質として捉えることもできる(非特許文献3)。
【0004】
レチノイドは、レチノイン酸(活性型ビタミンA酸:図1)の誘導体の総称であり、細胞分化、増殖、アポトーシス、形態形成などの特異的制御因子である(非特許文献4)。その作用は、レチノイン酸レセプター(RAR:Retinoic acid receptor)と、レチノイドXレセプター(RXR:Retinoic X receptor)という2種類の核内受容体のヘテロダイマーが担っている。RAR、RXRは、何れも3種のサブタイプ(α、β、γ)が存在し、それぞれ内因性リガンドとして、all-trans-レチノイン酸(ATRA)、9-cis-レチノイン酸(9cRA)が同定されている。
【0005】
RXRは、核内レセプターのなかでも、特異な役割を果たしている。RXRは、前述のようにRARと共にRXR−RARヘテロダイマーを形成するだけでなく、他の様々な核内レセプターとヘテロダイマーを形成して、これらの機能に関与している(非特許文献1)。RXRとダイマーを形成する核内レセプターには、RARの他に、RXR自身(ホモダイマー);ビタミンDレセプターVDR、甲状腺ホルモンレセプターTRなどのホルモンレセプター;や、パーオキシゾーム増殖剤応答性レセプターPPAR、オキシステロールレセプターLXR、胆汁酸レセプターFXRなどの脂質、糖質、コレステロール代謝を制御している核内レセプターが含まれる。これらのレセプターのうち、PPAR、LXR又はFXRと、RXRとのヘテロダイマーの場合には、RXRアゴニスト自身も単独で前述のヘテロダイマーを活性化することができるので、ヘテロダイマーパートナーレセプターと同等の生物作用を発揮すると考えられる。例えば、RXRアゴニストは、PPARγのアゴニストであるチアゾリジンジオン系抗糖尿病薬であるピオグリタゾンと同様に、脂肪細胞の分化を誘導し、糖尿病モデル動物において抗糖尿病効果を示す(非特許文献2)。
【0006】
RAR、RXRリガンドについては、これらのレセプターに対する選択的アゴニストとして、今までに多くの化合物が合成されている。図2に、本発明者らが見い出したRAR、RXRの合成リガンドを示した(非特許文献3)。また、RXRによって選択的に媒体されるプロセスを調節するための化合物として、2環式ベンジル、ピリジニル、チオフェン、フラニル、ピロール誘導体等の化合物、或いは、2環式ベンジル、ピリジニル、チオフェン、フラニル、ピロール、及び炭素環式ポリエン酸を含むポリエン酸誘導体の化合物が開示されており、該化合物のRXRによって選択的に媒体されるプロセスの調節として、脂質代謝のインビボ調節、皮膚関連プロセスのインビボ調節、悪性細胞増殖のインビボ調節、又は、前癌病巣のインビボ調節等が示されている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0007】
また、RARやRXRに対する選択的な合成リガンド(合成レチノイド)が作製され、レチノイド作用におけるそれらの役割が明らかにされている(非特許文献1;非特許文献4)。更に、レチノイドの作用調節剤として、4-[5H-2,3-(2,5-ジメチル-2,5-ヘキサノ)-5-メチルジベンゾ[b,e][1,4]ジアゼピン-11-イル]安息香酸や、4-[1,3-ジヒドロ-7,8-(2,5-ジメチル-2,5-ヘキサノ)-2-オキソ-2H-1,4-ベンゾジアゼピン-5-イル]-安息香酸などのベンゾジアゼピン誘導体が開示されている(特許文献4)。また、レチノイドの作用調節剤として有用なジフェニルアミン型の化合物が、開示されている(特許文献5)。これらの化合物は、それ自体はレチノイド作用を有しないか、あるいはそのレチノイド作用が微弱であるにもかかわらず、レチノイン酸などのレチノイドの作用を顕著に増強する作用を有しており、ビタミンA欠乏症、上皮組織の角化症、リウマチ、遅延性アレルギー、骨疾患、又は白血病やある種の癌の治療や予防に有用であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平8−505359号公報。
【特許文献2】特表平8−505852号公報。
【特許文献3】特表平8−511027号公報。
【特許文献4】国際公開WO97/11061号パンフレット。
【特許文献5】国際公開WO98/45242号パンフレット。
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Academic Press, 2001. pp113-140, 248-272。
【非特許文献2】Nature 1997; 386:407-410。
【非特許文献3】J. Med. Chem. 2005, 48, 5875-5883。
【非特許文献4】Raven Press 1994; Sporn MB, et al., The Retinoids。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、レチノイドXレセプター機能調節作用を有する新規化合物を提供することにある。また、本発明の別の課題は、かかる化合物或いはその生理学的に許容される塩を有効成分として含む医薬、レチノイドXレセプター機能調節剤、及びレチノイド作用調節剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記の課題を解決すべく、レチノイドXレセプター機能調節作用を有する新規化合物について、鋭意探索する中で、下記の一般式(I)で表される化合物(以下、「本発明の化合物」ともいう)又はその塩を合成し、該化合物が、レチノイドXレセプター(以下、「RXR」と表示する。)に対して優れた作動作用、特にレチノイド増強作用等の機能調節作用を有していることを見いだし、本発明を完成するに至った。本発明の化合物は、RXR機能の調節作用、より詳細には、RAR、PPAR、LXR、FXRなどの核内レセプターに対する調節作用(作動作用又は抑制作用)を有し、該調節作用を発揮することによってRXR機能の改善或いはRXR機能の調節に関する疾患の予防及び/又は治療のための医薬として用いることができる。
【0012】
すなわち、具体的には本発明は、(1)下記の一般式(I):
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立にアルキル基又はフェニル基を示し;Rは、水素原子、アルキル基又はシクロアルキル基置換アルキル基又は芳香環置換アルキル基を示し;R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を示し;X及びYは、それぞれ独立にメチン基、又は窒素原子を示す)で表される化合物又はその塩や、(2)R〜Rにおけるアルキル基が低級アルキル基であり、Rにおけるシクロアルキル基置換アルキル基が低級シクロアルキル基置換低級アルキル基であり、XおよびYが共に窒素原子であり、R及びRが共に水素原子であることを特徴とする上記(1)に記載の化合物又はその塩を包含する。
【0013】
また、本発明は、(3)上記(1)若しくは(2)に記載の化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含む医薬を包含する。
【0014】
さらに、本発明は、(4)上記(1)若しくは(2)に記載の化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含むレチノイドXレセプター機能調節剤や、(5)レチノイドXレセプター機能調節剤が、レチノイドXレセプター作動剤であることを特徴とする上記(4)に記載のレチノイドXレセプター機能調節剤を包含する。
【0015】
また、本発明は、(6)上記(1)若しくは(2)に記載の化合物又はその生理学的に許容される塩を含むレチノイド作用調節剤や、(7)レチノイド作用調節剤が、レチノイド作用増強剤であることを特徴とする上記(6)に記載のレチノイド作用調節剤や、(8)レチノイド作用調節剤が、レチノイド作用抑制剤であることを特徴とする上記(6)に記載のレチノイド作用調節剤や、(9)レチノイド作用の抑制が、抗糖尿病抑制作用及び/又は抗肥満作用であることを特徴とする上記(8)に記載のレチノイド作用調節剤を包含する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化合物は、RXR機能調節作用(好ましくはRXR作動作用)を有しているので、RXR機能調節剤(好ましくはRXR作動剤)として有用である。また、本発明の化合物は、RXR機能調節作用(RXR作動作用又はRXR抑制作用)を介して、RAR、パーオキシゾーム増殖剤応答性レセプターPPAR、オキシステロールレセプターLXR、胆汁酸レセプターFXRなどの核内レセプターに対する調節作用(作動作用又は抑制作用)を発揮するため、これらの核内レセプターの活性化剤又は抑制剤としても有用であると考えられる。
【0017】
したがって、本発明の化合物は、RXR機能の調節作用、より詳細には、RAR、PPAR、LXR、FXRなどの核内レセプターに対する調節作用(作動作用又は抑制作用)を発揮することによって予防及び/又は改善される疾患の予防及び/又は治療のための医薬としても有用である。具体的には、ビタミンA欠乏症、上皮組織の角化症、乾癬、アレルギー疾患、リウマチなどの免疫性疾患、骨疾患、白血病、又は癌の予防・治療のための医薬や、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、高コレステロール血症、肥満症、骨疾患、リウマチ、又は免疫性疾患などの疾患の予防及び/又は治療のための医薬や、外因的なビタミンA過剰症の予防及び/又は治療のための医薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】レチノイドの作用機構を示す図である。
【図2】RARやRXRに対する選択的な合成リガンドを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上記の一般式(I)で表される化合物において、R〜Rは、それぞれ独立にアルキル基又はフェニル基を示す。本明細書において、アルキル基又はアルキル部分を含む置換基(シクロアルキル基置換アルキル基など)のアルキル部分は、直鎖状、分枝鎖状、環状、又はこれらの組み合わせのいずれでもよい。R〜Rが示すアルキル基としては、本発明に用い得る限り特に制限されないが、低級アルキル基であることが好ましく、C1−6アルキル基であることがより好ましい。C1−6アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピルメチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができ、中でも、メチル基、エチル基を好ましく挙げることができる。また、R〜Rの基は、それぞれ異なってもよいが、R〜Rのすべての基が同じであることが好ましく、R〜Rのすべての基がメチル基、又はエチル基であることが特に好ましい。
【0020】
〜Rが示すアルキル基やフェニル基は置換基を有していてもよい。本明細書において、ある官能基について「置換基を有していてもよい」という場合には、その置換基について特に言及しない場合には、その官能基が1又は2個以上の任意の置換基を有していてもよいことを意味する。2個以上の置換基を有する場合には、それらは同一でも異なっていてもよい。置換基の存在位置は限定されず、置換可能な任意の部位に存在することができる。置換基の種類は特に限定されないが、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、ハロゲン原子(本明細書においてハロゲン原子という場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよい)、ヒドロキシ基、オキソ基、アミノ基、アンモニウム基、イミノ基、メルカプト基、チオキソ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、リン酸基、スルホ基、ヒドラジノ基、ウレイド基、イミド基、イソチオシアナート基、イソシアナート基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、アラルキル基、ヘテロ環アルキル基、アラルキルオキシ基、ヘテロ環アルキルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、ヘテロ環オキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、ヘテロ環カルボニル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヘテロ環カルボニルオキシ基、アルキルカルボニルアミノ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホニルアミノ基、カルバモイル基、又はスルファモイル基などを挙げることができる。
【0021】
上記に例示した置換基は、さらに1又は2個以上の他の置換基で置換されていてもよい。このような例として、例えば、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン化アルキル基、モノ若しくはジアルキルアミノ基、ハロゲン化アルキルカルボニル基、ハロゲン化アリール基、ヒドロキシアリール基、モノ又はジアルキルカルバモイル基などを挙げることができる。もっとも、上記に説明した置換基は例示のためのものであり、これらに限定されることはない。
【0022】
は、水素原子、アルキル基、又はシクロアルキル基置換アルキル基又は芳香環置換アルキル基を示す。Rが示すアルキル基やシクロアルキル基置換アルキル基や芳香環置換アルキル基としては、本発明に用い得る限り特に制限されないが、低級アルキル基や、低級シクロアルキル基置換低級アルキル基や、5員環又は6員環置換低級アルキル基であることが好ましく、C1−6アルキル基や、C1−6シクロアルキル基置換C1−6アルキル基や、5員環又は6員環置換C1−6アルキル基であることがより好ましい。Rが示すC1−6アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などを挙げることができ、中でも、メチル基、エチル基を好ましく挙げることができ、メチル基をより好ましく挙げることができる。また、Rが示すC1−6シクロアルキル基置換C1−6アルキル基としては、例えば、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などを挙げることができ、中でも、シクロプロピル基、シクロプロピルメチル基をより好ましく挙げることができ、シクロプロピルメチル基をさらに好ましく挙げることができる。なお、Rが示すアルキル基、シクロアルキル基置換アルキル基や芳香環置換アルキル基は、置換基を有していてもよい。
【0023】
一般式(I)中の「−Si(R)(R)(R)で表される基」及び「−Si(R)(R)(R)で表される基」の置換位置は特に限定されず、それぞれ独立に任意の位置に置換することができるが、上記の一般式(I)中のNに対してそれぞれメタ位であることが好ましい。
【0024】
本発明の化合物は酸付加塩又は塩基付加塩などの塩の形態で存在する場合もある。例えば、酸付加塩としては、塩酸塩若しくは臭化水素酸塩などの鉱酸塩、又はp−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、シュウ酸塩、若しくは酒石酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、若しくはカルシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩若しくはエタノールアミン塩などの有機アミン塩などを用いることができる。これらのほか、グリシン塩などのアミノ酸塩を形成する場合もある。
【0025】
上記の一般式(I)で表される本発明の化合物は、置換基の種類により、1個または2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、このような不斉炭素に基づく任意の光学異性体、光学異性体の任意の混合物、ラセミ体、2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体、ジアステレオ異性体の任意の混合物などは、いずれも本発明の範囲に包含される。また、2重結合を有する化合物については、純粋な形態の幾何異性体又は幾何異性体の混合物であってもよい。遊離化合物又は塩の形態の化合物の任意の水和物又は溶媒和物も本発明の範囲に包含される。
【0026】
上記の一般式(I)で表される本発明の化合物の好ましい例として、一般式(I)において、R〜Rはそれぞれメチル基又はエチル基を示し、Rは水素原子、メチル基又はシクロプロピルメチル基を示し、R及びRはそれぞれ水素原子を示し、X及びYはそれぞれ窒素原子を示す化合物を挙げることができ、特に好ましい例として、以下の化合物1〜化合物6を挙げることができるが、本発明の化合物はこれらの例に限定されることはない。
【0027】
【化3】

【0028】
なお、上記化合物1は、2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル]アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(上記一般式(I)において、R〜Rはそれぞれメチル基;Rは水素原子;R及びRはそれぞれ水素原子;X及びYはそれぞれ窒素原子)であり、上記化合物2は、2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル](メチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(上記一般式(I)において、R〜Rはそれぞれメチル基;Rはメチル基;R及びRはそれぞれ水素原子;X及びYはそれぞれ窒素原子)であり、上記化合物3は、2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル](シクロプロピルメチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(上記一般式(I)において、R〜Rはそれぞれメチル基;Rはシクロプロピルメチル基;R及びRはそれぞれ水素原子;X及びYはそれぞれ窒素原子)であり、上記化合物4は、2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル]アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(上記一般式(I)において、R〜Rはそれぞれエチル基;Rは水素原子;R及びRはそれぞれ水素原子;X及びYはそれぞれ窒素原子)であり、上記化合物5は、2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル](メチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(上記一般式(I)において、R〜Rはそれぞれエチル基;Rはメチル基;R及びRはそれぞれ水素原子;X及びYはそれぞれ窒素原子)であり、上記化合物6は、2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル](シクロプロピルメチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(上記一般式(I)において、R〜Rはそれぞれエチル基;Rはシクロプロピルメチル;R及びRはそれぞれ水素原子;X及びYはそれぞれ窒素原子)である。
【0029】
上記の一般式(I)で表される本発明の化合物の製造方法については、特に制限されないが、当業者は、上記の代表的な化合物1〜化合物6についての製造例が具体的かつ詳細に示されている本願実施例を参照することにより、また、必要に応じてこれらの方法に適宜の改変や修飾を加えることにより、上記の一般式(I)で表される本発明の化合物に包含される任意の化合物を容易に製造することが可能である。
【0030】
本発明の医薬やレチノイドXレセプター(RXR)機能調節剤は、本発明の化合物又はその生理学的に許容されるその塩(以下、「本発明の化合物等」ともいう)を有効成分として含んでいる限り特に制限されない。本発明の化合物等は、RXRと相互作用することによって、RXR機能を調節する作用(RXR機能調節作用)を有している。したがって、本発明の化合物等はRXR機能調節剤や、RXR機能調節作用を利用した医薬として用いることができる。本発明における「RXR機能調節作用」とは、RXRと相互作用することによって、RXRが発揮し得るいずれかの細胞内情報伝達系を作動させる作用(RXR作動作用)又は抑制させる作用(RXR抑制作用)を意味する。
【0031】
上記の「RXR作動作用」として、具体的には、単独ではレチノイド作用を実質的に有していないか、あるいは微弱である(例えば後述の実施例16の実験系において、化合物(1×10−7M)単独であるときに分化した細胞の割合が15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下)ものの、レチノイド作用を持つ物質との共存下では、かかる物質のレチノイド作用(代表的なものとして細胞分化作用、細胞増殖促進作用、及び生命維持作用など)を濃度依存的に増強する作用(レチノイド増強作用)を含む。また、上記の「RXR抑制作用」として、具体的には、単独でレチノイド作用を実質的に有していないか、あるいは微弱であり(例えば後述の実施例16の実験系において、化合物(1×10−7M)単独であるときに分化した細胞の割合が15%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下)、かつ、レチノイド作用を持つ物質との共存下では、かかる物質のレチノイド作用(代表的なものとして細胞分化作用、細胞増殖促進作用、及び生命維持作用など)を濃度依存的に抑制する作用(レチノイド抑制作用)を含む。
【0032】
本発明の化合物等がRXR作動作用やレチノイド増強作用を有している場合、その化合物等(RXRアゴニスト)をRXR作動剤やレチノイド作用増強剤として用いることができ、本発明の化合物等がRXR抑制作用を有している場合は、その化合物等をRXR抑制剤やRXR作用抑制剤として用いることができる。本発明の化合物等がRXR作動作用やレチノイド増強作用を有する場合のその作用の好ましい程度としては、後述の実施例16の実験系において、その化合物(1×10−7M)を1×10−10MのAm80(4−[(5,6,7,8−テトラヒドロ−5,5,8,8−テトラメチル−2−ナフタレニル)カルバモイル]安息香酸)と共存させたときに分化した細胞の割合が、20%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは85%以上を挙げることができる。
【0033】
ある化合物が、RXR作動作用を有しているかは、例えば後述の実施例16に記載の「HL−60細胞における細胞分化誘導検定」を利用することによって容易に調べることができる。すなわち、その化合物が、単独では上記細胞の細胞分化をほとんど誘導せず、レチノイド作用を持つ物質との共存下では、かかる物質のレチノイド作用(上記細胞の細胞分化誘導作用)を濃度依存的に増強する作用を有していれば、その化合物はRXR作動作用を有していると判断することができ、上記細胞の細胞分化誘導作用を濃度依存的に増強する作用を有していなければ、その化合物はRXR作動作用を有していないと判断することができる。なお、ある化合物のレチノイド増強作用を評価する方法については、国際公開WO97/11061号パンフレット(PCT/JP96/2709)にも記載されている。
【0034】
いかなる特定の理論にも拘泥しないが、本発明の化合物等のうち、RXR作動作用を有している化合物等は、レチノイン酸やレチノイン酸様の生物活性を有する上記化合物(例えば、Am80など)などのレチノイドをビタミンA欠乏症、上皮組織の角化症、乾癬、アレルギー疾患、リウマチなどの免疫性疾患、骨疾患、白血病、又は癌の予防・治療のための医薬として投与する場合に、該レチノイドの作用を増強するレチノイド作用増強剤として用いることができる。
【0035】
また、RXR作動作用を有している本発明の化合物等は、レチノイドを上記疾患の治療・予防のために投与しない場合においても、生体内に既に存在するレチノイン酸の作用を増強するので、上記疾患の治療・予防の目的で上記化合物等を医薬として投与することも可能である。さらに、この化合物等は、レチノイドに対しての増強作用のみならず、細胞の核内に存在する核内レセプター・スーパーファミリー(Evans,R.M., Science, 240, p.889, 1988)に属するレセプターに結合して生理作用を発揮するステロイド化合物、ビタミンDなどのビタミンD化合物、又はチロキシンなどの生理活性物質の作用増強剤として用いることもできる。例えば、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、高コレステロール血症、肥満症、骨疾患、リウマチ、又は免疫性疾患などの疾患の予防及び/又は治療のための医薬として有用である。
【0036】
前述の核内レセプターとして、例えば、活性ビタミンDの核内レセプター、脂肪代謝に関与するPPAR、チロキシンレセプター、及びCOUPなどが知られているが(以上のレセプターについて、Mangelsdorf,D.J.et al,, The Retinoids, 2nd Ed., Ravan Press, pp.319-350, 1994を参照のこと)、これらのレセプターは、いずれもRXRに結合して上記生理活性物質の作用を発現させることが明らかにされている。
【0037】
本発明の化合物等のうち、RXR抑制作用を有している化合物等は、レチノイドの生理活性(代表的なものとして細胞分化作用、細胞増殖促進作用、及び生命維持作用など)を顕著に抑制する作用を有している。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、このような作用を有する化合物等(RXRアンタゴニスト)は、レチノイン酸レセプター(RAR)とともに二量体を形成するレチノイドXレセプター(RXR)に結合し、レチノイン酸などのレチノイドの生理活性の発現を調節(抑制)するものと考えられる。この化合物等は、生体中のビタミンAの過剰による内因的なビタミンA過剰症、あるいは、ビタミンA欠乏症、上皮組織の角化症、乾癬、アレルギー疾患、リウマチなどの免疫性疾患、骨疾患、白血病、又は癌の予防・治療のために投与されるレチノイン酸やレチノイン酸様の生物活性を有する化合物(例えばAm80など)により惹起される外因的なビタミンA過剰症の予防及び/又は治療に有用である。
【0038】
RXR抑制作用を有している本発明の化合物等は、それ自体を単独で、又は他のレチノイドや制ガン剤と組み合わせて投与することにより、白血病などの癌を治療することが可能である。さらに、上記の化合物等は、細胞の核内に存在する核内レセプター・スーパーファミリー(Evans,R.M., Science, 240, p.889, 1988)に属するレセプターに結合して生理活性を発現する物質、例えば、ステロイド化合物、ビタミンDなどのビタミンD化合物、又はチロキシンやリガンド不明のオーファンレセプターなどの作用を抑制することができるので、これらの物質の生理活性発現の調節に用いることもできる。従って、RXR抑制作用を有している本発明の化合物等は、例えば、核内レセプター・スーパーファミリーに属する核内レセプターの1又は2以上が関与する生物作用の異常を伴う疾患の予防及び/又は治療に用いることができる。
【0039】
また、本発明の医薬は、糖尿病の予防及び/又は治療に用いることができる。対象となる糖尿病の成因及び病態は特に限定されず、例えば、インスリン依存型糖尿病(IDDM)又はインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)のいずれも適用対象であり、インスリン作用の異常に基づくもの(例えば細胞内グルコース利用の障害、インスリン受容体機能障害、インスリンの構造異常、グルココルチコイドなどの薬物投与が関連するものなど);インスリン分泌異常に基づくもの(グルコキナーゼ遺伝子の突然変異などの信号伝達の異常、膵炎や自己免疫機序による膵β細胞の部分的破壊など);栄養障害などによるものなどは、いずれも本発明の医薬の適用対象である。
【0040】
一般的に、糖尿病の治療は、急性及び慢性の合併症の発症予防又はその進展の抑制を目的として行われている。本発明の医薬は、糖尿病の合併症の予防及び/又は治療の目的で用いることもできる。本明細書において用いられる「予防」という用語は糖尿病又はその合併症の発症の予防を含めて最も広義に解釈する必要がある。また、本明細書において用いられる「治療」という用語は、疾病又はその合併症の根治療法、症状の軽快、病態の進展の抑制などを含めて最も広義に解釈する必要がある。本発明の医薬の好適な適用対象となる糖尿病の合併症としては、例えば、網膜症、腎症、神経障害、高脂血症などを挙げることができるが、これらのうち糖尿病に伴う高脂血症は本発明の医薬の好適な適用対象である。
【0041】
本発明の医薬を糖尿病の予防及び/又は治療、あるいは糖尿病の合併症の予防及び/又は治療に用いる場合には、同じ目的で用いられる他の医薬と併用してもよい。例えば、糖尿病の治療剤として用いられるチアゾリン化合物又はインシュリン作用物質と併用した場合に、本発明の医薬の作用が相乗的に増強される場合があるので、これらの医薬との併用は本発明の医薬の好ましい使用態様である。糖尿病の治療剤として用いられるチアゾリン化合物としては、例えば、トログリタゾン(troglitazone,「ノスカール」、三共株式会社)、ピオグリタゾン(pioglitazone,特開昭61−267580号公報)、BRL−49653(特開平1−131169号公報)などを挙げることができる。インシュリン作用物質としては、インシュリン、インシュリン分泌促進薬(グリペミリド・ヘキストマリオンルセル株式会社など)などを挙げることができる。このほか、スルホニルウレア剤、ビグアナイド系血糖降下薬、又はα−グリコシダーゼ阻害薬などの医薬と併用してもよい。
【0042】
本発明の化合物等を含む医薬は、それ自体を投与してもよいが、好ましくは、当業者に周知の方法によって製造可能な経口用あるいは非経口用の医薬組成物として投与することが好ましい。経口投与に適する医薬用組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する医薬組成物としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、点眼剤、点鼻剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、及び貼付剤等を挙げることができる。上記の医薬組成物は、薬理学的、製剤学的に許容しうる添加物を加えて製造することができる。薬理学的、製剤学的に許容しうる添加物の例としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を挙げることができる。
【0043】
本発明の医薬の投与量は特に限定されず、種々の投与方法において適宜の投与量を容易に選択できる。例えば、経口投与の場合には成人一日あたり0.01〜1,000mg程度の範囲で用いることができるが、患者の年齢や体重、症状、合併症の有無若しくはその症状、治療又は予防の目的などに応じて適宜増減することが望ましい。なお、チアゾリン化合物若しくはインシュリン作用薬物を有効成分として含む医薬と本発明の医薬とを併用する場合には、チアゾリン化合物若しくはインシュリン作用薬物を有効成分として含む医薬の投与期間中、及び/又はその前後のいずれの期間においても本発明の医薬を投与することが可能である。
【0044】
本発明には、医薬、レチノイドXレセプター機能調節剤又はレチノイド作用調節剤の製造における、本発明の化合物等の使用や、ビタミンA欠乏症、上皮組織の角化症、乾癬、アレルギー疾患、リウマチなどの免疫性疾患、骨疾患、白血病、癌、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、高コレステロール血症、肥満症、及び外因的なビタミンA過剰症から選択される疾患の予防及び/又は治療における本発明の化合物等の使用や、本発明の化合物等を哺乳動物(特にヒト)に投与することを特徴とする、ビタミンA欠乏症、上皮組織の角化症、乾癬、アレルギー疾患、リウマチなどの免疫性疾患、骨疾患、白血病、癌、糖尿病、動脈硬化症、高脂血症、高コレステロール血症、肥満症、及び外因的なビタミンA過剰症から選択される疾患の予防・治療方法も含まれる。
【0045】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例の範囲に限定されることはない。以下の実施例で採用された製造方法をスキーム1〜2に示す。スキーム中の化合物番号は、前記の好ましい化合物の化合物番号及び実施例中の化合物番号に対応している。
【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【実施例1】
【0048】
<エチル 2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル]アミノ]ピリミジン−5−カルボキシレート(スキーム1中の「化合物8」)の製造>:
3,5−ビス(トリメチルシリル)アニリン(スキーム1中の「化合物7」)(175mg、0.74mmol)及びエチル 2−クロロピリミジン−5−カルボキシレート(148mg、0.94mmol)、炭酸カリウム(518mg、3.74mmol)の混合物を100℃で加熱攪拌した。2時間半後、反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:4)で精製し、前述の「化合物8」を224mg得た(収率82%)。
【0049】
「化合物8」: 黄色固体, 1H-NMR (CDCl3) δ 8.96 (s, 2 H), 7.73 (d, 2 H, J=0.5 Hz), 7.50 (bs, 1 H), 7.41 (d, 1 H, J=0.5 Hz), 4.38 (dd, 2 H, J=14.5, 7.0 Hz), 1.39 (t, 3 H, J=7.2 Hz), 0.29 (s, 18 H).
【実施例2】
【0050】
<2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル]アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(スキーム1中の「化合物1」)の製造>:
実施例1で得られた「化合物8」(73mg,0.19mmol)をメタノール(0.9mL)、THF(1mL)にとかし、2M水酸化ナトリウム水溶液(0.9mL)を加えて、60℃で加熱攪拌した。45分後、反応液を2M塩酸にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:4)で精製し、「化合物1」を40mg得た(収率59%)。
【0051】
「化合物1」: 無色結晶, mp 270.5-273 ℃ (hexane). 1H-NMR (CDCl3) δ 9.03 (s, 2 H), 8.73 (bs, 1 H), 7.76 (s, 2 H), 7.47 (s, 1 H), 0.31 (s, 18).
【実施例3】
【0052】
<エチル 2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル](メチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボキシレート(スキーム1中の「化合物9」)の製造>:
実施例1で得られた「化合物8」(20mg,0.05mmol)のDMF溶液(1mL)に、NaH(2.4mg,60% in oil,0.12mmol)およびヨウ化メチル(50μL)を加え、室温で1.5時間攪拌した。NaH(3.6mg,0.12mmol)を追加し、更に1時間攪拌した後、反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:4)で精製し、「化合物9」を21mg(quant)得た。
【0053】
「化合物9」:無色結晶, 1H-NMR (CDCl3) δ 8.87 (s, 2 H), 7.58 (2, 1 H), 7.40 (d, 2 H, J=1.0 Hz), 4.34 (dd, 2 H, J=14.5 and 7.5 Hz), 1.36 (t, 3 H, J=7.2 Hz), 0.29 (s, 3 H).
【実施例4】
【0054】
<2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル](メチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(スキーム1中の「化合物2」)の製造>:
実施例3で得られた「化合物9」(33mg,0.081mmol)を、実施例2における化合物1の製造方法と同様の条件で加水分解して「化合物2」を20.6mg得た(収率68%)。
【0055】
「化合物2」: 無色結晶, mp 227.5-229.5 ℃ (AcOEt/hexane). 1H-NMR (CDCl3) δ 8.92 (s, 2 H), 7.60 (t, 1 H. J=1.0 Hz), 7.40 (d, 2 H, J=1.0 Hz), 3.64 (s, 3 H), 0.29 (s, 18 H).
【実施例5】
【0056】
<2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル](シクロプロピルメチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボキシレート(スキーム1中の「化合物10」)の製造>:
実施例1で得られた「化合物8」(72.9mg,0.18mmol)のDMF溶液(10mL)に、NaH(15mg,60% in oil,0.38mmol)およびブロモメチルシクロヘキサン(50μL)に加え、室温で3.5時間攪拌した。反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:14)で精製し、「化合物10」を67mg得た(収率79%)。
【0057】
「化合物10」:無色結晶, 1H-NMR (CDCl3) δ 8.90 (d, 2 H, J=6.5 Hz), 7.64 (t, 1 H, J=1.0 Hz), 7.38 (d, 2 H, J=1.0 Hz), 4.35 (dd, 2 H, J=14.5 and 7.0 Hz), 4.00 (d, 2 H, J=7.0 Hz), 1.36 (t, 3 H, J=7.0 Hz), 1.18 (m, 1 H), 0.50 (dd, 2 H, J=13.0 and 5.0 Hz), 0.29 (s, 18 H), 0.25 (dd, 2 H, J=10.0 and 4.5 Hz).
【実施例6】
【0058】
<2−[[3,5−ビス(トリメチルシリル)フェニル](シクロプロピルメチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(スキーム1中の「化合物3」)の製造>:
実施例5で得られた「化合物10」(63mg,0.13mmol)を、実施例2における化合物1の製造方法と同様の条件で加水分解して「化合物3」を62mg(qyant)得た。
【0059】
「化合物3」: 無色結晶, mp 213.5-214.0 ℃ (hexane). 1H-NMR (CDCl3) δ 8.90 (s, 2 H), 7.64 (s, 1 H), 7.39 (s, 1 H), 3.93 (d, 2 H, J=7.0 Hz), 1.18 (m, 1 H), 0.50 (dd, 2 H, J=14.0 and 6.0 Hz), 0.29 (s, 18 H), 0.25 (dd, 2 H, J=9.7 and 5.1 Hz).
【実施例7】
【0060】
<1,3,5−トリス(トリエチルシリル)ベンゼン(上記スキーム2中の「化合物12」)の製造>:
1,3,5−トリブロモベンゼン(スキーム2中の「化合物11」)(502mg,1.60mmol)とトリエチルクロロシラン(1.6mL,9.53mmol)をTHF(10mL)に溶解し、−78℃、Ar気流下で、n−ブチルリチウム(1.55M solution in hexane,4.6mL,7.15mmol)を加えた。攪拌しつつ、反応温度をゆっくりと−10℃まで上昇させた。3.5時間後、反応液を硫酸アンモニウム水溶液にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン)で精製し、「化合物12」を383mg得た(収率57%)。
【0061】
「化合物12」:無色油状物質, 1H-NMR (CDCl3) δ 7.59 (s, 3 H, Ar-H), 0.98 (t, 27 H, J= 7.8 Hz, CH3CH2-), 0.79 (q, 18 H, J=7.8 Hz, -SiCH2CH3). HRMS (EI) Calcd for C24H48Si3 420.3064, found 420.3065.
【実施例8】
【0062】
<1,3−ビス(トリエチルシリル)−5−ニトロベンゼン(上記スキーム2中の「化合物13」)の製造>:
実施例7で得られた「化合物12」(117mg,0.28mmol)を無水酢酸に溶かし、−10℃で、発煙硝酸(0.3mL)を加えた。50分後、反応液を、氷を浮かべた水酸化ナトリウム水溶液にあけ、塩化メチレンで抽出した。有機層を食塩水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン)で精製し、「化合物13」を34mg得た(収率34%)。
【0063】
「化合物13」: 1H-NMR (CDCl3) δ 8.26 (d, 2 H, J=0.6 Hz, Ar-H), 7.87 (s, 1 H, Ar-H), 0.98 (t, 18 H, J= 7.2 Hz, CH3CH2-), 0.79 (q, 12 H, J=8.0 Hz, -SiCH2CH3). 13C-NMR (CDCl3) δ 147.5, 145.9, 139.2, 128.8, 7.2, 3.2. HRMS (EI) Calcd for C18H33O2NSi2351.2050, found 351.2044.
【実施例9】
【0064】
<3,5−ビス(トリエチルシリル)アニリン(上記スキーム2中の「化合物14」)の製造>:
実施例8で得られた「化合物13」(48.2mg,0.14mmol)をメタノールに溶解し、10%PD/Cを加えて水素雰囲気下、接触還元を行った。反応液を、セライトを用いて濾過後、濾液を濃縮し、その後、残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:19)で精製し、「化合物14」を37mg得た(収率84%)。
【0065】
「化合物14」: 1H-NMR (CDCl3) δ 7.02 (bs, 1 H), 6.82 (d, 2 H, J=0.9 Hz), 3.58 (bs, 2 H), 0.97 (t, 18 H, J=7.8 Hz) 0.77 (q, 12 H, J=7.8 Hz). 13C-NMR (CDCl3) δ 144.6, 137.2, 130.7, 121.3, 7.4, 3.4. HRMS (EI) Calcd for C18H35NSi2 321.2308, found 321.2310.
【実施例10】
【0066】
<エチル2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル]アミノ]ピリミジン−5−カルボキシレート(スキーム2中の「化合物15」)の製造>:
実施例9で得られた「化合物14」(35.5mg,0.10mmol)、エチル2−クロロピリミジン−5−カルボキシレート(24.1mg,0.13mmol)、および炭酸カリウム(116.5mg,0.84mmol)の混合物を100℃で加熱攪拌した。1時間後、反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:19)で精製し、「化合物15」を36mg得た(収率75%)。
【0067】
「化合物15」: 淡黄色固体, 1H-NMR (CDCl3) δ 8.96 (bs, 2 H), 8.02 (bs, 1 H), 7.74 (bs, 2 H), 7.39 (bs, 1H), 4.38 (q, 2 H, J=7.2 Hz), 1.39 (t, 3H, J=7.2 Hz), 1.00 (t, 18 H, J=7.8 Hz), 0.81 (q, 12 H, J=7.8 Hz). 13C-NMR (CDCl3) δ 164.4, 161.6, 160.0, 137.3, 136.9, 135.8, 126.6, 115.3, 60.9, 14.4, 7.4, 3.4. HRMS (FAB+) Calcd for C25H42O2N3Si2([M+H]+) 472.2816, found 351.2805.
【実施例11】
【0068】
<2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル]アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(スキーム2中の「化合物4」)の製造>:
実施例10で得られた「化合物15」(21mg,0.044mmol)を、実施例2における化合物1の製造方法と同様の条件で加水分解して「化合物4」を17mg得た(収率87%)。
【0069】
「化合物4」: 無色結晶(AcOEt/hexane). 1H-NMR (CDCl3) δ 9.02 (bs, 2 H), 7.80 (d, 2 H, J=0.7 Hz), 7.39 (bs, 1H), 1.01 (t, 18 H, J=7.8 Hz), 0.82 (q, 12 H, J=7.8 Hz). 13C-NMR (CDCl3) δ 168.3, 160.8, 137.4, 136.7, 136.2, 127.0, 122.3, 114.4, 29.7, 7.4, 3.5. HRMS (FAB+) Calcd for C23H38O2N3Si2([M+H]+) 442.2503, found 442.2495.
【実施例12】
【0070】
<エチル2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル](メチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボキシレート(スキーム2中の「化合物16」)の製造>:
実施例10で得られた「化合物15」(55.8mg,0.12mmol)のDMF溶液(1mL)に、NaH(60% in oil,14mg,0.36mmol)およびヨウ化メチル(22μL,0.35mmol)を加え、室温で1時間攪拌した。反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:19)で精製し、「化合物16」を45mg得た(収率78%)。
【0071】
「化合物16」:無色結晶(MeOH/isoPrOH), 1H-NMR (CDCl3) δ 8.86 (bs 2 H), 7.50 (bs, 1 H), 7.79 (d, 2 H, J=0.9 Hz), 4.34 (q, 2 H, J=7.02 Hz), 3.60 (s, 3 H), 1.36 (t, 3 H, J=7.0 Hz), 0.99 (t, 18 H, J=7.2 Hz), 0.80 (q, 12 H, J=7.2 Hz). 13C-NMR (CDCl3) δ 164.9, 162.7, 159.5, 143.2, 138.1, 137.7, 132.2, 113.5, 60.6, 39.3, 14.3, 7.4, 7.3, 3.4, 3.2. HRMS (FAB+) Calcd for C26H44O2N3Si2([M+H]+) 526.3285, found 526.3282.
【実施例13】
【0072】
<2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル](メチル)アミノ] ピリミジン−5−カルボン酸(スキーム2中の「化合物5」)の製造>:
実施例12で得られた「化合物16」(31mg,0.064mmol)を、実施例2における化合物1の製造方法と同様の条件で加水分解して「化合物5」を25mg得た(収率88%)。
【0073】
「化合物5」: 無色結晶 (AcOEt/hexane). 1H-NMR (CDCl3) δ 8.89 (bs, 2 H), 7.51 (t, 1 H, J=1.0 Hz), 7.38 (d, 2 H, J= 1.0 Hz), 3.62 (s, 3 H), 0.99 (t, 18 H, J=8.2 Hz), 0.79 (q, 12 H, J=8.2 Hz). 13C-NMR (CDCl3) δ 170.1, 162.9, 160.3, 143.0, 138.3, 137.9, 132.2, 112.4, 39.5, 7.4, 3.4. HRMS (FAB+) Calcd for C23H38O2N3Si2([M+H]+) 442.2503, found 442.2495.
【実施例14】
【0074】
<2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル](シクロプロピルメチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボキシレート(スキーム2中の「化合物17」)の製造>
実施例10で得られた「化合物15」(70.2mg,0.15mmol)のDMF溶液(10mL)に、NaH(60% in oil,14.2mg,0.36mmol)およびブロモメチルシクロヘキサン(45μL,0.47mmol)を加え、室温で3.5時間攪拌した。反応液を水にあけ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗った後、NaSOで脱水し、濃縮した。残査をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:n−ヘキサン=1:19)で精製し、「化合物17」を36mg得た(収率46%)。
【0075】
「化合物17」:無色結晶, 1H-NMR (CDCl3) δ 8.83 (bs, 2 H), 7.53 (t, 1H, J=1.0 Hz), 7.35 (d, 2 H, J=1.0 Hz), 4.33 (q, 2 H, J=7.2 Hz), 3.90 (d, 2 H, J=7.0 Hz), 1.35 (t, 3 H, J=7.2 Hz), 1.14 (m, 1 H), 0.98 (t, 18 H, J=7.9 Hz), 0.79 (q, 12 H, J= 7.9 13C-NMR (CDCl3) δ 165.0, 162.9, 159.7, 142.3, 138.5, 137.8, 133.8, 113.3, 60.5, 55.8, 14.3, 9.9, 9.8, 7.4, 3.6, 3.4. HRMS (FAB+) Calcd for C26H44O2N3Si2 ([M+H]+) 486.2972, found 486.2975.
【実施例15】
【0076】
<2−[[3,5−ビス(トリエチルシリル)フェニル](シクロプロピルメチル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸(スキーム2中の「化合物6」)の製造>
実施例14で得られた「化合物17」(27mg,0.052mmol)を、実施例2における化合物1の製造方法と同様の条件で加水分解して「化合物6」を24mg得た(収率94%)。
【0077】
「化合物6」: 無色固体. 1H-NMR (CDCl3) δ 8.87 (bs, 2 H), 7.55 (t, 1H, J=1.0 Hz), 7.35 (d, 2 H, J=1.0 Hz), 3.92 (d, 2 H, J=7.2 Hz), 1.35 (t, 3 H, J=7.2 Hz), 1.16 (m, 1 H), 0.98 (t, 18 H, J=7.8 Hz), 0.79 (q, 12 H, J= 7.8 Hz), 0.44 (ddd, ), 0.13 (dd, 2 H, J=10.5 amd 4.6 Hz). 13C-NMR (CDCl3) δ 170.2, 163.0, 160.4, 142.0, 138.7, 138.0, 133.7, 112.1, 56.0, 9.8, 7.4, 3.6, 3.4.
【実施例16】
【0078】
<HL−60細胞における細胞分化誘導検定>
本発明の化合物(上記の「化合物1」〜「化合物6」)に関して、単独での細胞分化誘導作用、および、共存するレチノイドの細胞分化誘導作用に対する効果を検討した。ポジティブコントロールとして、公知のRXRアゴニストであるPA024(2−[N−シクロプロピルメチル−N−(5,6,7,8−テトラヒドロ−5,5,8,8−テトラメチルナフタレン−2−イル)アミノ]ピリミジン−5−カルボン酸;国際公開番号WO00/66595号パンフレットの化合物4参照)についても同様の作用及び効果の検討を行った。比較および共存させるレチノイドとしては、Am80(4−[(5,6,7,8−テトラヒドロ−5,5,8,8−テトラメチル−2−ナフタレニル)カルバモイル]安息香酸)(公知のRARアゴニスト)を用いた。特開昭61−76440号公報に記載された方法に準じて、前骨髄球性白血病細胞株HL−60を用いて、顆粒球系への分化を、形態変化およびニトロブルーテトラゾリウム(NBT)の還元能測定により判定した。分化した細胞の割合(%)をNBT還元能から算出した。その結果を以下の表1に示す。なお、表1中の濃度は対数値で示し、「−」は未測定を意味する。
【0079】
【表1】

【0080】
本評価系では、RARアゴニストは単独で分化誘導活性を持ち、RXRアゴニストは単独で分化誘導活性を持たず、低濃度のAm80の効果を濃度依存的に増強する。表1から分かるように、本発明の化合物はいずれも、公知のRXRアゴニストであるPA024と同様に、単独では分化誘導活性を示さなかったが、低濃度のAm80存在下では、Am80の分化誘導効果を濃度依存的に増強する効果を示した。この結果から、本発明の化合物はRXRアゴニストであり、優れたRXR作動作用を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の化合物は、レチノイドXレセプター機能調節剤や、レチノイド作用調節剤のような医薬等の分野に好適に利用することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立にアルキル基又はフェニル基を示し;Rは、水素原子、アルキル基又はシクロアルキル基置換アルキル基又は芳香環置換アルキル基を示し;R及びRは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシ基、又はハロゲン原子を示し;X及びYは、それぞれ独立にメチン基、又は窒素原子を示す)で表される化合物又はその塩。
【請求項2】
〜Rにおけるアルキル基が低級アルキル基であり、Rにおけるシクロアルキル基置換アルキル基が低級シクロアルキル基置換低級アルキル基であり、XおよびYが共に窒素原子であり、R及びRが共に水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の化合物又はその塩。
【請求項3】
請求項1若しくは2に記載の化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含む医薬。
【請求項4】
請求項1若しくは2に記載の化合物又はその生理学的に許容される塩を有効成分として含むレチノイドXレセプター機能調節剤。
【請求項5】
レチノイドXレセプター機能調節剤が、レチノイドXレセプター作動剤であることを特徴とする請求項4に記載のレチノイドXレセプター機能調節剤。
【請求項6】
請求項1若しくは2に記載の化合物又はその生理学的に許容される塩を含むレチノイド作用調節剤。
【請求項7】
レチノイド作用調節剤が、レチノイド作用増強剤であることを特徴とする請求項6に記載のレチノイド作用調節剤。
【請求項8】
レチノイド作用調節剤が、レチノイド作用抑制剤であることを特徴とする請求項6に記載のレチノイド作用調節剤。
【請求項9】
レチノイド作用の抑制が、抗糖尿病抑制作用及び/又は抗肥満作用であることを特徴とする請求項8に記載のレチノイド作用調節剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−202576(P2010−202576A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49777(P2009−49777)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】