説明

レトルトエビの製造方法

【課題】レトルト処理した後においても脆い食感を呈することなく、プリプリとした弾力感のある食感を実現できるレトルトエビの製造方法を提供する。
【解決手段】原料エビをトランスグルタミナーゼ溶液、10重量%以上の食塩水又は食塩粉末、リン酸塩溶液に順次浸漬する工程を経た後にレトルト処理する。また、食塩水の濃度は15重量%以上、特に飽和状態が好ましく、トランスグルタミナーゼ溶液での浸漬は減圧下で行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト処理されたエビの製造方法に関するものである。さらに詳しくはレトルト処理後における脆い食感を回避し、エビらしいプリプリとした食感を維持できるレトルトエビの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来まで、牛・豚・鶏のような鳥獣類や魚・貝・エビ・イカ等の魚介類を含む動物性食品具材のレトルト品が幅広く提供されている。特に魚介類のうちエビは種々の食品に利用されるものであり、そのレトルト品も数多く製造されている。
【0003】
レトルト処理は高温・高圧で行われるため、肉質に与える影響が大きいことが知られている。具体的には高温・高圧で動物性食品具材を処理するとその種類によっては硬くなりすぎるものや、噛むと脆い食感を呈することがあり、従来から問題となっていた。
【0004】
動物性食品具材である魚介類のうちエビについても例外ではなく、レトルト処理後においてはエビの持ち味であるプリプリとした食感が無くなり、噛むとボロボロと崩れるような脆い食感を呈することが多かった。
【0005】
このような状況に鑑み、動物性食品具材全般対象として、トランスグルタミナーゼ・重炭酸ナトリウム及び食塩を利用してレトルト処理する方法(特許文献1)や、未加熱の魚介類及び肉類をリン酸塩及び食塩を含む水溶液中に浸漬し、その後食塩を含む水溶液中でレトルト処理する方法(特許文献2)が開示されている。
【0006】
これらの方法は、特定の動物性具材についてより優れた食感等を求めたものではなく、動物系食品具材の全般においてその適用を図ったものである。また、これらの方法によって製造されたレトルトエビには、食感等の面で改良の余地が残されていた。
【0007】
すなわち、動物性食品具材は、牛、豚及び鳥等の畜肉系や魚、エビ及びイカ等の魚介系によって大きくわけられるが、これらのうち特に魚介系であっても魚、エビ、イカ、貝などその種類によってそれぞれ特有の筋肉組織を有している。従って、各種類ごとにレトルト処理による影響も異なり、このような魚介類の各具材ごとにきめ細やかなレトルト処理の前処理が必要となってくる。
【0008】
魚介系の具材のうち、エビについては、即席麺・チャーハン・シチュー等の幅広く種々のレトルト食品に利用されるものであり、汎用性は高い。従って、エビのレトルト製品について、エビの本来有するプリプリとした弾力感を維持させることができれば広い範囲のレトルト食品に利用することが可能となる。
【特許文献1】特開平7−8225
【特許文献2】特開平1−181767
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは魚介系具材のうち、特にエビについて着目し、これをレトルト処理した場合の製品を喫食する際にその外観を損なうことなく弾力性アップさせ、従来の脆さ等の問題を回避する製造方法を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの鋭意研究の結果、レトルトエビを製造する際には、原料エビをトランスグルタミナーゼ溶液に浸漬し、酵素を作用させた後に、高濃度の食塩水中に浸漬させ、さらにこれをリン酸塩溶液に浸漬するという前処理を施すことで、レトルト後における食感としての弾力感、エビの外観・大きさの各要素においてほぼ理想的な状態を維持できることを見出した。
【0011】
すなわち、本願第一の発明は、
レトルト処理されたエビの製造方法であって、以下の工程、すなわち;
(A)原料エビをトランスグルタミナーゼ溶液に浸漬する工程、
(B)前記トランスグルタミナーゼ溶液に浸漬後のエビを10重量%以上の食塩水又は食塩粉末中に浸漬する工程、
(C)前記食塩水又は食塩粉末に浸漬後のエビをリン酸塩溶液に浸漬する工程、
(D)前記リン酸塩溶液に浸漬後のエビをレトルト処理する工程、
の各工程を含むことを特徴とするレトルトエビの製造方法、
である。
【0012】
さらに、(A)における原料エビのトランスグルタミナーゼ溶液中での浸漬は減圧下において行うのがより好ましい。
すなわち、本願第二の発明は、
前記(A)工程を減圧下において行う請求項1記載のレトルトエビの製造方法、
である。
【0013】
前記食塩水についてはその濃度は、15重量%以上の高濃度であることが好ましい。すなわち、本願第三の発明は、
前記食塩水の食塩濃度が15重量%以上である請求項1又は2に記載のレトルトエビの製造方法、
である。
【0014】
また、(C)工程のリン酸塩溶液の浸漬後のブランチング工程を加えておけば、原料エビの菌数を減少させることができて有用である。すなわち、本願第四の発明は、
前記(C)工程の後に、エビをブランチングする工程を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のレトルトエビの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0015】
レトルト処理後においてもエビに特有の弾力感を維持することができ、脆さを回避することができる。このように良好な食感のエビを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の内容を詳細に説明するが、本発明はこれらの開示の範囲に限定されるものではない。
【0017】
─原料エビ─
本発明において原料エビは、種々のタイプを用いることができる。具体的には、伊勢エビ、大正エビ、車エビ、ブラックタイガー、バナメイエビ、甘エビ、芝エビ、ボタンエビ、白エビ、赤エビ、手長エビ、オオコシオリエビ(クモエビ)、アミエビ、桜エビ、カナダキングエビ、南蛮エビ、シマエビ、五色エビ及びウチワエビ等の種々のエビに利用することができる。
使用できるエビの大きさについては特に限定されない。 また、これらの原料エビの形態については、生あるいは凍結品のいずれのタイプでも適用することができる。
【0018】
─前処理─
まず、原料エビの前処理を行う。前記原料エビが凍結品であれば、流水等で解凍する等してから次の浸漬工程を行う。また、酵素・食塩水・リン酸塩溶液を効率的に作用させるために殻付きのエビについては、殻を除去する等の処理をすることが好ましい。
その他の前処理としては、使用する原料エビの種類や形態に応じて適宜変更できる。例えば、背綿を除去したり、エビを開いたりしてもよい。
【0019】
─酵素溶液─
前処理後の原料エビを酵素溶液であるトランスグルタミナーゼ溶液に浸漬する。トランスグルタミナーゼとは、ペプチド鎖内にあるグルタミン残基のγ−カルボキシアミド基のアシル転移反応を触媒する酵素である。このトランスグルタミナーゼは、アシル受容体としてタンパク質中のリジン残基のε−アミノ基が反応すると、タンパク質分子内及び分子間においてε−(γ−Glu)−Lys架橋結合(以下、G−L結合と略す)が形成される。また、水がアシル受容体として機能するときは、グルタミン残基が脱アミド化されてグルタミン酸残基になる反応を進行させる酵素である。
【0020】
トランスグルタミナーゼは、その起源を問わず、哺乳動物、魚類及び微生物等由来のいずれのタイプも使用することができる。例えば微生物由来のトランスグルタミナーゼであれば、ストレプトベルチシリウム属(Streptovertcillium属)や遺伝子組換えによって得られるものなどを用いることができる。
【0021】
トランスグルタミナーゼは、カルシウム依存性、カルシウム非依存性の二種類のタイプがあるが、本発明おいてはカルシウム依存性のタイプを用いる。カルシウム依存性のタイプの場合、酵素溶液にカルシウム塩を用い、本カルシウム塩溶液がレトルト後のエビの食感に影響しているものと考えられる。
【0022】
トランスグルタミナーゼの活性単位は次のように定義される。すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、トランスグルタミナーゼを作用せしめ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で、鉄錯体を形成させた後、525nmにおける吸光度を測定し、ヒドロキサム酸量を検量線により求め、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成せしめた酵素を1U(ユニット)とする。
【0023】
トランスグルタミナーゼの酵素溶液は、酵素溶液の1ml当り概ね0.5〜10.0units含有することとなるようにトランスグルタミナーゼ溶液を調製する。また、本酵素を作用させる場合における酵素溶液の他の構成成分としては、カルシウム依存性タイプである場合には、カルシウム塩が必要となる。カルシウム塩の例としては例えば、乳酸カルシウムが挙げられる。具体的な酵素溶液中の乳酸カルシウムの濃度としては特に限定されないが、酵素溶液中に0.5重量%程度以上あれば好ましい。
【0024】
また、トランスグルタミナーゼを使用する際の酵素溶液のpHは、中性付近から弱アルカリ性であればよく、具体的には、概ね6〜8程度であればよい。通常、乳酸カルシウム溶液の場合においては、pHは概ね6.7程度になる。酵素溶液への浸漬は、流水で解凍等行った後の原料エビが十分浸漬するように浸漬槽等で行う。
【0025】
─酵素溶液への浸漬温度・時間等─
前記原料エビを上記の酵素溶液に浸漬する。浸漬する温度は、4℃〜40℃程度の範囲内において幅広く選択することができる。また、浸漬温度によって浸漬するべき時間も変わってくる。
【0026】
具体的には4℃程度の低温であれば6時間程度、以上、20℃程度の室温であれば2時間以上、37℃程度であれば90分以上であればよい。但し、温度が高い場合には、浸漬中に増加する微生物の問題があるため注意する必要がある。
【0027】
─減圧下での酵素溶液への浸漬工程─
酵素溶液の浸漬は減圧下において行うこともできる。減圧下で行うことによって、エビに効果的に酵素溶液を浸透させることができ、プリプリ感をより向上させることができる。さらに、減圧下においてタンブリングすることによってより効果的に減圧の効果を奏することができる。具体的な減圧度としては特に限定されないが、減圧度が大きくなるに従って、レトルト後のエビの食感に対する好ましい影響も大きくなる。一般的には概ね−0.08MPa程度で行い、浸漬時間としては4℃程度の低温下であれば6〜12時間程度
行えばよい。
【0028】
─食塩水への浸漬─
トランスグルタミナーゼ溶液の浸漬の後に、食塩水への浸漬を行う。トランスグルタミナーゼ溶液浸漬と本工程を組み合わせることによって、エビの身が引き締まりエビの良好な弾力を実現できるものと考えられる。
【0029】
トランスグルタミナーゼ溶液に浸漬しているエビを取り出し、続けて食塩水への浸漬を行う。浸漬はエビ全体が漬かる程度であればよい。尚、本発明において使用する食塩水は概ね10重量%以上であることが必要となる。すなわち、これ以上であれば飽和状態(概ね26〜28重量%)までの範囲で利用できる。但し、好ましくは15重量%以上であり、更に好ましくは20重量%以上である。また、飽和状態(概ね26〜28重量%程度)であれば最も好ましい。また、食塩水の溶液状態に浸漬する方法のみならず、トランスグルタミナーゼ溶液で処理した後のエビを固体の食塩粉末の中に埋没させてもよい。個体の食塩粉末の場合には、飽和濃度の食塩水の場合と同様の効果を得ることができる。
【0030】
食塩水中で浸漬する時間は、食塩水の濃度にもよるが、概ね30分〜3時間程度以上が好ましい。また、浸漬温度は特に限定されず、概ね4℃〜室温付近の30℃程度の間で行うのが一般的である。
【0031】
─リン酸塩溶液への浸漬─
食塩への浸漬を行ったエビについて続いて、リン酸塩溶液への浸漬を行う。使用するリン酸塩溶液としては、種々のタイプを用いることができるが、重合リン酸塩溶液とするのが一般的である。重合リン酸塩としては、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸等のナトリウム塩もしくはカリウム塩、またはこれらの2種以上の混合物を用いることができる。重合リン酸塩水溶液の濃度は使用する重合リン酸塩の種類により適宜設定されるものであり、通常0.1〜5.0重量%である。重合リン酸塩水溶液の濃度が0.1重量%よりも少ないと浸漬時間が長くかかったり、十分な効果が得られない場合があり、5.0重量%を超えると食感が柔らかくなりすぎ、エグ味が強くなるからである。また、より好ましくは1.0〜3.0重量%程度である。また、リン酸塩溶液のpHとしては、8.0〜11.0程度が好適である。また、好ましくは9.5〜10.0程度である。
【0032】
具体的なリン酸塩溶液としては、例えば、ポリリン酸ナトリウムとピロリン酸ナトリウムの1:1の混合品の場合には、1.0〜5.0重量%が復元後の収縮度、復元性・食感の点で好ましい。浸漬時の液温、浸漬時間は特に限定されないが、通常、品質劣化の防止の点で、5℃〜30℃で10分〜24時間程度が好ましい。尚、本リン酸塩溶液のpHは概ね9.7程度である。
【0033】
─ブランチング─
本発明においてはリン酸溶液浸漬後にさらに、ブランチング工程を加えても良い。ブランチングは熱水や蒸気によって行うことが可能であるが、残存する塩味を低減化する目的から液状である熱水による方法が好ましい。熱水によるブランチングの条件としては、沸騰中の熱水に40秒程度を浸漬する程度でよい。原料エビに存在する菌類を概ね殺菌することができるとともに余分な塩味を低減させることができる。
【0034】
─レトルト処理─
リン酸溶液に浸漬後のエビをレトルト処理を行う。レトルト処理とは、加圧加熱処理をいい、耐熱性容器に充填した製品を品温上昇に伴う製品の内圧で容器が破損しないように加圧しながら100℃〜130℃ 程度の蒸気又は熱水で10〜50分間程度加熱し、少なくともF値=4以上となるように処理することをいう。レトルト処理はバッチ式レトルト殺菌装置、連続式レトルト殺菌装置を用いることができる。通常、F値が大きい程、エビへの加熱も大きくなることから、食感等も低下するが、本発明ではF値が20〜40の処理であっても発明の効果を発揮することができる。
【0035】
レトルト処理はレトルトパウチに封入して行うが、封入する際には無液状態のままパウチに封入する方法、又は、パウチに封入時に水や調味液等の液状物を同時に添加してからレトルト処理する方法のいずれも可能である。但し、レトルト処理において、エビ中に残存する塩分をエビの外部に移行させる上では、水や調味液等の液状物を同時に添加する方法の方が好ましい。具体的には、添加するエビの重量:液状物の比が、概ね2:1〜1:3程度となるように液状物を入れるといよい。尚、エビ以外に白菜・椎茸・ニンジン・タマネギ・コーン等の植物系の具材や、豚肉・牛肉・鶏肉等の畜肉系又はイカ・タコ・貝・魚等の動物系の具材を同時に封入しても良い。
【0036】
─各工程の一体性─
本発明の製造方法においては、トランスグルタミナーゼ溶液の浸漬工程・食塩水への浸漬工程・リン酸塩溶液のへの浸漬工程、レトルト処理工程の各工程を順に行うが、これらの工程についてはそれぞれ単独で行うことが好ましい。各工程を同時に行うと、レトルト後に期待する食感が得られない場合がある。
【0037】
─他の魚介類との関係─
本発明による製造方法はエビのレトルト品に対して特に有効である。他の魚介類に対しても使用は可能であるが、本発明は特にエビの場合に対する効果の発揮が大きい。本発明はこのようにエビに好ましい製法であって、イカや貝等の他の具材ではエビのように十分な効果が発揮できない。分類学的にもエビは節足動物であり、イカや貝が軟体動物であるのと対照的である。このような点からもエビに特有の効果であるものと考えられる。
【0038】
─本発明によるレトルト食品─
本発明により製造されたレトルトエビは、種々の利用が可能である。例えば、レトルトパウチ内にエビと調味液を封入してレトルト処理すれば、長期間の保存が可能な即席麺の具材とすることができる。また、調味液がシチューのルーやカレーのルーである場合には、エビの弾力感にすぐれたレトルトシチューや、レトルトカレーとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の製造方法によって製造されるレトルトエビは弾力感を有しており、従来まで得られなかった食感を得ることができる。本レトルトエビを用いることでレトルト食品の一層の発展を図ることができる。また、近年の食品の安全に対する消費者の高まりに対応して高温・高圧で行われる過酷なレトルト条件下においても、弾力感のある食感を呈し、レトルト食品の一層の発展を図ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の実施例(試験例)を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
<試験例1>各工程の必要性についての検討
原料エビは、トランスグルタミナーゼ溶液中の浸漬・食塩水での浸漬・リン酸塩溶液中の浸漬の工程を含むこれら各工程の必要性について検討した。
実施例1の本発明によるレトルトエビは以下の方法により調製した。
原料として凍結させたエビ(バナメイ種)を流水解凍し、解凍後のエビをザルに取り軽く水を切って準備した。次に、トランスグルタミナーゼ溶液としてアクティバTG−K(味の素(株))を5.0重量%に水で希釈した酵素溶液を調整した。本酵素溶液の構成は、トランスグルタミナーゼが0.05重量%、乳酸カルシウムが3.75重量%、デキストリンが1.20重量%であった。本酵素溶液に解凍後のエビを5℃中で一晩浸漬した。浸漬した後にエビを取り出して、食塩水(26重量%)に20℃中で90分間浸漬した。浸漬後のエビを取り出し、1重量%のリン酸塩溶液(トリポリリン酸ナトリウム0.5重量%・ピロリン酸ナトリウム0.5重量%)に20℃中で90分間浸漬した。
リン酸塩溶液に浸漬後のエビを沸騰水中に投入し、40秒間保持することによってブランチングをおこなった。ブランチング後のエビ21gに、醤油系の澱粉調味液(澱粉濃度5重量%)30gを加えてアルミ箔バリヤータイプのレトルトパウチ内に収納し、121℃でF値が20となるようにレトルト処理し( (株)日阪製作所、RCS40RTGN機)、冷却後試食に供した。
【0042】
実施例2は、実施例1と同様に処理したが、飽和食塩水の代わりに食塩粉末(固体)中に浸漬後のエビを埋没させて、実施例1と同様に処理した。
実施例3は、実施例1と同様に処理したが、酵素溶液中の浸漬を減圧タンブリング状態で行って、実施例1と同様に処理した。尚、減圧タンブリングは (株)大道産業のRTN−1700機を用いて、真空度−0.09MPa、温度4℃で10時間行った。
【0043】
比較例1は、解凍後の原料エビをいずれの浸漬もなく、ブランチングに供したのち、上記と同様にレトルト処理した。
比較例2は、酵素溶液の浸漬なしに食塩水の浸漬及びリン酸塩溶液の浸漬を行った後に実施例1と同様にレトルト処理した。
比較例3は、食塩水溶液の浸漬なく、酵素溶液浸漬及びリン酸塩溶液の浸漬を行った後に実施例1と同様にレトルト処理した。
比較例4は、リン酸塩溶液の浸漬なしに酵素溶液浸漬及び飽和食塩水溶液の浸漬を行った後に実施例1と同様にレトルト処理した。
【0044】
尚、評価については以下のように行った。
熟練のパネラー6人により行った。最良を5、最低を1として平均を算出することで評価を行った。評価の内容は以下の表1に示す。尚、酵素溶液・食塩水・リン酸塩溶液のいずれにも浸漬しない場合の評価を基準として外観3.00、大きさ3.00、弾力感1.00とした。尚、これらの評価項目のうち、弾力感を最も重視した。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1〜3、比較例1〜4について外観及び喫食試験の結果を以下の表2に示す。
表2において“〇”は各試験区のテスト品の製造の際に、製造工程の一部として実施した
ものを意味する。一方、“×”は製造工程の一部として実施しなかったものを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
比較例2〜4に示したように、酵素浸漬、食塩(水)浸漬、リン酸塩浸漬のいずれかが欠如すると弾力感に低下が見られた。食塩浸漬については26重量%の食塩水によっても固形の粉末食塩のいずれにおいても弾力感の変化はなかった。酵素浸漬の工程においては減圧タンブリングを行うことでレトルト後のエビの弾力感がより向上した。尚、比較例1と実施例1のレトルト後のエビの写真を図1に示す。
【0049】
<試験例2>各工程を別個にすることの必要性についての検討
原料エビは、トランスグルタミナーゼ溶液中の浸漬、食塩水での浸漬、リン酸塩溶液中の浸漬の工程を含むが、これらの工程同士の一部を一括で実施できるかどうか試験した。評価項目及び各種溶液の濃度、レトルトエビの製造方法は、試験例1に示したものと同じである。尚、本試験において酵素+食塩の混合溶液において浸漬は20℃中で180分、食塩+リン酸の混合溶液に浸漬は20℃中で180分行った。結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
酵素+食塩の混合溶液に浸漬した場合、また、食塩+リン酸の混合溶液に浸漬した場合のいずれについても、これらを別個の工程として製造した場合に比べて弾力感において劣った。また、食塩+リン酸の混合溶液に浸漬した場合については、レトルト後においても食塩の残存が大きくレトルト後のエビの塩味が強くなるという問題が生じた。
【0052】
<試験例3>食塩の濃度を変更した場合効果の違い。
食塩水への浸漬工程において最適な食塩の濃度範囲を検討した。評価項目及び各種溶液の濃度、レトルトエビの製造方法は、試験例1に示したものと同じである。結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
食塩水溶液における食塩濃度が10重量%程度あれば、喫食時において良好な弾力感を得ることができることが判明した。また、15重量%以上であれば好ましく、20重量%以上であればさらに好ましいことが判明した。尚、本試験例における比較例1、2及び実施例2、5のレトルト後のエビの写真を図2に示す。
【0055】
<試験例4>他の魚介類に適用した場合の効果
魚介類のうちエビ以外の他の魚介類にも本発明が適用できるかを試験した。エビに対する比較対照としてはイカ(モンゴウイカ)と貝(イタヤガイ)を用いた。尚、イカと貝についても、レトルト処理するまでの工程は試験例1に示したレトルトエビの場合と同様である。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
エビに関して特に弾力感の増加が著しかった。イカや貝などについても弾力感において改善は見られたが、エビ以外の魚介類については、エビ弾力感の改善の効果程の効果は見られなかった。本発明がエビに特に効果的であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】試験例1におけるレトルト後のエビの写真である。(A):比較例1の従来までのレトルトエビの写真である。(B):実施例1の本発明の製造工程に従って製造されたレトルトエビの写真である。
【図2】試験例3におけるレトルト後のエビの写真である。(A):比較例1の従来までのレトルトエビの写真である。(B):比較例2の食塩水における食塩濃度が5重量%である本発明の製造工程に従って製造されたレトルトエビの写真である。(C):実施例2の食塩水における食塩濃度が15重量%である本発明の製造工程に従って製造されたレトルトエビの写真である。(D):実施例5の食塩水における食塩濃度が26重量%である本発明の製造工程に従って製造されたレトルトエビの写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトルト処理されたエビの製造方法であって、以下の工程、すなわち;
(A)原料エビをトランスグルタミナーゼ溶液に浸漬する工程、
(B)前記トランスグルタミナーゼ溶液に浸漬後のエビを10重量%以上の食塩水又は食 塩粉末中に浸漬する工程、
(C)前記食塩水又は食塩粉末に浸漬後のエビをリン酸塩溶液に浸漬する工程、
(D)前記リン酸塩溶液に浸漬後のエビをレトルト処理する工程、
の各工程を含むことを特徴とするレトルトエビの製造方法。
【請求項2】
前記(A)工程を減圧下において行う請求項1記載のレトルトエビの製造方法。
【請求項3】
前記食塩水の食塩濃度が15重量%以上である請求項1又は2に記載のレトルトエビの製造方法。
【請求項4】
前記(C)工程の後に、エビをブランチングする工程を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のレトルトエビの製造方法。

【図1】
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【図2】
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