説明

レニウムの回収

本発明は、固体担体上にレニウム及び少なくとも銀を含むエチレンオキシド触媒からレニウムを回収する方法であって、水を実質的に含まない1つ以上の極性非酸性有機溶媒を該触媒に密接に接触させて、極性非酸性有機溶媒及び抽出されたレニウムを含むレニウム含有溶液を形成することにより、該触媒中に存在するレニウムの少なくともかなりの割合を抽出し、そして極性非酸性有機溶媒は、その分子構造中に1つ以上の酸素、窒素、及び/又はハロゲン原子を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用されたレニウム含有触媒からのレニウムそのものの回収、特に、レニウムを含有するエチレンオキシド触媒からのレニウム回収に関する。
【背景技術】
【0002】
レニウムは、複数のニッチ用途を発見した高価で希少な金属である。現在、その金属は、例えば、高オクタン炭化水素の製造のための石油改質触媒(例えば、二元金属Pt−Re組成物)、及び高温タービン機関部品に使用される超合金における重要な使用を発見している。これらの2つの用途は、それぞれ、レニウムの最終用途のおよそ20%及び60%を示す。また、レニウムは、幾つかのニッケル系超合金の高温強度特性を改良するものとして知られている。
【0003】
また、レニウムは、固体担体上の活性金属として銀を含むエチレンオキシド触媒における促進剤としてますます使用されている。これらのエチレンオキシド触媒は、エチレンオキシド{工業用途で使用される多数の汎用化学品(例えば、エチレングリコール)に対する重要な前駆体}の製造に工業用途で使用される。典型的には、エチレン酸化触媒は、触媒の約0.5質量%以下のレニウムを含む。レニウムの希少性及び高価を考慮すると、これらの触媒中ではレニウムの量は、かなりの量である。これらのレニウム含有エチレンオキシド触媒は、例えば、米国特許第4,766,105号明細書、米国特許第4,808,738号明細書、米国特許第4,820,675号明細書、米国特許第5,364,826号明細書、米国特許第4,829,044号明細書、米国特許第5,418,202号明細書、米国特許第5,739,075号明細書、米国特許第5,545,603号明細書、米国特許第5,663,385号明細書、米国特許第5,739,075号明細書、米国特許第5,801,259号明細書、米国特許第5,929,259号明細書、米国特許第6,372,925号明細書、及び米国特許第6,368,998号明細書でより詳細に理解されることができる。
【0004】
2008年1月の米国地質調査所「Mineral Commodity」によれば、レニウムの価格は、2007年1月に5,000ドル/kg、2007年4月に7,000ドル/kg、そして2007年9月に9,000ドル/kgに達した。2008年初頭には、レニウムの価格は、10,000ドル/kgの一点を超えた。
【0005】
レニウムに対する最近の高需要及びその費用の急激な増加が、レニウムを回収することを必須にするだけでなく、有益にもする。それ故に、この貴金属を回収する改良された方法を発見することにかなりの関心が集まっている。例えば、米国特許第2,967,757号明細書、米国特許第3,260,658号明細書、米国特許第3,348,942号明細書、米国特許第3,407,127号明細書、米国特許第3,458,277号明細書、米国特許第3,798,305号明細書、米国特許第3,862,292号明細書、米国特許第3,855,385号明細書、米国特許第3,733,388号明細書、米国特許第3,932,579号明細書、米国特許第4,185,078号明細書、米国特許第4,049,771号明細書、米国特許第3,244,475号明細書、米国特許第4,278,641号明細書、米国特許第4,521,381号明細書、米国特許第4,557,906号明細書、米国特許第4,572,823号明細書、米国特許第4,599,153号明細書、米国特許第4,599,223号明細書、及び米国特許第7,166,145号明細書;米国特許出願公開第2003/0119658号明細書、米国特許出願公開第2007/0203351号明細書、及び米国特許出願公開第2007/0227903号明細書;英国特許出願公開第2009119号明細書;並びに参考文献「Hydrometallurgy, Volume 78, Issues 3−4, August 2005, pages 166−171」;「Hydrometallurgy, Volume 85, Issue 1, January 2007、 pages 17−23」;及び「Ind.Eng.Chem.Res., Volume 38 (5), 1999, pages 1830−1836」を参照されたい。
【0006】
上記で引用された技術の大半では、使用済み触媒及び他のレニウム含有源からレニウムを抽出するための水の単独又は水溶液中での使用が開示されている。特に、使用済みエチレンオキシド触媒の場合には、水を使用することの主な欠点は、レニウムとともに多数の他の金属促進剤が同時に抽出されることである。典型的には、これらの他の促進剤は、Li、Na、Cs、S、P、W、Ni、Hf、Ti、Zr、及び/又はBのような元素を含む。そのため、また、得られたレニウムの水溶液には、様々な量のこれらの他の促進剤が混ざるであろう。
【0007】
純レニウムを回収するためにこれらの他の促進剤は除去される必要があるので、典型的には、幾つかの追加の工程が、レニウムを単離するために必要とされる。これらの他の元素からレニウムを分離するためのよく見られる方法は、レニウムの選択的吸着に基づいている。典型的には、レニウムの選択的吸着は、イオン交換又は炭素吸着に基づいている。これらのような吸着法が使用されるとき、回収されたレニウムを単離する前に、吸着されたレニウムをろ過する追加の工程が必要とされる。これらの追加の工程は、そのプロセスの有効性を減少させながら、そのプロセスの複雑さ及び費用を増加させる。さらに、回収プロセスにおける工程の数が増加するほど、レニウムの損失が増加し、少量の回収に変わる。
【0008】
さらに、使用済みレニウム含有源からレニウムを溶解させるか、及び/又は処理するために、水溶液を使用するだけでなく、強酸(例えば、HCl、HNO、HSO、王水などのような鉱酸)を使用することが、本技術分野で周知であり、かつ非常に一般的である。周知であるように、そのような酸の腐食性は非常に高い。そのため、特別な装置及び取り扱い手順が利用される必要がある。さらに、安全事項が主要問題になる。さらに、通常、レニウムが他の成分から分離されるとすぐに、そのような強酸の使用は、酸化プロセスからの中和塩基下流の使用を必要とする。中和プロセスは、強酸を中和するために有効な強い又は非常に強い塩基を頻繁に必要とする。さらに、これは、特別な装置及び特別な安全手段の需要を増加させる。また、中和プロセスは、さらなる化学廃棄物を形成する。廃棄物は適切に捨てられる必要があるから、この化学廃棄物の製造は、他の重要な金銭負債になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先行技術の上記概説から、単純(例えば、より少ない工程を必要とする)であり、より効率的であり、かつほとんど費用が掛からないレニウムの回収のための新規な方法が必要とされていることは明白である。また、典型的には1つ以上の他の元素の存在下で、エチレンオキシド触媒中の活性触媒金属又は促進剤として使用されるレニウムの回収に対して選択的であるようなプロセスには特別な利点があるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、レニウムを含む触媒、特にレニウムを含むエチレンオキシド触媒からレニウムを回収する改良された方法を提供する。典型的には、エチレンオキシド触媒は、追加の元素として少なくとも銀を含む。典型的には、銀は、触媒中の固体担体、典型的には酸化物担体上に保持されている。
【0011】
本発明の方法は、1つ以上の極性有機溶媒、好ましくは1つ以上の極性非酸性溶媒を触媒に密接に接触させて、レニウム含有溶液を形成することにより、触媒中に存在するレニウムの少なくともかなりの割合を触媒から抽出する工程を伴う。極性(非酸性)有機溶媒(本明細書では「溶媒」ともいう)は、水を実質的に含まず、そしてその分子構造中に1つ以上の酸素、窒素、及び/又はハロゲン原子、並びに少なくとも1つ、好ましくは約6個以下の炭素原子を含む。レニウム含有溶液は、抽出に使用される極性溶媒(単数又は複数)並びに抽出されたレニウムを含む。
【0012】
好ましくは、溶媒は、選択的な態様で触媒からレニウムそのものを抽出し、それによって未抽出レニウム以外の実際には全ての成分を残す。また、1つ以上の溶媒が十分に低い沸点、典型的には、約120℃以下を有することによって、次の蒸発が容易に行なわれることが好ましい。これは、溶媒をより容易に回収する能力も可能にしながら、濃縮された溶液又は固体としてのレニウムのより容易な回収を可能にするであろう。
【0013】
有利には、本発明は、使用済みエチレンオキシド触媒からレニウムを回収するプロセスを単純化し、かつより効率的なものにする。当技術分野で知られているような一般に使用される方法(例えば、イオン交換及び他の吸着法、酸/塩基処理、酸化/昇華処理、電解苛性法など)の大半が施行されることができるから、本プロセスは単純化される。好ましくは、本プロセスは、追加の処理及び分離工程を必要としない単一工程中において選択的な態様で実質的に全てのレニウムを抽出するから、本プロセスはより効率的なものにされる。また、腐食性酸が使用されず、かつ溶媒の再利用により廃棄物は好ましくは最小化されるので、本プロセスは、より安全であり、かつ費用が掛からない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、レニウムを含む触媒からレニウムを選択的に回収するプロセスに関する。レニウムを含む触媒は、レニウムが固体担体上にある、当技術分野で知られているような触媒のいずれかでよい。レニウムは、例えば、触媒的に活性な種又は促進剤などを含むいずれかの適切な態様で機能してよい。特定の実施形態では、レニウム含有触媒は、エチレン酸化触媒である。典型的には、エチレンオキシド触媒は、固体担体上に触媒的に活性な種として少なくとも銀を含む、一般に当技術分野で知られているようなエチレンオキシド触媒のいずれかである。
【0015】
一般に、エチレンオキシド触媒に使用される担体は、固体、不溶性材料である。典型的には、担体は多孔質である。担体は、例えば、アルファ−アルミナ、木炭、軽石、マグネシア、ジルコニア、チタニア、珪藻土、フラー土、炭化ケイ素、シリカ、炭化ケイ素、粘土、人工ゼオライト、天然ゼオライト、二酸化ケイ素及び/又は二酸化チタン、セラミックなどの材料及びその組み合わせから形成されることができる。より典型的には、本担体は、シリカ又はアルミナなどの酸化物材料から形成されている。好ましい担体としては、非常に高い純度;例えば少なくとも95質量%の純度を有するアルファ−アルミナが挙げられる。残留成分は、シリカ、アルカリ金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム)などのアルファ−アルミナ以外の無機酸化物及び微量の他の金属含有若しくは非金属含有添加物、促進剤、又は不純物を含むことができる。
【0016】
典型的には、エチレンオキシド触媒は、エチレン及び酸素からのエチレンオキシドの合成に触媒作用を及ぼすために触媒的に有効な量の銀金属を含む。銀は、不溶性担体の表面及び/又は大半の細孔上に位置することができる。銀の触媒的に有効な量は、担体を含む触媒の全質量を基準として、例えば、金属として表される銀の約45質量%以下でよい。触媒の全質量を基準として、約1〜約40質量%の金属として表される銀成分が、より典型的であるが、約8〜約35質量%の銀成分がさらに典型的である。
【0017】
また、典型的には、促進的な量のアルカリ金属若しくは2つ以上のアルカリ金属の混合物、及び/又は促進的な量のIIA族アルカリ土類金属若しくは2つ以上のIIA族アルカリ土類金属の混合物、及び/又は促進的な量の主な族の元素若しくは2つ以上の主な族の元素の混合物、及び/又は促進的な量の遷移金属若しくは2つ以上の遷移金属の混合物、及び/又は促進的な量の希土類金属若しくは2つ以上の希土類金属の混合物が、エチレンオキシド触媒に含まれる。アルカリ金属を除く、これらの促進剤の全ては、例えば0価金属又はより高い価数の金属イオンを含む任意の適切な形態でよい。
【0018】
適切なアルカリ金属促進剤としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はそれらの組み合わせが挙げられる。セシウムが主に好ましく、セシウムと他のアルカリ金属を併用することも好ましい。典型的には、アルカリ金属の量は、アルカリ金属の用語として表される全触媒の質量を基準として、約10ppm〜約3000ppm、より典型的には約15ppm〜約2000ppm、より典型的には約20ppm〜約1500ppm、さらに典型的には約50ppm〜約1000ppmの範囲であろう。
【0019】
適切なアルカリ土類金属促進剤としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、及びバリウム又はそれらの組み合わせが挙げられる。アルカリ土類金属促進剤の量は、上述のアルカリ金属促進剤と同じ量で使用される。
【0020】
適切な遷移金属は、例えば、元素の周期表のIIIB族(スカンジウム族)、IVB族(チタン族)、VB族(バナジウム族)、VIB族(クロム族)、VIIB族(マンガン族)、VIIIB族(鉄、コバルト、ニッケル族)、IB族(銅族)、及びIIB族(亜鉛族)由来の元素、並びにそれらの組み合わせを含むことができる。より典型的には、遷移金属は、初期遷移金属、すなわち、例えば、ハフニウム、イットリウム、モリブデン、タングステン、クロム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、ニオブなどのIIIB、IVB、VB又はVIB族、又はそれらの組み合わせである。
【0021】
遷移金属若しくは希土類金属促進剤は、金属の用語として表される全触媒の1g当たり、典型的には約0.1ミクロモル〜約10ミクロモル、より典型的には約0.2ミクロモル〜約5ミクロモル、さらに典型的には約0.5ミクロモル〜約4ミクロモルの量で存在する。
【0022】
適切な主な族の元素としては、元素周期表のIIIA族(ホウ素族)〜VIIA(ハロゲン族)の元素のいずれかが挙げられる。例えば、触媒は、促進的な量の1つ以上の硫黄化合物、1つ以上のリン化合物、1つ以上のホウ素化合物、1つ以上のハロゲン含有化合物、又はそれらの組み合わせを含むことができる。また、触媒は、その元素形態中にハロゲン以外の主な族の元素を含むことができる。
【0023】
希土類金属としては、57〜103の原子番号を有する元素のいずれかが挙げられる。これらの元素の幾つかの例としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、及びサマリウム(Sm)が挙げられる。
【0024】
触媒中のレニウム成分は、任意の適切な形態でよいが、より典型的には1つ以上のレニウム含有化合物(例えば、酸化レニウム)又は錯体である。典型的には、エチレンオキシド触媒中では、レニウムは、促進剤として機能するように含まれる。レニウムは、例えば、約0.001質量%〜約1質量%の量で存在できる。しかし、より典型的には、レニウムは、レニウム金属として表される担体を含む全触媒の質量を基準として、例えば、約0.005質量%〜約0.5質量%、さらに典型的には約0.01質量%〜約0.05質量%の量で存在する。
【0025】
本明細書では、本プロセスにより処理されるエチレンオキシド触媒は、典型的には使用されている(すなわち、使用済みである)。「使用済み」とは、典型的には、実質的に減少した触媒作用、選択性、又は生産高の効力により、触媒はもう工業的に有用ではないことを意味する。例えば、触媒の選択性が、未使用触媒と比べて3%より大きく落ちているならば、触媒は使用済みとみなされることがある。より典型的には、選択性が5%より大きく落ちているならば、触媒は使用済みとみなされる。他の実施例のように、未使用触媒により初めから提供される程度に生産性を維持するために、反応温度を3℃より大きく上昇させることが必要であるならば、触媒は使用済みとみなされることがある。より典型的には、未使用触媒により初めから提供される程度に生産性を維持するために、反応温度を5℃より大きく上昇させることが必要であるならば、触媒は使用済みとみなされる。
【0026】
また、触媒は、未使用又は未消費であっても、他の理由のためにレニウム抽出を必要としている。例えば、処方の変更又は製造計画の変更のために廃棄されている所定の量のレニウム含有触媒が発生するであろう。廃棄された触媒からレニウムを抽出し、そして抽出されたレニウム及び他の触媒成分を販売するか、若しくは使用することが好ましい。
【0027】
エチレンオキシド触媒は、任意の適切な形態でよいが、より典型的には、固定床エポキシ化反応器で用いるのに適切な寸法の粒子、塊、一片、ペレット、リング、球体、車輪、十字に仕切られた中空の円筒などの形態である。典型的には、担体粒子は、通常は触媒が設置されている管状の反応器の内径に適合する約3mm〜約12mm、より典型的には約5mm〜約10mmの相当直径を有する。用語「相当直径」は、不規則な形状の物品の寸法を、該物品と同じ体積を有する球体の直径を単位として表すことにより、不規則な形状の物品の寸法を表すために使用される。
【0028】
本発明の本プロセスでは、1つ以上の溶媒を触媒に密接に接触させることにより、レニウムがエチレンオキシド触媒から回収される。好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは40%、さらに好ましくは、少なくとも50%のレニウムが、触媒から回収(すなわち、抽出)される。さらに好ましくは、触媒に存在する少なくともかなりの割合のレニウムが、触媒から抽出される。本明細書では、典型的には、「かなりの割合」は、少なくとも約85%、より好ましくは約90%、より好ましくは少なくとも約95%、さらに好ましくは少なくとも約98%のレニウムが、触媒から除去されていることを意味する。さらに好ましくは、基本的に全て(一般に、それは、少なくとも99%のレニウムが触媒から除去されることをいう)のレニウムが除去される。
【0029】
触媒を溶媒に密接に接触させることを確立する任意の方法が使用されることができる。好ましくは、触媒は、触媒の全ての種及び/又は細孔を通して溶媒の比較的速く、かつ容易な浸透及び透過を可能にするであろう適切に小さくなった塊又は粒子の形態である。本プロセスを促進するか、又はレニウム回収そのものを改良するために、適切には、抽出プロセス前又は抽出プロセス中に、触媒は、粉砕されるか、微粉化されるか、破砕されるか、粉末化されるか、又は寸法を小さくされることができる。
【0030】
また、溶媒と触媒の接触は、抽出プロセス中に撹拌の形態を含むことにより、改良される。また、一般に、撹拌は、回収そのものを改良するであろう。数種の適切な撹拌法は、開放又は閉鎖容器又はパン中において、例えば、混合物の攪拌、混合物の振とう、混合物のバブリング、混合物の煮沸、及び/又は混合物の反転、傾斜若しくは回転を含む。
【0031】
この目的のために本明細書で使用される溶媒は、その分子構造中に1つ以上の酸素、窒素、及び/又はハロゲン原子を有するという効力のために極性である。「有機溶媒」であるとは、溶媒が、その分子構造中に少なくとも1つ炭素原子を含むことをいう。溶媒は、任意の適切な数の炭素原子を含むことができ、そして任意の適切な分子量でよい。好ましくは、溶媒は、その分子構造中に、約20個以下の炭素原子、より好ましくは約12個以下の炭素原子、さらに好ましくは約6個以下の炭素原子を含む。より好ましくは、溶媒は、4個以下の炭素原子を含む。溶媒は、その分子構造中に、直鎖又は分岐鎖、飽和又は不飽和、及び環状又は非環状の部分を含むことができる。不飽和溶媒は、脂肪族又は芳香族でよい。
【0032】
好ましくは、レニウム以外の金属を抽出することにより、酸性化学物質が、本プロセスの選択性を減少させる傾向にあるから、溶媒は非酸性である。また、酸性化学物質は、安全性に対する懸念、特別な装置を必要とすること、及びさらなる廃棄物の形成を起こすことなどの、上記で既に検討したような酸の幾つかの他の欠点を含む。
【0033】
一実施形態では、溶媒はアルコールである。適切なアルコールの幾つかの例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、アリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
第二の実施形態では、溶媒は有機エステルである。適切な有機エステルの幾つかの例としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸ビニル、炭酸ジメチル、乳酸エチル、エチレンカーボネート、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
第三の実施形態では、溶媒はケトンである。適切なケトンの幾つかの例としては、アセトン、ブタノン(メチルエチルケトン)、エチルイソプロピルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、メチルビニルケトン、アセチルアセトン(2,4−ペンタンジオン)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0036】
第四の実施形態では、溶媒は、有機ハロゲン化物である。有機ハロゲン化物は、既知のハロゲン化物のいずれかを含むことができるが、より好ましくは、フルオロ及びクロロ誘導体に限定される。適切な有機ハロゲン化物の幾つかの例としては、クロロホルム、メチレンクロリド、四塩化炭素、パークロロエチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、パーフルオロヘキサン、テトラクロロエタン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
第五の実施形態では、溶媒はアミンである。適切なアミンの幾つかの例としては、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、イソブチルアミン、t−ブチルアミン、ピペリジン、ピペラジン、エチレンジアミン、ピリジン、ピロリジン、ジエチレントリアミン、モルホリン、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0038】
第六の実施形態では、溶媒は、有機リン酸エステルである。より好ましくは、有機リン酸エステルは、トリアルキルホスフェートである。適切な有機リン酸エステルの幾つかの例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリイソプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0039】
第七の実施形態では、溶媒はエーテルである。適切なエーテルの幾つかの例としては、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−t−ブチルエーテル、ジメトキシエタン、フラン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルt−ブチルエーテル、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ジグリム、2−ブトキシエタノール、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0040】
第八の実施形態では、溶媒はアミドである。適切なアミドの幾つかの例としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン(NMP)、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
第九の実施形態では、溶媒はニトリルである。適切なニトリルの幾つかの例としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
第十の実施形態では、溶媒はスルホキシドである。適切なスルホキシドの例としては、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0043】
使用されることができる他の分類及び種類の溶媒としては、グリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール)、グリコールエーテル(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル)、ニトロ溶媒(例えば、ニトロメタン、ニトロエタン)、アルデヒド溶媒(例えば、フルフラール)、スルホラン、尿素溶媒(例えば、1,3−ジメエチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU))、ホウ酸エステル溶媒(例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル)、ヘキサメチルホスホラミド(HMPA)、及びイオン性液体が挙げられる。
【0044】
また、上述の溶媒の任意の組み合わせも使用されることができる。例えば、アルコールとケトンを併用するか、又はアルコールとエーテルを併用するか、又はエーテルとケトンを併用することなどが好ましいであろう。幾つかの実施形態は、例えば、エタノール及びアセトン、メタノール及びアセトン、アセトン及びメチルエチルケトン、又はエタノール及びメチルエチルケトンの組み合わせを含むことができる。
【0045】
本発明では、水を実質的に含まない溶媒(乾燥溶媒)、すなわち、最高でも微量の水を含む溶媒を使用することが好ましい。この理由は、抽出における水の存在が、使用済み触媒からレニウム以外の元素を抽出する可能性を増加させることである。水の微量は、例えば、溶媒中の5質量%以下の水でよい。水含有量は、より好ましくは、1質量%未満の水、さらに好ましくは0.5質量%未満の水、さらに好ましくは0.1質量%未満の水である。
【0046】
本抽出プロセスは、通常の条件(すなわち、室温及び常圧)下で溶媒を用いて行なわれることができる。室温は、おおよそ15〜32℃の温度範囲であり、そして常圧は約1気圧(=約1013hPa)である。また、本抽出プロセスは、より高い若しくはより低い温度又はより高い若しくはより低い圧力下で行なわれることができる。例えば、溶媒が低沸点を有する場合には、それを液体として維持するために、抽出中に溶媒を冷却するか、及び/又は加圧することが好ましいであろう。高沸点を有する溶媒のために、溶媒の除去が好ましいならば、回収率を増加させるか、及び/又は溶媒のより簡易な蒸発を許可するために、溶媒を加熱するか、及び/又は圧力を下げることが好ましいであろう。
【0047】
本抽出プロセスは、通常の空気下で、又は代わりに改善雰囲気下で行なわれることができる。例えば、改善雰囲気は、酸素が豊富であるかどうかを問わない。酸素が余り豊富ではない雰囲気は、例えば、水素、窒素、アルゴン、又は二酸化炭素などの他のガスの含有により適用されることができる。
【0048】
好ましくは、溶媒は、選択的な態様で使用済み触媒からレニウムを抽出する。より好ましくは、レニウムは、非常に選択的な態様で除去される。非常に選択的なプロセスは、実質的に除去されていない(すなわち、触媒から抽出されていない)大半又は全ての他の化学種(すなわち、混入物質)を残しながら、触媒からレニウムそのものを実質的に完全に除去することにより明らかになるであろう。幾つかの考えられる混入物質としては、例えば、銀、アルカリ金属、アルカリ土類金属、レニウム以外の遷移金属、主な族の元素、及び希土類金属が挙げられる。上述の低級アルコール、エステル及びケトンは、使用済みエチレン酸化触媒からのレニウムの選択的回収のために特に好ましい。
【0049】
本抽出プロセスは、銀よりもレニウムの除去について少なくともいくらか選択的であるべきである。本抽出プロセスは、実質的に全ての未除去銀を残しながら、レニウムの除去のために非常に選択的であることがより好ましい。また、好ましくは、本抽出プロセスは、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属の1つ以上の種類よりもレニウムを選択的に除去するか、及び/又は主な族の元素の1つ以上の種類よりもレニウムを選択的に除去するか、及び/又は遷移金属の1つ以上の種類よりもレニウムを選択的に除去するか、及び/又は希土類金属の1つ以上の種類よりもレニウムを選択的に除去するであろう。
【0050】
本抽出プロセスは、少なくとも30、40又は50%のレニウムそのものを抽出できることが好ましいが、少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは少なくとも95%の1つ以上の混入種が、触媒から未抽出のままである。より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、さらに好ましくは少なくとも98%のレニウムそのものが抽出されるが、少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは少なくとも95%の混入種は、触媒から未抽出のままである。さらに好ましくは、少なくとも98%、より好ましくは99%のレニウムそのものが抽出されるが、少なくとも98%、より好ましくは99%の混入種が未抽出のままである。最も好ましくは、レニウムは、触媒に存在する全ての他の化学種よりも、上記の通り、選択的に除去される。
【0051】
本抽出は、結果としてレニウム含有溶液を形成する。一般に、触媒の固体材料からの生成溶液の分離の幾つかの形態が、利用される必要がある。所望により、ろ過が、この目的のために、抽出後又は抽出中に使用されることができる。また、次のろ過が不要になるように、担体又は他の個体が、抽出プロセス中に溶液から分離され続けることも可能である。これが達成されることができる幾つかの方法としては、例えば、抽出中に、ネット又は半透膜内に使用済み触媒を含有させる工程、又はデカンテーション、若しくは溶媒の補充及びオーバーフローなどにより、溶媒の上層を除去するとともに、固体材料を定着させる工程が挙げられる。
【0052】
また、連続抽出プロセスが使用されることもできる。例えば、洗浄溶液の向流が、使用済み触媒の移動床との併用で利用されることができる。さらに、溶媒は、抽出プロセスにより使用されることにより連続的に再利用され、再回収され、次に再使用されることができる。
【0053】
一実施形態では、ソックスレー器を利用することにより、溶媒は、連続的に使用され、かつ再利用される。ソックスレー器内では、使用済み触媒は、開放容器内に置かれ、そして該開放容器は、抽出溶媒を充填した封入容器内に入れられる。その抽出溶媒は、加熱により蒸発するように形成されている。蒸発溶媒は、濃縮されて開放容器中に入り、触媒からレニウムを抽出し始める。蒸発及び濃縮が続くので、触媒を保持している容器中に溶媒が充填される。充填されるとすぐに、レニウムを含む溶媒は、吸い上げられるか、又はより大きな容器(そこで、使用された溶媒は、蒸発及び濃縮して、使用済み触媒を保持している容器中に戻るように再形成される)中に移されることができる。このようにして、未使用溶媒は、開放容器から除去された溶媒を連続的に補充するが、外部容器中に保持されているレニウム含有溶液は、より濃縮されたものになる。そのサイクルは、任意の所望の回数(例えば、5回、10階又は20回のサイクルなど)で繰り返されることができる。
【0054】
抽出プロセスにより得られるようなレニウム含有溶液は、さらに処理することなく、使用されることができる。しかし、より相応しくは、さらなる処理が、レニウムを最終製品としてより有用なものにするために必要とされる。例えば、レニウム溶液を濃縮することが好ましいであろう。溶液を濃縮するための既知の方法のいずれかが、使用されることができる。溶液を濃縮する好ましい方法としては、例えば、加熱及び/又は減圧により、溶液の一部分を蒸発させる工程が挙げられる。また、選択的な溶媒吸収又は限外ろ過法などの他の方法による溶媒の除去が、利用されることができる。また、固体レニウム製品を提供するために、レニウム含有溶液から実質的に全ての溶媒を除去することも好ましいであろう。
【0055】
一般に、熱及び/又は真空を用いる蒸発法は、溶媒の一部分を除去するためにより好ましい。それ故に、蒸発プロセスをより簡易にするために、溶媒が、約1気圧の標準気圧下で120℃以下の沸点を有することが好ましい。さらに好ましくは、溶媒は、約1気圧の標準気圧下で100℃以下の沸点を有する。上述の低級アルコール、エステル、及びケトン、特に4個以下の炭素原子を有するものは、それらが一般に、他の溶媒より低い沸点を有するから、特に好ましい。
【0056】
好ましい実施形態では、かなりの量の蒸発した溶媒が回収される。上述の方法により触媒が処理された後に、かなりの量の溶媒が、触媒の細孔に含まれることができる。同様に湿潤触媒に捕集された溶媒を回収することが、非常に効果的である。それ故に、本明細書では、得られたレニウム溶液からの溶媒だけでなく、湿潤触媒内に含まれる溶媒も回収することが熟考されている。有利には、回収された溶媒は、抽出プロセスにおいて再使用されることができる。有利には、溶媒の回収及び再使用は、廃棄物を減らすことによって、費用を減らす一方で、大気中に溶媒蒸気を放出するという環境への悪影響も減らす。
【0057】
好ましい実施形態では、溶媒の回収及び再使用は、連続抽出プロセスにより提供される。例えば、連続抽出プロセスは、ソックスレー器を活用できる。ソックスレー器内では、使用済み触媒は、開放容器内に入れられ、そして開放容器は、抽出溶媒が充填されている封入容器内に入れられる。抽出溶媒は、加熱により蒸発するように形成されている。蒸発溶媒は、濃縮して開放容器に入り、そして触媒からレニウムを抽出し始める。蒸発及び濃縮が続くので、触媒を保持している容器中に溶媒が充填され、レニウムを含む溶媒は、吸い上げられるか、又はより大きな容器(そこで、使用された溶媒が、蒸発及び濃縮して、使用済み触媒を保持している容器中に戻るように再形成される)に移されることができる。このようにして、未使用溶媒が、開放容器から除去された溶媒を連続的に補充する一方で、外部容器に保持されているレニウム含有溶液は、より濃縮されたものになる。そのサイクルは、任意の所望の回数(例えば、5回、10回又は20回のサイクルなど)で繰り返されることができる。
【0058】
利用可能なレニウム含有最終製品を形成するために、レニウム溶液は、他の処理法又は化学反応に供されることができる。例えば、金属キレート化剤、沈殿剤、ポリマー、又は他の物質は、例えばレニウム化合物の沈殿を起こすように、その溶液に加えられることができる。レニウム化合物は、例えば、レニウム−キレート錯体、レニウム−ポリマー錯体、又はレニウムの酸化物、硫化物、ハロゲン化物、若しくは錯体イオン(例えば、ケイ酸塩、炭酸塩、硝酸塩、タングステン酸塩)などレニウム材料でよい。また、適切なレニウム含有最終製品を得るプロセスの一部として、溶液は、例えば、冷却されるか、加熱されるか、(例えば、レニウム金属若しくは金属合金を製造するために)電気分解されるか、特定条件下で所定の期間に亘って放置されるか、又は酸化若しくは還元剤に曝されることができる。
【0059】
レニウム含有最終製品は、レニウムの組み込みを必要とする任意の他の最終製品を製造するために使用されることができる。例えば、抽出プロセスからの原液又は改質溶液のいずれかとして、そのように得られたレニウムは、未使用レニウムを含む触媒を形成するために触媒前駆体中にレニウムを組み込むように、触媒前駆体(例えば、触媒担体)を処理するために使用されることができる。好ましくは、再生のために本明細書で濃縮されている触媒は、エチレンオキシド触媒である。エチレンオキシド触媒の再生のために、不溶性担体は、当技術分野で知られているような手法のいずれかにより、任意の所望の促進剤とともにレニウム及び銀を含浸され、かつ組み込まれることができる。含浸手法は、例えば、米国特許第4,761,394号明細書、第4,766,105号明細書、第4,908,343号明細書、第5,057,481号明細書、第5,187,140号明細書、第5,102,848号明細書、第5,011,807号明細書、第5,099,041号明細書及び第5,407,888号明細書に記載されており、そして担体の含浸のために本明細書で記載されている手法は、参照により全て本明細書に援用される。さらに、様々な促進剤の前堆積、共堆積及び後堆積の既知の手法のいずれかが、利用されることができる。
【0060】
また、レニウム含有最終製品は、例えば、レニウム−金属合金でもよい。例えば、レニウムは、ガソリン及び炭化水素処理において使用される白金−レニウム触媒を形成するために使用されることができる。また、レニウムは、タングステン−レニウム合金をフィラメント及び熱電対のために有用なものにするために使用されることができる。また、レニウムは、タービンブレード及びガスタービン機関の製造に使用されるニッケル系超合金中の添加剤として使用されることができる。本発明のさらなる態様は、固体担体上にレニウムを含む触媒からレニウムを回収するために、その分子構造中に1つ以上の酸素、窒素及び/又はハロゲン原子を含み、かつ水を実質的に含まない1つ以上の有機溶媒、好ましくは、1つ以上の極性非酸性有機溶媒の使用に関する。上記で説明したように、その分子構造中に1つ以上の酸素、窒素及び/又はハロゲン原子を含む溶媒は、「極性」溶媒とみなされる。
【実施例】
【0061】
本発明をさらに説明するために、実施例が後述されている。本発明の範囲は、本明細書で説明される実施例によって何らかの限定を受けるものではない。
【0062】
次の実施例では、使用済み触媒は、長期間に亘って使用されているエチレンオキシド触媒であった。その触媒は、触媒的に有効な量の銀を低表面積担体上に含み、また、レニウム、セシウム、リチウム、タングステン及び硫黄を含んでいた。例えば、米国特許第4,766,105号明細書、第4,808,738号明細書、第4,820,675号明細書、及び第5,364,826号明細書に説明されている通りに、その触媒は調製された。
【0063】
比較例A
先行技術法の使用
標準実験容器では、50部の使用済み触媒を室温で100部の水に浸した。小型ポンプを2時間用いて、水を触媒ペレット内に循環させた。抽出の終わりに、水溶液を触媒から分離して、その成分を分析した。
【0064】
比較例B
先行技術法の使用
小型浸漬ヒーター及び温度調節器を用いることにより、水の温度を80℃に保ったことを除いて、比較例Aの同じ手順を繰り返した。
【0065】
実施例1
レニウムを抽出するためのエタノール(EtOH)の使用
水の代わりにエタノールを使用したことを除いて、比較例Aの同じ手順を繰り返した。
【0066】
実施例2、3、4
抽出時間を変えながらレニウムを抽出するためのエタノールの使用
実施例2、3、及び4のそれぞれについて、抽出時間を60、30、及び15分に減らしたことを除いて、実施例1の手順を繰り返した。触媒から抽出された元素の百分率として表される分析の結果を表1にまとめる。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示したように、比較例Aの水性抽出手順によって、約93%のレニウム抽出そのものが示される。しかし、混入しているセシウム(Cs)、タングステン(W)、リチウム(Li)、及び硫黄(S)の量が有意であり、特に、硫黄は、触媒から溶液中に十分に抽出されている。比較例Bに示すように、混入抽出物の量は、水系の温度の増加に伴って増加する。したがって、先行技術手順は、レニウムについて非常に非選択的であることが示されるので、本発明の目的のために容認できない。
【0069】
本発明の実施例1は、水の代わりにエタノールを使用する。比較例A及びB、並びに実施例1は、抽出のために同じ2時間を使用する。しかし、比較例A及びBと比べて、実施例1によって混入物質の著しく減少した抽出と併用することで、レニウム(約78%)の有効な抽出が示される。例えば、表1には、実施例1でエタノールを用いると、セシウム値は55.0%から6.9%に落ち、タングステン値は28.9%から0%に落ち、リチウム値は60.5%から10%に落ち、そして硫黄値は100%から0%に落ちたことが示される。比較例Aと比べて、実施例1の混入値は、比較例Aに示されるそれぞれの値の12.5%、0%、16.5%、及び0%にすぎない。
【0070】
時間を半分にして60分に減らしたことを除いて、実施例1と同じ態様でエタノールを用いて実施例2を行なった。実施例2に示したように、抽出されたレニウムの量は54.7%に減少したが、抽出された混入物質の量は、実施例1と比べてさらに減少した。
【0071】
また、時間をそれぞれ30及び15分に減少させたことを除いて、実施例1と同じ態様でエタノールを用いて実施例3及び4も行なった。表に示したように、エタノールを用いる抽出時間のさらなる減少も、結果として、減少した混入物質抽出値とともに、より低いレニウム抽出値になる。
【0072】
実施例5
エタノールを用いる連続抽出
この実施例では、ソックスレー抽出器をレニウム値の連続抽出のために使用した。25部の使用済み触媒を抽出カップに入れ、そして90部のエチルアルコールを抽出フラスコに入れた。溶媒が沸騰し始めるまで溶媒を加熱して、そして蒸気を濃縮して、使用済み触媒の上を還流させた。触媒カップが溶媒に満たされたときに、溶媒を沸騰フラスコに吸い戻して、溶解したレニウムそのものを移動させる。抽出を約1時間続けた。その期間を通して、抽出の7つ完全なサイクルがあった。抽出された元素の含有物について抽出された材料を分析する前に、溶媒及び抽出された材料を含むフラスコを冷却して室温まで下げた。
【0073】
実施例6
レニウムの抽出のためのイソプロパノール(iPrOH)の使用
エチルアルコールをイソプロピルアルコールに変えたことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。
【0074】
実施例7
レニウムの抽出のためのアセトンの使用
エチルアルコールをアセトンに変えたことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。
【0075】
実施例8
レニウムを抽出するためのメチルエチルケトン(MEK)の使用
エチルアルコールをメチルエチルケトンに変えたことを除いて、実施例5の手順を繰り返した。
【0076】
触媒から抽出された元素の百分率として表される実施例5〜8の抽出手順の結果を表2にまとめる。表2に示したように、実施例5及び7では、かなりの量又は全ての未抽出混入種を残しながら、かなりの量又は実質的に全てのレニウムが抽出されていることが示される。実施例6及び8では、レニウム回収率が低下したが、混入種の抽出量も減少したことが示される。
【0077】
【表2】

【0078】
実施例9
回収されたレニウムを用いる触媒担体の含浸
抽出溶液を蒸留器に入れたことを除いて、説明通りに実施例7を繰り返した。アセトン溶媒の4.6部だけがフラスコに残されるまで、アセトン溶媒を蒸発させた。濃縮された溶液は、使用済み触媒から抽出された全レニウムを含有していた。シュウ酸銀/エチレンジアミン複合体並びにセシウム−、リチウム−、タングステン−、及び硫黄−含有化合物の形態で29%Agを含むフラスコにこの溶液を加えた。この混合物を含浸溶液として使用して、未使用の高選択性触媒を調製した。当技術分野で知られているような初期含浸法を使用して、α−アルミナ担体に含浸させて、次に焼成した。含浸溶液中にレニウムを含む異なる添加物の濃度を計算して、焼成後の好ましい触媒組成を得た。この触媒を高選択性触媒として使用したところ、その最高実績では91%の選択性を達成した。
【0079】
今のところ本発明の好ましい実施形態であると分かっているものを示して説明したが、当業者であれば、本願で説明されている本発明の理念及び範囲から逸脱せずに、他の及びさらなる実施形態が行なわれることができ、そして本願が、本明細書で説明されている特許請求の対象範囲内にあるような全ての改良を含むことを理解するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体担体上にレニウムを含む触媒からレニウムを回収する方法であって、該方法は、水を実質的に含まない1つ以上の極性非酸性有機溶媒を該触媒に密接に接触させることにより、該触媒から少なくともかなりの割合のレニウムを抽出して、該極性非酸性有機溶媒及び抽出されたレニウムを含むレニウム含有溶液を形成する工程を含み、そして該極性非酸性有機溶媒は、その分子構造中に1つ以上の酸素、窒素、及び/又はハロゲン原子を含む方法。
【請求項2】
前記触媒は、固体担体上にレニウム及び少なくとも銀を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上の極性非酸性有機溶媒は、アルコール、有機エステル、ケトン、有機ハロゲン化物、アミン、有機リン酸エステル、エーテル、アミド、及びニトリルからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の極性非酸性有機溶媒は、アルコール、エステル、及びケトンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記極性非酸性有機溶媒はエタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記極性非酸性有機溶媒はイソプロピルアルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記極性非酸性有機溶媒はアセトンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記極性非酸性有機溶媒はメチルエチルケトンである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記極性非酸性有機溶媒は、抽出中に加熱される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
極性非酸性有機溶媒の一部分の除去によりレニウム含有溶液を濃縮する工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記レニウム含有溶液中に含まれるレニウムを固体形態に変える態様で前記レニウム含有溶液を処理する工程をさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
レニウム含有溶液の極性非酸性有機溶媒を実質的に除去することにより、回収されたレニウムの固体形態が得られる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記極性非酸性有機溶媒は、触媒から銀よりもレニウムを選択的に除去する、請求項2に記載の方法。
【請求項14】
前記触媒は、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属の1つ以上の種類をさらに含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記極性非酸性有機溶媒は、銀並びに前記アルカリ及び/又はアルカリ土類金属の1つ以上の種類よりレニウムを選択的に除去する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記エチレンオキシド触媒は、周期表のIIIA〜VIIAから選択される主な族の元素、及び/又は周期表のIIIB〜VIB族から選択される初期遷移金属元素の1つ以上の種類をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記極性有機溶媒は、銀、アルカリ金属の1つ以上の種類、並びに主な族の元素及び/又は初期遷移金属元素の1つ以上の種類よりもレニウムを選択的に除去する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記レニウム含有溶液を使用して、レニウム含有最終製品を形成する工程をさらに含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記レニウム含有最終製品はレニウム化合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記レニウム含有最終製品はレニウム含有触媒である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記レニウム含有触媒はレニウム含有エチレンオキシド触媒である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
レニウム含有溶液及び/又は処理された触媒の細孔からの溶媒を蒸発濃縮して、再利用溶媒を提供し、そしてレニウムの抽出のために該再利用溶媒を再利用する連続抽出プロセスをさらに含む、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
固体担体上にレニウムを含む触媒からレニウムを回収するための、その分子構造中に1つ以上の酸素、窒素及び/又はハロゲン原子を含む、1つ以上の有機溶媒、好ましくは1つ以上の極性非酸性有機溶媒の使用。

【公表番号】特表2011−523437(P2011−523437A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507831(P2011−507831)
【出願日】平成21年5月6日(2009.5.6)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003242
【国際公開番号】WO2009/135665
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(591105890)サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
【Fターム(参考)】