説明

レニウム化合物

【課題】本発明の目的は、フルカラーディスプレーでの使用に適し、良好な効率と短いルミネッセンス減衰寿命を有する、スペクトルの赤色領域方向で発光する材料、特に良好な赤色の発光を有する材料を提供することである。
【解決手段】本発明は、レニウム化合物、特にエレクトロルミネッセンス(EL)素子において発光材料として有用なレニウム化合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レニウム化合物、特にエレクトロルミネッセンス(EL)素子において発光材料として有用なレニウム化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の金属錯体がEL素子の発光用材料として提案されてきた。困難なことの1つは、溶液中で試験した場合、多くのそうした化合物は有望そうに見えるが、固体中でこれらは効果的なエミッタでないということである。さらに、スペクトルの緑色でのエミッタとしての使用のためには、イリジウムトリス(フェニルピリジン)などの緑色りん光材料を含む多くの候補物があるが、スペクトルの赤色末端方向でのエミッタは著しく欠如している。EL素子での使用が実証されている赤色りん光材料は極めてわずかしかない。赤色を発光する2,3,7,8,12,13,17,18−オクタエチル−21H,23H−ポルフィン白金は比較的長い減衰寿命を有しているが、いろいろな意味で深すぎる赤色であり、そのことは有用な効率性を低減する。イリジウム(III)ビス(2−(2’−ベンゾチエニル)ピリジナート−N,C3’)(アセチルアセトナート)などのいくつかの赤色発光性Ir化合物も知られているが、素子中で十分な寿命を有するかまだ立証されておらず、なお効率改善の余地がある。特にフルカラーディスプレーでの使用のための良好な色純度を有し、EL素子中で良好な効率を有する赤色光を発光する効率のよいエミッタの必要性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、フルカラーディスプレーでの使用に適し、良好な効率と短いルミネッセンス減衰寿命を有する、スペクトルの赤色領域方向で発光する材料、特に良好な赤色の発光を有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、二座のジイミン型の配位子と一緒に3個の配位カルボニル配位子を有するある種のレニウム錯体を、一般にスペクトルの黄色から赤色領域において発光するEL素子に使用することができることを見出した。本発明は、1個又は複数の追加の芳香環を含むことができる次式の骨格を有する化合物
【化1】


(式中、(a)2つの前記環がピリジル環であり、互いに窒素原子に対してオルト位に結合している場合、(i)少なくとも1個の前記環が炭化水素アリール基である少なくとも1個の電子求引性置換基で置換されている、又は(ii)少なくとも1個の前記環が、他のピリジル環がそれに結合していない他の芳香環と結合している、又は(iii)2個の前記環が一緒になって、2、4、5、6、7若しくは9位の少なくとも1個の電子求引性置換基によって置換されているフェナントロリン環系を形成する、或いは、(b)2個の前記環が、(i)その少なくとも1個が、少なくとも1個の他の窒素原子を含有するか、又は(ii)これらが、少なくとも1個の窒素原子を含有する他の芳香環に結合しているかのどちらかであることを条件として、同一であっても異なっていてもよいZ及びZ’のそれぞれは、Z環とZ’環が一緒になって、任意選択で1個又は複数の追加の芳香環とともに、共役系を形成するか、或いはZ及びZ’の少なくとも1つは、ZとZ’がそれに結合している1個又は複数の追加の芳香環と共役系を形成するような含窒素芳香環を表し、Xはアニオン性又は中性の共配位子を表す)を含むエレクトロルミネッセンス素子を提供する。4,7−ジフェニル−2,9−ジメチル−1,10−フェナントロリン(化合物1)などの本発明の化合物から得られるEL素子は、赤色にシフトしており、Syn.Met.第118巻、2001年、175〜179頁に示されている電子求引性置換基を有していないRe化合物から得られる従来技術のELより著しく効率がよい。
【0005】
2個の前記環が、(i)それらのうちの少なくとも1つ、好ましくはそれらのうちの1つだけが少なくとも1個の他の窒素原子を含むか、又は(ii)それらが、少なくとも1個の窒素原子を含む他の芳香環と縮合しているかのどちらかである化合物、すなわち少なくとも3個、例えば4個の環窒素原子を含有するそうした化合物は、Xが塩素である場合、5,6−ジフェニル−3−(2−ピリジル)−1,2,4−トリアジン及び3,5,6−トリ(2−ピリジル)−1,2,4−トリアジンを別にすれば新規であり、本発明の他の態様を形成する。「少なくとも1個の窒素原子を含有する他の芳香環と縮合する」という場合、これは直接的に縮合することを意味する。一般に含窒素環は、特に2個以上のヘテロ原子を含有する場合、6員環である。環が5員環であって2個以上のヘテロ原子を有する場合、この第2のヘテロ原子は窒素であることが好ましい。実際一つの実施形態では、ヘテロ原子がすべて窒素である。含窒素環が2個以上の窒素原子を含有する場合、6員環であることが好ましい。環系は以下の構造
【化2】


を有していることが好ましい。破線は任意選択の結合を表す。一般的に、系は、例えば、2個のピリジル環を連結する単結合、第3の芳香環又は−C’=C’−連結基によって共役されていることになる。
【0006】
含窒素環がピリジル環である場合、これらは一般にそのオルト位の炭素原子を介して互いにリンクしている、又は窒素原子のメタ位の炭素原子を介した−C’=C’−連結基によって連結されている。或いは、これらはベンゼン環と縮合して、フェナントロリン環又は含窒素芳香環を形成することができる。含窒素環の1つがピリジル環でない場合、それは1個又は複数の追加の窒素原子を含有することができる。
【0007】
したがって、一般的な環系には以下の、
【化3】


及び、特に好ましい
【化4】


並びに、2つの連結されていない
【化5】


の形の環であって、
【化6】


に示される[Re(CO)(4,4’−ビピリジル)Cl]におけるような環が含まれる。
【0008】
本発明の化合物の一般的な特徴は、Z−Z’配位子系の共役を拡大又は改変して、赤色シフトを生み出し発光効率を増大させたことである。
【0009】
環系がビピリジル又はフェナントロリンである場合、環の1つが
【化7】


のように芳香環と縮合していない限り、少なくとも1個の環が、電子求引性置換基によって置換されていることが必要である。
【0010】
さらに、環系がビピリジルである場合、電子求引性置換基は炭化水素アリール基(置換されていてよい)であり、環系がフェナントロリン環系である場合、電子求引性置換基は2、4、5、6、7又は9位である。
【0011】
ジイミン配位子に変化するためのHOMOエネルギーの感度が比較的低いとすると、Re(I)錯体の発光エネルギーは、おおまかに言えば、配位子の還元電位に比例する。一般に、Re(I)錯体は黄色〜緑色のスペクトル領域で発光する。したがって、この発光の色は、LUMOエネルギーを低下させることによって、すなわち配位子還元電位をよりプラス側にすることによって、赤色へシフトすることができる。そうした変化は、配位子を変えるか、又は電子求引性置換基を導入することによってもたらすことができる。特に、少なくとも1個の環上に2つの置換基があり、これらの置換基の少なくとも1つが電子求引性基であることが好ましい。2つの置換基が存在すると、エネルギーレベルに対するより強い制御が可能になり、加工特性を改善することができ、置換基がフェニル基である場合などの数例では、ルミネッセンス量子収量を増大させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
したがって、使用できるすべての環系について、電子求引性置換基の存在は一般に有益である。電子求引性基の定義は、原子若しくは原子団が、水素原子と比較して配位子からそれ自体へ電子密度を引きつける傾向であり、したがって、電子密度を水素原子よりそれ自体へ引きつけるより大きな傾向を有する原子若しくは原子団は電子求引性基として知られている。電子求引性基の例には、ニトロ;ニトロソ;シアノ;チオシアノ;シアナト;アルデヒド;エーテル;カルボン酸;アジド;フェニルなどのアリール;ピリジルなどのヘテロアリール、例えば4−ピリジル、ピラゾール、フラン、チオフェン;ハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素;アルコキシカルボニルなどのエステル、例えばエトキシカルボニル;アルキルカルコゲノエステルなどのカルコゲノエステル、例えばCHEO、又はアリールカルコゲノエステル、例えばPhEO(EはS、Se又はTeであってよい);トリフルオロアルキルなどのフルオロアルキル、例えばトリフルオロメチル及びペンタフルオロエチル;次リン酸塩、例えばHPO;スルホン酸アリールなどのスルホン酸塩、例えばp−CHPhSO;アシルハロゲン化物、例えばCOCl;CONH、CONHR、CONR(Rは水素又はアルキル若しくはアリールなどの任意の有機性基であってよい)などのアミド;NORなどの置換されたN−オキシド、例えばNOCH;NR−NR’(R及びR’は水素又は有機性基アルキル若しくはアリールであってよい)などのヒドラジド;テトラアルキルアンモニウムなどの第四級アミン、例えばEtN;SiR(R及びR’は水素又は有機性基アルキル若しくはアリールであってよい)などのシリル;アルキルセレノ若しくはスルホニル基などの置換された二価のカルコゲニド、例えばCHSe、CFS、並びにトリフルオロメチルフェニル、ペンタフルオロエチルフェニル及びペンタフルオロフェニルが含まれる。もちろんこれらの電子求引性基はすべて置換され得る。
【0013】
いくつかの場合、1個又は複数の電子求引性基は、シフトが赤色領域を超えるほど強くてよい。このような基の例には、NO及びオキサジアゾールが含まれる。そうした状況では電子供与置換基も含むことが望ましい。適切なそうした置換基には、メチル及びt−ブチルなどのアルキル、メトキシなどのアルコキシ、ジエチルアミノなどのアミノ若しくは置換されたアミノ、並びにアミド、典型的にはアセトアミドなどの脂肪族アシルアミドが含まれる。置換基の部分を形成できる、又は置換基であるアルキル基は一般に1〜6個、例えば1〜4個の炭素原子を有する。
【0014】
発光を赤色位置領域方向にシフトさせるだけでなく、その存在がルミネッセンス量子収量を増加させることができるので、フェニル置換基は特に有益であることが判明した。1個(又は複数の)フッ素若しくはフッ素含有基、例えばトリフルオロメチルで置換されたフェニル基はフェニル基より強い電子求引性効果を有し、発光をさらに赤色領域へシフトさせる。
【0015】
置換基は環の任意の位置にあってよい。しかし、メタ位での電子求引性基の電子効果は、オルト若しくはパラ位にある場合より小さく、また本発明での目的は電子求引性基が存在し、発光の色を制御してジイミン配位子のLUMOレベルを改変するためにあるので、電子求引性置換基は、N−Re結合に対してメタ位でない、すなわちピリジル及びフェナントロリン配位子の3の位置でないことが好ましい。置換基は環窒素原子に対してパラ位、ビピリジルの4の位置であることが好ましい。フェナントロリンでは、典型的な位置は、4及び7、5及び6、又は2及び9が対である2、4、5、6、7及び9が一般に好ましい。好ましいトリアジン−ピリジル系では、置換基はトリアジン環中であることが好ましい。特に好ましいジイミン系は2−(2−ピリジル−4,5−ジフェニル−トリアジン−)(dppt)である。
【0016】
Z及びZ’環が同一である場合、ZとZ’の両方に電子求引性基があることが好ましい。Z及びZ’環が同一である場合、それぞれの同じ相対的位置に同じタイプの置換基があることが好ましい。
【0017】
上記に示したように、共配位子Xは中性又はアニオン性(Xが中性である場合、安定した錯体を形成するために非配位型の対アニオンが必要である)である。硝酸塩、亜硝酸塩、過塩素酸塩、ヨウ素酸塩、臭素酸塩、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、重炭酸塩、トリフルオロメチルスルホン酸塩、水素化物、二水素リン酸塩、硫酸水素酸塩;またフェニル、アルキル及び置換されたアルキル、例えばベンジルなどのアラルキルなどのヒドロカルボニル基;また酢酸塩及び蟻酸塩などの有機酸からのアニオン;またアルキル及びアリールスルホン酸塩を含むスルホン酸塩;またシアニド、シアナート、チオシアナート、ヒドロキシド及びアミド;また過マンガン酸塩などの無機アニオン;またアルキル及びアリールアルコール、チオール並びにアミン;またピロール、イミダゾール、ピラゾール及びカルベンなどの複素環式芳香族基:またトリスピラゾリルホウ酸塩などのホウ酸塩を含む広い範囲の共配位子を使用することができる。しかし、Xは塩化物、フッ化物、臭化物及びヨウ化物を含むハロゲン化物であることが好ましい。驚くべきことに、固体では、中性配位子というよりはむしろハロゲン化物配位子を有する錯体間での発光効率の差は、溶液データが示唆するよりはるかに小さいことが見出された。
【0018】
ヨウ化物へとハロゲン化物を塩化物から臭化物に変えても、HOMOエネルギーレベル及びLUMOエネルギーレベルにわずかにシフトをもたらすだけであるが、ハロゲン化物イオンを変えると、発光の寿命と量子効率の両方に影響を及ぼす。錯体3、4及び9(以下を参照(すべてX=Brを有する))並びに錯体13(X=Iである)についての定性的な測定によって、より重いハロゲン化物がより効率のよい発光をもたらすという結論が支持される。
【0019】
中性配位子系錯体を凌駕するハロゲン化物系錯体の他の利点は、錯体の長期光安定性である。UVランプ下の環境条件で、ハロゲン化物系錯体は観察し得る分解を示さなかったが、他方、固体中でピリジルを配位する配位子及び非配位過塩素酸アニオンを含有する錯体7のサンプル(以下参照)は、空気中に数カ月放置して、そのスペクトルにおいて著しい光分解を示した。向上した光安定性は、エレクトロルミネッセンス素子用に、本質的に安定した材料をもたらすはずである。光安定性は、光パターン化可能なエレクトロルミネッセンス素子のための光重合性化合物の設計への道も提供する。したがって、これらが置換基としてラジカル重合性、カチオン重合性若しくはアニオン重合性の基、特に光重合性基を有する場合、化合物は重合して懸垂型発光性Re含有環系を有するポリマーを形成することができる。適切な光重合性置換基の例は、アクリレート誘導体若しくはビニルなどのオレフィン、又はオキセタン若しくはエポキシドなどの歪環系、或いは他に知られている一若しくは二成分系である。
【0020】
ポリマーの形成の他に、レニウム錯体は国際特許出願公開公報第WO99/21935号に開示されているタイプのものなどのデンドリマーの部分を形成することもできる。したがって、錯体は、分子がデンドリマーであるような樹状構造の部分を形成する1種又は複数の置換基を有する。適切な樹状分枝を用いると、EL素子の製造において溶液処理技術を用いる場合に有用である良好な溶解性とフィルム形成特性を、分子にもたらすことができる。デンドリマーは、樹状でない少なくとも1個の配位基を含むことができる。好ましい実施形態では、本発明のデンドリマーは、樹状である1個の配位基並びにReイオンに結合している3個のCO配位子及びX配位子を含む。デンドライト(1個又は複数)はジイミン型配位子と結合していることが好ましく、CO及びX配位子は樹状でない。そうしたデンドリマーは、国際公開公報第WO99/21935号に開示されている技術を用いて調製することができる。この特許文献についてはさらに詳細に述べることとする。
【0021】
本発明で使用される化合物は一般に、所望のジイミン型配位子を式Re(CO)Xのレニウム錯体と反応させることによって調製することができる。一般にこれらは、ほぼ等モル量を用いて、一般に例えばアルゴンなどの不活性雰囲気中で、トルエンなどの無極性有機溶媒又はメタノール若しくはクロロホルムなどの極性溶媒中、還流下で加熱して反応させることができる。一般に所望の錯体は冷却による沈殿物として得られる。沈殿物を洗浄して乾燥し、望むなら、真空昇華によってさらに精製することができる。
【0022】
本発明の有機発光若しくはエレクトロルミネッセンス素子は、その最も単純な形では、2つの電極間に挟まれた発光層で形成することができる。この電極のうちの少なくとも1つは発光に対して透過性でなければならない。一般に素子は透明基板層、透明電極、発光材料層及び第2の電極で形成することができる。通常の構造では、透明電極は陽極であり、最後の電極は陰極である。透明基板は一般にガラスでできているが、PETなどの透明プラスチックでもよい。PANI(ポリアニリン)などの導電性ポリマーのみならず他の類似した材料も使用できるが、透明陽極はインジウムスズ酸化物(ITO)でできていることが好ましい。陰極は一般にAl、Ca、Mg、Li若しくはMgAgなどの低い仕事関数の金属又は合金でできている。よく知られているように、正孔輸送材料及び/又は電子輸送材料を含む他の層が存在してもよい。代替の構成では、基板はシリコンなどの不透明材料でよく、光は反対側の電極を通って発光する。
【0023】
一つの実施形態では、本発明の錯体は電極間に発光層を形成する。1種又は複数の本発明の化合物を含む単一の層で、任意選択で1種又は複数の他の分子樹状若しくはポリマー種と混合して、電極の間(他の層も存在してよいが)に発光素子を形成させることができる。具体的には、陽極と発光層との間に正孔輸送層(1つ又は複数)、及び/又は発光層と陰極との間に電子輸送材料が存在することができる。一般的な正孔輸送材料には、TPD若しくはα−NPDなどのトリアリールアミン、又はPEDOT:PSSが含まれる。発光層と陰極の間に、正孔阻止/電子輸送層を含むことが有利である可能性がある。正孔阻止材料の例には、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)及び2,2’,2”−(1,3,5−フェニレン)トリス[1−フェニル−1H−ベンズイミダゾール](TPBI)が含まれる。電子輸送材料の例には、オキサジアゾール又はアルミニウムトリス(8−ヒドロキシキノレート)が含まれる。さらに、陰極の前に堆積された電子注入層が存在してよい。適切な材料にはLiFが含まれる。適切な正孔又は電子輸送層を追加することにより素子の効率及び/又は寿命を改善できる。
【0024】
本発明の化合物を含む層はその化合物からなることができる、又は化合物をホスト中に加えてブレンドを形成することができる。典型的なホスト材料には、ベンゾフェノン若しくはアセトフェノン誘導体などのりん光マトリックス、例えば1,1,1−トリフェニルアセトフェノン若しくは4,4’−ジメチルオキシベンゾフェノン、又はその配位子が、本発明の錯体より高い三重項エネルギーを有するランタニド錯体、又は1,3−ビス[5−(4−tert−ブチルフェニル)−[1,3,4]オキサジアゾール−2−イル]−ベンゼンなどのオキサジアゾール、又は4,4’−ビス(カルボゾル−4−イル)ビフェニル(CBP)若しくは4,4’,4”−トリ(N−カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)などのカルバゾールが含まれる。
【0025】
本発明の化合物を含む素子は通常の方法で調製することができる。好ましい実施形態では、化合物を物理蒸着(減圧下での蒸発)によって基板上に堆積させる。他の実施形態では、スピンコーティング、インクジェット法又は他の溶液処理技術によって、化合物又は化合物のブレンドを、溶液から堆積させる。
【0026】
以下の実施例で本発明をさらに説明する。
【0027】
以下の化合物を調製した。
【実施例】
【0028】
[Re(I)(CO)(L)X]型錯体(X=Cl、Br)の一般的合成は以下の通りである。
等モル量の[Re(CO)X]とジイミン型配位子のトルエン中の攪拌懸濁液をAr雰囲気下で2時間還流加熱した。一般に、懸濁液は変色し、5〜10分以内で溶液になった。冷却すると沈殿物が形成され、これをろ過によって集め、ペンタンで洗浄して真空下で乾燥した。錯体を真空昇華によってさらに精製した。化学的収率は70〜90%であった。
(実施例1)
【0029】
[Re(CO)(2,9−Me−4,7−Phphen)Cl](1)
2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンとRe(CO)Clの反応によって黄色粉末が得られた。生成物を265℃、9×10−6ミリバールで昇華によって精製した。


(実施例2)
【0030】
[Re(CO)(dppt)Cl](2)
3−(2−ピリジル)−5,6−ジフェニル−1,2,4−トリアジン(dppt)とRe(CO)Clの反応によってオレンジ色の粉末が得られた。生成物を280℃、1×10−6ミリバールで昇華によって精製した。


(実施例3)
【0031】
[Re(CO)(2,9−Me−4,7−Phphen)Br](3)
2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンとRe(CO)Brの反応によって黄色粉末が得られた。生成物を260℃、5×10−7ミリバールで昇華によって精製した。


(実施例4)
【0032】
[Re(CO)(dppt)Br](4)
3−(2−ピリジル)−5,6−ジフェニル−1,2,4−トリアジン(dppt)とRe(CO)Brの反応によってオレンジ色の粉末が得られた。


(実施例5)
【0033】
[Re(CO)(2,4,7,9−Phphen)Cl](5)
Sauvageら(Tet.Lett.、第23巻、50号、1982年、5291頁)の記載と同様にして、フェニルリチウムと4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンから2,9,4,7−テトラフェニル−1,10−フェナントロリンを調製した。

【0034】
2,9,4,7−テトラフェニル−1,10−フェナントロリンとRe(CO)Clの反応によってオレンジ色の粉末が得られた。生成物を275℃、3×10−6ミリバールで昇華によって精製した。


(実施例6)
【0035】
(比較例)
[Re(CO)(2,4,7,9−Mephen)(4,4’bpy)](CFSO)(6)
この錯体を、Guarrら(Inorg.Chem.、1992年、4346頁)の記載と同様にして調製した。発光スペクトル:λmax=527nm、φ=0.57(MeCN、298K)。黄色粉末を300℃、1×10−6ミリバールで昇華させた。昇華生成物のH nmr及び元素分析によれば、4,4’bpy配位子が失われた式[Re(CO)(Mephen)](CFSO)と一致する。
【0036】
この比較例の発光波長(溶液中)は、望ましくないことに、本発明の化合物の発光波長に比べて青色にシフトしている。
(実施例7)
【0037】
[Re(CO)(2,9−Me−4,7−Phphen)py][ClO](7)
DeGraffら(Inorg.Chem.、1993年、5629頁)の記載と同様にして、この錯体を調製した。発光スペクトル:λem=555nm、φ=0.32(CHCl、298K)。
(実施例8)
【0038】
[Re(CO)(2,2’−bpz)Cl](8)
Leverら(Inorg.Chem.、1982年、2276頁)の記載と同様にして、2,2’−ビピラジンを調製した。2,2’−ビピラジンとRe(CO)Clの反応によってオレンジ色の粉末が得られた。


(実施例9)
【0039】
[Re(CO)(2,2’−bpz)Br](9)
Leverら(Inorg.Chem.、1982年、2276頁)の記載と同様にして、2,2’;−ビピラジンを調製した。2,2’−ビピラジンとRe(CO)Brの反応によってオレンジ色の粉末が得られた。


(実施例10)
【0040】
[Re(CO){2,9−(4−CFPh)−4,7−Phphen}Cl](10)
Sauvageら(Tet.Lett.、第23巻、50号、1982年、5291頁)の方法によって、4−ブロモベンゾトリフルオリドと4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンから、新規の配位子、2,9−ビス(4−トリフルオロメチルフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンを調製した。

【0041】
2,9−ビス(4−トリフルオロメチルフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンとRe(CO)Clの反応によってオレンジ色の粉末が得られた。生成物を275℃、5×10−6ミリバールで昇華によって精製した。


(実施例11)
【0042】
[Re(CO){2,9−(3−CFPh)−4,7−Phphen}Cl](11)
Sauvageら(Tet.Lett.、第23巻、50号、1982年、5291頁)の方法によって、3−ブロモベンゾトリフルオリドと4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンから、新規の配位子、2,9−ビス(3−トリフルオロメチルフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンを調製した。

【0043】
2,9−ビス(3−トリフルオロメチルフェニル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリンとRe(CO)Clの反応によってオレンジ色の粉末が得られた。生成物を265℃、5×10−6ミリバールで昇華によって精製した。


(実施例12)
【0044】
[Re(CO)(2,2’−biq)Cl](12)
Wrightonら(J.Amer.Chem.Soc.、1974年、998頁)の記載と同様にして、2,2’−ビキノリン(2,2’−biq)とRe(CO)Clの反応によって赤色の粉末が得られた。


(実施例13)
【0045】
[Re(CO)(2,9−Me−4,7−Phphen)I](13)
1モル当量の銀トリフレートをアセトン中の錯体1の懸濁液に加えた。混合物をAr下で2時間還流加熱した。黄色/オレンジ色の混合物を冷却してろ過により白色固形物を除去した。ろ液からの溶媒を真空下で除去して残渣をトルエン中に再溶解した。10モル当量のヨウ化ナトリウムを溶液に加え、混合物を還流下で8.5時間加熱した。混合物を除去し、ろ液からの溶媒を真空下で除去した。生成物をジクロロメタン/ペンタンで再結晶化させて、緑色粉末を66%の収率で得た。生成物を260℃、2×10−6ミリバールで昇華によって精製した。

【0046】
【化8】


【化9】

【0047】
(揮発性と安定性)
錯体1〜3、11及び13を、高真空下、250〜300℃の温度で、すべて昇華させた。すべての錯体について少量の分解物が観察されたが、昇華生成物の元素分析及び分光分析データは所与の構造と一致した。錯体5及び10を約275℃で昇華させたが分解を示し、昇華された生成物中にフリーの配位子(H nmrスペクトルで判断して)の証拠を示した。
【0048】
錯体6の昇華のあとに得られた生成物の分析は、4,4’bpy断片が失われていること、及び[Re(CO)(Mephen)](CFSO)の構造であることと一致していた。
【0049】
高真空下で錯体7の昇華を試みたが、約200℃で錯体が完全に分解する結果となった。
【0050】
これらの錯体のサンプルをUVランプの下で、固体で空気中に数カ月置いたが分解は観察されなかった。しかし、錯体7のサンプルは、固体で環境条件で可視光に数週間置いて、吸収スペクトルと発光スペクトルのどちらも著しい変化を示した。
【0051】
(電気化学)
上記のように、置換基をとり変えるのとは別に、これをジイミン配位子自体に変えることは、LUMOエネルギー、したがってRe(I)錯体の発光エネルギーを変える別の方法である。
【0052】
異なるジイミン配位子を有する一連の錯体について、酸化及び還元電位を測定し、その値をビピリジル及びフェナントロリンと比較した。得られた結果を以下に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
電位はすべてFc/Fcに相対的に表し、電解液として約0.2M[BuN][PF]の溶液中で、ガラス状炭素作用電極、白金補助電極及び銀線擬似基準電極を用いて0.1V/sのスキャン速度で、電位を記録した。(a)については、データはOrganometallics、1996年、236頁から得た。
【0055】
錯体8及び9はどちらも錯体1よりプラス側の還元電位を示し、溶液中でも固体としてもどちらでも非常に弱いが、両方とも発光性である。錯体9のλmax emは641nmであり、ほぼ完全な赤色である0.670、0.329のCIE座標を有している。bpz配位子での発光の低効率は、配位子の塩基度と、非配位窒素供与体での相互作用による不活性化のための電位に起因するものである(J.Organometallic Chem.、1989年、107頁)。
【0056】
錯体2は、固体状態でx=0.632及びy=0.366のCIE座標を有し、固体で赤色発光性Ir(III)錯体、[Ir(btp)(acac)]に匹敵する明度を有する赤色発光性錯体である。錯体2の固体での発光スペクトルを図1に示す。λmax emは617nmである。
【0057】
(素子検討)
錯体1、2及び11をEL素子の発光材料として検討した。
【0058】
NPDと錯体1を有する二層素子は、以下の図2に示すように、溶液PLスペクトルと類似した波長で黄色/オレンジ色の光を発光する。
【0059】
様々な濃度でカルボゾイルジフェニル(CBP)中にドーピングした錯体1で、より効率のよい多層素子を作製した。錯体1を、構造ITO/NPD(50nm)/錯体1:CBP(30nm)/BCP(60nm)/LiF(1.2nm)/Al(100nm)を有する素子に用いた。広いドーピング比の範囲にわたって検討して、1:7(W/W)のドーピング比が最適であることが証明された。BCP(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン)を電子輸送/正孔阻止層として使用した。そうした層は効率を改善するために有益である。最も良好な素子効率は>6lm/W及び約4lm/W@100cd/mであった。
【0060】
素子特性を図3に示す。
【0061】
NPDの層と錯体11の層を有する二層素子は、13Vで0.619、0.371のCIE座標を有する赤色光を発光する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】錯体2(固体)の発光スペクトルを示す図である。
【図2】[Re(CO)(MePhphen)Cl]の発光スペクトルを示す図である。
【図3】素子特性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個又は複数の追加の芳香環を含むことができる次式の骨格を有する化合物を含む有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】


(式中、同一であっても異なっていてもよいZ及びZ’のそれぞれは、Z環とZ’環が一緒になって、任意選択で1個又は複数の追加の芳香環とともに、共役系を形成するか、或いはZ及びZ’の少なくとも1つは、ZとZ’が縮合している1個又は複数の追加の芳香環と共役系を形成するような含窒素芳香環を表し、但し、(a)2つの前記環がピリジル環であり、互いに窒素原子に対してオルト位に結合している場合、(i)少なくとも1個の前記環が、炭化水素アリール基である少なくとも1個の電子求引性置換基で置換されている、又は(ii)少なくとも1個の前記環が、他方のピリジル環が縮合していない別の芳香環と縮合している、又は(iii)2個の前記環が一緒になって、2、4、5、6、7若しくは9位の少なくとも1個の電子求引性置換基によって置換されているフェナントロリン環系を形成する、或いは、(b)2個の前記環が、(i)それらの少なくとも1個が、少なくとも1個の追加の窒素原子を含有するか、又は(ii)それらが、少なくとも1個の窒素原子を含有する別の芳香環に縮合しているかのいずれかであって、Xはアニオン性又は中性の共配位子を表す)
【請求項2】
ZとZ’が一緒になって構造式
【化2】


(式中、破線は存在していないか、又は6員芳香環を完成する)を表す請求項1に記載の素子。
【請求項3】
電子求引性基がフェニル基である請求項2に記載の素子。
【請求項4】
骨格が共役系の一部を形成する少なくとも3個の環窒素原子を含む請求項1に記載の素子。
【請求項5】
ZとZ’が一緒になって基
【化3】


を形成する請求項4に記載の素子。
【請求項6】
ZとZ’の両方が
【化4】


を表す請求項1に記載の素子。
【請求項7】
共役系の環のうちの少なくとも1個が、少なくとも1個の電子求引性置換基を有する前記請求項のいずれか一項に記載の素子。
【請求項8】
電子求引性基がニトロ、ニトロソ、シアノ、チオシアノ、シアナト、アルデヒド、エーテル、カルボン酸、アジド、アリール、ヘテロアリール、ハロゲン、エステル、カルコゲノエステル、フルオロアルキル、ジリン酸塩、スルホン酸塩、アシルハライド、アミド、置換N−オキシド、ヒドラジド基、第四級アミン、シリル又は置換された二価のカルコゲニドを含む請求項7に記載の素子。
【請求項9】
電子求引性基がフェニル、4−ピリジル、ピラゾール、フラン、チオフェン、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、エトキシカルボニル、EがS、Se若しくはTeであるCHEO又はフェニルEO、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、p−トルエン、スルホン酸塩、−CONH、Rが水素、アルキル若しくはアリールである−CONHR若しくはCONR、−NOCH、Rが上記の定義と同様であり、RがRの定義と同様である−NR−NR’、テトラアルキルアンモニウム、CHSe若しくはCFS、トリフルオロメチルフェニル、ペンタフルオロエチルフェニル又はペンタフルオロフェニル基である請求項8に記載の素子。
【請求項10】
Xがアニオン性共配位子を表す前記請求項のいずれか一項に記載の素子。
【請求項11】
化合物がラジカル重合、カチオン重合又はアニオン重合を受けることが可能である置換基を有する前記請求項のいずれか一項に記載の素子。
【請求項12】
化合物が、その分子がデンドリマーとなるように樹状構造の一部を形成する置換基を有する前記請求項のいずれか一項に記載の素子。
【請求項13】
化合物が、光重合が可能なオレフィン系置換基を有する請求項1から11までのいずれか一項に記載の素子。
【請求項14】
化合物が素子での発光材料である前記請求項のいずれか一項に記載の素子。
【請求項15】
化合物がRe(CO)5,6−ジフェニル−3−(2−ピリジル)1,2,4−トリアジニルClである請求項1から11まで及び請求項14のいずれか一項に記載の素子。
【請求項16】
透明基板層、透明電極、発光材料層及び第2の電極を含み、前記発光材料が前記錯体を含む前記請求項のいずれか一項に記載の素子。
【請求項17】
正孔阻止/電子注入層が、発光材料層と陰極を形成する電極との間に存在する請求項16に記載の素子。
【請求項18】
錯体がホスト材料とブレンドされている前記請求項のいずれか一項に記載の素子。
【請求項19】
実質的に上文に説明したものである請求項1に記載の素子。
【請求項20】
同一であっても異なっていてもよいZ及びZ’のそれぞれが、Z環とZ’環が一緒になって、任意選択で1個又は複数の追加の芳香環とともに、共役系を形成するか、或いはZ及びZ’の少なくとも1つが、ZとZ’がそれに結合している1個又は複数の追加の芳香環と共役系を形成するような含窒素芳香環を表し、但し、2つの前記環が、(i)少なくともその1つが少なくとも1個の追加の窒素原子を含むか、又は(ii)それらが少なくとも1個の窒素原子を含む別の芳香環と直接縮合しているかのいずれかであって、XがRe(CO)[5,6−ジフェニル−3−(2−ピリジル)1,2,4−トリアジニル]Cl及びRe(CO)[3,5,6−トリ(2−ピリジル)−1,2,4−トリアジニル]Cl以外のアニオン性若しくは中性の共配位子を表す、1個又は複数の追加の芳香環を含むことができる請求項1に記載の骨格を有する化合物。
【請求項21】
請求項4から13までの特徴の1つ又は複数を有する請求項18に記載の化合物。
【請求項22】
エレクトロルミネッセンス素子の製造に使用するための請求項1から15までのいずれか一項に記載の化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−227541(P2008−227541A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148897(P2008−148897)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【分割の表示】特願2003−577584(P2003−577584)の分割
【原出願日】平成15年3月17日(2003.3.17)
【出願人】(500189296)イシス イノベイション リミテッド (10)
【Fターム(参考)】