説明

レボホリナート含有水溶液製剤

【課題】レボホリナートまたはその塩が安定に溶解し、長期間保存可能なレボホリナート含有高濃度水溶液製剤、並びにレボホリナート含有高濃度水溶液の安定化方法を提供する。
【解決手段】次の成分(A)および(B):
(A)レボホリナートまたはその塩
(B)(i)4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸またはその塩
(ii)ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)またはその塩、および
(iii)ニコチン酸アミド
の群から選ばれる1種以上の化合物
を含有することを特徴とするレボホリナート含有水溶液製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レボホリナートまたはその塩を有効成分とする安定化された水溶液製剤、並びにレボホリナート含有水溶液の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レボホリナート(l−LV)は、化学名(6S)−N−[4−[[(2−アミノ−5−ホルミル−1,4,5,6,7,8−ヘキサヒドロ−4−オキソ−6−プテリジニル)メチル]アミノ]ベンゾイル]−L−グルタミン酸で、葉酸代謝拮抗薬メトトレキセートの解毒剤、およびフルオロウラシルの抗腫瘍効果増強剤として使用されている。
【0003】
レボホリナートの化学合成過程においては、6位の炭素原子の立体配置によって、d体および1体を等量含有しているラセミ体(ロイコボリン)が得られるが、生物活性を有するのは1体のみであることが報告されており、ロイコボリンから非活性体であるd体を除いた化合物のカルシウム塩である、レボホリナートカルシウムが上市されている(商品名:アイソボリン注(武田薬品工業))。
【0004】
しかし、レボホリナートカルシウムは通常水溶液中では極めて不安定なため、これまで上市されている製剤は凍結乾燥製剤のみであり、投与する際には水溶液製剤を用時調製しなければならないため、レボホリナートまたはその塩を安定に溶解し、長期間保存可能な水溶液製剤の開発が望まれていた。
【0005】
また、レボホリナートカルシウムは有効濃度が比較的高いにもかかわらず、1バイアル中に十分量の有効成分を含有する製剤が上市されていなかった。よって、有効濃度の水溶液製剤を用時調製する際には、複数本のバイアルを用いることとなるが、この作業は極めて煩雑なため、レボホリナートを高濃度に含有する水溶液製剤の開発が望まれていた。
【0006】
ホリナート類またはその塩の水溶液中での安定性を向上させる試みとしては、ロイコボリン塩類、トロメタミン(緩衝剤)、およびモノチオグリセロール(酸化防止剤)を含んでなる混合物(特許文献1)、ホリナート類を有効成分とする水溶液が充填されているプレフィルドシリンジ製剤(特許文献2)、5−ホルミル−(6S)−テトラヒドロ葉酸またはその塩を有効成分とし、pH調整剤と抗酸化剤とが配合された注射用水溶液製剤(特許文献3)等が報告されているが、これらのいずれについても未だ十分な効果は得られていない。
【特許文献1】特開平3−90026号公報
【特許文献2】特開2006−25953号公報
【特許文献3】特開2006−111614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、レボホリナートまたはその塩が安定に溶解し、長期間保存可能なレボホリナート含有高濃度水溶液製剤、並びにレボホリナート含有高濃度水溶液の安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、全く意外なことに、レボホリナートまたはその塩に、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(以下、HEPESという)またはその塩、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(以下、PIPESという)またはその塩、およびニコチン酸アミドから選ばれる1種以上の化合物を配合すると、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性が向上し、長期間保存可能なレボホリナート含有水溶液製剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の成分(A)および(B);
(A)レボホリナートまたはその塩、(B)(i)HEPESまたはその塩、(ii)PIPESまたはその塩、および(iii)ニコチン酸アミドから選ばれる1種以上の化合物
を含有することを特徴とする、レボホリナート含有水溶液製剤を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、レボホリナートまたはその塩を含有する水溶液にHEPESまたはその塩、PIPESまたはその塩、およびニコチン酸アミドから選ばれる1種以上の化合物を添加することを特徴とするレボホリナート含有水溶液の安定化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水溶液製剤には、レボホリナートまたはその塩を高濃度且つ安定に溶解し、長期間保存することができ、臨床に用いる際にも、時間をかけてあらためて固形製剤を溶解する必要がなく、患者に直ちに投与でき、或いは希釈液で適当な濃度に希釈するだけで投与が可能となる。また、保存時の水溶液のpH値の低下が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水溶液製剤で使用する成分(A)レボホリナートまたはその塩は、水溶液製剤の有効成分であり、本発明では塩の形態で使用することが好ましい。
【0013】
本発明で使用するレボホリナートの塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、またはカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩を好適に用いることができ、特にカルシウム塩が好ましい。またこれらの塩には、無水物である無水塩、水和物である含水塩をともに包含する。
【0014】
本発明で使用する成分レボホリナートの塩は、レボホリナートおよびアルカリ剤を添加して、水溶液製剤中で生成させてもよい。この場合、アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、このうち水酸化カルシウムが好ましい。また、水溶液製剤中において、他の化合物との塩交換によってレボホリナートの塩を形成してもよい。
【0015】
本発明の水溶液製剤で使用する成分(B)は、HEPESまたはその塩、PIPESまたはその塩、およびニコチン酸アミドから選ばれる1種以上であり、このうちHEPESまたはその塩、ニコチン酸アミドが好ましい。
【0016】
HEPESおよびPIPESの塩としてはナトリウム塩等のアルカリ金属塩を好適に用いることができ、ナトリウム塩が好ましく、特にHEPES−1ナトリウム塩(以下、HEPES−Naという)、PIPES−1ナトリウム塩(以下、PIPES−Naという)、PIPES−1.5ナトリウム塩(以下、PIPES−1.5Naという)等が好ましい。
【0017】
本発明の水溶液製剤中のレボホリナートまたはその塩100mg(レボホリナート換算)に対して、HEPESまたはその塩(HEPES換算)は0.1mg〜飽和量、さらに0.1〜670mg含有するのが、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましく、医薬品としての安全性を考慮すると0.1〜50mg、さらに0.1〜6mg、特に0.1〜1.5mg含有するのが好ましい。
【0018】
本発明の水溶液製剤中のレボホリナートまたはその塩100mg(レボホリナート換算)に対して、PIPESまたはその塩(PIPES換算)は1mg〜飽和量、さらに1mg〜7g含有するのが、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましく、医薬品としての安全性を考慮すると1〜500mg、さらに1〜40mg含有するのが好ましい。
【0019】
本発明の水溶液製剤中のレボホリナートまたはその塩100mg(レボホリナート換算)に対して、ニコチン酸アミドは10mg〜飽和量、さらに10mg〜20g含有するのが、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましく、医薬品としての安全性を考慮すると10mg〜1g、さらに10〜250mg、特に10〜62.5mg含有するのが好ましい。
【0020】
本発明の水溶液製剤には、さらにレボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性を向上させる目的で、トリエタノールアミン、メグルミンおよびトロメタモールの群から選ばれる、1種以上の化合物を含有させるのが好ましい。
さらに好ましくは、HEPESならびにトリエタノールアミン、ニコチン酸アミドおよびトロメタモールの群から選ばれる1種以上の化合物を含有させるのがよく、特に好ましくはHEPES、トリエタノールアミンおよびニコチン酸アミドを含有させるのがよい。
【0021】
本発明の水溶液製剤中のレボホリナートまたはその塩100mg(レボホリナート換算)に対して、トリエタノールアミンは1.5mg〜飽和量、さらに1.5mg〜20g含有するのが、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましく、医薬品としての安全性を考慮すると1.5〜500mg、さらに1.5〜30mg、特に1.5〜7.5mg含有するのが好ましい。
【0022】
本発明の水溶液製剤中のレボホリナートまたはその塩100mg(レボホリナート換算)に対して、メグルミンは100mg〜飽和量、さらに100mg〜20g含有するのが、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましく、医薬品としての安全性を考慮すると100mg〜15.4g、さらに100mg〜3.85g含有するのが好ましい。
【0023】
本発明の水溶液製剤中のレボホリナートまたはその塩100mg(レボホリナート換算)に対して、トロメタモールは3.5mg〜飽和量、さらに3.5mg〜20g含有するのが、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましく、医薬品としての安全性を考慮すると3.5mg〜1g、さらに3.5〜72mg、特に3.5〜18mg含有するのが好ましい。
【0024】
本発明の水溶液製剤のpHは、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点から9〜11、さらに9〜10、さらに9.2〜10、特に9.5とするのが好ましい。ここで水溶性製剤のpHとは、製剤調製時のpHを意味し、室温(25℃)の値である。pH調整は、酢酸、塩酸、硫酸等の酸、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリを用いて行うのが好ましい。
【0025】
本発明の水溶液製剤中の溶存酸素濃度は1mg/L以下、特に0.5mg/L以下であるのがレボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましい。溶存酸素を除去するためには、容器空間部および水溶液製剤中の酸素を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。例えば、水溶液製剤を窒素バブリングし、容器への充填を窒素雰囲気下行う方法等が好適に用いられる。不活性ガスとしては、例えば、窒素、またはヘリウム、アルゴン、ネオン等の希ガスが挙げられ、特に窒素が好ましい。
【0026】
本発明の水溶液製剤は、有効成分であるレボホリナートまたはその塩が優れたフルオロウラシルの増強効果を有することから、活性型葉酸製剤として有用である。対象悪性腫瘍としては、胃癌、結腸・直腸癌等が挙げられる。
【0027】
また、本発明の水溶液製剤の剤形としては、注射用製剤、特に静脈内投与用製剤が好ましい。当該注射用製剤とするにあたって、上記成分以外に注射用蒸留水、グルコース、マンノース、乳糖、イノシトールに代表される糖類、食塩等に代表される無機塩類、その他通常注射剤に用いる安定剤、賦形剤、緩衝剤等の成分を用いても良い。注射用製剤中にレボホリナートまたはその塩は、レボホリナート換算量で2〜50mg/mL、さらに5〜50mg/mL含有するのが好ましい。また、本発明の水溶液製剤は、レボホリナートまたはその塩を高濃度配合しても安定なので、レボホリナートまたはその塩をレボホリナート換算で5mg/mL以上とすることができる。
【0028】
本発明の水溶液製剤には、さらに前記以外のグット緩衝剤、例えば2−モルホリノエタンスルホン酸,一水和物(以下、MESという)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(以下、Bis−Trisという)、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(以下、ADAという)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(以下、ACESという)、2−ヒドロキシ−3−モルホリノプロパンスルホン酸(以下、MOPSOという)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(以下、BESという)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(以下、MOPSという)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(以下、TESという)、3−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(以下、DIPSOという)、2−ヒドロキシ−N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(以下、TAPSOという)、ピペラジン−1,4−ビス(2−ヒドロキシ−3−プロパンスルホン酸),二水和物(以下、POPSOという)、2−ヒドロキシ−3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸,一水和物(以下、HEPPSOという)、3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]プロパンスルホン酸(以下、EPPSという)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(以下、Tricineという)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(以下、Bicineという)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(以下、TAPSという)、N−シクロヘキシル−2−アミノエタンスルホン酸(以下、CHESという)、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(以下、CAPSOという)、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸(以下、CAPSという)等が挙げられる。このうち、MES、Bis−Tris、ADA、ACES、MOPSO、BES、MOPS、TES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS等が好ましい。本発明の水溶液製剤中のレボホリナートまたはその塩100mg(レボホリナート換算)に対して、これらのグッド緩衝剤は0.1mg〜飽和量、さらに0.1mg〜10g含有するのが、レボホリナートまたはその塩の水溶液中での安定性向上の点で好ましく、医薬品としての安全性を考慮すると0.1mg〜1g、さらに0.1〜100mg含有するのが特に好ましい。
【0029】
本発明の水溶液製剤は、さらに必要に応じて、等張化剤(グルコース、塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール等)、無痛化剤(グルコース、イノシトール、ベンジルアルコール、塩酸メピバカイン、塩酸キシロカイン、塩酸プロカイン、塩酸カルボカイン、グリセリン、プロピレングリコール、塩酸リドカイン等)、防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル等のパラオキシ安息香酸エステル、チメロサール、クロロブタノール、ベンジルアルコール等)を用いることができる。これらの添加量は、当業者が公知の技術に従って容易に設定することができる。
【0030】
本発明の水溶液製剤は光から保護するためにアンバーガラス等の遮光性の容器を用いてもよい。さらに必要に応じて、光安定化剤を添加してもよく、薬学的に許容される光安定化剤は広く利用できるが、例えば、グルコース、ショ糖、フラクトース、マルトース等の糖類、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールを挙げることができる。その他、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、サリチル酸誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、桂皮酸誘導体、ウロカニン酸誘導体、リボフラビン、葉酸等も好適な光安定化剤である。本発明の水溶液製剤には、これらの光安定化剤の一種以上を配合することができ、その添加量は、0.01〜1w/v%、好ましくは0.05〜0.1w/v%である。
【0031】
本発明の水溶液製剤は、さらに必要に応じて抗酸化剤を添加してもよい。抗酸化剤としては、アスコルビン酸またはその塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、塩酸システイン、亜硫酸水素ナトリウム、チオグリセロール、チオグリコール酸またはその塩、および亜硫酸ナトリウム等が用いられ、その塩としてはその薬学的に許容される塩が例示される。本発明の水溶液製剤には、これらの抗酸化剤の一種以上を配合することができ、その添加量は、当業者が公知の技術に従って容易に設定することができる。
【0032】
本発明の水溶液製剤は、必要に応じて他の薬物(塩酸イリノテカン(CPT−11)、オキサリプラチン、5−フルオロウラシル、ウラシル、マイトマイシン等の抗悪性腫瘍剤等)を含有していてもよく、また他の薬物を別に包装し、本発明の水溶液製剤とキット製品としてもよい。
【0033】
本発明において、注射用水溶液製剤とは、最終形態での注射剤に限らず、用時に溶解液(希釈液)を用いて最終注射液に調製することができる注射液前駆体製剤(液状注射剤、濃厚注射剤等)をも含む意味に用いる。
【0034】
本発明の水溶液製剤は、自体公知の方法により製造することができる。例えば、レボホリナートカルシウム、HEPES、トリエタノールアミン、ニコチン酸アミドを含む水溶液のpHを所定の値に調整後、所定のレボホリナートカルシウム濃度に希釈する。その後、無菌条件下にて除菌ろ過し、アンプル、バイアル、シリンジ(プレフィルドシリンジ)等の容器に充填し、密封することにより製造することができる。
【0035】
本発明の方法により、レボホリナートまたはその塩を含有する水溶液にHEPESまたはその塩、PIPESまたはその塩、およびニコチン酸アミドから選ばれる1種以上の化合物を添加することで、レボホリナート含有水溶液を安定化することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制約されるものではない。
【0037】
実施例1 各種添加剤の安定化効果
(1)サンプル調製および試験方法
レボホリナートカルシウムの5mgまたは20mg(レボホリナートとして)/mL水溶液を超音波処理および攪拌により調製する。この液にHEPES、PIPES−1.5Na、ニコチン酸アミドをそれぞれ添加し、水酸化ナトリウム溶液を加えpH9に調整し、60℃で保存し1週間ごとにサンプリングし50%メタノールで希釈しHPLCで分析した。
【0038】
(2)HPLC分析条件
カラム:内径4.6mm,長さ15cmのステンレス管に5μmの液体クロマトグラフ用オクタデシルシリル化シリカゲルを充てんする(L−column ODS 5μm、4.6×150mm)
カラム温度:45℃付近の一定温度
移動相:0.008mol/Lリン酸二水素ナトリウム溶液/メタノール/テトラブチルアンモニウムヒドロキシド試液混液(385:110:4)にリン酸を加えてpHを7.5に調整する
流量:レボホリナートの保持時間が約10分になるように調整する(約1.0mL/min)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm)
【0039】
(3)結果
表1に示したようにレボホリナートカルシウムの水溶液は60℃で保存して安定性試験を実施した。注射用水のみでは2週間後には沈殿物が認められたが、これに各種添加剤を添加すると顕著に安定性が向上し、特にHEPES、PIPES−1.5Naを添加した場合には4週間後においても極めて優れた安定化効果を奏することが確認された。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例2 安定性評価試験(pHの検討)
(1)サンプル調製および試験方法
表2に示す各添加剤の水溶液にレボホリナートカルシウムを加え、50℃の温水中で攪拌し良く溶かす。これに水酸化ナトリウム溶液を加えpHを8.0、9.0、10.0および11.0に調整する。この液を60℃で2週間保存し、1週間ごとにサンプリングした。サンプリングした液は、50%メタノールで希釈しHPLCにより分析した(HPLC条件は実施例1に従う)。
【0042】
(2)結果
表2に示したようにレボホリナートカルシウムの水溶液は60℃で保存して安定性試験を実施した。HEPESを単独で添加した場合と、さらにニコチン酸アミドを組み合わせて添加した場合では、全てのpH領域において後者の処方による安定化効果の方が向上する傾向が見られたが、両者ともpH9.0〜10.0の場合に極めて優れた安定化効果を示した。また20mg/mLという高濃度なレボホリナート含有水溶液に対しても十分な安定化効果を奏することが確認された。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例3 安定性評価試験(処方の検討)
(1)サンプル調製および試験方法
表3〜5に示す各添加剤の水溶液にレボホリナートカルシウムを加え、50℃の温水中で攪拌し良く溶かす。これに水酸化ナトリウム溶液を加えpH9.5に調整する。この液を60℃で1ヶ月間保存し、1週間ごとにサンプリングした。サンプリングした液は、50%メタノールで希釈しHPLCにより分析した(HPLC条件は実施例1に従う)。
【0045】
(2)結果
表3に示したようにレボホリナートカルシウムの水溶液(レボホリナートとして5mg/mL)は60℃で保存して安定性試験を実施した。注射用水のみでは2週間後にはレボホリナートの残存率が約70%以下になり、3週間後には沈殿物が認められた。これにHEPESを添加すると4週間後にも沈殿は認められずレボホリナートの残存率は90%以上であった。HEPESに加えトリエタノールアミンを添加することで、4週間目の残存率が92%以上に上昇し、さらにニコチン酸アミドの添加でより高い残存率(約94%)が得られた。
【0046】
表4および5に示したようにレボホリナートカルシウムの水溶液(レボホリナートとして10mg/mLおよび20mg/mL)についても同様に60℃で保存して安定性試験を実施した。高濃度になるにしたがって残存率が低下する傾向は見られたものの、添加剤なし(注射用水のみ)の場合と比較すると、HEPES単独添加により極めて優れた安定化効果が認められ、さらに他の1種以上の添加剤を組み合わせて添加することで、より安定化効果が向上した。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
実施例4
次の製法により、下記の例1〜6の注射剤を得た。
0.067mg/mL濃度に調整したHEPES水溶液の18mLにレボホリナートカルシウム122mgを加え、50℃の温水中で攪拌し良く溶かす。この液に添加剤を加えて攪拌して溶かした。この液に各添加剤を加えて溶かした後、水酸化ナトリウム溶液でpHを9.5に調整し、HEPES水溶液を加えて20mLとした。
【0051】
例1
レボホリナートカルシウム 122mg
HEPES 1.34mg
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 全量20mL
pH9.5
溶存酸素濃度0.5mg/L
【0052】
例2
レボホリナートカルシウム 122mg
HEPES 1.34mg
トリエタノールアミン 6.83mg
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 全量20mL
pH9.5
溶存酸素濃度0.5mg/L
【0053】
例3
レボホリナートカルシウム 122mg
HEPES 1.34mg
トリエタノールアミン 6.83mg
ニコチン酸アミド 57.3mg
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 全量20mL
pH9.5
溶存酸素濃度0.5mg/L
【0054】
例4
レボホリナートカルシウム 122mg
HEPES 1.34mg
トリエタノールアミン 6.83mg
トロメタモール 15.8mg
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 全量20mL
pH9.5
溶存酸素濃度0.5mg/L
【0055】
例5
レボホリナートカルシウム 122mg
HEPES 1.34mg
トリエタノールアミン 6.83mg
ニコチン酸アミド 57.3mg
トロメタモール 15.8mg
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 全量20mL
pH9.5
溶存酸素濃度0.5mg/L
【0056】
例6
レボホリナートカルシウム 122mg
PIPES−1.5Na 20mg
メグルミン 1000mg
トロメタモール 15.8mg
水酸化ナトリウム 適量
注射用水 全量20mL
pH9.5
溶存酸素濃度0.5mg/L
【0057】
例1〜6のレボホリナート含有水溶液製剤(注射剤)は、いずれも微黄色澄明な水溶液であって、レボホリナートの結晶析出および分解は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)および(B):
(A)レボホリナートまたはその塩
(B)(i)4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸またはその塩
(ii)ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)またはその塩、および
(iii)ニコチン酸アミド
の群から選ばれる1種以上の化合物
を含有することを特徴とするレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項2】
さらにpHが9〜11であることを特徴とする請求項1記載のレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項3】
さらにトリエタノールアミン、メグルミン、およびトロメタモールの群から選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする請求項1または2記載のレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項4】
レボホリナートの塩が、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩である請求項1〜3のいずれか1項記載のレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項5】
レボホリナートの塩が、カルシウム塩である請求項1〜4のいずれか1項記載のレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項6】
注射用水溶液製剤である請求項1〜5のいずれか1項記載のレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項7】
レボホリナートまたはその塩の濃度が、レボホリナート換算で5mg/mL以上である請求項1〜6のいずれか1項記載のレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項8】
水溶液製剤中の溶存酸素濃度が1mg/L以下である請求項1〜7のいずれか1項記載のレボホリナート含有水溶液製剤。
【請求項9】
レボホリナートまたはその塩を含有する水溶液に4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸またはその塩、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)またはその塩、およびニコチン酸アミドから選ばれる1種以上の化合物を添加することを特徴とするレボホリナート含有水溶液の安定化方法。
【請求項10】
さらにpHを9〜11に調整することを特徴とする請求項9記載のレボホリナート含有水溶液の安定化方法。

【公開番号】特開2008−222674(P2008−222674A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66624(P2007−66624)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(000006884)株式会社ヤクルト本社 (132)
【Fターム(参考)】