説明

レンズ成形体、レンズ成形体用コーティング材及びコーティング層を有するレンズ成形体

【課題】光学特性、コーティング材との密着性及び染色性に優れたレンズ成形体、レンズ成形体用コーティング材及び該コーティング材を用いたコーティング層を有するレンズ成形体を提供することを課題とする。
【解決手段】特定構造の繰り返し単位を有するポリカーボネート共重合体を用いてレンズ成形体を成形する。さらに該ポリカーボネート共重合体を用いてコーティング材を調製し、該コーティング材をレンズ成形体の表面にコーティングしてコーティング層を有するレンズ成形体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造のポリカーボネート共重合体からなるレンズ成形体、該共重合体からなるコーティング材及び該コーティング材をレンズ成形体に塗布してなるコーティング層を有するレンズ成形体に関する。更に詳しくは、従来のポリカーボネート樹脂に比べて屈折率が大きく、染色性に優れ、他のコーティング層との密着性にも優れるレンズ成形体、該レンズ成形体を染色して得られた染色レンズ成形体、レンズ成形体用コーティング材、該コーティング材をレンズ成形体に塗布してなるコーティング層を有するレンズ成形体及び該コーティング層を染色して得られた染色コーティング層を有するレンズ成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリカーボネート樹脂は、その透明性や耐熱性、機械的強度等の性質に優れているため、所謂エンジニアリングプラスチックとして様々な産業分野において広く用いられている。かかるポリカ−ボネート樹脂としては、一般に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールAといい、以下においてBisAと略称する)に、ホスゲンやジフェニルカーボネート等の炭酸エステル形成性化合物を反応させて製造されたポリカーボネート樹脂(BisA−PCと略称する)が用いられている。このBisAを原料とするポリカーボネート樹脂は、透明性や機械的強度と成形性とのバランスが良好であることから、電気・電子機器や光学機器等の素材としても多用されている。しかしながら、このBisAを原料としたBisA−PCは、屈折率が低いこと及びアッベ数が低いため、例えばレンズ成形体として用いた場合、レンズを厚くせざるを得ないとか、波長による分散が大きくなるといった欠点を有している。また、BisA−PCで代表されるポリカーボネート樹脂を用いた成形体は、ハードコート材などのコーティング材との密着性が極めて乏しいため、成形体表面にプライマー処理(下地処理)を施す必要があった。さらに、ファッション性などが要求される用途においては、例えばメガネレンズ用途などに代表される透明性樹脂の成形体においては、染色性が重要になるが、BisA−PCは染色性が極めて乏しく、一般的な染色方法では染色できない。したがって、BisA−PCを用いたレンズ成形体を染色する場合には、染色可能なハードコート材を該レンズ成形体表面にコーティングし、該コーティング層を染色する必要があるなど煩雑な工程を経る必要があった。また、従来のビスフェノールAを原料としたポリカーボ−ネート樹脂と同程度の機械的強度を有すると同時に、屈折率が大きく優れた光学特性を有する、分子内にイオウ原子をもつポリカーボネート共重合体が特許文献1に記載されている。
しかしながら、特許文献1には、該ポリカーボネート共重合体を用いると、染色性、各種コーティング材との密着性に優れたレンズ成形体が得られ、該ポリカーボネート共重合体を用いたコーティング材が染色性に優れ、各種のレンズ成形体や他の各種コーティング材との密着性に優れたコーティング材になることについてはなんら記載がない。
【0003】
【特許文献1】特開2004−124048公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点を克服し、光学特性、コーティング材との密着性及び染色性に優れたレンズ成形体、密着性及び染色性に優れたレンズ成形体用コーティング材及びコーティング材を用いたコーティング層を有するレンズ成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、これらの課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、イオウ原子を含むアルキレン基をもったジヒドロキシ化合物と、その他のビスフェノール型のジヒドロキシ化合物とを、炭酸エステル形成性化合物と反応させて得られるポリカーボネート共重合体を用いると、光学特性、染色性に優れるレンズ成形体が得られることを見出した。さらに、上記共重合体からなるコーティング材を用いてレンズ成形体表面にハードコート層や反射防止層を形成した場合、優れた密着性が得られることも見出した。又、該共重合体からなるコーティング材は、成形体に耐衝撃性を付与し、成形体と他のコーティング層(ハードコート層など)との中間層として用いることにより、密着性が改善されることを見出した。更に、該共重合体からなるレンズ成形体ならびに該共重合体からなるコーティング材を用いて形成されたコーティング層は染色性が優れることも見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0006】
即ち、本発明は以下から構成される。
[1]式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とを含有するポリカーボネート共重合体を用いたレンズ成形体。
【化1】

(式中、Yは炭素数1〜10のアルキレン基、−(CH2c−O−(CH2d−又は−(CH2e−O−(CH2f−O−(CH2g−を表し、c及びdは1〜5の整数を、e、f及びgはそれぞれ1〜5の整数を、a及びbは0〜4の整数を表し、R1及びR2は炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルコキシ基、炭素数6〜20の置換若しくは無置換のアリール基又はハロゲン原子を表す。R1及びR2が、それぞれ複数ある場合、複数のR1及びR2はそれぞれにおいて同一でも異なってもよい。)。
【化2】

(式中、Arは、次の式(2a)又は(2)で表される化学構造を示す)。
【化3】

{R3〜R6は、それぞれアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリール置換アルケニル基又は縮合多環式炭化水素基から選ばれる一価の置換基を表し、h,i、j及びkはそれぞれ0〜4の整数を、Xは、単結合、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−SO2−、−CR78−(但し、R7及びR8は、各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、トリフルオロメチル基又は炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリール基を示す)、炭素数6〜12の置換若しくは無置換のシクロアルキリデン基、9,9−フルオレニリデン基、1,8−メンタンジイル基、2,8−メンタンジイル基、置換若しくは無置換のピラジリデン基、炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリーレン基、置換若しくは無置換の1,3−アダマンチレン基、置換若しくは無置換の2,2−アダマンチレン基、又は置換若しくは無置換のトリシクロデシレン基のいずれかを表す。R3、R4,R5及びR6がそれぞれ複数ある場合、複数のR3、R4,R5及びR6は、それぞれにおいて同一でも異なっていてもよい。}。
【0007】
[2]メガネ用レンズ成形体である前記[1]に記載のレンズ成形体。
[3]前記[1]又は[2]に記載のレンズ成形体を染色して得られた染色レンズ成形体。
[4]水性媒体中において分散染料により染色して得られた前記[3]に記載の染色レンズ成形体。
[5] 上記(1)に記載の、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とを含有するポリカーボネート共重合体を用いたレンズ成形体用コーティング材。
【0008】
[6]レンズ成形体表面に形成されたコーティング層の少なくとも1層に用いられる前記[5]に記載のコーティング材。
[7]前記[5]又は[6]に記載のコーティング材をレンズ成形体の表面に塗布して形成されたコーティング層を染色して得られた染色コーティング層を有するレンズ成形体。
[8]メガネ用である前記[7]に記載の染色コーティング層を有するレンズ成形体。
[9]水性媒体中において分散染料により染色して得られる前記[7]又は[8]に記載の染色コーティング層を有するレンズ成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光学特性、コーティング材との密着性及び染色性に優れたレンズ成形体及び密着性及び染色性に優れたレンズ成形体用コーティング材及び該コーティング材を用いたコーティング層を有するレンズ成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のレンズ成形体およびコーティング材は、上記式(1)で表される繰り返し単位と、上記式(2)で表される繰り返し単位を含有するポリカーボネート共重合体から構成される。かかるポリカーボネート共重合体は、下記式(3)で表されるイオウ原子を含有するジヒドロキシ化合物と、下記式(4)で表されるビスフェノール型化合物を炭酸エステル形成性化合物と反応させることによって製造することができる。
【化4】

(式中のY,R1、R2、a及びbは上記式(1)と同じ意味を表す)。
HO−Ar−OH (4)
(式中のArは上記式(2)と同じ意味を表す)。
【0011】
本発明のポリカーボネート共重合体を構成する式(1)で表される繰り返し単位を導入するための原料ジヒドロキシ化合物としては、上記式(3)で表されるイオウ原子を含有するジヒドロキシ化合物を使用する。このようなイオウ原子を含有するジヒドロキシ化合物は硫黄原子を含むビスフェノール型のジヒドロキシ化合物であり、具体的には、例えば、1,7−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)3,5−ジオキサヘプタン、1,5−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)ペンタン、1,6−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)ヘキサン、1,7−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)ヘプタン、1,8−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)オクタン、1,7−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−4−オキサヘプタン、1,5−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3−オキサペンタン等が挙げられ、これらのイオウ原子を含有するジヒドロキシ化合物は、2種以上を併用することが可能である。
【0012】
本発明のポリカーボネート共重合体を構成する式(2)で表される繰り返し単位を導入するための原料ジヒドロキ化合物としては、上記式(4)で表されるビスフェノール型化合物を使用する。かかるビスフェノール型化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3−メチル−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3−フルオロ−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3−クロロ−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3−フェニル−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、
【0013】
ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2ー(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ビフェノール、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジフェニル−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェノール、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、
【0014】
2,7−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、2,2−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−ブチル−4−ヒドロキシ−5ーメチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)イソブタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(2−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−1−フェニルメタン、1,1−ビス(2−tert−アミル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ブタン、ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシ−5−クロロフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4ーヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(3,5−ジブロモー4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1−フェニル−1,1−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(3−シクロへキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4ーヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、9、9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9、9’−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、末端フェノールポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ビフェノール、2,7−ナフタレンジオール、2,2−ビス(3−フェニル−4ーヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ジフェノール、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)ビスフェノール、9、9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9、9’−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、末端フェノールポリジメチルシロキサンが好ましい。
これらのビスフェノール型化合物は2種以上を併用することが可能である。
【0016】
本発明のポリカーボネート共重合体の製造方法としては、特に制限されるものではなく、適当なモノマーを選択して、ホスゲン法や溶融法等の各種の公知のポリカーボネートの製造方法に準じてこれらのモノマーを重合することによって製造することができるが、本発明のポリカーボネート共重合体を実用上有利に製造する方法は、式(3)で表されるイオウ原子を含有する特定のジヒドロキシ化合物及び式(4)で表されるビスフェノール型化合物と、炭酸エステル形成性化合物とを反応させることにより行われる。この場合、使用する式(3)で表されるイオウ原子を含有するジヒドロキシ化合物と、式(4)で表されるビスフェノール型化合物の割合を適宜選択することにより、得られるポリカーボネート共重合体の共重合の割合を随意に調節することができる。
【0017】
ここで、使用する炭酸エステル形成性化合物は、式(3)で表されるジヒドロキシ化合物と式(4)で表されるビスフェノール型化合物とが反応して、ポリカーボネート共重合体中のエステル結合を形成するためのカルボニル供給源となる化合物である。このような炭酸エステル形成性化合物としては、例えば、ホスゲン等のジハロゲン化カルボニル又はクロロホルメート等のハロホルメート類、ジフェニルカーボネート、フェニル−p−トリルカーボネート等のビスアリールカーボネート類が挙げられる。
【0018】
本発明のポリカーボネート共重合体を製造するための反応条件、例えば、反応雰囲気、反応温度、反応圧力等、反応方式及び操作法等は特に制限はなく、通常、公知のポリカーボネートの製造において使用される条件を適宜、採用すればよい。例えば、炭酸エステル形成性化合物として、ホスゲン等のジハロゲン化カルボニル又はクロロホルメート等のハロホルメート類を用いる場合、この反応は、適当な溶媒中で、例えば、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属炭酸塩等の塩基性アルカリ金属化合物やピリジン等の有機塩基等のような酸受容体の存在下で行うことができる。アルカリ金属水酸化物又はアルカリ金属炭酸塩としては、各種のものが使用可能であるが、経済的な面から、通常、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が好適に使用することができる。これらは、通常は水溶液として好適に使用される。
炭酸エステル形成性化合物の使用割合は、反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜調整すればよい。具体的には、使用する式(3)で表されるジヒドロキシ化合物及び式(4)で表されるビスフェノール型化合物の合計モル数(通常、1モルは1当量に相当)に対して、1当量若しくはこれより若干過剰量の炭酸エステル形成性化合物を用いることが好ましい。又、ホスゲン等のガス状の炭酸エステル形成性化合物を使用する場合、これを反応系に吹き込む方法が好適である。上記の酸受容体の使用割合も、同様に反応の化学量論比(当量)を考慮して適宜定めればよい。具体的には、使用するビスフェノール化合物の合計モル数に対して2当量若しくはこれより若干過剰量の酸受容体を用いることが好ましい。
【0019】
反応溶媒は、通常、ポリカーボネートの製造に使用される公知の各種の溶媒を1種単独で若しくは2種以上の混合溶媒として使用すればよい。代表的な例としては、例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素溶媒、塩化メチレン、クロロベンゼンをはじめとするハロゲン化炭化水素溶媒等及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0020】
重縮合反応を促進するために、触媒を用いることが好ましく、該触媒の具体例としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、ジメチルアニリンのような第三級アミン、又はトリメチルベンジルアンモニウムクロライド、トリブチルベンジルアンモニウムクロライドのような第四級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0021】
得られるポリカーボネート共重合体の重合度を調整するために分子量調節剤を添加して反応を行うことができる。このような分子量調節剤としては、p−tert−ブチルフェノールやクミルフェノール、フェニルフェノール等の末端停止剤や、フロログリシン、ピロガロール、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−2−ヘプテン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス〔4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル〕プロパン、2,4−ビス〔2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル〕フェノール、2,6−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2,4−ジヒドロキシフェニル)プロパン、テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、テトラキス〔4−(4−ヒドロキシフェニルイソプロピル)フェノキシ〕メタン、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、トリメシン酸、シアヌル酸等の分岐剤が挙げられる。又、所望に応じ、亜硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト等の酸化防止剤を少量添加してもよい。
【0022】
反応温度は、通常0〜150℃、好ましくは5〜40℃の範囲で行われる。又、反応圧力は、減圧、常圧、加圧のいずれでも可能であるが、通常は、常圧若しくは反応系の自圧程度の加圧下で行うことが好ましい。反応時間は、通常0.5分間〜10時間、好ましくは1分間〜2時間程度である。反応方式としては、連続法、半連続法、回分法等のいずれの方式も採用可能である。
【0023】
本発明のポリカーボネート共重合体の、いまひとつ重要な点は、該ポリカーボネート共重合体を塩化メチレンに溶解して濃度0.5g/dLの溶液としたときの該溶液の温度20℃における還元粘度[ηsp/c]が、0.1dL/g以上であることである。この還元粘度の値は、ポリカーボネート共重合体の機械的強度と強い相関を有しており、この値が0.1dL/g未満では、ポリカーボネート共重合体として本来必要な機械的強度等の特性が十分なものにはならない。好ましい還元粘度の範囲は、0.2〜5.0dL/gであり、特に好ましい還元粘度の範囲は、0.2〜3.0dL/gである。還元粘度の値がこの範囲内であると流動性の低下もなく、成形性も悪くならない。
本発明のポリカーボネート共重合体の還元粘度を上記の範囲内にするには、例えば、上記の反応条件を適宜選択したり、末端停止剤や分岐剤のような分子量調節剤の使用量を適宜、調節する等各種の方法によって目的の還元粘度に調整することができる。又、場合によっては、得られた共重合体に適宜、混合、分画等の物理的処理やポリマー反応、架橋反応処理、部分分解処理等の化学的処理を施して所定の還元粘度のポリカーボネート共重合体にすることもできる。
【0024】
上述の重縮合反応によって得られた反応生成物(粗生成物)は公知の分離、精製法等の各種の後処理を施して、所望の純度(精製度)のポリカーボネート共重合体として回収することができる。
【0025】
本発明のポリカーボネート共重合体は、その他の樹脂と混合して使用することも可能である。このような他の樹脂の例としては、本発明のものと異なるポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)や脂環式アクリル樹脂(商品名:オプトレッツ(日立化成工業株式会社製))等に代表されるアクリル系樹脂、ポリスチレンやスチレン・アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)等のスチレン系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂(TPX)や脂環式オレフィン樹脂(商品名:APO(三井化学株式会社製))、APEL(三井化学株式会社製)、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、ARTON(ジェイエスアール株式会社製))等のポリオレフィン系樹脂、オレフィン・マレイミド共重合体樹脂、(商品名:O−PET(鐘紡株式会社製))等のポリエステル樹脂、非晶性パーフルオロ樹脂(商品名:サイトップ(旭硝子株式会社製))等が挙げられる。
【0026】
本発明のポリカーボネート共重合体には、本発明の目的を阻害しない範囲で酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤等の各種添加剤を配合することができ、特に、ポリカーボネート樹脂成形体の熱劣化を抑制するために酸化防止剤を配合したポリカーボネート共重合体が好ましい。
【0027】
本発明のレンズ成形体の製造は、上記のポリカーボネート共重合体を用いて、通常、公知の方法、即ち、押出成形法、射出成形法、ブロー成形法、圧縮成形法等の加熱溶融成形法や、様々な溶剤に溶解して成形する溶剤キャスト法等様々な成形方法により製造することができる。
【0028】
本発明のポリカーボネート共重合体を用いたコーティング材は、上記の共重合体を溶媒に溶解させることによって得ることができ、用いる溶媒としては、ポリカーボ−ネート共重合体を溶解させるものであれば特に制限はなく、例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン系溶剤やテトラヒドロフラン、ジオキサンなどの有機溶剤を挙げることができる。溶液中の該ポリカーボネート共重合体の濃度は特に限定されず、取り扱いの容易性、コーティング作業の効率性の点から、通常1〜50質量%、好ましくは5〜40質量%、特に好ましくは5〜30質量%である。
【0029】
コーティング方法も特に限定されず、通常の各種のコーティング方法を採用することができ、例えば、浸漬法、スピンコート法、ナイフコーティング法、ロールコーティング法、カーテンフローコーティング法、空気ナイフコーティング法などを挙げることができる。中でも操作性の観点から浸漬法やスピンコート法が好ましい。
コーティングされる対象物としては、各種のレンズ成形体が挙げられ、本発明のポリカーボ−ネート共重合体を用いて成形されたレンズ成形体、市販の各種プラスチックレンズ、市販の各種のプラスチックメガネレンズ、ガラスレンズ等を挙げることができる。
【0030】
本発明の染色レンズ成形体及び染色コーティング層を有するレンズ成形体の製造方法は、上記の成形方法によって得られたレンズ成形体もしくはコーティングされたレンズ成形体を、公知の各種染色方法により染色することにより好適に製造することができる。即ち、代表的な染色方法としては、例えば、水性媒体中または有機溶媒中、若しくはこれらの混合媒体中において、染料(例えば、分散染料など)、顔料等を用いて染色する方法等が挙げられる。上記方法の中で、有機溶媒中で染色する方法は、成形体を高い濃度で染色することが比較的容易である利点があるが、染色条件(溶媒の種類、染色温度、染色時間など)によっては成形体表面が有機溶媒で浸食され透明性が損なわれる場合などもあるため、前記方法の中でも、水性媒体中で分散染料により染色する方法が、より好ましい。
また、用いる染料、顔料としては、特に制限されるものではなく、繊維、樹脂等の染色に使用される公知の各種染料、顔料が好適に使用される。水性媒体中で分散染料により染色する方法としては、例えば、分散染料を水性媒体中に分散させ、必要に応じて、各種公知の添加剤(例えば、界面活性剤、pH調整剤、分散均染剤、染色促進剤など)を添加し、染色温度を保って染色浴を調製し、この染色浴中に、上記の方法で成形されたレンズを、所定時間浸漬する方法などを例示することができる。染色温度としては、特に制限するものではないが、通常、50〜110℃、好ましくは80〜95℃の範囲である。染色時間は、染色温度等の条件によっても影響されるが、通常、1分〜1時間程度である。
【0031】
代表的な分散染料としては、以下に示すものが挙げられる。
(1)青色系染料:ダイヤニックスブルーAC−E、ダイヤニックスブルーRNE(C.I.ディスパースブルー91)、ダイヤニックスブルーGRE(C.I.ディスパースブルー81)、スミカロンブルーE−R(C.I.ディスパースブルー91)、カヤロンポリエステルブルーGR−E(C.I.ディスパースブルー81)
(2)赤色系染料:ダイヤニックスレッドAC−E、ダイヤシェルトンファストレッドR(C.I.ディスパースレッド17)、ダイヤシェルトンファストスカーレットR(C.I.ディスパースレッド7)、ダイヤシェルトンファストピンクR(C.I.ディスパースレッド4)、スミカロンルビンSE−RPD、カヤロンポリエステルルビンGL−SE200(C.I.ディスパースレッド73)、
(3)黄色系染料:ダイヤニックスイエローAC−E、ダイヤニックスイエローYL−SE(C.I.ディスパースイエロー42)、スミカロンイエローSE−RPD、ダイヤシェルトンファストイエローGL(C.I.ディスパースイエロー33)、カヤロンファストイエローGL(C.I.ディスパースイエロー33)、カヤロンマイクロエステルイエローAQ−LE、
(4)橙色系染料:ダイヤニックスオレンジB−SE200(C.I.ディスパースオレンジ13)、ダイヤシェルトンファストオレンジGL(C.I.ディスパースオレンジ3)、ミケトンポリエステルオレンジB(C.I.ディスパースオレンジ13)、スミカロンオレンジSE−RPD、スミカロンオレンジSE−B(C.I.ディスパースオレンジ13)
(5)紫色系染料:ダイヤニックスヴァイオレット5R−SE(C.I.ディスパースヴァイオレット56)、スミカロンヴァイオレットE−2RL(C.I.ディスパースヴァイオレット28)、
また、市販されている以下のレンズ用染料を用いることもできる。
(6)メガネレンズ用分散染料:BPI Autumn Brown(BPI社製染料)、BPI Gray(BPI社製染料)等。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
製造例1(BisZ−DHTD共重合体の製造)
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン86gを、濃度2モル/Lの水酸化カリウム水溶液550mLに溶解した溶液と、塩化
メチレン350mLとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを950mL/分の割合で30分間吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、この有機層に、重合度が2〜4であり分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。得られたオリゴマー溶液に塩化メチレンを加えて全量を600mLとした後、1,7−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3,5−ジオキサヘプタン17gを、濃度2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液200mLに溶解した溶液と混合
し、これに分子量調節剤であるp−tert−ブチルフェノール1.7gを加えた。次いで、この混合液を激しく撹拌しながら、触媒として7質量%濃度のトリエチルアミン水溶液を2mL加え、25℃において撹拌下で1.5時間重合反応を行った。反応終了後、反応生成物を塩化メチレン1Lで希釈し、次いで水1.5Lで2回、0.01モル/L濃度の塩酸1L、水1Lの順にそれぞれ2回洗浄し、有機相をメタノール中に投入し、再沈殿法により精製した。得られたポリマーは、塩化メチレンを溶媒とする濃
度0.5g/dLの溶液の20℃における還元粘度[ηsp/c]が0.7dL/gであった。又、この反応性生物は、1H−NMRスペクトル分析より下記の繰り返し単位からなることが確認された。
【0033】
【化5】

【0034】
製造例2(BisA−DHTD共重合体の製造)
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン92gを、濃度2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液550mLに溶解した溶液と、塩化メチレン350mLとを混合して撹拌しながら、冷却下、液中にホスゲンガスを950mL/分の割合で30分間吹き込んだ。次いで、この反応液を静置分離し、有機層に、重合度が2〜4であり分子末端にクロロホルメート基を有するオリゴマーの塩化メチレン溶液を得た。得られたオリゴマー溶液に塩化メチレンを加えて全量を600mLとした後、1,7−ジ(4−ヒドロキシフェニルチオ)−3,5−ジオキサヘプタン28gを、濃度2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液200mLに溶解した溶液と混合し、これに分子量調節剤であるp−tert−ブチルフェノール1.8gを加えた。次いで、この混合液を激しく撹拌しながら、触媒として7質量%のトリエチルアミン水溶液を2mL加え、25℃において撹拌下で1.5時間重合反応を行った。反応終了後、反応生成物を塩化メチレン1Lで希釈し、次いで、水1.5Lで2回、濃度0.01モル/Lの塩酸1L、水1Lの順にそれぞれ2回洗浄し、有機相をメタノール中に投入して、再沈殿法により精製した。得られたポリマーは、塩化メチレンを溶媒とする濃度0.5g/dLの溶液の20℃における還元粘度[ηsp/c]が0.6dL/gであった。又、この反応性生物は、1H−NMRスペクトル分析より下記の繰り返し単位からなることが確認された。
【0035】
【化6】

【0036】
比較製造例1(BisZホモポリマーの製造)
製造例1において、DHTDを使用しない以外は、製造例1に記載の方法に準拠して、BisZのポリカーボネートホモポリマーを製造した。粘度平均分子量は、20000であった。
【0037】
実施例1
(1)ポリカーボネート共重合体フィルムの作製
製造例1で製造したBisZ−DHTD共重合体のポリカーボネート樹脂フレークを圧縮成形機を用いて、260℃にてプレス成形し、無色透明、厚み200μmのフィルムを得た。
(2)染色浴の調製と染色方法
高純水1000gに、分散染料としてBPI Autumn Brown(BPI社製染料)86gを混合し染色分散浴を調製した。次いで、この染色分散浴を87℃に加熱し、この分散浴に上記(1)で得られたポリカーボネート共重合体フィルムを15分浸漬することにより染色を行った。その後、染色浴からプラスチックフィルムを引き揚げ、高純水で洗ったのちに、エタノールで濡らした布を用いて表面を軽く拭いて乾燥させた。
(3)染色濃度
染色前のポリカーボネート共重合体フィルムについて、島津自記分光光度計 UV−3100S(株式会社島津製作所製)を用いて、分光波長300nm〜800nmにおける透過率スペクトルを測定した。次いで、各波長における染色前後の透過率(%)の差(染色前の透過率(%)−染色後の透過率(%))を算出し、差スペクトルを得た。差スペクトルにおける650nmのピークに着眼し、その値を染色濃度(%)と規定し、上記ポリカーボネート共重合体フィルムの染色濃度を算出したところ、24%であった。
(4)染色されたレンズの製造
別途、製造例1で製造したBisZ−DHTD共重合体に、リン系酸化防止材としてアデカスタブPEP36(旭電化工業株式会社製)を1000ppm添加し、ベント付き40mmφの一軸押出機により240℃で溶融混練し、無色透明のペレットを得た。得られたペレットを100℃で12時間乾燥させた後、射出成形機を用いて成形温度260℃、金型温度90℃で射出成形して、無色透明、中心厚1mmの凸レンズ形状の成形体を得た。この成形体を用いて、上記方法により染色したところ目視判断で染色性が良好、色むらもなく、良好に染色されたレンズ成形体が得られた。
【0038】
実施例2
実施例1において、BisZ−DHTD共重合体の代わりに、製造例2で製造したBisA−DHTD共重合体を使用する以外は、実施例1に準拠して、ポリカーボネート共重合体フィルムを得た。上記方法により染色濃度を測定したところ59%であり、染色性は目視判定では非常に良かった。
次いで、別途、上記で得たBisA−DHTD共重合体に、リン系酸化防止材としてアデカスタブPEP36(旭電化工業株式会社製)を樹脂に1000ppm添加し、ベント付き40mmφの一軸押出機により220℃で溶融混練し、無色透明のペレットを得た。得られたペレットを100℃で12時間乾燥させた後、射出成形機を用いて成形温度250℃、金型温度80℃で射出成形して、無色透明、中心厚1mmの凸レンズ形状の成形体を得た。この成形体を用いて、上記方法により染色したところ、染色性は非常に良く、色むらもなく、良好に染色されたレンズ成形体であった。
【0039】
比較例1
比較製造例1で製造したBisZホモポリマーのフレークを用いる以外は実施例1に準拠して圧縮成形機を用いて、320℃にてプレス成形し、無色透明、厚み200μmのフィルムを得た。上記方法により染色処理し、染色濃度を測定したところ4%であった。
【0040】
比較例2
市販のポリカーボネート樹脂(出光石油化学株式会社製タフロンFN2200A)を実施例1に準拠して圧縮成形機を用いて、270℃にてプレス成形し、無色透明、厚み200μmのフィルムを得た。上記方法により染色処理したところ、染色濃度0.5%でわずかに染色されていた。さらに、実施例2に準拠して別途、得たペレットを用いて、270℃にて射出成形し、中心厚1mmの凸レンズ形状の成形体を得て、上記方法により染色したところ、わずかに染色しているのみであった。
【0041】
実施例3
(1)コーティング層の形成方法
製造例1に準拠して製造したBisZ−DHTD共重合体フレーク5gをTHF95gに溶解して、コーティング材を調製した。得られたコーティング材を実施例1に準拠して得たポリカーボネート共重合体フィルムの表面に塗布し、乾燥させてコーティング層を有するフィルムを得た。
(2)染色浴の調製と染色方法
高純水1000gに、分散染料としてBPI Autumn Brown(BPI社製染料)86gを混合し染色分散浴を調製した。次いで、この染色分散浴を87℃に加熱し、この分散浴に上記(1)でコーティング層を有するポリカーボネート共重合体フィルムを40分間浸漬することにより染色を行った。その後、染色浴からフィルムを引き揚げ、高純水で洗ったのちに、エタノールで濡らした布を用いて表面を軽く拭いて乾燥させた。
(3)染色濃度
染色前のフィルムおよび上記(2)の方法により染色されたコーティングフィルムについて、島津自記分光光度計 UV−3100S(株式会社島津製作所製)を用いて、分光波長300nm〜800nmにおける透過率スペクトルを測定した。次いで、各波長における染色前後の透過率(%)の差(染色前の透過率(%)−染色後の透過率(%))を算出し、差スペクトルを得た。差スペクトルにおける650nmのピークに着眼し、その値を染色濃度(%)と規定し、上記コーティングフィルムの染色濃度を算出したところ、35%であった。
(4)染色されたコーティングレンズの製造
市販のポリカーボネート樹脂(出光石油化学株式会社製タフロンFN2200A;BisA型ポリカーボネート)に、リン系酸化防止材としてアデカスタブPEP36(旭電化工業株式会社製)を1000ppm添加し、ベント付き40mmφの一軸押出機により溶融混練し、無色透明のペレットを得た。得られたペレットを120℃で12時間乾燥させた後、射出成形機を用いて成形温度270℃、金型温度80℃で射出成形して、無色透明、中心厚1mmの凸レンズ形状の成形体を得た。この成形体を用いて、上記(1)に記載の方法によりコーティング層を形成し、上記(2)の方法により染色したところ、染色性は良好で、色むらもなく、良好に染色されたコーティング層を有するレンズ成形体が得られた。
【0042】
実施例4
実施例3において、BisZ−DHTD共重合体の代わりに、製造例2で製造したBisA−DHTD共重合体を使用する以外は、実施例3に準拠して、コーティング層を形成したフィルムを得た。上記方法により染色濃度を測定したところ59%であり、染色性は目視判定では非常に良かった。さらに、実施例3に準拠して得たレンズ成形体(BisA型ポリカーボネート)用いて、上記(1)に記載の方法によりコーティング層を形成し、上記(2)の方法により染色したところ、染色性は非常に良く、色むらのない、良好に染色されたコーティング層を有するレンズ成形体が得られた。
【0043】
実施例5
レンズ成形体として、熱硬化性樹脂CR39で製造された市販のメガネレンズを用いた以外は、実施例4に準拠して、コーティング層を形成し、染色したところ、実施例4と同様に染色性は非常に良く、色むらのない、良好に染色されたコーティン層を有するグレンズ成形体が得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される繰り返し単位と下記式(2)で示される繰り返し単位とを含有するポリカーボネート共重合体を用いたレンズ成形体。
【化1】

(式中、Yは炭素数1〜10のアルキレン基、−(CH2c−O−(CH2d−又は−(CH2e−O−(CH2f−O−(CH2g−を表し、c及びdは1〜5の整数を、e、f及びgはそれぞれ1〜5の整数を、a及びbは0〜4の整数を表し、R1及びR2は炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルコキシ基、炭素数6〜20の置換若しくは無置換のアリール基又はハロゲン原子を表す。R1及びR2が、それぞれ複数ある場合、複数のR1及びR2はそれぞれにおいて同一でも異なってもよい。)。
【化2】

(式中、Arは、下記式(2a)又は(2b)で示される化学構造を表す)。
【化3】

[R3〜R6は、それぞれアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリール置換アルケニル基又は縮合多環式炭化水素基から選ばれる一価の置換基を表し、h,i、j及びkはそれぞれ0〜4の整数を、Xは、単結合、−O−、−CO−、−S−、−SO−、−SO2−、−CR78−(但し、R7及びR8は、各々独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、トリフルオロメチル基又は炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリール基を示す)、炭素数6〜12の置換若しくは無置換のシクロアルキリデン基、9,9−フルオレニリデン基、1,8−メンタンジイル基、2,8−メンタンジイル基、置換若しくは無置換のピラジリデン基、炭素数6〜12の置換若しくは無置換のアリーレン基、置換若しくは無置換の1,3−アダマンチレン基、置換若しくは無置換の2,2−アダマンチレン基、又は置換若しくは無置換のトリシクロデシレン基のいずれかを表す。R3、R4,R5及びR6がそれぞれ複数ある場合、複数のR3、R4,R5及びR6は、それぞれにおいて同一でも異なっていてもよい。]。
【請求項2】
メガネ用レンズ成形体である請求項1に記載のレンズ成形体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレンズ成形体を染色して得られた染色レンズ成形体。
【請求項4】
水性媒体中において分散染料により染色して得られた請求項3に記載の染色レンズ成形体。
【請求項5】
請求項1に記載の、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とを含有するポリカーボネート共重合体を用いたレンズ成形体用コーティング材。
【請求項6】
レンズ成形体表面に形成されたコーティング層の少なくとも1層に用いられる請求項5に記載のコーティング材。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のコーティング材をレンズ成形体の表面に塗布して形成されたコーティング層を染色して得られた染色コーティング層を有するレンズ成形体。
【請求項8】
メガネ用である請求項7に記載の染色コーティング層を有するレンズ成形体。
【請求項9】
水性媒体中において分散染料により染色して得られる請求項7又は8に記載の染色コーティング層を有するレンズ成形体。



【公開番号】特開2006−16498(P2006−16498A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195829(P2004−195829)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】