説明

レーザろう付け方法およびレーザろう付け装置

【課題】レーザろう付け方法の設備コストの低減化および品質向上
【解決手段】レーザろう付け方法は、板金の縁部11と他の板金12の何れか一方にローラ電極21を押し付けつつ、ローラ電極21を板金の縁部11に沿って転がし、板金の縁部11と他の板金12を加圧接触させながらローラ電極21を通してろう付けする両板金11、12間に通電し、板金の縁部11と他の板金12を発熱させ(予熱工程)、予熱工程で発熱した部位にろう材14を供給するとともに、レーザビーム32を当てて板金の縁部11のろう付け(レーザろう付け工程)を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板金の縁部を他の板金面にろう付けするレーザろう付け方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、板金の縁部を他の板金面にろう付けする場合には、ガスろう付けやレーザろう付けが行われていた。ガスろう付けは、図1に示すように、板金の縁部11と、板金の縁部11をろう付けする他の板金12を重ね合わせ、斯かる部位にガストーチ13の火炎13aを当てて予熱し、図2に示すように、予熱した部位にろう材14を接触させて両板金11、12をろう付け15するものである。斯かるガスろう付けについては、例えば、特開平8−197238号公報に記載されている。レーザろう付け(レーザブレージング)は、図3に示すように、ろう材14を溶融させる熱源として、レーザビーム16を熱源としたものである。レーザブレージングについては、例えば、特開2002−79371号公報および特開2005−59009公報に記載されている。
【特許文献1】特開平8−197238号公報
【特許文献2】特開2002−79371号公報
【特許文献3】特開2005−59009公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ガスろう付けは、火炎を当てることにより、母材を熱するものであり、熱により母材に歪みが生じる可能性があり、歪みが生じた場合には、製品の見栄えなどに影響を与える場合がある。レーザろう付けは、鋼板の予熱と、ろう材の溶融をレーザビームの照射エネルギで行うため、高出力のレーザ照射装置が必要になる。このため、設備コストが嵩む。また、特開2005−59009公報にも課題として挙げられているが、母材を過剰に溶融させてしまう可能性が高く、ろう材を主体とする接合金属部内に脆い金属間化合物が生じ得る。これを改善するためのレーザビームの調整も調整幅が小さく調整が難しい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係るレーザろう付け方法は、板金の縁部を他の板金面にろう付けするろう付け方法であって、板金の縁部と他の板金の何れか一方にローラ電極を押し付けつつ、ローラ電極を板金の縁部に沿って転がし、板金の縁部と他の板金を加圧接触させながらローラ電極を通してろう付けする両板金間に通電し、板金の縁部と他の板金を発熱させる予熱工程と、予熱工程で発熱した板金の縁部にろう材を供給するとともに、レーザビームを当ててろう材を溶かして板金の縁部をろう付けするレーザろう付け工程とを備えたものである。
【0005】
また、レーザろう付け装置は、板金の縁部を他の板金面にろう付けするろう付け装置であって、ローラ電極と、ローラ電極と他の板金の間に通電する通電装置と、板金の縁部にろう材を供給するろう材供給装置と、板金の縁部にろう材が供給された部位にレーザを照射するレーザ照射装置とを備えたものである。
【発明の効果】
【0006】
このレーザろう付け方法および装置によれば、ろう付け後に母材に生じる歪みを小さくすることができる。また、特開2005−59009公報に開示されているように、鋼板の予熱と、ろう材の溶融をレーザビームの照射エネルギのみで行うレーザブレージングに比べて、設備コストを低く抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態に係るレーザろう付け方法およびレーザろう付け装置を図面に基づいて説明する。
【0008】
この実施形態では、レーザろう付け方法は、図4に示すように、板金の縁部11と他の板金12の何れか一方にローラ電極21を押し付けつつ、ローラ電極21を板金の縁部11に沿って転がし、板金の縁部11と他の板金12を加圧接触させながらローラ電極21を通してろう付けする両板金11、12間に通電し、板金の縁部11と他の板金12を発熱させ(予熱工程)、予熱工程で発熱した部位にろう材14を供給するとともに、レーザビーム32を当てて板金の縁部11のろう付け(レーザろう付け工程)を行うものである。
【0009】
このレーザろう付け方法を具現化した一実施形態であるレーザろう付け装置20は、図4に示すように、ローラ電極21と、通電装置22と、ろう材供給装置23と、レーザ照射装置24を備えている。
【0010】
ローラ電極21は、電極としての機能を備えたローラ状の転動部31で構成されている。このローラ電極21には、例えば、シーム溶接に用いられているシーム電極を用いることができる。また、ローラ電極21は、図示は省略するがロボットアームの先端に取り付けたものを用いるとよく、ロボットアームのティーチング動作により、所望の位置に移動し得るように構成するとよい。
【0011】
通電装置22は、ローラ電極21と他の板金12との間に通電するものである。この実施形態では、ローラ電極21と、ローラ電極21が押し当てられない側の板金12に通電するものである。この通電装置22についてもシーム溶接に用いられている通電装置22を適用することができる。
【0012】
ろう材供給装置23は、板金の縁部11にろう材14を供給する装置であり、ガスろう付け装置やレーザブレージングなどのレーザろう付け装置で用いられるろう材供給装置を適用することができる。
【0013】
レーザ照射装置24は、板金の縁部11にろう材14が供給された部位にレーザビーム32を照射する装置である。このレーザ照射装置24は、板金11、12の予熱と、ろう材14の溶融をレーザビームの照射エネルギのみで行うレーザブレージングに用いられているレーザ照射装置に比べて、照射できるレーザビーム32の出力が低いものを用いることができる。従って、レーザブレージングに用いられているレーザ照射装置に比べて、格段に安価なレーザ照射装置を用いることができる。この実施形態では、1kWクラスのレーザビームを出力する能力を備えたレーザ照射装置を用いている。なお、図示は省略するが、ろう材供給装置23及びレーザ照射装置24は、ろう付け位置に沿って移動させることができるように、それぞれロボットアームの先端に取り付けた構造にするとよい。
【0014】
この実施形態では、レーザ照射装置24は、図4に示すように、板金の縁部11と他の板金12を重ねた部位に対し、板金の縁部11にローラ電極21を押し付け、板金の縁部11に沿ってローラ電極21を転がしている。そして、板金の縁部11と他の板金12を加圧接触させながら、通電装置22によりローラ電極21を通して、両板金11、12間に通電し、板金の縁部11と他の板金12を発熱させる(予熱工程)。次に、ろう材供給装置23により、この予熱工程で発熱した板金の縁部11にろう材14を供給するとともに、レーザ照射装置24により、レーザビームを当ててろう材を溶かして板金の縁部11をろう付けする(レーザろう付け工程)。
【0015】
このレーザろう付け装置20によれば、ローラ電極21を押し当てつつシーム溶接の要領で通電をして、ジュール熱で、板金の縁部11および他の板金(母材)を予熱することができる。また、ジュール熱による予熱工程は、母材内部(板金の縁部11と他の板金12の重合部)を中心にして発熱するので、火炎やレーザビームを照射して予熱を加える場合に比べて、外観上母材に歪みが生じにくい。また、通電装置22による通電は、母材を予熱することを主たる目的としており、シーム溶接のように溶接が行われる程度に高い電流値での通電を要しないからスパッタを発生させることがなく、また、通電する電流値の調整幅が広く、調整が容易である。
【0016】
またレーザ照射装置24は、上述したように通電による予熱工程により、予め母材が熱せられているので、母材の予熱からろう材の溶融までを行う通常のレーザブレージングの場合に比べて、照射するレーザビームの出力を低く抑えることができる。このため、例えば、通常のレーザブレージングにおいて、4Kwレベルのレーザ照射装置が必要であったところ、1Kwレベルの比較的低い出力のレーザ照射装置を用いることができるので、設備コストを低減させることができる。また、このようにレーザビームの出力を低く抑えることができるので、特開2005−59009公報にも課題として挙げられているものとは対照的に、このレーザろう付け方法によれば、母材を過剰に溶融させてしまう可能性が低く、ろう材を主体とする接合金属部内に脆い金属間化合物が生じ難い。これにより、ろう付けの品質を向上させることができる。
【0017】
また、このレーザろう付け装置によれば、通電装置の出力調整、レーザ照射装置の出力調整等が容易なので、レーザろう付けの条件設定が容易になる。
【0018】
また、このレーザろう付け方法によれば、ローラ電極21で、板金の縁部11と他の板金12を加圧接触させるので、板金の縁部11と他の板金12の隙間sが詰められ、その後をなぞるようにレーザろう付けを行う。このため、通常のレーザブレージングに比べて、ろう付けも板金の縁部11と他の板金12の隙間sが詰められた状態で行われるから、ろう付けの仕上がりがよい。なお、説明の便宜を図るため、図1〜6において、板金の縁部11と他の板金12の隙間を強調して描いているが、実際には、この隙間は図示されているほど大きいものではなく、極めて微小な隙間であり、また、隙間は必ずしもあるとは限らない。
【0019】
また、ろう付けも板金の縁部11と他の板金12の隙間sが詰められた状態でろう付けが行われるので、板金の縁部11と他の板金12の隙間sに溶けたろう材が入り込む量が減るので、総じてろう材の使用量を減らすことができる。これにより、材料コストの低減も図ることができる。
【0020】
以上、本発明の一実施形態に係るレーザろう付け方法およびレーザ照射装置を説明したが、本発明に係るレーザろう付け方法およびレーザ照射装置は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
例えば、図4に示す例では、ローラ電極21を板金の縁部11側から押し当てて、板金の縁部11と他の板金12を加圧接触している。図5に示すように、ローラ電極21は、他の板金12側から押し当てて、板金の縁部11と他の板金12を加圧接触させてもよい。この際、通電装置22の他方の電極は板金の縁部11側の板金に通電するとよい。また、図6に示すように、2つのローラ電極21a、21bを用い、板金の縁部11と他の板金12の両側からそれぞれローラ電極21a、21bを押し当てて、板金の縁部11と他の板金12を加圧接触させてもよい。この際、通電装置22は、2つのローラ電極21a、21bに通電するとよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ガスろう付け方法の説明図。
【図2】ガスろう付け方法の説明図。
【図3】一般的なレーザブレージング方法の説明図。
【図4】本発明の一実施形態に係るレーザろう付け装置を示す図。
【図5】本発明の他の実施形態に係るレーザろう付け装置を示す図。
【図6】本発明の他の実施形態に係るレーザろう付け装置を示す図。
【符号の説明】
【0023】
11 板金の縁部
12 他の板金
20 レーザろう付け装置
21 ローラ電極
22 通電装置
23 材供給装置
24 レーザ照射装置
31 転動部
32 レーザビーム
s 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金の縁部を他の板金面にろう付けするろう付け方法であって、
板金の縁部と他の板金の何れか一方にローラ電極を押し付けつつ、前記ローラ電極を板金の縁部に沿って転がし、前記板金の縁部と他の板金を加圧接触させながら前記ローラ電極を通してろう付けする両板金間に通電し、前記板金の縁部と他の板金を発熱させる予熱工程と、
前記予熱工程で発熱した板金の縁部にろう材を供給するとともに、レーザビームを当ててろう材を溶かして板金の縁部をろう付けするレーザろう付け工程とを備えたレーザろう付け方法。
【請求項2】
板金の縁部を他の板金面にろう付けするろう付け装置であって、
ローラ電極と、前記ローラ電極と他の板金の間に通電する通電装置と、板金の縁部にろう材を供給するろう材供給装置と、板金の縁部にろう材が供給された部位にレーザを照射するレーザ照射装置とを備えたレーザろう付け装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−237214(P2007−237214A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61552(P2006−61552)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】