説明

レーザチャンバ

【課題】
筐体の材質がポリエーテルイミドであることにより、紫外線に強い筐体を備えたレーザチャンバを提供する。
【解決手段】
筐体11と、前記筐体11の内部に設けられ、光を発するフラッシュランプ12と、前記筐体11の壁面内部に設けられ、前記フラッシュランプ12を点灯するトリガ電圧を印加するトリガ電極13と、前記筐体11の内部に設けられ、前記フラッシュランプ12の発光によって励起され、光を放出するレーザ媒質14と、を含んで構成され、前記筐体11の材質は、ポリエーテルイミドとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を発生させるためのレーザチャンバに関し、詳しくは、筐体の材質がポリエーテルイミドであることにより、紫外線に強い筐体を備えたレーザチャンバに係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレーザチャンバは、筐体と、Nd:YAGロッド部と、レーザ励起用のフラッシュランプ部とを含んで構成され、前記筐体の材質は、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(以下「PEEK」という。)であった(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−136478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来のレーザチャンバにおいては、フラッシュランプ部が光を発する際に生じる紫外線により、PEEK製の筐体の内壁が腐食し、筐体の機械的強度や絶縁破壊強度を低下させるおそれがあった。
【0005】
そこで、このような問題点に対処し、本発明が解決しようとする課題は、紫外線に強い筐体を備えたレーザチャンバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明によるレーザチャンバは、筐体と、前記筐体の内部に設けられ、光を発するフラッシュランプと、前記筐体の壁面内部に設けられ、前記フラッシュランプを点灯するトリガ電圧を印加するトリガ電極と、前記筐体の内部に設けられ、前記フラッシュランプの発光によって励起され、光を放出するレーザ媒質と、を含んで構成され、前記筐体の材質は、ポリエーテルイミドである。
【0007】
また、前記筐体は、不透明とされたものである。
【0008】
さらに、前記筐体は、黒色とされたものである。
【0009】
またさらに、前記筐体は、顔料により黒色とされたものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明によれば、筐体は、その材質がポリエーテルイミド(以下「PEI」という。)であるため、PEEK製のものに比べ、紫外線に強く腐食し難い。したがって、レーザ光を発生させる際に、フラッシュランプから生じた紫外線が筐体の内壁に照射された場合でも、内壁が腐食し難いので薄くなり難く、筐体の機械的強度が低下することを抑制することができる。また、筐体内壁が薄くなり難いことにより、絶縁破壊強度の低下を抑制することができる。さらに、PEIは、PEEKと比べ、高い絶縁破壊強度を有するため、フラッシュランプを点灯するトリガ電圧による筐体の絶縁破壊が生じ難い。したがって、筐体外部に放電が行われることを防ぎ、トリガノイズを抑制することができる。またさらに、PEIは、PEEKと比べ、体積固有抵抗が小さいため、筐体壁面内部のトリガ電極から筐体内部のフラッシュランプへトリガ電圧を容易に印加することができる。そして、PEIは、PEEKと比べ、安価であるため、筐体を安価に製造することができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明によれば、筐体は、不透明とされるため、筐体内部からの光や熱の漏洩を抑制することができる。
【0012】
さらに、請求項3に係る発明によれば、筐体は、黒色とされるため、筐体内部からの光や熱の漏洩をより抑制することができる。
【0013】
またさらに、請求項4に係る発明によれば、筐体は、顔料により黒色とされるため、カーボンファイバーで着色する場合に比べ、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるレーザチャンバを備えたレーザ発振器を示す概略図である。
【図2】図1のレーザチャンバを一部分解して示す斜視図である。
【図3】PEIとPEEKの物性を対比して示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明によるレーザチャンバを備えたレーザ発振器を示す概略図である。このレーザ発振器は、レーザ光を発生させるためのものであり、本発明によるレーザチャンバ1と、レーザチャンバ1の前方(図1における右側)に設けられた前部ミラー2aと、レーザチャンバ1の後方(図1における左側)に設けられた後部ミラー2bとから構成される。
【0016】
前記レーザチャンバ1は、筐体11と、フラッシュランプ12と、トリガ電極13と、レーザ媒質14とを含んで構成される。前記筐体11は、フラッシュランプ12とレーザ媒質14とを内部に収容する熱可塑性樹脂製の容器であり、中心軸に沿って上下に2分割されて、第1筐体11aと第2筐体11bと蓋体11cが分解組立可能に組み合わされている。第1筐体11aの上側の壁面部材にはトリガ電極13を収容するための凹部15が設けられ、トリガ電極13が収容された状態で、筐体11と同材質製の蓋体11cが上側から取付けられる。第1筐体11aの前後方向のそれぞれの壁面部材の一部には、フラッシュランプ12の点灯を維持するためのランプ電極12aを通す開口部16aが設けられている。また、第2筐体11bの前後方向のそれぞれの壁面部材の一部には、レーザ媒質14から放出される光を通過させるための開口部16bが設けられている。
【0017】
図2に示すように、筐体11の形状は略直方体であり、第1筐体11aに設けられた前記凹部15の平面視形状は略長方形である。なお、筐体11の形状は、立方体や円柱状としてもよく、第1筐体11aに設けられた凹部15の平面視形状は、楕円形や多角形としてもよい。
【0018】
図1に示すように、筐体11の内部には、フラッシュランプ12が、第1筐体11aに着脱可能に設けられている。このフラッシュランプ12は、レーザ媒質14を励起するための光を発するもので、例えば、約320〜380nmの波長の紫外線を放出するキセノンフラッシュランプが使用される。フラッシュランプ12の両端には、トリガ電圧の印加によりこのフラッシュランプ12が点灯した状態を維持するためのランプ電極12aが接続されている。このランプ電極12aは、第1筐体11aの壁面部材に設けられた開口部16aを通って筐体11外部に設けられた電源に接続されている。なお、フラッシュランプ12は、上記キセノンフラッシュランプに限られず、レーザ媒質14を励起可能なランプであれば他のランプの中から選択することができる。
【0019】
第1筐体11aの上側の壁面部材に設けられた凹部15の底にはトリガ電極13が設けられている。このトリガ電極13は、フラッシュランプ12にトリガ電圧を印加するもので、トリガ電圧を印加することによりフラッシュランプ12内でアーク放電を生じさせ、フラッシュランプ12を点灯させるようになっている。図2に示すように、このトリガ電極13の平面視形状は、第1筐体11aに設けられた凹部15の平面視形状と同様の略長方形である。トリガ電極13の平面視形状は、第1筐体11aに設けられた凹部15に収容可能であれば他の形状としてもよい。なお、このトリガ電極13は、第1筐体11aの壁面部材の内部に埋め込んで設けられてもよい。
【0020】
図1に示すように、筐体11の内部には、フラッシュランプ12と平行に、レーザ媒質14が設けられている。このレーザ媒質14は、フラッシュランプ12の発光によって励起されて光を放出するものであって、第2筐体11bに着脱可能に設けられている。レーザ媒質14としては、例えば、波長が1064nmの光を発生させるネオジウム添加YAG(Nd:YAG)が使用される。
【0021】
レーザ媒質14から放出された光は、第2筐体11bの前後に設けられた前部ミラー2a及び後部ミラー2bにより増幅される。前部ミラー2aは、第2筐体11bの前方、すなわちレーザ光の放出される側に設けられ、後部ミラー2bは、第2筐体11bの後方、すなわち第2筐体11bを挟んで前部ミラー2aの反対側に設けられる。前部ミラー2aと後部ミラー2bとは、それぞれレーザ媒質14から放出される光の光軸上に設けられ、レーザ媒質14から放出された光を互いの間で反射させる。前部ミラー2aはハーフミラーであり、前部ミラー2aと後部ミラー2bとの間で増幅された光の一部が、前部ミラー2aからレーザ光として放出される。
【0022】
ここで、本発明においては、前記筐体11の材質は耐熱性や難燃性に優れ、PEEKと比べ紫外線に強い非晶性の熱可塑性樹脂であるPEIである。PEIは、PEEKと比べ安価であるため、PEI製の筐体11はPEEK製の筐体と比べ、安価に製造することができる。また、図3に示すように、PEIはPEEKと同様、特性としては、レーザチャンバ1の筐体11として適した機械的特性及び熱的特性を有している。さらに、電気的特性におけるPEIの絶縁破壊強度は、33KV/mmであり、PEEKよりも高い。さらに、PEIの体積固有抵抗は、1015Ω・cmであり、PEEKよりも低い。
【0023】
また、筐体11は、不透明とされるため、筐体11内部からの光や熱の漏洩を抑制することができる。さらに、筐体11は、黒色とされるため、筐体11内部からの光や熱の漏洩をより抑制することができる。またさらに、筐体11は、顔料により黒色とされるため、PEIを例えばカーボンファイバーにより着色する場合に比べ、安価に製造することができる。
【0024】
次に、このように構成されたレーザ発振器の動作について、図1,3を参照して説明する。このレーザ発振器によってレーザ光を発生させる際には、図1において、まず、トリガ電極13により、フラッシュランプ12に、例えば、20kVのトリガ電圧を印加する。この際、図3に示すように、PEI製の筐体11の体積固有抵抗はPEEK製のものと比べて小さいため、筐体11の壁面部材の凹部15に設けられたトリガ電極13からフラッシュランプ12へ、トリガ電圧を容易に印加することができる。また、PEI製の筐体11の絶縁破壊強度は、PEEK製のものと比べて高いため、トリガ電圧による筐体11の絶縁破壊が生じ難い。したがって、筐体11外部に放電が行われることを防ぐことができ、PEEK製の筐体と比べ、トリガノイズを抑制することができる。
【0025】
次に、フラッシュランプ12は、トリガ電圧を印加されるとアーク放電を生じて点灯する。フラッシュランプ12がキセノンフラッシュランプである場合、約320〜380nmの波長の紫外線を発する。この際、PEI製の筐体11は、紫外線に強く腐食し難いので、フラッシュランプ12から生じた紫外線を照射されても、腐食により内壁が薄くなり難く、筐体11の機械的強度が低下することを抑制することができる。また、筐体11の内壁が薄くなり難いことにより、絶縁破壊強度の低下を抑制することができる。
【0026】
前記フラッシュランプ12が点灯すると、フラッシュランプ12から発せられた光により、レーザ媒質14が励起され、光を放出する。放出された光は、第2筐体11bの開口部16bを通って前部ミラー2aと後部ミラー2bとの間で反射され、反射されるたびにレーザ媒質14内で誘導放出を生じることにより増幅される。そして、増幅された光の一部がハーフミラーとなっている前部ミラー2aを通過して、レーザ光として放出される。
【符号の説明】
【0027】
1…レーザチャンバ
11…筐体
11a…第1筐体
11b…第2筐体
11c…蓋体
16a…第1筐体の開口部
16b…第2筐体の開口部
12…フラッシュランプ
12a…ランプ電極
13…トリガ電極
14…レーザ媒質
15…凹部
2a…前部ミラー
2b…後部ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体の内部に設けられ、光を発するフラッシュランプと、
前記筐体の壁面内部に設けられ、前記フラッシュランプを点灯するトリガ電圧を印加するトリガ電極と、
前記筐体の内部に設けられ、前記フラッシュランプの発光によって励起され、光を放出するレーザ媒質と、を含んで構成され、
前記筐体の材質は、ポリエーテルイミドであることを特徴とするレーザチャンバ。
【請求項2】
前記筐体は、不透明とされたことを特徴とする請求項1に記載のレーザチャンバ。
【請求項3】
前記筐体は、黒色とされたことを特徴とする請求項1又は2に記載のレーザチャンバ。
【請求項4】
前記筐体は、顔料により黒色とされたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザチャンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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