説明

レーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物

【課題】 導電性及び耐衝撃性を有し且つ発色性に優れたレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 レーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物は、(A)ポリアミド系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選択された熱可塑性樹脂(A1)5〜95重量%と、エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)5〜95重量%とからなり、且つスチレン系のエラストマー又は樹脂の含有量が80重量%以下である樹脂、(B)黒色顔料、及び(C)導電性フィラーを含有する。前記黒色顔料(B)の含有量は、樹脂(A)100重量部に対して例えば0.005〜5重量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光線の照射によりマーキングが可能な熱可塑性樹脂組成物、特に、導電性を有し、マーキング部の発色性に優れたレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物に関する。本発明は、また、前記レーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物で構成されたレーザーマーキング可能な成形体、該成形体にレーザー光線を照射してマーキングを施すマーキング方法、及び前記成形体にレーザー光線を照射して得られるマーク形成成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性フィラー等を含む導電性材料からなる成形体は、電磁波シールド、静電除去、帯電防止の用途で用いられている。そのなかでも外装材は、落下衝撃等の力学物性と、塗装、めっき、印刷、レーザーマーキングといった意匠に関する2次加工特性が必要とされる。中でもレーザーマーキングは加工が容易ではあるが、単純に樹脂にレーザーマーキングを施すだけでは鮮明に発色できない。
【0003】
特開2004−143220号公報には、表面に表示部を形成するための導電性樹脂部材において、導電性を付与するための金属フィラー又はカーボン繊維と、レーザー照射により上記表示部を形成するための特定量のカーボン粒子を含有する導電性樹脂部材が開示されている。この方法によれば、レーザー光線の照射により照射部が白色に発色して、表面に所望の表示がなされた導電性部材を得ることができる。
【0004】
しかしながら、上記の方法では表示部の発色性、鮮明性の点で必ずしも充分とは言えず、より発色性、鮮明性に優れた導電性材料が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開2004−143220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、導電性、耐衝撃性を有し且つ発色性に優れたレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物、該樹脂組成物で構成されたレーザーマーキング可能な成形体、該成形体にマーキングを施す方法、及び該成形体にマーキングが施されたマーク形成成形体を提供することにある。
本発明の他の目的は、さらに、鮮明な文字や画像を形成できるレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物、該樹脂組成物で構成されたレーザーマーキング可能な成形体、該成形体にマーキングを施す方法、及び該成形体にマーキングが施されたマーク形成成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定組成の樹脂と黒色顔料と導電性フィラーとを含む熱可塑性樹脂組成物によれば、発色性が著しく向上することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、(A)ポリアミド系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選択された熱可塑性樹脂(A1)5〜95重量%と、エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)5〜95重量%とからなり、且つスチレン系のエラストマー又は樹脂の含有量が80重量%以下である樹脂、(B)黒色顔料、及び(C)導電性フィラーを含有するレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0009】
前記黒色顔料(B)の含有量は、樹脂(A)100重量部に対して0.005〜5重量部程度が好ましい。前記熱可塑性樹脂組成物は、さらに、白色顔料を含んでいてもよい。この場合、樹脂(A)100重量部に対する黒色顔料の使用量をX重量部、白色顔料の使用量をY重量部とした時、X+Yが0.01〜6の範囲であり、X−Yが−1.5〜1.5の範囲であるのが好ましい。
【0010】
前記導電性フィラー(C)の含有量は、樹脂(A)100重量部に対して3〜30重量部程度が好ましい。導電性フィラー(C)としては、炭素繊維が好ましい。
【0011】
本発明は、また、前記レーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物で構成されたレーザーマーキング可能な成形体を提供する。この成形体の体積固有抵抗値は1.0×10-4〜1.0×106(Ω・m)の範囲が好ましい。
【0012】
本発明は、さらに、前記成形体にレーザー光線を照射してマーキングを施すマーキング方法を提供する。本発明は、さらにまた、前記成形体にレーザー光線の照射によりマーキングが施されたマーク形成成形体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物で構成された成形体に、レーザーマーキングを施した製品は、導電性及び耐衝撃性を有するとともに白色発色性に優れる。また、文字等の鮮明性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[樹脂A]
樹脂(A)は、ポリアミド系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選択された熱可塑性樹脂(A1)5〜95重量%と、エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)5〜95重量%とからなり、且つスチレン系のエラストマー又は樹脂の含有量が80重量%以下である。
【0015】
熱可塑性樹脂(A1)におけるポリアミド系樹脂には、ジアミン、ジカルボン酸、アミノカルボン酸、ラクタムをモノマー成分として縮合させて得られる広範囲のポリアミド(脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、芳香族ポリアミド等)が含まれる。ポリアミドには共重合ポリアミド、複数のポリアミドの混合物も含まれる。モノマー成分は分岐又は環状構造を有していてもよく、二重結合や芳香族性基を有していてもよい。
【0016】
前記ジアミンとして、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルプロパンジアミン、3−メチルプロパンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカンジアミン、ドデカンジアミンなどの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジアミン;1,2−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,4−ジアミノベンゼンなどの芳香族ジアミン;イソホロンジアミン、2−アミノメチルピペリジン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの非芳香族性環式基(非芳香族性炭素環式基、非芳香族性複素環式基)を有するジアミンなどが挙げられる。
【0017】
前記ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などの非芳香族性環式基(非芳香族性炭素環式基、非芳香族性複素環式基)を有するジカルボン酸などが挙げられる。
【0018】
前記アミノカルボン酸としては、例えば、6−アミノヘキサン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、4−ピペリジンカルボン酸、3−ピペリジンカルボン酸、2−ピペリジンカルボン酸などが挙げられる。また、前記ラクタムとしては、例えば、ε−カプロラクタム、ω−ラウリルラクタムなどがあげられる。
【0019】
このようなモノマー成分から形成されるポリアミドの代表的な例として、ポリアミド46、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド610、ポリアミド910、ポリアミド912、ポリアミド1212、ポリアミド1012、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12、これらの共重合体などが例示できる。これらのなかでも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12が特に好ましい。
【0020】
熱可塑性樹脂(A1)におけるポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどの炭素数2〜20程度のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体が挙げられる。該ポリオレフィンは、例えばジエン化合物から誘導される構成単位等、α−オレフィンから誘導される構成単位以外の構成単位を少量(例えば、0〜10重量%、好ましくは0〜5重量%)含んでいてもよい。代表的なポリオレフィン系樹脂には、例えば、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン[ホモポリマー、エチレンとのコポリマー(ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)]などが含まれる。これらのなかでも、ポリプロピレン、特にエチレンとのブロックコポリマーが好ましい。
【0021】
熱可塑性樹脂(A1)として、1種又は2種以上のポリアミド系樹脂と1種又は2種以上のポリオレフィン系樹脂とを併用することもできる。
【0022】
エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)におけるエラストマーとしては、例えば、天然ゴム(NR);イソプレンゴム(IR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、ウレタンゴム(U)、多硫化ゴム(T)、アクリルゴム(ACM、ANM)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロロヒドリンゴム(CO、ECO)、水素化ニトリルゴム(HSN)等の合成ゴム;スチレン系エラストマー(SBS、SIS、SEBS、SEPS)、ウレタン系エラストマー、エステル系エラストマー、フッ素ポリマー系エラストマー、アミド系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ブレンド系エラストマー(PPとEPR又はEPDMとのブレンド等)などの熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらのエラストマーは、例えば、極性基などが付与された変性体[エポキシ変性体、酸変性体(カルボキシ変性体、酸無水物基変性体等)、ヒドロキシ変性体、アミノ変性体、オキソ変性体等]、水添物であってもよい。エラストマーは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)におけるエラストマー成分含有樹脂としては、エラストマー成分を含有する樹脂であれば特に限定されない。前記エラストマー成分として、例えば、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリイソプレン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、イソブチレン−イソプレン共重合体、エチレン−プロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブチルゴムなどが挙げられる。これらの中でも、特にポリブタジエンが望ましい。エラストマー成分は、ブレンド法、共重合(グラフト共重合、ブロック共重合)などにより樹脂中に含有させることができる。エラストマー成分含有樹脂は、例えば、極性基などが付与された変性体[エポキシ変性体、酸変性体(カルボキシ変性体、酸無水物基変性体等)、ヒドロキシ変性体、アミノ変性体、オキソ変性体等]、水添物であってもよい。エラストマー成分含有樹脂は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
エラストマー成分含有樹脂の代表的な例として、例えば、ABS樹脂(ブレンド型、グラフト型、グラフトブレンド型)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、酸変性ABS樹脂、エチレン・プロピレンゴムを幹ポリマーとするアクリロニトリルとスチレンのグラフト共重合体、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステル(特にメタクリル酸メチル)とアクリロニトリルとスチレンとエラストマー成分(例えば、ポリブタジエン)からなる樹脂、この樹脂とスチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂))とのブレンドなどが挙げられる。
【0025】
前記(A2)として、1種又は2種以上のエラストマーと1種又は2種以上のエラストマー成分含有樹脂とを併用することもできる。前記(A2)として、特に、EPR、変性EPR(酸変性EPR等)、EPDM、変性EPDM(酸変性EPDM等)、ABS樹脂、変性ABS樹脂(酸変性ABS樹脂等)などが好ましい。
【0026】
樹脂(A)中のポリアミド系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選択された熱可塑性樹脂(A1)の総含有量は5〜95重量%であり、好ましくは20〜95重量%、さらに好ましくは30〜90重量%である。熱可塑性樹脂(A1)の含有量が5重量%未満では流動性が不足して成形できなくなり、一方95重量%を超えると耐衝撃強度が不十分となり、何れも好ましくない。樹脂(A)中のエラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)の総含有量は5〜95重量%であり、好ましくは5〜80重量%、さらに好ましくは10〜70重量%程度である。(A2)の含有量が5重量%未満では耐衝撃強度が不十分となり、一方95重量%を超えると流動性が不足して成形できなくなり、何れも好ましくない。なお、本発明において、熱可塑性樹脂組成物で構成された成形体の耐衝撃強度[シャルピー衝撃強度(切削)]は、好ましくは5kJ/m2以上、より好ましくは10kJ/m2以上、さらに好ましくは20kJ/m2以上である。耐衝撃強度が5kJ/m2未満であると、落下や衝突等で衝撃を受けた場合に成形品が破損する可能性があり好ましくない。
【0027】
樹脂(A)中のスチレン系のエラストマー又は樹脂の総含有量は80重量%以下であり、好ましくは70重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。前記スチレン系のエラストマー又は樹脂とは、スチレン系化合物(スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等)に対応するモノマー単位(繰り返し単位)を主モノマー単位として含む(例えば20重量%以上含む)エラストマー又は樹脂を意味し、例えば、前記スチレン系エラストマー(SBS、SIS、SEBS、SEPS)、ABS樹脂(ブレンド型、グラフト型、グラフトブレンド型)、α−メチルスチレン変性ABS樹脂、イミド変性ABS樹脂、酸変性ABS樹脂、(メタ)アクリル酸C1-18アルキルエステルとアクリロニトリルとスチレンとエラストマー成分(例えば、ポリブタジエン)からなる樹脂、この樹脂とスチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂))とのブレンドなどが挙げられる。スチレン系のエラストマー又は樹脂の総含有量が80重量%を超えると、白色発色しにくくなり、黒っぽい色調となるため好ましくない。
【0028】
樹脂(A)は、ポリアミド系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選択された熱可塑性樹脂(A1)、エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)以外の樹脂を含んでいてもよい。このようなその他の樹脂の含有量は、例えば20重量%以下、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下であり、樹脂(A)としては、実質的に(A1)と(A2)のみで構成されていてもよい。
【0029】
黒色顔料(B)はレーザー光線(例えば、波長354nm〜1064nm)を吸収し、熱エネルギーに変換して、樹脂を発泡又はクレージングさせ、白色マーキングを発現させる作用をする。黒色顔料(B)としては、例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)、グラファイト、チタンブラック、黒色酸化鉄などが挙げられる。これらの中でも、分散性、発色性、コスト等の面からカーボンブラックが好ましい。黒色顔料は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0030】
黒色顔料の平均粒子径は、例えば10nm〜3μm、好ましくは10nm〜1μmの広い範囲から適宜選択できる。黒色顔料がカーボンブラックの場合には、平均粒子径は、例えば10〜90nm、好ましくは14〜90nm、さらに好ましくは17〜50nm程度である。黒色顔料の粒子径が小さすぎると、マーキングに要するエネルギーを多く必要とし、逆に大きすぎると機械的強度等の物性低下を引き起こしやすい。
【0031】
黒色顔料の使用量は、樹脂(A)100重量部に対して、例えば0.005〜5重量部、好ましくは0.01〜2.5重量部、さらに好ましくは0.05〜0.8重量部程度である。黒色顔料の量が少なすぎると、レーザー光線の熱への変換効率が低下してマーキングが薄くなりやすく、逆に多すぎると、熱を過度に吸収してマーキングされた文字や図柄が暗くなることがある。
【0032】
本発明のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物は黒色顔料以外の顔料(無機又は有機顔料)や染料を含んでいてもよい。非黒色顔料として、例えば、白色顔料(例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポンなど)、黄色顔料(例えば、カドミイエロー、黄鉛、チタンイエロー、ジンククロメート、黄土、黄色酸化鉄など)、赤色顔料(例えば、赤口顔料、アンバー、赤色酸化鉄、カドミウムレッド、鉛丹など)、青色顔料(例えば、紺青、群青、コバルトブルーなど)、緑色顔料(例えば、クロムグリーンなど)などが挙げられる。非黒色顔料は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
これらの中でも、安価であり、隠蔽力、分散性に優れ、極めて鮮明な白色マーキングを可能とする白色顔料(例えば、酸化チタン)が好ましい。白色顔料は、レーザー光線を散乱させ、前記黒色顔料によるレーザー光線の吸収効率及び熱への変換効率を高めるため、黒色顔料と白色顔料とを組み合わせて使用すると、白色度の非常に高い白色マーキングが得られる。また、白色顔料を用いることにより、発色の色のブレを抑制できるとともに、レーザー光線の照射エネルギーを低減することができる。さらに、白色顔料は導電性フィラー(C)(例えば、繊維の筋)を隠蔽する作用を有する。
【0034】
白色顔料の使用量は、樹脂(A)100重量部に対して、例えば3重量部以下(例えば、0.005〜3重量部)、好ましくは1.5重量部以下(例えば、0.01〜1.5重量部)、さらに好ましくは、0.05〜1.2重量部程度である。白色顔料の量が少なすぎると、レーザー光線の散乱効果が乏しくなり、逆に多すぎると、地の色が白っぽくなる。本発明では、樹脂(A)100重量部に対する黒色顔料の使用量をX重量部、白色顔料の使用量をY重量部とした時、X+Yが0.01〜6(特に0.05〜4)の範囲であり、X−Yが−1.5〜1.5(特に−1〜1)の範囲であるのが好ましい。
【0035】
黒色顔料、白色顔料、その他の顔料等を含めた色材の総量は、樹脂(A)100重量部に対して、一般に0.01〜6重量部、好ましくは0.05〜4重量部程度である。
【0036】
導電性フィラー(C)としては樹脂材料に導電性を付与できるものであればよく、例えば、炭素繊維;ステンレス、ニッケル、クロム、亜鉛、銅、アルミニウム、金、銀、マグネシウム、チタン、それらを組み合わせた合金、それらの表面処理物、金属酸化物、それらの組み合わせ等からなるフィラー(金属フィラー)などが挙げられる。これらのなかでも、安価な炭素繊維が好ましい。炭素繊維の太さ(径)は、例えば5〜30μm、好ましくは10〜20μmの範囲であり、炭素繊維の長さは10mm以下で、好ましくは50〜200μmである。
【0037】
導電性フィラー(C)の含有量は、樹脂(A)100重量部に対して、一般に3〜30重量部、好ましくは4〜15重量部程度である。導電性フィラー(C)の量が少なすぎると導電性が得られにくくなり、逆に多すぎると、コスト高となるだけでなく、発色の白色度が低下しやすくなり、また、例えば樹脂組成物を射出成形する際に樹脂組成物の粘度が高くなり詰まり等が起きやすくなる。本発明において、熱可塑性樹脂組成物で構成された成形体の体積固有抵抗値は、好ましくは1.0×10-4〜1.0×106(Ω・m)、より好ましくは1.0×10-4〜1.0×104(Ω・m)、さらに好ましくは1.0×10-4〜1.0×100(Ω・m)である。
【0038】
本発明のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、相溶化剤、難燃剤、充填剤、安定剤、滑剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0039】
本発明のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物は、前記各成分を、例えば、押出機、ニーダー、ミキサー、ロールなどを用いた慣用の混合方法で混合する(例えば、溶融混合する)ことにより調製できる。
【0040】
本発明のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物を、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形などの慣用の成形法に供することにより各種成形体を製造することができる。そして、これらの成形体にレーザー光線を照射することにより、表面に白色のマーキングが施されたマーク形成成形体が得られる。マーキングに用いるレーザーの種類は特に限定されず、ガスレーザー、半導体レーザー、エキシマレーザー、YAGレーザーなどの何れであってもよいが、YAGレーザーが最も好適に使用される。マーキングの種類は特に限定されず、文字、記号、図柄、絵、写真等の何れであってもよい。
【0041】
こうして得られるマーク形成成形体は、例えば、自動車の燃料タンクのキャップ、OA機器、自動車部品(ボタン部品等)、家庭用品、建築材料などに利用できる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0043】
実施例1〜25、比較例1〜9
表1〜2に記載されている各成分をブレンドし、押出加工によりペレットを作製した後、このペレットから射出成形により厚さ3mmのプレートを作製し、この表面にレーザー光線を照射して白色マーキング[10mm角のBOX(線間距離75μm)を描写]を施した。レーザーとしてNd:YAGレーザー(波長1064nm)を使用した。照射条件としては、アパチャーを径2mmに固定し、光源電流値(LC)、振動数(QS)及び印字スピード(SP)を下記の範囲で変化させ、最も明瞭な白色印字が得られる条件でマーキングを実施した。
光源電流値(LC):8〜20A
振動数(QS):1〜10kHz
印字スピード(SP):100〜1500nm/秒
【0044】
評価試験
(1)レーザーマーク特性
実施例及び比較例で得られた白色マーキングを施した各プレートについて、上記10mm角のBOXを目視観察して、以下の基準でレーザーマーク特性を評価した。結果を表1〜2に示す。
◎:極めて良好
○:良好
△:やや不良
×:不良
【0045】
(2)シャルピー衝撃強度(切削)
実施例及び比較例において押出加工で得られたペレットから射出成形により4mm厚のISOダンベルを作製し、ノッチングマシーンで両端を切り落とし、切削ノッチを施した。これをISO 179/1eAに準拠し、シャルピー衝撃強度(kJ/m2)を測定した。結果を表1〜2に示す。
【0046】
(3)体積固有抵抗値
実施例及び比較例において押出加工で得られたペレットから射出成形により厚さ3mmのプレートを作製し、低抵抗値の場合はJIS K7194、高抵抗値の場合はJIS K6911に準拠して、体積固有抵抗値(Ω・m)を測定した。結果を表1〜2に示す。
【0047】
[実施例及び比較例で使用した成分]
・熱可塑性樹脂(A1)
PA:ポリアミド6、商品名「UBEナイロン6 1013B」、宇部興産(株)製
PP:ポリプロピレン(ブロックコポリマー)、商品名「PM870W」、サンアロマー(株)製
・エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)
酸変性EPR:酸変性エチレン・プロピレンゴム、商品名「T7761P」、JSR(株)製
EPR:エチレン・プロピレンゴム、商品名「EP961SP」、JSR(株)製
ABS:ABS樹脂(スチレン45重量%、アクリロニトリル15重量%、ポリブタジエンゴム成分40重量%)
酸変性ABS(スチレン42重量%、アクリロニトリル16重量%、ポリブタジエンゴム成分40重量%、メタクリル酸2重量%)
・顔料
黒色顔料:カーボンブラック、商品名「カーボンA1−1000」、大日本インキ化学工業(株)製
白色顔料:酸化チタン、商品名「ホワイト−SHPA−764」、住化カラー(株)製
・導電性フィラー(C)
CF:炭素繊維、商品名「HTA−C6−UEL1」、東邦テナックス(株)製
SUS:ステンレス繊維マスターバッチ(ポリアミド6:60重量%、ステンレス繊維:40重量%、カット長6mm)、商品名「プラストロン−SF」、ダイセル化学工業(株)製
・その他
導電性CB:導電性カーボンブラックマスターバッチ(カーボンブラック:40重量%、ポリプロピレン系樹脂:60重量%)、商品名「P−1388MB」、東洋インキ製造(株)製
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選択された熱可塑性樹脂(A1)5〜95重量%と、エラストマー又はエラストマー成分含有樹脂(A2)5〜95重量%とからなり、且つスチレン系のエラストマー又は樹脂の含有量が80重量%以下である樹脂、(B)黒色顔料、及び(C)導電性フィラーを含有するレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
黒色顔料(B)の含有量が樹脂(A)100重量部に対して0.005〜5重量部である請求項1記載のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、白色顔料を含む請求項1又は2記載のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂(A)100重量部に対する黒色顔料の使用量をX重量部、白色顔料の使用量をY重量部とした時、X+Yが0.01〜6の範囲であり、X−Yが−1.5〜1.5の範囲である請求項3記載のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
導電性フィラー(C)の含有量が樹脂(A)100重量部に対して3〜30重量部である請求項1記載レーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
導電性フィラー(C)が炭素繊維である請求項1又は5記載のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかの項に記載のレーザーマーキング可能な熱可塑性樹脂組成物で構成されたレーザーマーキング可能な成形体。
【請求項8】
体積固有抵抗値が1.0×10-4〜1.0×106(Ω・m)である請求項7記載のレーザーマーキング可能な成形体。
【請求項9】
請求項7又は8記載の成形体にレーザー光線を照射してマーキングを施すマーキング方法。
【請求項10】
請求項7又は8記載の成形体にレーザー光線の照射によりマーキングが施されたマーク形成成形体。

【公開番号】特開2006−241254(P2006−241254A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56668(P2005−56668)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】