説明

レーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置

【課題】レーザーまたは磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置を提供する。
【解決手段】試料導入口が形成されており、試料導入口を介して試料と磁性ビーズを収容する細胞溶解チップ120と、細胞溶解チップ120を固定して所定方向に振動力を与える振動部130と、細胞溶解チップ120にレーザーを供給するレーザー発生部140と、振動部130及びレーザー発生部140の駆動を制御する制御部150とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置に関するもので、より詳細には、レーザーを用いて細胞またはウイルスを速かに溶解させてDNAを効果的に抽出できる携帯用レーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、特定病原菌の分子学的診断は4ステップ、すなわち細胞溶解、DNA分離、DNA増幅、及びDNA検出を含む。
【0003】
DNA増幅には、重合酵素連鎖反応(PCR)、リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction)、SDA(strand displacement amplification)法、核酸基材増幅、修復連鎖反応(repair chain reaction)、ヘリカーゼ連鎖反応、QB複製酵素増幅、及び連結が活性化された転写が含まれる。
【0004】
細胞からDNAを分離する方法は、DNAを結合する傾向を有する物質を用いて行う。DNAの分離のための物質の例は、シリカ、ガラスファイバ、陰イオン交換樹脂、及び磁性ビーズなどがある(非特許文献1、非特許文献2参照)。細胞溶解は通常、機械的、化学的、熱的、電気的、超音波、及びマイクロウェーブ方法で行う(非特許文献3参照)。
【0005】
化学的方法は、細胞を破壊してDNAを放出するために溶解剤を用いる。カオトロピック試薬を用いた細胞抽出物の付加的な処理ステップが、蛋白質を変性させるために必要である。化学的溶解方法の短所は、細胞を破壊するために粗い化学物質を用いることである。それらは、連続的に行うPCR反応を妨害しうるため、PCR反応前にDNAを精製することが不可避である。この化学的方法は、労働集約的であり、時間を必要とし、高価な消耗品を必要とし、時折DNA収率が低い問題点がある。また熱的方法は、引続いた凍結/融解サイクルが関与するが、時折細胞内の多くの構造物を破壊できない短所がある。
【0006】
加熱は、細胞壁または細胞膜を破壊する代替的な方法である。簡単な加熱の短所は、放出されたDNAに付着しうる蛋白質を変性させることである。それらは、DNA増幅を妨害しうる。物理的な方法は、その体積が大きくて、高価な圧力装置を利用するが、それはLOC(Lab−on−a−Chip)への適用に適さない。
【0007】
超音波処理は、代替的な物理的方法であり、一般的には超音波水槽に設けられたチャンバー内に細胞溶液または懸濁液を収納して行う。しかし、超音波破壊は、細胞溶解において多くの短所を有する。第一に、超音波のエネルギー分布は、均一でない。超音波エネルギーの不均一な分布は、また一貫性のない結果を招く。第二に、超音波水槽は容器にエネルギーを集中することができないため、細胞を完全に破壊させるためには、時折数分かかってしまう。最後に、超音波方法は、人間の耳に不快な音を感じさせる。
【0008】
レーザーは、細胞を破壊するのに多くの長所を有し、LOCに容易に適用できる(非特許文献4参照)。一方、特許文献1には、レーザー誘導された細胞溶解システムが開示されている。しかし、レーザーだけを用いたとき、細胞を効果的に溶解できない。透明度の高い溶液に大腸菌を入れて実験した結果、レーザーだけを照射した場合に、低い細胞溶解効率しか得られないことを確認した。また、150秒間レーザーを照射した後のDNA濃度は、3.77ng/μlであったが、95℃で5分間煮沸した後のDNA濃度は、6.15ng/μlであった。これは、レーザーエネルギーが効果的に細胞に伝達されていないためである。
【0009】
さらに、このような従来のレーザー細胞溶解システムは、サイズの大きいレーザー発生装置及び収斂レンズなどを備えるため、装備の製造コストが高く、携帯が不可能な問題点があった。これを改善するために低容量のレーザー発生装置を用いる技術が試みられたが、この場合も溶解対象細胞またはウイルスの反応面積に比べて光照射面積が小さいため、均一且つ効率的な細胞溶解ステップを行うことができない問題点が通常存在する。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/96429A1号明細書
【非特許文献1】Rudi,K.et al.,Biotechniqures 22,pp.506〜511(1997)
【非特許文献2】Deggerdal,A.et al.,Biotechniqures 22,pp.554〜557(1997)
【非特許文献3】Michael T.Taylor et al.,Anal.Chem.73,pp.492〜496(2001)
【非特許文献4】Huaina Li et al.,Anal.Chem.,73,pp.4625〜4631(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、前述の従来技術の問題点を解決するためになされた本発明は、安価のレーザーダイオードを用いた細胞破壊技術を活用し、携帯が可能な小型のレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置を提供することにその目的がある。
【0011】
本発明の他の目的は、細胞溶解チップをレーザー光の照射方向と垂直に振動するようにするホルダー構造を備えることによって、別途に拡散レンズなどを使用しなくても低容量のレーザーを活用して広い光照射面積を確保することができるレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置を提供することにある。
【0012】
本発明のもう一つの目的は、レーザーと磁性ビーズを共に用いて振動させることによって、細胞またはウイルスを迅速且つ効率的に破壊できるレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するための本発明に係るレーザーまたは磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置は、レーザーまたは磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置において、試料導入口が形成されていて、前記試料導入口を介して試料と前記磁性ビーズを収容する細胞溶解チップと、前記細胞溶解チップを固定して所定方向に振動力を与える振動部と、前記細胞溶解チップにレーザーを供給するレーザー発生部と、前記振動部及びレーザー発生部の駆動を制御する制御部と、を含むことを特徴とする。
【0014】
ここで、前記振動部は、振動モーターと、前記振動モーターを内設し、前記細胞溶解チップを固定して振動力を伝達するホルダーと、前記ホルダーを前記振動部に移動可能に連結するシャフトと、及び前記シャフトに外嵌されて前記ホルダーの動きを弾性力で制限するスプリングと、を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記振動モーターの振動方向はレーザーの照射方向と垂直であることが好ましい。
【0016】
また、前記レーザー発生部は光源としてレーザーダイオード(LD)を含むことが好ましい。
【0017】
また、前記レーザーダイオードから供給されるレーザーは垂直方向と水平方向との発散角度が相異なることが好ましい。
【0018】
また、前記レーザー発生部はレーザー稼動により発生した熱を吸収して分散させるヒートシンクを含むことが好ましい。
【0019】
また、前記レーザー発生部はレーザー稼動により発生する温度を検知し、検知した温度データを前記制御部に伝達する温度センサーを含むことが好ましい。
【0020】
また、前記レーザー発生部の一側には前記制御部により稼動されて装置内部から発生した熱を空冷させる冷却ファンが設けられることが好ましい。
【0021】
また、前記細胞溶解チップは、上方に開口した反応チャンバーが中央部に形成されたチップボディー部と、前記チップボディー部の上面に付着して前記反応チャンバーの上部を密閉させ、前記反応チャンバー内にレーザーが貫通するようにし、前記反応チャンバーに向かって貫通するように試料導入口及び導出口が形成されたチップカバー部と、を含むことが好ましい。
【0022】
また、前記反応チャンバーは前記レーザー供給部により供給されるレーザーの照射面積より広いことが好ましい。
【0023】
また、前記制御部は前記レーザーダイオード及び前記駆動モーターを指定時間の間稼動させるタイマーを含むことが好ましい。
【0024】
また、前記レーザー稼動に必要とする各種因数値を格納して前記制御部に印加する補助メモリをさらに含むことが好ましい。
【0025】
また、前記補助メモリはEEPROM、UVEPROM、及びフラッシュメモリのうちいずれかであることが好ましい。
【0026】
さらに、前記振動部及びレーザー発生部の駆動電源としてバッテリーをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置によれば、安価のレーザーダイオードを用いて小型化が可能であり、バッテリーだけで駆動できる独立システムを構築することによって、携帯が可能である。
【0028】
また、本発明によれば、細胞溶解チップをレーザー光の照射方向と垂直に振動するようにするホルダー構造を備えるので、別の拡散レンズなどを使用しなくても低容量のレーザーを活用して広い光照射面積を確保して細胞溶解効率が増大できる。
【0029】
さらに、本発明によれば、レーザーと磁性ビーズを共に用いて振動させることによって、細胞またはウイルスを迅速且つ効率的に破壊できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0031】
図1Aは本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置の外形を示した斜視図であり、図1Bは振動部を開放した状態の外形を示した斜視図である。図2は図1Aに示したレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置の内部構成を示した斜視図である。
【0032】
図1Aないし図2を参照すると、本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置100は、試料と磁性ビーズを収容する細胞溶解チップ120と、本体110から開放可能なようにヒンジにより本体に結合され、細胞溶解チップ120を固定して所定方向に振動力を与える振動部130と、細胞溶解チップ120にレーザーを供給するレーザー発生部140、及び振動部130とレーザー発生部140の駆動を制御する制御部150を含んでなる。
【0033】
レーザー発生部140は、光源として使われるレーザーダイオード(laser diode:LD)141と、レーザー稼動により発生した熱を吸収して分散させるヒートシンク142と、ヒートシンク142の一側に付着してレーザー稼動により加熱された温度を検知する温度センサー143とを含む。
【0034】
レーザー発生部140の一側には装置内部から発生した熱を空冷させる冷却ファン160が設けられ、振動部130の下段には装置に電力を供給する駆動電源170が入替え可能に装着される。ここで、駆動電源はバッテリーの形態であることが好ましい。
【0035】
本体110の上面部には装置の駆動に必要なスイッチ110aが設けられ、前面部には装置の駆動状態を表示するLEDランプ110bが装着される。
【0036】
このような一連の構成によって、本発明は独立駆動及び携帯が可能な細胞またはウイルス破壊装置を具現するようになる。
【0037】
図3Aは本発明の一実施形態に係る細胞溶解チップの構成を示した斜視図であり、図3Bはそれについての実際の平面写真である。
【0038】
図3A及び図3Bを参照すると、本発明の一実施形態に係る細胞溶解チップ120は、上方に開口した反応チャンバー121aが中央部に形成されたチップボディー部121と、チップボディー部121の上部に付着して反応チャンバー121aの上部を密閉させ、反応チャンバー121aに向かって貫通するように試料導入口122a及び導出口122bが形成されたチップカバー部122を含んでなる。
【0039】
チップボディー部121の材質は、ガラス、重合体、シリコンを含むことができ、好ましくは、100℃以上で耐えることができるシリコンウエハーを用いて作ることが良い。チップボディー部121の内部はチャンバー121aの気泡発生を抑制するためにシグマコート(Sigmacoat(登録商標))によりコーティングすることによって、疏水性の条件を満たすことが好ましい。
【0040】
チップカバー部122はチップボディー部121の上面に付着して反応チャンバー121aの上部を密閉させ、試料導入口122a及び導出口122bが反応チャンバー121aに向かって貫通するように形成される。チップカバー部122はチップ内にレーザーが通過できるように透過率90%以上の材質が適合し、ガラス、重合体、インジウムスズ酸化物(ITO)ガラスを含むことが良い。条件に最も適合したガラスとしては、ホウケイ酸ガラス(Pyrex 7740(登録商標))を用いることが好ましい。レーザーの透過率を増加させるためには、チップカバー部122にレーザーの反射防止コーティングを施すことが好ましい。
【0041】
このような構成の細胞溶解チップ120には、試料導入口122aを介して試料と磁性ビーズ(不図示)が混ざり合って投入される。
【0042】
磁性ビーズはレーザー光を吸収して熱及び運動エネルギーを細胞に伝達する。レーザーにより加熱された磁性ビーズは、間接的には水溶液の温度を上げ、直接的には加熱された高温の磁性ビーズが細胞と直接接触しながら細胞表面を破壊する。
【0043】
磁性ビーズの大きさは50nmないし1,000μmであることが好ましく、より好ましくは1μmないし50μmである。これは、磁性ビーズの大きさが50nm未満では物理的及び機械的な強度が不十分であるため衝撃に弱い問題があり、1,000μmを超えればLOCに効果的な大きさの制限の問題が生じるためである。磁性ビーズは磁性を帯びるものならば、いかなるものでも用いることができ、特に、強磁性を帯びるFe、Ni、Crなどの金属、及びそれらの酸化物からなる群より選択される1つ以上の物質を含むことが好ましい。磁性ビーズの表面は重合体、有機物質、ケイ素、またはガラスに強磁性を帯びる金属でコーティングすることができ、その表面は、DNAが付着していないように負電荷を帯びる構造であることが好ましい。これは、連続的な精製工程のためにも好ましい。
【0044】
前述した構成の細胞溶解チップ120は振動部130により固定されてレーザーの照射方向と垂直に振動力の伝達を受けるようになる。
【0045】
図4は本発明の一実施形態に係る振動部の構成を示した斜視図である。
【0046】
本発明の一実施形態に係る振動部130は、図4に示したように、振動モーター131と、振動モーター131を内設し、細胞溶解チップ120を固定して振動力を伝達するホルダー132と、ホルダー132を外部フレーム135に対して移動可能に連結するシャフト133と、シャフト133に外嵌されてホルダー132の動きを弾性力で制限するスプリング134を含む。
【0047】
振動モーター131はレーザーの照射方向と垂直をなして振動し、その振動力はシャフト133に外嵌されたスプリング134の弾性力で制限する。それによって、振動モーター131の上段に載置したチップをシャフト133の軸方向に直線往復運動させる。この時、振幅は振動モーター131の駆動電圧とスプリング134のスプリング定数により定められる。
【0048】
ホルダー132の一側にはチップ吐出ピン132aが垂直に挿設される。これは反応の完了後、ホルダー132の上面に載置したチップを効率的に除去するために使用するもので、指で押圧して反対側(チップ載置面)に突出させる。それによって、ホルダー132とチップを離間させることができる。
【0049】
レーザーはシャフト133の軸方向と垂直に細胞溶解チップ120上に照射され、前述した細胞溶解チップ120の往復運動によりレーザー光は反応チャンバー121aに受容された試料に広く均一に照射される。また、細胞溶解チップ120に伝えられた振動は反応チャンバー121a内部の試料と磁性ビーズを効率的に混ぜる役割を担うと共に、レーザーに露出しない部位の細胞などを中央の照射部位に移動させる機能を有する。
【0050】
このような構成の振動部130はヒンジにより本体110に結合され、細胞溶解チップ120の入替えのために本体110から回転して開放することができ(図1B参照)、細胞の溶解過程を行う時には閉鎖して、フック136と板スプリング137により本体110に固設される。これは振動によりレーザーの稼動中に振動部130が任意に開放することを阻止するためである。一方、このような振動部130の開閉過程は、内部の駆動手段により自動で行うことができる。
【0051】
図5は本発明の一実施形態に係る細胞溶解チップにレーザーが照射される状態を示した図面であり、図6は本発明の一実施形態に係るレーザーダイオードから供給されるレーザーの指向性をレーザーの出力による照射角で示したグラフであり、図7は図6のレーザーの照射距離によるビームプロファイルを示した写真である。
【0052】
本発明の一実施形態に用いるレーザーの出力は、細胞を破壊するのに十分なエネルギーを伝達するため、連続波動(CW)方式の場合100mW以上、パルス方式の場合、3mJ/パルス以上のエネルギーを伝達しなければならない。ところが、このような条件を満たすと共にバッテリーにより具現できる小型の細胞破壊装置を具現するために、本発明の一実施形態に係るレーザーダイオード141は、約1W級のレーザーの出力を有することが好ましい。
【0053】
レーザーダイオード141は、図5に示したように、ホルダー132の上部に載置した細胞溶解チップ120を所定距離をおいて照射することによって、細胞またはウイルスを破壊できる出力の光エネルギーを伝達するようになる。この時、レーザーダイオード141から転写されるレーザーは両軸に相異なる発散角度を有することが好ましい。これはチャンネル状の反応チャンバー121aに照射される面積を最大に確保するためである。
【0054】
本発明の一実施形態に適合したレーザーダイオード141の照射特性は、図6の指向性グラフから確認することができる。すなわち、レーザーダイオード141の照射特性は、FWHM(Full Width at Half Maximum)基準のレーザーパワーにおいて、水平方向には8°、垂直方向には32°の転写角度を有する。
【0055】
FWHM基準のレーザーパワーにおいて、レーザーダイオード141の実際照射距離による照射面積の相対的比較は、図7のビームプロファイルから確認することができる。図7を参照すれば、本発明の一実施形態における実験値で採択した6mmの照射距離では、2.89mmの照射面積を有するようになって、15mm広さの反応チャンバー121aを備えた細胞溶解チップ120を採択する場合、約19%程度の直接照射面積を確保するようになる。
【0056】
この時、前述した原理でホルダー132を振動させて細胞溶解チップ120の移動距離を±0.8mmに調節すると、レーザー光が照射される面積は15mm広さの反応チャンバー121aの約56%をカバーするようになる。それによって、振動のない場合に比べて、約3倍程度照射面積が増加する効果が得られる。
【0057】
以下、図8のブロック図を参照して本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置の作動を詳細に説明する。
【0058】
制御部150は所定の入力手段によりレーザーダイオード141と振動モーター131及び冷却ファン160を指定時間の間に動作させるようにプログラムされ、スイッチ110aから入力される信号に基づいてプログラムを実行する。このためにレーザーダイオード141及び振動モーター131を指定時間の間稼動させることができるタイマー(不図示)を内設することが好ましい。
【0059】
制御部150から電流制御信号が送出されると、駆動電源170を介して電流が供給されるようになって、設定した光量分レーザーダイオード141からレーザーが転写されるようになる。ヒートシンク142はレーザーの駆動により上昇する熱を吸収・分散して低減させる。ヒートシンク142の一側に付着された温度センサー143は発熱による上昇温度を測定し、当該温度値はA/Dコンバーター190によりデジタル信号に変換して制御部150に送出する。
【0060】
それと同時に、レーザーダイオード141に流れる電流や電圧値は、A/Dコンバーター190によりデジタル信号に変換して制御部150に送出する。
【0061】
制御部150においては、モニター信号で入力したレーザーダイオード141の電流や電圧値を初期設定値と比較して、レーザーダイオード141が所定時間の間に一定光量を維持するように制御すると共に、入力された温度データに基づいて冷却ファン160を駆動する。この時、設定した所定の温度限界値を超過する場合は、レーザー光量を非常制御するようになる。また、制御部150においては、設定値により振動モーターの作動や振幅を制御する。
【0062】
一方、制御部150は別の補助メモリ180を備えるので、電源オフの状態などであっても設定値や測定値などを格納することができる。この時、補助メモリ180はプログラミング可能な読み出し専用メモリとして、コスト節減や簡便性の面においては、電気的信号で消去可能なEEPROM(Electrically Erasable PROM)を使用することが好ましい。また、UVEPROMやフラッシュメモリを使用することも可能である。
【0063】
装置を作動させるために必要とする各種の因数値はコンピュータから有線または無線通信網を通じて入力され、補助メモリ180、好ましくはEEPROMに格納されて電源オフの状態においても、その値を維持することができる。それによって、コンピュータとの連結が切れた後にも独立的な駆動が可能になる。
【0064】
一方、冷却ファン160の駆動条件は、前述したようにヒートシンク142の温度値に基づいて駆動を制御することができるが、駆動条件を任意に変更してスイッチングにより常に駆動したり、レーザーの動作時にだけ駆動したりすることも可能である。
【0065】
[実験例1]
レーザーによる細胞溶解効率
本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置100による細胞溶解効率を調べるために、グラム陰性細菌である大腸菌(E.coli)を濃度別(2×10、2×10、2×10、2×10細胞/μl)に分類してPCR分析を施した。レーザーパワーは0.8W、レーザー照射時間は40秒であり、照射距離は6mmである。投入した磁性ビーズの濃度は10beads/μlであり、ビードサイズは1μmである。対照群のうちコントロールは、大腸菌細胞を13,200rpmで5分間遠心分離後、上清液だけを選別してPCRしたものであり、ボイリングは大腸菌細胞を95°Cで、5分間煮沸した後に放出されたDNAを用いてPCRしたものである。
【0066】
図9は前述の条件下で溶解した大腸菌(E.coli)から放出されたDNAを濃度別にPCR分析した結果を示したグラフであり、図10は図9の結果をコントロール状態とボイリング状態におけるPCR分析結果を比較して相対的に示したグラフである。この時、棒は増幅されたDNA濃度のCp(Cross Point)値を表し、誤差の棒は3回繰り返した時の標準偏差を表す。
【0067】
図9及び図10によると、本発明装置100を用いてレーザーによる細胞溶解効率は、濃度変化量に比例して一定に増加するようになり、いかなる濃度状態においてもボイリングやコントロールに比べて細胞溶解効率が格段に高いことを確認することができる。したがって、本発明の装置100によれば、低出力(0.8W)のレーザーパワーを用いても細胞濃度と無関係にグラム陰性細菌を含む各種の細胞を効率的に溶解できることが分かる。
【0068】
[実験例2]
レーザーの照射による細胞の生存能
本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置100によるレーザー照射後の細胞の生存能を調べるために、グラム陰性細菌である大腸菌(E.coli)をレーザーで溶解してPetrifilm(3M製造、E.coli/Coliform Count plate)で12時間以上培養した後、コロニー(colony)計数した。培養液の濃度は10細胞/μlである。レーザーパワーは1.0W以下、照射時間は40秒であり、照射距離は6mmである。投入した磁性ビーズの濃度は10beads/μlで、ビードサイズは1μmである。
【0069】
図11は前述の条件下で溶解した大腸菌の培養液をコロニー計数した結果を示したグラフである。振動は、振動モーターを稼動した時を表し、誤差の棒は3回繰り返した時の標準偏差を表す。
【0070】
図11から分かるように、レーザーパワーを0.4W以上増加させて細胞溶解チップ120を振動した場合、細胞のコロニー数値が急激に減ることを確認することができる。すなわち、レーザー照射だけで行った場合に比べて振動モーター131を使用した場合、より低いレーザーパワーで細胞がより一層迅速に破壊されて死ぬことを確認することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置は、安価のレーザーダイオードを用いて小型化が可能であり、バッテリーだけで駆動できる独立システムを構築することによって、携帯が可能である。
【0072】
また、細胞溶解チップをレーザー光の照射方向と垂直に振動するようにするホルダー構造を備えるので、別の拡散レンズなどを使用しなくても低容量のレーザーを活用して広い光照射面積を確保して細胞溶解効率が増大できる。
【0073】
さらに、レーザーと磁性ビーズを共に用いて振動させることによって、細胞またはウイルスを迅速且つ効率的に破壊できる。
【0074】
従って、本発明の産業利用性はきわめて高いものといえる。
【0075】
一方、本発明は図面に示した実施形態を参照して説明したが、これは例示的なものにすぎず、当業者ならばそれから多様な変形及び均等な実施形態が可能である点を理解できるはずであり、本発明の真の技術的な保護範囲は本発明の特許請求範囲によって定められるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1A】本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置の外形を示した斜視図である。
【図1B】振動部を開放した状態の外形を示した斜視図である。
【図2】図1Aに示したレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置の内部構成を示した斜視図である。
【図3A】本発明の一実施形態に係る細胞溶解チップの構成を示した斜視図である。
【図3B】図3Aに示した細胞溶解チップの実際写真である。
【図4】本発明の一実施形態に係る振動部の構成を示した斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る細胞溶解チップにレーザーが照射される状態を示した図面である。
【図6】本発明の一実施形態に係るレーザーダイオードから供給されるレーザーの指向性をレーザーの出力による照射角で示したグラフである。
【図7】図6のレーザーの照射距離によるビームプロファイルを示した写真である。
【図8】本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置の作動を説明するためのブロック図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置により溶解した大腸菌(E.coli)から放出されたDNAを、濃度別にPCR分析した結果を示したグラフである。
【図10】図9のPCR分析結果を、コントロール状態とボイリング状態におけるPCR分析結果と比較して相対的に示したグラフである。
【図11】本発明の一実施形態に係るレーザー及び磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置により溶解した大腸菌の培養液をコロニー計数した結果を示したグラフである。
【符号の説明】
【0077】
100 細胞またはウイルスの破壊装置、
110 本体、
120 細胞溶解チップ、
130 振動部、
131 振動モーター、
132 ホルダー、
133 シャフト、
134 スプリング、
140 レーザー発生部、
141 レーザーダイオード、
142 ヒートシンク、
143 温度センサー、
150 制御部、
160 冷却ファン、
170 駆動電源、
180 補助メモリ、
190 A/Dコンバーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーまたは磁性ビーズを用いた細胞またはウイルスの破壊装置において、
試料導入口が形成されていて、前記試料導入口を介して試料と前記磁性ビーズを収容する細胞溶解チップと、
前記細胞溶解チップを固定して所定方向に振動力を与える振動部と、
前記細胞溶解チップにレーザーを供給するレーザー発生部と、
前記振動部及び前記レーザー発生部の駆動を制御する制御部と、
を含むことを特徴とする細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項2】
前記振動部は、
振動モーターと、
前記振動モーターを内設し、前記細胞溶解チップを固定して振動力を伝達するホルダーと、
前記ホルダーを前記振動部に移動可能に連結するシャフトと、
前記シャフトに外嵌されて前記ホルダーの動きを弾性力で制限するスプリングと、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項3】
前記振動モーターの振動方向はレーザーの照射方向と垂直であることを特徴とする請求項2に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項4】
前記レーザー発生部は光源としてレーザーダイオード(LD)を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項5】
前記レーザーダイオードから供給されるレーザーは垂直方向と水平方向との発散角度が相異なることを特徴とする請求項4に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項6】
前記レーザー発生部はレーザー稼動により発生した熱を吸収して分散させるヒートシンクを含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項7】
前記レーザー発生部はレーザー稼動により発生する温度を検知し、検知した温度データを前記制御部に伝達する温度センサーを含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項8】
前記レーザー発生部の一側には前記制御部により駆動されて装置内部から発生した熱を空冷させる冷却ファンが設けられることを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項9】
前記細胞溶解チップは、
上方に開口した反応チャンバーが中央部に形成されたチップボディー部と、
前記チップボディー部の上面に付着して前記反応チャンバーの上部を密閉させ、前記反応チャンバー内にレーザーが貫通するようにし、前記反応チャンバーに向かって貫通するように試料導入口及び導出口が形成されたチップカバー部と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項10】
前記反応チャンバーは前記レーザー供給部により供給されるレーザーの照射面積より広いことを特徴とする請求項9に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項11】
前記レーザー発生部は光源としてレーザーダイオードを含み、
前記制御部は前記レーザーダイオード及び前記振動モーターを指定時間の間稼動させるタイマーを含むことを特徴とする請求項2に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項12】
前記レーザー稼動に必要とする各種因数値を格納して前記制御部に印加する補助メモリをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項13】
前記補助メモリはEEPROM、UVEPROM、及びフラッシュメモリのうちいずれかであることを特徴とする請求項12に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。
【請求項14】
前記振動部及び前記レーザー発生部の駆動電源としてバッテリーをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の細胞またはウイルスの破壊装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−82548(P2007−82548A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257962(P2006−257962)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】