説明

レーザー溶接方法

【課題】向かい合わせて配置された溶接部材のレーザー溶接に際し、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じ得る溶接品質の低下を好適に防止するとともに、位置ずれ防止対策に伴う作業遅延、および作業コストを低減し得るレーザー溶接方法を提供する。
【解決手段】レーザー溶接方法は、第1と第2の溶接部材を、レーザーを照射するレーザー加工ヘッドの側から、第1と第2の溶接部材が向かい合って溶接される溶接部の側に向けて、第1と第2の溶接部材の間の隙間が小さくなるように向かい合わせて配置する工程(ステップ11〜ステップ13)と、レーザー加工ヘッドから隙間が小さくなる方向に向けてレーザーを照射するとともに第1と第2の溶接部材が向かい合う内壁面によってレーザーを反射させて溶接部に案内する照射工程(ステップ14)と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重ね合わせて配置した溶接部材同士を溶接する重ね合わせレーザー溶接方法が知られている。この種のレーザー溶接方法にあっては、一般的に、溶接部材の重ね合わせ面を含む範囲にレーザーを照射して溶接部を形成し、所定の溶接強度を確保している。
【0003】
レーザーが重ね合わせ面から位置ずれして照射されると、十分な溶接強度を確保することが困難になり、溶接品質の低下が招かれることになる。したがって、重ね合わせ面に対して高精度に位置決めしてレーザーを照射させることが必要とされている。
【0004】
特許文献1に記載されたレーザー溶接方法にあっては、重ね合わせ面を含む一定の範囲内に複数の溶接ビードを隣接させて形成し、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じる溶接品質の低下を防止している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−328860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の溶接ビードを形成させるレーザー溶接方法を採用した場合には、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じる溶接品質の低下を防止することは可能である。
【0007】
しかしながら、溶接対象である溶接部材の形状によっては、複数の溶接ビードを形成させる十分な溶接面積を確保することができず、上記のレーザー溶接方法を採用したにもかかわらず、重ね合わせ面に対して高精度に位置決めしてレーザーを照射させる必要が生じることがある。また、溶接作業の度に複数の溶接ビードを形成させるため、溶接作業の作業遅延とともに作業コストの増加を招くという問題もある。
【0008】
そこで、本発明は、向かい合わせて配置された溶接部材のレーザー溶接に際し、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じ得る溶接品質の低下を好適に防止するとともに、位置ずれ防止対策に伴う作業遅延、および作業コストを低減し得るレーザー溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のレーザー溶接方法は、第1と第2の溶接部材を、レーザーを照射するレーザー照射部の側から、第1と第2の溶接部材が向かい合って溶接される溶接部の側に向けて、第1と第2の溶接部材の間の隙間が小さくなるように向かい合わせて配置する工程を有している。さらに、レーザー照射部から隙間が小さくなる方向に向けてレーザーを照射するとともに第1と第2の溶接部材が向かい合う内壁面によってレーザーを反射させて溶接部に案内する照射工程を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第1の溶接部材と第2の溶接部材の間に形成させた微小な隙間に向けて照射したレーザーを第1と第2の溶接部材の内壁面によって反射させて案内し、第1と第2の溶接部材が向かい合って溶接される溶接部に対して照射させることができる。したがって、重ね合わせ溶接と同等の溶接形態で配置した第1と第2の溶接部材を好適に溶接することができ、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じ得る溶接品質の低下を防止するとともに、レーザーの照射位置の位置ずれ防止対策に伴う作業遅延、および作業コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】レーザー溶接装置を簡略化して示す図である。
【図2】レーザー溶接方法の工程を示すフローチャートである。
【図3】図3(A)、(B)は、レーザー溶接方法を説明するための斜視図である。
【図4】図4(A)は、レーザー溶接方法を説明するための斜視図であり、図4(B)は、図4(A)の矢印4B方向から見た矢視図である。
【図5】レーザーの溶接軌跡を説明するための図であり、図4(A)の矢印5A方向から見た矢視図である。
【図6】図6(A)〜(C)は、変形例に係る溶接部材を説明するための斜視図である。
【図7】図7は、適用例に係るレーザー溶接方法を説明するための図であり、図7(A)は、溶接部材である自動車用のドアパネルを示す図、図7(B)は、図7(A)の要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
図1を参照して、実施形態にあっては、向かい合わせて配置した平板状の鋼板31、32の溶接に本発明のレーザー溶接方法を適用している。溶接作業には、鋼板等の溶接に用いられる公知のリモートレーザー溶接装置10を利用している。
【0014】
図1〜4を参照して、実施形態に係るレーザー溶接方法を概説すれば、第1の溶接部材31と第2の溶接部材32を、レーザーを照射するレーザー加工ヘッド21(レーザー照射部に相当する)の側から、第1と第2の溶接部材31、32が向かい合って溶接される溶接部41の側に向けて、第1と第2の溶接部材31、32の間の隙間gが小さくなるように向かい合わせて配置する工程(ステップ11〜13)と、レーザー加工ヘッド21から隙間gが小さくなる方向に向けてレーザーを照射するとともに第1と第2の溶接部材31、32が向かい合う内壁面42によってレーザーを反射させて溶接部41に案内する照射工程(ステップ14)と、を有している。そして、レーザーの照射工程(ステップ14)では、レーザーの照射角度θ1が第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2よりも小さくなるように第1の溶接部材31に対してレーザーを照射している(図4(B))。第1と第2の溶接部材31、32を配置する工程(ステップ11〜13)では、第1と第2の溶接部材31、32をクランプした状態で第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2を広げるように第1と第2の溶接部材31、32同士を離反移動させて隙間gを形成している(図3(A)、(B))。
【0015】
説明中における溶接部41とは、第1と第2の溶接部材31、32同士を溶接する溶接部位を意味する。実施形態にあっては、第1と第2の溶接部材31、32間の隙間gが小さくなる側(以下、「先端部の側s」とする)に位置する内壁面42の一定の範囲を溶接部41に設定している。
【0016】
以下、実施形態について詳述する。
【0017】
図1を参照して、レーザー溶接装置10は、第1と第2の溶接部材31、32に対してレーザーを照射して溶接を行うレーザー溶接ロボット11と、レーザー溶接装置10の各部の動作を制御する制御部12と、レーザーを発振するレーザー発振器13と、第1と第2の溶接部材31、32をクランプするクランプ手段14と、第1の溶接部材31に形成された貫通孔43を介して第2の溶接部材32に対して押し付け力を付与するガイド部材15と、を有している。
【0018】
レーザー溶接ロボット11は、レーザー発振器13から伝送されたレーザーを溶接部41に対して照射するレーザー加工ヘッド21と、レーザー加工ヘッド21を所定の位置に移動させるためのロボットアーム22と、を有している。レーザー発振器13からレーザー加工ヘッド21へのレーザーの伝送には、光ファイバ23を利用している。各図においてレーザー加工ヘッド21から照射したレーザーLを破線で示す。
【0019】
レーザー加工ヘッド21は、伝送されたレーザーを集束させて照射するためのレンズ群24と、回動自在な光学ミラー25と、を有している。光ファイバ23からレーザー加工ヘッド21内に伝送されたレーザーは、レンズ群24を通過し、光学ミラー25に入射する。光学ミラー25は、図示しない駆動源によって回動し、第1と第2の溶接部材31、32に対する任意の角度、および任意の溶接軌跡に沿ってレーザーを走査する。レンズ群24によるレーザーの焦点位置を調整し、レーザーをデフォーカスさせて照射させることも可能になっている。
【0020】
ロボットアーム22は、一般的な多間接のロボットアームである。教示作業によって与えられた動作に従って先端部に配置されたレーザー加工ヘッド21をさまざまな方向へ移動させる。
【0021】
制御部12は、レーザー溶接装置10の各部の動作制御を行う。例えば、設定された出力エネルギーでのレーザーの照射や、溶接軌跡に沿ったレーザーの走査、レーザーの照射タイミング等を調整する。
【0022】
クランプ手段14は、載置台26上に配置された第1と第2の溶接部材31、32に対して進退移動自在に設けられている。載置台26との間において第1と第2の溶接部材31、32を挟み込み、両溶接部材31、32をクランプする(図3(A))。クランプ手段14は、図示された構成に限定されるものではなく、第1と第2の溶接部材31、32を押え付ける機能を有する範囲内において適宜変更することが可能である。
【0023】
ガイド部材15は、クランプ手段14と同様に、第1と第2の溶接部材31、32に対して進退移動自在に設けられている。ガイド部材15は、第1の溶接部材31の側から第2の溶接部材32に対して前進移動し、第2の溶接部材32に対して押し付け力を付与する(図3(B))。ガイド部材15は、図示された構成に限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。
【0024】
図3(A)、(B)を参照して、溶接作業に際し、第1と第2の溶接部材31、32は両溶接部材31、32の内壁面42を向かい合わせて載置台26上に配置する。クランプ手段14を前進移動させることによって両溶接部材31、32をクランプする。クランプした状態で第1の溶接部材31に設けられた貫通孔43を通して第2の溶接部材32にガイド部材15を押し付ける。この押し付けに連動させてクランプ手段14を後退移動させ、第1と第2の溶接部材31、32の間にレーザーを導入するための開口部44を形成させる。第2の溶接部材32は、第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2を広げるように第1の溶接部材31から徐々に離反移動し、開口部44の側から先端部の側sに向けて徐々に寸法が小さくなる隙間gを形成させる。
【0025】
溶接部41は、例えば、第1と第2の溶接部材31、32をクランプした部位の裏面側に位置する内壁面42に設定する。隙間gの寸法w1を小さくすることによって、重ね合わせ溶接と同等の溶接形態でのレーザー溶接を行うことが可能になる。
【0026】
開口角度θ2、開口部44の寸法w2、および隙間gの寸法w1は、ガイド部材15の押し付け力を調整して任意に形成させることが可能になっている。例えば、レーザーのビーム径が0.6mm程度の場合には、開口角度θ2を20°とし、開口部44の寸法w2を1.2mm、溶接部41における隙間gの寸法w1を0.3mm程度に設定することが望ましい。
【0027】
図4(A)、(B)を参照して、レーザーの照射工程は、隙間gを形成させた状態で行う。レーザーは、レーザー加工ヘッド21から隙間gの寸法w1が小さくなる方向に向けて照射する。開口部44、および隙間gを通して溶接部41に対してレーザーを入射させる。
【0028】
溶接部材31、32同士をより確実に溶接するためには、第1の溶接部材31の側、または第2の溶接部材32の側へ偏らせることなく、隙間gの中心位置を通るようにレーザーを照射することが望ましい。このため、微小な隙間gの中心位置に高精度に位置決めしてレーザーを照射させる必要がある。しかしながら、レーザー照射を繰り返して実施すると、レーザー溶接装置10に起因する精度誤差などが生じ、中心位置からずれてレーザーが照射されることがある。レーザーの照射位置に大きなずれが生じ、溶接部41から大きく離れた部位に対してレーザーが入射されると、溶接品質の低下が招かれる虞がある。
【0029】
ここで、レーザー加工ヘッド21の側から先端部の側sに向けて隙間gの寸法w1が徐々に小さくなるように配置された第1と第2の溶接部材31、32の各内壁面42は、照射されたレーザーを反射し、先端部の側sへ案内する(レーザーの反射を図中矢印aで示す)。反射したレーザーは、その後直接、または内壁面42による複数回の反射を繰り返して最終的に溶接部41に対して入射する。このように、第1と第2の溶接部材31、32の内壁面42は、溶接部41から位置ずれして照射されたレーザーを先端部の側sへ案内する機能を発揮し、溶接部41に対するレーザーの入射をより確実に行うことを可能にする。
【0030】
第1と第2の溶接部材31、32に対するレーザーの照射角度θ1が増加すると、内壁面42におけるレーザーの熱量の吸収率が高くなり、レーザーが反射する度に生じる熱量の損失が大きくなる。このような場合には、先端部の側sに設定された溶接部41に対して溶接に必要な熱量を付与することが困難になる。そこで、レーザーは、隙間gの寸法w1が小さくなる方向に向かわせつつ、レーザーの照射角度θ1が第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2よりも小さくなるように第1の溶接部材31、または第2の溶接部材32に対して照射する。溶接部材31、32に対するレーザーの照射角度θ1を小さく規制した状態でレーザーを照射することによって、レーザーが反射する度に生じる熱量の損失を抑制させることができ、溶接部材31、32を溶融させるために必要な熱量を溶接部41に対してより確実に付与することが可能になる。
【0031】
開口角度θ2を20°程度に設定した場合には、レーザーの照射角度θ1は10°程度に設定することが望ましい。レーザーの照射角度θ1をこのように設定すると、内壁面42におけるレーザーの吸収率を35%程度に抑制することが可能になる。レーザーの照射角度θ1は、第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2によって決定するが、開口部44の寸法w2や隙間gの寸法w1とともに、適宜変更することが可能である。
【0032】
第1と第2の溶接部材31、32に設定した溶接部41は、溶接部となる部位45の表面粗さを内壁面42の他の部位の表面粗さよりも大きくして形成している。
【0033】
内壁面42の表面粗さを鏡面加工等によって小さくすると、表面粗さが小さくなった部位は、他の部位と比較してレーザーが反射し易くなり、レーザーの熱量の吸収率が低下する。これに対して、内壁面42に凹凸加工等を施し、表面粗さを大きくすると、表面粗さが大きくなった部位は、他の部位と比較してレーザーが反射し難くなり、レーザーの熱量の吸収率が向上する。そこで、第1と第2の溶接部材31、32の内壁面42に内壁面42の他の部位よりも表面粗さを大きくした部位45を形成し、その部位を溶接部41に設定している。レーザーが溶接部41に対して入射し易くなるため、任意の位置に設定した溶接部41での溶接を正確に行うことが可能になる。
【0034】
溶接部材31、32に鋼板を利用する場合には、例えば、溶接部41の表面粗さRa(JIS規格B0601で定められる面粗度)は、0.8〜50a程度に設定することが望ましい。上記の表面粗さを採用することによって、溶接部41におけるレーザーの熱量の吸収率を他の部位よりも15%程度向上させることが可能になる。なお、表面粗さを大きくする加工には、例えば、サンドブラスターや、サンダー加工を利用することが可能である。
【0035】
レーザーの熱量の吸収率は、溶接部材31、32自体の温度の上昇とともに向上するが、上記のような表面粗さを設定した部位45では、溶接部材31、32の温度の上昇とともにレーザーの熱量の吸収率が80%程度にまで達する。このように、表面粗さを大きくした部位45を溶接部41に設定することによって、表面粗さを大きくすることによるレーザーの熱量の吸収率の向上と、溶接部材31、32の温度上昇に伴うレーザーの熱量の吸収率の向上とを相乗的に発揮させることができ、溶接部41に対してより効率的にレーザーの熱量を付与することが可能になる。
【0036】
レーザー溶接に際し、レーザー加工ヘッド21から照射するレーザーは、デフォーカスさせて照射している。レーザーをデフォーカスして照射すると、レーザーのビーム径の単位面積あたりの熱量が減少し、デフォーカスさせずに照射した場合と比較し、反射する際に生じるレーザーの熱量の損失を抑制させることが可能になる。
【0037】
上述したように、レーザーは、反射する度にその熱量が減少する。例えば、レーザーが開口部44の周辺部に対して照射されるような場合には、開口部44の側において大幅なレーザーの熱量の損失が生じ、溶接部41に対して十分な熱量を付与することが困難になる。そこで、レーザーをデフォーカスさせて照射し、溶接部材31、32を溶融させるために必要な熱量を溶接部41に対してより確実に付与することを可能にする。レーザーのビーム径の単位面積あたりの熱量は減少することになるが、レーザーは最終的に収束して溶接部41に対して入射するため、溶接部41を溶融させるために必要な熱量を確保することができる。
【0038】
レーザーの照射工程では、第1と第2の溶接部材31、32の間を往復する連続した溶接軌跡46に沿ってレーザーの照射を進行させる(図5)。
【0039】
第1と第2の溶接部材31、32をスポット溶接ではなく、連続した溶接ビードを形成させて溶接する場合には、レーザーの照射を進行方向に向かって進めながら、第1の溶接部材31と、第2の溶接部材32との間を行き来するようにレーザーを照射する(レーザーの進行を図中矢印bで示す)。第1と第2の溶接部材31、32の間を往復する溶接軌跡46に沿ってレーザーを照射すると、レーザーは隙間gの中心位置を基準にして第1と第2の溶接部材31、32の側に平均化して収束することになる。したがって、溶接部41に対して第1の溶接部材31の側、または第2の溶接部材32の側に偏ってレーザーが入射することを防止できる。また、隙間gの中心位置に向けて高精度に位置決めした状態でレーザーを走査する場合と比較し、溶接作業を簡略化して行うことができる。
【0040】
次にレーザー溶接方法について説明する。
【0041】
図3(A)を参照して、載置台26上に第1と第2の溶接部材31、32を両者の内壁面42が向かい合うように配置する。先端部の側sをクランプ手段14によってクランプさせる。
【0042】
図3(B)を参照して、第1と第2の溶接部材31、32をクランプした状態で第1の溶接部材31に設けられた貫通孔43を通して第2の溶接部材32にガイド部材15を押し付ける。押し付けに連動させてクランプ手段14を後退移動させ、第1と第2の溶接部材31、32の間にレーザーを導入するための開口部44を形成させる。
【0043】
第2の溶接部材32は、第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2を広げるように第1の溶接部材31から徐々に離反移動する。この離反移動によって第1と第2の溶接部材31、32の間に、開口部44の側から先端部の側sに向けて徐々に寸法が小さくなる隙間gを形成させる。第1と第2の溶接部材31、32をクランプしながら第1と第2の溶接部材31、32を相対的に離反移動させる簡易な作業によって、先端部の側sに向けて徐々に寸法が小さくなる隙間gを形成させることができる。
【0044】
第1と第2の溶接部材31、32がクランプされた部位の裏面側に位置する内壁面42を溶接部41に設定する。溶接部41を形成する部位は、予め表面粗さが大きくなるように加工している。
【0045】
隙間gの寸法w1を小さく形成し、重ね合わせ溶接と同等の溶接形態で第1と第2の溶接部材31、32を配置し、レーザー溶接を実施する。
【0046】
図4(A)、(B)を参照して、隙間gが形成された状態でレーザーを照射する。レーザーは、レーザー加工ヘッド21から隙間gの寸法w1が小さくなる方向に向かわせつつ、レーザーの照射角度θ1が第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2よりも小さくなるように第1の溶接部材31に対して照射する。
【0047】
第1と第2の溶接部材31、32の内壁面42は、照射されたレーザーを反射し、先端部の側sへ案内する。反射したレーザーは、溶接部41に対して入射し、または内壁面42による複数回の反射を繰り返しながら隙間gの寸法w1が小さくなる方向に向けて徐々に収束する。
【0048】
ここで、溶接部材を重ね合わせ溶接する際に、重ね合わせ面を含む所定の範囲内に複数の溶接ビードを隣接させて形成し、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じる溶接強度の低下を防止するレーザー溶接方法が知られている。このようなレーザー溶接方法を採用することによって、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じる溶接強度の低下を防止することは可能になる。しかしながら、薄板状の溶接部材を重ね合わせ溶接するような場合には、複数の溶接ビードを形成させるための十分な溶接面積を確保することができないため、上記のレーザー溶接方法を採用したにもかかわらず、重ね合わせ面に対して高精度に位置決めしてレーザーを照射する必要が生じる。また、溶接作業の度に複数の溶接ビードを形成させるため、溶接作業の作業遅延とともに、作業コストの増加を招くという問題もある。
【0049】
これに対し、本実施形態にあっては、第1と第2の溶接部材31、32の間に形成させた微小な隙間gに向けて照射したレーザーを第1と第2の溶接部材31、32の内壁面42によって反射させ、先端部の側sに形成された溶接部41に対してレーザーを案内させて入射させることができる。したがって、重ね合わせ溶接と同等の溶接形態で配置した第1と第2の溶接部材31、32を好適に溶接することができる。この結果、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じ得る溶接品質の低下を防止するとともに、レーザーの照射位置の位置ずれ防止対策に伴う作業遅延、および作業コストを低減することが可能になる。
【0050】
レーザーの照射工程では、第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2よりもレーザーの照射角度θ1を小さくしてレーザーを照射している。レーザーが反射する度に生じる熱量の損失を抑制させることができ、溶接部材31、32を溶融させるために必要な熱量を溶接部41に対してより確実に付与することが可能になる。
【0051】
表面粗さを大きくした部位45を形成し、その部位を溶接部41に設定しているため、溶接部41に対してレーザーをより確実に入射させることができる。任意の位置に設定した溶接部41での溶接を正確に行うことが可能になる。
【0052】
レーザー加工ヘッド21から照射するレーザーは、デフォーカスさせて照射する。レーザーをデフォーカスして照射すると、デフォーカスさせずに照射した場合と比較し、レーザーが反射する度に生じる熱量の損失を抑制させることができる。したがって、溶接部材31、32を溶融させるために必要な熱量を溶接部41に対してより確実に付与することが可能になる。
【0053】
図5を参照して、第1と第2の溶接部材31、32の間を往復する連続した溶接軌跡46に沿ってレーザーの照射を進行させる。隙間gの中心位置を基準にし、第1と第2の溶接部材31、32の側に平均化してレーザーが収束することになる。このため、溶接部41に対して第1の溶接部材31の側、または第2の溶接部材32の側に偏ってレーザーが入射することを防止でき、溶接品質をより向上させることが可能になる。隙間gの中心位置に向けて高精度に位置決めした状態でレーザーを走査する場合と比較し、溶接作業を簡略化して行うことも可能になる。
【0054】
所定の溶接軌跡46に沿ってレーザーを走査した後、溶接作業を終了する。
【0055】
上述したように、本実施形態にあっては、第1と第2の溶接部材31、32の間に形成させた微小な隙間gに向けて照射したレーザーを第1と第2の溶接部材31、32の内壁面42によって反射させ、先端部の側sに形成された溶接部41に対してレーザーを案内させて入射させることができる。したがって、重ね合わせ溶接と同等の溶接形態で配置した第1と第2の溶接部材31、32を好適に溶接することができる。この結果、レーザーの照射位置の位置ずれに伴って生じ得る溶接品質の低下を防止するとともに、レーザーの照射位置の位置ずれ防止対策に伴う作業遅延、および作業コストを低減することが可能になる。
【0056】
レーザーの照射工程では、第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2よりもレーザーの照射角度θ1を小さくしてレーザーを照射する。レーザーが反射する度に生じる熱量の損失を抑制させることができ、第1と第2の溶接部材31、32を溶融させるために必要な熱量を溶接部41に対してより確実に付与することが可能になる。
【0057】
第1と第2の溶接部材31、32を配置する工程では、第1と第2の溶接部材31、32がなす開口角度θ2を広げるように第1の溶接部材31から第2の溶接部材を離反移動させて隙間gを形成させる。第1と第2の溶接部材31、32をクランプしながら第1と第2の溶接部材31、32を相対的に離反移動させる簡易な作業によって、先端部の側sに向けて徐々に寸法が小さくなる隙間gを形成させることができる。
【0058】
表面粗さを大きくした部位45を形成し、その部位を溶接部41に設定しているため、溶接部41に対してレーザーをより確実に入射させることができる。任意の位置に設定した溶接部41での溶接を正確に行うことが可能になる。
【0059】
レーザー加工ヘッド21から照射するレーザーは、デフォーカスさせて照射する。レーザーをデフォーカスして照射すると、デフォーカスさせずに照射した場合と比較し、レーザーが反射する度に生じる熱量の損失を抑制させることが可能になる。したがって、第1と第2の溶接部材31、32を溶融させるために必要な熱量を溶接部41に対してより確実に付与することが可能になる。
【0060】
レーザーの照射工程では、第1と第2の溶接部材31、32の間を往復する連続した溶接軌跡46に沿ってレーザーの照射を進行させる。隙間gの中心位置を基準にし、第1と第2の溶接部材31、32の側に平均化してレーザーを収束させることが可能になる。このため、溶接部41に対して第1の溶接部材31の側、または第2の溶接部材32の側に偏ってレーザーが入射することを防止でき、溶接品質をより向上させることが可能になる。隙間gの中心位置に向けて高精度に位置決めした状態でレーザーを走査する場合と比較し、溶接作業を簡略化して行うことも可能になる。
【0061】
上述した実施形態は、適宜変更することが可能である。
【0062】
実施形態にあっては、第1の溶接部材31に対してレーザーを照射して溶接作業を開始しているが、第2の溶接部材32に対してレーザーを照射し、溶接作業を開始することも可能である。
【0063】
第1と第2の溶接部材31、32をクランプさせる位置は、特に限定されるものではなく、溶接部41を形成させる位置に合わせて適宜変更することが可能である。隙間gを形成させる方法には、例えば、ガイド部材15の押し付けによって、第2の溶接部材32を弾性変形させて隙間gを形成させる方法や、第1と第2の溶接部材31、32のいずれか一方に引っ張り力を付与して相対的に離反移動させて隙間gを形成させる方法を採用することが可能である。
【0064】
表面粗さを大きくした部位45は、レーザーを入射させたい部位に合わせて、第1と第2の溶接部材31、32のうち、少なくとも一方に形成されていればよい。また、内壁面42における各部の表面粗さは、適宜変更することができ、内壁面42において他の部位よりも表面粗さを小さくし、レーザーの熱量の吸収率が低下した部位を形成することも可能である。例えば、レーザーの多重反射を誘導するために、開口部44の周辺や、その他レーザーを積極的に反射させたい部位に表面粗さが小さい部位を形成させることが考えられる。
【0065】
溶接部材の材質や形状も実施形態において説明したものに限定されず、適宜変更することが可能である。また、連続した溶接軌跡に沿ってレーザーを走査するレーザー溶接のみではなく、例えば、スポット溶接に適用することも可能である。
【0066】
(変形例)
図6(A)〜(C)を参照して、変形例にあっては、溶接部41に連なる平面部51が形成された第1と第2の溶接部材31、32に対してレーザー溶接を実施している。前述した実施形態と同様の部材および溶接方法については、その説明を一部省略する。
【0067】
図6(A)を参照して、第1の溶接部材31には、平板状の鋼板を利用している。一方、第2の溶接部材32には、平面部51と、平面部51からレーザー加工ヘッド21の側へ向けて所定の開口角度θ2を形成するように延びる屈曲部52を形成している。
【0068】
第1の溶接部材31の平面部51と、第2の溶接部材32の平面部51とを向かい合わせて配置し、第1の溶接部材31と屈曲部52との間に隙間gを形成させる。第1の溶接部材31と第2の溶接部材32とを突き合わせて配置するだけで第1と第2の溶接部材31、32の間に任意の形状、および任意の寸法の隙間gを形成させることが可能になる。したがって、隙間gを形成させる作業をより簡略化させることができる。
【0069】
図6(B)を参照して、図示された第2の溶接部材32には、平面部51とともに、第1の溶接部材31に向かい合わせて配置した際に第1の溶接部材31との間に隙間gを形成させる袋状の収納部53を形成している。第1の溶接部材31と第2の溶接部材32とを突き合わせて配置する簡易な作業によって第1と第2の溶接部材31、32の間に任意の形状、および任意の寸法の隙間gを形成させることができる。
【0070】
図6(C)を参照して、図示された第2の溶接部材32には、平面部51とともに、曲面状に折り曲げた折り曲げ部54を形成している。上述した他の変形例と同様に、第1と第2の溶接部材31、32同士を突き合わせて配置する簡易な作業によって第1と第2の溶接部材31、32の間に任意の形状、および任意の寸法の隙間gを形成させることができる。
【0071】
以上、変形例に係るレーザー溶接方法にあっては、溶接部41に連なり互いに向かい合って当接する平面部41が形成された第1と第2の溶接部材31、32を利用するため、隙間gを形成させる作業をより簡略することができ、溶接作業に要する作業効率を向上させることができる。上述した実施形態と同様に、第1と第2の溶接部材31、32の間に形成された隙間gに向けてレーザーを照射することによって、第1と第2の溶接部材31、32を好適に溶接することができる。
【0072】
(適用例)
図7(A)、(B)を参照して、適用例にあっては、第1の溶接部材31に対する第2の溶接部材32の仮止めに本発明のレーザー溶接方法を適用している。
【0073】
第1の溶接部材31には、自動車用のドアパネル61を適用し、第2の溶接部材32には、自動車用のドアパネル61にねじ部材63を取り付けるための締結用の留め具62を適用している。締結用の留め具62を溶接した後には、他の溶接部材64をレーザー溶接する作業を行う。
【0074】
自動車用のドアパネル61と締結用の留め具62との間に微小な隙間gを形成し、重ね合わせ溶接と同等の溶接形態でのレーザー溶接を行う。レーザーは、自動車用のドアパネル61に対して傾斜させて照射させるため、レーザー加工ヘッド21を溶接部41の延長線上(図中上方向の延長線上)に配置させずに締結用の留め具61を溶接することができる。
【0075】
隙間gに向けて照射されたレーザーは、自動車用のドアパネル61と締結用の留め具62との間において反射し、溶接部41に対して収束して入射する。これによって、自動車用のドアパネル61に対して締結用の留め具62を仮止めすることが可能になる(図7(B))。
【0076】
締結用の留め具62を溶接した後、自動車用のドアパネル61に他の溶接部材64を溶接する作業を引き続き行う。ここで、他の溶接部材64を溶接するための溶接部41をレーザー加工ヘッド21の側に面して配置している場合には、レーザーの照射角度を変更させることによって比較的広範な範囲にレーザーを振り分けて照射することができる(図7(A))。したがって、他の溶接部材64の溶接作業に際し、レーザー加工ヘッド21の配置や姿勢を大きく変更させることなく溶接作業を開始することが可能になる。
【0077】
重ね合わせ溶接と同等の溶接形態で配置された自動車用のドアパネル61と締結用の留め部62を溶接した後、自動車用のドアパネル61に対してその他複数個所の溶接を実施する場合には、連続して溶接作業を行うことができ、溶接作業の作業効率を向上させることができる。
【0078】
適用例にあっては、レーザー溶接後、締結用の留め具62に対してねじ部材63を締結する。微小な寸法で形成された隙間gは、ねじ部材63の締結によってその寸法がさらに減少するため、隙間gが存在することによって製品品質の低下が招かれるようなことはない。また、締結用の留め具62は、自動車用のドアパネル61の内部において溶接されるものであるため、隙間gが残存するような場合であっても、製品である自動車用のドアパネル61の見栄えが低下するという問題が生じることもない。
【符号の説明】
【0079】
10 レーザー溶接装置、
11 レーザー溶接ロボット、
12 制御部、
13 レーザー発振器、
14 クランプ手段、
15 ガイド部材、
21 レーザー加工ヘッド(レーザー照射部)、
22 ロボットアーム、
23 光ファイバ、
24 レンズ群、
25 光学ミラー、
26 載置台、
31 第1の溶接部材、
32 第2の溶接部材、
41 溶接部、
42 内壁面、
43 貫通孔、
44 開口部、
45 表面粗さを大きくした部位、
46 溶接軌跡、
51 平面部、
52 屈曲部、
53 収納部、
54 折り曲げ部、
61 自動車用のドアパネル(第1の溶接部材)、
62 締結用の留め具(第2の溶接部材)、
63 ねじ部材、
64 他の溶接部材、
g 隙間、
s 先端部の側、
w1 隙間の寸法、
w2 開口部の寸法、
θ1 レーザーの照射角度、
θ2 開口角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1と第2の溶接部材を、レーザーを照射するレーザー照射部の側から、前記第1と第2の溶接部材が向かい合って溶接される溶接部の側に向けて、前記第1と第2の溶接部材の間の隙間が小さくなるように向かい合わせて配置する工程と、
前記レーザー照射部から前記隙間が小さくなる方向に向けてレーザーを照射するとともに前記第1と第2の溶接部材が向かい合う内壁面によってレーザーを反射させて前記溶接部に案内する照射工程と、を有するレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記照射工程は、レーザーの照射角度が前記第1と第2の溶接部材がなす開口角度よりも小さくなるように前記第1の溶接部材、または前記第2の溶接部材に対してレーザーを照射する、請求項1に記載のレーザー溶接方法。
【請求項3】
前記第1と第2の溶接部材は、前記溶接部に連なり互いに向かい合って当接する平面部を有する請求項1または請求項2に記載のレーザー溶接方法。
【請求項4】
前記第1と第2の溶接部材を配置する工程は、前記第1と第2の溶接部材をクランプした状態で前記第1と第2の溶接部材がなす開口角度を広げるように前記第1と第2の溶接部材同士を離反移動させて前記隙間を形成する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のレーザー溶接方法。
【請求項5】
前記第1と第2の溶接部材の少なくとも一方は、前記溶接部となる部位の表面粗さが前記内壁面の他の部位の表面粗さよりも表面粗さを大きくして形成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記照射工程は、前記レーザー照射部からレーザーをデフォーカスさせて照射する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のレーザー溶接方法。
【請求項7】
前記照射工程は、前記第1と第2の溶接部材の間を往復する連続した溶接軌跡に沿ってレーザーの照射を進行する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレーザー溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−279965(P2010−279965A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−134159(P2009−134159)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】