説明

レーザ加工方法とレーザ加工装置

【解決手段】 加工ヘッド2は噴射ノズル12を備えており、その噴射ノズル12から被加工物3に向けて液柱Wを噴射するとともに、該液柱Wにレーザ光Lを導光して被加工物3に照射することにより、被加工物3に切断加工を施すようになっている。
加工ヘッド2の下部には、液柱Wに向けて側部から圧縮空気を吹き付ける気体噴射ノズル26が配置されており、噴射ノズル12から液柱Wを噴射した状態において気体噴射ノズル26から液柱Wに向けて圧縮空気が吹き付けられ、気体の吹き付けを停止してからレーザ光Lを照射して加工を開始する。
【効果】 液柱Wの周囲の霧を除去することができるので、液柱Wを安定した状態に維持して被加工物3に安定した切断加工を施すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ加工方法とレーザ加工装置に関し、より詳しくは、液柱内にレーザ光を導光して被加工物を加工するようにしたレーザ加工方法とレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液柱内に導光したレーザ光を被加工物に照射して切断するようにしたレーザ加工装置は公知である。
こうした従来のレーザ加工装置においては、被加工物や加工テーブルなどに衝突した液柱が跳ね返って液柱を噴射するための噴射孔の周囲に到達することがあった。その場合には、液柱に向けて流れる噴射孔の近傍の気流が乱れることになるので、安定した液柱が得られないという問題があった。
そこで、従来、加工ヘッドの下部に仕切板を設けて、加工中に被加工物から跳ね上がってくる水滴を仕切板によって遮蔽するようにしたレーザ加工装置が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−29980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の装置においても次のような問題が生じている。すなわち、レーザ加工装置においては、非常に細い液柱が被加工物や加工テーブルなどに衝突することで跳ね返りとともに加工箇所の周辺に霧が発生して浮遊する。そのため、前述した仕切板を設けたとしても、加工中に発生した霧が舞い上がって仕切板の液柱通過用の貫通孔や仕切板の外側を経て加工ヘッドに付着するのを防ぐことはできなかった。そして、加工ヘッドに付着する水滴は加工時間の経過とともに大きくなり、その後、大きくなった水滴により液柱まわりの気流が乱れたり、水滴が液柱に接触したりして安定した加工ができないという問題が生じていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した事情に鑑み、第1の本発明は、加工ヘッドから液体を噴射して液柱状態としてから液柱内にレーザ光を導光して被加工物に照射して、該被加工物に所要の加工を施すようにしたレーザ加工方法において、
液柱を噴射した状態において気体を吹き付けて液柱を横切る気流を形成して、上記液柱の周囲の霧を除去し、その後、気体の吹き付けを停止してから液柱状態の液体内にレーザ光を導光して被加工物に照射することにより、被加工物に加工を開始して、該被加工物に所要の加工を施すことを特徴とするものである。
また、第2の本発明は、液体の噴射孔を有する加工ヘッドと、該加工ヘッドに加圧液体を供給する液体供給手段と、レーザ光を発振するレーザ発振器と、上記液体供給手段及びレーザ発振器の作動を制御する制御手段とを備え、上記液体供給手段から加工ヘッドに加圧液体を供給して上記噴射孔から液体を噴射して液柱状態にしてから該液柱にレーザ光を導光して被加工物に照射することにより、被加工物に所要の加工を施すようにしたレーザ加工装置において、
上記噴射孔から噴射された液柱を横切る気流を形成するために気体を吹き付ける気体噴射ノズルを設けるとともに、上記制御手段により上記気体噴射ノズルからの気体の吹き出しを制御するようにし、該制御手段は、上記噴射孔から液柱が噴射された状態において上記気体噴射ノズルから気体を吹き出させて液柱の周囲の霧を除去し、その後、気体噴射ノズルからの気体の吹き出しを停止させてから液柱状態の液体内にレーザ光を導光して被加工物に照射することにより被加工物の加工を開始することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
上述した構成によれば、被加工物に対してレーザ光を照射する加工開始の時点までには液柱の周囲に浮遊する霧が吹き飛ばされて除去されている。そのため、加工ヘッドに霧が付着して液滴となることを防止することができ、従って安定した液柱によって被加工物に安定した加工を施すことができる時間を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施例を示す断面図。
【図2】図1に示した被加工物3とその支持部の平面図。
【図3】図1のレーザ加工装置1によって被加工物3を加工する際の作業工程を示すフロー図。
【図4】本発明の第2実施例を示す平面図。
【図5】本発明の第3実施例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明すると、図1において1はレーザ加工装置であり、このレーザ加工装置1は、加工ヘッド2によって液柱Wを被加工物3に向けて噴射するとともに液柱W内に導光したレーザ光Lを被加工物3に照射することにより、被加工物3に切断加工や溝加工を施すことができるようになっている。
レーザ加工装置1は、上記被加工物3を支持する加工テーブル4と、レーザ光Lを発振するレーザ発振器5と、高圧の液体(水)を加工ヘッド2内へ供給する液体供給手段6と、液体を液柱Wにして被加工物3に向けて噴射するとともにレーザ光Lを液柱W内に導光することにより被加工物3に向けて出射する上記加工ヘッド2とを備えており、これらの作動は制御手段10によって制御されるようになっている。
【0009】
上記加工ヘッド2は図示しない昇降手段によって垂直方向に移動することができるようになっている。他方、加工テーブル4は図示しない駆動機構によって水平方向に移動することができる。上記加工ヘッド2用の昇降手段および加工テーブル4用の駆動機構は、上記制御手段10によって作動を制御されるようになっている。
上記加工テーブル4の上面の所要位置には左右一対のクランプ4A、4Aが配置されており、加工テーブル4上に載置された方形の被加工物3は、上記クランプ4A,4Aによって加工テーブル4に固定されるようになっている(図2参照)。また、加工テーブル4の上面の所要位置には排水溝4Bが形成されている。排水溝4Bは、被加工物3における各加工予定線3a〜3cに沿うように形成されている。後述するように、被加工物3の加工予定線3a〜3cに沿って切断加工を行う際には、被加工物3を貫通した液体を各加工予定線3a〜3cの下方側の排水溝4Bから排出できるようになっている。このように、本実施例においては、被加工物3を切断する際の加工予定線3a〜3cの位置に対応させて排水溝4Bが形成されている。
なお、レーザ加工装置1による加工対象となる被加工物3は、厚さ数十μmのステンレス板である。
【0010】
上記レーザ発振器5はYAGレーザ発振器であり、加工に応じてCW発振又はパルス発振が可能であり、またその出力やパルスの発振周期等の加工条件を適宜調整できるようになっている。
レーザ発振器5と加工ヘッド2との間には、レーザ光Lを加工ヘッド2に向けて反射させる反射ミラー7と、レーザ光Lを集光する集光レンズ8とが設けられている。なお、レーザ発振器5としては、この他にも半導体レーザやCOレーザ発振器等を用いることも可能であるが、COレーザ発振器の場合にはレーザ光が水に吸収されやすい波長であるため、加工ヘッド2より噴射される液体をレーザ光が吸収しにくい液体にすることになる。
【0011】
加工ヘッド2は、上下方向に中空部が貫通して形成された筒状のハウジング11と、該ハウジング11における中空部の下部に設けられた噴射ノズル12と、ハウジング11の中空部の上部に設けられた透明な透過部材13とを備えている。
上記ハウジング11は、図示しない昇降手段によって保持されており、該昇降手段の作動は制御手段10によって制御されるようになっている。ハウジング11の中空部は上記集光レンズ8によって集光されたレーザ光Lの光路上に形成されており、上記噴射ノズル12および透過部材13はこの光路上に設けられている。
上記噴射ノズル12はハウジング11の下端部に形成された凹部内にシールリングを介して嵌合され、かつハウジング11の下方から固定部材14によって押圧保持されている。
【0012】
上記透過部材13はレーザ光Lを透過させる透明なガラス製であって、上記噴射ノズル12と集光レンズ8との間に位置し、上記ハウジング11との間にシールリングを介在させて、上方からナット15によって押圧保持されている。
上記噴射ノズル12と透過部材13との間に形成された空間には上記液体供給手段6が接続された液体通路16が形成されており、上記液体供給手段6から液体通路16へ高圧の液体が供給されるようになっている。
上記噴射ノズル12の中央には液体を噴射する噴射孔12aが形成されており、上記固定部材14の中央には噴射ノズル12の噴射孔12aよりも大径の貫通孔14aが形成されている。
そして、上記液体供給手段6から加工ヘッド2に高圧の液体が供給されると、該液体は液体通路16を経由して上記噴射ノズル12の噴射孔12aから液柱Wとなって下方に向けて噴射され、この液柱Wは上記貫通孔14aおよび後述する下方側の各部材を通過して被加工物3に衝突するようになっている。
また、レーザ発振器5から発振されたレーザ光Lは上記集光レンズ8により上記噴射孔12aから噴射される液柱Wの内部に集光されるようになっており、それによりレーザ光Lは上記液柱Wを導光路として案内されてから被加工物3に照射されるようになっている。
【0013】
加工ヘッド2の固定部材14の下部には、多孔質体からなる略環状の多孔質部材17が配置されるとともに、この多孔質部材17を固定部材14に連結する保持部材18が配置されている。
上記多孔質部材17全体は多孔質のアルミニウムからなり、多孔質部材17の中央には液柱Wを通過させるための円錐状の貫通孔17aが形成されている。この多孔質部材17はその内部に水滴や気体を流通させることができるようになっている。
上記保持部材18は上記固定部材14の外周に螺合されることで、ハウジング11の下部に固定されており、この保持部材18の下面に形成された段付凹部18aにおける下方内周部に上記多孔質部材17が下方側から嵌着されている。
また、保持部材18の中央部には液柱Wを通過させるための上下方向の貫通孔18bが穿設されている。また、上記多孔質部材17の上面と隣接する上記段付凹部18aの上部空間は内室21として構成されている。この内室21は、そこに連通して外周面に開口する通路18cおよびそれに接続された導管22を介して負圧発生手段23に接続されている。この負圧発生手段23の作動は上記制御手段10によって制御されるようになっている。
そして、上記負圧発生手段23から導管22と通路18cを介して内室21に負圧が導入されると、多孔質の上記多孔質部材17の内部を介して該多孔質部材17の下面にも負圧が作用する。その状態においては、多孔質部材17の下面に付着した水滴や下面の近傍の気体が多孔質部材17内に吸引されてから上方の内室21まで吸引され、さらにその後、通路18cと導管22を介して負圧発生手段23内へ吸引されて排出されるようになっている。
【0014】
また、上記保持部材18および多孔質部材17よりも下方側に、多孔質部材17と所定間隔を隔てて仕切板24が配置されている。この仕切板24は、複数の連結部材25によって上記保持部材18の底面に水平に連結されている。仕切板24の中央部には、液柱Wの外径よりも少し大きな上下方向の貫通孔24aが穿設されている。そして、上記噴射ノズル12から下方へ噴射される液柱Wは、先ず上記固定部材14の貫通孔14aを通過し、その後、保持部材18の貫通孔18b、多孔質部材17の貫通孔17aおよび仕切板24の貫通孔24aを順次通過してから被加工物3に衝突するようになっている。
このように、加工ヘッド2の最下部に仕切板24が配置されているので、液柱Wとなって被加工物3に衝突した液体の飛沫が跳ね上がったとしても、そのような飛沫は上記仕切板24によって遮蔽されるようになっている。そのため、被加工物3から跳ね上がった液体の飛沫が上記噴射ノズル12、保持部材18および多孔質部材17に付着することが阻止されるようになっている。これにより、被加工物3から跳ね上がった液体の飛沫によって液柱Wの安定状態が乱されることを防止している。
【0015】
さらに、本実施例においては、加工ヘッド2と被加工物3の間で上記噴射ノズル12から液体が噴射されて液柱Wが形成される空間の側方に、その液柱Wを横切る気流を形成するように空気を吹き付ける気体噴射ノズル26が配置されるとともに、気体噴射ノズル26と対向するように液柱Wの周囲から吹き飛ばされた霧を吸引する吸引ノズル27が配置されている。
気体噴射ノズル26は、上下位置の2つのノズル26A、26Bからなり、それら両ノズル26A、26Bは、ブラケット28を介して保持部材18に連結されている。気体噴射ノズル26は導管31を介して圧縮空気の供給源32に接続されており、導管31の途中に設けた電磁開閉弁37を制御手段10により制御することにより、気体噴射ノズル26からの気体の吹き出し・停止を制御するようになっている。上方側のノズル26Aは仕切板24の上方で少し上向きに設けられ、下方側のノズル26Bは仕切板の下方でほぼ水平を向くように設けられ、両ノズル26A、26Bとも液柱Wの方向を指向している。
【0016】
そして、所要時に上記制御手段10が電磁開閉弁37を開放すると、気体噴射ノズル26における上方側のノズル26Aにより仕切板24と多孔質部材17との間の液柱Wが形成される範囲の全域で液柱Wを横切る気流を形成して、液柱Wの周囲の霧を噴射ノズル12の下方から除去するとともに多孔質部材17の下面に付着する水滴を吹き飛ばすようになっている。また、下方側のノズル26Bにより仕切板24と被加工物3との間の液柱Wが形成される範囲の全域で液柱Wを横切る気流を形成して液柱Wの周囲の霧を除去するようになっている。なお、気体噴射ノズル26の両ノズル26A、26Bによる気流の水平方向の幅は、液柱Wを中心として、少なくとも左右両側に各20mmとなるように形成されている。また、両ノズル26A,26Bから吹き出される圧縮空気の圧力は、約0.05〜0.1MPaとなるように設定されている。この程度の圧力であれば、気体噴射ノズル26による気流で液柱状態を乱されていたとしても、気体の吹き出しを停止すればすぐに安定した液柱状態を得られ、レーザ光Lを導光することが可能となる。
また、液柱Wを挟んで上記気体噴射ノズル26と対向するように、ブラケット33を介して上記吸引ノズル27が保持部材18に連結されている。吸引ノズル27は導管34を介して上記負圧発生手段23に接続されており、導管34の途中には上記制御手段10によって作動を制御される電磁開閉弁35が設けられている。電磁開閉弁35は常閉のものであって、負圧発生手段23の作動状態において制御手段10が所要時に電磁開閉弁35を開放させると、上記気流によって流されてきた霧は気体とともに吸引ノズル27によって吸引されて回収されるようになっている。
【0017】
以上の構成にかかるレーザ加工装置1によって被加工物3である方形で薄肉のステンレス板に切断加工を施す場合について説明する。ここでは、3つの長方形を切り抜き加工するもので、第1の加工予定線3a、第2の加工予定線3b、さらに第3の加工予定線3cの順に切断加工するものとする(図2参照)。
この場合、先ず、加工テーブル4上に被加工物3が載置されてから該被加工物3の両側部がクランプ4A、4Aにより固定される。すると、制御手段10により図示しない駆動機構を介して加工テーブル4が水平方向に所要量だけ移動されて、加工テーブル4上に設定される加工開始点3a’が噴射孔12aの真下に停止される(図1、図2、図3のS1参照)。この加工開始点3a’は、加工予定線3aの隣接内方側に設定されている。
【0018】
この後、制御手段10は、液体供給手段6により加工ヘッド2の液体通路16に高圧の液体を供給して上記噴射ノズル12の噴射孔12aから液体を噴射させ、しばらくこの状態を保持して安定した液柱Wが形成されるようにする。この間液柱Wは被加工物3に衝突し、霧が発生する。また、制御手段10は、液柱Wの噴射とともに、電磁開閉弁37を開放して気体噴射ノズル26から液柱Wに向けて圧縮空気を噴射させる(図2、図3のS2)。引き続いて、制御手段10は、電磁開閉弁35を開放して吸引ノズル27に負圧を作用させるとともに、加工ヘッド2の内室21を経由して多孔質部材17の下面に負圧を作用させる(図3のS3)。なお、液体が被加工物3に向けて噴射されると、被加工物3に衝突した液体の一部が飛沫となって跳ね上がるが、そのような飛沫は仕切板24によって遮蔽されて噴射ノズル12や吸収部材17および保持部材18の下面に付着することが防止される。
【0019】
ここで、上記液柱Wを噴射し始めてからこの時点までに、液柱Wが被加工物3に継続して衝突していることで微小な霧が発生するが、気体噴射ノズル26により液柱Wを横切る気流が形成されるとともに吸引ノズル27に負圧が作用しているため、液柱Wの周囲に浮遊する霧は気流にのって液柱Wの周囲から除去された後に、吸引ノズル27によって吸引されて吸引手段23に回収される。
この後、安定した液柱Wが形成されると思われる時間が経過したら、制御手段10は電磁開閉弁37を閉じて気体噴射ノズル26から圧縮空気の吹き出しを停止させるとともに、電磁開閉弁35を閉じて吸引ノズル27へ負圧を作用させるのを停止させる(図3のS4)。
【0020】
そして、圧縮空気の吹き出しによる液柱Wの周囲の気流がなくなり、液柱Wが安定して形成されると制御手段10によってレーザ発振器5からレーザ光Lが発振される。そのため、該レーザ光Lは反射ミラー7で反射されてから集光レンズ8によって集光される。そして、集光されたレーザ光Lは透過部材13および液体通路16内の液体を通過して、上記噴射孔12aより噴射されている液柱W内に導光されてから該液柱Wにより被加工物3まで案内されて、被加工物3の加工開始点3a’に照射されて切断加工が開始される(図3のS5)。
その後、制御手段10が図示しない駆動機構を介して加工テーブル4を水平方向に移動させることで、加工予定線3aに沿って被加工物3に長方形の切り抜きが切断される(図3のS6)。なお、液柱Wから被加工物3に衝突した後の液体は、加工予定線3aの下方側となる加工テーブル4側の排水溝4Bによって排出されるようになっている。
【0021】
このように、被加工物3に対するレーザ光Lの照射開始時点以前においては、液柱Wの周囲の霧は除去されており、しかも照射中においては多孔質部材17の下面に負圧が作用しているので、液柱Wが安定した状態を維持することができる。そのため、安定状態の液柱W内を導光されたレーザ光Lにより被加工物3に対して安定した正確な切断加工を長時間にわたり施すことができる。
このように、先ず第1の加工予定線3aに沿って被加工物3から長方形を切り抜いた時点で、制御手段10はレーザ発振器5からのレーザ光Lの発振を停止させる(図3のS6)。
この後、継続して噴射孔12から液柱Wを噴射した状態から制御手段10は、電磁開閉弁37を開放させて気体噴射ノズル26から圧縮空気を吹き出すとともに電磁開閉弁35を開放させて吸引ノズル27に負圧を作用させる。これにより、液柱Wの周囲に発生した霧は吹き飛ばされて除去されてから吸引ノズル27によって吸引される。このとき多孔質部材17の下面に水滴が形成されていたとしても、上方側のノズル26Aからの気流によって吹き飛ばされる。
【0022】
そして、レーザ光Lの発振を停止した状態において、制御手段10は図示しない駆動機構を介して加工テーブル4を移動させて、第2の加工予定線3bの次の加工開始点3b’を噴射孔12aの真下に位置させる(図3のS8参照)。なお、この時点においても、継続して多孔質部材17に負圧を作用させてあり、また、液柱Wは継続して噴射ノズル12より噴射されている。
以下、上記加工予定線3aを切断加工した場合と同様の作業工程(図3のS4〜S6)によって、第2の加工予定線3b、第3の加工予定線3cの順に切断加工が施される。以上のようにしてレーザ加工装置1により加工予定線3a〜3cに沿って順次被加工物3が切断加工される。
【0023】
また、本実施例では多孔質部材17の下面に負圧を作用させることで、そこに付着した水滴を吸引するようにして、水滴の成長を抑制することにより、液柱Wの安定状態の継続時間をさらに長くすることができるようにしている。また、本実施例ではレーザ光Lを被加工物3に照射して加工を開始するまでは気体噴射ノズル26から液柱Wを横切る気流を形成して該液柱Wの周囲に浮遊する霧を吹き飛ばして除去するとともに、吸引ノズル27により霧を吸引するようにしている。
そのため、加工ヘッド2の底部に霧が付着することによって液柱Wおよびその近傍の気流の流れが乱されることを良好に防止して、液柱Wの安定状態を長く継続することができ、レーザ光Lを液柱W内に導光した安定した切断加工を長く行うことができる。
【0024】
次に、図4は本発明のレーザ加工装置1によって被加工物3を切断加工する別の実施例を示したものである。上述した最初の実施例においては、液柱Wを被加工物3に衝突させた状態において上記気体噴射ノズル26から液柱Wに圧縮空気を吹き付けていたが、この第2実施例においては、被加工物3ではなく支持手段としての粘着シート41に液柱Wを衝突させた状態からレーザ光Lを照射して切断加工を開始するようにしたものである。
この第2実施例においては、被加工物3は、粘着シート41の中央部に貼り付けられており、該粘着シート41の外周部はリングフレーム42に保持されている。つまり、支持部材としての粘着シート41およびリングフレーム42に支持された被加工物3に対して切断加工を施すようになっている。この実施例では、被加工物3に対して隣接位置を完全に分離するような直線状の加工予定線3d、3eを設定し、それらに沿って順次被加工物3に切断加工を施すものとしており、加工予定線3dの延長線上の位置3Dで液柱Wを形成してからレーザ光Lを発振して、加工を開始する。この際、液柱Wは粘着シート41に衝突して霧が発生するので、最初の実施例と同様にレーザ光Lを照射しない期間において、気体噴射ノズル26から圧縮空気を噴射して液柱Wを横切る気流を形成するとともに吸引ノズル27に負圧を作用させて霧を吸引する。
このような第2実施例であっても、上述した第1の実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0025】
次に、図5は本発明の第3実施例のレーザ加工装置1を示したものである。上述した2つの実施例においては、多孔質部材17の下面に負圧を作用させて付着した水滴を多孔質部材17を介して内側に吸引するように構成していたが、この第3実施例においては多孔質部材17から外部に気体を噴出可能に構成したものである。この第3実施例においては、圧縮空気の供給源32と電磁開閉弁37との間の導管31を分岐管51を介して保持部材18の通路18cに接続し、上記分岐管51に圧力調整手段52と制御手段10により作動を制御される電磁開閉弁53を設けている。そして、電磁開閉弁53を開放すると供給源32からの圧縮空気が保持部材18の内室21を通って多孔質部材17から外部へ噴出するようになっている。このような構成の第3実施例において、被加工物3を切断加工する場合、噴射ノズル12から液体を噴射している間は常に多孔質部材17から気体を噴出させるようにし、レーザ光Lを照射する際にも気体は噴出する。その圧力は液柱Wの形成に影響を与えない程度となっている。
このような第3実施例においても上述した第1、第2の実施例と同様の作用・効果を得ることができる。
【0026】
なお、上記実施例における多孔質部材17、内室21、導管22および負圧発生手段23は省略しても良いし、さらに上記仕切板24も省略しても良い。
また、上記実施例における吸引ノズル27と導管34、および電磁開閉弁35は省略しても良い。
また、上記気体噴射ノズル26として、2つのノズル26A、26Bを設けているが、1つであってもよく、また、その噴射口の形状を上下に細長く形成したものでもよい。
【符号の説明】
【0027】
1‥レーザ加工装置 2‥加工ヘッド
3‥被加工物 4‥加工テーブル
5‥レーザ発振器 6‥液体供給手段
12a‥噴射孔 26‥気体噴射ノズル
W‥液柱 L‥レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工ヘッドから液体を噴射して液柱状態としてから液柱内にレーザ光を導光して被加工物に照射して、該被加工物に所要の加工を施すようにしたレーザ加工方法において、
液柱を噴射した状態において気体を吹き付けて液柱を横切る気流を形成して、上記液柱の周囲の霧を除去し、その後、気体の吹き付けを停止してから液柱状態の液体内にレーザ光を導光して被加工物に照射することにより、被加工物に加工を開始して、該被加工物に所要の加工を施すことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
上記レーザ光を照射する前に上記加工ヘッドの下部に向けて気体を吹きつけて、上記加工ヘッドの下部に付着した液体を除去することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
上記気体は0.1MPa以下の圧力で液柱状態の液体に吹き付けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
液体の噴射孔を有する加工ヘッドと、該加工ヘッドに加圧液体を供給する液体供給手段と、レーザ光を発振するレーザ発振器と、上記液体供給手段及びレーザ発振器の作動を制御する制御手段とを備え、
上記液体供給手段から加工ヘッドに加圧液体を供給して上記噴射孔から液体を噴射して液柱状態にしてから該液柱にレーザ光を導光して被加工物に照射することにより、被加工物に所要の加工を施すようにしたレーザ加工装置において、
上記噴射孔から噴射された液柱を横切る気流を形成するために気体を吹き付ける気体噴射ノズルを設けるとともに、上記制御手段により上記気体噴射ノズルからの気体の吹き出しを制御するようにし、該制御手段は、上記噴射孔から液柱が噴射された状態において上記気体噴射ノズルから気体を吹き出させて液柱の周囲の霧を除去し、その後、気体噴射ノズルからの気体の吹き出しを停止させてから液柱状態の液体内にレーザ光を導光して被加工物に照射することにより被加工物の加工を開始することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項5】
上記気体噴射ノズルは加工ヘッドから被加工物までの間の範囲で気流を形成することを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−240730(P2010−240730A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95503(P2009−95503)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】