説明

レーザ加工方法

【課題】透明導電膜の溶融だれ、結晶化、不純物の再分布の低減と、狭い幅のスクライブ溝による充分な絶縁性の確保とにより、太陽電池の発電効率の向上への寄与を可能とするレーザ加工方法を得ること。
【解決手段】被処理基板5に形成された透明導電膜42の一部をレーザ加工により除去する工程において、被処理基板5のうち透明導電膜42の下層に位置する水素放出膜44に、被処理基板5へのレーザ光の照射によるエクスプロージョンを生じさせて、水素放出膜44とともに透明導電膜42の一部を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法、特に、半導体装置の製造のためのレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、より一層の普及のために、製造コストの低減や発電効率の向上が極めて重要な課題となっている。太陽電池は、パネルに溝を形成することで電気的に分割された短冊状の発電層を直列に接続し、所望の電圧を得る構成とされる。この溝は、スクライブ溝と呼ばれる。製造コストの低減のためには、スクライブ溝の加工において、リソグラフィーやエッチング等の高コストな方法を採用することは適切とはいえない。スクライブ溝の加工には、一般に、レーザ照射により必要な部分だけを取り除くレーザ加工が用いられている。
【0003】
また、発電効率の向上のためには、パネル上で発電に寄与しない部分の面積をできるだけ少なくすること、すなわち開口率を向上させることが必要となる。開口率を向上させるには、スクライブ溝の幅はできるだけ狭くすることが望ましい。ただし、スクライブ溝での絶縁が不十分であると、隣接する発電層の間でリークパスが生じ、光電変換特性の低下を招くことになる。スクライブ溝の加工にて残渣が生じる場合、狭く形成されたスクライブ溝によって充分な絶縁を確保することが困難となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、ビーム断面の出力強度分布が均一化されたレーザビームを使用することで、スクライブ溝の加工による残渣を低減する技術が提案されている。スクライブ溝の絶縁性を高めることにより、狭いスクライブ溝によって充分な絶縁の確保を図り得る。スクライブ溝の加工に小さいビーム径のレーザビームを使用することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−118058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクライブ溝は、レーザビームのパルス照射によるアブレーションもしくはエクスプロージョン効果を利用して所望の部分の膜を取り除くことにより形成される。一般に、直線状のスクライブ溝を形成するには、ある位置にレーザビームを照射した後、ビーム径以下の距離だけ対象位置を移動させて再度レーザビームを照射するという処理を繰り返す。スクライブ溝は、レーザビームによる円形の照射痕を多数連ならせて、直線状に形成される。充分な絶縁のために必要となる溝幅を得るには、その溝幅より大きなビーム径のレーザビームでの加工を要することとなる。レーザビームを照射する位置の間隔をできるだけ狭くすることで、必要な溝幅に近くなるようにレーザビームのビーム径を小さくすることが可能となる。この場合、スループットの大幅な低下を避けることができず、最終的にはコストの増大を招くことになる。
【0007】
また、透明導電膜、例えばZnOなどのTCO膜は、YAGレーザの基本波であるIRレーザ光を用いて、アブレーション効果により除去する。ZnOは融解してから蒸発するまでの間に液体の状態を経ることから、溶融だれと呼ばれる残渣が残り易い。除去すべき部分を蒸発させる際、その周辺の残存させる部分も温度が上昇するために、溶融だれのほか、結晶化、不純物の再分布(拡散、偏析)などの問題も生じる。これらの問題が最小限となるよう、レーザのパワー、パルス周波数、ビーム径などの条件を最適化することは容易ではなく、結果として、スクライブ溝は溝幅に充分な余裕を持たせて構成されることとなる。このように、狭い溝幅のスクライブ溝を太陽電池に適用することには多大な困難を伴う。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、透明導電膜の溶融だれ、結晶化、不純物の再分布の低減と、狭い幅のスクライブ溝による充分な絶縁性の確保とにより、太陽電池の発電効率の向上への寄与を可能とするレーザ加工方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、被処理基板に形成された透明導電膜の一部をレーザ加工により除去する工程において、前記被処理基板のうち前記透明導電膜に対して下層に位置する水素放出膜に、前記被処理基板へのレーザ光の照射によるエクスプロージョンを生じさせて、前記水素放出膜とともに前記透明導電膜の一部を除去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
エクスプロージョンを生じさせた水素放出膜とともに透明導電膜を除去するため、スクライブ溝の幅や形状は、レーザビームの形状ではなく水素放出膜の形状で決まる。水素放出膜が水素を放出する温度は透明導電膜の融点より低いことから、透明導電膜は融解せずに固体のまま除去される。融解を経ずに透明導電膜を除去することで、溶融だれの発生を防ぐことができ、スクライブ溝の溝幅を狭くしても充分な絶縁性を確保することが可能となる。また、除去部分の周辺の温度上昇も低減可能であることから、透明導電膜の結晶化、不純物の再分布も低減することができる。これにより、太陽電池の発電効率の向上への寄与が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかるレーザ加工方法を適用するレーザ加工装置の概略構成図である。
【図2】図2は、被処理基板のうち加工を施す部分およびその周辺部分の断面模式図である。
【図3】図3は、H放出膜、透明導電膜のうちH放出膜の上層部分の除去について説明する図である。
【図4】図4は、実施の形態のレーザ加工方法により形成されたスクライブ溝の形状を示す上面図である。
【図5】図5は、実施の形態の比較例にかかるレーザ加工方法により形成されたスクライブ溝の形状を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかるレーザ加工方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態.
図1は、本発明の実施の形態にかかるレーザ加工方法を適用するレーザ加工装置の概略構成図である。被処理基板5は、本実施の形態にかかるレーザ加工方法による加工対象であって、例えば太陽電池パネルである。
【0014】
処理室1は、レーザ加工を実施するための空間をなす筐体であって、被処理基板5を収容可能に形成されている。処理室1は、所定条件下でのレーザ加工のために、内部空間を装置外部から隔絶し、内部の雰囲気および圧力を維持する。また、処理室1は、内部で発生するレーザ光やその他の光が外部に漏れないように遮断する機能を有する。
【0015】
ゲートバルブ2は、被処理基板5を処理室1に導入する際に開かれ、被処理基板5が処理室1に導入された後に閉じられる。ゲートバルブ3は、処理室1から被処理基板5を導出する際に開かれ、処理室1から被処理基板5が導出された後に閉じられる。ゲートバルブ2、3は、閉じられることにより処理室1を密閉し、処理室1内の雰囲気および圧力の維持、レーザ光等の外部への漏れ防止の機能を果たす。
【0016】
搬送コンベア4は、処理前の被処理基板5を処理室1内に搬入し、処理後の被処理基板5を処理室1外へ搬出する。また、搬送コンベア4は、処理室1内において被処理基板5を支持する。
【0017】
ガス供給装置6および排気ポンプ7は、処理室1内の雰囲気と圧力を、ガス供給量および排気量によって制御する。ガス供給装置6は、目的に応じて、Ar、Heなどの希ガス、Nなどの不活性ガス、ドライエアーや大気、OやOなどの酸化性ガス、その他の反応性ガスなど、所望のガスを供給する。排気ポンプ7は、排気量に応じて、処理室1内の圧力を制御する。
【0018】
可視光レーザ21は、被処理基板5のうち加工を施す部分に集光させたレーザ光を照射する機能を有する。可視光レーザ21は、可視領域の波長のレーザ光、例えば、YAG(YAl12)レーザの第二高調波(波長532nm(緑色))を射出する。なお、図1には、可視光レーザ21からのレーザ光を被処理基板5の下側から照射するものとして示しているが、上側から照射するものとしても良い。また、可視光レーザ21は、被処理基板5の任意の位置にレーザ光を照射できるように、処理室1内を移動可能に構成されている。被処理基板5の任意の位置を加工するには、可視光レーザ21を移動する他、可視光レーザ21を固定し被処理基板5を移動することとしても良く、可視光レーザ21および被処理基板5の双方を移動することとしても良い。
【0019】
図2は、被処理基板のうち加工を施す部分およびその周辺部分の断面模式図である。被処理基板5は、スーパーストレート型薄膜太陽電池基板である場合、一般に、ガラス基板41の上に、透明導電膜(透明電極)42が形成される。透明導電膜42の上には、さらに発電層や反射電極が形成される。本発明にかかるレーザ加工は透明導電膜42に関するものであり、発電層や反射電極が形成される前の状態で実施される。
【0020】
本実施の形態では、アモルファスシリコンなどのレーザ加工に一般的に用いられている可視光レーザ21を使用することにより、透明導電膜42と発電層などとで同じ発振波長によるレーザ加工が可能となる。透明導電膜42の加工と発電層などの加工とで、共通のレーザ本体、レーザ光の導出のための光学系などを使用しても良い。
【0021】
水素(H)放出膜44は、被処理基板5のうち透明導電膜42の下層に位置する。H放出膜44は、所望のスクライブ溝の位置において、ライン状に形成されている。図2では、H放出膜44は、ラインに直交する断面として示している。H放出膜44は、透明導電膜42のうち除去の対象である箇所のみに設けられている。
【0022】
H放出膜44は、例えばアモルファスシリコン(a−Si)など、Hを含有した物質である。H放出膜44は、可視レーザ光の照射により、例えば600度以下でHを放出する。H放出膜44は、比較的多量のHを含有し、可視レーザ光の照射によりHを放出する特性の膜であれば、いずれの物質であっても良い。H放出膜44は、a−Siの他、例えば、a−SiN、a−SiO、a−SiO、a−SiGe、a−SiC、a−SiON、a−SiOCなどのアモルファスシリコン化合物であっても良い。H放出膜44のH濃度は、例えば、1×1021個/cmから2×1022個/cmである。H放出膜44の厚さは、例えば、1nmから100nmである。
【0023】
H放出膜44のライン幅Dは、形成するスクライブ溝の幅に応じて、例えば5μmから60μm程度とされている。H放出膜44は、例えば、化学気相成長法(CVD)やスパッタリング法によってガラス基板41の全面に形成された後、写真製版法によるパターニングを経て形成される。なお、H放出膜44は、半導体プロセスで用いられる膜のように、欠陥や不純物などが少なく電気特性に優れた膜であることを要しない。このため、H放出膜44の形成には、大面積であっても比較的低コストで、膜形成とパターニングとを同時に可能とする方法、例えばスクリーン印刷などを選択しても良い。
【0024】
透明導電膜42は、H放出膜44の形成後、ガラス基板41およびH放出膜44の全面に形成される。透明導電膜42は、例えばスパッタリング法を用いて形成される。透明導電膜42を形成した後、透明導電膜42の一部をレーザ加工により除去することで、被処理基板5にスクライブ溝を形成する。本実施形態のレーザ加工方法では、被処理基板5へのレーザ光の照射によりH放出膜44にエクスプロージョン(飛散)を生じさせて、H放出膜44とともに透明導電膜42の一部を除去する。
【0025】
可視光レーザ21は、H放出膜44に向けてレーザ光を照射する。可視領域の波長のレーザ光を加工に使用することで、可視領域以外の波長の光を使用する場合に比べて、H放出膜44におけるレーザ光の吸収効率を高くすることが可能となる。これにより、H放出膜44を効率良く温度上昇させ、容易にHを放出させることができる。
【0026】
レーザビームのビーム径は、H放出膜44のライン幅Dより大きく設定されている。例えば、H放出膜44のライン幅Dが10μmである場合に、ビーム径は60μm程度としても良い。本実施の形態ではH放出膜44の全体にレーザビームが入射すれば良く、ビームスポットがH放出膜44からはみ出しても良い。従来形成されるスクライブ溝よりも狭いライン幅DのH放出膜44に対しても、従来に比べてレーザ光の位置合わせの精度を控えることが可能となる。
【0027】
H放出膜44は、可視レーザ光を吸収し温度が上昇すると、Hを放出する、例えば、a−Siの場合、380度付近および580度付近で、Hの放出速度が極大値をとることが知られている。H放出膜44は、可視レーザ光の吸収により急激に温度が上昇し、Hの放出も急激に生じさせる。放出されたHは他のHとの結合によりHガスとなって、H放出膜44に急激な体積膨脹を生じさせる。
【0028】
H放出膜44が体積膨脹すると、結合力および密着力が最も弱い部分であるH放出膜44およびガラス基板41の界面からH放出膜44が剥離する。そして、図3に示すように、H放出膜44は、透明導電膜42のうちH放出膜44の上層部分とともに、被処理基板5から吹き飛ばされる。
【0029】
図4は、本実施の形態のレーザ加工方法により形成されたスクライブ溝の形状を示す上面図である。図5は、本実施の形態の比較例にかかるレーザ加工方法により形成されたスクライブ溝の形状を示す上面図である。レーザビームのビーム径Aは、透明導電膜42における照射領域51の径とする。従来の加工方法では、スクライブ溝52は、例えば、レーザビームの照射による透明導電膜42のアブレーションを利用して形成される。
【0030】
従来の加工方法では、ある位置にレーザビームを照射した後、ビーム径A以下の距離だけ対象位置を移動させて再度レーザビームを照射することを繰り返す。これにより、図5に示すように、レーザビームによる円形の照射痕を多数連ならせたスクライブ溝52を形成する。充分な絶縁のために必要となる溝幅Bを得るには、その溝幅Bより大きなビーム径A(B<A)のレーザビームを使用して加工を要することとなる。最大加工幅C(A<C)を小さくするためには、ビーム径Aを小さくし、かつ照射痕同士の重なりを多くすることで最大加工幅Cと溝幅Bとの差を小さくする必要が生じる。照射痕同士の重なりを多くするには、照射ショット数が増えることとなる。また、レーザビームの照射痕がスクライブ溝52の形状となるため、ビーム径Aが小さいほど、レーザ光の高精度な位置合わせを要する。その結果、スループットの大幅な低下を避けることができず、最終的にはコストの増大を招くことになる。
【0031】
本発明では、透明導電膜42自体のアブレーションやエクスプロージョンによらず、透明導電膜42のうち除去する部分の下層に設けられたH放出膜44のエクスプロージョンにより、透明導電膜42の一部を除去する。図4に示すように、スクライブ溝53の形状は、レーザビームの強度分布やビーム径には依存せず、H放出膜44の形状によって決まる。これにより、ビーム径Aのレーザビームを用いても、H放出膜44のライン幅とほぼ同じかつビーム径Aより小さい幅D(D<A)のスクライブ溝53を形成することが可能となる。
【0032】
透明導電膜42のうちH放出膜44が形成された箇所以外の部分にも可視レーザ光は照射するが、透明導電膜42は可視光をほとんど吸収しないことから、温度上昇をほとんど生じさせない。また、透明導電膜42は、下層のH放出膜44のエクスプロージョンによって除去されるため、H放出膜44によるHの放出温度である約600度以下までしか上昇しないこととなる。融解温度が例えば2260度である透明導電膜42は、融解せずに固体のままの状態で除去される。
【0033】
融解を経ずに透明導電膜42を除去可能とすることで、スクライブ溝53における溶融だれの発生を低減することができる。溶融だれの発生を抑制することで、スクライブ溝53は、小さい幅Dとしても絶縁性を充分確保することができる。また、透明導電膜42のうちスクライブ溝53の周辺に残存させる部分について温度上昇を抑制可能とすることで、結晶化、不純物の再分布(拡散、偏析)などの影響を少なくできる。さらに、透明導電膜42の膜厚や膜質に関わらず、レーザのパワー、パルス周波数、ビーム径などの条件の最適化を容易にすることが可能となる。
【0034】
以上により、本実施の形態によると、ビーム径Aの小さいレーザビームを用いなくても、充分な絶縁性を確保可能な、狭い幅Dのスクライブ溝53を形成することができる。スクライブ溝53の幅Dを狭くすること、結晶化や不純物の再分布を抑制することで、発電に寄与しない領域を減らし、開口率を向上させる。これにより、太陽電池の発電効率の向上への寄与が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上のように、本発明にかかるレーザ加工方法は、太陽電池におけるスクライブ溝の加工に適している。
【符号の説明】
【0036】
1 処理室
2、3 ゲートバルブ
4 搬送コンベア
5 被処理基板
6 ガス供給装置
7 排気ポンプ
21 可視光レーザ
41 ガラス基板
42 透明導電膜
44 水素放出膜
51 照射領域
52、53 スクライブ溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理基板に形成された透明導電膜の一部をレーザ加工により除去する工程において、
前記被処理基板のうち前記透明導電膜の下層に位置する水素放出膜に、前記被処理基板へのレーザ光の照射によるエクスプロージョンを生じさせて、前記水素放出膜とともに前記透明導電膜の一部を除去することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項2】
前記水素放出膜が、前記透明導電膜のうち除去の対象である箇所にのみ設けられていることを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記水素放出膜が、アモルファスシリコンおよびアモルファスシリコン化合物のいずれかからなることを特徴とする請求項1または2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ光が可視領域の波長のレーザ光であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記レーザ光がYAGレーザの第二高調波であることを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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