レーザ加工装置とレーザ加工方法とそれにより加工された液滴吐出ヘッド及び画像形成装置
【課題】被加工物のレーザエッチング位置周辺に加工副生成物が付着しないように加工するとともにレーザ光束の照射エネルギ損失を低減する。
【解決手段】被加工物12と被加工物13を加工するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を光路切替装置5で第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて被加工物12と被加工物13に入射してレーザ光束を被加工物12と被加工物13に断続的に照射し、加工部に加工副生成物が付着することを防いで加工精度を向上させる。被加工物12と被加工物13にレーザ光束を断続的に照射するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しないで第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて入射し、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を効率よく利用して生産性を大幅に向上させる。
【解決手段】被加工物12と被加工物13を加工するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を光路切替装置5で第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて被加工物12と被加工物13に入射してレーザ光束を被加工物12と被加工物13に断続的に照射し、加工部に加工副生成物が付着することを防いで加工精度を向上させる。被加工物12と被加工物13にレーザ光束を断続的に照射するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しないで第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて入射し、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を効率よく利用して生産性を大幅に向上させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種部品や半導体デバイス等の被加工物に対して微細加工を行うレーザ加工装置とレーザ加工方法とそれにより加工された液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工によって被加工物に対して微細加工を行う場合、エキシマレーザあるいはYAGレーザの高調波を用いるのが一般的である。これらの加工方法においては、レーザ光のエネルギ密度は発振パルスにおいて最大でも100メガワットのレベルでしかないため、特に無機材料からなる被加工物においては加工が困難であり、主に有機樹脂材料からなる被加工物に対する光アブレーション加工しかできなかった。このため無機材料からなる被加工物に微細加工を施す場合には、リソグラフィープロセスを用いて個々の異材質材料に対してそれぞれレジストコート、レジストパターニング露光、レジスト現像、レジストパターンを利用したエッチング、レジストアッシング等の一連のプロセスにより加工をしている。このような加工方法による場合には、加工工程が複雑になることからコスト的な問題が生じ、また工程タクトタイムに対して生産設備投資が膨大になるといった問題点がある。
【0003】
このような問題点を改善するため、特許文献1等に示すように、被加工物に微細加工を行う場合、1ピコ秒以下のパルス放射時間でレーザ光を出力するレーザ発振器から発振されたレーザ光の時間的エネルギ密度が飛躍的に高い特徴と、レーザの照射時間が非常に短いためレーザ光が熱エネルギとして変換されず格子結合切断エネルギに直接変換される特性とを利用して光アブレーション加工するレーザ加工方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2や特許文献3には、被加工物のレーザエッチングにおいて、エッチング位置周辺に加工副生成物が付着しないように、被加工物へのレーザ光の照射インターバルを設定するなどの手段を用いるレーザ加工方法が提案されている。
【0005】
このレーザ加工装置の光学系は、図12に示すように、1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的・時間的なエネルギ密度の大きい光パルスを連続放射する極短パルスレーザ発振器2から放射されたレーザ光束をフィールドレンズ、コンデンサレンズ等を含むマスク照明光学系6によってフォトマスク7を照明し、フォトマスク7上に形成されたマスクパターンを通過したレーザ光束を投影結像レンズ8によって被加工物61にフォーカス投影してレーザ発振によって被加工物を加工するようにしている。このような構成のレーザ加工装置に用いられる1ピコ秒以下のパルス発振時間幅でレーザを放出するレーザ発振器は、縦モード同期法を用いたレーザ発振器である。
【0006】
このレーザ加工方法では、被加工物にアブレーションを引き起こしてエッチング加工することは可能であるが、加工材料によっては昇華され気化した原子または分子粒子が瞬時に再結合を起こしてしまい、エッチング位置またはその近傍の周辺に液化して付着し、それが固化して固まってしまい加工精度が劣化するとともに加工副生成物の付着によってエッチングを妨げてしまうという問題を生じさせてしまう。
【0007】
このエッチング位置周辺に加工副生成物が付着することを防止するため、図12に示すように、光学系に光透過遮断が制御可能な光遮断装置60を設け、この光遮断装置60で極短パルスレーザ発振器2から放射されたレーザ光束の透過と遮断を制御して、図13に示すように、パルスレーザ発振周波数よりも長い時間のインターバルにより被加工物へレーザ光を間欠照射している。この光遮断装置としては回転チョッパ型の機械的繰り返しシャッタや機械的電磁開閉シャッタ又は電気制御可能な液晶シャッタや、音響光学素子(AOM)や電気光学素子による光偏向による光直進状態をオンし、光回折効果による光偏向状態をオフして光の進行方向を変える素子を用いている。
【特許文献1】特開2001−198684号公報
【特許文献2】特許第3754890号公報
【特許文献3】特開2001−232487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように光遮断装置によりレーザ光束の透過と遮断を制御していると、レーザ光束を遮断している非照射状態が大きい比率を占めることとなり、発振照射エネルギの損失が大きくなり効率的でないという不具合が生じる。
【0009】
この発明は、このような不具合を解消し、被加工物のレーザエッチングにおいて、エッチング位置周辺に加工副生成物が付着しないように加工することができるとともにレーザ光束の照射エネルギ損失を低減することができるレーザ加工装置とレーザ加工方法とそれにより加工された液滴吐出ヘッド及び液滴吐出ヘッドを有する画像形成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のレーザ加工装置は、1ピコ秒以下のパルス出射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を被加工物に照射し、光アブレーション加工を行うレーザ加工装置であって、前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替える光路切替装置と、該光路切替装置で切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射する複数の光学系を有することを特徴とする。
【0011】
前記光路切替装置は回転ミラーを有する。また、前記光路切替装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の回折効果によりレーザ光を時間的にずらして切り替えても良い。
【0012】
また、前記レーザ発振器と前記光路切替装置との間の光路中に、前記光路切替装置でレーザ光の光路切り替え中のときに前記レーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断する光遮蔽装置を有することが望ましい。
【0013】
前記光遮蔽装置は機械的電磁チョッパや電気的液晶シャッタを有する。また、光遮蔽装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の光回折効果により光を遮断しても良い。
【0014】
さらに、前記光路切替装置に音響光学変調器又は電気光学変調器を使用し、レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えるとともにレーザ光の光路切り替え中のときにレーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断しても良い。
【0015】
この発明のレーザ加工方法は、1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替え、切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射することを特徴とする。
【0016】
この発明の液滴吐出ヘッドは、前記レーザ加工方法により、液滴を吐出する複数のノズルを有するノズル形成部材と前記ノズル板のノズルに対応した液室を有する流路板形成部材とを積層したノズル・流路板ユニットの液通路を加工して形成したことを特徴とする。
【0017】
この発明の液滴吐出装置は、前記液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする。
【0018】
この発明の画像形成装置は、前記液滴吐出装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明のレーザ加工装置は、1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的時間的なエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替えて被加工物に照射することにより、レーザ発振器からのレーザ光を効率良く利用することができる。
【0020】
また、レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えて被加工物に断続的に照射することにより、被加工物の加工位置周辺に加工副生成物が付着することを防ぐことができ、低コストで高品質な加工物を提供することができる。
【0021】
このレーザ発振器から出射されたレーザ光を、回転ミラーを有する光路切替装置で複数の光路に時間的にずらして切り替えることにより、簡単な構成で光路を分割でき、低コストで、かつレーザエネルギの損出を低減することができる。
【0022】
また、光路切替装置として音響光学変調器又は電気光学変調器を使用することにより、機械的な動作部分が無くなることから高速な光路切り替えを行うことができる。
【0023】
さらに、光路切替装置でレーザ光の光路切り替え中のときに、光遮蔽装置でレーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断することにより、光路を切り替える間や加工インターバルの間、一時的にレーザ光束を遮断することができ、光路切り替え時に不要な部分をレーザ照射することを防ぐことができる。また、レーザ発振器を連続発振させているので、レーザ光束の発振パルス時間及び出力エネルギの安定性を高めることができる。
【0024】
この光遮蔽装置として機械的電磁チョッパを使用することにより、簡単な構成でレーザ光を低コストで遮断することができる。
【0025】
また、光遮蔽装置として電気的液晶シャッタを使用することにより、機械的な動作部分がなく応答性が良いことから、長期間にわたり安定してレーザ光を遮断することができる。
【0026】
さらに、光遮蔽装置として音響光学変調器又は電気光学変調器を使用することにより、レーザ光の遮断や通過を高速に切り替えることができる。
【0027】
また、光路切替装置に音響光学変調器又は電気光学変調器を使用し、レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えるとともにレーザ光の光路切り替え中のときにレーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断することにより、装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0028】
このレーザ加工装置により、液滴吐出ヘッドの液滴を吐出する複数のノズルを有するノズル板を形成するノズル形成部材とノズル板のノズルに対応した液室を有する流路板を形成する流路板形成部材とを積層したノズル・流路板ユニットの液通路を加工することにより、ノズル等の液通路を高精度に、かつ高速で加工することができる。
【0029】
この液滴吐出ヘッドを液滴吐出装置に使用することにより、安定して液滴吐出を行うことができる。
【0030】
また、液滴吐出ヘッドをプリンタ装置やファクシミリ装置や複写装置等の画像形成装置に使用することにより、安定した吐出精度でインク滴を吐出させることができ、良質な画像を安定して形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、この発明のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。図に示すように、レーザ加工装置1は、1ピコ秒以下のパルス出射時間にて空間的・時間的なエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射する極短パルスレーザ発振器(以下、レーザ発振器という)2と2系統の光学系3,4及び光路切替装置5を有する。第1の光学系3と第2の光学系4は、それぞれフィールドレンズとコンデンサレンズ等を含むマスク照明光学系6とフォトマスク7及び結像レンズ8を有する。光路切替装置5は回転ミラー9と固定ミラー10を有し、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を第1の光学系3と第2の光学系4に切り替える。回転ミラー9は、レーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路に設けられ、例えばガルバノメーター等により回転軸11を回転中心として回動して、反射面をレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光軸と平行でレーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しないで第1の光学系3に導く位置と、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を反射して90度偏向させる位置に切り替える。固定ミラー10は回転ミラー9で反射したレーザ光束を反射して90度偏向させ、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を第2の光学系4に導く。この光路切替装置5を構成する回転ミラー9と固定ミラー10は、使用するレーザ光の波長に適合した誘電体多層膜ミラーが適しているが、一般的なアルミ蒸着ミラーなどを使用しても良い。
【0032】
このレーザ加工装置1で被加工物12と被加工物13を微細加工するときは、レーザ発振器2を連続発振してフェムト秒レーザのレーザ光束を出射する。この状態で光路切替装置5の回転ミラー9をあらかじめ定めた一定タイミング毎に間欠的に回動し、レーザ発振器2から出射されたレーザ光束を第1の光学系3と第2の光学系4に切り替える。第1の光学系3に入射したレーザ光束はマスク照明光学系6aによってフォトマスク7aを照明し、フォトマスク7aに形成されたマスクパターンを通過したレーザ光束を結像レンズ9aによって被加工物12に集光して被加工物12を加工する。第2の光学系4に入射したレーザ光束はマスク照明光学系6bによってフォトマスク7bを照明し、フォトマスク7bに形成されたマスクパターンを通過したレーザ光束を結像レンズ9bによって被加工物13に集光して被加工物13を加工する。
【0033】
この被加工物12と被加工物13を加工するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を光路切替装置5で第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて被加工物12と被加工物13に入射するから、図2に示すように、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を被加工物12と被加工物13に断続的に照射することができ、加工部に加工副生成物が付着することを防いで加工精度を向上することができる。また、被加工物12と被加工物13にレーザ光束を断続的に照射するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しないで第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて入射するから、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を効率よく利用することができ、生産性を大幅に向上することができる。
【0034】
さらに、レーザ発振器2を連続発振させているので、レーザ光束の発振パルス時間及び出力エネルギの安定性を高めることができる。
【0035】
前記説明では、第1の光学系3と第2の光学系4で2つの被加工物12と被加工物13を加工する場合について説明したが、図3の構成図に示すように、第1の光学系3と第2の光学系4で1つの被加工物14を加工することもできる。すなわち、第1の光学系3と第2の光学系4はコンパクトな形状に形成することが可能であり、比較的小形な被加工物14であっても第1の光学系3と第2の光学系4からレーザ光束を照射して加工でき、被加工物14を移動するためのXYテーブルが1台ですみ、装置を小型化して複数の加工パターンがある被加工物14を効率良く加工することができる。
【0036】
また、前記説明では光路切替装置5でレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を2系統に切り替える場合について説明したが、光路切替装置5の回転ミラー9の回転角度を複数段階に切り替えて停止できるようにしてレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を複数系統に切り替え、各光路に第1の光学系3と第2の光学系4と同様な光学系を設けることにより、複数の個所を同時に加工することができる。
【0037】
さらに、前記説明では、光路切替装置5の回転ミラー9を例えばガルバノメーター等により回動してレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を切り替える場合について説明したが、ポリゴンミラーを使用してレーザ光束の光路を切り替えたり、電気制御可能な音響光学素子(AOM)あるいは電気光学素子(EOM)を使用してレーザ光束の光路を切り替えても良い。音響光学素子や電気光学素子を使用した場合には、より高速な光路切替を行うことができる。また、音響光学素子や電気光学素子を使用した場合には回折角度が回転ミラー9による場合より小さくなるため、回折後の光路に必要に応じて固定ミラー等を設けると良い。
【0038】
また、レーザ加工装置1はレーザ発振器2から出射したレーザ光束を光路切替装置5に直接入射した場合について説明したが、図4の構成図に示すように、レーザ発振器2と光路切替装置5との間に光遮断装置15を設けて、光路切替装置5の回転ミラー9が回転中のようにレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を第1の光学系3と第2の光学系4の間で切り替え中のときに、この光路切り替えに同期して光遮蔽装置15でレーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しても良い。このようにレーザ光束の光路切り替えに同期してレーザ光束を遮断することにより、レーザ光束の光路を切り替えているときに、瞬間的であるが反射されたレーザ光束が不必要な部分に照射されてしまうことを防止することができる。この光遮蔽装置15としては、チョッパ型の機械的電磁シャッタや電気制御可能な液晶シャッタや音響光学素子又は電気光学素子などを使用すれば良い。
【0039】
また、光路切替装置5に音響光学素子又は電気光学素子を使用した場合、音響光学素子や電気光学素子は、機械的動作を伴わないから高速に動作可能であり、かつ、レーザ光束を複数の回折角度に回折することができるから、光路切り替えと光遮断の両方の機能を持たせても良い。
【0040】
このレーザ加工装置1で被加工品14として例えばインクジェット方式等の画像形成装置に使用する液滴吐出ヘッドのノズルを加工する場合について説明する。
【0041】
液滴吐出ヘッド20は、図5の液室長手方向に沿う部分断面図と図6の液室短手方向に沿う部分断面図に示すように、単結晶シリコン基板で形成した流路板21と、流路板21の下面に接合した振動板22と、流路板21の上面に接合したノズル板23及びフレーム部材24を有し、これらによってノズル板23に設けられインク滴を吐出するノズル25にノズル連通路25aを介して連通する加圧液室26と、加圧液室26に供給するインクのインク供給路である流体抵抗部27及びフレーム部材24に設けられてインクを貯溜する共通液室28から流体抵抗部27にインクを供給するインク供給口29とを形成している。
【0042】
振動板22の各加圧液室26とは反対側の面には、加圧液室26内のインクを加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての積層型圧電素子30を接合し、この圧電素子30をベース基板31に接合している。圧電素子30の間には加圧液室26間の隔壁部に対応して支柱部32を設けている。この圧電素子30と支柱部32は、圧電素子部材にハーフカットのダイシングによるスリット加工を施して櫛歯状に分割して、1つ毎に圧電素子30と支柱部32を形成している。この支柱部32の構成は圧電素子30と同じであるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。振動板22の外周部はフレーム部材24にギャップ材を含む接着剤33にて接合している。このフレーム部材24には共通液室28に外部からインクを供給するためのインク供給穴34を有する。
【0043】
ノズル板23には各加圧液室26に対応して直径10〜35μmのノズル25を形成し、ノズル面(吐出方向の表面;吐出面)には、撥水性の表面処理を施した撥水処理層を設けている。圧電素子30は、厚さ10〜50μm/1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電層35と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極層36とを交互に積層したものであり、内部電極36を交互に端面の端面電極(外部電極)である個別電極37と共通電極38に電気的に接続している。ここで圧電素子部材の一端面の端面電極はハーフカットによるダイシング加工で分割されて個別電極37となり、他端面の端面電極は切り欠き等の加工による制限で分割されずにすべての圧電素子30で導通した共通電極38となる。この圧電素子30の個別電極37には駆動信号を与えるために半田接合又はACF(異方導電性膜)接合若しくはワイヤボンディングでFPCケーブル39を接続し、このFPCケーブル38には各圧電素子30に選択的に駆動波形を印加するための駆動回路(ドライバIC)を接続している。また、共通電極38は、圧電素子の端部に電極層を設けて回し込んでFPCケーブル39のグラウンド(GND)電極に接続している。
【0044】
このように構成した記録ヘッド20において、例えば、記録信号に応じて圧電素子30に駆動波形(10〜50Vのパルス電圧)を印加すると、圧電素子30に積層方向の変位が生じ、振動板22を介して加圧液室26内のインクが加圧されて圧力が上昇し、ノズル25からインク滴を吐出する。その後、インク滴吐出の終了に伴い、加圧液室26内のインク圧力が低減し、インクの流れの慣性と駆動パルスの放電過程によって加圧液室26内に負圧が発生してインク充填行程へ移行する。このときサブタンクから供給されたインクは共通液室28に流入し、共通液室28からインク供給口29を経て流体抵抗部27を通り加圧液室26内に充填される。この流体抵抗部27は、吐出後の残留圧力振動の減衰に効果が有る反面、表面張力による最充填(リフィル)に対して抵抗になる。そこで流体抵抗部27の流体抵抗値を適宜に選択することで、残留圧力の減衰とリフィル時間のバランスが取れ、次のインク滴吐出動作に移行するまでの時間(駆動周期)を短くできる。
【0045】
この液滴吐出ヘッド20の流路板21とノズル板23にノズル連通路25aとノズル25をレーザ加工装置1で加工する場合は、図7に示すように、流路板形成部材41とノズル形成部材42をエポキシ系接着剤43で接合し、ノズル形成部材42の表面にフッ素系の撥水膜44をコーティングしてノズル・流路板ユニット45を形成する。そして撥水膜44の表面に粘着剤46付き保護フイルム47を貼り付ける。なお、簡略化のため流路板形成部材41には加圧液室26が記載されていないが、流路板形成部材41にはあらかじめ加圧液室26となる凹部が形成されている。
【0046】
そして、流路板形成部材41側からレーザ加工装置1でフェムト秒レーザのレーザ光を照射して単結晶シリコン基板で形成した流路板形成部材41とエポキシ系接着剤43とノズル形成部材42及び撥水膜44を順次エッチングしてノズル連通口25aとノズル25を構成するノズル孔48を保護フイルム47の中間まで形成する。このようにノズル孔48を保護フイルム47の中間まで形成することにより、ノズル形成部材42のノズル孔出口部分を綺麗に加工することができ、ノズル25の加工精度を向上することができる。ここでノズル孔48を1個分だけ図示しているが、実際にはノズル孔48の加工効率を向上するため複数のノズル孔48を必要な数だけ加工実施する。
【0047】
このようにノズル孔48の加工効率を向上するため、図8(a)に示すように、例えば、約500×1000mmの樹脂シート49を単位として撥水膜41を形成した後、例えば約150×120mmのサイズを有する複数のノズル形成部材42を形成するためのフィルムシート50に切断する。一方、図8(b)に示すように、例えば6インチのシリコンウエハ51に、流路板形成部材41となる領域を割り付けて、一般的に知られている半導体製作用のフォトリソプロセス等を用いて、流路板形成部材41となる部分に所定の液室パターンを形成する。なお、図8(b)は6インチウエハに42個の流路板形成部材41のチップを割り付ける配列例を示している。その後、シリコンウエハ51のノズル形成部材42と接合する面に接着剤薄膜転写装置等でエポキシ接着剤43を1〜2μmの厚さで塗布し、樹脂シート49を切断して形成したフィルムシート50を貼り付ける。このフィルムシート50の貼り付けについては、精度の高い位置合わせは必要でなく、流路板形成部材41のチップ領域からフィルムシート50が外れない程度の位置合わせで良い。なお、ここで用いる接着剤としては、エポキシ系接着剤(例えば、日本エイブルスティック社製のエポキシ系1液接着剤「Ablebond GA−4」(商品名))などが適している。また、これらの接着剤の硬化に必要とされる加熱温度は、通常50℃から70℃程度とそれほど高くないため、ノズル形成部材42と流路板形成部材41との熱膨張係数差はここでは問題にならない。このようにして、シリコンウエハ51とフィルムシート50を接合一体化したノズル・流路板ユニット集合体48に対して、保護フイルム43を貼り付けた後、レーザ加工装置1でフェムト秒レーザのレーザ光束を照射してノズル孔48の加工を行う。その後、例えば、一般的なICの製造工程で用いられるダイシング工程を応用して個々のチップに切断してノズル25とノズル連通路25aを有するノズル板23と流路板21を形成する。
【0048】
このレーザ加工装置1によりフェムト秒レーザ加工でノズル25とノズル連通路25aが形成されたノズル板23と流路板21を有する液滴吐出ヘッド20を使用した画像形成装置について説明する。
【0049】
画像形成装置100は、図9の斜視図に示すように、装置本体101と、装置本体101に装着され記録用紙を収容する給紙トレイ102と、装置本体101に装着され画像が記録(形成)された記録用紙をストックする排紙トレイ103とを有する。装置本体101の上側には上面カバー104を開閉可能に設けている。また、装置本体101の前面の一端部には、前方側に突き出し、上面カバー104よりも低い位置にカートリジ装填部105を有し、このカートリッジ装填部105の上面に操作キーや表示器などの操作部106が設けられている。カートリッジ装填部105は、その前面に開閉可能な前カバー107を有し、前カバー107を開状態にすることにより、液体補充手段としてのインクカートリッジ108を脱着できるようになっている。
【0050】
この画像形成装置の機構部は、図10の側面構成図と図11の平面構成図に示すように、装置本体101の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド111とステー112とによりキャリッジ113を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータによってキャリッジ主走査方向に移動走査する。このキャリッジ113には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する4個のインクジェットヘッドからなる液滴吐出ヘッド20を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0051】
また、キャリッジ113には、液滴吐出ヘッド20に各色のインクを供給するための各色の液体容器であるサブタンク114を搭載している。このサブタンク114にはインク供給チューブを介して各色のインクカートリッジ108からインクが補充供給される。ここで、インクカートリッジ108は、それぞれ各色に対応してイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインクを収容している。これらの液滴吐出ヘッド20にインクを供給するためのサブタンク114と、このサブタンク114にインクを補充供給するインクカートリッジ108とによって記録液供給装置を構成している。
【0052】
給紙トレイ102の用紙積載部(圧板)115上に積載した記録用紙116を給紙するための給紙部として、用紙積載部115から記録用紙116を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)117と、給紙コロ117に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド118を備え、この分離パッド118は給紙コロ117側に付勢されている。
【0053】
この給紙トレイ102から給紙された記録用紙116をガイド119から記録ヘッド1の下方側で搬送するための搬送部として、記録用紙116を静電吸着して搬送するための搬送ベルト120と、給紙部からガイド119を介して送られる記録用紙116を搬送ベルト120との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ121と、略鉛直上方に送られる記録用紙116を略90度方向転換させて搬送ベルト120上に倣わせるための搬送ガイド122と、押さえ部材123で搬送ベルト120側に付勢された先端加圧コロ124とを備えている。また、搬送ベルト120表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ125を備えている。ここで、搬送ベルト120は、無端状ベルトであり、搬送ローラ126とテンションローラ127との間に掛け渡されて、図11に示すように、ベルト搬送方向に周回するように構成している。帯電ローラ125は、搬送ベルト120の表層に接触し、搬送ベルト120の回動に従って回転するように配置されている。
【0054】
搬送ベルト120の裏側には、記録ヘッド1による印写領域に対応してガイド部材128が配置されている。このガイド部材128は、上面が搬送ベルト120を支持する搬送ローラ126とテンションローラ127の接線よりも記録ヘッド1側に突出している。これにより、搬送ベルト120は印写領域ではガイド部材128の上面にて押し上げられてガイドされるので、高精度な平面性が維持される。
【0055】
液滴吐出ヘッド20で記録された記録用紙116を排紙するための排紙部として、搬送ベルト120から記録用紙116を分離するための分離爪129と排紙ローラ130及び排紙コロ131とを備え、排紙ローラ130の下方に排紙トレイ103を備えている。ここで排紙ローラ130と排紙コロ131との間から排紙トレイ103までの高さは排紙トレイ103にストックできる量を多くするためにある程度高くしている。
【0056】
また、装置本体101の背面部には両面給紙ユニット132が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット132は搬送ベルト120の逆方向回転で戻される記録用紙116を取り込んで反転させて再度カウンタローラ133と搬送ベルト120との間に給紙する。また、この両面給紙ユニット132の上面には手差し給紙部133が設けられている。
【0057】
さらに、図11に示すように、キャリッジ113の走査方向の一方の非印字領域には、液滴吐出ヘッド20のノズル25の状態を維持し、回復するための信頼性維持手段である維持回復機構134を配置し、他方の非印字領域には空吐出受け部材135を配置している。維持回復機構134には、液滴吐出ヘッド20のノズル面をキャピングするためのキャッピング手段である4個のキャップ部材136と、ノズル面をワイピングするためのワイピング手段であるワイパーブレード137及び空吐出受け部材138などを有する。
【0058】
この画像形成装置100においては、給紙トレイ102から1枚ずつ分離給紙されて略鉛直上方に給紙された記録用紙116はガイド119で案内され、搬送ベルト120とカウンタローラ121との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド122で案内されて先端加圧コロ124で搬送ベルト120に押し付けられ、略90度搬送方向を転換される。このとき、図示しない制御回路によって高圧電源から帯電ローラ125に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返す交番電圧が印加され、搬送ベルト120が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラスとマイナスが交互に帯電した搬送ベルト120に記録用紙116が静電吸着され、搬送ベルト120の周回移動によって記録用紙116が副走査方向に間欠的に搬送される。この状態でキャリッジ113を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド20を駆動することにより、停止している記録用紙116にインク滴を吐出して1行分を記録し、記録用紙116を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は記録用紙116の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、記録用紙116を排紙トレイ103に排紙する。
【0059】
また、両面印刷の場合には、表面(最初に印刷する面)の記録が終了したときに、搬送ベルト120を逆回転させることで、記録済みの記録用紙116を両面給紙ユニット132内に送り込み、記録用紙116を反転させて裏面が印刷面となる状態にして再度カウンタローラ121と搬送ベルト120との間に給紙し、タイミング制御を行って、前述したと同様に搬送ベル120上に搬送して裏面に記録を行った後、排紙トレイ103に排紙する。
【0060】
この画像形成装置10は、プリンタ装置やファクシミリ装置や複写装置及びこれらの複合機などにも適用することができる。
【0061】
前記説明では液滴吐出ヘッド20を使用した画像形成装置100について説明したが、液滴吐出ヘッド20はインク以外の液体、例えばDNA試料やレジストやパターン材料などを吐出する液滴吐出装置等にも適用することができる。
【0062】
また、前記説明ではレーザ加工装置1のレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を光路切替装置5で第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えてフェムト秒レーザのレーザ光束を断続的に照射して液滴吐出ヘッド20のノズル25とノズル連通路25aを加工する場合について説明したが、流路板21の加圧液室26を形成する溝の加工や圧電素子30と支柱部32を形成するために圧電素子部材にスリットを加工する場合も同様にしてレーザ加工装置1でフェムト秒レーザのレーザ光束を断続的に照射して加工することができる。
【0063】
さらに、このレーザ加工装置1を使用することにより、各種パターンを有するマスクや、光記録装置の記録ビッド形成や、内部に屈折率変調部を有する光学素子やホログラム素子等各種精密部品の加工も同様にして行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。
【図2】レーザ加工装置から出射したレーザ光束を被加工物に断続的に照射する状態を示す模式図である。
【図3】この発明のレーザ加工装置で1つの被加工物を加工する状態を示す構成図である。
【図4】この発明の他のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。
【図5】液滴吐出ヘッドの液室長手方向に沿う部分断面図である。
【図6】液滴吐出ヘッドの液室短手方向に沿う部分断面図である。
【図7】液滴吐出ヘッドのノズル孔を加工する状態を示す断面図である。
【図8】ノズル・流路板ユニット集合体の形成工程を示す平面図である。
【図9】画像形成装置を示す斜視図である。
【図10】画像形成装置の機構部を示す側面構成図である。
【図11】画像形成装置の機構部を示す平面構成図である。
【図12】従来のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。
【図13】従来のレーザ加工装置から出射したレーザ光束を被加工物に断続的に照射する状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1;レーザ加工装置、2;極短パルスレーザ発振器(レーザ発振器)、
3;第1の光学系、4;第2の光学系、5;光路切替装置、
6;マスク照明光学系、7;フォトマスク、8;結像レンズ、
9;回転ミラー、10;固定ミラー、11;回転軸、
12,13,14;被加工物、15;光遮断装置、
20;液滴吐出ヘッド、21;流路板、22;振動板、23;ノズル板、
24;フレーム部材、25;ノズル、25a;ノズル連通路、26;加圧液室、
27;流体抵抗部、28;共通液室、29;インク供給口、30;積層型圧電素子、
41;流路板形成部材、42;ノズル形成部材、43;エポキシ系接着剤、
44;撥水膜、45;ノズル・流路板ユニット、46;粘着剤、
47;保護フイルム、48;ノズル孔、49;樹脂シート、
50;フィルムシート、51;シリコンウエハ、
100;画像形成装置、101;装置本体、102;給紙トレイ102、
103;排紙トレイ、108;インクカートリッジ、113;キャリッジ、
114;サブタンク、116;記録用紙、120;搬送ベルト。
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種部品や半導体デバイス等の被加工物に対して微細加工を行うレーザ加工装置とレーザ加工方法とそれにより加工された液滴吐出ヘッド及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工によって被加工物に対して微細加工を行う場合、エキシマレーザあるいはYAGレーザの高調波を用いるのが一般的である。これらの加工方法においては、レーザ光のエネルギ密度は発振パルスにおいて最大でも100メガワットのレベルでしかないため、特に無機材料からなる被加工物においては加工が困難であり、主に有機樹脂材料からなる被加工物に対する光アブレーション加工しかできなかった。このため無機材料からなる被加工物に微細加工を施す場合には、リソグラフィープロセスを用いて個々の異材質材料に対してそれぞれレジストコート、レジストパターニング露光、レジスト現像、レジストパターンを利用したエッチング、レジストアッシング等の一連のプロセスにより加工をしている。このような加工方法による場合には、加工工程が複雑になることからコスト的な問題が生じ、また工程タクトタイムに対して生産設備投資が膨大になるといった問題点がある。
【0003】
このような問題点を改善するため、特許文献1等に示すように、被加工物に微細加工を行う場合、1ピコ秒以下のパルス放射時間でレーザ光を出力するレーザ発振器から発振されたレーザ光の時間的エネルギ密度が飛躍的に高い特徴と、レーザの照射時間が非常に短いためレーザ光が熱エネルギとして変換されず格子結合切断エネルギに直接変換される特性とを利用して光アブレーション加工するレーザ加工方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2や特許文献3には、被加工物のレーザエッチングにおいて、エッチング位置周辺に加工副生成物が付着しないように、被加工物へのレーザ光の照射インターバルを設定するなどの手段を用いるレーザ加工方法が提案されている。
【0005】
このレーザ加工装置の光学系は、図12に示すように、1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的・時間的なエネルギ密度の大きい光パルスを連続放射する極短パルスレーザ発振器2から放射されたレーザ光束をフィールドレンズ、コンデンサレンズ等を含むマスク照明光学系6によってフォトマスク7を照明し、フォトマスク7上に形成されたマスクパターンを通過したレーザ光束を投影結像レンズ8によって被加工物61にフォーカス投影してレーザ発振によって被加工物を加工するようにしている。このような構成のレーザ加工装置に用いられる1ピコ秒以下のパルス発振時間幅でレーザを放出するレーザ発振器は、縦モード同期法を用いたレーザ発振器である。
【0006】
このレーザ加工方法では、被加工物にアブレーションを引き起こしてエッチング加工することは可能であるが、加工材料によっては昇華され気化した原子または分子粒子が瞬時に再結合を起こしてしまい、エッチング位置またはその近傍の周辺に液化して付着し、それが固化して固まってしまい加工精度が劣化するとともに加工副生成物の付着によってエッチングを妨げてしまうという問題を生じさせてしまう。
【0007】
このエッチング位置周辺に加工副生成物が付着することを防止するため、図12に示すように、光学系に光透過遮断が制御可能な光遮断装置60を設け、この光遮断装置60で極短パルスレーザ発振器2から放射されたレーザ光束の透過と遮断を制御して、図13に示すように、パルスレーザ発振周波数よりも長い時間のインターバルにより被加工物へレーザ光を間欠照射している。この光遮断装置としては回転チョッパ型の機械的繰り返しシャッタや機械的電磁開閉シャッタ又は電気制御可能な液晶シャッタや、音響光学素子(AOM)や電気光学素子による光偏向による光直進状態をオンし、光回折効果による光偏向状態をオフして光の進行方向を変える素子を用いている。
【特許文献1】特開2001−198684号公報
【特許文献2】特許第3754890号公報
【特許文献3】特開2001−232487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように光遮断装置によりレーザ光束の透過と遮断を制御していると、レーザ光束を遮断している非照射状態が大きい比率を占めることとなり、発振照射エネルギの損失が大きくなり効率的でないという不具合が生じる。
【0009】
この発明は、このような不具合を解消し、被加工物のレーザエッチングにおいて、エッチング位置周辺に加工副生成物が付着しないように加工することができるとともにレーザ光束の照射エネルギ損失を低減することができるレーザ加工装置とレーザ加工方法とそれにより加工された液滴吐出ヘッド及び液滴吐出ヘッドを有する画像形成装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のレーザ加工装置は、1ピコ秒以下のパルス出射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を被加工物に照射し、光アブレーション加工を行うレーザ加工装置であって、前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替える光路切替装置と、該光路切替装置で切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射する複数の光学系を有することを特徴とする。
【0011】
前記光路切替装置は回転ミラーを有する。また、前記光路切替装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の回折効果によりレーザ光を時間的にずらして切り替えても良い。
【0012】
また、前記レーザ発振器と前記光路切替装置との間の光路中に、前記光路切替装置でレーザ光の光路切り替え中のときに前記レーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断する光遮蔽装置を有することが望ましい。
【0013】
前記光遮蔽装置は機械的電磁チョッパや電気的液晶シャッタを有する。また、光遮蔽装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の光回折効果により光を遮断しても良い。
【0014】
さらに、前記光路切替装置に音響光学変調器又は電気光学変調器を使用し、レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えるとともにレーザ光の光路切り替え中のときにレーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断しても良い。
【0015】
この発明のレーザ加工方法は、1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替え、切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射することを特徴とする。
【0016】
この発明の液滴吐出ヘッドは、前記レーザ加工方法により、液滴を吐出する複数のノズルを有するノズル形成部材と前記ノズル板のノズルに対応した液室を有する流路板形成部材とを積層したノズル・流路板ユニットの液通路を加工して形成したことを特徴とする。
【0017】
この発明の液滴吐出装置は、前記液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする。
【0018】
この発明の画像形成装置は、前記液滴吐出装置を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明のレーザ加工装置は、1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的時間的なエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替えて被加工物に照射することにより、レーザ発振器からのレーザ光を効率良く利用することができる。
【0020】
また、レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えて被加工物に断続的に照射することにより、被加工物の加工位置周辺に加工副生成物が付着することを防ぐことができ、低コストで高品質な加工物を提供することができる。
【0021】
このレーザ発振器から出射されたレーザ光を、回転ミラーを有する光路切替装置で複数の光路に時間的にずらして切り替えることにより、簡単な構成で光路を分割でき、低コストで、かつレーザエネルギの損出を低減することができる。
【0022】
また、光路切替装置として音響光学変調器又は電気光学変調器を使用することにより、機械的な動作部分が無くなることから高速な光路切り替えを行うことができる。
【0023】
さらに、光路切替装置でレーザ光の光路切り替え中のときに、光遮蔽装置でレーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断することにより、光路を切り替える間や加工インターバルの間、一時的にレーザ光束を遮断することができ、光路切り替え時に不要な部分をレーザ照射することを防ぐことができる。また、レーザ発振器を連続発振させているので、レーザ光束の発振パルス時間及び出力エネルギの安定性を高めることができる。
【0024】
この光遮蔽装置として機械的電磁チョッパを使用することにより、簡単な構成でレーザ光を低コストで遮断することができる。
【0025】
また、光遮蔽装置として電気的液晶シャッタを使用することにより、機械的な動作部分がなく応答性が良いことから、長期間にわたり安定してレーザ光を遮断することができる。
【0026】
さらに、光遮蔽装置として音響光学変調器又は電気光学変調器を使用することにより、レーザ光の遮断や通過を高速に切り替えることができる。
【0027】
また、光路切替装置に音響光学変調器又は電気光学変調器を使用し、レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えるとともにレーザ光の光路切り替え中のときにレーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断することにより、装置の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0028】
このレーザ加工装置により、液滴吐出ヘッドの液滴を吐出する複数のノズルを有するノズル板を形成するノズル形成部材とノズル板のノズルに対応した液室を有する流路板を形成する流路板形成部材とを積層したノズル・流路板ユニットの液通路を加工することにより、ノズル等の液通路を高精度に、かつ高速で加工することができる。
【0029】
この液滴吐出ヘッドを液滴吐出装置に使用することにより、安定して液滴吐出を行うことができる。
【0030】
また、液滴吐出ヘッドをプリンタ装置やファクシミリ装置や複写装置等の画像形成装置に使用することにより、安定した吐出精度でインク滴を吐出させることができ、良質な画像を安定して形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、この発明のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。図に示すように、レーザ加工装置1は、1ピコ秒以下のパルス出射時間にて空間的・時間的なエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射する極短パルスレーザ発振器(以下、レーザ発振器という)2と2系統の光学系3,4及び光路切替装置5を有する。第1の光学系3と第2の光学系4は、それぞれフィールドレンズとコンデンサレンズ等を含むマスク照明光学系6とフォトマスク7及び結像レンズ8を有する。光路切替装置5は回転ミラー9と固定ミラー10を有し、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を第1の光学系3と第2の光学系4に切り替える。回転ミラー9は、レーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路に設けられ、例えばガルバノメーター等により回転軸11を回転中心として回動して、反射面をレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光軸と平行でレーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しないで第1の光学系3に導く位置と、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を反射して90度偏向させる位置に切り替える。固定ミラー10は回転ミラー9で反射したレーザ光束を反射して90度偏向させ、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を第2の光学系4に導く。この光路切替装置5を構成する回転ミラー9と固定ミラー10は、使用するレーザ光の波長に適合した誘電体多層膜ミラーが適しているが、一般的なアルミ蒸着ミラーなどを使用しても良い。
【0032】
このレーザ加工装置1で被加工物12と被加工物13を微細加工するときは、レーザ発振器2を連続発振してフェムト秒レーザのレーザ光束を出射する。この状態で光路切替装置5の回転ミラー9をあらかじめ定めた一定タイミング毎に間欠的に回動し、レーザ発振器2から出射されたレーザ光束を第1の光学系3と第2の光学系4に切り替える。第1の光学系3に入射したレーザ光束はマスク照明光学系6aによってフォトマスク7aを照明し、フォトマスク7aに形成されたマスクパターンを通過したレーザ光束を結像レンズ9aによって被加工物12に集光して被加工物12を加工する。第2の光学系4に入射したレーザ光束はマスク照明光学系6bによってフォトマスク7bを照明し、フォトマスク7bに形成されたマスクパターンを通過したレーザ光束を結像レンズ9bによって被加工物13に集光して被加工物13を加工する。
【0033】
この被加工物12と被加工物13を加工するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を光路切替装置5で第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて被加工物12と被加工物13に入射するから、図2に示すように、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を被加工物12と被加工物13に断続的に照射することができ、加工部に加工副生成物が付着することを防いで加工精度を向上することができる。また、被加工物12と被加工物13にレーザ光束を断続的に照射するとき、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しないで第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えて入射するから、レーザ発振器2から出射したレーザ光束を効率よく利用することができ、生産性を大幅に向上することができる。
【0034】
さらに、レーザ発振器2を連続発振させているので、レーザ光束の発振パルス時間及び出力エネルギの安定性を高めることができる。
【0035】
前記説明では、第1の光学系3と第2の光学系4で2つの被加工物12と被加工物13を加工する場合について説明したが、図3の構成図に示すように、第1の光学系3と第2の光学系4で1つの被加工物14を加工することもできる。すなわち、第1の光学系3と第2の光学系4はコンパクトな形状に形成することが可能であり、比較的小形な被加工物14であっても第1の光学系3と第2の光学系4からレーザ光束を照射して加工でき、被加工物14を移動するためのXYテーブルが1台ですみ、装置を小型化して複数の加工パターンがある被加工物14を効率良く加工することができる。
【0036】
また、前記説明では光路切替装置5でレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を2系統に切り替える場合について説明したが、光路切替装置5の回転ミラー9の回転角度を複数段階に切り替えて停止できるようにしてレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を複数系統に切り替え、各光路に第1の光学系3と第2の光学系4と同様な光学系を設けることにより、複数の個所を同時に加工することができる。
【0037】
さらに、前記説明では、光路切替装置5の回転ミラー9を例えばガルバノメーター等により回動してレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を切り替える場合について説明したが、ポリゴンミラーを使用してレーザ光束の光路を切り替えたり、電気制御可能な音響光学素子(AOM)あるいは電気光学素子(EOM)を使用してレーザ光束の光路を切り替えても良い。音響光学素子や電気光学素子を使用した場合には、より高速な光路切替を行うことができる。また、音響光学素子や電気光学素子を使用した場合には回折角度が回転ミラー9による場合より小さくなるため、回折後の光路に必要に応じて固定ミラー等を設けると良い。
【0038】
また、レーザ加工装置1はレーザ発振器2から出射したレーザ光束を光路切替装置5に直接入射した場合について説明したが、図4の構成図に示すように、レーザ発振器2と光路切替装置5との間に光遮断装置15を設けて、光路切替装置5の回転ミラー9が回転中のようにレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を第1の光学系3と第2の光学系4の間で切り替え中のときに、この光路切り替えに同期して光遮蔽装置15でレーザ発振器2から出射したレーザ光束を遮断しても良い。このようにレーザ光束の光路切り替えに同期してレーザ光束を遮断することにより、レーザ光束の光路を切り替えているときに、瞬間的であるが反射されたレーザ光束が不必要な部分に照射されてしまうことを防止することができる。この光遮蔽装置15としては、チョッパ型の機械的電磁シャッタや電気制御可能な液晶シャッタや音響光学素子又は電気光学素子などを使用すれば良い。
【0039】
また、光路切替装置5に音響光学素子又は電気光学素子を使用した場合、音響光学素子や電気光学素子は、機械的動作を伴わないから高速に動作可能であり、かつ、レーザ光束を複数の回折角度に回折することができるから、光路切り替えと光遮断の両方の機能を持たせても良い。
【0040】
このレーザ加工装置1で被加工品14として例えばインクジェット方式等の画像形成装置に使用する液滴吐出ヘッドのノズルを加工する場合について説明する。
【0041】
液滴吐出ヘッド20は、図5の液室長手方向に沿う部分断面図と図6の液室短手方向に沿う部分断面図に示すように、単結晶シリコン基板で形成した流路板21と、流路板21の下面に接合した振動板22と、流路板21の上面に接合したノズル板23及びフレーム部材24を有し、これらによってノズル板23に設けられインク滴を吐出するノズル25にノズル連通路25aを介して連通する加圧液室26と、加圧液室26に供給するインクのインク供給路である流体抵抗部27及びフレーム部材24に設けられてインクを貯溜する共通液室28から流体抵抗部27にインクを供給するインク供給口29とを形成している。
【0042】
振動板22の各加圧液室26とは反対側の面には、加圧液室26内のインクを加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての積層型圧電素子30を接合し、この圧電素子30をベース基板31に接合している。圧電素子30の間には加圧液室26間の隔壁部に対応して支柱部32を設けている。この圧電素子30と支柱部32は、圧電素子部材にハーフカットのダイシングによるスリット加工を施して櫛歯状に分割して、1つ毎に圧電素子30と支柱部32を形成している。この支柱部32の構成は圧電素子30と同じであるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。振動板22の外周部はフレーム部材24にギャップ材を含む接着剤33にて接合している。このフレーム部材24には共通液室28に外部からインクを供給するためのインク供給穴34を有する。
【0043】
ノズル板23には各加圧液室26に対応して直径10〜35μmのノズル25を形成し、ノズル面(吐出方向の表面;吐出面)には、撥水性の表面処理を施した撥水処理層を設けている。圧電素子30は、厚さ10〜50μm/1層のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の圧電層35と、厚さ数μm/1層の銀・パラジューム(AgPd)からなる内部電極層36とを交互に積層したものであり、内部電極36を交互に端面の端面電極(外部電極)である個別電極37と共通電極38に電気的に接続している。ここで圧電素子部材の一端面の端面電極はハーフカットによるダイシング加工で分割されて個別電極37となり、他端面の端面電極は切り欠き等の加工による制限で分割されずにすべての圧電素子30で導通した共通電極38となる。この圧電素子30の個別電極37には駆動信号を与えるために半田接合又はACF(異方導電性膜)接合若しくはワイヤボンディングでFPCケーブル39を接続し、このFPCケーブル38には各圧電素子30に選択的に駆動波形を印加するための駆動回路(ドライバIC)を接続している。また、共通電極38は、圧電素子の端部に電極層を設けて回し込んでFPCケーブル39のグラウンド(GND)電極に接続している。
【0044】
このように構成した記録ヘッド20において、例えば、記録信号に応じて圧電素子30に駆動波形(10〜50Vのパルス電圧)を印加すると、圧電素子30に積層方向の変位が生じ、振動板22を介して加圧液室26内のインクが加圧されて圧力が上昇し、ノズル25からインク滴を吐出する。その後、インク滴吐出の終了に伴い、加圧液室26内のインク圧力が低減し、インクの流れの慣性と駆動パルスの放電過程によって加圧液室26内に負圧が発生してインク充填行程へ移行する。このときサブタンクから供給されたインクは共通液室28に流入し、共通液室28からインク供給口29を経て流体抵抗部27を通り加圧液室26内に充填される。この流体抵抗部27は、吐出後の残留圧力振動の減衰に効果が有る反面、表面張力による最充填(リフィル)に対して抵抗になる。そこで流体抵抗部27の流体抵抗値を適宜に選択することで、残留圧力の減衰とリフィル時間のバランスが取れ、次のインク滴吐出動作に移行するまでの時間(駆動周期)を短くできる。
【0045】
この液滴吐出ヘッド20の流路板21とノズル板23にノズル連通路25aとノズル25をレーザ加工装置1で加工する場合は、図7に示すように、流路板形成部材41とノズル形成部材42をエポキシ系接着剤43で接合し、ノズル形成部材42の表面にフッ素系の撥水膜44をコーティングしてノズル・流路板ユニット45を形成する。そして撥水膜44の表面に粘着剤46付き保護フイルム47を貼り付ける。なお、簡略化のため流路板形成部材41には加圧液室26が記載されていないが、流路板形成部材41にはあらかじめ加圧液室26となる凹部が形成されている。
【0046】
そして、流路板形成部材41側からレーザ加工装置1でフェムト秒レーザのレーザ光を照射して単結晶シリコン基板で形成した流路板形成部材41とエポキシ系接着剤43とノズル形成部材42及び撥水膜44を順次エッチングしてノズル連通口25aとノズル25を構成するノズル孔48を保護フイルム47の中間まで形成する。このようにノズル孔48を保護フイルム47の中間まで形成することにより、ノズル形成部材42のノズル孔出口部分を綺麗に加工することができ、ノズル25の加工精度を向上することができる。ここでノズル孔48を1個分だけ図示しているが、実際にはノズル孔48の加工効率を向上するため複数のノズル孔48を必要な数だけ加工実施する。
【0047】
このようにノズル孔48の加工効率を向上するため、図8(a)に示すように、例えば、約500×1000mmの樹脂シート49を単位として撥水膜41を形成した後、例えば約150×120mmのサイズを有する複数のノズル形成部材42を形成するためのフィルムシート50に切断する。一方、図8(b)に示すように、例えば6インチのシリコンウエハ51に、流路板形成部材41となる領域を割り付けて、一般的に知られている半導体製作用のフォトリソプロセス等を用いて、流路板形成部材41となる部分に所定の液室パターンを形成する。なお、図8(b)は6インチウエハに42個の流路板形成部材41のチップを割り付ける配列例を示している。その後、シリコンウエハ51のノズル形成部材42と接合する面に接着剤薄膜転写装置等でエポキシ接着剤43を1〜2μmの厚さで塗布し、樹脂シート49を切断して形成したフィルムシート50を貼り付ける。このフィルムシート50の貼り付けについては、精度の高い位置合わせは必要でなく、流路板形成部材41のチップ領域からフィルムシート50が外れない程度の位置合わせで良い。なお、ここで用いる接着剤としては、エポキシ系接着剤(例えば、日本エイブルスティック社製のエポキシ系1液接着剤「Ablebond GA−4」(商品名))などが適している。また、これらの接着剤の硬化に必要とされる加熱温度は、通常50℃から70℃程度とそれほど高くないため、ノズル形成部材42と流路板形成部材41との熱膨張係数差はここでは問題にならない。このようにして、シリコンウエハ51とフィルムシート50を接合一体化したノズル・流路板ユニット集合体48に対して、保護フイルム43を貼り付けた後、レーザ加工装置1でフェムト秒レーザのレーザ光束を照射してノズル孔48の加工を行う。その後、例えば、一般的なICの製造工程で用いられるダイシング工程を応用して個々のチップに切断してノズル25とノズル連通路25aを有するノズル板23と流路板21を形成する。
【0048】
このレーザ加工装置1によりフェムト秒レーザ加工でノズル25とノズル連通路25aが形成されたノズル板23と流路板21を有する液滴吐出ヘッド20を使用した画像形成装置について説明する。
【0049】
画像形成装置100は、図9の斜視図に示すように、装置本体101と、装置本体101に装着され記録用紙を収容する給紙トレイ102と、装置本体101に装着され画像が記録(形成)された記録用紙をストックする排紙トレイ103とを有する。装置本体101の上側には上面カバー104を開閉可能に設けている。また、装置本体101の前面の一端部には、前方側に突き出し、上面カバー104よりも低い位置にカートリジ装填部105を有し、このカートリッジ装填部105の上面に操作キーや表示器などの操作部106が設けられている。カートリッジ装填部105は、その前面に開閉可能な前カバー107を有し、前カバー107を開状態にすることにより、液体補充手段としてのインクカートリッジ108を脱着できるようになっている。
【0050】
この画像形成装置の機構部は、図10の側面構成図と図11の平面構成図に示すように、装置本体101の側板に横架したガイド部材であるガイドロッド111とステー112とによりキャリッジ113を主走査方向に摺動自在に保持し、主走査モータによってキャリッジ主走査方向に移動走査する。このキャリッジ113には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する4個のインクジェットヘッドからなる液滴吐出ヘッド20を複数のインク吐出口を主走査方向と交叉する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。
【0051】
また、キャリッジ113には、液滴吐出ヘッド20に各色のインクを供給するための各色の液体容器であるサブタンク114を搭載している。このサブタンク114にはインク供給チューブを介して各色のインクカートリッジ108からインクが補充供給される。ここで、インクカートリッジ108は、それぞれ各色に対応してイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインクを収容している。これらの液滴吐出ヘッド20にインクを供給するためのサブタンク114と、このサブタンク114にインクを補充供給するインクカートリッジ108とによって記録液供給装置を構成している。
【0052】
給紙トレイ102の用紙積載部(圧板)115上に積載した記録用紙116を給紙するための給紙部として、用紙積載部115から記録用紙116を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)117と、給紙コロ117に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド118を備え、この分離パッド118は給紙コロ117側に付勢されている。
【0053】
この給紙トレイ102から給紙された記録用紙116をガイド119から記録ヘッド1の下方側で搬送するための搬送部として、記録用紙116を静電吸着して搬送するための搬送ベルト120と、給紙部からガイド119を介して送られる記録用紙116を搬送ベルト120との間で挟んで搬送するためのカウンタローラ121と、略鉛直上方に送られる記録用紙116を略90度方向転換させて搬送ベルト120上に倣わせるための搬送ガイド122と、押さえ部材123で搬送ベルト120側に付勢された先端加圧コロ124とを備えている。また、搬送ベルト120表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ125を備えている。ここで、搬送ベルト120は、無端状ベルトであり、搬送ローラ126とテンションローラ127との間に掛け渡されて、図11に示すように、ベルト搬送方向に周回するように構成している。帯電ローラ125は、搬送ベルト120の表層に接触し、搬送ベルト120の回動に従って回転するように配置されている。
【0054】
搬送ベルト120の裏側には、記録ヘッド1による印写領域に対応してガイド部材128が配置されている。このガイド部材128は、上面が搬送ベルト120を支持する搬送ローラ126とテンションローラ127の接線よりも記録ヘッド1側に突出している。これにより、搬送ベルト120は印写領域ではガイド部材128の上面にて押し上げられてガイドされるので、高精度な平面性が維持される。
【0055】
液滴吐出ヘッド20で記録された記録用紙116を排紙するための排紙部として、搬送ベルト120から記録用紙116を分離するための分離爪129と排紙ローラ130及び排紙コロ131とを備え、排紙ローラ130の下方に排紙トレイ103を備えている。ここで排紙ローラ130と排紙コロ131との間から排紙トレイ103までの高さは排紙トレイ103にストックできる量を多くするためにある程度高くしている。
【0056】
また、装置本体101の背面部には両面給紙ユニット132が着脱自在に装着されている。この両面給紙ユニット132は搬送ベルト120の逆方向回転で戻される記録用紙116を取り込んで反転させて再度カウンタローラ133と搬送ベルト120との間に給紙する。また、この両面給紙ユニット132の上面には手差し給紙部133が設けられている。
【0057】
さらに、図11に示すように、キャリッジ113の走査方向の一方の非印字領域には、液滴吐出ヘッド20のノズル25の状態を維持し、回復するための信頼性維持手段である維持回復機構134を配置し、他方の非印字領域には空吐出受け部材135を配置している。維持回復機構134には、液滴吐出ヘッド20のノズル面をキャピングするためのキャッピング手段である4個のキャップ部材136と、ノズル面をワイピングするためのワイピング手段であるワイパーブレード137及び空吐出受け部材138などを有する。
【0058】
この画像形成装置100においては、給紙トレイ102から1枚ずつ分離給紙されて略鉛直上方に給紙された記録用紙116はガイド119で案内され、搬送ベルト120とカウンタローラ121との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド122で案内されて先端加圧コロ124で搬送ベルト120に押し付けられ、略90度搬送方向を転換される。このとき、図示しない制御回路によって高圧電源から帯電ローラ125に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返す交番電圧が印加され、搬送ベルト120が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラスとマイナスが交互に帯電した搬送ベルト120に記録用紙116が静電吸着され、搬送ベルト120の周回移動によって記録用紙116が副走査方向に間欠的に搬送される。この状態でキャリッジ113を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド20を駆動することにより、停止している記録用紙116にインク滴を吐出して1行分を記録し、記録用紙116を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は記録用紙116の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、記録用紙116を排紙トレイ103に排紙する。
【0059】
また、両面印刷の場合には、表面(最初に印刷する面)の記録が終了したときに、搬送ベルト120を逆回転させることで、記録済みの記録用紙116を両面給紙ユニット132内に送り込み、記録用紙116を反転させて裏面が印刷面となる状態にして再度カウンタローラ121と搬送ベルト120との間に給紙し、タイミング制御を行って、前述したと同様に搬送ベル120上に搬送して裏面に記録を行った後、排紙トレイ103に排紙する。
【0060】
この画像形成装置10は、プリンタ装置やファクシミリ装置や複写装置及びこれらの複合機などにも適用することができる。
【0061】
前記説明では液滴吐出ヘッド20を使用した画像形成装置100について説明したが、液滴吐出ヘッド20はインク以外の液体、例えばDNA試料やレジストやパターン材料などを吐出する液滴吐出装置等にも適用することができる。
【0062】
また、前記説明ではレーザ加工装置1のレーザ発振器2から出射したレーザ光束の光路を光路切替装置5で第1の光学系3と第2の光学系4に切り替えてフェムト秒レーザのレーザ光束を断続的に照射して液滴吐出ヘッド20のノズル25とノズル連通路25aを加工する場合について説明したが、流路板21の加圧液室26を形成する溝の加工や圧電素子30と支柱部32を形成するために圧電素子部材にスリットを加工する場合も同様にしてレーザ加工装置1でフェムト秒レーザのレーザ光束を断続的に照射して加工することができる。
【0063】
さらに、このレーザ加工装置1を使用することにより、各種パターンを有するマスクや、光記録装置の記録ビッド形成や、内部に屈折率変調部を有する光学素子やホログラム素子等各種精密部品の加工も同様にして行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。
【図2】レーザ加工装置から出射したレーザ光束を被加工物に断続的に照射する状態を示す模式図である。
【図3】この発明のレーザ加工装置で1つの被加工物を加工する状態を示す構成図である。
【図4】この発明の他のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。
【図5】液滴吐出ヘッドの液室長手方向に沿う部分断面図である。
【図6】液滴吐出ヘッドの液室短手方向に沿う部分断面図である。
【図7】液滴吐出ヘッドのノズル孔を加工する状態を示す断面図である。
【図8】ノズル・流路板ユニット集合体の形成工程を示す平面図である。
【図9】画像形成装置を示す斜視図である。
【図10】画像形成装置の機構部を示す側面構成図である。
【図11】画像形成装置の機構部を示す平面構成図である。
【図12】従来のレーザ加工装置の光学系を示す構成図である。
【図13】従来のレーザ加工装置から出射したレーザ光束を被加工物に断続的に照射する状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1;レーザ加工装置、2;極短パルスレーザ発振器(レーザ発振器)、
3;第1の光学系、4;第2の光学系、5;光路切替装置、
6;マスク照明光学系、7;フォトマスク、8;結像レンズ、
9;回転ミラー、10;固定ミラー、11;回転軸、
12,13,14;被加工物、15;光遮断装置、
20;液滴吐出ヘッド、21;流路板、22;振動板、23;ノズル板、
24;フレーム部材、25;ノズル、25a;ノズル連通路、26;加圧液室、
27;流体抵抗部、28;共通液室、29;インク供給口、30;積層型圧電素子、
41;流路板形成部材、42;ノズル形成部材、43;エポキシ系接着剤、
44;撥水膜、45;ノズル・流路板ユニット、46;粘着剤、
47;保護フイルム、48;ノズル孔、49;樹脂シート、
50;フィルムシート、51;シリコンウエハ、
100;画像形成装置、101;装置本体、102;給紙トレイ102、
103;排紙トレイ、108;インクカートリッジ、113;キャリッジ、
114;サブタンク、116;記録用紙、120;搬送ベルト。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ピコ秒以下のパルス出射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を被加工物に照射し、光アブレーション加工を行うレーザ加工装置であって、
前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替える光路切替装置と、該光路切替装置で切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射する複数の光学系を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記光路切替装置は回転ミラーを有する請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記光路切替装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の回折効果によりレーザ光を時間的にずらして切り替える請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザ発振器と前記光路切替装置との間の光路中に、前記光路切替装置でレーザ光の光路切り替え中のときに前記レーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断する光遮蔽装置を有する請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記光遮蔽装置は機械的電磁チョッパを有する請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記光遮断装置は電気的液晶シャッタを有する請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記光遮蔽装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の光回折効果により光を遮断する請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記光路切替装置は音響光学変調器又は電気光学変調器を使用し、前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えるとともにレーザ光の光路切り替え中のときに前記レーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断する請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替え、切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ加工方法により、液滴を吐出する複数のノズルを有するノズル形成部材と前記ノズル板のノズルに対応した液室を有する流路板形成部材とを積層したノズル・流路板ユニットの液通路を加工して形成したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項10記載の液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項12】
請求項11記載の液滴吐出装置を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
1ピコ秒以下のパルス出射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を被加工物に照射し、光アブレーション加工を行うレーザ加工装置であって、
前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替える光路切替装置と、該光路切替装置で切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射する複数の光学系を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
前記光路切替装置は回転ミラーを有する請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記光路切替装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の回折効果によりレーザ光を時間的にずらして切り替える請求項1記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザ発振器と前記光路切替装置との間の光路中に、前記光路切替装置でレーザ光の光路切り替え中のときに前記レーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断する光遮蔽装置を有する請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記光遮蔽装置は機械的電磁チョッパを有する請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記光遮断装置は電気的液晶シャッタを有する請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
前記光遮蔽装置は音響光学変調器又は電気光学変調器の光回折効果により光を遮断する請求項4記載のレーザ加工装置。
【請求項8】
前記光路切替装置は音響光学変調器又は電気光学変調器を使用し、前記レーザ発振器から出射されたレーザ光を複数の光路に時間的にずらして切り替えるとともにレーザ光の光路切り替え中のときに前記レーザ発振器から放射されたレーザ光を遮断する請求項1乃至3のいずれかに記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
1ピコ秒以下のパルス放射時間にて空間的時間的にエネルギ密度の大きい光パルスを連続出射するレーザ発振器から出射されたレーザ光を、複数の光路に時間的にずらして切り替え、切り替えられたレーザ光をそれぞれ集光して被加工物に照射することを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項10】
請求項9に記載のレーザ加工方法により、液滴を吐出する複数のノズルを有するノズル形成部材と前記ノズル板のノズルに対応した液室を有する流路板形成部材とを積層したノズル・流路板ユニットの液通路を加工して形成したことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項11】
請求項10記載の液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項12】
請求項11記載の液滴吐出装置を有することを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−330995(P2007−330995A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165969(P2006−165969)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]