説明

レーザ加工装置

【課題】石定盤と金属定盤とに温度差が発生しても金属定盤に熱歪みが発生することを防止し、伝送光学系を所定の状態に維持することができるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】石材製の石定盤11上に支持部材12を介して金属製の金属定盤を設置し、該金属定盤上にレーザの伝送光学系を設置したレーザ加工装置において、前記金属定盤を伝送光学系の光軸方向に複数の金属定盤13,14に分割し、該分割した複数の金属定盤上に前記伝送光学系を構成する部品をそれぞれ配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関し、詳しくは、石材製の石定盤上に支持部材を介して金属製の金属定盤を設置し、該金属定盤上にレーザの伝送光学系を設置したレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザによって金属板を切断したり、孔明け加工したり、あるいは、溶接したりするレーザ加工装置では、精密な加工を行うため、被加工物の位置及びレーザの照射位置を確実に保持する必要がある。レーザ溶接では、溶接時の熱によって定盤が加熱されて昇温し、定盤上に溶接する部材を設置した際に、定盤からの熱影響によって部材が膨張し、部材間の溶接部の隙間が拡がることがある。このため、定盤を冷却媒体によって強制的に冷却し、熱影響を排除することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、振動防止や熱影響の低減などを目的として、温度変化に対する形状変化が少なく、平面度にも優れ、高い硬度を有する石材を用いて定盤を形成することが行われており(例えば、特許文献2参照。)、レーザ加工装置におけるレーザ発振器から加工ヘッドに至る伝送光学系の各機器は、石材製の石定盤上に設置した金属製の金属定盤にボルトなどの締結手段を用いて設置するようにしている。
【0004】
さらに、レーザ加工装置には使用温度範囲が設定されており、レーザ加工装置を設置した室内の温度を常に一定の範囲、例えば18〜28℃に保つことで、各機器の動作及び定盤をはじめとする加工装置全体の熱歪みを管理している。
【特許文献1】特開2005−66604号公報
【特許文献2】特開平9−131632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、空調を連続運転させて室内の温度を一定に保つことは、近年の省エネルギーや地球温暖化防止の観点からも好ましくないため、連休中だけでなく、夜間にも空調を切るようになってきている。このような場合、空調の運転開始直後は、室温は所定の範囲内に収まっていても、石定盤や金属定盤の温度が室温に一致せず、例えば冬期では、空調停止中に温度が低下した石定盤と金属定盤とにおける熱特性の相違から温度差が発生し、また、熱膨張整数の違いから石定盤と金属定盤との間に熱歪みが発生するおそれがある。
【0006】
例えば、図4の正面図及び図5の平面図に示すように、1枚の石定盤51の上面の長手方向両端部に設けられた一対の支持部材52を介して1枚の金属定盤53を設置し、この金属定盤53の上面に、レーザ発振器54から複数のミラー55a,55b,55c,55dを介して加工ヘッド56に至る伝送光学系57を設置した場合、温度差によって石定盤51よりも金属定盤53の方が大きく膨張すると、支持部材52の下端部は石定盤51に固定され、支持部材52の上端部は金属定盤53に固定されていることから、両側の支持部材52,52は金属定盤53の膨張に伴って上方が外側に開く方向に曲がった状態に変形し、これに伴って金属定盤53には、中間部が上方に向かって湾曲するような熱歪みが発生する。
【0007】
このような熱歪みが発生すると、金属定盤53の両端部に配置されている各ミラー55a,55b,55c,55dの反射面が僅かに上方に向かって傾斜した状態となる。金属定盤53の歪みが小さく、各ミラーの傾斜が極めて僅かであっても、光路長が長い場合には、レーザ発振器54から各ミラーで反射して加工ヘッド56に至るレーザ光Lに数mmの狂いが生じるおそれがある。たとえ加工ヘッド56に到達するレーザ光の狂いが水平方向に対して1mm以下であったとしても、数μm程度の精度で金属板に孔明け加工を行うレーザ加工装置の場合には、加工不良の発生原因となる。
【0008】
そこで本発明は、石定盤と金属定盤とに温度差が発生しても金属定盤に熱歪みが発生することを防止し、伝送光学系を所定の状態に維持することができるレーザ加工装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のレーザ加工装置における第1の構成は、石材製の石定盤上に支持部材を介して金属製の金属定盤を設置し、該金属定盤上にレーザの伝送光学系を設置したレーザ加工装置において、前記金属定盤を伝送光学系の光軸方向に複数に分割し、該分割した複数の金属定盤上に前記伝送光学系を構成する部品をそれぞれ配置したことを特徴としている。
【0010】
また、本発明のレーザ加工装置における第2の構成は、石材製の石定盤上に支持部材を介して金属製の金属定盤を設置し、該金属定盤上にレーザの伝送光学系を設置したレーザ加工装置において、前記金属定盤に、伝送光学系の光軸方向に対して直交する方向で、かつ、金属定盤の異なる方向からの複数の切り込みを設けたことを特徴としている。
【0011】
さらに、両構成のレーザ加工装置において、前記伝送光学系は、レーザ発振器から加工ヘッドまでの間に複数のミラーを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のレーザ加工装置における第1の構成によれば、金属定盤を複数に分割して設置しているので、石定盤と金属定盤とに温度差が発生しても、金属定盤に熱歪みが発生することはなく、ミラーを含む伝送光学系に狂いが生じることを回避できる。また、本発明のレーザ加工装置における第2の構成によれば、金属定盤に複数の切り込みを設けているので、金属定盤に熱歪みが発生するような膨張力や収縮力が作用しても、これらの力を切り込みの部分が変形することによって吸収することができ、金属定盤に熱歪みが発生することを抑え、前記同様に、ミラーを含む伝送光学系に狂いが生じることを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1及び図2は、本発明のレーザ加工装置の第1形態例を示すもので、図1はレーザ加工装置の概略を示す正面図、図2は同じく平面図である。
【0014】
このレーザ加工装置は、花崗岩などの石材からなる1枚の石定盤11の上に、金属製の支持部材12を介して金属製の複数の金属定盤13,14を設置し、各金属定盤13,14の上面に、レーザ発振器15から加工ヘッド16に至るレーザの伝送経路17を設置している。支持部材12及び金属定盤13,14は、アルミニウムやステンレス鋼などからなる各部材をボルトなどで固定して形成されており、基本的に、一つの支持部材12によって一つの金属定盤13、14を支持するようにしている。また、加工ヘッド16は、ガイド18に沿って水平方向に移動するように設けられている。
【0015】
レーザの伝送経路は、外部から遮断された複数の箱体19や伸縮可能な筒体20などの内部を通るように形成されており、レーザ発振器15から加工ヘッド16までの間のレーザの伝送経路には、4枚のミラー21a,21b,22a,22bを備えている。レーザ発振器15から水平方向に発振されたレーザ光は、4枚のミラー21a,21b,22a,22bでそれぞれ水平方向に直角に反射することによって加工ヘッド16に導かれ、加工ヘッド16内のミラー16aで被加工物の方向に反射して被加工物のレーザ加工を行う。
【0016】
図1及び図2において左側に配置されている一対のミラー21a,21bは、石定盤11の左側に設置された金属定盤13によって支持されており、右側に配置されている一対のミラー22a,22bは、石定盤11の左側に設置された金属定盤14によって支持されている。
【0017】
このように、上面が水平になるように設けられている石定盤11の長手方向一端の左側部分と、長手方向他端の右側部分とに、支持部材12,12を介して金属定盤13,14を離間させてそれぞれ設置することにより、石定盤11と金属定盤13,14とに温度差が発生して両者の熱膨張量や熱収縮量に差が生じたとしても、両金属定盤13,14は離間して独立して設けられていることから、両金属定盤13,14同士の間には熱伸縮が相互に影響を及ぼすことはなく、石定盤11の熱伸縮に伴って支持部材12と共に水平方向にそれぞれ僅かに移動するだけとなる。
【0018】
したがって、両金属定盤13,14の上に設置された伝送光学系を所定の状態に維持することができ、特に、各ミラー21a,21b,22a,22bの角度が変化することを防止できるので、レーザ発振器15から水平方向に発振されたレーザ光Lを、水平状態を保ったまま加工ヘッド16に導かれるため、被加工物の加工部位を確実に加工することができる。
【0019】
なお、本形態例では、石定盤11の長手方向両端部に設けた2個の支持部材12,12でそれぞれ金属定盤13,14を支持しているが、金属定盤を3枚以上に分割して各金属定盤毎に支持部材を設けることも可能である。
【0020】
図3は、本発明のレーザ加工装置の第2形態例を示す概略平面図である。なお、以下の説明において、前記第1形態例に示したレーザ加工装置の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0021】
本形態例に示す金属定盤31は、その長手方向中間部に、伝送光学系の光軸方向に対して直交する方向で、かつ、金属定盤31の異なる方向からの3個の切り込み32a,32b,32cを設けている。3個の切り込み32a,32b,32cは、互いに平行であり、かつ、3個の切り込み32a,32b,32cのうち、両側の2個の切り込み32a,32cは後方(反加工ヘッド側)から前方に向けて、中間の1個の切り込み32bは前方(加工ヘッド側)から後方に向けて設けられている。
【0022】
各切り込みの幅は金属定盤31の長さや支持部材間の距離に応じて設定されるが、通常は数mmで十分であり、切り込みの長さは、その先端33が金属定盤31の長辺31aの近傍に達する長さで、長手方向両端部が一対の支持部材12によって支持された金属定盤31の中間部、特に、両側の2個の切り込み32a,32cの間の部分が下方に垂れ下がらない程度の強度を有する接続部分34を残すようにしている。
【0023】
この金属定盤31は、前述の従来の金属定盤(53)と同様に、該金属定盤31の長手方向両端部に設けられた2個の支持部材(図示省略)によって石定盤11の上に設置されており、金属定盤31の上には、前記同様のレーザ発振器15、箱体19や筒体20、ミラー21a,21b,22a,22bが設けられている。
【0024】
前述のような複数の切り込み32a,32b,32cを設けた金属定盤31は、石定盤11と金属定盤31との温度差によって両者の熱伸縮量が異なった場合、例えば金属定盤31の熱膨張量が石定盤11よりも大きい場合は、切り込み32a,32b,32cの幅が狭まるように変形して金属定盤31の熱膨張を吸収し、金属定盤31の熱膨張量が小さい場合には切り込み32a,32b,32cの幅が拡がる方向に変形して吸収する。
【0025】
これにより、金属定盤31の全体が湾曲するように変形することを防止することができ、金属定盤31の水平度を保つことができる。したがって、前記第1形態例と同様に、各ミラー21a,21b,22a,22bに角度変化が生じることはなく、レーザ発振器15からのレーザ光Lを加工ヘッド16に確実に伝送することができる。
【0026】
この第2形態例では、伝送光学系のすべてを1枚の金属定盤31上に配置することができるため、伝送光学系を構成する各部品の位置決め精度を高めることができる。一方、前記第1形態例に示したものは、金属定盤の大きさや厚さに関係なく、熱歪みをより確実に防止できる。したがって、レーザ加工装置に要求される加工精度や伝送光学系の長さ及び構成、設置場所の温度変化幅などの条件に応じていずれかを選択すればよい。
【0027】
なお、両形態例では、4枚のミラーを備えた伝送光学系を例示したが、ミラーの枚数は限定されるものではなく、レーザ発振器15と加工ヘッド16とを金属定盤上に設置してミラーを介さずにレーザ発振器15から加工ヘッド16へ直接レーザ光Lを伝送する光学系を備えたレーザ加工装置にも適用が可能である
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のレーザ加工装置の第1形態例を示す概略正面図である。
【図2】同じく概略平面図である。
【図3】本発明のレーザ加工装置の第2形態例を示す概略平面図である。
【図4】従来のレーザ加工装置の一例を示す概略正面図である。
【図5】同じく概略平面図である。
【符号の説明】
【0029】
11…石定盤、12…支持部材、13,14…金属定盤、15…レーザ発振器、16…加工ヘッド、16a…ミラー、17…伝送経路、18…ガイド、19…箱体、20…筒体、21a,21b,22a,22b…ミラー、31…金属定盤、31a…長辺、32a,32b,32c…切り込み、33…先端、34…接続部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石材製の石定盤上に支持部材を介して金属製の金属定盤を設置し、該金属定盤上にレーザの伝送光学系を設置したレーザ加工装置において、前記金属定盤を伝送光学系の光軸方向に複数に分割し、該分割した複数の金属定盤上に前記伝送光学系を構成する部品をそれぞれ配置したことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
石材製の石定盤上に支持部材を介して金属製の金属定盤を設置し、該金属定盤上にレーザの伝送光学系を設置したレーザ加工装置において、前記金属定盤に、伝送光学系の光軸方向に対して直交する方向で、かつ、金属定盤の異なる方向からの複数の切り込みを設けたことを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項3】
前記伝送光学系は、レーザ発振器から加工ヘッドまでの間に複数のミラーを備えていることを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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