レーザ加熱による液体膨張圧を用いたマイクロインジェクション法
【課題】 キャピラリーの外部から熱風を吹き付けることなく、キャピラリーの内部に保持された液体を加熱し、当該液体の熱膨張圧を利用して、キャピラリーの内部に保持された目的の液体を吐出することができる液体吐出法を提供する。
【解決手段】 一端に液体吐出口を有するキャピラリーの内部に、第一の液体層及びレーザ光吸収剤を含有する第二の液体層を、前記第一の液体層が前記液体吐出口側に位置するように保持させ、前記第二の液体層を前記キャピラリーの内部に密閉する密閉部を形成し、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、前記キャピラリーの液体吐出口から前記第一の液体層の液体を吐出させる。
【解決手段】 一端に液体吐出口を有するキャピラリーの内部に、第一の液体層及びレーザ光吸収剤を含有する第二の液体層を、前記第一の液体層が前記液体吐出口側に位置するように保持させ、前記第二の液体層を前記キャピラリーの内部に密閉する密閉部を形成し、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、前記キャピラリーの液体吐出口から前記第一の液体層の液体を吐出させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出法、特にマイクロインジェクション法に適用することができる液体吐出法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、タンパク質等の目的物質を細胞内に導入するには、マイクロキャピラリー(マイクロピペットとも呼ばれる)を用いたマイクロインジェクション法が利用されている。従来のマイクロインジェクション法では、先端部が針状となっているマイクロキャピラリーの内部に目的物質を含有する液体を保持し、キャピラリーの先端部を細胞内に挿入し、空気圧又は油圧を利用してキャピラリーの内部に保持された液体を細胞内へ吐出させることにより、目的物質を細胞内にインジェクションする。
【0003】
キャピラリーの先端部の外径を1μm以下にすると、細胞にダメージを与えることなく、目的物質を含有する液体を細胞内にインジェクションできるとともに、キャピラリーの先端部の内径を、細胞内にインジェクションされる液体量を精密に制御できる大きさとすることができる。
【0004】
しかしながら、空気圧又は油圧を利用してキャピラリーの内部に保持された液体を吐出させる場合、十分な吐出圧が得られないため、キャピラリーの先端部の外径を1μm以下にすると、キャピラリーの先端部が詰るおそれがある。このため、空気圧又は油圧を利用してキャピラリーの内部に保持された液体を吐出させる場合、細胞にダメージを与えることなく液体を細胞内にインジェクションすること、及び細胞内にインジェクションされる液体量を精密に制御することを実現することは困難である。
【0005】
このような状況の下、図7に示すように、一端に液体吐出口31を有し、他端に液体導入口32を有するガラス製のマイクロキャピラリー30の内部に、液体導入口32から、核酸を含有する液体サンプルL、液体合金であるガリンスタンG及びシリコンオイルSを順に導入し、エポキシ樹脂Eを満たしたガラスキャップ40で液体導入口32を封止し、マイクロキャピラリー30の外部から熱風を吹き付け、ガリンスタンGの熱膨張圧を発生させ、液体サンプルLを液体吐出口31から吐出させる方法が開発されている(非特許文献1)。この方法によれば、ガリンスタンGの熱膨張により発生する熱膨張圧を利用することで、空気圧又は油圧を利用する場合よりも大きな液体吐出圧を得ることができ、先端部の外径が1μm以下であるマイクロキャピラリー30を用いて液体サンプルLを吐出させることができる。
【非特許文献1】Knoblauch等,「ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」,1999年,第17巻,pp.906-909
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マイクロキャピラリー30の外部から熱風を吹き付けることによりガリンスタンGを加熱する場合、ガリンスタンGの温度制御が困難であるとともに、ガリンスタンGの温度を制御可能な範囲も狭い。
【0007】
また、熱風を吹き付けることによりガリンスタンGとともにマイクロキャピラリー30も熱膨張するため、熱膨張率が大きいガリンスタンという特殊な液体金属の使用が必要となる。
【0008】
さらに、熱風を吹き付けることによりマイクロキャピラリー30が振動するおそれがあるため、顕微鏡ステージ上の狭い空間において精密な作業を行うことは困難である。
【0009】
さらに、ガリスタンGの一部がマイクロキャピラリー30の先端部に落下し、先端部が詰るおそれがある。
【0010】
さらに、エポキシ樹脂Eを満たしたガラスキャップ40で液体導入口32を封止する作業は煩雑で時間を要するため、作業効率が低下する。
【0011】
そこで、本発明は、キャピラリーの外部から熱風を吹き付けることなく、キャピラリーの内部に保持された液体を加熱し、当該液体の熱膨張圧を利用して、キャピラリーの内部に保持された目的の液体を吐出することができる液体吐出法、並びに該液体吐出法に利用できるキャピラリーホルダー及びレーザ照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、一端に液体吐出口を有するキャピラリーの内部に、第一の液体層及びレーザ光吸収剤を含有する第二の液体層を、前記第一の液体層が前記液体吐出口側に位置するように保持させ、前記第二の液体層を前記キャピラリーの内部に密閉する密閉部を形成し、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、前記キャピラリーの液体吐出口から前記第一の液体層の液体を吐出させることを特徴とする液体吐出法を提供する。
【0013】
また、本発明は、キャピラリー保持部と、光ファイバー装着部と、前記光ファイバー装着部に装着された光ファイバーから発せられるレーザ光が、前記キャピラリー保持部に保持されたキャピラリーの外壁面のうち目的の領域に照射されるように、前記レーザ光を案内する光通路とを備えたことを特徴とするキャピラリーホルダーを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、本発明のキャピラリーホルダーと、前記キャピラリーホルダーの光ファイバー装着部に装着された光ファイバーと、前記光ファイバーに接続されたレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられるレーザ光の出力をコントロールするコントローラとを備えたことを特徴とするレーザ光照射装置を提供する。
【0015】
本発明の液体吐出法において、第二の液体層にレーザ光を照射すると、第二の液体層に含有されるレーザ光吸収剤がレーザ光を吸収して発熱し、第二の液体層は加熱されて熱膨張する。第二の液体層は第一の液体層と密閉部との間に挟まれ、キャピラリーの内部に密閉された状態で保持されているので、第二の液体層の熱膨張により熱膨張圧が発生する。密閉部により第二の液体層の密閉部方向への動きは防止されるので、第二の液体層の熱膨張圧は第一の液体層の吐出圧に変換され、第一の液体層の液体はキャピラリーの液体吐出口から吐出される。
【0016】
本発明の液体吐出法において、レーザ光はキャピラリーを透過して第二の液体層に照射されるが、レーザ光の透過によりキャピラリーが熱膨張することはないので、第二の液体層の熱膨張圧は第一の液体層の吐出圧に迅速かつ効率よく変換され、第二の液体層の体積膨張量とほぼ等しい量の液体がレスポンスよく吐出される。したがって、第二の液体層を構成する液体としてガリンスタン等の特殊な液体金属を使用する必要はない。
【0017】
本発明の液体吐出法において、第二の液体層の温度上昇は、レーザ光の出力を調節することにより制御することができ、第二の液体層の温度上昇を制御することにより、第一の液体層を構成する液体の吐出量を制御することができる。
【0018】
本発明の液体吐出法において、レーザ光を照射する際、熱風を吹き付ける場合のようにキャピラリーに振動が生じることはなく、顕微鏡ステージ上の狭い空間においても精密な作業を行うことができる。
【0019】
本発明の液体吐出法において、キャピラリーに保持された第一の液体層の液体を吐出させると第一の液体層の液量は減少するが、レーザ光の出力を調節して第二の液体層の温度上昇を制御することにより、十分に大きな第一の液体層の吐出圧を得ることができるので、第一の液体層の液量が減少しても第一の液体層の液体を吐出させることができる。したがって、キャピラリーに保持された第一の液体層の液体を繰り返し吐出させることができる。
【0020】
本発明の液体吐出法の好ましい態様では、前記キャピラリーが他端に有する開口部から前記キャピラリーの内部に、前記第一の液体層を構成する液体、前記第二の液体層を構成する液体、及び硬化可能な液体樹脂を順に導入した後、前記液体樹脂を硬化させ、前記密閉部を形成する。本態様によれば、キャピラリーに強固に固定された密閉部を容易に形成することができる。
【0021】
上記態様において、前記液体樹脂がエネルギー線硬化性樹脂からなることが好ましい。この場合、エネルギー線の照射により、第二の液体層を熱膨張させることなく、液体樹脂を硬化させることができる。
【0022】
本発明の液体吐出法の好ましい態様では、前記第一の液体層が目的物質を含有しており、前記キャピラリーの液体吐出口を細胞内に挿入した状態で、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、前記キャピラリーの液体吐出口から前記細胞内に前記第一の液体層の液体を吐出させる。本態様によれば、目的物質を細胞内にインジェクションすることができる。レーザ光の出力を調節して第二の液体層の温度上昇を制御することにより、十分に大きな第一の液体層の吐出圧を得ることができるので、細胞内に挿入されるキャピラリーの先端部の外径を1μm以下としても、キャピラリーの先端部が詰ることなく、目的物質を細胞内にインジェクションすることができる。細胞内に挿入されるキャピラリーの先端部の外径を1μm以下とすることにより、細胞にダメージを与えることなく目的物質を細胞内にインジェクションできるとともに、キャピラリーの先端部の内径を細胞内にインジェクションされる液体量を精密に制御できる大きさとすることができる。
【0023】
本発明の液体吐出法は、本発明のキャピラリーホルダー又はレーザ光照射装置を使用して実施することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キャピラリーの外部から熱風を吹き付けることなく、キャピラリーの内部に保持された液体を加熱し、当該液体の熱膨張圧を利用して、キャピラリーの内部に保持された目的の液体を吐出することができる液体吐出法、並びに該液体吐出法に利用できるキャピラリーホルダー及びレーザ照射装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の液体吐出法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、図1(a)に示すキャピラリー1を使用する。
キャピラリー1は管状であり、図1(a)に示すように、一端に液体吐出口11を有し、他端に液体吐出口11と連通する液体導入口12を有している。図1(a)に示すように、キャピラリー1の先端部は針状となっており、キャピラリー1の先端部を細胞に刺すことができるようになっている。キャピラリー1の先端部の外径は、通常0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μmであり、細胞に刺したときに細胞へのダメージを抑えることができるようになっている。
【0026】
キャピラリー1の内径は、液体導入口12からキャピラリー1内に導入された液体が、毛細管現象によって液体吐出口11の方向に移動し、キャピラリー1内に保持されるように調節されている。キャピラリー1の液体導入口12の内径は通常400〜800μm、好ましくは500〜700μmであり、液体吐出口11の内径は通常0.06〜0.6μm、好ましくは0.06〜0.3μmである。
【0027】
キャピラリー1は、レーザ光が透過可能な材料から構成されている。レーザ光が透過可能な材料としては、例えば、ガラス、石英等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
キャピラリー1としては、核酸等の物質を細胞に注入するマイクロインジェクション法で一般的に使用されるマイクロキャピラリー又はマイクロピペットを使用することができる。キャピラリー1がガラスで構成される場合、1段引き、2段引き等の公知の方法を使用してガラス管からキャピラリー1を作製することができる。
【0029】
本実施形態では、まず、キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に、目的物質を含有する親水性の液体を導入する。当該液体は毛細管現象によって液体吐出口11方向に移動し、図1(b)に示すように、第一の液体層2を形成した状態でキャピラリー1の内部に保持される。
【0030】
親水性の液体は、水と混じり合う性質(水性)を有する液体である限り特に限定されるものではない。親水性の液体としては、例えば、水、DMSO、ポリエチレングリコール等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。目的物質を安定した状態で含有することができ、細胞内にインジェクションされたときに細胞に悪影響を及ぼさない点から、親水性の液体としては、水を使用することが好ましい。
【0031】
目的物質は、細胞内にインジェクションしようとする物質であり、細胞内へのインジェクションの目的に応じて適宜選択することができる。目的物質としては、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、糖、薬物等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。目的物質は、第一の液体層2に溶解、分散等のいずれの状態で含有されていてもよい。
【0032】
なお、核酸は、DNA、RNA、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)等のいずれであってもよい。また、核酸は、一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよいし、線状又は環状のいずれであってもよい。
【0033】
第一の液体層2は、目的物質の他、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、色素等を含有していてもよい。液体吐出量を目視によりコントロールすることができる点から、第一の液体層2は色素を含有することが好ましい。色素としては、例えば、フルオレセイン;ローダミン;フィコエリスリン;Cy2,Cy3,Cy3.5,Cy5,Cy7等のCy系色素;Alexa-488,Alexa-532,Alexa-546,Alexa-633,Alexa-680等のAlexa系色素;BODIPY FL,BODIPY TR等のBODIPY系色素等の蛍光色素が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本実施形態では、次いで、キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に、レーザ光吸収剤を含有し、第一の液体層2との界面を形成可能な液体を導入する。当該液体は毛細管現象によって液体吐出口11方向に移動し、第一の液体層2との界面を形成し、図1(c)に示すように、第二の液体層3を形成した状態でキャピラリー1の内部に保持される。キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に当該液体を導入する際、第一の液体層2と第二の液体層3との間に空気が混入しないように注意する。第二の液体層3の熱膨張圧が空気層により吸収されると、第二の液体3の熱膨張圧を第一の液体層2の吐出圧へ変換する際の制御が困難となるからである。
【0035】
第一の液体層2は親水性の液体から構成されているので、第一の液体層2との界面を形成可能な液体として疎水性の液体を使用することができる。疎水性の液体は、水と混じり合わない性質(水不溶性)を有する液体である限り特に限定されるものではない。疎水性の液体としては、例えば、高級脂肪酸又はそのエステル類(例えば、オレイン酸、オレイン酸メチル、オレイン酸イソブチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸オレイル、リノール酸、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノレン酸、リノレン酸メチル、パルミチン酸、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸イソトリデシル、ラウリン酸、ラウリン酸メチル、2−エチルヘキサン酸セチル、エルカ酸オクチルドデシル、カプリン酸メチル、ヤシ油脂肪酸メチル、牛脂脂肪酸メチル、パーム油脂肪酸メチル等)、脂肪族又は芳香族多塩基酸エステル類(例えば、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソデシル等の脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル;フタル酸ジデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、フタル酸シクロヘキシル2−エチルヘキシル等の芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル;トリメリツト酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリツト酸トリエチル、トリメリツト酸トリn−ブチル、トリメリツト酸トリイソデシル等の芳香族ポリカルボン酸のポリアルキルエステル)、グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、オレイン酸モノグリセリド、オレイン酸ジグリセリド、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、カプリン酸モノグリセリド、カプリン酸ジグリセリド、ジアセチルカプリン酸グリセリド、ジアセチルヤシ油脂肪酸グリセリド等)、エポキシ化脂肪酸エステル類(例えば、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化脂肪酸オクチル等)等の油性液体が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記油性液体のうち、常温で液体であり、沸点が100℃以上であり、毒性がなく、無臭で気化しにくいものを使用することが好ましく、このような油性液体としては、例えば、オレイン酸、オレイン酸メチル、リノール酸、リノール酸メチル、リノレン酸等が挙げられる。疎水性の液体としては、液体金属を使用してもよいが、非金属系液体を使用することが好ましい。疎水性の液体としては、上記油性液体の他、ミネラルオイル、流動パラフィン等を使用することができる。
【0036】
レーザ光吸収剤は、レーザ光を吸収して発熱することができる物質である限り特に限定されるものではない。レーザ光吸収剤としては、例えば、アセチレンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック;Fe3O4、FeO・Fe2O3等の黒色酸化鉄;二酸化チタンを還元して得られるチタンブラック等の黒色系化合物が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの黒色系化合物は、150〜11000nmの波長のレーザ光を吸収して発熱することができる。レーザ光吸収剤は、第二の液体層3に溶解、分散等のいずれの状態で含有されていてもよい。
【0037】
本実施形態では、次いで、キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に、硬化可能な液体樹脂を導入する。当該液体樹脂は毛細管現象によって液体吐出口11方向に移動し、第二の液体層3と界面を形成し、図1(d)に示すように、液体樹脂層4を形成した状態でキャピラリー1の内部に保持される。キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に当該液体樹脂を導入する際、第二の液体層3と液体樹脂層4との間に空気が混入しないように注意する。第二の液体層3の熱膨張圧が空気層により吸収されると、第二の液体3の熱膨張圧を第一の液体層2の吐出圧へ変換する際の制御が困難となるからである。
【0038】
硬化可能な液体樹脂としては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂からなる液体樹脂を使用することができる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、放射線等が挙げられ、活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、活性エネルギーの照射により重合する性質を有するプレポリマー及び/又はモノマーに、必要に応じて、他の単官能性又は多官能性モノマー、各種ポリマー、光重合開始剤、増感剤、帯電防止剤等を配合した樹脂組成物等が挙げられる。活性エネルギーの照射により重合する性質を有するプレポリマーとしては、例えば、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレート、エポキシポリ(メタ)アクリレート、ポリオールポリ(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートが挙げられ、活性エネルギーの照射により重合する性質を有するモノマーとしては、例えば、モノアルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリオールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等のモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。光開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエーテル、ベンジルケタール類、チオキサントン類等が挙げられ、増感剤としては、例えば、アミン類、ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0039】
硬化可能な液体樹脂としては、熱硬化性樹脂からなる液体樹脂を使用してもよい。但し、熱硬化性樹脂を硬化させる際、熱硬化性樹脂に加えられた熱が第二の液体層3に伝わり、第二の液体層3の膨張圧が発生するおそれがあるため、活性エネルギー線硬化性樹脂からなる液体樹脂を使用することが好ましい。
【0040】
硬化可能な液体樹脂としては、硬化の際に生じる体積変化(体積減少)が小さい液体樹脂を使用することが好ましい。硬化の際に生じる体積減少が大きいと、第一の液体層2又は第二の液体層3の液体に気泡が生じるおそれがあるからである。
【0041】
本実施形態では、次いで、液体樹脂層4を硬化させ、図1(d)に示すように、密閉部5を形成する。
【0042】
密閉部5は、キャピラリー1に強固に固定されており、第二の液体層3が熱膨張しても、第二の液体層3の密閉部5方向への動きは防止されるようになっている。
【0043】
図1(d)に示すように、第二の液体層3の一方の液面は第一の液体層2と接触し、液体吐出口11を通じた第二の液体層3と外気との接触は防止されている。また、図1(d)に示すように、第二の液体層3の他方の液面は密閉部5と接触し、液体導入口12を通じた第二の液体層3と外気との接触は防止されている。したがって、第二の液体層3は、第一の液体層2と密閉部5との間に挟まれ、キャピラリー1の内部に密閉された状態で保持されている。
【0044】
キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に液体を導入する際、図2に示すように、液体導入口12からキャピラリー1内に挿入可能なチップ100を取り付けたシリンジ200を使用することができる。液体導入口12からキャピラリー1内に挿入可能なチップ100としては、例えば、プラスチック製チップの先端部を引き伸ばして細くしたものを使用することができる。また、市販品(例えばマイクロローダー(エッペンドルフ社製))を使用することもできる。
【0045】
本実施形態では、次いで、図3に示すように、キャピラリー1の液体吐出口11を細胞C内に挿入した状態で、キャピラリー1の内部に保持された第二の液体層3にレーザ光を照射する。
【0046】
キャピラリー1の液体吐出口11の細胞C内への挿入は、例えば、顕微鏡で観察しながら顕微鏡ステージ上で行うことができる。
【0047】
第二の液体層3に照射されるレーザ光の波長は、第二の液体層3に含有されるレーザ光吸収剤が吸収可能な波長であり、通常150〜11000nmである。
【0048】
第二の液体層3にレーザ光が照射されると、第二の液体層3に含有されるレーザ光吸収剤がレーザ光を吸収して発熱し、第二の液体層3は加熱されて熱膨張する。第二の液体層3は第一の液体層2と密閉部5との間に挟まれ、キャピラリー1の内部に密閉された状態で保持されているので、第二の液体層3の熱膨張により熱膨張圧が発生する。密閉部5により第二の液体層3の密閉部5方向への動きは防止されるので、第二の液体層3の熱膨張圧は第一の液体層2の吐出圧に変換され、第一の液体層2の液体はキャピラリー1の液体吐出口11から細胞C内に吐出される。こうして、目的物質は細胞C内にインジェクションされる。1つの細胞C内への液体吐出量は通常0.01〜100fL(fL=1μm3)、好ましくは0.01〜10fLである。
【0049】
レーザ光はキャピラリー1を透過して第二の液体層3に照射されるが、レーザ光の透過によりキャピラリー1が熱膨張することはないので、第二の液体層3の熱膨張圧は第一の液体層2の吐出圧に迅速かつ効率よく変換され、第二の液体層3の体積膨張量とほぼ等しい量の液体がレスポンスよく吐出される。
【0050】
第二の液体層3の温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧(MPa/℃)は、次式:熱膨張圧(MPa/℃)=熱膨張率(m3/℃)/圧縮率(m3/MPa)により算出される。第二の液体層3の温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧は、好ましくは0.1〜10MPa/℃、さらに好ましくは1〜10MPa/℃である。第二の液体層3の温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧が上記範囲にあると、十分に大きな第一の液体層2の吐出圧を得ることができる。第二の液体層3を構成する液体としてオレイン酸を使用する場合、温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧は約1MPa/℃である。
【0051】
第二の液体層3の温度上昇は、レーザ光の出力を調節することにより制御することができ、第二の液体層3の温度上昇を制御することにより、液体吐出量(目的物質のインジェクション量)を制御することができる。レーザから高出力のレーザ光を発生させ、これを第二の液体層3に照射することにより、第二の液体層3の温度を迅速に上昇させることができる。
【0052】
第一の液体層2に蛍光色素が含有されている場合には、蛍光顕微鏡で観察することにより、液体吐出量を目視により制御することができる。
【0053】
レーザ光を照射する際、熱風を吹き付ける場合のようにキャピラリー1に振動が生じることはなく、顕微鏡ステージ上の狭い空間においても精密な作業を行うことができる。
【0054】
細胞Cが由来する生物種は特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物等のいずれであってもよい。また、細胞Cの種類は特に限定されるものではなく、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等のいずれであってもよい。
【0055】
1つの細胞C内に目的物質をインジェクションすると、第一の液体層2の液量は減少するが、レーザ光の出力を調節して第二の液体層3の温度上昇を制御することにより、十分に大きな第一の液体層2の吐出圧を得ることができるので、第一の液体層2の液量が減少しても第一の液体層2の液体を吐出させることができる。したがって、図1(e)に示すキャピラリー1は、複数の細胞C内への目的物質のインジェクションに繰り返し使用することができる。
【0056】
第二の液体層3にレーザ光を照射する際、図4及び5に示すレーザ光照射装置6を使用することができる。
【0057】
図4及び5に示すように、レーザ光照射装置6は、キャピラリーホルダー7と、一端がキャピラリーホルダー7に装着された光ファイバー8と、光ファイバー8の他端に接続されたレーザ9と、レーザ9から発せられるレーザ光の出力をコントロールするコントローラ10とを備える。
【0058】
図4、5及び6に示すように、キャピラリーホルダー7は、本体部71と、キャピラリー保持部材72と、ネジ74及び75によって本体部71及びキャピラリー保持部材72に取り付けられた板バネ73と、本体部71に取り付けられた把持部76とを備える。
【0059】
図4、5及び6に示すように、本体部71は、光ファイバー装着部711と、光ファイバー装着部711に装着された光ファイバー8から発せられるレーザ光を案内する光通路712と、光ファイバー装着部711に装着された光ファイバー8から発せられるレーザ光の照射範囲を拡大するレンズ713と、キャピラリー1の液体導入口12側の部分を挿入可能な挿入孔714とを備える。
【0060】
図4及び6に示すように、キャピラリー保持部材72は板バネ73の付勢力によって光通路712の方向に付勢されており、キャピラリーホルダー7にキャピラリー1が保持されていない状態において、キャピラリー保持部材72は本体部71に当接している。キャピラリーホルダー7にキャピラリー1を保持させる際、キャピラリー保持部材72に板バネ73の付勢力と逆方向の力を加え、本体部71に当接しているキャピラリー保持部材72を本体部71から引き離し、キャピラリー1の液体導入口12側の部分を本体部71の挿入孔714に挿入し、キャピラリー保持部材72に加えている力(板バネ73の付勢力と逆方向の力)を解除する。そうすると、図5に示すように、キャピラリー1は、板バネ73の付勢力によって本体部71とキャピラリー保持部材72との間に挟まれた状態で保持される。なお、図5に示すように、キャピラリー1は、液体吐出口11側の部分がキャピラリーホルダー7から突出するように、キャピラリーホルダー7に保持される。
【0061】
キャピラリーホルダー7に保持されたキャピラリー1の液体吐出口11を細胞5内へ挿入する等の作業は、キャピラリーホルダー7の把持部76を持って行うことができる。
【0062】
コントローラ10によって出力がコントロールされたレーザ光がレーザ9から発せられると、レーザ光は光ファイバー8を通じてキャピラリーホルダー7に送られる。キャピラリーホルダー7に送られたレーザ光は、レンズ713を通過した後、光通路712によって案内され、本体部71とキャピラリー保持部材72との間に保持されるキャピラリー1の外壁面のうち目的の領域(すなわち第二の液体層3と接触する壁部の外壁面)に照射される。キャピラリーホルダー7に送られたレーザ光がレンズ713を通過すると、レーザ光の照射範囲は拡大され、レーザ光は目的の領域全体にわたって照射されるので、キャピラリー1の内部に保持された第二の液体層3を効率よく加熱することができる。
【0063】
図5に示すように、光通路712によって案内されたレーザ光は、キャピラリー1内の第一の液体層2に照射されないようになっているので、第一の液体層2に含有される目的物質の破壊を防止することができる。また、図4及び5に示すように、光通路712は壁部で囲まれており、光通路712で案内されたレーザ光はキャピラリーホルダー7から漏れないようになっているので、レーザ光の人体への悪影響を防止することができる。
【0064】
レーザ9のレーザ媒質としては、例えば、CO2、エキシマ、希ガス等のガス;YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶)、ルビー、半導体等の固体等が挙げられるが、YAGが好ましい。YAGレーザによって発せられるレーザ光の波長は1064nmの近赤外線であり、この波長域のレーザ光は、集光性が高く、石英光ファイバーによる伝送が可能である。また、YAGレーザは数100W〜1kWの出力で高繰り返しパルス、Qスイッチパルス、連続発振が可能である。
【0065】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0066】
本発明の液体吐出法は、微量(通常0.01〜100fL、好ましくは0.01〜10fL)の液体を吐出する際に有用であり、目的物質の細胞内へのインジェクション以外の種々の目的で使用することができる。
【0067】
本実施形態では、第二の液体層3は一層からなるが、第二の液体層3は複数層からなっていてもよい。第二の液体層3が複数層からなる場合、レーザ光吸収剤はいずれの層に含有されていてもよいが、レーザ光吸収剤は疎水性の液体(特に油性液体)で構成される層に含有されていることが好ましい。レーザ光吸収剤が疎水性の液体(特に油性液体)で構成される層に含有されている場合、十分に大きな熱膨張圧を得ることができる。第二の液体層3が複数層からなる場合、接触し合う2層は界面を形成可能な2種類の液体(例えば、親水性の液体と疎水性の液体)で構成することができる。
【0068】
本実施形態では、吐出対象液体が親水性の液体であるので第一の液体層2を構成する液体として親水性の液体を使用したが、吐出対象液体が疎水性の液体である場合には、第一の液体層2を構成する液体として疎水性の液体を使用する。
【0069】
本実施形態では、硬化可能な液体樹脂を硬化させて密閉部5を形成したが、キャップ等の密閉部材をキャピラリー1の液体導入口12に装着することにより、密閉部5を形成してもよい。但し、この場合、第二の液体層3の熱膨張圧が加えられても離脱しないように、密閉部材を液体導入口12に強固に装着する必要がある。密閉部材は、例えば、接着剤により液体導入口12に強固に接着することができる。
【実施例】
【0070】
〔実施例1〕高等植物トレニアの生殖細胞群へのインジェクション
(1)従来法によるインジェクション
ガラス管(内径:約600μm)を2段引きし、一端に液体吐出口(内径:約0.7μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーを作製した。このキャピラリーの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約1.2μmである。液体導入口からキャピラリーの内部に、7kbpのプラスミド及び蛍光色素Alexaを含有する水溶液(液体サンプル)、及びシリコンオイルを順次導入した後、キャピラリーの液体導入口側の部分をホルダー(NARISHIGE製,商品名:HI−7)に差し込み、ねじ式押えでキャピラリーをホルダーに固定した。ホルダーは中空であり、キャピラリーの差込口と反対側にテフロン(登録商標)チューブの一端が接続されており、テフロン(登録商標)チューブの他端にシリンジ(NARISHIGE製,商品名:IM-26-2)が接続されている。シリンジを押し込むと、それにより生じた圧力がテフロン(登録商標)チューブ、ホルダー及びキャピラリーの内部を満たしているシリコンオイルを圧力媒体として伝わり、キャピラリーの先端部から液体が吐出される。このようなシリンジを用いた油圧式インジェクション法により高等植物トレニアの生殖細群胞へのインジェクションを試みた。この際、蛍光顕微鏡の緑色励起光により蛍光色素Alexaの赤色蛍光を観察し、目視により液体吐出量をコントロールした。
【0071】
卵細胞の隣にある中央細胞にインジェクションした様子を図8(a)に示す。中央細胞は比較的大きな細胞であるが、それでも細胞が変形しておりダメージが見られた。また、液体吐出量のコントロールが難しく、過剰量をインジェクションしてしまうことが多かった。また、培地にも液体サンプルが漏出していた。なお、小さい輝点は葉緑体の自家蛍光である。
【0072】
精密なインジェクションを行うためには、キャピラリーの先端部の外径をより小さくする必要があったが、キャピラリーの先端部の外径をより小さくすると、液体サンプルの吐出が不可能であった。
【0073】
(2)本発明の方法によるインジェクション
ガラス管(内径:約600μm)の1段引きにより、一端に液体吐出口(内径:約0.06μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーを作製した。このキャピラリーの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約0.1μmである。液体導入口からキャピラリーの内部に、7kbpのプラスミド及び蛍光色素Alexaを含有する水溶液(液体サンプル)、カーボンブラックを含有するオレイン酸、並びに紫外線硬化性樹脂(TESK(株)製,A−1428F)からなる液体樹脂を順に導入した後、紫外線を照射して液体樹脂を硬化させた。キャピラリーの内部に各種液体を導入する際、空気が混入しないように注意した。
【0074】
図4に示すレーザ照射装置に図5に示すようにキャピラリーを装着し、キャピラリーの液体吐出口を高等植物トレニアの生殖細胞に挿入した状態で、キャピラリーの内部に保持されたオレイン酸にYAGレーザから発せられるレーザ光(1064nm)を照射し、液体サンプルを液体吐出口から吐出させた。この際、蛍光顕微鏡の緑色励起光により蛍光色素Alexaの赤色蛍光を観察し、目視により液体吐出量をコントロールした。
【0075】
その結果、図8(b)に示すように、キャピラリーの先端部の外径が約0.1μmであっても液体サンプルを吐出することができ、従来法よりも精密なインジェクションが可能であった。また、図8(b)に示すように、卵細胞へのインジェクションも容易に行うことができた。なお、図8(b)の右図は蛍光色素Alexaを観察した蛍光像、左図は同じ視野の明視野像を示す。
【0076】
〔実施例2〕トレニアの極核(中央細胞の核)及び助細胞へのインジェクション
実施例1と同様に本発明の方法を用いて、液体サンプルをトレニアの極核(中央細胞の核)及び助細胞へインジェクションした。
【0077】
トレニアの極核へインジェクションした様子を図9(a)に示し、助細胞へインジェクションした様子を図9(b)に示す。なお、図9(a)及び(b)の上図は明視野像であり、下図は上図と同じ視野の蛍光像である。
【0078】
図9(a)及び(b)に示すように、標的となる核や、非常に破裂しやすく弱い助細胞へダメージ無く液体サンプルをインジェクションすることができた。
【0079】
〔実施例3〕インジェクション効率の比較
ガラス管(内径:約600μm)の2段引きにより一端に液体吐出口(内径:約0.7μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーAを作製した。キャピラリーAの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約1.2μmである。
【0080】
また、ガラス管(内径:約600μm)の1段引きにより一端に液体吐出口(内径:約0.18μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーBを作製した。キャピラリーBの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約0.3μmである。
【0081】
キャピラリーA及びBを用いた油圧式インジェクション法により、液体サンプルを植物培養細胞(BY−2細胞)にインジェクションした。同じキャピラリーを使ってキャピラリーの先端部が詰まるまでインジェクションし、インジェクションできた回数を調べた。
【0082】
一方、キャピラリーBを用いた本発明の方法により、液体サンプルを植物培養細胞(BY−2細胞)にインジェクションした。同じキャピラリーを使ってキャピラリーの先端部が詰まるまでインジェクションし、インジェクションできた回数を調べた。
【0083】
その結果、キャピラリーAを用いた油圧式インジェクション法における平均インジェクション回数は約3回、キャピラリーBを用いた油圧式インジェクション法における平均インジェクション回数は1回未満であった。これに対して、キャピラリーBを用いた本発明の方法における平均インジェクション回数は20回以上であった。
【0084】
本発明の方法によれば、精密なインジェクションを行うことができるだけでなく、1本のキャピラリーを繰り返し使用して効率よくインジェクションを行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】(a)は空のキャピラリー、(b)は第一の液体層が保持されたキャピラリー、(c)は第一の液体層及び第二の液体層が保持されたキャピラリー、(d)は第一の液体層、第二の液体層及び液体樹脂が保持されたキャピラリー、(e)は第一の液体層及び第二の液体層が保持され、密閉部が形成されたキャピラリーを示す一部断面図である。
【図2】キャピラリーの液体導入口からキャピラリー内に挿入可能なチップを取り付けたシリンジを用いて、キャピラリーの液体導入口からキャピラリーの内部に液体を導入する様子を示す一部断面図である。
【図3】キャピラリーの液体吐出口を細胞内に挿入した状態で、キャピラリーの内部に保持された第二の液体層にレーザ光を照射する様子を示す一部断面図である。
【図4】キャピラリー装着前のレーザ光照射装置を示す一部断面図である。
【図5】キャピラリー装着後のレーザ光照射装置を示す一部断面図である。
【図6】(a)はキャピラリーホルダーの平面図、(b)はキャピラリーホルダーの側面図、(c)はキャピラリーホルダーの正面図である。
【図7】従来のマイクロインジェクション法で用いられるキャピラリーの一部断面図である。
【図8】(a)は従来の油圧式インジェクション法によりトレニア生殖細群胞へインジェクションした様子を示す図であり、(b)は本発明の方法によりトレニア生殖細群胞へインジェクションした様子を示す図である。
【図9】(a)は本発明の方法によりトレニア極核へインジェクションした様子を示す図であり、(b)は本発明の方法によりトレニア助細胞へインジェクションした様子を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・キャピラリー
11・・・液体吐出口
12・・・液体導入口
2・・・第一の液体層
3・・・第二の液体層
4・・・液体樹脂
5・・・密閉部
6・・・レーザ光照射装置
7・・・キャピラリーホルダー
8・・・光ファイバー
9・・・レーザ光源
10・・・コントローラ
C・・・細胞
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出法、特にマイクロインジェクション法に適用することができる液体吐出法に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、タンパク質等の目的物質を細胞内に導入するには、マイクロキャピラリー(マイクロピペットとも呼ばれる)を用いたマイクロインジェクション法が利用されている。従来のマイクロインジェクション法では、先端部が針状となっているマイクロキャピラリーの内部に目的物質を含有する液体を保持し、キャピラリーの先端部を細胞内に挿入し、空気圧又は油圧を利用してキャピラリーの内部に保持された液体を細胞内へ吐出させることにより、目的物質を細胞内にインジェクションする。
【0003】
キャピラリーの先端部の外径を1μm以下にすると、細胞にダメージを与えることなく、目的物質を含有する液体を細胞内にインジェクションできるとともに、キャピラリーの先端部の内径を、細胞内にインジェクションされる液体量を精密に制御できる大きさとすることができる。
【0004】
しかしながら、空気圧又は油圧を利用してキャピラリーの内部に保持された液体を吐出させる場合、十分な吐出圧が得られないため、キャピラリーの先端部の外径を1μm以下にすると、キャピラリーの先端部が詰るおそれがある。このため、空気圧又は油圧を利用してキャピラリーの内部に保持された液体を吐出させる場合、細胞にダメージを与えることなく液体を細胞内にインジェクションすること、及び細胞内にインジェクションされる液体量を精密に制御することを実現することは困難である。
【0005】
このような状況の下、図7に示すように、一端に液体吐出口31を有し、他端に液体導入口32を有するガラス製のマイクロキャピラリー30の内部に、液体導入口32から、核酸を含有する液体サンプルL、液体合金であるガリンスタンG及びシリコンオイルSを順に導入し、エポキシ樹脂Eを満たしたガラスキャップ40で液体導入口32を封止し、マイクロキャピラリー30の外部から熱風を吹き付け、ガリンスタンGの熱膨張圧を発生させ、液体サンプルLを液体吐出口31から吐出させる方法が開発されている(非特許文献1)。この方法によれば、ガリンスタンGの熱膨張により発生する熱膨張圧を利用することで、空気圧又は油圧を利用する場合よりも大きな液体吐出圧を得ることができ、先端部の外径が1μm以下であるマイクロキャピラリー30を用いて液体サンプルLを吐出させることができる。
【非特許文献1】Knoblauch等,「ネイチャーバイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」,1999年,第17巻,pp.906-909
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、マイクロキャピラリー30の外部から熱風を吹き付けることによりガリンスタンGを加熱する場合、ガリンスタンGの温度制御が困難であるとともに、ガリンスタンGの温度を制御可能な範囲も狭い。
【0007】
また、熱風を吹き付けることによりガリンスタンGとともにマイクロキャピラリー30も熱膨張するため、熱膨張率が大きいガリンスタンという特殊な液体金属の使用が必要となる。
【0008】
さらに、熱風を吹き付けることによりマイクロキャピラリー30が振動するおそれがあるため、顕微鏡ステージ上の狭い空間において精密な作業を行うことは困難である。
【0009】
さらに、ガリスタンGの一部がマイクロキャピラリー30の先端部に落下し、先端部が詰るおそれがある。
【0010】
さらに、エポキシ樹脂Eを満たしたガラスキャップ40で液体導入口32を封止する作業は煩雑で時間を要するため、作業効率が低下する。
【0011】
そこで、本発明は、キャピラリーの外部から熱風を吹き付けることなく、キャピラリーの内部に保持された液体を加熱し、当該液体の熱膨張圧を利用して、キャピラリーの内部に保持された目的の液体を吐出することができる液体吐出法、並びに該液体吐出法に利用できるキャピラリーホルダー及びレーザ照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、一端に液体吐出口を有するキャピラリーの内部に、第一の液体層及びレーザ光吸収剤を含有する第二の液体層を、前記第一の液体層が前記液体吐出口側に位置するように保持させ、前記第二の液体層を前記キャピラリーの内部に密閉する密閉部を形成し、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、前記キャピラリーの液体吐出口から前記第一の液体層の液体を吐出させることを特徴とする液体吐出法を提供する。
【0013】
また、本発明は、キャピラリー保持部と、光ファイバー装着部と、前記光ファイバー装着部に装着された光ファイバーから発せられるレーザ光が、前記キャピラリー保持部に保持されたキャピラリーの外壁面のうち目的の領域に照射されるように、前記レーザ光を案内する光通路とを備えたことを特徴とするキャピラリーホルダーを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、本発明のキャピラリーホルダーと、前記キャピラリーホルダーの光ファイバー装着部に装着された光ファイバーと、前記光ファイバーに接続されたレーザ光源と、前記レーザ光源から発せられるレーザ光の出力をコントロールするコントローラとを備えたことを特徴とするレーザ光照射装置を提供する。
【0015】
本発明の液体吐出法において、第二の液体層にレーザ光を照射すると、第二の液体層に含有されるレーザ光吸収剤がレーザ光を吸収して発熱し、第二の液体層は加熱されて熱膨張する。第二の液体層は第一の液体層と密閉部との間に挟まれ、キャピラリーの内部に密閉された状態で保持されているので、第二の液体層の熱膨張により熱膨張圧が発生する。密閉部により第二の液体層の密閉部方向への動きは防止されるので、第二の液体層の熱膨張圧は第一の液体層の吐出圧に変換され、第一の液体層の液体はキャピラリーの液体吐出口から吐出される。
【0016】
本発明の液体吐出法において、レーザ光はキャピラリーを透過して第二の液体層に照射されるが、レーザ光の透過によりキャピラリーが熱膨張することはないので、第二の液体層の熱膨張圧は第一の液体層の吐出圧に迅速かつ効率よく変換され、第二の液体層の体積膨張量とほぼ等しい量の液体がレスポンスよく吐出される。したがって、第二の液体層を構成する液体としてガリンスタン等の特殊な液体金属を使用する必要はない。
【0017】
本発明の液体吐出法において、第二の液体層の温度上昇は、レーザ光の出力を調節することにより制御することができ、第二の液体層の温度上昇を制御することにより、第一の液体層を構成する液体の吐出量を制御することができる。
【0018】
本発明の液体吐出法において、レーザ光を照射する際、熱風を吹き付ける場合のようにキャピラリーに振動が生じることはなく、顕微鏡ステージ上の狭い空間においても精密な作業を行うことができる。
【0019】
本発明の液体吐出法において、キャピラリーに保持された第一の液体層の液体を吐出させると第一の液体層の液量は減少するが、レーザ光の出力を調節して第二の液体層の温度上昇を制御することにより、十分に大きな第一の液体層の吐出圧を得ることができるので、第一の液体層の液量が減少しても第一の液体層の液体を吐出させることができる。したがって、キャピラリーに保持された第一の液体層の液体を繰り返し吐出させることができる。
【0020】
本発明の液体吐出法の好ましい態様では、前記キャピラリーが他端に有する開口部から前記キャピラリーの内部に、前記第一の液体層を構成する液体、前記第二の液体層を構成する液体、及び硬化可能な液体樹脂を順に導入した後、前記液体樹脂を硬化させ、前記密閉部を形成する。本態様によれば、キャピラリーに強固に固定された密閉部を容易に形成することができる。
【0021】
上記態様において、前記液体樹脂がエネルギー線硬化性樹脂からなることが好ましい。この場合、エネルギー線の照射により、第二の液体層を熱膨張させることなく、液体樹脂を硬化させることができる。
【0022】
本発明の液体吐出法の好ましい態様では、前記第一の液体層が目的物質を含有しており、前記キャピラリーの液体吐出口を細胞内に挿入した状態で、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、前記キャピラリーの液体吐出口から前記細胞内に前記第一の液体層の液体を吐出させる。本態様によれば、目的物質を細胞内にインジェクションすることができる。レーザ光の出力を調節して第二の液体層の温度上昇を制御することにより、十分に大きな第一の液体層の吐出圧を得ることができるので、細胞内に挿入されるキャピラリーの先端部の外径を1μm以下としても、キャピラリーの先端部が詰ることなく、目的物質を細胞内にインジェクションすることができる。細胞内に挿入されるキャピラリーの先端部の外径を1μm以下とすることにより、細胞にダメージを与えることなく目的物質を細胞内にインジェクションできるとともに、キャピラリーの先端部の内径を細胞内にインジェクションされる液体量を精密に制御できる大きさとすることができる。
【0023】
本発明の液体吐出法は、本発明のキャピラリーホルダー又はレーザ光照射装置を使用して実施することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キャピラリーの外部から熱風を吹き付けることなく、キャピラリーの内部に保持された液体を加熱し、当該液体の熱膨張圧を利用して、キャピラリーの内部に保持された目的の液体を吐出することができる液体吐出法、並びに該液体吐出法に利用できるキャピラリーホルダー及びレーザ照射装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の液体吐出法の一実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、図1(a)に示すキャピラリー1を使用する。
キャピラリー1は管状であり、図1(a)に示すように、一端に液体吐出口11を有し、他端に液体吐出口11と連通する液体導入口12を有している。図1(a)に示すように、キャピラリー1の先端部は針状となっており、キャピラリー1の先端部を細胞に刺すことができるようになっている。キャピラリー1の先端部の外径は、通常0.1〜1μm、好ましくは0.1〜0.5μmであり、細胞に刺したときに細胞へのダメージを抑えることができるようになっている。
【0026】
キャピラリー1の内径は、液体導入口12からキャピラリー1内に導入された液体が、毛細管現象によって液体吐出口11の方向に移動し、キャピラリー1内に保持されるように調節されている。キャピラリー1の液体導入口12の内径は通常400〜800μm、好ましくは500〜700μmであり、液体吐出口11の内径は通常0.06〜0.6μm、好ましくは0.06〜0.3μmである。
【0027】
キャピラリー1は、レーザ光が透過可能な材料から構成されている。レーザ光が透過可能な材料としては、例えば、ガラス、石英等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0028】
キャピラリー1としては、核酸等の物質を細胞に注入するマイクロインジェクション法で一般的に使用されるマイクロキャピラリー又はマイクロピペットを使用することができる。キャピラリー1がガラスで構成される場合、1段引き、2段引き等の公知の方法を使用してガラス管からキャピラリー1を作製することができる。
【0029】
本実施形態では、まず、キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に、目的物質を含有する親水性の液体を導入する。当該液体は毛細管現象によって液体吐出口11方向に移動し、図1(b)に示すように、第一の液体層2を形成した状態でキャピラリー1の内部に保持される。
【0030】
親水性の液体は、水と混じり合う性質(水性)を有する液体である限り特に限定されるものではない。親水性の液体としては、例えば、水、DMSO、ポリエチレングリコール等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。目的物質を安定した状態で含有することができ、細胞内にインジェクションされたときに細胞に悪影響を及ぼさない点から、親水性の液体としては、水を使用することが好ましい。
【0031】
目的物質は、細胞内にインジェクションしようとする物質であり、細胞内へのインジェクションの目的に応じて適宜選択することができる。目的物質としては、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、糖、薬物等が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。目的物質は、第一の液体層2に溶解、分散等のいずれの状態で含有されていてもよい。
【0032】
なお、核酸は、DNA、RNA、これらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)等のいずれであってもよい。また、核酸は、一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよいし、線状又は環状のいずれであってもよい。
【0033】
第一の液体層2は、目的物質の他、緩衝剤、等張化剤、pH調整剤、色素等を含有していてもよい。液体吐出量を目視によりコントロールすることができる点から、第一の液体層2は色素を含有することが好ましい。色素としては、例えば、フルオレセイン;ローダミン;フィコエリスリン;Cy2,Cy3,Cy3.5,Cy5,Cy7等のCy系色素;Alexa-488,Alexa-532,Alexa-546,Alexa-633,Alexa-680等のAlexa系色素;BODIPY FL,BODIPY TR等のBODIPY系色素等の蛍光色素が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本実施形態では、次いで、キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に、レーザ光吸収剤を含有し、第一の液体層2との界面を形成可能な液体を導入する。当該液体は毛細管現象によって液体吐出口11方向に移動し、第一の液体層2との界面を形成し、図1(c)に示すように、第二の液体層3を形成した状態でキャピラリー1の内部に保持される。キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に当該液体を導入する際、第一の液体層2と第二の液体層3との間に空気が混入しないように注意する。第二の液体層3の熱膨張圧が空気層により吸収されると、第二の液体3の熱膨張圧を第一の液体層2の吐出圧へ変換する際の制御が困難となるからである。
【0035】
第一の液体層2は親水性の液体から構成されているので、第一の液体層2との界面を形成可能な液体として疎水性の液体を使用することができる。疎水性の液体は、水と混じり合わない性質(水不溶性)を有する液体である限り特に限定されるものではない。疎水性の液体としては、例えば、高級脂肪酸又はそのエステル類(例えば、オレイン酸、オレイン酸メチル、オレイン酸イソブチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸デシル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸オレイル、リノール酸、リノール酸メチル、リノール酸エチル、リノレン酸、リノレン酸メチル、パルミチン酸、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸イソトリデシル、ラウリン酸、ラウリン酸メチル、2−エチルヘキサン酸セチル、エルカ酸オクチルドデシル、カプリン酸メチル、ヤシ油脂肪酸メチル、牛脂脂肪酸メチル、パーム油脂肪酸メチル等)、脂肪族又は芳香族多塩基酸エステル類(例えば、アジピン酸ジオレイル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジイソデシル等の脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル;フタル酸ジデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジ2−エチルヘキシル、フタル酸シクロヘキシル2−エチルヘキシル等の芳香族ジカルボン酸のジアルキルエステル;トリメリツト酸トリ2−エチルヘキシル、トリメリツト酸トリエチル、トリメリツト酸トリn−ブチル、トリメリツト酸トリイソデシル等の芳香族ポリカルボン酸のポリアルキルエステル)、グリセリン脂肪酸エステル類(例えば、オレイン酸モノグリセリド、オレイン酸ジグリセリド、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、カプリン酸モノグリセリド、カプリン酸ジグリセリド、ジアセチルカプリン酸グリセリド、ジアセチルヤシ油脂肪酸グリセリド等)、エポキシ化脂肪酸エステル類(例えば、エポキシ化脂肪酸ブチル、エポキシ化脂肪酸オクチル等)等の油性液体が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記油性液体のうち、常温で液体であり、沸点が100℃以上であり、毒性がなく、無臭で気化しにくいものを使用することが好ましく、このような油性液体としては、例えば、オレイン酸、オレイン酸メチル、リノール酸、リノール酸メチル、リノレン酸等が挙げられる。疎水性の液体としては、液体金属を使用してもよいが、非金属系液体を使用することが好ましい。疎水性の液体としては、上記油性液体の他、ミネラルオイル、流動パラフィン等を使用することができる。
【0036】
レーザ光吸収剤は、レーザ光を吸収して発熱することができる物質である限り特に限定されるものではない。レーザ光吸収剤としては、例えば、アセチレンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック;Fe3O4、FeO・Fe2O3等の黒色酸化鉄;二酸化チタンを還元して得られるチタンブラック等の黒色系化合物が挙げられ、これらのうち1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの黒色系化合物は、150〜11000nmの波長のレーザ光を吸収して発熱することができる。レーザ光吸収剤は、第二の液体層3に溶解、分散等のいずれの状態で含有されていてもよい。
【0037】
本実施形態では、次いで、キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に、硬化可能な液体樹脂を導入する。当該液体樹脂は毛細管現象によって液体吐出口11方向に移動し、第二の液体層3と界面を形成し、図1(d)に示すように、液体樹脂層4を形成した状態でキャピラリー1の内部に保持される。キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に当該液体樹脂を導入する際、第二の液体層3と液体樹脂層4との間に空気が混入しないように注意する。第二の液体層3の熱膨張圧が空気層により吸収されると、第二の液体3の熱膨張圧を第一の液体層2の吐出圧へ変換する際の制御が困難となるからである。
【0038】
硬化可能な液体樹脂としては、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂からなる液体樹脂を使用することができる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、放射線等が挙げられ、活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、活性エネルギーの照射により重合する性質を有するプレポリマー及び/又はモノマーに、必要に応じて、他の単官能性又は多官能性モノマー、各種ポリマー、光重合開始剤、増感剤、帯電防止剤等を配合した樹脂組成物等が挙げられる。活性エネルギーの照射により重合する性質を有するプレポリマーとしては、例えば、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ウレタンポリ(メタ)アクリレート、エポキシポリ(メタ)アクリレート、ポリオールポリ(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートが挙げられ、活性エネルギーの照射により重合する性質を有するモノマーとしては、例えば、モノアルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリオールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等のモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。光開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインエーテル、ベンジルケタール類、チオキサントン類等が挙げられ、増感剤としては、例えば、アミン類、ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0039】
硬化可能な液体樹脂としては、熱硬化性樹脂からなる液体樹脂を使用してもよい。但し、熱硬化性樹脂を硬化させる際、熱硬化性樹脂に加えられた熱が第二の液体層3に伝わり、第二の液体層3の膨張圧が発生するおそれがあるため、活性エネルギー線硬化性樹脂からなる液体樹脂を使用することが好ましい。
【0040】
硬化可能な液体樹脂としては、硬化の際に生じる体積変化(体積減少)が小さい液体樹脂を使用することが好ましい。硬化の際に生じる体積減少が大きいと、第一の液体層2又は第二の液体層3の液体に気泡が生じるおそれがあるからである。
【0041】
本実施形態では、次いで、液体樹脂層4を硬化させ、図1(d)に示すように、密閉部5を形成する。
【0042】
密閉部5は、キャピラリー1に強固に固定されており、第二の液体層3が熱膨張しても、第二の液体層3の密閉部5方向への動きは防止されるようになっている。
【0043】
図1(d)に示すように、第二の液体層3の一方の液面は第一の液体層2と接触し、液体吐出口11を通じた第二の液体層3と外気との接触は防止されている。また、図1(d)に示すように、第二の液体層3の他方の液面は密閉部5と接触し、液体導入口12を通じた第二の液体層3と外気との接触は防止されている。したがって、第二の液体層3は、第一の液体層2と密閉部5との間に挟まれ、キャピラリー1の内部に密閉された状態で保持されている。
【0044】
キャピラリー1の液体導入口12からキャピラリー1の内部に液体を導入する際、図2に示すように、液体導入口12からキャピラリー1内に挿入可能なチップ100を取り付けたシリンジ200を使用することができる。液体導入口12からキャピラリー1内に挿入可能なチップ100としては、例えば、プラスチック製チップの先端部を引き伸ばして細くしたものを使用することができる。また、市販品(例えばマイクロローダー(エッペンドルフ社製))を使用することもできる。
【0045】
本実施形態では、次いで、図3に示すように、キャピラリー1の液体吐出口11を細胞C内に挿入した状態で、キャピラリー1の内部に保持された第二の液体層3にレーザ光を照射する。
【0046】
キャピラリー1の液体吐出口11の細胞C内への挿入は、例えば、顕微鏡で観察しながら顕微鏡ステージ上で行うことができる。
【0047】
第二の液体層3に照射されるレーザ光の波長は、第二の液体層3に含有されるレーザ光吸収剤が吸収可能な波長であり、通常150〜11000nmである。
【0048】
第二の液体層3にレーザ光が照射されると、第二の液体層3に含有されるレーザ光吸収剤がレーザ光を吸収して発熱し、第二の液体層3は加熱されて熱膨張する。第二の液体層3は第一の液体層2と密閉部5との間に挟まれ、キャピラリー1の内部に密閉された状態で保持されているので、第二の液体層3の熱膨張により熱膨張圧が発生する。密閉部5により第二の液体層3の密閉部5方向への動きは防止されるので、第二の液体層3の熱膨張圧は第一の液体層2の吐出圧に変換され、第一の液体層2の液体はキャピラリー1の液体吐出口11から細胞C内に吐出される。こうして、目的物質は細胞C内にインジェクションされる。1つの細胞C内への液体吐出量は通常0.01〜100fL(fL=1μm3)、好ましくは0.01〜10fLである。
【0049】
レーザ光はキャピラリー1を透過して第二の液体層3に照射されるが、レーザ光の透過によりキャピラリー1が熱膨張することはないので、第二の液体層3の熱膨張圧は第一の液体層2の吐出圧に迅速かつ効率よく変換され、第二の液体層3の体積膨張量とほぼ等しい量の液体がレスポンスよく吐出される。
【0050】
第二の液体層3の温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧(MPa/℃)は、次式:熱膨張圧(MPa/℃)=熱膨張率(m3/℃)/圧縮率(m3/MPa)により算出される。第二の液体層3の温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧は、好ましくは0.1〜10MPa/℃、さらに好ましくは1〜10MPa/℃である。第二の液体層3の温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧が上記範囲にあると、十分に大きな第一の液体層2の吐出圧を得ることができる。第二の液体層3を構成する液体としてオレイン酸を使用する場合、温度が1℃上昇したときに発生する熱膨張圧は約1MPa/℃である。
【0051】
第二の液体層3の温度上昇は、レーザ光の出力を調節することにより制御することができ、第二の液体層3の温度上昇を制御することにより、液体吐出量(目的物質のインジェクション量)を制御することができる。レーザから高出力のレーザ光を発生させ、これを第二の液体層3に照射することにより、第二の液体層3の温度を迅速に上昇させることができる。
【0052】
第一の液体層2に蛍光色素が含有されている場合には、蛍光顕微鏡で観察することにより、液体吐出量を目視により制御することができる。
【0053】
レーザ光を照射する際、熱風を吹き付ける場合のようにキャピラリー1に振動が生じることはなく、顕微鏡ステージ上の狭い空間においても精密な作業を行うことができる。
【0054】
細胞Cが由来する生物種は特に限定されるものではなく、動物、植物、微生物等のいずれであってもよい。また、細胞Cの種類は特に限定されるものではなく、体細胞、生殖細胞、幹細胞又はこれらの培養細胞等のいずれであってもよい。
【0055】
1つの細胞C内に目的物質をインジェクションすると、第一の液体層2の液量は減少するが、レーザ光の出力を調節して第二の液体層3の温度上昇を制御することにより、十分に大きな第一の液体層2の吐出圧を得ることができるので、第一の液体層2の液量が減少しても第一の液体層2の液体を吐出させることができる。したがって、図1(e)に示すキャピラリー1は、複数の細胞C内への目的物質のインジェクションに繰り返し使用することができる。
【0056】
第二の液体層3にレーザ光を照射する際、図4及び5に示すレーザ光照射装置6を使用することができる。
【0057】
図4及び5に示すように、レーザ光照射装置6は、キャピラリーホルダー7と、一端がキャピラリーホルダー7に装着された光ファイバー8と、光ファイバー8の他端に接続されたレーザ9と、レーザ9から発せられるレーザ光の出力をコントロールするコントローラ10とを備える。
【0058】
図4、5及び6に示すように、キャピラリーホルダー7は、本体部71と、キャピラリー保持部材72と、ネジ74及び75によって本体部71及びキャピラリー保持部材72に取り付けられた板バネ73と、本体部71に取り付けられた把持部76とを備える。
【0059】
図4、5及び6に示すように、本体部71は、光ファイバー装着部711と、光ファイバー装着部711に装着された光ファイバー8から発せられるレーザ光を案内する光通路712と、光ファイバー装着部711に装着された光ファイバー8から発せられるレーザ光の照射範囲を拡大するレンズ713と、キャピラリー1の液体導入口12側の部分を挿入可能な挿入孔714とを備える。
【0060】
図4及び6に示すように、キャピラリー保持部材72は板バネ73の付勢力によって光通路712の方向に付勢されており、キャピラリーホルダー7にキャピラリー1が保持されていない状態において、キャピラリー保持部材72は本体部71に当接している。キャピラリーホルダー7にキャピラリー1を保持させる際、キャピラリー保持部材72に板バネ73の付勢力と逆方向の力を加え、本体部71に当接しているキャピラリー保持部材72を本体部71から引き離し、キャピラリー1の液体導入口12側の部分を本体部71の挿入孔714に挿入し、キャピラリー保持部材72に加えている力(板バネ73の付勢力と逆方向の力)を解除する。そうすると、図5に示すように、キャピラリー1は、板バネ73の付勢力によって本体部71とキャピラリー保持部材72との間に挟まれた状態で保持される。なお、図5に示すように、キャピラリー1は、液体吐出口11側の部分がキャピラリーホルダー7から突出するように、キャピラリーホルダー7に保持される。
【0061】
キャピラリーホルダー7に保持されたキャピラリー1の液体吐出口11を細胞5内へ挿入する等の作業は、キャピラリーホルダー7の把持部76を持って行うことができる。
【0062】
コントローラ10によって出力がコントロールされたレーザ光がレーザ9から発せられると、レーザ光は光ファイバー8を通じてキャピラリーホルダー7に送られる。キャピラリーホルダー7に送られたレーザ光は、レンズ713を通過した後、光通路712によって案内され、本体部71とキャピラリー保持部材72との間に保持されるキャピラリー1の外壁面のうち目的の領域(すなわち第二の液体層3と接触する壁部の外壁面)に照射される。キャピラリーホルダー7に送られたレーザ光がレンズ713を通過すると、レーザ光の照射範囲は拡大され、レーザ光は目的の領域全体にわたって照射されるので、キャピラリー1の内部に保持された第二の液体層3を効率よく加熱することができる。
【0063】
図5に示すように、光通路712によって案内されたレーザ光は、キャピラリー1内の第一の液体層2に照射されないようになっているので、第一の液体層2に含有される目的物質の破壊を防止することができる。また、図4及び5に示すように、光通路712は壁部で囲まれており、光通路712で案内されたレーザ光はキャピラリーホルダー7から漏れないようになっているので、レーザ光の人体への悪影響を防止することができる。
【0064】
レーザ9のレーザ媒質としては、例えば、CO2、エキシマ、希ガス等のガス;YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット単結晶)、ルビー、半導体等の固体等が挙げられるが、YAGが好ましい。YAGレーザによって発せられるレーザ光の波長は1064nmの近赤外線であり、この波長域のレーザ光は、集光性が高く、石英光ファイバーによる伝送が可能である。また、YAGレーザは数100W〜1kWの出力で高繰り返しパルス、Qスイッチパルス、連続発振が可能である。
【0065】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0066】
本発明の液体吐出法は、微量(通常0.01〜100fL、好ましくは0.01〜10fL)の液体を吐出する際に有用であり、目的物質の細胞内へのインジェクション以外の種々の目的で使用することができる。
【0067】
本実施形態では、第二の液体層3は一層からなるが、第二の液体層3は複数層からなっていてもよい。第二の液体層3が複数層からなる場合、レーザ光吸収剤はいずれの層に含有されていてもよいが、レーザ光吸収剤は疎水性の液体(特に油性液体)で構成される層に含有されていることが好ましい。レーザ光吸収剤が疎水性の液体(特に油性液体)で構成される層に含有されている場合、十分に大きな熱膨張圧を得ることができる。第二の液体層3が複数層からなる場合、接触し合う2層は界面を形成可能な2種類の液体(例えば、親水性の液体と疎水性の液体)で構成することができる。
【0068】
本実施形態では、吐出対象液体が親水性の液体であるので第一の液体層2を構成する液体として親水性の液体を使用したが、吐出対象液体が疎水性の液体である場合には、第一の液体層2を構成する液体として疎水性の液体を使用する。
【0069】
本実施形態では、硬化可能な液体樹脂を硬化させて密閉部5を形成したが、キャップ等の密閉部材をキャピラリー1の液体導入口12に装着することにより、密閉部5を形成してもよい。但し、この場合、第二の液体層3の熱膨張圧が加えられても離脱しないように、密閉部材を液体導入口12に強固に装着する必要がある。密閉部材は、例えば、接着剤により液体導入口12に強固に接着することができる。
【実施例】
【0070】
〔実施例1〕高等植物トレニアの生殖細胞群へのインジェクション
(1)従来法によるインジェクション
ガラス管(内径:約600μm)を2段引きし、一端に液体吐出口(内径:約0.7μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーを作製した。このキャピラリーの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約1.2μmである。液体導入口からキャピラリーの内部に、7kbpのプラスミド及び蛍光色素Alexaを含有する水溶液(液体サンプル)、及びシリコンオイルを順次導入した後、キャピラリーの液体導入口側の部分をホルダー(NARISHIGE製,商品名:HI−7)に差し込み、ねじ式押えでキャピラリーをホルダーに固定した。ホルダーは中空であり、キャピラリーの差込口と反対側にテフロン(登録商標)チューブの一端が接続されており、テフロン(登録商標)チューブの他端にシリンジ(NARISHIGE製,商品名:IM-26-2)が接続されている。シリンジを押し込むと、それにより生じた圧力がテフロン(登録商標)チューブ、ホルダー及びキャピラリーの内部を満たしているシリコンオイルを圧力媒体として伝わり、キャピラリーの先端部から液体が吐出される。このようなシリンジを用いた油圧式インジェクション法により高等植物トレニアの生殖細群胞へのインジェクションを試みた。この際、蛍光顕微鏡の緑色励起光により蛍光色素Alexaの赤色蛍光を観察し、目視により液体吐出量をコントロールした。
【0071】
卵細胞の隣にある中央細胞にインジェクションした様子を図8(a)に示す。中央細胞は比較的大きな細胞であるが、それでも細胞が変形しておりダメージが見られた。また、液体吐出量のコントロールが難しく、過剰量をインジェクションしてしまうことが多かった。また、培地にも液体サンプルが漏出していた。なお、小さい輝点は葉緑体の自家蛍光である。
【0072】
精密なインジェクションを行うためには、キャピラリーの先端部の外径をより小さくする必要があったが、キャピラリーの先端部の外径をより小さくすると、液体サンプルの吐出が不可能であった。
【0073】
(2)本発明の方法によるインジェクション
ガラス管(内径:約600μm)の1段引きにより、一端に液体吐出口(内径:約0.06μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーを作製した。このキャピラリーの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約0.1μmである。液体導入口からキャピラリーの内部に、7kbpのプラスミド及び蛍光色素Alexaを含有する水溶液(液体サンプル)、カーボンブラックを含有するオレイン酸、並びに紫外線硬化性樹脂(TESK(株)製,A−1428F)からなる液体樹脂を順に導入した後、紫外線を照射して液体樹脂を硬化させた。キャピラリーの内部に各種液体を導入する際、空気が混入しないように注意した。
【0074】
図4に示すレーザ照射装置に図5に示すようにキャピラリーを装着し、キャピラリーの液体吐出口を高等植物トレニアの生殖細胞に挿入した状態で、キャピラリーの内部に保持されたオレイン酸にYAGレーザから発せられるレーザ光(1064nm)を照射し、液体サンプルを液体吐出口から吐出させた。この際、蛍光顕微鏡の緑色励起光により蛍光色素Alexaの赤色蛍光を観察し、目視により液体吐出量をコントロールした。
【0075】
その結果、図8(b)に示すように、キャピラリーの先端部の外径が約0.1μmであっても液体サンプルを吐出することができ、従来法よりも精密なインジェクションが可能であった。また、図8(b)に示すように、卵細胞へのインジェクションも容易に行うことができた。なお、図8(b)の右図は蛍光色素Alexaを観察した蛍光像、左図は同じ視野の明視野像を示す。
【0076】
〔実施例2〕トレニアの極核(中央細胞の核)及び助細胞へのインジェクション
実施例1と同様に本発明の方法を用いて、液体サンプルをトレニアの極核(中央細胞の核)及び助細胞へインジェクションした。
【0077】
トレニアの極核へインジェクションした様子を図9(a)に示し、助細胞へインジェクションした様子を図9(b)に示す。なお、図9(a)及び(b)の上図は明視野像であり、下図は上図と同じ視野の蛍光像である。
【0078】
図9(a)及び(b)に示すように、標的となる核や、非常に破裂しやすく弱い助細胞へダメージ無く液体サンプルをインジェクションすることができた。
【0079】
〔実施例3〕インジェクション効率の比較
ガラス管(内径:約600μm)の2段引きにより一端に液体吐出口(内径:約0.7μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーAを作製した。キャピラリーAの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約1.2μmである。
【0080】
また、ガラス管(内径:約600μm)の1段引きにより一端に液体吐出口(内径:約0.18μm)を有し、他端に液体導入口(内径:約600μm)を有するキャピラリーBを作製した。キャピラリーBの先端部(液体吐出口側の部分)は針状となっており、その外径は約0.3μmである。
【0081】
キャピラリーA及びBを用いた油圧式インジェクション法により、液体サンプルを植物培養細胞(BY−2細胞)にインジェクションした。同じキャピラリーを使ってキャピラリーの先端部が詰まるまでインジェクションし、インジェクションできた回数を調べた。
【0082】
一方、キャピラリーBを用いた本発明の方法により、液体サンプルを植物培養細胞(BY−2細胞)にインジェクションした。同じキャピラリーを使ってキャピラリーの先端部が詰まるまでインジェクションし、インジェクションできた回数を調べた。
【0083】
その結果、キャピラリーAを用いた油圧式インジェクション法における平均インジェクション回数は約3回、キャピラリーBを用いた油圧式インジェクション法における平均インジェクション回数は1回未満であった。これに対して、キャピラリーBを用いた本発明の方法における平均インジェクション回数は20回以上であった。
【0084】
本発明の方法によれば、精密なインジェクションを行うことができるだけでなく、1本のキャピラリーを繰り返し使用して効率よくインジェクションを行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】(a)は空のキャピラリー、(b)は第一の液体層が保持されたキャピラリー、(c)は第一の液体層及び第二の液体層が保持されたキャピラリー、(d)は第一の液体層、第二の液体層及び液体樹脂が保持されたキャピラリー、(e)は第一の液体層及び第二の液体層が保持され、密閉部が形成されたキャピラリーを示す一部断面図である。
【図2】キャピラリーの液体導入口からキャピラリー内に挿入可能なチップを取り付けたシリンジを用いて、キャピラリーの液体導入口からキャピラリーの内部に液体を導入する様子を示す一部断面図である。
【図3】キャピラリーの液体吐出口を細胞内に挿入した状態で、キャピラリーの内部に保持された第二の液体層にレーザ光を照射する様子を示す一部断面図である。
【図4】キャピラリー装着前のレーザ光照射装置を示す一部断面図である。
【図5】キャピラリー装着後のレーザ光照射装置を示す一部断面図である。
【図6】(a)はキャピラリーホルダーの平面図、(b)はキャピラリーホルダーの側面図、(c)はキャピラリーホルダーの正面図である。
【図7】従来のマイクロインジェクション法で用いられるキャピラリーの一部断面図である。
【図8】(a)は従来の油圧式インジェクション法によりトレニア生殖細群胞へインジェクションした様子を示す図であり、(b)は本発明の方法によりトレニア生殖細群胞へインジェクションした様子を示す図である。
【図9】(a)は本発明の方法によりトレニア極核へインジェクションした様子を示す図であり、(b)は本発明の方法によりトレニア助細胞へインジェクションした様子を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・キャピラリー
11・・・液体吐出口
12・・・液体導入口
2・・・第一の液体層
3・・・第二の液体層
4・・・液体樹脂
5・・・密閉部
6・・・レーザ光照射装置
7・・・キャピラリーホルダー
8・・・光ファイバー
9・・・レーザ光源
10・・・コントローラ
C・・・細胞
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に液体吐出口を有するキャピラリーの内部に、第一の液体層及びレーザ光吸収剤を含有する第二の液体層を、前記第一の液体層が前記液体吐出口側に位置するように保持させ、
前記第二の液体層を前記キャピラリーの内部に密閉する密閉部を形成し、
前記第二の液体層にレーザ光を照射し、
前記キャピラリーの液体吐出口から前記第一の液体層の液体を吐出させることを特徴とする液体吐出法。
【請求項2】
前記キャピラリーが他端に有する開口部から前記キャピラリーの内部に、前記第一の液体層を構成する液体、前記第二の液体層を構成する液体、及び硬化可能な液体樹脂を順に導入した後、前記液体樹脂を硬化させ、前記密閉部を形成することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記液体樹脂がエネルギー線硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第一の液体層が目的物質を含有しており、
前記キャピラリーの液体吐出口を細胞内に挿入した状態で、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、
前記キャピラリーの液体吐出口から前記細胞内に前記第一の液体層の液体を吐出させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
キャピラリー保持部と、
光ファイバー装着部と、
前記光ファイバー装着部に装着された光ファイバーから発せられるレーザ光が、前記キャピラリー保持部に保持されたキャピラリーの外壁面のうち目的の領域に照射されるように、前記レーザ光を案内する光通路と
を備えたことを特徴とするキャピラリーホルダー。
【請求項6】
請求項5記載のキャピラリーホルダーと、
前記キャピラリーホルダーの光ファイバー装着部に装着された光ファイバーと、
前記光ファイバーに接続されたレーザ光源と、
前記レーザ光源から発せられるレーザ光の出力をコントロールするコントローラと
を備えたことを特徴とするレーザ光照射装置。
【請求項1】
一端に液体吐出口を有するキャピラリーの内部に、第一の液体層及びレーザ光吸収剤を含有する第二の液体層を、前記第一の液体層が前記液体吐出口側に位置するように保持させ、
前記第二の液体層を前記キャピラリーの内部に密閉する密閉部を形成し、
前記第二の液体層にレーザ光を照射し、
前記キャピラリーの液体吐出口から前記第一の液体層の液体を吐出させることを特徴とする液体吐出法。
【請求項2】
前記キャピラリーが他端に有する開口部から前記キャピラリーの内部に、前記第一の液体層を構成する液体、前記第二の液体層を構成する液体、及び硬化可能な液体樹脂を順に導入した後、前記液体樹脂を硬化させ、前記密閉部を形成することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記液体樹脂がエネルギー線硬化性樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記第一の液体層が目的物質を含有しており、
前記キャピラリーの液体吐出口を細胞内に挿入した状態で、前記第二の液体層にレーザ光を照射し、
前記キャピラリーの液体吐出口から前記細胞内に前記第一の液体層の液体を吐出させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
キャピラリー保持部と、
光ファイバー装着部と、
前記光ファイバー装着部に装着された光ファイバーから発せられるレーザ光が、前記キャピラリー保持部に保持されたキャピラリーの外壁面のうち目的の領域に照射されるように、前記レーザ光を案内する光通路と
を備えたことを特徴とするキャピラリーホルダー。
【請求項6】
請求項5記載のキャピラリーホルダーと、
前記キャピラリーホルダーの光ファイバー装着部に装着された光ファイバーと、
前記光ファイバーに接続されたレーザ光源と、
前記レーザ光源から発せられるレーザ光の出力をコントロールするコントローラと
を備えたことを特徴とするレーザ光照射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−166756(P2006−166756A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361448(P2004−361448)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]