説明

レーザ点火装置

【課題】搭載性に優れ、機械的ストレス、熱的ストレス、デポジットの形成等に起因する光軸の歪みを抑制し、安定した着火を実現可能なレーザ点火装置を提供する。
【解決手段】励起光導入光学素子21、パルス光拡張光学素子15及びパルス光集光光学素子11を、それぞれの用途に応じた光学レンズと、略筒状のレンズ収容筐体部とで構成すると共に、ハウジング10、20の光学素子配設忌避領域(L、L)の先端側、又は、基端側に基準面(S、S、S)として、光学素子収容空間101、106、201を区画すると共に、各光学素子11、15、21を基準面(S、S、S)に対して弾性的に押圧せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の限られた搭載スペース載置された内燃機関の点火に用いられるレーザ点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高過給エンジン、高圧縮エンジン、シリンダ内径の大きな天然ガスエンジン等、難着火性の内燃機関の点火に、フラッシュランプ、半導体レーザ等の励起用光源をQスイッチ式のレーザ媒質を含むレーザ共振器に照射し、短いパルス幅でエネルギを集中させて放出するパルスレーザとして発振させ、さらにパルスレーザを集光レンズなどの光学素子を用いて、混合気中に集光して、エネルギ密度の高い火炎核を発生させることにより、内燃機関の点火を行うレーザ点火装置について種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1にはポンピング光源と共振器内に組み込まれた固体レーザ結晶と出力密度を高めるためのQスイッチと、少なくとも1つの出力鏡と、レーザ光を燃焼室の内側に収束させるための収束装置とを有するQスイッチ制御固体レーザユニットからなるレーザ点火装置を備えた内燃機関が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、レーザ着火式エンジンにおいて、ターゲットとしてエンジンのピストン上面に燃焼室に望んで設置された固体ターゲットと燃焼室内のガスターゲットとを備えると共に、エンジンの起動時及び一定付加以下の低負荷運転時におけるレーザ光の照射タイミングを特定の時期に制御するコントローラを備えたレーザ着火式エンジンが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、レーザ活性固体、燃焼室窓及びケーシングを有する内燃機関用レーザ点火装置において、燃焼室窓とケーシングとの接続方法について種々提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の図1や特許文献2の図6にあるように、従来のレーザ点火装置では、集光レンズ等の光学素子を筒状のハウジング内に配設して、シリンダヘッドに設けた貫通孔にハウジングをねじ込み固定しているのが一般的である。
このため、ハウジングを内燃機関のシリンダヘッドにねじ込み固定したとき締め付けトルクによってハウジングに捻りを生じ、拡張レンズや集光レンズ等の光学素子に機械的ストレスが作用し、光軸に歪みを生じて所望の位置にレーザ光の集光が困難となったり、光軸の歪みによって入射光の反射率が変動し、出力エネルギの変動を招いたりして、着火が不安定となる虞がある。
【0007】
また、特許文献1にあるように、光ファイバを介して、外部に設けたレーザ発振装置をから発振されたパルス光を伝送して、シリンダヘッドに設けた集光レンズによって燃焼室内に集光する構成とした場合には、シリンダヘッドに搭載する部分は集光レンズと集光レンズを保護する光学窓部材のみであるので、ハウジング構造が簡素で搭載性に優れている反面、光ファイバを介してパルス光を伝送する間のエネルギ損失が大きく、着火が不安定となる虞もある。
【0008】
一方、特許文献2にあるような、共振器内に組み込まれた柱状の固体レーザ結晶の外周を取り囲むようにポンピング光源を配設し、固体レーザ結晶の側面方向から励起光を照射して、固体レーザ結晶の長手軸方向にパルス光を出光するタイプのレーザ発振装置の場合、固体レーザ結晶の長手軸方向の基端側端面からに励起光を照射するタイプに比べ、必然的に共振器部分が外径方向に広がった形状となる。
この上、固体レーザ結晶を冷却するために、ペルチェ冷却素子と冷媒循環装置とを組み合わせた冷却装置をポンピング光源の周囲に配設した場合、特許文献2の図1等にあるように、細長く筒状に伸びるハウジングの基端側頭部に極めて体格の大きな固体レーザユニットが設けられることになる。
このため、実際の車両などに搭載する際には、シリンダヘッド上の搭載スペースが限られているので、シリンダヘッドへの搭載が困難となる。
特に、近年、プラグホールを細径化する傾向にあり、点火プラグの更なる小型化の欲求があり、レーザ点火装置においても、更なる小型化が望まれており、頭部の体格が大きくなるのは、かかる要求に逆行するものである。
加えて、細長く伸びるハウジングの頭部に体格の大きな固体レーザユニットがあると、外部からの振動や衝撃が負荷されたときにハウジングに対して負荷される慣性モーメントが必然的に大きくなり、固体レーザユニットと集光レンズとを結ぶ光軸に歪みを生じ、適切な位置に集光できなくなり、着火が不安定となる虞もある。
【0009】
また、特許文献3にあるように、筒状のハウジング内に、入力結合ミラー、レーザ活性固体、Qスイッチレーザ、出力結合ミラーによって形成した共振器と、集束光学系とを配設して、外部に設けたポンピング光源からポンプ光を共振器の基端側から照射した場合、レーザ活性固体の温度が上昇により発振周期が変動するのに加え、ハウジングの熱膨張率とレーザ活性固体の熱膨張率との差によってレーザ活性固体に引っ張り応力又は圧縮応力が作用し、光軸の歪みを生じ、集束光学系で所望の位置に安定してエネルギを集光させるのが困難となり、着火が不安定となる虞がある。
【0010】
さらに、特許文献3の図2にあるように、金属製のケーシングの端面に耐熱ガラス製の燃焼室窓をハンダ付けや、セラミック接着剤等の接合材料によって接合したのでは、ケーシングの熱膨張係数と燃焼室窓の熱膨張係数と接合材料の熱膨張係数を揃えたり、何らかの界面活性要素を設けたりしたとしても、圧力変化及び温度変化の激しい燃焼室内に直接接合部が晒されているため、経年劣化等により接合材料の剥離が起こった場合には、燃焼室窓が燃焼室内への脱落を避けられず、最悪の場合には、内燃機関の破壊を招く虞があり、内燃機関の点火装置としては、著しく信頼性に欠ける。
また、特許文献3の他の実施例にあるように、内部スリーブとケーシングに設けた段部によって略平板状の燃焼室窓の外周縁を挟持した場合、このような燃焼室窓の脱落は回避することができるが、不可避的に燃焼室窓が段部よりも基端側に引き込んだ形状となっている。
このため、燃焼室内に発生する筒内気流や、燃料噴霧が燃焼室窓の表面を通過する際に、燃焼室窓と段部との段差によって渦流が発生し、未燃の燃料や、煤等が段部の内側に堆積し、いわゆるデポジットを形成する虞がある。
このようなデポジットは、徐々に燃焼室窓の外周縁から中心に向かって広がり、燃焼室窓を通過するレーザ光の光軸を歪ませ、やがて正常な点火をできなくする虞があり、デポジットに起因する点火異常は、特許文献1〜3にあるような従来のレーザ点火装置のいずれにも共通する問題である。
【0011】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、内燃機関への搭載性に優れ、かつ、製造時の寸法誤差や締め付けトルクの差等によって発生する機械的ストレスや、使用時に発生する熱的ストレスや、光学窓部材表面へのデポジットの形成等に起因する光軸の歪みを抑制し、安定した着火を実現可能なレーザ点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1の発明では、少なくとも、外部に設けた励起光源と、内燃機関に設けられ、上記励起光源から光ファイバを介して伝送された励起光を所定の出光径に調整して出光する励起光導入光学素子と、該励起光導入光学素子から出光された励起光の導入により、エネルギ密度の高いパルス光として発振するレーザ共振器と、該レーザ共振器から発振されたパルス光のビーム径を拡張するパルス光拡張光学素子と、該パルス光拡張光学素子によって拡張されたパルス光を上記内燃機関の燃焼室の内側に集光するパルス光集光光学素子と、該パルス光集光光学素子を保護する光学窓部材と、これらを内燃機関のシリンダヘッドに設けたプラグホールの内側に保持する略筒状のハウジングとを具備し、燃焼室の内側にエネルギ密度の高い火炎核を発生させて混合気の点火を行うレーザ点火装置であって、
上記励起光導入光学素子、上記パルス光拡張光学素子及び上記パルス光集光光学素子の各光学素子を、それぞれの用途に応じた特定の入射角で入光した光を特定の出射角で出光するよう調整した光学レンズと、内側に該光学レンズを収容・保持し、基準面に対して該光学レンズの焦点の位置決めを図るべく両端面を中心軸に対して直交するよう精度良く加工した略筒状のレンズ収容筐体部とで構成すると共に、
上記ハウジングに設けたネジ部の先端から該ネジ部を締め付けるための六角部の基端までの間を光学素子配設忌避領域とし、該忌避領域の先端側、又は、基端側に基準面を設けて、上記光学素子を収容する光学素子収容空間を区画すると共に、該光学素子収容空間の内側に収容された光学素子を上記基準面に対して弾性的に押圧せしめる。
【0013】
請求項2の発明では、上記ハウジングを第1のハウジングと第2のハウジングとで構成し、第1のハウジングを上記内燃機関に固定するために第1のハウジングに設けた第1のネジ部と該第1のネジ部を締め付けるための第1の六角部との間を第1の光学素子配設忌避領域とし、第1のハウジングと第2のハウジングとを連結するために第2のハウジングに設けた第2のネジ部と該第2のネジ部を締め付けるための第2の六角部との間を第2の光学素子配設忌避領域とし、上記第1の光学素子配設忌避領域の先端側を第1の基準面としてその先端側に上記パルス光集光光学素子を収容する第1の光学素子収容空間を区画し、上記第1の光学素子配設忌避領域の基端側を第2の基準面としてその基端側に上記パルス光拡張光学素子を収容する第2の光学素子収容空間を区画し、上記第2の光学素子配設忌避領域の基端側を第3の基準面として上記励起光導入光学素子を収容する励起光導入光学素子収容空間を区画し、上記第2の光学素子配設忌避領域の内側に区画した共振器収容空間の内側に上記レーザ共振器を摺動可能に配設し、かつ、上記パルス光拡張光学素子との間にバネ部材からなる弾性体を配設して、上記レーザ共振器の基端側端面を上記第3の基準面に当接する上記励起光導入光学素子の下端面に接するように弾性的に押圧すると共に、上記パルス光拡張光学素子の下端面を上記第2の基準面に弾性的に押圧する。
【0014】
請求項3の発明では、上記パルス光集光光学素子を保護する上記光学窓部材の先端側表面が、上記ハウジングの先端面と面一、又は、より先端側に位置するように、上記光学窓部材の外周を先端に向かって径小となるように、連続的に縮径する傾斜面有する略円錐台形状、又は、段階的に縮径する段差面を有する段付き円柱状に形成すると共に、上記光学素収容空間の内側に収容した光学素子を上記基準面に対して弾性的に押圧する押圧手段として、上記ハウジングの一部を利用して、又は、上記ハウジングとは別体に設けて、熱膨張係数が上記ハウジングの熱膨張係数よりも大きい部材からなり略環状の弾性部材を介して、上記光学窓部材の外周に設けた上記傾斜面、又は、段差面を外周側から包み込むように覆いつつ、基端側方向の成分を有して押圧する包み加締め部を形成する。
【0015】
請求項4の発明では、上記ハウジングの上記基準面と上記包め加締め部との間に薄肉部を設けて、軸方向に圧縮しつつ加熱して永久変形させた熱加締め部を具備する。
【0016】
請求項5の発明では、上記ハウジングの上記レーザ共振器の収容された位置の少なくとも基端側外周を覆うように上記ハウジングを構成する部材よりも熱伝導率の高い部材を用いて略環溝状の冷却水路を区画し、その基端側内周面と上記ハウジングの外周面との間隙と、その先端側内周面と上記ハウジングの外周面との間隙とに、弾性部材からなるOリングを介装して、水密性を確保しつつ、上記ハウジングに対して着脱可能に取り付けられた冷却器を具備し、外部に設けた熱交換機によって冷却された冷媒を上記冷却水路の内側に周回させる。
【0017】
請求項6の発明では、上記光学窓部材と上記パルス光集光光学素子との間に弾性部材からなり、上記ハウジングの内周面にその外周面が当接する略環状の光学窓部材着座用部材を介装すると共に、該着座用部材と、上記光学窓部材との当接面を、基端側に向かって径小となる傾斜面状に形成する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、上記六角部によって、上記ハウジングのネジ部を締め付けたときの締め付けトルクによって、上記ネジ部の先端から上記六角部の基端までの上記ハウジングに捻りを生じても、この間は光学素子配設忌避領域として、光学素子が配設されることがなく、締め付け持の機械的ストレスが作用しない領域に区画された上記光学素子収容空間の内側に上記光学素子が収容されているので、上記光学素子の光軸に歪みを生じる虞がない。
加えて、上記光学素子が、上記光学素子収容空間の基準面に対して弾性的に押圧されているので、各光学素子の焦点と上記基準面との距離を常に一定に保つことができる。
【0019】
より具体的には、請求項2の発明のような構成とすることで、光軸の歪みを生じ難く、安定した着火を確保するレーザ点火装置が実現可能となる。
【0020】
さらに、請求項3の発明によれば、上記光学窓部材の先端面が上記加締め部と面一、又は、それ以上に先端側に位置しているので、燃焼室の内側を流れる筒内気流が上記光学窓部材の表面を通過する際に、淀みを生じることがなく、その表面に付着した未燃燃料や煤等のデポジットを形成する物質を吹き飛ばすので、常に、上記光学窓部材の表面が清浄に保たれ、デポジットの堆積による光軸の歪みを回避し、安定した着火を確保できる。
【0021】
請求項4の発明によれば、上記熱加締め部によって軸方向に圧縮応力が発生し、燃焼室の内側の混合気が爆発燃焼したときの熱によって、上記ハウジングが膨張したとしても、上記熱加締め部の軸力によって、上記包み加締め部の保持力が補われ、上記光学窓部材と共に上記パルス光集光光学素子が上記基準面に対して弾性的に押し圧された状態を保持されるので、上記パルス光集光光学素子の緩みによって光軸が歪むことがなく、安定した着火を維持できる。
【0022】
請求項5の発明によれば、上記Oリングによって上記冷却水路の水蜜性が確保された状態で、少なくとも上記レーザ共振器の収容された部位の基端側の周囲を冷媒が周回するので、上記励起光の照射により、上記レーザ共振器内で熱が発生しても、上記冷却器内を流れる冷媒によって、上記ハウジングと共に、上記レーザ共振器が冷却される。
したがって、上記レーザ共振器とその周囲を覆うハウジングとの熱膨張差によって、レーザ共振器に熱ストレスが作用して光軸に歪みを生じるのを抑制できる。
しかも、上記レーザ共振器の温度上昇が抑制されるので、レーザ媒質の温度上昇に伴う発振周期の変動も抑制され、より安定した着火を実現できる。
さらに、上記Oリングの弾性力によって水密性を確保しているので、上記冷却器を上記ハウジングに対して着脱可能となっているので、メンテナンスが容易である。
また、上記冷却器は内側に区画した環溝状の冷却水路の内側に、外部に設けた熱交換機によって冷却した冷媒を周回させるので、構造が簡易で、搭載スペースの少ないプラグホールの内側にも容易に載置することができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、上記ハウジングよりも熱膨張係数の大きい部材が上記光学窓部材と上記パルス光集光光学素子との間に介装されているので、燃焼時に、燃焼室の内側の高温に晒されても、上記ハウジングによる加締め力の低下を上記光学窓部材着座用部材の熱膨張によって補われ、上記パルス光集光光学素子が、常に上記基準面に対して弾性的に押圧された状態が維持され、光軸の歪みによる集光点の変動を招く虞がなく、安定した着火を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の概要を示す断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の第1のハウジング、パルス光集光光学素子及び光学窓部材の詳細を示し、本図中左側列は断面図、右側列は平面図。
【図3】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の包み加締め部及び熱加締め部について製造工程の概要を示す説明図。
【図4】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の第2のハウジング、パルス光拡張光学素子、レーザ共振器、励起光導入光学素子、及び、光ファイバ接続部材の詳細並びに製造工程の概要を示す組立展開図。
【図5】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の冷却器の詳細、及び、製造工程の概要を示す説明図であって、(a)は、斜視図、(b)は、本図(a)中A−B面に沿った断面図。
【図6】比較例と共に本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の第1の効果及び第2の効果について説明するための図であって、(a)は、本発明の実施例における要部断面図、(b)は、比較例における問題点を示す要部断面図。
【図7】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置に係る第3、第4の効果について説明するための要部拡大断面図。
【図8】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置に係る第5の効果について説明するための要部拡大断面図。
【図9】本発明の第2の実施形態におけるレーザ点火装置の光学素子の収容構造と製造方法を説明するための図。
【図10】本発明のレーザ点火装置に係る幾つかの変形例を示す要部断面図。
【図11】本発明の第3の実施形態におけるレーザ点火装置の要部を示す要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1〜図5を参照して本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置1の概要について説明する。
レーザ点火装置1は、外部に設けた励起光源50と、内燃機関40に設けられ、励起光源50から光ファイバ29を介して伝送された励起光LSRPMPを所定の出光径に調整して出光する励起光導入光学素子21と、励起光導入光学素子21から出光された励起光LSRPMPの導入により、エネルギ密度の高いパルス光LSRPLSとして発振するレーザ共振器18と、レーザ共振器18から発振されたパルス光LSRPLSのビーム径を拡張するパルス光拡張光学素子15と、パルス光拡張光学素子15によって拡張されたパルス光LSRPLSを内燃機関40の燃焼室400内の集光点FPに集光するパルス光集光光学素子11と、パルス光集光光学素子11を保護する光学窓部材12と、これら(11、12、15、18、21)を内燃機関40のシリンダヘッド440に設けたプラグホール441内に保持する略筒状のハウジング10、20とを具備し、燃焼室400内にエネルギ密度の高い火炎核を発生させて混合気の点火を行う。
【0026】
励起光導入光学素子21、パルス光拡張光学素子15及びパルス光集光光学素子11の各光学素子(11、15、21)を、それぞれの用途に応じた特定の入射角で入光した光を特定の出射角で出光するよう調整した光学レンズ(110、150、210)と、内側に該光学レンズ(110、150、210)を収容・保持し、基準面(S、S、S)に対して該光学レンズ(110、150、120)の焦点の位置決めを図るべく両端面を中心軸に対して直交するよう精度良く加工した略筒状のレンズ収容筐体部(111、151、213)とで構成すると共に、ハウジング(10、20)に設けたネジ部(104、204)の先端から該ネジ部(104、204)を締め付けるための六角部(105、205)の基端までの間を光学素子配設忌避領域(L、L)とし、該忌避領域(L、L)の先端側、又は、基端側に基準面(S、S、S)を設けて、光学素子(11、15、21)を収容する光学素子収容空間(101、106、201)を区画すると共に、光学素子収容空間(101、106、201)内に収容された光学素子(11、15、21)を基準面(S、S、S)に対して弾性的に押圧させてある。
【0027】
さらに、詳細には、ハウジング(10、20)は、第1のハウジング10と第2のハウジング20とで構成されている。
第1のハウジング10を内燃機関40に固定するために第1のハウジング10に設けた第1のネジ部104と第1のネジ部104を締め付けるための第1の六角部105との間を第1の光学素子配設忌避領域Lとし、第1のハウジング10と第2のハウジング20とを連結するために第2のハウジング20に設けた第2のネジ部204と第2のネジ部204を締め付けるための第2の六角部205との間を第2の光学素子配設忌避領域Lとし、第1の光学素子配設忌避領域Lの先端側を第1の基準面Sとしてその先端側にパルス光集光光学素子11を収容する第1の光学素子収容空間101を区画し、第1の光学素子配設忌避領域L1の基端側を第2の基準面Sとしてその基端側にパルス光拡張光学素子15を収容する第2の光学素子収容空間203を区画し、第2の光学素子配設忌避領域Lの基端側を第3の基準面Sとして励起光導入光学素子21を収容する励起光導入光学素子収容空間201を区画し、第2の光学素子配設忌避領域L内に区画した共振器収容空間202内にレーザ共振器18を摺動可能に配設すると共に、パルス光拡張光学素子15との間にバネ部材からなる弾性体16を配設し、レーザ共振器18の基端側端面181を第3の基準面Sに当接する励起光導入光学素子21の下端面214に接するように弾性的に押圧すると共に、パルス光拡張光学素子15の下端面151を第2の基準面Sに弾性的に押圧する。
【0028】
さらに、本実施形態においては、パルス光集光光学素子11を保護する光学窓部材12の先端側表面121が、ハウジング10の先端面102と面一に位置するように、光学窓部材12の外周123を先端に向かって径小となるように、連続的に縮径する傾斜面有する略円錐台形状に形成してある。
また、第1の光学素収容空間101内に収容したパルス光集光光学素子11を第1の基準面Sに対して弾性的に押圧する押圧手段として、第1のハウジング10の一部を利用して、熱膨張係数が第1のハウジング10の熱膨張係数よりも大きい部材からなり略環状の弾性部材(プレート)14を介して、光学窓部材12の外周に設けた傾斜面121を外周側から包み込むように覆いつつ、基端側方向の成分を有して押圧する包み加締め部102が形成されている。
光学窓部材12の先端面121が包み加締め部102の先端面と面一に位置しているので、燃焼室400内を流れる筒内気流TMBが光学窓部材12の表面121を通過する際に、淀みを生じることがなく、その表面に付着した未燃燃料や煤等のデポジットを形成する物質を吹き飛ばすので、常に、光学窓部材12の表面121が清浄に保たれ、デポジットの堆積による光軸の歪みを回避し、安定した着火を確保できる。
【0029】
さらに、第1のハウジング10の第1の基準面Sと包め加締め部102との間に薄肉部を設けて、軸方向に圧縮しつつ加熱して永久変形させて、熱加締め部103が形成されている。
熱加締め部103によって軸方向に圧縮応力が発生し、燃焼室400内の混合気が爆発燃焼したときの熱によって、第1のハウジング10が膨張したとしても、熱加締め部103の軸力によって、包み加締め部102の保持力が補われ、光学窓部材13と共にパルス光集光光学素子12が第1の基準面S1に対して弾性的に押し圧された状態を保持されるので、パルス光集光光学素子12の緩みによって光軸が歪むことがなく、安定した着火を維持できる。
【0030】
また、第2のハウジング20のレーザ共振器18の収容された位置の少なくとも基端側外周を覆うように第2のハウジング20を構成する部材よりも熱伝導率の高い部材を用いて略環溝状の冷却水路265を区画し、その基端側内周面263と第2のハウジング10の外周面207との間隙と、その先端側内周面266と第1のハウジングの外周面109との間隙とに、弾性部材からなるOリング19、24を介装して、水密性を確保しつつ、第1のハウジング10、第2のハウジング20に対して着脱可能に取り付けられた冷却器26を具備し、外部に設けた熱交換機60によって冷却された冷媒を冷却水路265内に周回させるようにしてある。
【0031】
Oリング19、24によって冷却水路265の水蜜性が確保された状態で、少なくともレーザ共振器18の収容された部位の基端側の周囲を冷媒が周回するので、励起光LSRPMPの照射により、レーザ共振器18内で熱が発生しても、冷却器26内を流れる冷媒によって、第1のハウジング10、第2のハウジング20の冷却水路265に覆われた部分と共に、レーザ共振器18が冷却される。
したがって、レーザ共振器18とその周囲を覆う第1のハウジング10、第2のハウジング20との熱膨張差によって、レーザ共振器18に熱ストレスが作用して光軸に歪みを生じるのを抑制できる。
しかも、レーザ共振器18の温度上昇も抑制されるので、レーザ媒質の温度上昇に伴うパルス光LSRPLSの発振周期の変動も抑制され、より安定した着火を実現できる。
さらに、Oリング19、24の弾性力によって水密性を確保しているので、冷却器26を第1のハウジング10、第2のハウジング20に対して着脱可能となっているので、メンテナンスが容易である。
また、冷却器26は内側に区画した環溝状の冷却水路265内に、外部に設けた熱交換機によって冷却した冷媒を周回させるので、構造が簡易で、搭載スペースの少ないプラグホール441内にも容易に載置することができる。
なお、本図中、冷却冷媒WCLDは、熱交換器60によって冷却され、冷却器26に導入される冷媒を示し、受熱冷媒WHTDは、冷却水路265内を通過し、レーザ共振器18で発生した熱を吸収して冷却器26から排出され熱交換器60に導入される冷媒を示す。
【0032】
さらに、光学窓部材12とパルス光集光光学素子11との間に弾性部材からなり、第1のハウジング10の内周面101にその外周面132が当接する略環状の光学窓部材着座用部材(シートリング)130を介装してある。
シートリング130と、光学窓部材12との当接面124、131は、基端側に向かって径小となる傾斜面状に形成してある。
【0033】
第1のハウジング10よりも熱膨張係数の大きい部材からなるシートリング130が光学窓部材12とパルス光集光光学素子11との間に介装されているので、燃焼時に、燃焼室400内の高温に晒されても、熱膨張に伴う第1のハウジング10の包み加締め部102による加締め力の低下を、第1のハウジング10よりも熱膨張の大きいシートリング14の熱膨張によって補われ、パルス光集光光学素子11が、常に第1の基準面Sに対して弾性的に押圧された状態が維持され、光軸の歪みによる集光点の変動を招く虞がなく、安定した着火を実現できる。
【0034】
なお、本発明において、励起光源50は、特に限定するものではなく、公知のGaAlAs、InGaAs等の結晶材料で形成されたレーザダイオードLDを用いた励起光源を適宜採用することができ、内燃機関の運転状況に応じた点火時期に駆動電流が印加され励起レーザLSRPMPを放射する。
また、熱交換器60は、レーザ共振器18を所定温度以下、例えば40℃以下に保持できるだけの冷却水の熱交換が可能であれば、如何なる構成のものを用いても構わないが、例えば、図1に示すように、循環ポンプPMPとペルチェ素子PELとエンジン冷却用ラジエータや冷却ファン等とを組み合わせて構成することができる。
ペルチェ素子PELは、2種類の金属の接合部に電流を流すと、一方の金属から他方へ熱が移動するペルチェ効果を利用した略平板状の半導体光学素子であり、循環ポンプPMPを用いて冷却水排出路28を介して環流された排熱水WHTDをペルチェ素子PELの冷却面に接触させ、例えば、30℃以下の冷却水WCLDとして冷却水導入路27を介して冷却器26に導入し、ペルチェ素子PELで発生した熱は、エンジン冷却水との熱交換や、冷却ファン等によって排出することができる。
なお、エンジン冷却水が、レーザ共振器18の温度を例えば、40℃以下に保つのに充分な冷却効果を有する場合や、レーザ共振器18の光光変換効率の向上により、レーザ共振器18の発熱量が低下した場合等には、ペルチェ素子による熱交換を廃して、より簡素な構造とすることもできる。
【0035】
次いで、図1、図2、図3を参照して、第1のハウジング10及びパルス光集光光学素子11、光学窓部材12、シートリング13、プレート14の詳細及び、加締め方法について、製造順を追って説明する。
なお、図2においては、第1のハウジング10の先端側を上に、基端側を下に向けて示し、パルス光集光光学素子収容部101内に収容する順に、下からパルス光集光光学素子11、シートリング13、光学窓部材12、プレート14を並べて示してある。
【0036】
プレート14には、第1のハウジング10に用いられる材料(例えば、炭素鋼)よりも、熱膨張率の大きい金属材料(例えば、)が用いられており、図2(a―1)、(a―2)に示すように、略円環状に形成されている。
【0037】
光学窓部材12には、例えば、サファイア、石英ガラス等の透明な耐熱性ガラス材料が用いられ、図2(b―1)、(b−2)に示す基端側に配設されたパルス光集光光学素子11に対向する入光面122と先端側の燃焼室400に対向する出光面121とが平行で、外周側面は、先端に向かって先細りとなる先端側テーパ面123と、基端側に向かって先細りとなる基端側テーパ面124とが設けられている。
【0038】
シートリング13には、第1のハウジング10に用いられる材料(例えば、炭素鋼)よりも、熱膨張率の大きい金属材料(例えば、)を用いられており、図2(c−1)、(c−2)に示すように、略環状に形成されたシートリング基体130の先端側内周に、光学窓部材12の基端側テーパ面124が嵌合する先端側に向かって拡径する略台形状の溝が穿設されており、外周面132は、第1のハウジング10のパルス光集光光学素子収容空間101の内周面に当接するような大きさに形成されている。
【0039】
パルス光集光光学素子11は、図2(d―1)、(d−2)、(d−3)に示すように、基端側から入射したパルス光LSRPLSが所定の集光点FPの位置に集光するように所定の焦点距離を有する集光レンズ110と、略筒状の集光レンズ筐体111とからなり、集光レンズ筐体111は、内側に集光レンズ110を収容し、集光レンズ筐体111の先端側表面113と基端側表面112とが、集光レンズ110の光軸に対して直交するよう精度良く加工されており、集光レンズ筐体111が、第1の基準面Sにパルス光集光光学素子11を当接させたときに、所定の集光点FPに集光するよう位置決めの役割を果たす。
また、集光レンズ筐体111の外周面は、集光光学素子収容空間101の内周面に対して、摺動可能な程度の極僅かなクリアランスを設けて当接しており、集光レンズ110の光軸と第1のハウジング10の長手方向の中心軸とを一致させている。
集光レンズ110は、石英ガラス等の光学材料が用いられ、入光面と出光面とには、パルス光LSRPLSの反射を抑制のためのコーティングが施されている。
また、集光レンズ筐体111を、(d−2)に示すような雌雄の筐体111M、111Fからなる二重筒構造としても良い。このような構造とすることで、集光レンズ110の焦点位置の微調整を集光レンズ筐体111の両端面112、113の調整によって行うことができるので加工が容易な上に、加締め固定したときの軸力が集光レンズ110に直接負荷されないので、組み付け持におけるレンズの破損を回避することもできる。
なお、集光レンズ筐体111と集光レンズ110との間に、フッ素系ゴム、シリコン系ゴム等の耐熱性弾性部材からなる環状のシールリングを介装して気密性を向上させても良い。
また、以下に示す、パルス光拡張光学素子15、励起光導入光学素子21等の他の光学素子においても同様の筐体構造を取り、各光学素子の光軸とハウジングの中心軸とを一致させると共に、焦点距離を精度良く一定に維持することができる。
【0040】
図2(e―1)、(e―2)、(e―3)に示すように、第1のハウジング10は、例えば、炭素鋼等の耐熱性の高い金属材料を用いて、略筒状に形成されている。
略筒状に形成されたハウジング基体100の先端側の内側には、パルス光集光光学素子収容部101が区画されており、中腹内側には、パルス光拡張光学素子収容部106が区画されており、基端側の内側には、第2のハウジング螺結部107、第2のハウジング収容部108が区画されている。
ハウジング基体100の先端側開口部周辺は、後述する方法によって加締めたときに、中心に向かって座屈し、包み加締め部102を形成し易いように薄肉に形成されている。
第1の基準面Sと第2の基準面Sとの間は、光学素子配設忌避領域Lであると共に、パルス光拡張光学素子15とパルス光集光光学素子11との距離を一定とする役割を担っている。
第1のハウジング10の先端側外周には、第1のハウジングネジ部104及び第1のハウジング六角部105が設けられ、ガスケット30を介してシリンダヘッド440のネジ穴442に螺結されている。
【0041】
上述の如く、図2に示すように、第1のハウジング10のルス光集光光学素子収容部101内に、パルス光集光光学素子11、シートリング13、光学窓部材12、プレート14に順で収容した後、図3に示す加締め工程によって固定する。
図3(a)に示すように、第1のハウジング10のネジ部104を利用して固定型70に固定し、内側に略椀状の窪みを設けた加締め金型710を昇降装置71によって下降させると共に、包み加締め部102以外の部分が座屈しないよう、第1のハウジング10の外周を保持する外周保持金型720を横移動装置72によって側面方向から第1のハウジング10の外周面に当接させ、図3(b)に示すように、加締め金型710によって包み加締め部102を中心に向かって絞り込むように圧縮し、プレート14を介して光学窓部材12の先端側傾斜面123を押圧する包み加締め部102を形成する。
さらに、図3(c)に示すように、加締め金型710によって軸方向に加圧しつつ、外周保持金型720と固定型700とを電極とし、包み加締め部102と第1のネジ部104との間に電流を流し、薄肉部を発熱させ、軸方向に永久変形させることで熱加締め部103を形成する。
なお、図3(a−2)に示す外周保持金型720のように、薄肉部の形状を円形に保ったまま保持するようにしても良いし、図3(a−3)に示す外周保持金型720aのように、薄肉部を六角形に圧縮するように構成しても良い。
また、固定型70は作業性を考慮して、第1の固定型700、第2の固定型701の二重構造とし、第1のハウジング10の着脱を容易にしても良い。
【0042】
次いで、図1、及び、図4を参照して、パルス光集光光学素子11、光学窓部材12を収容した第1のハウジング10の基端側に連結する第2のハウジング20、第2のハウジング20内に収容する、パルス光拡張光学素子15、バネ部材16、バネ圧伝達部材(カラー)17、レーザ共振器18、励起光導入光学素子21、光ファイバ接続部材23について詳述する。
第2のハウジング20は、アルミニウム合金等の金属材料を用いて、図4(a−1)に示すように、略筒状に形成された第2のハウジング基体200に、励起光導入光学素子収容空間201、光ファイバ固定部接続部201M、共振器収容部202、パルス光拡張光学素子収容空間203、第2のネジ部204、第2の六角部205、冷却器嵌合面206、Oリング用溝部207、第1のハウジング嵌合面208、Oリング用溝部209が形成されている。
【0043】
励起光導入光学素子21は、例えば、石英ガラス等の公知の光学材料が用いられ、外部から導入された励起光LSRPMPを所定の焦点距離で所定の集光径で結像し、レーザ共振器18の入射面181に入光するように、入射側を凹面状に形成し、出射側を凸面状に形成して、入射面211と出射面212とが異なる曲率を持ち、一体に形成された励起光導入レンズ210と、励起光導入レンズ210を収容する略筒状の励起光レンズ筐体213とからなる。
励起光レンズ筐体213は、本図(a−2)に示すように、雌雄の筐体213M、213Fの二重筒構造をしており、内側に励起光導入レンズ210を収容し、励起光レンズ筐体213の先端側表面214と基端側表面215とが、励起光導入レンズ210の光軸に対して直交するよう精度良く加工されており、第3の基準面Sに励起光導入光学素子21を当接させたときに、所定の集光点FPに集光するよう位置決めの役割を果たす。
【0044】
第2のハウジング20内には、第3の基準面Sから基端側に向かって区画された励起光導入光学素子収容部201の基端側内周面には、外部に設けた励起光源50から発振された励起光LSRPLSを伝送する光ファイバ29を接続するための光ファイバ接続部材23を固定するための光ファイバ接続部材固定部201M(本実施形態においてはネジ部)が形成されている。
光ファイバ接続部材23は、略筒状で、第2のハウジング20の基端側端面を第4の基準面Sとして、第2のハウジング20内に一定距離だけねじ込み固定される。
【0045】
レーザ共振器18は、例えば、NdをドーピングしたNd:YAGからなるレーザ媒質と、Cr+4をドーピングしたCr:YAGからなる受動Qスイッチとを一体とした公知の個体レーザが用いられ、両端の平行度、及び、外周が精度良く加工された円柱状となっている。
レーザ共振器18内に入射された励起光LZRPMPは、全反射鏡181と部分反射鏡183との間で共振器2内に入射された励起光LZRPMP(例えば、波長λPMP=808.5nm)は、レーザ媒質180を蛍光させ励起光よりも長い波長(例えば、波長λPLS=1064nm)のパルス光LZRPLSを誘導放出する。
【0046】
レーザ共振器18の入射面181からの励起光LSRPMPの入射は許容し、レーザ媒質180内で発生した励起光LSRPMPよりも長い波長の光を全反射するARコーティングを施した全反射鏡181から、レーザ媒質180、可飽和吸収体182、部分反射鏡183の間においてレーザ媒質180内で発生した励起光LSRPMPよりも長い波長の光が共振し、可飽和吸収体182の固有の閾値を超えるまで増幅される。
共振増幅されたレーザ光が閾値を超えると可飽和吸収体182が受動Qスイッチとして作用し、瞬間的にエネルギ密度の高いパルス光LZRPLSが出射される。
【0047】
パルス光拡張光学素子15は、例えば、石英ガラス等の公知の光学材料が用いられ、レーザ共振器18から出射したパルス光LSRPLSを所定の距離で所定の径となるように拡張し、これをパルス光集光光学素子11で再度集光することで、パルス光LSRPLSのエネルギ密度を高くする。
パルス光拡張光学素子15は、レーザ共振器18から出射されたパルス光LSRPLSを、拡張する拡張レンズ150と、拡張レンズ150を収容する略筒状の拡張レンズ筐体151とからなる。
拡張レンズ筐体151は、本図(a−3)に示すように、雌雄の筐体151M、151Fの二重筒構造をしており、内側に拡張レンズ150を収容し、拡張レンズ筐体151の先端側表面155と基端側表面154とが、パルス光拡張レンズ150の光軸に対して直交するよう精度良く加工されており、第2の基準面Sにパルス光拡張光学素子15を当接させたときに、所定のビーム径に拡張してパルス光集光光学素子11に入光するよう位置決めの役割を果たす。
【0048】
本図(a―1)に示すように、第2のハウジング20の基端側開口から挿入された励起光導入光学素子21は、本図(b)に示すように、丹銅等の金属材料からなる環状弾性部材(スペーサ)22を介して、光ファイバ接続部材23の先端が励起光導入光学素子21を第3の基準面Sに対して弾性的に押圧している。
一方、第2のハウジング20の先端側からは、レーザ共振器18、カラー17、バネ部材16、励起光拡張光学素子15が、挿入され、第1のハウジング10と第2のハウジング20とを連結すると、本図(b)に示すように、先端側に配設したバネ部材16によって弾性的に押圧されて、レーザ共振器18は、基端側の励起光入射面181が、第3の基準面S3に支持された励起光導入光学素子21の先端面214に当接した状態となり、パルス光拡張光学素子15は、先端面151が第2の基準面S2に弾性的に当接した状態となっている。
【0049】
その結果、本図(b)に示すように、第1のハウジング10の集光光学素子収容空間101内で第1の基準面Sに対して弾性的に当接するように保持されたパルス光集光光学素子11と、拡張光学素子収容空間106内で第2の基準面Sに弾性的に当接するように保持されたパルス光拡張光学素子15との間に一定距離Lが確保され、第2のハウジング20の励起光光学素子収容空間201内で第3の基準面Sに弾性的に当接するように保持された励起光導入光学素子21とパルス光拡張光学素子15との間に、一定距離Lが確保されている。
各光学素子11、15、21は、それぞれの筐体111、151、213の外周面がそれぞれの収容空間101、203、201の内周面に保持され、かつ、それぞれの筐体の端面112、155、214が、それぞれの基準面S、S、Sに当接しているので、各光学素子11、15、21の光軸が一致し、しかも、光学素子間の距離L、Lが一定に保持されている。
【0050】
さらに、第1のハウジング10に第2のハウジング20を連結した状態において、第2のハウジング20の先端とパルス光拡張光学素子15との間には、間隙Gが設けられており、第2のハウジング20を第1のハウジング10に螺結するためのネジ締め軸力は、パルス光拡張光学素子15に作用しない構造となっている。
【0051】
なお、バネ部材16は、内燃機関の使用回転数によって発生する振動周波数よりも大きな固有振動数となるように設定してある。
さらに、バネ部材16のプリロード荷重(±kX:kはバネ定数、Xは自由端からの変位量)は、内燃機関の作動によって生じる加速度の積よりも大きくなるように設定してある。
具体的には、バネ部材16のバネ常数kを、バネ部材16の質量を含めた系の単振動周波数が内燃機関の仕様回転数によって決まる固有振動数よりも大きくなるように設定する。
即ち、内燃機関の作動によって発生する加振加速度をG(m/s)、バネに負荷する質量をM(kg)とすると、プリロード荷重は、kX>MG(N)となるよう設定する。
また、内燃機関の最大回転数をN(rpm)、バネの固有振動数をf(Hz)とすれば、f>N60、かつ、f>(1/2π)・{√(k/M)}となるよう設定するのが望ましい。
【0052】
第1のハウジング10と第2のハウジング20とは、雌ネジ部106Fと雄ネジ部204とが互いに螺結されるだけでなく、第1のハウジング10の基端側に設けた第2のハウジング挿通孔108と第2のハウジング20の先端側に設けた第1のハウジング嵌合面208とは、互いに摺動可能な程度のクリアランスを設けて嵌合し、いずれか一方に外周面一部を溝状に窪ませたOリング用溝部209が形成され、Oリング用溝部209内には、例えば、シリコンゴムやフッ素樹脂ゴムなどの耐熱性弾性部材からなるOリング19が介装され、第1のハウジング10と第2のハウジング20との連結部の水密性を保持している。
【0053】
図1、図5を参照して、本実施形態におけるレーザ点火装置1に用いられる冷却器26及び光ファイバ29の詳細並びに組付け方法について説明する。
図5に示すように、冷却器26は、ステンレス等の金属材料を用いて略筒状に形成した冷却器基体260の内側に冷却水路265を区画すべく、外周方向に向かって窪んだ環状溝(265)が形成され、外部に設けた熱交換器60に接続する冷却水導入路27、冷却水導出路28との接続を図るべく、冷却器基体260の基端側上面から環状溝(265)に連通する導入用貫通孔261、導出用貫通孔262が穿設され、それぞれに、冷却水導入管部270、冷却水導出管部280が挿通され、導入管ネジ部271、導出管ネジ部281によって固定されている。この際、適宜シール部材等により水密性が確保されている。
また、冷却水路265は、冷却器26の冷却器基体260のみに区画されるのではなく、冷却器基体260の内周壁の一部を外径方向に向かって窪ませた断面略コ字形の環状溝と第1のハウジング10の第1の冷却器勘合面109及び第2のハウジング20の第2の冷却器勘合面207とによって区画されており、冷却水路265内を流れる冷媒は、第1のハウジング10及び第2のハウジング20の表面に直接触れることになるので、熱交換効率が高い。
【0054】
冷却水導入管部270、冷却水導出管部280の先端には、それぞれ、冷却水導入孔272、冷却水導出孔282が形成され、環状溝265に開口している。
冷却器基体260の基端側内周面263は、第2のハウジング20の基端側に設けた冷却器嵌合面207と摺動可能な程度の僅かな間隙を生じるように形成され、先端側内周面266は、第1のハウジングに設けた冷却器嵌合面109と摺動可能な程度の僅かな間隙を生じるように形成されており、冷却器26と第1のハウジング10及び第2のハウジング20との間隙は、環状溝267内に介装されたOリング25、及び、環状溝207内に介装されたOリング24とによって弾性的に封止され、水密性が確保されている。
また、第1のハウジング10と第2のハウジング20との間隙は、Oリング19によって弾性的に封止され、水密性が確保されている。
【0055】
さらに、冷却器26は、Oリング24、25の弾性力によって固定されているので、着脱が可能となっており、着脱時には、冷却器基体260の上面に設けた雌螺子部264に、着脱用ボルトを装着して、抜き差しし易い構造となっている。
なお、本実施形態においては、冷却水導入管27及び、冷却水導出管28を冷却器基体260に螺子締め固定した例を示したが、水密性が確保されれば、ロウ付けその他の如何なる固着方法で固定しても良い。
また、冷却水導入管270、冷却水導出管280と、熱交換器60との接続は、特に限定するものではなく。継ぎ手、可撓性管等の公知の配管手段を用いて適宜行う。
さらに、冷却器基体260の先端側外周には、先端先細りとなるように傾斜したガイド面268が形成され、プラグホール内への挿入が容易となっている。
【0056】
光ファイバ接続部材23の基端側から、光ファイバ29を挿入し、シムリング290を介して、袋ナット部291を光ファイバ接続部剤23の螺子部234に螺結すると、第3の基準面Sから一定距離Lだけ離れた位置に光ファイバ芯材292の先端が露出するように、光ファイバ芯材292を覆うように保護部材293が形成さている。
【0057】
図6を参照して、本発明の第1の効果と、第2の効果、並びに、比較例における問題点について説明する。
先ず、第1の効果について説明する。本図(a)に示すように、本発明の実施例においては、第1の光学素子配設忌避領域Lの先端側に第1の基準面Sが設けられ、基端側に第2の基準面Sが設けられパルス光集光光学素子11とパルス光拡張光学素子15とが、それぞれの基準面S、Sに弾性的に押圧された状態で、光学素子配設忌避領域Lを避けるように配設されている。
このため、第1のハウジング10のネジ部104をシリンダヘッド440の雌ネジ部442に組み付ける際に、第1のハウジング10を捻るような方向に締め付けトルクが作用しても、雄ねじ部104に負荷された締め付け荷重や、六角部105に負荷された回転方向のネジ締め力は、それぞれの光学素子11、15に作用することがないので、パルス光集光光学素子11とパルス光拡張光学素子15との間で光軸のズレを起こす虞がない。
【0058】
さらに、第1の基準面Sと第2の基準面Sとの間は、締め付け持には、締め付けトルクが作用し、第1のハウジング10の当該部分に捻りを生じ得るが、組み付け完了後には、シリンダヘッド440に強固に組み付けられているので、第1の基準面Sと第2の基準面Sとの間の距離Lが変動し難く、パルス光拡張光学素子15とパルス光集光光学素子11との距離が一定に保持されることになる。
加えて、第1のハウジング10よりも熱膨張係数の大きい部材からなるシートリング130が光学窓部材12とパルス光集光光学素子11との間に介装されているので、燃焼時に、燃焼室400内の高温に晒されても、熱膨張に伴う第1のハウジング10の包み加締め部102による加締め力の低下を、第1のハウジング10よりも熱膨張の大きいシートリング14の熱膨張によって補われ、パルス光集光光学素子11が、常に第1の基準面Sに対して弾性的に押圧された状態が維持される。
したがって、常に一定のビーム径に拡張された状態でパルス光LSRPLSがパルス光拡張光学素子11に入射され、その結果、一定のエネルギ密度、焦点距離の位置に集光点FPが形成され、安定した着火を実現できる。
【0059】
本発明に第2の効果について説明する。
本発明によれば、光学窓部材12の先端面121が包み加締め部102の先端面と面一に位置しているので、燃焼室400内を流れる筒内気流TMBが光学窓部材12の表面121を通過する際に、淀みを生じることがなく、その表面に付着した未燃燃料や煤等のデポジットを形成する物質を吹き飛ばすので、常に、光学窓部材12の表面121が清浄に保たれ、デポジットの堆積によるパルス光LSRPLSの透過率の低下や、異常屈折による光軸の歪みが回避され、安定した着火を確保できる。
【0060】
一方、本図(b)に比較例として示す、従来のレーザ点火装置1zでは、ハウジング10zを内燃機関のシリンダヘッド440に等結するためのネジ部104zの先端と、ネジ部104zを締め付けるための六角部105zとの間に、光学素子が配設されているので、シリンダヘッドにハウジング10zをネジ締め固定する際の軸力がハウジング10zを介して光学素子に伝達され、機械的ストレスを与え、光軸に歪みを生じる虞がある。
また、従来のレーザ点火装置1zでは、複数のレンズを組み合わせて集光レンズを構成しているのでそれぞれの寸法誤差が累積され、各レンズ間の距離にバラツキを生じ、パルス光の集光位置について個体差が大きくなる虞もある。
さらに、従来のレーザ点火装置1zでは、光学窓部材12zが、略平板状に形成されているので、必然的にハウジング10zの先端が、光学窓部材12zの出光面121zよりも先端側に位置することになる。
このため、ハウジング10zの先端と光学窓部材12zとの間に段部が形成され、燃焼室内を流れる筒内気流TMBが、光学窓部材12zの表面を流れる際に、段部の近傍に渦流を発生させ、その流速が低下し、段部に未燃燃料や、煤等が溜まり易くなり、デポジットを形成し、徐々にデポジットが拡散し、パルス光の透過率が低下したり、光軸が歪んだりして、着火が不安定となる虞がある。
【0061】
図7を参照して、本発明の第3の効果、第4の効果、及び、第5の効果について説明する。
本図に示すように、第2のハウジング20を第1のハウジング10に連結するために設けた第2のネジ部204の先端から、第2のネジ部を締め付けるために、第2のハウジングの中腹外周に設けた第2の六角部208の基端までの距離Lの範囲を第2の光学素子配設忌避領域とし、該忌避領域の基端側に第3の基準面Sを設けて、光学素子として、励起光導入光学素子21を収容する第3の光学素子収容空間201を区画し、第3の光学素子収容空間201内に収容される励起光導入光学素子21を第3の基準面Sに対して、弾性部材22を介して、光ファイバ接続部材23を利用して弾性的に押圧している。
【0062】
このため、第3の効果として、第2の光学素子配設忌避領域L内に光学素子が存在せず、また、当該領域の外に設けた光学素子15、21はそれぞれ、第2の基準面S2、第3の基準面S3に対して弾性的に押圧された状態であるので、第2のハウジング20を第1のハウジング10に連結する際のネジ締め力が、パルス光拡張光学素子15、及び、励起光導入光学素子21に作用することがなく、光ファイバ接続部材23を第2のハウジング20に連結する際にも、励起光導入光学素子21にネジ締め力は作用しないので、これらの光学素子15、21の光軸に歪を生じる虞がなく、安定した着火を維持できる。
【0063】
さらに、第4の効果として、レーザ共振器18の入射面181がバネ部材16によって、第3の基準面Sに保持された励起光導入光学素子21の先端面214に押し当てられた状態となっているので、レーザ共振器18の加工精度のバラツキや、レーザ共振器18の発熱による寸法変化等がバネ部材16の伸縮によって吸収され、励起光導入光学素子21とレーザ共振器18との光学距離が、常に一定に保持され、さらに、第4の基準面S4によって、光ファイバ芯材292の先端から、レーザ共振器18の入射面181までの距離Lが一定に維持されているので、レーザ共振器18に入射する励起光LSRPMPのビーム径が一定に維持され、レーザ共振器18から出力されるパルス光LSRPMPの安定化を図ることができる。
このとき、共振器18から出射するパルス光LSRPLSがパルス光拡張光学素子15に入射する際には、平行光となっているので、第1のハウジング10と第2のハウジング20との組付け誤差や、寸法誤差、熱膨張によるレーザ共振器18の寸法変動等があっても、パルス光拡張光学素子15から出光するときに影響はない。
【0064】
加えて、第5の効果として、レーザ共振器18と第2のハウジング20との間で熱膨張係数の差が生じたとしても、第2のハウジング20の共振器収容空間202内をレーザ共振器18が摺動するので、熱膨張差による機械的ストレスがレーザ共振器18に作用する虞がなく、入射面181と出射面183との平行度の変化が少ない。
このため、レーザ共振器18を通過する際に光軸の歪が生じ難く、安定した着火を維持できる。
【0065】
図8を参照して、本発明の第6の効果について説明する。
励起光LSRPMPの導入により、レーザ共振器18の温度が上昇したときにと第2のハウジング20との熱膨張率の差が大きい場合には、レーザ共振器18が第2のハウジング20内を摺動するのが困難となり、レーザ媒質180に歪みを生じる虞がある。
また、レーザ媒質180の温度上昇に伴い、レーザ共振器18から発振されるパルスレーザLSRPLSの発振周期が長くなり、一回の点火で発振されるレーザパルスのパルス数が減少し、着火が不安定となる虞がある。
しかし、本発明によれば、本図に示すように、共振器18の周囲、及び、基端側を取り囲むように区画された冷却水路265内を周回する冷却水26により、レーザ共振器18の温度が40℃以下の温度に維持できる。
したがって、レーザ共振器18と台2のハウジング20との熱膨張差による熱ストレスが抑制され、発振周期も安定化されるので、極めて安定した着火を維持できる。
また、本発明では、少なくとも、レーザ共振器18の基端側に冷却器26か装着されるので、自然法則にしたがって、基端側に放出される熱を効果的に吸収することができる。
【0066】
図9を参照して、本発明の第2の実施形態におけるレーザ点火装置1aの光学素子11、12の収容構造と製造方法について説明する。なお、上記実施形態との相違点についてのみ記載し、同様の構成については説明を省略する。
なお、本図において、図の上方が先端側、下方が基端側として記載してある。
上記実施形態においては、光学窓部材12を第1のハウジング10の先端側の一部を利用して包み加締め部102、熱加締め部103を形成した例について説明したが、本実施形態においては、第1のハウジング10aとは別体に設けて、熱膨張係数が第1のハウジング10aの熱膨張係数よりも大きい部材からなり略環状の弾性部材(シートリング)13aを介して、光学窓部材12の外周に設けた傾斜面124aを外周側から包み込むように覆いつつ、基端側方向の成分を有して押圧する包み加締め部102aを形成し、さらに、第1のハウジング10の先端に設けた溶接部103aにより、シートリング13aを固定した点が相違する。
また、本実施形態においては、光学窓部材12aとシートリング13aとをロウ付け固定してある。
本図(a)に示すように、シートリング13aは、略筒状で、内周面には、光学窓部材12aの基端側傾斜面124aの傾斜に合わせた傾斜面131aが形成され、さらに、ロウ材133を載置するための環状溝132aが形成され、先端側は、包み加締め部102aを形成するために薄肉に形成してある。
本図(b)に示すように、シートリング13aに光学窓部材12aとロウ材133とを配置し、シートリング13aを加熱する。
本図(c)に示すように、加熱によりロウ材133が、光学窓部材基体120aとシートリング13aとの間隙に浸透し、互いに密着固定される。
次いで、本図(d)に示すように、シートリング13a、光学窓部材12a、プレート14aを配設し、固定型70aに固定し、内側に略椀状の窪みを設けた加締め金型710aを昇降装置71によって下降させ、加締め金型710aによって包み加締め部102aを中心に向かって絞り込むように圧縮し、プレート14aを介して光学窓部材12aの先端側傾斜面123aを押圧する包み加締め部102aを形成する。
次いで、本図(e)に示すように、第1のハウジング10aのパルス光集光光学素子収容空間101a内に、パルス光集光光学素子11、シートリング13aに包み加締め固定された光学窓部材12aを収容し、本図(f)に示すように、第1のハウジング10aの先端とシートリング13aとをレーザ溶接によって固定する。
【0067】
図10を参照して、本発明に係るレーザ点火装置1の光学窓部材12の形状と、その加締め方法について幾つかの変形例について説明する。
本実施形態においては、本図に示した要部以外は、上記実施形態と同様の構成であり、いずれの構成においても、第1の光軸歪み抑制手段としての要件を満たすべく、ハウジングネジ部104よりも先端側に第1の基準面Sが設けられており、光学窓部材12と包み加締め部102との間に略環状に形成した弾性部材からなるプレート14を介して、気密に封止固定されている点は共通している。
【0068】
上述の如く、第1の実施形態においては、保護用ガラス120の出光面121と包み加締め部102の先端とを一致させることにより、保護用ガラス120の出光面121に付着する煤や未燃燃料等のデポジット形成要因となる物質が筒内気流TMBによって容易に吹き飛ばされるようにして、デポジットの堆積を抑制しているが、本図(a)に示す変形例1cでは、保護用ガラス120cの出光面121cを包み加締め部102の先端よりも、さらに燃焼室400側に向かって突出させた点が相違する。
このような構成とすることによって、第1の実施形態と同様、パルス光集光光学素子11及び光学窓部材12cをネジ部104よりも先端側に設けた第1の基準面S1よりも先端側で保持することにより、第1のハウジング10をシリンダヘッドに組み付けたときに、組み付けトルクがパルス光集光光学素子11及び光学窓部材12cに作用せず、光軸の歪みが生じ難くなっており、また、筒内気流TMBを利用して保護用ガラス120cの出光面121cのセルフクリーニングが可能である。
加えて、本実施形態では、包み加締め部102と保護用ガラス120cとの境界にデポジットが堆積したとしても、出光面121cが、デポジットよりも先端側に突出して設けられているので、デポジットはその外周側に留まり、出光面121cへの堆積を確実に抑制することができる。
さらに、本図(b)に示す、変形例10dでは、上記第2の実施形態と同様の効果に加え、本図(a)に示した変形例10cと同様の効果が期待できる。
【0069】
また、上記実施形態においては、光学窓部材12の側面外周を先端に向かって先細りに傾斜する先端側テーパ面123を設けた例を示したが、本図(c)に示す変形例10eのように、光学窓部材12eの外径を階段状に変化させた段差部123eを形成して、包み加締め部102e及び熱加締め部103によって加締め固定する構成としても良い。このような構成によっても、上記第1の実施形態と同様の効果が期待できる。
さらに、本図(d)に示す変形例10fのように、光学窓部材12fの外径を階段状に変化させた段差部123fを形成して、包み加締め部102f及びレーザ溶接部103fによって加締め固定する構成としても良い。このような構成によっても、上記第2の実施形態と同様の効果が期待できる。
【0070】
さらに、本図(e)に示す変形例10gのように、側面に段階的に縮径する段差面123を有する段付き円柱状に形成し、出光面121gを先端側に向かって突出させた光学窓部材12gを他の光学系光学素子と同様に、略筒状の光学窓部材用筐体13gによって保持した状態で、パルス光集光光学素子11と共に、ハウジング10gの先端に設けた集光光学素子収容部101g内に収容し、光学窓部材用筐体13gの先端面と包み加締め部102gとの間にプレート14gを介して、加締め固定する構成としても良い。このような構成によっても、上記第1の実施形態と同様の効果が期待できる。
ただし、図10(c)、(d)、(e)に示した実施例10e、10f、10gでは、光学窓部材13e、13f、13gの加工が困難な上に、段差部123e、123f、123gに応力集中が起こり、加締め工程や、使用中に、光学窓部材13e、13f、13gが破損し易くなる虞があり、図1、図9、図10(a)、(b)に示した実施例10、10b、10c、10dのように、光学窓部材13、13a、13b、13c、13dを円錐台形状に形成するのが望ましい。
このような構成とすることにより、加工が容易である点に加え、加締め工程における機械的ストレスや、使用中の熱ストレスに対して応力集中を防ぎ、光学窓部材13、13a、13b、13cの破損を回避し、より高い耐久性を示すようにすることもできる。
【0071】
次いで、図11を参照して、冷却器26の冷却範囲を変えた変形例1hについて説明する。
上記実施形態においては、冷却器26の冷却水路形成溝265として、第2のハウジング20の励起光拡張光学素子21、及び、レーザ共振器18が収容された部分の外周を取り囲むように区画した例を示したが、本変形例1hにおいては、冷却器26hの冷却水路265h形成溝をレーザ共振器18よりも基端側のみを冷却するように形成してある点が相違する。
冷却器26hを小型化し、効率的にレーザ共振器18で発生した熱を放出させると共に、第1のハウジング10、第2のハウジング29へ負荷される慣性モーメントを小さくして、光軸の歪をさらに小さくすることができる。
また、本図に示すように、冷却器26hの基端側外周にネジ部269を形成して、シリンダヘッド440hに固定するようにしても良い。
このような構成とすることで、冷却器26hの脱落を防ぐこともできる。
【0072】
なお、上記実施形態においては、光ファイバ29を第2のハウジング20に固定するための光ファイバ接続部材23を第2のハウジング20にねじ込み固定するようにした例を示したが、励起光拡張光学素子21に光軸の歪みを生じさせることなく光ファイバ芯線292の先端から励起光拡張光学素子21に至るまでの距離を一定に維持できる固定方法であれば、光ファイバ接続部材23を第2のハウジング20に設けた光ファイバ接続部材固定部201Mに圧入したり、光ファイバ接続部材23を第2のハウジング20に挿通後、両者をレーザ溶接やロウ付け等の接合手段によって固着したりするものであっても良い。
【符号の説明】
【0073】
1 レーザ点火装置
10 第1のハウジング
101 パルス光集光光学素子収容空間
102 包み加締め部
103 熱加締め部
104 第1のネジ部
105 第1の六角部
106 パルス光拡張光学素子収容空間
11 パルス光集光光学素子
110 パルス光集光レンズ
111 集光レンズ筐体
12 光学窓部材
15 パルス光拡張光学素子
150 パルス光拡張レンズ
151 拡張レンズ筐体
18 レーザ共振器
180 レーザ媒質
181 全反射鏡
182 可飽和吸収体
183 部分反射鏡
20 第2のハウジング
201 励起光導光学素子収容空間
204 第2のネジ部
205 第2の六角部
21 励起光導入光学素子
210 励起光導入レンズ
213 励起光導入レンズ筐体
26 冷却器
265 環状冷却水路
29 光ファイバ
40 内燃機関
400 燃焼室
440 シリンダヘッド
441 プラグホール
50 励起光源
LSRPMP 励起光
LSRPLS パルス光
FP 集光点
L1 第1の光学素子配設忌避領域
第2の光学素子配設忌避領域
第1の基準面
第2の基準面
第3の基準面
【先行技術文献】
【特許文献】
【0074】
【特許文献1】特開2006−220091号公報
【特許文献2】特表2007−506031号公報
【特許文献3】特開2010−537119号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、外部に設けた励起光源と、内燃機関に設けられ、上記励起光源から光ファイバを介して伝送された励起光を所定の出光径に調整して出光する励起光導入光学素子と、該励起光導入光学素子から出光された励起光の導入により、エネルギ密度の高いパルス光として発振するレーザ共振器と、該レーザ共振器から発振されたパルス光のビーム径を拡張するパルス光拡張光学素子と、該パルス光拡張光学素子によって拡張されたパルス光を上記内燃機関の燃焼室の内側に集光するパルス光集光光学素子と、該パルス光集光光学素子を保護する光学窓部材と、これらを内燃機関のシリンダヘッドに設けたプラグホールの内側に保持する略筒状のハウジングとを具備し、燃焼室の内側にエネルギ密度の高い火炎核を発生させて混合気の点火を行うレーザ点火装置であって、
上記励起光導入光学素子、上記パルス光拡張光学素子及び上記パルス光集光光学素子の各光学素子を、それぞれの用途に応じた特定の入射角で入光した光を特定の出射角で出光するよう調整した光学レンズと、内側に該光学レンズを収容・保持し、基準面に対して該光学レンズの焦点の位置決めを図るべく両端面を中心軸に対して直交するよう精度良く加工した略筒状のレンズ収容筐体部とで構成すると共に、
上記ハウジングに設けたネジ部の先端から該ネジ部を締め付けるための六角部の基端までの間を光学素子配設忌避領域とし、該忌避領域の先端側、又は、基端側に基準面を設けて、上記光学素子を収容する光学素子収容空間を区画すると共に、該光学素子収容空間の内側に収容された光学素子を上記基準面に対して弾性的に押圧せしめたことを特徴とするレーザ点火装置。
【請求項2】
上記ハウジングを第1のハウジングと第2のハウジングとで構成し、
該第1のハウジングを上記内燃機関に固定するために上記第1のハウジングに設けた第1のネジ部と、該第1のネジ部を締め付けるための第1の六角部との間を第1の光学素子配設忌避領域とし、
上記第1のハウジングと上記第2のハウジングとを連結するために上記第2のハウジングに設けた第2のネジ部と、該第2のネジ部を締め付けるための第2の六角部との間を第2の光学素子配設忌避領域とし、
上記第1の光学素子配設忌避領域の先端側を第1の基準面として、その先端側に上記パルス光集光光学素子を収容する第1の光学素子収容空間を区画し、
上記第1の光学素子配設忌避領域の基端側を第2の基準面として、その基端側に上記パルス光拡張光学素子を収容する第2の光学素子収容空間を区画し、
上記第2の光学素子配設忌避領域の基端側を第3の基準面として、上記励起光導入光学素子を収容する励起光導入光学素子収容空間を区画し、
上記第2の光学素子配設忌避領域の内側に区画した共振器収容空間の内側に上記レーザ共振器を摺動可能に配設し、かつ、上記パルス光拡張光学素子との間にバネ部材からなる弾性体を配設し、上記レーザ共振器の基端側端面を上記第3の基準面に当接する上記励起光導入光学素子の下端面に接するように弾性的に押圧すると共に、上記パルス光拡張光学素子の下端面を上記第2の基準面に弾性的に押圧せしめた請求項1に記載のレーザ点火装置。
【請求項3】
上記パルス光集光光学素子を保護する上記光学窓部材の先端側表面が、上記ハウジングの先端面と面一、又は、より先端側に位置するように、
上記光学窓部材の外周を先端に向かって径小となるように、連続的に縮径する傾斜面有する略円錐台形状、又は、段階的に縮径する段差面を有する段付き円柱状に形成すると共に、
上記光学素収容空間の内側に収容した光学素子を上記基準面に対して弾性的に押圧する押圧手段として、上記ハウジングの一部を利用して、又は、上記ハウジングとは別体に設けて、熱膨張係数が上記ハウジングの熱膨張係数よりもを大きい部材からなり略環状の弾性部材を介して、上記光学窓部材の外周に設けた上記傾斜面、又は、段差面を外周側から包み込むように覆いつつ、基端側方向の成分を有して押圧する包み加締め部を形成せしめた請求項1又は2に記載のレーザ点火装置。
【請求項4】
上記ハウジングの上記基準面と上記包め加締め部との間に薄肉部を設けて、軸方向に圧縮しつつ加熱して永久変形させた熱加締め部を具備する請求項1ないし3のいずれかに記載のレーザ点火装置。
【請求項5】
上記ハウジングの上記レーザ共振器の収容された位置の少なくとも基端側外周を覆うように上記ハウジングを構成する部材よりも熱伝導率の高い部材を用いて略環溝状の冷却水路を区画し、その基端側内周面と上記ハウジングの外周面との間隙と、その先端側内周面と上記ハウジングの外周面との間隙とに、弾性部材からなるOリングを介装して、水密性を確保しつつ、上記ハウジングに対して着脱可能に取り付けられた冷却器を具備し、外部に設けた熱交換機によって冷却された冷媒を上記冷却水路の内側に周回せしめた請求項1ないし4のいずれかに記載のレーザ点火装置。
【請求項6】
上記光学窓部材と上記パルス光集光光学素子との間に弾性部材からなり、上記ハウジングの内周面にその外周面が当接する略環状の光学窓部材着座用部材を介装すると共に、該着座用部材と、上記光学窓部材との当接面を、基端側に向かって径小となる傾斜面状に形成した請求項1ないし5のいずれかに記載のレーザ点火装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−96392(P2013−96392A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243286(P2011−243286)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】