説明

レーザ発振器及びレーザ発振器の励起光源の寿命推定方法

【課題】簡便な構成により、励起光源の寿命推定可能なレーザ発振器を提供する。
【解決手段】励起光源10と、励起光源10に電流を供給する電源30と、励起光源10から照射された励起光によってレーザ光を出力するレーザ結晶20と、レーザ結晶20により生じたレーザ光を受光し、そのレーザ光の強度に対応した信号を出力するパワーセンサ40と、レーザ発振器の稼動時間を保存するメモリ60と、パワーセンサ40が出力した信号が予め定められた条件を満たす場合に電源30が励起光源10に供給している電流値と、メモリ60に保存された稼動時間とを用いて、励起光源10の寿命を推定するプロセッサ50とを有するレーザ発振器(100、200、300)を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ発振器に関するものであり、詳しくは励起光源の寿命推定機能を備えたレーザ発振器、及びレーザ発振器の励起光源の寿命推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体レーザ発振器、特にNd:YAG結晶等をレーザ結晶として使用するレーザ発振器では、ランプやレーザダイオードのような消耗品が励起光源として使用される。光源が消耗品であるため定期的な交換が必要となるが、寿命が均一でないため光源の発光状態を確認しながら交換する必要性が発生する。しかし、レーザ発振器内でのランプやレーザダイオードの出力を測定することは難しく、交換時期を求めるための何らかの指標が必要となっていた。特に、レーザダイオードのように交換周期が長い場合にこのような指標を持つことで、レーザ発振器からレーザダイオードを取り出して、その出力を調べるといった手間を省くことが可能であるため、交換時の保守性が大幅に向上する。また、交換費用が高価であるため精度の高い寿命推定により予算確保を問題なく行うことができるようになる。
【0003】
ところで、レーザダイオードアレイの個々の光出力を、フォトダイオードを用いて測定し、発光状態の経時変化を調べて寿命を推定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法をキロワット級の高出力レーザ発振器に適用すると、励起光源として1000個オーダのレーザダイオードアレイが用いられるため、個々のレーザダイオード毎に光検出器が必要となって部品点数が増大し、またモニタする電流の数も増大するため、大幅にコストアップとなるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−298182号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、簡便な構成により、励起光源をレーザ発振器から取り出すことなく励起光源の寿命を推定可能なレーザ発振器、及び励起光源の寿命推定方法を提供することにある。また別の目的として、精度の高い寿命推定が可能なレーザ発振器、及び励起光源の寿命推定方法を提供することにある。
【0006】
精度の高い寿命推定とは出力低下以外の劣化を含んで予測できることを意味する。レーザダイオードには出力の劣化に伴う波長シフトが発生する。レーザダイオードにより励起されるレーザ結晶は吸収スペクトルが狭い場合が多く、この波長シフトも寿命推定の精度を低下させる原因となっている。このような2重の劣化を示すレーザダイオードの出力の一部を取り出すことでは出力劣化の測定しかできない。実質的にレーザ結晶がどの程度励起されているかを正確に測定することができるレーザ結晶から取り出すことが可能な出力を指標とすることで精度の高い寿命推定が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザ発振器は、励起光源と、励起光源に電流を供給する電源と、励起光源から照射された励起光によってレーザ光を出力するレーザ結晶と、レーザ結晶により生じたレーザ光を受光し、当該レーザ光の強度に対応した信号を出力するパワーセンサと、レーザ発振器の稼動時間を保存するメモリと、パワーセンサが出力した信号が予め定められた条件を満たす場合に前記電源が励起光源に供給している電流値とメモリに保存された稼動時間とを用いて励起光源の寿命を推定するプロセッサと、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る別のレーザ発振器は、励起光源と、励起光源に電流を供給する電源と、励起光源から照射された励起光によってレーザ光を出力するレーザ結晶と、レーザ結晶により生じたレーザ光を受光し、当該レーザ光の強度に対応した信号を出力するパワーセンサと、レーザ発振器の稼動時間を保存するメモリと、パワーセンサの出力した信号が、予め定められた条件を満たすか否かを判定するサブプロセッサと、サブプロセッサから上記の予め定められた条件を満たす判定結果を通知された場合に、電源が励起光源に供給している電流値とメモリに保存された稼動時間とを用いて励起光源の寿命を推定するプロセッサと、を有することを特徴とする。
【0009】
また本発明に係るレーザ発振器において、上記の予め定められた条件は、レーザ光を出力する方式が連続発振、又は、パルス(間欠)発振の何れかにおいて、パワーセンサの出力した信号が、レーザ光の出力がレーザ発振器の最大出力近傍の定格出力に相当する信号と略等しいことであることが好ましい。
【0010】
本発明に係るレーザ発振器は、さらに、プロセッサによって推定された励起光源の推定寿命を表示する寿命表示手段を有することが好ましい。
【0011】
また本発明に係るレーザ発振器は、さらに、警告表示手段を有し、且つプロセッサは、推定された励起光源の推定寿命と、予め定められた交換警告基準とを比較して、推定寿命が交換警告基準以下となった場合、警告表示手段に警告を表示することが好ましい。
【0012】
さらに本発明に係るレーザ発振器において、上記メモリは、各寿命推定時に電源が励起光源に供給していた電流値を保存し、プロセッサは、パワーセンサの出力した信号が、上記の予め定められた条件を満たすと判定された場合に電源が励起光源に供給している電流値Iと、メモリに保存された稼動時間から求めた所定の稼動累計時間T(m)と、メモリから取得した、稼動累計時間T(m)に基づいて決定される、寿命推定時に励起光源に供給された電流値I-mと、励起光源の最大定格電流値Imaxとを用いて、推定寿命τを
τ= ((Imax - I)/(I - I-m))k T(m) 、但しkは0.5以上1.0以下の実数
の関係により求めることが好ましい。
【0013】
また励起光源は、複数のサブ光源を有し、且つ電源は、複数のサブ光源毎に電流を供給する複数のサブ電源を有することが好ましく、この場合、上記メモリは、各寿命推定時にサブ電源がサブ光源に供給していた電流値を保存し、プロセッサは、パワーセンサの出力した信号が、上記の予め定められた条件を満たすと判定された場合に、任意のサブ電源がサブ光源に供給している電流値Inと、メモリに保存された稼動時間から求めた所定の稼動累計時間T(m)と、メモリから取得した、稼動累計時間T(m)に基づいて決定される、寿命推定時に励起光源に供給されたサブ光源に供給された電流値In-mと、励起光源の最大定格電流値Imaxとを用いて、サブ光源の推定寿命τn
τn= ((Imax - In)/(I - In-m))k T(m) 、但しkは0.5以上1.0以下の実数
の関係により求めることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る、励起光源と、励起光源に電流を供給する電源と、励起光源から照射された励起光によってレーザ光を出力するレーザ結晶と、レーザ結晶により生じたレーザ光を受光し、当該レーザ光の強度に対応した信号を出力するパワーセンサと、稼動時間を保存するメモリと、励起光源の寿命を推定するプロセッサとを有するレーザ発振器の励起光源の寿命を推定する方法は、レーザ発振器が生じたレーザ光を予め定められた強度に調整するステップと、レーザ発振器が生じたレーザ光が予め定められた強度に調整された場合に電源が励起光源に供給する電流値を測定するステップと、電流値とレーザ発振器の稼動時間とに基づいて励起光源の寿命を推定するステップと、を有することを特徴とする。
尚、前記レーザ光を予め定められた強度に調整するステップにおいて、レーザ出力方式に、特にパルス出力(間欠的な出力)を利用することが好ましい。
【0015】
さらに、上記の寿命推定方法では、上記メモリは、上記の電流値を測定するステップで測定された電流値をさらに保存するように構成され、電流値を測定するステップは、レーザ発振器が生じたレーザ光が予め定められた強度に調整された場合に電源が励起光源に供給している電流値Iを測定し、寿命を推定するステップは、メモリに保存された稼動時間から、レーザ発振器が稼動していた所定の期間を表す稼動累計時間T(m)を求め、電流値Iと、メモリに保存された、稼動累計時間T(m)に基づいて特定されるレーザ発振器稼動時においてレーザ発振器が生じたレーザ光が予め定められた強度に調整された場合に測定された、電源が励起光源に供給していた電流値I-mと、励起光源の最大定格電流値Imaxとを用いて、推定寿命τを
τ= ((Imax - I)/(I - I-m))k T(m) 、但しkは0.5以上1.0以下の実数
の関係により求めることが好ましい。
【0016】
また、予め定められた強度に調整するステップでは、レーザの出力方式がパルス出力方式であり、電流値を測定するステップは、パワーセンサが出力する信号の変動が、所定期間中、予め定めた範囲内に含まれる場合に電流値を測定することが好ましい。レーザ光の出力がほぼ一定し、安定した状態で電流値の測定を行うことにより、励起光源の寿命をより正確に推定することができる。なお、レーザ光をパルス方式で発振させる場合は、パワーセンサの出力する信号とは、レーザ光出力中にパワーセンサが測定したレーザ光の強度に対応する信号、又はレーザ光の出力期間と停止期間を同じ時間だけ含む一定周期の期間における、平均出力信号をいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡便な構成で励起光源の寿命を推定可能なレーザ発振器を得ることが可能となる。さらに、本発明によれば、励起光源の寿命を精度良く推定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明について詳細に説明する。
【0019】
図5に、本発明に係るレーザ発振器との比較のため、励起光源の寿命を推定可能なレーザ発振器400の概略構成図を示す。
【0020】
このレーザ発振器400は、励起光源10、レーザ結晶20、電源30、パワーセンサ45、プロセッサ50、メモリ60、及び表示部70等によって構成される。なお、各部について、後述する本発明に係るレーザ発振器と同様な構成には、同じ番号を付している。従来技術によるレーザ発振器400では、電源30から励起光源10に電流が供給されると、励起光源10は、励起光を生じてレーザ結晶20を照射する。そして、励起光が一定の強度に達すると、レーザ結晶20は、レーザ発振を開始し、レーザ光を出力する。一方、後述する本発明に係る実施態様と異なり、パワーセンサ45は、励起光の一部を受光してその強度に対応する信号をプロセッサ50に対して出力する。プロセッサ50は、パワーセンサ45から取得した励起光の強度信号をモニタして、その励起光の強度変化に基づいて励起光源10の残寿命を推定する。推定された寿命は、表示部70に送られて、ユーザが寿命を知ることができるように表示される。
【0021】
このように、パワーセンサ45は励起光源10から発せられた励起光の強度を調べるため、励起光源10が複数のレーザダイオード若しくはレーザダイオードアレイによって構成される場合、それぞれのレーザダイオード毎に、パワーセンサを準備することが必要となり、部品点数の増大を招来することがわかる。
【0022】
一方、図1に、本発明の代表的な実施態様に係るレーザ発振器100の概略構成図を示す。
【0023】
本実施態様に係るレーザ発振器100は、励起光源10、レーザ結晶20、電源30、パワーセンサ40、プロセッサ50、メモリ60、表示部70、ビームシャッタ80、及びチラー90等によって構成される。各部の機能及び代表的な構成を以下に示す。
【0024】
励起光源10は、レーザ結晶20に励起光を照射することにより、レーザ発振を生じさせるように構成されており、本実施形態では、波長0.8μmのAlGaAsレーザダイオードが使用される。しかしながら、励起光源10には、AlGaInN系や、AlGaInP系のレーザダイオード等を使用してもよい。また、励起光源10は、電源30から供給される電流の値と一次関数の関係にある光量の励起光を発生させる。
【0025】
レーザ結晶20は、対向して配置されたミラー(図示せず)間に位置し、励起光源10から照射された励起光を利用して、対向配置されたミラー間でレーザ発振を生じ、出射側ミラーを透過してレーザ光を取り出せるように構成される。レーザ結晶20として、本実施形態ではネオジウムドープド・イットリウム・アルミニウム・ガーネット(Nd:YAG)結晶を使用した。しかしながら、レーザ結晶20として、ネオジウムドープド・イットリウム・四酸化バナジウム(Nd:YVO4)結晶、ネオジウムイルフ(Nd:YLF)結晶、ネオジウムドープランザナムスカンジウムボレート(Nd:LSB)結晶、エルビウムドープイルフ(Er:YLF)結晶、及びネオジウムドープポタジウムガドリウムタングステート(Nd:KGW)結晶といったレーザ光学結晶等を使用してもよい。
【0026】
なお、レーザ結晶20は、Nd:YAG結晶を用いた場合、波長1064nmのレーザ光を発生させる。さらに、レーザ結晶20は、非線形光学結晶を用いて、2次高調波発生による波長532nmのレーザ光や3次高調波発生による波長355nmのレーザ光を発生させることも可能である。
【0027】
電源30は、プロセッサ50からの指令に基づいて励起光源10に電流を供給する。供給する電流の値は、電源30中に設けられる可変抵抗を操作することによって調整可能なように構成される。また電源30は、励起光源10に供給する電流の値を、常時計測可能なように電流計(図示せず)を備え、プロセッサ50に、その測定された供給電流値Iを送信する。しかしながら、電源30は、プロセッサ50から電流値を測定する旨の指令を受信した場合のみ供給電流値Iを測定するように構成してもよい。同様に、プロセッサ50から、測定した供給電流値を送信する旨の指令を受けた場合にのみ測定された供給電流値Iをプロセッサ50に送信するように構成してもよい。この場合、電流値の測定から、プロセッサ50への伝送までにタイムラグがあっても測定値が失われないように、測定された供給電流値Iを一時的に記憶するキャッシュメモリを備えておくことが好ましい。
【0028】
パワーセンサ40は、フォトダイオード及びレーザ光電流測定回路等から構成される。フォトダイオードは、出射側ミラーを透過したレーザ光を、出射側ミラー近傍に配置したビームスプリッタ(図示せず)により分岐して一部のレーザ光を受光し、レーザ光の強度に応じた電流(ここでは、電源30が励起光源10へ供給する電流と区別するため、レーザ光電流と呼ぶ)を生じさせる。本実施形態において、上記ビームスプリッタは、レーザ光の99.5%を透過し、残りの0.5%を上記フォトダイオードへ導くように構成した。また、ビームスプリッタとフォトダイオードの間に、分岐されたレーザ光の強度をさらに1%程度に低減するフィルタを配しても良い。このようなフィルタを用いることにより、レーザ光の出力が非常に大きい場合でも、市販のフォトダイオードを使用可能となる。
【0029】
レーザ光電流測定回路は、フォトダイオードで生じた電流の値を測定し、測定されたレーザ光電流値をプロセッサ50へ送信する。
【0030】
プロセッサ50は、レーザ発振器のレーザ光の出力を最大出力まで調整可能であり、操作部(図示せず)からの操作信号(電源のON/OFF、レーザ光強度の指定等)及びパワーセンサ40から受信したレーザ光電流測定値に基づいて、レーザ光を所定の強度に保ち、あるいはレーザ光の強度を変化させるために、電源30が励起光源10へ供給すべき電流値を計算し、その計算値に基づいた指令をアナログ信号に変換して電源30へ送信する。
【0031】
また、プロセッサ50は、励起光源10に用いられるレーザダイオードの寿命を推定する。ここで、プロセッサ50により推定される推定寿命は、寿命推定時から励起光源10の交換が必要となる時期までの残寿命である。なお、レーザダイオードの寿命推定は、後述するように、レーザ発振器のキャリブレーションを行う際、レーザ光の強度を予め定めた最大出力近傍の値若しくは所定の定格出力値まで上げ、その予め定められた出力値を示す場合、電源30から受信した電源電流値と、基準となる時点での電源電流値及びレーザの稼動累計時間とを用いて行う。
【0032】
また、推定された寿命が所定の条件を満たす場合には、励起光源10の交換を警告する情報を設定する。
【0033】
さらに、レーザ光強度や、励起光源10に用いられるレーザダイオードの推定寿命などをユーザに知らせるために、これらの情報を表示部70へ送信する。
【0034】
メモリ60は、各稼動時の稼動時間、各寿命推定時における電源から励起光源へ供給された供給電流値、励起光源の最大定格電流値、及びレーザ発振器の定格出力に相当するレーザ光電流値等を保存する。そして、プロセッサ50からの呼び出し要求に応じてこれらの値をプロセッサ50へ送信する。また、プロセッサ50からの更新要求に応じて、プロセッサ50から受信したこれらの値を、それまで保存していた値の代わりに保存する。
【0035】
表示部70は、プロセッサ50より受信した、励起光源の推定寿命、励起光源の交換警告情報等を表示する。
【0036】
なお、プロセッサ50、メモリ60、及び表示部70は、レーザ発振器に内蔵される組み込み型の演算装置、メモリ、液晶表示パネル等であってもよいが、本実施形態においては、プロセッサ50、メモリ60、及び表示部70は、レーザ発振器と、通信可能に構成されたパーソナルコンピュータ及びモニタとして構成される。
【0037】
ビームシャッタ80は、レーザ光を吸収するダンパー及びレーザ光の出射方向を変更する反射部材を備える。そして、このビームシャッタ80は、レーザ結晶20から出射されるレーザ光の光路上に配置され、上記ダンパーや反射部材を出し入れ自在とすることにより、プロセッサ50からの制御信号に基づいてレーザ光の出射,停止の制御や進行方向の制御を行う。
【0038】
チラー90は、本発明に係るレーザ発振器を一定温度に保つために配置され、励起光源10及びレーザ結晶20に近接して配置された流路に冷却水を循環させるように構成される。また、チラー90は、冷却水の流量を測定する流量計及び冷却水の水温を計る水温計等を備え、レーザ発振器の駆動中、測定した冷却水の流量及び水温をプロセッサ50に送信する。そして、プロセッサ50から受信した指令により、冷却水の流量を制御し、レーザ発振器の温度を一定に保つ。
【0039】
図2に、励起光源に用いられるレーザダイオードの寿命推定手順に係るフローチャートを示す。
【0040】
なお、本発明に係る寿命推定手順は、プロセッサ50に予め保存されたプログラムを用いて実行される。しかし、寿命推定手順は、プログラムを用いた実行に限られるものではなく、ファームウェアやハードウェアを用いて実行することも可能である。
【0041】
寿命の推定は、レーザ発振器のキャリブレーションを行う際に行われる。この場合、寿命の推定は、月に1回〜年に数回程度といった割合で行われる。また、各稼動時に寿命の推定を行うことも可能であり、その場合には、レーザ発振器の起動時に、一旦所定の定格出力までレーザ光の出力を上げる動作を行うことにより、以下に示す手順で寿命を推定することが可能である。
【0042】
まず、操作部(図示せず)より、電源ONの信号がプロセッサ50に入力され、寿命の推定が開始される(ステップ201)。
【0043】
次に、プロセッサ50は、レーザ発振器が所定の定格出力のレーザ光を生ずるよう、電源30を制御して励起光源10への電流供給を開始する(ステップ203)。具体的には、プロセッサ50は、定格出力のレーザ光を得るために必要とされる励起光を発生させるため、励起光源10に電流を供給するよう電源30に指令を送信する。尚、このステップにおけるレーザ出力方式は、特にパルス(間欠)方式であることが好ましい。電源30はプロセッサ50から受信した指令に基づいて電流を励起光源10へ供給する。励起光源10に電流供給が開始されると、励起光源10は、供給された電流と一次関数の関係にある強度を有する励起光を生じ、レーザ結晶20に照射する。レーザ結晶20は、照射された励起光が所定以上の強度に到達すると、レーザ発振を生じ、レーザ光を出力する。
【0044】
レーザ光の出力が開始されると、レーザ光の出力測定が行われる(ステップ205)。レーザ結晶の出射側ミラーの近傍に配置されたビームスプリッタを介して、レーザ光の一部がパワーセンサ40のフォトダイオードへ誘導される。フォトダイオードがレーザ光を受光すると、その受光したレーザ光の強度にほぼ比例したレーザ光電流が生じ、その電流の測定値Ioが求められてプロセッサ50に送信される。
【0045】
プロセッサ50は、レーザ光の出力が安定したか否かを判定するために、上記レーザ光に対応した電流の測定値Ioを、メモリ60から取得した、レーザ光の定格出力に相当する電流値IFと比較する(ステップ207)。
【0046】
この判定は、所定時間、例えば1秒、10秒といった時間の間、パワーセンサ40から受信したレーザ光電流値Ioが、定格出力に相当する電流値IFと略等しいこと、即ちレーザ光電流値Ioが、定格出力に相当する電流値IFから一定の範囲(例えば、変動範囲が定格出力に相当する電流値IFの1%未満)内に収まり続けたか否かを調べることで行うことができる。レーザ光電流値Ioが、所定時間の間一定範囲内に収まっている場合、レーザ発振器は安定的に定格出力のレーザ光を発生させていると判断する。なお上記電流値IFは、レーザ発振器の初期設置手順において取得され、メモリ60に保存される(図示せず)。
【0047】
ステップ207での判定の結果、レーザ光出力が安定していないと判断された場合、励起光源への電力供給を調整する(ステップ208)。測定値Ioが定格出力に相当する電流値IFを下回る場合、電源30に対して、供給電流を増加させるよう指示を送る。逆に、定格出力に相当する電流値IFを上回る場合、電源30に対して、供給電流を減少させるよう指示を送る。なお、測定値が定格出力に相当する電流値IFと一致する場合、電源30に対して、供給電流の量をそのまま維持するよう指示を送る。また、上記定格出力は、本発明に係るレーザ発振器の最大出力近傍であることが好ましい。最大出力近傍では、励起光源10自体の出力もある程度大きくなっており、励起光源が劣化している場合とそうでない場合の供給電流の差も相対的に大きくなって正確に捕捉し易いためである。
レーザ発振器が安定的に定格出力のレーザ光を発生させていると判断した場合、プロセッサ50は、メモリ60から、前回からq回前までの各稼動時の稼動時間T1,T2,...,Tq、同様に前回からp回前までの定格出力発生時(すなわち、キャリブレーション時のみ定格出力発生させる場合は、p回前までの各キャリブレーション時であり、各稼動時毎に定格出力発生させる場合は、p回前までの各稼動時)の供給電流値I1,I2,...,Ip、及び最大定格電流値Imaxを呼び出す(ステップ209)。そして、各稼動時の稼働時間T1,T2,...,Tqを用いて、前回稼動時からm回前に寿命推定を行った時までの各稼動時間を足し合わせて稼動累計時間T(m)を算出する。ただし、m≦qである。
【0048】
なお、上記mは、予め設定された値でもよく、若しくは稼動累計時間T(m)が、一定の範囲となるように、可変の値としてもよい。上記mの値を予め設定する場合、稼動1回あたりの平均稼働時間及びキャリブレーション周期等を勘案して、稼動累計時間が500〜2000時間の範囲に収まるように設定することが好ましい。例えば、寿命の推定を、月1回実施するキャリブレーション時にのみ行う場合、レーザ発振器の1回あたりの平均稼動時間が10時間であり、月20日間稼動するという条件であれば、レーザ発振器の1月あたりの稼動累計時間は200時間であるため、mは3〜10程度といった値とすることが好ましい。mの値を上記の範囲を下回るように設定すると、基準となる時点から寿命推定時までの時間間隔が短過ぎるために、その間のレーザダイオードの劣化度合いが少なく、測定誤差の含まれる可能性が高くなり、寿命の推定精度が悪くなるためである。逆に上記の範囲を上回るように設定すると、相対的に長時間使用されたレーザダイオードの劣化の進捗を適切に捉えられないおそれがある。また、mを可変の値とする場合には、稼動累計時間T(m)が予め設定された閾値Tthd以上となるまで、mを1から順に増加させる。稼動累計時間の閾値Tthdは、寿命の推定精度が悪くなることを防止するため、上記と同様500時間〜2000時間程度に設定することが好ましい。
【0049】
次に、プロセッサ50は、上記稼動累計時間T(m)、m回前の電源電流値I-m、最大定格電流値Imax、及び現時点での励起光源10への供給電流値Iを用いて、寿命を推定する(ステップ211)。
【0050】
推定される寿命τは、以下の式で算出される。
【0051】
【数1】

【0052】
ここで最大定格電流値Imaxは、レーザダイオードの規格によって定められた最大定格電流値、若しくは出荷時におけるレーザダイオードの最大定格出力に相当する電流値とすることができる。式(1)を用いれば、複雑な計算を行わず、簡便に寿命を推定することができる。
【0053】
更に、レーザダイオードは最終的に加速して劣化する傾向を示す。その傾向を寿命の算出に反映させるために、ステップ211において(1)式の代わりに以下の式を用いて推定寿命τを算出しても良い。
【0054】
【数2】

【0055】
ここでkは、経験的に0.5以上1未満の値とすることが好ましい。
【0056】
更に、レーザダイオードは、通電時間が累積するにつれて、劣化度合いが加速する傾向を示す。その傾向を寿命の推定に反映させるため、レーザダイオードの使用開始時期からの全通電時間が増大するにつれて、上記kの値を、減少させることが好ましい。例えば、k = 1を初期値とし、上記全通電時間が1万時間経過する毎に、0.1ずつkの値を減少させてもよい。なお、上記全通電時間は、上記各稼動時間をレーザダイオードの使用開始当初からメモリ60に保存しておき、その各稼動時間を足し合わせて算出してもよいし、メモリ60に全通電時間を別途保存しておくようにしてもよい。
【0057】
また、レーザダイオードの寿命を推定するステップ211において、推定寿命を算出する別の式を以下に示す。
【0058】
レーザダイオードの使用開始当初において、本発明に係るレーザ発振器の定格出力達成時における上記レーザダイオードへの供給電流値の初期値をIopoとすると、同じ定格出力を達成するために必要な供給電流値が、Iopoの所定の倍率を乗じた分だけ必要となった場合をレーザダイオードの寿命と定義することが可能である。上記倍率は、固体レーザの励起光源に用いるような、ある程度出力が大きく、閾値電流が100mAを超えるようなレーザダイオードでは、経験的に1.2倍とすることができる(”半導体レーザと応用技術”、P.102、米津宏雄著、工学社、1986)。そこで、レーザダイオードの寿命推定時における、定格出力達成時のレーザダイオードへの供給電流値Iと、上記供給電流値の初期値Iopoとの比r(= I/Iopo)を計算する。そして、比rと上記倍率(1.2倍)及び、レーザダイオードの使用開始時からの全通電時間Tより、推定寿命τは以下の式(3)で求められる。
【0059】
【数3】

【0060】
上記の式(3)に基づいて寿命を推定する場合、メモリ60には、全通電時間T及び、レーザダイオードへの供給電流の初期値Iopoを保存しておく必要がある。なお、全通電時間Tは、レーザダイオードの使用開始時を0として、その後レーザ発振器の電源がONにする指令をプロセッサ50が受け取ってから、レーザ発振器の電源をOFFにする指令を受け取るまでの時間を、毎回足し合わせて算出し、レーザ発振器の電源がOFFになる前にメモリ60に保存されている値を更新する。また、レーザダイオードへの供給電流の初期値Iopoは、レーザダイオード使用開始時(即ち、交換直後)のキャリブレーション手順において、レーザ発振器が定格出力を達成した時のレーザダイオードへの供給電流値として測定され、メモリ60に保存される。
なお、励起光源10に使用されるレーザダイオードでは、励起光の出力強度が温度に依存して変化するものの、本発明に係るレーザ発振器では、チラー90を用いて励起光源10の温度は一定に保たれるため、寿命の推定において温度を考慮する必要はない。
【0061】
例として、励起光源10に最大定格電流1.5AのAlGaAsレーザダイオードを用いた場合について説明する。また、寿命推定を稼動累計時間が1000時間を超える毎に行うものとする。レーザダイオードの使用開始当初において、本発明に係るレーザ発振器のパルス方式定格出力達成時における上記レーザダイオードへの供給電流を1.0Aとする。レーザ発振器の使用開始後、レーザダイオードが劣化し始めると、レーザ発振器が定格出力のレーザ光を出力するために、即ちレーザダイオードから発せられる励起光が所定の強度となるために、レーザダイオードに供給される電流の量は増加することとなる。ある寿命推定時において、レーザダイオードへの供給電流Iが1.05Aであり、その寿命推定時より、稼動累計時間T(m)=1000に相当する、過去の時点での供給電流値が、I-m=1.0Aであった場合、(1)式より、推定寿命τは9000時間となる。また、さらに使用を続けた後の寿命推定時において、レーザダイオードへの供給電流Iが1.15Aであり、稼動累計時間T(m)=1000に相当する、過去の時点での供給電流値I-m=1.05Aであった場合、(1)式より、推定寿命τは3500時間となる。
【0062】
このように、供給電流値の増加量が大きくなるにつれて、推定寿命は短くなり、レーザダイオードの一般的な特性にマッチしていることがわかる。また、上記レーザダイオードの使用開始当初よりの全通電時間が相当経過しているような場合、例えば、使用開始からの全通電時間が50000時間を超えるような場合、(1)式よりも(2)式を用いた方が、寿命の推定精度を向上させることが可能である。上記の例において、k = 0.5として(2)式を用いると、I = 1.05A、I-m = 1.0Aのとき、推定寿命τは3000時間となり、I = 1.15A、I-m = 1.05Aのとき、約1870時間となる。
なお、励起光源に使用するレーザダイオードの種類や、寿命推定の間隔等については、上述したように別の条件を設定することも可能である。
【0063】
上記で推定された寿命τは、励起光源の劣化が微小な場合、供給電流値の測定誤差等により、負の値を示したり、非常に大きい値を示す場合がある。そこで、算出された推定寿命τと、予め設定した寿命の最大値τmax(本実施形態においては10万時間)を比較し(ステップ213)、その最大値τmax以上となる場合、若しくは算出された推定寿命τが負の値となる場合、算出された寿命に代えて、上記最大値τmaxを推定寿命とする(ステップ214)。
【0064】
プロセッサ50は、推定寿命τを算出すると、レーザダイオードの交換が必要か、若しくは交換時期が近いことを示す閾値τworn(例えば、2000時間)とその算出された推定寿命τを比較する(ステップ215)。推定寿命τが、閾値τworn以下である場合、プロセッサ50は、警告情報を設定する(ステップ216)。
【0065】
次に、推定寿命τは、表示部70において表示される(ステップ217)。また警告情報が設定された場合、表示部70では、推定寿命τとともに、励起光源10の残寿命が短いことを示す警告を表示する。この警告は、表示部70に表示される推定寿命τの数値を、通常と異なる色(例えば、通常時は緑、残寿命が少ない場合は赤)で表示するようにしてもよい。また、推定寿命τの表示を点滅させたり、音声による警告を発生させるようにしてもよい。
【0066】
最後に、操作部より、電源OFFの信号がプロセッサ50に送られると、プロセッサ50は、各回の稼動時間を更新する(ステップ219)。即ち、前回までの各稼動時間T1,T2,...,Tqをそれぞれ1つずつシフトしてT2,T3,...,Tq+1とし、今回の駆動において、プロセッサ50が電源ONの信号を受信してから、電源OFFの信号を受信するまでの時間をあらたにT1とする。同様に、各回の供給電流値についても、前回までの供給電流値I-1,I-2,...,I-qを1つずつシフトしてI-2,I-3,...,I-(q+1)とし、今回の駆動における電流値をあらたにI-1とする。更新する供給電流の測定値については、電源OFFの信号をプロセッサ50が受信した時点で保持している供給電流測定値を用いる。代わりとして、レーザ出力が安定した判断された時点の供給電流測定値をプロセッサ50内に設けられるキャッシュメモリに一時保存しておき、更新時に呼び出して用いることも可能である。更新された各稼動時間、供給電流値は、メモリ60へ送信され、メモリ60では、これらの値を保存する。
【0067】
以上述べてきたように、本発明によると、励起光源が生じた励起光を測定することなく、レーザ発振器自体が発生するレーザ光をパワーセンサで受光すること、及び電源が励起光源に供給する電流値をモニタすることにより、精度良く励起光源の寿命を測定することが可能である。
【0068】
図3に、本発明の別の実施態様に係るレーザ発振器200の構成図を示す。
【0069】
図1と同様な構成には、同じ番号を付している。図3に示す構成と図1に示す構成との差異は、図3に示す構成では、図1の構成に示したプロセッサ50が有する機能のうち、出力レーザ光を安定させるためのフィードバックループ機能部分だけを独立させたサブプロセッサ55を別途設けている点である。
【0070】
サブプロセッサ55は、レーザ本体に組み込まれた演算装置であってもよく、若しくはレーザ本体、及びプロセッサ51と通信可能に構成されたパーソナルコンピュータのような外部演算装置であってもよい。また、サブプロセッサ55は、パワーセンサ40のレーザ光電流測定回路と一体化した回路として構成してもよい。この構成では、サブプロセッサ55は、プロセッサ51から、電源ONの指令を受け取ると、電源30に対して電流供給を開始する指令を発生する。そして、パワーセンサ40から、レーザ光の出力に対応する上記レーザ光電流値Ioを受信し、定格出力に対応する電流値IFとの比較を行う。その結果、測定値Ioが定格出力に相当する電流値IFを下回る場合、サブプロセッサ55は、電源30に対して供給電流を増加させるよう指示を送る。逆に定格出力に対応する電流値IFを上回る場合、サブプロセッサ55は、電源30に対して供給電流を減少させるよう指示を送る。また、測定値が定格出力に相当する電流値IFと一致する場合、サブプロセッサ55は、電源30に対して供給電流の量をそのまま維持するよう指示を送信する。また、プロセッサ51から、電源OFFの指令を受け取ると、電源30に対して供給電流を停止させるよう指示を送信する。
【0071】
このような構成とすることにより、レーザ光の出力と励起光源に供給される電流に関するフィードバック周期が短くなり、図1に示す構成よりもレーザの出力安定性を向上させることが可能である。この構成においても、プロセッサ51が、電源30が励起光源10に供給する電流の測定値を監視することにより、図1に示す構成例と同様に、励起光源10の寿命を推定することができる。この場合、出力されるレーザ光の強度が安定したか否かの判断は、サブプロセッサ55が行い、出力が安定した場合、プロセッサ51へレーザ光の出力が安定したことを通知するように構成することができる。若しくは、プロセッサ51が、電源30が励起光源10へ供給する電流値Iを監視することで上記判断を行うことも可能である。この場合、電流値Iが、一定期間所定の範囲に収まっているか否かで判断することが可能である。
【0072】
また、寿命の推定手順は、図2に示すフローチャートと同様の手順によって実行することが可能である。ただし、ステップ208に示す励起光源への供給電流の調整を、専らサブプロセッサ55が担当する点において、図1に示す構成と差異がある。
【0073】
図4に、本発明のさらに別の実施態様に係るレーザ発振器300の構成図を示す。
【0074】
上記と同様に、図1又は図3に示す構成と同様な構成には、同じ番号を付している。図4に示す構成と図3に示す構成との差異は、図4に示す構成では、励起光源10に複数のサブ光源15を有すること、及び電源30に複数のサブ電源35を有する点である。
【0075】
この構成例では、励起光源10は、複数のレーザダイオード、若しくは複数のレーザダイオードアレイといった複数のサブ光源15で構成される。例えば、サブ光源15は、個々のレーザダイオードであり、これら複数のレーザダイオードは、例えば1列に並べられてレーザダイオードアレイを構成する。また励起光源10は、サブ光源15として、レーザダイオードアレイを複数備え、レーザ結晶20の周囲に配置し、複数の方向からレーザ結晶20を照射するように構成してもよい。この場合、電源30は、各サブ光源(レーザダイオード若しくはレーザダイオードアレイ)毎に電力を供給する複数のサブ電源35で構成される。各々のサブ電源35は、対応するサブ光源15に供給する電流値を計測可能なように電流計を備える。そして、各電流計で測定された供給電流の測定値は、プロセッサ50に伝送される。サブ電源35がN個存在する場合、プロセッサ50は、本発明に係るレーザ発振器のレーザ出力が定格出力に達成した時の各サブ電源35の供給電流測定値I1,I2,...,INを用いて、図1及び図3に示す構成例と同様に、励起光源10に用いられる各レーザダイオード若しくはレーザダイオードアレイの寿命を推定することが可能である。各サブ電源35(すなわち、各サブ電源35が電流を供給するサブ光源15)について、以下の式に基づいて寿命を推定する。
【0076】
【数4】

【0077】
ここでInは、定格出力達成時における、n番目のサブ電源が供給する電流の測定値であり、In-mは、n番目のサブ電源が、m回前の寿命推定時において対応するサブ光源15に供給した定格出力達成時の電流の測定値である。また、図1及び図3に示す構成例と同様、以下の式を用いて、各サブ光源15毎に寿命を推定することができる。
【0078】
【数5】

【0079】
ここで、kは、(2)式と同様、経験的に0.5以上1未満であることが好ましい。
【0080】
なお、(3)式と同様の式を用いて寿命を推定することも可能である。
【0081】
本構成例の場合、メモリ60では、各サブ電源35について、稼動時若しくはキャリブレーション時における定格出力達成時の供給電流値が保存され、プロセッサ51からの呼び出し、及びプロセッサ51からの更新指令に対しても、各稼動時毎の供給電流値が複数になる。それ以外のレーザ結晶20、パワーセンサ40等は、図1及び図3の構成例と同じである。
【0082】
また、図6に、本構成例における寿命の推定手順を表すフローチャートを示す。図2に示すフローチャートと同じ手順を実行するステップには、図2と同じ番号を付している。図6のフローチャートと、図2のフローチャートの差異は、図2では励起光源10一つに対して推定寿命の算出等を行っていたのに対し、図6では各サブ光源15についてそれぞれ推定寿命の算出等を実行する点にある。
【0083】
すなわち、各サブ光源について推定寿命を算出する(ステップ311)。そして算出された推定寿命について、予め設定した寿命の最大値τmax(本実施形態においては10万時間)を比較し(ステップ313)、その最大値τmax以上となる場合、若しくは算出された推定寿命τが負の値となる場合、算出された寿命に代えて、上記最大値τmaxを推定寿命とする(ステップ314)。さらに、推定寿命τと、レーザダイオードの交換が必要か、若しくは交換時期が近いことを示す閾値τworn(例えば、2000時間)とその算出された推定寿命τを比較する(ステップ315)。推定寿命τが、閾値τworn以下である場合、警告情報を設定する(ステップ316)。
【0084】
例として、励起光源10にAlGaAsレーザダイオードを500個並べたレーザダイオードアレイを3個用いた場合について説明する。レーザ発振器の電源が投入され(ステップ201)、サブ電源15より、励起光源10の各サブ光源15にパルス方式にて電流が供給される(ステップ203)。レーザ結晶より出射されたレーザ光の一部がパワーセンサに誘導されて、レーザ光の強度が測定される(ステップ205)。その後レーザ光の強度が安定したか否か判定され(ステップ207)、安定していないと判定された場合、供給電流の調整が行われる(ステップ208)。一方、レーザ光の強度が安定したと判定された場合、プロセッサ51は、メモリ60から、レーザ発振器の稼働時間、各サブ電源35への供給電流値等を取得する(ステップ209)。そして、各サブ光源15(ここに示す例では、レーザダイオードアレイ)について、それぞれの推定寿命τn(n = 1,2,3)が算出される(ステップ311)。
【0085】
ここで、各レーザダイオードアレイの最大定格電流を40.0Aとする。また、寿命推定を稼動累計時間が1000時間を超える毎に行う。各レーザダイオードアレイの使用開始当初において、本発明に係るレーザ発振器のパルス方式定格出力達成時における上記レーザダイオードアレイへの供給電流を30.0Aとする。本実施例では、上記パルス発振のパラメータとしてデューティ80%、周波数2Hzを用いたが、この組み合わせとしては無数に考えられる。レーザダイオードアレイのうちの一つについて、ある寿命推定時におけるレーザダイオードアレイへの供給電流Inが30.5Aであり、その寿命推定時より、稼動累計時間T(m)=1000に相当する、過去の時点での供給電流値が、In-m=30.0Aであった場合、(4)式より、推定寿命τnは19000時間となる。また、さらに使用を続けた後の寿命推定時において、レーザダイオードアレイへの供給電流Inが31.5Aであり、稼動累計時間T(m)=1000に相当する、過去の時点での供給電流値In-m=30.5Aであった場合、(4)式より、推定寿命τnは8500時間となる。この場合も、供給電流値の増加量が大きくなるにつれて、推定寿命は短くなり、レーザダイオードの一般的な特性にマッチした寿命推定となっている。また、上記レーザダイオードアレイの使用開始当初よりの全通電時間が相当経過しているような場合、例えば、使用開始からの全通電時間が50000時間を超えるような場合、(4)式よりも(5)式を用いた方が、寿命の推定精度を向上させることが可能である。上記の例において、k = 0.5として(5)式を用いると、In = 30.5A、In-m = 30.0Aのとき、推定寿命τnは約4360時間となり、In = 31.5A、In-m = 30.5Aのとき、約2920時間となる。
【0086】
推定寿命τnが算出されると、図2に示したフローチャートと同様に、寿命の最大値τmaxと比較され(ステップ313)、τmaxを超える場合はτmaxで置き換えられる(ステップ314)。また、各サブ光源15について交換時期が近いか否かの判定が行われ(ステップ315)、交換時期が近いと判定された場合、警告情報が設定される(ステップ316)。その後、推定寿命τn、警告情報が表示される(ステップ317)。最後に、レーザ発振器の稼動時間、各サブ電源35が供給していた電流値が更新される(ステップ219)。
【0087】
なお、上述した各実施態様において、プロセッサ50(若しくはプロセッサ51)は、電源30(サブ電源35を含む)より電流値を取得して励起光源10の寿命を推定しているが、電流値の代わりに、励起光源10に印加する電圧値を取得するように構成してもよい。電圧値を取得する場合も、結局励起光源自体の抵抗値を用いて電流値に換算すれば、上記(1)式〜(5)式を同様に用いることが可能であり、寿命の推定を行うことが可能である。同様に、パワーセンサ40から取得する電流値も、電圧値としてもよい。さらに、電源30(サブ電源35を含む)から励起光源10への供給電流値の代わりに、励起光源10に印加する電圧値をメモリ60に保存してもよい。
また、上記の寿命推定手順の説明では、レーザ発振器をパルス方式で発振させた場合について説明したが、レーザ発振器を連続方式で発振させた場合についても、同様に励起光源の寿命を推定することができる。
【0088】
以上説明してきたように、本発明によると、励起光源が生じた励起光を測定することなく、レーザ発振器自体が発生するレーザ光をパワーセンサで受光すること、及び電源が励起光源に供給する電流値をモニタすることにより、励起光源の寿命を測定することが可能であり、励起光源に複数のレーザダイオードを用いたとしても部品点数が増大することなく、簡便な構成で励起光源の寿命を推定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施態様に係る、レーザ発振器の概略構成図である。
【図2】本発明の実施態様に係る、レーザダイオードの寿命算出・表示のフローチャートを示す図である。
【図3】本発明の別の実施態様に係る、レーザ発振器の概略構成図である。
【図4】本発明の別の実施態様に係る、レーザ発振器の概略構成図である。
【図5】従来例に係る、レーザ発振器の概略構成図である。
【図6】図4に示す実施態様に係る、レーザダイオードの寿命算出・表示のフローチャートを示す図である。
【符号の説明】
【0090】
10 励起光源
15 サブ光源
20 レーザ結晶
30 電源
35 サブ電源
40、45 パワーセンサ
50、51 プロセッサ
55 サブプロセッサ
60 メモリ
70 表示手段
80 ビームシャッタ
90 チラー
100、200、300、400 レーザ発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ発振器であって、
励起光源と、
前記励起光源に電流を供給する電源と、
前記励起光源から照射された励起光によってレーザ光を出力するレーザ結晶と、
前記レーザ結晶により生じたレーザ光を受光し、当該レーザ光の強度に対応した信号を出力するパワーセンサと、
前記レーザ発振器の稼動時間を保存するメモリと、
前記パワーセンサが出力した信号が予め定められた条件を満たす場合に前記電源が励起光源に供給している電流値と、前記メモリに保存された前記稼動時間とを用いて、前記励起光源の寿命を推定するプロセッサと、
を有することを特徴とするレーザ発振器。
【請求項2】
レーザ発振器であって、
励起光源と、
前記励起光源に電流を供給する電源と、
前記励起光源から照射された励起光によってレーザ光を出力するレーザ結晶と、
前記レーザ結晶により生じたレーザ光を受光し、当該レーザ光の強度に対応した信号を出力するパワーセンサと、
前記レーザ発振器の稼動時間を保存するメモリと、
前記パワーセンサの出力した信号が、予め定められた条件を満たすか否かを判定するサブプロセッサと、
前記サブプロセッサから前記条件を満たす判定結果を通知された場合に、前記電源が励起光源に供給している電流値と、前記メモリに保存された前記稼動時間とを用いて、前記励起光源の寿命を推定するプロセッサと、
を有することを特徴とするレーザ発振器。
【請求項3】
前記の予め定められた条件は、前記レーザ光を出力する方式が連続発振、又は、パルス発振の何れかにおいて、前記パワーセンサの出力した信号が、前記レーザ光の出力が、レーザ発振器の最大出力近傍の定格出力に相当する信号と略等しいことである、
請求項1又は請求項2に記載のレーザ発振器。
【請求項4】
さらに、前記プロセッサによって推定された励起光源の推定寿命を表示する寿命表示手段を有する、
請求項1〜3の何れか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項5】
さらに、警告表示手段を有し、
かつ前記プロセッサは、推定された励起光源の推定寿命と、予め定められた交換警告基準とを比較して、前記推定寿命が前記交換警告基準以下となった場合、前記警告表示手段に警告を表示する、
請求項1〜4の何れか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項6】
前記メモリは、各寿命推定時に前記電源が前記励起光源に供給していた電流値を保存し、
前記プロセッサは、
前記パワーセンサの出力した信号が、前記の予め定められた条件を満たすと判定された場合に前記電源が励起光源に供給している電流値Iと、
前記メモリに保存された前記稼動時間から求めた所定の稼動累計時間T(m)と、
前記メモリから取得した、前記稼動累計時間T(m)に基づいて決定される、寿命推定時に励起光源に供給された電流値I-mと、
前記励起光源の最大定格電流値Imaxとを用いて、推定寿命τを
τ= ((Imax - I)/(I - I-m))k T(m) 、但しkは0.5以上1.0以下の実数
の関係により求める、請求項1〜5の何れか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項7】
前記励起光源は、複数のサブ光源を有し、
且つ前記電源は、前記複数のサブ光源毎に電流を供給する複数のサブ電源を有する、
請求項1〜5の何れか一項に記載のレーザ発振器。
【請求項8】
前記メモリは、各寿命推定時に前記サブ電源が前記サブ光源に供給していた電流値を保存し、
前記プロセッサは、
前記パワーセンサの出力した信号が、前記の予め定められた条件を満たすと判定された場合に、任意の前記サブ電源が前記サブ光源に供給している電流値Inと、
前記メモリに保存された前記稼動時間から求めた所定の稼動累計時間T(m)と、
前記メモリから取得した、前記稼動累計時間T(m)に基づいて決定される、寿命推定時に励起光源に供給された前記サブ光源に供給された電流値In-mと、
前記励起光源の最大定格電流値Imaxとを用いて、前記サブ光源の推定寿命τn
τn= ((Imax - In)/(I - In-m))k T(m) 、但しkは0.5以上1.0以下の実数
の関係により求める、請求項7に記載のレーザ発振器。
【請求項9】
励起光源と、前記励起光源に電流を供給する電源と、前記励起光源から照射された励起光によってレーザ光を出力するレーザ結晶と、前記レーザ結晶により生じたレーザ光を受光し、当該レーザ光の強度に対応した信号を出力するパワーセンサと、稼動時間を保存するメモリと、前記励起光源の寿命を推定するプロセッサとを有するレーザ発振器の励起光源の寿命を推定する方法であって、
前記レーザ発振器が生じたレーザ光を予め定められた強度に調整するステップと、
前記レーザ発振器が生じたレーザ光が予め定められた強度に調整された場合に、前記電源が前記励起光源に供給する電流値を測定するステップと、
前記電流値と、前記レーザ発振器の稼動時間とに基づいて、前記励起光源の寿命を推定するステップと、
を有することを特徴とする寿命推定方法。
【請求項10】
前記メモリは、前記の電流値を測定するステップで測定された電流値をさらに保存するように構成され、
前記の電流値を測定するステップは、レーザ発振器が生じたレーザ光が予め定められた強度に調整された場合に前記電源が前記励起光源に供給している電流値Iを測定し、
前記の寿命を推定するステップは、
前記メモリに保存された稼動時間から、レーザ発振器が稼動していた所定の期間を表す稼動累計時間T(m)を求め、
前記電流値Iと、
前記メモリに保存された、前記稼動累計時間T(m)に基づいて特定されるレーザ発振器稼動時において、前記レーザ発振器が生じたレーザ光が予め定められた強度に調整された場合に測定された、前記電源が前記励起光源に供給していた電流値I-mと、
前記励起光源の最大定格電流値Imaxとを用いて、推定寿命τを
τ= ((Imax - I)/(I - I-m))k T(m) 、但しkは0.5以上1.0以下の実数
の関係により求める、請求項9に記載の寿命推定方法。
【請求項11】
前記予め定められた強度に調整するステップでは、レーザの出力方式がパルス出力方式であり、
前記の電流値を測定するステップは、前記パワーセンサが出力する信号の変動が、所定期間中、予め定めた範囲内に含まれる場合に前記電流値を測定する、請求項9又は10に記載の寿命推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−222411(P2006−222411A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329976(P2005−329976)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】