説明

レーダシステム及びレーダカバーの傾き調節方法

【課題】、レーダ波の減衰を最小にするレーダカバーの傾き調節方法を有するレーダシステムを提供する。
【解決手段】 本発明は、車両に装着されたレーダシステムにおいて、レーダと、前記レーダの前面に装着されたレーダカバーと、前記レーダカバーに連結され、前記レーダカバーの傾きを調節するレーダカバーの傾き調節手段と、前記レーダカバーの傾き調節手段と連結された制御機とを含み、前記制御機は、気象情報測定装置または端末装置を介して受信した気象情報によって、前記レーダカバーによるレーダ波の反射が最小になる前記レーダカバーの傾きを決定し、前記傾き調節手段を用いて前記レーダカバーの傾きが前記傾きになるように調節することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダカバーに係り、特に最適なレーダカバーの厚さに相応するようにレーダカバーの傾きを調節することのできるレーダカバーの傾き調節方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、前方の車両を感知して、前方車両の速度に合わせて車両速度を制御するACCと、前方車両と自分の車両の衝突を予測すると、運転者に警報と共に自動ブレーキを動作させるCDMの開発が完了し、量産されている。このようなACCとCDMは、前方の車両を検知するためにレーダを用いているが、周囲の環境、および水分からレーダを保護するためにレーダの前面にレーダカバーを装着している。レーダの前面に装着しているレーダカバーは、カバー自体によるレーダ波の損失があり、特にレーダカバーの厚さによって発生するレーダ波の反射による損失が非常に大きいという問題がある。現在、装着されているレーダカバーは、カバーの前面の傾きとレーダ波の波長を計算して、レーダ波の反射が無くなるようにするための最適の厚さを算定している。
【0003】
上述したレーダカバーの最適の厚さとは、一般的な環境、すなわち雨が降らない大気の誘電率、およびレーダカバーの前面の傾きを基準にレーダ波の反射が起きない厚さを算定している。しかし、雪、霧、雨などによって大気の等価誘電率が変われば、レーダカバーへ入射するレーダ波の屈折率が変わるため、レーダ波無反射のための厚さが変わり、結局レーダ性能の低下を招く。しかし、一般的に非常に苛酷な天気環境以外では、ACCまたはCDMが動作しなければならないため、天気の変化によるレーダ波の反射を防止するためのレーダカバーについての措置が必要である。
【特許文献1】特開2004−301592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の問題に着眼してなされたものであり、さまざまな天気環境に対するレーダカバーの最適な傾きを計算し、その傾きを調節して、レーダ波の減衰を最小にするレーダカバーの傾き調節方法を有するレーダシステムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するために、本発明は、車両に装着されたレーダシステムにおいて、レーダと、前記レーダの前面に装着されたレーダカバーと、前記レーダカバーに連結され、前記レーダカバーの傾きを調節するレーダカバーの傾き調節手段と、前記レーダカバーの傾き調節手段と連結された制御機とを含み、前記制御機は、気象情報測定装置または端末装置を介して受信した気象情報によって、前記レーダカバーによるレーダ波の反射が最小になる前記レーダカバーの傾きを決定し、前記傾き調節手段を用いて前記レーダカバーの傾きが前記傾きになるように調節することを特徴とする。
【0006】
前記受信した気象情報は大気の誘電率であり、前記レーダカバーの傾きは、前記大気の誘電率によってインピーダンス整合をなす最適なレーダカバーの厚さに相応する傾きであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、気象状態によってレーダ波の反射を最小にするようレーダカバーの傾きを調節する方法であって、気象情報測定装置または端末装置から気象情報を受信するステップと、前記受信した気象情報に基づいて、レーダカバーの反射が最小になるレーダカバーの厚さを計算するステップと、前記レーダカバーの厚さに相応するレーダカバーの傾きを計算するステップと、レーダカバーを前記計算された傾きだけ傾けるステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のレーダカバーの傾き調節方法によれば、天気によって発生するレーダの性能低下に対して、天気を考慮したレーダカバーの最適な厚さを計算し、レーダカバーの傾きを変更することによって最適な検知性能を出すことが可能である。
また、車間距離制御システム(ACC、CDM)の制御を行うにあたって、先行車両を信頼性をもって検知することはシステムの安全性、商品性と直結する問題であるため、本発明のレーダカバーの傾き調節方法によって、システムの検査性能を向上させるとともにシステムの制御性能向上、および運転者の乗車感、安定性を向上させることができ、変化するさまざまな天気に関係なく、同一の性能を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0010】
一般にレーダ波の損失は、大気誘電率とカバーの材質、および厚さによって発生するため、同一材質である場合、損失が最低になるように大気誘電率によってカバーの厚さを変更しなければならない。物理的にカバーの厚さを変更することは容易ではないため、カバーの傾きを変更することによってレーダ波が通り過ぎて行く経路上の厚さを変更することができる。これによって、本実施形態では、損失が最低となるカバーの厚さを計算し、レーダ波の経路が該当する厚さになるように最適なカバーの傾き角度を計算して、レーダカバーの傾きを調節する。
【0011】
図1は、本実施形態において、天気情報に基づいてレーダカバーの傾きを調節するための計算過程のフローチャートである。
図1に示す通り、先ず、雪、雨、霧などの天気の環境を端末装置、またはその他センサから入力し(S10)、大気の等価誘電率を計算する(S20)。 次に、これによる最適なレーダカバー厚さを計算して(S30)、この最適なレーダカバー厚さを有することができるように、レーダカバーの傾きの最適角度を計算する(S40)。このように計算された最適角度によって、本実施形態によるレーダカバーの傾き調整装置を介して、レーダカバーの傾きを調節する(S50)。
【0012】
以下、最適なレーダカバーの厚さを計算する方法を具体的に説明する。
図2は、一般的なレーダ装置を示す図面である。レーダ装置は、レーダ110、レーダカバー120、調節用ボルト130、レーダブラケット140および固定ナット150等を含む。また、レーダカバー120および大気の電波インピーダンスを各々ηおよびηで示す。
【0013】
雪または雨が降らない場合、誘電率εは1であると仮定し、大気の電波インピーダンスはη=377[Ω]であると仮定する。この時、レーダ波が反射しないためには、レーダアンテナと外部空間とにインピーダンス整合が形成されなければならず、その条件は次の通りである。
ηin=η=377[Ω]
【0014】
レーダカバー120の厚さlを計算するために、ηinとηとを計算すると、次の(数1)のようになる。
【数1】

これを変形すると(数2)のようになる。
【数2】

ηとは関係なく、上式を常に満たすことができる条件は、

となる。
この時、レーダカバーの材質が誘電率2.25のポリエチレンで、レーダ波の周波数が77GHzであるとすれば、レーダカバーの厚さlは、次の(数3)のようになる。
【数3】

上の厚さの条件は、n=1である場合であるため、適当な厚さを有するためにn=3であるとすると厚さは3.9mmとなる。
【0015】
図3は、現在量産されているレーダカバーの傾き、および厚さによるレーダ波の減衰特性を示している。図3に示すように、レーダ波の減衰特性はレーダカバー厚さの影響を受けており、傾きの影響をもまた受けている。レーダカバーの傾きの影響を受けるのは、レーダカバーの傾きが変わればレーダ波がレーダカバー内を進行する進行経路が変わり、厚さが変わる効果をもたらすためである。
図4は、互いに異なる媒質の境界における電磁波の屈折率を示す図であり、図5は、屈折率の変化にともなうレーダカバーの最適な傾きを示す図である。
【0016】
電磁波が誘電率εである媒質から誘電率ε2である媒質へ、θ1の角度で入射する場合、電磁波はθ2の角度で屈折され、これは次の(数4)で示すことができる。
【数4】

雨、雪、霧などによって、天気が変われば、これによって大気の等価誘電率が変化し、媒質間の屈折率が変わる。そうすると、レーダ波がレーダカバーの媒質に入射する経路が変わり、レーダ波がレーダカバーの媒質内を進行する全長が変わって、レーダ波の減衰特性が変わる。このように、天気の変化によって大気の媒質間の屈折率が変化し、そのため反射を最小にするための最適なレーダカバーの厚さが変わる。
【0017】
したがって、図5に示すように、θを調節してlが最適な厚さになるようにすれば、レーダ波が反射しないレーダカバーの傾きを求めることができる。すなわち、レーダカバーの厚さl、および求める最適の厚さlがわかっているため、次の(数5)を用いてθを求めることができ、
【数5】

θが決定されれば、εおよびεがわかっているため、次の(数6)を用いてレーダカバーの角度であるθを求めることができる。
【0018】
【数6】

図6は、本実施形態によるレーダシステムを示す図である。レーダシステムは、レーダ210、レーダカバー220、ステッピングモータ230、固定ピン240および制御機(図示せず)を含む。図6の左側は本実施形態によるレーダシステムを側面から見た状態を示し、右側は正面から見た状態を示す。
【0019】
レーダカバー220の上部は、固定ピン240によって車両グリルに固定されて回転軸になり、レーダカバー220の下部はステッピングモータ230と連結して、ステッピングモータ230の作動によって距離Lが調節される。
ステッピングモータ230は、取付けられたスクリュ231を回転させ、その長さを調節することができ、スクリュ231の他の軸はレーダカバー220の下部に連結して、レーダカバーの角度を調節する。ここで、カバーの傾き調節装置の一例としてステッピングモータを記載したが、レーダカバーの角度を調節できる手段として他のアクチュエータを用いることも可能である。
【0020】
制御機は図示していないが、レーダ210、またはステッピングモータ230に搭載することもでき、別々に構成することもできる。制御機は気象情報感知センサ、またはその他の端末装置を介して気象情報を受信し、受信した気象情報から最適なレーダカバーの厚さを計算し、これを実現するためのレーダカバーの傾きを計算する。制御機は、計算された傾きだけレーダカバーを傾けるために、ステッピングモータの延長距離L2を計算しなければならず、これは(数7)によって計算される。
【0021】
【数7】

前記式によって計算されたLの値によって、ステッピングモータ230がスクリュ231を回転させて伸張させることによって、レーダカバー220の下部側を押し出し、これによってレーダカバー220を傾きθだけ傾けることができる。
前記のレーダカバーの傾き調節装置によって、天気が変わる場合にも最適なレーダカバーの厚さに相応するようにレーダカバーの傾きを調節でき、これによってレーダ波が反射しないレーダカバーを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】天気情報によってレーダカバーの傾きを調節するための計算過程のフローチャートである。
【図2】本発明に係るレーダカバーの傾き調節装置を示した平面図である。
【図3】レーダカバーの傾き、および厚さにともなうレーダ波の減衰を示す図表である。
【図4】媒質境界における電磁波の屈折を示す図面である。
【図5】レーダカバーの傾きにともなう最適な厚さを算定する計算式を示す図面である。
【図6】本発明に係るレーダシステムの側面図、および正面図を示す図面である。
【符号の説明】
【0023】
210 レーダ
220 レーダカバー
230 ステッピングモータ
231 スクリュ
240 固定ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に装着されたレーダシステムにおいて、
レーダと、
前記レーダの前面に装着されたレーダカバーと、
前記レーダカバーに連結され、前記レーダカバーの傾きを調節するレーダカバーの傾き調節手段と、
前記レーダカバーの傾き調節手段と連結された制御機とを含み、
前記制御機は、気象情報測定装置または端末装置を介して受信した気象情報によって、前記レーダカバーによるレーダ波の反射が最小になる前記レーダカバーの傾きを決定し、前記傾き調節手段を用いて前記レーダカバーの傾きが前記傾きになるように調節することを特徴とするレーダシステム。
【請求項2】
前記受信した気象情報は大気の誘電率であり、
前記レーダカバーの傾きは、前記大気の誘電率によってインピーダンス整合をなす最適なレーダカバーの厚さに相応する傾きであることを特徴とする請求項1に記載のレーダシステム。
【請求項3】
気象状態によってレーダ波の反射を最小にするようレーダカバーの傾きを調節する方法であって、
気象情報測定装置または端末装置から気象情報を受信するステップと、
前記受信した気象情報に基づいて、レーダカバーの反射が最小になるレーダカバーの厚さを計算するステップと、
前記レーダカバーの厚さに相応するレーダカバーの傾きを計算するステップと、
レーダカバーを前記計算された傾きだけ傾けるステップとを含むことを特徴とするレーダカバーの傾き調節方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−145412(P2008−145412A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127551(P2007−127551)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【Fターム(参考)】