レーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置
【課題】
パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対しても、効果的に積分利得を得られるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供する。
【解決手段】
パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動する目標であっても、1/2パルス幅単位内に留まっている時間内や、各ヒット間で移動するレンジビン数が一定である時間内はコヒーレント積分が可能である。想定した目標の速度に応じて、積分数算定器102により、パルス積分時間内で、コヒーレント積分可能なヒット数の組み合わせを算出し、各コヒーレント積分結果を一単位として、それらを振幅加算によるノンコヒーレント積分することにより、効果的に積分利得を得ることができる。
パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対しても、効果的に積分利得を得られるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供する。
【解決手段】
パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動する目標であっても、1/2パルス幅単位内に留まっている時間内や、各ヒット間で移動するレンジビン数が一定である時間内はコヒーレント積分が可能である。想定した目標の速度に応じて、積分数算定器102により、パルス積分時間内で、コヒーレント積分可能なヒット数の組み合わせを算出し、各コヒーレント積分結果を一単位として、それらを振幅加算によるノンコヒーレント積分することにより、効果的に積分利得を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ受信信号の処理に関し、特にパルス積分を行うレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、一般に空間に電波を発射して目標からの反射信号を受信することにより目標の存在を探知し、その位置、運動状況などを観測するものである。また、アンテナにより所定の形状のビームを形成して、そのビームの方位・仰角等を順次変えながら電波を発射する(スキャンと呼ぶ)ことで、目的とする空間の全範囲について反射信号を受信して観測を行うように構成される。
【0003】
通常、レーダ装置の遠方の目標からの反射信号はノイズに比べて微弱であるためそのままでは目標信号として検出できないことが多い。これを改善して探知能力を向上させるために、レーダ装置が空間をスキャンするとき各電波発射方向に複数のパルスを発射して、反射波のパルスのすべてを加える処理が行われる。この処理をパルス積分と呼び、積分パルス数が多いほど探知能力が高くなる。
【0004】
また、アンテナで受信される信号はアナログ信号であるが、パルス積分はA/D変換後のディジタル受信信号として行われ、このディジタル受信信号のサンプリング周期により、信号処理における距離方向の量子化単位(レンジビンと呼ぶ)が決定され、レンジビンごとにパルス積分の処理が行われる。
【0005】
レーダの最大探知距離はアンテナ利得や送信電力等、H/W規模に依存するほか、送信パルス幅や積分パルス数等に依存する。アンテナ利得や送信電力は、レーダ装置製造後に変更することはできないが、送信パルス幅や積分パルス数はある程度変更可能であり、レーダ装置では実際にあらかじめそれらの諸元の異なる複数の動作モードで動作するように設計される。
【0006】
ところで、パルス積分においては、1スキャンに要する時間が定められることにより、各電波発射方向にパルス送信する時間(ビーム走査時間と呼ぶ)が決定されるため、パルスを積分する回数(最大積分可能数と呼ぶ)の制約となり、これが積分パルス数の第1の制約となる。
【0007】
また、レーダ装置の積分可能なパルス数は、対象とする目標の速度や受信パルス幅によっても制限される。ここで受信パルス幅は、距離分解能を向上させるため受信パルスの幅を小さくするパルス圧縮が行われる場合にはパルス圧縮後のパルス幅である。積分時間内に目標が距離方向に移動して、目標が1パルス目に存在するレンジビンから受信パルス幅以上離れた他のレンジビンに移動した場合、受信パルス幅の1/2相当距離(以降1/2パルス幅単位と呼ぶ)内に留まっていた時間以降の積分パルスは利得がないばかりか、目標が存在しない信号を積分することで積分損失となる。このため一般には、受信パルス幅の1/2程度がレンジビンとなるように設計して、同一レンジビンのデータのみでパルス積分を行っている。従って、高速の目標であればあるほど、また受信パルス幅が小さいほど、積分可能なパルス数は少なくなる。これが積分パルス数の第2の制約となる。
【0008】
以上のように従来のレーダ装置では積分パルス数には制約があるものの、前記制約の範囲内でレーダの動作モード毎にあらかじめ決められている。
【0009】
また、従来のレーダ装置のなかには、積分パルス数の制約に対し、高速目標探知能力の向上や距離分解能の向上を図りつつ最大探知距離を延ばすため、その制約以上に積分を行う各種手法が提案されている(特許文献1、2参照)。
そのひとつとしてスキャン間積分の処理手法がある。前述のパルス積分ではレーダが目的とする空間範囲に対して一通りスキャンする動作を繰り返すとき、スキャンごとに同一スキャン内の受信信号を使って処理する。これに対してスキャン間積分では複数の異なるスキャンの受信信号を積分する技術である。たとえば特許文献1に示されている技術は、目標が等速直線運動であることを前提条件として、スキャン間で等速直線運動をしている信号を、線分抽出処理の一種であるハフ変換により抽出し、複数スキャンの振幅を加算することで、スキャン間の受信信号を積分するものである。このようにスキャン間積分は、位相情報を使わない振幅値だけの積分であり、ノンコヒーレント積分の一種であるとみなせる。
【0010】
また、同一スキャン内で積分パルス数を増大させる技術として、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分を組み合わせて距離移動補正を行う技術がある。たとえば、特許文献2に示された技術である。
図11は特許文献2に示された技術のブロック図である。移動目標対応コヒーレント積分手段201と、検波器202と、ドップラビン選択手段203と、移動目標対応ノンコヒーレント積分手段204とから構成される。移動目標対応コヒーレント積分手段201は、パルス圧縮手段201−1と、パルスドップラ処理手段201−2と、レファレンス信号発生手段201−3とから構成される。この技術の動作は以下のとおりである。
【0011】
レーダ受信信号はパルス圧縮手段201−1に入力され、レファレンス信号発生手段201−3から出力されるレファレンス信号と相関処理を行うことによりパルス圧縮される。ここで、レファレンス信号は送信パルス波形をもとに作られ、距離移動補正も含めて想定される目標速度に応じた種類だけ発生される。パルス圧縮はその種類の数だけ並行して実施され、パルス圧縮後信号として出力される。パルス圧縮後信号はパルスドップラ処理手段201−2でコヒーレント積分され、検波器202で検波されて振幅データとなる。振幅データはドップラフィルタ出力ごとに分けられてドップラビン選択手段203においてノンコヒーレント積分される。さらに移動目標対応ノンコヒーレント積分手段204においてスキャン積分が行われて積分処理後信号として出力される。
【0012】
【特許文献1】特開平8−271615号公報
【特許文献2】特開平8−179037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
パルス積分を行うレーダ信号処理装置においては、積分パルス数は、1スキャンに要する時間の制約と、目標速度と受信パルス幅の制約を受ける。
【0014】
これらの制約以上に積分パルス数を増大させるために、スキャン間積分を行うものもあるが、かかる従来のレーダ信号処理装置では積分利得が小さいという問題がある。その理由は、スキャン間積分は、目標の移動を考慮して異なるレンジビンの積分を行うものであってノンコヒーレント積分であり、同一積分パルス数のコヒーレント積分に比べて積分利得が小さいからである。
【0015】
また、同一スキャン内で積分パルス数を増大させる技術として、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分を組み合わせて距離移動補正を行うレーダ信号処理装置があるが、積分利得が十分増大できないという問題がある。その理由は、コヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数が固定されていて、最大積分可能数の範囲内でコヒーレント積分パルス数が最大となるように最適化しないからである。
【0016】
[発明の目的]
本発明の目的は、上述した問題点を解決するものであり、最大積分可能数の範囲内でコヒーレント積分パルス数が最大となるように最適化することで積分利得を十分増大できるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対しても、効果的に積分利得が得られるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、パルス積分時間内に注目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対して、最大積分可能数の範囲内で、コヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の配分を柔軟に変化させて最適化を行ない、効果的に積分利得が得られるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のレーダ信号処理方法は、レーダ諸元に基づき最大積分可能数Nmaxを算出するステップと、想定する目標の速度Vに応じて最大積分可能数Nmaxをコヒーレント積分が可能な単位に分割して、当該単位のパルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップと、Nc(k)パルス間における速度Vの目標の移動距離に応じた補正量を算出するステップと、Nc(k)パルスを一単位としてコヒーレント積分を行うステップと、Nc(k)パルスのコヒーレント積分の結果を前記補正量により順次距離補正して積分ヒット数Nncのノンコヒーレント積分を行うステップと、からなることを特徴とし、前記パルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップは、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位内で移動する目標に対しては、着目している地点から、1/2パルス幅単位以上移動するまでに、照射可能なパルス数を算定した結果を用いて最大積分可能数Nmaxを分割し、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような目標に対しては、連続するパルス間の移動量のレンジビン数が同じか否かを判定することにより最大積分可能数Nmaxを分割するステップを含むことを特徴とする。
【0020】
また、前記コヒーレント積分を行うステップとノンコヒーレント積分を行うステップは、最大目標速度Vmaxを基準として、1/2パルス幅単位から定めた速度刻み幅ΔVずつ小さくした各速度に対して並列に行うことを特徴とし、前記ノンコヒーレント積分の結果の出力のうちの最大値を選択するステップと、選択された最大値の出力を所定のスレッショルド値と比較して、該スレッショルド値を超えた出力を目標信号として出力するステップと、を含むことを特徴とする。
【0021】
また、前記コヒーレント積分は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分であり、前記ノンコヒーレント積分は、前記コヒーレント積分の結果として出力されるパルスドップラ処理における各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分であることを特徴とする。
【0022】
本発明のレーダ信号処理装置は、レーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに目標の距離移動に対応する距離移動補正量を算定する積分数算定器と、レーダ受信信号のコヒーレント積分、ノンコヒーレント積分及び距離移動補正を含む積分処理系統を構成する信号処理器と、積分数算定器で算定したコヒーレント積分パルス数、ノンコヒーレント積分パルス数及び距離移動補正量を用いて、前記信号処理器のコヒーレント積分と該コヒーレント積分結果のノンコヒーレント積分における積分数及び距離移動補正の制御を行う積分数制御器と、を有することを特徴とし、前記信号処理器は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、前記コヒーレント積分器におけるコヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、を有することを特徴とする。
【0023】
また、前記信号処理器は、最大目標速度を基準として1/2パルス幅単位等から定めた速度刻み幅ずつ小さくした各速度に対して、前記コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の処理を並列して行う複数の積分処理系統を有し、前記信号処理器は、前記ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、前記最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、を有することを特徴とする。
【0024】
また、前記複数の積分処理系統は、各コヒーレント積分結果のS/Nと該S/Nの平均値との差が所定閾値以上の場合に、当該コヒーレント積分結果を棄却する目標相関器を備えることを特徴とする。更に、目標速度として最も可能性が高い指定目標速度を設定し、その指定目標速度を基準として積分数を算定し、各速度ごとの処理負荷を算定し、指定目標速度を含んでかつ処理負荷が処理能力を上回らない速度範囲を計算し、当該範囲のみの積分処理を行うように構成したことを特徴とする。
【0025】
より具体的には、パルス繰り返し周期等のレーダ諸元より最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに距離移動補正量を算定する積分数算定器と、算定したコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数を用いてデータ分配器の受信信号の分配の制御と、信号処理器(1)、(2)の積分数の制御を行う積分数制御器と、アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器と、ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリと、積分数制御器の制御を受けて、バッファメモリ上のディジタル受信信号を信号処理器(1)、(2)の各積分処理系統に分配するデータ分配器と、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、コヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、を有することを特徴とする。
【0026】
(作用)
パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動する目標であっても、1/2パルス幅単位内に留まっている時間内や、各ヒット間で移動するレンジビン数が一定である時間内はコヒーレント積分が可能である。想定した目標の速度に応じて、パルス積分時間内で、コヒーレント積分可能なヒット数の組み合わせを算出し、各コヒーレント積分結果を1単位として、それらを振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うことにより積分利得を得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、目標からの反射信号に対する予め設定された最大積分可能数の範囲内でパルス積分の積分利得を十分に増大させることが可能である。また、パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対しても、積分利得を向上させることが可能である。その理由は距離移動補正を行いつつ、最大積分可能数の範囲で、コヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の配分を柔軟に変化させて最適化を行ない、コヒーレント積分パルス数が最大になるような制御により、積分利得を最大化するからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明のレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置の実施の形態の原理について図面を参照して詳細に説明する。
[基本原理]
本発明におけるレーダ装置の受信信号から効率良く積分利得を得るための最適化されたパルス積分について説明する。
目標が距離方向に等速直線運動している場合、コヒーレント積分においては、複数パルスの受信信号に対して、同一のレンジビンの積分でコヒーレント積分利得が得られるケース1と、異なるレンジビンの受信信号を距離補正して積分することによりコヒーレント積分利得が得られるケース2とがある。
【0029】
図1はケース1の同一レンジビンでコヒーレント積分可能な状況を示す図である。ケース1では、速度Vの目標に対するNパルス積分において、1パルス目の目標の真の位置に最も近いレンジビンに着目した時、Nパルス後に目標の真の位置がそのレンジビンからパルス幅の1/2以上移動しなければ、1パルス目のレンジビンにおいてNパルスのコヒーレント積分を行って積分利得を得ることができる。
【0030】
図2はケース2の異なるレンジビンでコヒーレント積分可能な状況を示す図である。ケース2では、1パルス目の目標の真の位置に最も近いレンジビンに着目した時、目標が高速で移動するために2パルス目に目標の真の位置がそのレンジビン点から1/2パルス幅単位以上移動する。図2のようにNパルス間において、各パルス間での目標の移動距離のレンジビン数を算出したとき、そのレンジビン数が一定であるパルス間においては、各レンジビン間で受信信号の位相の回転量が一定となり、距離補正を行うことによりコヒーレント積分を行って積分利得を得ることができる。
【0031】
図3は本発明のレーダ信号処理の基本原理を示す図である。本発明のレーダ信号処理の方式では、まずパルス繰返し周期等のレーダ諸元から最大積分可能数Nmaxを算出し、図3に示すように、想定する目標の速度Vに応じて、最大積分可能数Nmaxをコヒーレント積分が可能な単位に分割されるように、コヒーレント積分可能なパルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nnc(Nc(1)、Nc(2)、Nc(3)、・・・・、Nc(Nnc))を算出する。そしてNc(k)を一単位とし、Nc(k)パルスコヒーレント積分行い、Nc(k)パルス間での速度Vの目標の移動距離のレンジビン数を算出し、それを逐次距離補正してNncヒットノンコヒーレント積分する処理を行う。
【0032】
本発明のコヒーレント積分では、1/2パルス幅単位内のコヒーレント積分もしくは、距離移動を考慮したコヒーレント積分処理を行うので距離移動による積分損失がなく、積分パルス数Nc(k)のコヒーレント積分をNnc回行い、その結果を一単位として積分ヒット数Nncのノンコヒーレント積分を行うので、最大積分可能数を最大限に利用して効率良く積分利得が得られる。
【0033】
この方式では、速度Vの目標検出に最適化された処理となっているので、最大目標速度Vmaxを基準として1/2パルス幅単位等から定めた速度刻み幅ΔVずつ小さくした各速度に対して、上述したコヒーレント積分、ノンコヒーレント積分の複合処理を並列動作させることにより、最大目標速度以下の全ての目標について効率良く積分利得を得ることができる。
【0034】
[構成の説明]
図4は本発明の第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器104と、ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリ105と、一時的に記憶されたディジタル受信信号を積分処理系統に分配するデータ分配器106と、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の組合せのパルス積分等を行う積分処理系統を構成する2つの信号処理器(1)、(2)と、最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器101と、最大積分可能数のコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数への配分及び距離移動補正量を算定する積分数算定器102と、データ分配器106と信号処理器(1)、(2)を制御する積分数制御器103と、を備える。
【0035】
信号処理器(1)は、コヒーレント積分器107と、距離移動補正器108と、ノンコヒーレント積分器109と、最大値選択器110と、目標検出器111とからなり、低速目標に対する目標検出を行う複数の積分処理系統で構成される。
【0036】
信号処理器(2)は、距離移動補正器112と、コヒーレント積分器107と、距離移動補正器113と、ノンコヒーレント積分器109と、最大値選択器110と、目標検出器111とからなり、高速目標に対する目標検出を行う複数の積分処理系統で構成される。
【0037】
各部の機能は以下のとおりである。
最大積分可能数算定器101は、パルス繰り返し周期等のレーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する機能を有する。
【0038】
積分数算定器102は、受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて、最大積分可能数算定器101で算出した最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分(算定)するとともに距離移動補正量を算定する機能を有する。
【0039】
積分数制御器103は、算定したコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数を用いて、受信信号を分配するデータ分配器106の分配の制御と、信号処理器(1)、(2)の積分数の制御を行う機能を有する。
【0040】
データ分配器106は、A/D変換器104を介して一時的に記憶したバッファメモリ上のレーダ受信信号のディジタル受信信号を積分数制御器103の制御により信号処理器(1)、(2)の各積分処理系統に分配する機能を有する。
【0041】
信号処理器(1)は、コヒーレント積分器107でパルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行い、距離移動補正器108で対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する。ノンコヒーレント積分器109で、コヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行う。最大値選択器110でノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111で最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する。
【0042】
信号処理器(2)は、距離移動補正器112で各コヒーレント積分単位における目標速度による各パルス間の移動量を補正し、コヒーレント積分器107でパルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行い、距離移動補正器108で対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する。ノンコヒーレント積分器109はコヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行う。最大値選択器110はノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111で、最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する。
【0043】
[動作の説明]
本実施の形態の動作について図4を用いて説明する。
まず、最大積分可能数算定器101の動作を説明する。
最大積分可能数算定器101は、パルス繰り返し周期T等のレーダ諸元より最大積分可能数Nmaxを算出する。
回転駆動型のアンテナの場合は、方位ビーム幅θ、アンテナ回転速度ω、パルス繰り返し周期(PRI)TよりNmaxは式(1)により算出する。
Nmax=θ/ωT・・・式(1)
電子走査型のアンテナの場合は、1ビーム走査時間Tsとパルス繰り返し周期TよりNmaxは式(2)により算出する。
Nmax=Ts/T・・・式(2)
【0044】
次に、積分数算定器102の動作を説明する。
Nパルス間で速度Vの目標が移動する距離r(N)を式(3)により算出する。
r(N)=N×V×T・・・式(3)
受信パルス幅ΔRτにおいて、レンジビンと目標の真の位置の誤差がΔRτ/2以下であれば、そのレンジビンでコヒーレント積分を行うことができる。
Nパルス間の目標移動量が1/2パルス幅単位の何個分に相当するかを表すcτ(N)を、式(4)の結果を四捨五入して算出する。
cτ(N)=r(N)/(ΔRτ/2)・・・式(4)
また、1/2パルス幅単位がnτレンジビン相当であるとして、Nパルス間の目標移動量のレンジビン数を表すcrb(N)を式(5)の結果を四捨五入して算出する。
crb(N)=nτ×r(N)/(ΔRτ/2)・・・式(5)
積分数算定器102は、以上の式(3)〜(5)と所定の積分数算定アルゴリズムにより、速度Vの目標に対するコヒーレント積分数とノンコヒーレント積分数の算定を行う。
【0045】
図5はこの積分数算定アルゴリズムを示すフローチャートである。積分数算定器102における動作を図5に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0046】
ST1において、積分パルス数に相当するインクリメント変数iとcτ(i)、crb(i)の初期設定を行う。ST2において、インクリメント変数iを1増やす。ST3において、式(3)にしたがってr(i)を算出する。ST4において、式(4)、(5)にしたがってcτ(i)、crb(i)を算出する。ST5においてi<Nmaxであれば、ST2に戻り、ST2からST4までの処理を繰り返し、そうでなければ、ST6に進む。この時点でcτ(i)を参照すれば、速度Vの目標がiパルス目に1/2パルス幅単位何個分移動したかを知ることができる。
【0047】
次に、ST6において、積分パルス数に相当するインクリメント変数i、コヒーレント積分パルス数に相当するインクリメント変数j、ノンコヒーレント積分パルス数に相当するインクリメント変数kの初期設定を行う。ST7において、V<(ΔRτ/2)/Tであれば、ST8へ進み、そうでなければ、ST13へ進む。
ST7では、速度Vの目標が連続した2パルス間で、1/2パルス幅単位1個分以上移動するか否かを判定し、移動しない場合はST8へ進み、移動する場合はST13へ進むことに対応する。ST8からST12までの処理は、図4における信号処理器(1)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズムであり、ST13からST17までの処理は、信号処理器(2)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズムである。
【0048】
信号処理器(1)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズム(ST8〜ST12)を説明する。
ST8において、インクリメント変数i,jを1増やす。ST9においてcτ(i)とcτ(i−1)を比較し、同じであればST8に戻り、同じでなければST10へ進む。
ST9では、iパルスとi−1パルス間で、速度Vの目標が着目している1/2パルス幅単位から隣の1/2パルス幅単位に移動するか否かを判定している。
【0049】
ST10において、Nc(k)=j−1とする。
これは、j−1パルス相当時間で、速度Vの目標が注目している1/2パルス幅単位から隣の1/2パルス幅単位へ移動することに対応し、同一レンジビンでコヒーレント積分を行うk番目の単位におけるコヒーレント積分可能数がj−1パルスであることになる。
【0050】
図6はこのアルゴリズムの動作例を示す図である。速度Vの目標が連続した2パルス間で、1/2パルス幅単位1個分以上移動しないので、目標の真の位置に最も近いレンジビンと目標検出点を関連付けると、同じレンジビン上に複数の目標検出点が関連付けられる。この目標検出点に対応するそれぞれコヒーレント積分可能なパルス数(Nc(k))と、それらの間のノンコヒーレント積分可能なパルス数(Nnc(V))との関係が示されている。
【0051】
ST11において、Nc(1)+Nc(2)+・・・Nc(k)≧Nmaxであれば処理を終了し、そうでなければST12へ進み、ST12において、インクリメント変数kを1増やし、jを初期化しST8へ戻り、ST8からST11を繰り返す。処理終了時のkが速度Vの目標に対するノンコヒーレント積分パルス数Nncに対応する。
【0052】
信号処理器(2)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズム(ST13〜ST17)を説明する。
ST13において、インクリメント変数i,jを1増やす。ST14において、crb(i)−crb(i−1)≠crb(i−1)−crb(i−2)であれば、ST15へ進み、そうでなければST13へ戻る。
ここでは、速度Vの目標の、iパルスとi−1パルス間の移動量のレンジビン数とi−1パルスとi−2パルス間の移動量のレンジビン数を比較し、同じでなければST15へ進み、同じであればST13へ戻ることに対応する。
【0053】
ST15において、Nc(k)=j−1、dc(k)=crb(i−1)−crb(i−2)、dnc(k)=dc(k)×(Nc(k)−1)+crb(i)−crb(i−1)とする。
これは、連続した2パルス間で、速度Vの目標の距離移動量が1/2パルス幅単位1個分以上の時、j−1パルス間では、速度Vの目標が、各パルス間で、同じレンジビン数ずつ移動するため、j−1パルスのコヒーレント積分を行うことができ、k番目のコヒーレント積分単位におけるコヒーレント積分可能数がj−1パルスであることを示す。また、k番目のコヒーレント積分単位における速度Vの目標の各パルス間の距離移動量のレンジビン数を表したdc(V,k)がcrb(i−1)−crb(i−2)であり、k番目のコヒーレント積分単位の最初のパルス送信からk+1番目のコヒーレント積分単位の最初のパルス送信の間に速度Vの目標が移動する距離のレンジビン数を表したdnc(V,k)がdc(k)×(Nc(k)−1)+crb(i)−crb(i−1)であることに対応する。
【0054】
図7はこのアルゴリズムの動作例を示す図である。速度Vの目標が連続した2パルス間で、1/2パルス幅単位1個分以上移動するので、目標の真の位置に最も近いレンジビンと目標検出点を関連付けると、異なる1/2パルス幅単位1個分(同図では2レンジビン(2rb))以上離れたレンジビンに目標検出点が関連付けられる。この目標検出点に対応する等しいレンジビン間隔のそれぞれコヒーレント積分可能なパルス数(Nc(k))と、それらの間のノンコヒーレント積分可能なパルス数(Nnc(V))との関係が示されている。
【0055】
ST16において、Nc(1)+Nc(2)+・・・Nc(k)≧Nmaxであれば処理を終了し、そうでなければST17へ進み、ST17において、インクリメント変数kを1増やし、jを初期化してST13へ戻り、ST13からST16を繰り返す。処理終了時のkが速度Vの目標に対するノンコヒーレント積分パルス数Nncに対応する。
【0056】
以上のアルゴリズムにしたがって、速度Vの目標に対するコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の組み合わせを算出する。
【0057】
さらに積分数算定器102は、あらかじめ定めた最大速度Vmaxと速度刻み幅ΔV=(ΔRτ/2)/(Nmax×T)により、速度V=Vmax,Vmax−ΔV,Vmax−2ΔV,・・・,Vmax−NvΔV(最小速度)について図5のアルゴリズムを繰り返し、それぞれの速度についてのコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の組み合わせを算出する。
【0058】
よって、積分数算定器102の出力は、速度Vをパラメータとして、以下のようにNncは1次元データ、Nc、dc、dncは2次元データとなり、
Nnc(V):V=Vmax,Vmax−ΔV,Vmax−2ΔV,・・・,Vmax−NvΔV
Nc(V,k),dc(V,k),dnc(V,k):k=1,2,3,・・・,Nnc(V)
の形で表される。
【0059】
積分数制御器103は積分数算定器102の出力を受けて、次の制御を行う。
(1)対象とする目標速度Vが、V<(ΔRτ/2)/Tであれば信号処理器(1)に、そうでなければ信号処理器(2)にディジタル受信信号を分配するように、データ分配器106の制御を行う。
(2)Nmaxパルス分のデータを、対象とする速度Vに応じてNc(V,k)パルス分のデータ毎に分割して信号処理器(1)、(2)に分配するように、データ分配器106の制御を行う。
(3)k番目のコヒーレント積分(Nc(V,k)パルスコヒーレント積分)の結果の距離移動補正量が(k−1)×1/2パルス幅単位となるよう、信号処理器(1)の距離移動補正器111の補正量を制御する。
(4)dc(V,k)によって信号処理器(2)の距離移動補正器112の補正量を制御する。
(5)dnc(V,k)によって信号処理器(2)の距離移動補正器113の補正量を制御する。
【0060】
レーダ受信信号はA/D変換器104によりディジタル受信信号に変換されて、バッファメモリ105に蓄えられており、データ分配器106は、積分数制御器103の制御に応じて、バッファメモリ105から信号処理器(1)、(2)にディジタル受信信号のデータを分配して出力する。
【0061】
信号処理器(1)の動作についてより詳細に説明する。信号処理器(1)は、コヒーレント積分器107、距離移動補正器108、ノンコヒーレント積分器109、最大値選択器110、目標検出器111から成る複数の積分系統から構成されており、各積分系統は対象とする目標の速度Vに対応して動作する。
【0062】
コヒーレント積分器107において、Nmaxパルス分のディジタル受信信号をNc(V,1)、Nc(V,2)、・・・・、Nc(V,Nnc(V))パルス分のデータ毎に、パルスドップラ処理を用いてNc(V,k)パルスコヒーレント積分を行う。距離移動補正器108は、k番目のコヒーレント積分の結果について、各ドップラフィルタ出力ごとに(k−1)×1/2パルス幅単位分のレンジビン補正を行う。ノンコヒーレント積分器109は、補正後データを各ドップラフィルタ出力ごとにNnc(V)パルスノンコヒーレント積分する。最大値選択器110は、各ドップラフィルタ出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111は、最大値選択器110の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超える信号を目標信号として出力する。
【0063】
次に信号処理器(2)の動作についてより詳細に説明する。信号処理器(2)は、距離移動補正器112、コヒーレント積分器107、距離移動補正器113、ノンコヒーレント積分器109、最大値選択器110、目標検出器111から成る複数の積分系統から構成されており、各積分系統は対象とする目標の速度Vに対応して動作する。
【0064】
距離移動補正器112は、速度Vの目標に対するk番目のコヒーレント積分単位(Nc(V,k)パルスコヒーレント積分)において、各パルスごとにdc(V,k)のレンジビン数の距離移動補正を行う。コヒーレント積分器107は補正後のデータをNc(V,k)ヒットコヒーレント積分し、これをk=1,2,・・・,Nnc(V)についてNnc(V)回繰り返し、Nnc(V)個のコヒーレント積分結果を得る。続いて距離移動補正器113は、各コヒーレント積分の結果について、各ドップラフィルタ出力ごとにk番目のコヒーレント積分の結果に対して(k−1)×dnc(V,k)のレンジビン数の距離移動補正を行う。ノンコヒーレント積分器109は、補正後データを各ドップラフィルタ出力ごとにNnc(V)パルスノンコヒーレント積分する。最大値選択器110は、各ドップラフィルタ出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111は、最大値選択器110の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超える信号を目標信号として出力する。
【0065】
以上のような動作により低速目標について従来の方法と同様な検出確率を維持しつつ、高速で等速直線運動をする目標についても効果的に積分利得を得ることができる。
【0066】
[発明の他の実施の形態]
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。図4に示す実施の形態においては、コヒーレント積分時間中の移動距離が1/2パルス幅単位以下の低速目標であっても、反射信号が大きい場合には、速度の異なる複数の目標として誤検出される可能性がある。本実施の形態は、このような目標の誤検出を回避できるようにしたものである。
【0067】
図8は本発明の第2の実施の形態を示すブロック図である。本実施の形態では信号処理器(1)、(2)の各積分処理系統に目標相関器114を備える。目標相関器114以外の各構成及び動作は本発明の第1の実施の形態として述べた図4に示す構成及び動作と同じである。
【0068】
図9は誤検出動作と第2の実施の形態の動作の説明図である。最初に目的の誤検出を起こす現象について図9を用いて説明する。
図4に示す実施の形態においては、反射信号が大きい目標の場合に、本来、同一レンジビンのコヒーレント積分を1回のみ行う積分処理(図9の処理1)で検出されるはずであるが、目標が極めて大きい場合、1/2パルス幅単位移動して複数回コヒーレント積分を行い、各コヒーレント積分結果をノンコヒーレント積分する処理(図9の処理2)でも検出される。これは、複数のコヒーレント積分単位のうちの1個だけで処理後の振幅値がスレッショルドを超えるケースである。
【0069】
第2の実施の形態においては、この現象を回避するために目標相関器114を設けており、目標相関器114では、図9に示す処理2の各1/2パルス幅単位のコヒーレント積分結果のS/Nと各1/2パルス幅単位のコヒーレント積分結果のS/Nの平均値を比較し、所定のスレッショルド値より大きい場合(すなわち、ある1/2パルス幅単位のS/Nのみ極めて大きい場合)は、図9の処理2の積分結果を棄却し、図9の処理1の積分結果を採用する処理を行う。これにより、特定の1/2パルス幅単位にのみ目標が存在する状況に対して誤検出することを回避できる。
【0070】
次に本発明の第3の実施の形態について図面を参照して説明する。図4および図8に示した実施の形態では、対象とする目標の最大速度(最大目標速度)が大きいとき、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の組み合わせ数が膨大となり、信号処理負荷が大きくなるという問題がある。この場合、信号処理負荷が信号処理装置の処理能力を上回ると、その信号処理装置は正常な動作が行われなくなる可能性がある。第3の実施の形態では信号処理能力の範囲内で積分利得が得られるようにしたものである。
【0071】
図10は本発明の第3の実施の形態を示すブロック図である。第3の実施の形態では、図4の構成に処理負荷算定器115と速度範囲算定器116を付加したものである。本実施の形態では、最大積分可能数算定器101において最大目標速度を設定する代わりに、最も可能性が高い指定目標速度を設定し、積分数算定器102ではその指定目標速度を基準として前述の積分数を算定し、処理負荷算定器115において各速度ごとの処理負荷を算定し、速度範囲算定器116において指定目標速度を含んでかつ処理負荷が処理能力を上回らない速度範囲を計算して、積分数制御器103においてその速度範囲のみ積分処理を行うように制御するように構成している。これにより、処理能力の範囲内で有効に積分利得を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】同一レンジビンでコヒーレント積分可能な状況の説明図である。
【図2】異なるレンジビンでコヒーレント積分可能な状況の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態における積分の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図5】積分数算定アルゴリズムのフローチャートである。
【図6】信号処理器(1)の積分数の組み合わせを決定する積分数算定アルゴリズムの説明図である。
【図7】信号処理器(2)の積分数の組み合わせを決定する積分数算定アルゴリズムの説明図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態の説明図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図11】従来技術の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0073】
101 最大積分可能数算定器
102 積分数算定器
103 積分数制御器
104 A/D変換器
105 バッファメモリ
106 データ分配器
107 コヒーレント積分器
108 距離移動補正器
109 ノンコヒーレント積分器
110 最大値選択器
111 目標検出器
112 距離移動補正器
113 距離移動補正器
114 目標相関器
115 処理負荷算定器
116 速度範囲算定器
201 移動目標対応コヒーレント積分手段
201−1 パルス圧縮手段
201−2 パルスドップラ処理手段
201−3 レファレンス信号発生手段
202 検波器
203 ドップラビン選択手段
204 移動目標対応ノンコヒーレント積分手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ受信信号の処理に関し、特にパルス積分を行うレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、一般に空間に電波を発射して目標からの反射信号を受信することにより目標の存在を探知し、その位置、運動状況などを観測するものである。また、アンテナにより所定の形状のビームを形成して、そのビームの方位・仰角等を順次変えながら電波を発射する(スキャンと呼ぶ)ことで、目的とする空間の全範囲について反射信号を受信して観測を行うように構成される。
【0003】
通常、レーダ装置の遠方の目標からの反射信号はノイズに比べて微弱であるためそのままでは目標信号として検出できないことが多い。これを改善して探知能力を向上させるために、レーダ装置が空間をスキャンするとき各電波発射方向に複数のパルスを発射して、反射波のパルスのすべてを加える処理が行われる。この処理をパルス積分と呼び、積分パルス数が多いほど探知能力が高くなる。
【0004】
また、アンテナで受信される信号はアナログ信号であるが、パルス積分はA/D変換後のディジタル受信信号として行われ、このディジタル受信信号のサンプリング周期により、信号処理における距離方向の量子化単位(レンジビンと呼ぶ)が決定され、レンジビンごとにパルス積分の処理が行われる。
【0005】
レーダの最大探知距離はアンテナ利得や送信電力等、H/W規模に依存するほか、送信パルス幅や積分パルス数等に依存する。アンテナ利得や送信電力は、レーダ装置製造後に変更することはできないが、送信パルス幅や積分パルス数はある程度変更可能であり、レーダ装置では実際にあらかじめそれらの諸元の異なる複数の動作モードで動作するように設計される。
【0006】
ところで、パルス積分においては、1スキャンに要する時間が定められることにより、各電波発射方向にパルス送信する時間(ビーム走査時間と呼ぶ)が決定されるため、パルスを積分する回数(最大積分可能数と呼ぶ)の制約となり、これが積分パルス数の第1の制約となる。
【0007】
また、レーダ装置の積分可能なパルス数は、対象とする目標の速度や受信パルス幅によっても制限される。ここで受信パルス幅は、距離分解能を向上させるため受信パルスの幅を小さくするパルス圧縮が行われる場合にはパルス圧縮後のパルス幅である。積分時間内に目標が距離方向に移動して、目標が1パルス目に存在するレンジビンから受信パルス幅以上離れた他のレンジビンに移動した場合、受信パルス幅の1/2相当距離(以降1/2パルス幅単位と呼ぶ)内に留まっていた時間以降の積分パルスは利得がないばかりか、目標が存在しない信号を積分することで積分損失となる。このため一般には、受信パルス幅の1/2程度がレンジビンとなるように設計して、同一レンジビンのデータのみでパルス積分を行っている。従って、高速の目標であればあるほど、また受信パルス幅が小さいほど、積分可能なパルス数は少なくなる。これが積分パルス数の第2の制約となる。
【0008】
以上のように従来のレーダ装置では積分パルス数には制約があるものの、前記制約の範囲内でレーダの動作モード毎にあらかじめ決められている。
【0009】
また、従来のレーダ装置のなかには、積分パルス数の制約に対し、高速目標探知能力の向上や距離分解能の向上を図りつつ最大探知距離を延ばすため、その制約以上に積分を行う各種手法が提案されている(特許文献1、2参照)。
そのひとつとしてスキャン間積分の処理手法がある。前述のパルス積分ではレーダが目的とする空間範囲に対して一通りスキャンする動作を繰り返すとき、スキャンごとに同一スキャン内の受信信号を使って処理する。これに対してスキャン間積分では複数の異なるスキャンの受信信号を積分する技術である。たとえば特許文献1に示されている技術は、目標が等速直線運動であることを前提条件として、スキャン間で等速直線運動をしている信号を、線分抽出処理の一種であるハフ変換により抽出し、複数スキャンの振幅を加算することで、スキャン間の受信信号を積分するものである。このようにスキャン間積分は、位相情報を使わない振幅値だけの積分であり、ノンコヒーレント積分の一種であるとみなせる。
【0010】
また、同一スキャン内で積分パルス数を増大させる技術として、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分を組み合わせて距離移動補正を行う技術がある。たとえば、特許文献2に示された技術である。
図11は特許文献2に示された技術のブロック図である。移動目標対応コヒーレント積分手段201と、検波器202と、ドップラビン選択手段203と、移動目標対応ノンコヒーレント積分手段204とから構成される。移動目標対応コヒーレント積分手段201は、パルス圧縮手段201−1と、パルスドップラ処理手段201−2と、レファレンス信号発生手段201−3とから構成される。この技術の動作は以下のとおりである。
【0011】
レーダ受信信号はパルス圧縮手段201−1に入力され、レファレンス信号発生手段201−3から出力されるレファレンス信号と相関処理を行うことによりパルス圧縮される。ここで、レファレンス信号は送信パルス波形をもとに作られ、距離移動補正も含めて想定される目標速度に応じた種類だけ発生される。パルス圧縮はその種類の数だけ並行して実施され、パルス圧縮後信号として出力される。パルス圧縮後信号はパルスドップラ処理手段201−2でコヒーレント積分され、検波器202で検波されて振幅データとなる。振幅データはドップラフィルタ出力ごとに分けられてドップラビン選択手段203においてノンコヒーレント積分される。さらに移動目標対応ノンコヒーレント積分手段204においてスキャン積分が行われて積分処理後信号として出力される。
【0012】
【特許文献1】特開平8−271615号公報
【特許文献2】特開平8−179037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
パルス積分を行うレーダ信号処理装置においては、積分パルス数は、1スキャンに要する時間の制約と、目標速度と受信パルス幅の制約を受ける。
【0014】
これらの制約以上に積分パルス数を増大させるために、スキャン間積分を行うものもあるが、かかる従来のレーダ信号処理装置では積分利得が小さいという問題がある。その理由は、スキャン間積分は、目標の移動を考慮して異なるレンジビンの積分を行うものであってノンコヒーレント積分であり、同一積分パルス数のコヒーレント積分に比べて積分利得が小さいからである。
【0015】
また、同一スキャン内で積分パルス数を増大させる技術として、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分を組み合わせて距離移動補正を行うレーダ信号処理装置があるが、積分利得が十分増大できないという問題がある。その理由は、コヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数が固定されていて、最大積分可能数の範囲内でコヒーレント積分パルス数が最大となるように最適化しないからである。
【0016】
[発明の目的]
本発明の目的は、上述した問題点を解決するものであり、最大積分可能数の範囲内でコヒーレント積分パルス数が最大となるように最適化することで積分利得を十分増大できるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は、パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対しても、効果的に積分利得が得られるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、パルス積分時間内に注目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対して、最大積分可能数の範囲内で、コヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の配分を柔軟に変化させて最適化を行ない、効果的に積分利得が得られるレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明のレーダ信号処理方法は、レーダ諸元に基づき最大積分可能数Nmaxを算出するステップと、想定する目標の速度Vに応じて最大積分可能数Nmaxをコヒーレント積分が可能な単位に分割して、当該単位のパルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップと、Nc(k)パルス間における速度Vの目標の移動距離に応じた補正量を算出するステップと、Nc(k)パルスを一単位としてコヒーレント積分を行うステップと、Nc(k)パルスのコヒーレント積分の結果を前記補正量により順次距離補正して積分ヒット数Nncのノンコヒーレント積分を行うステップと、からなることを特徴とし、前記パルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップは、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位内で移動する目標に対しては、着目している地点から、1/2パルス幅単位以上移動するまでに、照射可能なパルス数を算定した結果を用いて最大積分可能数Nmaxを分割し、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような目標に対しては、連続するパルス間の移動量のレンジビン数が同じか否かを判定することにより最大積分可能数Nmaxを分割するステップを含むことを特徴とする。
【0020】
また、前記コヒーレント積分を行うステップとノンコヒーレント積分を行うステップは、最大目標速度Vmaxを基準として、1/2パルス幅単位から定めた速度刻み幅ΔVずつ小さくした各速度に対して並列に行うことを特徴とし、前記ノンコヒーレント積分の結果の出力のうちの最大値を選択するステップと、選択された最大値の出力を所定のスレッショルド値と比較して、該スレッショルド値を超えた出力を目標信号として出力するステップと、を含むことを特徴とする。
【0021】
また、前記コヒーレント積分は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分であり、前記ノンコヒーレント積分は、前記コヒーレント積分の結果として出力されるパルスドップラ処理における各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分であることを特徴とする。
【0022】
本発明のレーダ信号処理装置は、レーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに目標の距離移動に対応する距離移動補正量を算定する積分数算定器と、レーダ受信信号のコヒーレント積分、ノンコヒーレント積分及び距離移動補正を含む積分処理系統を構成する信号処理器と、積分数算定器で算定したコヒーレント積分パルス数、ノンコヒーレント積分パルス数及び距離移動補正量を用いて、前記信号処理器のコヒーレント積分と該コヒーレント積分結果のノンコヒーレント積分における積分数及び距離移動補正の制御を行う積分数制御器と、を有することを特徴とし、前記信号処理器は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、前記コヒーレント積分器におけるコヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、を有することを特徴とする。
【0023】
また、前記信号処理器は、最大目標速度を基準として1/2パルス幅単位等から定めた速度刻み幅ずつ小さくした各速度に対して、前記コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の処理を並列して行う複数の積分処理系統を有し、前記信号処理器は、前記ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、前記最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、を有することを特徴とする。
【0024】
また、前記複数の積分処理系統は、各コヒーレント積分結果のS/Nと該S/Nの平均値との差が所定閾値以上の場合に、当該コヒーレント積分結果を棄却する目標相関器を備えることを特徴とする。更に、目標速度として最も可能性が高い指定目標速度を設定し、その指定目標速度を基準として積分数を算定し、各速度ごとの処理負荷を算定し、指定目標速度を含んでかつ処理負荷が処理能力を上回らない速度範囲を計算し、当該範囲のみの積分処理を行うように構成したことを特徴とする。
【0025】
より具体的には、パルス繰り返し周期等のレーダ諸元より最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに距離移動補正量を算定する積分数算定器と、算定したコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数を用いてデータ分配器の受信信号の分配の制御と、信号処理器(1)、(2)の積分数の制御を行う積分数制御器と、アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器と、ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリと、積分数制御器の制御を受けて、バッファメモリ上のディジタル受信信号を信号処理器(1)、(2)の各積分処理系統に分配するデータ分配器と、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、コヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、を有することを特徴とする。
【0026】
(作用)
パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動する目標であっても、1/2パルス幅単位内に留まっている時間内や、各ヒット間で移動するレンジビン数が一定である時間内はコヒーレント積分が可能である。想定した目標の速度に応じて、パルス積分時間内で、コヒーレント積分可能なヒット数の組み合わせを算出し、各コヒーレント積分結果を1単位として、それらを振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うことにより積分利得を得る。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、目標からの反射信号に対する予め設定された最大積分可能数の範囲内でパルス積分の積分利得を十分に増大させることが可能である。また、パルス積分時間内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような高速で等速直線運動をする目標に対しても、積分利得を向上させることが可能である。その理由は距離移動補正を行いつつ、最大積分可能数の範囲で、コヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の配分を柔軟に変化させて最適化を行ない、コヒーレント積分パルス数が最大になるような制御により、積分利得を最大化するからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明のレーダ信号処理方法及びレーダ信号処理装置の実施の形態の原理について図面を参照して詳細に説明する。
[基本原理]
本発明におけるレーダ装置の受信信号から効率良く積分利得を得るための最適化されたパルス積分について説明する。
目標が距離方向に等速直線運動している場合、コヒーレント積分においては、複数パルスの受信信号に対して、同一のレンジビンの積分でコヒーレント積分利得が得られるケース1と、異なるレンジビンの受信信号を距離補正して積分することによりコヒーレント積分利得が得られるケース2とがある。
【0029】
図1はケース1の同一レンジビンでコヒーレント積分可能な状況を示す図である。ケース1では、速度Vの目標に対するNパルス積分において、1パルス目の目標の真の位置に最も近いレンジビンに着目した時、Nパルス後に目標の真の位置がそのレンジビンからパルス幅の1/2以上移動しなければ、1パルス目のレンジビンにおいてNパルスのコヒーレント積分を行って積分利得を得ることができる。
【0030】
図2はケース2の異なるレンジビンでコヒーレント積分可能な状況を示す図である。ケース2では、1パルス目の目標の真の位置に最も近いレンジビンに着目した時、目標が高速で移動するために2パルス目に目標の真の位置がそのレンジビン点から1/2パルス幅単位以上移動する。図2のようにNパルス間において、各パルス間での目標の移動距離のレンジビン数を算出したとき、そのレンジビン数が一定であるパルス間においては、各レンジビン間で受信信号の位相の回転量が一定となり、距離補正を行うことによりコヒーレント積分を行って積分利得を得ることができる。
【0031】
図3は本発明のレーダ信号処理の基本原理を示す図である。本発明のレーダ信号処理の方式では、まずパルス繰返し周期等のレーダ諸元から最大積分可能数Nmaxを算出し、図3に示すように、想定する目標の速度Vに応じて、最大積分可能数Nmaxをコヒーレント積分が可能な単位に分割されるように、コヒーレント積分可能なパルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nnc(Nc(1)、Nc(2)、Nc(3)、・・・・、Nc(Nnc))を算出する。そしてNc(k)を一単位とし、Nc(k)パルスコヒーレント積分行い、Nc(k)パルス間での速度Vの目標の移動距離のレンジビン数を算出し、それを逐次距離補正してNncヒットノンコヒーレント積分する処理を行う。
【0032】
本発明のコヒーレント積分では、1/2パルス幅単位内のコヒーレント積分もしくは、距離移動を考慮したコヒーレント積分処理を行うので距離移動による積分損失がなく、積分パルス数Nc(k)のコヒーレント積分をNnc回行い、その結果を一単位として積分ヒット数Nncのノンコヒーレント積分を行うので、最大積分可能数を最大限に利用して効率良く積分利得が得られる。
【0033】
この方式では、速度Vの目標検出に最適化された処理となっているので、最大目標速度Vmaxを基準として1/2パルス幅単位等から定めた速度刻み幅ΔVずつ小さくした各速度に対して、上述したコヒーレント積分、ノンコヒーレント積分の複合処理を並列動作させることにより、最大目標速度以下の全ての目標について効率良く積分利得を得ることができる。
【0034】
[構成の説明]
図4は本発明の第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器104と、ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリ105と、一時的に記憶されたディジタル受信信号を積分処理系統に分配するデータ分配器106と、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の組合せのパルス積分等を行う積分処理系統を構成する2つの信号処理器(1)、(2)と、最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器101と、最大積分可能数のコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数への配分及び距離移動補正量を算定する積分数算定器102と、データ分配器106と信号処理器(1)、(2)を制御する積分数制御器103と、を備える。
【0035】
信号処理器(1)は、コヒーレント積分器107と、距離移動補正器108と、ノンコヒーレント積分器109と、最大値選択器110と、目標検出器111とからなり、低速目標に対する目標検出を行う複数の積分処理系統で構成される。
【0036】
信号処理器(2)は、距離移動補正器112と、コヒーレント積分器107と、距離移動補正器113と、ノンコヒーレント積分器109と、最大値選択器110と、目標検出器111とからなり、高速目標に対する目標検出を行う複数の積分処理系統で構成される。
【0037】
各部の機能は以下のとおりである。
最大積分可能数算定器101は、パルス繰り返し周期等のレーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する機能を有する。
【0038】
積分数算定器102は、受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて、最大積分可能数算定器101で算出した最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分(算定)するとともに距離移動補正量を算定する機能を有する。
【0039】
積分数制御器103は、算定したコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数を用いて、受信信号を分配するデータ分配器106の分配の制御と、信号処理器(1)、(2)の積分数の制御を行う機能を有する。
【0040】
データ分配器106は、A/D変換器104を介して一時的に記憶したバッファメモリ上のレーダ受信信号のディジタル受信信号を積分数制御器103の制御により信号処理器(1)、(2)の各積分処理系統に分配する機能を有する。
【0041】
信号処理器(1)は、コヒーレント積分器107でパルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行い、距離移動補正器108で対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する。ノンコヒーレント積分器109で、コヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行う。最大値選択器110でノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111で最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する。
【0042】
信号処理器(2)は、距離移動補正器112で各コヒーレント積分単位における目標速度による各パルス間の移動量を補正し、コヒーレント積分器107でパルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行い、距離移動補正器108で対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する。ノンコヒーレント積分器109はコヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行う。最大値選択器110はノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111で、最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する。
【0043】
[動作の説明]
本実施の形態の動作について図4を用いて説明する。
まず、最大積分可能数算定器101の動作を説明する。
最大積分可能数算定器101は、パルス繰り返し周期T等のレーダ諸元より最大積分可能数Nmaxを算出する。
回転駆動型のアンテナの場合は、方位ビーム幅θ、アンテナ回転速度ω、パルス繰り返し周期(PRI)TよりNmaxは式(1)により算出する。
Nmax=θ/ωT・・・式(1)
電子走査型のアンテナの場合は、1ビーム走査時間Tsとパルス繰り返し周期TよりNmaxは式(2)により算出する。
Nmax=Ts/T・・・式(2)
【0044】
次に、積分数算定器102の動作を説明する。
Nパルス間で速度Vの目標が移動する距離r(N)を式(3)により算出する。
r(N)=N×V×T・・・式(3)
受信パルス幅ΔRτにおいて、レンジビンと目標の真の位置の誤差がΔRτ/2以下であれば、そのレンジビンでコヒーレント積分を行うことができる。
Nパルス間の目標移動量が1/2パルス幅単位の何個分に相当するかを表すcτ(N)を、式(4)の結果を四捨五入して算出する。
cτ(N)=r(N)/(ΔRτ/2)・・・式(4)
また、1/2パルス幅単位がnτレンジビン相当であるとして、Nパルス間の目標移動量のレンジビン数を表すcrb(N)を式(5)の結果を四捨五入して算出する。
crb(N)=nτ×r(N)/(ΔRτ/2)・・・式(5)
積分数算定器102は、以上の式(3)〜(5)と所定の積分数算定アルゴリズムにより、速度Vの目標に対するコヒーレント積分数とノンコヒーレント積分数の算定を行う。
【0045】
図5はこの積分数算定アルゴリズムを示すフローチャートである。積分数算定器102における動作を図5に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。
【0046】
ST1において、積分パルス数に相当するインクリメント変数iとcτ(i)、crb(i)の初期設定を行う。ST2において、インクリメント変数iを1増やす。ST3において、式(3)にしたがってr(i)を算出する。ST4において、式(4)、(5)にしたがってcτ(i)、crb(i)を算出する。ST5においてi<Nmaxであれば、ST2に戻り、ST2からST4までの処理を繰り返し、そうでなければ、ST6に進む。この時点でcτ(i)を参照すれば、速度Vの目標がiパルス目に1/2パルス幅単位何個分移動したかを知ることができる。
【0047】
次に、ST6において、積分パルス数に相当するインクリメント変数i、コヒーレント積分パルス数に相当するインクリメント変数j、ノンコヒーレント積分パルス数に相当するインクリメント変数kの初期設定を行う。ST7において、V<(ΔRτ/2)/Tであれば、ST8へ進み、そうでなければ、ST13へ進む。
ST7では、速度Vの目標が連続した2パルス間で、1/2パルス幅単位1個分以上移動するか否かを判定し、移動しない場合はST8へ進み、移動する場合はST13へ進むことに対応する。ST8からST12までの処理は、図4における信号処理器(1)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズムであり、ST13からST17までの処理は、信号処理器(2)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズムである。
【0048】
信号処理器(1)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズム(ST8〜ST12)を説明する。
ST8において、インクリメント変数i,jを1増やす。ST9においてcτ(i)とcτ(i−1)を比較し、同じであればST8に戻り、同じでなければST10へ進む。
ST9では、iパルスとi−1パルス間で、速度Vの目標が着目している1/2パルス幅単位から隣の1/2パルス幅単位に移動するか否かを判定している。
【0049】
ST10において、Nc(k)=j−1とする。
これは、j−1パルス相当時間で、速度Vの目標が注目している1/2パルス幅単位から隣の1/2パルス幅単位へ移動することに対応し、同一レンジビンでコヒーレント積分を行うk番目の単位におけるコヒーレント積分可能数がj−1パルスであることになる。
【0050】
図6はこのアルゴリズムの動作例を示す図である。速度Vの目標が連続した2パルス間で、1/2パルス幅単位1個分以上移動しないので、目標の真の位置に最も近いレンジビンと目標検出点を関連付けると、同じレンジビン上に複数の目標検出点が関連付けられる。この目標検出点に対応するそれぞれコヒーレント積分可能なパルス数(Nc(k))と、それらの間のノンコヒーレント積分可能なパルス数(Nnc(V))との関係が示されている。
【0051】
ST11において、Nc(1)+Nc(2)+・・・Nc(k)≧Nmaxであれば処理を終了し、そうでなければST12へ進み、ST12において、インクリメント変数kを1増やし、jを初期化しST8へ戻り、ST8からST11を繰り返す。処理終了時のkが速度Vの目標に対するノンコヒーレント積分パルス数Nncに対応する。
【0052】
信号処理器(2)の積分数の組み合わせを決定するアルゴリズム(ST13〜ST17)を説明する。
ST13において、インクリメント変数i,jを1増やす。ST14において、crb(i)−crb(i−1)≠crb(i−1)−crb(i−2)であれば、ST15へ進み、そうでなければST13へ戻る。
ここでは、速度Vの目標の、iパルスとi−1パルス間の移動量のレンジビン数とi−1パルスとi−2パルス間の移動量のレンジビン数を比較し、同じでなければST15へ進み、同じであればST13へ戻ることに対応する。
【0053】
ST15において、Nc(k)=j−1、dc(k)=crb(i−1)−crb(i−2)、dnc(k)=dc(k)×(Nc(k)−1)+crb(i)−crb(i−1)とする。
これは、連続した2パルス間で、速度Vの目標の距離移動量が1/2パルス幅単位1個分以上の時、j−1パルス間では、速度Vの目標が、各パルス間で、同じレンジビン数ずつ移動するため、j−1パルスのコヒーレント積分を行うことができ、k番目のコヒーレント積分単位におけるコヒーレント積分可能数がj−1パルスであることを示す。また、k番目のコヒーレント積分単位における速度Vの目標の各パルス間の距離移動量のレンジビン数を表したdc(V,k)がcrb(i−1)−crb(i−2)であり、k番目のコヒーレント積分単位の最初のパルス送信からk+1番目のコヒーレント積分単位の最初のパルス送信の間に速度Vの目標が移動する距離のレンジビン数を表したdnc(V,k)がdc(k)×(Nc(k)−1)+crb(i)−crb(i−1)であることに対応する。
【0054】
図7はこのアルゴリズムの動作例を示す図である。速度Vの目標が連続した2パルス間で、1/2パルス幅単位1個分以上移動するので、目標の真の位置に最も近いレンジビンと目標検出点を関連付けると、異なる1/2パルス幅単位1個分(同図では2レンジビン(2rb))以上離れたレンジビンに目標検出点が関連付けられる。この目標検出点に対応する等しいレンジビン間隔のそれぞれコヒーレント積分可能なパルス数(Nc(k))と、それらの間のノンコヒーレント積分可能なパルス数(Nnc(V))との関係が示されている。
【0055】
ST16において、Nc(1)+Nc(2)+・・・Nc(k)≧Nmaxであれば処理を終了し、そうでなければST17へ進み、ST17において、インクリメント変数kを1増やし、jを初期化してST13へ戻り、ST13からST16を繰り返す。処理終了時のkが速度Vの目標に対するノンコヒーレント積分パルス数Nncに対応する。
【0056】
以上のアルゴリズムにしたがって、速度Vの目標に対するコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の組み合わせを算出する。
【0057】
さらに積分数算定器102は、あらかじめ定めた最大速度Vmaxと速度刻み幅ΔV=(ΔRτ/2)/(Nmax×T)により、速度V=Vmax,Vmax−ΔV,Vmax−2ΔV,・・・,Vmax−NvΔV(最小速度)について図5のアルゴリズムを繰り返し、それぞれの速度についてのコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数の組み合わせを算出する。
【0058】
よって、積分数算定器102の出力は、速度Vをパラメータとして、以下のようにNncは1次元データ、Nc、dc、dncは2次元データとなり、
Nnc(V):V=Vmax,Vmax−ΔV,Vmax−2ΔV,・・・,Vmax−NvΔV
Nc(V,k),dc(V,k),dnc(V,k):k=1,2,3,・・・,Nnc(V)
の形で表される。
【0059】
積分数制御器103は積分数算定器102の出力を受けて、次の制御を行う。
(1)対象とする目標速度Vが、V<(ΔRτ/2)/Tであれば信号処理器(1)に、そうでなければ信号処理器(2)にディジタル受信信号を分配するように、データ分配器106の制御を行う。
(2)Nmaxパルス分のデータを、対象とする速度Vに応じてNc(V,k)パルス分のデータ毎に分割して信号処理器(1)、(2)に分配するように、データ分配器106の制御を行う。
(3)k番目のコヒーレント積分(Nc(V,k)パルスコヒーレント積分)の結果の距離移動補正量が(k−1)×1/2パルス幅単位となるよう、信号処理器(1)の距離移動補正器111の補正量を制御する。
(4)dc(V,k)によって信号処理器(2)の距離移動補正器112の補正量を制御する。
(5)dnc(V,k)によって信号処理器(2)の距離移動補正器113の補正量を制御する。
【0060】
レーダ受信信号はA/D変換器104によりディジタル受信信号に変換されて、バッファメモリ105に蓄えられており、データ分配器106は、積分数制御器103の制御に応じて、バッファメモリ105から信号処理器(1)、(2)にディジタル受信信号のデータを分配して出力する。
【0061】
信号処理器(1)の動作についてより詳細に説明する。信号処理器(1)は、コヒーレント積分器107、距離移動補正器108、ノンコヒーレント積分器109、最大値選択器110、目標検出器111から成る複数の積分系統から構成されており、各積分系統は対象とする目標の速度Vに対応して動作する。
【0062】
コヒーレント積分器107において、Nmaxパルス分のディジタル受信信号をNc(V,1)、Nc(V,2)、・・・・、Nc(V,Nnc(V))パルス分のデータ毎に、パルスドップラ処理を用いてNc(V,k)パルスコヒーレント積分を行う。距離移動補正器108は、k番目のコヒーレント積分の結果について、各ドップラフィルタ出力ごとに(k−1)×1/2パルス幅単位分のレンジビン補正を行う。ノンコヒーレント積分器109は、補正後データを各ドップラフィルタ出力ごとにNnc(V)パルスノンコヒーレント積分する。最大値選択器110は、各ドップラフィルタ出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111は、最大値選択器110の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超える信号を目標信号として出力する。
【0063】
次に信号処理器(2)の動作についてより詳細に説明する。信号処理器(2)は、距離移動補正器112、コヒーレント積分器107、距離移動補正器113、ノンコヒーレント積分器109、最大値選択器110、目標検出器111から成る複数の積分系統から構成されており、各積分系統は対象とする目標の速度Vに対応して動作する。
【0064】
距離移動補正器112は、速度Vの目標に対するk番目のコヒーレント積分単位(Nc(V,k)パルスコヒーレント積分)において、各パルスごとにdc(V,k)のレンジビン数の距離移動補正を行う。コヒーレント積分器107は補正後のデータをNc(V,k)ヒットコヒーレント積分し、これをk=1,2,・・・,Nnc(V)についてNnc(V)回繰り返し、Nnc(V)個のコヒーレント積分結果を得る。続いて距離移動補正器113は、各コヒーレント積分の結果について、各ドップラフィルタ出力ごとにk番目のコヒーレント積分の結果に対して(k−1)×dnc(V,k)のレンジビン数の距離移動補正を行う。ノンコヒーレント積分器109は、補正後データを各ドップラフィルタ出力ごとにNnc(V)パルスノンコヒーレント積分する。最大値選択器110は、各ドップラフィルタ出力のうちの最大値を選択する。目標検出器111は、最大値選択器110の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超える信号を目標信号として出力する。
【0065】
以上のような動作により低速目標について従来の方法と同様な検出確率を維持しつつ、高速で等速直線運動をする目標についても効果的に積分利得を得ることができる。
【0066】
[発明の他の実施の形態]
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。図4に示す実施の形態においては、コヒーレント積分時間中の移動距離が1/2パルス幅単位以下の低速目標であっても、反射信号が大きい場合には、速度の異なる複数の目標として誤検出される可能性がある。本実施の形態は、このような目標の誤検出を回避できるようにしたものである。
【0067】
図8は本発明の第2の実施の形態を示すブロック図である。本実施の形態では信号処理器(1)、(2)の各積分処理系統に目標相関器114を備える。目標相関器114以外の各構成及び動作は本発明の第1の実施の形態として述べた図4に示す構成及び動作と同じである。
【0068】
図9は誤検出動作と第2の実施の形態の動作の説明図である。最初に目的の誤検出を起こす現象について図9を用いて説明する。
図4に示す実施の形態においては、反射信号が大きい目標の場合に、本来、同一レンジビンのコヒーレント積分を1回のみ行う積分処理(図9の処理1)で検出されるはずであるが、目標が極めて大きい場合、1/2パルス幅単位移動して複数回コヒーレント積分を行い、各コヒーレント積分結果をノンコヒーレント積分する処理(図9の処理2)でも検出される。これは、複数のコヒーレント積分単位のうちの1個だけで処理後の振幅値がスレッショルドを超えるケースである。
【0069】
第2の実施の形態においては、この現象を回避するために目標相関器114を設けており、目標相関器114では、図9に示す処理2の各1/2パルス幅単位のコヒーレント積分結果のS/Nと各1/2パルス幅単位のコヒーレント積分結果のS/Nの平均値を比較し、所定のスレッショルド値より大きい場合(すなわち、ある1/2パルス幅単位のS/Nのみ極めて大きい場合)は、図9の処理2の積分結果を棄却し、図9の処理1の積分結果を採用する処理を行う。これにより、特定の1/2パルス幅単位にのみ目標が存在する状況に対して誤検出することを回避できる。
【0070】
次に本発明の第3の実施の形態について図面を参照して説明する。図4および図8に示した実施の形態では、対象とする目標の最大速度(最大目標速度)が大きいとき、コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の組み合わせ数が膨大となり、信号処理負荷が大きくなるという問題がある。この場合、信号処理負荷が信号処理装置の処理能力を上回ると、その信号処理装置は正常な動作が行われなくなる可能性がある。第3の実施の形態では信号処理能力の範囲内で積分利得が得られるようにしたものである。
【0071】
図10は本発明の第3の実施の形態を示すブロック図である。第3の実施の形態では、図4の構成に処理負荷算定器115と速度範囲算定器116を付加したものである。本実施の形態では、最大積分可能数算定器101において最大目標速度を設定する代わりに、最も可能性が高い指定目標速度を設定し、積分数算定器102ではその指定目標速度を基準として前述の積分数を算定し、処理負荷算定器115において各速度ごとの処理負荷を算定し、速度範囲算定器116において指定目標速度を含んでかつ処理負荷が処理能力を上回らない速度範囲を計算して、積分数制御器103においてその速度範囲のみ積分処理を行うように制御するように構成している。これにより、処理能力の範囲内で有効に積分利得を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】同一レンジビンでコヒーレント積分可能な状況の説明図である。
【図2】異なるレンジビンでコヒーレント積分可能な状況の説明図である。
【図3】本発明の実施の形態における積分の説明図である。
【図4】本発明の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図5】積分数算定アルゴリズムのフローチャートである。
【図6】信号処理器(1)の積分数の組み合わせを決定する積分数算定アルゴリズムの説明図である。
【図7】信号処理器(2)の積分数の組み合わせを決定する積分数算定アルゴリズムの説明図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態の説明図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図11】従来技術の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0073】
101 最大積分可能数算定器
102 積分数算定器
103 積分数制御器
104 A/D変換器
105 バッファメモリ
106 データ分配器
107 コヒーレント積分器
108 距離移動補正器
109 ノンコヒーレント積分器
110 最大値選択器
111 目標検出器
112 距離移動補正器
113 距離移動補正器
114 目標相関器
115 処理負荷算定器
116 速度範囲算定器
201 移動目標対応コヒーレント積分手段
201−1 パルス圧縮手段
201−2 パルスドップラ処理手段
201−3 レファレンス信号発生手段
202 検波器
203 ドップラビン選択手段
204 移動目標対応ノンコヒーレント積分手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ諸元に基づく最大積分可能数Nmaxを算出するステップと、想定する目標の速度Vに応じて最大積分可能数Nmaxをコヒーレント積分が可能な単位に分割して、当該単位のパルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップと、Nc(k)パルス間における速度Vの目標の移動距離に応じた補正量を算出するステップと、Nc(k)パルスを一単位としてコヒーレント積分を行うステップと、Nc(k)パルスのコヒーレント積分の結果を前記補正量により順次距離補正して積分ヒット数Nncのノンコヒーレント積分を行うステップと、からなることを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項2】
前記パルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップは、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位内で移動する目標に対しては、着目している地点から、1/2パルス幅単位以上移動するまでに、照射可能なパルス数を算定した結果を用いて最大積分可能数Nmaxを分割し、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような目標に対しては、連続するパルス間の移動量のレンジビン数が同じか否かを判定することにより最大積分可能数Nmaxを分割するステップを含むことを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理方法。
【請求項3】
前記コヒーレント積分を行うステップとノンコヒーレント積分を行うステップは、最大目標速度Vmaxを基準として、1/2パルス幅単位から定めた速度刻み幅ΔVずつ小さくした各速度に対して並列に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のレーダ信号処理方法。
【請求項4】
前記ノンコヒーレント積分の結果の出力のうちの最大値を選択するステップと、選択された最大値の出力を所定のスレッショルド値と比較して、該スレッショルド値を超えた出力を目標信号として出力するステップと、を含むことを特徴とする請求項1、2又は3記載のレーダ信号処理方法。
【請求項5】
前記コヒーレント積分は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分であり、前記ノンコヒーレント積分は、前記コヒーレント積分の結果として出力されるパルスドップラ処理における各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分であることを特徴とする請求項1ないし4の何れかの請求項記載のレーダ信号処理方法。
【請求項6】
レーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、
受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに目標の距離移動に対応する距離移動補正量を算定する積分数算定器と、
レーダ受信信号のコヒーレント積分、ノンコヒーレント積分及び距離移動補正を含む積分処理系統を構成する信号処理器と、
積分数算定器で算定したコヒーレント積分パルス数、ノンコヒーレント積分パルス数及び距離移動補正量を用いて、前記信号処理器のコヒーレント積分と該コヒーレント積分結果のノンコヒーレント積分における積分数及び距離移動補正の制御を行う積分数制御器と、
を有することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項7】
前記信号処理器は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、
対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、
前記コヒーレント積分器におけるコヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、
を有することを特徴とする請求項6記載のレーダ信号処理装置。
【請求項8】
前記信号処理器は、最大目標速度を基準として1/2パルス幅単位等から定めた速度刻み幅ずつ小さくした各速度に対して、前記コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の処理を並列して行う複数の積分処理系統を有することを特徴とする請求項6又は7記載のレーダ信号処理装置。
【請求項9】
前記信号処理器は、前記ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、
前記最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、
を有することを特徴とする請求項6、7又は8記載のレーダ信号処理装置。
【請求項10】
前記複数の積分処理系統は、各コヒーレント積分結果のS/Nと該S/Nの平均値との差が所定閾値以上の場合に、当該コヒーレント積分結果を棄却する目標相関器を備えることを特徴とする請求項8又は9記載のレーダ信号処理装置。
【請求項11】
目標速度として最も可能性が高い指定目標速度を設定し、その指定目標速度を基準として積分数を算定し、各速度ごとの処理負荷を算定し、指定目標速度を含んでかつ処理負荷が処理能力を上回らない速度範囲を計算し、当該範囲のみの積分処理を行うように構成したことを特徴とする請求項6ないし10の何れかの請求項記載のレーダ信号処理装置。
【請求項12】
アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器と、
ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリと、
バッファメモリ上のディジタル受信信号を前記信号処理器に分配するデータ分配器と、
を備え、
前記積分数制御器は、前記データ分配器のディジタル受信信号の分配の制御と、前記信号処理器の積分及び距離移動補正の制御を行うことを特徴とする請求項6ないし11の何れかの請求項記載のレーダ信号処理装置。
【請求項13】
レーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、
受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに距離移動補正量を算定する積分数算定器と、
算定したコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数を用いてデータ分配器の受信信号の分配の制御と、それぞれ積分処理系統を構成する2つの信号処理器の積分数の制御を行う積分数制御器と、
アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器と、
ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリと、
積分数制御器の制御を受けて、バッファメモリ上のディジタル受信信号を2つの信号処理器の各積分処理系統に分配するデータ分配器と、
パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、
対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、
コヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、
ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、
最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、
を有することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項1】
レーダ諸元に基づく最大積分可能数Nmaxを算出するステップと、想定する目標の速度Vに応じて最大積分可能数Nmaxをコヒーレント積分が可能な単位に分割して、当該単位のパルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップと、Nc(k)パルス間における速度Vの目標の移動距離に応じた補正量を算出するステップと、Nc(k)パルスを一単位としてコヒーレント積分を行うステップと、Nc(k)パルスのコヒーレント積分の結果を前記補正量により順次距離補正して積分ヒット数Nncのノンコヒーレント積分を行うステップと、からなることを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項2】
前記パルス数Nc(k):k=1、2、・・・、Nncを算出するステップは、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位内で移動する目標に対しては、着目している地点から、1/2パルス幅単位以上移動するまでに、照射可能なパルス数を算定した結果を用いて最大積分可能数Nmaxを分割し、パルス繰り返し周期内に着目しているレンジビンから1/2パルス幅単位以上移動するような目標に対しては、連続するパルス間の移動量のレンジビン数が同じか否かを判定することにより最大積分可能数Nmaxを分割するステップを含むことを特徴とする請求項1記載のレーダ信号処理方法。
【請求項3】
前記コヒーレント積分を行うステップとノンコヒーレント積分を行うステップは、最大目標速度Vmaxを基準として、1/2パルス幅単位から定めた速度刻み幅ΔVずつ小さくした各速度に対して並列に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のレーダ信号処理方法。
【請求項4】
前記ノンコヒーレント積分の結果の出力のうちの最大値を選択するステップと、選択された最大値の出力を所定のスレッショルド値と比較して、該スレッショルド値を超えた出力を目標信号として出力するステップと、を含むことを特徴とする請求項1、2又は3記載のレーダ信号処理方法。
【請求項5】
前記コヒーレント積分は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分であり、前記ノンコヒーレント積分は、前記コヒーレント積分の結果として出力されるパルスドップラ処理における各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分であることを特徴とする請求項1ないし4の何れかの請求項記載のレーダ信号処理方法。
【請求項6】
レーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、
受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに目標の距離移動に対応する距離移動補正量を算定する積分数算定器と、
レーダ受信信号のコヒーレント積分、ノンコヒーレント積分及び距離移動補正を含む積分処理系統を構成する信号処理器と、
積分数算定器で算定したコヒーレント積分パルス数、ノンコヒーレント積分パルス数及び距離移動補正量を用いて、前記信号処理器のコヒーレント積分と該コヒーレント積分結果のノンコヒーレント積分における積分数及び距離移動補正の制御を行う積分数制御器と、
を有することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【請求項7】
前記信号処理器は、パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、
対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、
前記コヒーレント積分器におけるコヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、
を有することを特徴とする請求項6記載のレーダ信号処理装置。
【請求項8】
前記信号処理器は、最大目標速度を基準として1/2パルス幅単位等から定めた速度刻み幅ずつ小さくした各速度に対して、前記コヒーレント積分とノンコヒーレント積分の処理を並列して行う複数の積分処理系統を有することを特徴とする請求項6又は7記載のレーダ信号処理装置。
【請求項9】
前記信号処理器は、前記ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、
前記最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、
を有することを特徴とする請求項6、7又は8記載のレーダ信号処理装置。
【請求項10】
前記複数の積分処理系統は、各コヒーレント積分結果のS/Nと該S/Nの平均値との差が所定閾値以上の場合に、当該コヒーレント積分結果を棄却する目標相関器を備えることを特徴とする請求項8又は9記載のレーダ信号処理装置。
【請求項11】
目標速度として最も可能性が高い指定目標速度を設定し、その指定目標速度を基準として積分数を算定し、各速度ごとの処理負荷を算定し、指定目標速度を含んでかつ処理負荷が処理能力を上回らない速度範囲を計算し、当該範囲のみの積分処理を行うように構成したことを特徴とする請求項6ないし10の何れかの請求項記載のレーダ信号処理装置。
【請求項12】
アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器と、
ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリと、
バッファメモリ上のディジタル受信信号を前記信号処理器に分配するデータ分配器と、
を備え、
前記積分数制御器は、前記データ分配器のディジタル受信信号の分配の制御と、前記信号処理器の積分及び距離移動補正の制御を行うことを特徴とする請求項6ないし11の何れかの請求項記載のレーダ信号処理装置。
【請求項13】
レーダ諸元に基づき最大積分可能数を算出する最大積分可能数算定器と、
受信パルス幅と対象とする目標速度に応じて最大積分可能数をコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数に配分するとともに距離移動補正量を算定する積分数算定器と、
算定したコヒーレント積分パルス数とノンコヒーレント積分パルス数を用いてデータ分配器の受信信号の分配の制御と、それぞれ積分処理系統を構成する2つの信号処理器の積分数の制御を行う積分数制御器と、
アナログのレーダ受信信号をディジタル受信信号に変換するA/D変換器と、
ディジタル受信信号を一時的に記憶するバッファメモリと、
積分数制御器の制御を受けて、バッファメモリ上のディジタル受信信号を2つの信号処理器の各積分処理系統に分配するデータ分配器と、
パルスドップラ処理を用いたコヒーレント積分を行うコヒーレント積分器と、
対象とする目標速度において着目するレンジビンから別のレンジビンに移動する時にその移動量を補正する距離移動補正器と、
コヒーレント積分結果として出力される各ドップラフィルタ出力に対して振幅加算によるノンコヒーレント積分を行うノンコヒーレント積分器と、
ノンコヒーレント積分器から出力される各フィルタバンク出力のうちの最大値を選択する最大値選択器と、
最大値選択器の出力と所定のスレッショルド値を比較して、スレッショルド値を超えた信号を目標信号として出力する目標検出器と、
を有することを特徴とするレーダ信号処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−20419(P2008−20419A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−194712(P2006−194712)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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