説明

レーダ装置、アンテナ制御方法、及びプログラム

【課題】アンテナ開口の方位の変更動作を行う際に、消費電力を抑えつつ、追尾を継続する。
【解決手段】アンテナ開口の方位の変更のために空中線部1−3を駆動させると、空中線部1−2のビーム走査範囲の端から空中線部1−3のビーム走査範囲の端までの範囲が、走査されない範囲となる。空中駆動部1−3を駆動させている間、空中駆動部1−3の駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ空中駆動部1−2、1−3同士のビームの走査範囲が重複しないように、空中駆動部1−2、1−3のそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置等に関し、特に,可動フェーズドアレイアンテナによって監視制御を行うレーダ装置、アンテナ制御方法、および、その方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は、遠距離の小目標を高い分解能で追尾できる性能を有することが望ましい。このような性能を満足させるために、フェーズドアレイアンテナを複数組み合わせて、それぞれのフェーズドアレイアンテナの位置情報と放射ビーム指向方向のデータから最適な放射開口面を選定することにより、単独のフェーズドアレイアンテナより大きな開口面のアンテナを等価的に形成したレーダ装置の技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。この技術によれば、フェーズドアレイアンテナの開口面を等価的に大きくすることができるので、より遠距離の小目標を高方位分解能で追尾することができる。しかしながら、複数のフェーズドアレイアンテナを組み合わせたレーダ装置は、複数のフェーズドアレイアンテナの何れかのフェーズドアレイアンテナが機能を喪失した場合、そのフェーズドアレイアンテナが分担していたビーム走査範囲の監視機能が喪失してしまうという問題があった。
【0003】
また、特許文献2には、1つのフェーズドアレイアンテナに折れ曲がる機構を設け、複数の放射面を形成するレーダ装置の技術が開示されている。特許文献2によれば、各放射面の角度を任意に設定する駆動制御部を備え、当該放射面のそれぞれの角度に基づいて、所望のスキャンビームを形成することができる。しかし、特許文献2に記載のレーダ装置は、動的にビームの走査範囲を変更することができるが、複数の放射面のうち何れかの放射面のアンテナが機能を喪失した場合、その放射面が分担していたビーム走査範囲の監視機能が喪失してしまうという問題があった。
【0004】
ここで、複数のフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置のうち、一のフェーズドアレイアンテナが機能を喪失した場合の対策方法として、残りのフェーズドアレイアンテナのアンテナ開口の方位とビームの走査範囲とを変更することで、機能を喪失したフェーズドアレイアンテナの走査範囲をカバーする方法が考えられる。
【0005】
以下に、当該方法の具体例を説明する。
レーダ装置は、フェーズドアレイアンテナを4つ備える。
第1のフェーズドアレイアンテナは、北方向を0°とした場合、アンテナ開口が0°方向を向き、アンテナ開口の方位の±45°の範囲をビームの走査範囲とする。これにより、第1のフェーズドアレイアンテナは、−45°(315°)〜45°の範囲を走査する。
第2のフェーズドアレイアンテナは、アンテナ開口が90°方向を向き、アンテナ開口の方位の±45°の範囲をビームの走査範囲とする。これにより、第2のフェーズドアレイアンテナは、45°〜135°の範囲を走査する。
第3のフェーズドアレイアンテナは、アンテナ開口が180°方向を向き、アンテナ開口の方位の±45°の範囲をビームの走査範囲とする。これにより、第3のフェーズドアレイアンテナは、135°〜225°を走査する。
第4のフェーズドアレイアンテナは、アンテナ開口が270°方向を向き、アンテナ開口の方位の±45°の範囲をビームの走査範囲とする。これにより、第4のフェーズドアレイアンテナは、225°〜315°(−45°)を走査する。
【0006】
ここで、第3のフェーズドアレイアンテナが機能を喪失した場合、レーダ装置は、各フェーズドアレイアンテナを以下に示すように制御する。
1.第1のフェーズドアレイアンテナの走査範囲をアンテナ開口の方位の±60°の範囲とする。これにより、第1のフェーズドアレイアンテナは、−60°(300°)〜60°の範囲を走査することとなる。
2.第2のフェーズドアレイアンテナのアンテナ開口を120°方向に向け、走査範囲をアンテナ開口の方位の±60°の範囲とする。これにより、第2のフェーズドアレイアンテナは、60°〜180°の範囲を走査することとなる。
3.第4のフェーズドアレイアンテナのアンテナ開口を240°方向に向け、走査範囲をアンテナ開口の方位の±60°の範囲とする。これにより、第4のフェーズドアレイアンテナは、180°〜300°(−60°)の範囲を走査することとなる。
このような処理を行うことで、レーダ装置は、一のフェーズドアレイアンテナが機能を喪失した場合にも継続して同じ範囲に対する走査を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−181203号公報
【特許文献2】特開2007−178332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した一のフェーズドアレイアンテナが機能を喪失した場合における処理を行う場合、走査範囲を変更した後にアンテナ開口の方位を変更する方法と、アンテナ開口の方位を変更した後に走査範囲を変更する方法とが考えられる。
しかしながら、走査範囲を変更した後にアンテナ開口の方位を変更する場合、レーダ装置がアンテナ開口の方位の変更動作を完了するまでの間に、フェーズドアレイアンテナ間に走査範囲の重複が生じることとなる。そのため、走査範囲が重複する部分について過大なエネルギー照射を行うこととなり、不要に消費電力を増大させることとなる。
【0009】
他方、アンテナ開口の方位を変更した後に走査範囲を変更する場合、レーダ装置がアンテナ開口の方位の変更動作を完了するまでの間に、フェーズドアレイアンテナ間で、走査されない範囲が生じることとなる。そのため、アンテナ開口の方位の変更以前に追尾していた目標を見失ってしまう惧れがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、異なる方位に向けて設置された複数のフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置であって、前記複数のフェーズドアレイアンテナの中から少なくとも1つのフェーズドアレイアンテナを選択する選択部と、前記選択部が選択したフェーズドアレイアンテナ以外のフェーズドアレイアンテナである非選択アンテナのビームの走査範囲であって、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を組み合わせることで予め定められた範囲をもれなくカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないような、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を算出する走査範囲算出部と、前記非選択アンテナのそれぞれが前記走査範囲算出部が算出したビームの走査範囲をカバーするときの、前記非選択アンテナのそれぞれのアンテナ開口の方位を算出する方位算出部と、前記非選択アンテナのアンテナ開口が、前記方位算出部が算出したアンテナ開口の方位と同一の方位を向くように前記非選択アンテナを駆動する駆動部と、前記駆動部が前記非選択アンテナを駆動させている間、前記非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないように、前記非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する走査範囲制御部とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、異なる方位に向けて設置された複数のフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置のアンテナ制御方法であって、選択部は、前記複数のフェーズドアレイアンテナの中から少なくとも1つのフェーズドアレイアンテナを選択し、走査範囲算出部は、前記選択部が選択したフェーズドアレイアンテナ以外のフェーズドアレイアンテナである非選択アンテナのビームの走査範囲であって、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を組み合わせることで予め定められた範囲をもれなくカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないような、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を算出し、方位算出部は、前記非選択アンテナのそれぞれが前記走査範囲算出部が算出したビームの走査範囲をカバーするときの、前記非選択アンテナのそれぞれのアンテナ開口の方位を算出し、駆動部は、前記非選択アンテナのアンテナ開口が、前記方位算出部が算出したアンテナ開口の方位と同一の方位を向くように前記非選択アンテナを駆動し、走査範囲制御部は、前記駆動部が前記非選択アンテナを駆動させている間、前記非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないように、前記非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、異なる方位に向けて設置された複数のフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置を、前記複数のフェーズドアレイアンテナの中から少なくとも1つのフェーズドアレイアンテナを選択する選択部、前記選択部が選択したフェーズドアレイアンテナ以外のフェーズドアレイアンテナである非選択アンテナのビームの走査範囲であって、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を組み合わせることで予め定められた範囲をもれなくカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないような、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を算出する走査範囲算出部、前記非選択アンテナのそれぞれが前記走査範囲算出部が算出したビームの走査範囲をカバーするときの、前記非選択アンテナのそれぞれのアンテナ開口の方位を算出する方位算出部、前記非選択アンテナのアンテナ開口が、前記方位算出部が算出したアンテナ開口の方位と同一の方位を向くように前記非選択アンテナを駆動する駆動部、前記駆動部が前記非選択アンテナを駆動させている間、前記非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないように、前記非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する走査範囲制御部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、走査範囲制御部は、非選択アンテナを駆動させている間、非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないように、非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する。これにより、アンテナ開口の方位の変更動作を行う際に、消費電力を抑えつつ、追尾を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】N個の空中線部を有する第1実施形態のレーダ装置の構成図である。
【図2】空中線部のアンテナ開口の方位を変更する動作を示すフローチャートである。
【図3】空中線部のアンテナ開口の方位及びビームの走査範囲の例を示す図である。
【図4】特定方位が指定された場合の設定方位およびビーム走査範囲の一例を示す図である。
【図5】機能を喪失した空中線部が指定された場合の設定方位およびビーム走査範囲の一例を示す図である
【図6】非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲の補正方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るレーダ装置の一実施形態について詳細に説明する。
図1は、N個の空中線部を有する第1実施形態のレーダ装置の構成図である。図1に示すように、レーダ装置は、空中線部1−1〜1−n(以下、空中線部1−1〜1−nを総称する場合は、空中線部1と表記する)、空中線駆動部2−1〜2−n(駆動部:以下、空中線駆動部2−1〜2−nを総称する場合は、空中線駆動部2と表記する)、空中線部1のそれぞれのアンテナ開口の方位を検出する方位検出器3−1〜3−n(以下、方位検出器3−1〜3−nを総称する場合は、方位検出器3と表記する)、セクタ切替部4、送受信切替器5、受信部6、信号処理部7、データ処理部8、表示・操作部9(選択部)、目標走査範囲算出部10(走査範囲算出部)、空中線駆動制御部11(方位算出部)、ビーム制御部12(走査範囲制御部)、送信部13、ビーム走査範囲算出器14を備える。
【0016】
空中線部1は、フェーズドアレイアンテナを有し、ビーム制御部12によって決められた範囲をビームで走査する。
空中線駆動部2は、空中線駆動制御部11が生成した制御データに基づいて、空中線部1のそれぞれのアンテナ開口の方位を機械的に変更する。
方位検出器3は、空中線部1のそれぞれのアンテナ開口の方位を検出し、検出した方位を示す方位データを、ビーム走査範囲算出器14に出力する。
セクタ切替部4は、所定の空中線部1のRF(Radio Frequency)信号が入出力できるように切り替えを行う。
送受信切替器5は、信号系統の送受信の切り替えを行う。
【0017】
受信部6は、送受信切替器5から受信RF信号を受信してIF(Intermediate Frequency)信号に変換し、信号処理部7に出力する。
信号処理部7は、受信部6から入力したIF信号に対して目標検出処理を行う。
データ処理部8は、信号処理部7による目標検出処理結果に基づいて検出目標の追尾処理を行う。
表示・操作部9は、データ処理部8による検出目標の追尾状況を表示する。また、表示・操作部9は、操作員から空中線部1による検出目標の集中監視命令、または機能を喪失した空中線部1の情報の入力を受け付ける。
目標走査範囲算出部10は、表示・操作部9が入力を受け付けた空中線部1以外の空中線部1である非選択空中線部1´のビームの走査範囲を算出する。具体的には、目標走査範囲算出部10は、非選択空中線部1´のビームの走査範囲を組み合わせることで方位全周をもれなくカバーし、かつ非選択空中線部1´同士のビームの走査範囲が重複しないような、ビームの走査範囲を算出する。
空中線駆動制御部11は、空中線部1の各設定方位を計算して空中線駆動部2の制御を行うための制御データを生成し、空中線駆動部2に出力する。
ビーム制御部12は、ビーム走査範囲算出器14が算出したビームの走査範囲に基づいて、方位全周を常時走査する捜索ビームを形成するための制御データを生成する。
送信部13は、ビーム制御部12が生成した制御データを送受信切替器5へ送信する。
ビーム走査範囲算出器14は、方位検出器3が検出した方位に基づいて空中線部1の駆動中におけるビームの走査範囲を算出する。
【0018】
すなわち、図1に示すレーダ装置は、N面のフェーズドアレイアンテナから成る空中線部1とセクタ切替部4とを接続し、このセクタ切替部4によって、送受信RF信号の入出力を実行する空中線部1を適宜に切り替える。また、セクタ切替部4から送受信切替器5へ接続して受信RF信号を受信部6へ伝送する。さらに、送受信切替器5は、送信部13からの送信RF信号を受信してセクタ切替部4へ伝送する。
【0019】
また、送受信切替器5から受信部6へ入力された受信RF信号は、受信IF信号に変換された後に、信号処理部7で目標検出を行い、さらに、データ処理部8で検出目標の追尾を行う。そして、検出目標の追尾状況は表示・操作部9の画面に表示されて、操作員が検出目標の追尾状況を視認する。また、データ処理部8による追尾処理結果はビーム制御部12へ伝送され、追尾目標に対して照射する追尾ビームを形成するための制御データが生成される。さらに、ビーム制御部12では、方位全周を常時走査する捜索ビームを形成するための制御データも生成される。これらの制御データは、送信部13→送受信切替器5→セクタ切替部4→空中線部1のルートで伝送される。
【0020】
また、送信部13は、ビーム制御部12で生成された制御データに基づいて、送信RF信号を生成して送受信切替器5へ伝送し、さらに、セクタ切替部4が、所定の空中線部のRF信号が空中線部1へ入出力できるように切り替えを行う。そして、空中線部1では、それぞれのフェーズドアレイアンテナが所定の方向にビームを形成する。
【0021】
また、操作員は、表示・操作部9にて目標の追尾状況を視認し、特に重点的に監視が必要と判断した特定方位を手動で表示・操作部9より入力する。これによって、特定方位のデータは、表示・操作部9から目標走査範囲算出部10へ伝送される。ここで、目標走査範囲算出部10は、特定方位のデータに応じて、その方位へのビーム形成に用いるフェーズドアレイアンテナの開口の大きさやアンテナ素子数が増大するように、各空中線部1によるビームの走査範囲を算出する。ここで算出する走査範囲は、ある方位(例えば、北方向)を基準とした角度によって表されるものである。そして、目標走査範囲算出部10は、算出した走査範囲を示すデータを、空中線駆動制御部11へ伝送する。
【0022】
また、操作員は、機能を喪失した空中線部のデータを表示・操作部9より手動で入力する。これによって、機能が喪失した空中線部のデータは、表示・操作部9から目標走査範囲算出部10へ伝送される。そして、目標走査範囲算出部10は、機能が喪失した空中線部1のデータの内容に応じて、当該空中線部1が分担していた監視方位範囲を他の空中線部1で補完できるように、各空中線部1によるビームの走査範囲を算出する。そして、目標走査範囲算出部10は、算出した走査範囲を示す目標走査範囲データを、空中線駆動制御部11へ伝送する。
【0023】
ここで、空中線駆動制御部11は、目標走査範囲データに応じて、当該データが示す走査範囲をカバーするときの空中線部1のそれぞれのアンテナ開口の方位を算出すると共に方位制御データを生成する。そして、空中線駆動制御部11で生成された方位制御データは、空中線駆動部2へ伝送され、各空中線部1が所定の方位に設定されるように機械的に駆動させる。
【0024】
また、空中線駆動制御部11が方位制御データを伝送することで空中線部1を駆動させている間、ビーム走査範囲算出器14は、方位検出器3から空中線部1の現在のアンテナ開口の方位を示す方位データを逐次入力し、当該方位データを用いて、動的に各空中線部1によるビームの走査範囲を算出する。そして、ビーム走査範囲算出器14が算出した走査範囲を示す走査範囲制御データは、ビーム制御部12へ伝送され、各空中線部1のビームの走査範囲が所定の範囲になるように、ビームの形成を行う。
【0025】
次に、信号の流れに沿って第1実施形態のレーダ装置の動作を詳細に説明する。N面のフェーズドアレイアンテナから成る空中線部1で受信された受信RF信号は、セクタ切替部4を経由して送受信切替器5へ伝送される。このとき、セクタ切替部4は、ビーム制御部12からの制御信号によって、どの空中線部からの受信RF信号を入力するかを選択的に切り替える。送受信切替器5は、セクタ切替部4から入力された受信RF信号を受信部6へ伝送する。そして、受信部6が、受信RF信号をIF信号に変換し信号処理部7へ伝送する。
【0026】
さらに、信号処理部7が、目標に相当する信号を抽出する目標検出処理を行い、目標の検出時刻、位置情報などの目標検出データをデータ処理部8へ伝送する。これによって、データ処理部8は、目標検出データに基づいて、現時点における目標位置、速度、および針路の推定や、未来時刻の目標位置、速度、および針路の予測を行う。そして、データ処理部8は、推定した目標位置、速度、および針路のデータを表示・操作部9へ伝送し、表示・操作部9において、表示画面に目標の位置、速度、および針路のデータなどを表示して、操作員に視認させる。
【0027】
また、データ処理部8で得られる未来時刻の目標位置のデータはビーム制御部12へ伝送され、ビーム制御部12が、当該時刻になったら目標位置に対してビームを照射する追尾ビームの制御データを生成する。なお、ビーム制御部12は、追尾ビームの他に、方位全周を常時ビーム走査するための捜索ビームの制御データも生成する。ビーム制御部12で生成された制御データは、送信部13→送受信切替器5→セクタ切替部4→空中線部1のルートで伝送される。
【0028】
このとき、送信部13は、制御データにより指定される所定のタイミングで送信RF信号を発生し、この送信RF信号を、送受信切替器5を経由してセクタ切替部4へ伝送する。セクタ切替部4は、ビーム制御部12からの制御データに基づいて、所定の方位にビームを形成するよう空中線部1のうち、必要な空中線部1に送信RF信号の伝送先を切り替える。そして、空中線部1は、入力されたRF送信信号と、ビーム制御部12からの制御データとに基づいて、所定の空中線部1のフェーズドアレイアンテナが送信ビームを形成する。
【0029】
一方、操作員は、表示・操作部9に表示される目標の位置、速度、進行方向、および種別などのデータから状況を把握し、必要と判断する場合には、重点的に監視を行うための特定方位を表示・操作部9から手動で指定する。このとき指定した特定方位のデータは、表示・操作部9から目標走査範囲算出部10へ伝送される。これによって、目標走査範囲算出部10は、特定方位へのビーム形成に用いるフェーズドアレイアンテナの開口の大きさやアンテナ素子数が増大するように、各空中線部1のビームの走査範囲を算出する。次に、空中線駆動制御部11は、算出した走査範囲を示す目標走査範囲データを、空中線駆動制御部11へ伝送する。これによって、空中線駆動制御部11は、目標走査範囲データに応じて、当該データが示す走査範囲をカバーするときの空中線部1のそれぞれのアンテナ開口の方位を計算する。通常は、1つの空中線部1でビーム形成を行うが、特定方位へは複数の空中線部を同時に用いてビーム形成を行う。
【0030】
ここで、複数の空中線部で特定方位のビーム形成を行うように空中線部の方位設定角を変えると、方位全周を走査する捜索ビームを形成する際に、アンテナ開口の法線方向に対して左右のいずれかに大きくビーム形成の方位を傾ける必要が生じる。その結果、ビーム形成方位から見たアンテナ開口が実効的に小さくなるために、目標の探知性能の低下を招くおそれがある。また、ビームの半値幅が大きくなるために、方位分解性能も低下する。このような悪影響を軽減させるために、特定方位へビームを形成する空中線部の方位設定角だけでなく、それ以外の領域へビームを形成する空中線部の方位設定角も変化させる。
【0031】
また、操作員は、機能を喪失した空中線部のデータを表示・操作部9から手動で入力する。これによって、機能を喪失した空中線部のデータは、表示・操作部9から目標走査範囲算出部10へ伝送される。ここで、空中線部の機能が喪失されると、その空中線部が分担していた方位範囲のビーム走査ができなくなる。そのため、機能を喪失した空中線部の情報に応じて、その空中線部が分担していたビーム走査範囲を他の空中線部で補完できるように、目標走査範囲算出部10は、各空中線部1のビームの走査範囲を算出すると共に目標走査範囲データを生成する。当該目標走査範囲データは、空中線駆動制御部11に伝送され、空中線駆動制御部11は、当該目標走査範囲データに応じて、当該データが示す走査範囲をカバーするときの空中線部1のそれぞれのアンテナ開口の方位を計算すると共に、方位制御データを生成する。そして、空中線駆動制御部11で計算された各空中線部の設定方位角は空中線駆動部2に伝送され、空中線部1がそれぞれ指定の方位に設定されるよう機械的に駆動させる。
【0032】
空中線駆動部2が空中線部1を駆動させると、方位検出器3は、それぞれの空中線部1のアンテナ開口の方位を示す方位データをビーム走査範囲算出器14に伝送する。ビーム走査範囲算出器14は、方位検出器3から方位データを入力し、当該方位データを用いて、動的に各空中線部1によるビームの走査範囲を算出すると共に、当該走査範囲を示す走査範囲制御データを生成する。そして、走査範囲制御データは、ビーム制御部12へ伝送され、ビーム制御部12が各空中線部1のビームの走査範囲が所定の範囲になるように、ビームの形成を行うための制御データを生成し、当該制御データを空中線部1に伝送する。
【0033】
以上説明したように、本発明のレーダ装置は、フェーズドアレイアンテナを有する空中線部1の方位を機械的に変更するための空中線駆動部2を設け、さらに、それらの空中線部1の設定方位を計算して空中線駆動部2を制御するための制御データを生成する空中線駆動制御部11を設けている。これによって、操作員が表示・操作部9から指定した特定方位へのビームを形成するためのフェーズドアレイアンテナのアンテナ素子数を増大させ、さらに、水平方向のアンテナ開口を等価的に増大させるように、空中線駆動制御部11が、各空中線部1のアンテナ開口の設定方位を決定し、対応する方位制御データを生成する。
【0034】
また、機能を喪失した空中線部を操作員が表示・操作部9から指定することにより、機能を喪失した空中線部が分担していた監視方位範囲を、他の空中線部で補完できるように、空中線駆動制御部11が各空中線部のアンテナ開口の設定方位を決定し、対応する方位制御データを生成する。そして、その方位制御データは空中線駆動部2へ送信され、それらの空中線駆動部2がその方位制御データにしたがって各空中線部1の方位を機械的に設定する。これによって、特定方位の目標の探知性能や方位分解性能を高めることができると共に、複数のフェーズドアレイアンテナのうちの少なくとも1つが機能を喪失しても、そのフェーズドアレイアンテナが分担していた方位範囲の監視機能を維持することができ、方位全周の常時走査を行うこともできる。
【0035】
次に、空中線部1のアンテナ開口の方位を変更する際の動作について具体的に説明する。
図2は、空中線部のアンテナ開口の方位を変更する動作を示すフローチャートである。
まず、表示・操作部9は、操作員から、重点的に監視を行うための特定方位の指定を受け付けた場合、または機能を喪失した空中線部1のデータの入力を受け付けた場合、複数の空中線部1の中から1つまたは複数の空中線部1を、全周走査のための構成から除外する空中線部1として選択する(ステップS1)。具体的には、機能を喪失した空中線部1のデータの入力を受け付けた場合、表示・操作部9は、当該入力されたデータが示す空中線部1を選択する。他方、特定方位の指定を受け付けた場合、表示・操作部9は、当該特定方位をビームの走査範囲内とする空中線部1を選択する。
【0036】
次に、目標走査範囲算出部10は、表示・操作部9によって選択されなかった空中線部1である複数の非選択空中線部1´のビームの走査範囲を算出する(ステップS2)。例えば、方位全周である360°を、非選択空中線部1´の個数で除算して得られる角度を、非選択空中線部1´それぞれの走査範囲とすることが考えられる。具体的には、非選択空中線部1´が4個である場合、目標走査範囲算出部10は、360÷4を算出して得られる90°の範囲(即ち、アンテナ開口の方向の±45°の範囲)を、非選択空中線部1´それぞれの走査範囲として決定する。これにより、目標走査範囲算出部10が算出した走査範囲は、非選択空中線部1´のビームの走査範囲を組み合わせることで方位全周をもれなくカバーし、かつ非選択空中線部1´同士のビームの走査範囲が重複しない走査範囲となる。
【0037】
目標走査範囲算出部10が非選択空中線部1´のビームの走査範囲を算出すると、非選択空中線部1´それぞれの走査範囲を示す目標走査範囲データを生成し、空中線駆動制御部11に出力する。次に、空中線駆動制御部11は、表示・操作部9が入力を受け付けたデータが、特定方位を指定するデータであるか、機能を喪失した空中線部1のデータであるかを判定する(ステップS3)。
表示・操作部9が入力を受け付けたデータが、特定方位を指定するデータである場合(ステップS3:特定方位)、空中線駆動制御部11は、表示・操作部9が選択した空中線部1の設定方位を、特定方位と同じ方位に決定する(ステップS4)。また、空中線駆動制御部11は、複数の非選択空中線部1´のうち、アンテナ開口の方位と当該特定方位とのなす角が最も小さいものの設定方位を、特定方位と同じ方位に決定する(ステップS5)。これにより、特定方位に向けるビーム形成に用いるアンテナ開口とアンテナ素子数を増大させることができる。
次に、空中線駆動制御部11は、ステップS5で設定方位を決定した非選択空中線部1´以外の非選択空中線部1´の設定方位を、現在のアンテナ開口の方位との差が最も小さく、かつビームの走査範囲を目標走査範囲データが示す走査範囲に変更した場合に、当該走査範囲が他の非選択空中線部1´のビームの走査範囲と重複しない方位に決定する(ステップS6)。
【0038】
ここで、目標の重点監視が必要と判断されたために操作員により特定方位が指定された場合の動作を具体的な例を用いて説明する。
図3は、空中線部のアンテナ開口の方位及びビームの走査範囲の例を示す図である。
ここでは、空中線部1の数が4である場合のレーダ装置の動作について説明する。
表示・操作部9において空中線部1の機能喪失及び特定方位の入力が無い場合、すなわち初期状態では、空中線部1のアンテナ開口の方位及びビームの走査範囲は、図3に示す状態となる。なお、図3は、4面のフェーズドアレイアンテナを上方から見下ろしたときの、各フェーズドアレイアンテナの配置とビーム走査範囲を表している。図2において、空中線部1−1〜空中線部1−4は、それぞれのフェーズドアレイアンテナの中心を軸として空中線駆動部2−1〜2−4が回転動作を行い、空中線部1の方位を変更させる。
【0039】
ここで、説明を簡単にするために、空中線部1−1のアンテナ開口の方位を0°とし、時計回りに値が増大するものと定義する。特定方位の指定が無い場合は、図2に示す通り、空中線部1−1〜1−4の方位設定角を、それぞれ、0°、90°、180°、および270°に設定する。また、それぞれの空中線部1は、アンテナ開口の方位の±45°の範囲をビームの走査範囲とする。これにより、空中線部1−1は−45°(315°)〜45°の範囲を走査し、空中線部1−2は、45°〜135°の範囲を走査し、空中線部1−3は、135°〜225°を走査し、空中線部1−4は、225°〜315°(−45°)を走査する。
【0040】
ここで、特定方位45°が指定されると、45°を走査する空中線部1−1を特定方向の走査に充当するため、S1により表示・選択部9は、ステップS1により空中線部1−1を選択する。これにより、空中線部1−2〜1−4は非選択空中線部1´となる。
【0041】
次に、目標走査範囲算出部10は、ステップS2により、非選択空中線部1´の数が3であることから、包囲前周を3で除算して得られる120°の範囲を、空中線部1−2〜1−4のそれぞれに走査させることに決定する。次に、空中線駆動制御部11は、ステップS4により、表示・操作部9が選択した空中線部1−1の設定方位を、特定方位である45°に決定する。
次に、空中線駆動制御部11は、アンテナ開口の方位と特定方位とがなす角が最小となる非選択空中線部1´を特定する。
【0042】
図3を参照すると、空中線部1−2のアンテナ開口の方位は90°であり、特定方位となす角は45°となる。空中線部1−3のアンテナ開口の方位は180°であり、特定方位となす角は135°となる。空中線部1−4のアンテナ開口の方位は270°であり、特定方位となす角は225°となる。
したがって、空中線駆動制御部11は、アンテナ開口の方位と特定方位とがなす角が最小となる非選択空中線部1´が、空中線部1−2であると特定する。そのため、空中線駆動制御部11は、ステップS5により、当該空中線部1−2の設定方位を特定方位である45°に決定する。これにより、空中線部1−2の設定方位が45°であるため、空中線部1−2のビーム走査範囲は、−15°(345°)〜105°となる。
【0043】
次に、空中線駆動制御部11は、ステップS6により、空中線部1−2のビーム走査範囲と重複しないように、残りの空中線部1−3、1−4の設定方位を決定する。空中線部1−2のビーム走査範囲が−15°(345°)〜105°であるため、残りの空中線部1−3、1−4は、105°〜225°の範囲と、225°〜345°の範囲を走査する必要がある。105°〜225°の範囲を走査するには、アンテナ開口を165°に向ける必要があり、225°〜345°の範囲を走査するには、アンテナ開口を285°に向ける必要がある。そこで、空中線駆動制御部11は、現在のアンテナ開口の方位との差が最も小さくなるよう、空中線部1−3の設定方位を、165°に決定し、空中線部1−4の設定方位を、285°に決定する。
【0044】
図4は、特定方位が指定された場合の設定方位およびビーム走査範囲の一例を示す図である。
図4に示すように、空中線部1−1と空中線部1−2のアンテナ開口の方位を特定方位に向けることで、ビーム形成に用いるアンテナ開口とアンテナ素子数を増大させることができる。また、空中線部1−3、1−4の方位設定角も変化させることで、方位全周をもれなく走査することができる。
【0045】
他方、ステップS3で、表示・操作部9が入力を受け付けたデータが、機能を喪失した空中線部1のデータである場合(ステップS3:機能喪失)、空中線駆動制御部11は、各非選択空中線部1´の設定方位を、現在のアンテナ開口の方位との差が最も小さく、かつビームの走査範囲を目標走査範囲データが示す走査範囲に変更した場合に、当該走査範囲が他の非選択空中線部1´のビームの走査範囲と重複しない方位に決定する(ステップS7)。
【0046】
ここで、空中線部1−1が機能を喪失したために、操作員により当該空中線部1−1のデータの入力を受け付けた場合の動作を具体的な例を用いて説明する。なお、空中線部1の配置の初期状態は、図3に示す状態であるものとする。
機能を喪失した空中線部1−1のデータが入力されると、表示・選択部9は、ステップS1により、入力されたデータが示す空中線部1−1を選択する。これにより、空中線部1−2〜1−4は非選択空中線部1´となる。
【0047】
次に、目標走査範囲算出部10は、ステップS2により、非選択空中線部1´の数が3であることから、包囲前周を3で除算して得られる120°の範囲を、空中線部1−2〜1−4のそれぞれに走査させることに決定する。
【0048】
次に、空中線駆動制御部11は、ステップS7により、非選択空中線部1´同士のビーム走査範囲が重複しないように、非選択空中線部1´の設定方位を決定する。ここでは、各非選択空中線部1´が走査する範囲がそれぞれ120°であるため、それぞれのアンテナ開口の方位の差が120°となる必要がある。そこで、現在のアンテナ開口の方位との差が最も小さくなるよう、空中線部1−2の設定方位を、60°に決定し、空中線部1−3の設定方位を、180°に決定し、空中線部1−4の設定方位を、300°に決定する。
【0049】
図5は、機能を喪失した空中線部が指定された場合の設定方位およびビーム走査範囲の一例を示す図である。
図5に示すように、空中線部1−2〜1−4の方位設定角を変化させることで、方位全周をもれなく走査することができる。
【0050】
ステップS6またはステップS7で非選択空中線部1´の設定方位を決定すると、空中線駆動制御部11は、当該設定方位を示す制御データを生成し、空中線駆動部2に伝送する(ステップS8)。これにより、空中線駆動部2は、非選択空中線部1´のアンテナ面が、制御データが示す方位と同一の方位を向くように非選択空中線部1´を駆動する。
【0051】
空中線部1が駆動を開始すると、ビーム走査範囲算出器14は、方位検出部3から空中線部1のアンテナ開口の方位を示す方位データを読み出す(ステップS9)。次に、ビーム走査範囲算出器14は、読み出した方位データが示す方位と空中線駆動制御部11がステップS8で生成した制御データが示す方位とが一致するか否かを判定する(ステップS10)。
ビーム走査範囲算出器14は、方位データが示す方位と制御データが示す方位とが一致しないと判定した場合(ステップS10:NO)、読み出した方位データを用いて、一の非選択空中線部1´のビームの走査範囲と、当該非選択空中線部1´に隣接する他の非選択空中線部1´のビームの走査範囲との間に発生する走査されない範囲を算出する(ステップS11)。
【0052】
次に、ビーム走査範囲算出器14は、当該されない範囲の半分を、一の非選択空中線部1´のビームの走査範囲に含め、残り半分を他の非選択アンテナ1´のビームの走査範囲に含めるように、非選択アンテナ1´のそれぞれのビームの走査範囲を決定する(ステップS12)。次に、ビーム走査範囲算出器14は、当該走査範囲を示す走査範囲制御データをビーム制御部12に伝送する。そして、ビーム制御部12は、ビーム制御部12が各空中線部1のビームの走査範囲が所定の範囲になるように、ビームの形成を行うための制御データを生成し、当該制御データを空中線部1に伝送する。以下、ステップS9に戻り、処理を繰り返す。
【0053】
以下に、ステップS11、S12の処理の具体例を示す。
図6は、非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲の補正方法を示す図である。
今回ステップS9で方位データを読み出した時刻を時刻tとおき、前回ステップS9で方位データを読み出した時刻(初めてステップS9を実行する場合は、空中線部1の駆動開始前の時刻)を時刻t−1とおく。時刻t−1の時点では、図6(A)に示すように、非選択空中線部1´である空中線部1−2のアンテナ開口の方位は90°、ビームの走査範囲は、アンテナ開口の方位から±45°の範囲である。また、時刻t−1における、空中線部1−2に隣接する非選択空中線部1´である空中線部1−3のアンテナ開口の方位は、180°、ビームの走査範囲は、アンテナ開口の方位から±45°の範囲である。
【0054】
ここで、時刻tにおける空中線部1−2のアンテナ開口の方位が90°、空中線部1−3のアンテナ開口の方位が186°である場合、図6(B)に示すように、空中線部1−2のビーム走査範囲の端である135°から空中線部1−3のビーム走査範囲の端である141°までの範囲が、走査されない範囲となる。そこで、ビーム走査範囲算出器14は、図6(C)に示すように、当該走査されない範囲の半分である135°〜138°の範囲を空中線部1−2のビーム走査範囲に含め、また、残り半分である138°〜141°の範囲を空中線部1−3のビーム走査範囲に含める。
このように、ビーム走査範囲算出器14は、非選択空中線部1´の駆動によって発生する走査されない範囲をカバーすることができる。
【0055】
ビーム走査範囲算出器14は、ステップS10で、方位データが示す方位と制御データが示す方位とが一致すると判定した場合(ステップS10:YES)、ビーム走査範囲算出器14は、非選択空中線部1´のそれぞれのビームの走査範囲を、目標走査範囲算出部10がステップS2で算出した走査範囲に決定し(ステップS13)、当該走査範囲を示す走査範囲制御データをビーム制御部12に伝送する。そして、ビーム制御部12は、ビーム制御部12が各空中線部1のビームの走査範囲が所定の範囲になるように、ビームの形成を行うための制御データを生成し、当該制御データを空中線部1に伝送し、処理を終了する。
【0056】
このように、本実施形態によるレーダ装置は、空中線駆動部2が非選択空中線部1´を駆動させている間、走査されない範囲をカバーし、かつ非選択空中線部1´同士のビームの走査範囲が重複しないように、非選択空中線部1´のそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する。これにより、空中線部1のアンテナ開口の方位を変更する際に、消費電力を抑えつつ、追尾を継続することができる。
【0057】
ここで、空中線駆動制御部11による各空中線駆動部2の駆動制御について説明する。
上述したように、ビーム走査範囲算出器14の処理により、非選択空中線部1´のそれぞれのビームの走査範囲は、駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ非選択空中線部1´同士のビームの走査範囲が重複しないように変更される。このとき、各非選択空中線部1´の走査の精度を高く保つためには、非選択空中線部1´の走査範囲がアンテナ開口の方位から正方向及び負方向に均等になるように非選択空中線部1´のアンテナ開口の方位を変更する必要がある。これは、送出するビームの方向がアンテナ開口の方位から離れるに従って、ビーム形成時の利得が低下するためである。
【0058】
ここで、空中線駆動部2が、非選択空中線部1´のそれぞれを同一の角速度で駆動させてしまうと、非選択空中線部1´のそれぞれの間に発生する走査されない範囲の間隔が均一にならない。そのため、上述したステップS11、S12の処理により、非選択空中線部1´の走査範囲は、アンテナ開口の方位から正方向及び負方向に均等にならなくなってしまう。
【0059】
そのため、空中線駆動制御部11は、非選択空中線部1´のそれぞれの間に発生する走査されない範囲の間隔が等しくなるよう、以下に示す方法を用いて空中線駆動部2に伝送する制御データを生成する。
まず、空中線駆動制御部11は、非選択空中線部1´のうち、現在のアンテナ開口の方位と設定方位との差が最も大きい非選択空中線部1´のアンテナ開口の方位が、設定方位になるまでに要する必要駆動時間を算出する。例えば、現在のアンテナ開口の方位と設定方位との差が最も大きい非選択空中線部1´のアンテナ開口の方位が90°であり、当該非選択空中線部1´の設定方位が120°であった場合、空中線駆動制御部11は、必要駆動時間として、非選択空中線部1´のアンテナ開口の方位を30°動かすのに要する時間を算出する。
【0060】
次に、空中線駆動制御部11は、算出した必要駆動時間で、非選択空中線部1´のアンテナ開口の方位を設定方位まで駆動するのに要する角速度を非選択空中線部1´のそれぞれに対して算出する。そして、空中線駆動制御部11は、空中線駆動部2に対し、当該算出した角速度で非選択空中線部1´を駆動させる制御データを生成し、空中線駆動部2に伝送する。そして、空中線駆動部2は、当該制御データが示す角速度を用いて、非選択空中線部1´のそれぞれを駆動する。
これにより、非選択空中線部1´のそれぞれの間に発生する走査されない範囲の間隔を等しくすることができる。
【0061】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0062】
上述のレーダ装置は内部に、コンピュータシステムを有している。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータプログラムを通信回線によってコンピュータに配信し、この配信を受けたコンピュータが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0063】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0064】
1、1−1〜1−n…空中線部 1´…非選択空中線部 2、2−1〜2−n…空中線駆動部 3、3−1〜3−n…方位検出器 4…セクタ切替部 5…送受信切替器 6…受信部 7…信号処理部 8…データ処理部 9…表示・操作部 10…目標走査範囲算出部 11…空中線駆動制御部 12…ビーム制御部 13…送信部 14…ビーム走査範囲算出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる方位に向けて設置された複数のフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置であって、
前記複数のフェーズドアレイアンテナの中から少なくとも1つのフェーズドアレイアンテナを選択する選択部と、
前記選択部が選択したフェーズドアレイアンテナ以外のフェーズドアレイアンテナである非選択アンテナのビームの走査範囲であって、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を組み合わせることで予め定められた範囲をもれなくカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないような、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を算出する走査範囲算出部と、
前記非選択アンテナのそれぞれが前記走査範囲算出部が算出したビームの走査範囲をカバーするときの、前記非選択アンテナのそれぞれのアンテナ開口の方位を算出する方位算出部と、
前記非選択アンテナのアンテナ開口が、前記方位算出部が算出したアンテナ開口の方位と同一の方位を向くように前記非選択アンテナを駆動する駆動部と、
前記駆動部が前記非選択アンテナを駆動させている間、前記非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないように、前記非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する走査範囲制御部と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記走査範囲制御部は、
一の非選択アンテナのビームの走査範囲と当該一の非選択アンテナに隣接する他の非選択アンテナのビームの走査範囲との間に発生する走査されない範囲の半分を前記一の非選択アンテナのビームの走査範囲に含め、残り半分を前記他の非選択アンテナのビームの走査範囲に含めるように、前記非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を変更する
ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記非選択アンテナのうち、現在のアンテナ開口の方位と前記方位算出部が算出した方位との差が最も大きい非選択アンテナのアンテナ開口の方位が、前記方位算出部が算出した方位になるまでに要する時間を算出する駆動完了時間算出部と、
前記駆動完了時間算出部が算出した時間で、非選択アンテナのアンテナ開口の方位を前記方位算出部が算出した方位まで駆動するのに要する、前記非選択アンテナのそれぞれの角速度を算出する駆動速度算出部と
を備え、
前記駆動部は、前記駆動速度算出部が算出した角速度を用いて、前記非選択アンテナのそれぞれを駆動する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
異なる方位に向けて設置された複数のフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置のアンテナ制御方法であって、
選択部は、前記複数のフェーズドアレイアンテナの中から少なくとも1つのフェーズドアレイアンテナを選択し、
走査範囲算出部は、前記選択部が選択したフェーズドアレイアンテナ以外のフェーズドアレイアンテナである非選択アンテナのビームの走査範囲であって、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を組み合わせることで予め定められた範囲をもれなくカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないような、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を算出し、
方位算出部は、前記非選択アンテナのそれぞれが前記走査範囲算出部が算出したビームの走査範囲をカバーするときの、前記非選択アンテナのそれぞれのアンテナ開口の方位を算出し、
駆動部は、前記非選択アンテナのアンテナ開口が、前記方位算出部が算出したアンテナ開口の方位と同一の方位を向くように前記非選択アンテナを駆動し、
走査範囲制御部は、前記駆動部が前記非選択アンテナを駆動させている間、前記非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないように、前記非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する
ことを特徴とするアンテナ制御方法。
【請求項5】
異なる方位に向けて設置された複数のフェーズドアレイアンテナを備えるレーダ装置を、
前記複数のフェーズドアレイアンテナの中から少なくとも1つのフェーズドアレイアンテナを選択する選択部、
前記選択部が選択したフェーズドアレイアンテナ以外のフェーズドアレイアンテナである非選択アンテナのビームの走査範囲であって、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を組み合わせることで予め定められた範囲をもれなくカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないような、前記非選択アンテナのビームの走査範囲を算出する走査範囲算出部、
前記非選択アンテナのそれぞれが前記走査範囲算出部が算出したビームの走査範囲をカバーするときの、前記非選択アンテナのそれぞれのアンテナ開口の方位を算出する方位算出部、
前記非選択アンテナのアンテナ開口が、前記方位算出部が算出したアンテナ開口の方位と同一の方位を向くように前記非選択アンテナを駆動する駆動部、
前記駆動部が前記非選択アンテナを駆動させている間、前記非選択アンテナの駆動によって発生する走査されない範囲をカバーし、かつ前記非選択アンテナ同士のビームの走査範囲が重複しないように、前記非選択アンテナのそれぞれのビームの走査範囲を逐次変更する走査範囲制御部
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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