説明

レーダ装置

【課題】 より安価な装置コストで実現でき、時間的誤差を低減して正確なデジタルビームフォーミング処理を行い得るレーダ装置を提供する。
【解決手段】 送信波を送信する送信系Txと、送信波の反射波を受信する5個の受信系Rx1〜Rx5と、送信波の送信信号と受信波の受信信号とを混合処理した信号について、所定タイミングでサンプリングして所定期間そのサンプリングしたレベルに固定するサンプルホールド回路109−1〜109−5と、該サンプルホールド回路109−1〜109−5の出力を順次デジタル信号に変換する切り替え器110およびA/D変換器111と、サンプリングタイミングを決定し、A/D変換器111の出力に基づきデジタルビームフォーミング処理を行う信号処理装置112と、を備えて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルビームフォーミングを用いてビーム毎の周波数分析結果を得て目標物体の検出等を行うレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両前方に位置する物体との距離、方位、相対速度等を検出して、衝突防止や追従走行などを実現するための車載用のレーダ装置が知られている。この種のレーダ装置では、アンテナのビームによって検出範囲が決まることから、検出距離を低下させずに検出可能な角度範囲を拡げる場合や、決められた検出範囲内で目標物体の方位を特定できるようにする場合には、アンテナのビームをマルチビーム化する手法が有用である。
【0003】
一方で、回路技術の進展により、高速なデジタル信号処理が可能となってきており、このマルチビーム化手法として、ビーム形成をデジタル信号処理によって実現するデジタルビームフォーミングが注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
従来のデジタルビームフォーミングを用いたレーダ装置(従来例1)の構成図を図3に示す。この従来例1のレーダ装置は、送信系TxにVCO(電圧制御発振器)201、アンプ202および送信アンテナ203を備え、5個の受信系Rx1〜Rx5にそれぞれ受信アンテナ204−1〜204−5、RFアンプ205−1〜205−5、ミキサ206−1〜206−5、BBアンプ207−1〜207−5およびバンドパスフィルタ208−1〜208−5を備え、さらに、A/D変換器211−1〜211−5および信号処理装置212を備えた構成である。
【0005】
このような構成の従来例1に係るレーダ装置では、送信系Txにおいて送信アンテナ203を介してVCO201により変調した送信波を送信し、受信系Rx1〜Rx5では、アレーアンテナを構成する複数の受信アンテナ204−1〜204−5により送信した送信波の反射波を同時受信する。その受信信号に送信信号と同じ周波数を有するローカル信号(VCO201出力)をそれぞれ混合することによりビート信号B1〜B5を生成し、このビート信号B1〜B5を同一タイミングでA/D変換器211−1〜211−5によってデジタル信号にA/D変換し、該デジタル信号を取り込んだ信号処理装置212が、各信号の振幅および位相情報によりデジタルビームフォーミング処理(各ビート信号B1〜B5に位相演算を含む重み付けをして加算する等のデジタル信号処理)を行うことによりビーム形成を行う。
【特許文献1】特開平6−88869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来例1係るレーダ装置においては、アレーアンテナを構成する受信アンテナ(204−1〜204−5)の素子数と同数の高価なA/D変換器(211−1〜211−5)を必要とする構成であり、レーダ装置全体として大変高価になるという問題があった。
【0007】
次に、上記従来例2に係る問題点に対応して、A/D変換器の個数を1つにして装置コストの低減を図ったレーダ装置(従来例2)の構成図を図4に示す。この従来例2のレーダ装置は、送信系TxにVCO301、アンプ302および送信アンテナ303を備え、5個の受信系Rx1〜Rx5にそれぞれ受信アンテナ304−1〜304−5、RFアンプ305−1〜305−5、ミキサ306−1〜306−5、BBアンプ307−1〜307−5およびバンドパスフィルタ308−1〜308−5を備え、さらに、切り替え器310、A/D変換器311および信号処理装置312を備えた構成である。
【0008】
つまり、A/D変換器311の前段に切り替え器310を設けて、ビート信号B1〜B5を時分割にA/D変換器311によってデジタル信号にA/D変換し、該デジタル信号を取り込んだ信号処理装置312が、各信号の振幅および位相情報によりデジタルビームフォーミング処理を行うものである。しかしながら、従来例2に係るレーダ装置においては、複数の受信系Rx1〜Rx5により同一タイミングで受信した受信信号を処理することができない構成であるため、各受信信号(ビート信号B1〜B5)の振幅および位相情報に誤差を生じてしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、より安価な装置コストで実現できると共に、信号の振幅および位相情報に含まれる時間的誤差を低減して正確なデジタルビームフォーミング処理を行い得るレーダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のレーダ装置は、送信波を送信する送信手段(例えば、実施例での送信系Tx)と、前記送信波の反射波を受信するN個(Nは2以上の正整数)の受信手段(例えば、実施例での受信系Rx1〜Rx5)と、前記送信波の送信信号と前記受信波の受信信号とを混合処理した信号を所定のタイミングでサンプリングして、所定期間そのサンプリングしたレベルに固定するN個のサンプルホールド手段(例えば、実施例でのサンプルホールド回路109−1〜109−5)と、前記N個のサンプルホールド手段の出力を順次デジタル信号に変換するA/D変換手段(例えば、実施例での切り替え器110およびA/D変換器111)と、前記N個のサンプルホールド手段におけるサンプリングタイミングを決定し、前記A/D変換手段の出力に基づきデジタルビームフォーミング処理を行う信号処理手段(例えば、実施例での信号処理装置112)とを有することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の本発明のレーダ装置は、送信波を送信して該送信波の反射波を受信するN個(Nは2以上の正整数)の送受信手段と、前記送信波の送信信号と前記受信波の受信信号とを混合処理した信号を所定のタイミングでサンプリングして、所定期間そのサンプリングしたレベルに固定するN個のサンプルホールド手段と、前記N個のサンプルホールド手段の出力を順次デジタル信号に変換するA/D変換手段と、前記N個のサンプルホールド手段におけるサンプリングタイミングを決定し、前記A/D変換手段の出力に基づきデジタルビームフォーミング処理を行う信号処理手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
以上の構成を備えた本発明のレーダ装置は、送信信号と受信信号を混合処理した信号を所定タイミングでサンプリングして該サンプリングレベルに固定した信号をA/D変換手段により順次デジタル信号に変換するので、受信手段または送受信手段アンテナの個数Nと同数の高価なA/D変換器を必要とすることなく、1個のA/D変換手段で構成でき、レーダ装置のコストを安価なものとすることができる。また、N個のサンプルホールド手段におけるサンプリングタイミングを調整することにより、信号処理手段は、ほぼ同一時刻の混合処理した信号に基づいてデジタルビームフォーミング処理を行うことができるので、信号の振幅および位相情報に含まれる時間的誤差を低減して正確な処理を行うことができる。
【0013】
また、請求項3に記載の本発明のレーダ装置は、請求項1または請求項2に記載のレーダ装置において、前記N個のサンプルホールド手段は、同一タイミングでサンプリングすることを特徴とする。
【0014】
以上の構成を備えた本発明のレーダ装置は、N個のサンプルホールド手段において同一タイミングでサンプリングを行うことにより、信号処理手段は、同一時刻の混合処理した信号に基づいてデジタルビームフォーミング処理を行うことができるので、信号の振幅および位相情報に時間的誤差が生じることなく正確な処理を行うことができる。
【0015】
さらに、請求項4に記載の本発明のレーダ装置は、請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーダ装置において、前記送信手段または前記送受信手段の送信部は、所定周波数を持つ送信信号に基づいて前記送信波を送信し、前記受信手段または前記送受信手段の受信部は、前記反射波を受信してなる受信信号を前記送信信号と同じ周波数を持つローカル信号と混合することによりビート信号を得て、前記N個のサンプルホールド手段は、前記ビート信号について、所定タイミングでサンプリングして所定期間そのサンプリングしたレベルに固定することを特徴とする。
【0016】
以上の構成を備えた本発明のレーダ装置は、送信信号と受信信号を混合処理したビート信号を所定タイミングでサンプリングして該サンプリングレベルに固定した信号をA/D変換手段により順次デジタル信号に変換するので、1個のA/D変換手段による構成でレーダ装置のコストを安価なものとすることができると共に、信号処理手段は、ほぼ同一時刻の混合処理したビート信号に基づいてデジタルビームフォーミング処理を行うことができるので、信号の振幅および位相情報に含まれる時間的誤差を低減して正確な処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のレーダ装置によれば、送信波を送信する送信手段と、送信波の反射波を受信するN個の受信手段と、送信波の送信信号と受信波の受信信号とを混合処理した信号について、所定タイミングでサンプリングして所定期間そのサンプリングしたレベルに固定するN個のサンプルホールド手段と、N個のサンプルホールド手段の出力を順次デジタル信号に変換するA/D変換手段と、N個のサンプルホールド手段におけるサンプリングタイミングを決定し、A/D変換手段の出力に基づきデジタルビームフォーミング処理を行う信号処理手段と、を備えた構成としたので、受信手段または送受信手段アンテナの個数Nと同数の高価なA/D変換器を必要とすることなく、1個のA/D変換手段で構成でき、レーダ装置のコストを安価なものとすることができる。
【0018】
また、N個のサンプルホールド手段におけるサンプリングタイミングを調整することにより、信号処理手段は、ほぼ同一時刻の混合処理した信号に基づいてデジタルビームフォーミング処理を行うことができるので、信号の振幅および位相情報に含まれる時間的誤差を低減して正確な処理を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明のレーダ装置の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係るレーダ装置の構成図である。図1において、本実施例のレーダ装置は、送信系TxにVCO(電圧制御発振器)101、アンプ102および送信アンテナ103を備え、5個の受信系Rx1〜Rx5にそれぞれ受信アンテナ104−1〜104−5、RFアンプ105−1〜105−5、ミキサ105−1〜106−5、BBアンプ107−1〜107−5およびバンドパスフィルタ108−1〜108−5を備え、さらに、サンプルホールド回路109−1〜109−5、切り替え器110、A/D変換器111および信号処理装置112を備えて構成されている。
【0020】
図2に、本実施例のレーダ装置における各種信号のタイミングチャートを示す。同図を参照しながら各構成要素の機能および作用について詳しく説明する。
まず、送信系Txにおいて、VCO(電圧制御発振器)101は、例えば時間に対して周波数が直線的に漸増,漸減を繰り返すよう変調されたミリ波帯の高周波信号を生成して、送信信号と受信系Rx1〜Rx5へのローカル信号Lに電力分配して出力する。こうしてVCO101によって変調された送信信号がアンプ102によって増幅された後、送信アンテナ103を介して送信波が放射される。
【0021】
次に、受信系Rx1〜Rx5においては、送信系Txより放射された送信波の反射波を、アレーアンテナを構成する複数の受信アンテナ104−1〜104−5によって同時受信する。受信信号はRFアンプ105−1〜105−5により増幅された後、ミキサ105−1〜106−5によってVCO101からの送信信号と同じ周波数を有するローカル信号とミキシングされ、ビート信号が得られる。
【0022】
さらに、ビート信号は、BBアンプ107−1〜107−5により所定レベルまで増幅され、バンドパスフィルタ108−1〜108−5によって所定周波数帯域にフィルタリングされて、ビート信号B1〜B5となる。
【0023】
次に、サンプルホールド回路109−1〜109−5では、信号処理装置112からのサンプルホールド信号SH1(図2(a)参照)に基づくタイミング制御により、ビート信号B1〜B5をサンプルホールドする。すなわち、サンプルホールド信号SH1がHレベル(図2(a)中のS)にある期間にビート信号B1〜B5がサンプリングされ、該サンプリングタイミングのビート信号B1〜B5の信号レベルが、該Hレベルの直後にサンプルホールド信号SH1がLレベル(図2(a)中のH)にある期間にわたって保持(ホールド)されることになる。図2(b)〜(f)に、ビート信号B1〜B5(図中の破線)とサンプルホールドされたビート信号BH1〜BH5(図中の実線)を示す。
【0024】
次に、切り替え器110では、サンプルホールド回路109−1〜109−5のホールド期間中に、信号処理装置112からの切り替え器選択信号SEL1(図2(g)参照)に従って、サンプルホールドされたビート信号BH1〜BH5を順次選択して出力する。そしてA/D変換器111において、信号処理装置112からのA/D変換クロックADCL1(図2(h)参照)の立ち上がりタイミングで、選択されたビート信号BH1〜BH5が順次デジタル信号に変換される。
【0025】
さらに、信号処理装置112では、デジタル信号に変換された各ビート信号の振幅および位相情報によりデジタルビームフォーミング処理(各ビート信号B1〜B5に位相演算を含む重み付けをして加算する等のデジタル信号処理)を行うことによりビーム形成を行う。
【0026】
以上説明したように、本実施例のレーダ装置では、送信波を送信する送信系Txと、送信波の反射波を受信する5個の受信系Rx1〜Rx5と、送信波の送信信号と受信波の受信信号とを混合処理した信号について、所定タイミングでサンプリングして所定期間そのサンプリングしたレベルに固定するサンプルホールド回路109−1〜109−5と、該サンプルホールド回路109−1〜109−5の出力を順次デジタル信号に変換する切り替え器110およびA/D変換器111と、サンプリングタイミングを決定し、A/D変換器111の出力に基づきデジタルビームフォーミング処理を行う信号処理装置112と、を備えた構成としたので、受信系の個数と同数の高価なA/D変換器を必要とすることなく、1個のA/D変換器で構成でき、レーダ装置のコストを安価なものとすることができる。また、サンプルホールド回路109−1〜109−5におけるサンプリングタイミングをサンプルホールド信号SH1により同一タイミングに調整することにより、信号処理装置112は、同一時刻の混合処理した信号に基づいてデジタルビームフォーミング処理を行うことができるので、信号の振幅および位相情報に含まれる時間的誤差を低減して正確な処理を行うことができる。
【0027】
なお、以上説明した実施例では、1個の送信系Txと5個の受信系Rx1〜Rx5による構成を示したが、送信系Txを5個の受信系Rx1〜Rx5に融合させた5個の送受信系による構成としても同等の効果を奏することができる。当該レーダ装置の使用目的や適用する装置における配置等を勘案して何れかの構成が選択されることになる。
【0028】
また、実施例の説明では、サンプルホールド回路109−1〜109−5におけるサンプリングタイミングを同一としたが、それぞれ独立にタイミング制御を行ってタイミング調整することも可能である。特に、N個の送受信系による構成とした場合には、VCOのローカル信号の位相ずれや該ローカル信号の分配による位相ずれなど、他の要因によって時間的誤差が発生する恐れもあるが、このサンプリングタイミングの調整によって補正することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施例に係るレーダ装置の構成図である。
【図2】実施例のレーダ装置における各種信号のタイミングチャートである。
【図3】従来例1に係るレーダ装置の構成図である。
【図4】従来例2に係るレーダ装置の構成図である。
【符号の説明】
【0030】
Tx 送信系(送信手段)
Rx1〜Rx5 受信系(受信手段)
101 VCO(電圧制御発振器)
102 アンプ
103 送信アンテナ
104−1〜104−5 受信アンテナ
105−1〜105−5 RFアンプ
106−1〜106−5 ミキサ
107−1〜107−5 BBアンプ
108−1〜108−5 バンドパスフィルタ
109−1〜109−5 サンプルホールド回路
110 切り替え器(A/D変換手段)
111 A/D変換器(A/D変換手段)
112 信号処理装置
B1〜B5 ビート信号
BH1〜BH5 サンプルホールドされたビート信号
SH1 サンプルホールド信号
ADCL1 A/D変換クロック
SEL1 切り替え器選択信号


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信波を送信する送信手段と、
前記送信波の反射波を受信するN個(Nは2以上の正整数)の受信手段と、
前記送信波の送信信号と前記受信波の受信信号とを混合処理した信号を所定のタイミングでサンプリングして、所定期間そのサンプリングしたレベルに固定するN個のサンプルホールド手段と、
前記N個のサンプルホールド手段の出力を順次デジタル信号に変換するA/D変換手段と、
前記N個のサンプルホールド手段におけるサンプリングタイミングを決定し、前記A/D変換手段の出力に基づきデジタルビームフォーミング処理を行う信号処理手段と、
を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
送信波を送信して該送信波の反射波を受信するN個(Nは2以上の正整数)の送受信手段と、
前記送信波の送信信号と前記受信波の受信信号とを混合処理した信号を所定のタイミングでサンプリングして、所定期間そのサンプリングしたレベルに固定するN個のサンプルホールド手段と、
前記N個のサンプルホールド手段の出力を順次デジタル信号に変換するA/D変換手段と、
前記N個のサンプルホールド手段におけるサンプリングタイミングを決定し、前記A/D変換手段の出力に基づきデジタルビームフォーミング処理を行う信号処理手段と、
を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
前記N個のサンプルホールド手段は、同一タイミングでサンプリングすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記送信手段または前記送受信手段の送信部は、所定周波数を持つ送信信号に基づいて前記送信波を送信し、前記受信手段または前記送受信手段の受信部は、前記反射波を受信してなる受信信号を前記送信信号と同じ周波数を持つローカル信号と混合することによりビート信号を得て、前記N個のサンプルホールド手段は、前記ビート信号を所定のタイミングでサンプリングして所定期間そのサンプリングしたレベルに固定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のレーダ装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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