説明

レーダ装置

【課題】ドップラーレーダの如き搬送波を用いることなく、モノパルスを用いて精度良く対象物との相対速度を計測可能なレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置1に、所定の時間間隔(T)でモノパルス群6・6・・・を発生する発生部2と、発生部2にて発生したモノパルス群6・6・・・を他の自動車20に向けて送信する送信部3と、他の自動車20により反射されたモノパルス群7・7・・・を受信する受信部4と、モノパルス群6・6・・・の送信時刻とモノパルス群7・7・・・の受信時刻との差(ずれ時間)のモノパルス間の変化量(ずれ時間の差)、所定の時間間隔(T)、およびモノパルスの速度(υ)に基づいて他の自動車20の自動車10に対する相対速度(ΔV)を算出する算出部5と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置の技術に関する。より詳細には、ドップラー効果を用いることなく対象物との間の相対速度を計測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性を向上するための技術として、他の自動車との相対速度や距離を計測するためのレーダを自動車に搭載し、当該レーダによる計測計測値に基づいてエンジンの回転数やブレーキの制動力を制御することにより自動車の走行速度を制御したり、あるいは衝突前にエアバッグを作動させるといった技術が検討されている。
【0003】
このようなレーダのうち、対象物との相対速度を計測する技術としてはいわゆるドップラーレーダが知られている。
ドップラーレーダは対象物に所定の周波数の搬送波(送信波)を送信して対象物により反射された搬送波(受信波)を受信し、ドップラー効果に基づく送信波と受信波の周波数(波長)の相違を利用して対象物との間の相対速度を計測するものである。
【0004】
また、近年、モノパルスレーダやモノパルスを用いたUWB(Ultra Wide Band)レーダを自動車に搭載し、他の自動車や障害物との距離(相対距離)を計測する技術も検討されている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
【0005】
自動車にドップラーレーダとモノパルスレーダの両方を搭載すると、コストが大きくなることから、モノパルスレーダのみで他の自動車との相対速度および距離の両方を計測可能とすることが求められている。このような問題点を解消する方法として、特許文献3に記載の方法が提案されている。
特許文献3に記載の方法は、UWB信号を用いて対象物たる他の自動車との距離を算出し、次いで算出された距離の変化量および変化に要した時間に基づいて他の自動車との相対速度を算出するものである。
【特許文献1】特開2005−121509号公報
【特許文献2】特開2004−4100号公報
【特許文献3】特開2003−242600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、モノパルスレーダでは、その原理上、ドップラー効果を利用して他の自動車との相対速度を計測することが困難である。
また、特許文献3に記載の方法は、距離を算出する際の誤差が算出された相対速度に重畳的に含まれることとなり、算出された相対速度の精度を向上することが困難であるという問題がある。
さらに、モノパルスに搬送波をミキシングし、当該搬送波のドップラー効果を利用して相対速度を計測する方法も考えられるが、この方法では、モノパルスのパルス幅が小さい場合に精度良く相対速度を計測することが困難である。
本発明は以上の如き状況に鑑み、ドップラーレーダの如き搬送波を用いることなく、モノパルスを用いて精度良く対象物との相対速度を計測可能なレーダ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、
所定の時間間隔でモノパルスを発生する発生部と、
前記モノパルスを対象物に向けて送信する送信部と、
前記対象物により反射されたモノパルスを受信する受信部と、
前記モノパルスの送信時刻と受信時刻との差のモノパルス間の変化量、前記所定の時間間隔、およびモノパルスの速度に基づいて対象物の相対速度を算出する算出部と、
を具備するものである。
【0009】
請求項2においては、
前記発生部は、
モノパルス群を所定の時間間隔で発生し、
前記算出部は、
前記モノパルス群の送信時刻と受信時刻との差のモノパルス群間の変化量、前記所定の時間間隔、およびモノパルス速度に基づいて対象物の相対速度を算出するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
請求項1においては、ドップラーレーダの如き搬送波を用いることなく、モノパルスを用いて精度良く対象物との相対速度を計測可能である。
【0012】
請求項2においては、単一のモノパルスよりも受信部における検出が容易であり、相対速度の計測精度の向上に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下では、図1乃至図4を用いて本発明のレーダ装置の実施の一形態であるレーダ装置1について説明する。
図1に示す如く、レーダ装置1は主として発生部2、送信部3、受信部4、算出部5を具備する。
図2に示す如く、レーダ装置1は自動車10に搭載され、他の自動車20と自動車10との車間距離および相対速度(速度差)を計測するものである。
レーダ装置1により計測された他の自動車20と自動車10との車間距離および相対速度に係る情報は、例えば自動車の安全性を向上するための種々の制御(エンジン出力やブレーキ制動力の制御、エアバッグ等の作動等)に供される。
なお、本実施例は自動車10に搭載する構成としているが、本発明に係るレーダ装置はこれに限定されず、他の移動体(例えば、バイク、列車、船舶等)等に広く適用可能である。また、本発明に係るレーダ装置による相対速度の計測の対象物は自動車に限定されず、他の移動体(例えば、バイク、列車、船舶等)でも良い。
【0014】
発生部2は所定の時間間隔(T)でモノパルス群6・6・・・を発生するものである。
ここで、所定の時間間隔(T)は変更可能であるが、本実施例の如く自動車10に適用する場合には、他の自動車20との相対速度を精度良く計測する観点から、所定の時間間隔(T)を極力短くすることが望ましい。
また、本発明に係る「モノパルス」は単一のパルス信号を指し、「モノパルス群」は発生時刻が異なる複数のモノパルスの集合体(群)を指す。
図3に示す如く、本実施例の場合、あるモノパルス群6を構成する複数のモノパルスのうち、先頭の(発生時刻が最も早い)モノパルスの発生時刻から、次のモノパルス群6における先頭のモノパルスの発生時刻までの時間差をモノパルス群6・6・・・の所定の時間間隔(T)とし、これを500nsとしている。また、同一のモノパルス群6のうちの先頭のモノパルスが発生してから最後尾のモノパルスが発生するまでの時間(モノパルス群の幅)を0.5nsとしている。
発生部2は専用品でも良いが、市販のパルス信号発生装置等を用いて達成することも可能である。
【0015】
送信部3はノイズフィルターや信号増幅回路等を経て発生部2に接続され、発生部2にて発生したモノパルスを他の自動車20に向けて送信するものである。本実施例の場合、送信部3により他の自動車20に向けて送信されるモノパルスは電波、光、超音波、可聴域の音波のいずれでも良い。また、モノパルス内には周波数調整のための搬送波が入っていても良く、搬送波は信号処理工程でモノパルス形状となっていれば良い。
送信部3は専用品でも良いが、市販の送信アンテナ等を用いて達成することも可能である。
【0016】
受信部4は、送信部3により送信されたモノパルス群6・6・・・が他の自動車20により反射されたものであるモノパルス群7・7・・・を受信するものである。
受信部4は専用品でも良いが、市販の受信アンテナ等を用いて達成することも可能である。
また、送信部3および受信部4を別体とせずに同一のアンテナとするとともに、当該アンテナの送受信の切り替えを行う切替装置を具備する構成とすることも可能である。
ただし、本実施例の如く自動車に適用する場合、他の自動車20との車間距離が数十cmから数十m程度と短いため、モノパルス群6・6・・・が送信されてから対象物たる他の自動車20で反射し、モノパルス群7・7・・・として受信されるまでに要する時間が非常に短くなり、アンテナの送受信の切り替えが間に合わなくなる場合がある。
従って、他の自動車20との車間距離が短い状況下で他の自動車20との相対速度を計測するという観点からは、送信部3および受信部4を別体とすることが望ましい。
【0017】
算出部5はモノパルス群6・6・・・の送信時刻とモノパルス群7・7・・・の受信時刻との差のモノパルス(群)間の変化量、所定の時間間隔(T)、およびモノパルスの速度(υ)に基づいて対象物の相対速度を算出するものである。
算出部5はノイズフィルターや信号増幅回路等を経て受信部4と接続され、受信部4により受信されたモノパルス群7・7・・・に係る情報(受信部4により受信されたモノパルス群7・7・・・の受信時刻等)を取得することが可能である。
また、算出部5は発生部2と接続され、発生部2の動作を制御可能であるとともに、発生部2が発生させたモノパルス群6・6・・・に係る情報(例えば、発生部2が発生させたモノパルス群6・6・・・のそれぞれの発生時刻等)を取得することが可能である。
【0018】
算出部5は、他の自動車20と自動車10との車間距離を計測するためのプログラム車間距離計測プログラム)および、他の自動車20と自動車10との相対速度を計測するためのプログラム(相対速度計測プログラム)を格納するための格納部、これらのプログラムを展開するための展開部、これらのプログラムに従って所定の演算を行うための演算部、演算結果を記憶する記憶部等を具備する。
なお、本実施例の算出部5は専用品であるが、算出部5の機能を自動車10のECU(Electronic Control Unit)に持たせる構成としても良い。
また、本実施例では発生部2と算出部5とを別体としたが、一体としても良い。
【0019】
以下、算出部5にて行われる所定の演算について説明する。
まず、算出部5は、発生部2からモノパルス群6・6・・・の発生時刻に係る情報を取得し、これに基づいてモノパルス群6・6・・・の送信時刻に係る情報を取得する。なお、通常はモノパルス群6・6・・・の発生時刻とモノパルス群6・6・・・の送信時刻とは同時刻であるが、モノパルス群6・6・・・の発生時刻とモノパルス群6・6・・・の送信時刻との間にタイムラグがある場合にはモノパルス群6・6・・・の発生時刻に基づいて適宜モノパルス群6・6・・・の送信時刻を算出する。
図3に示す如く、モノパルス群6・6・・・の送信時刻がそれぞれt01・t02・t03・t04・・・であるとすると、モノパルス群6・6・・・の送信時刻t01・t02・t03・t04・・・の間には、T=(t02−t01)=(t03−t02)=(t04−t03)=・・・が成立する。
【0020】
次に、算出部5は、受信部4からモノパルス群7・7・・・の受信時刻に関する情報を取得する。
図3に示す如く、モノパルス群7・7・・・の送信時刻がそれぞれt11・t12・t13・t14・・・であるとする。
【0021】
続いて、算出部5は、対応するモノパルス群6の送信時刻とモノパルス群7の受信時刻との間のずれ時間(時間差)Δt1・Δt2・Δt3・Δt4・・・を算出する。
図3に示す如く、一番目のモノパルス群6の送信時刻とモノパルス群7の受信時刻との間のずれ時間Δt1=(t11−t01)、二番目のモノパルス群6の送信時刻とモノパルス群7の受信時刻との間のずれ時間Δt2=(t12−t02)、三番目のモノパルス群6の送信時刻とモノパルス群7の受信時刻との間のずれ時間Δt3=(t13−t03)、四番目のモノパルス群6の送信時刻とモノパルス群7の受信時刻との間のずれ時間Δt4=(t14−t04)、となる。
【0022】
続いて、算出部5は、ずれ時間Δt1・Δt2・Δt3・Δt4・・・およびモノパルス群6・6・・・およびモノパルス群7・7・・・の大気中の速度(モノパルス速度)υを用いて、時刻t01・t02・t03・t04・・・における他の自動車20と自動車10との車間距離L1・L2・L3・L4・・・を算出する。
時刻t01における車間距離L1=(1/2)×υ×Δt1、時刻t02における車間距離L2=(1/2)×υ×Δt2、時刻t03における車間距離L3=(1/2)×υ×Δt3、時刻t04における車間距離L4=(1/2)×υ×Δt4、となる。
このようにして算出された他の自動車20と自動車10との車間距離に係る情報は、自動車10のECU等に送信され、自動車10の制御に供される。
【0023】
また、算出部5は、時刻t01・t02・t03・t04・・・における他の自動車20と自動車10との車間距離L1・L2・L3・L4・・・の変化量ΔLと、同時刻における他の自動車20と自動車10との相対速度ΔVとの間にΔL=ΔV×Tの関係が成立することを用いて、他の自動車20と自動車10との相対速度ΔVを算出する。
【0024】
例えば、時刻t01から時刻t02までの間の平均の相対速度をΔV1とすると、ΔV1=(L2−L1)/T=υ×(Δt2−Δt1)/(2×T)となる。
同様に、時刻t02から時刻t03までの間の平均の相対速度をΔV2とすると、ΔV2=(L3−L2)/T=υ×(Δt3−Δt2)/(2×T)となり、時刻t03から時刻t04までの間の平均の相対速度をΔV3とすると、ΔV3=(L4−L3)/T=υ×(Δt4−Δt3)/(2×T)となる。
【0025】
このように、算出部5は、先に算出した車間距離L1・L2・L3・L4・・・を直接用いることなく、相対速度ΔV1を、送信時刻の異なるモノパルス群間のずれ時間の差(Δt2−Δt1)、所定の時間間隔(T)、およびモノパルス速度(υ)を用いて算出することができる。
相対速度ΔV1を算出するための要素のうち、所定の時間間隔(T)およびモノパルス速度(υ)は既知の値であるため、算出部5はずれ時間(ずれ時間の差)を精度良く求めることにより、相対速度ΔV1を精度良く算出することが可能である。
また、先に算出した車間距離L1・L2・L3・L4・・・を相対速度ΔV1の算出に直接用いないため、算出時の誤差が重畳的とならず、高い精度を保持することが可能である。
【0026】
さらに、従来のドップラーレーダでは、搬送波の周波数の変化を検出するためにある程度の時間を要するために相対速度をリアルタイムで精度良く求めるのが困難であった。
これに対して本実施例では、わずか500nsの所定の時間間隔(T)の間に取得されるデータで相対速度を算出することが可能である。
【0027】
このようにして算出された他の自動車20と自動車10との相対速度に係る情報は、自動車10のECU等に送信され、自動車10の制御に供される。
【0028】
以上の如く、本発明に係るレーダ装置の実施の一形態であるレーダ装置1は、
所定の時間間隔(T)でモノパルス群6・6・・・を発生する発生部2と、
発生部2にて発生したモノパルス群6・6・・・を他の自動車20に向けて送信する送信部3と、
他の自動車20により反射されたモノパルス群7・7・・・を受信する受信部4と、
モノパルス群6・6・・・の送信時刻とモノパルス群7・7・・・の受信時刻との差(ずれ時間)のモノパルス間の変化量(ずれ時間の差)、所定の時間間隔(T)、およびモノパルスの速度(υ)に基づいて他の自動車20の自動車10に対する相対速度(ΔV)を算出する算出部5と、
を具備するものである。
このように構成することにより、ドップラーレーダの如き搬送波を用いることなく、モノパルスを用いて他の自動車20と自動車10との相対速度を計測することが可能である。
また、レーダ装置1により算出された他の自動車20と自動車10との車間距離に係る情報を直接用いることなく、モノパルス群のずれ時間と既知の値(所定の時間間隔(T)およびモノパルス速度(υ))とを用いて他の自動車20と自動車10との相対速度を計測するため、相対速度の計測精度を向上することが可能である。
さらに、搬送波を用いずにモノパルスを用いるため、車間距離の計測と同時に相対速度の計測が可能であり、相対速度の計測に要する時間を短縮することが可能である。
【0029】
なお、本実施例では複数のモノパルスの集合体であるモノパルス群を所定の時間間隔で送信する構成としたが、単一のモノパルスを所定の時間間隔で送信する構成としても同様の効果を奏する。
モノパルス群として送信し、図3におけるTを可変とすることにより、レーダ単体の識別が可能となり、相対速度の計測精度の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るレーダ装置の実施の一形態を示す模式図。
【図2】レーダ装置を具備する自動車と他の自動車の位置を示す図。
【図3】送信信号と受信信号の関係を示す図。
【図4】ずれ時間の差と相対速度との関係を示す図。
【符号の説明】
【0031】
1 レーダ装置
2 発生部
3 送信部
4 受信部
5 算出部
6 モノパルス群(送信時)
7 モノパルス群(受信時)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の時間間隔でモノパルスを発生する発生部と、
前記モノパルスを対象物に向けて送信する送信部と、
前記対象物により反射されたモノパルスを受信する受信部と、
前記モノパルスの送信時刻と受信時刻との差のモノパルス間の変化量、前記所定の時間間隔、およびモノパルスの速度に基づいて対象物の相対速度を算出する算出部と、
を具備することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記発生部は、
モノパルス群を所定の時間間隔で発生し、
前記算出部は、
前記モノパルス群の送信時刻と受信時刻との差のモノパルス群間の変化量、前記所定の時間間隔、およびモノパルス速度に基づいて対象物の相対速度を算出することを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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