説明

レール支持具

【課題】軽量で、且つ、レールと軌道スラブとの間の隙間に応じて使い分けが可能なレール支持具を提供する。
【解決手段】レール支持具10は、第1の基準面12と第1の傾斜面14とで「第1の楔」が形成され、また、第2の基準面16と第2の傾斜面18とで「第2の楔」が形成され、しかも、両者の最狭幅X,Yは互いに異なっているので、第1の楔と第2の楔とでは、レール据付面1とレールRとの間に挿入したときの高さが異なる。このように、高さの異なる2種類の楔(第1の楔と第2の楔)を1つのレール支持具10で使い分けることができるので、大きさの異なるレールRとレール据付面1との間の隙間に対して1つのレール支持具10で挿入することが可能となり、費用的・労力的なロスを大幅に軽減できるようになった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設のレールの高さ調整作業を行う際に、レール据付面とレールとの間の隙間に挿入して該レールを所定高さで支持するレール支持具の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用のレールを支える道床の1つに「スラブ軌道」が知られている。このスラブ軌道は、図10に示すように、コンクリート路盤1上に絶縁板2を介してタイプレート3と呼ばれるコンクリート製の板をボルト止めし、タイプレート3の上に緩衝材4を介してレールRを敷設する構造となっている。
【0003】
緩衝材4は、樹脂を硬化させて形成される可変パッド4a、ゴム製の微調プレート4bおよび金属製の軌道パット4cにより大略構成されており、レールR敷設時には、可変パッド4aの厚みを所定の厚みにすることによって(換言すれば、樹脂の充填量を調整することによって)レールRの高さ調整が行なわれる。
【0004】
スラブ軌道は、上述したようにコンクリート製の路盤1を基礎としており、構造的にレールRの狂いが生じ難いため、新幹線のような高速車両用の道床として広く採用されている。
【0005】
とはいえ、長期間使用しているとレールRの上面が次第に擦り減り、レール面が当初よりも低くなってくる(図10参照)。特に、新幹線のような高速車両を走行させる場合、レールの僅かな高低差が列車の安定運行を妨げる要因となるので、その整備基準は非常に厳しく定められており(或る基準点から10m先の地点と40m先の地点の高低差が夫々2mm以内になるよう定められている)、安全運行のため保守点検作業が毎夜行なわれている。
【0006】
さて、保守点検の結果、レール面が所定範囲を越えて低くなっている場所が見つかった場合には、レールの高さ調整作業が必要となってくる。
【0007】
ここで、スラブ軌道におけるレールの高さ調整作業についてその手順を簡単に説明すると、まず、高さ調整が必要なレールをクレーンなどの重機で持上げ、レール据付面であるコンクリート路盤1とレールRとの間の隙間に非常に緩いテーパを有するレール支持具を所定間隔おきに挿入する。
【0008】
レール支持具の上にレールRを降ろすと、レールRと緩衝材4との間にはレールRが擦り減った分だけ隙間が生ずることになるので、この隙間に充填材を流し込み、充填材を硬化させた後レール支持具を抜き取れば高さ調整作業が完了する。
【0009】
なお、同様の高さ調整作業方法が開示された文献として、例えば特許文献1が挙げられる。
【特許文献1】実開昭52−116809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
レールRの摩耗状態は場所によって異なるため、当然、軌道スラブとレールとの間の隙間の大きさも場所によって異なることになる。そこで、従来は、大きさの異なる複数種類のレール支持具を準備しておき、隙間に適合するサイズのレール支持具を適宜選択していた。
【0011】
しかし、サイズの異なる複数種類のレール支持具を多量に準備し、しかも、この多量のレール支持具を全て作業現場に持ち込んで作業を行なうとなると、費用的にも労力的にもロスが大きいという問題があった。
【0012】
勿論、特許文献1に記載されているように、高さ調整機構付きのレール支持具を使用すれば、大きさの異なるレール支持具を複数種類用意する必要はなくなるが、複雑な高さ調整機構を備えている分、レール支持具そのものが大重量となるため、作業労力上の負担は却って増大してしまう。
【0013】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、軽量で、且つ、レールと軌道スラブとの間の隙間に応じて使い分けが可能なレール支持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載した発明は、「既設のレールRの高さ調整作業を行う際に、レール据付面1とレールRとの間の隙間に挿入して該レールRを所定高さで支持する棒状のレール支持具10(10’)であって、レール支持具10(10’)は、第1の基準面12(12’)と、第1の基準面12(12’)と交差する第2の基準面16(16’)と、第1の基準面12(12’)の反対側に設けられ、第1の基準面12(12’)に対して40分の1の角度で傾斜している第1の傾斜面14(14’)と、第2の基準面16(16’)の反対側に設けられ、第2の基準面16(16’)に対して40分の1の角度で傾斜している第2の傾斜面18(18’)とを備えており、第1の基準面12(12’)と第1の傾斜面14(14’)との間の最狭幅Xが、第2の基準面16(16’)と第2の傾斜面18(18’)との間の最狭幅Yと異なるように設定されている」ことを特徴とするレール支持具である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、「第1の傾斜面14(14’)ならびに第2の傾斜面18(18’)には、複数の穴20(20’),26(26’)がその長手方向に並んで形成されている」ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明では、第1の基準面12(12’)と第1の傾斜面14(14’)とで「第1の楔」が形成され、また、第2の基準面16(16’)と第2の傾斜面18(18’)とで「第2の楔」が形成され、しかも、両者の最狭幅X,Yは互いに異なっているので、第1の楔と第2の楔とでは、レール据付面1とレールRとの間に挿入したときの高さが異なる。このように、高さの異なる2種類の楔(第1の楔と第2の楔)を1つのレール支持具10(10’)で使い分けることができるので、大きさの異なるレールRとレール据付面1との間の隙間に対して1つのレール支持具10(10’)で挿入することが可能となり、費用的・労力的なロスを大幅に軽減できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図面に従って説明する。図1は、本発明にかかる第1実施例のレール支持具10を示す斜視図であり、図2は、図1におけるA−A線断面図であり、図3は、図1におけるB−B線断面図である。
【0018】
レール支持具10は、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)のような軽量性と圧縮強度とを兼ね備えた合成樹脂によって射出成形された棒状部材であり、その底面(図1における底面)には、第1の基準面12が形成されており、第1の基準面12の反対側には、第1の傾斜面14が形成されており、第1の基準面12の隣には、第2の基準面16が第1の基準面12と交差するように(本実施例では直交するように)設けられており、第2の基準面16の反対側には、第2の傾斜面18が設けられている。
【0019】
第1の基準面12は、後述する第1の傾斜面14と協働して「第1の楔」を構成する部分であり、その表面には、複数(本実施例では9つ)の深穴20が所定間隔を隔ててその長手方向に並んで形成されている。
【0020】
各深穴20の穴底20aはレール支持具10の中心近くにまで到達しており、これにより、レール支持具10の軽量化とヒケ防止とが図られている。
【0021】
各深穴20の形状は、本実施例では断面矩形状であるが、その形状は特に限定されるものではなく、例えば断面円形状であってもよい。
【0022】
第1の傾斜面14は、上述した第1の基準面12と協働して「第1の楔」を構成する部分であり、第1の基準面12に対して40分の1だけ、即ち、第1の基準面12と平行な方向に40進んだら第1の基準面12に対して1近づくように(或いは遠ざかるように)傾斜している。なお、第1の傾斜面14が第1の基準面12に対して40分の1だけ傾斜しているのは、レールRの据付角度(レールRは、コンクリート路盤1に対して40分の1傾斜した状態で据付けられている)に合わせたものである。
【0023】
第1の傾斜面14には、複数(本実施例では9つ)の深穴22が上記深穴20と対応する位置にそれぞれ形成されており、これにより、レール支持具10の軽量化とヒケ防止とが図られている。
【0024】
各深穴22の穴底22aは、レール支持具10の中心近くにまで達してはいるが、深穴20と連通してはいない。深穴22と深穴20とが連通したのでは、レール支持具10の基材強度を十分に確保できないからである。
【0025】
本実施例において各深穴22は、上述した深穴20に合わせて断面矩形状に形成されているが、勿論、両者の断面形状を異なった形状に設定してもよい。
【0026】
第2の基準面16は、後述する第2の傾斜面18と協働して「第2の楔」を構成する部分であり、その表面には、複数(本実施例では8つ)の浅穴24が所定間隔を隔ててその長手方向に並んで形成されている。第2の基準面16の表面に浅穴24を設けることにより、レール支持具10の軽量化とヒケ防止とが図られている。
【0027】
各浅穴24の穴底24aは、第2の基準面16の表面近傍に位置しており、上記深穴20,22とは連通していない。浅穴24と各深穴20,22とが連通していると、レール支持具10の基材強度を十分に確保できないからである。
【0028】
各浅穴24の形状は、本実施例では断面矩形状となっているが、その形状は特に限定されるものではなく、たとえば図9に示すレール支持具10’のように断面円形状であってもよい。なお、図9のレール支持具10’では、その基本構造が図1のレール支持具10と同じであるため、対応する部材の参照番号にダッシュ(’)を付して表わした。
【0029】
第2の傾斜面18は、上述した第2の基準面16と協働して「第2の楔」を構成する部分であり、第1の傾斜面14と同様の理由により、第2の基準面16に対して40分の1だけ傾斜している。
【0030】
第2の傾斜面18の表面には、複数(本実施例では8つ)の浅穴26が上記浅穴24と対応する位置にそれぞれ形成されており、これにより、レール支持具10の軽量化とヒケ防止とが図られている。
【0031】
各浅穴26の穴底26aは第2の傾斜面18の表面近傍に位置しており、深穴22,24と連通はしていない。浅穴26と各深穴20,22とが連通していると、レール支持具10の基材強度を十分に確保できないからである。
【0032】
本実施例において各深穴22は、上述した深穴20に合わせて断面矩形状に形成されているが、勿論、両者の断面形状を異なった形状としてもよい。
【0033】
なお、本実施例では、「第1の楔」の最狭幅Xが「第2の楔」の最狭幅Yよりも短く設定されている(本実施例では、「第1の楔」の最狭幅Xが40mm(最広幅は46mm)に設定されており、「第2の楔」の最狭幅Yが45mm(最広幅は51mm)に設定されている。)。
【0034】
もちろん、図9に示すレール支持具10’のように「第1の楔」の最狭幅Xを「第2の楔」の最狭幅Yよりも長く設定してもよく、つまり、「第1の楔」の最狭幅Xと「第2の楔」の最狭幅Yとが同じ大きさでなければよい。
【0035】
なお、「第1の楔」の最狭幅Xと「第2の楔」の最狭幅Yとを同じ長さに設定していないのは、レール据付面1とレールRとの間にレール支持具10を挿入したときに、「第1の楔」として挿入する場合と、「第2の楔」として挿入する場合とで高さを異ならせるためである。本実施例では、狭幅側の「第1の楔」が嵩低側の楔として、広幅側の「第2の楔」が嵩高側の楔として機能することになる。
【0036】
以上のようにして形成されたレール支持具10を用いてレールRの高さ調整作業を行なう方法について説明する。
【0037】
まず、高さ調整が必要なレールR(すなわち、他の箇所に比べて低くなっているレールR)が所定の高さとなるように、より具体的には、擦り減ったレール面が敷設時のレール面と同じレベルとなるように図示しないクレーン等の重機で吊り上げる。レールRを吊り上げると、レールRと緩衝材4との間には、レールRが擦り減った分だけ隙間Sが空くことになる(図5参照)。
【0038】
次に、コンクリート路盤1とレールRとの間の隙間にレール支持具10を所定間隔をおいて挿入する(図4参照)。
【0039】
本実施例では、コンクリート路盤1とレールRとの間の隙間が大きいため、嵩高側である「第2の楔」、すなわち、第2の基準面16と第2の傾斜面18とが上下になるようにしてレール支持具10が挿入される(図6参照)。
【0040】
なお、これとは反対に、コンクリート路盤1とレールRとの間の隙間が小さい場合には、レール支持具10を90度回転させて嵩低側である「第1の楔」、すなわち、第1の基準面12と第1の傾斜面14とが上下になるようにしてレール支持具10を挿入すればよい。
【0041】
このように、本実施例のレール支持具10によれば、レール支持具10を90度回転させるだけで嵩低側の楔(本実施例では「第1の楔」)と、嵩高側の楔(本実施例では「第2の楔」)を切り換えることができるので、コンクリート路盤1とレールRとの間の隙間の大きさに応じた最適幅のレール支持具10を挿入することが可能となる。
【0042】
また、レール支持具10の4つの周面には複数の穴が所定間隔をおいて形成されているので(例えば、第1の傾斜面14の場合は9つの深穴22が所定間隔をおいて形成されているので)、レール支持具10の挿入時にこの穴を目印にすれば、レール支持具10の挿入量がほぼ同じになり、レールRを均一な高さにて支持することができるようになる。
【0043】
以上のようにしてレール支持具10の挿入作業が完了すると、レールRと緩衝材4との間にはレールRが擦り減った分だけ僅かに隙間Sが空いている(図7参照)。
【0044】
そこで、この僅かな隙間Sに充填材Mを流し込み、レールRと緩衝材4との間の隙間Sを充填する(図8参照)。充填材Mは、公知のものがそのまま用いられ、本実施例では、空気に触れると5分程で完全に硬化する性質のものが使用される。
【0045】
充填材Mが十分に硬化すると、レールRを極く僅か持上げて、コンクリート路盤1とレールRとの間からレール支持具10を抜き取る。そして、全てのレール支持具10の抜き取り作業が完了すれば、レールRを静かに下ろしてレールの高さ調整作業が完了する。
【0046】
本実施例のレール支持具10によれば、高さの異なる2種類の楔(第1の楔と第2の楔)をコンクリート路盤1とレールRとの間の隙間の大きさに応じて使い分けることにより、これまで複数種類用意しなければならなかったものを1種類のレール支持具10で対応できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】この発明の一実施例のレール支持具を示す斜視図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】図1におけるB−B線断面図である。
【図4】レール支持具の使用状態を示す図である。
【図5】レールを僅かに持上げた状態を示す図である。
【図6】レール据付面とレールとの間にレール支持具を挿入した状態を示す図である。
【図7】レール据付面とレールとの間にレール支持具を挿入した状態を示す別の図である。
【図8】レールと緩衝材との間の隙間に充填材を充填した状態を示す図である。
【図9】この発明の第2実施例のレール支持具を示す斜視図である。
【図10】スラブ軌道の概略構造を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
1…レール据付面(コンクリート路盤)
10…レール支持具
12…第1の基準面
14…第1の傾斜面
16…第2の基準面
18…第2の傾斜面
20…深穴
22…深穴
24…浅穴
26…浅穴
R…レール
X…「第1の楔」の最狭幅
Y…「第2の楔」の最狭幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のレールの高さ調整作業を行う際に、レール据付面とレールとの間の隙間に挿入して該レールを所定高さで支持する棒状のレール支持具であって、
前記レール支持具は、
第1の基準面と、
前記第1の基準面と交差する第2の基準面と、
前記第1の基準面の反対側に設けられ、前記第1の基準面に対して40分の1の角度で傾斜している第1の傾斜面と、
前記第2の基準面の反対側に設けられ、前記第2の基準面に対して40分の1の角度で傾斜している第2の傾斜面とを備えており、
前記第1の基準面と前記第1の傾斜面との間の最狭幅が、前記第2の基準面と前記第2の傾斜面との間の最狭幅と異なるように設定されているレール支持具。
【請求項2】
前記第1の傾斜面ならびに前記第2の傾斜面には、複数の穴がその長手方向に並んで形成されていることを特徴とする請求項1に記載のレール支持具。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−133146(P2010−133146A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309860(P2008−309860)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(397070325)日泉ポリテック株式会社 (2)
【出願人】(591025082)日泉化学株式会社 (19)
【Fターム(参考)】