説明

レール端部矯正方法

【課題】 レール端部の落ち込みを矯正して、その矯正効果を長期的に持続でき、簡単かつ安価にレールの端部を所望の高さ位置まで扛上することができるレール端部矯正方法を提供する。
【解決手段】 レール端部が落ち込み始める始点位置から落ち込みのない側のレール長手方向へ所定の長さの矯正加熱範囲を設定し、当該矯正加熱範囲におけるレールの頭部を鋼の変態点に基づいて求めた所定の温度まで加熱するレール加熱ステップS6と、当該加熱した矯正加熱範囲におけるレールの頭部を冷却するレール冷却ステップS7とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等の線路を構成するレールの矯正技術に関し、特に、レール端部の落ち込みを矯正しうるレール端部矯正方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道等の一部の路線では、複数本のレールを敷設し、その継目部の端部同士を継目板で連結して線路を構成している。しかしながら、上記継目部においては、列車が通過するたびに衝撃荷重を受けるため、長年の使用によってレールの端部が下方に変形する、いわゆる「落ち込み」と呼ばれる現象が発生することが知られている。この落ち込みが発生した継目部では、列車が通過する際に騒音や振動が発生してしまうという問題がある。
【0003】
上記落ち込みによる騒音等の問題は、レールを交換すれば解消されるが、レールの単価が高く、交換作業が非常に大がかりとなるため、コスト的および時間的に困難な場合が多い。したがって、従来、レールを交換することなく、落ち込みを補修するための技術が提案されている。代表的なものとしては、タイタンパーと呼ばれる加振機によって枕木の下の砂利をつき固める方法や、上方に山状に形成された矯正継目板を継目部に挿入する方法が知られている。
【0004】
また、特開平5−59701号公報には、レールを物理的に扛上(こうじょう)させる整正装置が提案されている(特許文献1)。この整正装置は、曲上げを必要とする継ぎ目箇所に据え付けられた後、三角トラス状の反力フレームの頂部に吊上げ装置を設け、レール断面の中心線に対して対称的にレール断面方向に対して回転自由な一対のフック先端をレール継目板中央部頭部顎下に係止し、この両フックを連結装置で連結したのち、これを目標の高さまで吊上げるようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開平5−59701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記タイタンパーによる補修は、レールの落ち込みを根本的に直すものではなく、一時的に軽減させる程度のものに過ぎない。このため、繰り返しの補修を経て落ち込み癖がついてしまったレールや、落ち込み量が大きいレールには効果が無く、整正することができないという問題がある。
【0007】
また、上記矯正継目板によって補修すると、レールの落ち込み開始位置に相当する屈曲部が、レールの頭頂面にコブとして残留する。このため、このコブに列車の車輪が衝突し、更なる落ち込みを誘発してしまうなど、補修効果を長期的に持続させることが困難であるという問題がある。
【0008】
さらに、特許文献1に記載された発明を含め、レールを物理的に扛上させる装置は、一般的に、重量があるため運搬や移動が困難であるし、高価なものが多い。また、特許文献1に記載の整正装置は、レールの曲上量が所望の値になるまで、吊り上げ作業を何度も繰り返す必要がある。このため、作業時間がかかるし、正確な曲上量を得るには熟練を要するという問題がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、レール端部の落ち込みを矯正して、その矯正効果を長期的に持続でき、簡単かつ安価にレールの端部を所望の高さ位置まで扛上することができるレール端部矯正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレール端部矯正方法の特徴は、レールの端部の落ち込みを矯正するレール端部矯正方法であって、前記レール端部が落ち込み始める始点位置から落ち込みのない側のレール長手方向へ所定の長さの矯正加熱範囲を設定し、当該矯正加熱範囲における前記レールの頭部を鋼の変態点に基づいて求めた所定の温度まで加熱するレール加熱ステップと、当該加熱した矯正加熱範囲における前記レールの頭部を冷却するレール冷却ステップとを有する点にある。
【0011】
また、本発明において、前記矯正加熱範囲における加熱長さは、前記レール端部の落ち込み量に対して一次関数で近似される関係式に基づいて設定されることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明において、前記矯正加熱範囲のレールを加熱する場合、レール底部の温度上昇を防止する底部冷却部材を前記レールの底部上面に設置し、前記レール頭部のみを加熱することが好ましい。
【0013】
また、本発明において、前記レール加熱ステップでは、さらに、加熱している前記レール頭部と砕石との間に当該砕石を保護するための砕石保護部材を設置することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明において、前記レール冷却ステップでは、前記矯正加熱範囲における落ち込みのない側から落ち込みのある端部側へ一方向に順次、前記レール頭部を急冷することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レール端部の落ち込みを矯正して、その矯正効果を長期的に持続でき、簡単かつ安価にレールの端部を所望の高さ位置まで扛上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
まず、本発明に係るレール端部矯正方法は、レールが加熱によって膨張する際、および冷却によって収縮する際に、レール内に発生する熱応力によってレールが変形する原理を利用するものである。そして、本願発明者らは、多数回に及ぶ実験の結果、レール端部の落ち込みを効果的に矯正するのに好適な加熱温度・加熱範囲・加熱部位等を特定するに至った。
【0017】
なお、本発明において矯正するレールの各構成部位は、図13に示すように、レールの上方部分をレール頭部(頭部)、中間部分をレール腹部(腹部)、および下方部分をレール底部(底部)という。また、レール頭部のうち車輪が主に接触する上面をレール頭頂面(頭頂面)、レール頭部の側面をレール頭部側面(頭部側面)といい、レール腹部の左右両側面をレール腹部側面(腹部側面)といい、レール底部のうち上面側をレール底部上面(底部上面)、下面側をレール底面(底面)という。
【0018】
以下、本発明に係るレール端部矯正方法の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施形態におけるレール端部矯正方法を示すフローチャート図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態のレール端部矯正方法は、主として、落ち込み量測定ステップS1と、加熱長さ算出ステップS2と、矯正加熱範囲設定ステップS3と、レール緩解ステップS4と、温度上昇防止手段設置ステップS5と、レール加熱ステップS6と、レール冷却ステップS7と、レール研磨ステップS8と、レール締結ステップS9とから構成されている。
【0020】
以下、各ステップについてより詳細に説明する。落ち込み量測定ステップS1は、レール端部の落ち込み量を測定する工程である。具体的には、まず、図2に示すように、レールの端部近傍において、落ち込みが発生していない部分の頭頂面に定規を当てる。そして、この定規の下端面とレール端部の頭頂面との隙間を隙間ゲージ等を用いて測定する。これにより、当該隙間がレール端部の落ち込み量として得られるようになっている。
【0021】
つぎに、加熱長さ算出ステップS2は、レールの矯正加熱範囲を設定するための加熱長さを算出する工程である。具体的には、ステップS1で測定した落ち込み量に対して、一次関数で近似される関係にある値を加熱長さとして算出する。これは、本願発明者らによる多数回の加熱実験の結果、所定の加熱長さで加熱したときのレールの扛上量が、当該加熱長さと一次関数で近似される関係にあることを見出したことに基づく。そして、レールの扛上量が、落ち込み量と等しくなるように加熱長さを設定すれば、落ち込みが解消される。
【0022】
また、本実施形態において、50N型のレールを加熱矯正する場合、後述する実施例で求めた下記近似式により、加熱長さを算出するようになっている。
Y=113.27X+319.24 (R=0.8713)
ただし、X:落ち込み量 Y:加熱長さ R:相関係数
また、50N型レールの鉛直方向の断面二次モーメントが1960cm4であるのに対し、50PS型レールでは1740cm4であり、50T型レールでは2300cm4である。したがって、50PS型レールを加熱矯正する場合、上記50N型レールとの断面二次モーメント比に応じて前記加熱長さを約1割減らせばよく、50T型レールを加熱矯正する場合、同様に上記加熱長さを約1割増やせばよい。その他の型のレールについても同様の考え方が適用可能であるが、より正確な加熱長さを求めるのであれば、50N型レールの関係式に準じて各レールの関係式を求めればよい。
【0023】
つぎに、矯正加熱範囲設定ステップS3は、レールの矯正加熱範囲を設定する工程である。本実施形態において、矯正加熱範囲は、レールを矯正するために加熱する範囲を定めるものであり、図3に示すように、レール端部が落ち込み始める始点位置から、落ち込みのない側のレール長手方向(レールの中央方向)へ所定の長さの範囲に設定される。なぜなら、本願発明者らによる多数回の加熱実験の結果、始点位置からレール端部側の範囲を加熱したり、始点位置を中心とする両側の範囲を加熱すると、加熱温度に対するレール端部の扛上量が小さいことを見出したからである。
【0024】
また、本実施形態において、始点位置は、落ち込み量測定ステップS1でレール頭頂面に定規を当てた際、落ち込みが開始している位置を目視確認し、当該位置にマーキングして特定する。そして、当該始点位置から加熱長さ算出ステップS2で算出した加熱長さ分を測定し、レール端部と反対側の位置にマーキングすることで矯正加熱範囲を特定するようになっている。
【0025】
つぎに、レール緩解ステップS4は、枕木に締結されたレールを緩解する工程である。一般的に、レールは、犬釘等の締結装置によって枕木に締結されている。したがって、本実施形態では、レールの端部から3本分程度の枕木に打ち込まれた犬釘をそれぞれ緩解する。これにより、レール端部が枕木から解放されるため、自由に変形しうる状態となる。一方、本ステップS4では、レール端部同士を連結する継目板を取り外す必要がない。継目板を付けたままでもレール端部が扛上しうるからである。このため、継目板の着脱が不要となり、作業効率が向上する。
【0026】
つぎに、温度上昇防止手段設置ステップS5は、レール底部が温度上昇するのを防止するための温度上昇防止手段を設置する工程である。レール頭部だけでなくレールの腹部や底部までも加熱してしまうと、レールの落ち込み部分を扛上させる効果が充分に得られないため、温度上昇を防止する手段を講じている。
【0027】
本実施形態において、温度上昇防止手段は、水で濡らした布等の底部冷却部材と、火炎が砕石に届かない大きさを有する遮熱板等の砕石保護部材とから構成されている。そして、底部冷却部材をレール底部の上面を被覆するように設置するとともに、この底部冷却部材の上方、つまりレールの腹部側面から左右方向に砕石保護部材を設置する。これにより、レールの腹部や底部の温度上昇が防止されるため、レールの頭部のみが加熱される。また、枕木や道床が加熱処理によって損傷するのが防止される。なお、砕石保護部材の設置箇所は、上記に限られるものではなく、加熱しているレール頭部と砕石との間であればどこでもよい。また、軌道構造によっては、必ずしも砕石保護部材を設置しなくてもよい。
【0028】
つぎに、レール加熱ステップS6は、レールを加熱する工程である。本実施形態では、上記矯正加熱範囲設定ステップS3で設定した矯正加熱範囲内において、レールの頭部を所定の加熱温度まで加熱する。頭部だけを加熱する理由は、本発明の基本原理に基づくものである。
【0029】
具体的には、上述したように、本発明の基本原理は、レールを加熱した後、冷却した際に発生する収縮力を利用するものである。したがって、レールの頭部を加熱・冷却すれば、図4に示すように、当該頭部だけが収縮し、レールの端部を扛上させることとなる。一方、頭部以外の腹部や底部まで加熱・冷却してしまうと、レール全体に収縮力が発生するため、落ち込みを扛上させる収縮力が低減してしまう。
【0030】
また、加熱温度は、レールの扛上量と、一般的なレール材料である鋼の変態点(723℃)とのバランスを比較考慮して設定される。加熱温度が高いほど、レールの扛上量は増加する一方、変態点以上に加熱すると、鋼の組織が変化してしまうからである。本実施形態では、安全率を10%〜20%として、加熱温度を約600〜650℃とした。
【0031】
また、本実施形態では、レールを加熱する方法として、バーナー式の加熱装置1を使用した。この加熱装置1は、図5に示すように、レール上を走行しうる装置本体2と、この装置本体2に設けられた加熱バーナー3とを有している。
【0032】
装置本体2は、金属フレーム等から構成されており、その下方の前後位置にはレール上を走行する車輪21,21が軸支されている。また、上方の後部位置には、作業者が把持するための把持部22が設けられている。一方、加熱バーナー3は、装置本体2から前方に延出されたバーナー管31の先端に設けられ、レール頭頂面から所定の高さ位置に保持されている。また、加熱バーナー3の下面には、レール長手方向と直交する方向に沿って二列に配置された火口群(図示せず)が設けられている。
【0033】
以上のような加熱装置1によって加熱する場合、まず、装置本体2をレールに沿って移動し、加熱バーナー3を矯正加熱範囲の端部に合わせる。つぎに、火口群から炎を噴出させながら装置本体2を移動し、矯正加熱範囲内を反復移動させる。そして、レール温度計によってレール頭頂面の温度を測定し、所望の加熱温度になるまで加熱するようになっている。なお、本実施形態では、−200℃〜1200℃の温度範囲を測定可能なレール温度計(安立計器株式会社製,品番:HFT−40)を使用した。
【0034】
以上のような加熱装置1によれば、加熱バーナー3がレールに対して傾斜することがないため、いわゆる通り狂い(レールの長手方向の左右の狂い)の発生が防止される。また、レール頭頂面と加熱バーナー3との間隔が常に一定に保持されるとともに、炎が面状に噴出されるため、熱伝導による加熱速度が一定となって加熱ムラを防止し、レールが略均等に加熱される。
【0035】
つぎに、レール冷却ステップS7は、加熱したレールを冷却する工程である。本実施形態では、レール加熱ステップS6による加熱後、レール温度計で頭頂面温度を測定しながら空冷し、約300℃になるまで自然冷却する。その後、矯正加熱範囲におけるレール頭部に水をかけ、約50℃以下になるまで急冷する。これにより、レール内に発生した熱応力が、レール頭部を収縮させるため、レールの端部が扛上される。また、本実施形態では、落ち込み量に応じた矯正加熱範囲を設定しているため、レール端部の落ち込みがほぼ過不足なく解消される。なお、300℃以上の状態のときに急冷すると、レールが組織変化を起こして品質が低下するおそれがあるので注意が必要である。
【0036】
また、本実施形態では、レールの頭部を急冷する際、図4に示すように、矯正加熱範囲における落ち込みのない側から落ち込みのある端部側へ一方向に順次、急冷する。本願発明者らによる多数回の加熱実験の結果、仮に矯正加熱範囲における始点位置側から落ち込みのない側(レール中央側)へ向けて水をかけると、レール頭頂面にコブ状の変形箇所が発生してしまったからである。これは、レール内に発生した余分な熱応力が、逃げ場を無くしたことに起因するものと考えられる。このため、上記の方向に水をかければ、当該余分な熱応力がレール端部から逃げることができ、レール頭頂面が真っ直ぐに仕上がるようになっている。
【0037】
つぎに、レール研磨ステップS8は、レールを研磨して最終仕上げする工程である。本実施形態では、レール頭頂面に凹凸が残っていたり、ゲージコーナーにフローと呼ばれる突起が発生している場合、グラインダー等によって研磨する。これにより、矯正後のレールが綺麗に仕上げられる。なお、本ステップS8を実行する前に、定規と隙間ゲージを用いて扛上量を確認し、当該扛上量に過不足があった場合、再度、上述したステップS1〜S7を繰り返せばよい。
【0038】
つぎに、レール締結ステップS9は、レールを枕木に締結する工程である。具体的には、まず、ステップS5で設置した布や遮熱板を取り外す。そして、ステップS4で緩解した犬釘を再び打ち込み、レールを枕木に固定する。なお、このとき、レールが扛上した分だけ枕木の下に浮きが発生するため、道床をつき固めたり、高低調整パッキンを挿入することが望ましい。また、レール端部に摩耗や欠損がある場合には、別途、パウダー状の自溶性合金を吹き付け、特殊バーナーで溶かして盛りつける溶射肉盛処理を施すことが望ましい。
【0039】
以上のような本実施形態によれば、
1.レール端部における落ち込みを矯正し、その矯正効果を長期的に持続することができる。
2.レール頭頂面にコブ等を残留させることがなく、簡単かつ安価にレール端部を所望の高さ位置まで扛上することができる。
3.レール端部同士を連結する継目板を取り外す必要がなく、迅速で効率的に作業を進められる。
4.継目部の落ち込みを改善し、列車が通過する際の騒音や振動を低減することができる等の効果を奏する。
【実施例1】
【0040】
つぎに、本発明に係るレール端部矯正方法の具体的な実施例1について説明する。本実施例1では、実際の営業線における継目部において、本実施形態のレール端部矯正方法による試験施工を実施し、その効果を検証した。
【0041】
具体的には、図6に示すように、時期を隔てて4回の試験施工を実施し、その際の加熱温度、加熱長さ、落ち込み量および扛上量を計測した。なお、1回目の試験は、室蘭線栗沢駅構内のキロ程199.725kmの箇所で実施した。2回目の試験は、根室線山部駅と下金山駅間のキロ程72.326km、72.374kmおよび72.422kmの箇所で実施した。3回目の試験は、石北線新旭川駅と東旭川駅間のキロ程3.644km、3.668kmおよび3.739kmの箇所で実施した。4回目の試験は、室蘭線栗丘駅構内のキロ程196.720kmおよび196.745kmの場所で実施した。また、いずれのレールも50N型のレールである。
【0042】
図6に示すように、加熱温度が630℃以上の場合、落ち込み量とほぼ同等の扛上量が得られており、扛上量が落ち込み量を上回るケースさえあった。一方、扛上量が足りなかったケースもあったが、不足分は最大でも0.2mm程度であり、実用的な許容範囲内である。
【0043】
上記試験結果に基づき、加熱温度が630℃以上の12測点について、加熱長さと扛上量との関係をプロットしたものを図7に示す。図7に示すように、加熱長さと扛上量は、強い相関関係にあることがわかる。そして、この12測点のデータから、下記の近似式が得られた。つまり、加熱長さは、扛上量に対して一次関数で近似される関係にあることが示された。
Y=113.27X+319.24 (R=0.8713)
ただし、X:扛上量 Y:加熱長さ R:相関係数
【0044】
また、上記12測点の継目部のうち、4回目の試験におけるキロ程196.745kmの右レール始点方の継目部において、施工前後におけるレール頭頂面の形状を測定したものを図8に示す。なお、レール頭頂面の形状測定には、株式会社原田製作所製のレール頭頂面測定器(製品名:軽量型レール踏面測定器,品番:HTR−1R)を使用した。図8に示すように、継目部のレール頭頂面は、施工後の高さ位置が施工前に対して約1mm程度扛上しており、落ち込みが解消されていることが示された。
【0045】
以上のような本実施例1によれば、加熱長さは、所望の扛上量に設定されるべき落ち込み量に基づいて算出されることが示された。また、本実施形態のレール端部矯正方法によれば、継目部の落ち込みが解消されることが示された。
【実施例2】
【0046】
つぎに、本発明に係るレール端部矯正方法の具体的な実施例2について説明する。本実施例2では、継目部を本実施形態のレール端部矯正方法により矯正し、施工前後における車体の上下方向の振動加速度(m/s2)を測定した。
【0047】
レール上を走行する車両としては、本願出願人が開発したデュアル・モード・ビークル(以下、DMVという)を使用した。なお、このDMVは、線路および道路の双方を走行可能な車両であり、平成19年4月14日から釧網線浜小清水駅と藻琴駅間で試験的な営業運行を開始したものである。
【0048】
本実施例2では、50N型のレールが使用されているキロ程153.355〜153.701kmの12箇所において、施工後の振動加速度に対する施工前の振動加速度の比を算出した。その結果を図9に示す。なお、振動加速度の測定には、振動加速度計UHA-3(吉田精機株式会社製)を使用した。
【0049】
図9に示すように、上記施工前・後における振動加速度比の平均値は約0.65となり、施工後の振動加速度は、施工前の振動加速度に比べて、約65%にまで軽減している。したがって、DMVが継目部を通過する際の振動や騒音も低減するものと考えられる。
【0050】
以上のような本実施例2によれば、本実施形態のレール端部矯正方法により矯正した継目部において、DMVの上下振動が低減することが示された。このDMVは、車両構造上、レールの落ち込みの影響が受けやすいところ、本発明に係るレール端部矯正方法は極めて効果的であることが実証された。
【実施例3】
【0051】
つぎに、本発明に係るレール端部矯正方法の具体的な実施例3について説明する。本実施例3では、列車について実施例2と同様の測定を行った。
【0052】
具体的には、50T型のレールが使用されているキロ程149.600〜149.900kmの10箇所、50N型のレールが使用されているキロ程153.350〜153.500kmの7箇所、および50PS型のレールが使用されているキロ程155.595〜155.835kmの8箇所のそれぞれにおいて、施工前、施工直後、施工後2ヶ月後および施工後4ヶ月後の振動加速度(m/s2)を測定した。なお、振動加速度の測定には、車両動揺測定装置(株式会社ニシヤマ製)を使用した。
【0053】
本実施例3の結果を図10(a)〜(c)に示す。また、この結果に基づき、施工前の振動加速度に対して、施工直後、施工後2ヶ月後および施工後4ヶ月後の振動加速度の関係を示すグラフを図11(a)〜(c)に示す。
【0054】
図11(a)〜(c)に示すように、横軸を施工前の振動加速度、縦軸を施工後の振動加速度とすると、グラフ中の対角線より右下にある点が、施工後に振動加速度が低減した点であることが示される。したがって、いずれのレールについても、ほとんどの施工箇所において、本実施形態によるレールの矯正により上下振動が減少し、その効果が長期に渡って持続することが示された。
【0055】
なお、レール種別の違いを検討すると、振動加速度の低減効果は、50PS型のレールにおいて比較的大きく表れている。これは、50PS型のレールは、施工上でも他のレールに比べて期待する扛上量が得やすく、その結果、整正効果が大きかったためと考えられる。このことは、50PS型のレールは、鉛直方向の断面二次モーメントが他のレールに比べて小さいことからも推察できる。
【0056】
以上のような本実施例3によれば、本実施形態のレール端部矯正方法によって継目部を矯正することにより、列車についても上下振動が低減することが示された。また、その矯正効果は、レールの種別に関係なく、長期に渡って持続することが示された。
【実施例4】
【0057】
つぎに、本発明に係るレール端部矯正方法の具体的な実施例4について説明する。本実施例4では、軌道検測用車両のマヤ車に設けられた軸箱の加速度データにより、本実施形態のレール端部矯正方法による効果を評価した。
【0058】
なお、上述した実施例3の振動加速度は、レールの頭頂面の変化を車輪、軸バネおよび枕バネを介して車体が受ける振動の値である。これに対し、本実施例4では、軸箱が車軸に設けられているため、より直接的でバネの影響を受けない加速度が得られるようになっている。
【0059】
本実施例4では、本実施形態のレール端部矯正方法による施工前後において、マヤ車の軸箱加速度を計測した。その結果を図12に示す。なお、計測に使用したレールは、釧網本線の上り線のキロ程149.75574km〜149.97745kmの区間である。
【0060】
図12に示すように、太線で示す施工後の軸箱加速度は、細線で示す施工前の軸箱加速度に比べて約50%程度にまで減少していた。したがって、列車が軌道に与える影響も軽減されると考えられ、継目部の落ち込みに対する保守周期も長期化できるものと考えられる。
【0061】
以上のような本実施例4によれば、車軸で受ける直接的な振動加速度も低減していることが示された。また、継目部の保守作業を軽減できることが示された。
【実施例5】
【0062】
つぎに、本発明に係るレール端部矯正方法の具体的な実施例5について説明する。本実施例5では、継目部の落ち込みを補修する他の方法と比較して、本実施形態のレール端部矯正方法による優位性を検証した。
【0063】
まず、継目部の落ち込みは、主として、道床の沈下、レール端部の落ち込み、あるいは継目板上縁の摩耗等により発生する。このため、継目落ちを整正する方法としては、道床つき固め、はさみ木作業、矯正継目板挿入、レール端部の溶射肉盛、継目板交換、シムの挿入、レール交換等が考えられる。しかしながら、従来、レール端部の落ち込みを要因とする継目落ちを整正するには、レールを交換するしかなかった。なぜなら、溶射肉盛は、レール端部から100mm程度の形状しか整正できないし、他の方法では、その整正効果の維持や持続が困難だからである。
【0064】
そこで、レールを交換する場合と、本実施形態のレール端部矯正方法により施工した場合とについて、施工時間および施工コストを比較する。従来、レールを交換するには、作業員が8人程度の場合、レール1本を継目1口として35分程度かかり、材料費および人件費を合わせた施工コストは、約145,000円程度かかる。一方、本実施形態のレール端部矯正方法によれば、作業員が3人程度であっても、施工時間は1口あたり約30分程度しかかからず、施工コストは約5,400円と見積もられる。したがって、本実施形態によれば、作業員数、施工時間および施工コストにおいて優位性が認められる。
【0065】
また、本実施形態のレール端部矯正方法によれば、長大な間合いが確保できるときには、トロリーを編成した流れ作業が可能であり、さらなる施工時間の短縮が見込まれる。したがって、施工効果、施工時間、施工コストの全ての観点において、レール端部の落ち込みを整正する方法として最適な施工方法であると考えられる。
【0066】
本実施例5によれば、本実施形態のレール端部矯正方法は、レール端部の落ち込みを整正する方法として最適な施工方法であることが示された。
【0067】
なお、本発明に係るレール端部矯正方法は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0068】
例えば、上述した本実施形態では、加熱手段としてバーナーを使用しているが、これに限られるものではなく、上記矯正加熱範囲を正確に加熱できるものであれば、加熱コイル等を使用してもよい。なお、この加熱コイルとは、電磁誘導によってレール内に渦電流を発生させ、そのジュール熱でレールを加熱するいわゆる高周波誘導コイル等である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るレール端部矯正方法を示すフローチャート図である。
【図2】本実施形態において、レールの落ち込み量を示す図である。
【図3】本実施形態において、レールの矯正加熱範囲を示す図である。
【図4】本発明に係るレール端部矯正方法の基本原理を示す図である。
【図5】本実施形態において、レールを加熱する加熱装置を示す側面図である。
【図6】本実施例1の試験結果を示すデータである。
【図7】本実施例1において、扛上量と加熱長さの関係を示すグラフである。
【図8】本実施例1において、施工前後におけるレール頭頂面の平均化した形状を示す図である。
【図9】本実施例2の試験結果を示すデータである。
【図10】本実施例3の試験結果を示すデータである。
【図11】本実施例3において、施工前の振動加速度に対する(a)施工直後、(b)施工後2ヶ月後、および(c)施工後4ヶ月後の振動加速度の関係を示すグラフである。
【図12】本実施例4の試験結果を示すデータである。
【図13】本発明において矯正するレールの構成部位に関する用語を説明する図である。
【符号の説明】
【0070】
1 加熱装置
2 装置本体
3 加熱バーナー
21 車輪
22 把持部
31 バーナー管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールの端部の落ち込みを矯正するレール端部矯正方法であって、
前記レール端部が落ち込み始める始点位置から落ち込みのない側のレール長手方向へ所定の長さの矯正加熱範囲を設定し、当該矯正加熱範囲における前記レールの頭部を鋼の変態点に基づいて求めた所定の温度まで加熱するレール加熱ステップと、
当該加熱した矯正加熱範囲における前記レールの頭部を冷却するレール冷却ステップと
を有することを特徴とするレール端部矯正方法。
【請求項2】
請求項1において、前記矯正加熱範囲における加熱長さは、前記レール端部の落ち込み量に対して一次関数で近似される関係式に基づいて設定されることを特徴とするレール端部矯正方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記矯正加熱範囲のレールを加熱する場合、レール底部の温度上昇を防止する底部冷却部材を前記レールの底部上面に設置し、前記レール頭部のみを加熱することを特徴とするレール端部矯正方法。
【請求項4】
請求項3において、前記レール加熱ステップでは、さらに、加熱している前記レール頭部と砕石との間に当該砕石を保護するための砕石保護部材を設置することを特徴とするレール端部矯正方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかにおいて、前記レール冷却ステップでは、前記矯正加熱範囲における落ち込みのない側から落ち込みのある端部側へ一方向に順次、前記レール頭部を急冷することを特徴とするレール端部矯正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−185444(P2009−185444A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22967(P2008−22967)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月19日 社団法人 日本鉄道施設協会発行の「第22回 総合技術講演会 概要集(保線)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年1月15日 株式会社 鉄道現業者発行の「新線路 第62巻(2008)1月号」に発表
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】