説明

ロキソプロフェン含有エアゾール剤組成物

【課題】本発明は、ロキソプロフェンを含有し、経時的に沈殿物を生じることなく、良好な噴射性状が保持されたエアゾール剤組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】a)ロキソプロフェン又はその塩、並びに
(b)HLBが10以上15以下のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びHLBが10以上14未満のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種、を含有する原液、並びに噴射剤を含有することを特徴とするエアゾール剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール剤組成物に関し、さらに詳しくは、ロキソプロフェンを含有し、良好な噴射性を保持可能なエアゾール剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ロキソプロフェン(正式名:2−[p−(2−オキソシクロペンチルメチル)フェニル]プロピオン酸)はフェニルプロピオン酸系の非ステロイド性消炎鎮痛剤の一つである。関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、歯痛、外傷後並びに抜歯後の鎮痛・消炎、急性上気道炎の解熱・鎮痛に対して効果を示し、汎用されている(非特許文献1)。ロキソプロフェンは、生体内で作用の強い活性代謝物に変換されたのち作用を発揮するいわゆるプロドラッグである。そのため、この薬物は消化管障害が比較的少ないと言われているが、消化管潰瘍の既往歴のある患者または長期投与する時には慎重に投与することが必要である。係る副作用を軽減する為、近年、貼付剤やゲル剤が市販されるまでにいたっている。しかしながら、貼付剤は患部によっては塗布することが難しく、またゲル剤を患部の皮膚表面に塗布する際に、患部の痛みが激しい場合には、苦痛を伴うという問題がある。
【0003】
そこで、ロキソプロフェンを配合しエアゾール剤とすれば、噴射剤により製剤を塗布できることから、貼付剤のように貼付しづらい患部にも噴射塗布できる。また、手を使わずに噴射塗布できるエアゾール剤であれば、患部の痛みが激しい場合にも好ましく使用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】第15改正日本薬局方解説書 株式会社廣川書店刊 C-4790〜C-4795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ロキソプロフェンを含有するエアゾール剤の開発を行ってきた。そして、エアゾール剤用原液及び噴射剤を耐圧容器に充填し、経時的な変化を調べたところ、沈殿物が生じ、噴射孔の目詰まり等噴射性状の悪化を招来するに至った。エアゾール剤においては、噴射性状を良好に保持することが重要であり、それゆえ、目詰まりの要因となる沈殿物の生成を抑制することは重要な課題である。
【0006】
すなわち、本発明は、ロキソプロフェンを含有し、経時的に沈殿物を生じることなく、良好な噴射性状が保持されたエアゾール剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ロキソプロフェンを含む原液に特定のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を添加し、エアゾール剤を調製することにより、経時的な沈殿物の生成を抑制し、良好な噴射性状を確保しうることを見出した。
【0008】
かかる知見に基づき完成した本発明の態様は、
(1)(a)ロキソプロフェン又はその塩、並びに
(b)HLBが10以上15以下のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びHLBが10以上14未満のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種、を含有する原液、並びに噴射剤を含有することを特徴とするエアゾール剤組成物、
(2)噴射剤がジメチルエーテル、又はジメチルエーテル及び液化石油ガスの混合物である(1)に記載のエアゾール剤組成物、
(3)(b)成分が、ポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50から選ばれる少なくとも1種である(1)又は(2)に記載のエアゾール剤組成物、
(4)(b)成分が(a)成分1質量部に対して0.1質量部以上である(1)〜(3)のいずれか1つに記載のエアゾール剤組成物、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ロキソプロフェンを含有するエアゾール剤組成物の沈殿物析出を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ロキソプロフェンの塩としては、薬理上許容される塩を使用することが好ましく、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩等の金属塩、アンモニウム塩等の無機塩、t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩等の有機塩等のアミン塩を挙げることができる。中でもロキソプロフェンナトリウムを使用することがより好ましい。また、ロキソプロフェン又はその塩の水和物を用いても良い。
【0011】
ロキソプロフェンナトリウムの含有量は、好ましくは原液中0.1〜10質量%であり、1〜5質量%がより好ましい。
【0012】
HLBが10以上15以下のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(6E.O.)、イソオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)、トリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.)が挙げられる。HLBが10以上14未満のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油30、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
これらの含有量は、通常、原液中0.1〜15質量%であり、0.5〜10質量%が好ましい。原液中0.1質量%未満であると、十分な沈殿抑制効果が得られないため、好ましくない。一方、15質量%を超えると、溶解しにくくなり、製造が困難になるため、好ましくない。また、同様に沈殿物析出の抑制という観点から、(a)ロキソプロフェン又はその塩の1質量部に対して、0.1質量部以上含有するのが好ましく、1.5質量部以上含有するのがより好ましく、1.86質量部以上含有するのがよりさらに好ましい。
【0014】
本発明のエアゾール剤用原液の溶媒としては、水及び炭素原子数1〜3の低級アルコールからなる混合溶媒を使用することが好ましい。水と炭素原子数1〜3の低級アルコールの配合比は10:90〜90:10が好ましく、該混合溶媒の原液中における含有量は40〜99質量%が好ましい。
【0015】
炭素原子数1〜3の低級アルコールは、炭素原子数1〜3の直鎖状又は分岐鎖状のアルコールである。メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノールが挙げられるが、好ましいのは、エタノール又は2−プロパノールであり、特に好ましいのは、エタノールである。
【0016】
噴射剤は、原液の溶媒に溶解しやすいものを用いることが好ましく、例えば水及び炭素原子数1〜3の低級アルコールからなる混合溶媒を原液の溶媒として用いた場合には、ジメチルエーテルを用いるのが好ましく、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン等からなる液化石油ガス(LPG)をさらに添加してもよい。
【0017】
噴射剤の含有量は、原液の1質量部に対して、0.25〜4質量部が好ましい。噴射剤の含有量が原液の1質量部に対して0.25質量部未満になると噴射剤量が少なすぎて霧状になりにくく好ましくなく、4質量部を超えると塗布できる薬物量が減り好ましくない。
【0018】
本発明のエアゾール剤組成物は、例えば、噴射剤以外の成分を加温、混合、攪拌して溶解又は均一に分散させて原液を調製した後、この原液を噴射剤と共に耐圧容器に充填することによって製造することができる。
【0019】
さらに、本発明のエアゾール剤組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、鎮痒剤(クロタミトン、イクタモール、モクタモール、チモール酸等)、消炎鎮痛剤(インドメタシン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、ケトプロフェン、ジクロフェナック、ピロキシカム、イブプロフェン、メフェナム酸、グリチルリチン酸及びその塩類、グリチルレチン酸等)、血行促進剤(酢酸トコフェロール、ニコチン酸ベンジルエステル等)、刺激剤(カプサイシン、ノニル酸ワニリルアミド等)、抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸イソチペンジル、マレイン酸クロルフェニラミン等)、殺菌剤(ヨウ化カリウム、アクリノール、イソプロピルメチルフェノール、塩化ベンザルコニウム等)、清涼化剤(メントール、カンフル、ハッカ油等)、局所麻酔剤(アミノ安息香酸エチル、塩酸ジブカイン、塩酸リドカイン等)、収斂剤(酸化亜鉛等)、等を配合してもよい。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例及び試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
(原液)
ロキソプロフェンナトリウム二水和物 0.7938g
ポリソルベート80 3.5g
エタノール 33.25g
セイセイスイ 32.4562g
(噴射剤)
ジメチルエーテル 30.0g
【0021】
原液の各成分を混合、攪拌して、溶解又は均一に分散させて原液を調製した。原液をエアゾール容器に充填し、バルブを装着して噴射剤を充填した。噴射用のスパウトを装着しエアゾール剤とした。
【0022】
実施例2〜13、及び比較例1〜14は、表1−1から1−4に記載の各成分を用いて、実施例1と同様に製造した。表中の数値の単位はgである。
【0023】
試験例1
実施例1〜13、並びに比較例1〜14で調製した原液をガラス製耐圧瓶に充填し、バルブを装着して噴射剤を充填した。各サンプルの製造直後、並びに5℃で1週間(1W)、及び2週間(2W)保存後の性状を目視にて観察した。結果を下表1−1から1−4に示す。
【0024】
【表1−1】

【0025】
【表1−2】

【0026】
【表1−3】

【0027】
【表1−4】

実施例1〜13では5℃で2週間保存してもガラス耐圧瓶内の製剤は無色澄明であった。
【0028】
比較例13では、製造直後からガラス耐圧瓶内に沈殿物が発生した。比較例2〜4、6〜12、及び14では5℃で1週間以上保存したときにガラス耐圧瓶内に沈殿物が発生した。比較例1、及び5でも5℃で2週間保存すると、ガラス耐圧瓶内に沈殿物が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、ロキソプロフェンを含有し、経時的に沈殿物を生じることなく、良好な噴射性状が保持されたエアゾール剤を提供することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ロキソプロフェン又はその塩、並びに
(b)HLBが10以上15以下のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、及びHLBが10以上14未満のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油から選ばれる少なくとも1種、を含有する原液、並びに噴射剤を含有することを特徴とするエアゾール剤組成物。
【請求項2】
噴射剤がジメチルエーテル、又はジメチルエーテル及び液化石油ガスの混合物である請求項1に記載のエアゾール剤組成物。
【請求項3】
(b)成分が、ポリソルベート80(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.))、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油20、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のエアゾール剤組成物。
【請求項4】
(b)成分が(a)成分1質量部に対して0.1質量部以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のエアゾール剤組成物。

【公開番号】特開2012−193173(P2012−193173A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−42915(P2012−42915)
【出願日】平成24年2月29日(2012.2.29)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】